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心理掌握「うそ・・・上条先輩生きてたんですか!?」上条「?」
分割しました
1 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/04/19(月) 07:46:55.09 ID:ZxeaWwDO [1/15]
心理掌握「どうして開いたのかしら?」
現行&オリ要素注意ですの
1 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/04/19(月) 07:46:55.09 ID:ZxeaWwDO [1/15]
心理掌握「どうして開いたのかしら?」
現行&オリ要素注意ですの
4 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/04/19(月) 08:04:59.34 ID:ZxeaWwDO [2/15]
三年前――。
不良「ねえ君可愛いねぇ」
不良2「つかその制服ってお嬢様学校?」
不良3「小学生から大変だなぁwwww」
不良2「つかお前らマジでロリコンかよ、さすがに小学生はないだろ」
心理掌握「(くだらない・・・)」
私は飽き飽きしていた。
こんなくだらない連中に。
都会のカラスのようにそこら中に群がるスキルアウトに。
最も、こういった連中の全てがレベル0だというわけでもないが、こいつらはレベル0。
心理掌握の称号を持つ私には手に取るようにわかる。
心理掌握「思考をそのまま吐き出すとは芸のないこと」
嘲るように私は笑う。
自分より遥かに背が高くがたいの良い連中を。
5 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/04/19(月) 08:12:33.50 ID:ZxeaWwDO
不良2「・・・あぁ?なんか言ったかガキ」
心理掌握「『何言ってやがるこのガキ』『生意気な』『能力者か?』『俺らスキルアウトを舐めるなよ』・・・以外と頭の回転は速いのですね、劣等感は丸だしですけどあなた」
不良ズ「「!?」」
不良2「能力者かッ!」
心理掌握「あら、正解。数秒で私の能力を四種類考えるなんて凄いですわね、しかも大当り――」
私は手の平を連中に向けていた。これで頭をいじってやるだけ。発動までの時間がかかるために会話で時間稼ぎをしたのだ。
心理掌握「――私はレベル5の第六位、心理掌握ですわ」
6 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/04/19(月) 08:59:12.68 ID:ZxeaWwDO
ダッ、
強い足音がした。
私の能力が発動するまであと三秒。
駆けるような強い足音が。
私の能力が発動するまであと二秒。
雄々しい、荒れ地を踏み荒らすような足音がした。
私の能力が発動する、その一秒前。
足音の主が私たちのいる路地裏の奥から、姿を現した。
紫色の光が弾けた。
その能力がスキルアウトたちに降り懸かった瞬間――ツンツン頭の少年が彼らに体当たりした。
パキンッ!!
一瞬にして、目には見えないはずの能力の力場が破壊された。
私を中心にした半径五メートルの力場が、呆気なく、なんの前触れもなしに砕け散った。
7 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/04/19(月) 09:17:11.00 ID:ZxeaWwDO
「は・・・?」
呆気に取られたのは私。
力場どころか、スキルアウトの不良三人に放った能力すら打ち消された。
それは紫色の糸。
“アラクネの指先”と呼ばれるこの攻撃は紫色の光が弾けることで発動する。
時間をかけることで力場に溜め込まれた“マナ”という名の能力の固まり――AIMとは異なったもう一つの法則が紫色の光になる。
そして、座標を指定。一カ所に三人いたため今回は手の平の延長線の彼らをまとめて一つとする。
紫色の光が弾けると光は極細の糸となり、一瞬と呼ばれる時間で座標の頭脳に張り付く。
そこから即座に脳をいじる。
8 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/04/19(月) 09:24:04.40 ID:ZxeaWwDO
これは簡単。パソコンを操作するのと変わらない。
キーを叩くように、RPGのゲームで攻撃の種類から好きなコマンドを実行するように、呆気なく選べる。
それを行ったのと同時にツンツン頭の少年が彼らにぶつかった。
彼の右手が、彼の意志ではなく偶然にも三人の頭をかすめた。
それだけでスキルアウトにかけた“アラクネの指先”は打ち消された。無理矢理に。
まるで、確定したはずの死が覆されたかのようだった。
RPGのゲームにおいてHPが0になる攻撃を受けたのに数字が変化しないかのように思えた。
実際にはいくらかのダメージが届いていたのかもしれないが、力場まで破壊された今の私に人の脳の様子はわからない。
13 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/04/19(月) 13:12:45.14 ID:ZxeaWwDO
「な、何が起こっ・・・」
絶対に不可能なのだ。
不良たちにかけた“アラクネの指先”はともかく、この力場はいかなる能力でも破壊すことができない。それはAIMとは別の方式だから。レベル5の誰であろうと、この力場を破壊することは敵わない。
干渉できないはずなのだ。
AIMによって開発された能力にして、AIMに頼らない能力。それが心理掌握。
AIMを逆算して私自身を乗っ取ったり、キャパシティダウンで演算を奪うことでしか力場は消せない。
しかもそれらは消す、力場維持を奪う、能力コントロールをされる、などであって“破壊”ではない。
物理的に、石を砕くのとは訳が違う。絶対に不可能。自分の手で気体を破壊しろと言うようなもの。不可能にして、有り得ない、矛盾。
14 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/04/19(月) 13:16:33.94 ID:ZxeaWwDO
なんだこれは。
自分の全てを否定されたようだった。
だが、そんなことを考える余裕は消えた。
起き上がったツンツン頭の少年と目があったからだ。
ゾクッ!!
その瞳に射られ一瞬にして背筋が凍り、私は背中を壁に寄せ付けた。
恐怖。
その眼は野獣だった。
獣のように狂暴で、獲物を確実に捕らえる鷹のよう。
表情から見えるのは暴力。
暴力を糧に生きているかのような人間だ。
見た目は中学生ほどで私より二歳ほど年上なだけなのに、果たしてこれほどまでの顔つきになれるものだろうか。
憎しみが溢れている。
それは、空気中に溢れているかのよう。
15 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/04/19(月) 13:18:23.96 ID:ZxeaWwDO
それだけでない。ツンツン頭の少年を包む特質などんよりとした薄気味悪い何かが溢れている。
なんだこれは。
これで、人間を名乗るつもりなのか?
こんなまがまがしいものが、どうして存在する。
暗殺者だとか、百戦練磨の猛者だとか、精神異常者だとか、そういった人間なのではない。
少年がまるで己に悪魔か邪神かそういった超常を越えた世界の歯車を内包しているように見えるのだ。
これは私だからこそ感知できたこと。
現在、少年を遠巻きにして、触れないように形成しているマナの力場は関係ない。
相変わらず少年の脳は観れない。だが、少年に壊された感覚。あの骨組みをねじ一つ例外なく分解するかのような、神のような絶対の力。
この手応えから私は理解した。
この少年には絶対の邪神が巣くっている、と。
その存在を私は知っている。
その能力者を、私は知っている。
絶対能力者(レベル6)
17 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/04/19(月) 14:15:29.94 ID:ZxeaWwDO
窓のないビル――
“人間”アレイスター・クロウリーは笑んだ。
「幻想殺しと心理掌握が交差した」
そうアレイスターが呟く。
それに反応する者がいた。
窓のないビルにて、チューブだらけの部屋に立つ一人の少年がいた。
中学生のような見た目だが、チンピラみたいにガラの悪い風貌をしている。
その少年、垣根帝督は「はっ」と嘲るように笑った。
「どうやら『樹形図の設計者』の調子はいいようだな」
「ふ。当然だろう・・・・・・これは全てを正確に予測する」
「よくもまあ強気なもんだ。今回の件でちゃんと機能しているか確認できたくせに」
「・・・・・・」
18 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/04/19(月) 14:17:06.45 ID:ZxeaWwDO
「まあいい。それで、俺を呼んだ理由はなんだ?」
「・・・君は、この学園都市の目的を理解しているか?」
「“神ならぬ身にて天上の意志に辿り着くもの”だっけか?」
「・・・そうだ」
「またの名をレベル6、『人間に神様の計算はできない。ならばまずは人間を超えた体を手にしなければ神様の答えには辿り着けない』」
「・・・・・・」
「幻想殺しと心理掌握がその鍵を握っているってのも変な話だ。それなら第一位や俺と順位を変えるべきだろうが」
「・・・君には幻想殺しの護衛を頼みたい」
「はいはいスルーですか。っで?護衛てのはどこまでだ?」
「詳細は追って連絡する。同じ学校に通い、同じ寮に住んでもらう」
「うえ。つまりできるだけ一緒にいろと。・・・あんな世の中全て恨んで憎んでいるような眼をしたやつと、トモダチになれってか・・・」
帝督はため息をついた。
22 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[pas#pasuta] 投稿日:2010/04/19(月) 15:10:49.79 ID:ZxeaWwDO
帝督が去った窓のないビルで、アレイスターは虚空を見つめていた。
幻想殺しと心理掌握。
科学と魔術。
神と天使。
まずはピースを揃えることから始める。
心理掌握の能力は上条当麻の存在そのものを汚染して、存在を組み換えてしまう。
故に心理掌握の全ての攻撃は幻想殺しが破壊する。
心理掌握が幻想殺しに与えるダメージは0。
「さて、計画の始まりだ」
計画は、動き出す。
止まることを知らない。
アレイスターですら予測できなかった、上条当麻が『死ぬ』その時まで――。
32 名前:pasuta ◆QXQDE8vvhs[] 投稿日:2010/04/19(月) 18:41:42.09 ID:RN1H3Qco [1/4]
この物語は悲劇である。
故に幻想殺しの少年は悲劇を乗り越え、ヒーローを目指す。
心理掌握と幻想殺しが交差する時――物語は動き出す。
(15巻表紙を上条当麻に置き換えて)
33 名前:pasuta ◆QXQDE8vvhs[] 投稿日:2010/04/19(月) 18:42:59.11 ID:RN1H3Qco [2/4]
「今の…お前の能力か?」
ツンツン頭の少年が口を開いた。
「ッ!?ッがぁっ」
首を掴まれ、壁に思い切り押しつけられた。頭を打ち、痛みに一瞬視界が歪む。
圧倒的な暴力。
自身の能力に頼り切っていた私にとってそれは未知の恐怖だ。
怖い。
痛みに呻くも少年は気にしない。
「今、何をした?」
押し殺したような声。
震えながら間近で少年を見る。
少年は傷だらけだ。
切り傷だけでない、明らかに人間と殴り合ったり鉄パイプで殴られた痕がある。
顔にそこまで傷があるわけでもないため、今まで気付かなかったが、少年はスキルアウト並に喧嘩慣れをしているように見える。
「ッ、んぐっ」
震える私を少年はしばらく観察すると手を離した。
力が抜けていた私は内股気味に崩れ落ちる。
「悪い。俺に向けたものじゃなかったんだな」
言葉をかけられるだけで私はビクリと震えた。
ガクガクと震える私を少年はどう見ているのか、うつむく私にはわからない。それだけに余計に怖くて、でも顔を上げる勇気もなかった。
昨日までの私が今の私を見たら嘲るだろう。
私のプライドという自尊心の塊が、こんな粉々に砕かれているとどうして予測できようか。
「いたぜ」
野太い声。
路地裏の奥から、ツンツン頭の少年がやって来た方向から声がした。
咄嗟に私は振り返った。
スキルアウトだ。数は十人以上。後ろにまだいる。
能力を…だめだ、震えて演算に集中できない…。
「チッ!」
そんな私の手をツンツン頭の少年が引いた。
ビクッ!!
跳び跳ねるように私は震えた。膝はガクガクと笑い、まともに立つこともできない。
「ぁっ…あぁ…」
少年は再度舌打ちすると私の腕を強引に引き寄せ、抱き抱えた。
「えっ…」
そのまま持ち上げ、路地裏を跳び出し、街中に出た。
「――――」
私は顔が真っ赤になるのを抑えられなかった。
きっとこれは恐怖から赤くなっているんだ、体が熱いのはそういうわけなんだ――。
心の中で私は必死に言い訳していた。
少年の胸の温かさに心臓の鼓動を大きくしながら。
34 名前:pasuta ◆QXQDE8vvhs[] 投稿日:2010/04/19(月) 19:00:03.08 ID:RN1H3Qco [3/4]
「このバカ!」
ツンツン頭の少年がそう声を荒げると私はビクッ、と震えた。
「…って俺のせいか。悪い」
そう謝ってきた少年の顔付きは少し穏やかだった。
だが、彼のまとう負のオーラは未だ変わらない。
まるで彼を締め付けるように、その雰囲気は纏わり付いている。
「悪かったな、巻き込んで。じゃあな」
手を振り、踵を返す少年。
私は顔を赤らめ、声を張り上げる。
「あ、あのっ、ごめんなさい…でした…」
「なんでお前が謝んの?」
「えっ、あ…すみません」
「いやだから何で?」
「ぅ…あの、その…」
「ってこれじゃまたいじめてるみたいか。…じゃあ、俺みたいなのに絡まれないように気を付けろよ」
「あっ…」
行ってしまった。
私は人差し指同士を絡めながらその背中を見つめていた。
自分が分からない。
彼は自分を助けに来たヒーローなんかじゃない。
むしろ、悪役だった。
それでも、私は彼と離れることが少し――怖かった。
まるで置き去りにされる子供のように。
それ以降、私は彼に合うために何度もこの街の通りで待った。
何日も、毎日通った。学校が終わるとすぐに向かい、雨の日でも傘を差して待った。
それでも彼は現れなかった。
44 名前:pasuta ◆QXQDE8vvhs[] 投稿日:2010/04/20(火) 11:09:04.34 ID:t4rayYDO [1/4]
上条当麻のクラスに転校生がやってきた。
「どもー、垣根帝督です」
そいつはインテリチックに整った容姿なのにどこかガラの悪い風貌で、近寄り難い印象があった。
「では、垣根ちゃんは上条ちゃんの隣の席ですねー」
「はいはい・・・って『ちゃん』?」
「そうなのですよー垣根ちゃん」
小さな先生だ。
子供としか思えない見た目の教師、月詠小萌はにこにこと嬉しそうに笑う。
「はぁ・・・」
帝督は上条の隣に座るとどこかあどけない人懐っこさを感じさせる笑みを浮かべた。
「よろしくな、上条クン」
「はぁ・・・」
上条は久しぶりに自分に話しかけてきた人間に少し意表を突かれ、いつも一匹狼の雰囲気が抜ける。
「上条ちゃんと早くもお友達ですかー、先生は嬉しいです」
小萌は相変わらず嬉しそうにしている。
そんな中、上条は少しだけ頬を引きつらせていた。
45 名前:pasuta ◆QXQDE8vvhs[] 投稿日:2010/04/20(火) 12:32:57.91 ID:t4rayYDO [2/4]
垣根サイド
「上条クン、購買ってどこにあんの?」
「俺が案内し――あ、っと廊下を出て真っ直ぐ行けばある」
「上条クンは行かないの?」
「俺は弁当」
「ふーん」
帝督は上条の素っ気なさに心中でため息を付く。
「(できるだけ幻想殺しから離れるわけにはいかないんだが)」
かと言って怪しまれてはいけない。だが、今日の帝督は転校生である。
転校生が隣の席の人間と交遊を計ろうとしても何らおかしくない。
「(どうするか)」
「早くしないとメロンパン売り切れるぞ」
「わかってるって、今行く」
二人の男子生徒が購買に向かうようだ
「(パンも売っているのか)」
できるだけ転校生という立場を使って幻想殺しと親しくなっておきたい。
「あのさ、悪いんだけど俺の分も買ってきてくれね?」
転校早々パシるなよ、と上条が呟いたが、帝督の妙なカリスマ性が彼らを頷かせた。
「一緒に食おうぜ」
「あ、ああ」
46 名前:pasuta ◆QXQDE8vvhs[] 投稿日:2010/04/20(火) 12:59:35.46 ID:t4rayYDO [3/4]
「上条クンはレベルいくつなん?」
「0。あと君付けはいいよ」
「あ、そう。んじゃ上条」
「お前は・・・えっと垣根だっけ?」
「おう」
「レベルは?」
「4だな」
「すげーな」
「(超電磁砲と違ってレベル5だって明かせないしな)」
「どういう能力なんだ?」
「うーん、俺自身よくわかってねーな」
「わかってない?」
「未元物質って言うんだがよくわからん物質を操ることができる」
「よくわからんって」
上条が苦笑した。
「(説明したら最強だもんなー、明らかにレベル5だってバレるっつの)」
昼飯を食い終わる(帝督はパシらせたメロンパンと焼きそばパン)と、上条が立ち上がった。
「次の授業は移動教室だから」
「お、まじで。一緒に行――」
「だからフレンダ、案内してやってくれ」
上条が女子グループの一人に声をかけた。
金髪碧眼の美少女がこちらを向く。
「結局、上条は私のことをまたパシるってわけね」
フレンダはそう言いながらも片手をひらひら振って了承する。
上条は帝督の肩を押し、言った。
「あんまり俺に近付かないほうがいいぜ」
それは弱々しい微笑だった。
帝督は何も言えず、上条はその間に教室を出て行った。
48 名前:pasuta ◆QXQDE8vvhs[] 投稿日:2010/04/20(火) 14:38:57.00 ID:t4rayYDO [4/4]
「(え、なにアレ中二病?wwww)」
「結局、上条ってバカなのよね」
「(そりゃそうだろうwwwwくっ、俺に近付くな、災いが降り懸かるってかwwwwwwテラ痛すwwww)」
「あーやって自己犠牲しちゃってさ。本当にバカみたい」
「(まああれだ、黒歴史だししょうがねーよwwwwうん、男はみんな通る道だwwww今の内に発症してて健全なんだよwwww)」
「上条の不幸話、聞いたでしょ?・・・って結局、聞いてるわけ?」
「あ・・・君、可愛いね」
「結局、アナタみたいなナンパな人って嫌いなのよね」
「あ゛あ?」
と、本性を出しかけ、帝督は慌てて乾いた笑みを浮かべる。
「そんなことないよ、それで上条がなんだって?」
「言っておくけど、上条には近付かないほうがいいわよ。ナンパがしたければそういった奴らと絡めば?」
「・・・俺は上条と仲良くなりたいんだがな」
「・・・ふーん」
「別に深い意味なんてねーよ」
口調を優等生キャラから改める。
「ただ、なんか上条っていい奴みたいなのに無理してる感があるのが気になってな」
「(・・・結局、転校生に上条が理解されてなんか悔しかったりする訳なのよね)」
49 名前:pasuta ◆QXQDE8vvhs[] 投稿日:2010/04/20(火) 19:17:17.53 ID:tmX0dbgo [1/11]
「上条が不幸だって聞いたことある?」
フレンダがそう質問してきた。
「不幸?なんだそりゃ、カワイソウな自分に浸ってる少女漫画の主人公か?」
「…そんな可愛いものじゃない…」
「は?」
「生き地獄、私なら自殺しかねないほどに、神様に見捨てられているのよ上条は」
そうして、フレンダは帝督に上条のこれまでを話した。
過去から今現在までの、不幸を。
――心理掌握
「てめえがレベル5の第六位だって?」
「はは、小学生じゃねえか」
「何その目、生意気だわぁ」
スキルアウト。
数十人はいる。
鉄パイプや鈍器を手に彼らは私――心理掌握に向かってきた。
「〝跪け〟」
私が発したその一言で、ドサッ!!とスキルアウトの全員がコンクリートの地面に崩れ落ちた。
ガランガシャン、と武器が転がる。
「な、にぃ…が…」
私のすぐ傍にうつ伏せに倒れたスキルアウトが呻いた。
ドサッ。
私はその頭を踏みつける。
「て、めぇ…!」
ギリギリと歯軋りしてスキルアウトが睨んでくる。
ははっ、と私は笑った。
「無様ね、下等な猿の分際でこの私に挑むなんて」
こいつらを踏みつけているだけで、私は背中がぞくぞくとしてきたのを感じる。
「ねえ、学園都市はなんでこんなゴミを転がしておくのかしら?ふふ、そうは思わない?」
「[ピーーー]…」
「誰が、私を[ピーーー]って?あっはは!私をお前如き無能力者のクズが?あっははは!どんな冗談よ」
「〝地面に頭を打ちつけろ〟」
命令。
スキルアウトの全員が、うつ伏せの状態からコンクリートの地面に頭を打ち付けた。
ゴキッ!!
誰か骨の折れた者がいたかもしれない。
51 名前:pasuta ◆QXQDE8vvhs[] 投稿日:2010/04/20(火) 19:28:47.08 ID:tmX0dbgo [2/11]
「うっふふ」
力場をいじる。
〝アラクネの魅了〟を発動。
一瞬にしてその場のスキルアウト全員を洗脳。
「さて、ゴミ掃除に貢献してさしあげますか」
それは、強盗をしろという命令。
銀行強盗、コンビニ強盗、なんでもいい。
そうして、警備員に捕まえさせる。
警備員の何人かも軽い洗脳をしている。
それを操って強盗するスキルアウトの近くに配置する。
たまたま近くにいた警備員がスキルアウトを逮捕。そして少年院に入れる。
まさしくゴミ掃除だ。
「ゴミはゴミ箱にっと。…やっぱりだめですわね、どいつも私とじゃ戦いにすらならない」
思い浮かべるのは先日の少年。
「あのレベル6に会いたいですわ」
にやり、と私は笑みを浮かべて舌舐めずりをすると夜の街を歩きだす。
「やっと見つけたゼ、心理掌握」
ビクッ!!
声のしたほうを振り返る。
暗い一本道から一人の少年が歩いてくる。
高校生らしき見た目、髪は銀色で鋭い目つきをしている。
そんなことはどうでもいい。
そんなことより、私を中心にした半径五メートルの力場で感知できなかった。
そして、今なお私の能力が一切通じていない。
52 名前:pasuta ◆QXQDE8vvhs[] 投稿日:2010/04/20(火) 19:34:23.20 ID:tmX0dbgo [3/11]
「くはっ、自分の能力が絶対だとでも思っているのか?流石は世間知らずのお嬢様だゼ」
その少年は腰に木刀を提げている。
それを引き抜き、私に突き付けた。
私と少年の距離は三メートル。
「たかが第六位が調子に乗るなよ?」
「なら、あなたはどんな大物なのかしら?」
私は額に汗をかきながらも返答した。
そうだ、私は第六位。
私の能力が効かない能力者だっていてもおかしくない。
そもそも私の力場を破壊されたわけでもない、あのツンツン頭の少年と比べればそこまでイレギュラーというわけでもない。
だが、私の能力が効かないってことは――。
私の予感は当たった。
「俺はレベル5の第五位――AIM保護(AIMプロテクション)だゼ」
少年が動いた。
素早い。
私が身構えるより速く、足を踏み出し、地面を弾くように跳び込んできた。
「ぐぁっ!」
頭を守るように突き出した腕を思い切り木刀で殴られ、バランスを崩す。
腕の骨が呆気なく折れたのを感じた。冗談じゃない、こちらは小学生の能力に頼ったお嬢様だ。
ドガッ!!
一切容赦のない蹴りが私のわき腹を捉えた。
「ごぁア!」
ろくに受け身も取れずに私は地面を転がる。
「くっははー!気分爽快だゼ!」
55 名前:pasuta ◆QXQDE8vvhs[saga] 投稿日:2010/04/20(火) 20:03:42.87 ID:tmX0dbgo [5/11]
ゴキッ!!
「ッッ!が、ぁあああああああああああああ!!」
折れた腕を踏みつけられ、さらにゴリゴリと地面で腕の骨を刺激する。
激痛で頭がどうかなりそうだった。
「がぎゃあああぁああぁぎ、ががぁきああああああ!!」
絶叫が闇に響く。
銀髪の少年は愉しそうに唇を歪める。
「くっは、はは!もっと苦しめよ、なあ心理掌握!」
「がぁあああぁぁああああああああああああああ!!」
涎が垂れ、下着は嫌な汗で濡れている。
死ぬ。
死んでしまう。
精神が崩壊しそうだった。
みっともなく腰を上下し、片腕を無茶苦茶に振るい、絶叫し続ける。
下着の下で液体が漏れていることを恥じる余裕もない。
「ぎぁがあぎゃあああぁあああああああ!!」
「苦しめよ、なあ、苦しいだろ?苦しいんだよ!それがてめえの罰なんだよクソアマ!」
あい、つらを…スキルアウトを操る。
ほとんどが気絶している。それだけ私の洗脳が脳に与えるダメージは大きい。
しかも、その前には額を地面に打ち付けている。気絶していてなんら不思議じゃない。
気絶はPCにおけるシャットダウンに近い。強制的に立ち上げることもできるが、時間がかかる。
それまでどんなキーの信号も受け付けてくれない。
「あ、が、ぎぁあ!が、あ、ぁぁあああああああ!……ぁが…あぁ…」
足が持ち上げられた。
銀髪の少年が、鋭い眼で睨んだ。
「お前が精神崩壊させた女、覚えているか?」
「あ、が、ぁあぎ…」
「なあ、オ・ボ・エ・テ・イ・ル・カ?」
腹にブロー。
「ごぼァ!」
私は口から血を吐き、ひくひくと体を痙攣させる。
56 名前:pasuta ◆QXQDE8vvhs[saga] 投稿日:2010/04/20(火) 20:17:27.26 ID:tmX0dbgo [6/11]
「たかが、能力の対決だゼ?それでお前はあいつを壊した」
スキルア、アウ、トの連中を…せめて一人でも操って…。
「……」
無言で、木刀によって額を殴られた。
「がァああっ!」
地面を転がり、額から滲む血が地面を濡らす。
「人の話はさ、チャ・ン・ト・キ・ケ・ヨ」
「ごぶぁっ!」
腹を蹴り上げられる。
そして、蹴り。
転がったところを歩いて寄り、蹴る。
執拗に腹を蹴る。
まるでサッカーボールのように蹴り続ける。
「がっ、ごぁ、ぎぁがっ!ぐっ…がぁあ!」
蹴る。
「げぼぁええっ!」
吐く。嘔吐するも攻撃は止まない。
胃から全て掃き散らかし、血を滲ませ、過呼吸気味に咳き込む。
びくびくと腰から下が痙攣し、体内の水分を吐き出すかのように尿が流れる。
「くっはははははははっは!無様だなあ!」
もはや上下左右の感覚すらない。
「お前がさ、壊したんだゼ?ぐっちゃぐちゃのぐっちゃぐちゃに…あいつをさ」
ゴスッ!!
頭を踏み付けられる。
「気に入らないって?そんな理由で?おいこのお嬢様はどれだけ偉いんだ?なあ?」
60 名前:pasuta ◆QXQDE8vvhs[saga] 投稿日:2010/04/20(火) 20:39:32.66 ID:tmX0dbgo [8/11]
――Halloo hero
そんな様子を黙って見ていられるような人間じゃなかった。
ツンツン頭の少年は、
そんな意気地なしではなかった。
だから跳び出した。
その少女が誰なのかなんて暗闇でわからなかった。
だが、わかったのは少女が善人でないこと。
少女がかつて一人の少女を酷い目に合わせたこと。
そして、銀髪の木刀を持った少年が復讐しに来たということ。
それだけが、わかった。
そして、
何より、
少女が苦しんでいることがわかった。
それだけで、
上条当麻は拳を握り、
叫んだ。
「その子から離れろおおおおおおおおおおおおおお!!」
66 名前:pasuta ◆QXQDE8vvhs[saga] 投稿日:2010/04/20(火) 22:57:33.54 ID:tmX0dbgo [10/11]
そんな様子を黙って見ていられるような人間じゃなかった。
ツンツン頭の少年は、
そんな意気地なしではなかった。
だから跳び出した。
その少女が誰なのかなんて暗闇でわからなかった。
だが、わかったのは少女が善人でないこと。
少女がかつて一人の少女を酷い目に合わせたこと。
そして、銀髪の木刀を持った少年が復讐しに来たということ。
それだけが、わかった。
そして、
何より、
少女が苦しんでいることがわかった。
それだけで、
上条当麻は拳を握り、
叫んだ。
「その子から離れろおおおおおおおおおおおおおお!!」
88 名前:pasuta ◆QXQDE8vvhs[saga] 投稿日:2010/04/21(水) 19:31:47.80 ID:tmMMT.wo [1/7]
「あん?」
銀髪の少年が大声のほうを振り返った。
同時、ツンツン頭の少年の拳が突き抜けた。
シュッ!
銀髪の少年はぎりぎりで首を反らし、それを避けた。頬をわずかに擦るが、力のベクトルに逆らわず受け流す。
続いて木刀を腰元から引き上げる。
バチンッ!
釣り竿のように張り上げた木刀はツンツン頭の少年の顎を弾いた。
「ぐぁあっ」
後ろによろめいたツンツン頭の少年。
銀髪の少年はさらに深追いをかける。
剣道の抜き足の要領で一歩にして近づくと、背を屈めて木刀に力を込める。
ゴキッ!!
双方が弾かれた。
ツンツン頭の少年の拳は銀髪の少年の頬を捕え、銀髪の少年の木刀はツンツン頭の少年の肩を捕えた。
思わぬ反撃に銀髪の少年はステップして数歩下がる。
そして、ツンツン頭の少年を確認。
「くっは、はは!誰かと思えば幻想殺しじゃないか」
心理掌握はその様子を遠巻きに見ていた。
痛みにおかしくなりそうで、目を瞑ってしまいたかったが、必死に目を凝らしていた。
イマジン…ブレイカー…?
能力名だろうか?
そう思ったが違った。
「どうしたんだゼ?…なあ、レベル0の上条当麻」
上条当麻は無言で立っていた。
心理掌握を守るように心理掌握の前に立ち、その拳を握り締めた。
89 名前:pasuta ◆QXQDE8vvhs[saga] 投稿日:2010/04/21(水) 19:47:47.59 ID:tmMMT.wo [2/7]
「なに、やってんだよ…」
「あ?」
「なにやってんだって、聞いてんだよ…ッ!!」
上条当麻が吠える。
レベル0の少年が、吠える。
「くっは、何って愉しい復讐タイムだゼ?」
銀髪の少年は気分良さ気に笑う。
「もういいだろ!なんでここまでやるんだよ、非人道的にも程があんだろ!」
「くっはっはは!それはこっちの台詞だっての。この女が何をしたか、てめえにはわからないだろ?」
「だからって、こんな――」
「それこそてめえには関係ないだろ?」
「ああそうだよ、無関係だ。だからってこんなもん見過ごせるかよ!」
「…善人だなあ。本当に善、押しつけがましいほどの善」
「そんなんじゃねえよ」
「いやいや、間違いねえよ。俺の知り合いに似てんだ」
「知り合いって、さっきの…?」
「くっは、さっきの会話を聞いていたのか。ってありゃ会話になってねえな。くっはは、俺の一方的な問いかけか」
「少しだけな。…だからって、こんなことが許されるわけじゃねえよ」
「そんな、お前みたいな目をした女だった。誰かのために体張ってる馬鹿なお嬢様だよ。そいつをこいつは壊した」
「こわ、した?」
「精神崩壊だよ、さらに脳みそにダメージ送って頭から血ぃぶちまけて倒れた――関係ない誰かを守るために心理掌握に一言言っただけでな!」
「なっ」
「たかが、能力の対決に過ぎない。…よくやるだろ?学校でさ、ちょっと喧嘩になって能力で勝負してみようってさ。それを持ちかけといて、この女は一人の人間の全てを奪った」
91 名前:pasuta ◆QXQDE8vvhs[saga] 投稿日:2010/04/21(水) 20:17:07.13 ID:tmMMT.wo [3/7]
「俺はさ、あいつやお前みたいな善人じゃねえんだゼ?てめえの大事なモンを壊されて、奪われて、それで黙っていられるような人間じゃねえんだ」
「……」
「それで、こいつはどうなったと思う?心理掌握はさ、レベル5はさ、何のお咎めもなしなんだゼ?くっはははっはは!人一人平気で壊しておいてよ!」
「……」
「だから俺は――闇に落ちた」
「……」
「心理掌握ただ一人を殺すためだけに、生きて、殺して、今までやってきた」
「……」
「そしたらほら、今日にはなんとその夢が実現しちまったんだよ!くっはは、毎晩毎晩こいつに復讐することだけを誓い続けて、待ち焦がれた瞬間がやってきたんだよ!」
「……」
「なあ?俺は間違っているか?人間なんてみなそうなんだよ。てめえの大切なモノを奪われて、その犯人を知って、やり返したいって思ってしまう生き物なんだよ」
「……」
「おい幻想殺し、いや上条当麻。――お前に俺の夢を奪う権利があるってのか?」
上条当麻は口を開いた。
ずっと閉ざしていた口を開いた。
そして、やはり拳を握り締めた。
「ごちゃごちゃ言ってんじゃねえよ…」
「あ?」
「うるせえって言ったんだよ!!」
92 名前:pasuta ◆QXQDE8vvhs[saga] 投稿日:2010/04/21(水) 20:21:07.99 ID:tmMMT.wo [4/7]
「なん…だって?」
「何が夢だ、復讐だ。そんなことその女の子が望んでるとでも思ってんのかよ!そんなことして何になるってんだよ!ふざけた自己満足で他人に不幸を押しつけてんじゃねえよ!」
不幸な少年は叫ぶ。
「お前がこんなことをして、誰かがして、それをやり返して、そんなことを繰り返してどうすんだよ!こんな復讐をされて彼女が喜ぶとでも思ってんのかよ!…いいや、思ってねえよな。思ってるわけがねえ!」
声を張り上げる。
「お前は傷付いた自分が可愛いだけだ!てめえの罪を彼女になすりつけて、てめえの傷の痛みを押しつけて、てめえを満足させたいだけだろうが!本当に彼女のことを思ってんなら、何故こいつに確認しなかった!」
「したさ!こいつがやったって証拠は上がってんだ!だから俺はこいつをこ――」
「だったら!謝らせて、謝罪させて、それで終わりにしろよ!」
「ふざっ――けんな!!」
「てめえに俺の何がわかる!?そんなもん当事者でないてめえに理解されてたまるか!」
「うるせえええ!それでてめえは何をした!?闇に落ちた?そこでてめえは何をした!?」
「仕事だよ!どいつもこいつもくだらねえ、殺しの仕事だ!!」
「お前がやっていることだって悪じゃねえか!」
「だからどうした!人間誰だっててめえが可愛いんだよ!てめえの目的のために〝殺しても構わない人間〟を殺して何が悪いってんだ!」
93 名前:pasuta ◆QXQDE8vvhs[saga] 投稿日:2010/04/21(水) 20:23:00.81 ID:tmMMT.wo [5/7]
「てめええええええええええええええええええええええ!!お前が殺した人間にも誰か大切な人がいたかもしれねえだろ!?そいつの帰りを待っているやつがいたかもしれねえだろ!?そんなやつらをてめえのくだらねえ復讐のために喰い物にしてきた
ってのかよ!!」
「だから、どうし――」
「そいつらが、お前と同じ状況になるって何故わからない…ッ!?」
「なっ」
「お前が殺した人間の友や恋人や家族が、泣き怒り、どうするか、どんな思いか、何故わからない!?」
「っ」
「どうして不幸の連鎖をてめえで作ろうとするんだよ!?それでお前を殺しにきて、それでもお前は満足なのか?『お前が殺したんだ』って泣きながらてめえに向かってくるやつを殺し返して、そんなことを繰り返す人生で満足なのか!?」
「お、れは――」
「お前は!!こいつに謝らせて、それで終わりにするべきだったんだ。誰の為でもない、お前自身のために!!どうしててめえは自分から不幸になろうとするんだよ!!」
「俺はあああああああああああああああああああああああああああああ!!」
「罪と罰だなんて不毛なことを議論しあって何になるんだよ!!」
「俺はこの女を、心理掌握を殺すと誓った!あいつの為にも!絶対に仇を取ると誓った!てめえはそんな俺の夢を奪うってんなら、お前も敵だあああああああああああああああああああああああ!!」
「くっそが!ああいいぜ、てめえがそんなモノを 夢 だって言うんなら――」
上条当麻は右手の拳を、向けた。
「まずはその 夢(幻想) をぶち殺す!!」
125 名前:pasuta ◆QXQDE8vvhs[saga] 投稿日:2010/04/23(金) 00:00:57.35 ID:DIoOHego [1/14]
垣根サイド――
中学生にしては長身の茶髪の少年、垣根帝督はその様子を見ていた。
暗い路地裏を見降ろす帝督はある建物の屋上にいる。
「まずはその 夢(幻想) をぶち殺す!!」
上条当麻がそう叫んだ。
帝督はその様子を無機質な瞳で見下ろしていた。
観察していた。
「つか、護衛の俺が傍にいないわけないよな」
そう帝督は呟く。
カツ。
夜闇にヒールの足音が響いた。
「結局、護衛のくせに観察してるだけって訳ね」
帝督が振り返る。
屋上にやってきたのは金髪碧眼の美少女。
少女の名前はフレンダ。
上条当麻のクラスメイト。
「よくここがわかったな。そんなに俺に会いたかったか?」
「馬鹿ね、私がここにいる理由なんて明白な訳よ」
「ふん、何が上条を心配するクラスメイトだ」
はっ、と帝督は小馬鹿にする。
フレンダは何も言わない。
「お前はさしずめ観察者といったところか」
127 名前:pasuta ◆QXQDE8vvhs[saga] 投稿日:2010/04/23(金) 00:13:35.52 ID:DIoOHego [2/14]
「私が話したことは事実だけど?」
「そうだろうさ。裏側のお前が俺に情報提供で間違った情報を与えてどうする」
「不機嫌そうね?」
「そう見えるんなら、俺は上条が気になるのかもな」
にや、と帝督が人の悪い笑みを浮かべる。
フレンダはそれを気味悪がるように半歩下がった。
「なに、あなたそっち系?結局、あなたってキモいんだけど」
「違げえよっ」
「確かにそんな雰囲気もあるっていうか…女に興味無さそうだし」
「なら性的な意味で今すぐてめえを襲ってやろうか?いい声で喘がせてやるよ」
「……全力で遠慮するわ」
「ふん、ダチのフリして上条に好意あります~って嘘付いてる誰かさんより、よっぽど人間らしい俺のほうがマシだ」
「……」
「少しは好印象だったんだがな。お前が上条の話をした時」
「……」
「残念だぜ、あの気持ちも表情も演技だってのが。ははっ」
「…なの…?」
「あ?」
「監視者が、監視対象を好きなっちゃだめだっていうの?」
フレンダは、寂しげな顔をした。
130 名前:pasuta ◆QXQDE8vvhs[saga] 投稿日:2010/04/23(金) 00:43:53.88 ID:DIoOHego [3/14]
6時間前――
――上条がなんて呼ばれてたか知ってる?
あん?
――〝疫病神〟よ。
……。
――上条は幼稚園の卒業とともに学園都市にやって来た訳だけど、それまでの話ね。
――生まれつき『不幸』だった上条はみんなからそう呼ばれてた訳。
――それも、ただ子供達が言うならわかる。けど、
――大の大人までもが、そんなふうに呼んだ訳。理由も何もないわ。上条は、ただ『不幸』だからっていうだけでそう呼ばれ続けたのよ。
――上条が側にやってくると周りまで『不幸』になる。
――そんな俗話を信じて、子供達は上条の顔を見るだけで石を投げた。
――大人達もそれを止めなかった。上条の体にできた傷を見ても、哀しむどころか逆に嘲笑った。
――なんでもっとひどい傷を負わせないのかと、急きたてるように。
――上条が側を離れると『不幸』もあっちに行く。そんな俗話を信じて、子供達は上条を遠ざけた。その話は大人までもが信じた。
――あいつは…ッ!
――上条は一度、借金を抱えた男に追いかけ回されて包丁で刺された事がある。
――話を聞きつけたテレビ局の人間が、霊能番組とかこつけて、誰の許可も取らずに上条の顔をカメラに映して、化物のように取り扱った事もある…ッ
――上条の父親が言っていた…・。
――息子を、当麻を学園都市という離れた場所に送ったのはそれが理由だと。
131 名前:pasuta ◆QXQDE8vvhs[saga] 投稿日:2010/04/23(金) 00:46:16.01 ID:DIoOHego [4/14]
――恐かったって。
――『幸運』だの『不幸』だのが、じゃない。そんなものを信じる人間が、さも当然のように当麻に暴力を振るう現実が。
――恐かった。『不幸』だのという迷信が、いつか本当に当麻を殺してしまいそうで。だからこそ、そんな迷信のない世界に当麻を送った。
――しかし、科学の最先端である学園都市でさえ、上条はやはり『不幸な人間』として扱われた。
――それでも上条は耐えていた。
――でも、耐えきれない時がきた。
――それは、
――自分の『不幸』に他人を巻き込んでしまったこと。
――大したことではなかった。
――学園都市で起きた小さな強盗事件。
――人質にされたのはもちろん上条当麻。
――それだけならよかった。
――だが、そこで上条は本物の不幸を知ってしまう。
132 名前:pasuta ◆QXQDE8vvhs[saga] 投稿日:2010/04/23(金) 00:46:56.35 ID:DIoOHego [5/14]
――警備員相手に動揺した犯人が、上条に拳銃を押しつけた。
――誤作動が起こった。
――上条に押しつけていた手が震え、その弾丸は他の人質の少女に当たった。
――以来、上条は誰も寄せ付けなくなった。
――自分の『不幸』が誰かを巻き込むのを拒んだ。
――当てどころのない怒りを抑え、夜の街で日々喧嘩にあけくれていた。
――私は、訳あって上条とは幼なじみなの。
――だから、上条が唯一話せる相手とも言える。それでも上条は学園都市での事件をきっかけに私とも距離を置くようになったって訳…。
――それだけの、話よ。
――ねえ、例えば悲惨な過去がある人がいて、その人が『どれ程不幸』だと思う?
――珍しいことじゃないわ。この学園都市で酷い過去を送った人間なんてたくさんいるでしょ?
――でも、私に言わせれば一生付きまとう『不幸』とは比べものにならない。
――今までの人生から、生活、事件、他人までも巻き込んで、そしてこれから死ぬまで絶対の『不幸』に蝕まれながら嘲笑われながら生きていく。
――そんな人生、私だったら耐えかねない。
学校でフレンダは、そう帝督に話した。
それを、帝督は思いだした。
135 名前:pasuta ◆QXQDE8vvhs[saga] 投稿日:2010/04/23(金) 01:02:14.12 ID:DIoOHego [6/14]
そんな、レベル0を心理掌握は見ていた。
何を、やっているんだと思った。
どうして自分を助けにきて、そしてあんな感情的に話しているのか。
理解できなかった。
私には。
上流階級で他人を見下し、こき使ってきたプライドの塊である私には、理解できなかった。
言い訳なんてするつもりはない。
本当はあんなことしたくなかった~、だの、実は訳があった~、だのと言うつもりはない。
そんな物語りのヒロインになれる器などではない。
裏で糸引いて文字通り人を操って、それで、嘲笑っているような人間だ。
なのになぜ、この少年(といっても私より年上だが)――上条当麻は私のために立ちあがっているのだろうか。
まるで、大切な人を傷付けられたかのように拳を握っているのだろうか。
やめてくれ。
そう思う。
本当にやめてほしい。
きっと私はこの上条当麻に憧れていたのだろう。
今こうして第五位に負けていても、敗北を認めたくなどないが、上条当麻は違った。
私の力など到底及ばない上条当麻に、尊敬をしていた。自分より上の人間だと、お父様に対する敬意と同じように見上げていた。
どうしてレベル0なのかはわからない。だが、そんな些細な問題はどうでもよかった。
自分が認めた人間が、そう簡単にやられたりしないはずの人間が、
こんなに傷付いて戦っているのを見たくなかった。
どうして、そんな力を持ちながら他人のために戦うのか私には理解できなかった。
136 名前:pasuta ◆QXQDE8vvhs[saga] 投稿日:2010/04/23(金) 01:11:56.52 ID:DIoOHego [7/14]
「うおおおおっ」
上条当麻の拳が空を切る。
「チッ」
それを避けたがバランスを崩す銀髪の少年。
そこに上条の膝蹴りが入った。
「ごふァっ」
右腕を引き戻さずにその勢いで、膝蹴りを少年の鳩尾に喰らわせたのだ。
よろめく銀髪の少年。
上条は続けて右腕を振るう。
バシッ!
木刀がその腕を内側から弾いた。
「がぁあっ」
さらに上条にタックルをかます。
完全に足元が崩れた上条は地面に転がる。
ガツッ!
容赦なく木刀が倒れた上条を襲う。
転がるようにして避けた上条の背中を、銀髪の少年は蹴り飛ばす。
「ぐっはァっ」
「くっは!…ったく、中一がどうして高校生の俺とまともにやり合うんだよ」
起き上がろうとした上条の後頭部を木刀で打つ。
ガンッ!!
弾かれた頭から血飛沫が飛ぶ。
銀髪の少年は血で濡れた木刀を満足気に見遣る。
138 名前:pasuta ◆QXQDE8vvhs[saga] 投稿日:2010/04/23(金) 01:28:14.94 ID:DIoOHego [8/14]
「くっは、はは!獲物を使うのはずるいってか?」
上条は柔道の前回り受け身のように、弾かれたように起き上がる。
その眼の闘志は消えていない。
「そりゃあレベル5である俺の能力が一切通じねえんだから仕方ねえだろ?」
そんなこと、上条は聞いていない。
ただ拳を握ると突っ込んできた。
「だが、能力にかまける他の能力者と一緒にしてもらっちゃあ困るんだゼ?」
抜き足。
シュッ!と風を切るかのように、素早く銀髪の少年は動く。
上条の拳を避け、そのまま体当たり。
「っぐ」
耐えきり、やり返そうとする上条の顎にアッパー。
「ぐぁあっ!」
さらに上を向いた上条の中腹に渾身の蹴り。
「が、がァがっ」
139 名前:pasuta ◆QXQDE8vvhs[saga] 投稿日:2010/04/23(金) 01:31:45.97 ID:DIoOHego [9/14]
蹴りのほうが威力が出る。
そうして銀髪の少年は倒れる上条を踏み潰す。
グシャッ!!
くるみを割るかのように、思い切り足で上条の鳩尾を踏み潰す。
「ぐぁはア!ッガぁ!」
それでも揺るがない闘志ある眼を見て、銀髪の少年は木刀を上条に振るう。
頭を狙った木刀を、上条の右手が受け止めた。
「ッ!」
勢いよく振った木刀を素手で受け止めたのだ。指の骨がいかれたに決まっている。
それでも上条は木刀を強く握り締めている。
明らかに力が入らなく握力が下がっているだろうに。
そして、起き上がる反動とともに銀髪の少年の頬を左手で殴りつけた。
ゴンッ!!
くっそが、と銀髪の少年は吐き捨てた。
手に持つ木刀は奪われた。
それだけでない。
明らかにパンチ力が上条のほうが上だということ。
中学生にやられるというだけで、はらわたが煮えくりかえるようにムカついていた。
「ぐ、…くっはは!だがてめえの右手はもう使いモンにならねえぞ!渾身のストレートが打てなきゃもう終わりだよなぁ!?」
バキッ!!
上条が木刀を砕いた音だった。
両手で持ち、自分の膝にぶつけて割ったのだ。
地面に打ち付けた為少しはヒビが入っていたが、そう簡単に折れる品物ではない。
それを折った。右手は反動でおかしな方向を向いている。あれはもう何も掴めない。
膝にも今のでダメージがある。
木刀という武器を奪われながらも、銀髪の少年は勝ちを予感した。
141 名前:pasuta ◆QXQDE8vvhs[saga] 投稿日:2010/04/23(金) 01:43:06.37 ID:DIoOHego [10/14]
「…!……くっははは!いい事を思い付いたゼ?」
銀髪の少年はここに来て、能力を使う。
AIM保護(AIMプロテクション)。
それは超能力の全てから自分を守る力。
「だが、それだけじゃないんだゼ…!」
ポケットから出したのは小さな瓶。
暗闇でわからないだろうが、それは白い粉が入っている。
それを手に取り、舐める。
「幻想殺し――『体晶』って知っているか?」
ギン!!
銀髪の少年の眼の色が変わる。
今まで鋭い目つきの印象だったそれは、光を帯びていた。
発光するかのように、無機質なライトのような光で目は光っていた。
『体晶』を使い能力を暴走させる――。
全ての超能力が効かないのに何故第五位なのか?
それには訳があった。
銀髪の少年が例え二百三十万人の全ての超能力を否定できても、無能力者や普通の武器には敵わない。
たかがちょっと鍛えてるスキルアウトや警備員、銃器なんかの前には足も出ない。
だからこそ、木刀を帯刀している。
だが、本来この能力はその程度ではない。
AIMに干渉して相手の能力を我が物にする。
そんなことが可能なはず。
それを樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)が導き出した。
能力を暴走させることで現在、その能力を引き出している。
そのアイテムが『体晶』
150 名前:pasuta ◆QXQDE8vvhs[saga] 投稿日:2010/04/24(土) 04:41:48.51 ID:/1DJvK.o [2/12]
「体晶…?」
上条が訝しむと同時、それは起こった。
心理掌握の私が、能力を乗っ取られた。
同時、絶叫。
「―――ッ!!」
声にならない叫び声を上げ、私はのたうち回る。
神経を突かれ、激痛に息すら忘れる。
力場のコントロールを奪われる。
「あん?」
そこで攻撃が止んだ。
AIM保護の銀髪少年が警戒するように上空を見上げた。
「くっは、ちょっと厄介だな…」
そんな時でも私の頭脳に干渉し、強引に入り込もうとする。
だが、そんな簡単には入らせない。
脳の中に構築したセキュリティシステムがそれを拒む。
「おい!何をした!?」
上条が叫び、心理掌握に駆け寄る。
パキン!!
力場を含めて私にかかっていた能力すら消える。
「大丈夫か!?」
「い、や…」
見ないで。
こんな姿になった私を見ないで、と思った。
しかし、上条は表情一つ歪めずに私を抱き起した。
「てめェ、何をした!?」
153 名前:pasuta ◆QXQDE8vvhs[saga] 投稿日:2010/04/24(土) 20:33:02.03 ID:/1DJvK.o [3/12]
「くっはは、ちょいまずいな…」
銀髪の少年が闇に紛れるように下がっていく。
上条当麻から受けたダメージが大きいのか、その足取りは弱々しい。
「おい!」
上条当麻が叫ぶ。
銀髪の少年の顔には焦りが混じっていた。
「…安心しろ幻想殺し、もう俺が他人を殺すことはねえよ」
いきなりどうしたのか、私にはわからなかった。
それは上条当麻も同じ。
「だが、心理掌握。てめえだけは例外だ」
「なっ」
上条当麻がハッとし拳を握る。
「あばよ」
そう言った銀髪の少年は、焦りに汗を浮かべていたが、笑っていた。
不敵に笑っているつもりでも、それは引きつっていた。
まるで、絶望に向かうように。
上条当麻がそれを訝しみ、呼びとめようとした瞬間、携帯電話が鳴る。
それは上条当麻の物。
携帯電話に目を奪われた隙に、銀髪の少年は闇に消えていた。
くっ、と上条当麻は唸り、電話に出た。
上条当麻の知らない闇の世界が、上条当麻の外巻きで蠢いているとも知らずに。
154 名前:pasuta ◆QXQDE8vvhs[saga] 投稿日:2010/04/24(土) 20:59:49.38 ID:/1DJvK.o [4/12]
銀髪の少年、レベル5の第五位は闇の中を駆け抜ける。
「はぁ…はぁ…!」
クッソが、と吐き捨てる。
闇はしんと静まり返っている。
夏なのに鳥肌が立つほど寒く感じた。
レベル5の少年は、恐怖からおぼつかない足取りで必死に走っていた。
――先ほど、心理掌握の力を奪った時に力場のコントロールを得た。
――半径五メートルの力場。それは能力者及び無能力者だろうが人間をサーチできる。
――それだけでない。一瞬と呼べる時間で力場内の人間の表層意識までも読み取れる。
そこに、レベル5の第二位がいた。
さらに、レベル4が二人。レベル3が一人。いずれも暗部。
それだけでなく、学園都市の暗部組織〝死吸部族(デッドドレイン)〟が六人。
たかだか五メートルでそれだ。
まず、能力者四人は銀髪たちのいた路地裏に面する建物の屋上。
片方に二人ずついた。
そして、その建物の中で息を潜めているのが死吸部族。
やつらは殺すことと、殺し合うことを快感とするキチガイどもだ。
他にも暗部の下っ端をしている奴らとして、暗部ではよく見かける。
死体処理や証拠を消す人間など様々だが、どの人間も武装をしている。
つまり、銀髪の少年と一番相性が悪い。
武器はズボンのポケットに隠してある拳銃一つ。
弾丸はたった五発。
幻想殺しを殺すわけにはいかなかったため、見せなかったが拳銃の扱いにも慣れている。
だが、こんなチャチなハンドガンでは勝負にならない。
そもそも大能力者や超能力者を前に武器なんて意味を為さないし、死吸部族どもはフル装備で拳銃では風穴一つ空けられない。
「クッソが…!」
最悪だ。心理掌握を痛めつけてこの拳銃でトドメを射した後、自分の頭を撃って終わらせる計画だったのに。
最悪だ。
上条当麻の言葉で、生きたいと思ってしまった。
156 名前:pasuta ◆QXQDE8vvhs[saga] 投稿日:2010/04/24(土) 21:18:11.11 ID:/1DJvK.o [5/12]
「くっはは、これが俺の結末ってか…?」
笑えてきた。
震える足を止める。
無理やり走り続けた体が崩れ、地面に崩れ落ちる。
「クソったれな世界で…俺は…」
銀髪の少年はもはや立ちあがらない。
そんな気力は失せていた。
せめて、てめえで死んでやる。そう心の中で呟き、拳銃を取り出す。
震える指先で必死にそれを持ち上げる。
あんなキチガイどもに遊ばれて死ぬのはゴメンだ、少年はそう思った。
最悪だった。
本来なら、自分のAIM保護をもってすればレベル4だろうとレベル5だろうと勝てたのに。
そう、規格外の第二位と第一位を抜けばの話だ。
どんな物理法則も効かない第二位にあらゆるベクトルを操る第一位。
どちらの能力も演算が激しく、自分には到底扱えない。
第三位以下なら勝てる自信があった。
だが、工夫でどうにかなる次元を超えている二人には手も足も出ない。
これはAIM保護としての結論。
銀髪の少年には、あまりプライドというものがなかった。
レベル5の中でも、おそらく自分ほどプライドの低い者はいないだろう、そう自負する。
それだけに、第二位以上に挑もうとも、戦おうとも思えなかった。
最悪だ。
震える指は力が入らない。
ハンマーすら降ろせない。
もはや拳銃など撃てるわけがなかった。
闇の足音が響いた――。
157 名前:pasuta ◆QXQDE8vvhs[saga] 投稿日:2010/04/24(土) 21:24:06.54 ID:/1DJvK.o [6/12]
「よう、第五位」
その声は飄々としていて、あまりに人間らしい。
「無様だな、全く」
軽くて、それだけに読めない。
「よくもまあ俺の護衛対象に手を出してくれたもんだ」
その言葉で銀髪の少年は気付く。
第二位が幻想殺しの護衛――。
それはつまり――。
「うそ…だった…のか…?」
「……」
自分のこれまでの努力が。
闇に落ち、必死に殺し合いを繰り返してきた日々が。
ようやく第六位を殺す権利を得たことが。
第六位を殺せて邪魔が入らない場所の情報が。
その全てが。
「うそ、だって…いうのかよ…くっ…はは」
乾いた笑みを浮かべる。
それは疲れ切った老人のようであった。
「頼む…」
「ああ?」
「俺を、すぐに殺してくれないか?」
158 名前:pasuta ◆QXQDE8vvhs[saga] 投稿日:2010/04/24(土) 21:33:07.11 ID:/1DJvK.o [7/12]
それは図々しい申し出。
今まで泣き喚く奴らを平気で殺してきた悪党が、自分だけは楽に死にたいという申し出。
それを、第二位という化物に頼んだ。
第二位はしばらく黙っていたが、
「いいぜ」
表情の読めない顔で、肯定した。
第二位――垣根帝督は無言で銀髪の少年の持つ拳銃を取る。
能力は使わない。
無駄に苦しませずに死ねるよう、頭を狙う。
「結局、そんな甘い世界じゃない訳よ」
女の声。
垣根帝督と銀髪の少年が振り返る。
視界に入ったのは爆弾。
「チッ」
垣根帝督は舌打ちすると能力を発動する。
白い二枚の羽――〝未元物質(ダークマター)〟。
絶対の防御が垣根帝督を包む。
銀髪の少年は爆弾を漠然と見つめていた。
ああ、これで死ぬのかと死をカウントダウンする。
「今行くゼ……※※」
最後に呟いたのは愛しき女の名前。かつて心理掌握に壊された女の名前。
肉を焼く痛みに絶叫し、なかなか消えない意識が消えるその時まで、
銀髪の少年は苦しんでいた――。
159 名前:pasuta ◆QXQDE8vvhs[saga] 投稿日:2010/04/24(土) 22:01:09.56 ID:/1DJvK.o [8/12]
上条サイド――
『ヤッホー、上条元気?』
電話の主はフレンダだった。
「どうした?」
『いやぁ、今どうしてるかなって』
「……」
『はいはい、どうせ路地裏でしょ?』
「う…否定できんが違うんだ…」
『夜中に出歩いていて何が違うのよ』
「ぐ…」
『まあ私も今ちょっと外にいるんだけどね』
「はぁ?お前こんな時間に何やってんだよ」
『あれれー?自分はいいんですか?』
「お前は女なんだからもっとおしとやかにだなぁ」
『ヤバッ、何それウケるww』
「何故笑う!?」
『いやー、なんか私のキャラに合わな過ぎてww』
「あーそうかい。そりゃ、無駄なアドバイスでしたねー」
『それにしても…』
「ん?」
『ふふ、随分と明るくなったじゃない?』
嬉しそうな声。
上条はハッとする。
『よかった――あ、ゴメン、ちょっと離れる』
いきなりそう言うと通話を一方的に切られた。
「なんだあいつ?つか今何やってんだろ」
上条は不思議そうに首を傾げる。
「あ、あの…」
「ん?」
心理掌握というらしい少女がおずおずと声をあげた。
160 名前:pasuta ◆QXQDE8vvhs[saga] 投稿日:2010/04/24(土) 22:15:18.26 ID:/1DJvK.o [9/12]
「どうした?どこか痛むのか?」
「い、いえ…」
心理掌握は顔を真っ赤にして縮こまる。
「温かいなって…」
そう呟いた。
上条の腕の中で。
「え!いやいや、わざとじゃないんですよ本当です上条さんはあくまで怪我している女の子を地面に置いておくわけにはいかなかっただけで決してドキドキなどしていませんし何か意図があったりなどしていませんことよ?」
慌てる上条に心理掌握はクスリと笑った。
「いえ、そんな気にしてませんよ…ふふ」
ドキリと上条の胸が高鳴った。上条は中学生だと思っているが小学生の心理掌握は大人っぽい瞳で優しく笑ったのだ。
「そして、ありがとうございました…」
上条は気付いていない。
少女がボロボロの体を見られることを恐れていることを。
汚いと言われることを、
それこそ杞憂だが。
「ゴメンな。もっと早く来れたら…たまたま通りがかっただけだからさ」
偶然とは言い切れなかった。
上条と出会ったこの道を心理掌握の少女は通い詰めていたのだ。
上条は再び出会うことのないようあまりこの道を使わずにいたが、そろそろいい頃合いだろうと通った。
そうなることを計算して心理掌握の少女は通い詰めていた。
もっともこんな再会など予測していなかったが。
それから、
上条は救急車を呼ぶと、顔見知りの腕のいい医者がいる病院を指示した。
「君!君の右手も大変なことになっているじゃないか!」
「へ?」
言われるまで気付かずにいた上条は、そこで痛みに絶叫した。
数分後、フレンダからかかってきた電話は――上条の知らない所で銀髪の少年が爆弾に燃やされた後だった。
174 名前:pasuta ◆QXQDE8vvhs[saga] 投稿日:2010/04/25(日) 00:32:29.01 ID:oCozelIo [1/4]
「やっほー!上条元気?」
病室。
見舞いにやって来たわよ、と言うフレンダに上条は一言。
「堂々と夜中に窓割って侵入すんな!」
ゴン。
「いっつぁ~、頭へこんだ」
「身長の間違いだろ」
「んなっ、何気にその発言は酷いわよ」
「あーそうかい。っつか夜中に窓ガラス割るとかお前は昭和の不良ですか?」
「上条には言われたくないww夜中に出歩くwwはいストリートファイトって訳ww」
「うるせえ、絡まれるんだから仕方ないだろ、ていうか寒いんですけど」
「え、何?人肌欲しいって?うっわー…」
「違えよ!なんでそうなるんだ!?お前が割った窓ガラスから風が入ってくんだよ!」
「結局夏で良かったって訳ね?」
「冬だったら凍えるからな!でもまだ夜は寒いっつーかこの病院服が薄いんだよ」
「フムフム…へえ」
「どうでもよさそうに聞き流すな!」
「あ、ゴメン。それでカーネルサンダースがどうしたって?」
「あれ!?この子まじで聞いてない!?それどころか会話が成立してない…だと?」
「ハイハイ……」
「ガムテープか。用意がいいな」
「んや、爆弾の元」
「おい!なんだそれ!壁とか爆発させるツールか?あの映画とかでよく見るツールか!?」
「ちなみにこれが触れると爆発するわ」
「なんだそのロウソクみたいなの…ってぶらぶらさせるな!危ないだろ!」
「ふふーん、これだから手慣れてない上条はバ上条なのね」
「オイコラ、その呼び方はやめろ。っておい!テープのスレスレで振るなよ!」
「馬鹿ね冗談に決まって…おっと、」
「「あ」」
ドカーン!!
その部屋の窓ガラスが全て割れ、看護婦や警備員が駆け付けた時、フレンダは逃げ出していた。
「あのおっちょこちょい…しかも逃げやがって、不幸だあーー!」
176 名前:pasuta ◆QXQDE8vvhs[saga] 投稿日:2010/04/25(日) 00:48:46.27 ID:oCozelIo [2/4]
「あはは、ヤッホー!上条元気~?」
数時間後、警備員や看護婦に散々怒られた上条はその犯人を前に、
「結局、俺の拳を受けに帰って来たって訳ですかフレンダさん?」
ブン!!
「にょわっ」
「てっめーな!この修理代俺持ちだぞ!?」
ブンブン!!
「あっぶな、てか、上条ストップ。暴力反対!」
「じゃあ俺は逃げるの反対って言わせてもらうぜ」
「あれっ!?上条何その獰猛な顔。やーオーカーサーレ――」
「ばっ!お前、何言うつもりだ!?」
「何ってナニをされ――」
「言わんでいい!その返し、全く上手くねえから!なんでドヤ顔なの?」
「いやー、それにしても上条ってば元気ネ!」
「誰かさんのおかげさまでな!」
「まさか幻想殺しを封じられても左手でやってくるとは…上条、恐ろしい子」
「うっわ、似合わねえ…」
「ヒド!…ていうかその怪我はなんなの?」
「あー、まあただの喧嘩だな。それより、お前のほうが気になるぞ」
「エ?」
「ったく。…んで、今日はどうして夜中に出歩いてたんだ?お兄さんに話しんさい」
「んぐぐ…なんで同い年からそんな優しいお兄さん的な顔を向けられなければならない訳?」
「いいから正直に言え。じゃないとその金髪をドリル型に巻くぞ」
「ギャーッ、そんなことされたら結局、語尾に『ですわ』とか『ですの』って付けなきゃいけなる訳じゃないッ」
「お前の中のお嬢様像はわかりやすいな」
「はんッ、結局お嬢様(笑)なんてそんなモノな訳よ!」
「いやどうだろう。俺お嬢様の知り合いなんていないから分からないけど」
「あーやめときなって、上条の不幸顔見たら某借金執事並な見られかたするからww」
「おまっ、上条さんは硬派ですよ!そんなハーレム男と一緒にしないでいただきたい!」
「…何故だろう、近い未来からその発言に激しくツッコメと信号が来た気がするわ」
「いつの間に予知能力まで!?っていうかそれは何だ?ワタクシこと上条当麻がハーレムと?ははっ、何を仰いますやらこのチビッ子は」
「いつになく卑屈ね。そしてさりげなく喧嘩売ってる訳ね?」
「卑屈さ、なんたって不幸の塊だからな」
そう言い、上条は笑った。
「ホウ?随分と力強い笑いになったじゃない」
「まあな。俺は受け入れるよ、この不幸を」
ギブスを付けられ包帯で巻かれた右手を、上条は力強く見つめる。
「プククwwあんな薄気味悪い「苦笑い(笑)」はもう見れない訳ねww?」
「お望みとあらばこの名役者上条当麻、しかと見せつけてやろうか?」
「結構よww」
177 名前:pasuta ◆QXQDE8vvhs[saga] 投稿日:2010/04/25(日) 01:07:03.54 ID:oCozelIo [3/4]
??サイド――
「目が覚めたかい?」
その少年は自分の顔を覗き込んでいる医者を見た。
そしてびくっと体を動かした。
「俺…死んだはずじゃ…?」
「実際にはあれじゃ死なないね。明らかに火傷で済む火力だったよ」
「どうして、俺はここにいる…?」
「そりゃ、救急車が運んで来たからさ」
「だからどうしてっ」
「暗部の自分が何故民間の病院に運ばれたかってことかい?」
「なっ」
どうしてそれを。と少年はカエル顔の貫録に欠ける医者を睨んだ。
「別に気にすることはないさ。僕のことなんてどうだっていい」
「そんなわけあるか、一般人が暗部にかかわっていいわけがないだろ」
「それこそ、暗部で〝死んだ〟ことになっている君には関係ないだろう?」
「は?」
「悪いけど、これには僕も関わっていたんだよ。あの少女がね、自分が爆弾を投げて君を死んだことにさせるって――」
医者はそう説明しながら鏡を渡す。
「――そして、火傷した顔を綺麗にするだけでなく、僕が〝整形〟して全くの別人にする。そういう作戦だったんだね」
鏡を見た。
誰だこいつは。
少年は思った。
まず、目が細い。開いていても細くて横線みたいで脳天気そうな顔付きをしている。大きく目を開くと元の鋭い目つきになるが、そうしないとアホみたいな顔をしている。
背も高い。身長180cmはある。恐らく足や腰の骨をいじったのだろう。それに合わせるようにガタイも大きく、大男と言えるようだ。
こんなことができるのか、これは整形っていうレベルじゃないと少年は思った。
「君はこれから違う名前を名乗るんだよ。――ああ、それと銀色の髪は流石に目立つからね、こちらで個性ある色に染めさせてもらったよ」
少年は「何この色、コスプレじゃねえんだから…」と呆れた。
「君の髪は青色に染めたから――〝青髪〟ってあだ名でも付けてもらえばいいんじゃないかな?」
206 名前:pasuta ◆QXQDE8vvhs[saga] 投稿日:2010/04/26(月) 11:27:41.93 ID:nAlHkvYo [2/11]
心理掌握――
「目が覚めたかい?」
私は気が付くと病院のベッドの上で寝かされていた。
「私……ッ!?」
「どうしたんだい?」
カエル顔の医者が首を傾げる。
「傷が…ない」
あれだけ、痛めつけられたのに。
あれだけ、女の体をボコボコにされたのに。
それらの傷が残っていなかった。
後に残るような傷なはずなのに。
ところどころ包帯が巻かれているがほとんど軽傷。
とくに体に痛みもない。
「当たり前だね。誰の病院だと思っているんだい」
対し、医者は当然だとでも言うかのように言った。
「女の子があんな傷を負っちゃだめだよ?」
「私……」
思い返す。
そうだ。
私が、壊したんだ。
一人の少女を。
そうして、今回の出来事は起こった。
今までの私ならそれがどうした、と思っただろう。
だが、
あの少年。
「上条…さん…」
あの少年の言葉と、その行いを見て。
心の奥で何かがうずいた。
「私…最低だ」
207 名前:pasuta ◆QXQDE8vvhs[saga] 投稿日:2010/04/26(月) 11:34:04.77 ID:nAlHkvYo [3/11]
自分は、一人の人生を壊した。
それだけではなかった。
この世は一つの円。
丸に壁などなかった。
だから、この世のサークルは巡り巡る。
そうして、不幸の連鎖を生みだしてしまった。
私が壊した少女。
その少女のために一人の少年が動いた。
一人の少年が何人もの人間を殺した。
その殺された人間に近しい人間が不幸になった。
彼らの中にはその少年と同じように暗部に落ちて少年を追いかける者もいたかもしれない。
そして、その彼らによって、また。
それらが巡り巡る。
もはやそれは私に止められない。
大きすぎる連鎖に私一人の意志なんて届きはしない。
「わた、私は……ッ…」
そんな中で、光が見えたのだ。
眩しすぎる光が。
一身に大きな不幸を抱える、
そんな誰よりも優しい少年に。
上条当麻に。
汚い自分に反吐が出る。
最悪だ。
私は罪人だ。
どうして気付かなかったのだろう。
どうしてこれまでこんな悪人だったのだろう。
どうして、こんな心変わりをしてしまったのだろう。
「君は、一人の少女を壊したね?」
ビクッ!!
私は戦慄した。
医者が、表情の読めない顔で私にそう確認したのだ。
208 名前:pasuta ◆QXQDE8vvhs[saga] 投稿日:2010/04/26(月) 11:39:59.72 ID:nAlHkvYo [4/11]
「どう、して…それを…?」
「何、簡単なことだ。彼女は僕のこの病院で預かっている。」
そう、壊れた少女は。
「精神そのものが抜けた、ただの抜け殻だけどね」
「ッ!!」
その言葉は胸に強く突き刺さった。
私の心を抉った。
ただのそんな事実が。
知っているような事実が。
他人に言われただけで脆くなった私の心が悲鳴を上げた。
「あは……」
自分が、善人になどなれるわけがないのだ。
結局、ただの憧れだった。
ないものねだりだった。
自分が悪人で。
そんな自分を助けた善人に、
そんな光に、
ただ憧れただけだ。
そこに善人になろうなどという堅い決意などない。
そこに彼と同じ行いができる 信念(ちから) などない。
ちょっと事実を言われただけでこれだ。
結局は自分に甘いだけ。
自分が可愛くて可愛くてどうしようもない。
そんなクズなのだ、私は。
「君は、その罪を背負う気はあるかい?」
そんな医者の問いかけに。
薄く笑う私は答えた。
209 名前:pasuta ◆QXQDE8vvhs[saga] 投稿日:2010/04/26(月) 11:44:44.20 ID:nAlHkvYo [5/11]
「勿論、あるわ」
と、強い意志を見せつけて。
善人になどなる気はない。
なれるはずもない。
ならば、
これからどれだけ汚れようと、
傷付こうと、
悲しもうと、
どれだけの 不幸 を押しつけられようと、
私はその罪からだけは、
逃げない。
絶対に背負ってやる。
「なら、君にはやってもらう事があるね」
例え、
その行いによって、
どれだけの人から恨まれようと、憎まれようと、
「相当の覚悟は決めてもらうけどね」
感謝などされなくても、私は、何かが変わった私は、
せめて一つだけでも、自分の行いに 清算(罪滅ぼし) をしてみせる。
210 名前:pasuta ◆QXQDE8vvhs[saga] 投稿日:2010/04/26(月) 11:59:36.16 ID:nAlHkvYo [6/11]
医者は説明を始めた。
「君の能力によって彼女の精神は壊れて、消えてしまった」
「例えあの少年、幻想殺しの彼でもそれを治すことはできない」
私はピクリと反応する。
「か、上条、さんを知っているの?」
「ん?彼は常連だからね。それだけでなく、彼の 能力(ちから) は少々特別でね」
医者は続ける。
「幻想殺し(イマジンブレイカー)はいかなる超能力も 殺す(壊す) ことができる」
「だが、それはもはや効かない」
「例えば、発火能力者(パイロキネシスト)によって焼かれた灰を、彼の右手で元に戻すことはできない。同じように今回も君の能力で
もはや壊れてなくなった自我を取り戻すことはできない」
「しかし、君の能力がある」
「え、私?」
私の能力は確かに学園都市中に知れ回っているだろう。
「君は学園都市最強の精神系能力であり、記憶の読心・人格の洗脳・離れた相手と念話・想いの消去・意思の増幅・思考の再現・感
情の移植など多種の能力を一手に引き受けて使いこなすことができるはずだ」
「その中でも、〝意思の増幅・思考の再現・感情の移植〟を使って――」
「――彼女を生まれ変わらせる」
「なっ!?」
正気か、と私は目を疑った。
「あ、貴方それでも医者ですか!?」
そう、彼の言う行いは、
「人口人間を造るようなもの、つまりは機械仕掛けの感情を持つロボットを造るような物ですよ!?」
230 名前:pasuta ◆QXQDE8vvhs[saga] 投稿日:2010/04/26(月) 22:59:56.85 ID:nAlHkvYo [8/11]
青髪サイド――
「俺にどうやって生きろっていうんだよ…」
考えてみると、もう生きる道などなかった。
暗部以外に生き場などない。
「君のIDと氏名、その他個人情報は作っておいたよ。しばらくすれば学校にも通える。学校に通えば奨学金も出るし、学生には学生寮も与えられる」
カエル顔の医者はそう言う。
「くっはは!なんだよそれは。俺がAIM保護だって知ってて言っているのか?」
「もちろんさ。君の能力は未だ健在だ。確かに義務であるシステムスキャンを回避することはできない」
「なら、無理じゃねえか。俺の能力で出し惜しみしてやり過ごすことなど敵わないぞ?」
「問題ないさ。これも事後承諾ですまないが君の脳に細工をしてね」
「ああ?」
「ほら、これを付けてみてくれ」
渡されたのは小さな二つの〝ピアス〟。
「通常、AIMにリミットを付けるとシステムスキャンでばれてしまうからね。君の頭のほうにリミッターを付けさせてもらったよ。そして、その両耳のピアスは熱に反応するから君の指で触るとリミットを解除できる」
なるほど、と青髪の少年は納得した。
ピアスを耳に付ける。
「君は通常レベル3のAIM抵抗(AIMレジスト)だね。ピアスに触れると絶対防御が復活してレベル5の能力を取り戻せる」
青髪ピアスの少年はただ説明を聞いていた。
それでも、
空っぽの自分にやりたいことも何もなかった。
自分はこれからどうやって過ごすのかなど、頭に浮かばなかった。
231 名前:pasuta ◆QXQDE8vvhs[saga] 投稿日:2010/04/26(月) 23:11:44.27 ID:nAlHkvYo [9/11]
「ヤッホー!元気かバカ野郎!」
青髪の少年の病室に一人の少女がやってきた。
「は?誰?」
「私の爆弾の味はどうでしたか?」
「あ、てめっ!」
思わず飛びかかる。
ビシッ!
「がぁっ」
いきなり額に鞘の先端をぶつけられ、青髪は怯む。
「命の恩人にその態度はないんじゃないか?」
その鞘を持つ少年が、いつの間にか病室に入って来ていた。
黒い髪は肩口まで伸びている。全体的に服装からしてビジュアル系の黒白を基調とした格好をしている。ジャラジャラと貴金属のアクセサリーがたくさん付いている。
身長は170cm程度。首から下げた鎖型の銀のネックレスには銀の指輪がぶら下がっている。
「俺の名は平助。早速だが君をスカウトに来た」
「早っ、結局、平助は早急過ぎるって訳ね」
「ああ?勧誘?」
青髪が不機嫌そうに聞くと、平助は無表情で言った。
「我々、対暗部の病院警護チーム〝雨蛙(アマガエル)〟の五人目に君を勧誘する」
232 名前:pasuta ◆QXQDE8vvhs[saga] 投稿日:2010/04/26(月) 23:33:23.33 ID:nAlHkvYo [10/11]
「彼らはこの病院の警護をしているんだよ」
カエル顔の医者がそう言った。
「あ、まだいたんだ」
「先生。こいつはしばらくここで暮らすんですよね?」
平助と名乗った少年は見た目とは裏腹にカエル顔の医者を敬意を込めるように〝先生〟と呼んだ。
カエル顔の医者が説明する。
「青髪君はまだしばらくの間学校には通えないからね。僕が偽造して理事会に転校生として書類を提出するから、それまでの間はここで暮らすことになる」
「くっは、俺がレベル5だって忘れてるゼ?金ならいくらでもある。適当にホテルでも借りて住んでやるよ」
青髪がそう言うと平助が一瞬にして顔を崩した。
「ああ?てめえナニ言ってんだ?先生に恩も返さず出て行くってのか?」
青髪の胸倉を掴み上げる。
「僕はそんなもの気にしないけどね」とカエル医者は言うが、
「あー…」
そう言われると言い返せない青髪。
ここまでやってもらわなければ、自分は暗部に見つかって抹殺されていただろう。
だからこそ、この貫録にかける医者には確かに恩がある。
「僕は患者に強制はしないよ。君の好きなように生きればいい」
カエル顔の医者のその言葉に平助は手を引く。
「俺に、どんな風に生きる道が残っているって言うんだよ」
青髪はそう呟いた。
別に不満などない。
何もない。
やりたいこともない。
空っぽだ。
カエル顔の医者は青髪をじっと見ると、踵を返す。
「道なら他にもあるさ。いくらでもね」
そうして、「後は任せたよ平助君」と残してカエル医者は病室を出て行く。
238 名前:pasuta ◆QXQDE8vvhs[saga] 投稿日:2010/04/27(火) 20:21:20.31 ID:TQbMr1Mo [1/2]
「フレンダか、よろしくな」
少女は言った。
「私はアヤって言うらしいぞ」
身長150cm程度の少女は言った。
そこまで長くない髪を赤いゴムでポニーテールにした少女は、平坦な口調で言った。
「うん?そうだぞ。この名前は付けてもらったんだ」
平坦な口調の割に可愛らしい声の少女は、
小さくて、クリクリした小動物みたいな目をした少女は、
「私を生み出してくれたママがな」
かつて、心理掌握に壊された現在12歳の少女――
「うん、私の大好きなママだぞ」
アヤは心理掌握を〝ママ〟を呼び、
フレンダに挨拶をした。
それが、彼女――〝アヤ〟にとっての始まりの日だった――。
240 名前:pasuta ◆QXQDE8vvhs[saga] 投稿日:2010/04/27(火) 20:57:14.17 ID:TQbMr1Mo [2/2]
「か、かわ、」
フレンダは戦慄した。
病院の一室。黒のキャミソールに白いワイシャツのアヤが首を傾げる。
「どうしたんだフレ――」
「可愛いいいいいいぃっぃいいいいいいいいいいいいいい!!」
フレンダは思わず飛び付く。
「わっ」
「え、何?何この可愛い生き物!?」
プニプニとした肌。
柔らかい肌。
「キャー!お持ち帰りしたい!」
「フレンダ?どうしたんだ?これじゃ私は動けないぞ」
特に嫌がりもせず、アヤは小首を傾げる。
身長差でフレンダに寄りかかられ、アヤの体が傾いている。
「え、何、何なのこの子!?これが、あの、俺様(笑)の大切な人!?」
「フレンダ?フレンダが何を言っているのか、私にはわからないぞ?」
「ヤバー!あぁああ可愛いぃぃぃ」
「聞こえてないのか?フレンダ?」
「………………」
一人、無言の者がいた。
背に伸びる金色の綺麗な髪。フレンダと同じような碧眼、育ちの良さそうな少女――心理掌握が呆れた顔でこちらを見ていた。
病室の入り口で紙袋を提げて立っている。
「あ、ママ」
そう呼ばれ、どう反応すべきか一瞬心理掌握の少女はたじろぐ。
そう、本来なら一歳年上の先輩で――かつて自分が壊したはずの、自分より身長の低い少女に――笑いかけられたのだ。
243 名前:pasuta ◆QXQDE8vvhs[saga] 投稿日:2010/04/28(水) 20:37:47.68 ID:QiTABc.o [1/9]
「あ、心理掌握」
フレンダは心理掌握を見て呟いた。
「まずアヤから離れなさい。暗部――爆弾魔のフレンダさん?」
即座に、フレンダについての情報を得た心理掌握。
対して、フレンダは特に驚きもしない。心理掌握の能力については資料で知っている。
ただニタニタと笑う。
「結局、ウチの子から離れなさいっ!って過保護のママって訳ね?」
「違うわよ!どうしてそうなるのよ!?」
心理掌握が彼女にしては珍しく大声を上げた。
「ママ?どうしたんだ?」
「うっ」
アヤの呼ぶ声に心理掌握が呻く。
「ぷくく、小学生でママ…ね」
「なっ!中学生の貴女より私のほうが背が高いじゃない!」
「ママ?」
「うっ」
「ほらほらママって呼んでる訳よ」
ニヤニヤと笑うフレンダを無視して心理掌握が病室に入る。
彼女はアヤの前で紙袋を広げる。
「ほら、着替えの洋服買ってきてあげたわよ。値札とかは外してもらったから、ハンガーに掛けて置くわね?」
平然としていた心理掌握にアヤが首を傾げた。
「でもママ、毎日新しいお洋服買ってないか?」
「うっ」
244 名前:pasuta ◆QXQDE8vvhs[saga] 投稿日:2010/04/28(水) 20:54:56.23 ID:QiTABc.o [2/9]
フレンダがアヤの病室を訪れる数時間前――。
幻想殺しの少年の病室が爆破された翌日――。
つまり本日は日曜日。
その日、フレンダと平助が去ったとある病室で青髪ピアスの少年はCDプレイヤーをかけていた。
「どうしてこうなった…」
と、青髪の少年は世界3大テノールも驚く野太い声で呟いた。
自分のそんな声を聞き、深く溜息を着く。
『ふむ。網膜認証はパスできるようにしたけど、声帯のほうがいじっていなかったね』
と数時間前にカエル顔の医者が言った。
『結局、指紋はどうなった訳?』
と、フレンダが聞いた。
『指紋のほうも手は打ったさ。指紋なんてものは人一人によって違うなんて言われてセキュリティに使われているが、ちょっと線の形をいじってしまえば全くの別人になれるんだね』
『なるほど。さすが先生』
無表情で平助がカエル顔を称える。
『さて、平助君はソプラノ声だったから低い声にしたから、青髪君は反対にソプラノ声にしようか?』
『はぁ?ちょっと待て、このガタイでバカ高い声ってか?勘弁してくれよ』
そう言ったのは青髪。
そこで、フレンダがこう言ったのだ。
『あ、ならテノールはどう?』
思い返し、青髪はこめかみをヒクヒクさせる。
「フレンダの野郎…」
245 名前:pasuta ◆QXQDE8vvhs[saga] 投稿日:2010/04/28(水) 21:15:23.92 ID:QiTABc.o [3/9]
それだけではない。
平助がしたように完全に違うキャラになれというのだ。
『それはいいけどよ、こんな声と見た目で十分元の俺とキャラ違うと思うんだが…』
そう言う青髪をカエル医者とフレンダと平助がじっと観察し、
『一人称は「僕」かな?』
『さすが先生。素晴らしいアイディアです。俺が元は「僕」だったのを「俺」にしたのと同じ理由ですね』
『結局、それだけじゃキャラが微妙な訳よ…』
と、フレンダが零した。
『いやいやいや!十分キャラ濃いぞ俺…じゃなくて僕!』
『なんかこう…「うわ、こいつ変人」っていう感じにならない訳なのよ』
『何それ!?なんで俺、じゃなくて僕を変人にする必要があるの!?』
『うーん。あ、とりあえず一人称は「僕」じゃなくてカタカナ表記の「ボク」でいきましょう』
『何の意味があんだよ!喋るときに違いなんてあるか!』
『え、変人さを上げるため……あ、』
と、そこでフレンダは思い付いた。
『そうだ、口調は全てエセ関西弁ね。結局、関西弁じゃダメな訳よ。ちゃんとエセ関西弁でいかにも怪しい感じで、うん。これならいける』
そうして現在、青髪ピアスは現在病室のベッドの上で関西弁のCDを聴いていた。
「なんや違う方向に向かっているような気がするさかい…」
247 名前:pasuta ◆QXQDE8vvhs[saga] 投稿日:2010/04/28(水) 21:36:19.16 ID:QiTABc.o [4/9]
――【始まりの日曜日】――
心理掌握サイド――
私は街中を歩いていた。
現在の時刻は十二時過ぎ。ちょうど昼食の時間だ。
アヤに洋服を渡して色々な物事を教えた後、私は病院を出た。
声が、聞こえてくる。
歩く私に、
人々の心の声が聞こえてくる。
『てかマジでうぜー』
『あっちーな、ゲーセンでも行くか』
『客入らねえなぁ…違うバイト始めようかなぁ』
『あー数学のテスト全然わかんなかった』
『あれ、この新曲結構いいな』
『布束?へえ資料によると研究者として長点上機にいるのか…』
『宮越の野郎!どこ行きやがった!』
『おっせええ、もう十分経つのにまた遅れて来んのかよ』
『こいつともそろそろ別れるかな』
『この女、あと一回ヤったら別れよう。いい加減飽きたし』
『丘原の野郎、またレベル上がったのか。チッ、何ガリ勉になってんだよ。発火能力なんてありがちだろうが』
『システムスキャンやだなー、ばっくれたい。由美もそう思ってんのかしら』
『あーどうせこいつはレベル2だからいいかもしれない、とか思ってんだろうけどさー、レベル0の私はもうほんと憂鬱』
『おい、スキルアウトがまたやられたって…今度は俺のチームも危ないのか?くっそ、なんだよ能力者め。また無能力者狩りかよ!』
『アイス食べたいなぁー』
『あ、あの娘(こ)可愛いな。ちょっと声かけてみっか』
『何あのカッコー、ウケるんですけどー』
『あっつー…学園都市って科学の最先端なら街まるごと涼しくしなさいよ』
『あれー?涙子まだ来ないのかな』
『一一一カッコいー!もっと人気出れば武道館でライブとかやるのかなー、学園都市外出の申し出って面倒なんだよねー』
『タバコ吸いてえ…なんで喫煙コーナー以外学園都市は禁煙箇所ばっかなんだよ…ったく、ガキはうるせえし研究費は少ないし』
『あれ、心理掌握じゃねえか。うわ、小学生とは思えない美貌。っかー、俺ら庶民なんて見下してんだろうなぁ』
全て、声。
心理掌握の横を通り過ぎて行く人達の心の声。
私はうんざりするも、これは自動で聞こえてきてしまう。もう幾分かは慣れていた。
他のことを考えるようにするのだ。
248 名前:pasuta ◆QXQDE8vvhs[saga] 投稿日:2010/04/28(水) 21:50:02.62 ID:QiTABc.o [5/9]
「はぁ…」
私は溜息を付き、再び歩き出す。
どこかでお昼ご飯を食べようかしら?
そう考えていた。
そんな時、
視界に彼が映った。
パキン!!
雑音が、消えた。
人込みがなくなったわけではない。
今も真横を何人も通り過ぎて行く。
だけど、力場は壊れた。
「あは…」
私は、その人物を見つけて頬が緩むのを抑えられなかった。
ツンツン頭の彼は、前よりいくらか穏やかな表情をしている。
未だ、彼の周りには不穏な何かが渦巻いているように感じるが、
それでも彼は、やはり私を助けてくれた憧れの人に間違いなかった。
私は小さく小走りで駆け寄った。
「あれ、お前…?」
上条さんがこちらを向いた。
「こんにちわ、上条さん」
私は笑顔で挨拶した。
262 名前:pasuta ◆QXQDE8vvhs[saga] 投稿日:2010/04/28(水) 23:54:33.34 ID:QiTABc.o [9/9]
「あ、あのお礼したいと思いまして」
「お礼?何を?」
上条さんが首を傾げる。
「助けていただいたお礼と、その」
「別にそんなのいいよ」
「あっ」
このままでは行ってしまう。
ダメだ、ここは何としても引きとめなければ。
私は目に強い光が集まるのを感じた。
「少しお話もしたいので。お暇でしたらこれからお食事に誘わせていただいてもよろしいですか?」
―――
「(で、ファミレスと)」
どうしてこうなったのか。
そう、私の計画では今頃某高級レストランで食事をしていたはずなのだが――。
『高級レストラン?』
『はい。御馳走します』
『あ、やっぱりお嬢様なんだな。なんか育ちの良さそうな雰囲気がしてたけど』
『ええ、まあ。お恥ずかしながら…』
『別に恥ずかしくないだろ?すっげえかっこいいと思うぞ。お前綺麗だし』
『あ…』
『いやーそれにしても、俺こんなカッコだし。高級レストランだと場違いに思われそうだなー』
『大丈夫だと思いますけど…あ、ならお洋服をプレゼントさせてください』
『え!いやいやいいですよ、お金持ちの選ぶ服なんて0の数が明らかに違いそうだし!』
『そうですか?なら、上条さんが決めていただいても…』
『うーん、なら…』
―――
というわけだ。
正直、ファミレスに来たのは初めてだ。
だけど、上条さんに「はいはい庶民の店は合いませんか」などと言われてはいけない、思われてはいけない。
そうだ、私は今まで「あはは庶民(笑)ジャンクフードのマックに冷凍食品のファミレスですか?(笑)」と思いながら生きてきた。無論、それが周りから「うぜー」と思われていることも知っている。
だからこそ、この私なら「こんな態度はダメだ」とわかる。
いける、上流階級の中の上流階級の私なら、
上条さんに不快な思いをさせずに済むはず!
264 名前:pasuta ◆QXQDE8vvhs[saga] 投稿日:2010/04/29(木) 00:17:05.85 ID:9qM7jOEo [1/4]
「水もらってきたぞー、ここ水もフリーなんだよなー」
上条さんが、いつの間にか二人分の水を運んできた。
「なっ、申し訳ありません。そのようなことウェイターにでも――」
あ、と私は言いかけて止める。
「……(しまったあああああいきなりお嬢様(笑)アピールしてしまいましたわあああほら上条さんも苦笑してる!)」
「さすがはお嬢様だな」
「うっ(うわあああぁぁん)」
「さってと。お前は何食う?上条さんはこのジャンボハンバーグ地獄コースに挑戦しようと思う」
「あ、はい。えっと…」
上条さんがメニューをひっくり返して私に差し出してくれた。
「(メニューくらいちゃんと二つ置いときなさいよ)」
などと頭の中で店に文句を言いつつ、上条さんに心から、そう、ここ重要。 心 から礼を言いつつメニューを受け取る。
「あ」
その時、上条さんの指に触れ、私はビクッ、と指先が震える。そのままメニューを落としかける。
「おい大丈夫か?」
上条さんが私の手を包むように支えてそれを回避する。
「あっ……(上条さんの手、あったかい…)」
私がドキドキしていると、しばらくハテナ顔だった上条さんは気付き、
「いやいや違うんだこれは落としそうだったからで特に深い意味はありません!」
と手を離してしまった。
少し残念だ。
265 名前:pasuta ◆QXQDE8vvhs[saga] 投稿日:2010/04/29(木) 00:42:21.77 ID:9qM7jOEo [2/4]
「では、私はこの学園都市製養殖の魚介類パスタを」
「はは、魚介類の養殖までやってるんだから笑っちまうよな。学園都市って」
「ふふ、そうですね。学園都市は自給自足を整えているのかもしれません」
「なんでだ?」
「もしかしたら日本から独立でもする準備だったり?なんて冗談と言えないところが学園都市ですよね」
「あ、ハルノクニか?俺あの漫画好きだったなぁ。四巻で終わってしまったのが残念だ」
「ハルノクニ、ですか?すみません、漫画は嗜まないもので…」
「あー、そっか。お嬢様だもんな。普通漫画なんて読まないか」
「そうですね。まぁ私の通う学校では少女漫画を読む人がいますが私は漫画自体触れたことがありませんね」
「ふーん。お前って頭良さそうだもんな。漫画とか読むより外国の文学的なものを読むイメージだもんな」
「ええ、確かに海外古典など嗜みますわ。ですが、上条さんの言うハルノクニという作品にも興味が湧きました。日本から独立するようなお話なのですか?」
「ああ。主人公たちは海に浮かぶ最新セキュリティの、偏差値高い学校に通う生徒なんだが、ある日、日本政府の秘密を知ってしまう。そしてそれを知ったがために主人公の親友が殺されてしまうんだ。
主人公は日本政府と戦うためにその最新セキュリティの学園に立て篭もり、日本国からの独立を宣言するんだ。まぁ、高尚な文学と比べられるものじゃないから、お前に合うかはわからないが」
「あら、そんなことないですよ?」
と、私は本心から言った。
「私は結構反社会的なものや、IFもの、SFもののハードカバーを読みますので。そういったジャンルは好きです」
「お、そーか!やっぱ学園都市に来ただけはあるってことだな。やっぱロボット三原則とか好きだったりするのか?」
「ええ。アイザック・アシモフの小説ですよね?彼は天才だと思います」
「おお。なんか俺みたいな庶民が通じあえたことが凄い!」
「いえ、そんなことないですわよ」
「んじゃ、今度ハルノクニ貸してやるよ」
いえそんなわざわざ――と言いかけ、私はやめた。
これは、まさか。上条さんともっと会える?
最低二回。漫画を借りるのと、返すので二回は会える。
いや、それだけではない。今度はお礼に~と言いながら私が何か小説を貸して、それでさらに機会が増える。
ニヤリ、と私は上条さんに気付かれない程度に舌舐めずりした。
266 名前:pasuta ◆QXQDE8vvhs[saga] 投稿日:2010/04/29(木) 00:55:13.90 ID:9qM7jOEo [3/4]
「ドリンクバーと、お前はサラダバー付いてるけど。行くか?」
「ドリンクバー、ですか?」
「ん、ああ。その名の通りフリーで好きな飲み物を注ぎに行くんだよ」
「そうなんですか」
「面倒なら俺が取って来るけど、サラダバーとかは自分で取りたいか?」
「え、いえいえ。私も行きます。そんな上条さんを使うなんて」
「あはは。別にいいんだけどな。あと、さん付けってなんかくすぐったいな。俺中一なのに」
「そうですか?では」
私は、一番呼びたかった呼び方で呼ぶことにする。
「上条先輩♪」
笑顔でそう言うと、何故か上条先輩が顔を赤くしていた。ついでにそこら辺の客も。そこら辺の客については黙れ失せろこっちを見るな。
「上条先輩?どうしましたか?(キャーレア顔カッコいい!)」
「あ、いや。結構な破壊力でしたよと上条さんは冷静さを取り戻してみます」
「ふふ、変な先輩ですね」
くすくすと笑うと何故か上条先輩はバッと首を後ろに向けてしまった。
「どうしたのですか?上条先輩?」
「い、いやその…とてもよろしいです」
私は一度首を傾げ、理解する。
「そうですか、よかったです。上条先輩♪」
281 名前:pasuta ◆QXQDE8vvhs[saga] 投稿日:2010/04/29(木) 20:27:29.99 ID:9qM7jOEo [6/12]
垣根サイド――
上条当麻が病院でフレンダと騒いでいた昨夜――。
垣根帝督は屋上にいた。
「お前は誰だ?」
無表情で男が帝督にそう訊いた。片手には白い鞘を持っている。
黒い髪を肩口まで伸ばした男が歩み寄る。
男は全体的に服装からしてビジュアル系の黒白を基調とした格好をしている。
服にはジャラジャラと貴金属のアクセサリーがたくさん付いていて、身長は170cm程度。
首から下げた鎖型の銀のネックレスには銀の指輪がぶら下がっている。
対し、帝督は笑う。
「はは、お前こそ誰だよ」
「俺は〝雨蛙(アマガエル)〟のリーダーだ」
「あん?聞いたことねえな」
「そうか。では貴様は何者だ?」
「名乗る必要があるか?」
「ある。我々はこの病院の警護をしている。どうやってセキュリティを突破したのかは知らないが出て行ってもらおう」
「おいおいどんな病院だよ」
「昼間なら誰かれ構わず入れるぞ。夜間の診察なら受付を通ってもらおうか」
「へえ。今時珍しいことに夜間の急患まで診てくれるのか?はは、もしかして闇医者だったりするのか」
その言葉で、雨蛙のリーダーの顔が変わった。
まるで皮膚を崩すかのように、表情を砕いて怒りを表す。
「ああ?てめえ〝先生〟を闇医者なんかと一緒にしてんじゃねえよ」
雨蛙のリーダーが、今までの冷静な対応をいきなり止める。
自らの持つ鞘を構える。
282 名前:pasuta ◆QXQDE8vvhs[saga] 投稿日:2010/04/29(木) 20:30:20.74 ID:9qM7jOEo [7/12]
違う。
それは鞘ではなかった。
帝督には見慣れない物だった。
白鞘と呼ばれるそれは、鍔(つば)がないために帝督は、普通の日本刀の鞘だけを持っているのかと思ったが違った。
それは長ドスだった。
しかも、ただの長ドスではない。
雨蛙のリーダーが白鞘から抜く。
帝督はわずかに構え、そこで目を見開いた。
その長ドスには、刀身が全くなかった。
「は…?」
刃のない長ドスを引き抜く雨蛙のリーダー。
「なんだよそりゃ…ははっ」
帝督が拍子抜けしたように笑う。
雨蛙のリーダーは元の無表情となり、呟いた。
「今夜は一度、雨が降ったようだな」
帝督が眉を寄せた時、屋上に点々と存在する水溜まりが波紋を作った。
「(風はない…電気や磁力の類でもない…これは…)」
帝督は警戒し、能力を発動させる。
だが、速かったのは雨蛙のリーダーだった。
雨蛙のリーダーは素早く屈むと、その手で水溜まりに触れた。
チャプン、と水面が震え、
水溜まりが、爆発した。
視界が白一面に遮られる。
「チッ!やっぱり水の能力者かッ」
帝督は未元物質を発動する。
白い二枚の羽が帝督を包む。
絶対の防御に包まれた帝督は水しぶき一つとして浴びない。
284 名前:pasuta ◆QXQDE8vvhs[saga] 投稿日:2010/04/29(木) 21:56:55.45 ID:9qM7jOEo [9/12]
「(そろそろいいか?)」
帝督は羽を広げる。
バサバサ、と音を立てて羽は帝督の背後で羽ばたく。
「白い羽?よくわからない能力だな」
雨蛙のリーダーは平坦な声でそう評価する。
彼の右手には長ドスが握られている。
彼は柄を握り、それを斜めにして眼前に構えている。
刀身はない。
が、
本来の刀身の代わりに液体が蠢いていた。
それは水。
恐らく先ほどの蒸気爆発は目隠しのためだったのだろう。
時間稼ぎと、盾という名の目隠し。
彼が水溜まりに触れて蒸気爆発が起こったことから、恐らく彼の手は『熱源』の能力を持っている。
水溜まりという液体。その水分に温度差の大きい『熱源』をぶつける。
水は急激に蒸気化し、蒸気爆発を引き起こした。
そうして視界を奪った。
勿論、その爆発だけで攻撃と言える。
結構な破壊力で、無防備な人間ならば屋上の端から端に吹き飛ばされるだけでは済まないだろう。
だが、これはあくまで目暗まし。
空気中にただよう水蒸気を『熱源』によって一瞬で膨張させて冷却し、液体化する。
それだけでなく、辺りに未だ散る水溜まりの水をかき集め、長ドスの刀身の部分に集めた。
「(〝水蒸気操作〟の能力者なのか…?いや、これは〝水流操作系〟の能力も使っている?)」
285 名前:pasuta ◆QXQDE8vvhs[saga] 投稿日:2010/04/29(木) 22:02:57.60 ID:9qM7jOEo [10/12]
帝督はそれを観察する。
「はは、そのドスの柄、お前の能力補助だな?そこに熱源を貯められるようだ」
「ああ、そうだ。〝自分だけの現実(パーソナルリアリティ)〟の補助だな。長ドスで位置情報を理解しやすくしている」
「(ということは本質は〝水蒸気操作〟か?なら何故〝水流操作系〟の真似事なんてする必要がある?)」
「俺はこいつに名前を付けていてな」
長ドスの刀身として水が伸びている。それは刃ほどの厚さで、長さは先程から動き、変わるが三メートルほど。
「あん?(そうか、こいつはわざわざ手で触れて『熱源』を操った――)」
「〝水蛇〟だ」
水の刀身が蠢く。
蛇のように体をくねらせる水を、雨蛙のリーダーは長ドスを振るった。
「(レベルがそこまで高くない〝水蒸気操作〟の能力者か!)」
水蛇が横薙ぎに振るわれる。
ヒュッ、と音を立ててそれは帝督を真っ二つに裂くかのように襲う。
バシュッ!!
水蛇を、白い羽が斬った。
未元物質が、帝督に届く前にそれを斬り裂く。
だが、それだけでは終わらない。
二つに斬り裂かれた水蛇だが、片方は未だ雨蛙のリーダーの長ドスと繋がっているのだ。
「気付いているだろ?俺が〝水蒸気操作〟の能力者だと」
瞬時、長ドスの水が水蒸気と化す――。
帝督が口を開くより先に、爆発した。
286 名前:pasuta ◆QXQDE8vvhs[saga] 投稿日:2010/04/29(木) 22:18:13.50 ID:9qM7jOEo [11/12]
「それが、どうしたって?」
爆発の後、帝督は水しぶき一つ浴びずに立っていた。
その表情の余裕は変わらない。
「羽の防御は間に合わないと思ったが」
あくまでも冷静に雨蛙のリーダーが訝しむ。
「ははっ、残念でした。俺の未元物質は空気中にも展開してあるんだよ」
「全く、どんな物質なのか理解できないな」
「俺の未元物質に常識は通用しねえ。いかなる物理法則も捻じ曲げるんだからな」
「なるほど。厄介だな」
「厄介で済むかよ。お前と俺には絶対的な差があるんだ。工夫しようたってそれで越えられるレベルじゃねえんだ」
「そうか。貴様はやはりレベル5か」
「ご名答。てめえはレベル4ってところか?レベル3寄りの弱小な奴な」
「その通りだ」
雨蛙のリーダーは再び長ドスの柄を構える。
水溜まりの水や水蒸気がそこに集まる。
「はっは、懲りない奴だな。そんな物効かねえよ」
「果たしてそうかな」
「あん?」
訝しむ帝督。
蒸気爆発が起こる。
視界が白一色に染まる。
「(随分と規模のでかい爆発を…だがこんなモノが俺に効くわけが…)」
爆発は大きい。
屋上を完全に覆っていた。そこで帝督は意図に気付く。
「チッ、あの野郎逃げやがったか!」
気付いた頃には遅かった。
雨蛙のリーダーは消え、同時に警備員を呼ぶブザーが鳴り響く。
「クッソ、あんなザコに出し抜かれるとは…」
だが警備員に見つかるわけにはいかない。
あくまで自分は上条当麻の護衛として、クラスメイトとして居なければならない。
「あれが噂の対暗部組織か。表の世界を利用するとは、結構厄介な連中だ」
言葉とは裏腹に帝督の表情は明るい。
帝督は白い羽を展開し、屋上から飛び立った。
「面白い連中じゃねえか。なぁ――アレイスター」
297 名前:pasuta ◆QXQDE8vvhs[saga] 投稿日:2010/04/30(金) 10:46:01.79 ID:82ica/co [1/3]
――【始まりの日曜日】――
だから勿論、帝督はファミレスにいた。
上条当麻の護衛だ。
上条当麻がいれば心理掌握の力場は壊れる。そして、戦闘時でもないのに集中を必要とする、上条当麻を遠巻きに展開する力場など心理掌握は作らないだろう。
帝督は上条達の斜め二つ後ろの席にいた。
黒いサングラスに白いマスクをして。
帝督は自分に視線が集まっていることに気付いていない。
むしろ初めての護衛&監視の任を完璧にこなしていると思っていた。
「(昨日は大変だったな…)」
コーヒーを口に運ぶ。少しマスクをずらして飲む。
落ちついた気持ちで帝督は、楽しげに談笑する二人を眺める。
「(ま、元気になってよかったんじゃねえの)」
フッとギザっぽく笑う。
「思いっきり目立ってるのよこのバカ!」
そこに、
穏やかな気分であった帝督の脳天にチョップがかまされた。
「ゴパぁ!…ってめ何しやがる。オーケー久しぶりに使うぜこの言葉――ムカついた」
「何プロっぽく格好付けている訳?思いっきり目立っているから!結局、上条達が席を離れるまで気付かれないかソワソワしてた訳よ!」
「ああ?なんだフレンダか」
金髪碧眼の少女は嘆息する。
「それ、外して。マスクにサングラスなんて犯罪予告みたいなものな訳よ」
「何!?これカッコイイと思ってたのに…」
「どんな感性よ…警備員呼ばれる寸前だった訳よ。…ってこら店員を睨むな脅えてるっ」
上条と心理掌握がドリンクバーに赴いている最中、ファミレスの監視が二人に増えた瞬間だった。
311 名前:pasuta ◆QXQDE8vvhs[saga] 投稿日:2010/05/01(土) 01:59:50.01 ID:q4fW2X.o [1/6]
上条サイド――
「それで、例の女の子に〝心〟を入れたのか」
上条は心理掌握の話を聞いていた。
「はい。私が壊した彼女は病院で抜け殻となっていました。彼女の家族…とは言ってもチャイルドエラーだったようでその施設や友人からの頼みだったそうです」
「その、彼女に新しく自我を植え付けることが?」
「ええ…彼女の身体が泣いていると、このままにしておくのは可哀想だと…」
「…………」
「私が、いえ、私は、間違っていました」
「……」
「勿論、今さら自分の行いを言い訳するつもりはありません。けど、私は、自分が間違っていることに気付きました」
「……」
「上条先輩やあの銀髪の人を見ていて、私は気付いたのです。だからこそ、医者からその話を――心を植え付ける話を聞いた時に頷きました」
「……」
「ひどい、自演だと思います。自己満足で自我を植え付けて、私はそれで罪が軽くなったとでも思っているのでしょうか」
「……」
「いいえ、思っているのでしょうね。こんな話を上条先輩にしている時点で、卑怯ですよね。贖罪になどなるはずもないのに」
「……」
「知っていますか?私が半径五メートル以内の人の思考を読み取れること。上条先輩には効きませんけど」
「……」
「私は彼女の心が視えるのが怖かった。だから彼女に〝心〟を入れて〝アヤ〟を生み出した時――」
「……」
「――彼女の思考が私に視えないようプロテクトを構築したんですよ?ふふ、笑えますよね。視えるのが怖くて仕方ないんですよ…」
312 名前:pasuta ◆QXQDE8vvhs[saga] 投稿日:2010/05/01(土) 02:08:43.27 ID:q4fW2X.o [2/6]
「よく、頑張ったな」
上条はそう笑いかけた。
「え…?」
心理掌握は瞬きをする。
上条には気付いていた。
普段鈍いと言われる彼は気付いていた。
心理掌握が泣くのを我慢していることに。
きっとここで泣いたりしたら自分を許せないのだろう。
それは自分への罰。
ここで上条に同情され、励まされたくないのだ。
そんなことをされてしまったら、もうどうしようもなくなる。
自分の罪を告白して、実は辛いんです。なんて言って男に泣き付きたくない。
そんな強い意志を彼女は持っていた。
それに上条は気付いた。
懸命に泣くのを堪えて、悟られないようにしていることに上条はしっかりと気付いていた。
「お前はさ、確かに間違ったことをしたかもしれない」
その手で彼女の頭に触れる。
「それは決して許されないことなのかもしれない」
その手には包帯が巻かれている。
「けれどそこで立ち止まらなかったお前はもう、前のお前とは違うんじゃないか?」
その手は右手。
「お前はもう、ちゃんと前を向いていいと思う」
彼女の 〝自分自身への攻撃(幻想)〟を、その右手は壊す。
「だからさ。泣くのを我慢することはねえよ。少なくともさ、俺の前では」
そう言って上条は微笑む。優しく、子供をあやすように微笑む。
313 名前:pasuta ◆QXQDE8vvhs[saga] 投稿日:2010/05/01(土) 02:24:32.98 ID:q4fW2X.o [3/6]
「でも、私…」
「アヤは元気か?」
「はい。でも、わた」
「ちゃんと世話してあげてるんだろ?」
「ええ。でも」
「なら、もう自分を責めるな」
上条は強く断言した。
「もう、自分を傷付けるな」
それは優しくもあり、そして厳しい言葉だった。
「過去の自分を責めてどうする?それでどうなる?そんなものはお前の言う通り自己満足でしかない。泥に浸かってそこで、力を振り絞って駆け上がることを諦めているのと同じだ」
上条は心理掌握の目をしっかりと見据える。
「確かに罪を忘れることなんてよくないかもしれない。――だが、」
上条は断言する。
「罪を背負うと決めたんだろ?彼女を、アヤを守ると決めたんだろ!?」
その問いかけに心理掌握は目の色を取り戻す。
「だったら!もうこんなウジウジする必要はねえ!しっかりと、支えてやれよ!それがお前のやるべきことで、やりたいことだろ!?」
心理掌握は言葉を返せない。
「…ッ…ぅぁ……うぅ…」
ただただ涙を流す顔を隠し、嗚咽を吐き出しながら頷いていた。
319 名前:pasuta ◆QXQDE8vvhs[saga] 投稿日:2010/05/01(土) 21:47:49.53 ID:q4fW2X.o [4/6]
そんな様子を垣根帝督は不機嫌そうに見ていた。
「どうしたの?」
パフェをあどけない表情で頬張るフレンダが首を傾げる。
「いや、なんでもねえよ」
帝督の顔付きは変わっていた。
そこにあるのは不満。
明確な負の感情というよりは気に喰わないとでも言いたげな、そんな顔をしている。
「えっと、嫉妬…?」
「はぁ?俺があんなガキに興味あるとでも?小学生だぞ?」
「あ、そっちじゃなくて…なんでもない」
「てっめ、今そっちで考えたよな?考えたな?俺は違うって言ってんだろ!」
「あっははー、何のことやら」
「…たく。まあいい」
気分が削がれたのか、帝督はため息を付くとコーヒーを飲み干す。
「ああそうだ。一つ忠告してやるぞ」
「おや珍しい。どんな優しさで?」
目を丸くするフレンダにフッ、と帝督は鼻で笑う。
立ち上がると彼は指さし忠告する。
「この店、狙われてるから」
直後、ガラスが割れる。
店中のガラスが外から割れ、投げ込まれたのは爆弾。
「なっ」
フレンダが驚きの声を上げる。
帝督は先程と顔色一つ変えずに能力を発動する。
フレンダは上条のほうをすぐさま向く。
「かみ――」
声が届くより先に、爆発した。
破裂音とともに爆風が溢れ、店内が炎に包まれる。
320 名前:pasuta ◆QXQDE8vvhs[saga] 投稿日:2010/05/01(土) 22:03:10.46 ID:q4fW2X.o [5/6]
「はっはー!」
帝督は笑う。
炎に包まれた店内で一人、笑っていた。
「とんだクソ野郎だな。こんな真昼間からド派手にファミレス襲撃とはよ」
彼の身体の一つとして傷付いていない。
飛び散ったガラス片も、爆弾も、それによる爆風も、炎も、
何一つとして彼を傷付けることができない。
「おいおいこれで何人死んだんだよ。あーカワイソウだ。あーめん」
ふざけたように笑う。
そんな彼の表情は嗤い。
明らかな悪人のそれで、彼は炎の中に生身で佇んでいる。
背には二枚の羽。
「つーかさ。漫画だとよく主人公が炎の能力持つじゃん?あれってないよなー」
帝督は嗤う。
「だって焼かれんのって結構エグいんだぜ?おいお前、知ってっか?火で焼かれて焙られて焦げた人間ってさ、っはは!」
目の前の少年に嗤いかける。
「未元物質、か。貴様が幻想殺しの監視に付くとは」
そこにいたのは少年だった。
紫色のバンダナを付けた中学生くらいの少年。
帝督はその少年を観察し、笑む。
「ん?ああ、はいはい。見覚えあるわお前。確か、発電能力者(エレクトロマスター)だろ?」
紫色の少年は炎の向こうで佇む。
その目には殺気しかない。
「なんだっけ、あ、そうそう――」
小馬鹿にするように帝督は嗤う。
「――超電磁砲(レールガン)のスペアプランだったな」
323 名前:pasuta ◆QXQDE8vvhs[saga] 投稿日:2010/05/01(土) 22:27:06.28 ID:q4fW2X.o [6/6]
「つーか、あれだ。俺監視じゃねえし」
「何を惚ける。未元物質が表側に行ったと聞いた。監視でもなければ」
「あっははー!バッカかお前。なんでこの俺が監視なんかすんだよ?そんなの低レベルのザコの仕事だろ?」
紫色のバンダナの少年は訝しむ。
帝督は告げる。
「だから言ってんだろ?俺はてめえみたいなのから幻想殺しを守る。――護衛(ガードマン)だってよ」
炎の中。
一点に彼はいた。
幻想殺しの少年は、心理掌握の少女を抱きかかえたまま床に伏せていた。
無傷の上条当麻を見遣り、紫色のバンダナの少年は眉を潜める。
「確実に殺ったと思ったが」
「はは!確かに幻想殺し相手に爆弾を投げるのはよかったな。異能の能力(ちから)でない爆弾を電気で操って投げ込もうが、あいつには防げねえよ」
だがな、と帝督は続ける。
「俺の未元物質に常識は通用しねえ。空気中に散ばした未元物質の全てを上条に打ち消されるわけでもない限り、あいつには傷一つ負わせられないぜ?」
「結局、一人でカッコつけないで欲しい訳よね」
フレンダがそう不満を零す。
彼女は帝督の隣に寝転がっていた。正直ダサいと帝督は感じた。
「ああ?なんだお前生きてたのか。てっきり爆発で吹っ飛んだかと思ったが」
「バカにしないで欲しい訳よ。…全く、もっと早く教えないから上条に盾投げるのに必死だったじゃない」
「それで自分はコケてんのか?お前、アホだなぁ」
「あなたの周囲に未元物質があるんだもの。助かったわ」
「うっわ。ずりい」
「カッコつけてるんだからいいじゃない?ちなみに上条を守ったのは私の盾よ」
フレンダが顎でそちらを指す。
上条当麻と心理掌握の前に転がるのは、盾をモチーフにした紋章のある大きな半透明の盾。
「風紀委員(ジャッジメント)の盾か。あれ結構頑丈なんだよな」
327 名前:pasuta ◆QXQDE8vvhs[saga] 投稿日:2010/05/02(日) 00:33:03.68 ID:FfscYtso [1/12]
「おい!何がどうなってんだよ」
上条が声を張り上げた。
ただの転校生のはずの垣根帝督が、よくわからないことを口走っている。
フレンダがその隣で余裕そうに佇んでいる。
そして、火の海と化したファミレス。
「おい!聞こえないのか!?人が、焼かれてるんだぞ!?」
上条の言葉に、帝督はようやく気付いた。
あまりに帝督にとってどうでもよかったため気付かなかった。
店内では大けがをしている人間がたくさん転がっていた。
「ああ。生存者がいるのか」
と、帝督はどうでも良さそうに呟く。
「どういうことだよ垣根、そしてフレンダ!お前ら、なんでそんな、――ッ!おいお前、大丈夫か!?」
上条は帝督やフレンダに問いただしたかったのだろう。
だが、目の前で苦しむ人間を優先しなくてはならない。
「これだけ騒ぎならもう来ると思うが。悪い、警備員に電話を!」
上条は心理掌握の少女に携帯電話を放る。
「は、はい」
そんな様子を外から紫色のバンダナの少年が見下す。
彼の後ろでは、街の人々が騒ぎにかけつけるも恐怖から離れている。
「とりあえず死ね、幻想殺し」
紫色の少年はリボルバー式の拳銃を引き抜くと上条に撃つ。
弾は上条に届く前に空中で爆破する。
帝督の未元物質だ。
チッと紫色の少年が舌打ちする。
そんな少年の胸元目がけてフレンダが小型ミサイル砲を撃つ。
真っすぐに向かうミサイル。
少年が手の平をかざす。
電撃が放たれ、ミサイルが破裂する。
爆風が店内を襲う。
機具は砕け飛び散り、炎は勢いを増す。
「何がスペアプランだ。アレイスターの計画など俺が壊してやる」
紫色の少年が指を鳴らす。
巨大な電撃が中から焼かれる店内に放たれる。
328 名前:pasuta ◆QXQDE8vvhs[saga] 投稿日:2010/05/02(日) 00:50:37.37 ID:FfscYtso [2/12]
急に、水の塊が現れた。
それは鞭のようにしなやかで長い。
太さは人の腕程度。
それが、遠くから振るわれた。
少年は気付かなかった。
何故ならそれは振り下ろすように上方から振るわれたのだ。
紫色の少年と、ファミレスの合間に。
電撃をそれが防ぐ。
水の塊は電撃を通さない。
「純水だ」
歩いてくる男が言う。
ビジュアル系のような黒白を基調にした服装の男だ。
黒い髪を肩口まで伸ばした男。
服にはジャラジャラと貴金属のアクセサリーがたくさん付いている。
首から下げた鎖型の銀のネックレスには銀の指輪がぶら下がっている。
「貴様如きの電撃は絶縁体である純水を通すことができないぞ」
その男――雨蛙のリーダー、平助がその手に持つ物を構える。
長ドスの柄。
そこから伸びる水の塊は蛇のようにうねる。
全長はファミレスの端から端まであるほど大きい。
「対暗部か」
「急患が出たようでな。患者を引き取りに来た」
平助はファミレスを指さす。
ざわつく街に救急車の音が鳴り響く。
同時に消防車と警備員の車も駆けつける。
「だから貴様は潰れていろ」
平助が水蛇を振るう。
紫電が迸る。
紫色の少年が電力を使って高速移動をしたのだ。
水蛇は少年に避けられ、地面に叩きつけられる。
四方八方に水が飛び散るかと思いきや、それは一点に集まる。
そうして再び蛇の形を取り戻すと地面を這う。
確実に紫色の少年を狙って包囲する。
蛇の締め付けのように少年を押し潰す。
「が、ゴバぁ!ぼがぁが」
大きな水の塊に少年が捕えられる。
その中で息を吐き出し、少年は溺れもがいている。
329 名前:pasuta ◆QXQDE8vvhs[saga] 投稿日:2010/05/02(日) 01:09:35.93 ID:FfscYtso [3/12]
「今トドメを刺すわ」
フレンダが小型のレディース拳銃を構える。
「俺の前で人殺しはさせない」
平助が水蛇でフレンダを威嚇する。
フレンダは仕方なく銃を降ろす。
「っておいおい昨日のお前かよ!」
帝督がニヤリと笑う。
「レベル5か。どうやら俺の邪魔をするわけではないみたいだな」
「結局、私達は上条のボディーガードって訳なのよ?だから安心して」
「そうか」
「全く、使えないわねー」
そこに、女の声が聞こえた。
帝督、フレンダ、平助がそちらを向く。
突如眼前に一人の少女が現れたことに気付く。
銃声が立て続けに三度鳴った。
「テレポーターか!」
平助が怒鳴る。
銃弾は紫色の少年を的確に撃ち殺していた。
「ごぁパ…!」
水の塊の中で、紫色の少年は心臓と首と腹を撃ち抜かれ、絶命する。
平助が能力から解放するも遅い。
即死だった。
「それじゃ、また会いましょう?対暗部に幻想殺し」
長い髪に黒いヒールの女はすぐさまテレポートしてその場を去る。
警備員と救急車と消防車が配置に着く。
遅すぎる到着に平助は顔を歪めた。
347 名前:pasuta ◆QXQDE8vvhs[saga] 投稿日:2010/05/02(日) 15:26:15.68 ID:FfscYtso [4/12]
「どういうことだよ…」
上条が言葉を漏らす。
店は消火が終わり、黒く焼け焦げた跡が残っている。
「簡単な話だ。俺はお前の護衛に来た」
帝督がどうでもよさそうに答える。
「護衛?」
上条の隣では心理掌握の少女が黙って座っている。
ファミレスだった場所の前の通り。そこのベンチに上条たちは座っていた。
「お前のその右手。幻想殺しを狙ってやってくるやつらがいてな。そいつらからお前を守るのが俺の役目だ」
「それは…誰の指示なんだ?」
「言えないな。いや、言うつもりはない」
「そうか。そのためにお前は俺の学校に転校してきたのか?」
「ああ」
「悪かったな。俺のために」
「…は?」
上条の言葉の意味がわからずに帝督は眉を寄せる。
「何言ってんだお前?ストーカー紛いの監視されてたようなもんだぞ?」
帝督の問いかけに上条が顔を上げる。
「それこそ何言ってんだよ垣根。別にお前が嘘吐いてたわけでもないし、嘘吐いていても構わない。お前にはそれをやらなくちゃいけなかったんだろ?なら何の問題もねえじゃん」
その言葉に帝督は笑う。
気分良さ気に笑う帝督に対し、フレンダの表情は優れない。
フレンダは突っ立ったまま目を逸らしていた。
上条から逃げるように。
上条から告げられる言葉が怖くて。
今までずっと隠していたことについて。
348 名前:pasuta ◆QXQDE8vvhs[] 投稿日:2010/05/02(日) 15:35:12.04 ID:FfscYtso [5/12]
「フレンダ」
掛けられた言葉にフレンダは震えた。
「お前はいつから〝そこ〟にいたんだ?」
いつから、裏側にいたのか。
その問いにフレンダは答えられない。
「答えたくないのなら無理には聞かないが、俺にとってお前は唯一無二の幼なじみだからな」
そう。
幼なじみ。
上条とともに学園都市にやってきた、フレンダ。
正確には〝上条当麻に合わせて学園都市〟にやってきたフレンダ。
それが意味するのは一つ。
「わ、たしは…」
上条当麻の観察者、監視者。
それが役割。
学園都市にやってきた上条に出逢い。
それから何かと一緒にいて。
そうしてお盆などの帰省では上条に着いて行き。
上条の家族と出逢い。
そうして、こうして、それから、
全ては監視役。
同学年という。
たかだか6歳だからと疑われない立場から。
そうしてずっといて、幼なじみという立場を築き上げ。
フレンダは上条当麻の日常の一部となっていた。
「私は、上条の…」
震えるフレンダを上条は見遣る。
「いや、もういい。フレンダ。お前が何をしていようとお前は――」
上条は笑いかける。かつて心理掌握にそうしたように。
「――ずっと俺の側にいてくれた幼なじみ、それでしかないんだ。今さらどんな事実があろうと、結局この関係が変わるわけじゃない。そうだろう?」
上条は揺るがなかった。
心理掌握「うそ・・・上条先輩生きてたんですか!?」上条「?」2
に続きます
三年前――。
不良「ねえ君可愛いねぇ」
不良2「つかその制服ってお嬢様学校?」
不良3「小学生から大変だなぁwwww」
不良2「つかお前らマジでロリコンかよ、さすがに小学生はないだろ」
心理掌握「(くだらない・・・)」
私は飽き飽きしていた。
こんなくだらない連中に。
都会のカラスのようにそこら中に群がるスキルアウトに。
最も、こういった連中の全てがレベル0だというわけでもないが、こいつらはレベル0。
心理掌握の称号を持つ私には手に取るようにわかる。
心理掌握「思考をそのまま吐き出すとは芸のないこと」
嘲るように私は笑う。
自分より遥かに背が高くがたいの良い連中を。
5 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/04/19(月) 08:12:33.50 ID:ZxeaWwDO
不良2「・・・あぁ?なんか言ったかガキ」
心理掌握「『何言ってやがるこのガキ』『生意気な』『能力者か?』『俺らスキルアウトを舐めるなよ』・・・以外と頭の回転は速いのですね、劣等感は丸だしですけどあなた」
不良ズ「「!?」」
不良2「能力者かッ!」
心理掌握「あら、正解。数秒で私の能力を四種類考えるなんて凄いですわね、しかも大当り――」
私は手の平を連中に向けていた。これで頭をいじってやるだけ。発動までの時間がかかるために会話で時間稼ぎをしたのだ。
心理掌握「――私はレベル5の第六位、心理掌握ですわ」
6 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/04/19(月) 08:59:12.68 ID:ZxeaWwDO
ダッ、
強い足音がした。
私の能力が発動するまであと三秒。
駆けるような強い足音が。
私の能力が発動するまであと二秒。
雄々しい、荒れ地を踏み荒らすような足音がした。
私の能力が発動する、その一秒前。
足音の主が私たちのいる路地裏の奥から、姿を現した。
紫色の光が弾けた。
その能力がスキルアウトたちに降り懸かった瞬間――ツンツン頭の少年が彼らに体当たりした。
パキンッ!!
一瞬にして、目には見えないはずの能力の力場が破壊された。
私を中心にした半径五メートルの力場が、呆気なく、なんの前触れもなしに砕け散った。
7 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/04/19(月) 09:17:11.00 ID:ZxeaWwDO
「は・・・?」
呆気に取られたのは私。
力場どころか、スキルアウトの不良三人に放った能力すら打ち消された。
それは紫色の糸。
“アラクネの指先”と呼ばれるこの攻撃は紫色の光が弾けることで発動する。
時間をかけることで力場に溜め込まれた“マナ”という名の能力の固まり――AIMとは異なったもう一つの法則が紫色の光になる。
そして、座標を指定。一カ所に三人いたため今回は手の平の延長線の彼らをまとめて一つとする。
紫色の光が弾けると光は極細の糸となり、一瞬と呼ばれる時間で座標の頭脳に張り付く。
そこから即座に脳をいじる。
8 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/04/19(月) 09:24:04.40 ID:ZxeaWwDO
これは簡単。パソコンを操作するのと変わらない。
キーを叩くように、RPGのゲームで攻撃の種類から好きなコマンドを実行するように、呆気なく選べる。
それを行ったのと同時にツンツン頭の少年が彼らにぶつかった。
彼の右手が、彼の意志ではなく偶然にも三人の頭をかすめた。
それだけでスキルアウトにかけた“アラクネの指先”は打ち消された。無理矢理に。
まるで、確定したはずの死が覆されたかのようだった。
RPGのゲームにおいてHPが0になる攻撃を受けたのに数字が変化しないかのように思えた。
実際にはいくらかのダメージが届いていたのかもしれないが、力場まで破壊された今の私に人の脳の様子はわからない。
13 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/04/19(月) 13:12:45.14 ID:ZxeaWwDO
「な、何が起こっ・・・」
絶対に不可能なのだ。
不良たちにかけた“アラクネの指先”はともかく、この力場はいかなる能力でも破壊すことができない。それはAIMとは別の方式だから。レベル5の誰であろうと、この力場を破壊することは敵わない。
干渉できないはずなのだ。
AIMによって開発された能力にして、AIMに頼らない能力。それが心理掌握。
AIMを逆算して私自身を乗っ取ったり、キャパシティダウンで演算を奪うことでしか力場は消せない。
しかもそれらは消す、力場維持を奪う、能力コントロールをされる、などであって“破壊”ではない。
物理的に、石を砕くのとは訳が違う。絶対に不可能。自分の手で気体を破壊しろと言うようなもの。不可能にして、有り得ない、矛盾。
14 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/04/19(月) 13:16:33.94 ID:ZxeaWwDO
なんだこれは。
自分の全てを否定されたようだった。
だが、そんなことを考える余裕は消えた。
起き上がったツンツン頭の少年と目があったからだ。
ゾクッ!!
その瞳に射られ一瞬にして背筋が凍り、私は背中を壁に寄せ付けた。
恐怖。
その眼は野獣だった。
獣のように狂暴で、獲物を確実に捕らえる鷹のよう。
表情から見えるのは暴力。
暴力を糧に生きているかのような人間だ。
見た目は中学生ほどで私より二歳ほど年上なだけなのに、果たしてこれほどまでの顔つきになれるものだろうか。
憎しみが溢れている。
それは、空気中に溢れているかのよう。
15 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/04/19(月) 13:18:23.96 ID:ZxeaWwDO
それだけでない。ツンツン頭の少年を包む特質などんよりとした薄気味悪い何かが溢れている。
なんだこれは。
これで、人間を名乗るつもりなのか?
こんなまがまがしいものが、どうして存在する。
暗殺者だとか、百戦練磨の猛者だとか、精神異常者だとか、そういった人間なのではない。
少年がまるで己に悪魔か邪神かそういった超常を越えた世界の歯車を内包しているように見えるのだ。
これは私だからこそ感知できたこと。
現在、少年を遠巻きにして、触れないように形成しているマナの力場は関係ない。
相変わらず少年の脳は観れない。だが、少年に壊された感覚。あの骨組みをねじ一つ例外なく分解するかのような、神のような絶対の力。
この手応えから私は理解した。
この少年には絶対の邪神が巣くっている、と。
その存在を私は知っている。
その能力者を、私は知っている。
絶対能力者(レベル6)
17 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/04/19(月) 14:15:29.94 ID:ZxeaWwDO
窓のないビル――
“人間”アレイスター・クロウリーは笑んだ。
「幻想殺しと心理掌握が交差した」
そうアレイスターが呟く。
それに反応する者がいた。
窓のないビルにて、チューブだらけの部屋に立つ一人の少年がいた。
中学生のような見た目だが、チンピラみたいにガラの悪い風貌をしている。
その少年、垣根帝督は「はっ」と嘲るように笑った。
「どうやら『樹形図の設計者』の調子はいいようだな」
「ふ。当然だろう・・・・・・これは全てを正確に予測する」
「よくもまあ強気なもんだ。今回の件でちゃんと機能しているか確認できたくせに」
「・・・・・・」
18 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/04/19(月) 14:17:06.45 ID:ZxeaWwDO
「まあいい。それで、俺を呼んだ理由はなんだ?」
「・・・君は、この学園都市の目的を理解しているか?」
「“神ならぬ身にて天上の意志に辿り着くもの”だっけか?」
「・・・そうだ」
「またの名をレベル6、『人間に神様の計算はできない。ならばまずは人間を超えた体を手にしなければ神様の答えには辿り着けない』」
「・・・・・・」
「幻想殺しと心理掌握がその鍵を握っているってのも変な話だ。それなら第一位や俺と順位を変えるべきだろうが」
「・・・君には幻想殺しの護衛を頼みたい」
「はいはいスルーですか。っで?護衛てのはどこまでだ?」
「詳細は追って連絡する。同じ学校に通い、同じ寮に住んでもらう」
「うえ。つまりできるだけ一緒にいろと。・・・あんな世の中全て恨んで憎んでいるような眼をしたやつと、トモダチになれってか・・・」
帝督はため息をついた。
22 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[pas#pasuta] 投稿日:2010/04/19(月) 15:10:49.79 ID:ZxeaWwDO
帝督が去った窓のないビルで、アレイスターは虚空を見つめていた。
幻想殺しと心理掌握。
科学と魔術。
神と天使。
まずはピースを揃えることから始める。
心理掌握の能力は上条当麻の存在そのものを汚染して、存在を組み換えてしまう。
故に心理掌握の全ての攻撃は幻想殺しが破壊する。
心理掌握が幻想殺しに与えるダメージは0。
「さて、計画の始まりだ」
計画は、動き出す。
止まることを知らない。
アレイスターですら予測できなかった、上条当麻が『死ぬ』その時まで――。
32 名前:pasuta ◆QXQDE8vvhs[] 投稿日:2010/04/19(月) 18:41:42.09 ID:RN1H3Qco [1/4]
この物語は悲劇である。
故に幻想殺しの少年は悲劇を乗り越え、ヒーローを目指す。
心理掌握と幻想殺しが交差する時――物語は動き出す。
(15巻表紙を上条当麻に置き換えて)
33 名前:pasuta ◆QXQDE8vvhs[] 投稿日:2010/04/19(月) 18:42:59.11 ID:RN1H3Qco [2/4]
「今の…お前の能力か?」
ツンツン頭の少年が口を開いた。
「ッ!?ッがぁっ」
首を掴まれ、壁に思い切り押しつけられた。頭を打ち、痛みに一瞬視界が歪む。
圧倒的な暴力。
自身の能力に頼り切っていた私にとってそれは未知の恐怖だ。
怖い。
痛みに呻くも少年は気にしない。
「今、何をした?」
押し殺したような声。
震えながら間近で少年を見る。
少年は傷だらけだ。
切り傷だけでない、明らかに人間と殴り合ったり鉄パイプで殴られた痕がある。
顔にそこまで傷があるわけでもないため、今まで気付かなかったが、少年はスキルアウト並に喧嘩慣れをしているように見える。
「ッ、んぐっ」
震える私を少年はしばらく観察すると手を離した。
力が抜けていた私は内股気味に崩れ落ちる。
「悪い。俺に向けたものじゃなかったんだな」
言葉をかけられるだけで私はビクリと震えた。
ガクガクと震える私を少年はどう見ているのか、うつむく私にはわからない。それだけに余計に怖くて、でも顔を上げる勇気もなかった。
昨日までの私が今の私を見たら嘲るだろう。
私のプライドという自尊心の塊が、こんな粉々に砕かれているとどうして予測できようか。
「いたぜ」
野太い声。
路地裏の奥から、ツンツン頭の少年がやって来た方向から声がした。
咄嗟に私は振り返った。
スキルアウトだ。数は十人以上。後ろにまだいる。
能力を…だめだ、震えて演算に集中できない…。
「チッ!」
そんな私の手をツンツン頭の少年が引いた。
ビクッ!!
跳び跳ねるように私は震えた。膝はガクガクと笑い、まともに立つこともできない。
「ぁっ…あぁ…」
少年は再度舌打ちすると私の腕を強引に引き寄せ、抱き抱えた。
「えっ…」
そのまま持ち上げ、路地裏を跳び出し、街中に出た。
「――――」
私は顔が真っ赤になるのを抑えられなかった。
きっとこれは恐怖から赤くなっているんだ、体が熱いのはそういうわけなんだ――。
心の中で私は必死に言い訳していた。
少年の胸の温かさに心臓の鼓動を大きくしながら。
34 名前:pasuta ◆QXQDE8vvhs[] 投稿日:2010/04/19(月) 19:00:03.08 ID:RN1H3Qco [3/4]
「このバカ!」
ツンツン頭の少年がそう声を荒げると私はビクッ、と震えた。
「…って俺のせいか。悪い」
そう謝ってきた少年の顔付きは少し穏やかだった。
だが、彼のまとう負のオーラは未だ変わらない。
まるで彼を締め付けるように、その雰囲気は纏わり付いている。
「悪かったな、巻き込んで。じゃあな」
手を振り、踵を返す少年。
私は顔を赤らめ、声を張り上げる。
「あ、あのっ、ごめんなさい…でした…」
「なんでお前が謝んの?」
「えっ、あ…すみません」
「いやだから何で?」
「ぅ…あの、その…」
「ってこれじゃまたいじめてるみたいか。…じゃあ、俺みたいなのに絡まれないように気を付けろよ」
「あっ…」
行ってしまった。
私は人差し指同士を絡めながらその背中を見つめていた。
自分が分からない。
彼は自分を助けに来たヒーローなんかじゃない。
むしろ、悪役だった。
それでも、私は彼と離れることが少し――怖かった。
まるで置き去りにされる子供のように。
それ以降、私は彼に合うために何度もこの街の通りで待った。
何日も、毎日通った。学校が終わるとすぐに向かい、雨の日でも傘を差して待った。
それでも彼は現れなかった。
44 名前:pasuta ◆QXQDE8vvhs[] 投稿日:2010/04/20(火) 11:09:04.34 ID:t4rayYDO [1/4]
上条当麻のクラスに転校生がやってきた。
「どもー、垣根帝督です」
そいつはインテリチックに整った容姿なのにどこかガラの悪い風貌で、近寄り難い印象があった。
「では、垣根ちゃんは上条ちゃんの隣の席ですねー」
「はいはい・・・って『ちゃん』?」
「そうなのですよー垣根ちゃん」
小さな先生だ。
子供としか思えない見た目の教師、月詠小萌はにこにこと嬉しそうに笑う。
「はぁ・・・」
帝督は上条の隣に座るとどこかあどけない人懐っこさを感じさせる笑みを浮かべた。
「よろしくな、上条クン」
「はぁ・・・」
上条は久しぶりに自分に話しかけてきた人間に少し意表を突かれ、いつも一匹狼の雰囲気が抜ける。
「上条ちゃんと早くもお友達ですかー、先生は嬉しいです」
小萌は相変わらず嬉しそうにしている。
そんな中、上条は少しだけ頬を引きつらせていた。
45 名前:pasuta ◆QXQDE8vvhs[] 投稿日:2010/04/20(火) 12:32:57.91 ID:t4rayYDO [2/4]
垣根サイド
「上条クン、購買ってどこにあんの?」
「俺が案内し――あ、っと廊下を出て真っ直ぐ行けばある」
「上条クンは行かないの?」
「俺は弁当」
「ふーん」
帝督は上条の素っ気なさに心中でため息を付く。
「(できるだけ幻想殺しから離れるわけにはいかないんだが)」
かと言って怪しまれてはいけない。だが、今日の帝督は転校生である。
転校生が隣の席の人間と交遊を計ろうとしても何らおかしくない。
「(どうするか)」
「早くしないとメロンパン売り切れるぞ」
「わかってるって、今行く」
二人の男子生徒が購買に向かうようだ
「(パンも売っているのか)」
できるだけ転校生という立場を使って幻想殺しと親しくなっておきたい。
「あのさ、悪いんだけど俺の分も買ってきてくれね?」
転校早々パシるなよ、と上条が呟いたが、帝督の妙なカリスマ性が彼らを頷かせた。
「一緒に食おうぜ」
「あ、ああ」
46 名前:pasuta ◆QXQDE8vvhs[] 投稿日:2010/04/20(火) 12:59:35.46 ID:t4rayYDO [3/4]
「上条クンはレベルいくつなん?」
「0。あと君付けはいいよ」
「あ、そう。んじゃ上条」
「お前は・・・えっと垣根だっけ?」
「おう」
「レベルは?」
「4だな」
「すげーな」
「(超電磁砲と違ってレベル5だって明かせないしな)」
「どういう能力なんだ?」
「うーん、俺自身よくわかってねーな」
「わかってない?」
「未元物質って言うんだがよくわからん物質を操ることができる」
「よくわからんって」
上条が苦笑した。
「(説明したら最強だもんなー、明らかにレベル5だってバレるっつの)」
昼飯を食い終わる(帝督はパシらせたメロンパンと焼きそばパン)と、上条が立ち上がった。
「次の授業は移動教室だから」
「お、まじで。一緒に行――」
「だからフレンダ、案内してやってくれ」
上条が女子グループの一人に声をかけた。
金髪碧眼の美少女がこちらを向く。
「結局、上条は私のことをまたパシるってわけね」
フレンダはそう言いながらも片手をひらひら振って了承する。
上条は帝督の肩を押し、言った。
「あんまり俺に近付かないほうがいいぜ」
それは弱々しい微笑だった。
帝督は何も言えず、上条はその間に教室を出て行った。
48 名前:pasuta ◆QXQDE8vvhs[] 投稿日:2010/04/20(火) 14:38:57.00 ID:t4rayYDO [4/4]
「(え、なにアレ中二病?wwww)」
「結局、上条ってバカなのよね」
「(そりゃそうだろうwwwwくっ、俺に近付くな、災いが降り懸かるってかwwwwwwテラ痛すwwww)」
「あーやって自己犠牲しちゃってさ。本当にバカみたい」
「(まああれだ、黒歴史だししょうがねーよwwwwうん、男はみんな通る道だwwww今の内に発症してて健全なんだよwwww)」
「上条の不幸話、聞いたでしょ?・・・って結局、聞いてるわけ?」
「あ・・・君、可愛いね」
「結局、アナタみたいなナンパな人って嫌いなのよね」
「あ゛あ?」
と、本性を出しかけ、帝督は慌てて乾いた笑みを浮かべる。
「そんなことないよ、それで上条がなんだって?」
「言っておくけど、上条には近付かないほうがいいわよ。ナンパがしたければそういった奴らと絡めば?」
「・・・俺は上条と仲良くなりたいんだがな」
「・・・ふーん」
「別に深い意味なんてねーよ」
口調を優等生キャラから改める。
「ただ、なんか上条っていい奴みたいなのに無理してる感があるのが気になってな」
「(・・・結局、転校生に上条が理解されてなんか悔しかったりする訳なのよね)」
49 名前:pasuta ◆QXQDE8vvhs[] 投稿日:2010/04/20(火) 19:17:17.53 ID:tmX0dbgo [1/11]
「上条が不幸だって聞いたことある?」
フレンダがそう質問してきた。
「不幸?なんだそりゃ、カワイソウな自分に浸ってる少女漫画の主人公か?」
「…そんな可愛いものじゃない…」
「は?」
「生き地獄、私なら自殺しかねないほどに、神様に見捨てられているのよ上条は」
そうして、フレンダは帝督に上条のこれまでを話した。
過去から今現在までの、不幸を。
――心理掌握
「てめえがレベル5の第六位だって?」
「はは、小学生じゃねえか」
「何その目、生意気だわぁ」
スキルアウト。
数十人はいる。
鉄パイプや鈍器を手に彼らは私――心理掌握に向かってきた。
「〝跪け〟」
私が発したその一言で、ドサッ!!とスキルアウトの全員がコンクリートの地面に崩れ落ちた。
ガランガシャン、と武器が転がる。
「な、にぃ…が…」
私のすぐ傍にうつ伏せに倒れたスキルアウトが呻いた。
ドサッ。
私はその頭を踏みつける。
「て、めぇ…!」
ギリギリと歯軋りしてスキルアウトが睨んでくる。
ははっ、と私は笑った。
「無様ね、下等な猿の分際でこの私に挑むなんて」
こいつらを踏みつけているだけで、私は背中がぞくぞくとしてきたのを感じる。
「ねえ、学園都市はなんでこんなゴミを転がしておくのかしら?ふふ、そうは思わない?」
「[ピーーー]…」
「誰が、私を[ピーーー]って?あっはは!私をお前如き無能力者のクズが?あっははは!どんな冗談よ」
「〝地面に頭を打ちつけろ〟」
命令。
スキルアウトの全員が、うつ伏せの状態からコンクリートの地面に頭を打ち付けた。
ゴキッ!!
誰か骨の折れた者がいたかもしれない。
51 名前:pasuta ◆QXQDE8vvhs[] 投稿日:2010/04/20(火) 19:28:47.08 ID:tmX0dbgo [2/11]
「うっふふ」
力場をいじる。
〝アラクネの魅了〟を発動。
一瞬にしてその場のスキルアウト全員を洗脳。
「さて、ゴミ掃除に貢献してさしあげますか」
それは、強盗をしろという命令。
銀行強盗、コンビニ強盗、なんでもいい。
そうして、警備員に捕まえさせる。
警備員の何人かも軽い洗脳をしている。
それを操って強盗するスキルアウトの近くに配置する。
たまたま近くにいた警備員がスキルアウトを逮捕。そして少年院に入れる。
まさしくゴミ掃除だ。
「ゴミはゴミ箱にっと。…やっぱりだめですわね、どいつも私とじゃ戦いにすらならない」
思い浮かべるのは先日の少年。
「あのレベル6に会いたいですわ」
にやり、と私は笑みを浮かべて舌舐めずりをすると夜の街を歩きだす。
「やっと見つけたゼ、心理掌握」
ビクッ!!
声のしたほうを振り返る。
暗い一本道から一人の少年が歩いてくる。
高校生らしき見た目、髪は銀色で鋭い目つきをしている。
そんなことはどうでもいい。
そんなことより、私を中心にした半径五メートルの力場で感知できなかった。
そして、今なお私の能力が一切通じていない。
52 名前:pasuta ◆QXQDE8vvhs[] 投稿日:2010/04/20(火) 19:34:23.20 ID:tmX0dbgo [3/11]
「くはっ、自分の能力が絶対だとでも思っているのか?流石は世間知らずのお嬢様だゼ」
その少年は腰に木刀を提げている。
それを引き抜き、私に突き付けた。
私と少年の距離は三メートル。
「たかが第六位が調子に乗るなよ?」
「なら、あなたはどんな大物なのかしら?」
私は額に汗をかきながらも返答した。
そうだ、私は第六位。
私の能力が効かない能力者だっていてもおかしくない。
そもそも私の力場を破壊されたわけでもない、あのツンツン頭の少年と比べればそこまでイレギュラーというわけでもない。
だが、私の能力が効かないってことは――。
私の予感は当たった。
「俺はレベル5の第五位――AIM保護(AIMプロテクション)だゼ」
少年が動いた。
素早い。
私が身構えるより速く、足を踏み出し、地面を弾くように跳び込んできた。
「ぐぁっ!」
頭を守るように突き出した腕を思い切り木刀で殴られ、バランスを崩す。
腕の骨が呆気なく折れたのを感じた。冗談じゃない、こちらは小学生の能力に頼ったお嬢様だ。
ドガッ!!
一切容赦のない蹴りが私のわき腹を捉えた。
「ごぁア!」
ろくに受け身も取れずに私は地面を転がる。
「くっははー!気分爽快だゼ!」
55 名前:pasuta ◆QXQDE8vvhs[saga] 投稿日:2010/04/20(火) 20:03:42.87 ID:tmX0dbgo [5/11]
ゴキッ!!
「ッッ!が、ぁあああああああああああああ!!」
折れた腕を踏みつけられ、さらにゴリゴリと地面で腕の骨を刺激する。
激痛で頭がどうかなりそうだった。
「がぎゃあああぁああぁぎ、ががぁきああああああ!!」
絶叫が闇に響く。
銀髪の少年は愉しそうに唇を歪める。
「くっは、はは!もっと苦しめよ、なあ心理掌握!」
「がぁあああぁぁああああああああああああああ!!」
涎が垂れ、下着は嫌な汗で濡れている。
死ぬ。
死んでしまう。
精神が崩壊しそうだった。
みっともなく腰を上下し、片腕を無茶苦茶に振るい、絶叫し続ける。
下着の下で液体が漏れていることを恥じる余裕もない。
「ぎぁがあぎゃあああぁあああああああ!!」
「苦しめよ、なあ、苦しいだろ?苦しいんだよ!それがてめえの罰なんだよクソアマ!」
あい、つらを…スキルアウトを操る。
ほとんどが気絶している。それだけ私の洗脳が脳に与えるダメージは大きい。
しかも、その前には額を地面に打ち付けている。気絶していてなんら不思議じゃない。
気絶はPCにおけるシャットダウンに近い。強制的に立ち上げることもできるが、時間がかかる。
それまでどんなキーの信号も受け付けてくれない。
「あ、が、ぎぁあ!が、あ、ぁぁあああああああ!……ぁが…あぁ…」
足が持ち上げられた。
銀髪の少年が、鋭い眼で睨んだ。
「お前が精神崩壊させた女、覚えているか?」
「あ、が、ぁあぎ…」
「なあ、オ・ボ・エ・テ・イ・ル・カ?」
腹にブロー。
「ごぼァ!」
私は口から血を吐き、ひくひくと体を痙攣させる。
56 名前:pasuta ◆QXQDE8vvhs[saga] 投稿日:2010/04/20(火) 20:17:27.26 ID:tmX0dbgo [6/11]
「たかが、能力の対決だゼ?それでお前はあいつを壊した」
スキルア、アウ、トの連中を…せめて一人でも操って…。
「……」
無言で、木刀によって額を殴られた。
「がァああっ!」
地面を転がり、額から滲む血が地面を濡らす。
「人の話はさ、チャ・ン・ト・キ・ケ・ヨ」
「ごぶぁっ!」
腹を蹴り上げられる。
そして、蹴り。
転がったところを歩いて寄り、蹴る。
執拗に腹を蹴る。
まるでサッカーボールのように蹴り続ける。
「がっ、ごぁ、ぎぁがっ!ぐっ…がぁあ!」
蹴る。
「げぼぁええっ!」
吐く。嘔吐するも攻撃は止まない。
胃から全て掃き散らかし、血を滲ませ、過呼吸気味に咳き込む。
びくびくと腰から下が痙攣し、体内の水分を吐き出すかのように尿が流れる。
「くっはははははははっは!無様だなあ!」
もはや上下左右の感覚すらない。
「お前がさ、壊したんだゼ?ぐっちゃぐちゃのぐっちゃぐちゃに…あいつをさ」
ゴスッ!!
頭を踏み付けられる。
「気に入らないって?そんな理由で?おいこのお嬢様はどれだけ偉いんだ?なあ?」
60 名前:pasuta ◆QXQDE8vvhs[saga] 投稿日:2010/04/20(火) 20:39:32.66 ID:tmX0dbgo [8/11]
――Halloo hero
そんな様子を黙って見ていられるような人間じゃなかった。
ツンツン頭の少年は、
そんな意気地なしではなかった。
だから跳び出した。
その少女が誰なのかなんて暗闇でわからなかった。
だが、わかったのは少女が善人でないこと。
少女がかつて一人の少女を酷い目に合わせたこと。
そして、銀髪の木刀を持った少年が復讐しに来たということ。
それだけが、わかった。
そして、
何より、
少女が苦しんでいることがわかった。
それだけで、
上条当麻は拳を握り、
叫んだ。
「その子から離れろおおおおおおおおおおおおおお!!」
66 名前:pasuta ◆QXQDE8vvhs[saga] 投稿日:2010/04/20(火) 22:57:33.54 ID:tmX0dbgo [10/11]
そんな様子を黙って見ていられるような人間じゃなかった。
ツンツン頭の少年は、
そんな意気地なしではなかった。
だから跳び出した。
その少女が誰なのかなんて暗闇でわからなかった。
だが、わかったのは少女が善人でないこと。
少女がかつて一人の少女を酷い目に合わせたこと。
そして、銀髪の木刀を持った少年が復讐しに来たということ。
それだけが、わかった。
そして、
何より、
少女が苦しんでいることがわかった。
それだけで、
上条当麻は拳を握り、
叫んだ。
「その子から離れろおおおおおおおおおおおおおお!!」
88 名前:pasuta ◆QXQDE8vvhs[saga] 投稿日:2010/04/21(水) 19:31:47.80 ID:tmMMT.wo [1/7]
「あん?」
銀髪の少年が大声のほうを振り返った。
同時、ツンツン頭の少年の拳が突き抜けた。
シュッ!
銀髪の少年はぎりぎりで首を反らし、それを避けた。頬をわずかに擦るが、力のベクトルに逆らわず受け流す。
続いて木刀を腰元から引き上げる。
バチンッ!
釣り竿のように張り上げた木刀はツンツン頭の少年の顎を弾いた。
「ぐぁあっ」
後ろによろめいたツンツン頭の少年。
銀髪の少年はさらに深追いをかける。
剣道の抜き足の要領で一歩にして近づくと、背を屈めて木刀に力を込める。
ゴキッ!!
双方が弾かれた。
ツンツン頭の少年の拳は銀髪の少年の頬を捕え、銀髪の少年の木刀はツンツン頭の少年の肩を捕えた。
思わぬ反撃に銀髪の少年はステップして数歩下がる。
そして、ツンツン頭の少年を確認。
「くっは、はは!誰かと思えば幻想殺しじゃないか」
心理掌握はその様子を遠巻きに見ていた。
痛みにおかしくなりそうで、目を瞑ってしまいたかったが、必死に目を凝らしていた。
イマジン…ブレイカー…?
能力名だろうか?
そう思ったが違った。
「どうしたんだゼ?…なあ、レベル0の上条当麻」
上条当麻は無言で立っていた。
心理掌握を守るように心理掌握の前に立ち、その拳を握り締めた。
89 名前:pasuta ◆QXQDE8vvhs[saga] 投稿日:2010/04/21(水) 19:47:47.59 ID:tmMMT.wo [2/7]
「なに、やってんだよ…」
「あ?」
「なにやってんだって、聞いてんだよ…ッ!!」
上条当麻が吠える。
レベル0の少年が、吠える。
「くっは、何って愉しい復讐タイムだゼ?」
銀髪の少年は気分良さ気に笑う。
「もういいだろ!なんでここまでやるんだよ、非人道的にも程があんだろ!」
「くっはっはは!それはこっちの台詞だっての。この女が何をしたか、てめえにはわからないだろ?」
「だからって、こんな――」
「それこそてめえには関係ないだろ?」
「ああそうだよ、無関係だ。だからってこんなもん見過ごせるかよ!」
「…善人だなあ。本当に善、押しつけがましいほどの善」
「そんなんじゃねえよ」
「いやいや、間違いねえよ。俺の知り合いに似てんだ」
「知り合いって、さっきの…?」
「くっは、さっきの会話を聞いていたのか。ってありゃ会話になってねえな。くっはは、俺の一方的な問いかけか」
「少しだけな。…だからって、こんなことが許されるわけじゃねえよ」
「そんな、お前みたいな目をした女だった。誰かのために体張ってる馬鹿なお嬢様だよ。そいつをこいつは壊した」
「こわ、した?」
「精神崩壊だよ、さらに脳みそにダメージ送って頭から血ぃぶちまけて倒れた――関係ない誰かを守るために心理掌握に一言言っただけでな!」
「なっ」
「たかが、能力の対決に過ぎない。…よくやるだろ?学校でさ、ちょっと喧嘩になって能力で勝負してみようってさ。それを持ちかけといて、この女は一人の人間の全てを奪った」
91 名前:pasuta ◆QXQDE8vvhs[saga] 投稿日:2010/04/21(水) 20:17:07.13 ID:tmMMT.wo [3/7]
「俺はさ、あいつやお前みたいな善人じゃねえんだゼ?てめえの大事なモンを壊されて、奪われて、それで黙っていられるような人間じゃねえんだ」
「……」
「それで、こいつはどうなったと思う?心理掌握はさ、レベル5はさ、何のお咎めもなしなんだゼ?くっはははっはは!人一人平気で壊しておいてよ!」
「……」
「だから俺は――闇に落ちた」
「……」
「心理掌握ただ一人を殺すためだけに、生きて、殺して、今までやってきた」
「……」
「そしたらほら、今日にはなんとその夢が実現しちまったんだよ!くっはは、毎晩毎晩こいつに復讐することだけを誓い続けて、待ち焦がれた瞬間がやってきたんだよ!」
「……」
「なあ?俺は間違っているか?人間なんてみなそうなんだよ。てめえの大切なモノを奪われて、その犯人を知って、やり返したいって思ってしまう生き物なんだよ」
「……」
「おい幻想殺し、いや上条当麻。――お前に俺の夢を奪う権利があるってのか?」
上条当麻は口を開いた。
ずっと閉ざしていた口を開いた。
そして、やはり拳を握り締めた。
「ごちゃごちゃ言ってんじゃねえよ…」
「あ?」
「うるせえって言ったんだよ!!」
92 名前:pasuta ◆QXQDE8vvhs[saga] 投稿日:2010/04/21(水) 20:21:07.99 ID:tmMMT.wo [4/7]
「なん…だって?」
「何が夢だ、復讐だ。そんなことその女の子が望んでるとでも思ってんのかよ!そんなことして何になるってんだよ!ふざけた自己満足で他人に不幸を押しつけてんじゃねえよ!」
不幸な少年は叫ぶ。
「お前がこんなことをして、誰かがして、それをやり返して、そんなことを繰り返してどうすんだよ!こんな復讐をされて彼女が喜ぶとでも思ってんのかよ!…いいや、思ってねえよな。思ってるわけがねえ!」
声を張り上げる。
「お前は傷付いた自分が可愛いだけだ!てめえの罪を彼女になすりつけて、てめえの傷の痛みを押しつけて、てめえを満足させたいだけだろうが!本当に彼女のことを思ってんなら、何故こいつに確認しなかった!」
「したさ!こいつがやったって証拠は上がってんだ!だから俺はこいつをこ――」
「だったら!謝らせて、謝罪させて、それで終わりにしろよ!」
「ふざっ――けんな!!」
「てめえに俺の何がわかる!?そんなもん当事者でないてめえに理解されてたまるか!」
「うるせえええ!それでてめえは何をした!?闇に落ちた?そこでてめえは何をした!?」
「仕事だよ!どいつもこいつもくだらねえ、殺しの仕事だ!!」
「お前がやっていることだって悪じゃねえか!」
「だからどうした!人間誰だっててめえが可愛いんだよ!てめえの目的のために〝殺しても構わない人間〟を殺して何が悪いってんだ!」
93 名前:pasuta ◆QXQDE8vvhs[saga] 投稿日:2010/04/21(水) 20:23:00.81 ID:tmMMT.wo [5/7]
「てめええええええええええええええええええええええ!!お前が殺した人間にも誰か大切な人がいたかもしれねえだろ!?そいつの帰りを待っているやつがいたかもしれねえだろ!?そんなやつらをてめえのくだらねえ復讐のために喰い物にしてきた
ってのかよ!!」
「だから、どうし――」
「そいつらが、お前と同じ状況になるって何故わからない…ッ!?」
「なっ」
「お前が殺した人間の友や恋人や家族が、泣き怒り、どうするか、どんな思いか、何故わからない!?」
「っ」
「どうして不幸の連鎖をてめえで作ろうとするんだよ!?それでお前を殺しにきて、それでもお前は満足なのか?『お前が殺したんだ』って泣きながらてめえに向かってくるやつを殺し返して、そんなことを繰り返す人生で満足なのか!?」
「お、れは――」
「お前は!!こいつに謝らせて、それで終わりにするべきだったんだ。誰の為でもない、お前自身のために!!どうしててめえは自分から不幸になろうとするんだよ!!」
「俺はあああああああああああああああああああああああああああああ!!」
「罪と罰だなんて不毛なことを議論しあって何になるんだよ!!」
「俺はこの女を、心理掌握を殺すと誓った!あいつの為にも!絶対に仇を取ると誓った!てめえはそんな俺の夢を奪うってんなら、お前も敵だあああああああああああああああああああああああ!!」
「くっそが!ああいいぜ、てめえがそんなモノを 夢 だって言うんなら――」
上条当麻は右手の拳を、向けた。
「まずはその 夢(幻想) をぶち殺す!!」
125 名前:pasuta ◆QXQDE8vvhs[saga] 投稿日:2010/04/23(金) 00:00:57.35 ID:DIoOHego [1/14]
垣根サイド――
中学生にしては長身の茶髪の少年、垣根帝督はその様子を見ていた。
暗い路地裏を見降ろす帝督はある建物の屋上にいる。
「まずはその 夢(幻想) をぶち殺す!!」
上条当麻がそう叫んだ。
帝督はその様子を無機質な瞳で見下ろしていた。
観察していた。
「つか、護衛の俺が傍にいないわけないよな」
そう帝督は呟く。
カツ。
夜闇にヒールの足音が響いた。
「結局、護衛のくせに観察してるだけって訳ね」
帝督が振り返る。
屋上にやってきたのは金髪碧眼の美少女。
少女の名前はフレンダ。
上条当麻のクラスメイト。
「よくここがわかったな。そんなに俺に会いたかったか?」
「馬鹿ね、私がここにいる理由なんて明白な訳よ」
「ふん、何が上条を心配するクラスメイトだ」
はっ、と帝督は小馬鹿にする。
フレンダは何も言わない。
「お前はさしずめ観察者といったところか」
127 名前:pasuta ◆QXQDE8vvhs[saga] 投稿日:2010/04/23(金) 00:13:35.52 ID:DIoOHego [2/14]
「私が話したことは事実だけど?」
「そうだろうさ。裏側のお前が俺に情報提供で間違った情報を与えてどうする」
「不機嫌そうね?」
「そう見えるんなら、俺は上条が気になるのかもな」
にや、と帝督が人の悪い笑みを浮かべる。
フレンダはそれを気味悪がるように半歩下がった。
「なに、あなたそっち系?結局、あなたってキモいんだけど」
「違げえよっ」
「確かにそんな雰囲気もあるっていうか…女に興味無さそうだし」
「なら性的な意味で今すぐてめえを襲ってやろうか?いい声で喘がせてやるよ」
「……全力で遠慮するわ」
「ふん、ダチのフリして上条に好意あります~って嘘付いてる誰かさんより、よっぽど人間らしい俺のほうがマシだ」
「……」
「少しは好印象だったんだがな。お前が上条の話をした時」
「……」
「残念だぜ、あの気持ちも表情も演技だってのが。ははっ」
「…なの…?」
「あ?」
「監視者が、監視対象を好きなっちゃだめだっていうの?」
フレンダは、寂しげな顔をした。
130 名前:pasuta ◆QXQDE8vvhs[saga] 投稿日:2010/04/23(金) 00:43:53.88 ID:DIoOHego [3/14]
6時間前――
――上条がなんて呼ばれてたか知ってる?
あん?
――〝疫病神〟よ。
……。
――上条は幼稚園の卒業とともに学園都市にやって来た訳だけど、それまでの話ね。
――生まれつき『不幸』だった上条はみんなからそう呼ばれてた訳。
――それも、ただ子供達が言うならわかる。けど、
――大の大人までもが、そんなふうに呼んだ訳。理由も何もないわ。上条は、ただ『不幸』だからっていうだけでそう呼ばれ続けたのよ。
――上条が側にやってくると周りまで『不幸』になる。
――そんな俗話を信じて、子供達は上条の顔を見るだけで石を投げた。
――大人達もそれを止めなかった。上条の体にできた傷を見ても、哀しむどころか逆に嘲笑った。
――なんでもっとひどい傷を負わせないのかと、急きたてるように。
――上条が側を離れると『不幸』もあっちに行く。そんな俗話を信じて、子供達は上条を遠ざけた。その話は大人までもが信じた。
――あいつは…ッ!
――上条は一度、借金を抱えた男に追いかけ回されて包丁で刺された事がある。
――話を聞きつけたテレビ局の人間が、霊能番組とかこつけて、誰の許可も取らずに上条の顔をカメラに映して、化物のように取り扱った事もある…ッ
――上条の父親が言っていた…・。
――息子を、当麻を学園都市という離れた場所に送ったのはそれが理由だと。
131 名前:pasuta ◆QXQDE8vvhs[saga] 投稿日:2010/04/23(金) 00:46:16.01 ID:DIoOHego [4/14]
――恐かったって。
――『幸運』だの『不幸』だのが、じゃない。そんなものを信じる人間が、さも当然のように当麻に暴力を振るう現実が。
――恐かった。『不幸』だのという迷信が、いつか本当に当麻を殺してしまいそうで。だからこそ、そんな迷信のない世界に当麻を送った。
――しかし、科学の最先端である学園都市でさえ、上条はやはり『不幸な人間』として扱われた。
――それでも上条は耐えていた。
――でも、耐えきれない時がきた。
――それは、
――自分の『不幸』に他人を巻き込んでしまったこと。
――大したことではなかった。
――学園都市で起きた小さな強盗事件。
――人質にされたのはもちろん上条当麻。
――それだけならよかった。
――だが、そこで上条は本物の不幸を知ってしまう。
132 名前:pasuta ◆QXQDE8vvhs[saga] 投稿日:2010/04/23(金) 00:46:56.35 ID:DIoOHego [5/14]
――警備員相手に動揺した犯人が、上条に拳銃を押しつけた。
――誤作動が起こった。
――上条に押しつけていた手が震え、その弾丸は他の人質の少女に当たった。
――以来、上条は誰も寄せ付けなくなった。
――自分の『不幸』が誰かを巻き込むのを拒んだ。
――当てどころのない怒りを抑え、夜の街で日々喧嘩にあけくれていた。
――私は、訳あって上条とは幼なじみなの。
――だから、上条が唯一話せる相手とも言える。それでも上条は学園都市での事件をきっかけに私とも距離を置くようになったって訳…。
――それだけの、話よ。
――ねえ、例えば悲惨な過去がある人がいて、その人が『どれ程不幸』だと思う?
――珍しいことじゃないわ。この学園都市で酷い過去を送った人間なんてたくさんいるでしょ?
――でも、私に言わせれば一生付きまとう『不幸』とは比べものにならない。
――今までの人生から、生活、事件、他人までも巻き込んで、そしてこれから死ぬまで絶対の『不幸』に蝕まれながら嘲笑われながら生きていく。
――そんな人生、私だったら耐えかねない。
学校でフレンダは、そう帝督に話した。
それを、帝督は思いだした。
135 名前:pasuta ◆QXQDE8vvhs[saga] 投稿日:2010/04/23(金) 01:02:14.12 ID:DIoOHego [6/14]
そんな、レベル0を心理掌握は見ていた。
何を、やっているんだと思った。
どうして自分を助けにきて、そしてあんな感情的に話しているのか。
理解できなかった。
私には。
上流階級で他人を見下し、こき使ってきたプライドの塊である私には、理解できなかった。
言い訳なんてするつもりはない。
本当はあんなことしたくなかった~、だの、実は訳があった~、だのと言うつもりはない。
そんな物語りのヒロインになれる器などではない。
裏で糸引いて文字通り人を操って、それで、嘲笑っているような人間だ。
なのになぜ、この少年(といっても私より年上だが)――上条当麻は私のために立ちあがっているのだろうか。
まるで、大切な人を傷付けられたかのように拳を握っているのだろうか。
やめてくれ。
そう思う。
本当にやめてほしい。
きっと私はこの上条当麻に憧れていたのだろう。
今こうして第五位に負けていても、敗北を認めたくなどないが、上条当麻は違った。
私の力など到底及ばない上条当麻に、尊敬をしていた。自分より上の人間だと、お父様に対する敬意と同じように見上げていた。
どうしてレベル0なのかはわからない。だが、そんな些細な問題はどうでもよかった。
自分が認めた人間が、そう簡単にやられたりしないはずの人間が、
こんなに傷付いて戦っているのを見たくなかった。
どうして、そんな力を持ちながら他人のために戦うのか私には理解できなかった。
136 名前:pasuta ◆QXQDE8vvhs[saga] 投稿日:2010/04/23(金) 01:11:56.52 ID:DIoOHego [7/14]
「うおおおおっ」
上条当麻の拳が空を切る。
「チッ」
それを避けたがバランスを崩す銀髪の少年。
そこに上条の膝蹴りが入った。
「ごふァっ」
右腕を引き戻さずにその勢いで、膝蹴りを少年の鳩尾に喰らわせたのだ。
よろめく銀髪の少年。
上条は続けて右腕を振るう。
バシッ!
木刀がその腕を内側から弾いた。
「がぁあっ」
さらに上条にタックルをかます。
完全に足元が崩れた上条は地面に転がる。
ガツッ!
容赦なく木刀が倒れた上条を襲う。
転がるようにして避けた上条の背中を、銀髪の少年は蹴り飛ばす。
「ぐっはァっ」
「くっは!…ったく、中一がどうして高校生の俺とまともにやり合うんだよ」
起き上がろうとした上条の後頭部を木刀で打つ。
ガンッ!!
弾かれた頭から血飛沫が飛ぶ。
銀髪の少年は血で濡れた木刀を満足気に見遣る。
138 名前:pasuta ◆QXQDE8vvhs[saga] 投稿日:2010/04/23(金) 01:28:14.94 ID:DIoOHego [8/14]
「くっは、はは!獲物を使うのはずるいってか?」
上条は柔道の前回り受け身のように、弾かれたように起き上がる。
その眼の闘志は消えていない。
「そりゃあレベル5である俺の能力が一切通じねえんだから仕方ねえだろ?」
そんなこと、上条は聞いていない。
ただ拳を握ると突っ込んできた。
「だが、能力にかまける他の能力者と一緒にしてもらっちゃあ困るんだゼ?」
抜き足。
シュッ!と風を切るかのように、素早く銀髪の少年は動く。
上条の拳を避け、そのまま体当たり。
「っぐ」
耐えきり、やり返そうとする上条の顎にアッパー。
「ぐぁあっ!」
さらに上を向いた上条の中腹に渾身の蹴り。
「が、がァがっ」
139 名前:pasuta ◆QXQDE8vvhs[saga] 投稿日:2010/04/23(金) 01:31:45.97 ID:DIoOHego [9/14]
蹴りのほうが威力が出る。
そうして銀髪の少年は倒れる上条を踏み潰す。
グシャッ!!
くるみを割るかのように、思い切り足で上条の鳩尾を踏み潰す。
「ぐぁはア!ッガぁ!」
それでも揺るがない闘志ある眼を見て、銀髪の少年は木刀を上条に振るう。
頭を狙った木刀を、上条の右手が受け止めた。
「ッ!」
勢いよく振った木刀を素手で受け止めたのだ。指の骨がいかれたに決まっている。
それでも上条は木刀を強く握り締めている。
明らかに力が入らなく握力が下がっているだろうに。
そして、起き上がる反動とともに銀髪の少年の頬を左手で殴りつけた。
ゴンッ!!
くっそが、と銀髪の少年は吐き捨てた。
手に持つ木刀は奪われた。
それだけでない。
明らかにパンチ力が上条のほうが上だということ。
中学生にやられるというだけで、はらわたが煮えくりかえるようにムカついていた。
「ぐ、…くっはは!だがてめえの右手はもう使いモンにならねえぞ!渾身のストレートが打てなきゃもう終わりだよなぁ!?」
バキッ!!
上条が木刀を砕いた音だった。
両手で持ち、自分の膝にぶつけて割ったのだ。
地面に打ち付けた為少しはヒビが入っていたが、そう簡単に折れる品物ではない。
それを折った。右手は反動でおかしな方向を向いている。あれはもう何も掴めない。
膝にも今のでダメージがある。
木刀という武器を奪われながらも、銀髪の少年は勝ちを予感した。
141 名前:pasuta ◆QXQDE8vvhs[saga] 投稿日:2010/04/23(金) 01:43:06.37 ID:DIoOHego [10/14]
「…!……くっははは!いい事を思い付いたゼ?」
銀髪の少年はここに来て、能力を使う。
AIM保護(AIMプロテクション)。
それは超能力の全てから自分を守る力。
「だが、それだけじゃないんだゼ…!」
ポケットから出したのは小さな瓶。
暗闇でわからないだろうが、それは白い粉が入っている。
それを手に取り、舐める。
「幻想殺し――『体晶』って知っているか?」
ギン!!
銀髪の少年の眼の色が変わる。
今まで鋭い目つきの印象だったそれは、光を帯びていた。
発光するかのように、無機質なライトのような光で目は光っていた。
『体晶』を使い能力を暴走させる――。
全ての超能力が効かないのに何故第五位なのか?
それには訳があった。
銀髪の少年が例え二百三十万人の全ての超能力を否定できても、無能力者や普通の武器には敵わない。
たかがちょっと鍛えてるスキルアウトや警備員、銃器なんかの前には足も出ない。
だからこそ、木刀を帯刀している。
だが、本来この能力はその程度ではない。
AIMに干渉して相手の能力を我が物にする。
そんなことが可能なはず。
それを樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)が導き出した。
能力を暴走させることで現在、その能力を引き出している。
そのアイテムが『体晶』
150 名前:pasuta ◆QXQDE8vvhs[saga] 投稿日:2010/04/24(土) 04:41:48.51 ID:/1DJvK.o [2/12]
「体晶…?」
上条が訝しむと同時、それは起こった。
心理掌握の私が、能力を乗っ取られた。
同時、絶叫。
「―――ッ!!」
声にならない叫び声を上げ、私はのたうち回る。
神経を突かれ、激痛に息すら忘れる。
力場のコントロールを奪われる。
「あん?」
そこで攻撃が止んだ。
AIM保護の銀髪少年が警戒するように上空を見上げた。
「くっは、ちょっと厄介だな…」
そんな時でも私の頭脳に干渉し、強引に入り込もうとする。
だが、そんな簡単には入らせない。
脳の中に構築したセキュリティシステムがそれを拒む。
「おい!何をした!?」
上条が叫び、心理掌握に駆け寄る。
パキン!!
力場を含めて私にかかっていた能力すら消える。
「大丈夫か!?」
「い、や…」
見ないで。
こんな姿になった私を見ないで、と思った。
しかし、上条は表情一つ歪めずに私を抱き起した。
「てめェ、何をした!?」
153 名前:pasuta ◆QXQDE8vvhs[saga] 投稿日:2010/04/24(土) 20:33:02.03 ID:/1DJvK.o [3/12]
「くっはは、ちょいまずいな…」
銀髪の少年が闇に紛れるように下がっていく。
上条当麻から受けたダメージが大きいのか、その足取りは弱々しい。
「おい!」
上条当麻が叫ぶ。
銀髪の少年の顔には焦りが混じっていた。
「…安心しろ幻想殺し、もう俺が他人を殺すことはねえよ」
いきなりどうしたのか、私にはわからなかった。
それは上条当麻も同じ。
「だが、心理掌握。てめえだけは例外だ」
「なっ」
上条当麻がハッとし拳を握る。
「あばよ」
そう言った銀髪の少年は、焦りに汗を浮かべていたが、笑っていた。
不敵に笑っているつもりでも、それは引きつっていた。
まるで、絶望に向かうように。
上条当麻がそれを訝しみ、呼びとめようとした瞬間、携帯電話が鳴る。
それは上条当麻の物。
携帯電話に目を奪われた隙に、銀髪の少年は闇に消えていた。
くっ、と上条当麻は唸り、電話に出た。
上条当麻の知らない闇の世界が、上条当麻の外巻きで蠢いているとも知らずに。
154 名前:pasuta ◆QXQDE8vvhs[saga] 投稿日:2010/04/24(土) 20:59:49.38 ID:/1DJvK.o [4/12]
銀髪の少年、レベル5の第五位は闇の中を駆け抜ける。
「はぁ…はぁ…!」
クッソが、と吐き捨てる。
闇はしんと静まり返っている。
夏なのに鳥肌が立つほど寒く感じた。
レベル5の少年は、恐怖からおぼつかない足取りで必死に走っていた。
――先ほど、心理掌握の力を奪った時に力場のコントロールを得た。
――半径五メートルの力場。それは能力者及び無能力者だろうが人間をサーチできる。
――それだけでない。一瞬と呼べる時間で力場内の人間の表層意識までも読み取れる。
そこに、レベル5の第二位がいた。
さらに、レベル4が二人。レベル3が一人。いずれも暗部。
それだけでなく、学園都市の暗部組織〝死吸部族(デッドドレイン)〟が六人。
たかだか五メートルでそれだ。
まず、能力者四人は銀髪たちのいた路地裏に面する建物の屋上。
片方に二人ずついた。
そして、その建物の中で息を潜めているのが死吸部族。
やつらは殺すことと、殺し合うことを快感とするキチガイどもだ。
他にも暗部の下っ端をしている奴らとして、暗部ではよく見かける。
死体処理や証拠を消す人間など様々だが、どの人間も武装をしている。
つまり、銀髪の少年と一番相性が悪い。
武器はズボンのポケットに隠してある拳銃一つ。
弾丸はたった五発。
幻想殺しを殺すわけにはいかなかったため、見せなかったが拳銃の扱いにも慣れている。
だが、こんなチャチなハンドガンでは勝負にならない。
そもそも大能力者や超能力者を前に武器なんて意味を為さないし、死吸部族どもはフル装備で拳銃では風穴一つ空けられない。
「クッソが…!」
最悪だ。心理掌握を痛めつけてこの拳銃でトドメを射した後、自分の頭を撃って終わらせる計画だったのに。
最悪だ。
上条当麻の言葉で、生きたいと思ってしまった。
156 名前:pasuta ◆QXQDE8vvhs[saga] 投稿日:2010/04/24(土) 21:18:11.11 ID:/1DJvK.o [5/12]
「くっはは、これが俺の結末ってか…?」
笑えてきた。
震える足を止める。
無理やり走り続けた体が崩れ、地面に崩れ落ちる。
「クソったれな世界で…俺は…」
銀髪の少年はもはや立ちあがらない。
そんな気力は失せていた。
せめて、てめえで死んでやる。そう心の中で呟き、拳銃を取り出す。
震える指先で必死にそれを持ち上げる。
あんなキチガイどもに遊ばれて死ぬのはゴメンだ、少年はそう思った。
最悪だった。
本来なら、自分のAIM保護をもってすればレベル4だろうとレベル5だろうと勝てたのに。
そう、規格外の第二位と第一位を抜けばの話だ。
どんな物理法則も効かない第二位にあらゆるベクトルを操る第一位。
どちらの能力も演算が激しく、自分には到底扱えない。
第三位以下なら勝てる自信があった。
だが、工夫でどうにかなる次元を超えている二人には手も足も出ない。
これはAIM保護としての結論。
銀髪の少年には、あまりプライドというものがなかった。
レベル5の中でも、おそらく自分ほどプライドの低い者はいないだろう、そう自負する。
それだけに、第二位以上に挑もうとも、戦おうとも思えなかった。
最悪だ。
震える指は力が入らない。
ハンマーすら降ろせない。
もはや拳銃など撃てるわけがなかった。
闇の足音が響いた――。
157 名前:pasuta ◆QXQDE8vvhs[saga] 投稿日:2010/04/24(土) 21:24:06.54 ID:/1DJvK.o [6/12]
「よう、第五位」
その声は飄々としていて、あまりに人間らしい。
「無様だな、全く」
軽くて、それだけに読めない。
「よくもまあ俺の護衛対象に手を出してくれたもんだ」
その言葉で銀髪の少年は気付く。
第二位が幻想殺しの護衛――。
それはつまり――。
「うそ…だった…のか…?」
「……」
自分のこれまでの努力が。
闇に落ち、必死に殺し合いを繰り返してきた日々が。
ようやく第六位を殺す権利を得たことが。
第六位を殺せて邪魔が入らない場所の情報が。
その全てが。
「うそ、だって…いうのかよ…くっ…はは」
乾いた笑みを浮かべる。
それは疲れ切った老人のようであった。
「頼む…」
「ああ?」
「俺を、すぐに殺してくれないか?」
158 名前:pasuta ◆QXQDE8vvhs[saga] 投稿日:2010/04/24(土) 21:33:07.11 ID:/1DJvK.o [7/12]
それは図々しい申し出。
今まで泣き喚く奴らを平気で殺してきた悪党が、自分だけは楽に死にたいという申し出。
それを、第二位という化物に頼んだ。
第二位はしばらく黙っていたが、
「いいぜ」
表情の読めない顔で、肯定した。
第二位――垣根帝督は無言で銀髪の少年の持つ拳銃を取る。
能力は使わない。
無駄に苦しませずに死ねるよう、頭を狙う。
「結局、そんな甘い世界じゃない訳よ」
女の声。
垣根帝督と銀髪の少年が振り返る。
視界に入ったのは爆弾。
「チッ」
垣根帝督は舌打ちすると能力を発動する。
白い二枚の羽――〝未元物質(ダークマター)〟。
絶対の防御が垣根帝督を包む。
銀髪の少年は爆弾を漠然と見つめていた。
ああ、これで死ぬのかと死をカウントダウンする。
「今行くゼ……※※」
最後に呟いたのは愛しき女の名前。かつて心理掌握に壊された女の名前。
肉を焼く痛みに絶叫し、なかなか消えない意識が消えるその時まで、
銀髪の少年は苦しんでいた――。
159 名前:pasuta ◆QXQDE8vvhs[saga] 投稿日:2010/04/24(土) 22:01:09.56 ID:/1DJvK.o [8/12]
上条サイド――
『ヤッホー、上条元気?』
電話の主はフレンダだった。
「どうした?」
『いやぁ、今どうしてるかなって』
「……」
『はいはい、どうせ路地裏でしょ?』
「う…否定できんが違うんだ…」
『夜中に出歩いていて何が違うのよ』
「ぐ…」
『まあ私も今ちょっと外にいるんだけどね』
「はぁ?お前こんな時間に何やってんだよ」
『あれれー?自分はいいんですか?』
「お前は女なんだからもっとおしとやかにだなぁ」
『ヤバッ、何それウケるww』
「何故笑う!?」
『いやー、なんか私のキャラに合わな過ぎてww』
「あーそうかい。そりゃ、無駄なアドバイスでしたねー」
『それにしても…』
「ん?」
『ふふ、随分と明るくなったじゃない?』
嬉しそうな声。
上条はハッとする。
『よかった――あ、ゴメン、ちょっと離れる』
いきなりそう言うと通話を一方的に切られた。
「なんだあいつ?つか今何やってんだろ」
上条は不思議そうに首を傾げる。
「あ、あの…」
「ん?」
心理掌握というらしい少女がおずおずと声をあげた。
160 名前:pasuta ◆QXQDE8vvhs[saga] 投稿日:2010/04/24(土) 22:15:18.26 ID:/1DJvK.o [9/12]
「どうした?どこか痛むのか?」
「い、いえ…」
心理掌握は顔を真っ赤にして縮こまる。
「温かいなって…」
そう呟いた。
上条の腕の中で。
「え!いやいや、わざとじゃないんですよ本当です上条さんはあくまで怪我している女の子を地面に置いておくわけにはいかなかっただけで決してドキドキなどしていませんし何か意図があったりなどしていませんことよ?」
慌てる上条に心理掌握はクスリと笑った。
「いえ、そんな気にしてませんよ…ふふ」
ドキリと上条の胸が高鳴った。上条は中学生だと思っているが小学生の心理掌握は大人っぽい瞳で優しく笑ったのだ。
「そして、ありがとうございました…」
上条は気付いていない。
少女がボロボロの体を見られることを恐れていることを。
汚いと言われることを、
それこそ杞憂だが。
「ゴメンな。もっと早く来れたら…たまたま通りがかっただけだからさ」
偶然とは言い切れなかった。
上条と出会ったこの道を心理掌握の少女は通い詰めていたのだ。
上条は再び出会うことのないようあまりこの道を使わずにいたが、そろそろいい頃合いだろうと通った。
そうなることを計算して心理掌握の少女は通い詰めていた。
もっともこんな再会など予測していなかったが。
それから、
上条は救急車を呼ぶと、顔見知りの腕のいい医者がいる病院を指示した。
「君!君の右手も大変なことになっているじゃないか!」
「へ?」
言われるまで気付かずにいた上条は、そこで痛みに絶叫した。
数分後、フレンダからかかってきた電話は――上条の知らない所で銀髪の少年が爆弾に燃やされた後だった。
174 名前:pasuta ◆QXQDE8vvhs[saga] 投稿日:2010/04/25(日) 00:32:29.01 ID:oCozelIo [1/4]
「やっほー!上条元気?」
病室。
見舞いにやって来たわよ、と言うフレンダに上条は一言。
「堂々と夜中に窓割って侵入すんな!」
ゴン。
「いっつぁ~、頭へこんだ」
「身長の間違いだろ」
「んなっ、何気にその発言は酷いわよ」
「あーそうかい。っつか夜中に窓ガラス割るとかお前は昭和の不良ですか?」
「上条には言われたくないww夜中に出歩くwwはいストリートファイトって訳ww」
「うるせえ、絡まれるんだから仕方ないだろ、ていうか寒いんですけど」
「え、何?人肌欲しいって?うっわー…」
「違えよ!なんでそうなるんだ!?お前が割った窓ガラスから風が入ってくんだよ!」
「結局夏で良かったって訳ね?」
「冬だったら凍えるからな!でもまだ夜は寒いっつーかこの病院服が薄いんだよ」
「フムフム…へえ」
「どうでもよさそうに聞き流すな!」
「あ、ゴメン。それでカーネルサンダースがどうしたって?」
「あれ!?この子まじで聞いてない!?それどころか会話が成立してない…だと?」
「ハイハイ……」
「ガムテープか。用意がいいな」
「んや、爆弾の元」
「おい!なんだそれ!壁とか爆発させるツールか?あの映画とかでよく見るツールか!?」
「ちなみにこれが触れると爆発するわ」
「なんだそのロウソクみたいなの…ってぶらぶらさせるな!危ないだろ!」
「ふふーん、これだから手慣れてない上条はバ上条なのね」
「オイコラ、その呼び方はやめろ。っておい!テープのスレスレで振るなよ!」
「馬鹿ね冗談に決まって…おっと、」
「「あ」」
ドカーン!!
その部屋の窓ガラスが全て割れ、看護婦や警備員が駆け付けた時、フレンダは逃げ出していた。
「あのおっちょこちょい…しかも逃げやがって、不幸だあーー!」
176 名前:pasuta ◆QXQDE8vvhs[saga] 投稿日:2010/04/25(日) 00:48:46.27 ID:oCozelIo [2/4]
「あはは、ヤッホー!上条元気~?」
数時間後、警備員や看護婦に散々怒られた上条はその犯人を前に、
「結局、俺の拳を受けに帰って来たって訳ですかフレンダさん?」
ブン!!
「にょわっ」
「てっめーな!この修理代俺持ちだぞ!?」
ブンブン!!
「あっぶな、てか、上条ストップ。暴力反対!」
「じゃあ俺は逃げるの反対って言わせてもらうぜ」
「あれっ!?上条何その獰猛な顔。やーオーカーサーレ――」
「ばっ!お前、何言うつもりだ!?」
「何ってナニをされ――」
「言わんでいい!その返し、全く上手くねえから!なんでドヤ顔なの?」
「いやー、それにしても上条ってば元気ネ!」
「誰かさんのおかげさまでな!」
「まさか幻想殺しを封じられても左手でやってくるとは…上条、恐ろしい子」
「うっわ、似合わねえ…」
「ヒド!…ていうかその怪我はなんなの?」
「あー、まあただの喧嘩だな。それより、お前のほうが気になるぞ」
「エ?」
「ったく。…んで、今日はどうして夜中に出歩いてたんだ?お兄さんに話しんさい」
「んぐぐ…なんで同い年からそんな優しいお兄さん的な顔を向けられなければならない訳?」
「いいから正直に言え。じゃないとその金髪をドリル型に巻くぞ」
「ギャーッ、そんなことされたら結局、語尾に『ですわ』とか『ですの』って付けなきゃいけなる訳じゃないッ」
「お前の中のお嬢様像はわかりやすいな」
「はんッ、結局お嬢様(笑)なんてそんなモノな訳よ!」
「いやどうだろう。俺お嬢様の知り合いなんていないから分からないけど」
「あーやめときなって、上条の不幸顔見たら某借金執事並な見られかたするからww」
「おまっ、上条さんは硬派ですよ!そんなハーレム男と一緒にしないでいただきたい!」
「…何故だろう、近い未来からその発言に激しくツッコメと信号が来た気がするわ」
「いつの間に予知能力まで!?っていうかそれは何だ?ワタクシこと上条当麻がハーレムと?ははっ、何を仰いますやらこのチビッ子は」
「いつになく卑屈ね。そしてさりげなく喧嘩売ってる訳ね?」
「卑屈さ、なんたって不幸の塊だからな」
そう言い、上条は笑った。
「ホウ?随分と力強い笑いになったじゃない」
「まあな。俺は受け入れるよ、この不幸を」
ギブスを付けられ包帯で巻かれた右手を、上条は力強く見つめる。
「プククwwあんな薄気味悪い「苦笑い(笑)」はもう見れない訳ねww?」
「お望みとあらばこの名役者上条当麻、しかと見せつけてやろうか?」
「結構よww」
177 名前:pasuta ◆QXQDE8vvhs[saga] 投稿日:2010/04/25(日) 01:07:03.54 ID:oCozelIo [3/4]
??サイド――
「目が覚めたかい?」
その少年は自分の顔を覗き込んでいる医者を見た。
そしてびくっと体を動かした。
「俺…死んだはずじゃ…?」
「実際にはあれじゃ死なないね。明らかに火傷で済む火力だったよ」
「どうして、俺はここにいる…?」
「そりゃ、救急車が運んで来たからさ」
「だからどうしてっ」
「暗部の自分が何故民間の病院に運ばれたかってことかい?」
「なっ」
どうしてそれを。と少年はカエル顔の貫録に欠ける医者を睨んだ。
「別に気にすることはないさ。僕のことなんてどうだっていい」
「そんなわけあるか、一般人が暗部にかかわっていいわけがないだろ」
「それこそ、暗部で〝死んだ〟ことになっている君には関係ないだろう?」
「は?」
「悪いけど、これには僕も関わっていたんだよ。あの少女がね、自分が爆弾を投げて君を死んだことにさせるって――」
医者はそう説明しながら鏡を渡す。
「――そして、火傷した顔を綺麗にするだけでなく、僕が〝整形〟して全くの別人にする。そういう作戦だったんだね」
鏡を見た。
誰だこいつは。
少年は思った。
まず、目が細い。開いていても細くて横線みたいで脳天気そうな顔付きをしている。大きく目を開くと元の鋭い目つきになるが、そうしないとアホみたいな顔をしている。
背も高い。身長180cmはある。恐らく足や腰の骨をいじったのだろう。それに合わせるようにガタイも大きく、大男と言えるようだ。
こんなことができるのか、これは整形っていうレベルじゃないと少年は思った。
「君はこれから違う名前を名乗るんだよ。――ああ、それと銀色の髪は流石に目立つからね、こちらで個性ある色に染めさせてもらったよ」
少年は「何この色、コスプレじゃねえんだから…」と呆れた。
「君の髪は青色に染めたから――〝青髪〟ってあだ名でも付けてもらえばいいんじゃないかな?」
206 名前:pasuta ◆QXQDE8vvhs[saga] 投稿日:2010/04/26(月) 11:27:41.93 ID:nAlHkvYo [2/11]
心理掌握――
「目が覚めたかい?」
私は気が付くと病院のベッドの上で寝かされていた。
「私……ッ!?」
「どうしたんだい?」
カエル顔の医者が首を傾げる。
「傷が…ない」
あれだけ、痛めつけられたのに。
あれだけ、女の体をボコボコにされたのに。
それらの傷が残っていなかった。
後に残るような傷なはずなのに。
ところどころ包帯が巻かれているがほとんど軽傷。
とくに体に痛みもない。
「当たり前だね。誰の病院だと思っているんだい」
対し、医者は当然だとでも言うかのように言った。
「女の子があんな傷を負っちゃだめだよ?」
「私……」
思い返す。
そうだ。
私が、壊したんだ。
一人の少女を。
そうして、今回の出来事は起こった。
今までの私ならそれがどうした、と思っただろう。
だが、
あの少年。
「上条…さん…」
あの少年の言葉と、その行いを見て。
心の奥で何かがうずいた。
「私…最低だ」
207 名前:pasuta ◆QXQDE8vvhs[saga] 投稿日:2010/04/26(月) 11:34:04.77 ID:nAlHkvYo [3/11]
自分は、一人の人生を壊した。
それだけではなかった。
この世は一つの円。
丸に壁などなかった。
だから、この世のサークルは巡り巡る。
そうして、不幸の連鎖を生みだしてしまった。
私が壊した少女。
その少女のために一人の少年が動いた。
一人の少年が何人もの人間を殺した。
その殺された人間に近しい人間が不幸になった。
彼らの中にはその少年と同じように暗部に落ちて少年を追いかける者もいたかもしれない。
そして、その彼らによって、また。
それらが巡り巡る。
もはやそれは私に止められない。
大きすぎる連鎖に私一人の意志なんて届きはしない。
「わた、私は……ッ…」
そんな中で、光が見えたのだ。
眩しすぎる光が。
一身に大きな不幸を抱える、
そんな誰よりも優しい少年に。
上条当麻に。
汚い自分に反吐が出る。
最悪だ。
私は罪人だ。
どうして気付かなかったのだろう。
どうしてこれまでこんな悪人だったのだろう。
どうして、こんな心変わりをしてしまったのだろう。
「君は、一人の少女を壊したね?」
ビクッ!!
私は戦慄した。
医者が、表情の読めない顔で私にそう確認したのだ。
208 名前:pasuta ◆QXQDE8vvhs[saga] 投稿日:2010/04/26(月) 11:39:59.72 ID:nAlHkvYo [4/11]
「どう、して…それを…?」
「何、簡単なことだ。彼女は僕のこの病院で預かっている。」
そう、壊れた少女は。
「精神そのものが抜けた、ただの抜け殻だけどね」
「ッ!!」
その言葉は胸に強く突き刺さった。
私の心を抉った。
ただのそんな事実が。
知っているような事実が。
他人に言われただけで脆くなった私の心が悲鳴を上げた。
「あは……」
自分が、善人になどなれるわけがないのだ。
結局、ただの憧れだった。
ないものねだりだった。
自分が悪人で。
そんな自分を助けた善人に、
そんな光に、
ただ憧れただけだ。
そこに善人になろうなどという堅い決意などない。
そこに彼と同じ行いができる 信念(ちから) などない。
ちょっと事実を言われただけでこれだ。
結局は自分に甘いだけ。
自分が可愛くて可愛くてどうしようもない。
そんなクズなのだ、私は。
「君は、その罪を背負う気はあるかい?」
そんな医者の問いかけに。
薄く笑う私は答えた。
209 名前:pasuta ◆QXQDE8vvhs[saga] 投稿日:2010/04/26(月) 11:44:44.20 ID:nAlHkvYo [5/11]
「勿論、あるわ」
と、強い意志を見せつけて。
善人になどなる気はない。
なれるはずもない。
ならば、
これからどれだけ汚れようと、
傷付こうと、
悲しもうと、
どれだけの 不幸 を押しつけられようと、
私はその罪からだけは、
逃げない。
絶対に背負ってやる。
「なら、君にはやってもらう事があるね」
例え、
その行いによって、
どれだけの人から恨まれようと、憎まれようと、
「相当の覚悟は決めてもらうけどね」
感謝などされなくても、私は、何かが変わった私は、
せめて一つだけでも、自分の行いに 清算(罪滅ぼし) をしてみせる。
210 名前:pasuta ◆QXQDE8vvhs[saga] 投稿日:2010/04/26(月) 11:59:36.16 ID:nAlHkvYo [6/11]
医者は説明を始めた。
「君の能力によって彼女の精神は壊れて、消えてしまった」
「例えあの少年、幻想殺しの彼でもそれを治すことはできない」
私はピクリと反応する。
「か、上条、さんを知っているの?」
「ん?彼は常連だからね。それだけでなく、彼の 能力(ちから) は少々特別でね」
医者は続ける。
「幻想殺し(イマジンブレイカー)はいかなる超能力も 殺す(壊す) ことができる」
「だが、それはもはや効かない」
「例えば、発火能力者(パイロキネシスト)によって焼かれた灰を、彼の右手で元に戻すことはできない。同じように今回も君の能力で
もはや壊れてなくなった自我を取り戻すことはできない」
「しかし、君の能力がある」
「え、私?」
私の能力は確かに学園都市中に知れ回っているだろう。
「君は学園都市最強の精神系能力であり、記憶の読心・人格の洗脳・離れた相手と念話・想いの消去・意思の増幅・思考の再現・感
情の移植など多種の能力を一手に引き受けて使いこなすことができるはずだ」
「その中でも、〝意思の増幅・思考の再現・感情の移植〟を使って――」
「――彼女を生まれ変わらせる」
「なっ!?」
正気か、と私は目を疑った。
「あ、貴方それでも医者ですか!?」
そう、彼の言う行いは、
「人口人間を造るようなもの、つまりは機械仕掛けの感情を持つロボットを造るような物ですよ!?」
230 名前:pasuta ◆QXQDE8vvhs[saga] 投稿日:2010/04/26(月) 22:59:56.85 ID:nAlHkvYo [8/11]
青髪サイド――
「俺にどうやって生きろっていうんだよ…」
考えてみると、もう生きる道などなかった。
暗部以外に生き場などない。
「君のIDと氏名、その他個人情報は作っておいたよ。しばらくすれば学校にも通える。学校に通えば奨学金も出るし、学生には学生寮も与えられる」
カエル顔の医者はそう言う。
「くっはは!なんだよそれは。俺がAIM保護だって知ってて言っているのか?」
「もちろんさ。君の能力は未だ健在だ。確かに義務であるシステムスキャンを回避することはできない」
「なら、無理じゃねえか。俺の能力で出し惜しみしてやり過ごすことなど敵わないぞ?」
「問題ないさ。これも事後承諾ですまないが君の脳に細工をしてね」
「ああ?」
「ほら、これを付けてみてくれ」
渡されたのは小さな二つの〝ピアス〟。
「通常、AIMにリミットを付けるとシステムスキャンでばれてしまうからね。君の頭のほうにリミッターを付けさせてもらったよ。そして、その両耳のピアスは熱に反応するから君の指で触るとリミットを解除できる」
なるほど、と青髪の少年は納得した。
ピアスを耳に付ける。
「君は通常レベル3のAIM抵抗(AIMレジスト)だね。ピアスに触れると絶対防御が復活してレベル5の能力を取り戻せる」
青髪ピアスの少年はただ説明を聞いていた。
それでも、
空っぽの自分にやりたいことも何もなかった。
自分はこれからどうやって過ごすのかなど、頭に浮かばなかった。
231 名前:pasuta ◆QXQDE8vvhs[saga] 投稿日:2010/04/26(月) 23:11:44.27 ID:nAlHkvYo [9/11]
「ヤッホー!元気かバカ野郎!」
青髪の少年の病室に一人の少女がやってきた。
「は?誰?」
「私の爆弾の味はどうでしたか?」
「あ、てめっ!」
思わず飛びかかる。
ビシッ!
「がぁっ」
いきなり額に鞘の先端をぶつけられ、青髪は怯む。
「命の恩人にその態度はないんじゃないか?」
その鞘を持つ少年が、いつの間にか病室に入って来ていた。
黒い髪は肩口まで伸びている。全体的に服装からしてビジュアル系の黒白を基調とした格好をしている。ジャラジャラと貴金属のアクセサリーがたくさん付いている。
身長は170cm程度。首から下げた鎖型の銀のネックレスには銀の指輪がぶら下がっている。
「俺の名は平助。早速だが君をスカウトに来た」
「早っ、結局、平助は早急過ぎるって訳ね」
「ああ?勧誘?」
青髪が不機嫌そうに聞くと、平助は無表情で言った。
「我々、対暗部の病院警護チーム〝雨蛙(アマガエル)〟の五人目に君を勧誘する」
232 名前:pasuta ◆QXQDE8vvhs[saga] 投稿日:2010/04/26(月) 23:33:23.33 ID:nAlHkvYo [10/11]
「彼らはこの病院の警護をしているんだよ」
カエル顔の医者がそう言った。
「あ、まだいたんだ」
「先生。こいつはしばらくここで暮らすんですよね?」
平助と名乗った少年は見た目とは裏腹にカエル顔の医者を敬意を込めるように〝先生〟と呼んだ。
カエル顔の医者が説明する。
「青髪君はまだしばらくの間学校には通えないからね。僕が偽造して理事会に転校生として書類を提出するから、それまでの間はここで暮らすことになる」
「くっは、俺がレベル5だって忘れてるゼ?金ならいくらでもある。適当にホテルでも借りて住んでやるよ」
青髪がそう言うと平助が一瞬にして顔を崩した。
「ああ?てめえナニ言ってんだ?先生に恩も返さず出て行くってのか?」
青髪の胸倉を掴み上げる。
「僕はそんなもの気にしないけどね」とカエル医者は言うが、
「あー…」
そう言われると言い返せない青髪。
ここまでやってもらわなければ、自分は暗部に見つかって抹殺されていただろう。
だからこそ、この貫録にかける医者には確かに恩がある。
「僕は患者に強制はしないよ。君の好きなように生きればいい」
カエル顔の医者のその言葉に平助は手を引く。
「俺に、どんな風に生きる道が残っているって言うんだよ」
青髪はそう呟いた。
別に不満などない。
何もない。
やりたいこともない。
空っぽだ。
カエル顔の医者は青髪をじっと見ると、踵を返す。
「道なら他にもあるさ。いくらでもね」
そうして、「後は任せたよ平助君」と残してカエル医者は病室を出て行く。
238 名前:pasuta ◆QXQDE8vvhs[saga] 投稿日:2010/04/27(火) 20:21:20.31 ID:TQbMr1Mo [1/2]
「フレンダか、よろしくな」
少女は言った。
「私はアヤって言うらしいぞ」
身長150cm程度の少女は言った。
そこまで長くない髪を赤いゴムでポニーテールにした少女は、平坦な口調で言った。
「うん?そうだぞ。この名前は付けてもらったんだ」
平坦な口調の割に可愛らしい声の少女は、
小さくて、クリクリした小動物みたいな目をした少女は、
「私を生み出してくれたママがな」
かつて、心理掌握に壊された現在12歳の少女――
「うん、私の大好きなママだぞ」
アヤは心理掌握を〝ママ〟を呼び、
フレンダに挨拶をした。
それが、彼女――〝アヤ〟にとっての始まりの日だった――。
240 名前:pasuta ◆QXQDE8vvhs[saga] 投稿日:2010/04/27(火) 20:57:14.17 ID:TQbMr1Mo [2/2]
「か、かわ、」
フレンダは戦慄した。
病院の一室。黒のキャミソールに白いワイシャツのアヤが首を傾げる。
「どうしたんだフレ――」
「可愛いいいいいいぃっぃいいいいいいいいいいいいいい!!」
フレンダは思わず飛び付く。
「わっ」
「え、何?何この可愛い生き物!?」
プニプニとした肌。
柔らかい肌。
「キャー!お持ち帰りしたい!」
「フレンダ?どうしたんだ?これじゃ私は動けないぞ」
特に嫌がりもせず、アヤは小首を傾げる。
身長差でフレンダに寄りかかられ、アヤの体が傾いている。
「え、何、何なのこの子!?これが、あの、俺様(笑)の大切な人!?」
「フレンダ?フレンダが何を言っているのか、私にはわからないぞ?」
「ヤバー!あぁああ可愛いぃぃぃ」
「聞こえてないのか?フレンダ?」
「………………」
一人、無言の者がいた。
背に伸びる金色の綺麗な髪。フレンダと同じような碧眼、育ちの良さそうな少女――心理掌握が呆れた顔でこちらを見ていた。
病室の入り口で紙袋を提げて立っている。
「あ、ママ」
そう呼ばれ、どう反応すべきか一瞬心理掌握の少女はたじろぐ。
そう、本来なら一歳年上の先輩で――かつて自分が壊したはずの、自分より身長の低い少女に――笑いかけられたのだ。
243 名前:pasuta ◆QXQDE8vvhs[saga] 投稿日:2010/04/28(水) 20:37:47.68 ID:QiTABc.o [1/9]
「あ、心理掌握」
フレンダは心理掌握を見て呟いた。
「まずアヤから離れなさい。暗部――爆弾魔のフレンダさん?」
即座に、フレンダについての情報を得た心理掌握。
対して、フレンダは特に驚きもしない。心理掌握の能力については資料で知っている。
ただニタニタと笑う。
「結局、ウチの子から離れなさいっ!って過保護のママって訳ね?」
「違うわよ!どうしてそうなるのよ!?」
心理掌握が彼女にしては珍しく大声を上げた。
「ママ?どうしたんだ?」
「うっ」
アヤの呼ぶ声に心理掌握が呻く。
「ぷくく、小学生でママ…ね」
「なっ!中学生の貴女より私のほうが背が高いじゃない!」
「ママ?」
「うっ」
「ほらほらママって呼んでる訳よ」
ニヤニヤと笑うフレンダを無視して心理掌握が病室に入る。
彼女はアヤの前で紙袋を広げる。
「ほら、着替えの洋服買ってきてあげたわよ。値札とかは外してもらったから、ハンガーに掛けて置くわね?」
平然としていた心理掌握にアヤが首を傾げた。
「でもママ、毎日新しいお洋服買ってないか?」
「うっ」
244 名前:pasuta ◆QXQDE8vvhs[saga] 投稿日:2010/04/28(水) 20:54:56.23 ID:QiTABc.o [2/9]
フレンダがアヤの病室を訪れる数時間前――。
幻想殺しの少年の病室が爆破された翌日――。
つまり本日は日曜日。
その日、フレンダと平助が去ったとある病室で青髪ピアスの少年はCDプレイヤーをかけていた。
「どうしてこうなった…」
と、青髪の少年は世界3大テノールも驚く野太い声で呟いた。
自分のそんな声を聞き、深く溜息を着く。
『ふむ。網膜認証はパスできるようにしたけど、声帯のほうがいじっていなかったね』
と数時間前にカエル顔の医者が言った。
『結局、指紋はどうなった訳?』
と、フレンダが聞いた。
『指紋のほうも手は打ったさ。指紋なんてものは人一人によって違うなんて言われてセキュリティに使われているが、ちょっと線の形をいじってしまえば全くの別人になれるんだね』
『なるほど。さすが先生』
無表情で平助がカエル顔を称える。
『さて、平助君はソプラノ声だったから低い声にしたから、青髪君は反対にソプラノ声にしようか?』
『はぁ?ちょっと待て、このガタイでバカ高い声ってか?勘弁してくれよ』
そう言ったのは青髪。
そこで、フレンダがこう言ったのだ。
『あ、ならテノールはどう?』
思い返し、青髪はこめかみをヒクヒクさせる。
「フレンダの野郎…」
245 名前:pasuta ◆QXQDE8vvhs[saga] 投稿日:2010/04/28(水) 21:15:23.92 ID:QiTABc.o [3/9]
それだけではない。
平助がしたように完全に違うキャラになれというのだ。
『それはいいけどよ、こんな声と見た目で十分元の俺とキャラ違うと思うんだが…』
そう言う青髪をカエル医者とフレンダと平助がじっと観察し、
『一人称は「僕」かな?』
『さすが先生。素晴らしいアイディアです。俺が元は「僕」だったのを「俺」にしたのと同じ理由ですね』
『結局、それだけじゃキャラが微妙な訳よ…』
と、フレンダが零した。
『いやいやいや!十分キャラ濃いぞ俺…じゃなくて僕!』
『なんかこう…「うわ、こいつ変人」っていう感じにならない訳なのよ』
『何それ!?なんで俺、じゃなくて僕を変人にする必要があるの!?』
『うーん。あ、とりあえず一人称は「僕」じゃなくてカタカナ表記の「ボク」でいきましょう』
『何の意味があんだよ!喋るときに違いなんてあるか!』
『え、変人さを上げるため……あ、』
と、そこでフレンダは思い付いた。
『そうだ、口調は全てエセ関西弁ね。結局、関西弁じゃダメな訳よ。ちゃんとエセ関西弁でいかにも怪しい感じで、うん。これならいける』
そうして現在、青髪ピアスは現在病室のベッドの上で関西弁のCDを聴いていた。
「なんや違う方向に向かっているような気がするさかい…」
247 名前:pasuta ◆QXQDE8vvhs[saga] 投稿日:2010/04/28(水) 21:36:19.16 ID:QiTABc.o [4/9]
――【始まりの日曜日】――
心理掌握サイド――
私は街中を歩いていた。
現在の時刻は十二時過ぎ。ちょうど昼食の時間だ。
アヤに洋服を渡して色々な物事を教えた後、私は病院を出た。
声が、聞こえてくる。
歩く私に、
人々の心の声が聞こえてくる。
『てかマジでうぜー』
『あっちーな、ゲーセンでも行くか』
『客入らねえなぁ…違うバイト始めようかなぁ』
『あー数学のテスト全然わかんなかった』
『あれ、この新曲結構いいな』
『布束?へえ資料によると研究者として長点上機にいるのか…』
『宮越の野郎!どこ行きやがった!』
『おっせええ、もう十分経つのにまた遅れて来んのかよ』
『こいつともそろそろ別れるかな』
『この女、あと一回ヤったら別れよう。いい加減飽きたし』
『丘原の野郎、またレベル上がったのか。チッ、何ガリ勉になってんだよ。発火能力なんてありがちだろうが』
『システムスキャンやだなー、ばっくれたい。由美もそう思ってんのかしら』
『あーどうせこいつはレベル2だからいいかもしれない、とか思ってんだろうけどさー、レベル0の私はもうほんと憂鬱』
『おい、スキルアウトがまたやられたって…今度は俺のチームも危ないのか?くっそ、なんだよ能力者め。また無能力者狩りかよ!』
『アイス食べたいなぁー』
『あ、あの娘(こ)可愛いな。ちょっと声かけてみっか』
『何あのカッコー、ウケるんですけどー』
『あっつー…学園都市って科学の最先端なら街まるごと涼しくしなさいよ』
『あれー?涙子まだ来ないのかな』
『一一一カッコいー!もっと人気出れば武道館でライブとかやるのかなー、学園都市外出の申し出って面倒なんだよねー』
『タバコ吸いてえ…なんで喫煙コーナー以外学園都市は禁煙箇所ばっかなんだよ…ったく、ガキはうるせえし研究費は少ないし』
『あれ、心理掌握じゃねえか。うわ、小学生とは思えない美貌。っかー、俺ら庶民なんて見下してんだろうなぁ』
全て、声。
心理掌握の横を通り過ぎて行く人達の心の声。
私はうんざりするも、これは自動で聞こえてきてしまう。もう幾分かは慣れていた。
他のことを考えるようにするのだ。
248 名前:pasuta ◆QXQDE8vvhs[saga] 投稿日:2010/04/28(水) 21:50:02.62 ID:QiTABc.o [5/9]
「はぁ…」
私は溜息を付き、再び歩き出す。
どこかでお昼ご飯を食べようかしら?
そう考えていた。
そんな時、
視界に彼が映った。
パキン!!
雑音が、消えた。
人込みがなくなったわけではない。
今も真横を何人も通り過ぎて行く。
だけど、力場は壊れた。
「あは…」
私は、その人物を見つけて頬が緩むのを抑えられなかった。
ツンツン頭の彼は、前よりいくらか穏やかな表情をしている。
未だ、彼の周りには不穏な何かが渦巻いているように感じるが、
それでも彼は、やはり私を助けてくれた憧れの人に間違いなかった。
私は小さく小走りで駆け寄った。
「あれ、お前…?」
上条さんがこちらを向いた。
「こんにちわ、上条さん」
私は笑顔で挨拶した。
262 名前:pasuta ◆QXQDE8vvhs[saga] 投稿日:2010/04/28(水) 23:54:33.34 ID:QiTABc.o [9/9]
「あ、あのお礼したいと思いまして」
「お礼?何を?」
上条さんが首を傾げる。
「助けていただいたお礼と、その」
「別にそんなのいいよ」
「あっ」
このままでは行ってしまう。
ダメだ、ここは何としても引きとめなければ。
私は目に強い光が集まるのを感じた。
「少しお話もしたいので。お暇でしたらこれからお食事に誘わせていただいてもよろしいですか?」
―――
「(で、ファミレスと)」
どうしてこうなったのか。
そう、私の計画では今頃某高級レストランで食事をしていたはずなのだが――。
『高級レストラン?』
『はい。御馳走します』
『あ、やっぱりお嬢様なんだな。なんか育ちの良さそうな雰囲気がしてたけど』
『ええ、まあ。お恥ずかしながら…』
『別に恥ずかしくないだろ?すっげえかっこいいと思うぞ。お前綺麗だし』
『あ…』
『いやーそれにしても、俺こんなカッコだし。高級レストランだと場違いに思われそうだなー』
『大丈夫だと思いますけど…あ、ならお洋服をプレゼントさせてください』
『え!いやいやいいですよ、お金持ちの選ぶ服なんて0の数が明らかに違いそうだし!』
『そうですか?なら、上条さんが決めていただいても…』
『うーん、なら…』
―――
というわけだ。
正直、ファミレスに来たのは初めてだ。
だけど、上条さんに「はいはい庶民の店は合いませんか」などと言われてはいけない、思われてはいけない。
そうだ、私は今まで「あはは庶民(笑)ジャンクフードのマックに冷凍食品のファミレスですか?(笑)」と思いながら生きてきた。無論、それが周りから「うぜー」と思われていることも知っている。
だからこそ、この私なら「こんな態度はダメだ」とわかる。
いける、上流階級の中の上流階級の私なら、
上条さんに不快な思いをさせずに済むはず!
264 名前:pasuta ◆QXQDE8vvhs[saga] 投稿日:2010/04/29(木) 00:17:05.85 ID:9qM7jOEo [1/4]
「水もらってきたぞー、ここ水もフリーなんだよなー」
上条さんが、いつの間にか二人分の水を運んできた。
「なっ、申し訳ありません。そのようなことウェイターにでも――」
あ、と私は言いかけて止める。
「……(しまったあああああいきなりお嬢様(笑)アピールしてしまいましたわあああほら上条さんも苦笑してる!)」
「さすがはお嬢様だな」
「うっ(うわあああぁぁん)」
「さってと。お前は何食う?上条さんはこのジャンボハンバーグ地獄コースに挑戦しようと思う」
「あ、はい。えっと…」
上条さんがメニューをひっくり返して私に差し出してくれた。
「(メニューくらいちゃんと二つ置いときなさいよ)」
などと頭の中で店に文句を言いつつ、上条さんに心から、そう、ここ重要。 心 から礼を言いつつメニューを受け取る。
「あ」
その時、上条さんの指に触れ、私はビクッ、と指先が震える。そのままメニューを落としかける。
「おい大丈夫か?」
上条さんが私の手を包むように支えてそれを回避する。
「あっ……(上条さんの手、あったかい…)」
私がドキドキしていると、しばらくハテナ顔だった上条さんは気付き、
「いやいや違うんだこれは落としそうだったからで特に深い意味はありません!」
と手を離してしまった。
少し残念だ。
265 名前:pasuta ◆QXQDE8vvhs[saga] 投稿日:2010/04/29(木) 00:42:21.77 ID:9qM7jOEo [2/4]
「では、私はこの学園都市製養殖の魚介類パスタを」
「はは、魚介類の養殖までやってるんだから笑っちまうよな。学園都市って」
「ふふ、そうですね。学園都市は自給自足を整えているのかもしれません」
「なんでだ?」
「もしかしたら日本から独立でもする準備だったり?なんて冗談と言えないところが学園都市ですよね」
「あ、ハルノクニか?俺あの漫画好きだったなぁ。四巻で終わってしまったのが残念だ」
「ハルノクニ、ですか?すみません、漫画は嗜まないもので…」
「あー、そっか。お嬢様だもんな。普通漫画なんて読まないか」
「そうですね。まぁ私の通う学校では少女漫画を読む人がいますが私は漫画自体触れたことがありませんね」
「ふーん。お前って頭良さそうだもんな。漫画とか読むより外国の文学的なものを読むイメージだもんな」
「ええ、確かに海外古典など嗜みますわ。ですが、上条さんの言うハルノクニという作品にも興味が湧きました。日本から独立するようなお話なのですか?」
「ああ。主人公たちは海に浮かぶ最新セキュリティの、偏差値高い学校に通う生徒なんだが、ある日、日本政府の秘密を知ってしまう。そしてそれを知ったがために主人公の親友が殺されてしまうんだ。
主人公は日本政府と戦うためにその最新セキュリティの学園に立て篭もり、日本国からの独立を宣言するんだ。まぁ、高尚な文学と比べられるものじゃないから、お前に合うかはわからないが」
「あら、そんなことないですよ?」
と、私は本心から言った。
「私は結構反社会的なものや、IFもの、SFもののハードカバーを読みますので。そういったジャンルは好きです」
「お、そーか!やっぱ学園都市に来ただけはあるってことだな。やっぱロボット三原則とか好きだったりするのか?」
「ええ。アイザック・アシモフの小説ですよね?彼は天才だと思います」
「おお。なんか俺みたいな庶民が通じあえたことが凄い!」
「いえ、そんなことないですわよ」
「んじゃ、今度ハルノクニ貸してやるよ」
いえそんなわざわざ――と言いかけ、私はやめた。
これは、まさか。上条さんともっと会える?
最低二回。漫画を借りるのと、返すので二回は会える。
いや、それだけではない。今度はお礼に~と言いながら私が何か小説を貸して、それでさらに機会が増える。
ニヤリ、と私は上条さんに気付かれない程度に舌舐めずりした。
266 名前:pasuta ◆QXQDE8vvhs[saga] 投稿日:2010/04/29(木) 00:55:13.90 ID:9qM7jOEo [3/4]
「ドリンクバーと、お前はサラダバー付いてるけど。行くか?」
「ドリンクバー、ですか?」
「ん、ああ。その名の通りフリーで好きな飲み物を注ぎに行くんだよ」
「そうなんですか」
「面倒なら俺が取って来るけど、サラダバーとかは自分で取りたいか?」
「え、いえいえ。私も行きます。そんな上条さんを使うなんて」
「あはは。別にいいんだけどな。あと、さん付けってなんかくすぐったいな。俺中一なのに」
「そうですか?では」
私は、一番呼びたかった呼び方で呼ぶことにする。
「上条先輩♪」
笑顔でそう言うと、何故か上条先輩が顔を赤くしていた。ついでにそこら辺の客も。そこら辺の客については黙れ失せろこっちを見るな。
「上条先輩?どうしましたか?(キャーレア顔カッコいい!)」
「あ、いや。結構な破壊力でしたよと上条さんは冷静さを取り戻してみます」
「ふふ、変な先輩ですね」
くすくすと笑うと何故か上条先輩はバッと首を後ろに向けてしまった。
「どうしたのですか?上条先輩?」
「い、いやその…とてもよろしいです」
私は一度首を傾げ、理解する。
「そうですか、よかったです。上条先輩♪」
281 名前:pasuta ◆QXQDE8vvhs[saga] 投稿日:2010/04/29(木) 20:27:29.99 ID:9qM7jOEo [6/12]
垣根サイド――
上条当麻が病院でフレンダと騒いでいた昨夜――。
垣根帝督は屋上にいた。
「お前は誰だ?」
無表情で男が帝督にそう訊いた。片手には白い鞘を持っている。
黒い髪を肩口まで伸ばした男が歩み寄る。
男は全体的に服装からしてビジュアル系の黒白を基調とした格好をしている。
服にはジャラジャラと貴金属のアクセサリーがたくさん付いていて、身長は170cm程度。
首から下げた鎖型の銀のネックレスには銀の指輪がぶら下がっている。
対し、帝督は笑う。
「はは、お前こそ誰だよ」
「俺は〝雨蛙(アマガエル)〟のリーダーだ」
「あん?聞いたことねえな」
「そうか。では貴様は何者だ?」
「名乗る必要があるか?」
「ある。我々はこの病院の警護をしている。どうやってセキュリティを突破したのかは知らないが出て行ってもらおう」
「おいおいどんな病院だよ」
「昼間なら誰かれ構わず入れるぞ。夜間の診察なら受付を通ってもらおうか」
「へえ。今時珍しいことに夜間の急患まで診てくれるのか?はは、もしかして闇医者だったりするのか」
その言葉で、雨蛙のリーダーの顔が変わった。
まるで皮膚を崩すかのように、表情を砕いて怒りを表す。
「ああ?てめえ〝先生〟を闇医者なんかと一緒にしてんじゃねえよ」
雨蛙のリーダーが、今までの冷静な対応をいきなり止める。
自らの持つ鞘を構える。
282 名前:pasuta ◆QXQDE8vvhs[saga] 投稿日:2010/04/29(木) 20:30:20.74 ID:9qM7jOEo [7/12]
違う。
それは鞘ではなかった。
帝督には見慣れない物だった。
白鞘と呼ばれるそれは、鍔(つば)がないために帝督は、普通の日本刀の鞘だけを持っているのかと思ったが違った。
それは長ドスだった。
しかも、ただの長ドスではない。
雨蛙のリーダーが白鞘から抜く。
帝督はわずかに構え、そこで目を見開いた。
その長ドスには、刀身が全くなかった。
「は…?」
刃のない長ドスを引き抜く雨蛙のリーダー。
「なんだよそりゃ…ははっ」
帝督が拍子抜けしたように笑う。
雨蛙のリーダーは元の無表情となり、呟いた。
「今夜は一度、雨が降ったようだな」
帝督が眉を寄せた時、屋上に点々と存在する水溜まりが波紋を作った。
「(風はない…電気や磁力の類でもない…これは…)」
帝督は警戒し、能力を発動させる。
だが、速かったのは雨蛙のリーダーだった。
雨蛙のリーダーは素早く屈むと、その手で水溜まりに触れた。
チャプン、と水面が震え、
水溜まりが、爆発した。
視界が白一面に遮られる。
「チッ!やっぱり水の能力者かッ」
帝督は未元物質を発動する。
白い二枚の羽が帝督を包む。
絶対の防御に包まれた帝督は水しぶき一つとして浴びない。
284 名前:pasuta ◆QXQDE8vvhs[saga] 投稿日:2010/04/29(木) 21:56:55.45 ID:9qM7jOEo [9/12]
「(そろそろいいか?)」
帝督は羽を広げる。
バサバサ、と音を立てて羽は帝督の背後で羽ばたく。
「白い羽?よくわからない能力だな」
雨蛙のリーダーは平坦な声でそう評価する。
彼の右手には長ドスが握られている。
彼は柄を握り、それを斜めにして眼前に構えている。
刀身はない。
が、
本来の刀身の代わりに液体が蠢いていた。
それは水。
恐らく先ほどの蒸気爆発は目隠しのためだったのだろう。
時間稼ぎと、盾という名の目隠し。
彼が水溜まりに触れて蒸気爆発が起こったことから、恐らく彼の手は『熱源』の能力を持っている。
水溜まりという液体。その水分に温度差の大きい『熱源』をぶつける。
水は急激に蒸気化し、蒸気爆発を引き起こした。
そうして視界を奪った。
勿論、その爆発だけで攻撃と言える。
結構な破壊力で、無防備な人間ならば屋上の端から端に吹き飛ばされるだけでは済まないだろう。
だが、これはあくまで目暗まし。
空気中にただよう水蒸気を『熱源』によって一瞬で膨張させて冷却し、液体化する。
それだけでなく、辺りに未だ散る水溜まりの水をかき集め、長ドスの刀身の部分に集めた。
「(〝水蒸気操作〟の能力者なのか…?いや、これは〝水流操作系〟の能力も使っている?)」
285 名前:pasuta ◆QXQDE8vvhs[saga] 投稿日:2010/04/29(木) 22:02:57.60 ID:9qM7jOEo [10/12]
帝督はそれを観察する。
「はは、そのドスの柄、お前の能力補助だな?そこに熱源を貯められるようだ」
「ああ、そうだ。〝自分だけの現実(パーソナルリアリティ)〟の補助だな。長ドスで位置情報を理解しやすくしている」
「(ということは本質は〝水蒸気操作〟か?なら何故〝水流操作系〟の真似事なんてする必要がある?)」
「俺はこいつに名前を付けていてな」
長ドスの刀身として水が伸びている。それは刃ほどの厚さで、長さは先程から動き、変わるが三メートルほど。
「あん?(そうか、こいつはわざわざ手で触れて『熱源』を操った――)」
「〝水蛇〟だ」
水の刀身が蠢く。
蛇のように体をくねらせる水を、雨蛙のリーダーは長ドスを振るった。
「(レベルがそこまで高くない〝水蒸気操作〟の能力者か!)」
水蛇が横薙ぎに振るわれる。
ヒュッ、と音を立ててそれは帝督を真っ二つに裂くかのように襲う。
バシュッ!!
水蛇を、白い羽が斬った。
未元物質が、帝督に届く前にそれを斬り裂く。
だが、それだけでは終わらない。
二つに斬り裂かれた水蛇だが、片方は未だ雨蛙のリーダーの長ドスと繋がっているのだ。
「気付いているだろ?俺が〝水蒸気操作〟の能力者だと」
瞬時、長ドスの水が水蒸気と化す――。
帝督が口を開くより先に、爆発した。
286 名前:pasuta ◆QXQDE8vvhs[saga] 投稿日:2010/04/29(木) 22:18:13.50 ID:9qM7jOEo [11/12]
「それが、どうしたって?」
爆発の後、帝督は水しぶき一つ浴びずに立っていた。
その表情の余裕は変わらない。
「羽の防御は間に合わないと思ったが」
あくまでも冷静に雨蛙のリーダーが訝しむ。
「ははっ、残念でした。俺の未元物質は空気中にも展開してあるんだよ」
「全く、どんな物質なのか理解できないな」
「俺の未元物質に常識は通用しねえ。いかなる物理法則も捻じ曲げるんだからな」
「なるほど。厄介だな」
「厄介で済むかよ。お前と俺には絶対的な差があるんだ。工夫しようたってそれで越えられるレベルじゃねえんだ」
「そうか。貴様はやはりレベル5か」
「ご名答。てめえはレベル4ってところか?レベル3寄りの弱小な奴な」
「その通りだ」
雨蛙のリーダーは再び長ドスの柄を構える。
水溜まりの水や水蒸気がそこに集まる。
「はっは、懲りない奴だな。そんな物効かねえよ」
「果たしてそうかな」
「あん?」
訝しむ帝督。
蒸気爆発が起こる。
視界が白一色に染まる。
「(随分と規模のでかい爆発を…だがこんなモノが俺に効くわけが…)」
爆発は大きい。
屋上を完全に覆っていた。そこで帝督は意図に気付く。
「チッ、あの野郎逃げやがったか!」
気付いた頃には遅かった。
雨蛙のリーダーは消え、同時に警備員を呼ぶブザーが鳴り響く。
「クッソ、あんなザコに出し抜かれるとは…」
だが警備員に見つかるわけにはいかない。
あくまで自分は上条当麻の護衛として、クラスメイトとして居なければならない。
「あれが噂の対暗部組織か。表の世界を利用するとは、結構厄介な連中だ」
言葉とは裏腹に帝督の表情は明るい。
帝督は白い羽を展開し、屋上から飛び立った。
「面白い連中じゃねえか。なぁ――アレイスター」
297 名前:pasuta ◆QXQDE8vvhs[saga] 投稿日:2010/04/30(金) 10:46:01.79 ID:82ica/co [1/3]
――【始まりの日曜日】――
だから勿論、帝督はファミレスにいた。
上条当麻の護衛だ。
上条当麻がいれば心理掌握の力場は壊れる。そして、戦闘時でもないのに集中を必要とする、上条当麻を遠巻きに展開する力場など心理掌握は作らないだろう。
帝督は上条達の斜め二つ後ろの席にいた。
黒いサングラスに白いマスクをして。
帝督は自分に視線が集まっていることに気付いていない。
むしろ初めての護衛&監視の任を完璧にこなしていると思っていた。
「(昨日は大変だったな…)」
コーヒーを口に運ぶ。少しマスクをずらして飲む。
落ちついた気持ちで帝督は、楽しげに談笑する二人を眺める。
「(ま、元気になってよかったんじゃねえの)」
フッとギザっぽく笑う。
「思いっきり目立ってるのよこのバカ!」
そこに、
穏やかな気分であった帝督の脳天にチョップがかまされた。
「ゴパぁ!…ってめ何しやがる。オーケー久しぶりに使うぜこの言葉――ムカついた」
「何プロっぽく格好付けている訳?思いっきり目立っているから!結局、上条達が席を離れるまで気付かれないかソワソワしてた訳よ!」
「ああ?なんだフレンダか」
金髪碧眼の少女は嘆息する。
「それ、外して。マスクにサングラスなんて犯罪予告みたいなものな訳よ」
「何!?これカッコイイと思ってたのに…」
「どんな感性よ…警備員呼ばれる寸前だった訳よ。…ってこら店員を睨むな脅えてるっ」
上条と心理掌握がドリンクバーに赴いている最中、ファミレスの監視が二人に増えた瞬間だった。
311 名前:pasuta ◆QXQDE8vvhs[saga] 投稿日:2010/05/01(土) 01:59:50.01 ID:q4fW2X.o [1/6]
上条サイド――
「それで、例の女の子に〝心〟を入れたのか」
上条は心理掌握の話を聞いていた。
「はい。私が壊した彼女は病院で抜け殻となっていました。彼女の家族…とは言ってもチャイルドエラーだったようでその施設や友人からの頼みだったそうです」
「その、彼女に新しく自我を植え付けることが?」
「ええ…彼女の身体が泣いていると、このままにしておくのは可哀想だと…」
「…………」
「私が、いえ、私は、間違っていました」
「……」
「勿論、今さら自分の行いを言い訳するつもりはありません。けど、私は、自分が間違っていることに気付きました」
「……」
「上条先輩やあの銀髪の人を見ていて、私は気付いたのです。だからこそ、医者からその話を――心を植え付ける話を聞いた時に頷きました」
「……」
「ひどい、自演だと思います。自己満足で自我を植え付けて、私はそれで罪が軽くなったとでも思っているのでしょうか」
「……」
「いいえ、思っているのでしょうね。こんな話を上条先輩にしている時点で、卑怯ですよね。贖罪になどなるはずもないのに」
「……」
「知っていますか?私が半径五メートル以内の人の思考を読み取れること。上条先輩には効きませんけど」
「……」
「私は彼女の心が視えるのが怖かった。だから彼女に〝心〟を入れて〝アヤ〟を生み出した時――」
「……」
「――彼女の思考が私に視えないようプロテクトを構築したんですよ?ふふ、笑えますよね。視えるのが怖くて仕方ないんですよ…」
312 名前:pasuta ◆QXQDE8vvhs[saga] 投稿日:2010/05/01(土) 02:08:43.27 ID:q4fW2X.o [2/6]
「よく、頑張ったな」
上条はそう笑いかけた。
「え…?」
心理掌握は瞬きをする。
上条には気付いていた。
普段鈍いと言われる彼は気付いていた。
心理掌握が泣くのを我慢していることに。
きっとここで泣いたりしたら自分を許せないのだろう。
それは自分への罰。
ここで上条に同情され、励まされたくないのだ。
そんなことをされてしまったら、もうどうしようもなくなる。
自分の罪を告白して、実は辛いんです。なんて言って男に泣き付きたくない。
そんな強い意志を彼女は持っていた。
それに上条は気付いた。
懸命に泣くのを堪えて、悟られないようにしていることに上条はしっかりと気付いていた。
「お前はさ、確かに間違ったことをしたかもしれない」
その手で彼女の頭に触れる。
「それは決して許されないことなのかもしれない」
その手には包帯が巻かれている。
「けれどそこで立ち止まらなかったお前はもう、前のお前とは違うんじゃないか?」
その手は右手。
「お前はもう、ちゃんと前を向いていいと思う」
彼女の 〝自分自身への攻撃(幻想)〟を、その右手は壊す。
「だからさ。泣くのを我慢することはねえよ。少なくともさ、俺の前では」
そう言って上条は微笑む。優しく、子供をあやすように微笑む。
313 名前:pasuta ◆QXQDE8vvhs[saga] 投稿日:2010/05/01(土) 02:24:32.98 ID:q4fW2X.o [3/6]
「でも、私…」
「アヤは元気か?」
「はい。でも、わた」
「ちゃんと世話してあげてるんだろ?」
「ええ。でも」
「なら、もう自分を責めるな」
上条は強く断言した。
「もう、自分を傷付けるな」
それは優しくもあり、そして厳しい言葉だった。
「過去の自分を責めてどうする?それでどうなる?そんなものはお前の言う通り自己満足でしかない。泥に浸かってそこで、力を振り絞って駆け上がることを諦めているのと同じだ」
上条は心理掌握の目をしっかりと見据える。
「確かに罪を忘れることなんてよくないかもしれない。――だが、」
上条は断言する。
「罪を背負うと決めたんだろ?彼女を、アヤを守ると決めたんだろ!?」
その問いかけに心理掌握は目の色を取り戻す。
「だったら!もうこんなウジウジする必要はねえ!しっかりと、支えてやれよ!それがお前のやるべきことで、やりたいことだろ!?」
心理掌握は言葉を返せない。
「…ッ…ぅぁ……うぅ…」
ただただ涙を流す顔を隠し、嗚咽を吐き出しながら頷いていた。
319 名前:pasuta ◆QXQDE8vvhs[saga] 投稿日:2010/05/01(土) 21:47:49.53 ID:q4fW2X.o [4/6]
そんな様子を垣根帝督は不機嫌そうに見ていた。
「どうしたの?」
パフェをあどけない表情で頬張るフレンダが首を傾げる。
「いや、なんでもねえよ」
帝督の顔付きは変わっていた。
そこにあるのは不満。
明確な負の感情というよりは気に喰わないとでも言いたげな、そんな顔をしている。
「えっと、嫉妬…?」
「はぁ?俺があんなガキに興味あるとでも?小学生だぞ?」
「あ、そっちじゃなくて…なんでもない」
「てっめ、今そっちで考えたよな?考えたな?俺は違うって言ってんだろ!」
「あっははー、何のことやら」
「…たく。まあいい」
気分が削がれたのか、帝督はため息を付くとコーヒーを飲み干す。
「ああそうだ。一つ忠告してやるぞ」
「おや珍しい。どんな優しさで?」
目を丸くするフレンダにフッ、と帝督は鼻で笑う。
立ち上がると彼は指さし忠告する。
「この店、狙われてるから」
直後、ガラスが割れる。
店中のガラスが外から割れ、投げ込まれたのは爆弾。
「なっ」
フレンダが驚きの声を上げる。
帝督は先程と顔色一つ変えずに能力を発動する。
フレンダは上条のほうをすぐさま向く。
「かみ――」
声が届くより先に、爆発した。
破裂音とともに爆風が溢れ、店内が炎に包まれる。
320 名前:pasuta ◆QXQDE8vvhs[saga] 投稿日:2010/05/01(土) 22:03:10.46 ID:q4fW2X.o [5/6]
「はっはー!」
帝督は笑う。
炎に包まれた店内で一人、笑っていた。
「とんだクソ野郎だな。こんな真昼間からド派手にファミレス襲撃とはよ」
彼の身体の一つとして傷付いていない。
飛び散ったガラス片も、爆弾も、それによる爆風も、炎も、
何一つとして彼を傷付けることができない。
「おいおいこれで何人死んだんだよ。あーカワイソウだ。あーめん」
ふざけたように笑う。
そんな彼の表情は嗤い。
明らかな悪人のそれで、彼は炎の中に生身で佇んでいる。
背には二枚の羽。
「つーかさ。漫画だとよく主人公が炎の能力持つじゃん?あれってないよなー」
帝督は嗤う。
「だって焼かれんのって結構エグいんだぜ?おいお前、知ってっか?火で焼かれて焙られて焦げた人間ってさ、っはは!」
目の前の少年に嗤いかける。
「未元物質、か。貴様が幻想殺しの監視に付くとは」
そこにいたのは少年だった。
紫色のバンダナを付けた中学生くらいの少年。
帝督はその少年を観察し、笑む。
「ん?ああ、はいはい。見覚えあるわお前。確か、発電能力者(エレクトロマスター)だろ?」
紫色の少年は炎の向こうで佇む。
その目には殺気しかない。
「なんだっけ、あ、そうそう――」
小馬鹿にするように帝督は嗤う。
「――超電磁砲(レールガン)のスペアプランだったな」
323 名前:pasuta ◆QXQDE8vvhs[saga] 投稿日:2010/05/01(土) 22:27:06.28 ID:q4fW2X.o [6/6]
「つーか、あれだ。俺監視じゃねえし」
「何を惚ける。未元物質が表側に行ったと聞いた。監視でもなければ」
「あっははー!バッカかお前。なんでこの俺が監視なんかすんだよ?そんなの低レベルのザコの仕事だろ?」
紫色のバンダナの少年は訝しむ。
帝督は告げる。
「だから言ってんだろ?俺はてめえみたいなのから幻想殺しを守る。――護衛(ガードマン)だってよ」
炎の中。
一点に彼はいた。
幻想殺しの少年は、心理掌握の少女を抱きかかえたまま床に伏せていた。
無傷の上条当麻を見遣り、紫色のバンダナの少年は眉を潜める。
「確実に殺ったと思ったが」
「はは!確かに幻想殺し相手に爆弾を投げるのはよかったな。異能の能力(ちから)でない爆弾を電気で操って投げ込もうが、あいつには防げねえよ」
だがな、と帝督は続ける。
「俺の未元物質に常識は通用しねえ。空気中に散ばした未元物質の全てを上条に打ち消されるわけでもない限り、あいつには傷一つ負わせられないぜ?」
「結局、一人でカッコつけないで欲しい訳よね」
フレンダがそう不満を零す。
彼女は帝督の隣に寝転がっていた。正直ダサいと帝督は感じた。
「ああ?なんだお前生きてたのか。てっきり爆発で吹っ飛んだかと思ったが」
「バカにしないで欲しい訳よ。…全く、もっと早く教えないから上条に盾投げるのに必死だったじゃない」
「それで自分はコケてんのか?お前、アホだなぁ」
「あなたの周囲に未元物質があるんだもの。助かったわ」
「うっわ。ずりい」
「カッコつけてるんだからいいじゃない?ちなみに上条を守ったのは私の盾よ」
フレンダが顎でそちらを指す。
上条当麻と心理掌握の前に転がるのは、盾をモチーフにした紋章のある大きな半透明の盾。
「風紀委員(ジャッジメント)の盾か。あれ結構頑丈なんだよな」
327 名前:pasuta ◆QXQDE8vvhs[saga] 投稿日:2010/05/02(日) 00:33:03.68 ID:FfscYtso [1/12]
「おい!何がどうなってんだよ」
上条が声を張り上げた。
ただの転校生のはずの垣根帝督が、よくわからないことを口走っている。
フレンダがその隣で余裕そうに佇んでいる。
そして、火の海と化したファミレス。
「おい!聞こえないのか!?人が、焼かれてるんだぞ!?」
上条の言葉に、帝督はようやく気付いた。
あまりに帝督にとってどうでもよかったため気付かなかった。
店内では大けがをしている人間がたくさん転がっていた。
「ああ。生存者がいるのか」
と、帝督はどうでも良さそうに呟く。
「どういうことだよ垣根、そしてフレンダ!お前ら、なんでそんな、――ッ!おいお前、大丈夫か!?」
上条は帝督やフレンダに問いただしたかったのだろう。
だが、目の前で苦しむ人間を優先しなくてはならない。
「これだけ騒ぎならもう来ると思うが。悪い、警備員に電話を!」
上条は心理掌握の少女に携帯電話を放る。
「は、はい」
そんな様子を外から紫色のバンダナの少年が見下す。
彼の後ろでは、街の人々が騒ぎにかけつけるも恐怖から離れている。
「とりあえず死ね、幻想殺し」
紫色の少年はリボルバー式の拳銃を引き抜くと上条に撃つ。
弾は上条に届く前に空中で爆破する。
帝督の未元物質だ。
チッと紫色の少年が舌打ちする。
そんな少年の胸元目がけてフレンダが小型ミサイル砲を撃つ。
真っすぐに向かうミサイル。
少年が手の平をかざす。
電撃が放たれ、ミサイルが破裂する。
爆風が店内を襲う。
機具は砕け飛び散り、炎は勢いを増す。
「何がスペアプランだ。アレイスターの計画など俺が壊してやる」
紫色の少年が指を鳴らす。
巨大な電撃が中から焼かれる店内に放たれる。
328 名前:pasuta ◆QXQDE8vvhs[saga] 投稿日:2010/05/02(日) 00:50:37.37 ID:FfscYtso [2/12]
急に、水の塊が現れた。
それは鞭のようにしなやかで長い。
太さは人の腕程度。
それが、遠くから振るわれた。
少年は気付かなかった。
何故ならそれは振り下ろすように上方から振るわれたのだ。
紫色の少年と、ファミレスの合間に。
電撃をそれが防ぐ。
水の塊は電撃を通さない。
「純水だ」
歩いてくる男が言う。
ビジュアル系のような黒白を基調にした服装の男だ。
黒い髪を肩口まで伸ばした男。
服にはジャラジャラと貴金属のアクセサリーがたくさん付いている。
首から下げた鎖型の銀のネックレスには銀の指輪がぶら下がっている。
「貴様如きの電撃は絶縁体である純水を通すことができないぞ」
その男――雨蛙のリーダー、平助がその手に持つ物を構える。
長ドスの柄。
そこから伸びる水の塊は蛇のようにうねる。
全長はファミレスの端から端まであるほど大きい。
「対暗部か」
「急患が出たようでな。患者を引き取りに来た」
平助はファミレスを指さす。
ざわつく街に救急車の音が鳴り響く。
同時に消防車と警備員の車も駆けつける。
「だから貴様は潰れていろ」
平助が水蛇を振るう。
紫電が迸る。
紫色の少年が電力を使って高速移動をしたのだ。
水蛇は少年に避けられ、地面に叩きつけられる。
四方八方に水が飛び散るかと思いきや、それは一点に集まる。
そうして再び蛇の形を取り戻すと地面を這う。
確実に紫色の少年を狙って包囲する。
蛇の締め付けのように少年を押し潰す。
「が、ゴバぁ!ぼがぁが」
大きな水の塊に少年が捕えられる。
その中で息を吐き出し、少年は溺れもがいている。
329 名前:pasuta ◆QXQDE8vvhs[saga] 投稿日:2010/05/02(日) 01:09:35.93 ID:FfscYtso [3/12]
「今トドメを刺すわ」
フレンダが小型のレディース拳銃を構える。
「俺の前で人殺しはさせない」
平助が水蛇でフレンダを威嚇する。
フレンダは仕方なく銃を降ろす。
「っておいおい昨日のお前かよ!」
帝督がニヤリと笑う。
「レベル5か。どうやら俺の邪魔をするわけではないみたいだな」
「結局、私達は上条のボディーガードって訳なのよ?だから安心して」
「そうか」
「全く、使えないわねー」
そこに、女の声が聞こえた。
帝督、フレンダ、平助がそちらを向く。
突如眼前に一人の少女が現れたことに気付く。
銃声が立て続けに三度鳴った。
「テレポーターか!」
平助が怒鳴る。
銃弾は紫色の少年を的確に撃ち殺していた。
「ごぁパ…!」
水の塊の中で、紫色の少年は心臓と首と腹を撃ち抜かれ、絶命する。
平助が能力から解放するも遅い。
即死だった。
「それじゃ、また会いましょう?対暗部に幻想殺し」
長い髪に黒いヒールの女はすぐさまテレポートしてその場を去る。
警備員と救急車と消防車が配置に着く。
遅すぎる到着に平助は顔を歪めた。
347 名前:pasuta ◆QXQDE8vvhs[saga] 投稿日:2010/05/02(日) 15:26:15.68 ID:FfscYtso [4/12]
「どういうことだよ…」
上条が言葉を漏らす。
店は消火が終わり、黒く焼け焦げた跡が残っている。
「簡単な話だ。俺はお前の護衛に来た」
帝督がどうでもよさそうに答える。
「護衛?」
上条の隣では心理掌握の少女が黙って座っている。
ファミレスだった場所の前の通り。そこのベンチに上条たちは座っていた。
「お前のその右手。幻想殺しを狙ってやってくるやつらがいてな。そいつらからお前を守るのが俺の役目だ」
「それは…誰の指示なんだ?」
「言えないな。いや、言うつもりはない」
「そうか。そのためにお前は俺の学校に転校してきたのか?」
「ああ」
「悪かったな。俺のために」
「…は?」
上条の言葉の意味がわからずに帝督は眉を寄せる。
「何言ってんだお前?ストーカー紛いの監視されてたようなもんだぞ?」
帝督の問いかけに上条が顔を上げる。
「それこそ何言ってんだよ垣根。別にお前が嘘吐いてたわけでもないし、嘘吐いていても構わない。お前にはそれをやらなくちゃいけなかったんだろ?なら何の問題もねえじゃん」
その言葉に帝督は笑う。
気分良さ気に笑う帝督に対し、フレンダの表情は優れない。
フレンダは突っ立ったまま目を逸らしていた。
上条から逃げるように。
上条から告げられる言葉が怖くて。
今までずっと隠していたことについて。
348 名前:pasuta ◆QXQDE8vvhs[] 投稿日:2010/05/02(日) 15:35:12.04 ID:FfscYtso [5/12]
「フレンダ」
掛けられた言葉にフレンダは震えた。
「お前はいつから〝そこ〟にいたんだ?」
いつから、裏側にいたのか。
その問いにフレンダは答えられない。
「答えたくないのなら無理には聞かないが、俺にとってお前は唯一無二の幼なじみだからな」
そう。
幼なじみ。
上条とともに学園都市にやってきた、フレンダ。
正確には〝上条当麻に合わせて学園都市〟にやってきたフレンダ。
それが意味するのは一つ。
「わ、たしは…」
上条当麻の観察者、監視者。
それが役割。
学園都市にやってきた上条に出逢い。
それから何かと一緒にいて。
そうしてお盆などの帰省では上条に着いて行き。
上条の家族と出逢い。
そうして、こうして、それから、
全ては監視役。
同学年という。
たかだか6歳だからと疑われない立場から。
そうしてずっといて、幼なじみという立場を築き上げ。
フレンダは上条当麻の日常の一部となっていた。
「私は、上条の…」
震えるフレンダを上条は見遣る。
「いや、もういい。フレンダ。お前が何をしていようとお前は――」
上条は笑いかける。かつて心理掌握にそうしたように。
「――ずっと俺の側にいてくれた幼なじみ、それでしかないんだ。今さらどんな事実があろうと、結局この関係が変わるわけじゃない。そうだろう?」
上条は揺るがなかった。
心理掌握「うそ・・・上条先輩生きてたんですか!?」上条「?」2
に続きます
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