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唯「私の」

1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/10/10(日) 21:17:03.31 ID:dZcYSX1J0 [1/12]
いつか、憂は私の元を離れる…

憂は私に過保護すぎるなんてよく言われるけれど、その時が来たら泣いて縋るのは私。
それは自分で分かってた。

憂は本当にしっかりした子だからいざとなれば一人でも大丈夫なんだ。

でも私にはどんな時でも憂のことが頭を離れなくて、そばにいないと不安で不安でしょうがない。

だからいつか分かれる日が来て、憂がなんら変わらず過ごしているのを想像すると
手足が信じられないくらい震えた。
それが、怖かった。とんでもなく怖かった。

だからずっと離れないように、離れられないように憂を私に縛り付けなくちゃ、そう思った。

たとえ、どんなことをしても。

5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/10(日) 21:28:18.92 ID:dZcYSX1J0
~~~

今、憂は私の家のソファで少し疲れた顔をして寝てる。

「うい…」

「ん…」

やさしく頬を撫でると、小さくいつものかわいい声を出して顔を背けた。
くすぐったかったのだろうか。

幸いにも明日は土曜日、憂も学校は休みだ。
だから夕方から布団もかけずに睡眠を取っている。

疲労の原因は、もちろん私。

私が前以上に憂を頼って、それに加え家までわざわざやってくる疲れもあるのだろう。

それでも、私はやめようとは思わない。
こうしなくては、紐が取れてしまった風船のように憂はふわふわとどこかへ飛んでいってしまう。

だから私から目が離せないように憂にしがみついて無理やりにでもとどまらせるんだ。

6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/10(日) 21:36:59.18 ID:dZcYSX1J0
「ん…寝ちゃってた……」

どうやら憂が目を覚ましたようだ。
うっかり寝てしまっても支障のないうちに起きるのがなんとも憂らしい。

「よく眠れた?」

「えへへ、うん。たまにはいいかな」

調子よく聞く私は、なんともどす黒い腹をしている。

「ご飯…何がいい?」

まだ少し眠気と疲れが覗く目で、憂は嫌な顔一つせずに答える。
この子がいればなにもいらない。。

「憂のつくるものならなんでもいいよ」

「うーん、言ってもらったほうが助かる…かな?」

「じゃあ、豚の角煮!」

「間に合わないよー」

「へへ、冗談だよ。じゃあカレーがいい」

「わかった」

そろそろとキッチンへ向かう憂を目で追って、私は僅かに口角を持ち上げた。

8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/10(日) 21:44:58.35 ID:dZcYSX1J0
少しして水の流れる音が聞こえる。

今頃憂は、私の好きなエプロン姿で、私の好きな手で野菜を持って、
私の好きな声で鼻歌でも歌いながら私の大好きな料理を作ってくれているのだろう。

これでいい、なにもかも順風満帆だ。

私が依存すればするほど、憂は私に尽くしてくれる。
面倒見の良い憂の性格、これほど都合の良いものはない。

あまりにもうまく行き過ぎて出てしまった笑い声を隠すように、私は憂の奏でる鼻歌を一緒に歌った。

10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/10(日) 21:54:45.48 ID:dZcYSX1J0


一人暮らしが始まったあの時、私は体中の水分がなくなってしまうほど泣いた。
現実を受け入れたくなくて、憂に迷惑を掛けることも人前なのも憚らず大声で泣いた。

「お姉ちゃん泣かないで、ね?」

優しく私の肩をさすってくれる憂の目にはもう涙は浮かんでいなくて、その時私は
「憂はやっぱり私がいなくても平気なんだ」
そう思った。

私は嫌だ。
死んでも離れたくない。
憂が好きだ。
この世のなによりも。
だから全部私のものにする。
心も、体も全部。

そして、気がついた。
どうすればいいのか。

憂は私のためなら何でもしてくれる妹だから、それを利用すればいい。
私が心を傾けるほど憂も離れてはいられなくなる。

そして、私は憂をこの胸に収めるように、強く強く抱きしめた。

11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/10(日) 22:03:19.11 ID:dZcYSX1J0
毎日毎日電話をかけて、メールを何通も送った。
優しい憂は嫌な素振り一つ見せずに返事をしてくれて、それが嬉しかった。

でもそれくらいで私の決意は揺らがない。
憂の時間を奪うことになるとしてもやると決めたから。


離れてから一週間。

私は家に帰らなかった。

憂にも、毎日メールをしている友人にも連絡を取らなかった。
携帯の電源も切った。

こうすれば不審に思った憂はきっと探しに来てくれる。

私は、昔憂とよく行っていた公園のベンチに腰掛けた。

ここなら、電車に乗る前に眼に入る。
血眼になっている憂ならすぐに見つけられるだろう。

私はすでに暗くなった空を見上げて、これから始まる夢のような生活に想いを馳せた。

14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/10(日) 22:26:40.76 ID:dZcYSX1J0
どれくらい経っただろうか。
駆け足のような音が聞こえてきた。

「はぁ、はぁ……おねーちゃーん!」

憂だ。
ああ、やっぱり来てくれた。

「どこに……」

憂はあたりを見回すと、私と目を合わせた。

「あ……お、お姉ちゃん!?」

「うん」

口を開けて驚いていた憂は、一拍置いて私のもとに駆けてきた。

「…お姉ちゃんのばか!」

「え…?」

憂の口からそんな言葉を聞くのは初めてだったので、どうしてよいかわからず憂の顔を覗くと、

「……ばかぁ…」

憂は涙をいっぱい蓄えて、ぼろぼろと泣いていた。

18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/10(日) 22:36:48.18 ID:dZcYSX1J0
私は声を出せずに、胸で呻く憂をただ見ていた。

「…また勝手にどっか行っちゃったら…怒るから、ねっ…」

憂を抱きしめた。

「…どうして分かったの?」

そんな質問はどうでもよかった。

「…り、律さんがっ…お姉ちゃんが家にいないって教えてくれて…」

そんなこともどうでもいい。

ただ、憂が私のために走りまわってくれて、泣いてくれた。

「そっか、ごめんね」

それだけで私の心は満たされた。

「…ばか」

未だ鼻を啜っている憂を優しく優しく撫でてあげた。

20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/10(日) 22:53:06.73 ID:dZcYSX1J0
―それから、憂は毎日家に来てくれるようになった。

私が卒業してから入ったという軽音部の活動に時間を押されてまで。

次の日が休みの時は必ず泊まり、日曜日にまた家に帰る。
私の家に来て、家事をこなし、晩ごはんを作り、宿題をしてまた電車で家に帰る。

家を出る時は抱きしめてから。
そうしないと私が怒るから憂も言われなくてもやってくれるようになった。

今の私は本当に幸せ。

憂が私だけを見て、私だけに尽くしてくれる。

一つ不満を挙げるなら、部活はやめて欲しかったけれど、
憂も友人のためにやすやすとやめる気はないらしい。

憂と年齢が違うのがもどかしい。

同じ年に生まれたなら、一緒に部活に入って、一緒に帰ることが出来たのに。

しかし、どうしようもないことを嘆いても仕方がない、私はまた憂の透き通る声に耳を傾けることとした。

23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/10(日) 23:19:18.38 ID:dZcYSX1J0
暫くして憂が顔を出した。

「ご飯できたよ」

「やったぁ」

「お箸とスプーン用意してくれる?」

「わかった!」

キッチンへ近づくと、カレーの食欲をそそる香り。
憂のカレーだってすぐにわかる。

「よし、じゃあ食べよっか」

「うん、いただきまーす」

「いただきます」

一口くちに放りこむと、熱かったけれどとてもおいしかった。

憂の手で調理された食材を、今口に運んでいる。そう考えただけでも幸せな気持ちになる。

「おいしいよーういー」

「ありがとー」

憂が嬉しそうに作る笑顔は、私の心臓を高鳴らせる。

憂は、誰にも渡したくない。

24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/10/10(日) 23:35:53.09 ID:dZcYSX1J0 [11/12]
終わり

27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/10(日) 23:46:08.15 ID:dZcYSX1J0 [12/12]
ごめんなさい
おねむの時間なのでねます

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