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キョン「金玉が痒いので掻いてもらえますか?」
1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/04(木) 19:37:40.05 ID:BlJ65URC0 [1/21]
朝比奈さんは俺を、まるで汚物を見るような目で見た。
「あの」
無視される。
俺が一体何をしたって言うんだ?
「古泉、朝比奈さんの様子がおかしいのだが」
古泉は、チッ、と舌打ちすると俺を無視して一人オセロを再開する。
目を合わせようともしない。
「長門よ。ちょっとその本、見せてくれないか?」
無言で栞を挟み、鞄の中にハードカバーをしまう長門。
……何かがおかしい。
俺の金玉が、新たな厄介事の予感を感じた。
朝比奈さんは俺を、まるで汚物を見るような目で見た。
「あの」
無視される。
俺が一体何をしたって言うんだ?
「古泉、朝比奈さんの様子がおかしいのだが」
古泉は、チッ、と舌打ちすると俺を無視して一人オセロを再開する。
目を合わせようともしない。
「長門よ。ちょっとその本、見せてくれないか?」
無言で栞を挟み、鞄の中にハードカバーをしまう長門。
……何かがおかしい。
俺の金玉が、新たな厄介事の予感を感じた。
6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/04(木) 19:43:09.23 ID:BlJ65URC0 [2/21]
「そういえばハルヒの奴、遅いな」
独り言を呟いてみる。
どうせ返事は無いんだろう、と思いきや。
「涼宮さん、用事で遅れるそうですよ」
古泉が言う。
俺は阿呆な事に、少し嬉しくなり古泉の方を見る。
古泉は朝比奈さんに向かって喋っていた。
「そうなんですかぁ」
朝比奈さんはおっとりとした笑顔で返答する。
ここはチャンスだと思い、俺は更に発言する。
「何の用事なんだろうな」
これには返事は返って来なかった。
古泉のオセロのコマを弄る音が、妙に大きく聞こえる。
12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/04(木) 19:50:51.51 ID:BlJ65URC0
オーケィ、整理しよう。
今のところ、分かっている異変と言えば、この団室にいる三人だ。
俺を無視しており、少なくとも疎んじている印象を受ける。
……どういう事だ?
俺にそんな態度を取る事を、各組織が命令を出したとでもいうのか?
そんな馬鹿な事は無い、と思いたい。
俺は自分で金玉を掻きつつ、とりあえず時間を潰していた。
「古泉くん、どうぞ」
「ありがとうございます」
「長門さん、熱いので気をつけて」
「……ありがとう」
朝比奈さんが配るお茶。
俺の分は、やはり無い。
ここで騒ぎ立てても、恐らく何も変わらないだろう。
この状態が、ハルヒの力によるものならば。
慣れたくて慣れたわけでは無いが、俺はこの状況を冷静に考える事ができた。
後は、どうやって普段通りに戻すか、だ。
それにしても金玉が痒い。
14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/04(木) 19:58:37.78 ID:BlJ65URC0
暫く金玉を掻いていると、やかましくドアが開かれる。
入ってきたのは、もちろんハルヒ。
「遅くなっちゃった!」
ずかずかと歩き、団長の椅子にどすんと座り、朝比奈さんに言う。
「みくるちゃん、お茶!」
「はーい」
ふむ、ここまではいつものハルヒだ。
しかし、異変が起こっているのだから、ハルヒにアプローチを仕掛けねばならない。
「なあ、ハルヒ」
ハルヒは、朝比奈さんからお茶を受け取り、それを飲み干しながら俺を見る。
「金玉が痒いんだ。掻いてくれないか?」
ハルヒのお茶を飲み干す音が団室を支配する。
からっぽの湯飲みを朝比奈さんに差し出し、ハルヒはこう言った。
「みくるちゃん、おかわりね!」
……参った。こいつも俺を無視しやがるのか。
俺は金玉を掻き毟りながら、心の中で溜息をついた。
15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/04(木) 20:07:42.40 ID:BlJ65URC0
団室内の空気は、俺に重く感じられた。
ハルヒのパソコンのクリック音。
古泉の一人オセロのコマを置く音。
長門の再度、取り出したハードカバーをめくる音。
朝比奈さんがドジって湯飲みを割る音。
俺の金玉を掻き毟る音。
言葉らしき言葉が無い、閉鎖された空間。
神人でも出てきそうだ、と古泉に耳打ちしたが、本気で睨まれて金玉がキュッとなった。
長門が本を閉じる。
「ん、今日は終わり!」
ハルヒの号令で、俺たちは団室を出る。
みんなでさよならの挨拶を交わすが、俺にだけは誰も何も言わず、返事もしなかった。
四人がかたまって雑談しながら帰るのを後ろから眺めながら、金玉を掻く。
手に、赤いものが付いていた。
俺の金玉から、血が滲んでいた。
16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/04(木) 20:19:59.54 ID:BlJ65URC0
鬱々とした気持ちで自宅に着く。
玄関を開けると妹がいた。
「なあ、金玉を掻いてくれないか?」
妹は、泣きそうな表情で自分の部屋に閉じこもる。
やれやれ、家族にまで影響を及ぼさなくともいいだろうに。
俺は自室に入り、まず金玉を掃除した。
傷の部分は、念入りに消毒する。
携帯を確認する。
メールも着信も、何も無い。
思い切って、古泉に電話してみる事にした。
数回の呼び出し音。
『はい、古泉です。……貴方からかけてこられるとは、何かあったのですか?』
ふむ。電話を介してなら、無視される事はないようだ。
俺は古泉に、今日の出来事を全て話した。
『……僕の記憶では、普段通りの団活でしたが。
誰も貴方を無視などしませんでしたし、僕はオセロで惨敗してジュースを奢らされたはずです』
18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/04(木) 20:31:01.22 ID:BlJ65URC0
「……そうか。俺の体験した事とは違うな」
『涼宮さんの力、でしょうか……。一度、長門さんと朝比奈さんにも連絡を取り、集合して話し合いましょう』
「すまん、助かる」
『いえいえ。長門さんには僕から連絡しますので』
「俺は朝比奈さんに、だな。集合場所は……」
『勝手ですが、長門さんの家にさせて頂きましょう』
「だな。この季節に公園はキツイ」
俺は古泉との電話を切り、朝比奈さんにかけた。
『はぁい、どうしましたか?』
「朝比奈さん、実は……」
古泉にした事と同じ話を繰り返すと、朝比奈さんは、電話越しに何度も謝ってくれた。
たぶん、見えないのに頭を下げてるんだろう。
「朝比奈さんのせいじゃありませんよ。これから長門の家に集合なんですが……」
『はい……大丈夫です。それじゃ』
俺は金玉を軽く掻くと、自転車に乗った。
サドルと金玉が直に触れ合うと、良い気持ちだ。
20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/04(木) 20:39:35.60 ID:BlJ65URC0
自転車をこぎ、長門のマンションに辿り着く。
降りる時に、金玉がサドルとくっ付いてしまい、ベリッとした感触があった。
マンション玄関で長門を呼び出す。
「俺だ」
『……もう古泉一樹と朝比奈みくるは着ている。入って』
ドアが開く。
エレベーターを使い、長門の部屋のチャイムを鳴らす。
無言だったが、先程の玄関での会話の具合なら、入っても構わないだろう。
「お邪魔します」
俺が入ると、いつもの応接間に、三人が揃っていた。
古泉が舌打ちして目を逸らす。
朝比奈さんがお手洗いに行く。
長門が、いつの間に購入したのか、地デジ対応の大型TVのスイッチを入れる。
画面に、お笑い番組が流れる。
急に金玉が痒くなる。
付け根が痛くなるような痒さ。
俺は金玉を掻く。
23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/04(木) 20:49:54.14 ID:BlJ65URC0
「古泉」
「……」
「長門」
「……」
「あ、朝比奈さん?」
「……」
どういう事だ?
さっき電話した時は、ちゃんと話してくれたじゃないか?
古泉が、TVのネタにくすりと笑う。
朝比奈さんも、口元を押さえる。
長門は無表情に、しかし目は画面に釘付けだ。
これでは集まってもらった意味が無い。
俺は考える。
どうすれば会話ができるのか。
金玉の痒みは、何故におさまらないのか。
日本の軍事問題と中国の政策はどう因果関係が結びつくのか。
そうだ。
電話……。
電話なら話せるんじゃないか?
26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/04(木) 20:58:03.79 ID:BlJ65URC0
俺は古泉の携帯に電話をかける。
軽快なアニメソング(日曜の朝にやってる女児向けのやつだ)が流れる。
「失礼」
古泉が電話に出る。
『もしもし? どうかしましたか?』
「もしもし? どうかしましたか?」
目の前にいるのに携帯に出て、どうかしたかもないものだ。
「いや……お前らが無視するから」
『何を言ってるんです? 今、挨拶をしたばかりではないですか』
同じ言葉を、目の前で携帯に向かって喋る古泉。
「いや、無視してるだろうが? 目の前にいるんだぞ? 携帯では普通に喋るのに、お前たちは……」
『待ってください。貴方の主観では、僕たちは貴方を無視している、と?』
「ああそうだ。こうして電話で話すぶんには大丈夫そうだけどな」
『ふぅむ……。あ、長門さん、TVの音量を少し下げてください』
長門は古泉の言う事を聞き、リモコンを操作する。
29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/04(木) 21:05:57.62 ID:BlJ65URC0
『状況をまとめましょう。貴方は通常の接し方では僕たちと意思疎通が図れない』
「というか無視されている状況だ」
『しかし、僕たちの主観では、普段通りに会話をしているのです』
「……何だって?」
『そうですね……朝比奈さんに代わりましょうか』
俺の目の前で、古泉が携帯を朝比奈さんに手渡す。
『キョンくん? あの、どうしちゃったんでしょうか?』
目の前で、同じセリフを言いながら、携帯に必死な感じで話しかける朝比奈さん。
「あの……そっちの俺は、今、何をしていますか?」
『えっと、急に携帯で電話をかけてます。突然だったのでびっくりしました』
「そう……ですか」
俺は試しに朝比奈さんの目の前で金玉を掻いてみた。
朝比奈さんは眉をひそめて、少し場所を移動する。
「あの、今、俺は何かしましたか?」
『え? いえ……座って電話をかけてますけど』
39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/04(木) 21:19:26.29 ID:BlJ65URC0
「一体、どういう事なんだ……」
俺は知らず知らずに金玉を掻き毟っていた。
『え? あ、はい……あの、長門さんに代わります』
俺の目の前の光景は、朝比奈さんが、TVに夢中の長門に携帯を手渡しているところだった。
『……聞こえる?』
「ああ」
いつもの長門の声。
しかし、目の前の長門はTVの画面に夢中だ。
俺の携帯からも、そのくだらないお笑い番組の効果音が聞こえてくる。
『今回の異変。その解析はとても難しい』
「お前でもか?」
『古泉一樹から電話があった時点で、全力で調べてはいる。
しかし、今のところ涼宮ハルヒ、並びに他の何かの影響であるかは判別できない』
「……それは、どういうことだ」
『まだ断定はできない。しかし私が現在把握している情報では、貴方は何の影響も受けていない』
「この異常な状況が、何の仕業でもないだと! ふざけるなよ!」
42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/04(木) 21:30:18.68 ID:BlJ65URC0
『ごめんなさい……』
ふと、我にかえる。
俺は馬鹿か? 長門のせいじゃないだろうが。
冷静さを失ったら終わりだ。
「いや、お前に怒ったわけじゃないんだ……悪い」
『仕方が無い。私が役に立たないから』
「そんな事は無い! いつも頼りっぱなしの俺が悪いんだ!」
目の前の長門は、しきりにツッコミの動作をしている。
TVの中の芸人と同じ動作だ。気に入ったのか?
『……時間が欲しい。必ず、解決の糸口を探し出す』
その長門の言葉の、何と頼もしい事か。
俺は長門の横、ツッコミの手が金玉に当たる位置に歩く。
長門はツッコミを止め、手を膝の上に置いた。
残念。
「頼む、長門。……それまでは、このままか?」
『待って。少し検証したい。ちゃんとした連絡がとれるのが、電話だけとは限らない』
それもそうだ。
メールや、筆談というのも試しておこう。
45 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/04(木) 21:48:20.61 ID:BlJ65URC0
色々と試して見た。
メールは大丈夫のようだ。
筆談の方も問題は無かったが、俺に渡すはずの紙を、いちいち床に落とされるのは傷ついた。
「……まあ、これで意思疎通は図れるな」
『確かにそうですが……これはいちいち面倒臭いですね』
俺の文章の書かれた紙を破りながら古泉が言う。
「まあ、さっきまでに比べりゃだいぶマシだ。……ところで、お前の目の前にいる俺は今、何をしている?」
『僕と電話をしています。筆談の紙を渡す時、メールを打つ時など、普通に相槌も打ってましたよ。
……実のところ、僕には未だ貴方の状況に実感が湧かないんですよ』
こっちは無視されてるとしか思えないんだがな。
「……お前が直接、目にしてる俺と、こうして話してる俺。どっちかが偽物なんじゃないか?」
『そうとは考えられませんね。今の言葉を、目の前の貴方も同時に喋ってましたし』
「誰かが、何かが、そうコントロールしているのかも知れんぞ」
『……疑い始めるときりがありませんよ? 僕としてはどちらも貴方だと考えて行動します』
「……古泉。すまんな、頼む」
俺の目の前の古泉は、右手中指を俺に向けて立てていた。
53 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/04(木) 22:05:00.87 ID:BlJ65URC0
「ハルヒとはどういう感じで接すればいい?」
『普段通りで構わないかと。今日の団活でも僕たちの目からおかしな点は見当たりませんでしたし』
「そうか……」
金玉の痒みはおさまらない。
ぼりぼり掻きながら、俺は三人にメールを送った。
『この問題が解決するまで、厄介だがこうして意思疎通を図ってほしい』
すぐに返信が返ってくる。
『勿論ですよ。早く解決するよう、僕も微力ながら頑張ります』
『キョンくん、無視なんかしてませんから、頑張ってください!』
『貴方の為に何とかする。安心してほしい』
三者三様、勇気付けられる言葉だ。
俺は団欒の輪の中から外れ、外に出た。
何はともあれ、これで一歩前進した。
後は成り行きを見るしかない。
再びサドルと金玉が張り付き、俺は家路へと急いだ。
61 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/04(木) 22:40:13.05 ID:BlJ65URC0
帰宅した俺は、家族と夕飯を食べた。
俺の分は当然の如く無かったので自分で用意した。
妹に、筆談で『何か変わった事は無かったか?』と尋ねた。
奪い取り、殴り書きした紙を妹は床に落とす妹。
『なにもないよ? わざわざかみにかいて、へんなきょんくん!』
その字を見る限り、家でも状況は同じの様だ。
本当は無視されてるわけではない、と古泉の言葉を思い出しても、流石に家族のこの仕打ちはこたえる。
俺は早々と自室に戻り、眠る事にした。
――願わくば、明日の朝、起きてみれば普段通りになってますように、と祈りながら。
翌日、妹のダイブで目が覚める。
いや、これは妹ではなく、妹の投げた生ゴミの袋だ。
ところどころ破けて、嫌な匂いの汁が垂れている。
その汁が股間に伝い、金玉に沁みた。
溜息をつき、ブレザーを着込み、生ゴミを持って外へ出る。
朝飯を食う気力も湧かない。
ゴミ捨て場に袋を捨て、学校へと向かう。
金玉の痒みは、おさまるどころか強くなる一方だ。
痒い。痒い。
痒い。痒い。
67 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/04(木) 22:55:48.30 ID:BlJ65URC0
長い長い坂道を、金玉を掻きながら歩く。
「よう、国木田」
国木田は、ちらと俺に目をやると、もくもくと歩き続ける。
「よ! 国木田!」
「谷口、おはよう」
この状態は本当の景色では無く、実は国木田も谷口もちゃんと俺の相手をしているのだろう。
とはいっても、やはり無視されるのは本当にきつい。
俺は、何やら昨日のTVの話をしている二人を追い越して先を歩く。
恐らくこれも、俺を交えて、普段通りに馬鹿な事を喋ってるんだろうな。
そう思うと、その中に入りたくて堪らなくなる。
苛立ちを交えながら金玉を掻き毟る。
血が出ようが知った事か。
すでに右手の指はヌルヌルとしていて、確認するのも面倒臭い。
前方に見覚えのあるカチューシャをつけた女子生徒を見つける。
声をかけるべきだろうか、どうすればいいのか。
答えを見つけられないまま、俺は金玉を掻き毟りながら足早に歩く。
ハルヒを追い越して、ひたすら学校を目指す。
「……キョン?」
69 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/04(木) 23:08:21.03 ID:BlJ65URC0
「ハルヒ……?」
ハルヒが俺に声をかけた?
どういう事だ? この異常極まる状況は、もう終わってくれるのか?
「あんた……何してんの……?」
「何って……金玉を掻いていただけだが」
「下半身全裸で、股間を血まみれにして……っ! 馬っ鹿じゃないの!?」
やれやれ、やっと直に俺と喋ってくれたのがハルヒ、それもわけの分からない事を言ってくる、ときたもんだ。
金玉が痒いのでいつでも掻ける様に下半身に何も穿かないのは当然の事だろう?
とはいえ、久しぶりに――俺にはそう感じられた――人と携帯越しでないお喋りを楽しめる。
俺はハルヒの手を取ろうとした。
「触らないでっ!」
今までに聞いた事もないほどの大声。
化け物を見るような目。
そうか、ハルヒ。
お前も、俺を拒否するんだな。
「……すまん」
俺は、そう言って駆け出した。
遠くで、ハルヒの声が聞こえた。
72 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/04(木) 23:18:24.09 ID:BlJ65URC0
暗い団室。
俺の居場所はどこにも無い。
放課後になれば、SOS団がやってくる。
そこに俺の居場所は無い。
携帯が鳴る。
『キョン! 今どこ? 古泉君たちも探してくれてるから! キョン?』
通話を切る。
また、携帯が鳴る。
煩い。煩い、煩い。
どうせ誰にも相手にされないのなら、一人にしてくれ。
壁に携帯を投げつける。
液晶にひびが入り、電池が外れる。
金玉は今なお痒く、両手で掻いても満たされない。
俺の心と同じように。
お爺さんは山へ芝刈りに。
お婆さんは川へ洗濯に。
俺はどこに行けばいい?
頭を撫でてくれるのは誰だ?
膝枕をしてくれているのは誰だ?
俺はもう、金玉を掻かなくてもいいのか?
80 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/04(木) 23:50:37.54 ID:BlJ65URC0
――
僕たちが彼――そして彼女を発見したのは、団室だった。
下半身は血塗れ、空ろな目をして何かを呟く彼の頭を、抱きかかえるようにして離さない涼宮さん。
すぐに機関の病院を手配し、彼を搬送させようとしたが、涼宮さんは彼を離さなかった。
彼の為です、と何とか説き伏せ、引き離した後の彼女には、何の感情も見られなかった。
そう、閉鎖空間さえ発生しなかった。
彼の様子がおかしくなったのは数週間前。
金玉を掻いてくれ、と他人に頼んだり、いきなり全裸になったりし出した時に、僕たちは相談した。
このまま彼を放置しておいては、涼宮さんの精神に大きなダメージを与える、と。
長門さんの情報操作で、周囲には普段の彼を見せるようにしてもらった。
彼自身には、自分の異常を本人の自意識で確認してもらえるようにと、
『他人の目』を気にせざるを得ないイメージを見続けるよう操作してもらった。
これで徐々にでも、彼の心が正気に戻ってくれれば……というのは、やはり甘い認識だった、としか言えない。
彼の病気――心の病は、本来ならば然るべき施設で癒すべきものだった。
しかし、その為に彼を彼女、涼宮ハルヒから引き離す事は、鍵としての彼の存在を否定しかねない、という上からの指示。
携帯や筆談と言う形でコミュニュケーションを取り、ゆっくり彼自身の正気を取り戻そうとした僕たちの思惑は、
涼宮ハルヒの力――偽りの彼ではなく、本物の彼を知りたいという想いが長門さんの情報操作の力を破り、彼を守っていた薄皮を剥いでしまった。
こうなってしまっては、SOS団も終わりだろう。
涼宮ハルヒ自身も、許容量を越えるショックの為か、意思というものを無くしてしまった。
残念な結果に終わった事を、非情に嘆かわしく思う。
僕は一人の友人として、SOS団の仲間として、二人の復帰を願ってやまない。
83 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/05(金) 00:01:57.11 ID:f3NhL5VQ0 [1/4]
――
「涼宮さん。今日は気分はどうですか?」
わたしの言葉に、何も反応しない。
もし、反応するとすれば彼――キョンくんの言葉だろう。
だけど、キョンくんは、涼宮さんとはレベルの違う狂気に侵され、この病院の地下室にいるはずだ。
どうしてこんな事になってしまったのか。
あの時、キョンくんを普通の施設なり、病院なりに入れておけば、涼宮さんまでこんな風にはならなかったんじゃないのだろうか。
わたしは涼宮さんの髪を、ブラシで梳かしながら話しかける。
「この病院にキョンくんもいるんですよ」
返事は無くともわたしは話す。
「二人が良くなって、退院できたら、また不思議探索に行きましょうね」
例え聞こえていなくても、心に届く、何かがあれば。
わたしは話し続ける。
痩せた、わたしより細くなった、涼宮さんの手。
その手を握って、たくさんたくさん、話す。
いつかまた、SOS団団長として、わたしたちを引っ張ってくれるように。
この手が、力を取り戻してくれるように。
こんな事しかできないわたしは――本当に、役立たずですね……
87 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/05(金) 00:11:38.03 ID:f3NhL5VQ0 [2/4]
――
『誰かいないか! 俺は狂ってなんかいない……ここから出してくれっ!』
病院の地下――特別室に私は入る。
拘束されてる、彼。口の拘束具を外す。
「長門? おい、長門! 俺は狂ってない! そうだろ?」
果たして私に、彼の問いに答える権利はあるのだろうか?
それでも、言わなければならない。
「その通り。貴方は正常」
「な、長門! だったら……」
次の言葉を紡ぐには、私という個体に大きなエラーを蓄積する。
しかし、言わなければならない。
――これが、けじめというものだから。
「貴方を、外に出す事はできない」
「……何でだよ、俺が正気だって分かってるんだったら!」
「涼宮ハルヒにとって大事な存在である貴方に、もはや自由は与えられない」
「どういう……冗談だよ。笑えないぞ、おい」
「今から説明する。……納得して欲しいとは考えてない」
92 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/05(金) 00:35:50.05 ID:f3NhL5VQ0 [3/4]
「思念体の方針が変わった。
有機的な存在である涼宮ハルヒに宿った力の観察。
それを繰り返していくうちに、彼女では大規模な進化は困難と言う結論に達した。
それは言うまでも無く、彼女の精神が安定し、力を行使する事が少なくなったせい」
「それで、お前の親玉はどうしたんだっ?」
「涼宮ハルヒの力を、他の人物に移動させる事にした。
より、進化の可能性の高い人物へ、と。
その人物は、貴方達も、私も知らない人。
その人への力の移動の為に、彼女の心を不安定にさせる今回の事件……貴方の精神的錯乱を引き起こした。
意思の殆ど無い個体からの力の移動は、容易だった。
以前のエラーを起こした私の様な、滅茶苦茶なものではない……完璧な移動」
「そんな、そんな事の為に、お前は! 裏切ったのか! 俺たちを!」
「……私の役目は、これで終わり。
新しい人物の観察任務は、新たなインターフェイスが行う」
「長門? お前、身体が……! 朝倉の時みたいに!」
「私は……貴方たちの影響を受けすぎた……だから、処分される……。
もし許されるのなら……別の世界で、また、図書館に……」
「長門ぉ! 長門ぉーっ! 」
―End―
93 名前:南部十四朗 ◆pTqMLhEhmY [sage] 投稿日:2010/11/05(金) 00:37:11.08 ID:f3NhL5VQ0 [4/4]
まさかスレが立つとは思わなかったので1レス目から適当でした。
こんなに意味が分からないものになるなんて思いませんでした。
せっかく金玉を出したのに金玉の可能性を引き出すことが出来ませんでした。
オチの弱さ、並びに文章の拙さをお詫び申上げます。
読んで頂いた方々、どうもありがとうございました。
「そういえばハルヒの奴、遅いな」
独り言を呟いてみる。
どうせ返事は無いんだろう、と思いきや。
「涼宮さん、用事で遅れるそうですよ」
古泉が言う。
俺は阿呆な事に、少し嬉しくなり古泉の方を見る。
古泉は朝比奈さんに向かって喋っていた。
「そうなんですかぁ」
朝比奈さんはおっとりとした笑顔で返答する。
ここはチャンスだと思い、俺は更に発言する。
「何の用事なんだろうな」
これには返事は返って来なかった。
古泉のオセロのコマを弄る音が、妙に大きく聞こえる。
12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/04(木) 19:50:51.51 ID:BlJ65URC0
オーケィ、整理しよう。
今のところ、分かっている異変と言えば、この団室にいる三人だ。
俺を無視しており、少なくとも疎んじている印象を受ける。
……どういう事だ?
俺にそんな態度を取る事を、各組織が命令を出したとでもいうのか?
そんな馬鹿な事は無い、と思いたい。
俺は自分で金玉を掻きつつ、とりあえず時間を潰していた。
「古泉くん、どうぞ」
「ありがとうございます」
「長門さん、熱いので気をつけて」
「……ありがとう」
朝比奈さんが配るお茶。
俺の分は、やはり無い。
ここで騒ぎ立てても、恐らく何も変わらないだろう。
この状態が、ハルヒの力によるものならば。
慣れたくて慣れたわけでは無いが、俺はこの状況を冷静に考える事ができた。
後は、どうやって普段通りに戻すか、だ。
それにしても金玉が痒い。
14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/04(木) 19:58:37.78 ID:BlJ65URC0
暫く金玉を掻いていると、やかましくドアが開かれる。
入ってきたのは、もちろんハルヒ。
「遅くなっちゃった!」
ずかずかと歩き、団長の椅子にどすんと座り、朝比奈さんに言う。
「みくるちゃん、お茶!」
「はーい」
ふむ、ここまではいつものハルヒだ。
しかし、異変が起こっているのだから、ハルヒにアプローチを仕掛けねばならない。
「なあ、ハルヒ」
ハルヒは、朝比奈さんからお茶を受け取り、それを飲み干しながら俺を見る。
「金玉が痒いんだ。掻いてくれないか?」
ハルヒのお茶を飲み干す音が団室を支配する。
からっぽの湯飲みを朝比奈さんに差し出し、ハルヒはこう言った。
「みくるちゃん、おかわりね!」
……参った。こいつも俺を無視しやがるのか。
俺は金玉を掻き毟りながら、心の中で溜息をついた。
15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/04(木) 20:07:42.40 ID:BlJ65URC0
団室内の空気は、俺に重く感じられた。
ハルヒのパソコンのクリック音。
古泉の一人オセロのコマを置く音。
長門の再度、取り出したハードカバーをめくる音。
朝比奈さんがドジって湯飲みを割る音。
俺の金玉を掻き毟る音。
言葉らしき言葉が無い、閉鎖された空間。
神人でも出てきそうだ、と古泉に耳打ちしたが、本気で睨まれて金玉がキュッとなった。
長門が本を閉じる。
「ん、今日は終わり!」
ハルヒの号令で、俺たちは団室を出る。
みんなでさよならの挨拶を交わすが、俺にだけは誰も何も言わず、返事もしなかった。
四人がかたまって雑談しながら帰るのを後ろから眺めながら、金玉を掻く。
手に、赤いものが付いていた。
俺の金玉から、血が滲んでいた。
16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/04(木) 20:19:59.54 ID:BlJ65URC0
鬱々とした気持ちで自宅に着く。
玄関を開けると妹がいた。
「なあ、金玉を掻いてくれないか?」
妹は、泣きそうな表情で自分の部屋に閉じこもる。
やれやれ、家族にまで影響を及ぼさなくともいいだろうに。
俺は自室に入り、まず金玉を掃除した。
傷の部分は、念入りに消毒する。
携帯を確認する。
メールも着信も、何も無い。
思い切って、古泉に電話してみる事にした。
数回の呼び出し音。
『はい、古泉です。……貴方からかけてこられるとは、何かあったのですか?』
ふむ。電話を介してなら、無視される事はないようだ。
俺は古泉に、今日の出来事を全て話した。
『……僕の記憶では、普段通りの団活でしたが。
誰も貴方を無視などしませんでしたし、僕はオセロで惨敗してジュースを奢らされたはずです』
18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/04(木) 20:31:01.22 ID:BlJ65URC0
「……そうか。俺の体験した事とは違うな」
『涼宮さんの力、でしょうか……。一度、長門さんと朝比奈さんにも連絡を取り、集合して話し合いましょう』
「すまん、助かる」
『いえいえ。長門さんには僕から連絡しますので』
「俺は朝比奈さんに、だな。集合場所は……」
『勝手ですが、長門さんの家にさせて頂きましょう』
「だな。この季節に公園はキツイ」
俺は古泉との電話を切り、朝比奈さんにかけた。
『はぁい、どうしましたか?』
「朝比奈さん、実は……」
古泉にした事と同じ話を繰り返すと、朝比奈さんは、電話越しに何度も謝ってくれた。
たぶん、見えないのに頭を下げてるんだろう。
「朝比奈さんのせいじゃありませんよ。これから長門の家に集合なんですが……」
『はい……大丈夫です。それじゃ』
俺は金玉を軽く掻くと、自転車に乗った。
サドルと金玉が直に触れ合うと、良い気持ちだ。
20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/04(木) 20:39:35.60 ID:BlJ65URC0
自転車をこぎ、長門のマンションに辿り着く。
降りる時に、金玉がサドルとくっ付いてしまい、ベリッとした感触があった。
マンション玄関で長門を呼び出す。
「俺だ」
『……もう古泉一樹と朝比奈みくるは着ている。入って』
ドアが開く。
エレベーターを使い、長門の部屋のチャイムを鳴らす。
無言だったが、先程の玄関での会話の具合なら、入っても構わないだろう。
「お邪魔します」
俺が入ると、いつもの応接間に、三人が揃っていた。
古泉が舌打ちして目を逸らす。
朝比奈さんがお手洗いに行く。
長門が、いつの間に購入したのか、地デジ対応の大型TVのスイッチを入れる。
画面に、お笑い番組が流れる。
急に金玉が痒くなる。
付け根が痛くなるような痒さ。
俺は金玉を掻く。
23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/04(木) 20:49:54.14 ID:BlJ65URC0
「古泉」
「……」
「長門」
「……」
「あ、朝比奈さん?」
「……」
どういう事だ?
さっき電話した時は、ちゃんと話してくれたじゃないか?
古泉が、TVのネタにくすりと笑う。
朝比奈さんも、口元を押さえる。
長門は無表情に、しかし目は画面に釘付けだ。
これでは集まってもらった意味が無い。
俺は考える。
どうすれば会話ができるのか。
金玉の痒みは、何故におさまらないのか。
日本の軍事問題と中国の政策はどう因果関係が結びつくのか。
そうだ。
電話……。
電話なら話せるんじゃないか?
26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/04(木) 20:58:03.79 ID:BlJ65URC0
俺は古泉の携帯に電話をかける。
軽快なアニメソング(日曜の朝にやってる女児向けのやつだ)が流れる。
「失礼」
古泉が電話に出る。
『もしもし? どうかしましたか?』
「もしもし? どうかしましたか?」
目の前にいるのに携帯に出て、どうかしたかもないものだ。
「いや……お前らが無視するから」
『何を言ってるんです? 今、挨拶をしたばかりではないですか』
同じ言葉を、目の前で携帯に向かって喋る古泉。
「いや、無視してるだろうが? 目の前にいるんだぞ? 携帯では普通に喋るのに、お前たちは……」
『待ってください。貴方の主観では、僕たちは貴方を無視している、と?』
「ああそうだ。こうして電話で話すぶんには大丈夫そうだけどな」
『ふぅむ……。あ、長門さん、TVの音量を少し下げてください』
長門は古泉の言う事を聞き、リモコンを操作する。
29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/04(木) 21:05:57.62 ID:BlJ65URC0
『状況をまとめましょう。貴方は通常の接し方では僕たちと意思疎通が図れない』
「というか無視されている状況だ」
『しかし、僕たちの主観では、普段通りに会話をしているのです』
「……何だって?」
『そうですね……朝比奈さんに代わりましょうか』
俺の目の前で、古泉が携帯を朝比奈さんに手渡す。
『キョンくん? あの、どうしちゃったんでしょうか?』
目の前で、同じセリフを言いながら、携帯に必死な感じで話しかける朝比奈さん。
「あの……そっちの俺は、今、何をしていますか?」
『えっと、急に携帯で電話をかけてます。突然だったのでびっくりしました』
「そう……ですか」
俺は試しに朝比奈さんの目の前で金玉を掻いてみた。
朝比奈さんは眉をひそめて、少し場所を移動する。
「あの、今、俺は何かしましたか?」
『え? いえ……座って電話をかけてますけど』
39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/04(木) 21:19:26.29 ID:BlJ65URC0
「一体、どういう事なんだ……」
俺は知らず知らずに金玉を掻き毟っていた。
『え? あ、はい……あの、長門さんに代わります』
俺の目の前の光景は、朝比奈さんが、TVに夢中の長門に携帯を手渡しているところだった。
『……聞こえる?』
「ああ」
いつもの長門の声。
しかし、目の前の長門はTVの画面に夢中だ。
俺の携帯からも、そのくだらないお笑い番組の効果音が聞こえてくる。
『今回の異変。その解析はとても難しい』
「お前でもか?」
『古泉一樹から電話があった時点で、全力で調べてはいる。
しかし、今のところ涼宮ハルヒ、並びに他の何かの影響であるかは判別できない』
「……それは、どういうことだ」
『まだ断定はできない。しかし私が現在把握している情報では、貴方は何の影響も受けていない』
「この異常な状況が、何の仕業でもないだと! ふざけるなよ!」
42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/04(木) 21:30:18.68 ID:BlJ65URC0
『ごめんなさい……』
ふと、我にかえる。
俺は馬鹿か? 長門のせいじゃないだろうが。
冷静さを失ったら終わりだ。
「いや、お前に怒ったわけじゃないんだ……悪い」
『仕方が無い。私が役に立たないから』
「そんな事は無い! いつも頼りっぱなしの俺が悪いんだ!」
目の前の長門は、しきりにツッコミの動作をしている。
TVの中の芸人と同じ動作だ。気に入ったのか?
『……時間が欲しい。必ず、解決の糸口を探し出す』
その長門の言葉の、何と頼もしい事か。
俺は長門の横、ツッコミの手が金玉に当たる位置に歩く。
長門はツッコミを止め、手を膝の上に置いた。
残念。
「頼む、長門。……それまでは、このままか?」
『待って。少し検証したい。ちゃんとした連絡がとれるのが、電話だけとは限らない』
それもそうだ。
メールや、筆談というのも試しておこう。
45 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/04(木) 21:48:20.61 ID:BlJ65URC0
色々と試して見た。
メールは大丈夫のようだ。
筆談の方も問題は無かったが、俺に渡すはずの紙を、いちいち床に落とされるのは傷ついた。
「……まあ、これで意思疎通は図れるな」
『確かにそうですが……これはいちいち面倒臭いですね』
俺の文章の書かれた紙を破りながら古泉が言う。
「まあ、さっきまでに比べりゃだいぶマシだ。……ところで、お前の目の前にいる俺は今、何をしている?」
『僕と電話をしています。筆談の紙を渡す時、メールを打つ時など、普通に相槌も打ってましたよ。
……実のところ、僕には未だ貴方の状況に実感が湧かないんですよ』
こっちは無視されてるとしか思えないんだがな。
「……お前が直接、目にしてる俺と、こうして話してる俺。どっちかが偽物なんじゃないか?」
『そうとは考えられませんね。今の言葉を、目の前の貴方も同時に喋ってましたし』
「誰かが、何かが、そうコントロールしているのかも知れんぞ」
『……疑い始めるときりがありませんよ? 僕としてはどちらも貴方だと考えて行動します』
「……古泉。すまんな、頼む」
俺の目の前の古泉は、右手中指を俺に向けて立てていた。
53 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/04(木) 22:05:00.87 ID:BlJ65URC0
「ハルヒとはどういう感じで接すればいい?」
『普段通りで構わないかと。今日の団活でも僕たちの目からおかしな点は見当たりませんでしたし』
「そうか……」
金玉の痒みはおさまらない。
ぼりぼり掻きながら、俺は三人にメールを送った。
『この問題が解決するまで、厄介だがこうして意思疎通を図ってほしい』
すぐに返信が返ってくる。
『勿論ですよ。早く解決するよう、僕も微力ながら頑張ります』
『キョンくん、無視なんかしてませんから、頑張ってください!』
『貴方の為に何とかする。安心してほしい』
三者三様、勇気付けられる言葉だ。
俺は団欒の輪の中から外れ、外に出た。
何はともあれ、これで一歩前進した。
後は成り行きを見るしかない。
再びサドルと金玉が張り付き、俺は家路へと急いだ。
61 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/04(木) 22:40:13.05 ID:BlJ65URC0
帰宅した俺は、家族と夕飯を食べた。
俺の分は当然の如く無かったので自分で用意した。
妹に、筆談で『何か変わった事は無かったか?』と尋ねた。
奪い取り、殴り書きした紙を妹は床に落とす妹。
『なにもないよ? わざわざかみにかいて、へんなきょんくん!』
その字を見る限り、家でも状況は同じの様だ。
本当は無視されてるわけではない、と古泉の言葉を思い出しても、流石に家族のこの仕打ちはこたえる。
俺は早々と自室に戻り、眠る事にした。
――願わくば、明日の朝、起きてみれば普段通りになってますように、と祈りながら。
翌日、妹のダイブで目が覚める。
いや、これは妹ではなく、妹の投げた生ゴミの袋だ。
ところどころ破けて、嫌な匂いの汁が垂れている。
その汁が股間に伝い、金玉に沁みた。
溜息をつき、ブレザーを着込み、生ゴミを持って外へ出る。
朝飯を食う気力も湧かない。
ゴミ捨て場に袋を捨て、学校へと向かう。
金玉の痒みは、おさまるどころか強くなる一方だ。
痒い。痒い。
痒い。痒い。
67 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/04(木) 22:55:48.30 ID:BlJ65URC0
長い長い坂道を、金玉を掻きながら歩く。
「よう、国木田」
国木田は、ちらと俺に目をやると、もくもくと歩き続ける。
「よ! 国木田!」
「谷口、おはよう」
この状態は本当の景色では無く、実は国木田も谷口もちゃんと俺の相手をしているのだろう。
とはいっても、やはり無視されるのは本当にきつい。
俺は、何やら昨日のTVの話をしている二人を追い越して先を歩く。
恐らくこれも、俺を交えて、普段通りに馬鹿な事を喋ってるんだろうな。
そう思うと、その中に入りたくて堪らなくなる。
苛立ちを交えながら金玉を掻き毟る。
血が出ようが知った事か。
すでに右手の指はヌルヌルとしていて、確認するのも面倒臭い。
前方に見覚えのあるカチューシャをつけた女子生徒を見つける。
声をかけるべきだろうか、どうすればいいのか。
答えを見つけられないまま、俺は金玉を掻き毟りながら足早に歩く。
ハルヒを追い越して、ひたすら学校を目指す。
「……キョン?」
69 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/04(木) 23:08:21.03 ID:BlJ65URC0
「ハルヒ……?」
ハルヒが俺に声をかけた?
どういう事だ? この異常極まる状況は、もう終わってくれるのか?
「あんた……何してんの……?」
「何って……金玉を掻いていただけだが」
「下半身全裸で、股間を血まみれにして……っ! 馬っ鹿じゃないの!?」
やれやれ、やっと直に俺と喋ってくれたのがハルヒ、それもわけの分からない事を言ってくる、ときたもんだ。
金玉が痒いのでいつでも掻ける様に下半身に何も穿かないのは当然の事だろう?
とはいえ、久しぶりに――俺にはそう感じられた――人と携帯越しでないお喋りを楽しめる。
俺はハルヒの手を取ろうとした。
「触らないでっ!」
今までに聞いた事もないほどの大声。
化け物を見るような目。
そうか、ハルヒ。
お前も、俺を拒否するんだな。
「……すまん」
俺は、そう言って駆け出した。
遠くで、ハルヒの声が聞こえた。
72 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/04(木) 23:18:24.09 ID:BlJ65URC0
暗い団室。
俺の居場所はどこにも無い。
放課後になれば、SOS団がやってくる。
そこに俺の居場所は無い。
携帯が鳴る。
『キョン! 今どこ? 古泉君たちも探してくれてるから! キョン?』
通話を切る。
また、携帯が鳴る。
煩い。煩い、煩い。
どうせ誰にも相手にされないのなら、一人にしてくれ。
壁に携帯を投げつける。
液晶にひびが入り、電池が外れる。
金玉は今なお痒く、両手で掻いても満たされない。
俺の心と同じように。
お爺さんは山へ芝刈りに。
お婆さんは川へ洗濯に。
俺はどこに行けばいい?
頭を撫でてくれるのは誰だ?
膝枕をしてくれているのは誰だ?
俺はもう、金玉を掻かなくてもいいのか?
80 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/04(木) 23:50:37.54 ID:BlJ65URC0
――
僕たちが彼――そして彼女を発見したのは、団室だった。
下半身は血塗れ、空ろな目をして何かを呟く彼の頭を、抱きかかえるようにして離さない涼宮さん。
すぐに機関の病院を手配し、彼を搬送させようとしたが、涼宮さんは彼を離さなかった。
彼の為です、と何とか説き伏せ、引き離した後の彼女には、何の感情も見られなかった。
そう、閉鎖空間さえ発生しなかった。
彼の様子がおかしくなったのは数週間前。
金玉を掻いてくれ、と他人に頼んだり、いきなり全裸になったりし出した時に、僕たちは相談した。
このまま彼を放置しておいては、涼宮さんの精神に大きなダメージを与える、と。
長門さんの情報操作で、周囲には普段の彼を見せるようにしてもらった。
彼自身には、自分の異常を本人の自意識で確認してもらえるようにと、
『他人の目』を気にせざるを得ないイメージを見続けるよう操作してもらった。
これで徐々にでも、彼の心が正気に戻ってくれれば……というのは、やはり甘い認識だった、としか言えない。
彼の病気――心の病は、本来ならば然るべき施設で癒すべきものだった。
しかし、その為に彼を彼女、涼宮ハルヒから引き離す事は、鍵としての彼の存在を否定しかねない、という上からの指示。
携帯や筆談と言う形でコミュニュケーションを取り、ゆっくり彼自身の正気を取り戻そうとした僕たちの思惑は、
涼宮ハルヒの力――偽りの彼ではなく、本物の彼を知りたいという想いが長門さんの情報操作の力を破り、彼を守っていた薄皮を剥いでしまった。
こうなってしまっては、SOS団も終わりだろう。
涼宮ハルヒ自身も、許容量を越えるショックの為か、意思というものを無くしてしまった。
残念な結果に終わった事を、非情に嘆かわしく思う。
僕は一人の友人として、SOS団の仲間として、二人の復帰を願ってやまない。
83 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/05(金) 00:01:57.11 ID:f3NhL5VQ0 [1/4]
――
「涼宮さん。今日は気分はどうですか?」
わたしの言葉に、何も反応しない。
もし、反応するとすれば彼――キョンくんの言葉だろう。
だけど、キョンくんは、涼宮さんとはレベルの違う狂気に侵され、この病院の地下室にいるはずだ。
どうしてこんな事になってしまったのか。
あの時、キョンくんを普通の施設なり、病院なりに入れておけば、涼宮さんまでこんな風にはならなかったんじゃないのだろうか。
わたしは涼宮さんの髪を、ブラシで梳かしながら話しかける。
「この病院にキョンくんもいるんですよ」
返事は無くともわたしは話す。
「二人が良くなって、退院できたら、また不思議探索に行きましょうね」
例え聞こえていなくても、心に届く、何かがあれば。
わたしは話し続ける。
痩せた、わたしより細くなった、涼宮さんの手。
その手を握って、たくさんたくさん、話す。
いつかまた、SOS団団長として、わたしたちを引っ張ってくれるように。
この手が、力を取り戻してくれるように。
こんな事しかできないわたしは――本当に、役立たずですね……
87 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/05(金) 00:11:38.03 ID:f3NhL5VQ0 [2/4]
――
『誰かいないか! 俺は狂ってなんかいない……ここから出してくれっ!』
病院の地下――特別室に私は入る。
拘束されてる、彼。口の拘束具を外す。
「長門? おい、長門! 俺は狂ってない! そうだろ?」
果たして私に、彼の問いに答える権利はあるのだろうか?
それでも、言わなければならない。
「その通り。貴方は正常」
「な、長門! だったら……」
次の言葉を紡ぐには、私という個体に大きなエラーを蓄積する。
しかし、言わなければならない。
――これが、けじめというものだから。
「貴方を、外に出す事はできない」
「……何でだよ、俺が正気だって分かってるんだったら!」
「涼宮ハルヒにとって大事な存在である貴方に、もはや自由は与えられない」
「どういう……冗談だよ。笑えないぞ、おい」
「今から説明する。……納得して欲しいとは考えてない」
92 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/05(金) 00:35:50.05 ID:f3NhL5VQ0 [3/4]
「思念体の方針が変わった。
有機的な存在である涼宮ハルヒに宿った力の観察。
それを繰り返していくうちに、彼女では大規模な進化は困難と言う結論に達した。
それは言うまでも無く、彼女の精神が安定し、力を行使する事が少なくなったせい」
「それで、お前の親玉はどうしたんだっ?」
「涼宮ハルヒの力を、他の人物に移動させる事にした。
より、進化の可能性の高い人物へ、と。
その人物は、貴方達も、私も知らない人。
その人への力の移動の為に、彼女の心を不安定にさせる今回の事件……貴方の精神的錯乱を引き起こした。
意思の殆ど無い個体からの力の移動は、容易だった。
以前のエラーを起こした私の様な、滅茶苦茶なものではない……完璧な移動」
「そんな、そんな事の為に、お前は! 裏切ったのか! 俺たちを!」
「……私の役目は、これで終わり。
新しい人物の観察任務は、新たなインターフェイスが行う」
「長門? お前、身体が……! 朝倉の時みたいに!」
「私は……貴方たちの影響を受けすぎた……だから、処分される……。
もし許されるのなら……別の世界で、また、図書館に……」
「長門ぉ! 長門ぉーっ! 」
―End―
93 名前:南部十四朗 ◆pTqMLhEhmY [sage] 投稿日:2010/11/05(金) 00:37:11.08 ID:f3NhL5VQ0 [4/4]
まさかスレが立つとは思わなかったので1レス目から適当でした。
こんなに意味が分からないものになるなんて思いませんでした。
せっかく金玉を出したのに金玉の可能性を引き出すことが出来ませんでした。
オチの弱さ、並びに文章の拙さをお詫び申上げます。
読んで頂いた方々、どうもありがとうございました。
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