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一方通行「帰ンぞ」
1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/03/29(月) 01:35:32.14 ID:s48mAdqp0 [1/25]
「残念だけど、予想した通りよくない状態だったよ」
「…」
最悪の結果だった。
そもそもあの予測演算を知ったときから、予想できた事態である。
いまさらそんな分かりきった結果を聞いたところで、何も変わらないはずだった。
けれど、考えとは裏腹に手を握り締め顔を歪ませている自分がいることに、一方通行は気付いた。
「無理な実験の強行が原因だろうね」
医師、『冥土帰し』から出る言葉は、どれも一方通行の胸を抉る。
虚勢を張り続けることはもうできなかった。
聞かずにはいられなかった。たとえそれがどんな最悪の答えだったとしても、一方通行は知らずにはいられなかった。
「…そォかよ。あと、どれくらい保つ?」
搾り出すかのように、一方通行は言った。
たったこの一言を言いだすのに、途方もない労力を要した。
熱くも寒くもなく一定の温度が保たれているはずなのに、一方通行の額から汗が滲み出ていた。
二人がいるのは学園都市にある病院の一室。
ここへ訪れたのは、一方通行の同居人である少女の状態を検査のためだった。
「残念だけど、予想した通りよくない状態だったよ」
「…」
最悪の結果だった。
そもそもあの予測演算を知ったときから、予想できた事態である。
いまさらそんな分かりきった結果を聞いたところで、何も変わらないはずだった。
けれど、考えとは裏腹に手を握り締め顔を歪ませている自分がいることに、一方通行は気付いた。
「無理な実験の強行が原因だろうね」
医師、『冥土帰し』から出る言葉は、どれも一方通行の胸を抉る。
虚勢を張り続けることはもうできなかった。
聞かずにはいられなかった。たとえそれがどんな最悪の答えだったとしても、一方通行は知らずにはいられなかった。
「…そォかよ。あと、どれくらい保つ?」
搾り出すかのように、一方通行は言った。
たったこの一言を言いだすのに、途方もない労力を要した。
熱くも寒くもなく一定の温度が保たれているはずなのに、一方通行の額から汗が滲み出ていた。
二人がいるのは学園都市にある病院の一室。
ここへ訪れたのは、一方通行の同居人である少女の状態を検査のためだった。
2 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/29(月) 01:39:58.36 ID:s48mAdqp0
静寂が室内を支配する。
一方通行にはそれが永遠ともいえる時間に感じた。
「いいのかい?」
冥土帰しは念を押す。
まるで死刑執行を確認するかのように、重々しい口調で。
だが、聞かないわけにはいかない。
ゴクリ、と喉を鳴らし一方通行は吐き捨てた。
「…言えっつてンだろ、さっさと喋りやがれ」
冥土帰しは、そうかい、と呟くと一呼吸おいてこう言った。
「そうだね、とても100歳までは生きられないだろう」
3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/29(月) 01:42:43.96 ID:s48mAdqp0
――― 『欠陥電気』 ―――
「は?」
冥土帰しの言葉に間の抜けた反応を帰す一方通行。
一方通行には、とぼけたの顔の表情筋をもつこの医師が何を言っているのかまるで理解できなかった。
「体はの方は健康そのもの、とは言いがたいね。無理な実験のせいで内臓器官の働きが弱い
筋肉もこの年齢の平均的な子に比べたら、ちょっと少ないね」
冥土帰しは、胃腸に優しい食べ物と適度な運動が必要だ、と分けの分からない言葉をを続ける。
え? 死の淵にいる少女を献身的に支え、抗えなかった運命に涙しながら
病院の屋上で少女の最後の言葉を胸にかみ締めながら少女の名前を呟く的な展開は、と一方通行が思ったかは定かではない。
4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/03/29(月) 01:45:10.60 ID:s48mAdqp0
「おい、ちょっと待て。は? え、なンだこれ」
白衣を着たカエル顔のおっさんの言葉に、一方通行の理解が追いつかない。
出オチです、と軍用ゴーグルを被ったやる気のない少女の影が一瞬一方通行の脳内をよぎる。
「うん、それに他の妹達同様に調整も必要だね。しばらくは入院してもらうことになるかな。
彼女にも準備があるだろうから、今すぐにとは言わないよ」
と、言って軽く笑う冥土帰し。
そこで一方通行は識った。この目の前の男はどうやら自殺願望があるのだと。
震える手で首に巻かれたチョーカーのスイッチに触れる。
最早、迷うことはない。
5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/29(月) 01:47:05.55 ID:s48mAdqp0
「あははは! ってミサカはミサカはあなたの醜態を笑ってみたり!! ぷぷっ」
「なに、心配してくれたのあんた? くっくっく」
「…」
チョーカーのスイッチを入れたところで打ち止めと欠陥電気が笑いながら室内に乱入。
一方通行は、二人のバカ笑いに怒りで体を震わせ能力を全開で使用しようとしたところで、打ち止めに能力制限を掛けられ御用となった。
秋の緩やかな日差しの中、病院から家までの距離を三人はのんびりと歩く。
打ち止めと欠陥電気が仲良く並んで歩き、そのやや後ろを陣取って一方通行は無言で足を動かしていた。
二人の会話を聞き流しながら、一方通行は帰りがけに冥土帰しが言っていたことを反芻する。
(悪いね、あんなことを言ってしまって。途中から彼女たちの存在に気付いてね)
(言ったとおり、彼女は他の妹達よりたぶん、保たないと思うよ)
(自覚症状なんてのは、まだ当分先の話だろうけども油断はできない)
6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/29(月) 01:49:09.52 ID:s48mAdqp0
(楽観はできないけども、悪いことばかりじゃないんだよ)
(世界中にいる妹達の調整が進んでデータが採れてね、そのデータを生かすことができる)
(彼女はきっと分かっているよ、自分のことだからね。君は―――)
胸クソ悪くなる話だった。
もともとの素体となった9982号、妹達自体が薬物付けて普通のクローンに比べ短命なのだ。
欠陥電気は、それに加え無理な実験を繰り返し行われた。
どれだけ生きれるのかは、まさに神のみぞ知る。
一方通行は、チッ、と舌打ちし目の前を歩く少女を見た。打ち止めと楽しそう話す彼女。
施設の地下で出会ったときのあの狂った姿は、今の彼女からは想像できない。
『超電磁砲(オリジナル)』の記憶を持った検体番号9982号、かつて自分が手にかけた妹達の生き残り。欠陥電気。
背負うつもりなど一方通行はさらさらない、だが簡単に切り捨てることもできそうになかった。
だから、この時間を続けたいと、そう思った。
9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/29(月) 01:51:30.94 ID:s48mAdqp0
「お腹空いたかも…」
「あんたねえ、昼しっかり食べてたじゃない」
「いや、そのね。甘いものは別腹ってミサカは言外に言いたいわけで…、ってミサカはミサカは恥じらいつつ呟いたり」
「帰ンぞ」
「いえーい! 即答速攻大否定! ってミサカはミサカはどこか既視感を覚えるセリフに唸ってみたり…」
「クレープの美味しいお店知ってるから、そこに行こっか」
「はい決定! ってミサカはミサカは民主主義にのっとって案件の成立を宣言したり!」
「俺の金だろうがァ!!」
一方通行にお決まりの台詞を吐かせたところで、二人は目的地へ向かい歩き出す。
青筋をたて、公衆では憚れるような内容の罵詈雑言を浴びせ一方通行は否定の限りを尽くす。
が、結局は少女達についていくことになるのだ。
このパターンは習慣化しており、特に欠陥電気が加わったことによって2対1の厳しい戦いを、一方通行は強いられるようになった。
彼の苦労の種は尽きない。
11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/29(月) 01:53:30.43 ID:s48mAdqp0
「あ、ちょっとやばいかも…」
「どーしたの? お腹でも痛いの? ってミサカはミサカはさり気ない気遣いをしてみたり」
「全然さり気なくないわよ」
欠陥電気は思いつきでクレープを提案したものの、よく考えてみればあそこは御坂美琴の生活圏であることに気付いた。
今の彼女にクレープを食べるだけの余裕があるかは分らないが、これは行かない方がいいのかもしれないと、欠陥電気は悩んだ。
記憶に新しい今日の午前、すでに御坂美琴の友達である佐天涙子、初春飾利の両名とブッキングしてしまっているのだから。
念のために口止めしているものの、いつ爆発するか分らない不発弾のようなものだ。
欠陥電気はこれ以上の失態は避けたかった。
「そこってさ、わたし……っていうか…、ああ、まどろっこしいわねっ!
だから『私』がよく行ってた店なのよ。だから―――」
「なるほど…、ってそれぐらいでミサカが引くと…………って、いたーい!」
「頭イカれてンのかオマエは」
打ち止めに華麗なチョップを決める一方通行。実にこなれた動きである。
12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/29(月) 01:55:31.06 ID:s48mAdqp0
「ぶ、ぶつことないじゃない! ってミサカはミサカは涙目で抗議の声をあげ………って、いたいいたいいたい」
「このバカはなァ、すでにチョンボしてやがンだよ。これ以上手間掛けさせンな」
一方通行のバカ呼ばわりに欠陥電気は文句の一つもつけてやりたいところだったが、身に覚えがありすぎてやめておいた。
涙目で頭をおさえる打ち止めを慰めるように、欠陥電気は言った。
「あー、うん。帰りにコンビニにでも寄ろっか」
「うぅぅ、痛い頭を労わりながら、ミサカはミサカはその提案を飲んでみる」
その金も俺ンだろ、と喉まででかかった言葉を一方通行は飲み下し。
最近消費が激しくなり買い置きが心もとなくなったブラックコーヒーを大量に買ってやろうと固く誓った。
13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/29(月) 01:57:42.06 ID:s48mAdqp0
日が暮れて暗くなり、ネオンがようやくと出番がきたと働き始める。
一方通行は、早めの夕食を終え定位置となっているソファーに身を投げテレビを眺めていた。
打ち止めはどうでもよさげにテレビを眺める一方通行と違い、興味津々で番組に釘付けになっている。
「お風呂あいたわよー」
そこへ最近加わったもう一人の同居人、欠陥電気が声を掛ける。
欠陥電気は妙に可愛らしい柄のパジャマ姿で、まだ湿っている髪を拭きながら
冷蔵庫からミネラルウォーターの入ったペットボトルを取り出し打ち止めの横に座りこむ。
そして、ふん、と女の子らしからぬ掛け声で蓋を開け一口飲み言った。
「打ち止め、あんたちゃっちゃと入りなさいよ」
「えー、今いいところだからもう少し……」
言い切る前に意識がテレビに戻る打ち止め。
その様子にため息を吐きながら、欠陥電気もテレビを見やった。
14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/29(月) 01:59:38.85 ID:s48mAdqp0
番組内容はよくある、怖い話というやつだ。
なんというか、放送時期が遅い。冬というには早すぎるし、まだ暖かいけどもすっかり秋といえる季節。
しかも収録しているのが夏だと思われる格好のリポーター。
あ、これは視聴者を舐めているな、と欠陥電気が思って誰が責めよう。そんな番組だった。
「…あんた、これ見たあと一人で入れるの?」
中身が半分になったペットボトルをテーブルに置いて、欠陥電気は打ち止めに言う。
「一方通行と入るから大丈夫だよ、ってミサカはミサカはテレビから目を離さずに言ってみたり」
「ざけンなクソガキ。オマエ一人で入れ」
打ち止めの言葉を即座に否定する一方通行。
それも仕方のないことだ。なにせこの幼女、確信的な常習犯なのだから。
怖い映画などを借りてきては、一方通行にやれ一緒に寝ろだの風呂にはいれだのせがむ。
繰り返しきった流れに、一方通行はうんざりしていた。
16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/29(月) 02:01:24.33 ID:s48mAdqp0
「わたしはダメよ」
とりあえず言っておく欠陥電気。
彼女も短い付き合いであるが、打ち止めの行動が分りやすいぐらい読めた。
一方通行に断られた打ち止めが次にとる行動が。
「ぶー、いいもんそれなら一人で入るから」
相変わらず画面から目を離さないまま打ち止めは言った。
一方通行も欠陥電気もその言葉が嘘になる確信があったが
下手につつくと打ち止めの世話焼きの口実を相手に与えてしまう恐れがあるので放って置くことに決定した。
お互いに相手がそう考えているだろうなあ、という判断のもとに。
「うわぁ……夜のトンネルはもう通れないかも、ってミサカはミサカは震えてみる」
「ちょっとコレは来るわね…」
17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/29(月) 02:02:57.19 ID:s48mAdqp0
深夜のトンネルに白いワンピースを着た女性が現れる、といったものだった。
トンネルを通過するときに、誰も居ないはずの後部座席から突然女性の声が聞こえ振り返ると―――
「…ッ」
「な、なかなか怖いじゃない…」
画面いっぱいに件の女性と思われる顔(イメージ)がドアップで映る。
時期を外し、視聴者を舐めているかと思えばいい仕事をする製作会社だった。時期を外したのはテレビ局のせいだろうが。
「…あ、ちょっとトイレに」
別にトレイになら勝手に行けばいいものを、わざわざ口に出す打ち止め。
その理由は最早考える必要もなく、分りきっていたことだ。
「あっそ、勝手に行けよクソガキ」
「これチャンネル変えていい?」
実に冷たい反応である。自業自得だが。
19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/29(月) 02:07:06.92 ID:s48mAdqp0
「はァ? 俺はこのあとのに用があンだよ」
「興味ないわね、わたしはドラマが見たいのよ」
「ンなもンみなくても、オマエなら過去を振り返ってお手軽にドラマできンだろ」
「4部作ぐらいのシリーズ物になるあんた程じゃないけどね。っていうか、動物が見たけりゃ野良猫でも探してきなさいよ
まあ、あんたの顔みたらすぐに逃げ出すだろうけど」
「僻むンじゃねェよ、電気女」
「あっそ、なら鏡でも見てれば? 厳ついけどウサギがいるから」
打ち止めをおいて、不毛な争いに始終する。
この家でチャンネル争いが起きるのは稀である。
興味のある番組が極端に少ない一方通行、彼が好むものは静かな内容のものが多く
動物のドキュメンタリーや自然をテーマにした番組である。見るというより、ボーっと眺めるように視聴する。
そんな一方通行とは違い、欠陥電気は騒がしいB級映画や動きのあるドラマ、クイズ番組などを好んだ。
もともとの御坂美琴は寮生活であり、夜テレビを習慣がなかったのでさして見る番組は多くなかった。
21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/29(月) 02:09:36.00 ID:s48mAdqp0
もっともテレビを見ているのは打ち止めである。
バラエティから教育番組まで様々な番組を見ていた。聞いたこともないようなマイナー芸人の名前を挙げたり。
突然ダンボール工作を始めたりと、興味範囲が広い。
そういうわけで、チャンネル争いが起こることは稀なのだが。一旦始まると互いに譲らない。
負けず嫌いな性格も災いしてか、特に一方通行と欠陥電気のチャンネル争いは酷かった。
「ちょっと、チャンネル渡しなさいよ!」
「ざけンな、そもそも俺ンだぞ。ちったァ遠慮しやがれ居候がァ」
「別にいいわよ、チャンネルがなくたって……こうすれば」
「―ッ!? 能力使ってンじゃねェよ!」
「はぁ? 何で使っちゃダメなのよ。使ってこそでしょうが…って、ベクトル操作!?」
「残念でしたァ、オマエはそこで黙って指でも加えてろ」
「ちょっと! 卑怯よそれは!?」
「はァ? 使ってなンぼなンだろうがァ」
「…誰かトイレについてきて欲しいんだけど、ってミサカはミサカは………うぅ」
24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/29(月) 02:14:58.91 ID:s48mAdqp0
>>22
イエス
前々作は気合入れ 流し読み推奨 流れが把握できたらおk
前作は 合間のエピソード その後に続き
しかし需要がねwwwwでも頑張って投下しますあ
25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/29(月) 02:16:47.17 ID:s48mAdqp0
―――同時刻―――
上条当麻は己のバカさ加減に呆れていた。
不幸であることを自認し、口癖にいたっては、不幸だ…、という極めつけの不幸体質の彼は今、自分自身を殴りたかった。
話は二日ほど遡る。
その日の夕方、公園で黄昏ていると御坂妹(10032号)が現れてこう言った。
彼女の記憶はそのままだと、それだけ上条に伝えてさっさとどこかへ行ってしまった。
突然すぎて言葉の意味が分らなかったが、5分もしないうちに意味を理解し叫んでいた。
その後、上条は一日前に起きた事(三日前)を思い出し悩んだ。
彼女、欠陥電気(もっとも、上条は欠陥電気のことをどう呼ぶべきか決めかねているが)が生きている。
突然現れて、去っていった彼女の死亡説を聞いたのはまさにその日(三日前)の夜。
他ならぬ御坂妹の口から聞いたのだから、非常にややこしい。
27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/29(月) 02:20:26.76 ID:s48mAdqp0
理解が追いつかず、上条は働かない頭で話を整理する。
御坂美琴のそっくりさんがいる。そっくりさんなら一万人ほど居るのだが
問題なのは、そのそっくりな少女は御坂美琴本人の記憶を持っており、本人だと思って行動していたことだ。
一日前、(三日前)に学校に向かう途中で出会い、出会うなら眠りだした(漫画喫茶で徹夜と本人談)少女を自宅のベッドで寝かした。
その日の夜少女の姿は消え、御坂妹から少女が死んだであろうと聞かされた。
そして今日(二日前)の夕方に御坂妹と出会い、死亡が撤回される。
色々とすっ飛ばしているが、大まかな流れは大体こんな感じだ。
それから紆余曲折を経て――――現在(今日)に至る。
28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/29(月) 02:21:32.82 ID:s48mAdqp0
三日前 少女と会って別れて 御坂妹から死亡の知らせ
二日前 御坂妹から生存の知らせ
一日前
今日 自分をそげぶしたいと思う気持ち
31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/29(月) 02:23:43.97 ID:s48mAdqp0
美琴は、上条の胸を顔をうずめて泣いている。
いつもの強気で勝気な彼女は、どこにもいなかった。
「悪かった、頼れなんて気前のいいこと言っちまっといてこの様だ」
「……っ………ひっく…」
美琴はまだ少女の記憶がそのまま残っていることを知らない、そもそも少女が死んだという話すら聞いていない。
彼女の中では、自分の記憶を持った少女と寮で出会ったあとは、上条の家で一度会っただけだ。
そして次の日(二日前)の夕方に、上条から少女が消えたことを知らされた。それだけである。
上条は知りえた事情の全てを美琴には黙っていた。
「こうやってさ、お前が辛いことに気付かずに遅くなっちまたのは2度目だな」
「…べつに……あん、たのせいじゃ……ないわよ………っ」
美琴に余裕はなかった。少女と出会ったときにルームメイトであり後輩であり、大事な親友である白井黒子がその場に居たから。
出会ってそうそう美琴との能力戦で傷つき、茫然自失となっていた少女に美琴の制止を振り切って駆け寄る黒子。
黒子と少女が交わした言葉は多くない、それでも黒子はその存在がもう一人の御坂美琴であると信じて疑わなかった。
妹達の事情すら知らない彼女には、少女の正体など検討もつかないだろう。
だが黒子にとってそんな事情など問題などではなかった、大事な人が傷ついている。
黒子にはそれで十分だった。だから、なにもできないままで終ってしまったことに黒子は深く落ち込み傷ついた。
32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/29(月) 02:27:27.57 ID:s48mAdqp0
「ごめんな」
「あやまってんじゃ、ないわよ……っ…」
美琴はそんな黒子を慰める。だが、事情を話すわけにはいかなかった。話したくなかった。
妹達の存在を疎ましく思ってなどいない、しかしそれは美琴にとって禁忌に近いもの。
簡単に気持ちの整理じゃつくものじゃない。だから、黒子には話せなかった。
「悪い」
「ひっく……だから、あや、まんな…………」
二日間。少女が生きていることを聞かされてからの二日間、上条は少女を探し回り学園都市を駆け巡っていた。
美琴のことを考えていなかったわけではない、少女を見つけ事情を聞くことが事態の進展に繋がると。
それが最善だと信じて行動していたのだ。
少女の行方が分からなくなったと上条が美琴に伝えたとき、美琴は気丈に振舞った。
私は黒子を慰めるから、あんたはシスターの相手をしていなさい、と上条の前で演じきった。
上条が焦っていたからかもしれない。いつもなら気付けたかもしれない美琴の異変に上条は気付けなかった。
美琴の、助けを求める声を聞き逃してしまった。
「お前のさ、携帯から電話が掛かってきてたんだ」
「…え?」
37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/29(月) 02:56:09.96 ID:s48mAdqp0
美琴は二日前に上条と会ってから、連絡を一切とっていない。それはありえないことだ。
「白井からだったよ。お前を助けてやってくれって」
「くろ、こ?」
自分の記憶を持つ少女に怯え、困惑していた美琴に余裕などあるはずがない。
頼れるべき相手も自分から拒絶した彼女はすぐに限界を迎えた。
助ける側のはずの彼女は、気がついたら助けていたはずの存在よりもずっとぼろぼろになっていた。
「そりゃそうだろ、じゃなかったら流石の上条さんも常盤台の寮に乗り込めねえよ」
「…っ」
上条の言葉に美琴は身を震わせる。
それでもこうして助けにきてくれたのだから。この少年はいつだってこんなにも優しくて強いのだ。
美琴の胸はあたたかいものでいっぱいになる感覚を覚えた。
ただ―――いや、こいつならやりかねない、とも美琴は思った。なにせ前科持ちなのだからと、そう考えて少し笑った。
「…お前、なに笑ってんだ?」
「…、……前科一犯が、そんなこと言っても説得力がないわよ」
「はぁ!? 前のはちゃんと白井に許可とってから上がったって言ったろ!?」
上条の叫びに、美琴はくすくすと笑った。
38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/29(月) 02:59:24.67 ID:s48mAdqp0
「きっかり一時間ですの」
美琴のベッドに腰をかけ、微妙な距離をおく二人に黒子は言い放った。
突然部屋に現れた黒子に二人は驚くが、黒子の能力を考えれば不思議ではない。彼女は空間移動者なのだから。
「と、突然出てくるなよ白井。めちゃくちゃ驚いたじゃねえか」
「あなたとお姉さまをこれ以上二人っきりにするなどと、わたくしには到底許容できませんでしたので」
しれっ、と言い捨てる黒子。その様子に上条は脱力しながら答えた。
「あー、はいはい。憧れのお姉さまを独占して申し訳ありませんでしたー」
「わかりましたら、さっさとどこぞへ消えて頂きたいのですが」
支援あり 正直今夜はqT5KFXwa0とタイマンになるかと覚悟してたw 見てるなら反応が欲しい 寂しくて死ねる
9982は美琴の記憶しかないお あとはNWで得た知識だけって感じかな? 適当です
39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/29(月) 03:02:30.35 ID:s48mAdqp0
お前はもう用済みだと言わんばかりに、しっしっ、と実に分かりやすいジェスチャーで己の意思を上条に伝える黒子。
大好きなお姉様のためなら毛嫌いする上条ですら使う。それが黒子クオリティ。しかし、それも終ればこれである。
今の美琴に対し自分が無力であることは嫌というほど理解した。悔しいが上条に頼らざる得なかった。
口には決して出さないが、美琴が上条を信頼しきっていることなど、黒子にとっては最早常識の類。
だからちょっと、自分でもやり過ぎかなと思いつつも、黒子は上条に八つ当たりせずにいられなかった。
「ちょ、ちょっと黒子!」
黒子の物言いが流石に酷いと、美琴は上条を擁護すべく強い口調で黒子をたしなめる。
美琴の強い口調に、黒子は目を見開き美琴を凝視する。
そして、
「お、お、お姉ぇ様? …あぁ、お、ぉ゛ね゛え゛ざま゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!!」
「うわっ、ちょっと抱きつかないでよ! こら、離れなさいっ!」
「黒子は、黒子は………っ」
突然抱きついたかと思えば、すんすんと泣き出す黒子。
そんな黒子を見て、美琴は振り払うことをやめ苦笑しつつ優しく抱きしめた。
「心配掛けたわね。ごめん」
「……っ……ひっく……」
「もう私は大丈夫よ。ありがとう、黒子」
42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/29(月) 03:06:11.12 ID:s48mAdqp0
非常に感動的なシーンのはずだったのだが、上条はやや頬を引きつらせて二人を見守っていた。
ここは由緒ある学園の女子寮で、男子禁制の花の園。当然今いる部屋も男が入ったことなどないだろう。
過去の自分を除いてだが。ここは男を感じさせるモノが何一つなかった。
そして目の前には中睦まじく抱きしめあう少女が二人。
ようするに、上条はひたすら居心地が悪かった。
「えー、じゃあ俺帰るわ…」
「あ、ちょっと待ちなさいよ!」
「……チッ」
空気に耐えられず上条が帰ろうとすると美琴がそれを止めた。
折角いい雰囲気になっていたのに、と黒子はかなりマジな舌打ちをする。
無遠慮な声によりお姉様との久しぶりの至福の時を邪魔された。もう少しお姉様の感触を堪能したかったのにと。
「お姉様? いいではありませんか、そちらの殿方にも非常に瑣末なことでしょうが用事くらいあるのでしょう」
「あ、でも…」
「流石に泣くぞこら」
「まぁまぁお姉様、もう夜も遅いですし引き止めるのは野暮ってものですのよ」
43 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/29(月) 03:08:37.59 ID:s48mAdqp0
時刻はすでに11時を回っていた。
このままだと家に戻る頃には日付が変わっているかもしれない。
インデックスはもう寝ているだろうな、と風変わりな同居人のことを上条は思い出した。
「それも、そうね…」
非常に口惜しそうに、美琴はこぼした。
美琴の了承がでたので黒子はさっそく行動に移る。
「それじゃあ外まで送りますわ」
「おう、悪いな」
「あ、お姉様はここにいらしてくださいな」
「え? なんでよ…」
自分のためにわざわざ来てくれたのだ、見送りして当然だと美琴は主張する。
ただ少しでも長く一緒に居たいだけだったが。それは決して口にしない。
「はぁ…、やっぱりお疲れのようですねお姉様。三人よりは二人。そして黒子は空間移動者ですのよ?」
「ああ、そりゃそーだな。見つかったらヤバイし」
「わたくしなら殿方を見送ったあと空間移動で戻れますから」
「う゛」
完璧すぎる理論に、打ち崩す隙は見当たらない。美琴は唸って粘るが結局黒子に押し切られた。
44 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/29(月) 03:10:22.33 ID:s48mAdqp0
寮館に見つかることなく、無事に脱出に成功した上条は安堵のため息を吐いた。
もうここまで来れば見つかることはないだろう。寮の入り口からは死角になった歩道で立ち止まる。
「わりい、助かったぜ白井」
「構いません、もともとわたくしが貴方をお呼びしたのですから」
「じゃあ、俺は…」
「少し、歩きながらお話しませんか? 上条当麻さん」
上条の言葉を遮り黒子が言った。その響きはとても冷たく、上条は言葉を失った。
美琴をお姉様と慕い暴走する白井黒子は影を潜め、上条の知らない白井黒子が現れる。
上条は、その提案を受け入れた。
46 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/29(月) 03:13:01.62 ID:s48mAdqp0
「…」
「…」
無言で夜の道を歩く二人。
上条は黒子が喋りだすまでは、自分から口を開こうとは思わなかった。
地面を見据え、伏目がちに睫毛を揺らすツインテールの少女。もう5分は歩いただろう。
どう切り出すべきか迷っていたが、黒子は意を決して言った。
「あの『お姉様』は、一体誰なんでしょうか」
「さあな」
少女の正体の検討はついているが、本当のところを上条は知らない。
それを知るために走り回っていたのだから。
黒子は、まるで独り言かのように言葉を続ける。
「わたくしも、世情や噂に疎いほうだと自認していますが、聞いたことくらいならありますのよ?」
「…」
「お姉様、『超電磁砲』のクローンが軍事目的で造られている、なんていうバカげた話ですが」
だろうな、と上条は胸中で呟く。
わざわざこうして毛嫌いしているであろう自分と、二人っきりで歩く理由などそれしか考えられない。
47 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/29(月) 03:14:23.67 ID:s48mAdqp0
「貴方も、お姉様も何か知っていて隠していませんか?」
「…」
「まあ、簡単に話してくれるとは思っていませんから」
この少女も足掻いているんだな、と上条は思った。
自分と同じように欠けたピースを埋めるために足掻いている。
「なので、力ずくで聞き出しますと言えば貴方はどうされますの? 上条当麻さん」
「…御坂が悲しむようなことをお前はしねえよ」
「…」
「認めるぜ。俺と御坂はお前が知らないことを知ってる」
「…っ、だったら」
「それは、御坂がお前に話す」
「―ッ」
美琴の名前をだされた黒子は一瞬肩をビクリ、と動かし口をつぐんだ。
「その役を俺がとったらまずいだろ?」
「…」
50 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/29(月) 03:15:42.18 ID:s48mAdqp0
妹達のことは美琴がいずれ黒子に話すだろうと上条は考えている。たぶんそう遠くない日に。
その役目は美琴のもので、上条が奪っていいものじゃない。
だからそのことに関しては上条が言えることは何もないのだ。
ただ、黒子にとってなにも収穫がないままこの会話を終えてしまうのは、ずるいことだと上条は思った。
提案を受け入れたのだから、せめて今言えることを言っておこうと。
「あの子について一つだけ言えることがある」
「…、今さら言ってもしらじらしい限りですが、いいでしょう。念のために聞いておきます。それは何ですの?」
念のため、の所を妙に強調する黒子。この少女も大概素直じゃない。
黒子の反応にやや疲れた顔をしながら上条は呟いた。まるで自嘲するかのような響きで。
「俺も御坂も、あの子のことは全然知らないんだよ」
そんなことは見れば分かる。あの少女に誰かと問いかけた美琴が、少女を何者か知っているはずがない。
黒子は上条の言葉に呆れ、皮肉でも言ってやろうと上条を見て言葉を失う。
そう呟いた上条の顔は、とても悔しそうにしていたから。
51 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/29(月) 03:18:50.07 ID:s48mAdqp0
その日欠陥電気は、少しばかり寝坊した。
昨日に見たテレビの内容に魘され不覚にも夜中に目が覚めてしまい、その後中々寝付けなかったから。
これでは打ち止めのことを笑えない。
そんなわけで、彼女は遅めの起床となり、まだ覚醒しきってない頭をなんとか動かして洗面所へ向かう。
キッチンを横目に重たい体を引きずって。
そしてそこで彼女は見てしまう。
一瞬で眠気が吹っ飛び目を見開いて目の前の現象を凝視した。目は覚めたが今度は幻覚でも見ているのかと、我が目を疑う。
「え? ちょ、あんた何してんの?」
「…」
返事はない。やはり幻覚なのかもしれない。
それにしてもこれは酷いものだ。いや、だってありえないし、と欠陥電気は声に出さずに突っ込みを入れる。
悪逆非道で外道畜生の道を爆進するあの彼が、まさかあの彼が―――
「エプロンつけて料理っすか…」
「…チッ」
あ、舌打ち。なるほど、これは現実なのかと欠陥電気は理解した。
この状況、果たして突っ込むべきところなのか、それとも家庭的なナニかに目覚めた彼を優しくスルーすべきなのか欠陥電気は迷った。
そしてこう言った。
53 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/29(月) 03:20:41.85 ID:s48mAdqp0
「あ、うん。そのシャツ高いもんね…」
ブランドものだし。
「さっさと顔洗ってきやがれっ!!」
「おっはよー! ってミサカはミサカは元気よく挨拶してみたり!」
「ん、おはよ」
「朝は一方通行とミサカが用意するから! ってミサカはミサカは一方的に宣言してみたり!」
料理などしたことがないであろう二人組みがつくる朝食を心配しつつ、欠陥電気はキッチンを離れた。
一体どんな心変わりがあっての奇行だろう。打ち止めが無理やり一方通行を付き合わせたことは想像に難くないが。
顔を洗って歯を磨き、ボサボサになっている髪を梳く。
軽く両手でパン、と頬を叩いて「うっし」と呟き締める。
ふと、欠陥電気は鏡にうつる自分の顔をじっとみて見た。どこをどうみても記憶の中の『私』そのものである。
「ごはんできたよー!」
打ち止めの声が聞こえてきたことで、我に返り苦笑する。
「はいはい、今行くわ」
欠陥電気はそう言うと、洗面所をあとにした。
55 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/29(月) 03:23:51.83 ID:s48mAdqp0
「へぇ、意外と美味しいじゃん」
「でしょー! ってミサカはミサカは自画自賛してみたり!」
「…(クソ甘ェ)」
「…(ちょっと、砂糖入れすぎだけど)」
形が崩れて焦げてたりするが、打ち止めが作った玉子焼きはなかなか美味しかった。
ウィンナー、プチトマト、玉子焼きにトースト。作ったと言えるものは玉子焼きだけだが、それでも立派な朝食だ。
やるじゃない、と口の中で呟く欠陥電気。どうなることかと思ったが、案外美味しいしこれなら朝食は任せてもいいかもしれないと。
「……おい、打ち止め」
「んー? っへみはかはみはか…」
「…食べながら喋るんじゃないわよ」
先ほどまで黙って朝食をとっていた一方通行は、顔をしかめて打ち止めを睨む。
はて? と欠陥電気は思った。“まだ”打ち止めは一方通行を怒らせるようなことをしていないはず。
では何故彼は急に顔をしかめて睨んでいるのか。
ウィンナーに箸を伸ばし口に入れて納得した。
「―――なンでコレが甘ェンだ?」
甘ければ美味しいとか子供的すぎる思考の打ち止めに呆れながら、欠陥電気は甘いウィンナーを飲み込んだ。
56 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/29(月) 03:28:25.71 ID:s48mAdqp0
「美味しいよ?」
「ざけンなクソガキ!!」
「んもー、じゃあ塩でもかければ? ってミサカはミサカは呆れながらナイスアイデアを提案してみたり」
それで味が元に戻れば誰も苦労しないだろう。あまりにも幼稚な発想。さすが幼女。
しかし、よく考えてみればキッチンに立っていた筈の一方通行は、一体何をしていたのかと欠陥電気は疑問に思った。
彼はどうして打ち止めのこの凶行を止めなれなかったのか。
お茶を飲み甘ったるくなった口を直して欠陥電気は言った。
「っていうか、あんたは何してたの?」
「コレは俺が作ったンだよ! このクソガキが目を離した隙に砂糖ぶち込みやがったンだろうがァ!!」
「目を盗んでフライパンに砂糖を入れるのは大変なミッションでした…、とミサカはミサカは遠い目で語ってみたり」
「はぁ…、とりあえず砂糖はもうやめてよね。っていうかあんた今日お菓子抜きね」
「ちょっと待って! それは関係ないんじゃないかな! ってミサカはミサカは反論してみる!」
「…砂糖でも舐めてろクソガキ」
58 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/29(月) 03:31:08.65 ID:s48mAdqp0
一方通行は少しだけ誇らしかった傑作のウィンナーが、見るも無残な姿になったことに悲しんでいた。
調理済みの彼らに対して自分にできることは食ってやることだけだと、甘いウィンナーを無言で口に放り込む。
「…」
「よく食べれるわね…。めちゃくちゃ甘くて、なんか気持ち悪いんだけど」
一方通行は欠陥電気の言葉を無視しもくもくとウィンナーを食べる。
打ち止めは涙目になりながらも美味しそうにウィンナーを食べていたので、自分の皿から無言でウィンナーを移す欠陥電気。
プチトマトは調理の必要がないためか難を逃れていたが、よく見るとその横にそっと砂糖の山が盛りつけてあった。
無論一方通行と欠陥電気は、砂糖の山を無視してプチトマトを食べた。
59 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/29(月) 03:33:07.68 ID:s48mAdqp0
「狭いわね」
「突然なにを言い出すの? ミサカの最高傑作を侮辱するなら相手になるよ! ってミサカはミサカは…」
「あんたの作ったダンボールハウスなんてどうでもいいのよ」
「はうっ! 侮辱以前に評価対象にすらならないなんて、なんて屈辱…、ってミサカはミサカは肩を落として項垂れてみたり」
朝食を食べ終わり、欠陥電気は紅茶を飲みながら先日購入したファッション雑誌を読んでいた。
一方通行はソファーに体を投げてテレビを眺めている。どうでもいいが、彼は一日の大半をソファーで過ごしてる。
単に描写が面倒だとかそういった理由でなく、彼の一日はソファーで始まり、ソファーで終る。まさにソファー人生。
打ち止めはというと、シュールな着ぐるみが身近にあるモノを使って玩具などを作る教育番組を熱心にみていた。
今回の放送内容はダンボールで家を作るという、世のお母様方が多大な迷惑をこうむる内容だった。
作られてしまった哀れな家は三日と経たずゴミになる。子供は飽きやい、真理である。
例に漏れず、打ち止めもさっそくダンボールで家を作りだした。
材料のダンボールは、こんなこともあろうかとも、と呟いてどこからか調達してきた。多分近所のスーパーの裏手辺りだろう。
そんなわけで無駄にかさばる家ができあがり、リビングの3分の1ほどを占拠した。そして話は冒頭の会話へ戻る。
63 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/29(月) 03:34:24.31 ID:s48mAdqp0
「ふーん、いいよ。絶対に入れてあげないからね! ってミサカはミサカは会心のできに胸を躍らせながら室内へ」
「入らないわよ、そんな…。まあどうでもいいか」
「カッチーン! 一度ならず二度までも、さすがのミサカも怒りが有頂天!!」
「っつ…、ってなにすんのよっ!!」
「ふっふーん! これはミサカが作った伝説の剣だよ! ってミサカはミサカは国宝級の刀匠も裸足で逃げ出す剣を見せびらかしたり!」
「えい」
「あーっ!!」
一つの伝説の終焉である。伝説の剣は横からの衝撃に異常なほど弱かった。
「うっせェンだよオマエらはァッ!!」
「ら、ってことはないでしょ。ら、ってことは!」
「あ、そこを否定するのね、ってミサカはミサカは我が家に緊急避難してみたり!」
打ち止めは早速家に入り込み、歪んだ穴(打ち止め曰く窓とのこと)から外の様子を伺う。
テレビを見ていた打ち止めが、突然ダンボールを持ち出して家を作り出したのは一方通行も横目で見ていたので知っている。
だが、改めて直視すると予想以上にでかく、非常にうざかった。
一方通行は舌打ちし吐き捨てた。
64 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/29(月) 03:35:42.58 ID:s48mAdqp0
「邪魔くせェもン作りやがって…。燃やすか」
「…その直接的過ぎる発想はどうかな、ってミサカはミサカはあなたの思考回路を心配してみたり」
「ごめん、わたしもそれ考えたわ」
「むむ、これは三匹の子豚て展開の予感! ってミサカはミサカは断固として譲らない徹底抗戦の構えをとったり!」
「どォせオマエ、夜飯食ったくらいには飽きてンだろ」
「そ、そんなことないよ! 少しずつ改装したり改築したり増築する予定だよ、ってミサカはミサカは夢のマイホーム計画を…」
「ンなくだらねェ計画を立ててンじゃねェよ」
「まあ諦めなさいってことね」
「はい決定ェ」
「え、ちょ…」
一方通行が壮絶な笑みを浮かべ、打ち止めのダンボールハウスの解体を始める。
打ち止めは一方通行に浮かんだ笑みをみた瞬間にダンボールハウスから飛び出て欠陥電気に抱きついた。
「な、なんであんなに楽しそうなのかな、ってミサカはミサカは聞いてみる」
「た、たしかに、ダンボール壊すだけなのに妙に楽しそうね…」
66 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/29(月) 03:39:08.51 ID:s48mAdqp0
一方通行は舌なめずりをしながら、『獲物』を舐め回すかのようにたっぷりと時間を掛けて見た。
この学園都市最強の『縄張り』の『ホーム』を3分の1も占拠するという『暴挙』を行い
なお平然と『佇む』姿勢に、『獲物』が己の『敵』であると認めた。
一方通行は噛み殺すように笑った。最強であるこの一方通行の本気に対しなお『対決』の姿勢がとれることに心から感心した。
じゃァ、遠慮はいらねェなぁ、と呟くチョーカーのスイッチを入れる。
まずは小手調べとして『敵』の『体』の一部をまるでアイスをスプーンで掬うかのようにサックリ、と切り取った。
『敵』に様子に『変化』はない。どうやらこの程度の『傷』では動じないだけの『胆力』を『敵』は持っているようだ。
面白ェ、と口中で呟きキシシ、と一方通行は笑う。
右腕を上段に構え、無慈悲に振り下ろす。『敵』の『体』は大きく裂け『血しぶき』が上がた。
顔に掛かった『敵』の『血液』を手で拭い味わう。苦味のある独特な味だった。
『敵』の『傷』は致命的で大きく姿勢を崩し力なく『倒れた』。
最早眼前の『敵』はただの哀れな『獲物』に成り下がった。
一方通行はさらに顔を歪め大きく哂う。キヒャァッ、と奇声を上げて『獲物』に踊りかかった。
「ただダンボールを解体してるだけなのに、すごく、猟奇的です、ってミサカはミサカは引いてみたり」
「ストレス…なのよ。そっとしといたほうがいいわ」
かくして夢のマイホーム計画は頓挫し、無駄にかさばるダンボールの残骸と狂ったように哂い続ける一方通行がそこにいた。
68 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/29(月) 03:40:43.19 ID:s48mAdqp0
ダンボールの片づけを命じられた打ち止めは、無駄に大きく作ったことを後悔しつつなんとか作業を終らせると
こてん、と電池の切れた人形みたいに床に転がった。
そのまま、ボーっと過ごし気が付いたらテレビは消えていて静かな時間がやってきた。
半分ほど開けた窓から、心地よい風が流れてきてカーテンを揺らす。
まるで子猫のように丸くなり打ち止めは床にゴロン、と横になっていた。
欠陥電気はそれを包む親猫のように打ち止めのすぐ背後で寝そべっている。
一方通行はソファーに体を投げてテレビを眺めていなかった。テレビのスイッチは切れているのだから。
「…」
「…」
「…」
時間はそろそろお昼を告げる頃。
雲の切れ目から淡い日差しが差し込んできて、打ち止めと欠陥電気に降りそそぐ。
打ち止めは体をもぞもぞと動かしながら、ピタリと欠陥電気に引っ付いた。
その仕草に欠陥電気はくすぐったいものを感じながら、苦笑して打ち止めを優しく包み込んだ。
「…」
「…」
「…」
一方通行は、心地よい風を感じながら半分閉じかかっていた瞼を閉じて軽く欠伸をする。
その欠伸がうつったのか、床で寝ている少女たちもふぁ、と欠伸をした。
70 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/29(月) 03:41:43.66 ID:s48mAdqp0
のんびりとした時間が過ぎる。いつもの喧騒が嘘のようになりをひそめていた。
「…」
「…」
「…」
両の手で軽く抱きしめている打ち止めの髪に顔をうずめ、少し強めに打ち止めを抱きしめる欠陥電気。
うわ、と小さな呟きが聞こえたがやめない。
打ち止めの髪の毛からはミルクのような甘い匂いがした。たぶん使用しているミルク石鹸のせいだろう。
抱きしめているととてもぽかぽかしていて、だき枕としてとても気持ちがよかった。
一方通行がソファーで楽な姿勢を得るべく、悪戦苦闘する間抜けな音だけが部屋に響いた。
「…」
「…」
「…」
抱きしめられていることにやや息苦しくなった打ち止めは、体を動かす。
打ち止めの意図を理解した欠陥電気は力を少しだけ緩めると、打ち止めはふぅ、と体を弛緩させ手を絡めてきた。
欠陥電気はくすくす、と小さく笑い手を絡み返す。
やっと楽な姿勢を見つけたのか無難なところで我慢したのか、一方通行は動きをとめ軽く首を鳴らした。
71 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/29(月) 03:42:40.63 ID:s48mAdqp0
「…」
「…」
「…腹減った」
空腹を感じた一方通行はぼそっと呟く。
楽な姿勢を見つけ落ち着いたことで、空腹に気付いてしまったようだ。
「無理」
「…」
「…」
欠陥電気に抱きしめられ目を細めて気持ち良さそうにうとうとする打ち止め。
そんな打ち止めを微笑ましく思いながら、一方通行の言葉に即答する欠陥電気。
「…」
「…ふぁ………あむ……」
「…」
一方通行は空腹を感じている腹をさする。一度意識してしまったことで、止まらなくなってしまったようだ。
だが、彼は決して立ち上がろうとしない。
74 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/29(月) 03:45:03.89 ID:s48mAdqp0
いまの彼はソファーと限りなくフィットしており、彼が続けてきたソファー生活の中でも1,2を争うフィット感だった。
だから動くわけにはいかない。少なくとも十二分にこのフィット感を堪能するまでは。
だが、腹が減った。なので一方通行は―――
「嫌よ」
「………ふぃ…」
「…」
まだ何も言っていない。
先手を欠陥電気に取られてしまったことで、一方通行言い出しにくくなってしまった。
おまえ用意しろ、と。
欠陥電気としても今の打ち止めとの時間を邪魔されたくなかった。
珍しくいい子をしている打ち止めが手放せない。優しく打ち止めを撫でながら欠陥電気は口を開く。
「…あんたが」
「…すぅ………すぅ……」
「断る」
この男、一方通行にも隙はなかった。
77 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/29(月) 03:47:44.63 ID:s48mAdqp0
「おいしー! ってミサカはミサカは新規開拓のチャレンジ精神で大成功!!」
「…」
「……ふぁ」
馴染みのファミレスの馴染みの席。やたら大きな窓から見える景色はすっかり暗く、もう夜になっていた。
昼食の準備をローテンションで押し付けあっていた二人は、ローテンションであったがために
いつまでもダラダラと言い合って、気が付いたら夕食の時間と相成った。
一人だけ、やたらテンションの高い打ち止め。
一方通行と欠陥電気は、運ばれてきた料理を淡々と口へ運んでいく。非常に眠そうだ。
打ち止めの注文した、ミルクココナッツステーキハンバーグ風味チーズハンバーグDX、に突っ込む気力すらない。
風味言いたいだけちゃうんかと。
「ミルクのまろやかな舌触りに加え、ココナッツの香りがまたアクセントになっていてたまりませんね
ってミサカはミサカは評論家を気取ってみたりっ!!」
「……ソースくれェ」
「……ん」
78 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/29(月) 03:49:34.60 ID:s48mAdqp0
「そしてこのコーンスープッ! 自分で作るときは、ついついケチって「もうちょっといいよね?」とか
水で薄めすぎてしまう傾向のあるミサカには嬉しいどっろどろの濃厚さっ!」
「………クッソねみィ」
「…………っ、……パスタに顔面突っ込むとこだった」
「極めつけはライスッ! 家だと妙にパッサパサだったりベチョベチョだったりするけど
ふわっふわで、ほくほくしてて最高っ! ってミサカはミサカは評価してみたりっ!!」
「…」
「…」
「ほんとちょーおいしーっ! たまらない一品だねっ!! ってミサカはミサカはry」
「…」
「…」
「ハンバーグ! ライス! コーンスープ! ミサカ最強!! ってミサカはry」
「黙って」
「食え」
「はい」
80 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/29(月) 03:51:19.87 ID:s48mAdqp0
ハイテンションの打ち止めのあまりのうざさに、一方通行と欠陥電気は静かに切れた。
普段怒るときは怒鳴る二人が、あまりにも疲れた顔をしてそっと呟いたので
打ち止めは得たいの知れない恐怖を感じ即答した。
欠陥電気は食後の紅茶を飲みながら、ふぅ、と一息つく。
食べ終わった食器を下げられ、すっきりしたテーブルには新たに打ち止めが注文したパフェが鎮座していた。
目の前にあるパフェに、うぇ、と欠陥電気は思いながらも口には出さず、パフェにパクつく打ち止めをみる。
実に美味しそうに食べる打ち止め。クリームが口の周りについているのはご愛嬌。
そんな二人を尻目に、一方通行は静かにブラックコーヒーを飲みながら、窓の外を景色をボーっと眺めている。
悪くない、と欠陥電気は思った。
学校にも行けないし、友達にだって気軽に会えない。能力も随分弱くなってしまった。
でも悪くないと思えた。
口は悪いし性格も最悪だけど、根は良い一方通行。
わがままで自由奔放に暴走するけど、純粋で優しい打ち止め。
色々なものを失ってしまったけれど、それと同じくらい大切なものを手に入れたから。
こんな時間が続けばいいなと、欠陥電気は思った。
82 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/29(月) 03:54:53.38 ID:s48mAdqp0
これで『欠陥電気』編は終り
『再会』編のスタートを投下しやす
――― 『再会』 ―――
一方通行の自宅からそう離れていない小汚い路地裏。
昼間でも、よほどの理由がない限り好き好んで通る人間などいないであろう路地。
そこに一方通行はいた。
「俺もさァ、この立場があるから別に誰が見張っていようが気にしねェンだけどよォ
今はちょいとばかりナイーブになってンだわ」
四肢をつき倒れ伏す男を見下ろし、一方通行は続ける。
「オマエ、何が目的だァ?」
85 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/29(月) 04:00:11.44 ID:s48mAdqp0
「…」
男は答えない。倒れ伏す男を一方通行は見据えた。
ラフな格好に身を包み、年齢は20代半場といったところか。
ピアスや首筋から見える刺青など、一見するとただのゴロツキだが。連中とは明らかに違っている点があった。
男の纏っている空気が、どれだけ偽装しようとも隠し通せない匂いが男にはあった。
こいつは平然と人を殺せる類の人間だと、一方通行は理解する。
「いやいや、大したもンだぜェ? この状況で答えないなンて選択するたァ」
「…化け物が」
おや、と一方通行は哂う。男が初めて言葉を口にした。
一度口を開いたらあとは容易い。死なないように壊すだけだ。それだけでイカれたスピーカーが出来上がるのだから。
「最終警告だぜェ? 吐いた内容によっちゃァ全殺し確定なンだけどよォ。
欠伸がでるほど緩い告白なら、神の気まぐれってヤツを期待できンぞォ?」
「…」
「今ならまだ即死コースが提供できンぜェ? そうでなけりゃ―――」
「―ッ! ……がぁ…ぃ」
一方通行は無造作に男の頭を掴み、頭皮を髪の毛ごと焼く。
肉の焦げる匂いが鼻を付く。
手を離すと男の頭部には、一方通行が掴んだ部分だけ髪が燃え尽き、くっきりと手形の火傷ができた。
86 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/29(月) 04:04:13.43 ID:s48mAdqp0
「悪ィ、これじゃあ色男が台無しになっちまったなァ」
「……ぐぅ……っ…」
「あンまり頑張ンなよォ? 俺も楽しくなってきちまうだろうがァ」
一方通行はククッ、とくぐもった哂い浮かべ男を睥睨する。
地に付いた男の両の手が先ほどまでと違った形をしていることに気付いた。それなりに効いているようだ。
顔を伏せたまま、男は一方通行に聞こえる程度の声量で吐き棄てた。
「………………死ねクソガキ」
その言葉に一方通行は顔を歪め哂う。
まだまだ足りないようだ。まだまだ楽しめるようだ。この狂った時間を。
舌で唇を軽く舐め、一方通行は次の行動に移る。
「こンなのはどォよ?」
ベクトル操作で焼くも凍らすも自由にできると信じてる っていうか、体表面しか操作できないのに服があっても無敵とか仕様? 原作は補完してんのかな
87 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/29(月) 04:06:45.86 ID:s48mAdqp0
そう言って男の右肩に指を突きたる。
グチュリ、と音を立ててあっさりと男の肩に指が入り込んだ。
呻き声をあげて男は姿勢を崩す。指が刺さった方の腕が体を支えきれずに重心が崩れ倒れ伏す。
「おいおいおい、ここからが面白いンだぜェ? 超頑張れよオッサン」
突き立てる指をもう一本増やし、肉の中で指先を繋げ輪を作る。
「…ぁ……ぐぉっ………」
「イイ感じのピアス穴の出来上がりってわけだァ。どォよ、素敵だろォ?」
「……はぁ、はぁ…」
男は息が乱れてきたが、まだやる気十分といったところだろう。
一方通行が肩から指を荒々しく引き抜くと、男は呻き声を挙げ深く息を吐いた。
一方通行は軽く哂うと、男の顔面を予備動作などなしに、まるでゴムボールを蹴るかのように軽く足を振り上げた。
たったそれだけで男は2,3メートルも吹き飛ばされ壁面に激突する。
「よく飛ンだなァおい、ちっと記録更新とか狙ってみるかァ?」
「…っ………ごふっ…」
90 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/29(月) 04:09:57.02 ID:s48mAdqp0
男は足に力が入らないのか、壁にもたれる様にしてずるずると腰を落とした。
右肩は骨が見えるほど肉が抉られ、頭部には火傷を負い額からは蹴られたさいに出来た傷口から
ダラダラと血が溢れ顔面が血まみれになったいた。
壁に激突した衝撃で背中の感覚はなく、首の骨にも異常があるのかもしれない。
動くだけの余力は最早ないだろう。
「しぶといねェ、さっさとお喋りしてくンないかなァ。俺も心が痛いんだぜェ?」
「…はぁ………はぁ…」
男からの返事はない。
男は地面を見据え荒い呼吸を繰り返す。
「オマエ今右腕に力が入らないだろォ? ついつい指突っ込ンだときに神経ぶち切っちゃってさァ」
「…っ」
「あァ、悪い。余計なこと言っちまったァ。気付いてなかったンなら黙っときゃよかったぜェ」
「……くっ」
「いやでも、オマエ頑張っちゃうからさァ、俺も楽しくなってきちまってよォ。本当は辛いンだぜェ?」
一方通行はそう吐き棄てて、狂ったような哂った。
そしてこう続ける。
91 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/29(月) 04:11:43.69 ID:s48mAdqp0
「実はもう一個、とびきり愉快なプレゼントがあンだけど、聞くかァ?」
「……だま、れ」
「まァそう言うなよォ、俺とオマエの仲じゃねェか遠慮すンじゃねェよ。
それによォ、自分でしといて何だがぶっ壊しちゃったからもう戻らねェンだわ。
でもまァ、最近はそういう人間にも世間の理解っつーの? そういうのあるから頑張れると思うぜェ?」
オマエ、頑張り屋さんだしなァ、と男に聞こえるように優しく呟く一方通行。
男は一方通行と会ってから初めて体を震わし、顔を上げ目の前にいる怪物を見た。
男の反応に一方通行はにやりと哂い言い放つ。
「オマエ、もう二度とチンコ勃たねェからァ……ック、クハハハハハッハッハッハッ!!」
「…き、貴様ぁっ!」
狂ったような体を震わせ哂う一方通行。
激昂した男が一方通行に飛び掛ろうとするが足が動かない。
「悪ィ、足ももう動かせないって言うの忘れてたわァ」
悪びれなく男へ伝える一方通行。
まるで、店員に追加の注文を頼むかのような気軽さで。
男は今までの姿が嘘だったかのように、鬼の形相を浮かべ罵詈雑言を一方通行へ浴びせる。
まだかろうじて動く上半身をつかい右腕を無茶苦茶に振り回した。
93 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/29(月) 04:14:49.30 ID:s48mAdqp0
「なンだよォ、お互い様だぜェ? オマエが狡いこと狙ってるから付き合ってやったンだろゥ?」
一方通行は、やれやれと溜息を吐きながら言葉を続ける。
「時間、気にしてンだろゥ?」
そこに腕時計でもあるかのように、一方通行は左手で右手首をトントン、と叩き男へ言う。
「ダメだぜェ? 奇跡の演出に凝っちまうのはいいンだがよォ。下を向いてたら見えないだろォ?」
「俺が―――スイッチ切り替えてンのをさァ」
「―――ッ!?」
「気がつかねェとでも思ってたのかァ? 相当愉快だぜェオマエの頭」
一方通行はそう言うとチョーカーのスイッチを切って、男から奪った拳銃を取り出す。
94 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/29(月) 04:18:44.65 ID:s48mAdqp0
「まァ、事情を聞き出せなかったから、オマエの勝ちってことにしてやンぜェ?
大金星じゃねェか、この俺に勝つなンてお友達に自慢ができンぞォ
安心しろよォ、お友達はすぐにそっちに送ってやるから―――――」
「呪ワれろォッ!! クそガ」
「――――死ンどけよ」
一方通行は動かなくなった男に近づき死体を漁る。
だが、身分証明などを男は一切所持していなかった。
一方通行は舌打ちし、携帯電話を取り出しリダイヤルから目的の人物の番号を見つけ電話を掛ける。
コール音続き、中々相手が出ないことに悪態をつきながら待った。
十数回コールした後にようやく出た相手と一方通行は2、3やり取りをして電話を切る。
くだらねェ、と呟くいて一方通行は路地から姿を消した。
99 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/29(月) 04:27:18.96 ID:s48mAdqp0
支援ありあした!
前々作
http://asagikk.blog.2nt.com/blog-entry-541.html
前作
http://asagikk.blog.2nt.com/blog-entry-569.html
一応↑のは読まなくても、ぎりぎり分かると思う 特に上条×美琴のシーンは説明ばっかワロタだったし
静寂が室内を支配する。
一方通行にはそれが永遠ともいえる時間に感じた。
「いいのかい?」
冥土帰しは念を押す。
まるで死刑執行を確認するかのように、重々しい口調で。
だが、聞かないわけにはいかない。
ゴクリ、と喉を鳴らし一方通行は吐き捨てた。
「…言えっつてンだろ、さっさと喋りやがれ」
冥土帰しは、そうかい、と呟くと一呼吸おいてこう言った。
「そうだね、とても100歳までは生きられないだろう」
3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/29(月) 01:42:43.96 ID:s48mAdqp0
――― 『欠陥電気』 ―――
「は?」
冥土帰しの言葉に間の抜けた反応を帰す一方通行。
一方通行には、とぼけたの顔の表情筋をもつこの医師が何を言っているのかまるで理解できなかった。
「体はの方は健康そのもの、とは言いがたいね。無理な実験のせいで内臓器官の働きが弱い
筋肉もこの年齢の平均的な子に比べたら、ちょっと少ないね」
冥土帰しは、胃腸に優しい食べ物と適度な運動が必要だ、と分けの分からない言葉をを続ける。
え? 死の淵にいる少女を献身的に支え、抗えなかった運命に涙しながら
病院の屋上で少女の最後の言葉を胸にかみ締めながら少女の名前を呟く的な展開は、と一方通行が思ったかは定かではない。
4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/03/29(月) 01:45:10.60 ID:s48mAdqp0
「おい、ちょっと待て。は? え、なンだこれ」
白衣を着たカエル顔のおっさんの言葉に、一方通行の理解が追いつかない。
出オチです、と軍用ゴーグルを被ったやる気のない少女の影が一瞬一方通行の脳内をよぎる。
「うん、それに他の妹達同様に調整も必要だね。しばらくは入院してもらうことになるかな。
彼女にも準備があるだろうから、今すぐにとは言わないよ」
と、言って軽く笑う冥土帰し。
そこで一方通行は識った。この目の前の男はどうやら自殺願望があるのだと。
震える手で首に巻かれたチョーカーのスイッチに触れる。
最早、迷うことはない。
5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/29(月) 01:47:05.55 ID:s48mAdqp0
「あははは! ってミサカはミサカはあなたの醜態を笑ってみたり!! ぷぷっ」
「なに、心配してくれたのあんた? くっくっく」
「…」
チョーカーのスイッチを入れたところで打ち止めと欠陥電気が笑いながら室内に乱入。
一方通行は、二人のバカ笑いに怒りで体を震わせ能力を全開で使用しようとしたところで、打ち止めに能力制限を掛けられ御用となった。
秋の緩やかな日差しの中、病院から家までの距離を三人はのんびりと歩く。
打ち止めと欠陥電気が仲良く並んで歩き、そのやや後ろを陣取って一方通行は無言で足を動かしていた。
二人の会話を聞き流しながら、一方通行は帰りがけに冥土帰しが言っていたことを反芻する。
(悪いね、あんなことを言ってしまって。途中から彼女たちの存在に気付いてね)
(言ったとおり、彼女は他の妹達よりたぶん、保たないと思うよ)
(自覚症状なんてのは、まだ当分先の話だろうけども油断はできない)
6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/29(月) 01:49:09.52 ID:s48mAdqp0
(楽観はできないけども、悪いことばかりじゃないんだよ)
(世界中にいる妹達の調整が進んでデータが採れてね、そのデータを生かすことができる)
(彼女はきっと分かっているよ、自分のことだからね。君は―――)
胸クソ悪くなる話だった。
もともとの素体となった9982号、妹達自体が薬物付けて普通のクローンに比べ短命なのだ。
欠陥電気は、それに加え無理な実験を繰り返し行われた。
どれだけ生きれるのかは、まさに神のみぞ知る。
一方通行は、チッ、と舌打ちし目の前を歩く少女を見た。打ち止めと楽しそう話す彼女。
施設の地下で出会ったときのあの狂った姿は、今の彼女からは想像できない。
『超電磁砲(オリジナル)』の記憶を持った検体番号9982号、かつて自分が手にかけた妹達の生き残り。欠陥電気。
背負うつもりなど一方通行はさらさらない、だが簡単に切り捨てることもできそうになかった。
だから、この時間を続けたいと、そう思った。
9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/29(月) 01:51:30.94 ID:s48mAdqp0
「お腹空いたかも…」
「あんたねえ、昼しっかり食べてたじゃない」
「いや、そのね。甘いものは別腹ってミサカは言外に言いたいわけで…、ってミサカはミサカは恥じらいつつ呟いたり」
「帰ンぞ」
「いえーい! 即答速攻大否定! ってミサカはミサカはどこか既視感を覚えるセリフに唸ってみたり…」
「クレープの美味しいお店知ってるから、そこに行こっか」
「はい決定! ってミサカはミサカは民主主義にのっとって案件の成立を宣言したり!」
「俺の金だろうがァ!!」
一方通行にお決まりの台詞を吐かせたところで、二人は目的地へ向かい歩き出す。
青筋をたて、公衆では憚れるような内容の罵詈雑言を浴びせ一方通行は否定の限りを尽くす。
が、結局は少女達についていくことになるのだ。
このパターンは習慣化しており、特に欠陥電気が加わったことによって2対1の厳しい戦いを、一方通行は強いられるようになった。
彼の苦労の種は尽きない。
11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/29(月) 01:53:30.43 ID:s48mAdqp0
「あ、ちょっとやばいかも…」
「どーしたの? お腹でも痛いの? ってミサカはミサカはさり気ない気遣いをしてみたり」
「全然さり気なくないわよ」
欠陥電気は思いつきでクレープを提案したものの、よく考えてみればあそこは御坂美琴の生活圏であることに気付いた。
今の彼女にクレープを食べるだけの余裕があるかは分らないが、これは行かない方がいいのかもしれないと、欠陥電気は悩んだ。
記憶に新しい今日の午前、すでに御坂美琴の友達である佐天涙子、初春飾利の両名とブッキングしてしまっているのだから。
念のために口止めしているものの、いつ爆発するか分らない不発弾のようなものだ。
欠陥電気はこれ以上の失態は避けたかった。
「そこってさ、わたし……っていうか…、ああ、まどろっこしいわねっ!
だから『私』がよく行ってた店なのよ。だから―――」
「なるほど…、ってそれぐらいでミサカが引くと…………って、いたーい!」
「頭イカれてンのかオマエは」
打ち止めに華麗なチョップを決める一方通行。実にこなれた動きである。
12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/29(月) 01:55:31.06 ID:s48mAdqp0
「ぶ、ぶつことないじゃない! ってミサカはミサカは涙目で抗議の声をあげ………って、いたいいたいいたい」
「このバカはなァ、すでにチョンボしてやがンだよ。これ以上手間掛けさせンな」
一方通行のバカ呼ばわりに欠陥電気は文句の一つもつけてやりたいところだったが、身に覚えがありすぎてやめておいた。
涙目で頭をおさえる打ち止めを慰めるように、欠陥電気は言った。
「あー、うん。帰りにコンビニにでも寄ろっか」
「うぅぅ、痛い頭を労わりながら、ミサカはミサカはその提案を飲んでみる」
その金も俺ンだろ、と喉まででかかった言葉を一方通行は飲み下し。
最近消費が激しくなり買い置きが心もとなくなったブラックコーヒーを大量に買ってやろうと固く誓った。
13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/29(月) 01:57:42.06 ID:s48mAdqp0
日が暮れて暗くなり、ネオンがようやくと出番がきたと働き始める。
一方通行は、早めの夕食を終え定位置となっているソファーに身を投げテレビを眺めていた。
打ち止めはどうでもよさげにテレビを眺める一方通行と違い、興味津々で番組に釘付けになっている。
「お風呂あいたわよー」
そこへ最近加わったもう一人の同居人、欠陥電気が声を掛ける。
欠陥電気は妙に可愛らしい柄のパジャマ姿で、まだ湿っている髪を拭きながら
冷蔵庫からミネラルウォーターの入ったペットボトルを取り出し打ち止めの横に座りこむ。
そして、ふん、と女の子らしからぬ掛け声で蓋を開け一口飲み言った。
「打ち止め、あんたちゃっちゃと入りなさいよ」
「えー、今いいところだからもう少し……」
言い切る前に意識がテレビに戻る打ち止め。
その様子にため息を吐きながら、欠陥電気もテレビを見やった。
14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/29(月) 01:59:38.85 ID:s48mAdqp0
番組内容はよくある、怖い話というやつだ。
なんというか、放送時期が遅い。冬というには早すぎるし、まだ暖かいけどもすっかり秋といえる季節。
しかも収録しているのが夏だと思われる格好のリポーター。
あ、これは視聴者を舐めているな、と欠陥電気が思って誰が責めよう。そんな番組だった。
「…あんた、これ見たあと一人で入れるの?」
中身が半分になったペットボトルをテーブルに置いて、欠陥電気は打ち止めに言う。
「一方通行と入るから大丈夫だよ、ってミサカはミサカはテレビから目を離さずに言ってみたり」
「ざけンなクソガキ。オマエ一人で入れ」
打ち止めの言葉を即座に否定する一方通行。
それも仕方のないことだ。なにせこの幼女、確信的な常習犯なのだから。
怖い映画などを借りてきては、一方通行にやれ一緒に寝ろだの風呂にはいれだのせがむ。
繰り返しきった流れに、一方通行はうんざりしていた。
16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/29(月) 02:01:24.33 ID:s48mAdqp0
「わたしはダメよ」
とりあえず言っておく欠陥電気。
彼女も短い付き合いであるが、打ち止めの行動が分りやすいぐらい読めた。
一方通行に断られた打ち止めが次にとる行動が。
「ぶー、いいもんそれなら一人で入るから」
相変わらず画面から目を離さないまま打ち止めは言った。
一方通行も欠陥電気もその言葉が嘘になる確信があったが
下手につつくと打ち止めの世話焼きの口実を相手に与えてしまう恐れがあるので放って置くことに決定した。
お互いに相手がそう考えているだろうなあ、という判断のもとに。
「うわぁ……夜のトンネルはもう通れないかも、ってミサカはミサカは震えてみる」
「ちょっとコレは来るわね…」
17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/29(月) 02:02:57.19 ID:s48mAdqp0
深夜のトンネルに白いワンピースを着た女性が現れる、といったものだった。
トンネルを通過するときに、誰も居ないはずの後部座席から突然女性の声が聞こえ振り返ると―――
「…ッ」
「な、なかなか怖いじゃない…」
画面いっぱいに件の女性と思われる顔(イメージ)がドアップで映る。
時期を外し、視聴者を舐めているかと思えばいい仕事をする製作会社だった。時期を外したのはテレビ局のせいだろうが。
「…あ、ちょっとトイレに」
別にトレイになら勝手に行けばいいものを、わざわざ口に出す打ち止め。
その理由は最早考える必要もなく、分りきっていたことだ。
「あっそ、勝手に行けよクソガキ」
「これチャンネル変えていい?」
実に冷たい反応である。自業自得だが。
19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/29(月) 02:07:06.92 ID:s48mAdqp0
「はァ? 俺はこのあとのに用があンだよ」
「興味ないわね、わたしはドラマが見たいのよ」
「ンなもンみなくても、オマエなら過去を振り返ってお手軽にドラマできンだろ」
「4部作ぐらいのシリーズ物になるあんた程じゃないけどね。っていうか、動物が見たけりゃ野良猫でも探してきなさいよ
まあ、あんたの顔みたらすぐに逃げ出すだろうけど」
「僻むンじゃねェよ、電気女」
「あっそ、なら鏡でも見てれば? 厳ついけどウサギがいるから」
打ち止めをおいて、不毛な争いに始終する。
この家でチャンネル争いが起きるのは稀である。
興味のある番組が極端に少ない一方通行、彼が好むものは静かな内容のものが多く
動物のドキュメンタリーや自然をテーマにした番組である。見るというより、ボーっと眺めるように視聴する。
そんな一方通行とは違い、欠陥電気は騒がしいB級映画や動きのあるドラマ、クイズ番組などを好んだ。
もともとの御坂美琴は寮生活であり、夜テレビを習慣がなかったのでさして見る番組は多くなかった。
21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/29(月) 02:09:36.00 ID:s48mAdqp0
もっともテレビを見ているのは打ち止めである。
バラエティから教育番組まで様々な番組を見ていた。聞いたこともないようなマイナー芸人の名前を挙げたり。
突然ダンボール工作を始めたりと、興味範囲が広い。
そういうわけで、チャンネル争いが起こることは稀なのだが。一旦始まると互いに譲らない。
負けず嫌いな性格も災いしてか、特に一方通行と欠陥電気のチャンネル争いは酷かった。
「ちょっと、チャンネル渡しなさいよ!」
「ざけンな、そもそも俺ンだぞ。ちったァ遠慮しやがれ居候がァ」
「別にいいわよ、チャンネルがなくたって……こうすれば」
「―ッ!? 能力使ってンじゃねェよ!」
「はぁ? 何で使っちゃダメなのよ。使ってこそでしょうが…って、ベクトル操作!?」
「残念でしたァ、オマエはそこで黙って指でも加えてろ」
「ちょっと! 卑怯よそれは!?」
「はァ? 使ってなンぼなンだろうがァ」
「…誰かトイレについてきて欲しいんだけど、ってミサカはミサカは………うぅ」
24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/29(月) 02:14:58.91 ID:s48mAdqp0
>>22
イエス
前々作は気合入れ 流し読み推奨 流れが把握できたらおk
前作は 合間のエピソード その後に続き
しかし需要がねwwwwでも頑張って投下しますあ
25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/29(月) 02:16:47.17 ID:s48mAdqp0
―――同時刻―――
上条当麻は己のバカさ加減に呆れていた。
不幸であることを自認し、口癖にいたっては、不幸だ…、という極めつけの不幸体質の彼は今、自分自身を殴りたかった。
話は二日ほど遡る。
その日の夕方、公園で黄昏ていると御坂妹(10032号)が現れてこう言った。
彼女の記憶はそのままだと、それだけ上条に伝えてさっさとどこかへ行ってしまった。
突然すぎて言葉の意味が分らなかったが、5分もしないうちに意味を理解し叫んでいた。
その後、上条は一日前に起きた事(三日前)を思い出し悩んだ。
彼女、欠陥電気(もっとも、上条は欠陥電気のことをどう呼ぶべきか決めかねているが)が生きている。
突然現れて、去っていった彼女の死亡説を聞いたのはまさにその日(三日前)の夜。
他ならぬ御坂妹の口から聞いたのだから、非常にややこしい。
27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/29(月) 02:20:26.76 ID:s48mAdqp0
理解が追いつかず、上条は働かない頭で話を整理する。
御坂美琴のそっくりさんがいる。そっくりさんなら一万人ほど居るのだが
問題なのは、そのそっくりな少女は御坂美琴本人の記憶を持っており、本人だと思って行動していたことだ。
一日前、(三日前)に学校に向かう途中で出会い、出会うなら眠りだした(漫画喫茶で徹夜と本人談)少女を自宅のベッドで寝かした。
その日の夜少女の姿は消え、御坂妹から少女が死んだであろうと聞かされた。
そして今日(二日前)の夕方に御坂妹と出会い、死亡が撤回される。
色々とすっ飛ばしているが、大まかな流れは大体こんな感じだ。
それから紆余曲折を経て――――現在(今日)に至る。
28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/29(月) 02:21:32.82 ID:s48mAdqp0
三日前 少女と会って別れて 御坂妹から死亡の知らせ
二日前 御坂妹から生存の知らせ
一日前
今日 自分をそげぶしたいと思う気持ち
31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/29(月) 02:23:43.97 ID:s48mAdqp0
美琴は、上条の胸を顔をうずめて泣いている。
いつもの強気で勝気な彼女は、どこにもいなかった。
「悪かった、頼れなんて気前のいいこと言っちまっといてこの様だ」
「……っ………ひっく…」
美琴はまだ少女の記憶がそのまま残っていることを知らない、そもそも少女が死んだという話すら聞いていない。
彼女の中では、自分の記憶を持った少女と寮で出会ったあとは、上条の家で一度会っただけだ。
そして次の日(二日前)の夕方に、上条から少女が消えたことを知らされた。それだけである。
上条は知りえた事情の全てを美琴には黙っていた。
「こうやってさ、お前が辛いことに気付かずに遅くなっちまたのは2度目だな」
「…べつに……あん、たのせいじゃ……ないわよ………っ」
美琴に余裕はなかった。少女と出会ったときにルームメイトであり後輩であり、大事な親友である白井黒子がその場に居たから。
出会ってそうそう美琴との能力戦で傷つき、茫然自失となっていた少女に美琴の制止を振り切って駆け寄る黒子。
黒子と少女が交わした言葉は多くない、それでも黒子はその存在がもう一人の御坂美琴であると信じて疑わなかった。
妹達の事情すら知らない彼女には、少女の正体など検討もつかないだろう。
だが黒子にとってそんな事情など問題などではなかった、大事な人が傷ついている。
黒子にはそれで十分だった。だから、なにもできないままで終ってしまったことに黒子は深く落ち込み傷ついた。
32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/29(月) 02:27:27.57 ID:s48mAdqp0
「ごめんな」
「あやまってんじゃ、ないわよ……っ…」
美琴はそんな黒子を慰める。だが、事情を話すわけにはいかなかった。話したくなかった。
妹達の存在を疎ましく思ってなどいない、しかしそれは美琴にとって禁忌に近いもの。
簡単に気持ちの整理じゃつくものじゃない。だから、黒子には話せなかった。
「悪い」
「ひっく……だから、あや、まんな…………」
二日間。少女が生きていることを聞かされてからの二日間、上条は少女を探し回り学園都市を駆け巡っていた。
美琴のことを考えていなかったわけではない、少女を見つけ事情を聞くことが事態の進展に繋がると。
それが最善だと信じて行動していたのだ。
少女の行方が分からなくなったと上条が美琴に伝えたとき、美琴は気丈に振舞った。
私は黒子を慰めるから、あんたはシスターの相手をしていなさい、と上条の前で演じきった。
上条が焦っていたからかもしれない。いつもなら気付けたかもしれない美琴の異変に上条は気付けなかった。
美琴の、助けを求める声を聞き逃してしまった。
「お前のさ、携帯から電話が掛かってきてたんだ」
「…え?」
37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/29(月) 02:56:09.96 ID:s48mAdqp0
美琴は二日前に上条と会ってから、連絡を一切とっていない。それはありえないことだ。
「白井からだったよ。お前を助けてやってくれって」
「くろ、こ?」
自分の記憶を持つ少女に怯え、困惑していた美琴に余裕などあるはずがない。
頼れるべき相手も自分から拒絶した彼女はすぐに限界を迎えた。
助ける側のはずの彼女は、気がついたら助けていたはずの存在よりもずっとぼろぼろになっていた。
「そりゃそうだろ、じゃなかったら流石の上条さんも常盤台の寮に乗り込めねえよ」
「…っ」
上条の言葉に美琴は身を震わせる。
それでもこうして助けにきてくれたのだから。この少年はいつだってこんなにも優しくて強いのだ。
美琴の胸はあたたかいものでいっぱいになる感覚を覚えた。
ただ―――いや、こいつならやりかねない、とも美琴は思った。なにせ前科持ちなのだからと、そう考えて少し笑った。
「…お前、なに笑ってんだ?」
「…、……前科一犯が、そんなこと言っても説得力がないわよ」
「はぁ!? 前のはちゃんと白井に許可とってから上がったって言ったろ!?」
上条の叫びに、美琴はくすくすと笑った。
38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/29(月) 02:59:24.67 ID:s48mAdqp0
「きっかり一時間ですの」
美琴のベッドに腰をかけ、微妙な距離をおく二人に黒子は言い放った。
突然部屋に現れた黒子に二人は驚くが、黒子の能力を考えれば不思議ではない。彼女は空間移動者なのだから。
「と、突然出てくるなよ白井。めちゃくちゃ驚いたじゃねえか」
「あなたとお姉さまをこれ以上二人っきりにするなどと、わたくしには到底許容できませんでしたので」
しれっ、と言い捨てる黒子。その様子に上条は脱力しながら答えた。
「あー、はいはい。憧れのお姉さまを独占して申し訳ありませんでしたー」
「わかりましたら、さっさとどこぞへ消えて頂きたいのですが」
支援あり 正直今夜はqT5KFXwa0とタイマンになるかと覚悟してたw 見てるなら反応が欲しい 寂しくて死ねる
9982は美琴の記憶しかないお あとはNWで得た知識だけって感じかな? 適当です
39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/29(月) 03:02:30.35 ID:s48mAdqp0
お前はもう用済みだと言わんばかりに、しっしっ、と実に分かりやすいジェスチャーで己の意思を上条に伝える黒子。
大好きなお姉様のためなら毛嫌いする上条ですら使う。それが黒子クオリティ。しかし、それも終ればこれである。
今の美琴に対し自分が無力であることは嫌というほど理解した。悔しいが上条に頼らざる得なかった。
口には決して出さないが、美琴が上条を信頼しきっていることなど、黒子にとっては最早常識の類。
だからちょっと、自分でもやり過ぎかなと思いつつも、黒子は上条に八つ当たりせずにいられなかった。
「ちょ、ちょっと黒子!」
黒子の物言いが流石に酷いと、美琴は上条を擁護すべく強い口調で黒子をたしなめる。
美琴の強い口調に、黒子は目を見開き美琴を凝視する。
そして、
「お、お、お姉ぇ様? …あぁ、お、ぉ゛ね゛え゛ざま゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!!」
「うわっ、ちょっと抱きつかないでよ! こら、離れなさいっ!」
「黒子は、黒子は………っ」
突然抱きついたかと思えば、すんすんと泣き出す黒子。
そんな黒子を見て、美琴は振り払うことをやめ苦笑しつつ優しく抱きしめた。
「心配掛けたわね。ごめん」
「……っ……ひっく……」
「もう私は大丈夫よ。ありがとう、黒子」
42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/29(月) 03:06:11.12 ID:s48mAdqp0
非常に感動的なシーンのはずだったのだが、上条はやや頬を引きつらせて二人を見守っていた。
ここは由緒ある学園の女子寮で、男子禁制の花の園。当然今いる部屋も男が入ったことなどないだろう。
過去の自分を除いてだが。ここは男を感じさせるモノが何一つなかった。
そして目の前には中睦まじく抱きしめあう少女が二人。
ようするに、上条はひたすら居心地が悪かった。
「えー、じゃあ俺帰るわ…」
「あ、ちょっと待ちなさいよ!」
「……チッ」
空気に耐えられず上条が帰ろうとすると美琴がそれを止めた。
折角いい雰囲気になっていたのに、と黒子はかなりマジな舌打ちをする。
無遠慮な声によりお姉様との久しぶりの至福の時を邪魔された。もう少しお姉様の感触を堪能したかったのにと。
「お姉様? いいではありませんか、そちらの殿方にも非常に瑣末なことでしょうが用事くらいあるのでしょう」
「あ、でも…」
「流石に泣くぞこら」
「まぁまぁお姉様、もう夜も遅いですし引き止めるのは野暮ってものですのよ」
43 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/29(月) 03:08:37.59 ID:s48mAdqp0
時刻はすでに11時を回っていた。
このままだと家に戻る頃には日付が変わっているかもしれない。
インデックスはもう寝ているだろうな、と風変わりな同居人のことを上条は思い出した。
「それも、そうね…」
非常に口惜しそうに、美琴はこぼした。
美琴の了承がでたので黒子はさっそく行動に移る。
「それじゃあ外まで送りますわ」
「おう、悪いな」
「あ、お姉様はここにいらしてくださいな」
「え? なんでよ…」
自分のためにわざわざ来てくれたのだ、見送りして当然だと美琴は主張する。
ただ少しでも長く一緒に居たいだけだったが。それは決して口にしない。
「はぁ…、やっぱりお疲れのようですねお姉様。三人よりは二人。そして黒子は空間移動者ですのよ?」
「ああ、そりゃそーだな。見つかったらヤバイし」
「わたくしなら殿方を見送ったあと空間移動で戻れますから」
「う゛」
完璧すぎる理論に、打ち崩す隙は見当たらない。美琴は唸って粘るが結局黒子に押し切られた。
44 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/29(月) 03:10:22.33 ID:s48mAdqp0
寮館に見つかることなく、無事に脱出に成功した上条は安堵のため息を吐いた。
もうここまで来れば見つかることはないだろう。寮の入り口からは死角になった歩道で立ち止まる。
「わりい、助かったぜ白井」
「構いません、もともとわたくしが貴方をお呼びしたのですから」
「じゃあ、俺は…」
「少し、歩きながらお話しませんか? 上条当麻さん」
上条の言葉を遮り黒子が言った。その響きはとても冷たく、上条は言葉を失った。
美琴をお姉様と慕い暴走する白井黒子は影を潜め、上条の知らない白井黒子が現れる。
上条は、その提案を受け入れた。
46 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/29(月) 03:13:01.62 ID:s48mAdqp0
「…」
「…」
無言で夜の道を歩く二人。
上条は黒子が喋りだすまでは、自分から口を開こうとは思わなかった。
地面を見据え、伏目がちに睫毛を揺らすツインテールの少女。もう5分は歩いただろう。
どう切り出すべきか迷っていたが、黒子は意を決して言った。
「あの『お姉様』は、一体誰なんでしょうか」
「さあな」
少女の正体の検討はついているが、本当のところを上条は知らない。
それを知るために走り回っていたのだから。
黒子は、まるで独り言かのように言葉を続ける。
「わたくしも、世情や噂に疎いほうだと自認していますが、聞いたことくらいならありますのよ?」
「…」
「お姉様、『超電磁砲』のクローンが軍事目的で造られている、なんていうバカげた話ですが」
だろうな、と上条は胸中で呟く。
わざわざこうして毛嫌いしているであろう自分と、二人っきりで歩く理由などそれしか考えられない。
47 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/29(月) 03:14:23.67 ID:s48mAdqp0
「貴方も、お姉様も何か知っていて隠していませんか?」
「…」
「まあ、簡単に話してくれるとは思っていませんから」
この少女も足掻いているんだな、と上条は思った。
自分と同じように欠けたピースを埋めるために足掻いている。
「なので、力ずくで聞き出しますと言えば貴方はどうされますの? 上条当麻さん」
「…御坂が悲しむようなことをお前はしねえよ」
「…」
「認めるぜ。俺と御坂はお前が知らないことを知ってる」
「…っ、だったら」
「それは、御坂がお前に話す」
「―ッ」
美琴の名前をだされた黒子は一瞬肩をビクリ、と動かし口をつぐんだ。
「その役を俺がとったらまずいだろ?」
「…」
50 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/29(月) 03:15:42.18 ID:s48mAdqp0
妹達のことは美琴がいずれ黒子に話すだろうと上条は考えている。たぶんそう遠くない日に。
その役目は美琴のもので、上条が奪っていいものじゃない。
だからそのことに関しては上条が言えることは何もないのだ。
ただ、黒子にとってなにも収穫がないままこの会話を終えてしまうのは、ずるいことだと上条は思った。
提案を受け入れたのだから、せめて今言えることを言っておこうと。
「あの子について一つだけ言えることがある」
「…、今さら言ってもしらじらしい限りですが、いいでしょう。念のために聞いておきます。それは何ですの?」
念のため、の所を妙に強調する黒子。この少女も大概素直じゃない。
黒子の反応にやや疲れた顔をしながら上条は呟いた。まるで自嘲するかのような響きで。
「俺も御坂も、あの子のことは全然知らないんだよ」
そんなことは見れば分かる。あの少女に誰かと問いかけた美琴が、少女を何者か知っているはずがない。
黒子は上条の言葉に呆れ、皮肉でも言ってやろうと上条を見て言葉を失う。
そう呟いた上条の顔は、とても悔しそうにしていたから。
51 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/29(月) 03:18:50.07 ID:s48mAdqp0
その日欠陥電気は、少しばかり寝坊した。
昨日に見たテレビの内容に魘され不覚にも夜中に目が覚めてしまい、その後中々寝付けなかったから。
これでは打ち止めのことを笑えない。
そんなわけで、彼女は遅めの起床となり、まだ覚醒しきってない頭をなんとか動かして洗面所へ向かう。
キッチンを横目に重たい体を引きずって。
そしてそこで彼女は見てしまう。
一瞬で眠気が吹っ飛び目を見開いて目の前の現象を凝視した。目は覚めたが今度は幻覚でも見ているのかと、我が目を疑う。
「え? ちょ、あんた何してんの?」
「…」
返事はない。やはり幻覚なのかもしれない。
それにしてもこれは酷いものだ。いや、だってありえないし、と欠陥電気は声に出さずに突っ込みを入れる。
悪逆非道で外道畜生の道を爆進するあの彼が、まさかあの彼が―――
「エプロンつけて料理っすか…」
「…チッ」
あ、舌打ち。なるほど、これは現実なのかと欠陥電気は理解した。
この状況、果たして突っ込むべきところなのか、それとも家庭的なナニかに目覚めた彼を優しくスルーすべきなのか欠陥電気は迷った。
そしてこう言った。
53 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/29(月) 03:20:41.85 ID:s48mAdqp0
「あ、うん。そのシャツ高いもんね…」
ブランドものだし。
「さっさと顔洗ってきやがれっ!!」
「おっはよー! ってミサカはミサカは元気よく挨拶してみたり!」
「ん、おはよ」
「朝は一方通行とミサカが用意するから! ってミサカはミサカは一方的に宣言してみたり!」
料理などしたことがないであろう二人組みがつくる朝食を心配しつつ、欠陥電気はキッチンを離れた。
一体どんな心変わりがあっての奇行だろう。打ち止めが無理やり一方通行を付き合わせたことは想像に難くないが。
顔を洗って歯を磨き、ボサボサになっている髪を梳く。
軽く両手でパン、と頬を叩いて「うっし」と呟き締める。
ふと、欠陥電気は鏡にうつる自分の顔をじっとみて見た。どこをどうみても記憶の中の『私』そのものである。
「ごはんできたよー!」
打ち止めの声が聞こえてきたことで、我に返り苦笑する。
「はいはい、今行くわ」
欠陥電気はそう言うと、洗面所をあとにした。
55 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/29(月) 03:23:51.83 ID:s48mAdqp0
「へぇ、意外と美味しいじゃん」
「でしょー! ってミサカはミサカは自画自賛してみたり!」
「…(クソ甘ェ)」
「…(ちょっと、砂糖入れすぎだけど)」
形が崩れて焦げてたりするが、打ち止めが作った玉子焼きはなかなか美味しかった。
ウィンナー、プチトマト、玉子焼きにトースト。作ったと言えるものは玉子焼きだけだが、それでも立派な朝食だ。
やるじゃない、と口の中で呟く欠陥電気。どうなることかと思ったが、案外美味しいしこれなら朝食は任せてもいいかもしれないと。
「……おい、打ち止め」
「んー? っへみはかはみはか…」
「…食べながら喋るんじゃないわよ」
先ほどまで黙って朝食をとっていた一方通行は、顔をしかめて打ち止めを睨む。
はて? と欠陥電気は思った。“まだ”打ち止めは一方通行を怒らせるようなことをしていないはず。
では何故彼は急に顔をしかめて睨んでいるのか。
ウィンナーに箸を伸ばし口に入れて納得した。
「―――なンでコレが甘ェンだ?」
甘ければ美味しいとか子供的すぎる思考の打ち止めに呆れながら、欠陥電気は甘いウィンナーを飲み込んだ。
56 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/29(月) 03:28:25.71 ID:s48mAdqp0
「美味しいよ?」
「ざけンなクソガキ!!」
「んもー、じゃあ塩でもかければ? ってミサカはミサカは呆れながらナイスアイデアを提案してみたり」
それで味が元に戻れば誰も苦労しないだろう。あまりにも幼稚な発想。さすが幼女。
しかし、よく考えてみればキッチンに立っていた筈の一方通行は、一体何をしていたのかと欠陥電気は疑問に思った。
彼はどうして打ち止めのこの凶行を止めなれなかったのか。
お茶を飲み甘ったるくなった口を直して欠陥電気は言った。
「っていうか、あんたは何してたの?」
「コレは俺が作ったンだよ! このクソガキが目を離した隙に砂糖ぶち込みやがったンだろうがァ!!」
「目を盗んでフライパンに砂糖を入れるのは大変なミッションでした…、とミサカはミサカは遠い目で語ってみたり」
「はぁ…、とりあえず砂糖はもうやめてよね。っていうかあんた今日お菓子抜きね」
「ちょっと待って! それは関係ないんじゃないかな! ってミサカはミサカは反論してみる!」
「…砂糖でも舐めてろクソガキ」
58 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/29(月) 03:31:08.65 ID:s48mAdqp0
一方通行は少しだけ誇らしかった傑作のウィンナーが、見るも無残な姿になったことに悲しんでいた。
調理済みの彼らに対して自分にできることは食ってやることだけだと、甘いウィンナーを無言で口に放り込む。
「…」
「よく食べれるわね…。めちゃくちゃ甘くて、なんか気持ち悪いんだけど」
一方通行は欠陥電気の言葉を無視しもくもくとウィンナーを食べる。
打ち止めは涙目になりながらも美味しそうにウィンナーを食べていたので、自分の皿から無言でウィンナーを移す欠陥電気。
プチトマトは調理の必要がないためか難を逃れていたが、よく見るとその横にそっと砂糖の山が盛りつけてあった。
無論一方通行と欠陥電気は、砂糖の山を無視してプチトマトを食べた。
59 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/29(月) 03:33:07.68 ID:s48mAdqp0
「狭いわね」
「突然なにを言い出すの? ミサカの最高傑作を侮辱するなら相手になるよ! ってミサカはミサカは…」
「あんたの作ったダンボールハウスなんてどうでもいいのよ」
「はうっ! 侮辱以前に評価対象にすらならないなんて、なんて屈辱…、ってミサカはミサカは肩を落として項垂れてみたり」
朝食を食べ終わり、欠陥電気は紅茶を飲みながら先日購入したファッション雑誌を読んでいた。
一方通行はソファーに体を投げてテレビを眺めている。どうでもいいが、彼は一日の大半をソファーで過ごしてる。
単に描写が面倒だとかそういった理由でなく、彼の一日はソファーで始まり、ソファーで終る。まさにソファー人生。
打ち止めはというと、シュールな着ぐるみが身近にあるモノを使って玩具などを作る教育番組を熱心にみていた。
今回の放送内容はダンボールで家を作るという、世のお母様方が多大な迷惑をこうむる内容だった。
作られてしまった哀れな家は三日と経たずゴミになる。子供は飽きやい、真理である。
例に漏れず、打ち止めもさっそくダンボールで家を作りだした。
材料のダンボールは、こんなこともあろうかとも、と呟いてどこからか調達してきた。多分近所のスーパーの裏手辺りだろう。
そんなわけで無駄にかさばる家ができあがり、リビングの3分の1ほどを占拠した。そして話は冒頭の会話へ戻る。
63 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/29(月) 03:34:24.31 ID:s48mAdqp0
「ふーん、いいよ。絶対に入れてあげないからね! ってミサカはミサカは会心のできに胸を躍らせながら室内へ」
「入らないわよ、そんな…。まあどうでもいいか」
「カッチーン! 一度ならず二度までも、さすがのミサカも怒りが有頂天!!」
「っつ…、ってなにすんのよっ!!」
「ふっふーん! これはミサカが作った伝説の剣だよ! ってミサカはミサカは国宝級の刀匠も裸足で逃げ出す剣を見せびらかしたり!」
「えい」
「あーっ!!」
一つの伝説の終焉である。伝説の剣は横からの衝撃に異常なほど弱かった。
「うっせェンだよオマエらはァッ!!」
「ら、ってことはないでしょ。ら、ってことは!」
「あ、そこを否定するのね、ってミサカはミサカは我が家に緊急避難してみたり!」
打ち止めは早速家に入り込み、歪んだ穴(打ち止め曰く窓とのこと)から外の様子を伺う。
テレビを見ていた打ち止めが、突然ダンボールを持ち出して家を作り出したのは一方通行も横目で見ていたので知っている。
だが、改めて直視すると予想以上にでかく、非常にうざかった。
一方通行は舌打ちし吐き捨てた。
64 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/29(月) 03:35:42.58 ID:s48mAdqp0
「邪魔くせェもン作りやがって…。燃やすか」
「…その直接的過ぎる発想はどうかな、ってミサカはミサカはあなたの思考回路を心配してみたり」
「ごめん、わたしもそれ考えたわ」
「むむ、これは三匹の子豚て展開の予感! ってミサカはミサカは断固として譲らない徹底抗戦の構えをとったり!」
「どォせオマエ、夜飯食ったくらいには飽きてンだろ」
「そ、そんなことないよ! 少しずつ改装したり改築したり増築する予定だよ、ってミサカはミサカは夢のマイホーム計画を…」
「ンなくだらねェ計画を立ててンじゃねェよ」
「まあ諦めなさいってことね」
「はい決定ェ」
「え、ちょ…」
一方通行が壮絶な笑みを浮かべ、打ち止めのダンボールハウスの解体を始める。
打ち止めは一方通行に浮かんだ笑みをみた瞬間にダンボールハウスから飛び出て欠陥電気に抱きついた。
「な、なんであんなに楽しそうなのかな、ってミサカはミサカは聞いてみる」
「た、たしかに、ダンボール壊すだけなのに妙に楽しそうね…」
66 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/29(月) 03:39:08.51 ID:s48mAdqp0
一方通行は舌なめずりをしながら、『獲物』を舐め回すかのようにたっぷりと時間を掛けて見た。
この学園都市最強の『縄張り』の『ホーム』を3分の1も占拠するという『暴挙』を行い
なお平然と『佇む』姿勢に、『獲物』が己の『敵』であると認めた。
一方通行は噛み殺すように笑った。最強であるこの一方通行の本気に対しなお『対決』の姿勢がとれることに心から感心した。
じゃァ、遠慮はいらねェなぁ、と呟くチョーカーのスイッチを入れる。
まずは小手調べとして『敵』の『体』の一部をまるでアイスをスプーンで掬うかのようにサックリ、と切り取った。
『敵』に様子に『変化』はない。どうやらこの程度の『傷』では動じないだけの『胆力』を『敵』は持っているようだ。
面白ェ、と口中で呟きキシシ、と一方通行は笑う。
右腕を上段に構え、無慈悲に振り下ろす。『敵』の『体』は大きく裂け『血しぶき』が上がた。
顔に掛かった『敵』の『血液』を手で拭い味わう。苦味のある独特な味だった。
『敵』の『傷』は致命的で大きく姿勢を崩し力なく『倒れた』。
最早眼前の『敵』はただの哀れな『獲物』に成り下がった。
一方通行はさらに顔を歪め大きく哂う。キヒャァッ、と奇声を上げて『獲物』に踊りかかった。
「ただダンボールを解体してるだけなのに、すごく、猟奇的です、ってミサカはミサカは引いてみたり」
「ストレス…なのよ。そっとしといたほうがいいわ」
かくして夢のマイホーム計画は頓挫し、無駄にかさばるダンボールの残骸と狂ったように哂い続ける一方通行がそこにいた。
68 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/29(月) 03:40:43.19 ID:s48mAdqp0
ダンボールの片づけを命じられた打ち止めは、無駄に大きく作ったことを後悔しつつなんとか作業を終らせると
こてん、と電池の切れた人形みたいに床に転がった。
そのまま、ボーっと過ごし気が付いたらテレビは消えていて静かな時間がやってきた。
半分ほど開けた窓から、心地よい風が流れてきてカーテンを揺らす。
まるで子猫のように丸くなり打ち止めは床にゴロン、と横になっていた。
欠陥電気はそれを包む親猫のように打ち止めのすぐ背後で寝そべっている。
一方通行はソファーに体を投げてテレビを眺めていなかった。テレビのスイッチは切れているのだから。
「…」
「…」
「…」
時間はそろそろお昼を告げる頃。
雲の切れ目から淡い日差しが差し込んできて、打ち止めと欠陥電気に降りそそぐ。
打ち止めは体をもぞもぞと動かしながら、ピタリと欠陥電気に引っ付いた。
その仕草に欠陥電気はくすぐったいものを感じながら、苦笑して打ち止めを優しく包み込んだ。
「…」
「…」
「…」
一方通行は、心地よい風を感じながら半分閉じかかっていた瞼を閉じて軽く欠伸をする。
その欠伸がうつったのか、床で寝ている少女たちもふぁ、と欠伸をした。
70 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/29(月) 03:41:43.66 ID:s48mAdqp0
のんびりとした時間が過ぎる。いつもの喧騒が嘘のようになりをひそめていた。
「…」
「…」
「…」
両の手で軽く抱きしめている打ち止めの髪に顔をうずめ、少し強めに打ち止めを抱きしめる欠陥電気。
うわ、と小さな呟きが聞こえたがやめない。
打ち止めの髪の毛からはミルクのような甘い匂いがした。たぶん使用しているミルク石鹸のせいだろう。
抱きしめているととてもぽかぽかしていて、だき枕としてとても気持ちがよかった。
一方通行がソファーで楽な姿勢を得るべく、悪戦苦闘する間抜けな音だけが部屋に響いた。
「…」
「…」
「…」
抱きしめられていることにやや息苦しくなった打ち止めは、体を動かす。
打ち止めの意図を理解した欠陥電気は力を少しだけ緩めると、打ち止めはふぅ、と体を弛緩させ手を絡めてきた。
欠陥電気はくすくす、と小さく笑い手を絡み返す。
やっと楽な姿勢を見つけたのか無難なところで我慢したのか、一方通行は動きをとめ軽く首を鳴らした。
71 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/29(月) 03:42:40.63 ID:s48mAdqp0
「…」
「…」
「…腹減った」
空腹を感じた一方通行はぼそっと呟く。
楽な姿勢を見つけ落ち着いたことで、空腹に気付いてしまったようだ。
「無理」
「…」
「…」
欠陥電気に抱きしめられ目を細めて気持ち良さそうにうとうとする打ち止め。
そんな打ち止めを微笑ましく思いながら、一方通行の言葉に即答する欠陥電気。
「…」
「…ふぁ………あむ……」
「…」
一方通行は空腹を感じている腹をさする。一度意識してしまったことで、止まらなくなってしまったようだ。
だが、彼は決して立ち上がろうとしない。
74 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/29(月) 03:45:03.89 ID:s48mAdqp0
いまの彼はソファーと限りなくフィットしており、彼が続けてきたソファー生活の中でも1,2を争うフィット感だった。
だから動くわけにはいかない。少なくとも十二分にこのフィット感を堪能するまでは。
だが、腹が減った。なので一方通行は―――
「嫌よ」
「………ふぃ…」
「…」
まだ何も言っていない。
先手を欠陥電気に取られてしまったことで、一方通行言い出しにくくなってしまった。
おまえ用意しろ、と。
欠陥電気としても今の打ち止めとの時間を邪魔されたくなかった。
珍しくいい子をしている打ち止めが手放せない。優しく打ち止めを撫でながら欠陥電気は口を開く。
「…あんたが」
「…すぅ………すぅ……」
「断る」
この男、一方通行にも隙はなかった。
77 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/29(月) 03:47:44.63 ID:s48mAdqp0
「おいしー! ってミサカはミサカは新規開拓のチャレンジ精神で大成功!!」
「…」
「……ふぁ」
馴染みのファミレスの馴染みの席。やたら大きな窓から見える景色はすっかり暗く、もう夜になっていた。
昼食の準備をローテンションで押し付けあっていた二人は、ローテンションであったがために
いつまでもダラダラと言い合って、気が付いたら夕食の時間と相成った。
一人だけ、やたらテンションの高い打ち止め。
一方通行と欠陥電気は、運ばれてきた料理を淡々と口へ運んでいく。非常に眠そうだ。
打ち止めの注文した、ミルクココナッツステーキハンバーグ風味チーズハンバーグDX、に突っ込む気力すらない。
風味言いたいだけちゃうんかと。
「ミルクのまろやかな舌触りに加え、ココナッツの香りがまたアクセントになっていてたまりませんね
ってミサカはミサカは評論家を気取ってみたりっ!!」
「……ソースくれェ」
「……ん」
78 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/29(月) 03:49:34.60 ID:s48mAdqp0
「そしてこのコーンスープッ! 自分で作るときは、ついついケチって「もうちょっといいよね?」とか
水で薄めすぎてしまう傾向のあるミサカには嬉しいどっろどろの濃厚さっ!」
「………クッソねみィ」
「…………っ、……パスタに顔面突っ込むとこだった」
「極めつけはライスッ! 家だと妙にパッサパサだったりベチョベチョだったりするけど
ふわっふわで、ほくほくしてて最高っ! ってミサカはミサカは評価してみたりっ!!」
「…」
「…」
「ほんとちょーおいしーっ! たまらない一品だねっ!! ってミサカはミサカはry」
「…」
「…」
「ハンバーグ! ライス! コーンスープ! ミサカ最強!! ってミサカはry」
「黙って」
「食え」
「はい」
80 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/29(月) 03:51:19.87 ID:s48mAdqp0
ハイテンションの打ち止めのあまりのうざさに、一方通行と欠陥電気は静かに切れた。
普段怒るときは怒鳴る二人が、あまりにも疲れた顔をしてそっと呟いたので
打ち止めは得たいの知れない恐怖を感じ即答した。
欠陥電気は食後の紅茶を飲みながら、ふぅ、と一息つく。
食べ終わった食器を下げられ、すっきりしたテーブルには新たに打ち止めが注文したパフェが鎮座していた。
目の前にあるパフェに、うぇ、と欠陥電気は思いながらも口には出さず、パフェにパクつく打ち止めをみる。
実に美味しそうに食べる打ち止め。クリームが口の周りについているのはご愛嬌。
そんな二人を尻目に、一方通行は静かにブラックコーヒーを飲みながら、窓の外を景色をボーっと眺めている。
悪くない、と欠陥電気は思った。
学校にも行けないし、友達にだって気軽に会えない。能力も随分弱くなってしまった。
でも悪くないと思えた。
口は悪いし性格も最悪だけど、根は良い一方通行。
わがままで自由奔放に暴走するけど、純粋で優しい打ち止め。
色々なものを失ってしまったけれど、それと同じくらい大切なものを手に入れたから。
こんな時間が続けばいいなと、欠陥電気は思った。
82 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/29(月) 03:54:53.38 ID:s48mAdqp0
これで『欠陥電気』編は終り
『再会』編のスタートを投下しやす
――― 『再会』 ―――
一方通行の自宅からそう離れていない小汚い路地裏。
昼間でも、よほどの理由がない限り好き好んで通る人間などいないであろう路地。
そこに一方通行はいた。
「俺もさァ、この立場があるから別に誰が見張っていようが気にしねェンだけどよォ
今はちょいとばかりナイーブになってンだわ」
四肢をつき倒れ伏す男を見下ろし、一方通行は続ける。
「オマエ、何が目的だァ?」
85 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/29(月) 04:00:11.44 ID:s48mAdqp0
「…」
男は答えない。倒れ伏す男を一方通行は見据えた。
ラフな格好に身を包み、年齢は20代半場といったところか。
ピアスや首筋から見える刺青など、一見するとただのゴロツキだが。連中とは明らかに違っている点があった。
男の纏っている空気が、どれだけ偽装しようとも隠し通せない匂いが男にはあった。
こいつは平然と人を殺せる類の人間だと、一方通行は理解する。
「いやいや、大したもンだぜェ? この状況で答えないなンて選択するたァ」
「…化け物が」
おや、と一方通行は哂う。男が初めて言葉を口にした。
一度口を開いたらあとは容易い。死なないように壊すだけだ。それだけでイカれたスピーカーが出来上がるのだから。
「最終警告だぜェ? 吐いた内容によっちゃァ全殺し確定なンだけどよォ。
欠伸がでるほど緩い告白なら、神の気まぐれってヤツを期待できンぞォ?」
「…」
「今ならまだ即死コースが提供できンぜェ? そうでなけりゃ―――」
「―ッ! ……がぁ…ぃ」
一方通行は無造作に男の頭を掴み、頭皮を髪の毛ごと焼く。
肉の焦げる匂いが鼻を付く。
手を離すと男の頭部には、一方通行が掴んだ部分だけ髪が燃え尽き、くっきりと手形の火傷ができた。
86 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/29(月) 04:04:13.43 ID:s48mAdqp0
「悪ィ、これじゃあ色男が台無しになっちまったなァ」
「……ぐぅ……っ…」
「あンまり頑張ンなよォ? 俺も楽しくなってきちまうだろうがァ」
一方通行はククッ、とくぐもった哂い浮かべ男を睥睨する。
地に付いた男の両の手が先ほどまでと違った形をしていることに気付いた。それなりに効いているようだ。
顔を伏せたまま、男は一方通行に聞こえる程度の声量で吐き棄てた。
「………………死ねクソガキ」
その言葉に一方通行は顔を歪め哂う。
まだまだ足りないようだ。まだまだ楽しめるようだ。この狂った時間を。
舌で唇を軽く舐め、一方通行は次の行動に移る。
「こンなのはどォよ?」
ベクトル操作で焼くも凍らすも自由にできると信じてる っていうか、体表面しか操作できないのに服があっても無敵とか仕様? 原作は補完してんのかな
87 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/29(月) 04:06:45.86 ID:s48mAdqp0
そう言って男の右肩に指を突きたる。
グチュリ、と音を立ててあっさりと男の肩に指が入り込んだ。
呻き声をあげて男は姿勢を崩す。指が刺さった方の腕が体を支えきれずに重心が崩れ倒れ伏す。
「おいおいおい、ここからが面白いンだぜェ? 超頑張れよオッサン」
突き立てる指をもう一本増やし、肉の中で指先を繋げ輪を作る。
「…ぁ……ぐぉっ………」
「イイ感じのピアス穴の出来上がりってわけだァ。どォよ、素敵だろォ?」
「……はぁ、はぁ…」
男は息が乱れてきたが、まだやる気十分といったところだろう。
一方通行が肩から指を荒々しく引き抜くと、男は呻き声を挙げ深く息を吐いた。
一方通行は軽く哂うと、男の顔面を予備動作などなしに、まるでゴムボールを蹴るかのように軽く足を振り上げた。
たったそれだけで男は2,3メートルも吹き飛ばされ壁面に激突する。
「よく飛ンだなァおい、ちっと記録更新とか狙ってみるかァ?」
「…っ………ごふっ…」
90 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/29(月) 04:09:57.02 ID:s48mAdqp0
男は足に力が入らないのか、壁にもたれる様にしてずるずると腰を落とした。
右肩は骨が見えるほど肉が抉られ、頭部には火傷を負い額からは蹴られたさいに出来た傷口から
ダラダラと血が溢れ顔面が血まみれになったいた。
壁に激突した衝撃で背中の感覚はなく、首の骨にも異常があるのかもしれない。
動くだけの余力は最早ないだろう。
「しぶといねェ、さっさとお喋りしてくンないかなァ。俺も心が痛いんだぜェ?」
「…はぁ………はぁ…」
男からの返事はない。
男は地面を見据え荒い呼吸を繰り返す。
「オマエ今右腕に力が入らないだろォ? ついつい指突っ込ンだときに神経ぶち切っちゃってさァ」
「…っ」
「あァ、悪い。余計なこと言っちまったァ。気付いてなかったンなら黙っときゃよかったぜェ」
「……くっ」
「いやでも、オマエ頑張っちゃうからさァ、俺も楽しくなってきちまってよォ。本当は辛いンだぜェ?」
一方通行はそう吐き棄てて、狂ったような哂った。
そしてこう続ける。
91 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/29(月) 04:11:43.69 ID:s48mAdqp0
「実はもう一個、とびきり愉快なプレゼントがあンだけど、聞くかァ?」
「……だま、れ」
「まァそう言うなよォ、俺とオマエの仲じゃねェか遠慮すンじゃねェよ。
それによォ、自分でしといて何だがぶっ壊しちゃったからもう戻らねェンだわ。
でもまァ、最近はそういう人間にも世間の理解っつーの? そういうのあるから頑張れると思うぜェ?」
オマエ、頑張り屋さんだしなァ、と男に聞こえるように優しく呟く一方通行。
男は一方通行と会ってから初めて体を震わし、顔を上げ目の前にいる怪物を見た。
男の反応に一方通行はにやりと哂い言い放つ。
「オマエ、もう二度とチンコ勃たねェからァ……ック、クハハハハハッハッハッハッ!!」
「…き、貴様ぁっ!」
狂ったような体を震わせ哂う一方通行。
激昂した男が一方通行に飛び掛ろうとするが足が動かない。
「悪ィ、足ももう動かせないって言うの忘れてたわァ」
悪びれなく男へ伝える一方通行。
まるで、店員に追加の注文を頼むかのような気軽さで。
男は今までの姿が嘘だったかのように、鬼の形相を浮かべ罵詈雑言を一方通行へ浴びせる。
まだかろうじて動く上半身をつかい右腕を無茶苦茶に振り回した。
93 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/29(月) 04:14:49.30 ID:s48mAdqp0
「なンだよォ、お互い様だぜェ? オマエが狡いこと狙ってるから付き合ってやったンだろゥ?」
一方通行は、やれやれと溜息を吐きながら言葉を続ける。
「時間、気にしてンだろゥ?」
そこに腕時計でもあるかのように、一方通行は左手で右手首をトントン、と叩き男へ言う。
「ダメだぜェ? 奇跡の演出に凝っちまうのはいいンだがよォ。下を向いてたら見えないだろォ?」
「俺が―――スイッチ切り替えてンのをさァ」
「―――ッ!?」
「気がつかねェとでも思ってたのかァ? 相当愉快だぜェオマエの頭」
一方通行はそう言うとチョーカーのスイッチを切って、男から奪った拳銃を取り出す。
94 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/29(月) 04:18:44.65 ID:s48mAdqp0
「まァ、事情を聞き出せなかったから、オマエの勝ちってことにしてやンぜェ?
大金星じゃねェか、この俺に勝つなンてお友達に自慢ができンぞォ
安心しろよォ、お友達はすぐにそっちに送ってやるから―――――」
「呪ワれろォッ!! クそガ」
「――――死ンどけよ」
一方通行は動かなくなった男に近づき死体を漁る。
だが、身分証明などを男は一切所持していなかった。
一方通行は舌打ちし、携帯電話を取り出しリダイヤルから目的の人物の番号を見つけ電話を掛ける。
コール音続き、中々相手が出ないことに悪態をつきながら待った。
十数回コールした後にようやく出た相手と一方通行は2、3やり取りをして電話を切る。
くだらねェ、と呟くいて一方通行は路地から姿を消した。
99 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/29(月) 04:27:18.96 ID:s48mAdqp0
支援ありあした!
前々作
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一応↑のは読まなくても、ぎりぎり分かると思う 特に上条×美琴のシーンは説明ばっかワロタだったし
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