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律「すきっぷ!」

1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/14(水) 22:27:29.49 ID:EEFlfTzmP [1/27]
梅雨の湿った朝

窓から見える暗い空を眺めながら 田井中律は布団の中で小さく呻いた

彼女は朝に弱い

いや、こんな朝が得意な人間などいないだろう

普段は元気な明るいムードメーカーで通しているが

目を覚まして数十分は、亀のようにごそごそと体を揺らすことしかできない

眠さやしんどさと同時に

今日の国語の小テストと英語の発表とその他諸々の面倒な授業を思い出してしまい

益々起きる気が失せていく

4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/14(水) 22:28:37.21 ID:EEFlfTzmP
「姉ちゃん、そろそろ起きないと遅刻じゃねーの?」

弟が気を利かせて起こしに来る

可愛い弟の好意を無駄にはしたくないが

どうも今日はいつもに増して調子が悪い

ぽつ ぽつ と音がするので まさかと思い窓の外を見ると

冷たい雨まで降り出した

「今日はもういいよ・・学校休むわ・・・」

下がりきったテンションは彼女を布団から出させることなく

義務の放棄を選択する

6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/14(水) 22:32:12.76 ID:EEFlfTzmP
厄介事は回避できた

その達成感と解放感に浸りながら

昼の退屈なトーク番組を見て、菓子を貪る

主婦のような娯楽を堪能している内に 律は妙な気配を感じた

今家にいるのは自分一人のハズなのだが 

どうもおかしい

間違い無く知らない誰かが家にいるのだ

眉をしかめながら階段を昇り 自分の部屋へ

ドアを開けると

見たこともない老紳士が 興味深そうに律の布団を観察していた

「お、おい!誰だよお前!」

思わず怒鳴る

突然の侵入者に対しても不思議と恐怖は感じなかったが

自分の寝ていた布団を まじまじと眺められるのはあまり気分の良いものではない

7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/14(水) 22:34:24.54 ID:EEFlfTzmP
「おや、ようやく見つけました・・」

老紳士は帽子を手に取り一礼すると、自己紹介を始める

未来から来たと言う老紳士は

大勢の心を覗きながら 人探しをしていたらしい

自分の処理したい道具を 必要としている人間を

8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/14(水) 22:38:28.51 ID:EEFlfTzmP
律は怪しいと思いつつも とりあえず相手の言うことに乗ってみる

こういう話は嫌いじゃないのだ

「んで、おじさんは何を売りに来たわけで・・?」

「こちらです」

そう言うと 老紳士は小さく透明なガラス板を取り出した

ガラス板の表面にはデジタルな数字が三列

00 00 00

00 00 00

00 00 00

並んでいる

何に使うものなのかよくわからないが

彼女の部屋に飾るには、十分お洒落なインテリアだ

11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/14(水) 22:43:20.00 ID:EEFlfTzmP
老紳士は説明を始める

「これは跳躍時計と言いまして、時間を吹き飛ばす道具で御座います」

「時間を・・?」

「はい。一段目と二段目の数字で吹き飛ばす時間を指定します」

「・・・待ってくれ」

「三段目は普通の時計です。まだ未設定ですが」

「タンマタンマ!吹き飛ばすってどういう意味だよ?」

時間を止める ならわかる

時間を戻す 進める のもわかる

しかし吹き飛ばすという表現はイマイチ理解できない

13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/14(水) 22:46:04.53 ID:EEFlfTzmP
「吹き飛ばすというのは 正確には記憶しない、意識しない内に時間が過ぎるのです」

「うーむ・・・」

老紳士は付け加える

「また、その跳んだ時間の間 あなたは行動をするのです。無意識に・・」

「つまり・・勝手にメシ食べてくれたりとか・・?」

「はい。勝手というか、跳んでる時間のあなたが選択した結果なのですが」

説明を聞いてみても 正直よくわからない

彼女は深く考えるのが苦手な人間なのだ

しかし なんとなく使えそうな道具だとは勘付いた

具体的には浮かばないのだが

14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/14(水) 22:47:52.82 ID:EEFlfTzmP
「これ、くれるんですか?」

それを聞いた老紳士は 少し困った顔をした

「いえ 何でもいいのでこの家の物を六つください」

「六つ?」

「はい。この時代の物は価値が・・」

律は机の上にあった 使いかけのリップクリームとシャープペンの芯入れを掴み

老紳士の前に突き出す

「この二つでいいだろ!」

「できれば あと四つ・・」

「私の使ったリップとシャー芯、アンタ最初からこれ目当てだろ?」

「いえ・・」


その後三十分程値切りは続き

結局根負けした老紳士は交渉を成立させ未来へ帰って行った

強引さ 力強さは 彼女の持つ長所の一つなのだ

16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/14(水) 22:52:11.90 ID:EEFlfTzmP
とりあえず跳躍時計を試用してみることにしたが 説明書も注意書きも付いていない

もう少し丁寧に説明を聞いておけばよかったと思いつつ

時計の裏に付いているダイヤルの一つをいじってみた

一段目の数字が 1 2 3・・・ と変化する

どうやら24時間表示らしい  二、三段目も同じ要領で設定し

表示は

13 20 00

13 30 00

13 15 30

となる

18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/14(水) 22:57:11.82 ID:EEFlfTzmP
「こうすればあと4分30秒後にその10分後の世界へ吹っ飛ぶらしいけど・・」

期待と同時に多少の恐怖を孕みながら

ベッドに寝転んで4分30秒を待つ

もし効果が本物だったら 一体どう使おうか

そんなことを考えながら まばたきを一つした瞬間




彼女は何時の間にか 

リビングで菓子を頬張りながらテレビを見ていた


「・・・・!?」



驚きを隠せず 鼓動が騒ぐのをそのままに時計を見ると

1時30分

間違い無い 本物だ

20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/14(水) 22:58:36.29 ID:EEFlfTzmP
状況から鑑みるに

どうやら自分はあの後考えるのに疲れて テレビと菓子に逃避したようだ

確かに少し頭が痛いような気がする


安全なのを知るともう数回試す

20分 40分 1時間と時間を延ばし

あっという間に夕方になった

23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/14(水) 23:05:24.01 ID:EEFlfTzmP
実際に吹き飛んでみて いくらかわかったことがある

まず記憶はまったく残らない

いきなり移動したような感覚で 何をしたのかは状況から推測するしかない

これは少し不便だったが 

考えようによっては

記憶に残すのも嫌なイベントは、ほぼ無かったことにできるだろう




また、肉体の疲労や眠気食欲その他諸々は残る

何時の間にか疲れてたり 急に眠くなったりするだろうが

これが無いと知らぬ間に体調を崩すと思われるので助かった




最後に、吹き飛ばしをやめたい時は1段目と2段目を同じ時刻にすればいい

ひょっとしたらコンマ以下の刹那 吹き飛んでるのかもしれないが

24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/14(水) 23:08:32.39 ID:EEFlfTzmP
深夜になる

色々わかったのはいいのだが

使い道があまり浮かばない

折角だから利用せねば 何か思いつかないと

宝物を手に入れた興奮と アイディアが浮かびそうで浮かばない焦燥で

彼女はなかなか眠れないでいた

確か明日は日直だ 早めに登校せねば

それはつまり、早めに寝る必要があるのだ

そう思い出した瞬間 1つ閃いた


01 35 00

08 20 00

01 33 24


彼女は静かに目を閉じて待つ

28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/14(水) 23:12:07.31 ID:EEFlfTzmP
次の日

田井中律は朝なんとかベッドから脱出し朝食を頬張りながら登校し

日直の仕事を済ませながらもう一人の日直である友人の平沢唯の遅刻に気付き

クラスメートが挨拶を交わす中 腹を立たせて授業の開始を待っているところで意識を覚醒させる



「見たところ・・間に合って日直も済ませたみたいだな・・」

本当に一瞬で仕事が片付いている

早起きの努力も日直の義務も果たしたつもりは無いのだが

実際にに行動したのは他ならぬ自分なので悪い気はしない


その後唯が教室へ走り込み、遅刻を詫び始めたが

自分が怒ったのか怒らなかったのかもわからないので

テキトーに許しておいた

鞄を覗くと 跳躍時計が放り込まれている

何かに使えということだろうか

29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/14(水) 23:15:35.74 ID:EEFlfTzmP
気だるい授業が終わり

大分肩が凝ったような気がする

この学校の楽しみと言えば やはり放課後の軽音部だ

憩いの時間 

彼女の癒し 

人生で一番やりがいのある活動に違いない

その日も美味しいお菓子と楽しいトークとほんの少しの練習をして

帰りの時間になった

帰り道をスキップしてやろうかと思ったが

親友であり幼馴染の秋山澪との駄弁りながらの帰宅を吹き飛ばすのは

流石に勿体無くてできない

一番大切な友人との時間だけは 絶対に跳ばせないのだ

33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/14(水) 23:18:39.74 ID:EEFlfTzmP
帰宅した律は 宿題を思い出す

今日は昨日の分も重なってたっぷりあるのだ

もう思うことは一つしかない

風呂に入り アイスを堪能した後

彼女は時計を弄った

19 30 00

08 30 00

19 20 00


気が付けば教室

目の前の唯と談笑していた

「どーしたのりっちゃん?」

「あ・・いやー・・・」

計画通りにスキップしたが 唯の話している内容がさっぱりわからない

会話の途中で覚醒すると非常に面倒なことになるようだ

なるべく人と接する時間帯は避けるよう 肝に命じる

34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/14(水) 23:22:54.21 ID:EEFlfTzmP
授業が始まる

律は鞄から時計を取り出した

「授業時間を飛ばして・・・いいのか・・?」

これは正直悩んだ

何せ記憶が無いのだから 学習の成果が出ない

テストが来たらそれも跳ばせばいい、という考えは甘く

結局返ってくる答案用紙は赤点だろう

跳ばすなら面倒な掃除の時間や朝礼にすべきだ と

甘んじてその日の授業は受けることにした

35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/14(水) 23:24:38.90 ID:EEFlfTzmP
しかしテスト三日前になり  律は曲がった考えを思いつく


彼女は一夜漬けが得意だった

前日教科書のテスト範囲を丸暗記して 思いっきり集中して望めば

なんとかなるのではなかろうか

もちろん全教科は厳しいが 単語を覚えるレベルのものなら・・・

「つまり、こうすれば・・」

15 30 00

13 00 00

15 04 38


「明日分のテストを一夜漬けして寝て起きて受験する過程を吹っ飛ばせる・・・」

流石に21時間30分跳ばすのは少し抵抗があったし

テスト後 頭からは勉強内容は抜けていくのだが

彼女は蛇の道を選択する

36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/14(水) 23:30:17.74 ID:EEFlfTzmP

気付けば帰り道だった

眠い

頭がすこしぼーっとする

しかし、彼女の感情は 歓喜と安堵だった

「これ・・一応勉強してテスト受けてるし・・」

「かなりラクじゃね・・!?」

勉強しているのか していないのか

最早自分が何をしたのか

全く理解せぬままそのスケジュールを4日連続で続けた



返ってきたテストが 全て平均前後の点数だったこともあり

調子付いて積極的に時計を使用しようとする

37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/14(水) 23:35:55.15 ID:EEFlfTzmP
それから

授業をよくスキップするようになった

なんならあとで軽く復習すればいい と自分に言い聞かせ

テスト前には一夜漬けして受験という手順をまとめてやらせればいい 

と他人事のように考える



朝を跳ばして授業を跳ばして宿題も跳ばすと

毎日が軽音部のティータイムになる

まるで天国だ

悩みなんて無い 苦しみなんて無い 面倒なんて無い

楽しいことばかりの毎日

彼女は 大事な時間を捨てて

酷く単純な日常を手に入れた

38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/14(水) 23:38:45.97 ID:EEFlfTzmP
今日のお菓子はマドレーヌだった 紅茶が温かかった

唯が寒いダジャレを言って みんなで苦笑した

練習した 上手く演奏できた

澪と帰った 思い出話が楽しかった

家に帰った 風呂に入った アイスを食った

聡とゲームをした

時計をセットした

今日のお菓子はチョコレートケーキだった 紅茶が温かかった

梓が先生に絡まれてみんなで笑った

練習した 上手く演奏できた

澪と帰った 将来の夢を話し合った

家に帰った 風呂に入った アイスを食った

聡とゲームをした

時計をセットした

今日のお菓子はクッキーだった 紅茶が温かかった

40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/14(水) 23:41:38.65 ID:EEFlfTzmP
究極に洗練された毎日が続く



澪が怖い話を聞かないように耳を塞ぐ様が面白かった

練習した そこそこに演奏できた

澪と帰った 楽器の話をした

家に帰った 風呂に入った アイスを食った

聡とゲームをした

時計をセットした

今日のお菓子はバナナクレープだった 紅茶が温かかった

ムギの家の話にみんな驚いた

練習した 完璧に演奏できた

澪と帰った

ベッドに寝転んでいる 星を眺めている

目が痛い


「・・・・え?」

41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/14(水) 23:45:05.51 ID:EEFlfTzmP
唐突に 完璧なリズムが崩れた

究極の人生を謳歌していたところで 調子が狂ってしまう 

しばらく呆然とまたたく星を眺めた


何時の間にかベッドに寝転んでいたのだ

さっきまで帰宅途中だったので 何故か時間が跳んだことになる

だが しかし

時計を弄った記憶は無い

弄らなければ跳ぶはずがないのだが

机の上に時計が置いてある

何かおかしい 確認せねば


00 00 00

23 59 59

23 59 59


背筋が凍る

42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/14(水) 23:48:44.25 ID:EEFlfTzmP
酷く嫌な予感がしたので 時計に手を伸ばした瞬間

いや 伸ばそうと意識した瞬間

視線は時計から夜空の星々に戻された



「どういう・・ことだよ・・・?」


勝手に時計の時刻が変わっているということは

自分以外の誰かが弄ったことになる

しかし この時計を学校の誰かに見せた事は無いし

聡もわざわざこんなことをしないだろう

つまり

「跳んでる最中の・・私が・・・?」

視線を横に向けた瞬間 星に視線が戻った

45 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/14(水) 23:52:01.87 ID:EEFlfTzmP
「ふぅ・・つまり 跳んでる時間の私は・・」

「この時間は毎日必ずこの位置で星を眺めるってわけね・・」

なんとか頑張って視線を他の物に向けると

机の上の小物が少しずつ位置をずらしている

星も段々移動して言っているようだ

自分の服も 一瞬一瞬で変わっていく

日捲りカレンダーが次々にカウントされる

不気味な光景だった

しかし そんなことよりも

最も危惧すべき問題に気付いた


「これ・・1日が 1秒で過ぎてくんだ・・・」

「1日が1秒・・1分で2カ月・・・1年が6分・・つまり・・」



「もうすぐ・・死ぬのか・・・!?」

47 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/14(水) 23:56:13.88 ID:EEFlfTzmP
間違い無く人生で一番焦る 今焦らなければ 死ぬ

時計を早く止めねば 寿命と競争するハメになる

壊すか なんとか解除をしようと 焦る 焦る 焦る

「くっそ・・なんでこんな設定にしてんだ・・・!」

思いっきり時計に手を伸ばすが 

届く前に元の位置に戻る

ベッドに寝転んでいる

星を眺めている

目が痛い

本気の蹴りで壊してやろうとするが

届く前に元の位置に戻る

ベッドに寝転んでいる

星を眺めている

目が痛い

「くっそ・・!」

50 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/15(木) 00:00:39.78 ID:JvCW0AW3P [1/3]
抵抗を3分程続けたが 全くの徒労に終わる

何をしようと 元の位置に戻るだけだ

「畜生・・・」

掛け布団を思いっきり蹴る

すぐに丁寧に畳まれた

イライラする 洒落にならない

何度も何度も蹴ったところ

布団が破れ 綿が出てきた

しかし畳まれても 綿はそのままだ

「・・・・」

直らないものは直らないという当たり前のことを発見し

何かに利用できないかと思うが

結局どうにもならない

52 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/15(木) 00:03:44.20 ID:EEFlfTzmP
諦めた

星を眺めることにした 星座が動く様子が綺麗じゃないか

ある意味これも 究極に洗練された人生だ

そう考え始めた頃 部屋を何気なしに見まわしてみる

思えば名残惜しいものだ

軽音部の楽しい練習を思い出そうと ドラムスティックを探す

どこに置いたか

そうだ

ベッドの脇だ

「あった・・・!」

取れる位置に転がっていた

気が動転して気付かなかったのだろうか

ハッと思いついた 実に簡単なことだ

彼女はドラムスティックで時計を叩き割る

どれだけ日付を跨ごうが スティック捌きは衰えない

56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/15(木) 00:08:17.17 ID:JvCW0AW3P [2/3]
戻らなくなる



「はぁ・・助かった・・・」

「死ぬかと思ったぜ・・」

歩幅の大き過ぎるスキップが終わり ようやく一息ついた

髪が大分伸びてしまった

自分は何故こんな無茶苦茶な設定を選んだのか

跳ばされた時間がもう一つ意志でも持って 反乱でも起こしたのか

まさか 

それも自分なんだ 反乱も糞もあるものか

そうだ 

自分なのに 自分を閉じ込めて

何が何だかわからない


とにかく気が疲れてしまった

今日は寝て また明日から状況を整理しよう

59 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/04/15(木) 00:12:02.77 ID:JvCW0AW3P [3/3]
―――――――――――――――
秋山澪の交通事故死は

田井中律の精神に深刻なダメージを与えた

事実を知る度彼女は 現実逃避と同時に 自分で自分を護ろうとする

事実を知らぬ 知ることもできぬ幸福な自分を 1秒でいいから作りたがった

悲惨な記憶は与えず 

幾度も流れる涙だってその1秒の為に拭いてやる 

しかし そんな何も知らない自分自身にも

どうしても

どうしても してやってほしいことがあった



空の星を

どうか 空の星を眺めていてほしい


一番大切な友人との時間だけは 絶対に跳ばせないから


終わり

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