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少女「魔王さんなら、ママを生き返せるのかな…」
7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/20(土) 21:59:41.97 ID:5VKwCgqEO [1/9]
――――バァン!
勇者「魔王ッ!
懺悔の時間は終わりだッ!」
少女「!」ビクッ
魔王「おっと?
全く無粋な奴だなお前はいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつも」
勇者「な、……なんだ、その女の子は?
人質にでもするつもりかッ」
魔王「おいおいおいおい」
勇者「残念だったな!
今更女の子1人でこの俺を止められるとでも思ったか?
ここまで……一体何人の仲間を犠牲に……踏み越えて……ッ!!」
魔王「いいからちょっと落ち着けよ。な?
まぁ落ち着けよ、ちょっと。
人質じゃあねぇーよ。なー?」
少女「は……はい……」
魔王「私にお願いがあって、ここに来たんだよなー?」
少女「そうです……」
魔王「そーゆーわけなのよ。だからちょっと待っててねー」
――――バァン!
勇者「魔王ッ!
懺悔の時間は終わりだッ!」
少女「!」ビクッ
魔王「おっと?
全く無粋な奴だなお前はいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつも」
勇者「な、……なんだ、その女の子は?
人質にでもするつもりかッ」
魔王「おいおいおいおい」
勇者「残念だったな!
今更女の子1人でこの俺を止められるとでも思ったか?
ここまで……一体何人の仲間を犠牲に……踏み越えて……ッ!!」
魔王「いいからちょっと落ち着けよ。な?
まぁ落ち着けよ、ちょっと。
人質じゃあねぇーよ。なー?」
少女「は……はい……」
魔王「私にお願いがあって、ここに来たんだよなー?」
少女「そうです……」
魔王「そーゆーわけなのよ。だからちょっと待っててねー」
8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/20(土) 22:14:28.93 ID:5VKwCgqEO [2/9]
勇者「ふ、ふざけるなッ! そんなこと……」
魔王「じゃあお前、代わりに叶えてやれば?
な。お願いしてみなよあいつに。
泣く子も黙る勇者さまだぜ?」
少女「……」フルフル
魔王「そっかー嫌かー。
まぁそうだよなー、そうだよ。そりゃそうだ。
嫌われてんなー、勇者。はっはっはっはっはっは」
勇者「一体何の話を……」
魔王「この子さぁ、お母さん生き返らせたいんだってさ。
それで私の所まではるばる来たんだって。
お前が船の権利書貰った鉱山の村からだぜ?
半年歩き詰めってすごいよ、すごいすごい。
私感動しちゃってさー、叶えてあげちゃったりしよっかなーって」
少女「……」
勇者「鉱山……?」
魔王「思い出したかなー?
お前ら鉱山の魔物倒すのに、村人囮にしただろう?
賢者さまのすっげークールでナイスな発案で、囮は村の女になったよな?
あのとき、お前ら……やらかしたろう?」
勇者「……あれは……魔物がいきなり後ろから現れて……賢者の集中が途切れて……」
10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/20(土) 22:24:58.70 ID:5VKwCgqEO
魔王「で、何人かの防御呪文が切れちゃったと。
その時に、お前らの魔導師が焦って乱射した魔導弾が当たっちゃったのが……ってわけさ」
少女「……」
魔王「だから、勇者さまには頼みたくないんだってさ。
いやー、しょうがないね。戦争だもんね。何人も犠牲にしないといけないんだもんね。ね?」
勇者「……ぐっ……
俺達だって……助けようとした……!」
魔王「でも、勇者さま御一行の蘇生呪文って、教会で特別な洗礼を受けた人間にしか使えないんだよな?
不便なんだよなー、人間の力って。いやー、残念無念」
勇者「……そもそも、お前らがッ!!」
魔王「はいはいはいはい私が悪い私が悪い。
でも私、蘇生出来るよ? この子のママさん。ちちんぷいぷいーってさ。
私が勇者に倒されちゃったら、もちろんもう無理だけどね」
少女「……」
勇者「なッ……この……卑怯者!!」
12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/20(土) 22:38:29.08 ID:5VKwCgqEO
魔王「じゃあほら、その剣で切りかかってきてみなよ。
ほらほら、今ならまだ防御呪文も反射呪文も掛かってないぜ。
チャンスですよーチャンス。ねー勇者さんってばー」
勇者「ッ!」ジャキッ
少女「……!」バッ
魔王「あらあらあらあらあらあらあらあらあらー。
キミ、守ってくれるの? 私を? 勇者から?」
少女「ママを……生き返らせてください……」
魔王「うんうん、いいよいいよ、ますます感動しちゃったよ。
約束するよ約束。ママのことは任せなよ。
でもまぁ……どうなるかは勇者さま次第かなー?」
少女「……」キッ
勇者「そ……そんな目で俺を見ないでくれ……!」
13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/20(土) 22:43:18.34 ID:5VKwCgqEO
魔王「で、どーすんの?
やるの? やらないの?」
勇者「俺は……お前を倒すためにここまで来たんだッ」
魔王「あっそ。
でもさぁ――――」
……パキッ……ビキッ……
バチバチッ……バキンッ
魔王「――――本気出したらめちゃめちゃ強いからね、私。
一応言っとくけどさー」バリッ……バチチッ……!
勇者「……!!」ゾクッ
17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/20(土) 23:00:52.69 ID:5VKwCgqEO
魔王「私としては回れ右をオススメするよ。面倒臭いしね。負けないけど。
まぁこの子のママさんの敵討ちってのもいいけどね」
少女「……」ジッ…
勇者「……ッ」
少女「……」
勇者「……ぐ……ッ」ギリッ…
少女「……」
勇者「……、……糞ッ……」ガシャン……
魔王「なーんだ、やめちゃうのか。
じゃ、お帰りはあちらですよー」
勇者「――――必ず、俺はお前を倒しに戻って来る!」ダッ
魔王「ひひひ。なるべくサボってから来てくれよなー」
20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/20(土) 23:19:25.44 ID:5VKwCgqEO
魔王「さーて、じゃあ張り切って蘇生術式の準備しちゃおっかなー」
少女「!」
魔王「ちょっと時間掛かるからのんびりやるかね。
あ、その間に色々手伝ってもらわないといけないことがあるんだけどさ」
少女「何ですか……?」
魔王「いやー、蘇生術式使ってる間、私って超無防備なんだよねー。
蚊に刺されても死んじゃうんだ。
もちろんそうなったら術式失敗! 大爆発! 私、消し炭!」
少女「……」
魔王「で、だ。
そこでキミの出番なんだけどさー……」
勇者「魔王ォ……絶対に……貴様の首を落とす……ッ!!」ザッザッザッ…
22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/20(土) 23:36:39.88 ID:5VKwCgqEO
ガチャッ
魔王「ってなわけで、とりあえずここで寝泊まりするといい。
ご飯やら何やらは……よっと」バギンッ!
侍女「……」
魔王「こいつに任せたらよくしてくれるよ。多分ね。きっと。……だよな?」
侍女「……」コクコク
魔王「大丈夫そうだな。よかったよかった。
仲良くしろよー」
侍女「……」ペコリ
少女「よ、よろしくお願いします」ペコリ
魔王「じゃあ、私はちょっと出掛けたりしてるから。
あとよろしくー」
……バタン
侍女「……」
少女「……」
侍女「……」
少女「……」
26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/21(日) 00:21:28.78 ID:v7LwU1XzO [1/47]
魔王「おい、あの番犬ちゃんとしつけとけって何回も何回も何回も何回も言っただろうが」
冥王「あ、魔王だ。いらっしゃい」
魔王「手っ取り早く要件だけ済ますぞ。
ここは辛気臭くてかなわん」
冥王「失礼な。何の用?」
魔王「これからちょっと上ででっかいことやるから、魔力の前借りに来たわけ。
250年分ぐらいありゃいいや」
冥王「そう。じゃあ、これ持ってって」ヒョイ
魔王「どーも」パシッ
冥王「魔王」
魔王「ん?」
冥王「バイバイ。また来てね」ヒラヒラ
魔王「もう来ねぇーよ」
27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/21(日) 00:27:22.54 ID:v7LwU1XzO [2/47]
魔王「じゃあな、三つ首。
餌の取り合いもほどほどにしろよな」
番犬「「「ヴルルル……」」」
魔王「あばよー」
番犬「「「……」」」
――――ォォオオオオオオン……
魔王「遠吠えしてらぁ。
さて、次は、と」
29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/21(日) 00:30:20.69 ID:v7LwU1XzO [3/47]
少女「い、いただきます」
侍女「……」ペコリ
少女「……」
侍女「……」
少女「……一緒に食べませんか……?」
侍女「……」フルフル
少女「そうですか……」
侍女「……」ペコリ
少女「……」
侍女「……」
少女「……あ、美味しい……」
31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/21(日) 00:49:48.68 ID:v7LwU1XzO [4/47]
魔王「よう、相変わらず蒸し暑いとこに引きこもってんのな」
竜王「うわっ、魔王じゃん。珍しー」
魔王「鱗にカビが生えるぞ、そのうち」
竜王「ちゃんと清潔にしてますよーだ。
それで? 何でいきなり来たわけ?」
魔王「お前にアレ貸してただろ。
ほら、あの水晶のいいやつ」
竜王「あーあー、アレね」
魔王「アレ返してくれ。ちょっと使うんだよ」
竜王「それがこないださぁ、うっかり炉に落としちゃって」
魔王「何だと」
竜王「お陰で炉の調子は最高にいいんだけどさー」
魔王「このうっかりドラゴンめ……じゃあお前の目玉寄越せ」
竜王「えー、やだよー」
魔王「炉に不純魔力ぶち込んでやろうか」バリバリ
竜王「やめてぇー」
魔王「ほら寄越せ、さぁ寄越せ」
竜王「もう……仕方ないなー」グチュグチュ……グチュリ
魔王「うぇえ」
竜王「いたたた……はい、これでチャラね」ベチャッ
魔王「色々言いたいことはあるが、まぁいいや。
じゃあな」
竜王「またねー」
33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/21(日) 00:57:02.72 ID:v7LwU1XzO [5/47]
魔王「まさか本当に目玉くれるとは……儲け儲け。ひひひ。
さーて、あとは細かいものの準備だな。
ちゃっちゃかやるぞー」
竜王「ねーねー、目玉ってどのくらいで再生するのかな?」
臣下「さぁ……」
34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/21(日) 01:03:24.92 ID:v7LwU1XzO [6/47]
少女「え? 服ですか?」
侍女「……」コクリ
少女「えっと……それに着替えればいいのかな……」
侍女「……」コクコク
少女「わ、わかりました。じゃあ……」
侍女「……」スッ
少女「ありがとうございます……こんな服、着たことないから手間取っちゃって」
侍女「……」フルフル
少女「……お姫さまみたいです」
侍女「……」コクリ
35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/21(日) 01:21:29.55 ID:v7LwU1XzO [7/47]
ギャアギャア、ギャア…
バサバサバサ…
魔王「ここも冥界に負けず劣らずじめじめとこだなー。
さすが薄明の森」
霊樹『余計なお世話じゃわい。
また儂の枝で焚き火するつもりかの?』
魔王「もうそんな子供じゃねぇーっての。
何百年前の話だよそれ」
霊樹『なら、何の用なんじゃ』
魔王「茨の種ちょうだい。育つのがすげー早いのな」
霊樹『ふむ。これかの』ポトッ
魔王「あざーす。
それから、爺さんの枝の一番いいやつくれ」
霊樹『なにぃ。今度はどんないたずらを企んどるんじゃ』
魔王「ちょっとでっかいのをな。
頼むよ、爺さん。この通り!」
霊樹『横になった上、頬杖を突いて足をバタバタさせるのがお前の人にものを頼む態度か』
ポッ……
魔王「お、あの光ってるやつ?」
霊樹『万年モノじゃぞ』
魔王「やったぜ。気前いいなー爺さん。ありがとな」
霊樹『全く……
まぁ、なんじゃ。その……たまには遊びに来るんじゃぞ』
魔王「今度は土産持って来るって」
37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/21(日) 01:34:38.75 ID:v7LwU1XzO [8/47]
少女「……」
侍女「……」
少女「……」
侍女「……」
少女「……あの、何かすることは……」
侍女「……」フルフル
少女「そうですか……」
侍女「……」
少女「……」
侍女「……」
ガチャッ、
魔王「ただいまー、っと」
侍女「……」ペコリ
少女「お、おかえりなさい」
魔王「うむ。
異変なかったか?」
侍女「……」コクリ
魔王「そうか。引き続き任せたぞ」
侍女「……」コクコク
少女「あの……」
魔王「ん? あぁ、キミはもうちょっと待っててね。
もうすぐ色々やってもらうからさ」
少女「あ、はい……あの、それと……」
魔王「何かしらん?」
38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/21(日) 01:37:07.09 ID:v7LwU1XzO [9/47]
少女「この……侍女さん? ……無口なんですね……」
魔王「喋った方がいい?」
少女「えと……はい、できれば……その……」
魔王「だってさ」
侍女「承りました」ペコリ
少女「!」
魔王「これでいいかい?」
少女「はい、あの……ありがとうございます」
魔王「どういたしましてー。じゃあまた後でねー」
……バタン
少女「……」
侍女「……」
少女「……えっと……」
侍女「はい」
少女「……あらためて、よろしくお願いします」
侍女「こちらこそ、及ばぬところも多いかと存じますが、よろしくお願い致します」ペコリ
少女「あう……」
40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/21(日) 01:45:43.11 ID:v7LwU1XzO [10/47]
魔王「これをこうして……こいつをはめ込んで……あれ、おかしいな? はまれこのっ」グググッ……
……バキンッ!
魔王「よーし。後は仕上げに……」バチッ、バチチッ……
キ……ィィィィィィイイイイインッ!
魔王「……完璧。私ってばやっぱり天才?
ふふふ、ふっふっふっ、」
ガチャッ、
侍女「御食事の準備が整いました」
魔王「はーっはっ……はぁ、わかったよう、今行くよう。
せっかくたまに魔王らしく三段笑いでもしようと思ったらこれだものなー」
43 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/21(日) 02:06:34.26 ID:v7LwU1XzO [11/47]
魔王「と言うわけで、これをキミに上げよう」スッ
少女「は、はい」
魔王「一万年ぐらい月光を浴び続けたやたらでかい霊樹の枝から削り出した本体に、
竜王の目玉と魔王式魔導回路図の装飾、仕上げに私の魔力50年分を込めた、
ウルトラスーパーアメイジングすごい杖ね」
少女「はぁ……」
魔王「ピンと来ないかな? まぁちょっと持ってみなよ」
少女「はい……あ、あれっ」
魔王「体軽くなった? あと、なんか見えた?」
少女「えと、はい、あの、なんか……うわっ、なんですかこれ!」
魔王「キミ、せっかく結構大魔導師級の才能あるんだからそれを生かさない手はないよ。
杖がキミの才能を一気に叩き起こしたってところかな」
少女「ま、魔導師……私が……?」
魔王「そうそう、キミが。
この杖は魔導入門記念みたいなもんさ。
詳しい使い方はそいつから習ってね」
侍女「承りました」ペコリ
少女「え、あ、は、はい!」
魔王「うんうん。仲良くねー」
68 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/21(日) 12:39:08.61 ID:v7LwU1XzO [13/47]
魔王「にしてもよく似合ってんなーそのドレス」
侍女「よくお似合いでございます」
少女「あ、ありがとうございます……」
魔王「まぁ当たり前っちゃあ当たり前なんだけどな。
なんたって私の見立てだし」
少女「はぁ……」
魔王「実はそれも結構な逸品でねぇ。
昔々、妖精界の第二皇女が着てたって言うもんなんだよな」
少女「ええっ! そ、そんなものを着させてもらって……」
魔王「いーのいーの、どーせ宝物庫で腐らせてたやつだし。
魔界の色々ヤバいもののすぐ横に置いてたのに腐らなかったのはさすがだけどなー」
侍女「妖精の魔導具製造技術は、竜王様よりも優れていますから」
魔王「私の次ぐらいに凄いってところかな」
侍女「さすが魔王様」
魔王「よせやい、誉めるなよあんまり。あんまり誉めるなってばー」
69 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/21(日) 12:51:48.31 ID:v7LwU1XzO [14/47]
魔王「それじゃ、私は術式本体の本格的な準備始めるから、
立派な魔女っ子プリンセスになれるよう頑張ってね」
少女「は、はい!」
侍女「かならずや」
……バタン。
少女「……でも、具体的にはどうすれば……?」
侍女「心配は御無用でございます。
どうぞこちらへ」
73 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/21(日) 13:07:00.71 ID:v7LwU1XzO [15/47]
ガチャリ、……
……ゴゴゴゴ……ン……
少女「うわぁ……」
侍女「ここは魔王様の蒐集した魔導書、魔術書、またそれらの関連書籍の書庫です。
人間、妖精、魔族、竜族、その他魔力と文字を有したあらゆる種族の書籍が保管されています」
少女「ここで、魔導の勉強を……?」
侍女「左様にございます。
講師はわたくしめが僭越ながら勤めさせていただきますので、よろしくお願い致します」ペコリ
少女「よ、よろしくお願いします」ペコリ
75 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/21(日) 13:23:36.69 ID:v7LwU1XzO [16/47]
魔王「これをこう描いて、こっちまで線引いてー。
すーずをつーけたーら魔導式ー」キュキュキュー
ボォォオ……
魔王「よーし。後は魔法陣の上書きをして、と」
ドゴゴゴォォォン!!
魔王「うわおっ、なんだなんだ?
何やってんだあいつら。筆先が狂っちゃったよもー」
79 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/21(日) 13:38:22.07 ID:v7LwU1XzO [17/47]
魔王「どうしたー? 随分賑やかだな……って何この穴」
少女「あのあの、す、すみません! わたしが変なことしたから……」
魔王「大概変なことしてもこうはならないと思うんだけどなぁ。
ところであいつは?」
侍女「ただ今戻りました」
魔王「おー、お帰り。
どしたのさ、これ」
侍女「わたくしの判断ミスです。
魔導の才覚、杖の性能、ドレスの魔力補正……全て甘く見ていました」ゴトッ
魔王「その燭台は?」
侍女「これに、ごく初歩的な防御呪文を施す訓練をしていたのですが……」
魔王「ほうほう」
少女「私が間違ってその燭台を机から落としてしまって……」
魔王「ほう?」
侍女「そのまま魔力を込められた燭台が床を突き破って下へ下へ……」
魔王「なんと」
侍女「地下の魔力泉空洞まで落ちて行きました」
魔王「あんなとこまで?
ほとんど城の最深層じゃないか」
侍女「おそらく、燭台が全ての衝撃を反転したのではないかと……」
魔王「はっはっは、そりゃいきなり最終奥義だな」
82 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/21(日) 13:50:53.49 ID:v7LwU1XzO [18/47]
魔王「ちょっともう一回やってみてくれるかい?」
少女「え、あ、はい」
侍女「杖を構えて、燭台を想像して」
少女「えと……魔力に守られた燭台……守られた燭台……」パチッ……パキキッ……
魔王「あれ? 別にそんなに魔力込めないのな」
侍女「ですので、わたくしもこのようなことになるとは露ほども……」
少女「……一応、出来たとは思うんですけど……」
魔王「お、どれどれ」
侍女「魔王様、お気を付けて」
魔王「わかってるって。
んー?」ツンツン
バチンッ!!
魔王「いってぇー。すげーなこれ。
ちょっと下がっててくれ」
侍女「わかりました。
さぁ、わたくしの後ろへ」
少女「は、はい」
魔王「むむむ」……ォンォンォンオンオンォオンォオンォオンォオン
85 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/21(日) 14:11:22.41 ID:v7LwU1XzO [19/47]
魔王「ふー……
……どりゃあッ!」
バギィィィンッ!!
魔王「っと。どうなったかしらん?」
侍女「……ここに、僅かな傷が」
魔王「マジかよ。割と真面目にやったんだけどなー。
燭台に負ける魔王ってだせー」
侍女「しかし……なぜ僅かな魔力でここまで?」
魔王「うーむ。
多分、これはその超魔女っ子プリンセスちゃんの魔力じゃなくて、
燭台そのものの魔力だな。
燭台が衝撃を受けた瞬間だけ、銀が魔力変換されて衝撃を跳ね返してる」
侍女「燭台そのもの……ですか?」
魔王「銀なんかになると、魔力だけで作るのにはぶっとんだ量が要るだろう?
すると、逆にその銀を直接魔力に変換出来たら……」
侍女「凄まじい魔力量になる、と」
魔王「その変換式自体はちょっとした魔力で書けるから、こうなったわけだわな」
侍女「……才覚、ですか」
魔王「才覚ですな。
この子が勇者じゃなくてよかったよホント」
86 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/21(日) 14:15:50.39 ID:v7LwU1XzO [20/47]
少女「あ、あの……」
魔王「あぁ、気にしないでその調子でやっててくれたらいいよ。
私は作業に戻るから。あとよろしく」
侍女「かしこまりました」
魔王「がんばってねー」
少女「が、がんばりますっ」
……ズズゥゥゥウウン……
ドグォォオオオン……
魔王「どんどん勇者がハードモードになっていくな。ひひひ」キュキュキュー
93 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/21(日) 16:35:29.81 ID:v7LwU1XzO [22/47]
侍女「夕食の準備が出来ました」
魔王「おう。今行くわ。
なかなか派手にやってたみたいじゃないか」
侍女「魔力運用の最適化と言いますか……常に最も高い効率と方法に拠って魔力を使うので、
本人の意思にも反して非常に強力な魔導になるのだと」
魔王「しかも、あの子自身にも相当な量の潜在魔力があるしな。
まぁとりあえず飯にしよう。腹が減ってはなんとやらだ」
侍女「はい。
……ところで、勇者の行方なのですが」
魔王「うむ」
侍女「例の魔女の所に居るようです」
94 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/21(日) 16:40:28.88 ID:v7LwU1XzO [23/47]
魔王「うげ。マジかよ。
あいつなんでかんでも魔族より魔改造するからなぁ」
侍女「その分、時間は掛かるかと思われますが」
魔王「だな。
連中が来る前に、準備はさっさとやっちまうか」
侍女「しかるべく」
魔王「しっかし、あいつの悪ふざけで何回死にかけたかわからんぜ。
一番ろくでもないことに迷わず最大注力するから余計ろくでもない」
侍女「……」
魔王「やだなー、魔改造勇者。
あーやだやだ」
98 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/21(日) 16:48:08.33 ID:v7LwU1XzO [24/47]
ガチャリ、
魔王「やっほー」
侍女「お待たせ致しました」ペコリ
少女「いえ、そんな……」
魔王「まぁとりあえず食おうぜ。
連日訓練訓練で疲れたろう」
少女「えっと、多分この杖とドレスのおかげで、わたしはそんなに……」
魔王「そうなの?」
侍女「一気に大量の魔力を使うような術式はまだ使っていませんし、
杖とドレスによる自動治癒も相乗的に働いているかと」
魔王「見事なチートだなぁ。まぁそれなら安心だ。
食べよう食べよう」
少女「は、はい」
100 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/21(日) 16:56:14.70 ID:v7LwU1XzO [25/47]
ゴゴゴゴ……
勇者「ぐッ……う……がッ……」ミシミシミシミシミシ
魔女「歯ぁ食いしばれっつってんだろ。
オラ、そんなんで魔王に勝てると思ってんのか」
勇者「ぬぅうヴぅヴウ……ッ!」ミシミシミシミシミシ…ブチッ…ブツッ…
魔女「魔王の魔力はこんななまっちょろいもんじゃねぇーんだよ。
気合い入れろ気合い。両手両足ぐらいなんだ。
どーせ勝てないなら捨てちまえそんなもん」ガチャン
勇者「ヴッ……ふヴッ……ふヴぅううヴ……
ヴぅッ……うぅヴふッ……!!」ギリギリギリギリギリギリギリギリ
魔女「泣いてんじゃねぇーつーの。
人間やめろよさっさと。
でなきゃ辛いぞー」ガチャン
ガリガリガリガリガリガリガリガリ
ミシミシミシミシミシ……ミシミシミシミシミシ
ギィイイイイイイイイイイ…ブチッグチャッ
102 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/21(日) 16:59:11.90 ID:v7LwU1XzO [26/47]
勇者「……」
魔女「おっつー。
次はこの鍋に浸かっとけ。
良いって言うまで出んなよ。
まぁどうせその身体じゃ無理だろうが」
勇者「……」
グツグツグツグツ…ボコォ…ボココォ……
魔女「早くしろよ」
勇者「……」ズッ…ズッ…ズッ…ズッ……
……ボチャン
ジュウゥゥウウゥウ……
魔女「そろそろ晩飯にすっかな」
104 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/21(日) 17:06:35.55 ID:v7LwU1XzO [27/47]
ザパァア
魔女「おーおー、良い感じに茹で上がってんな。
後はこのイカす箱に入ってしばらく待ってろ。
名付けて『天使の棺』だ。ぐっすり寝れそうだろ?」
勇者「 」
魔女「多分悪夢見っぱなしになると思うが、魔王の魔術汚染に耐えるためだ。
諦めてうなされてろよ」
勇者「 」…グ…ャ…ッ
魔女「じゃねーおやすみー」
……バタン……
121 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/21(日) 19:24:10.54 ID:v7LwU1XzO [29/47]
魔女「で、216時間寝かせた天使の棺ごと鎧に装填する、と」
ガチャン……
魔女「魔導力学と錬金工学と生体工学、それからスパイスに燃え盛る憎悪を一人前。
これでとりあえず試作機完成だ。僕ってばやっぱり天才?」
勇者『……ァ……ガ……ガガ……』ギギギギ…
魔女「お? 神経接続が悪いみてぇーだな。ん? このへんか?
どっこらしょいッ」ガキンッ
勇者『うぉああああアアああああァアああああああッ!!
はぁッ、はぁッ、はぁッ……』ギギッ
魔女「おはよう、新生・魔装勇者。
最強に格好良くて最悪に醜いな。
つまりアレだ。最高だ」
勇者『これは……』ギッギッ
魔女「魔導装甲に直接人間を接続して駆動させるってやつよ。
どっかの国の魔導師がほったらかしにしてた研究資料を拝借して来て、
僕なりに改良した100万馬力のすげー代物だ。ありがたく思えよな」
勇者『……あぁ』
124 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/21(日) 19:29:50.75 ID:v7LwU1XzO [30/47]
魔女「で、早速だが起動実験だ。適当に飛ばすから適当に行ってこい。
その間に他のパーティーも一式揃えといてやんよ」ガチャン
勇者『うぉッ―――――』バシュゥッ
魔女「論理上、僕以外の魔導師になら400年先のやつまで楽勝出来ることになってっから。
実証よろしく」ヒラヒラ
……ガチャン、
魔女「もうちょい待ってろよー魔王。
すぐぶち殺しに行くからなー」
126 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/21(日) 19:40:07.00 ID:v7LwU1XzO [31/47]
魔王「……なんか寒気がしたが、気にしないことにしよう」
侍女「風邪などお召しになられては大変でございます。
どうか無理はなさらぬように御自愛くださいませ」
魔王「魔王も風邪引くのかねぇ。
まぁともかく、こっちの準備は完了だな。
後はあの超魔女っ子プリンセス次第だが……」
侍女「そろそろ、実戦訓練に移っても良いころかと」
魔王「だよな。
まぁあのぶっ飛びキチガイ魔女レベルの魔導師でもなけりゃ、
傷一つ付かないとは思うが」
侍女「とは言え、いずれ決戦の時が来ます。
万全を期すべきかと存じ上げます」
魔王「うむ。
とりあえずお前に任せるわ」
侍女「かしこまりました。しかるべく」ペコリ
130 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/21(日) 19:59:39.16 ID:v7LwU1XzO [32/47]
侍女「……なので、この魔導式を習得すれば、以降は実戦訓練に移行することと相成りました
少女「実戦……」
侍女「魔力によってあらゆるものを征服する実際的な訓練とでも申しましょうか」
少女「……」
侍女「有り体に言えば――――
――――刃向かうもの、楯突くものを全て木っ端微塵にする訓練でございます」
少女「!」ビクッ
侍女「ええ、存じ上げております。
あなた様ならば、そのような無益な殺生をされなくても、
相手を沈黙させる手段はいくらでも御用意できましょう。
……しかし、それでは駄目なのです。それではまだ足りません」
少女「足りない……?」
侍女「あなた様が、母君を蘇生させるために心に灯した『誓い』です」
少女「誓い……」
侍女「『生きる』と言うことは何者かを『殺す』と言うことでございます。
魔導はまさにこのような排他律に則って作用するものだと、
あなた様は既にお気付きになっておられるはず」
少女「……」
侍女「魔王様の命に従い、あなた様の燃え盛る誓いの炎を、確かめさせていただきます」
少女「……はい」
131 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/21(日) 20:11:41.60 ID:v7LwU1XzO [33/47]
魔王「いい感じに茨も育って来たな。
いかにも魔王の城って感じだ」
ミキ……メキメキ……
魔王「しっかし、因果なもんだなぁ。
母親を奪われた娘、か。
昔を思い出すぜ。
……あいつら上手くやってるかな?」
132 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/21(日) 20:38:47.38 ID:v7LwU1XzO [34/47]
――――ガシャン
魔女「お、帰って来たな」
勇者『……』
魔女「どうだったよ、試運転の方は? ん?
ちゃんと『動いてるものを見ると、憎悪がメラメラ湧いて止まらなくなった』か?」
勇者『……なぜ、俺をあんな所に飛ばした?』
魔女「あんな所?
それはつまり、『戦争もなく、魔族もいない、
豊かで穏やかな平和そのものの王国の首都』ってことか?」
勇者『……』
魔女「そりゃお前、決まってんだろ。
そっちのが面白いからだっつーの。
あの国じゃお前、魔王として語り次がれるぜ。
はははははははははッ」
勇者『……魔王……』
魔女「こいつはいよいよ傑作だなー発明品的な意味でよぉ。
平和ボケした国一個ぐらいなら、問題無く皆殺しの血祭りに出来る、と。
そんじゃこの調子で、次行ってみよう!」ガチャン
勇者『魔王……魔王……』ブツブツ……
――――バシュッ
134 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/21(日) 20:53:58.84 ID:v7LwU1XzO [35/47]
ザワザワ……
少女「ここは……?」
侍女「ある辺境の貧しい小さな国でございます。
もうすぐここは、あの赤い軍隊によって滅ぼされるでしょう」
少女「どうして……」
侍女「理由はいくらでもありますし、理由など必要ありません。
彼らは、彼らの国の赤い紋様を持たないものを全て敵だと判断し、憎悪しています」
少女「……」
侍女「じっとしていれば、あなた様も何人もの兵に犯され、殺されてしまうでしょう。
ここにいる国民たちも同じです。
……これ以上、わたくしから申し上げることはありません」
少女「……わかり……ました」バキッ……バリリッ……
侍女「御武運を」ペコリ
135 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/21(日) 21:00:01.08 ID:v7LwU1XzO [36/47]
――――ヴゥン
魔王「おっと、お帰りー」
侍女「ただ今戻りました」
少女「……」
魔王「……まぁ、無事で何よりだわな。
とりあえず飯にしよう」
侍女「今すぐ」
少女「わたしは……疲れたので……眠ります」
魔王「そうか。
じゃあ、飯は部屋まで付き添った後で」
侍女「かしこまりました。
さぁ、こちらへ」
少女「……」フラフラ……
魔王「うーむ。
ああなるのは、やはり人間と魔族の違いか」
136 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/21(日) 21:10:30.49 ID:v7LwU1XzO [37/47]
侍女「それでは、おやすみなさいませ」
少女「……」
侍女「……」
少女「……」
侍女「……きっと、魔王様があなたに魔導の力を託されたのは、
いずれあなたが母君と再開した時に、あなた様の手で、
守りたいものを守れるためだと……わたくしは考えております」
少女「……」
侍女「……失礼いたします」
……バタン
少女「……ママ……」
137 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/21(日) 21:18:12.19 ID:v7LwU1XzO [38/47]
魔女「よぉーしよしよし、連続試運転も問題無さそうだな。
メンテナンスで問題無けりゃ、もう何機か量産ラインに乗せて見るか。
棺の中身はもう確保してあるし」
勇者『……』
魔女「すっかり無口になったなぁ、オイ。
まぁ別にいいけど。
魔王城攻略まで秒読み開始だ」
勇者『……魔王……』ギギッ…
142 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/21(日) 21:44:46.27 ID:v7LwU1XzO [39/47]
魔王「いただきまーす」
少女「いただきます」
侍女「ごゆっくりどうぞ」
魔王「調子はどうだ?」
少女「はい、だいぶ慣れました」
魔王「そうか。そりゃ重畳。
多分そろそろだと思うんだよなー、連中が来るの」
少女「……」
魔王「だから、そろそろ仕上げに行こうかと思う。
実は冥界と竜界から、それぞれ結構ヤバい頼まれ事しててな。
うっかり地獄からはみ出たでっかい怨霊の退治と、
どっかで変なもん食ってイかれた狂竜の討伐だ。
これがこなせたらもう怖いもの無しだろう」
少女「はい。頑張ります」
魔王「これをキミに……って早いな。
まぁ、そう言うことだ。
今回は私が付いてくから、お前は留守番頼んだぞ」
侍女「かしこまりました。
道中お気をつけて」ペコリ
143 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/21(日) 22:15:24.61 ID:v7LwU1XzO [40/47]
魔王「最近、すっかり凛として来たな」
少女「そうですか?」
魔王「大魔導師の風格だ。
実際、人間界ではもう上から両手で数えられるぐらいの能力はあるだろう」
少女「杖とドレスのおかげです」
魔王「いや、キミ自身の資質。
でなきゃどんなに道具が良くても、ここまで使いこなせない」
少女「そう……なんでしょうか」
魔王「違いない。術式中の警備はもう安心して任せられる」
少女「……」
魔王「緊張してるのか?」
少女「いえ……
……一つ、聞いてもいいですか?」
魔王「ん?
構わんよ」
少女「このドレス……前は、どんな方が着ていたんですか?」
145 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/21(日) 22:30:36.91 ID:v7LwU1XzO [41/47]
魔王「……」
少女「夢で会ったんです。
このドレスを着た、綺麗な女の子と……
その子が、わたしに語り掛けてくれました」
魔王「……なんて言ってた?」
少女「『あの人はとても優しいから、周りで誰かが支えてあげないといけない』って。
そう言ってました」
魔王「そう、か」
少女「……」
魔王「……」
少女「……」
魔王「……それを着てたのは、妖精界第二皇女。
そのドレスは、その子が私の所に預けられた時に、魔界由来の障気から守るために私が仕立てたものだ」
149 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/21(日) 22:41:24.97 ID:v7LwU1XzO [42/47]
魔王「昔々、魔界がもっと野心的だった頃、魔界と妖精界は戦争していた。
でもそのうち互いに疲弊して、停戦協定が結ばれることになった。
その時に……まぁ魔界が優勢だったもんだから、
人質として第二皇女が私の城に来ることになったんだ」
少女「……」
魔王「あの子の母親は、戦いの中で死んだ。
私が殺したんだ」
少女「!」
152 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/21(日) 22:56:52.35 ID:v7LwU1XzO [43/47]
魔王「妖精界ではその時、どうも王権あたりで揉めてたらしくてな。
第二皇女の母親と第一皇女の母親が違うのが原因だったりしたらしいが……
とにかく、第二皇女の母親が最前線に立っていたのも、その辺りの問題なんだろう。
彼女は自分が死ねば戦争が収束に向かうことも解っていたようだった。
だから、わざわざ私に直接頼みに来たんだ。
『娘をお願いします』ってな。
人質として私の所に第二皇女を差し出すまでが、その母親の描いたシナリオだったんだろう。
って言うのも、実は私とその母親はちょっとした知り合いでな。
色々と因縁があったりしたんだが……まぁとにかく、そう言うわけだ」
少女「……」
魔王「それで、私の城に来たあの子は、開口一番私にこう言ったんだ。
『お母様を返して』ってな」
153 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/21(日) 23:06:55.68 ID:v7LwU1XzO [44/47]
少女「……それで、魔王さんは……?」
魔王「私は『わかった』と答えた。
かなり面食らってるみたいだったな。
ははは、今でも覚えてる」
少女「……」
魔王「ところが、ちょっと邪魔が入って、結局上手く行かなかったんだよな。
それに、その第二皇女も結局は……死んだ。
これはまぁ、事故みたいなもんだが……私が不甲斐なかった結果だ」
少女「魔王さん……」
魔王「死ぬ直前には、それなりに私を信頼してくれているようだった。
死ぬ瞬間も、私の身を案じてくれていた。
優しい子だったな……
……って、なんか辛気臭い話になっちゃったな。ごめんごめん」
154 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/21(日) 23:15:25.71 ID:v7LwU1XzO [45/47]
少女「……わたし、わかります。
その子の気持ち」
魔王「そうかい?」
少女「難しいことはよくわからないけど……魔王さんは、いい人だと思います」
魔王「魔王がいい人なんて言われたら、面目丸潰れだなぁ」
少女「わたしは、魔王さんの役に立ちたいです。
今はまだ未熟ですけど、きっといつか、侍女さんみたいに……」
魔王「はは、そりゃいいや。
期待してるよ」
少女「はい!」
魔王「とか言ってる間に、もうすぐ城だな。
着いたら丁度飯の時間だ」
少女「そうですね。楽しみです、侍女さんのご飯」
魔王「な。うまいよな、あれ」
156 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/21(日) 23:29:15.92 ID:v7LwU1XzO [46/47]
【留守みたいだからまた来る
魔王なんだから城に居ろっつーの!
追伸:邪魔な茨とメイドは燃えるゴミに出しておきました。
僕って優しい!
追伸2:メイドの首が「申し訳ありませんでした」
「今までありがとうございました」だってさー】
少女「……これ……」
魔王「あっちゃー。
城壁にでっかい落書きしやがってあの馬鹿」
少女「侍女さん……」
魔王「うーむ。
あいつとも結構長い付き合いだったんだが……仕方ないな」
少女「……」
魔王「次、連中が来た時は、熱烈歓迎パーティーだ。
なぁ?」ビキッ…バキンッ…バチチッ…
少女「はい」バギギッ……ビリッ…バチンッ…
161 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/21(日) 23:48:40.42 ID:v7LwU1XzO [47/47]
魔王「とは言え、準備はもう出来てるんだよなー。
あとはいつ連中が来るかなんだが」
少女「こちらから行くのは?」
魔王「誰かが面倒見てないと、蘇生術式の魔法陣が壊れちゃうんだよね。
だからそれはちょっと不味い。
術式の性質的に、一回壊れると組み直しに何百年も掛かる」
少女「そうですか……」
魔王「いっそ、ママさんをさっさと蘇生しちゃうってのもありかもな。
元々その間を警護してもらうって話だったし。
あー、でもあの腐れ魔女が相手となると、キミだけじゃちょっと不安かなぁ。
あいつがあっさりやられるぐらいとなるとさすがに……」
少女「……」
魔王「でも、二人で戦いに出ると、魔法陣が無防備になるのが問題だし。
こりゃ弱ったな」
少女「なんとかわたしに出来る範囲で――――」
ドッガァァァアアアァアン!!
164 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/22(月) 00:04:16.84 ID:W8TOKAywO [1/25]
魔王「全くあいつらはいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつも
狙いすましたように無粋なタイミングで来やがって」
少女「どうします?」
魔王「とりあえず様子を見に行くか。
防御呪文と結界呪文、張っときなよ」
少女「はい」ポォ…
魔女『魔王ー! 来てやったぞー!
さっさと出迎えやがれー!』キィィィン
魔王「うっせーなバーカバーカ。
今行くっての」
165 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/22(月) 00:14:57.17 ID:W8TOKAywO [2/25]
魔王「近所迷惑だろうが馬鹿やろうこの野郎」
少女「……」
魔女『やっと来たか!』キィィィン
勇者『……』
魔王「だー、うっせぇーよバカ。
消せ。それ消せ。今すぐ消せ」
魔女「バカはてめぇだこの馬鹿野郎!」カチッ
魔王「なんだとこの腐れ魔女」
魔女「お前また蘇生術式使おうとしてるだろ!
勇者に聞いたぞ!」
魔王「だったらなんだってんだよ」
魔女「……そのガキの母親を蘇生させるのか?」
魔王「あぁ」
魔女「それでそのドレス……かぁあああ!
お前本ッッッ当に馬鹿だなー!
この大馬鹿魔王ーッ!!」
魔王「何回も何回も何回も何回も馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿言うんじゃねぇーよ。
それも大声で。傷付くだろうが」
166 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/22(月) 00:25:47.34 ID:W8TOKAywO [3/25]
魔女「反省しないやつは間違い無く馬鹿だっつってんだろーが!
前回僕があれだけ言ったのにまーだおんなじことやんのかてめぇーは!」
少女「前回……?」
魔王「……」
魔女「おいそこのガキぃ!
お前、この術式の発動手順、ちゃんと知ってんだろうなー!」
少女「手順……」
魔女「やっぱり! ほらみろやっぱりそーだ!
やっぱり全然反省してねぇーじゃねぇーか馬鹿魔王!」
魔王「だから馬鹿って言うなっての」
魔女「魔導はなぁ、『選ぶ』か『選ばない』か!
『拾う』か『捨てる』か!
『生きる』か『殺す』か!
蘇生術式を使ったら、その馬鹿魔王が代わりに死ぬんだぞーッ!!」
少女「……えっ……?!」バッ
魔王「あーあ、ホント間の悪いやつ」
175 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/22(月) 00:49:50.46 ID:W8TOKAywO [4/25]
――――数百年前
皇女『これでいいのです……
お母様も……あなたの死を望んではいません』
魔王『……』
皇女『……そんな顔をしないでくださいな。
わたしはなにも怖くありません……お母様ともうすぐ……もうすぐ会えるのですから……』
魔王『私は、私は何もしてやれなかった』
皇女『あなたはわたしと、わたしのお母様に、多くのものをくれました……
……今ならそれがわかります』
魔王『私は……』
皇女『それから……どうか、魔女さんを責めないでください……
あの方の気持ちも……よくわかります……』
魔王『……』
皇女『お身体に気を付けて……
……いつか……誰もが幸せな世界で……会い……た……』
魔王『……』ギュッ…
177 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/22(月) 00:56:38.22 ID:W8TOKAywO [5/25]
魔女『なぁオイ……その、なんつーか……悪かったよ、うん』
魔王『……いや、いい』
魔女『そりゃ、僕だっていっつもてめぇーのことぶっ殺すために色々やってたけどよー……』
魔王『だからいいって』
魔女『ぶっ殺したいほど気に入ってるやつが自殺なんかしようとしてたら……
……何やってでも止めるだろ?』
魔王『……』
魔女『……じゃあ、僕は帰るからな。
また来る。てめぇーをぶっ殺しに』
魔王『……あぁ……待ってる』
……――――
205 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/22(月) 13:00:58.39 ID:W8TOKAywO [8/25]
魔女「――――とにかくッ!
てめぇーが勝手に死ぬぐらいだったら僕が百回ぶっ殺す!
スイッチオーンッ! 行けッ、新生・極悪魔装勇者御一行ッ!!」ガチャーン!
勇者『ぅヴッ……ま・ォヴ……魔王ォォオオオッ!』ギリギリギリギリ
少女「えっ、うわっ、け、結界っ!」
バチバチバチバチッ
勇者『魔王ォォオオオォォオオォォァァアアアアァアォオオォオオォッ!!』
バチバチバチバチ……バリッ……バギンッ!
少女「破ら……?!
ぐッ……九式九重結界ッ!」
魔女「オラッ!
破城鎚出せお前らッ!
突き破れッ!!」
勇者『通ッッッ……ッッッせェエエェエエッ』バリィィィイン!
206 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/22(月) 13:05:15.91 ID:W8TOKAywO [9/25]
少女「十分時間は稼げた!
『止まれ』ッ!!」
勇者『ォアアッ?!』ガグンッ
魔女「装甲に直接魔導式を書き込んで……っつーかお前邪魔すんじゃねぇーよッ!
魔王が死んでもいーのかよッ!!」
少女「そっ……それは……」
勇者『ガァ……ァアアァアアッ!』ギ…ギギッ…バギンッ!
少女「しまっ――――」
魔王「『止まれ』。」
勇者『――――』ビタッ
魔女「魔王……てめぇー、いい加減にしろよ……
てめぇーの糞ったれた感傷で僕以外のやつを巻き込むんじゃねぇーよッ!」
魔王「……」
少女「ま、魔王さん……」
207 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/22(月) 13:07:36.15 ID:W8TOKAywO [10/25]
魔王「なぁ、糞魔女」
魔女「……なんだよ大馬鹿魔王」
魔王「実はもう術式発動してるんだわ」
少女「なっ」
魔女「……え?」
魔王「この子がだいぶ時間稼いでくれたから、加速術式も追加できたしな。
要するに、もうあとしばらくしたら俺は死ぬ」
208 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/22(月) 13:10:13.55 ID:W8TOKAywO [11/25]
魔女「……ついに馬鹿が高じて死ぬことになったか……」
魔王「お前に殺されるのもいいかと思ったけどさ、
ちょっと落ち着いて喋らないか? 久しぶりに。せっかくだしさ」
魔女「……」
少女「……」
魔王「こっち来いって、いいから」
魔女「……魔王……」
魔王「よし、もっとこっちだ。
ちゃんと近くで顔見せろ」
魔女「まお、う……ぅ……うっ……」ポロポロ
魔王「とここで鉄拳制裁ッ!」ゴッチーン!
魔女「いってぇッ! なにすんだ馬鹿ーッ」グシグシ
魔王「それは侍女の分だ。マジで腹立ったからな」
少女「……えいッ」ゴッチーン!
魔女「なっ、なっ、このクソガキッ!」
少女「私も腹立ったんで」
魔王「ひひひ。正当な権利だよな?」
少女「当然です」
209 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/22(月) 13:16:54.30 ID:W8TOKAywO [12/25]
魔女「お前あとで絶対ぶっ殺す!」
少女「やれるものならどうぞ」
魔王「後任者ができて安心だわ」
魔女「こんなクソガキじゃ8秒も保たねぇーよ」
魔王「いやいや、少なくとも200年は保つな。
俺が死んだら俺の魔力200年分、キミに譲渡することになってるから」
少女「は、……はい?」
魔王「いきなりだけど、まぁ魔王代理ってことでよろしく。
じきに魔界で次の魔王がちゃんと決まるからさ。
それまで、キミはキミのやりたいことをやればいい。
ママさんとのんびり暮らすもよし、冒険に出るもよし、
魔導魔術を極めるもよし、魔王やるのももちろんよし」
魔女「むちゃくちゃだ……」
少女「……」
212 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/22(月) 13:35:05.93 ID:W8TOKAywO [13/25]
魔王「まぁ大概のことは出来るぜ。
キミ、じきに下手な魔王より強くなるだろうし」
少女「……わたしは……世界を変えたいです」
魔王「ほほう」
少女「もっと魔導を勉強して、もっと世界のことを勉強して、
それから魔王さんも妖精のお姫さまも笑って暮らせるような、
そんな世界をつくりたいです」
魔王「そりゃいいや。期待してるよ。
キミなら世界でも変えられるだろう」
少女「はい!」
214 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/22(月) 13:49:48.09 ID:W8TOKAywO [14/25]
魔王「で、お前はどうすんの?」
魔女「……まずこのクソガキをぶっ殺す。
そん次に地獄に居るお前らをもっかいぶっ殺す。
邪魔するやつは全員――――ってもう居ねぇ?!」
少女「!」
魔女「あいつ最後まで人を舐め腐った態度しやがって絶対許さねぇーからなーッ!」
少女「……」
魔女「ちくしょおおおッ! 絶対勝ち逃げなんかさせてやるもんかッ!
今に見てろーッ!!」ポロポロ…
少女「魔女さん」
魔女「はぁッ?!
な、なんだよッ! 泣いてねぇーよッ! こっち見んなよッ!」グシグシグシグシ
少女「わたしに魔導を教えてください」
魔女「ふざけんなこのやろーッ!!」
――――魔装勇者御一行を引き連れた史上最悪のキチガイ魔女と、
魔王の魔力たっぷり200年分を受け継いだ史上最強の幼い魔女は、
たまに殺し合いをしながら魔界・冥界・竜界・妖精界それぞれの辺境で、
文字通り人知を超えたとんでもない冒険をすることになる。
しかし、それはまた別のお話――――
215 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/22(月) 13:50:45.14 ID:W8TOKAywO [15/25]
終わり。
ファンタジーもんなんか初めて書いた。
220 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/22(月) 13:57:42.31 ID:6hi1TdcUO [2/4]
スマン
一つ訊きたいんだが、少女が戦ったのは赤い軍隊だよな?
226 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/11/22(月) 14:38:34.63 ID:W8TOKAywO [16/25]
>>220
そう。
勇者「ふ、ふざけるなッ! そんなこと……」
魔王「じゃあお前、代わりに叶えてやれば?
な。お願いしてみなよあいつに。
泣く子も黙る勇者さまだぜ?」
少女「……」フルフル
魔王「そっかー嫌かー。
まぁそうだよなー、そうだよ。そりゃそうだ。
嫌われてんなー、勇者。はっはっはっはっはっは」
勇者「一体何の話を……」
魔王「この子さぁ、お母さん生き返らせたいんだってさ。
それで私の所まではるばる来たんだって。
お前が船の権利書貰った鉱山の村からだぜ?
半年歩き詰めってすごいよ、すごいすごい。
私感動しちゃってさー、叶えてあげちゃったりしよっかなーって」
少女「……」
勇者「鉱山……?」
魔王「思い出したかなー?
お前ら鉱山の魔物倒すのに、村人囮にしただろう?
賢者さまのすっげークールでナイスな発案で、囮は村の女になったよな?
あのとき、お前ら……やらかしたろう?」
勇者「……あれは……魔物がいきなり後ろから現れて……賢者の集中が途切れて……」
10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/20(土) 22:24:58.70 ID:5VKwCgqEO
魔王「で、何人かの防御呪文が切れちゃったと。
その時に、お前らの魔導師が焦って乱射した魔導弾が当たっちゃったのが……ってわけさ」
少女「……」
魔王「だから、勇者さまには頼みたくないんだってさ。
いやー、しょうがないね。戦争だもんね。何人も犠牲にしないといけないんだもんね。ね?」
勇者「……ぐっ……
俺達だって……助けようとした……!」
魔王「でも、勇者さま御一行の蘇生呪文って、教会で特別な洗礼を受けた人間にしか使えないんだよな?
不便なんだよなー、人間の力って。いやー、残念無念」
勇者「……そもそも、お前らがッ!!」
魔王「はいはいはいはい私が悪い私が悪い。
でも私、蘇生出来るよ? この子のママさん。ちちんぷいぷいーってさ。
私が勇者に倒されちゃったら、もちろんもう無理だけどね」
少女「……」
勇者「なッ……この……卑怯者!!」
12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/20(土) 22:38:29.08 ID:5VKwCgqEO
魔王「じゃあほら、その剣で切りかかってきてみなよ。
ほらほら、今ならまだ防御呪文も反射呪文も掛かってないぜ。
チャンスですよーチャンス。ねー勇者さんってばー」
勇者「ッ!」ジャキッ
少女「……!」バッ
魔王「あらあらあらあらあらあらあらあらあらー。
キミ、守ってくれるの? 私を? 勇者から?」
少女「ママを……生き返らせてください……」
魔王「うんうん、いいよいいよ、ますます感動しちゃったよ。
約束するよ約束。ママのことは任せなよ。
でもまぁ……どうなるかは勇者さま次第かなー?」
少女「……」キッ
勇者「そ……そんな目で俺を見ないでくれ……!」
13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/20(土) 22:43:18.34 ID:5VKwCgqEO
魔王「で、どーすんの?
やるの? やらないの?」
勇者「俺は……お前を倒すためにここまで来たんだッ」
魔王「あっそ。
でもさぁ――――」
……パキッ……ビキッ……
バチバチッ……バキンッ
魔王「――――本気出したらめちゃめちゃ強いからね、私。
一応言っとくけどさー」バリッ……バチチッ……!
勇者「……!!」ゾクッ
17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/20(土) 23:00:52.69 ID:5VKwCgqEO
魔王「私としては回れ右をオススメするよ。面倒臭いしね。負けないけど。
まぁこの子のママさんの敵討ちってのもいいけどね」
少女「……」ジッ…
勇者「……ッ」
少女「……」
勇者「……ぐ……ッ」ギリッ…
少女「……」
勇者「……、……糞ッ……」ガシャン……
魔王「なーんだ、やめちゃうのか。
じゃ、お帰りはあちらですよー」
勇者「――――必ず、俺はお前を倒しに戻って来る!」ダッ
魔王「ひひひ。なるべくサボってから来てくれよなー」
20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/20(土) 23:19:25.44 ID:5VKwCgqEO
魔王「さーて、じゃあ張り切って蘇生術式の準備しちゃおっかなー」
少女「!」
魔王「ちょっと時間掛かるからのんびりやるかね。
あ、その間に色々手伝ってもらわないといけないことがあるんだけどさ」
少女「何ですか……?」
魔王「いやー、蘇生術式使ってる間、私って超無防備なんだよねー。
蚊に刺されても死んじゃうんだ。
もちろんそうなったら術式失敗! 大爆発! 私、消し炭!」
少女「……」
魔王「で、だ。
そこでキミの出番なんだけどさー……」
勇者「魔王ォ……絶対に……貴様の首を落とす……ッ!!」ザッザッザッ…
22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/20(土) 23:36:39.88 ID:5VKwCgqEO
ガチャッ
魔王「ってなわけで、とりあえずここで寝泊まりするといい。
ご飯やら何やらは……よっと」バギンッ!
侍女「……」
魔王「こいつに任せたらよくしてくれるよ。多分ね。きっと。……だよな?」
侍女「……」コクコク
魔王「大丈夫そうだな。よかったよかった。
仲良くしろよー」
侍女「……」ペコリ
少女「よ、よろしくお願いします」ペコリ
魔王「じゃあ、私はちょっと出掛けたりしてるから。
あとよろしくー」
……バタン
侍女「……」
少女「……」
侍女「……」
少女「……」
26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/21(日) 00:21:28.78 ID:v7LwU1XzO [1/47]
魔王「おい、あの番犬ちゃんとしつけとけって何回も何回も何回も何回も言っただろうが」
冥王「あ、魔王だ。いらっしゃい」
魔王「手っ取り早く要件だけ済ますぞ。
ここは辛気臭くてかなわん」
冥王「失礼な。何の用?」
魔王「これからちょっと上ででっかいことやるから、魔力の前借りに来たわけ。
250年分ぐらいありゃいいや」
冥王「そう。じゃあ、これ持ってって」ヒョイ
魔王「どーも」パシッ
冥王「魔王」
魔王「ん?」
冥王「バイバイ。また来てね」ヒラヒラ
魔王「もう来ねぇーよ」
27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/21(日) 00:27:22.54 ID:v7LwU1XzO [2/47]
魔王「じゃあな、三つ首。
餌の取り合いもほどほどにしろよな」
番犬「「「ヴルルル……」」」
魔王「あばよー」
番犬「「「……」」」
――――ォォオオオオオオン……
魔王「遠吠えしてらぁ。
さて、次は、と」
29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/21(日) 00:30:20.69 ID:v7LwU1XzO [3/47]
少女「い、いただきます」
侍女「……」ペコリ
少女「……」
侍女「……」
少女「……一緒に食べませんか……?」
侍女「……」フルフル
少女「そうですか……」
侍女「……」ペコリ
少女「……」
侍女「……」
少女「……あ、美味しい……」
31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/21(日) 00:49:48.68 ID:v7LwU1XzO [4/47]
魔王「よう、相変わらず蒸し暑いとこに引きこもってんのな」
竜王「うわっ、魔王じゃん。珍しー」
魔王「鱗にカビが生えるぞ、そのうち」
竜王「ちゃんと清潔にしてますよーだ。
それで? 何でいきなり来たわけ?」
魔王「お前にアレ貸してただろ。
ほら、あの水晶のいいやつ」
竜王「あーあー、アレね」
魔王「アレ返してくれ。ちょっと使うんだよ」
竜王「それがこないださぁ、うっかり炉に落としちゃって」
魔王「何だと」
竜王「お陰で炉の調子は最高にいいんだけどさー」
魔王「このうっかりドラゴンめ……じゃあお前の目玉寄越せ」
竜王「えー、やだよー」
魔王「炉に不純魔力ぶち込んでやろうか」バリバリ
竜王「やめてぇー」
魔王「ほら寄越せ、さぁ寄越せ」
竜王「もう……仕方ないなー」グチュグチュ……グチュリ
魔王「うぇえ」
竜王「いたたた……はい、これでチャラね」ベチャッ
魔王「色々言いたいことはあるが、まぁいいや。
じゃあな」
竜王「またねー」
33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/21(日) 00:57:02.72 ID:v7LwU1XzO [5/47]
魔王「まさか本当に目玉くれるとは……儲け儲け。ひひひ。
さーて、あとは細かいものの準備だな。
ちゃっちゃかやるぞー」
竜王「ねーねー、目玉ってどのくらいで再生するのかな?」
臣下「さぁ……」
34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/21(日) 01:03:24.92 ID:v7LwU1XzO [6/47]
少女「え? 服ですか?」
侍女「……」コクリ
少女「えっと……それに着替えればいいのかな……」
侍女「……」コクコク
少女「わ、わかりました。じゃあ……」
侍女「……」スッ
少女「ありがとうございます……こんな服、着たことないから手間取っちゃって」
侍女「……」フルフル
少女「……お姫さまみたいです」
侍女「……」コクリ
35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/21(日) 01:21:29.55 ID:v7LwU1XzO [7/47]
ギャアギャア、ギャア…
バサバサバサ…
魔王「ここも冥界に負けず劣らずじめじめとこだなー。
さすが薄明の森」
霊樹『余計なお世話じゃわい。
また儂の枝で焚き火するつもりかの?』
魔王「もうそんな子供じゃねぇーっての。
何百年前の話だよそれ」
霊樹『なら、何の用なんじゃ』
魔王「茨の種ちょうだい。育つのがすげー早いのな」
霊樹『ふむ。これかの』ポトッ
魔王「あざーす。
それから、爺さんの枝の一番いいやつくれ」
霊樹『なにぃ。今度はどんないたずらを企んどるんじゃ』
魔王「ちょっとでっかいのをな。
頼むよ、爺さん。この通り!」
霊樹『横になった上、頬杖を突いて足をバタバタさせるのがお前の人にものを頼む態度か』
ポッ……
魔王「お、あの光ってるやつ?」
霊樹『万年モノじゃぞ』
魔王「やったぜ。気前いいなー爺さん。ありがとな」
霊樹『全く……
まぁ、なんじゃ。その……たまには遊びに来るんじゃぞ』
魔王「今度は土産持って来るって」
37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/21(日) 01:34:38.75 ID:v7LwU1XzO [8/47]
少女「……」
侍女「……」
少女「……」
侍女「……」
少女「……あの、何かすることは……」
侍女「……」フルフル
少女「そうですか……」
侍女「……」
少女「……」
侍女「……」
ガチャッ、
魔王「ただいまー、っと」
侍女「……」ペコリ
少女「お、おかえりなさい」
魔王「うむ。
異変なかったか?」
侍女「……」コクリ
魔王「そうか。引き続き任せたぞ」
侍女「……」コクコク
少女「あの……」
魔王「ん? あぁ、キミはもうちょっと待っててね。
もうすぐ色々やってもらうからさ」
少女「あ、はい……あの、それと……」
魔王「何かしらん?」
38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/21(日) 01:37:07.09 ID:v7LwU1XzO [9/47]
少女「この……侍女さん? ……無口なんですね……」
魔王「喋った方がいい?」
少女「えと……はい、できれば……その……」
魔王「だってさ」
侍女「承りました」ペコリ
少女「!」
魔王「これでいいかい?」
少女「はい、あの……ありがとうございます」
魔王「どういたしましてー。じゃあまた後でねー」
……バタン
少女「……」
侍女「……」
少女「……えっと……」
侍女「はい」
少女「……あらためて、よろしくお願いします」
侍女「こちらこそ、及ばぬところも多いかと存じますが、よろしくお願い致します」ペコリ
少女「あう……」
40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/21(日) 01:45:43.11 ID:v7LwU1XzO [10/47]
魔王「これをこうして……こいつをはめ込んで……あれ、おかしいな? はまれこのっ」グググッ……
……バキンッ!
魔王「よーし。後は仕上げに……」バチッ、バチチッ……
キ……ィィィィィィイイイイインッ!
魔王「……完璧。私ってばやっぱり天才?
ふふふ、ふっふっふっ、」
ガチャッ、
侍女「御食事の準備が整いました」
魔王「はーっはっ……はぁ、わかったよう、今行くよう。
せっかくたまに魔王らしく三段笑いでもしようと思ったらこれだものなー」
43 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/21(日) 02:06:34.26 ID:v7LwU1XzO [11/47]
魔王「と言うわけで、これをキミに上げよう」スッ
少女「は、はい」
魔王「一万年ぐらい月光を浴び続けたやたらでかい霊樹の枝から削り出した本体に、
竜王の目玉と魔王式魔導回路図の装飾、仕上げに私の魔力50年分を込めた、
ウルトラスーパーアメイジングすごい杖ね」
少女「はぁ……」
魔王「ピンと来ないかな? まぁちょっと持ってみなよ」
少女「はい……あ、あれっ」
魔王「体軽くなった? あと、なんか見えた?」
少女「えと、はい、あの、なんか……うわっ、なんですかこれ!」
魔王「キミ、せっかく結構大魔導師級の才能あるんだからそれを生かさない手はないよ。
杖がキミの才能を一気に叩き起こしたってところかな」
少女「ま、魔導師……私が……?」
魔王「そうそう、キミが。
この杖は魔導入門記念みたいなもんさ。
詳しい使い方はそいつから習ってね」
侍女「承りました」ペコリ
少女「え、あ、は、はい!」
魔王「うんうん。仲良くねー」
68 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/21(日) 12:39:08.61 ID:v7LwU1XzO [13/47]
魔王「にしてもよく似合ってんなーそのドレス」
侍女「よくお似合いでございます」
少女「あ、ありがとうございます……」
魔王「まぁ当たり前っちゃあ当たり前なんだけどな。
なんたって私の見立てだし」
少女「はぁ……」
魔王「実はそれも結構な逸品でねぇ。
昔々、妖精界の第二皇女が着てたって言うもんなんだよな」
少女「ええっ! そ、そんなものを着させてもらって……」
魔王「いーのいーの、どーせ宝物庫で腐らせてたやつだし。
魔界の色々ヤバいもののすぐ横に置いてたのに腐らなかったのはさすがだけどなー」
侍女「妖精の魔導具製造技術は、竜王様よりも優れていますから」
魔王「私の次ぐらいに凄いってところかな」
侍女「さすが魔王様」
魔王「よせやい、誉めるなよあんまり。あんまり誉めるなってばー」
69 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/21(日) 12:51:48.31 ID:v7LwU1XzO [14/47]
魔王「それじゃ、私は術式本体の本格的な準備始めるから、
立派な魔女っ子プリンセスになれるよう頑張ってね」
少女「は、はい!」
侍女「かならずや」
……バタン。
少女「……でも、具体的にはどうすれば……?」
侍女「心配は御無用でございます。
どうぞこちらへ」
73 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/21(日) 13:07:00.71 ID:v7LwU1XzO [15/47]
ガチャリ、……
……ゴゴゴゴ……ン……
少女「うわぁ……」
侍女「ここは魔王様の蒐集した魔導書、魔術書、またそれらの関連書籍の書庫です。
人間、妖精、魔族、竜族、その他魔力と文字を有したあらゆる種族の書籍が保管されています」
少女「ここで、魔導の勉強を……?」
侍女「左様にございます。
講師はわたくしめが僭越ながら勤めさせていただきますので、よろしくお願い致します」ペコリ
少女「よ、よろしくお願いします」ペコリ
75 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/21(日) 13:23:36.69 ID:v7LwU1XzO [16/47]
魔王「これをこう描いて、こっちまで線引いてー。
すーずをつーけたーら魔導式ー」キュキュキュー
ボォォオ……
魔王「よーし。後は魔法陣の上書きをして、と」
ドゴゴゴォォォン!!
魔王「うわおっ、なんだなんだ?
何やってんだあいつら。筆先が狂っちゃったよもー」
79 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/21(日) 13:38:22.07 ID:v7LwU1XzO [17/47]
魔王「どうしたー? 随分賑やかだな……って何この穴」
少女「あのあの、す、すみません! わたしが変なことしたから……」
魔王「大概変なことしてもこうはならないと思うんだけどなぁ。
ところであいつは?」
侍女「ただ今戻りました」
魔王「おー、お帰り。
どしたのさ、これ」
侍女「わたくしの判断ミスです。
魔導の才覚、杖の性能、ドレスの魔力補正……全て甘く見ていました」ゴトッ
魔王「その燭台は?」
侍女「これに、ごく初歩的な防御呪文を施す訓練をしていたのですが……」
魔王「ほうほう」
少女「私が間違ってその燭台を机から落としてしまって……」
魔王「ほう?」
侍女「そのまま魔力を込められた燭台が床を突き破って下へ下へ……」
魔王「なんと」
侍女「地下の魔力泉空洞まで落ちて行きました」
魔王「あんなとこまで?
ほとんど城の最深層じゃないか」
侍女「おそらく、燭台が全ての衝撃を反転したのではないかと……」
魔王「はっはっは、そりゃいきなり最終奥義だな」
82 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/21(日) 13:50:53.49 ID:v7LwU1XzO [18/47]
魔王「ちょっともう一回やってみてくれるかい?」
少女「え、あ、はい」
侍女「杖を構えて、燭台を想像して」
少女「えと……魔力に守られた燭台……守られた燭台……」パチッ……パキキッ……
魔王「あれ? 別にそんなに魔力込めないのな」
侍女「ですので、わたくしもこのようなことになるとは露ほども……」
少女「……一応、出来たとは思うんですけど……」
魔王「お、どれどれ」
侍女「魔王様、お気を付けて」
魔王「わかってるって。
んー?」ツンツン
バチンッ!!
魔王「いってぇー。すげーなこれ。
ちょっと下がっててくれ」
侍女「わかりました。
さぁ、わたくしの後ろへ」
少女「は、はい」
魔王「むむむ」……ォンォンォンオンオンォオンォオンォオンォオン
85 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/21(日) 14:11:22.41 ID:v7LwU1XzO [19/47]
魔王「ふー……
……どりゃあッ!」
バギィィィンッ!!
魔王「っと。どうなったかしらん?」
侍女「……ここに、僅かな傷が」
魔王「マジかよ。割と真面目にやったんだけどなー。
燭台に負ける魔王ってだせー」
侍女「しかし……なぜ僅かな魔力でここまで?」
魔王「うーむ。
多分、これはその超魔女っ子プリンセスちゃんの魔力じゃなくて、
燭台そのものの魔力だな。
燭台が衝撃を受けた瞬間だけ、銀が魔力変換されて衝撃を跳ね返してる」
侍女「燭台そのもの……ですか?」
魔王「銀なんかになると、魔力だけで作るのにはぶっとんだ量が要るだろう?
すると、逆にその銀を直接魔力に変換出来たら……」
侍女「凄まじい魔力量になる、と」
魔王「その変換式自体はちょっとした魔力で書けるから、こうなったわけだわな」
侍女「……才覚、ですか」
魔王「才覚ですな。
この子が勇者じゃなくてよかったよホント」
86 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/21(日) 14:15:50.39 ID:v7LwU1XzO [20/47]
少女「あ、あの……」
魔王「あぁ、気にしないでその調子でやっててくれたらいいよ。
私は作業に戻るから。あとよろしく」
侍女「かしこまりました」
魔王「がんばってねー」
少女「が、がんばりますっ」
……ズズゥゥゥウウン……
ドグォォオオオン……
魔王「どんどん勇者がハードモードになっていくな。ひひひ」キュキュキュー
93 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/21(日) 16:35:29.81 ID:v7LwU1XzO [22/47]
侍女「夕食の準備が出来ました」
魔王「おう。今行くわ。
なかなか派手にやってたみたいじゃないか」
侍女「魔力運用の最適化と言いますか……常に最も高い効率と方法に拠って魔力を使うので、
本人の意思にも反して非常に強力な魔導になるのだと」
魔王「しかも、あの子自身にも相当な量の潜在魔力があるしな。
まぁとりあえず飯にしよう。腹が減ってはなんとやらだ」
侍女「はい。
……ところで、勇者の行方なのですが」
魔王「うむ」
侍女「例の魔女の所に居るようです」
94 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/21(日) 16:40:28.88 ID:v7LwU1XzO [23/47]
魔王「うげ。マジかよ。
あいつなんでかんでも魔族より魔改造するからなぁ」
侍女「その分、時間は掛かるかと思われますが」
魔王「だな。
連中が来る前に、準備はさっさとやっちまうか」
侍女「しかるべく」
魔王「しっかし、あいつの悪ふざけで何回死にかけたかわからんぜ。
一番ろくでもないことに迷わず最大注力するから余計ろくでもない」
侍女「……」
魔王「やだなー、魔改造勇者。
あーやだやだ」
98 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/21(日) 16:48:08.33 ID:v7LwU1XzO [24/47]
ガチャリ、
魔王「やっほー」
侍女「お待たせ致しました」ペコリ
少女「いえ、そんな……」
魔王「まぁとりあえず食おうぜ。
連日訓練訓練で疲れたろう」
少女「えっと、多分この杖とドレスのおかげで、わたしはそんなに……」
魔王「そうなの?」
侍女「一気に大量の魔力を使うような術式はまだ使っていませんし、
杖とドレスによる自動治癒も相乗的に働いているかと」
魔王「見事なチートだなぁ。まぁそれなら安心だ。
食べよう食べよう」
少女「は、はい」
100 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/21(日) 16:56:14.70 ID:v7LwU1XzO [25/47]
ゴゴゴゴ……
勇者「ぐッ……う……がッ……」ミシミシミシミシミシ
魔女「歯ぁ食いしばれっつってんだろ。
オラ、そんなんで魔王に勝てると思ってんのか」
勇者「ぬぅうヴぅヴウ……ッ!」ミシミシミシミシミシ…ブチッ…ブツッ…
魔女「魔王の魔力はこんななまっちょろいもんじゃねぇーんだよ。
気合い入れろ気合い。両手両足ぐらいなんだ。
どーせ勝てないなら捨てちまえそんなもん」ガチャン
勇者「ヴッ……ふヴッ……ふヴぅううヴ……
ヴぅッ……うぅヴふッ……!!」ギリギリギリギリギリギリギリギリ
魔女「泣いてんじゃねぇーつーの。
人間やめろよさっさと。
でなきゃ辛いぞー」ガチャン
ガリガリガリガリガリガリガリガリ
ミシミシミシミシミシ……ミシミシミシミシミシ
ギィイイイイイイイイイイ…ブチッグチャッ
102 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/21(日) 16:59:11.90 ID:v7LwU1XzO [26/47]
勇者「……」
魔女「おっつー。
次はこの鍋に浸かっとけ。
良いって言うまで出んなよ。
まぁどうせその身体じゃ無理だろうが」
勇者「……」
グツグツグツグツ…ボコォ…ボココォ……
魔女「早くしろよ」
勇者「……」ズッ…ズッ…ズッ…ズッ……
……ボチャン
ジュウゥゥウウゥウ……
魔女「そろそろ晩飯にすっかな」
104 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/21(日) 17:06:35.55 ID:v7LwU1XzO [27/47]
ザパァア
魔女「おーおー、良い感じに茹で上がってんな。
後はこのイカす箱に入ってしばらく待ってろ。
名付けて『天使の棺』だ。ぐっすり寝れそうだろ?」
勇者「 」
魔女「多分悪夢見っぱなしになると思うが、魔王の魔術汚染に耐えるためだ。
諦めてうなされてろよ」
勇者「 」…グ…ャ…ッ
魔女「じゃねーおやすみー」
……バタン……
121 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/21(日) 19:24:10.54 ID:v7LwU1XzO [29/47]
魔女「で、216時間寝かせた天使の棺ごと鎧に装填する、と」
ガチャン……
魔女「魔導力学と錬金工学と生体工学、それからスパイスに燃え盛る憎悪を一人前。
これでとりあえず試作機完成だ。僕ってばやっぱり天才?」
勇者『……ァ……ガ……ガガ……』ギギギギ…
魔女「お? 神経接続が悪いみてぇーだな。ん? このへんか?
どっこらしょいッ」ガキンッ
勇者『うぉああああアアああああァアああああああッ!!
はぁッ、はぁッ、はぁッ……』ギギッ
魔女「おはよう、新生・魔装勇者。
最強に格好良くて最悪に醜いな。
つまりアレだ。最高だ」
勇者『これは……』ギッギッ
魔女「魔導装甲に直接人間を接続して駆動させるってやつよ。
どっかの国の魔導師がほったらかしにしてた研究資料を拝借して来て、
僕なりに改良した100万馬力のすげー代物だ。ありがたく思えよな」
勇者『……あぁ』
124 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/21(日) 19:29:50.75 ID:v7LwU1XzO [30/47]
魔女「で、早速だが起動実験だ。適当に飛ばすから適当に行ってこい。
その間に他のパーティーも一式揃えといてやんよ」ガチャン
勇者『うぉッ―――――』バシュゥッ
魔女「論理上、僕以外の魔導師になら400年先のやつまで楽勝出来ることになってっから。
実証よろしく」ヒラヒラ
……ガチャン、
魔女「もうちょい待ってろよー魔王。
すぐぶち殺しに行くからなー」
126 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/21(日) 19:40:07.00 ID:v7LwU1XzO [31/47]
魔王「……なんか寒気がしたが、気にしないことにしよう」
侍女「風邪などお召しになられては大変でございます。
どうか無理はなさらぬように御自愛くださいませ」
魔王「魔王も風邪引くのかねぇ。
まぁともかく、こっちの準備は完了だな。
後はあの超魔女っ子プリンセス次第だが……」
侍女「そろそろ、実戦訓練に移っても良いころかと」
魔王「だよな。
まぁあのぶっ飛びキチガイ魔女レベルの魔導師でもなけりゃ、
傷一つ付かないとは思うが」
侍女「とは言え、いずれ決戦の時が来ます。
万全を期すべきかと存じ上げます」
魔王「うむ。
とりあえずお前に任せるわ」
侍女「かしこまりました。しかるべく」ペコリ
130 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/21(日) 19:59:39.16 ID:v7LwU1XzO [32/47]
侍女「……なので、この魔導式を習得すれば、以降は実戦訓練に移行することと相成りました
少女「実戦……」
侍女「魔力によってあらゆるものを征服する実際的な訓練とでも申しましょうか」
少女「……」
侍女「有り体に言えば――――
――――刃向かうもの、楯突くものを全て木っ端微塵にする訓練でございます」
少女「!」ビクッ
侍女「ええ、存じ上げております。
あなた様ならば、そのような無益な殺生をされなくても、
相手を沈黙させる手段はいくらでも御用意できましょう。
……しかし、それでは駄目なのです。それではまだ足りません」
少女「足りない……?」
侍女「あなた様が、母君を蘇生させるために心に灯した『誓い』です」
少女「誓い……」
侍女「『生きる』と言うことは何者かを『殺す』と言うことでございます。
魔導はまさにこのような排他律に則って作用するものだと、
あなた様は既にお気付きになっておられるはず」
少女「……」
侍女「魔王様の命に従い、あなた様の燃え盛る誓いの炎を、確かめさせていただきます」
少女「……はい」
131 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/21(日) 20:11:41.60 ID:v7LwU1XzO [33/47]
魔王「いい感じに茨も育って来たな。
いかにも魔王の城って感じだ」
ミキ……メキメキ……
魔王「しっかし、因果なもんだなぁ。
母親を奪われた娘、か。
昔を思い出すぜ。
……あいつら上手くやってるかな?」
132 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/21(日) 20:38:47.38 ID:v7LwU1XzO [34/47]
――――ガシャン
魔女「お、帰って来たな」
勇者『……』
魔女「どうだったよ、試運転の方は? ん?
ちゃんと『動いてるものを見ると、憎悪がメラメラ湧いて止まらなくなった』か?」
勇者『……なぜ、俺をあんな所に飛ばした?』
魔女「あんな所?
それはつまり、『戦争もなく、魔族もいない、
豊かで穏やかな平和そのものの王国の首都』ってことか?」
勇者『……』
魔女「そりゃお前、決まってんだろ。
そっちのが面白いからだっつーの。
あの国じゃお前、魔王として語り次がれるぜ。
はははははははははッ」
勇者『……魔王……』
魔女「こいつはいよいよ傑作だなー発明品的な意味でよぉ。
平和ボケした国一個ぐらいなら、問題無く皆殺しの血祭りに出来る、と。
そんじゃこの調子で、次行ってみよう!」ガチャン
勇者『魔王……魔王……』ブツブツ……
――――バシュッ
134 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/21(日) 20:53:58.84 ID:v7LwU1XzO [35/47]
ザワザワ……
少女「ここは……?」
侍女「ある辺境の貧しい小さな国でございます。
もうすぐここは、あの赤い軍隊によって滅ぼされるでしょう」
少女「どうして……」
侍女「理由はいくらでもありますし、理由など必要ありません。
彼らは、彼らの国の赤い紋様を持たないものを全て敵だと判断し、憎悪しています」
少女「……」
侍女「じっとしていれば、あなた様も何人もの兵に犯され、殺されてしまうでしょう。
ここにいる国民たちも同じです。
……これ以上、わたくしから申し上げることはありません」
少女「……わかり……ました」バキッ……バリリッ……
侍女「御武運を」ペコリ
135 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/21(日) 21:00:01.08 ID:v7LwU1XzO [36/47]
――――ヴゥン
魔王「おっと、お帰りー」
侍女「ただ今戻りました」
少女「……」
魔王「……まぁ、無事で何よりだわな。
とりあえず飯にしよう」
侍女「今すぐ」
少女「わたしは……疲れたので……眠ります」
魔王「そうか。
じゃあ、飯は部屋まで付き添った後で」
侍女「かしこまりました。
さぁ、こちらへ」
少女「……」フラフラ……
魔王「うーむ。
ああなるのは、やはり人間と魔族の違いか」
136 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/21(日) 21:10:30.49 ID:v7LwU1XzO [37/47]
侍女「それでは、おやすみなさいませ」
少女「……」
侍女「……」
少女「……」
侍女「……きっと、魔王様があなたに魔導の力を託されたのは、
いずれあなたが母君と再開した時に、あなた様の手で、
守りたいものを守れるためだと……わたくしは考えております」
少女「……」
侍女「……失礼いたします」
……バタン
少女「……ママ……」
137 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/21(日) 21:18:12.19 ID:v7LwU1XzO [38/47]
魔女「よぉーしよしよし、連続試運転も問題無さそうだな。
メンテナンスで問題無けりゃ、もう何機か量産ラインに乗せて見るか。
棺の中身はもう確保してあるし」
勇者『……』
魔女「すっかり無口になったなぁ、オイ。
まぁ別にいいけど。
魔王城攻略まで秒読み開始だ」
勇者『……魔王……』ギギッ…
142 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/21(日) 21:44:46.27 ID:v7LwU1XzO [39/47]
魔王「いただきまーす」
少女「いただきます」
侍女「ごゆっくりどうぞ」
魔王「調子はどうだ?」
少女「はい、だいぶ慣れました」
魔王「そうか。そりゃ重畳。
多分そろそろだと思うんだよなー、連中が来るの」
少女「……」
魔王「だから、そろそろ仕上げに行こうかと思う。
実は冥界と竜界から、それぞれ結構ヤバい頼まれ事しててな。
うっかり地獄からはみ出たでっかい怨霊の退治と、
どっかで変なもん食ってイかれた狂竜の討伐だ。
これがこなせたらもう怖いもの無しだろう」
少女「はい。頑張ります」
魔王「これをキミに……って早いな。
まぁ、そう言うことだ。
今回は私が付いてくから、お前は留守番頼んだぞ」
侍女「かしこまりました。
道中お気をつけて」ペコリ
143 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/21(日) 22:15:24.61 ID:v7LwU1XzO [40/47]
魔王「最近、すっかり凛として来たな」
少女「そうですか?」
魔王「大魔導師の風格だ。
実際、人間界ではもう上から両手で数えられるぐらいの能力はあるだろう」
少女「杖とドレスのおかげです」
魔王「いや、キミ自身の資質。
でなきゃどんなに道具が良くても、ここまで使いこなせない」
少女「そう……なんでしょうか」
魔王「違いない。術式中の警備はもう安心して任せられる」
少女「……」
魔王「緊張してるのか?」
少女「いえ……
……一つ、聞いてもいいですか?」
魔王「ん?
構わんよ」
少女「このドレス……前は、どんな方が着ていたんですか?」
145 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/21(日) 22:30:36.91 ID:v7LwU1XzO [41/47]
魔王「……」
少女「夢で会ったんです。
このドレスを着た、綺麗な女の子と……
その子が、わたしに語り掛けてくれました」
魔王「……なんて言ってた?」
少女「『あの人はとても優しいから、周りで誰かが支えてあげないといけない』って。
そう言ってました」
魔王「そう、か」
少女「……」
魔王「……」
少女「……」
魔王「……それを着てたのは、妖精界第二皇女。
そのドレスは、その子が私の所に預けられた時に、魔界由来の障気から守るために私が仕立てたものだ」
149 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/21(日) 22:41:24.97 ID:v7LwU1XzO [42/47]
魔王「昔々、魔界がもっと野心的だった頃、魔界と妖精界は戦争していた。
でもそのうち互いに疲弊して、停戦協定が結ばれることになった。
その時に……まぁ魔界が優勢だったもんだから、
人質として第二皇女が私の城に来ることになったんだ」
少女「……」
魔王「あの子の母親は、戦いの中で死んだ。
私が殺したんだ」
少女「!」
152 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/21(日) 22:56:52.35 ID:v7LwU1XzO [43/47]
魔王「妖精界ではその時、どうも王権あたりで揉めてたらしくてな。
第二皇女の母親と第一皇女の母親が違うのが原因だったりしたらしいが……
とにかく、第二皇女の母親が最前線に立っていたのも、その辺りの問題なんだろう。
彼女は自分が死ねば戦争が収束に向かうことも解っていたようだった。
だから、わざわざ私に直接頼みに来たんだ。
『娘をお願いします』ってな。
人質として私の所に第二皇女を差し出すまでが、その母親の描いたシナリオだったんだろう。
って言うのも、実は私とその母親はちょっとした知り合いでな。
色々と因縁があったりしたんだが……まぁとにかく、そう言うわけだ」
少女「……」
魔王「それで、私の城に来たあの子は、開口一番私にこう言ったんだ。
『お母様を返して』ってな」
153 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/21(日) 23:06:55.68 ID:v7LwU1XzO [44/47]
少女「……それで、魔王さんは……?」
魔王「私は『わかった』と答えた。
かなり面食らってるみたいだったな。
ははは、今でも覚えてる」
少女「……」
魔王「ところが、ちょっと邪魔が入って、結局上手く行かなかったんだよな。
それに、その第二皇女も結局は……死んだ。
これはまぁ、事故みたいなもんだが……私が不甲斐なかった結果だ」
少女「魔王さん……」
魔王「死ぬ直前には、それなりに私を信頼してくれているようだった。
死ぬ瞬間も、私の身を案じてくれていた。
優しい子だったな……
……って、なんか辛気臭い話になっちゃったな。ごめんごめん」
154 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/21(日) 23:15:25.71 ID:v7LwU1XzO [45/47]
少女「……わたし、わかります。
その子の気持ち」
魔王「そうかい?」
少女「難しいことはよくわからないけど……魔王さんは、いい人だと思います」
魔王「魔王がいい人なんて言われたら、面目丸潰れだなぁ」
少女「わたしは、魔王さんの役に立ちたいです。
今はまだ未熟ですけど、きっといつか、侍女さんみたいに……」
魔王「はは、そりゃいいや。
期待してるよ」
少女「はい!」
魔王「とか言ってる間に、もうすぐ城だな。
着いたら丁度飯の時間だ」
少女「そうですね。楽しみです、侍女さんのご飯」
魔王「な。うまいよな、あれ」
156 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/21(日) 23:29:15.92 ID:v7LwU1XzO [46/47]
【留守みたいだからまた来る
魔王なんだから城に居ろっつーの!
追伸:邪魔な茨とメイドは燃えるゴミに出しておきました。
僕って優しい!
追伸2:メイドの首が「申し訳ありませんでした」
「今までありがとうございました」だってさー】
少女「……これ……」
魔王「あっちゃー。
城壁にでっかい落書きしやがってあの馬鹿」
少女「侍女さん……」
魔王「うーむ。
あいつとも結構長い付き合いだったんだが……仕方ないな」
少女「……」
魔王「次、連中が来た時は、熱烈歓迎パーティーだ。
なぁ?」ビキッ…バキンッ…バチチッ…
少女「はい」バギギッ……ビリッ…バチンッ…
161 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/21(日) 23:48:40.42 ID:v7LwU1XzO [47/47]
魔王「とは言え、準備はもう出来てるんだよなー。
あとはいつ連中が来るかなんだが」
少女「こちらから行くのは?」
魔王「誰かが面倒見てないと、蘇生術式の魔法陣が壊れちゃうんだよね。
だからそれはちょっと不味い。
術式の性質的に、一回壊れると組み直しに何百年も掛かる」
少女「そうですか……」
魔王「いっそ、ママさんをさっさと蘇生しちゃうってのもありかもな。
元々その間を警護してもらうって話だったし。
あー、でもあの腐れ魔女が相手となると、キミだけじゃちょっと不安かなぁ。
あいつがあっさりやられるぐらいとなるとさすがに……」
少女「……」
魔王「でも、二人で戦いに出ると、魔法陣が無防備になるのが問題だし。
こりゃ弱ったな」
少女「なんとかわたしに出来る範囲で――――」
ドッガァァァアアアァアン!!
164 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/22(月) 00:04:16.84 ID:W8TOKAywO [1/25]
魔王「全くあいつらはいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつも
狙いすましたように無粋なタイミングで来やがって」
少女「どうします?」
魔王「とりあえず様子を見に行くか。
防御呪文と結界呪文、張っときなよ」
少女「はい」ポォ…
魔女『魔王ー! 来てやったぞー!
さっさと出迎えやがれー!』キィィィン
魔王「うっせーなバーカバーカ。
今行くっての」
165 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/22(月) 00:14:57.17 ID:W8TOKAywO [2/25]
魔王「近所迷惑だろうが馬鹿やろうこの野郎」
少女「……」
魔女『やっと来たか!』キィィィン
勇者『……』
魔王「だー、うっせぇーよバカ。
消せ。それ消せ。今すぐ消せ」
魔女「バカはてめぇだこの馬鹿野郎!」カチッ
魔王「なんだとこの腐れ魔女」
魔女「お前また蘇生術式使おうとしてるだろ!
勇者に聞いたぞ!」
魔王「だったらなんだってんだよ」
魔女「……そのガキの母親を蘇生させるのか?」
魔王「あぁ」
魔女「それでそのドレス……かぁあああ!
お前本ッッッ当に馬鹿だなー!
この大馬鹿魔王ーッ!!」
魔王「何回も何回も何回も何回も馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿言うんじゃねぇーよ。
それも大声で。傷付くだろうが」
166 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/22(月) 00:25:47.34 ID:W8TOKAywO [3/25]
魔女「反省しないやつは間違い無く馬鹿だっつってんだろーが!
前回僕があれだけ言ったのにまーだおんなじことやんのかてめぇーは!」
少女「前回……?」
魔王「……」
魔女「おいそこのガキぃ!
お前、この術式の発動手順、ちゃんと知ってんだろうなー!」
少女「手順……」
魔女「やっぱり! ほらみろやっぱりそーだ!
やっぱり全然反省してねぇーじゃねぇーか馬鹿魔王!」
魔王「だから馬鹿って言うなっての」
魔女「魔導はなぁ、『選ぶ』か『選ばない』か!
『拾う』か『捨てる』か!
『生きる』か『殺す』か!
蘇生術式を使ったら、その馬鹿魔王が代わりに死ぬんだぞーッ!!」
少女「……えっ……?!」バッ
魔王「あーあ、ホント間の悪いやつ」
175 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/22(月) 00:49:50.46 ID:W8TOKAywO [4/25]
――――数百年前
皇女『これでいいのです……
お母様も……あなたの死を望んではいません』
魔王『……』
皇女『……そんな顔をしないでくださいな。
わたしはなにも怖くありません……お母様ともうすぐ……もうすぐ会えるのですから……』
魔王『私は、私は何もしてやれなかった』
皇女『あなたはわたしと、わたしのお母様に、多くのものをくれました……
……今ならそれがわかります』
魔王『私は……』
皇女『それから……どうか、魔女さんを責めないでください……
あの方の気持ちも……よくわかります……』
魔王『……』
皇女『お身体に気を付けて……
……いつか……誰もが幸せな世界で……会い……た……』
魔王『……』ギュッ…
177 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/22(月) 00:56:38.22 ID:W8TOKAywO [5/25]
魔女『なぁオイ……その、なんつーか……悪かったよ、うん』
魔王『……いや、いい』
魔女『そりゃ、僕だっていっつもてめぇーのことぶっ殺すために色々やってたけどよー……』
魔王『だからいいって』
魔女『ぶっ殺したいほど気に入ってるやつが自殺なんかしようとしてたら……
……何やってでも止めるだろ?』
魔王『……』
魔女『……じゃあ、僕は帰るからな。
また来る。てめぇーをぶっ殺しに』
魔王『……あぁ……待ってる』
……――――
205 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/22(月) 13:00:58.39 ID:W8TOKAywO [8/25]
魔女「――――とにかくッ!
てめぇーが勝手に死ぬぐらいだったら僕が百回ぶっ殺す!
スイッチオーンッ! 行けッ、新生・極悪魔装勇者御一行ッ!!」ガチャーン!
勇者『ぅヴッ……ま・ォヴ……魔王ォォオオオッ!』ギリギリギリギリ
少女「えっ、うわっ、け、結界っ!」
バチバチバチバチッ
勇者『魔王ォォオオオォォオオォォァァアアアアァアォオオォオオォッ!!』
バチバチバチバチ……バリッ……バギンッ!
少女「破ら……?!
ぐッ……九式九重結界ッ!」
魔女「オラッ!
破城鎚出せお前らッ!
突き破れッ!!」
勇者『通ッッッ……ッッッせェエエェエエッ』バリィィィイン!
206 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/22(月) 13:05:15.91 ID:W8TOKAywO [9/25]
少女「十分時間は稼げた!
『止まれ』ッ!!」
勇者『ォアアッ?!』ガグンッ
魔女「装甲に直接魔導式を書き込んで……っつーかお前邪魔すんじゃねぇーよッ!
魔王が死んでもいーのかよッ!!」
少女「そっ……それは……」
勇者『ガァ……ァアアァアアッ!』ギ…ギギッ…バギンッ!
少女「しまっ――――」
魔王「『止まれ』。」
勇者『――――』ビタッ
魔女「魔王……てめぇー、いい加減にしろよ……
てめぇーの糞ったれた感傷で僕以外のやつを巻き込むんじゃねぇーよッ!」
魔王「……」
少女「ま、魔王さん……」
207 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/22(月) 13:07:36.15 ID:W8TOKAywO [10/25]
魔王「なぁ、糞魔女」
魔女「……なんだよ大馬鹿魔王」
魔王「実はもう術式発動してるんだわ」
少女「なっ」
魔女「……え?」
魔王「この子がだいぶ時間稼いでくれたから、加速術式も追加できたしな。
要するに、もうあとしばらくしたら俺は死ぬ」
208 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/22(月) 13:10:13.55 ID:W8TOKAywO [11/25]
魔女「……ついに馬鹿が高じて死ぬことになったか……」
魔王「お前に殺されるのもいいかと思ったけどさ、
ちょっと落ち着いて喋らないか? 久しぶりに。せっかくだしさ」
魔女「……」
少女「……」
魔王「こっち来いって、いいから」
魔女「……魔王……」
魔王「よし、もっとこっちだ。
ちゃんと近くで顔見せろ」
魔女「まお、う……ぅ……うっ……」ポロポロ
魔王「とここで鉄拳制裁ッ!」ゴッチーン!
魔女「いってぇッ! なにすんだ馬鹿ーッ」グシグシ
魔王「それは侍女の分だ。マジで腹立ったからな」
少女「……えいッ」ゴッチーン!
魔女「なっ、なっ、このクソガキッ!」
少女「私も腹立ったんで」
魔王「ひひひ。正当な権利だよな?」
少女「当然です」
209 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/22(月) 13:16:54.30 ID:W8TOKAywO [12/25]
魔女「お前あとで絶対ぶっ殺す!」
少女「やれるものならどうぞ」
魔王「後任者ができて安心だわ」
魔女「こんなクソガキじゃ8秒も保たねぇーよ」
魔王「いやいや、少なくとも200年は保つな。
俺が死んだら俺の魔力200年分、キミに譲渡することになってるから」
少女「は、……はい?」
魔王「いきなりだけど、まぁ魔王代理ってことでよろしく。
じきに魔界で次の魔王がちゃんと決まるからさ。
それまで、キミはキミのやりたいことをやればいい。
ママさんとのんびり暮らすもよし、冒険に出るもよし、
魔導魔術を極めるもよし、魔王やるのももちろんよし」
魔女「むちゃくちゃだ……」
少女「……」
212 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/22(月) 13:35:05.93 ID:W8TOKAywO [13/25]
魔王「まぁ大概のことは出来るぜ。
キミ、じきに下手な魔王より強くなるだろうし」
少女「……わたしは……世界を変えたいです」
魔王「ほほう」
少女「もっと魔導を勉強して、もっと世界のことを勉強して、
それから魔王さんも妖精のお姫さまも笑って暮らせるような、
そんな世界をつくりたいです」
魔王「そりゃいいや。期待してるよ。
キミなら世界でも変えられるだろう」
少女「はい!」
214 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/22(月) 13:49:48.09 ID:W8TOKAywO [14/25]
魔王「で、お前はどうすんの?」
魔女「……まずこのクソガキをぶっ殺す。
そん次に地獄に居るお前らをもっかいぶっ殺す。
邪魔するやつは全員――――ってもう居ねぇ?!」
少女「!」
魔女「あいつ最後まで人を舐め腐った態度しやがって絶対許さねぇーからなーッ!」
少女「……」
魔女「ちくしょおおおッ! 絶対勝ち逃げなんかさせてやるもんかッ!
今に見てろーッ!!」ポロポロ…
少女「魔女さん」
魔女「はぁッ?!
な、なんだよッ! 泣いてねぇーよッ! こっち見んなよッ!」グシグシグシグシ
少女「わたしに魔導を教えてください」
魔女「ふざけんなこのやろーッ!!」
――――魔装勇者御一行を引き連れた史上最悪のキチガイ魔女と、
魔王の魔力たっぷり200年分を受け継いだ史上最強の幼い魔女は、
たまに殺し合いをしながら魔界・冥界・竜界・妖精界それぞれの辺境で、
文字通り人知を超えたとんでもない冒険をすることになる。
しかし、それはまた別のお話――――
215 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/22(月) 13:50:45.14 ID:W8TOKAywO [15/25]
終わり。
ファンタジーもんなんか初めて書いた。
220 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/22(月) 13:57:42.31 ID:6hi1TdcUO [2/4]
スマン
一つ訊きたいんだが、少女が戦ったのは赤い軍隊だよな?
226 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/11/22(月) 14:38:34.63 ID:W8TOKAywO [16/25]
>>220
そう。
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