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純「白い部屋」梓「・・・」
1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/20(土) 23:24:02.55 ID:4a/h3zGy0 [1/10]
純「あれ、ここは?」
気がつくとそこは真っ白な部屋。
置いてあるものがひとつもない。ただただ、真っ白。
純「・・・とりあえず出口を探そう」
ない。出口どころか壁の継ぎ目すら見当たらない。
いったいここはどこだというのか。
そもそも私はどこからここへ・・・?
純「天井、とか?」
呟いて、見上げた天井も真っ白。
高い天井は照明もなく、ただ真っ白。
純「あれ、ここは?」
気がつくとそこは真っ白な部屋。
置いてあるものがひとつもない。ただただ、真っ白。
純「・・・とりあえず出口を探そう」
ない。出口どころか壁の継ぎ目すら見当たらない。
いったいここはどこだというのか。
そもそも私はどこからここへ・・・?
純「天井、とか?」
呟いて、見上げた天井も真っ白。
高い天井は照明もなく、ただ真っ白。
2 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/20(土) 23:33:15.10 ID:4a/h3zGy0 [2/10]
純「・・・どうなってるの?」
そのときだった。
ドサッ
落下音が響く。
落ちてきたのは
梓「・・・。」
私の親友だった。
彼女のもとへ駆け寄る。
純「あずさ、どうやってここへ?」
梓「・・・?」
尋ねる私を不思議そうに見つめる梓。
3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/20(土) 23:34:53.26 ID:4a/h3zGy0
純「あずさ・・・?」
梓「・・・」
何も答えない。
ただ首をかしげて私を見つめている。
こうしてみると本当の猫みたいだ。
純「あずさ、返事してよ。」
梓「・・・」
私を見つめたまま一言も発しない。
純「なにそれ、意味わかんない。」
あきらめて、梓のそばにどっかりと腰を下ろす。
しばし沈黙。
4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/20(土) 23:36:57.33 ID:4a/h3zGy0
しばらくして口を開くのはやっぱり私。
純「おなかすいたね」
梓「・・・」
返事を期待せずに呟くように言う。
親友は腕をまくって私の前に差し出した。
純「どういうこと?」
梓「・・・」
無言。
純「まさか、食べろってこと・・・なわけないか。」
5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/20(土) 23:38:39.82 ID:4a/h3zGy0
そのときだった。
梓「・・・」
私の言葉に、梓がうなずいた。
純「え?ウソでしょ?」
梓「・・・」
無言。
無言で私を見つめている。
純「あずさ、いい加減にしないと怒るよ?」
梓「・・・」
黙ってじっとしている梓は日本人形みたいだ。
6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/20(土) 23:40:08.18 ID:4a/h3zGy0
純「あずさ、私をからかってるんでしょ?」
梓「・・・」
立ち上がり、じりじりと彼女に詰め寄る。
純「そっちがその気なら私にも考えがあるよ。」
彼女に飛びかかる。
そのまま押し倒すと
純「くすぐり攻撃ぃ!どうだ、参ったか!」
梓のわき腹をくすぐる。
7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/20(土) 23:41:03.14 ID:4a/h3zGy0
せめて。
せめて彼女の笑い声が聞けたら。
せめて。
せめて一声でいい。何か声を出してくれたら。
梓「・・・」
私の願いもむなしく、一言も発さない。
ただ人形のように、されるがまま。
純「はぁ、はぁ・・・」
くすぐり疲れて、荒い息を整える私。
あれだけくすぐられて息ひとつ乱さない梓。
10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/20(土) 23:50:37.72 ID:4a/h3zGy0
純「どうなってるの・・・?」
明らかにおかしい。
あまりにも奇妙な状況。
でも・・・
純「考えたってどうせわかんないよね。」
ごろん、と大の字になってみる。
広くて、大きな白い部屋。
見上げた天井が高い。
高すぎた。
純「おなかすいたな」
ふうっと息を吐いて、また呟く。
11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/20(土) 23:58:16.22 ID:4a/h3zGy0
ぬっ
私の目の前には、可愛い細い腕。
梓「・・・」
親友が、立っていた。
純「何、やっぱり食べろって言うの?」
梓がうなずく。
私は溜息をついて言った。
純「じゃあちょっとだけ、ご馳走になろうかな。」
この部屋を、この梓を受け入れつつあるのかもしれない。
13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/21(日) 00:04:08.19 ID:4a/h3zGy0 [10/10]
立ち上がって、梓と向かい合う。
むき出しになった細い腕は、私に差し出されたままだ。
そうっと、その腕を掴む。
甘い香り。
触れた肌はすべすべとしていて柔らかい。
純「いただきまーす。」
まずは味見。
ペロッと舌を出して、舐めてみる。
純「あれ・・・?」
想像していた味ではなかった。
14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/21(日) 00:17:41.85 ID:DgLBL+mf0 [1/12]
甘い。
ひどく甘い。
人の肌とは、しょっぱく、そしてほのかに甘いものではなかったか。
ひどく甘い。
その甘さは、苺ショートに使われるホイップクリームを思い出させた。
純「もう一口・・・」
確認のため、もう一度舐めてみる。
甘い。
もう一度舐めてみる。
甘い。
甘い。
17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/21(日) 00:29:39.59 ID:DgLBL+mf0 [2/12]
もう一度舐めてみる。
もう一度。
もう一度。
私はもう、この味の虜になっていた。
純「おいしいよ、あずさ。」
梓「・・・」
何も答えない。
しかしその表情は、心なしか喜んでいるように見えた。
純「あずさ、かじってもいい?」
なぜこんな味がするのか、という疑問はとうに忘れてしまった。
今私にある疑問は
歯を立てて、彼女の皮膚を破った先はどのような味がするのだろうか?
それだけだった。
19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/21(日) 00:36:24.19 ID:DgLBL+mf0 [3/12]
いや、もうひとつあった。
私が噛み付いたら、梓はどんな表情をするだろう?
さすがの梓も、苦痛に顔を歪めるのだろうか。
私は親友のどんな変化も見逃すまいと、その顔をじっと見つめながら
歯を立てた。
プツリ
以外にも、皮膚はあっさり破れた。
そこにあるはずの弾力はまったく感じられない。
ジュゥ
破った皮膚から赤い汁があふれ出る。
私はそれを無我夢中で啜った。
25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/21(日) 01:02:57.03 ID:DgLBL+mf0 [4/12]
純「・・・おいしい。」
これは、なんだろう。
血ではない。
ジャムのような味。
イチゴジャムのような味。
甘い。
甘酸っぱい。
ズルズルと啜っていると
グニャリ
握った腕がぐにゃぐにゃになっているのに気付いた。
湿ったスポンジケーキのような感触。
26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/21(日) 01:08:23.13 ID:DgLBL+mf0 [5/12]
中身を啜ったせいだろうか。
気味が悪くなって、慌てて手を離す。
ドチャ
ジャム入りショートケーキは地面に落ちた。
私は地面に這いつくばるとそれを夢中になってむさぼった。
純「おいしい、おいしいよ。」
梓のことを忘れて夢中で食べる。
不思議なことに、食べれば食べるほど食欲は増していった。
27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/21(日) 01:13:41.99 ID:DgLBL+mf0 [6/12]
純「あずさぁ!」
地面に落ちた腕をあらかた食べ終えると梓を見上げる。
相変わらずの無表情。
無言で私を見下ろしている。
そういえば
梓の腕に噛み付いた瞬間、彼女の表情は
ニンマリ笑っていた。
気味が悪くなった私は、そろそろとあとずさりをはじめる。
梓は全く動かない。
相変わらずの無表情。
28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/21(日) 01:21:51.02 ID:DgLBL+mf0 [7/12]
次の瞬間
私は梓に遅いかかっていた。
小さな体を押し倒し、もうひとつの腕へ歯を突き立てる。
もうためらいはない。
プツリ
ジュヮ
とめどなく溢れるジャムの甘酸っぱさに、生クリームの甘みが際立った。
親友の細い腕をシャグシャグと、無心に食べ進めていく。
ほどなくして小さな両腕は私の腹の中に納まった。
29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/21(日) 01:28:50.80 ID:DgLBL+mf0 [8/12]
口の周りを舐めながら、梓の顔を見る。
純「・・・どうして?」
微笑んでいた。
今までに見たことがないほど優しい微笑をたたえている親友がそこにいた。
純「あずさ、私はなんてこと・・・」
梓「・・・」
何も答えない。
息遣いすら、感じられなかった。
30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/21(日) 01:34:34.59 ID:DgLBL+mf0 [9/12]
純「あずさ、もしかして・・・」
梓「・・・」
私の言葉を先読みしたのだろうか。
言い終わらないうちに梓が首を横に振る。
純「生きてるの?」
梓がうなずく。
純「私に食べられて、平気なの?」
梓がうなずく。
純「どうして梓はケーキの味がするの?」
梓は何も答えない。
純「どうしてすごく甘くておいしいの?」
梓は何も答えない。
31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/21(日) 01:46:56.76 ID:DgLBL+mf0 [10/12]
純「耳はどんな味がするの?」
梓は何も答えない。
代わりに、舌にまとわりつく爽やかな甘みと、苦味が私に教えてくれた。
耳はチョコレートケーキ。
純「おいしいよ、あずさ。」
チラッと見たその顔は
今まで見たことがないほどの笑顔で歪んでいた。
気味が悪くなった私は慌てて彼女から離れる。
しかし次の瞬間、彼女の太ももにかぶりついていた。
どうやら、私の気味が悪い、という感情は簡単に食欲に負けてしまうらしい。
33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/21(日) 01:56:59.65 ID:DgLBL+mf0 [11/12]
もはや私の食欲は歯止めが聞かなくなっていた。
梓の太ももにかぶりつく。
ジュゥ
あふれ出てきた汁を夢中で啜る。
カスタードクリームの味がした。
皮膚の表面は・・・チョコレート。
どうやら彼女の足の部分はエクレアであるらしかった。
シャグシャグ食べ進める。
おいしい。
甘い。
36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/21(日) 02:06:34.77 ID:DgLBL+mf0 [12/12]
腕に続き、二本の足さえも食べ終えたはずの私の食欲はいまだ満たされることがなかった。
いや、正確には食欲はどんどん増しているのだ。
食べたい。
食べたい。
梓「おいしい?」
梓が尋ねる。
純「うん。すごくおいしいよ。」
私が答える。
梓はそれを聞いてニンマリ笑った。
純「あずさ、今度はおなかを食べるからね。」
言い終わらないうちに、私は梓の体を食べはじめる。
胴体はモンブラン味。
面白いことに、内臓はクッキー、マドレーヌなど、それぞれ味が違う。
38 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/21(日) 02:17:13.53 ID:DgLBL+mf0
純「おいしいよ、おいしいよ、あずさ。」
かぶりついた乳房の味はエッグタルト。
梓「えへへ。」
満足そうな梓。
その瞳を大きく見開いて、口元を大きく広げて笑っている。
純「このケーキおいしいよ?あずさも一緒に食べようよ。」
モチャモチャとケーキを咀嚼しながら、私が言った。
梓「私はいらない。純が食べなよ。」
純「遠慮するなんてあずさらしくないよ?お腹でも壊した?」
梓は首を振る。
純「こんなにおいしいのに。ところであずさ、このケーキどこで買ってきたの?」
41 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/21(日) 02:35:32.56 ID:DgLBL+mf0
言いながら、私はケーキの首筋にかぶりつく。
梓は何も答えなかった。
純「ケーキおいしい。おいしい。」
少しずつ、少しずつ、自我が失われていく。
自分がどこにいるのか
自分が何を食べているのかもわからない。
聴覚も、味覚も、視覚も、嗅覚もマヒした体で
ただケーキを貪り続ける。
最後に自分が何者なのか忘れた瞬間、私は本当の意味で楽になった。
45 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/21(日) 02:41:32.58 ID:DgLBL+mf0
琴吹製薬が引き起こしたウイルス災害から一週間。
感染者たちはかつての友を貪りながら何を思うのか。
あるものは彼らに感情などないと主張する。
あるものは心の中で涙を流していると主張する。
だが彼らが本当に何を思い、また何を感じているのか。
それを知る者は言葉を持たない。
終わり
純「・・・どうなってるの?」
そのときだった。
ドサッ
落下音が響く。
落ちてきたのは
梓「・・・。」
私の親友だった。
彼女のもとへ駆け寄る。
純「あずさ、どうやってここへ?」
梓「・・・?」
尋ねる私を不思議そうに見つめる梓。
3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/20(土) 23:34:53.26 ID:4a/h3zGy0
純「あずさ・・・?」
梓「・・・」
何も答えない。
ただ首をかしげて私を見つめている。
こうしてみると本当の猫みたいだ。
純「あずさ、返事してよ。」
梓「・・・」
私を見つめたまま一言も発しない。
純「なにそれ、意味わかんない。」
あきらめて、梓のそばにどっかりと腰を下ろす。
しばし沈黙。
4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/20(土) 23:36:57.33 ID:4a/h3zGy0
しばらくして口を開くのはやっぱり私。
純「おなかすいたね」
梓「・・・」
返事を期待せずに呟くように言う。
親友は腕をまくって私の前に差し出した。
純「どういうこと?」
梓「・・・」
無言。
純「まさか、食べろってこと・・・なわけないか。」
5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/20(土) 23:38:39.82 ID:4a/h3zGy0
そのときだった。
梓「・・・」
私の言葉に、梓がうなずいた。
純「え?ウソでしょ?」
梓「・・・」
無言。
無言で私を見つめている。
純「あずさ、いい加減にしないと怒るよ?」
梓「・・・」
黙ってじっとしている梓は日本人形みたいだ。
6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/20(土) 23:40:08.18 ID:4a/h3zGy0
純「あずさ、私をからかってるんでしょ?」
梓「・・・」
立ち上がり、じりじりと彼女に詰め寄る。
純「そっちがその気なら私にも考えがあるよ。」
彼女に飛びかかる。
そのまま押し倒すと
純「くすぐり攻撃ぃ!どうだ、参ったか!」
梓のわき腹をくすぐる。
7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/20(土) 23:41:03.14 ID:4a/h3zGy0
せめて。
せめて彼女の笑い声が聞けたら。
せめて。
せめて一声でいい。何か声を出してくれたら。
梓「・・・」
私の願いもむなしく、一言も発さない。
ただ人形のように、されるがまま。
純「はぁ、はぁ・・・」
くすぐり疲れて、荒い息を整える私。
あれだけくすぐられて息ひとつ乱さない梓。
10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/20(土) 23:50:37.72 ID:4a/h3zGy0
純「どうなってるの・・・?」
明らかにおかしい。
あまりにも奇妙な状況。
でも・・・
純「考えたってどうせわかんないよね。」
ごろん、と大の字になってみる。
広くて、大きな白い部屋。
見上げた天井が高い。
高すぎた。
純「おなかすいたな」
ふうっと息を吐いて、また呟く。
11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/20(土) 23:58:16.22 ID:4a/h3zGy0
ぬっ
私の目の前には、可愛い細い腕。
梓「・・・」
親友が、立っていた。
純「何、やっぱり食べろって言うの?」
梓がうなずく。
私は溜息をついて言った。
純「じゃあちょっとだけ、ご馳走になろうかな。」
この部屋を、この梓を受け入れつつあるのかもしれない。
13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/21(日) 00:04:08.19 ID:4a/h3zGy0 [10/10]
立ち上がって、梓と向かい合う。
むき出しになった細い腕は、私に差し出されたままだ。
そうっと、その腕を掴む。
甘い香り。
触れた肌はすべすべとしていて柔らかい。
純「いただきまーす。」
まずは味見。
ペロッと舌を出して、舐めてみる。
純「あれ・・・?」
想像していた味ではなかった。
14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/21(日) 00:17:41.85 ID:DgLBL+mf0 [1/12]
甘い。
ひどく甘い。
人の肌とは、しょっぱく、そしてほのかに甘いものではなかったか。
ひどく甘い。
その甘さは、苺ショートに使われるホイップクリームを思い出させた。
純「もう一口・・・」
確認のため、もう一度舐めてみる。
甘い。
もう一度舐めてみる。
甘い。
甘い。
17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/21(日) 00:29:39.59 ID:DgLBL+mf0 [2/12]
もう一度舐めてみる。
もう一度。
もう一度。
私はもう、この味の虜になっていた。
純「おいしいよ、あずさ。」
梓「・・・」
何も答えない。
しかしその表情は、心なしか喜んでいるように見えた。
純「あずさ、かじってもいい?」
なぜこんな味がするのか、という疑問はとうに忘れてしまった。
今私にある疑問は
歯を立てて、彼女の皮膚を破った先はどのような味がするのだろうか?
それだけだった。
19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/21(日) 00:36:24.19 ID:DgLBL+mf0 [3/12]
いや、もうひとつあった。
私が噛み付いたら、梓はどんな表情をするだろう?
さすがの梓も、苦痛に顔を歪めるのだろうか。
私は親友のどんな変化も見逃すまいと、その顔をじっと見つめながら
歯を立てた。
プツリ
以外にも、皮膚はあっさり破れた。
そこにあるはずの弾力はまったく感じられない。
ジュゥ
破った皮膚から赤い汁があふれ出る。
私はそれを無我夢中で啜った。
25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/21(日) 01:02:57.03 ID:DgLBL+mf0 [4/12]
純「・・・おいしい。」
これは、なんだろう。
血ではない。
ジャムのような味。
イチゴジャムのような味。
甘い。
甘酸っぱい。
ズルズルと啜っていると
グニャリ
握った腕がぐにゃぐにゃになっているのに気付いた。
湿ったスポンジケーキのような感触。
26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/21(日) 01:08:23.13 ID:DgLBL+mf0 [5/12]
中身を啜ったせいだろうか。
気味が悪くなって、慌てて手を離す。
ドチャ
ジャム入りショートケーキは地面に落ちた。
私は地面に這いつくばるとそれを夢中になってむさぼった。
純「おいしい、おいしいよ。」
梓のことを忘れて夢中で食べる。
不思議なことに、食べれば食べるほど食欲は増していった。
27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/21(日) 01:13:41.99 ID:DgLBL+mf0 [6/12]
純「あずさぁ!」
地面に落ちた腕をあらかた食べ終えると梓を見上げる。
相変わらずの無表情。
無言で私を見下ろしている。
そういえば
梓の腕に噛み付いた瞬間、彼女の表情は
ニンマリ笑っていた。
気味が悪くなった私は、そろそろとあとずさりをはじめる。
梓は全く動かない。
相変わらずの無表情。
28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/21(日) 01:21:51.02 ID:DgLBL+mf0 [7/12]
次の瞬間
私は梓に遅いかかっていた。
小さな体を押し倒し、もうひとつの腕へ歯を突き立てる。
もうためらいはない。
プツリ
ジュヮ
とめどなく溢れるジャムの甘酸っぱさに、生クリームの甘みが際立った。
親友の細い腕をシャグシャグと、無心に食べ進めていく。
ほどなくして小さな両腕は私の腹の中に納まった。
29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/21(日) 01:28:50.80 ID:DgLBL+mf0 [8/12]
口の周りを舐めながら、梓の顔を見る。
純「・・・どうして?」
微笑んでいた。
今までに見たことがないほど優しい微笑をたたえている親友がそこにいた。
純「あずさ、私はなんてこと・・・」
梓「・・・」
何も答えない。
息遣いすら、感じられなかった。
30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/21(日) 01:34:34.59 ID:DgLBL+mf0 [9/12]
純「あずさ、もしかして・・・」
梓「・・・」
私の言葉を先読みしたのだろうか。
言い終わらないうちに梓が首を横に振る。
純「生きてるの?」
梓がうなずく。
純「私に食べられて、平気なの?」
梓がうなずく。
純「どうして梓はケーキの味がするの?」
梓は何も答えない。
純「どうしてすごく甘くておいしいの?」
梓は何も答えない。
31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/21(日) 01:46:56.76 ID:DgLBL+mf0 [10/12]
純「耳はどんな味がするの?」
梓は何も答えない。
代わりに、舌にまとわりつく爽やかな甘みと、苦味が私に教えてくれた。
耳はチョコレートケーキ。
純「おいしいよ、あずさ。」
チラッと見たその顔は
今まで見たことがないほどの笑顔で歪んでいた。
気味が悪くなった私は慌てて彼女から離れる。
しかし次の瞬間、彼女の太ももにかぶりついていた。
どうやら、私の気味が悪い、という感情は簡単に食欲に負けてしまうらしい。
33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/21(日) 01:56:59.65 ID:DgLBL+mf0 [11/12]
もはや私の食欲は歯止めが聞かなくなっていた。
梓の太ももにかぶりつく。
ジュゥ
あふれ出てきた汁を夢中で啜る。
カスタードクリームの味がした。
皮膚の表面は・・・チョコレート。
どうやら彼女の足の部分はエクレアであるらしかった。
シャグシャグ食べ進める。
おいしい。
甘い。
36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/21(日) 02:06:34.77 ID:DgLBL+mf0 [12/12]
腕に続き、二本の足さえも食べ終えたはずの私の食欲はいまだ満たされることがなかった。
いや、正確には食欲はどんどん増しているのだ。
食べたい。
食べたい。
梓「おいしい?」
梓が尋ねる。
純「うん。すごくおいしいよ。」
私が答える。
梓はそれを聞いてニンマリ笑った。
純「あずさ、今度はおなかを食べるからね。」
言い終わらないうちに、私は梓の体を食べはじめる。
胴体はモンブラン味。
面白いことに、内臓はクッキー、マドレーヌなど、それぞれ味が違う。
38 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/21(日) 02:17:13.53 ID:DgLBL+mf0
純「おいしいよ、おいしいよ、あずさ。」
かぶりついた乳房の味はエッグタルト。
梓「えへへ。」
満足そうな梓。
その瞳を大きく見開いて、口元を大きく広げて笑っている。
純「このケーキおいしいよ?あずさも一緒に食べようよ。」
モチャモチャとケーキを咀嚼しながら、私が言った。
梓「私はいらない。純が食べなよ。」
純「遠慮するなんてあずさらしくないよ?お腹でも壊した?」
梓は首を振る。
純「こんなにおいしいのに。ところであずさ、このケーキどこで買ってきたの?」
41 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/21(日) 02:35:32.56 ID:DgLBL+mf0
言いながら、私はケーキの首筋にかぶりつく。
梓は何も答えなかった。
純「ケーキおいしい。おいしい。」
少しずつ、少しずつ、自我が失われていく。
自分がどこにいるのか
自分が何を食べているのかもわからない。
聴覚も、味覚も、視覚も、嗅覚もマヒした体で
ただケーキを貪り続ける。
最後に自分が何者なのか忘れた瞬間、私は本当の意味で楽になった。
45 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/21(日) 02:41:32.58 ID:DgLBL+mf0
琴吹製薬が引き起こしたウイルス災害から一週間。
感染者たちはかつての友を貪りながら何を思うのか。
あるものは彼らに感情などないと主張する。
あるものは心の中で涙を流していると主張する。
だが彼らが本当に何を思い、また何を感じているのか。
それを知る者は言葉を持たない。
終わり
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