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唯「ホワイトエピローグ」

1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/19(月) 00:08:29.28 ID:QeC78LKq0 [1/42]
唯「うぅ、遅刻しちゃうよ~」
憂「お姉ちゃん、待って!」
私、平沢唯は双子の妹憂と共に学校の廊下を走っていました。
寝坊をしてしまい、いつもの登校時間を大分オーバーしていたものの全速力で
駆けてきたため、何とか間に合いそうです。
憂「もう大丈夫だからとりあえず止まって」
唯「え? あ、うん」
急ブレーキをかけて何とか踏みとどまろうとする私。
だけど、平沢唯は急には止まれないのです。
ベタン
間抜けな音をたてて、私は顔から床にぶつかってしまう。
憂「お姉ちゃん!?」
うぅ、鼻が痛いよ~。

2 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/19(月) 00:09:45.11 ID:QeC78LKq0 [2/42]
和「まったく、騒々しいわよ」
唯「あ、和ちゃん。おはよー」
憂「おはようございます、和さん」
さりげなく憂が私の鼻頭を撫でてくれる。
流石はできた妹!
和「はぁ、おはよう。それと廊下は走らない。基本よ」
憂「ご、ごめんなさい」
唯「ごめんね」
和「今度からは気をつけなさいよ」
そう言って、和ちゃんは自分の教室に入っていく。
憂「怒られちゃったね」
唯「うん」
和ちゃんの言うとおり今度から気をつけよう。
憂「って、私たちも教室に入らないと」
ドタドタと教室になだれ込む私たち。
走らないと決意して1秒でやぶっちゃった!

3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/19(月) 00:11:00.93 ID:QeC78LKq0
憂「はい、お姉ちゃん」
いつものように憂が私の椅子をひいてくれる。
恥ずかしいからいいよと前に言ったら『お姉ちゃんのお世話をするのは私の役割なの!』
と言い切られてしまって今では日常の光景になってしまっている。
慣れって怖いね!
でも、偉い人になったみたいで実は満更でもなかったり。

憂も席についたところで担任の先生が入ってくる。
ふぅ、ぎりぎりセーフだったね。

4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/19(月) 00:12:09.27 ID:QeC78LKq0
授業中を睡魔と戦いながらようやくやってきました、昼休み。
いつものように軽音部の皆と部室でお弁当の時間です。
律「いやー、それにしても今日はギリギリだったよな」
紬「そうね、見てるこっちがドキドキしちゃった」
唯「えへへ、すまねぇです」
澪「ん? 憂ちゃんがついていながら、遅刻しかけたのか?」
ちなみにこの中では澪ちゃんだけクラスが違うんだよ。
憂「お姉ちゃん、なかなか起きてくれなくて」
澪「そっか、憂ちゃんのことだから唯のことを強く起こすことはできなかったんだな」
憂「はい、そんな可哀想なことはできません!」
律「胸を張って断言しちゃったよ、この子」
紬「うふふ、寝顔は可愛かった?」
憂「当然です!」
唯「う、憂~」
何だか恥ずかしいことを言われたけど、それ以外は大体いつもどおりの昼休みだったかな。

5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/19(月) 00:13:01.93 ID:QeC78LKq0
ほうかご!
唯「あずにゃ~ん」
だきっ
梓「ちょ、ちょっと唯先輩!」
今日も軽音部の見学に梓ちゃんがやってくる。
他の部と迷っているみたいで、今は体験入部をして感触を確かめているみたい。
でも、結構頻繁に軽音部に来てくれるし、音を合わせたりとかもするので、
ほとんど部員みたいな感じだね。
このまま決めてしまえば良いのに、と憂とよく話したりするものの未だにあずにゃんは
フリーだった。

7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/19(月) 00:15:00.06 ID:QeC78LKq0
ティータイム&練習中!
律「ふう、今日もいっぱい練習したぜ」
唯「そうだね、りっちゃん!」
ぽかっ
あ、りっちゃんが澪ちゃんに叩かれた。
澪「ほとんどティータイムだけで終わっただろ!」
紬「うふふ」
澪ちゃんがりっちゃんを叱って、ムギちゃんが優しく微笑む、そんな光景に何となく
安心できる。
梓「相変わらず困った先輩方です」
憂「ごめんね、梓ちゃん」
梓「いいえ、体験入部している身ですから気にしないでください」
でも、あずにゃん、すっごく不機嫌そうだよ?
やっぱり練習するのが好きだからかな。
うん! せんぱいとして練習がんばらないとね!
……明日から。

8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/19(月) 00:17:09.04 ID:QeC78LKq0
ゆうしょく!
唯「今日も憂のごはんおいしゅうございました」
憂「うん、お姉ちゃんのために頑張ったよ!」
唯「毎日おいしいご飯が食べれて私は幸せです」
憂「幸せそうなお姉ちゃんかわいい!」
唯「それじゃ、部屋でギー太の練習してるね」
憂「うん、私は洗い物終わらせとくね」
はっ!? このままじゃ私ニートみたいだよ!
唯「……私も手伝おっか?」
何もかも憂にまかせっきりじゃいけないよね。
憂「駄目だよ! お姉ちゃんにそんなことさせられない!」
唯「う、うん」
今日も憂は過保護です。

9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/19(月) 00:17:55.88 ID:QeC78LKq0
ふっふーん。
今日は遅刻しないで学校に来られたよ。
憂「得意そうにしているお姉ちゃんかわいい!」
律「お? 今日は遅刻しないで来れたな、感心感心」
紬「おはよう♪」
唯「おはよう、りっちゃん、ムギちゃん」
憂「おはようございます」

…………
律「それでさ、昨日聡の奴がさ~」
紬「うふふ」
憂「それはちょっとひどいですよ~」
唯「そうだよひどいよ、りっちゃん」
律「なにおぅ!?」
唯「りっちゃんが怒ったー」
紬「うふふ」
やっぱり皆が居ると楽しいよね。
澪ちゃんも同じクラスだったら良かったのに。

10 名前:あぼ~ん[NGWord:あずにゃんにゃん] 投稿日:あぼ~ん


11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/19(月) 00:19:59.26 ID:QeC78LKq0
きゅうじつ!
唯「憂? うーいー」
昼過ぎに目を覚ますと、珍しく憂の姿が見当たらなかった。
うー、お腹すいたなー。
唯「居ないのかな?」
憂の部屋に入る。
そういえば憂の部屋に入るのも久しぶりだな~。
憂はやっぱり居ない。
うーん、買い物かな。
待ってればすぐに帰ってくるよね。
憂の部屋を出て行こうとして、机の上に目がいく。
これ何かな?
ボロボロのノートがそこにはあがっていた。
何度も何度も使ったような年季のこもったノート。
興味を惹かれた私は憂には悪いと思ったけど、ノートを開く。

そして──

唯「なに、これ……?」


12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/19(月) 00:21:51.84 ID:QeC78LKq0
そこに書かれていたことは私の想像を遥かに超えていた。
そして、同時に私は全てを理解して、ううん思い出したんだ。
唯「そっか……そういうことだったんだね……」
夢の中に居るようなぼやけた感覚はなくなり、私の世界が色彩を取り戻していく。
たぶん私はようやく私に戻ることができたんだと思う。
ノートに書かれていたのは憂の日記だった。
それもある時から始まる特別な意味を持つ日記。
1ページ目は憂のこんな言葉から始まる。

13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/19(月) 00:25:51.54 ID:QeC78LKq0



『私はお姉ちゃんを殺した犯人を絶対に許さない』




14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/19(月) 00:27:33.22 ID:QeC78LKq0
──そう、私は死んだ人間だったのだ。

考えてみればおかしなことはたくさんあった。
憂は何故私の椅子をひく?
お昼休みはいつから部室でとるようになった?
憂以外の人が私に話しかけてきたことはあったか?
憂はいつから軽音部員だった?
いくらなんでも憂は過保護すぎではなかったか?

いつどんな場面でも私の側には必ず憂が居た。
おそらく私に死んでしまったことを気づかせないために。
ただ一人私が見える憂だから、できることだった。
そして、それがどうしようもないほど悲しくて、嬉しかった。


16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/19(月) 00:35:50.75 ID:QeC78LKq0
憂の居る場所に目星はついていた。
……殺されたのが当の本人だからね。
あのノートを見る限り、憂は独力で私を殺した人間を探しているようだった。
そうなれば、憂が犯人にたどりついた可能性は非常に高い。
現に、今この瞬間私の側に憂が居ないことが何よりの証拠だったから。
だから、一刻も早く私は向かわなければならない。
日常を変わらず提供してくれた憂に恩を返すためにも。
何より一番大切な妹を助けるためにも。
私は犯人のもとへと大急ぎで駆けていった。


18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/19(月) 00:37:22.38 ID:QeC78LKq0
真実に気づいた瞬間から私の砂時計は動き出してしまっていたらしい。
先ほどまで何不自由なくものを掴むことのできていた私の手は、意識を集中させないと
何一つ触れることさえできなくなっていた。
扉はあける必要もなく、透過して進むことができる。
これじゃ、本物の幽霊みたいだ。
ううん、私はとっくに幽霊だった。
ただ、憂が忘れさせてくれていただけで。
多分私にもう時間はほとんど残されていない。
だけど、その時間を使ってでも私は憂を助けなければならない。
他の誰でもない私が私の意志で助けたいと思うから。


19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/19(月) 00:47:37.94 ID:QeC78LKq0

============
場面転換:憂
============



20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/19(月) 00:48:20.49 ID:QeC78LKq0
憂「真鍋和っ!!」

和「あらあら、怖いわね」

憂は和の自宅の倉庫で、天井から鎖で吊るされていた。
憂が動くたびに厚手の鎖がジャラジャラと音をたてる。
真相にたどりついたものの、彼女は逆に囚われの身となっていた。

憂「もう一度聞きます。お姉ちゃんを殺したのはあなたですか?」

和「正解。ほめてあげるわ」

憂「……っ!」

真相を知った今でも憂の心は半信半疑であった。
自身の幼馴染が姉に手をかけるなど信じることはできないし、信じたくもない。
なのに、和はそれをあっけなく認めた。
その態度に憂の胸中は荒れ狂っていた。


21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/19(月) 00:50:27.97 ID:QeC78LKq0
和「あまりの怒りで声もでない?」
和「それじゃあ、代わりにあなたが聞きたがっているだろうことを答えておいてあげる
和「唯を殺したのは間違いなく私。傑作だったわよ、何も知らずのこのこやってきて、
それでグサリと刺して、はいお終い。思わずイキそうになったわ」

憂「ふざけるなっ!」

感情が爆発した。
それなのに和はどこ吹く風という様子で、涼しい顔で受け止める。

和「ふふ。あなたが悪いのよ憂」
和「こんなにも私の心を掴んで離さないあなたの存在が私にそんなことをさせてしまった」

憂「まさか……。私の代わりに……お姉ちゃんを、……こ、殺したっていうの……?」


22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/19(月) 01:02:33.31 ID:QeC78LKq0
和「当たり前じゃない。私の憂を独占するような悪い子にはお仕置きが必要でしょう?」

憂「く、狂ってる」

和「ふぅ、仕方がないでしょ。それが私の性癖なんだから」
和「私はね憂。人を好きになれば好きになるほど、その人を殺したくなるの」
和「そして、唯を殺した時に分かったわ」
和「その行為を行うことで私はとてつもないオーガニズムを感じることができる」
和「唯の時であれだったのだから、憂だったらどうかしらね」

ゾクリ

憂の背筋に悪寒が走る。
ようやく彼女は目の前の女が異質な存在であることを理解していた。
幼馴染であった昨日までの日々など、その異質さの前では霞んでしまう。
決して理解できない存在、それが真鍋和だった。

23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/19(月) 01:12:05.66 ID:QeC78LKq0
和「そうそう、あなたを殺す手段はもう考えているのよ」
和「ナイフは楽しかったけど、あれには美がないわ」
和「だから今度は落下死なんてどう? トマトみたいに潰れるなんて美があるとは思わない?」

落下死。
そう言われて憂は初めて自分の置かれている状況を確認する。
天井から吊り下げられた体。
ちょっとやそっとでは千切れそうにない重厚な鎖。
3階建ての建物並みの高さのある天井。
ぶつかったらただでは済みそうもないアスファルトの床。
揃いすぎた要素。
自身の死の姿を想像することは容易すぎた。


25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/19(月) 01:16:04.87 ID:QeC78LKq0
和「それで私の持つこのリモコンでね……」

そう言って和はリモコンのボタンを押す。
同時に天井から機械音が聞こえ、憂の体が天井へと吊り上げられていく。
辛うじて床についていたつま先はすでに遥か上へと上っている。
ガクンという振動と共に機械音が止まる。
憂の身体は限りなく天井と接していた。
ここから落下すれば、もはや最悪の結末が待っていることは明らかだった。

和「ふふっ、顔面蒼白よ憂」

そして、和は憂に見えるようにリモコンを再度押そうとする。
思わず目を瞑る憂。
しかし、いくら待てども落下の衝撃はやってこない。
恐る恐る目を開けてみる。
何一つ変わらない光景が広がっていた。
もちろん、憂の身体も健在であった。

和「押すと思った? ふふっ、楽しい時間は長い方が好みよ」
和「それに憂のその怯えた表情最高よ」


26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/19(月) 01:19:11.76 ID:QeC78LKq0
和「そうそうこのボタンが上下に鎖を動かすもので、こっちが鎖を外すボタンよ」

あえてその情報を教えることで、憂は自然とボタンに触れる指の動きまで注目しなければ
ならなくなる。
正常な視力の持ち主である憂にとってはギリギリ視認できるその距離が憎らしいものと
なっていた。
そして、それは想像以上の恐怖へと繋がる。
いつ落下するとも分からない状況におかれ、憂の精神は緊張と恐怖で限界だった。
本来であれば唯の敵討ちを行わなければならないのに、今できることといえば
その憎い敵に吊るされ、怯えることだけ。
その惨めさもまた憂の心を蝕んでいく。

今の和にとっては、憂のそんな心の動きさえ愉悦の糧であった。


27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/19(月) 01:22:18.38 ID:QeC78LKq0
和がボタンに触れようとし、しかし実際に触れることはなく、憂の姿を眺める。
憂は緊張に体を強張らせ、恐る恐る自身の体を確認し、一瞬の安堵を得る。
そんな繰り返しが何度続いたことだろうか、和にも飽きが見え始めていた。

和「そろそろ頃合かしら」

上気した顔で和が最終通告をする。

和「さようなら憂。愛しているわ」

和の指が遂にボタンに触れ、鎖が外され──


28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/19(月) 01:25:18.87 ID:QeC78LKq0

唯「させないよ!」

唯が和の至近距離まで迫っていた。
幽霊であることを受け入れた唯はその利点を最大に発揮させ、この場に駆けつけていた。
憂はそんな唯の存在に誰よりも早く気づき、嬉しさと共に悲しさで胸が押しつぶされそうに
なっていた。
唯が偶然この場に現れることなどありえるはずはないのだ。
だとしたら、ここに居ることは必然でしかない。
それはつまり、姉が全てを知ってしまったということでもある。

それでも絶体絶命の危機に駆けつけた姉の姿は憂にとっては誰よりも眩しいものであり、
思わず涙を流していた。


29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/19(月) 01:28:14.36 ID:QeC78LKq0
唯の腕が和のリモコンにのびる。
これで終わりだと唯は思った。
こんな馬鹿げたことはもうお仕舞いにしたかった。
この段階に来て、唯は何故自分が和に殺されたのか理解できていなかった。
自分を刺殺して愉悦の表情を浮かべていた和を唯ははっきりとその目で見ている。
それでもなお、彼女は和に何か事情があったのだと信じたかった。
もちろん、現実で考えてそこに唯が納得できる理由などあるはずはない。
それでも、唯にとって和はたった一人の幼馴染で親友であったのだ。
だから、和が悲しいことに手を染めていくのをこれ以上見たくなかった。

唯(これで終わりにしよう、和ちゃん)


30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/19(月) 01:34:55.45 ID:QeC78LKq0

しかし──

和「ごめんね唯」

寸前で和の手が引かれ、唯の腕は空を切る。


31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/19(月) 01:42:11.85 ID:QeC78LKq0
和「見えていないとでも思った?」
和「だとしたら私の演技も大したものでしょう?」

勝ち誇った表情で和がそう告げる。
彼女は今の今まで唯の姿が見えていながら、その全てを無視し続けてきた。
他者にとっては唯の姿が見えていないことが正常であり、和の判断はある意味で
正解とも言える。
現に憂やその協力者である軽音部のメンバーは他者から奇異の目で、唯の死によって
おかしくなったと思われていたのだから。

唯の最大の利点が失われ、振り絞った最後の力も底をついた。
仮に唯の手が和に届いたとしても、もはや彼女はものに触れることができなくなっていた。
和「ふふっ、あなたが見えていた私の勝ちよ」

再び和はリモコンに指を伸ばす。
今度こそ終わりだった。


32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/19(月) 01:46:24.86 ID:QeC78LKq0



梓「でも、私の姿は見えていませんでしたよね?」





33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/19(月) 01:47:35.82 ID:QeC78LKq0
何故という表情で唯はその後輩の姿を見ていた。
唯の理解が及ぶ前に、梓は和の手からリモコンを奪いとっていた。

和「なに!? なにをしたというの唯!」

突然手の中からリモコンが失われ、初めて焦りの表情を和は浮かべた。


34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/19(月) 01:48:42.52 ID:QeC78LKq0
中野梓は数年前に音楽準備室で不慮の事故を遂げた生徒だった。
彼女は成仏することなく、音楽準備室に居座り、生徒を見守り続けてきていた。
どういうわけか平沢姉妹にはそんな彼女の姿が見え、唯が幽霊になってからは律たちと
同様に唯が日常を送れるように手伝いをしていた。
そんな流れで今日もまた梓は憂に頼まれ、憂の留守の間、唯の様子を見守っていたのだった。


38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/19(月) 02:25:13.85 ID:QeC78LKq0
形勢は完全に逆転していた。
憂の命を握るリモコンは今は梓の手の中にあり、和の思い描く結末はおとずれることはない。
代わりに唯の望んだ結末がここにはあった。

梓「やれやれです」

ため息をつきながら梓が手の中のリモコンを眺める。
意外にボタンの数が多く、どれが憂を降ろすボタンなのか判別はつかなかった。

唯「あ、あずにゃん……?」

未だに状況の理解できていない唯が梓の名前を呼ぶ。
そこに様々な疑問が含まれていることは明白であったが、梓にとっての今の最優先は
疑問に答えることではない。

梓「説明は後です。今は憂を助けましょう」

そう言って梓は目の前の和を睨み付ける。

梓「そのためにも、このリモコンの使い方を知る必要があります」


39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/19(月) 02:29:05.37 ID:QeC78LKq0
和「くっ!」

梓の姿が見えない和ではあったが、雰囲気に気圧されたのか思わず後ずさる。
そして、そのまま反転、駆け出す。
梓は一片たりとも油断をしていたわけではない。
あえて言うなら反射神経の差と地の利だろうか。
和に一瞬でも逃げる時間を与えてしまった。
梓も急いで追いかけるが、僅かに遅れる。
和は最後の足掻きと近くの柱を殴りつけていた。
そこには鎖を吊り下げる機械の手動用スイッチが並んでいた。
憂と梓はすぐにそれが何を意味するのか気づく。

──だけど、全ては遅かった。


40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/19(月) 02:30:54.18 ID:QeC78LKq0
鎖が機械から切り離される。
瞬間、憂の体を支えているものがなくなり、浮遊感。
憂の体があっけなく落下していく。
間に合わない。
間に合うはずもない。
その一瞬で反応できる者も、憂の近くに居た者も残念ながらこの時点ではいなかったのだから。
和が恍惚に笑う。
梓が歯を食いしばり、落下する憂の姿を凝視する。
憂が一瞬後の落下の恐怖に目を硬く閉じる。
誰もが諦めていた。
これで終わりだと受け入れるしかなかった。


41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/19(月) 02:33:24.53 ID:QeC78LKq0



──だけど、ただ一人だけ諦めていない者が居た。





42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/19(月) 02:34:40.07 ID:QeC78LKq0
唯(絶対に憂を助けるんだっ!!)

間に合うはずのない距離を唯が駆けていく。
まるで唯の想いが力を与えているかのように彼女は加速していく。
それは人間では出すことのできない速度だった。
彼女が人間ではなく幽霊だったからこそ出せる限界を超えた速さ。
だから、彼女は最愛の妹が落下しきる前にそこにたどりついていた。
唯は憂を受け止めようと手を伸ばす。
最早彼女の手は何も触れることができない。
それなのに、彼女の手が憂の体に触れる。
衝撃。
生前の唯では絶対に支えることのできなかった衝撃だった。
だけど、彼女はもはや生きている者ではない。
支えきる。

唯は憂を救うことができていた。


43 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/19(月) 02:36:02.42 ID:QeC78LKq0
限界を超えれば、それは終わりへと繋がる。
確かに唯は憂を助けることはできていた。
だけど、それは自らのわずかな時間を全て注いだからこそ可能な奇跡だった。
故に、唯の身体は徐々に薄くなり、そして──

憂が目を開く。
そこには最愛の姉の笑顔が広がっていた。
憂「お姉ちゃん」
朝の目覚めのように穏やかな声で憂が姉を呼んだ。
それに答える様に唯は笑顔のまま頷く。

──唯はその存在を失った。


44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/19(月) 02:38:55.54 ID:QeC78LKq0
エピローグ

あれから様々なことがあったような気がする。
あの人は法のもとで裁かれ、お姉ちゃんのために協力してくれていた律さんたちは
日常へと戻り、梓ちゃん……いえ梓さんは以前と同じように音楽準備室で私たちを
見守っている。
もう立ち直れないかとも思ったけど、皆に支えられて私は何とか今日も生きていた。

──スポットライトの下、私はギー太を構える。


45 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/19(月) 02:40:18.20 ID:QeC78LKq0
振り向けば今もそこにお姉ちゃんが居るような気がする。
だけど、そんなことはありえない。
あの日々が特別だっただけなのだ。
奇跡のように幸せだったから、尚更切なくなってくる。

──律さん、澪さん、紬さんもそれぞれの愛器を構え、私に合図を送ってくる。


46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/19(月) 02:41:23.53 ID:QeC78LKq0
未だに現実を受け入れることは辛いけど、少しずつ私は前向きになっているのだと思う。
だって、私は誓ったのだから。
お姉ちゃんの分まで生きる、それが姉にもらった命の使い方だった。

──舞台裏で梓ちゃんがギターを持って、私に頷いた。


48 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/19(月) 02:44:02.55 ID:QeC78LKq0
そして、お姉ちゃんの愛した放課後ティータイムに私は今所属している。
お姉ちゃんの音を皆に届けるために。
お姉ちゃんが生きた証を奏で続けるために。

──皆の準備が整ったようだった。


49 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/19(月) 02:45:32.55 ID:QeC78LKq0
ここは文化祭のステージ。
お姉ちゃん、見ていてくれているかな。
私は今お姉ちゃんと同じ場所に立っているよ。
お姉ちゃんに追いつくにはまだまだ全然足りないけど、きっといつか追いつくから。

──スポットライトの白い明かりに照らされて、私は告げる。

憂「それでは1曲目──」


50 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/19(月) 02:46:40.94 ID:QeC78LKq0



唯「ホワイトエピローグ」終




54 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/19(月) 02:52:55.40 ID:QeC78LKq0 [42/42]
原作:『けいおん!』&『White Epilogue』

スレタイからも分かるように元ネタはWhite Epilogueというノベルゲームです。
ほぼ原作に沿って書きましたが、一部独自の解釈も入っています。
原作が気になる方はフリーゲームですので、検索してみるのもいいかもしれません。

あと和ちゃんごめんなさい。
役割上ああなっちゃいましたけど、原作の彼女は本当に良い子なんですよ。

慣れない部分はありましたが、お付き合いいただきありがとうございました。

ではでは。

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