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律「とある夏の日の話」
2 名前:1[] 投稿日:2011/01/01(土) 19:28:45.52 ID:gj5TqvN40 [1/96]
エピローグ
「梓の小さな反撃・b」
プロローグ
「梓の小さな反撃・b」
梓は笑っていた。いつもの部室で、いつもの律と唯の口論。
―私じゃないんだってー!―
―じゃあ誰なんだよ!?―
―知らない!―
―桜高の平沢唯はお前しかいないだろーが!―
―知らない!昨日はすぐ帰ったもん―
―でも確かにそう言ってたんだよ!―
エピローグ
「梓の小さな反撃・b」
プロローグ
「梓の小さな反撃・b」
梓は笑っていた。いつもの部室で、いつもの律と唯の口論。
―私じゃないんだってー!―
―じゃあ誰なんだよ!?―
―知らない!―
―桜高の平沢唯はお前しかいないだろーが!―
―知らない!昨日はすぐ帰ったもん―
―でも確かにそう言ってたんだよ!―
3 名前:1[] 投稿日:2011/01/01(土) 19:29:51.32 ID:gj5TqvN40 [2/96]
澪「梓、ほっといて練習するか?」
梓「いえ、今日はもう少しだけこのままがいいです。」
梓の意外な返答に澪は驚いている。
紬は、相変わらずにこやかに皆を見守っている。
梓がショートケーキを一口頬張った。
梓「・・・おいしい。」
もう一度、笑った。
5 名前:1[] 投稿日:2011/01/01(土) 19:32:35.05 ID:gj5TqvN40
本編
律「とある夏の日の話」
立秋とは名ばかりの猛暑が続く夏休み、
2人は部活を終え、帰路についていた。
学校を出てから律はずっと、何か物悲しげな顔をしている。
そして思いついたかのように急に口を開いた。
律「澪ー。これからさ、皆ずっと一緒で楽しく過ごしていられるかな?」
澪「!?って何言い出すんだよ!!そうに決まってるだろ」
律「そっか。なら安心だ」
また律は口を閉じる。澪はいつにもまして静かな律が少し心配だった。
6 名前:1[] 投稿日:2011/01/01(土) 19:34:07.56 ID:gj5TqvN40
律「・・・そうだみおー、コンビニいこーぜー!」
心配する澪を察したかのように明るく振舞い、誘いを振った。
澪「わかったよ、どうせ拒否権無いんだろ・・・」
律「さすが澪さんご馳走様です☆」
澪「ち・ょ・う・しに乗るな!!!」
律「いてっ!すみませんすみません・・・」
7 名前:1[] 投稿日:2011/01/01(土) 19:34:58.89 ID:gj5TqvN40
小さな買い物袋を片手に持ちコンビニから出た二人は、
先ほどと変わらぬ雰囲気でまた歩き出した。
右手で痛みの引かぬ頭をさすり、左手でアイスを少しづつ味わう。
気だるそうに律が口を開いた。
律「あーあ、何か楽しいこと無いかなーみおー?」
いつものような楽天的な律の発言に、半ば呆れながら澪が返事をする。
澪「何言ってんだ律、お前はいつも楽しそうに生きてるだろうが・・・」
9 名前:1[] 投稿日:2011/01/01(土) 19:37:19.55 ID:gj5TqvN40
律「それは確かに否定出来ません☆でもさー・・・今年はむぎん家で合宿も無し、
夏祭りも行かず、皆でプールにいも行かず!これで夏休みと言えるのですか!?」
澪「まぁ確かにな。明日皆に提案してみるか?」
律「さんせーでーす」
舞い上がってスキップをしだした律が、アイスを道路に落とし急にうな垂れた。
澪が黙って律の肩を叩き並んで歩いていく。
10 名前:1[] 投稿日:2011/01/01(土) 19:38:44.85 ID:gj5TqvN40
公園の前を通った時、澪が恥ずかしそうに口を開いた。
澪「ごめん、ちょっとトイレ行っていい・・・?」
律「おいおい、さっきコンビニでいけばよかったのに。いいけどさ。」
澪「すぐ戻るから待ってて。」
律「そりゃ着いては行かねーよ(笑)行って来い」
そして早足で澪がトイレへかけて行った。
律は、半分ほどしか食べられなかったアイスのごみをゴミ箱に捨て、
ベンチに座って待つことにした。
11 名前:1[] 投稿日:2011/01/01(土) 19:40:09.98 ID:gj5TqvN40
しかし、15分・・・いや20分ほど経っただろうか。
ひたすら待ったが一向に出てこない。
じっとしていると、汗が滝のように滴り落ちてくる。
律「・・・・・・・・・暑い。」
流石に律も心配になり様子を見に行く事にした。
女子トイレの中へ入り、個室は1つしか無いなので大声で澪を呼ぶ。
律「みーーおーーちゃん。無事ですかー?・・・・・・」
12 名前:1[] 投稿日:2011/01/01(土) 19:41:53.68 ID:gj5TqvN40
返事が無い。
律「おいおい・・・何やってんだよ。でてこーい!
出てこないなら入っちゃうぞー?」
そう言って律がノブに手をかけ少し引くと、鍵は開いていた。
律「開いてんのか?はいるz・・・!?!?」
目に映ったのは気絶した澪と、知らない人。
顔は良く見えなかったがおそらく体格から考えると男だろう。
次の瞬間男の右手からバチバチと音が聞こえ、律は気を失った。
13 名前:1[] 投稿日:2011/01/01(土) 19:43:59.70 ID:gj5TqvN40
――――――――――――――――――――
―――――――――――――――
目を覚ますと、律は全く見知らぬ場所にいた。
まだ意識があまりはっきりしないまま辺りを見回す。
一面石造りでかなり古びた感じの、まるで映画にでも出てきそうな小洒落た部屋だ。
広さは約8畳と言った所だろう。
微かに香る磯の匂いで、海が近い事がわかった。
律「なんだこれ・・・どこだ?ここ」
14 名前:1[] 投稿日:2011/01/01(土) 19:46:00.95 ID:gj5TqvN40
部屋には、大きな扉が一つと向かい側に窓、部屋の端に大きな棚のような物がある。
中には古ぼけたとても長いロープやら色んな工具が詰め込まれている。
扉の横には、1から8までのボタンらしき物が付いている。
自分のバッグなど荷物はいくら見渡しても見つからない。
窓の外を眺めるとやはり一面海が広がっている。
下まではそれなりの高さで、何メートルなのか検討がつかない。
窓の鍵は壊れていて、とても開きそうにない。
15 名前:1[] 投稿日:2011/01/01(土) 19:48:03.01 ID:gj5TqvN40
律「何の冗談だよ!出るぞこんなとこ!」
そう叫び扉の前に立ち手をかけたが、押しても引いてもスライドさせてもびくともしない。
どれだけ力をこめても一向に開く気配がしない。
律「・・・こっちも鍵かかってるな。どっちからも出しません、ってか」
扉を背もたれにし、力なく座り込んだ。
律「これはもしかして拉致・・・監禁されたのか?」
目の前に広がるあまりに非現実的な光景に、律は動揺を隠し切れないようだ。
律「いやいやいや、そんなはず無い!だって確か、部活終わって澪とコンビニ行って
アイス買って澪が公園のトイレ行って・・・トイレの中に」
あの時の冷たい現実が律の脳裏をよぎった。
16 名前:1[] 投稿日:2011/01/01(土) 19:50:42.96 ID:gj5TqvN40
律「まさか、ほんとに誘・・・」
言葉を遮られるように、ポケットからシンプルな機械音が鳴り響く。
驚いて少し声を上げてしまったが、落ち着きを取り戻しポケットから音の正体を
取り出した。
律「これは・・・iPhone?」
律のポケットの中の音の主は、見覚えの無いiPhoneだった。
iPhoneにはAM9時を知らせる画面が表示されていた。
律「もう9時か・・・なんか何日も眠らされてたような気がするけど」
そう言いながら、ひとまずアラームを停止させた。
17 名前:1[] 投稿日:2011/01/01(土) 19:52:16.23 ID:gj5TqvN40
律「そうだ、これで電話を...!」
淡い期待を込めて電話アイコンに指で触れる。
しかし、iPhoneは無情にも
〔起動制限されています エラー419cf〕
簡単に助け出してくれそうには、無い。
18 名前:1[] 投稿日:2011/01/01(土) 19:53:03.33 ID:gj5TqvN40
他の機能も全て同じ事が表示され、期待は脆く崩れ去った。
おもむろに次のページをめくると、
[ルール説明][チャット]と書かれた2つのアイコンがあった。
不審に思いながらもルール説明のアイコンに触れる。
エラー表示は、出ない。
正しく起動したようだ。
動画再生の画面になり、殆ど真っ暗で何も見えないまま声が聞こえる。
20 名前:1[] 投稿日:2011/01/01(土) 19:56:24.95 ID:gj5TqvN40
「おはよう律、良い目覚めだったかい?
仲間が随分乱暴に連れて来たみたいで申し訳ない。
ここは日本から遠く離れた孤島だ。
そしてボクはこの島の住民、目的を率直に言うと君達とゲームがしたい。
君たちの脱出をかけたゲームを。
この建物は大きく分けて2つのエリアに分かれている。
エリアごとにボクが課題を出すから、それを協力し合ってクリアして欲しい。
全部クリアしたら確実に日本へ帰す事を約束する。ボク、嘘は嫌いだからね。
もしクリアできなかった場合、日本へは帰れません。
その場合こちらから身体的危害を加えたりは一切しないけど・・・後長くて2,3日の命だ。
21 名前:1[] 投稿日:2011/01/01(土) 19:57:49.21 ID:gj5TqvN40
さて。まず第一の課題は、今居るのは同じ部屋が縦に8部屋重なっている棟だ。
灯台のような物を想像してくれたらいい。
その順番を一番上を1とし、自分の番号を当てるという物だ。
わかったら扉の横にあるボタンを押して、全員押して正解ならクリア。
簡単だろ?
では、説明は以上。横にあったチャットアイコンを起動すれば、
他の部屋の7人とも連絡が取れるから使いたければどうぞ」
そこで動画は終わった。
22 名前:1[] 投稿日:2011/01/01(土) 19:59:39.35 ID:gj5TqvN40
律「・・・なんだそれ?ドラマの中じゃあるまいし・・・」
得意の強がりにも、半分諦めたのか覇気を失っていた。
しぶしぶ隣のチャットアイコンに指を触れる。
起動すると、どこか少し懐かしいと言えば聞こえがいいが、
単に古臭いチャットウインドウが表示された。
―りつが入室しました―
みお:やっとか律!
ゆい:相変わらずりっちゃん隊員はお寝坊さんですな
のどか:とにかく、8人がこれではっきりしたわね。
23 名前:1[] 投稿日:2011/01/01(土) 20:01:10.75 ID:gj5TqvN40
見覚えのある名前が浮かび少しほっとしたが、
しかし、当然ほっとしている場合では無い。
律もすかさず発言をした。
りつ:よかった、見覚えのある皆様方だ。で8人って誰?
つむぎ:軽音部の5人と・・
うい:平沢憂です。
じゅん:なぜか私もいます!鈴木純です!
のどか:で、私の計8人と言うわけ。
25 名前:1[] 投稿日:2011/01/01(土) 20:03:16.33 ID:gj5TqvN40
りつ:なるほど。で、皆はもう状況は掴めたのか?
うい:認めたくないですけどね。
みお:上に同じ。でも従う以外にどうしようもなさそう・・・
ゆい:とっくに把握してるよー、りっちゃんが起きる前に笑
りつ:はいはい。こんな馬鹿げた冗談・・・やるしか、無いのか?
つむぎ:んー、ほんと馬鹿げた冗談だけど、ほっぺを抓ったら痛かったわ
じゅん:残念ながら夢では無いみたいです!
律は少し期待していた。
そろそろ誰かがドッキリのネタ晴らしをする事を。
27 名前:1[] 投稿日:2011/01/01(土) 20:05:35.98 ID:gj5TqvN40
律「おいおい・・・もう逃げ道は、無いか」
りつ:ドッキリのネタ晴らしがあるなら誰か早く頼むぞホントに
ゆい:残念ですがそんなプランは有りません!
みお:律、それはお前だけじゃなくて7人全員の意見だ。
どうやらやるしか無さそうだ。
ふと窓の外を眺めると、とても気持ちのいい青空が広がっていた。
29 名前:1[] 投稿日:2011/01/01(土) 20:07:43.75 ID:gj5TqvN40
りつ:仕方ない。なら、一丁やってやろうか
あずさ:ハイ!やってやるです!
みお:ま、やらないと帰れ無さそうだしな
のどか:流石部長さん・・・と言ったところかしら。
ゆい:とりあえず、皆の階数を当てればいいんだよね?
つむぎ:でも、部屋に閉じ込めれられたままじゃ・・・
みお:こんな閉じ込められてちゃどうしようも無いよな
あずさ:確かにみお先輩の言う通り…
31 名前:1[] 投稿日:2011/01/01(土) 20:09:27.51 ID:gj5TqvN40
律にもどうすればいいのかはわからなかった。
ひたすら考えているつもりだか、まずどうすればいいかが浮かばない。
おそらく皆同じなのであろう、誰もなかなか発言をしない。
のどか:とりあえず皆部屋の様子を教えて?
うい:出口と窓があって、どっちも開きません。扉の横にはボタンがあります。
みお:大きな棚があって、色んな物が突っ込んであるな
あずさ:一緒ですね。窓の外は一面海です。
ゆい:私もー!
つむぎ:私もね
32 名前:1[] 投稿日:2011/01/01(土) 20:11:30.05 ID:gj5TqvN40
りつ:じゃあ、皆同じ部屋か。
うい:みたいですね
じゅん:あの…私もそんな感じなんですけど、窓を外から塞がれてるのか真っ暗です
みお:真っ暗…?
のどか:わざと外を見えなくしたのかしら?
うい:怪我しないように気をつけてね…
律「真っ暗か。確かに偶然窓が外から塞がれてるなんて考えられないし…」
33 名前:1[] 投稿日:2011/01/01(土) 20:13:00.96 ID:gj5TqvN40
何か意味があると思っても、普段使わない部分の頭はなかなか働いてくれない。
何も出て来ない悔しさで髪を掻き毟りながら少しイラついた声を上げた。
考えている最中に、唯が閃いたように発言する。
ゆい:もしかして、塞がれてるんじゃなくてさ地下だったりしないかな?
あずさ:確かにそれはあるかもしれませんね
みお:なら純は一番下ってことになるけど
律「なるほど、その考えは無かったなー。でも…」
律の中に何かが引っかかる。
37 名前:1[] 投稿日:2011/01/01(土) 20:15:20.21 ID:gj5TqvN40
りつ:でも、何かが引っかかるんだよな…
のどか:上に同じ、ね
沈黙が続く。
もちろん、無音はずっと前から続いているのだが。
うい:あの、ちょっと思ったんですけど
ゆい:どうしたのうい?
うい:この建物ってそもそもは多分普通の建物ですよね?
ということは、地下は普通窓を作らないと思います。
38 名前:1[] 投稿日:2011/01/01(土) 20:18:52.62 ID:gj5TqvN40
あずさ:そっか。そりゃそうだ・・・
つむぎ:よく考えたら当たり前ね
りつ:とにかく、確かに地下って可能性は無いな
ゆい:でも、結局どうしたらいいのかな
律「確かになー、だからなんだよって話だしな」
胸のモヤモヤが取れた所で、進展は無い。
仰向けで大の字に寝転がる。
ふと視線を横に向けると、棚に無造作に放り込まれたボロボロの縄が目に入った。
40 名前:1[] 投稿日:2011/01/01(土) 20:21:20.02 ID:gj5TqvN40
律「窓割ったら、外には出れるか。でも出た所で…そもそも結構丈夫そうだから割れねーな」
ふっとため息を吐いた。
ゆい:いっそ、皆で窓から逃げよっか?
あずさ:冷静になって下さい
みお:同じく。
律「ったく、私かっつーの。」
そう小さくつぶやき、窓の外を眺めると鳥が楽しそうに空を舞っている。
41 名前:1[] 投稿日:2011/01/01(土) 20:23:57.13 ID:gj5TqvN40
律「もし割れたら…ん?
そうか」
律は額の汗をぬぐいながら、あわててiPhoneを手に取った。
りつ:なあむぎ、ガラス割れるか?
むぎ:多分割れると思うけど、私だけでも逃げ出すの?
りつ:違う、もし同じ面に窓があれば、窓割って下にロープ垂らせば下の階が分かるんじゃないか?
みお:…こいつほんとに律か?
つむぎ:りっちゃん凄いわ!やってみる、任せて
じゅん:けがしないようにして下さい
ゆい:むぎちゃん、逞しい子
43 名前:1[] 投稿日:2011/01/01(土) 20:26:10.33 ID:gj5TqvN40
律「…ちょっと前進かな」
律の顔に、微かに活気が戻ったように見えた。
つむぎ:やっぱり手じゃ無理だっから、棚投げつけたら簡単に割れたわ!
のどか:ほんとに割ったのね…
じゅん:流石ですむぎ先輩!
あずさ:コメントし辛いです…
みお:とりあえず、さっそくロープ垂らしてみてくれむぎ
りつ:むぎはゆっくり目に垂らして、もし見えたら「見えた」って発言してくれ
つむぎ:じゃあ行くわね
46 名前:1[] 投稿日:2011/01/01(土) 20:28:07.43 ID:gj5TqvN40
律は入力欄に「見えた」と入力し、すぐ対応出来るようした。
うい:見えました
みお:見えた
ゆい:見えたよ
のどか:見えたわ
あずさ:見えました
律の視界にロープは、映らなかった。
入力欄をクリアした。
りつ:見えなかったのは、私と純だけか。
のどか:整理すると、紬憂澪唯私梓は確定ね。
48 名前:1[] 投稿日:2011/01/01(土) 20:29:51.48 ID:gj5TqvN40
ゆい:案外いけそうだね
みお:んー…でも、あと律と純が何処なのかがわかんないからな。
うい:発言の時間間隔から言って、間には入らないと考えられます。
あずさ:どうしましょう…
下唇を噛み、苦い表情を律は浮かべていた。
律「どうすりゃいんだ…?私は高さから行って一番下は無い、むぎにロープ上に投げてもらっても、順番で判断は出来ないし…。」
49 名前:1[] 投稿日:2011/01/01(土) 20:31:31.46 ID:gj5TqvN40
ゆい:じゃあさ、同じように上に投げたらいいんじゃない?
みお:純は外見えないから順番はわからないぞ。
それに重りを付けた所で、せいぜい1つ上の階にしか届かないだろ
ゆい:そっかー
うい:でも、もし律さんが紬さんの上だったとしたら、
純ちゃんは分からないけどとりあえずやってみる価値はあるんじゃないですか?
つむぎ:それもそうね、やってみるわ
りつ:いつでも来い!!
51 名前:1[] 投稿日:2011/01/01(土) 20:34:02.89 ID:gj5TqvN40
律は唾を飲み、目を凝らしじっと窓の景色に集中した。
その刹那、ガラスが先端に括り付けられたロープがよたよたと下から現れ、
そして消えた。
りつ:見えた!見えたぞ
律「よし、これで後は純さえわかれば。」
みお:よし、後は純だな
じゅん:なんか私のせいで、すみません…
ゆい:大丈夫だよ!なんとかするからね
あずさ:あとは純が、一番上なのか一番下なのか
つむぎ:そんなの、どうやったらわかるの?
律「一番上か一番下か、外が見えない純にわかんのかよー…」
52 名前:1[] 投稿日:2011/01/01(土) 20:35:59.01 ID:gj5TqvN40
ここにきて、立ち止まる。
止まった思考が動き出す事をひたすら祈っても、なかなか案が出ずにいた。
律「どうすりゃいいのかなー?・・・こんなくそ重い棚投げるどころか、持ち上げることも出来ないしなぁ・・・」
始まって最長だろうと思われる停滞、沈黙。
何分経ったかはわからない。
道を切り開こうとしているつもりだが、誰かが切り開いてくれる事を期待していることも事実だった。
空気を淀ませないよう、と軽い気持ちで律が発言した。
55 名前:1[] 投稿日:2011/01/01(土) 20:38:17.53 ID:gj5TqvN40
りつ:純が何処なのかわからないなら、私の上に部屋があるかどうか、
あるいは梓のしたに部屋があるかどうかがわかればいいんだけどな…
みお:それがわかれば苦労しないって!
のどか:確かにね、どうすれば…ロープの先にしっかり引っ掛けるような物でも付いてれば出来たかもしれないけど
じゅん:いっそ私も窓を割って!
あずさ:あの滅茶苦茶思い棚一人で持ち上げて投げつけられるの?
じゅん:…すみません
57 名前:1[] 投稿日:2011/01/01(土) 20:40:21.78 ID:gj5TqvN40
数分の間が空いた。
そして唯が発言する。
ゆい:わかる、わかるよ!むぎちゃん?窓の真下って海だよね?
つむぎ:うん、一面海ね
ゆい:じゃあさ限界まで下ろして、ロープが濡れてたら、あれ?
なんて言えばいいんだろ…
りつ:おーい!まじかよ
律「ったく、何が言いたいんだよー!」
59 名前:1[] 投稿日:2011/01/01(土) 20:41:48.43 ID:gj5TqvN40
うい:梓ちゃんの所まで下ろして、そこから一階分下ろして引き上げて、
先端が濡れていたら純ちゃんは一番上、濡れて無かったら一番下…って事かな、
おねーちゃん?
ゆい:そい!どうかなこの案?
うい:おねーちゃん凄い!
のどか:確かに、唯のいう通りね
じゅん:私も活躍したい…
61 名前:1[] 投稿日:2011/01/01(土) 20:43:26.71 ID:gj5TqvN40
つむぎ:でも、梓ちゃんのところからちゃんと一階分おろせるかしら…
みお:なら一回憂ちゃんのとこまで降ろして、手に持ってる部分に
目印付けて引き上げて、目印までの6倍の長さにして降ろせばいいんじゃないか?
つむぎ:わかった、やってみる
律「上手くいってくれ…頼む」
62 名前:1[] 投稿日:2011/01/01(土) 20:46:02.81 ID:gj5TqvN40
つむぎ:濡れてるわ、純ちゃんは最上階で決定ね
緊張の糸が一気に切れ、律はほっと胸を撫で下ろした。
ゆい:じゃあ、「純律紬憂澪唯和梓」で決まりだね
じゅん:やったー!
あずさ:なんとかやりましたね
りつ:じゃ、さっさと脱出しようぜ
みお:そうね
つむぎ:みんな、ここまで来て間違えないようにね
64 名前:1[] 投稿日:2011/01/01(土) 20:47:55.54 ID:gj5TqvN40
律は意気揚々と立ち上がり扉の方を向き、2と書かれた扉を押した。
その顔に不安は無い。
数秒の間が空き、重々しい音と共に扉が開いた。
とても新鮮とは言えないが、気持ちの良い風が吹き抜けた。
律「よっしゃ、第一関門クリア!」
大きくジャンプし、
思いっ切り叫びながらガッツポーズをした。
一度振り返り、長い長い時間過ごした気がする部屋を眺め、力一杯扉を閉める。
古びれた石造りの階段を、早足で下っていった。
66 名前:1[] 投稿日:2011/01/01(土) 20:52:56.58 ID:gj5TqvN40
階段の昇り降りを何度も繰り返し、長い廊下を歩くと、同じ造りの扉が見えて来た。
律「来たか、次はいったい何だ?」
扉を開き、部屋の中へ足を踏み入れた。
辺りを見回す。広さは教室を一回り狭くした程度だろうか、床や壁は同じく古めかしい石造りだ。
先ほど入ってきた扉の横に、もう一つ扉があった。
天井はとても高い。
扉の反対側の壁には、大きなモニターがついている。
律「クリア出来たらあれ貰って帰ろっかな…」
律がモニターの迫力に思わず本音をこぼす。
67 名前:1[] 投稿日:2011/01/01(土) 20:56:30.02 ID:gj5TqvN40
部屋の端にボロボロの机と椅子、机の上にはメモ張とペンが置いてある。
モニター側の壁に排水溝らしき物がある。
部屋の特徴はこれ位だろう。
部屋をざっと観察し終えた所で、モニターの電源が付いた。
先ほどとは別人なのだろうか、低く落ち着いた声が聞こえる。
68 名前:1[] 投稿日:2011/01/01(土) 20:58:09.42 ID:gj5TqvN40
「先ほどはどうもご苦労様です。正解お見事でした。
早速ですが次の説明に入らせていただきます。
先ほどは階数でしたが、この棟では並び順を当てていただきます。
8部屋が横並びになっているとお考え下さい。
ちなみにこの棟は、完璧なシンメトリーになっております。
並び順が全てわかった場合、説明終了後にモニターが入力画面になりますので、
タッチで入力をお願いします。
入力にはパスワードの解析が必要になります。
69 名前:1[] 投稿日:2011/01/01(土) 21:00:40.37 ID:gj5TqvN40
パスワードはアルファベット1文字の非常に簡単なものですが、
1度でも誤入力されますとシステムが停止し脱出出来なくなりますので、慎重にお願いします。
サービスとして、机の上にメモとペンを用意しましたのでお使い下さい。
さらに中野様の部屋にはもう一つプレゼントを用意して置きました。
では検討をお祈りしています。」
説明が終わると画面が切り替わった。画面には
[Wanders is]と表示され、その下にパスワード入力欄がある。
律「…意味わかんねーぞ。こういうのは澪や和に任せるのが得策だなー…っと」
71 名前:1[] 投稿日:2011/01/01(土) 21:02:39.01 ID:gj5TqvN40
ゆい:英語は読めません!
りつ:澪と和とむぎ、頼んだぞ!
じゅん:すみません…
みお:まったく、お前らは
のどか:ま、皆でこれに付きっ切りになるよりか得策かも知れないわね
みお:仕方ない、じゃあ私らはしばらく机と格闘か
つむぎ:とっても責任重大ね
のどか:じゃあ肝心の並び順は皆にお願いするわね
うい:任せて下さい
あずさ:頑張ります!
74 名前:1[] 投稿日:2011/01/01(土) 21:04:23.88 ID:gj5TqvN40
先ほどの棟をクリアした事もあり、全員比べ物にならないくらい覇気があるように感じた。
律「いい空気だな、このままさっさとクリアしてしまおっと」
ゆい:とりあえずどうしたらいいかな?
うい:そだ、梓ちゃん説明で言ってたプレゼントって何?
あずさ:プレゼントって、このはしごの事かな…皆の部屋には有りますか?
じゅん:無し!
ゆい:ずるい!
律が顔を上げ、改めて周りを見回す。
律「はしご…なんて明らかに無いよな」
75 名前:1[] 投稿日:2011/01/01(土) 21:07:39.73 ID:gj5TqvN40
りつ:無いぜー
うい:そんなの無いよ
あずさ:じゃあやっぱりはしごがプレゼントかー…
ゆい:やっぱりはしごだから、高い所に登るんだよあずにゃん!
あずさ:まあそうなりますよね…でも上に何も無いですけどね
じゅん:きっと登ったら覗き窓があって、隣が分かるんだよ、で何か役に立つ物が置いてある。
きっとそんな感じ…だといいな笑
あずさ:そんな都合いい事あるわけ無いじゃん。でも、とりあえず登ってみるべきだよね
りつ:行動してみない事には何も始まらないしな
ゆい:あずにゃんよろしく!
うい:落ちないでね…
78 名前:1[] 投稿日:2011/01/01(土) 21:11:01.43 ID:gj5TqvN40
そして、梓が登り結果報告をコメントするのを待った。
こちらに有利になるようなことをなぜするのかと疑問が浮かぶが、
わざわざ「プレゼント」と称し梓の部屋にだけはしご用意した以上、必ず意味があるはず。
そもそもこんな事をされている時点で常識は通用しないだろう。
律はそう思っていた。
ゆい:そういや、シンメトリーって何?
うい:左右が完全に対象、って事だよ
そして、梓の結果報告が表示される。
79 名前:1[] 投稿日:2011/01/01(土) 21:13:02.13 ID:gj5TqvN40
あずさ:純の妄想の的中率が恐ろしい…
うい:梓ちゃんどういう事?
あずさ:ほんとに覗き窓あった!それにメモも。私の隣は唯先輩でした。
反対側の窓も見たんですけど、外でした。
だから私は一番端でその隣が唯先輩で間違いないと思います。
メモは、これってパスワードの事ですかね…?
81 名前:1[] 投稿日:2011/01/01(土) 21:16:45.86 ID:gj5TqvN40
「諦めず可能性を試せ、答えは「何」なのかはっきりと示してくれる」
って書いてあります
りつ:よし!一気に進展だな、パスワード部隊もチェックしてくれー
あずさ:具体的には何も教えてくれてないですよねこれ
みお:オッケー、全く示してくれないけどな
のどか:わかったわ…出来ればもっと具体的なヒントが欲しかった所ね
つむぎ:了解しました!頑張ります
律「心配だけど、どうしようもないし信じて任せるしかないよな」
りつ:さあ、この次はどうしようか
82 名前:1[] 投稿日:2011/01/01(土) 21:19:00.11 ID:gj5TqvN40
あずさ:はしごを隣に渡せないですから窓は意味無いですね
律「壁登れないかなー?」
小さく呟いて壁を見上げる。
古くてもしっかりとしていて、手足を掛けられそうな隙間など無い。
律「そりゃ無理ですよねー…」
その時聞き覚えのある声がした、排水溝の方からだ。
駆け寄って耳を澄ます。
「やっほー、きこえますかー?」
緊張感の欠片も無い声がする。
律「これは唯?」
85 名前:1[] 投稿日:2011/01/01(土) 21:23:47.02 ID:gj5TqvN40
りつ:唯か?
ゆい:うん、排水溝の蓋が簡単空いたんだ。これ他の部屋と繋がってるのかなー?って
じゅん:私にも微かに聞こえました
あずさ:この様子だと、全部繋がってそうですね。でもこんな小さいんじゃとても入れません。
それに声も反響し過ぎてて、聞こえ方で位置関係を探る事も出来なさそうです。
88 名前:1[] 投稿日:2011/01/01(土) 21:26:15.22 ID:gj5TqvN40
律「だよなー。大量に水を流したりしたら位置関係分かるだろうけど、水滴も無いんじゃな。
ボールとか転がって行く物でも行けるかもしんないけど…」
あるはず無いと分かってはいるが、今一度見回し、意気消沈した。
ゆい:あずにゃんなら小さいから入れるんじゃ無い?
あずさ:冗談はよして下さい!腕しか入りません
排水溝を眺めながら律がつぶやく。
89 名前:1[] 投稿日:2011/01/01(土) 21:28:48.89 ID:gj5TqvN40
律「腕しか入らない、確かにな。繋がっていた所で意味は…
あるかも。さっき見たいに発想を転換させて、隣が誰かわからなくても、隣が有るかがわかれば…」
あわてて排水溝の鉄格子を外し、右腕を底まで突っ込んだ。
そして左右に手を動かす。
律「よし。」
90 名前:1[] 投稿日:2011/01/01(土) 21:31:45.79 ID:gj5TqvN40
りつ:梓、排水溝に底まで手をいれてくれないか
あずさ:律先輩までからかうつもりですか?
りつ:違う。今私が手を入れて底を調べたら、左右に別れていた。
あずさにも左右に繋がっているかどうか見て欲しい
あずさ:そういう事ですか、わかりました
律「これで片側にしか繋がってなければ…反対側の端もわかるはず」
91 名前:1[] 投稿日:2011/01/01(土) 21:35:16.53 ID:gj5TqvN40
あずさ:左側はいくら探ってもスペースは無かったです
うい:これで梓ちゃんの一番遠い部屋もわかりますね
りつ:よし!一度全員で排水溝を調べてみてくれ
律「よしよし、いい流れだぞ」
iPhoneを握る手に少し力が入った。
少し待って、一人一人が発言する。
92 名前:1[] 投稿日:2011/01/01(土) 21:38:47.05 ID:gj5TqvN40
ゆい:二方向!
みお:同じく
つむぎ:私もみたい
うい:横二方向に加えて、前にも道がありますね
じゅん:私片道でした!
のどか:私も憂といっしょ、三方向
律「ってことは、端は純で決定だな。」
のどか:いつの間にか三人は突き止めちゃったみたいね
うい:梓ちゃん、お姉ちゃん、純ちゃんは決まり!
みお:うぅ、私も早く解かなきゃ
93 名前:1[] 投稿日:2011/01/01(土) 21:41:28.57 ID:gj5TqvN40
じゅん:憂と和さんの、三方向ってのは意味あるんですかね?
ゆい:きっと出口だよそれは
りつ:それは全員わかってるぞ
ゆい:ショボン…
のどか:私と憂が純の隣では無い、って事まではわかるけど
ゆい:なんでー?
あずさ:シンメトリーだからですよ。もしどっちかが純の隣なら、
二つの出口の場所が左右対象じゃなくなりますから
ゆい:なるほど、流石あずにゃん
94 名前:1[] 投稿日:2011/01/01(土) 21:45:23.34 ID:gj5TqvN40
りつ:パスワード、わかりそうか?
のどか:色々やってるんだけど
つむぎ:まだちょっと…ごめんなさい
みお:第一、どうせ机用意してくれるんなら照明の下にして欲しいよな
澪の何気ない発言だったが、これが大きく戦局を動かす。
律「言われてみたら確かにそうだな。」
95 名前:1[] 投稿日:2011/01/01(土) 21:47:27.22 ID:gj5TqvN40
照明は扉側の壁の中間、すなわち扉と扉の間についているのだが、机は壁の端においてある。
いつか仕掛ける側になったら、細かい所は気を使おう、と律が心に誓った。
すると、
あずさ:確かに不親切ですよね、せめて照明の壁側にあればいいんですけど
のどか:え?私照明側にあるけど
うい:私の部屋も照明側です
じゅん:私のとこは違いますね
ゆい:私も違うよー
96 名前:1[] 投稿日:2011/01/01(土) 21:48:49.68 ID:gj5TqvN40
みお:これって?
つむぎ:ヒント?かな
律「どういう事だ?机の場所がちがう…」
りつ:みんな、モニター側から見て机がどこにあるか教えてくれ!
のどか:左奥、扉の横ね
ゆい:手前の右側だよ
うい:私は右奥です
97 名前:1[] 投稿日:2011/01/01(土) 21:49:57.23 ID:gj5TqvN40
あずさ:わたしも唯先輩と一緒です
じゅん:私は左手前です
つむぎ:私も純ちゃんと一緒
みお:私憂と一緒だな。右奥
律「なんだよこれ、バラバラすぎる…」
間違いない、必ず何かの手がかりだと律は確信し、整理し考え始めた。何かの規則性があるはずだ、と。
そこで、ようやく一番の謎が解明された。
101 名前:1[] 投稿日:2011/01/01(土) 21:53:48.94 ID:gj5TqvN40
つむぎ:みんなー!!流れを遮って悪いんだけど、パスワード解けたかも。
色々試してみたんだけど、多分単純なアナグラムで間違いなさそう
並べ替えたら「ansWer is d」になるの。皆どう思うかな?答えをはっきりと教えてくれてると思うんだけど・・・
律「むぎナイス!」
紬の活躍に、思わず声が出る。
嬉々とし声を上げたのは律だけでは無いはずだ。
103 名前:1[] 投稿日:2011/01/01(土) 21:57:29.53 ID:gj5TqvN40
のどか:やられちゃたわ。しかしえらくシンプルね・・・
ゆい:むぎちゃん凄い!
みお:結局解けなかった…
あずさ:パスワードは一文字って言ってたから、Dで間違いないですね
つむぎ:入力したら、回答画面に切り替わったわ!
じゅん:よしよしこのままクリアだー
うい:流石紬さんです!
律の画面も切り替わった。
次々と皆の発言が飛び交う、終演が近い事を悟っての事だろうか。
104 名前:1[] 投稿日:2011/01/01(土) 22:00:18.25 ID:gj5TqvN40
りつ:むぎありがと。さっきの話に戻ると、まとめると梓と唯が、モニター側の右手。
澪と憂ちゃんが、照明側の右手。和と私が、照明側の左手。
むぎと純が、モニター側の左手、って事だな。
あずさ:(^-^)/
じゅん:!?
ゆい:あずにゃんご乱心だわ
あずさ:すみません間違えました!
ってことは順番は、私、唯先輩、むぎ先輩、純は両端とその隣で確定ですね。
りつ:どういう間違いだよ…でも、雰囲気的にはそう考えるべきだろうけど、
そんな言い切っても大丈夫なのか?
105 名前:1[] 投稿日:2011/01/01(土) 22:02:54.80 ID:gj5TqvN40
あずさ:え、でも…そう言われると
みお:シンメトリーなのは、建物自体だけかと思ってたけど机の配置もそうみたいだな。
しかし、机の配置と、憂と和の排水溝の出口だけじゃまだ中の四人がわかんないぞ。
シンメトリーを満たす配置は、まだ8通りある
じゅん:もう、あとちょっとなのに!
つむぎ:どうしたらいいのかしら…
律「もう少し、もう少しなんだ。きっと何かあるはず!」
106 名前:1[] 投稿日:2011/01/01(土) 22:07:08.41 ID:gj5TqvN40
そう言って律が意気込んだ瞬間、激しい物音がして建物全体、
いや、島全体が激しく揺れた。
あまりに急な出来事に律は座ったまま床に倒れた。
頭と肩を打ってしまい、動かすと微かに痛む。
律「いってー…。何だ今の?地震かな」
りつ:皆大丈夫だったか?
あずさ:びっくりしました
うい:大丈夫です。地震みたいですね
107 名前:1[] 投稿日:2011/01/01(土) 22:13:41.77 ID:gj5TqvN40
のどか:立ち上がってたからこけちゃったけど、怪我は無いわ。
ゆい:わたしはてっきり火山でも爆発したのかと!
みお:でもほんと凄かったよな。このまま島ごと沈んだりなんかしないよな…?
やはり皆も心身ともにかなりの衝撃だったようで、
表情が画面越しに伝わってくるようだ。
無理もない。信じたくは無いが、律は沈み始めている事を疑ってはいなかった。
律「一番最初に言ってた注意点は・・・そういう事かよ。
人間は飲まず食わずでもそんな簡単には死なないからな、、何か有るんじゃないかと思ってた。」
拳に力を込めて、悔しそうな顔をして壁を叩いた。
小さな音がして石の破片が床に散った。
108 名前:1[] 投稿日:2011/01/01(土) 22:15:08.03 ID:gj5TqvN40
うい:どうやらほんとに沈み始めてるみたいです
机の上にあったペンが転がって落ちちゃいました。傾いてきてるんですね
のどか:まずいわね、制限時間が迫ってる
ゆい:どうしたらいいのー!?
じゅん:沈みたく無いよ…
あずさ:あちついて答えお探ましょう?
109 名前:1[] 投稿日:2011/01/01(土) 22:16:17.72 ID:gj5TqvN40
律「くそっ!とりあえずみんなを落ち着かせないと…」
そう言ってはいるが、自分も不安を隠しきれていない事を震える指が語っていた。
りつ:みんな、とりあえず落ち着け!確かにさっきの爆発で傾いて沈み出したかも知れないけど、
あと2、3日の命って言ってたんだ、そんなすぐに沈んだりはしない
震えをこらえ、発言ボタンを押す。
数秒の間があったが、
110 名前:1[] 投稿日:2011/01/01(土) 22:20:01.52 ID:gj5TqvN40
うい:律先輩の言う通りです。皆さん落ち着いて下さい!
のどか:確かにその通りね。
みお:取り乱してても答えは出ないしな
つむぎ:落ち着いたらなんとかなるわきっと
律「よし、なんとか空気は保てたな。でも…」
落ち着かせた所で、答えを見つけだせなければまるで意味は無い。
何も出来ない事に対する、どうする事も出来ない苛立ちと焦燥感。
112 名前:1[] 投稿日:2011/01/01(土) 22:25:51.44 ID:gj5TqvN40
律「こうなったらなんとかして壁を壊して…無理だ。
あ、梓に窓を壊させて隣へはしごを投げ入れてを繰り返して…無理だ。
じゃあ、透明人間化して…無理無理無理!もういったいどうすりゃ…
、待てよ?」
律はじっと蓋の開いた排水溝を眺める。
立ち上がり、排水溝に近づき手を入れて、底の状態を確認した。
水分は無く乾き切っていて、デコボコしている様子も無い。
律「これなら…もしかして!」
113 名前:1[] 投稿日:2011/01/01(土) 22:27:48.27 ID:gj5TqvN40
そう言うと同時に、すがる思いでペンを排水溝の底に置いた。
ペンは横へ転がり消えて行った。
律「これだ!これで…クリアだ!」
興奮覚めやらぬまま、iPhoneに文字を打ち込む。
りつ:みんな、排水溝だよ排水溝!
みお:排水溝がどうしたんだ?
りつ:排水溝の底にペンを置いたんだよ、そしたら横に転がって言ったんだ!
114 名前:1[] 投稿日:2011/01/01(土) 22:31:14.37 ID:gj5TqvN40
ゆい:それだ、それだよりっちゃん
みお:今日の律、律じゃ無い…
あずさ:要はさっきのロープと同じ作戦ですね、上手く行くと思います
りつ:じゃあ早速始めよう、全員排水溝を注視しててくれ。ペンを転がすのは梓で頼む。
皆は見えたら見えたってすぐに発言を、今回はゆっくり出来ないから、
見えたって打っといて、見えたら発言ボタンを押すようにするように頼むわ
…途中で止まったりしたらそこでゲームオーバーだ
115 名前:1[] 投稿日:2011/01/01(土) 22:33:06.74 ID:gj5TqvN40
あずさ:わかりました。私が必ず上手くいかせます!
ゆい:準備完了、いつでも来い!
みお:さあ、早く終わらせようぜ
じゅん:早くお母さんのご飯食べたい…
あずさ:では、行きますね
律「よし、これで終演だ!」
律の表情に緊張が走る。
116 名前:1[] 投稿日:2011/01/01(土) 22:38:44.87 ID:gj5TqvN40
ゆい:見えた
みお:見えた
うい:見えました
のどか:見えた
りつ:見えた
つむぎ:見えたわ
そして、
じゅん:間違いなく、この手で受け取りました!
全てが決した。
りつ:しゃー!!終わり!
ゆい:やったー!
117 名前:1[] 投稿日:2011/01/01(土) 22:39:31.11 ID:gj5TqvN40
あずさ:上手く行きましたね
みお:一時はどうなる事かと…
のどか:ほんと…最初から傾いてくれてたらすぐ終わったのに
りつ:おい(笑)まあ確かにそうだけどさ
じゅん:早く入力しましょう!
つむぎ:そうね、早く終わらせましょうか
うい:全員分だから、皆さん間違えないようにしっかり確認してくださいね
律「終わりだ…やっと。」
律はモニターの前に立ち、ゆっくりと順番を入力し、何度も穴が空くほど確認した。
118 名前:1[] 投稿日:2011/01/01(土) 22:41:58.73 ID:gj5TqvN40
律「学校のテストでもこんなに確認しないっつーの」
そう言って笑ながら、決定ボタンを押した。
律の手は、震えてはいなかった。
数秒の時間が経った後、画面が切り替わった。
機械的なアナウンスが流れる。
「「回答を受け付けました。誤答は見当たりませんでした。
ロックを解除します。」」
119 名前:1[] 投稿日:2011/01/01(土) 22:43:15.53 ID:gj5TqvN40
律「よっ……しゃー!!!!!!!!!!」
律が嬉しさのあまり力一杯叫んだ。
そして、入口では無い方の扉へ駆け寄り手を掛け、ゆっくりと開いた。
すると、
律「えっ?」
廊下では無く、すぐ小さな部屋に繋がっていた。
広さは約四畳、天井も手が届く程度。
123 名前:1[] 投稿日:2011/01/01(土) 22:50:16.30 ID:gj5TqvN40
正面には先ほどと似たような種類の、
とても小さいモニターが掲げられている。
それ以外には何も無い、閉鎖的でつまらなさそうな空間だった、
足元にある大量に積み上げられた札束と、その横の一枚の一万円札以外は。
律「なんだこれ!?…って札束だよな、始めてみたよこんな凄いの…」
律が見慣れぬ光景に動揺していると、一番初めに聞いた機械音がiPhoneから鳴った。
「着信中 非通知」
ゆっくりと受話ボタンに触れた。
124 名前:1[] 投稿日:2011/01/01(土) 22:52:39.44 ID:gj5TqvN40
「「やあ律、ゲームクリアだ。おめでとう。もうここまで辿り着いたから、
ちゃんと日本へ返す事は約束する。ただ、その前に。
…君を試したい。
ラストゲームだよ、律。
ルールは簡単、説明が終わったらモニターにAB二種類のボタンを表示するから、
そこにある札束が欲しければAを、要らなければBを押して。
127 名前:1[] 投稿日:2011/01/01(土) 22:55:03.34 ID:gj5TqvN40
Bを押した場合でも、参加賞としてそこの一万円をあげる。
札束はちゃんとケースに詰めて持ち運べるようにしておく。
ただ気をつけて欲しいのは、Aを押した場合、他の七人は帰しません。
律「なっ…!」
そんなうろたえないで。
ここであった事は第三者には絶対しられないので、
仲間を金で売ってもばれないから、そこは心配しなくてもいいよ。
129 名前:1[] 投稿日:2011/01/01(土) 22:59:26.75 ID:gj5TqvN40
あと、もし日本に帰ってからここでの事を警察に言っても全く無駄だから。
馬鹿にされたいなら言ってくれてもかまわないけど。
Bを押したら皆ちゃんと帰すので安心してね。
ちなみに、七人はもう眠ってもらってます。
じゃ、よろしく。
律「ちょっと待て、お前は結局誰なんだ?なんで私たちだったんだ!?」
言っただろう?僕はこの島の人間。僕たちはもうすぐここと共に沈む。
それだけだよ。
君たちを連れてきたのは・・・偶然。
…楽しかったよ、ありがとう」」
133 名前:1[] 投稿日:2011/01/01(土) 23:02:52.90 ID:gj5TqvN40
律「そんなの、札束なんか…」
強がってボタンに手を伸ばそうとする律だったが、ゆっくりと手を降ろし、
しゃがみ込んだ。
小さく唾を飲み込む音がした。
目の前に積み上がった札束の一番上の一つを手に取り、
律「すげぇ、ほんとに、ほんとだ。」
手にしている一つの札束は、いつか見た札束の倍はあった。
律「ダメだ!!!仲間を売るような事は・・・」
136 名前:1[] 投稿日:2011/01/01(土) 23:05:27.46 ID:gj5TqvN40
きっと「もし親友を売れば一千万貰えるとしたらどうする?」
なんて言われたら、そんな事する訳がないと即答する人間が世の中では大多数を占めるであろう。
無論ここで札束を目の前にして、小さく肩を震わせ息が荒くなっている田井中律も同じだ。
しかし、
金は人を変える。
どんなに誠実な人間性も、どんなに硬い友情や愛情の絆も、
どんなに大切な思い出も、全てを変えてしまう力を持っている。
141 名前:1[] 投稿日:2011/01/01(土) 23:07:21.82 ID:gj5TqvN40
法の網を掻い潜り、弱者を陥れ私腹を肥やす人間も居れば、
たった百円さえあれば失わずに済んだ命も世界には存在する。
信頼なんて、案外脆いのかもしれない。
律「…これが、私の…これが……Aで……私に…」
一度理性を失うと、自力で取り戻すのは並大抵の人間では難しい。
札束が置けない
モニターに触れられない
友を、守れない。
143 名前:1[] 投稿日:2011/01/01(土) 23:08:03.88 ID:gj5TqvN40
札束を握ったまま、長い長い時間が過ぎた。
律は唐突に顔を上げ片手を伸ばし、
「「回答を受け付けました。ゲームを終了します。」」
ガスのような物が噴射される音が聞こえてすぐに、律は気を失った。
147 名前:1[] 投稿日:2011/01/01(土) 23:09:25.29 ID:gj5TqvN40
気がつくと、律は公園のベンチに腰掛けていた。夏の強い日差しを受け目を覚す。
律「ん……ここは?」
ゆっくりと目を開けると、見慣れた公園の景色が目に入った。
砂場では数人の子供達が楽しそうに砂団子を作っていて、
ジャングルジムの横では、膝を擦りむいて大泣きしている男の子がいる。
148 名前:1[] 投稿日:2011/01/01(土) 23:10:28.42 ID:gj5TqvN40
空を見上げると、雲一つ無い晴天だった。
律「帰って、来れたんだ。無事だ、日本だ!帰って来れた!!!」
やっと戻ってきた日常という現実に喜び、飛び上がりたくなったが、
何かを思い出したように立ち上がり駆け出した。
律「そうだ、澪!みおー!無事かー!?」
トイレの中に入り、個室のドアを何度も叩く。大声で親友の名前を叫ぶ。
息を切らし、澪の返事を待った。
返ってきたのは、小さなノックとあきらかに迷惑そうな声色の
150 名前:1[] 投稿日:2011/01/01(土) 23:11:42.19 ID:gj5TqvN40
「人違いです」
という言葉だった。
律「…すみません」
「澪が無事かどうか」今はそれだけが心配だった。
がっくりと項垂れ虚ろな顔をしてトイレから出ると、軽快なJ-popが流れた。
律「…携帯!」
慌ててバッグから携帯を取り出す。手が滑り落としそうになったが、なんとか空中でキャッチした。
画面には、
「着信中 秋山澪」
と表示されている。
151 名前:1[] 投稿日:2011/01/01(土) 23:12:39.47 ID:gj5TqvN40
律「澪!!」
受話ボタンを押した。
澪「もしもし?」
律「もしもし、澪!?無事か?」
澪「あぁ、まるで無事。不思議でしょうがないな」
言いたい事は沢山あるのに、言葉を選べない。
数秒の沈黙が生まれた。
その言葉を発していいのか、発するべきなのか。
153 名前:1[] 投稿日:2011/01/01(土) 23:14:03.06 ID:gj5TqvN40
澪「…なぁ、律?」
律「わかってる、わかってるよ。それ以上は言うな。
とにかく無事なら良かった…公園にいなかったから心配で心配で」
澪「うん、…律に心配されるとは、私も落ちたなぁ。律起こそうと思ったんだけど、完全に爆睡で手が付けられなくて置いてったんだよ」
律「ひどい、ひどいわー澪さん。そうだ!皆は無事なのか!?」
澪「あぁ、とりあえず皆怪我は無いよ。さすがに非日常的過ぎて、精神的にはそれなりに参ってたみたいだけど…」
律「けど?」
154 名前:1[] 投稿日:2011/01/01(土) 23:15:34.11 ID:gj5TqvN40
澪「やっぱり空腹には勝てなかったみたいだな。ほら」
澪が楽しげにそう言った後、周囲の人らしき声が聴こえる。
…あー!唯先輩唐揚げ食べ過ぎですよ!」」
「「大丈夫だよあずにゃん、まだまだ次がやってくるから」」
「「ほんとお腹空いたわねぇー・・・
澪「な?…後、警察にはむぎが色々してくれたみたい。
でもどうにもなんないだろうな…今頃きっと島ごと海の底だろうしさ。いったいどこだったのか、
誰だったのか。なんで私たちだったのか。」
155 名前:1[] 投稿日:2011/01/01(土) 23:16:58.53 ID:gj5TqvN40 [96/96]
律「確かにな…もういいだろ、忘れろ。」
澪「うん。それより、律もお腹空いてるだろ?」
律「とっても空きましたとも!」
澪「今6人でファミレスいるんだけど、律も良かったら来なよ。」
律「6人?」
澪「純が、お母さんのご飯をお腹いっぱい食べたいです、って来なかったからね。」
律「そういや言ってたもんな。」
澪「で、どうする?」
律「いくいくー、光の速さで行きます。」
163 :1:2011/01/01(土) 23:27:42.09 ID:gj5TqvN40
澪「…おごらないからな?」
律「ふっ、馬鹿にしないでいただきたい。今私の財布には一万円札が一枚潜んでいるのですよ!」
澪「へぇー、律にしちゃ珍しいな。まあならいいや。早く来いよ」
律「うん!」
電話を切った。
律「ふふっ。」
小さく微笑み、携帯を握りしめたまま公園の外へ出る。
いつもの道をゆっくりと歩き出した。
蝉の鳴き声が聞こえる。
―本編 end―
164 :1:2011/01/01(土) 23:29:42.61 ID:gj5TqvN40
エピローグ
「梓の小さな反撃・a」
中止だったはずの夏の合宿が急遽復活となり、部活が早く切り上げられた。
―各自忘れ物だけは避けるように!特に水着はせっかくだから新しく!―
梓はそんな部長の言いつけを守るべく、買い物のために商店街を歩いていた。
すると、目の前に一人で泣いている女の子を見つける。
梓「どうしたの?迷子?」
「・・・うん。一人でお使いに来たんだけど、お家わからなくなっちゃった」
梓「そっか、じゃあ一緒に探してあげる。」
「ほんと?ありがとう!」
二人は手を繋ぎ、歩き出した。
169 :1:2011/01/01(土) 23:34:35.69 ID:gj5TqvN40
「お姉ちゃんそれなに?」
梓「これはギターだよ。」
「すごい!お姉ちゃんギター弾けるんだ!」
梓「下手糞だけどね」
他愛の無い会話をしていると、
「あ、思い出した!」
そういって女の子が走り出した。梓も慌てて追いかける。
梓「あ、待って!」
170 :1:2011/01/01(土) 23:37:44.96 ID:gj5TqvN40
するとそこは、何度か踏み入れた事もある田井中と表札に書かれた家だった。
梓「君、ここの子なんだ?」
「違うの。ここ親戚のお家で、今遊びに来てたの。」
梓「そっか、着いてよかったね。」
「うん!!ありがとう!!そうだ、私はかな絵、後藤かな絵。お姉ちゃんの名前は?」
梓「えっと・・・。」
かな絵「どうしたの?名前忘れたの?」
少し何かを考えたような表情をし、もう一度口を開く。
梓「ううん、何でも無いよ。私の名前はね、
―エピローグ 「梓の小さな反撃・a」 end―
澪「梓、ほっといて練習するか?」
梓「いえ、今日はもう少しだけこのままがいいです。」
梓の意外な返答に澪は驚いている。
紬は、相変わらずにこやかに皆を見守っている。
梓がショートケーキを一口頬張った。
梓「・・・おいしい。」
もう一度、笑った。
5 名前:1[] 投稿日:2011/01/01(土) 19:32:35.05 ID:gj5TqvN40
本編
律「とある夏の日の話」
立秋とは名ばかりの猛暑が続く夏休み、
2人は部活を終え、帰路についていた。
学校を出てから律はずっと、何か物悲しげな顔をしている。
そして思いついたかのように急に口を開いた。
律「澪ー。これからさ、皆ずっと一緒で楽しく過ごしていられるかな?」
澪「!?って何言い出すんだよ!!そうに決まってるだろ」
律「そっか。なら安心だ」
また律は口を閉じる。澪はいつにもまして静かな律が少し心配だった。
6 名前:1[] 投稿日:2011/01/01(土) 19:34:07.56 ID:gj5TqvN40
律「・・・そうだみおー、コンビニいこーぜー!」
心配する澪を察したかのように明るく振舞い、誘いを振った。
澪「わかったよ、どうせ拒否権無いんだろ・・・」
律「さすが澪さんご馳走様です☆」
澪「ち・ょ・う・しに乗るな!!!」
律「いてっ!すみませんすみません・・・」
7 名前:1[] 投稿日:2011/01/01(土) 19:34:58.89 ID:gj5TqvN40
小さな買い物袋を片手に持ちコンビニから出た二人は、
先ほどと変わらぬ雰囲気でまた歩き出した。
右手で痛みの引かぬ頭をさすり、左手でアイスを少しづつ味わう。
気だるそうに律が口を開いた。
律「あーあ、何か楽しいこと無いかなーみおー?」
いつものような楽天的な律の発言に、半ば呆れながら澪が返事をする。
澪「何言ってんだ律、お前はいつも楽しそうに生きてるだろうが・・・」
9 名前:1[] 投稿日:2011/01/01(土) 19:37:19.55 ID:gj5TqvN40
律「それは確かに否定出来ません☆でもさー・・・今年はむぎん家で合宿も無し、
夏祭りも行かず、皆でプールにいも行かず!これで夏休みと言えるのですか!?」
澪「まぁ確かにな。明日皆に提案してみるか?」
律「さんせーでーす」
舞い上がってスキップをしだした律が、アイスを道路に落とし急にうな垂れた。
澪が黙って律の肩を叩き並んで歩いていく。
10 名前:1[] 投稿日:2011/01/01(土) 19:38:44.85 ID:gj5TqvN40
公園の前を通った時、澪が恥ずかしそうに口を開いた。
澪「ごめん、ちょっとトイレ行っていい・・・?」
律「おいおい、さっきコンビニでいけばよかったのに。いいけどさ。」
澪「すぐ戻るから待ってて。」
律「そりゃ着いては行かねーよ(笑)行って来い」
そして早足で澪がトイレへかけて行った。
律は、半分ほどしか食べられなかったアイスのごみをゴミ箱に捨て、
ベンチに座って待つことにした。
11 名前:1[] 投稿日:2011/01/01(土) 19:40:09.98 ID:gj5TqvN40
しかし、15分・・・いや20分ほど経っただろうか。
ひたすら待ったが一向に出てこない。
じっとしていると、汗が滝のように滴り落ちてくる。
律「・・・・・・・・・暑い。」
流石に律も心配になり様子を見に行く事にした。
女子トイレの中へ入り、個室は1つしか無いなので大声で澪を呼ぶ。
律「みーーおーーちゃん。無事ですかー?・・・・・・」
12 名前:1[] 投稿日:2011/01/01(土) 19:41:53.68 ID:gj5TqvN40
返事が無い。
律「おいおい・・・何やってんだよ。でてこーい!
出てこないなら入っちゃうぞー?」
そう言って律がノブに手をかけ少し引くと、鍵は開いていた。
律「開いてんのか?はいるz・・・!?!?」
目に映ったのは気絶した澪と、知らない人。
顔は良く見えなかったがおそらく体格から考えると男だろう。
次の瞬間男の右手からバチバチと音が聞こえ、律は気を失った。
13 名前:1[] 投稿日:2011/01/01(土) 19:43:59.70 ID:gj5TqvN40
――――――――――――――――――――
―――――――――――――――
目を覚ますと、律は全く見知らぬ場所にいた。
まだ意識があまりはっきりしないまま辺りを見回す。
一面石造りでかなり古びた感じの、まるで映画にでも出てきそうな小洒落た部屋だ。
広さは約8畳と言った所だろう。
微かに香る磯の匂いで、海が近い事がわかった。
律「なんだこれ・・・どこだ?ここ」
14 名前:1[] 投稿日:2011/01/01(土) 19:46:00.95 ID:gj5TqvN40
部屋には、大きな扉が一つと向かい側に窓、部屋の端に大きな棚のような物がある。
中には古ぼけたとても長いロープやら色んな工具が詰め込まれている。
扉の横には、1から8までのボタンらしき物が付いている。
自分のバッグなど荷物はいくら見渡しても見つからない。
窓の外を眺めるとやはり一面海が広がっている。
下まではそれなりの高さで、何メートルなのか検討がつかない。
窓の鍵は壊れていて、とても開きそうにない。
15 名前:1[] 投稿日:2011/01/01(土) 19:48:03.01 ID:gj5TqvN40
律「何の冗談だよ!出るぞこんなとこ!」
そう叫び扉の前に立ち手をかけたが、押しても引いてもスライドさせてもびくともしない。
どれだけ力をこめても一向に開く気配がしない。
律「・・・こっちも鍵かかってるな。どっちからも出しません、ってか」
扉を背もたれにし、力なく座り込んだ。
律「これはもしかして拉致・・・監禁されたのか?」
目の前に広がるあまりに非現実的な光景に、律は動揺を隠し切れないようだ。
律「いやいやいや、そんなはず無い!だって確か、部活終わって澪とコンビニ行って
アイス買って澪が公園のトイレ行って・・・トイレの中に」
あの時の冷たい現実が律の脳裏をよぎった。
16 名前:1[] 投稿日:2011/01/01(土) 19:50:42.96 ID:gj5TqvN40
律「まさか、ほんとに誘・・・」
言葉を遮られるように、ポケットからシンプルな機械音が鳴り響く。
驚いて少し声を上げてしまったが、落ち着きを取り戻しポケットから音の正体を
取り出した。
律「これは・・・iPhone?」
律のポケットの中の音の主は、見覚えの無いiPhoneだった。
iPhoneにはAM9時を知らせる画面が表示されていた。
律「もう9時か・・・なんか何日も眠らされてたような気がするけど」
そう言いながら、ひとまずアラームを停止させた。
17 名前:1[] 投稿日:2011/01/01(土) 19:52:16.23 ID:gj5TqvN40
律「そうだ、これで電話を...!」
淡い期待を込めて電話アイコンに指で触れる。
しかし、iPhoneは無情にも
〔起動制限されています エラー419cf〕
簡単に助け出してくれそうには、無い。
18 名前:1[] 投稿日:2011/01/01(土) 19:53:03.33 ID:gj5TqvN40
他の機能も全て同じ事が表示され、期待は脆く崩れ去った。
おもむろに次のページをめくると、
[ルール説明][チャット]と書かれた2つのアイコンがあった。
不審に思いながらもルール説明のアイコンに触れる。
エラー表示は、出ない。
正しく起動したようだ。
動画再生の画面になり、殆ど真っ暗で何も見えないまま声が聞こえる。
20 名前:1[] 投稿日:2011/01/01(土) 19:56:24.95 ID:gj5TqvN40
「おはよう律、良い目覚めだったかい?
仲間が随分乱暴に連れて来たみたいで申し訳ない。
ここは日本から遠く離れた孤島だ。
そしてボクはこの島の住民、目的を率直に言うと君達とゲームがしたい。
君たちの脱出をかけたゲームを。
この建物は大きく分けて2つのエリアに分かれている。
エリアごとにボクが課題を出すから、それを協力し合ってクリアして欲しい。
全部クリアしたら確実に日本へ帰す事を約束する。ボク、嘘は嫌いだからね。
もしクリアできなかった場合、日本へは帰れません。
その場合こちらから身体的危害を加えたりは一切しないけど・・・後長くて2,3日の命だ。
21 名前:1[] 投稿日:2011/01/01(土) 19:57:49.21 ID:gj5TqvN40
さて。まず第一の課題は、今居るのは同じ部屋が縦に8部屋重なっている棟だ。
灯台のような物を想像してくれたらいい。
その順番を一番上を1とし、自分の番号を当てるという物だ。
わかったら扉の横にあるボタンを押して、全員押して正解ならクリア。
簡単だろ?
では、説明は以上。横にあったチャットアイコンを起動すれば、
他の部屋の7人とも連絡が取れるから使いたければどうぞ」
そこで動画は終わった。
22 名前:1[] 投稿日:2011/01/01(土) 19:59:39.35 ID:gj5TqvN40
律「・・・なんだそれ?ドラマの中じゃあるまいし・・・」
得意の強がりにも、半分諦めたのか覇気を失っていた。
しぶしぶ隣のチャットアイコンに指を触れる。
起動すると、どこか少し懐かしいと言えば聞こえがいいが、
単に古臭いチャットウインドウが表示された。
―りつが入室しました―
みお:やっとか律!
ゆい:相変わらずりっちゃん隊員はお寝坊さんですな
のどか:とにかく、8人がこれではっきりしたわね。
23 名前:1[] 投稿日:2011/01/01(土) 20:01:10.75 ID:gj5TqvN40
見覚えのある名前が浮かび少しほっとしたが、
しかし、当然ほっとしている場合では無い。
律もすかさず発言をした。
りつ:よかった、見覚えのある皆様方だ。で8人って誰?
つむぎ:軽音部の5人と・・
うい:平沢憂です。
じゅん:なぜか私もいます!鈴木純です!
のどか:で、私の計8人と言うわけ。
25 名前:1[] 投稿日:2011/01/01(土) 20:03:16.33 ID:gj5TqvN40
りつ:なるほど。で、皆はもう状況は掴めたのか?
うい:認めたくないですけどね。
みお:上に同じ。でも従う以外にどうしようもなさそう・・・
ゆい:とっくに把握してるよー、りっちゃんが起きる前に笑
りつ:はいはい。こんな馬鹿げた冗談・・・やるしか、無いのか?
つむぎ:んー、ほんと馬鹿げた冗談だけど、ほっぺを抓ったら痛かったわ
じゅん:残念ながら夢では無いみたいです!
律は少し期待していた。
そろそろ誰かがドッキリのネタ晴らしをする事を。
27 名前:1[] 投稿日:2011/01/01(土) 20:05:35.98 ID:gj5TqvN40
律「おいおい・・・もう逃げ道は、無いか」
りつ:ドッキリのネタ晴らしがあるなら誰か早く頼むぞホントに
ゆい:残念ですがそんなプランは有りません!
みお:律、それはお前だけじゃなくて7人全員の意見だ。
どうやらやるしか無さそうだ。
ふと窓の外を眺めると、とても気持ちのいい青空が広がっていた。
29 名前:1[] 投稿日:2011/01/01(土) 20:07:43.75 ID:gj5TqvN40
りつ:仕方ない。なら、一丁やってやろうか
あずさ:ハイ!やってやるです!
みお:ま、やらないと帰れ無さそうだしな
のどか:流石部長さん・・・と言ったところかしら。
ゆい:とりあえず、皆の階数を当てればいいんだよね?
つむぎ:でも、部屋に閉じ込めれられたままじゃ・・・
みお:こんな閉じ込められてちゃどうしようも無いよな
あずさ:確かにみお先輩の言う通り…
31 名前:1[] 投稿日:2011/01/01(土) 20:09:27.51 ID:gj5TqvN40
律にもどうすればいいのかはわからなかった。
ひたすら考えているつもりだか、まずどうすればいいかが浮かばない。
おそらく皆同じなのであろう、誰もなかなか発言をしない。
のどか:とりあえず皆部屋の様子を教えて?
うい:出口と窓があって、どっちも開きません。扉の横にはボタンがあります。
みお:大きな棚があって、色んな物が突っ込んであるな
あずさ:一緒ですね。窓の外は一面海です。
ゆい:私もー!
つむぎ:私もね
32 名前:1[] 投稿日:2011/01/01(土) 20:11:30.05 ID:gj5TqvN40
りつ:じゃあ、皆同じ部屋か。
うい:みたいですね
じゅん:あの…私もそんな感じなんですけど、窓を外から塞がれてるのか真っ暗です
みお:真っ暗…?
のどか:わざと外を見えなくしたのかしら?
うい:怪我しないように気をつけてね…
律「真っ暗か。確かに偶然窓が外から塞がれてるなんて考えられないし…」
33 名前:1[] 投稿日:2011/01/01(土) 20:13:00.96 ID:gj5TqvN40
何か意味があると思っても、普段使わない部分の頭はなかなか働いてくれない。
何も出て来ない悔しさで髪を掻き毟りながら少しイラついた声を上げた。
考えている最中に、唯が閃いたように発言する。
ゆい:もしかして、塞がれてるんじゃなくてさ地下だったりしないかな?
あずさ:確かにそれはあるかもしれませんね
みお:なら純は一番下ってことになるけど
律「なるほど、その考えは無かったなー。でも…」
律の中に何かが引っかかる。
37 名前:1[] 投稿日:2011/01/01(土) 20:15:20.21 ID:gj5TqvN40
りつ:でも、何かが引っかかるんだよな…
のどか:上に同じ、ね
沈黙が続く。
もちろん、無音はずっと前から続いているのだが。
うい:あの、ちょっと思ったんですけど
ゆい:どうしたのうい?
うい:この建物ってそもそもは多分普通の建物ですよね?
ということは、地下は普通窓を作らないと思います。
38 名前:1[] 投稿日:2011/01/01(土) 20:18:52.62 ID:gj5TqvN40
あずさ:そっか。そりゃそうだ・・・
つむぎ:よく考えたら当たり前ね
りつ:とにかく、確かに地下って可能性は無いな
ゆい:でも、結局どうしたらいいのかな
律「確かになー、だからなんだよって話だしな」
胸のモヤモヤが取れた所で、進展は無い。
仰向けで大の字に寝転がる。
ふと視線を横に向けると、棚に無造作に放り込まれたボロボロの縄が目に入った。
40 名前:1[] 投稿日:2011/01/01(土) 20:21:20.02 ID:gj5TqvN40
律「窓割ったら、外には出れるか。でも出た所で…そもそも結構丈夫そうだから割れねーな」
ふっとため息を吐いた。
ゆい:いっそ、皆で窓から逃げよっか?
あずさ:冷静になって下さい
みお:同じく。
律「ったく、私かっつーの。」
そう小さくつぶやき、窓の外を眺めると鳥が楽しそうに空を舞っている。
41 名前:1[] 投稿日:2011/01/01(土) 20:23:57.13 ID:gj5TqvN40
律「もし割れたら…ん?
そうか」
律は額の汗をぬぐいながら、あわててiPhoneを手に取った。
りつ:なあむぎ、ガラス割れるか?
むぎ:多分割れると思うけど、私だけでも逃げ出すの?
りつ:違う、もし同じ面に窓があれば、窓割って下にロープ垂らせば下の階が分かるんじゃないか?
みお:…こいつほんとに律か?
つむぎ:りっちゃん凄いわ!やってみる、任せて
じゅん:けがしないようにして下さい
ゆい:むぎちゃん、逞しい子
43 名前:1[] 投稿日:2011/01/01(土) 20:26:10.33 ID:gj5TqvN40
律「…ちょっと前進かな」
律の顔に、微かに活気が戻ったように見えた。
つむぎ:やっぱり手じゃ無理だっから、棚投げつけたら簡単に割れたわ!
のどか:ほんとに割ったのね…
じゅん:流石ですむぎ先輩!
あずさ:コメントし辛いです…
みお:とりあえず、さっそくロープ垂らしてみてくれむぎ
りつ:むぎはゆっくり目に垂らして、もし見えたら「見えた」って発言してくれ
つむぎ:じゃあ行くわね
46 名前:1[] 投稿日:2011/01/01(土) 20:28:07.43 ID:gj5TqvN40
律は入力欄に「見えた」と入力し、すぐ対応出来るようした。
うい:見えました
みお:見えた
ゆい:見えたよ
のどか:見えたわ
あずさ:見えました
律の視界にロープは、映らなかった。
入力欄をクリアした。
りつ:見えなかったのは、私と純だけか。
のどか:整理すると、紬憂澪唯私梓は確定ね。
48 名前:1[] 投稿日:2011/01/01(土) 20:29:51.48 ID:gj5TqvN40
ゆい:案外いけそうだね
みお:んー…でも、あと律と純が何処なのかがわかんないからな。
うい:発言の時間間隔から言って、間には入らないと考えられます。
あずさ:どうしましょう…
下唇を噛み、苦い表情を律は浮かべていた。
律「どうすりゃいんだ…?私は高さから行って一番下は無い、むぎにロープ上に投げてもらっても、順番で判断は出来ないし…。」
49 名前:1[] 投稿日:2011/01/01(土) 20:31:31.46 ID:gj5TqvN40
ゆい:じゃあさ、同じように上に投げたらいいんじゃない?
みお:純は外見えないから順番はわからないぞ。
それに重りを付けた所で、せいぜい1つ上の階にしか届かないだろ
ゆい:そっかー
うい:でも、もし律さんが紬さんの上だったとしたら、
純ちゃんは分からないけどとりあえずやってみる価値はあるんじゃないですか?
つむぎ:それもそうね、やってみるわ
りつ:いつでも来い!!
51 名前:1[] 投稿日:2011/01/01(土) 20:34:02.89 ID:gj5TqvN40
律は唾を飲み、目を凝らしじっと窓の景色に集中した。
その刹那、ガラスが先端に括り付けられたロープがよたよたと下から現れ、
そして消えた。
りつ:見えた!見えたぞ
律「よし、これで後は純さえわかれば。」
みお:よし、後は純だな
じゅん:なんか私のせいで、すみません…
ゆい:大丈夫だよ!なんとかするからね
あずさ:あとは純が、一番上なのか一番下なのか
つむぎ:そんなの、どうやったらわかるの?
律「一番上か一番下か、外が見えない純にわかんのかよー…」
52 名前:1[] 投稿日:2011/01/01(土) 20:35:59.01 ID:gj5TqvN40
ここにきて、立ち止まる。
止まった思考が動き出す事をひたすら祈っても、なかなか案が出ずにいた。
律「どうすりゃいいのかなー?・・・こんなくそ重い棚投げるどころか、持ち上げることも出来ないしなぁ・・・」
始まって最長だろうと思われる停滞、沈黙。
何分経ったかはわからない。
道を切り開こうとしているつもりだが、誰かが切り開いてくれる事を期待していることも事実だった。
空気を淀ませないよう、と軽い気持ちで律が発言した。
55 名前:1[] 投稿日:2011/01/01(土) 20:38:17.53 ID:gj5TqvN40
りつ:純が何処なのかわからないなら、私の上に部屋があるかどうか、
あるいは梓のしたに部屋があるかどうかがわかればいいんだけどな…
みお:それがわかれば苦労しないって!
のどか:確かにね、どうすれば…ロープの先にしっかり引っ掛けるような物でも付いてれば出来たかもしれないけど
じゅん:いっそ私も窓を割って!
あずさ:あの滅茶苦茶思い棚一人で持ち上げて投げつけられるの?
じゅん:…すみません
57 名前:1[] 投稿日:2011/01/01(土) 20:40:21.78 ID:gj5TqvN40
数分の間が空いた。
そして唯が発言する。
ゆい:わかる、わかるよ!むぎちゃん?窓の真下って海だよね?
つむぎ:うん、一面海ね
ゆい:じゃあさ限界まで下ろして、ロープが濡れてたら、あれ?
なんて言えばいいんだろ…
りつ:おーい!まじかよ
律「ったく、何が言いたいんだよー!」
59 名前:1[] 投稿日:2011/01/01(土) 20:41:48.43 ID:gj5TqvN40
うい:梓ちゃんの所まで下ろして、そこから一階分下ろして引き上げて、
先端が濡れていたら純ちゃんは一番上、濡れて無かったら一番下…って事かな、
おねーちゃん?
ゆい:そい!どうかなこの案?
うい:おねーちゃん凄い!
のどか:確かに、唯のいう通りね
じゅん:私も活躍したい…
61 名前:1[] 投稿日:2011/01/01(土) 20:43:26.71 ID:gj5TqvN40
つむぎ:でも、梓ちゃんのところからちゃんと一階分おろせるかしら…
みお:なら一回憂ちゃんのとこまで降ろして、手に持ってる部分に
目印付けて引き上げて、目印までの6倍の長さにして降ろせばいいんじゃないか?
つむぎ:わかった、やってみる
律「上手くいってくれ…頼む」
62 名前:1[] 投稿日:2011/01/01(土) 20:46:02.81 ID:gj5TqvN40
つむぎ:濡れてるわ、純ちゃんは最上階で決定ね
緊張の糸が一気に切れ、律はほっと胸を撫で下ろした。
ゆい:じゃあ、「純律紬憂澪唯和梓」で決まりだね
じゅん:やったー!
あずさ:なんとかやりましたね
りつ:じゃ、さっさと脱出しようぜ
みお:そうね
つむぎ:みんな、ここまで来て間違えないようにね
64 名前:1[] 投稿日:2011/01/01(土) 20:47:55.54 ID:gj5TqvN40
律は意気揚々と立ち上がり扉の方を向き、2と書かれた扉を押した。
その顔に不安は無い。
数秒の間が空き、重々しい音と共に扉が開いた。
とても新鮮とは言えないが、気持ちの良い風が吹き抜けた。
律「よっしゃ、第一関門クリア!」
大きくジャンプし、
思いっ切り叫びながらガッツポーズをした。
一度振り返り、長い長い時間過ごした気がする部屋を眺め、力一杯扉を閉める。
古びれた石造りの階段を、早足で下っていった。
66 名前:1[] 投稿日:2011/01/01(土) 20:52:56.58 ID:gj5TqvN40
階段の昇り降りを何度も繰り返し、長い廊下を歩くと、同じ造りの扉が見えて来た。
律「来たか、次はいったい何だ?」
扉を開き、部屋の中へ足を踏み入れた。
辺りを見回す。広さは教室を一回り狭くした程度だろうか、床や壁は同じく古めかしい石造りだ。
先ほど入ってきた扉の横に、もう一つ扉があった。
天井はとても高い。
扉の反対側の壁には、大きなモニターがついている。
律「クリア出来たらあれ貰って帰ろっかな…」
律がモニターの迫力に思わず本音をこぼす。
67 名前:1[] 投稿日:2011/01/01(土) 20:56:30.02 ID:gj5TqvN40
部屋の端にボロボロの机と椅子、机の上にはメモ張とペンが置いてある。
モニター側の壁に排水溝らしき物がある。
部屋の特徴はこれ位だろう。
部屋をざっと観察し終えた所で、モニターの電源が付いた。
先ほどとは別人なのだろうか、低く落ち着いた声が聞こえる。
68 名前:1[] 投稿日:2011/01/01(土) 20:58:09.42 ID:gj5TqvN40
「先ほどはどうもご苦労様です。正解お見事でした。
早速ですが次の説明に入らせていただきます。
先ほどは階数でしたが、この棟では並び順を当てていただきます。
8部屋が横並びになっているとお考え下さい。
ちなみにこの棟は、完璧なシンメトリーになっております。
並び順が全てわかった場合、説明終了後にモニターが入力画面になりますので、
タッチで入力をお願いします。
入力にはパスワードの解析が必要になります。
69 名前:1[] 投稿日:2011/01/01(土) 21:00:40.37 ID:gj5TqvN40
パスワードはアルファベット1文字の非常に簡単なものですが、
1度でも誤入力されますとシステムが停止し脱出出来なくなりますので、慎重にお願いします。
サービスとして、机の上にメモとペンを用意しましたのでお使い下さい。
さらに中野様の部屋にはもう一つプレゼントを用意して置きました。
では検討をお祈りしています。」
説明が終わると画面が切り替わった。画面には
[Wanders is]と表示され、その下にパスワード入力欄がある。
律「…意味わかんねーぞ。こういうのは澪や和に任せるのが得策だなー…っと」
71 名前:1[] 投稿日:2011/01/01(土) 21:02:39.01 ID:gj5TqvN40
ゆい:英語は読めません!
りつ:澪と和とむぎ、頼んだぞ!
じゅん:すみません…
みお:まったく、お前らは
のどか:ま、皆でこれに付きっ切りになるよりか得策かも知れないわね
みお:仕方ない、じゃあ私らはしばらく机と格闘か
つむぎ:とっても責任重大ね
のどか:じゃあ肝心の並び順は皆にお願いするわね
うい:任せて下さい
あずさ:頑張ります!
74 名前:1[] 投稿日:2011/01/01(土) 21:04:23.88 ID:gj5TqvN40
先ほどの棟をクリアした事もあり、全員比べ物にならないくらい覇気があるように感じた。
律「いい空気だな、このままさっさとクリアしてしまおっと」
ゆい:とりあえずどうしたらいいかな?
うい:そだ、梓ちゃん説明で言ってたプレゼントって何?
あずさ:プレゼントって、このはしごの事かな…皆の部屋には有りますか?
じゅん:無し!
ゆい:ずるい!
律が顔を上げ、改めて周りを見回す。
律「はしご…なんて明らかに無いよな」
75 名前:1[] 投稿日:2011/01/01(土) 21:07:39.73 ID:gj5TqvN40
りつ:無いぜー
うい:そんなの無いよ
あずさ:じゃあやっぱりはしごがプレゼントかー…
ゆい:やっぱりはしごだから、高い所に登るんだよあずにゃん!
あずさ:まあそうなりますよね…でも上に何も無いですけどね
じゅん:きっと登ったら覗き窓があって、隣が分かるんだよ、で何か役に立つ物が置いてある。
きっとそんな感じ…だといいな笑
あずさ:そんな都合いい事あるわけ無いじゃん。でも、とりあえず登ってみるべきだよね
りつ:行動してみない事には何も始まらないしな
ゆい:あずにゃんよろしく!
うい:落ちないでね…
78 名前:1[] 投稿日:2011/01/01(土) 21:11:01.43 ID:gj5TqvN40
そして、梓が登り結果報告をコメントするのを待った。
こちらに有利になるようなことをなぜするのかと疑問が浮かぶが、
わざわざ「プレゼント」と称し梓の部屋にだけはしご用意した以上、必ず意味があるはず。
そもそもこんな事をされている時点で常識は通用しないだろう。
律はそう思っていた。
ゆい:そういや、シンメトリーって何?
うい:左右が完全に対象、って事だよ
そして、梓の結果報告が表示される。
79 名前:1[] 投稿日:2011/01/01(土) 21:13:02.13 ID:gj5TqvN40
あずさ:純の妄想の的中率が恐ろしい…
うい:梓ちゃんどういう事?
あずさ:ほんとに覗き窓あった!それにメモも。私の隣は唯先輩でした。
反対側の窓も見たんですけど、外でした。
だから私は一番端でその隣が唯先輩で間違いないと思います。
メモは、これってパスワードの事ですかね…?
81 名前:1[] 投稿日:2011/01/01(土) 21:16:45.86 ID:gj5TqvN40
「諦めず可能性を試せ、答えは「何」なのかはっきりと示してくれる」
って書いてあります
りつ:よし!一気に進展だな、パスワード部隊もチェックしてくれー
あずさ:具体的には何も教えてくれてないですよねこれ
みお:オッケー、全く示してくれないけどな
のどか:わかったわ…出来ればもっと具体的なヒントが欲しかった所ね
つむぎ:了解しました!頑張ります
律「心配だけど、どうしようもないし信じて任せるしかないよな」
りつ:さあ、この次はどうしようか
82 名前:1[] 投稿日:2011/01/01(土) 21:19:00.11 ID:gj5TqvN40
あずさ:はしごを隣に渡せないですから窓は意味無いですね
律「壁登れないかなー?」
小さく呟いて壁を見上げる。
古くてもしっかりとしていて、手足を掛けられそうな隙間など無い。
律「そりゃ無理ですよねー…」
その時聞き覚えのある声がした、排水溝の方からだ。
駆け寄って耳を澄ます。
「やっほー、きこえますかー?」
緊張感の欠片も無い声がする。
律「これは唯?」
85 名前:1[] 投稿日:2011/01/01(土) 21:23:47.02 ID:gj5TqvN40
りつ:唯か?
ゆい:うん、排水溝の蓋が簡単空いたんだ。これ他の部屋と繋がってるのかなー?って
じゅん:私にも微かに聞こえました
あずさ:この様子だと、全部繋がってそうですね。でもこんな小さいんじゃとても入れません。
それに声も反響し過ぎてて、聞こえ方で位置関係を探る事も出来なさそうです。
88 名前:1[] 投稿日:2011/01/01(土) 21:26:15.22 ID:gj5TqvN40
律「だよなー。大量に水を流したりしたら位置関係分かるだろうけど、水滴も無いんじゃな。
ボールとか転がって行く物でも行けるかもしんないけど…」
あるはず無いと分かってはいるが、今一度見回し、意気消沈した。
ゆい:あずにゃんなら小さいから入れるんじゃ無い?
あずさ:冗談はよして下さい!腕しか入りません
排水溝を眺めながら律がつぶやく。
89 名前:1[] 投稿日:2011/01/01(土) 21:28:48.89 ID:gj5TqvN40
律「腕しか入らない、確かにな。繋がっていた所で意味は…
あるかも。さっき見たいに発想を転換させて、隣が誰かわからなくても、隣が有るかがわかれば…」
あわてて排水溝の鉄格子を外し、右腕を底まで突っ込んだ。
そして左右に手を動かす。
律「よし。」
90 名前:1[] 投稿日:2011/01/01(土) 21:31:45.79 ID:gj5TqvN40
りつ:梓、排水溝に底まで手をいれてくれないか
あずさ:律先輩までからかうつもりですか?
りつ:違う。今私が手を入れて底を調べたら、左右に別れていた。
あずさにも左右に繋がっているかどうか見て欲しい
あずさ:そういう事ですか、わかりました
律「これで片側にしか繋がってなければ…反対側の端もわかるはず」
91 名前:1[] 投稿日:2011/01/01(土) 21:35:16.53 ID:gj5TqvN40
あずさ:左側はいくら探ってもスペースは無かったです
うい:これで梓ちゃんの一番遠い部屋もわかりますね
りつ:よし!一度全員で排水溝を調べてみてくれ
律「よしよし、いい流れだぞ」
iPhoneを握る手に少し力が入った。
少し待って、一人一人が発言する。
92 名前:1[] 投稿日:2011/01/01(土) 21:38:47.05 ID:gj5TqvN40
ゆい:二方向!
みお:同じく
つむぎ:私もみたい
うい:横二方向に加えて、前にも道がありますね
じゅん:私片道でした!
のどか:私も憂といっしょ、三方向
律「ってことは、端は純で決定だな。」
のどか:いつの間にか三人は突き止めちゃったみたいね
うい:梓ちゃん、お姉ちゃん、純ちゃんは決まり!
みお:うぅ、私も早く解かなきゃ
93 名前:1[] 投稿日:2011/01/01(土) 21:41:28.57 ID:gj5TqvN40
じゅん:憂と和さんの、三方向ってのは意味あるんですかね?
ゆい:きっと出口だよそれは
りつ:それは全員わかってるぞ
ゆい:ショボン…
のどか:私と憂が純の隣では無い、って事まではわかるけど
ゆい:なんでー?
あずさ:シンメトリーだからですよ。もしどっちかが純の隣なら、
二つの出口の場所が左右対象じゃなくなりますから
ゆい:なるほど、流石あずにゃん
94 名前:1[] 投稿日:2011/01/01(土) 21:45:23.34 ID:gj5TqvN40
りつ:パスワード、わかりそうか?
のどか:色々やってるんだけど
つむぎ:まだちょっと…ごめんなさい
みお:第一、どうせ机用意してくれるんなら照明の下にして欲しいよな
澪の何気ない発言だったが、これが大きく戦局を動かす。
律「言われてみたら確かにそうだな。」
95 名前:1[] 投稿日:2011/01/01(土) 21:47:27.22 ID:gj5TqvN40
照明は扉側の壁の中間、すなわち扉と扉の間についているのだが、机は壁の端においてある。
いつか仕掛ける側になったら、細かい所は気を使おう、と律が心に誓った。
すると、
あずさ:確かに不親切ですよね、せめて照明の壁側にあればいいんですけど
のどか:え?私照明側にあるけど
うい:私の部屋も照明側です
じゅん:私のとこは違いますね
ゆい:私も違うよー
96 名前:1[] 投稿日:2011/01/01(土) 21:48:49.68 ID:gj5TqvN40
みお:これって?
つむぎ:ヒント?かな
律「どういう事だ?机の場所がちがう…」
りつ:みんな、モニター側から見て机がどこにあるか教えてくれ!
のどか:左奥、扉の横ね
ゆい:手前の右側だよ
うい:私は右奥です
97 名前:1[] 投稿日:2011/01/01(土) 21:49:57.23 ID:gj5TqvN40
あずさ:わたしも唯先輩と一緒です
じゅん:私は左手前です
つむぎ:私も純ちゃんと一緒
みお:私憂と一緒だな。右奥
律「なんだよこれ、バラバラすぎる…」
間違いない、必ず何かの手がかりだと律は確信し、整理し考え始めた。何かの規則性があるはずだ、と。
そこで、ようやく一番の謎が解明された。
101 名前:1[] 投稿日:2011/01/01(土) 21:53:48.94 ID:gj5TqvN40
つむぎ:みんなー!!流れを遮って悪いんだけど、パスワード解けたかも。
色々試してみたんだけど、多分単純なアナグラムで間違いなさそう
並べ替えたら「ansWer is d」になるの。皆どう思うかな?答えをはっきりと教えてくれてると思うんだけど・・・
律「むぎナイス!」
紬の活躍に、思わず声が出る。
嬉々とし声を上げたのは律だけでは無いはずだ。
103 名前:1[] 投稿日:2011/01/01(土) 21:57:29.53 ID:gj5TqvN40
のどか:やられちゃたわ。しかしえらくシンプルね・・・
ゆい:むぎちゃん凄い!
みお:結局解けなかった…
あずさ:パスワードは一文字って言ってたから、Dで間違いないですね
つむぎ:入力したら、回答画面に切り替わったわ!
じゅん:よしよしこのままクリアだー
うい:流石紬さんです!
律の画面も切り替わった。
次々と皆の発言が飛び交う、終演が近い事を悟っての事だろうか。
104 名前:1[] 投稿日:2011/01/01(土) 22:00:18.25 ID:gj5TqvN40
りつ:むぎありがと。さっきの話に戻ると、まとめると梓と唯が、モニター側の右手。
澪と憂ちゃんが、照明側の右手。和と私が、照明側の左手。
むぎと純が、モニター側の左手、って事だな。
あずさ:(^-^)/
じゅん:!?
ゆい:あずにゃんご乱心だわ
あずさ:すみません間違えました!
ってことは順番は、私、唯先輩、むぎ先輩、純は両端とその隣で確定ですね。
りつ:どういう間違いだよ…でも、雰囲気的にはそう考えるべきだろうけど、
そんな言い切っても大丈夫なのか?
105 名前:1[] 投稿日:2011/01/01(土) 22:02:54.80 ID:gj5TqvN40
あずさ:え、でも…そう言われると
みお:シンメトリーなのは、建物自体だけかと思ってたけど机の配置もそうみたいだな。
しかし、机の配置と、憂と和の排水溝の出口だけじゃまだ中の四人がわかんないぞ。
シンメトリーを満たす配置は、まだ8通りある
じゅん:もう、あとちょっとなのに!
つむぎ:どうしたらいいのかしら…
律「もう少し、もう少しなんだ。きっと何かあるはず!」
106 名前:1[] 投稿日:2011/01/01(土) 22:07:08.41 ID:gj5TqvN40
そう言って律が意気込んだ瞬間、激しい物音がして建物全体、
いや、島全体が激しく揺れた。
あまりに急な出来事に律は座ったまま床に倒れた。
頭と肩を打ってしまい、動かすと微かに痛む。
律「いってー…。何だ今の?地震かな」
りつ:皆大丈夫だったか?
あずさ:びっくりしました
うい:大丈夫です。地震みたいですね
107 名前:1[] 投稿日:2011/01/01(土) 22:13:41.77 ID:gj5TqvN40
のどか:立ち上がってたからこけちゃったけど、怪我は無いわ。
ゆい:わたしはてっきり火山でも爆発したのかと!
みお:でもほんと凄かったよな。このまま島ごと沈んだりなんかしないよな…?
やはり皆も心身ともにかなりの衝撃だったようで、
表情が画面越しに伝わってくるようだ。
無理もない。信じたくは無いが、律は沈み始めている事を疑ってはいなかった。
律「一番最初に言ってた注意点は・・・そういう事かよ。
人間は飲まず食わずでもそんな簡単には死なないからな、、何か有るんじゃないかと思ってた。」
拳に力を込めて、悔しそうな顔をして壁を叩いた。
小さな音がして石の破片が床に散った。
108 名前:1[] 投稿日:2011/01/01(土) 22:15:08.03 ID:gj5TqvN40
うい:どうやらほんとに沈み始めてるみたいです
机の上にあったペンが転がって落ちちゃいました。傾いてきてるんですね
のどか:まずいわね、制限時間が迫ってる
ゆい:どうしたらいいのー!?
じゅん:沈みたく無いよ…
あずさ:あちついて答えお探ましょう?
109 名前:1[] 投稿日:2011/01/01(土) 22:16:17.72 ID:gj5TqvN40
律「くそっ!とりあえずみんなを落ち着かせないと…」
そう言ってはいるが、自分も不安を隠しきれていない事を震える指が語っていた。
りつ:みんな、とりあえず落ち着け!確かにさっきの爆発で傾いて沈み出したかも知れないけど、
あと2、3日の命って言ってたんだ、そんなすぐに沈んだりはしない
震えをこらえ、発言ボタンを押す。
数秒の間があったが、
110 名前:1[] 投稿日:2011/01/01(土) 22:20:01.52 ID:gj5TqvN40
うい:律先輩の言う通りです。皆さん落ち着いて下さい!
のどか:確かにその通りね。
みお:取り乱してても答えは出ないしな
つむぎ:落ち着いたらなんとかなるわきっと
律「よし、なんとか空気は保てたな。でも…」
落ち着かせた所で、答えを見つけだせなければまるで意味は無い。
何も出来ない事に対する、どうする事も出来ない苛立ちと焦燥感。
112 名前:1[] 投稿日:2011/01/01(土) 22:25:51.44 ID:gj5TqvN40
律「こうなったらなんとかして壁を壊して…無理だ。
あ、梓に窓を壊させて隣へはしごを投げ入れてを繰り返して…無理だ。
じゃあ、透明人間化して…無理無理無理!もういったいどうすりゃ…
、待てよ?」
律はじっと蓋の開いた排水溝を眺める。
立ち上がり、排水溝に近づき手を入れて、底の状態を確認した。
水分は無く乾き切っていて、デコボコしている様子も無い。
律「これなら…もしかして!」
113 名前:1[] 投稿日:2011/01/01(土) 22:27:48.27 ID:gj5TqvN40
そう言うと同時に、すがる思いでペンを排水溝の底に置いた。
ペンは横へ転がり消えて行った。
律「これだ!これで…クリアだ!」
興奮覚めやらぬまま、iPhoneに文字を打ち込む。
りつ:みんな、排水溝だよ排水溝!
みお:排水溝がどうしたんだ?
りつ:排水溝の底にペンを置いたんだよ、そしたら横に転がって言ったんだ!
114 名前:1[] 投稿日:2011/01/01(土) 22:31:14.37 ID:gj5TqvN40
ゆい:それだ、それだよりっちゃん
みお:今日の律、律じゃ無い…
あずさ:要はさっきのロープと同じ作戦ですね、上手く行くと思います
りつ:じゃあ早速始めよう、全員排水溝を注視しててくれ。ペンを転がすのは梓で頼む。
皆は見えたら見えたってすぐに発言を、今回はゆっくり出来ないから、
見えたって打っといて、見えたら発言ボタンを押すようにするように頼むわ
…途中で止まったりしたらそこでゲームオーバーだ
115 名前:1[] 投稿日:2011/01/01(土) 22:33:06.74 ID:gj5TqvN40
あずさ:わかりました。私が必ず上手くいかせます!
ゆい:準備完了、いつでも来い!
みお:さあ、早く終わらせようぜ
じゅん:早くお母さんのご飯食べたい…
あずさ:では、行きますね
律「よし、これで終演だ!」
律の表情に緊張が走る。
116 名前:1[] 投稿日:2011/01/01(土) 22:38:44.87 ID:gj5TqvN40
ゆい:見えた
みお:見えた
うい:見えました
のどか:見えた
りつ:見えた
つむぎ:見えたわ
そして、
じゅん:間違いなく、この手で受け取りました!
全てが決した。
りつ:しゃー!!終わり!
ゆい:やったー!
117 名前:1[] 投稿日:2011/01/01(土) 22:39:31.11 ID:gj5TqvN40
あずさ:上手く行きましたね
みお:一時はどうなる事かと…
のどか:ほんと…最初から傾いてくれてたらすぐ終わったのに
りつ:おい(笑)まあ確かにそうだけどさ
じゅん:早く入力しましょう!
つむぎ:そうね、早く終わらせましょうか
うい:全員分だから、皆さん間違えないようにしっかり確認してくださいね
律「終わりだ…やっと。」
律はモニターの前に立ち、ゆっくりと順番を入力し、何度も穴が空くほど確認した。
118 名前:1[] 投稿日:2011/01/01(土) 22:41:58.73 ID:gj5TqvN40
律「学校のテストでもこんなに確認しないっつーの」
そう言って笑ながら、決定ボタンを押した。
律の手は、震えてはいなかった。
数秒の時間が経った後、画面が切り替わった。
機械的なアナウンスが流れる。
「「回答を受け付けました。誤答は見当たりませんでした。
ロックを解除します。」」
119 名前:1[] 投稿日:2011/01/01(土) 22:43:15.53 ID:gj5TqvN40
律「よっ……しゃー!!!!!!!!!!」
律が嬉しさのあまり力一杯叫んだ。
そして、入口では無い方の扉へ駆け寄り手を掛け、ゆっくりと開いた。
すると、
律「えっ?」
廊下では無く、すぐ小さな部屋に繋がっていた。
広さは約四畳、天井も手が届く程度。
123 名前:1[] 投稿日:2011/01/01(土) 22:50:16.30 ID:gj5TqvN40
正面には先ほどと似たような種類の、
とても小さいモニターが掲げられている。
それ以外には何も無い、閉鎖的でつまらなさそうな空間だった、
足元にある大量に積み上げられた札束と、その横の一枚の一万円札以外は。
律「なんだこれ!?…って札束だよな、始めてみたよこんな凄いの…」
律が見慣れぬ光景に動揺していると、一番初めに聞いた機械音がiPhoneから鳴った。
「着信中 非通知」
ゆっくりと受話ボタンに触れた。
124 名前:1[] 投稿日:2011/01/01(土) 22:52:39.44 ID:gj5TqvN40
「「やあ律、ゲームクリアだ。おめでとう。もうここまで辿り着いたから、
ちゃんと日本へ返す事は約束する。ただ、その前に。
…君を試したい。
ラストゲームだよ、律。
ルールは簡単、説明が終わったらモニターにAB二種類のボタンを表示するから、
そこにある札束が欲しければAを、要らなければBを押して。
127 名前:1[] 投稿日:2011/01/01(土) 22:55:03.34 ID:gj5TqvN40
Bを押した場合でも、参加賞としてそこの一万円をあげる。
札束はちゃんとケースに詰めて持ち運べるようにしておく。
ただ気をつけて欲しいのは、Aを押した場合、他の七人は帰しません。
律「なっ…!」
そんなうろたえないで。
ここであった事は第三者には絶対しられないので、
仲間を金で売ってもばれないから、そこは心配しなくてもいいよ。
129 名前:1[] 投稿日:2011/01/01(土) 22:59:26.75 ID:gj5TqvN40
あと、もし日本に帰ってからここでの事を警察に言っても全く無駄だから。
馬鹿にされたいなら言ってくれてもかまわないけど。
Bを押したら皆ちゃんと帰すので安心してね。
ちなみに、七人はもう眠ってもらってます。
じゃ、よろしく。
律「ちょっと待て、お前は結局誰なんだ?なんで私たちだったんだ!?」
言っただろう?僕はこの島の人間。僕たちはもうすぐここと共に沈む。
それだけだよ。
君たちを連れてきたのは・・・偶然。
…楽しかったよ、ありがとう」」
133 名前:1[] 投稿日:2011/01/01(土) 23:02:52.90 ID:gj5TqvN40
律「そんなの、札束なんか…」
強がってボタンに手を伸ばそうとする律だったが、ゆっくりと手を降ろし、
しゃがみ込んだ。
小さく唾を飲み込む音がした。
目の前に積み上がった札束の一番上の一つを手に取り、
律「すげぇ、ほんとに、ほんとだ。」
手にしている一つの札束は、いつか見た札束の倍はあった。
律「ダメだ!!!仲間を売るような事は・・・」
136 名前:1[] 投稿日:2011/01/01(土) 23:05:27.46 ID:gj5TqvN40
きっと「もし親友を売れば一千万貰えるとしたらどうする?」
なんて言われたら、そんな事する訳がないと即答する人間が世の中では大多数を占めるであろう。
無論ここで札束を目の前にして、小さく肩を震わせ息が荒くなっている田井中律も同じだ。
しかし、
金は人を変える。
どんなに誠実な人間性も、どんなに硬い友情や愛情の絆も、
どんなに大切な思い出も、全てを変えてしまう力を持っている。
141 名前:1[] 投稿日:2011/01/01(土) 23:07:21.82 ID:gj5TqvN40
法の網を掻い潜り、弱者を陥れ私腹を肥やす人間も居れば、
たった百円さえあれば失わずに済んだ命も世界には存在する。
信頼なんて、案外脆いのかもしれない。
律「…これが、私の…これが……Aで……私に…」
一度理性を失うと、自力で取り戻すのは並大抵の人間では難しい。
札束が置けない
モニターに触れられない
友を、守れない。
143 名前:1[] 投稿日:2011/01/01(土) 23:08:03.88 ID:gj5TqvN40
札束を握ったまま、長い長い時間が過ぎた。
律は唐突に顔を上げ片手を伸ばし、
「「回答を受け付けました。ゲームを終了します。」」
ガスのような物が噴射される音が聞こえてすぐに、律は気を失った。
147 名前:1[] 投稿日:2011/01/01(土) 23:09:25.29 ID:gj5TqvN40
気がつくと、律は公園のベンチに腰掛けていた。夏の強い日差しを受け目を覚す。
律「ん……ここは?」
ゆっくりと目を開けると、見慣れた公園の景色が目に入った。
砂場では数人の子供達が楽しそうに砂団子を作っていて、
ジャングルジムの横では、膝を擦りむいて大泣きしている男の子がいる。
148 名前:1[] 投稿日:2011/01/01(土) 23:10:28.42 ID:gj5TqvN40
空を見上げると、雲一つ無い晴天だった。
律「帰って、来れたんだ。無事だ、日本だ!帰って来れた!!!」
やっと戻ってきた日常という現実に喜び、飛び上がりたくなったが、
何かを思い出したように立ち上がり駆け出した。
律「そうだ、澪!みおー!無事かー!?」
トイレの中に入り、個室のドアを何度も叩く。大声で親友の名前を叫ぶ。
息を切らし、澪の返事を待った。
返ってきたのは、小さなノックとあきらかに迷惑そうな声色の
150 名前:1[] 投稿日:2011/01/01(土) 23:11:42.19 ID:gj5TqvN40
「人違いです」
という言葉だった。
律「…すみません」
「澪が無事かどうか」今はそれだけが心配だった。
がっくりと項垂れ虚ろな顔をしてトイレから出ると、軽快なJ-popが流れた。
律「…携帯!」
慌ててバッグから携帯を取り出す。手が滑り落としそうになったが、なんとか空中でキャッチした。
画面には、
「着信中 秋山澪」
と表示されている。
151 名前:1[] 投稿日:2011/01/01(土) 23:12:39.47 ID:gj5TqvN40
律「澪!!」
受話ボタンを押した。
澪「もしもし?」
律「もしもし、澪!?無事か?」
澪「あぁ、まるで無事。不思議でしょうがないな」
言いたい事は沢山あるのに、言葉を選べない。
数秒の沈黙が生まれた。
その言葉を発していいのか、発するべきなのか。
153 名前:1[] 投稿日:2011/01/01(土) 23:14:03.06 ID:gj5TqvN40
澪「…なぁ、律?」
律「わかってる、わかってるよ。それ以上は言うな。
とにかく無事なら良かった…公園にいなかったから心配で心配で」
澪「うん、…律に心配されるとは、私も落ちたなぁ。律起こそうと思ったんだけど、完全に爆睡で手が付けられなくて置いてったんだよ」
律「ひどい、ひどいわー澪さん。そうだ!皆は無事なのか!?」
澪「あぁ、とりあえず皆怪我は無いよ。さすがに非日常的過ぎて、精神的にはそれなりに参ってたみたいだけど…」
律「けど?」
154 名前:1[] 投稿日:2011/01/01(土) 23:15:34.11 ID:gj5TqvN40
澪「やっぱり空腹には勝てなかったみたいだな。ほら」
澪が楽しげにそう言った後、周囲の人らしき声が聴こえる。
…あー!唯先輩唐揚げ食べ過ぎですよ!」」
「「大丈夫だよあずにゃん、まだまだ次がやってくるから」」
「「ほんとお腹空いたわねぇー・・・
澪「な?…後、警察にはむぎが色々してくれたみたい。
でもどうにもなんないだろうな…今頃きっと島ごと海の底だろうしさ。いったいどこだったのか、
誰だったのか。なんで私たちだったのか。」
155 名前:1[] 投稿日:2011/01/01(土) 23:16:58.53 ID:gj5TqvN40 [96/96]
律「確かにな…もういいだろ、忘れろ。」
澪「うん。それより、律もお腹空いてるだろ?」
律「とっても空きましたとも!」
澪「今6人でファミレスいるんだけど、律も良かったら来なよ。」
律「6人?」
澪「純が、お母さんのご飯をお腹いっぱい食べたいです、って来なかったからね。」
律「そういや言ってたもんな。」
澪「で、どうする?」
律「いくいくー、光の速さで行きます。」
163 :1:2011/01/01(土) 23:27:42.09 ID:gj5TqvN40
澪「…おごらないからな?」
律「ふっ、馬鹿にしないでいただきたい。今私の財布には一万円札が一枚潜んでいるのですよ!」
澪「へぇー、律にしちゃ珍しいな。まあならいいや。早く来いよ」
律「うん!」
電話を切った。
律「ふふっ。」
小さく微笑み、携帯を握りしめたまま公園の外へ出る。
いつもの道をゆっくりと歩き出した。
蝉の鳴き声が聞こえる。
―本編 end―
164 :1:2011/01/01(土) 23:29:42.61 ID:gj5TqvN40
エピローグ
「梓の小さな反撃・a」
中止だったはずの夏の合宿が急遽復活となり、部活が早く切り上げられた。
―各自忘れ物だけは避けるように!特に水着はせっかくだから新しく!―
梓はそんな部長の言いつけを守るべく、買い物のために商店街を歩いていた。
すると、目の前に一人で泣いている女の子を見つける。
梓「どうしたの?迷子?」
「・・・うん。一人でお使いに来たんだけど、お家わからなくなっちゃった」
梓「そっか、じゃあ一緒に探してあげる。」
「ほんと?ありがとう!」
二人は手を繋ぎ、歩き出した。
169 :1:2011/01/01(土) 23:34:35.69 ID:gj5TqvN40
「お姉ちゃんそれなに?」
梓「これはギターだよ。」
「すごい!お姉ちゃんギター弾けるんだ!」
梓「下手糞だけどね」
他愛の無い会話をしていると、
「あ、思い出した!」
そういって女の子が走り出した。梓も慌てて追いかける。
梓「あ、待って!」
170 :1:2011/01/01(土) 23:37:44.96 ID:gj5TqvN40
するとそこは、何度か踏み入れた事もある田井中と表札に書かれた家だった。
梓「君、ここの子なんだ?」
「違うの。ここ親戚のお家で、今遊びに来てたの。」
梓「そっか、着いてよかったね。」
「うん!!ありがとう!!そうだ、私はかな絵、後藤かな絵。お姉ちゃんの名前は?」
梓「えっと・・・。」
かな絵「どうしたの?名前忘れたの?」
少し何かを考えたような表情をし、もう一度口を開く。
梓「ううん、何でも無いよ。私の名前はね、
―エピローグ 「梓の小さな反撃・a」 end―
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