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一方通行「帰ンぞ 欠陥電気」

356 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/10(土) 23:59:06.98 ID:MUQqNko0 [2/2]
>>320から


御坂美琴は雨の中をがむしゃらに走っていた。
傘を差していたが、10分も前にもどかしくなって投げ捨てた。
制服はびしょびしょになり、シャツは肌にびっとりと引っ付いて下着などすでにずぶ濡れで、
濡れた髪が走るたびに視界を横切って鬱陶しいことこの上ない。
それでも、それらを一切合財無視し雨の中を突っ走る。
美琴は明確な理由があって走っているわけではなかった。
ただ、何となく気になってしまい。心の中がもやもやとしだして、気付いたら寮を飛び出していた。

だから理由など特にない筈だ。強いてあげれば、虫の知らせがしっくりとくる。
虫の知らせ。虫の知らせ。虫の知らせ。
(あーもー! 何やってんのよ私は!)
胸中で悪態を吐くが、それでも足は止まらなかった。

358 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/11(日) 00:02:00.10 ID:AhPVvM60 [1/18]

「おねーさまっ!」

「マジ死んで」

「いやん、お姉様の冷たい言葉にゾクゾクしますの…。黒子は黒子の心は……!」

始終この調子である。
(勘弁してよ…)
うんざりしていた。もう限界だ。ああ、マジで寮館に頼んで部屋変えてもらうかな…、などと美琴は本気で考えていた。
黒子は好きだ。素直に認める、大好きだと言っても過言ではない。
あのとき、あいつの部屋で『私』に嫉妬していたのは事実だ。今現在では葬り去りたい過去筆頭だが。
これは行き過ぎだ。
何をやっても、何を言っても、電撃浴びせても黒子は肯定的に受け取る。
かなり前向きな変態に成長進化を遂げてしまった。
(恨むわよ…)
今ここにいないもう一人の『私』に恨み言を心の中で呟く美琴。彼女は相当キている。

「お姉様? どうされましたの…?」

肩を落として考えことをしている美琴に、声のトーンを落とし話掛ける黒子。
当然自覚はない。自分のせいだと。
美琴は自分のベッドに腰を下ろし、何でもないわ、と乾いた笑いを浮かべる。

「そのように何でもないと言われましても、説得力に掛けますの」

真剣な表情で、心配するように顔を覗き込む黒子。
(アンタのせいだっつーの…)
はぁ、と深くため息を吐く美琴。



360 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/11(日) 00:04:11.31 ID:AhPVvM60 [2/18]


「…本当に大丈夫ですか、お姉様?」

「あー、はいはい。私は平気だから」

手をヒラヒラさせて黒子を追っ払う。

「そ、そんな…」

テテーン、とどこか不思議な所から頭の中にテーマが流れ込むのを感じた美琴。

「あ、あんまりですの…。黒子の愛は紛れもない真実の一。それは誇り高き咲き乱れる薔薇の如く穢れ無き乙女のソレ
 お姉様が黒子へ向けて下さった愛は、チョモランマ(8,848m)をも超えマリアナ海溝(10,920m)よりも深い本物のアレ
 あの日あの時あの場所で、お姉様とは確かに愛を確かめあったと黒子は思っておりましたのに…」

「微妙に私の例えがムカつくんだけど…」

その後もウダウダ言う黒子を張っ倒し、ベッドにゴロンと転がる美琴。
(なんだろうなぁ…)
抱き枕をギュッ、と抱きしめながら天上を見上げる。
何となく、しっくりとこない。
今日は色々あった。満足できる理想の展開かと言われれば、まあ及第点くらいだろう。
あの『私』とはあんまり話できなかったが、私と話すのはあっちもあんまり乗り気じゃないだろうし。
私のことだから、この考えは間違ってはいないだろうと。
(あー、でも…なんでかな……)
どうして自分はこんなにもヤキモキしているんだろう、と美琴は考える。

「…い、痛いですの。流石の黒子も頭蓋骨が変形するかと思いましたの」

「なーによ、いっそ変形すればよかったじゃない」

頭を押さえながら床から立ち上がった黒子に投げやりに言い放つ。
そんな冷たい美琴に、黒子は内心で愚痴を吐きながら視線を向けた。
(…お姉様?)
美琴は昨晩よりはマシといった感じだが、落ち着かない。
うーうー唸ったかと思えば、ベッドをゴロゴロと転がる。
その様子に呆れ、嘆息しながら黒子は言った。



361 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/11(日) 00:07:02.53 ID:AhPVvM60 [3/18]


「まだ何か悩みごとでもありますの?」

「…、それが分かんないのよ」

悩んでいることが分からないことに悩む。
流石は黒子が敬愛するお姉様。黒子の脳ではお姉様の悩みがまるで理解できませんわ、と皮肉った所で改まって聞く。

「お姉様、もしかしなくても『お姉さま』に関わることですの?」

「…多分、そうね…、ねえ、黒子。あんたはあの子をどう思う?」

「お姉さまですわ」

即答。
極めて真剣な表情で。

「…あー、そういう意味じゃないの」

黒子の言葉に難しい顔をして美琴は返した。

「? と、言いますと、どういう意味ですの?」

「あの子は間違いなく私よ。妹達のことはもう知ってるでしょ?」

「…」

黒子は自分のベッドに腰を下ろし、美琴の言葉を待つ。

「妹達は私のDNAマップから生まれた存在。そしてあの子は私の記憶も、人格も持ってる。
 私自身があの子は私だと確信してる。でも、そこじゃないの。なんていうか…」

スッキリしない。

「違和感、ですか?」

「そう! それよ! …多分、あの子の話してくれた内容かな、なんか…変」



362 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/11(日) 00:09:49.92 ID:AhPVvM60 [4/18]


美琴は自分自身に言い聞かせるように呟く。
欠陥電気の語った話は真実だという説得力もあった。整合性もあった、筈だ。
(だけど…)
余りにも情報が多すぎて、どれがおかしいのか絞れない。
大体あの一方通行と一緒に―――――ん?
そもそも一方通行はどうやって、いつ実験について知ることができたのだろうか。
知った時期は…5日前かその少し前だろう。
知った経緯は打ち止めという妹達の上位個体か、もしくは知り合いの研究者?

いや、待て。そうじゃない。そもそもあの実験は――――――いつからやっていた?
あの子の話だと一週間前かそこらになる。
それは変だ。妹達はもう3ヶ月近く新たな個体は生まれていない。
計画が停止されると同時に研究所は閉鎖されている。もしかしたら何らかの抜け道があったのだろうか?データを持っていた?
だとすれば相当根が深い。あの子以外にもいる筈だ…。

そうでないとしたら、あの子は誰だ?
学園都市に残った妹達の子とは定期的に会っている。
あの進化法が凍結したときに学園都市に残った人数は把握している。それはもう3ヶ月近く前の話だ。
既存の妹達の個体を実験に使うなら、外に出て行ったを学園都市まで連れてこなければならない。
そこまでするだろうか?
(ダメだ…)
仮定を前提に話を進めて、また仮定して考える。どツボに嵌るパターンだ。
美琴は頭を掻き毟り、あーもー! と叫んだ。声量は抑えて。

「お姉様?」

「はぁ、黒子この話はおしまいよ。もう寝よう? 昨日もろくに寝てないから眠いし」

と、欠伸をする美琴。
話を振っておいて寝ると言い出した美琴を呆れたようにジーっと見つめた後、ため息をついて黒子は同意した。
部屋の電気を消してそれぞれのベッドで横になる。
黒子も眠たかったのか、美琴に絡むことなく素直に自分のベッドで寝入った。
小さく寝息たてる黒子を微笑ましく思いながら、美琴は薄暗い天上をボンヤリと見上げた。
(あの子はまだ何か黙ってる…)
それは間違いない。私が知る必要がないから黙っているのか、知られたら不味いことなのか。
いずれにしても、もう一度よく話す必要があると美琴は考えた。
明日から入院すると欠陥電気は言っていた。
(明日一人で行って、二人きりで話そう…)
多分黒子には聞かせられない話になる筈だから。
そうこう考えていると程よい睡魔がやってきて、美琴の意識を黒く塗りつぶした。





363 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/11(日) 00:12:51.40 ID:AhPVvM60 [5/18]






住人が寝静まり沈黙に満ちた室内。
地面を打ちつける雨音だけが、ガラス越しに鈍く部屋に響いた。
カーテンの隙間から微かな木漏れ日が漏れ、暗い室内を僅かに彩る。

「……………………ん」

気持ち良さそうに小さく寝息を立てていた美琴は、突然上半身を起こし周囲を見やる。

「…」

首筋をポリポリと掻き、目が覚めちゃった、と呟いた。
隣のベッドに寝ている黒子に視線を向ける。時折もぞもぞと動くもののぐっすりと寝むっているようだ。
(外、雨降ってるんだ…)
窓越しに聞こえる雨音が美琴の耳に届く。
室内が静かなせいもあるが、力強く響く音は雨足が強いことを教える。

「………………………あ」

薄暗い部屋の中、カーテンの隙間から覗く外を眺めていた美琴は、何かを思い出したかのようにこぼした。
(学生証、サイフに入れたままだった…)
つい数時間前に気前よく『私』に渡した財布に学生証が入っていたことに気付き、ため息を吐いた。

「………やってしまった」

ださい。
格好つけてあげといて、中身のことをすっかりと忘れていた…。
(っていうか、カード類全部あれに…)
キャッシュカード、レンタル会員のカード、セブンミストのスタンプカード、etc...
(手持ちは全部渡しちゃったのに、カードがなきゃ下ろせないじゃない……)
美琴は頭を抱えて唸った。自分のバカさ加減を呪いつつ。

自分の頭をコツンと叩くと、不意に立ち上がり窓際まで歩くと静かにカーテンを開けた。
外は若干風も吹いているのか、横殴りの雨が窓を打っていた。
流石に今からカード類を取りに行くことはできないだろう。夜も遅く非常識だ。
だが、ないと確実に困ることは確かで、
(そうよ、困るんだから取りに行ってもいいわよね…。うん、いいに決まってる私のだし)
そう無理やり結論付け、美琴は胸の奥にある得体の知れない焦燥を無視する。
こんな夜遅くに、しかも雨の中出て行くのは明日困るであろう自分のためだと言い聞かせ。



364 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/11(日) 00:14:46.95 ID:AhPVvM60 [6/18]





美琴は雨の中をがむしゃらに走る。
もう一人の『私』のもとへ。
ただの考えすぎだと納得するために。胸の焦燥が勘違いだと証明するために。
(ほんと、なにやってんだか…)
そう胸の内で呟く、交差点の赤く点滅する信号を走りぬけ住宅街を通り突き進む。
『私』が居候している一方通行の学生寮はあのときに知った。
黒子が渋る『私』にしつこく食い下がって場所を教えてもらったのだ。
(もらうもんもらったら、さっさと帰るんだから)
だから少しでも早く、この分けの分からない気持ち悪さを解消するのだ。

コンビニを通り過ぎ路地に入ってひたすら走る。
顔を打つ雨が目障りで。纏わりつく服が鬱陶しく。水浸しになった靴が不快。

「…、バカね私。びしょ濡れになってまで、こんな――――――――」

頭の中をナニかが、薄く細い光芒が突き抜けるように響く。
(―――――こ、この感覚)
これを私は知っている。
知らない筈がない。
忘れる筈がない。
忘れることなど出来る筈がない。

――――ミサカもダメなようですね。ZXC741ASD852QWE963’ とミサカは符丁の確認を取ります。
      お姉さまから頂いた初めてのプレゼントですから。さようなら。お姉さま―――――

(―――ッ)
決して忘れることのできない思い出が唐突に甦る。
心臓を鷲掴みにされたような形容しがたい恐怖に体が震える。
(落ち着け…)
妹達の誰かが能力を使った。能力を使用する状況にある。ここからそう遠くない場所にいる。
(まだ、そうと決まったわけじゃ………っ)
そう考えると同時に、先程よりも大きい感覚を感知する。
美琴は考えるよりも先に動き出した。
一歩でも早く。少しでも大きく。限界まで足を動かして。



365 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/11(日) 00:19:24.24 ID:AhPVvM60 [7/18]



「…っ」

嫌な想像が頭から離れない。妙な悪寒が体から消えない。心の奥底から乾いた風が吹き上げる。
美琴は走った。ただひたすら『誰か』がいるであろう場所を目指して。
強い感覚を感じてから十数秒後、走り続けた美琴は奇妙な一団を目にする。
統一感の無い自己主張の激しい服装かと思えば、厳粛な雰囲気を放つスーツ姿の男などが形成する一団を。
深夜ともいえる遅い時間に雨の中傘もささずに淡々と歩を進める男達。
(なんなのよ、こいつら)
男達は美琴が感じた感覚の方からやってくる。
明らかに怪しい。タイミングが良すぎる。この男達に感じる苛立ちは何だ?
(だけど――――)
構っていられる余裕など無い。今はただこの胸の焦燥をどうにかする方が先だ。
美琴は男達を無視し、脇をすり抜け道の先へと進む。

「―――」

男達と擦れ違う直前に、一人の若い男がなにかを呟いた。
雨の中走る美琴にはそれがなにか聞き取ることが出来なかったが、呟いた男と擦れ違い様に僅かに目があった。
気持ち悪かった。
まるで親の仇を見るような、存在そのものを憎むようなギラギラとした瞳で美琴を見ていたから。
心臓に凍りついた刃を突きつけられたかのような錯覚を抱く。
一瞬。その邂逅はほんの微かな時間だったが、美琴はその目を忘れることは出来そうになかった。

走る。走る。走る。
男達のことを無視し、美琴は走った。
不自然な男達の存在も、呟いた男も、美琴を見た目も気に掛かったが、今は先にすべきことがあるのだ。
奇妙な一団との遭遇からさらに数十秒後。
ようやく美琴は見つけた。
次こそは、必ずこの手で守ると決めた存在を。




366 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/11(日) 00:20:51.92 ID:AhPVvM60 [8/18]






狙ったコインは寸分違わず二人の真ん中を突き抜けた。
決して触れさせるものかという固い意思とともに。
今度こそ守り通してみせると強い決意とともに。
例え敵わないとしても絶対に譲らないという覚悟とともに。


「…、その子から、離れなさい一方通行……!」


空になった左手を下げ、コインを握った右手で標的に狙いをつける。
言葉は返ってこない。
二人と美琴の間には十数メートルの距離があった。
この距離で、それも雨の中では小さな呟きなど掻き消されるだろう。


「――――離れろって言ってんのよっ!!!!」


バチン、と強く固く美琴の前髪から火花が散る。
威嚇するように。吼えるように。美琴の意思に呼応して紫電が輝く。

一方通行に超電磁砲は通用しない。通用するどころか逆に跳ね返され自滅する。
だが、例外もある。単純な話、一方通行が反射していなければ超電磁砲は届く。
(あいつ―――)
一方通行は欠陥電気に拳銃を突きつけている。能力を使えばそんな惰弱な武器など一方通行には必要ないのにも関わらず。
脳裏に欠陥電気の話がよぎった。
一方通行は打ち止めを救ったときに代償として能力を失ったと。
演算の補助を行うNWに接続するための電極には、多大な時間制限があると。
なぜ能力を使わないのか。バッテリーが切れ掛かっているのか。どうして欠陥電気に銃を突きつけているのか、疑問は尽きない。
だがそんな細かいことなど美琴には問題ではない。
今、欠陥電気に銃口を向けている。理由はそれで十分で、それが全てだった。




367 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/11(日) 00:23:54.25 ID:AhPVvM60 [9/18]



「離れないってんなら――――――――――殺すわよッ!!」


警告はした。最早遠慮はいらない。
言葉とともに演算を開始する。
一方通行を殺すために、超電磁砲を放つための演算が。
殺意を込めた視線の先の標的に向けた腕へと閃光が走る。
剣戟を思わせる鼓膜を突き刺す響きとともに、闇の中膨大な光の塊が腕の先端のコインへと殺到する。

『さようなら、お姉さま』

そんな結末は許さない。


「そこをどけって、言ってんのよぉぉおおおおおおお―――――――――――ッ」


――――寸前、反らす。
ソレを視認した瞬間、全演算力を注ぎ込んで僅かにだが指向をずらす。
ギリギリ。本当に後少しのところで間に合った。
標的を外した光芒の残滓が、闇を漂い塵となって消える。

「…あ、ぐぅっ………っ」

無理な演算で強烈な反動を受けた脳に激痛が走ったかのように、頭を抱える。
直撃はなんとか避けられたのか、肩口に裂傷を負ったのが見えた。
美琴は痛みを意識の外へ追い出し、片手で頭を押さえ言った。

「…、なんのつもりなの、アンタ」

超電磁砲を放つ、その刹那に欠陥電気が射線に割り込んだのだ。
鈍痛が響く頭を押さえながら、美琴は思わぬ欠陥電気の行動に胸中で毒づく。
そんな美琴をよそに、一方通行の前に立ち塞がった欠陥電気は肩口の痛みに顔を顰めながら小さく呟いた。

「……っ、本当に、ぶっ放しとは思わなかったわよ…全く」

(最悪、ね…)
欠陥電気の見たところ、美琴は相当頭に血が登っている。
有無を言わさず超電磁砲を撃ったのがいい証拠だ。下手に刺激したらなにをするか分からない。
心配してくれているのは嬉しいが、状況が状況だけに素直に喜べない。




368 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/11(日) 00:26:44.31 ID:AhPVvM60 [10/18]


「…あんた、本当についてないわね」

「ハッ、疫病神はオマエだろォが」

小さく呟いた欠陥電気の言葉に一方通行が皮肉で返す。
雨と距離のおかげで、二人の会話は美琴には聞こえないだろう。
(どうすりゃいいのよ……)
一方通行はバッテリーが切れ掛かってる。欠陥電気だと美琴にはとても敵わない。
勝つだけなら今の一方通行でも可能なのかもしれないが、問題はその後だ。
欠陥電気が居なくなった責任を全て一方通行に押し付ける羽目になる。
欠陥電気にそんなことは許容できない。

「…、どういうことなのか、説明しなさい!」

一方通行の前に立ち塞がったまま返答しない欠陥電気に、美琴が痺れを切らし命令するように叫んだ。
欠陥電気から返事はない。
美琴は顔を歪めさらに言葉を続ける。

「アンタ今、そいつに何されてたのか分かってるの!?」

欠陥電気は銃口を突きつけられていた。また一方通行に妹達を殺される。目の前で。許せない。
美琴は自分の目の前で一方通行に殺害された少女が脳裏にこびり付き離れなかった。
冷静になれる筈がない。今度こそ守ってみせると誓ったばかりなのだ。
(だってのに――――)
目の前の『私』が一方通行を守るのが理解できなかった。

「そこをどいて…、どきなさいよっ!!」

叫びながらも美琴は手が震え足に力が入らず、現実が遠のいていく気がした。
自分が異常だと、どこか他人事のような自覚があった。だが、どうしようもないくらい引き金は軽い。
今にも自分が暴走しそうだと、漠然と思った。
このままだとそう遠くない時に『私』ごと一方通行を撃ってしまうと。



369 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/11(日) 00:28:41.09 ID:AhPVvM60 [11/18]



欠陥電気は現状あまりの酷さに舌打ちしてしまいそうだった。
とっととこの場を逃げるのがベスト。説得はどう考えても不可能だ。なにせ時間がない。
朝になれば自分は意思とは無関係に連れて行かれるのだから。
この場で納得させることなどまずできない。事情を知れば当然美琴は黙っていない。
少し冷静にでもなれば違うだろうが、生憎と状況はそれを許さない。

「ケッ、面倒くせェ。超電磁砲を潰しゃイインだろ?」

背後にいる一方通行がこともなげに言う。
(こ、こいつは……っ)
それじゃ意味ないでしょ、と小さく悪態をつき、美琴に向け言い放った。

「…わたしのことは、もう忘れて。このままなかったことにして」

「…っ、意味分かんないこと言ってんじゃないわよ!」

「言葉の通りよ。わたしのことは―――」


「忘れられるわけないでしょっ!!」


血を吐くように、美琴言った。

「アンタだって知ってるでしょ!? 目の前にいたあの子を助けられなかった! 二度も私に見殺しにさせないでっ!!」

それは心からの、美琴の叫びだ。
悲痛であり。悔恨であり。慟哭であり。決意であり。誓いだった。
忘れろと言う欠陥電気の事情は分からない。
欠陥電気を救った一方通行が銃口を向けた意味など知らない。
だからと言って、この状況を見過ごすなどありえない。
新しくコイン取り出し強く握り締める。視線は真っ直ぐに標的を射抜く。いつでも標的を撃てるように。




370 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/11(日) 00:31:26.34 ID:AhPVvM60 [12/18]


欠陥電気は今度こそ舌打ちし、美琴を見据える。
このままだと美琴は撃ってしまう。間違いなく撃つという確信をもって。
今の一方通行は美琴にとって悪そのもの。唾棄すべき存在。排除すべき敵。
仇を前にして圧倒的力の差に茫然自失なった過去が許せないのだろうか。
一方通行の排除こそが美琴の目的になりつつある。欠陥電気には、それがとても悲しかった。

「…あんた、あとどれくらい時間あるの?」

「…、40秒ってとこだ」

「上等、合図したらわたしを抱えて跳んで」

逃げンのかよ という一方通行の言葉を無視し、ポケットに手を突っ込んで目的のモノに触れた。
できれば知られたくなかったんだけど、と内心でため息をつく。
話をしようにも、今の美琴は一言でも声を掛けたら途端に暴発しかねない。
だから、禁じて中の禁じ手を使うことにした。
これで少しは頭が冷えるであろう美琴に、言付けをしてさっさと別れる。
最低で最悪なことだと自覚している。それでもこれが現状で取れる最善だと信じて。
欠陥電気は無言のままポケットから手を出し、ソレを見せる。
あのとき一方通行から受け取った、冥土の土産を。

「―――ッ」

驚愕。
美琴は声を失い、欠陥電気の手にある傷だらけのバッジを凝視する。
分かっていたとはいえ、美琴の痛々しい姿に胸が苦しくなる。

「な…」

なんで、と美琴は言えなかった。
握り締めたコインは手から落ち、目的を見失った視線は欠陥電気の持つモノに集中する。
――――どうしてここにアレがあるのか。
――――なぜアレが彼女の手にあるのか。
――――彼女は一体何者なのか。
美琴は途切れることのない疑問に溺れそうになる。

「…、ど、どうしてアンタが、それを、持ってるの…?」

口をついて出た言葉は弱弱しく、殺意など最早微塵もなかった。

「話を聞いてくれるわね?」

「…どう、して」



372 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/11(日) 00:33:18.11 ID:AhPVvM60 [13/18]


先程までと立場が一変し、美琴は呆然と頷くしかなかった。
(なんでなんでなんでなんで――――)
アレはあの子にあげた。あの子は目の前で一方通行に殺された。
それをどうして彼女が持っているのか。分からない。答えが出ない。考えがまとまらない。
取り留めのない考えが頭の中で氾濫し理解が追いつかない。
美琴はただ欠陥電気の言葉を尽きない疑問の中で待つしかなかった。

欠陥電気は、視線が定まらず呆けまま動かない美琴に胸中で、ごめん、と謝る。
こうなることが分かって見せた。ただこちらの話を一方的に聞かせるために。
美琴の疑問には、答えるつもりはない。
欠陥電気は一拍置いて言った。

「まずこれ」

そう言うと逆のポケットから見慣れた財布をとりだす。

「学生証とか入れっぱなしだったわよ。ほんと間抜けね…」

「―ッ、そんなことは」

欠陥電気の場違いな言葉に、美琴は語気を荒げ詰問しようとするが、

「それと、あんたのことだから先に言っとくわ」

欠陥電気は言葉を被せるように無視し、話を続ける。

「あいつには黙っといて。多分無理だろうけどさ」

あいつとは言うまでもない。上条のことだ。
上条がこのことを知れば飛んで来るに決まっているから。
それではダメだ。実験に失敗して死ぬことが最善なのだ。
欠陥電気の死によって、実験そのものを潰すのだから。
だから、助けてもらうわけにはいかない。



373 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/11(日) 00:35:40.63 ID:AhPVvM60 [14/18]

「な、なにを言ってんのよアンタ…」

「これはわたしが決めたことだから。後ろのこいつも、打ち止めも関係ないわ」

「意味が、わかんないのよ…」

でも分かる。『私』は知ろうとするから。
遅いか早いかの問題だ。ただ、遅ければ遅いだけいい。事が終った後だとなおいい。
だからこの選択は自分自身で選んだと言っておく。
気休めに過ぎないが、これで少しでも『私』の心が軽くなればいいと考えて。

「黒子のことお願い」

「ちょ、ちょっと待ってよ、…アンタ、アンタさっきから何言ってんの!?」

欠陥電気の言葉に理解が追いつかない。
次々と、取り出したモノとは関係のないことばかり喋る。
美琴は言いようの無い不安を感じていた。
僅かに残った理性で言葉の意味を噛み砕いて脳に流し込み気付く。
欠陥電気の言葉はまるで――――――
(――――ダメ、そんなこと……っ)
得体の知れない恐怖が美琴の心を呑み込む。
『私』は一体なにを言っている?
『私』は一体なにをするつもりなの?
なんでそんなことを私に言うの?
どうしてそんなまさか――――――――…………なの?

「―ッ、ま、待って! 待ちなさいよっ!!」

美琴は気づいた。
欠陥電気の置かれている状況も、立場も理解できないまま気付いてしまった。
いつか自分がそうしたように、欠陥電気もそうするつもりなのだと。

「ダメ! 絶対ダメよそんなのっ!!」

どういう理由で、どうしてそんな選択をしたのかは解らない。
でも目の前にいる『私』は死ぬつもりなんだと解ってしまった。

「…、ごめん」

欠陥電気はそう言って、手に持った財布を投げる。
財布は放物線を描き美琴の胸へと落ちる。
その動きがあまりに自然で、その顔があまりにも悲しそうで美琴は見入ってしまった。
胸に何かが当たったと気付いたときには、二人は美琴の前から消えていた。

「…なんで、どう…してよ……」

そう呟いた美琴に、答える者はいない。



374 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/11(日) 00:37:23.34 ID:AhPVvM60 [15/18]







雨はすっかりやんでいた。
雲の切れ目からは淡い光が差し込み、夜の終わりを告げる。
小さく吹く微かな風も雨に濡れ冷え切った体には身を震わせるほど冷たく感じる。
いつかの河川敷の土手に腰を下ろし、徐々に冴え渡る景色を眺めた。
黒く塗り潰されあやふやな境界線だった歪な地平線に後光が差し、朝日が昇る。

「…」

もう涙は出なかった。
ただ、乾いた寂寥感が少しずつ体の奥から滲んできて、やるせない気分になる。
気分とはまるで逆な気持ちのいい朝日に、欠陥電気は皮肉交じりのため息をついた。
まだ迎えは来ない。
一方通行を警戒しているのだろうか?
そう考えて、欠陥電気は小さく笑った。
(あいつもう来ないのにね…)

欠陥電気は一方通行に抱えられ、美琴から数キロ離れた路地裏まで移動した後、
地面に足が着くと同時に一方通行に不意打ちの電撃を盛大に食らわせてやったのだ。
詰めが甘い。てっきり電撃を反射設定しているものかと勘繰ったが杞憂ですんだ。残念なことに。

――――わたしの言葉も覚悟も半端で薄っぺらい嘘だ。
『私』から逃げるているときに、このまま打ち止めも連れて外に……
しがらみも実験も一切忘れてどこかで、もう一度三人で過ごしたいと考えてしまった。
勿論、そんなことは不可能だと分かっている。
打ち止めもわたしも調整なくしては、とても体が保たない。
妹達が学園都市の手にある以上、打ち止めがいたところで一方通行にとってそれは致命的で。
結局わたしたちは三人とも学園都市を離れて生きていけない。
そんなことは分かっていた。分かっていた筈だ。




375 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/11(日) 00:39:38.16 ID:AhPVvM60 [16/18]

「…」

一方通行とも、打ち止めとも二度と会えない。
黒子とも、あの子ともあいつとも『私』にも会えない。
佐天さんとも、初春さんにも他にもいっぱい…

「…っ」

わたしはバカだ。
いっそ本気で泣き叫べばもっと違った結末になったんじゃないかと、今本気で考えている。
こんな悲壮感じみた覚悟なんてほっぽりだして、我侭になればよかったんじゃないかと本気で思っている。
――――会いたい。
――――助けて欲しい。
――――こんなのは嫌だ。
――――どうしてわたしだけこんな目にあうの?
そんなことばかり考えてしまう。
でもダメだ。
わたしは賭けに勝ってしまった。
最後のダメ押しを食らったのだから。

あのとき、逃げ切ったときに、一方通行が電撃を防いだなら素直に殺される。
電撃が通じたなら実験に参加すると、勝手に賭けて勝ってしまった。
最後の最後まで、一方通行はいいとこ無し。
財布は空になってるし、空気は読めないし、記憶は消せないし、殺せもしないし、反射も切っていた。
せめてあそこで死ねていたら、こんな不毛なことを考えないですんだのに。

「…、ばか」

結局あの後、少しだけ雨が凌げそうな場所まで一方通行を移動させ、そういえばと思い出しNWに繋いだ。
NWへの接続の許可は、あいつとあの子と会った日の夜に解除してもらっている。
情報の共有はしないで、一方通行の所在地をNWに流して接続を切った。
少しだけ雨の中放って置くのは気が引けたが、こればっかりは仕方ない。
妹達の誰かが回収に来てくれることを祈りつつ、その場を離れた。それで終り。全て終ったのだ――――

「…っ」

欠陥電気は大きく鼻を啜ると立ち上がり、周囲を見渡す。
周りにはまだ誰も居ない。
なにやってんだか、とぼやきながら5分程そうしていると、遠くに人影が見えた。
欠陥電気は気だるそうにその人影の方へと歩き出す。
実験を失敗させるという、ちっぽけな使命感を抱いて。

雨は上がり、朝日が差す。そこにはもう誰もいなかった。








380 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/11(日) 00:49:10.65 ID:AhPVvM60 [17/18]
ここまで

396 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/11(日) 13:56:18.12 ID:AhPVvM60 [18/18]

これまでの流れとサブタイ

『プロローグ』 開幕
>>1~>>30
『欠陥電気』  居候生活
>>32~>>67
『再会』    関係者各位の奔走 一方さん裏方へ
>>69~>>106
『変化』    インデックス・黒子無双 一方さん10kill達成
>>111~285
『別離』    (一方通行vs欠陥電気)vs美琴 打ち止めェ
>>287~375
『道』     暫定サブタイ多分これ使う 

ちっとばかし長いトンネルに入ったさ

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