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唯「そつえんしき」

5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/01/25(火) 14:00:01.19 ID:Ir6LzA680 [2/33]

 「ねえ、和ちゃん」

 「なあに、唯ちゃん?」

 「小学校いっても、ともだちでいようね!」

 「うん、友達だよ!」

 「にへー」

 「えへへっ」

 「……ありがと、和ちゃんっ」


6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/01/25(火) 14:03:04.77 ID:Ir6LzA680 [3/33]

 「和ちゃん、和ちゃん」

 「どうしたの、唯?」

 「どうしたのって、今日で小学校も終わりだよ」

 「そうね。春から中学生だし、頑張らないといけないわね」

 「うん。だから……」

 「?」

 「……こ、これからもよろしくねっ」

 「ええ。ずっと友達よ」

 「……」


7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/01/25(火) 14:05:04.29 ID:Ir6LzA680

 「もう中学も卒業ねぇ……」

 「……」

 「唯、まだ泣いてるの?」

 「そうじゃないんだ。んっと、その……」

 「……?」

 「う……うっん、なんでも、ない……」

 「やっぱり泣いてるじゃない。……あ、学校に好きな人がいるって言ってたものね」

 「……」

 「元気出しなさい。また会えるわよ」

 「そう、だけど……ごめん、ねっ。和ちゃん……ありがと」


10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/01/25(火) 14:07:55.17 ID:Ir6LzA680

――――

 きっかけなんてなかった。

 いや、もしかしたら在ったのかもしれないけど、

 私はそれをはっきり見ようとしていなかった。

 無意識に知らないふりをしていた。

 だから……気付くのが遅くなってしまった。

 恋という言葉が、私の気持ちにあてはまることを知ったころには、

 この気持ちは私の死角でふくれあがっていて、潰しきることなんて不可能になっていた。

 小学6年生のとき。

 修学旅行の夜に、みんなで夜更かしをしておしゃべりをした。

 ひっそりとした雰囲気が逆に開放感をさそって、話題は男の子たちのことに向いていった。

 私は話についていけないながらも、みんなと一緒に歓声を上げたりしていた。

11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/01/25(火) 14:10:09.70 ID:Ir6LzA680

「唯はさ、誰が好きなの?」

 誰だったか忘れたけれど、大人びた髪の長い子がそう訊いてきた。

 当時の私に、自覚している「好きな人」なんていなかった。

 かといって、ここまでみんな赤裸々に自分の好きな人を話していて、

 自分だけ「好きな人はいないよ~」で流せる感じでもなかった。

「唯の好きな人は気になるなー」

「実はけっこう昔から好きな人いたりして?」

 にわかに場も盛り上がって、ますます逃げ場が狭まる。

 適当にでっち上げて、別の人に代わってもらおう。

 誰の名前を出すか、迷いはしなかった。

「私はねー、和ちゃんが好きだよ」

12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/01/25(火) 14:12:35.96 ID:Ir6LzA680

 さらりと口から滑りでた、即席の好きな人の名前が耳に届いて、

 夜更かししすぎでちょっと眠たくなっていた私の頭が突然冴えた。

 唖然とした顔で、みんなが私を見ていた。

 しぶしぶ会話に参加していた和ちゃんも、ちょっと真剣な顔で私を見つめている。

 今、私はなんて言ったのだろう。

「ゆ……」

 和ちゃんの口が動いたと思った瞬間、

 部屋に押し殺したような笑いがあふれてきた。

「ばっか、唯……くふふふっ」

「好きってそういう意味じゃなくてね、あははっ」

「ちょっとミカ、うるさいってば」

「うひっ、ごめん」

13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/01/25(火) 14:15:06.56 ID:Ir6LzA680

「あ……あははー」

 別のことを考えていて、笑われた理由もよく分からないまま、

 私は頭を掻いてみせた。

 なんで和ちゃんの名前が出たのか。

 好きな男の子の名前を言うんだっていうのは、ちゃんとわかっていた。

「……」

 ああ、そうだ。誰の名前を言うか考える時間をもうけなかったから。

 だから真っ先に、和ちゃんの名前がでてしまったんだ。

「あれぇ、和ちょっと照れてない?」

「びっくりしただけよ」

 私は大人びた子にのしかかられている和ちゃんの顔を見た。

 迷惑そうにしながらも、笑ってはいた。

14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/01/25(火) 14:17:40.07 ID:Ir6LzA680

 その笑顔が見れなくて、私は枕にうつぶせた。

 好きな人の、恋してる人の名前を言うんだって分かってたのに、

 どうして和ちゃんの名前を言ってしまったのか。

 その答えが分かるだけに、私はもう泣きだしたい気持ちだった。

 いつもの天然だった、と振舞う気力もでない。

「ごめんねみんな、私もう寝るよ」

「あっ唯! まだ好きな人言ってないでしょ!」

 言ったよ、と心の中でつぶやきながら、私は頭まで布団をかぶった。

 それからどうなったか、私は知らない。

 和ちゃんの顔ばかりがまぶたの裏に浮かんで、声が頭の中に響いて、

 私がどれだけ和ちゃんを好きか思い知らされていたら、いつの間にか窓から朝日がさしていた。

 みんなの中で一番に起きた私が最初に思ったのは、

 和ちゃんも相変わらず寝相が悪いなという、のんきなことだった。

15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/01/25(火) 14:20:54.14 ID:Ir6LzA680

 それ以降、特に茶化されることもなく、

 私はじっくり和ちゃんに対する恋心に向き合うことができた。

 誰にも相談できなかったけれど、きっと自分は間違ってないと信じて、

 卒業式の日に告白することを決意した。

 でも、結局勇気が出せずに言えなかった。

 ふられたら、友達でいられなくなっちゃうんじゃないか。

 その恐怖が、最後の一言を押し込めてしまう。

 家に帰ってから自分の情けなさに泣いて、中学の卒業式こそはと強く決意した。

 そして3年後、もう一度勇気を出してみたけれど、また言うことはできなかった。

 和ちゃんと一緒の高校に行くことが決まっていたから、

 まだ時間はある、なんて軽い気持ちでいたんだろう。

 甘かった自分を、殴りつけてやりたい。

16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/01/25(火) 14:24:12.44 ID:Ir6LzA680

「え?」

 ある日ふいに和ちゃんが言った言葉は、私の心を穿った。

 すかすかと、体を風が通っていくようだった。

「志望校よ。唯は決めたの?」

「和ちゃんは決めたの?」

「ちょっと上過ぎるかとも思うけど、K大かしらね」

 和ちゃんから知らない大学の名前を聞いて、

 空っぽの胸が焦りのうねりを呼び込みだした。

「……それって、どれぐらいの大学?」

「そうね……たぶん、唯でも1年じゃ無理だと思うわ」

 和ちゃんが、泣き笑いのような顔をする。

「……なんで」

18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/01/25(火) 14:27:13.86 ID:Ir6LzA680

「そんな今さら言われても……わ、わたし……」

 私は首をふる。和ちゃんが悪いんじゃない。

「……ごめん。けど、えっと」

「唯は私と一緒の大学がよかった?」

「……」

 無口な子供みたいに、黙って私は頷いた。

「じゃあ、一緒に勉強しない?」

「……間に合うの?」

「やってみないと分からないわよ」

 さっきと言ってることが矛盾してるけど、私は迷わずに和ちゃんの手をとった。

「お願い和ちゃん、勉強教えて!」

「ええ、いいわよ」

 和ちゃんは、優しい笑顔で頷いてくれた。

21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/01/25(火) 14:30:07.07 ID:Ir6LzA680

「でも、まずは軽音部が落ち着いてからね」

「えぇっ?」

 1年で間に合わないと言われたのに、部活を引退してからじゃ3ヵ月もないはずだ。

「まさか既に浪人確定って言いたいの……?」

「そうじゃないわよ。ただ……」

 和ちゃんは頬を掻いた。

「唯が最後の文化祭、全力でやれないのは嫌だから」

「和ちゃん……」

「今まで唯が最後までやり通した事って少ないでしょ?」

「だから軽音部くらい、最後までやってほしいのよ」

「……」

 わかった、と簡単に頷くことはできなかった。

 部活といっしょにやって合格できるほど、和ちゃんと目指す大学のレベルは低くないだろう。

22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/01/25(火) 14:33:12.58 ID:Ir6LzA680

「もちろん、時間のあるときは常に勉強ね」

 でも和ちゃんが私たちのライブを見たいって言うなら、

 浪人くらいしたって構わない。

「うん、軽音部も勉強も、どっちも頑張る!」

「応援するわ。……日曜は部活休みだったわよね」

「そうだけど」

「じゃあ、唯の家で勉強会ね。高1の範囲から片づけていくわよ」

 和ちゃんの目が本気だ。

 忙殺という言葉があるけど、本当に死ぬかもしれない。

 高校受験の時も似た感じになったけど、今度は部活もやりながら。

「……わかった、準備しとくね」

 和ちゃんをがっかりさせないように、頑張らないと。

24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/01/25(火) 14:36:01.82 ID:Ir6LzA680

――――

 土曜日になって、部活での練習の機会を増やすことを提案した。

 家で練習する体力がなくなる分を、部活に持ち込もうというわけだ。

「唯が真面目になったぁ……」

 なんてりっちゃんは嘆いていたけれど、結局は賛同してくれた。

 部長として、最後の学祭ライブを成功させたいのだろう。

 和ちゃんもりっちゃんも裏切れない。

 ものすごいプレッシャーを感じたけれど、

 なぜだか少しだけ、楽しいと思った。

 きっと、これからの苦しい日々の先に、和ちゃんが待っているからだろう。

 ……でも。

 和ちゃんはそこで待ってくれているだけで、いつまでも私と同じ道を歩んでくれるわけじゃない。

 大学は別になるかもしれない、なんてことになって今更そんな当たり前のことに気付いた。

25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/01/25(火) 14:39:06.58 ID:Ir6LzA680

 だったら、私はどうしたらいいか。

 そんなの、決まっている。

 高校に入ったばかりのころ、事実婚という言葉を知った。

 同性同士とか、法律的に結婚できない人達がそれでも結ばれるための手段。

 「私たちは結婚した」と宣言して、同棲して、一生を共に過ごすのだ。

 和ちゃんとそれができたら。

 いつか別の道を歩み出す日は、やってこなくなる。

 じゃあ、和ちゃんとその事実婚というのをするためには?

 卒業式では遅すぎる。そしたらまた、私は勇気を出せずに言うチャンスを逃してしまう。

 あんな情けない思いを二度としないためにも、

 そして和ちゃんがどこかへ行ってしまわないために、

 いつでも和ちゃんにこの愛を伝えられるよう、準備しておこう。

26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/01/25(火) 14:42:06.00 ID:Ir6LzA680

――――

 それから毎週日曜日、和ちゃんとの勉強会を開いた。

 ……開くことになっていた。

「最低でも、軽音部が終わるころには今の私ぐらいの偏差値になっておきなさい」

「それで間に合うの?」

「間に合わせるわ」

 強い口調でぴしゃりと言う。

 和ちゃんらしくなかった。和ちゃんならもっと真剣に考えてくれる。

 たとえ結果として私に辛辣なことを言うことになっても、

 私のためを思って助言してくれる。和ちゃんの好きなところのひとつ、なのに。

「ねえ、和ちゃん……」

 不安が波のように、時折引きながら寄せてきて、だんだんと近付いてきた。

「わたしが和ちゃんの大学についていくの……いや?」

27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/01/25(火) 14:45:01.79 ID:Ir6LzA680

 訊いてはいけないことだったかもしれない。

 和ちゃんの顔が、ちょっぴり凍る。

 でも、もう言葉に出してしまった。

 告白もこんな風に言えたらいいのにな、と場違いなことを考える。

「……うれしかったわ。唯がついてきてくれて」

「……」

 喜べない。

 これは和ちゃんの話の、前置きにすぎないと分かるから。

「でも、なんていうか……決して、唯が嫌いって訳じゃないのよ?」

「ただ唯は……軽音部に入ってから、変わったと思うから」

 和ちゃんは大きく息を吸う。

「私ね。今まで私は、唯のお母さんみたいな存在だって自分を思ってたの」

「……澪ちゃんも言ってたよ。お母さんみたいだって」

28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/01/25(火) 14:48:06.92 ID:Ir6LzA680

「だけど、軽音部に入った唯を見ていると、違ったかなって思うの」

「違う?」

「私は唯のお母さん……お母さん代わりにもなれないし」

「なる必要なんて、なかったかなって」

「和ちゃん……? よく意味がわかんないよ」

 おかしい。

 和ちゃんを全力で追いかけているはずなのに、

 その姿は私のほうを向きながら、ぐんぐん遠くへ飛んでいってしまう。

「気持ちとしては、娘を嫁に送ったような感じだったの」

「ちょっとした寂しさと、よろしくお願いしますって気持ち」

 和ちゃんは悲しげな目をしていたけれど、やっぱり笑った。

「唯はね……軽音部にもらわれたんだと思うから」

「律と、澪と、ムギと。同じ大学を目指すべきなのよ」

30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/01/25(火) 14:50:59.08 ID:Ir6LzA680

 胸の奥から、強烈な衝撃がつきあげてくる。

 心臓の鼓動に、肩まで揺らされた。

「……和ちゃん」

 あぁ、だめだよ。

 今言うことじゃないよ、言わなきゃって思っちゃったのはわかるけど。

 頭のどこかから、私の声で警告が聞こえる。

「そんなの和ちゃんの勝手だよ。私はそんなのやだ」

「やだって……」

「やだったらやなの! 和ちゃんと離れるなんて絶対いやっ!」

「唯、どうしたの?」

 ばか、和ちゃん。それを訊いちゃったら。

「……和ちゃんが好きなのっ!」

「ずっと昔から、ずっとだよ! 私は和ちゃんのこと、小学校のときから……」

31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/01/25(火) 14:54:08.37 ID:Ir6LzA680

 和ちゃんの顔がみるみる固まっていく。

「ねぇ覚えてるでしょ、小学校の修学旅行の夜」

「わたし、和ちゃんが好きって言ったよね。あれがほんとの気持ち。天然ボケなんかじゃなかったよ」

 わかってる。

 こんな勢いに任せて言っちゃいけないことだって。

 だけどもう、止まれない。

 理由のわからない涙がぼろぼろあふれてくる。

「女の子同士だから、おかしいって思ったけどっ……好きなものは好きで、わたしっ」

「和ちゃん、好きっ、ずっと好きだったの、だから……」

「母親なんて言わないで……私を勝手に見はなさないで!」

 にじんだ視界の中、和ちゃんを探して抱きついた。

 春服の下の胸が、ぎゅうっと潰れる。

「ずっといっしょだって、約束したじゃん……」

33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/01/25(火) 14:57:05.39 ID:Ir6LzA680

 和ちゃんの心臓の音が聞こえる。

 私の鼻が鳴らす雑音が邪魔だった。 

 和ちゃんの胸に顔を押し付けたまま、時間が過ぎる。

 言葉の氾濫はおさまったみたいだった。

「……ずっと」

 やがて、和ちゃんは静かに言った。

「?」

「ずっと友達だって、言ったのよ」

「……」

「無理よ、唯……わたしは」

「唯をそういう風に見たことがないし、これからも見れないわ」

「……ごめんなさい」

34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/01/25(火) 14:59:54.11 ID:Ir6LzA680

 わたしが最低でも6年いだいた想いは、

 1分とたたず、うち砕かれた。

「そっか、そうだよね」

 私はそっと和ちゃんをつかまえていた手を外して、座りなおす。

 和ちゃんの服に広がった涙のしみを見て、きっと大した悲しみではないと思うことにした。

「ごめん、おかしなこと言って……」

「……ちょっと、一人にさせてくれない?」

「……」

「お願い」

「……じゃあ、勉強会は中止?」

「そうだね。ていうか、もういいかも」

「一緒の大学行ったって、いつか和ちゃんが離れちゃうなら、もういい」

「……」

35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/01/25(火) 15:03:07.13 ID:Ir6LzA680

「好きになんなきゃよかった……」

「……そんなこと、言ったらだめよ」

 テキストを集めてかばんに入れて、和ちゃんはすっと立ち上がった。

「また明日ね、唯」

 和ちゃんはそう言って、部屋を出ていった。

 私は床に耳を付けて、離れていく和ちゃんの足音をわざわざ聴いた。

「……」

 終わっちゃった。

 のんびりしてたら思った以上に終わりが近づいてて。

 それで焦ったら、あっという間に何もかも終わっちゃってた。

 どうするのが、正解だったんだろう?

 この問題だけは、和ちゃんにも解けないな、って思った。

36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/01/25(火) 15:06:01.27 ID:Ir6LzA680

――――

「朝令暮改ですか!?」

 翌日、月曜日の軽音部にて、あずにゃんが私の知らない言葉を叫んだ。

「3日もたなかったな……」

「まあ唯にマジメキャラは向いてなかったって事だ!」

「嬉しそうだな、律」

「でも、よかった……」

 ムギちゃんが胸をなでおろす。

「ムギ先輩?」

「唯ちゃんが勉強しようとしたのは、和ちゃんと同じ大学行くためでしょ?」

「う、うん……無理だって言われて、諦めちゃったけどね」

37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/01/25(火) 15:09:03.01 ID:Ir6LzA680

「でも私や澪ちゃんは、和ちゃんのK大とは志望校違うし、目指すのも厳しいから……」

「これで唯ちゃんも、一緒の大学来れるわよね?」

 ムギちゃんはにこっと笑った。

「あ……」

「おう、私も澪とムギと一緒の大学行くぞ!」

 慌てたようにりっちゃんが割り込んできた。

「今きめたでしょ、りっちゃん?」

「だ、だってさぁ!」

「まったく……」

 仕方ないな、という感じの笑い。

 でも、心の奥では。

 ……なんだか、和ちゃんの言ったことが、わかったような気がした。

38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/01/25(火) 15:11:57.44 ID:Ir6LzA680

「いいじゃん。りっちゃん、みんなで一緒の大学目指そうっ!」

「うんっ」

 みんなで頷き合う。

 そうだ。こうして、友達の中にいるのが、いちばん良いんだ。

 もしかしたら和ちゃんは、はなから私の気持ちに気付いていて、

 ああいう忠告をしたのかもしれない。

 そもそも、本人の前で好きって言っちゃったことあるもんね。

「それじゃ……」

「ティータイムにするか」

「律先輩、このタイミングでそれ言えるの逆にすごいと思います」

「冗談だっつの」

 そうだよね。

 きっと、こんな時間が好きなだけだったんだ。

39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/01/25(火) 15:14:58.50 ID:Ir6LzA680

――――

 「……」

 「……」

 「家まで送るわ、唯」

 「うん、ありがとう。和ちゃん」

 「……なんかあっけなかったね」

 「卒業式? そうね、卒業証書もクラス代表が受け取るだけだものね」

 「中学の時は泣いちゃったけど、今年はなんだか……」

 「空っぽな感じが、ずっと続いてた」

 「虚無感ね。寂しいのよ、唯は」

 「んー、やっぱりか。わかってはいたんだ」

40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/01/25(火) 15:17:58.95 ID:Ir6LzA680

 「寂しいのは、やっぱり……和ちゃんが遠くに行っちゃうからなのかな」

 「……まだ、好きなの?」

 「わかんない。そういう気持ちをなくそうとはしてる」

 「……忘れられたらいいわね」

 「うん。それがいいって思うよ」

 「……」

 「……あ、公園」

 「昔、よく遊んだわね。砂場の砂、みんな外に出しちゃって怒られたかしら」

 「あの時はほんとすみませんでした」

 「いいのよ。子供の頃のことだし」

 「……子供のしたことなら、許せる?」

 「?」

41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/01/25(火) 15:20:54.28 ID:Ir6LzA680

 「私が和ちゃんを好きになったの……子供の頃のことだけど、許せる?」

 「……唯に好きになられて、怒る人なんていないと思うけど?」

 「……和ちゃんって、ほんとにばか」

 「ええっ?」

 「そんなこと言わないでよぉ……またぶり返しちゃったじゃん」

 「……熱か風邪みたいな言い方ね」

 「はぁ、もう……」

 「難儀な人を好きになったよ……いろんな意味で」

 「はあーぁ……」

 「……唯、歩くの遅くなってるわよ」

 「……だって。もうそろそろ、家に着いちゃうし」

42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/01/25(火) 15:24:13.84 ID:Ir6LzA680

 「……」

 「……」

 「ねぇ、和ちゃん」

 「なに?」

 「……すき、だよ」

 「唯……」

 「でも。私が和ちゃんをすきなのは、今日までにする」

 「今日からあなたは、私の愛した和ちゃんではなく、ただの幼馴染の和ちゃんなのです」

 「……」

 「……ねえ、眼鏡はずして?」

 「あのころの和ちゃんの顔になってくれないかな」

 「和ちゃんが、私の親友だったころの……」

44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/01/25(火) 15:27:11.33 ID:Ir6LzA680

 「……ええ、いいわよ」

 「……」

 「……うん、そう」

 「なつかしいね。卒園式の日も、こうだった」

 「隣にお父さんとお母さんがいたけれど、和ちゃんが送ってくれて……」

 「純粋だった。恋を知らない子供だったんだよね」

 「……」

 「和ちゃん。送ってくれてありがとう」

 「もういいの?」

 「うん。あ、眼鏡はそのままで」

 「……じゃあ、ここで見送ってるわ」

 「ん。じゃーね」

 「ええ。さよなら、唯」

45 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/01/25(火) 15:30:02.91 ID:Ir6LzA680 [33/33]



 ありがとう、和ちゃん。

 私の気持ち、もういっかい幼稚園からやり直すから。

 今度は間違わないようにするから。


 そしたら――また、出逢おうね。



   おしまい

コメント

切ないす先輩(;_;)

No title

唯と和ちゃんのSSって切ないの多くてツライ
りっちゃん澪の幼馴染コンビみたいにラブラブチュッチュしろよ!
和ちゃんのバカ!

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