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タイトル未定

45 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga sage] 投稿日:2010/10/02(土) 01:34:24.53 ID:y1ZSErM0 [2/16]

あと簡単な注意
・基本的な世界観は一緒ですが、設定が違ういわゆるパラレルです。
・時系列は上条と美琴が出会った後、美琴が妹達の存在を知る前、上条がインデックスと出会う前。
・具体的には7月の中旬? 下旬? くらい。
・あとは展開上の都合で、ちょこちょこ時期と出来事がずれてるところがあります。

こんな感じです。あと上手くキャラ掴めてないかも……。
それでは、冒頭だけですので短いですが10レスほど頂きますね。

46 名前:タイトル未定 1/10[saga sage] 投稿日:2010/10/02(土) 01:35:30.09 ID:y1ZSErM0 [3/16]
走る。走る。走る。

何処へ向かえば良いのか、どうして走っているのか。何も分からないまま、それでも少年はひたすらに走り続ける。
けれど少年には、たったひとつだけ分かっていることがあった。

誰から逃げているのか。

それを理解するのは簡単だった。少年の背後には、恐ろしい追跡者があったからだ。
追跡者は必死になって逃げ回っている少年とは対称的に、追跡者としてはあるまじきことに、余裕の表情で悠々と歩いていた。
なのに、追跡者はたまに地面を軽く蹴ったかと思うと一瞬で少年との距離を詰めてくる。
だから少年は、とにかく必死で逃げることしかできなかった。

少年はそんな追跡者の態度が気に食わなくて仕方がなかったが、今は逃げるしか手立てが無い。
自分ではとてもではないがあの追跡者を退けることなどできないからだ。

突然少年の真横にあった壁が小爆発を起こしてコンクリートの破片を撒き散らす。
飛散した拳大のコンクリートが二の腕を抉るが、追跡者は痛がる暇も与えてはくれない。
少年はすぐに体勢を立て直すと、すぐそこまで迫っている追跡者を一瞥してから再び走り出した。
その様子を見ていた追跡者は一旦その歩みを止めると、とても詰まらなそうに溜息をつく。

「オイオイ、ホントに能力が使えなくなってんのか? 張り合いねえなあ」

『文句言ってねえでさっさと捕まえろ。もうすぐ第七学区の大通りに出る。人目につく場所に出られたら面倒くせえ。
 それに能力が使えないってんなら好都合だろうが。捕まえやすいだろ?』

追跡者がインカムのマイクに向かって不平を漏らすと、すぐさま男の声が返ってきた。
それはどう考えても、明らかに追跡者よりも一回りは年上の男の声。
にも関わらず、追跡者は一切口調を改めること無く続けて愚痴をこぼした。

「ま、そりゃそうだけどよ……。手加減すんの、結構難しいんだぜ? 下手に傷つけたら後が怖い」

『ちょっと傷をつけるくらいなら、学園都市の医療技術で傷跡ひとつ残さずに治療できる。
 流石に手足飛ばしちまったら、俺もお前もただじゃすまねえだろうけどな』

「わーってるって、心配すんな。うまくするさ」

追跡者は視線の先にいる少年が暗い路地の角を曲がるのを確認すると、能力を使って一気に少年との距離を詰めた。
そうして追跡者が、先ほどまで少年のいた場所である路地の突き当たりに立った、その時。
追跡者の位置からは死角になっていた路地に積み上げられていた大量の木箱が、突然追跡者を押し潰さんとして雪崩れ込んできた。

47 名前:タイトル未定 2/10[saga sage] 投稿日:2010/10/02(土) 01:36:03.01 ID:y1ZSErM0 [4/16]
相手は能力が使えないからと高を括って、自分も能力の使用に手を抜いていたのが悪かった。
木箱攻撃をまともに食らってしまった追跡者はものの見事に木箱の山に埋まってしまい、
ほんの僅かな時間とはいえ完全に少年の姿を見失ってしまう、という小さな、しかし致命的なミスを犯した。
追跡者はすぐに木箱の山を蹴散らして少年の姿を探すが、何処をどう見回しても少年の姿を見つけることができない。
追跡者が歯噛みしていると、イヤホンから先程の男の声が聞こえてきた。

『オイ、すごい音がしたぞ。どうかしたか?』

「くそ、油断した。見失っちまった。だが、まだそんな遠くへは行ってない筈だ。監視カメラから確認できるか?」

『ちょっと待ってろ。…………』

ヘッドセット越しに、カタカタとキーボードを打つ音が聞こえてくる。
それは時間にして一分にも満たなかっただろうが、その間追跡者は途轍もなく長く待たされているかのような錯覚に陥った。
万が一にもアレを取り逃がすことなどあってはならなかった。どんな手を使ってでも捕らえなければ。

「まだか? 早くしねえと遠くに行っちまうぞ」

『……、…………。いねえ』

「は?」

『どの監視カメラにも写ってねえ。アイツは走り続けてるはずだから、死角にいるとは考えづらい。
 この周辺にはもういないと考えた方が良いだろうな』

「はあ? アイツは能力が使えないんじゃなかったのか? そんなことできるはず……」

『お前との追いかけっこの中で少しだけ能力の使い方を思い出したか、使えないふりをしていたか、だな。
 どちらにしろこれじゃ能力を使って逃亡したと考えた方が妥当だろう。
 俺は別のエリアの監視カメラをハッキングする。お前はその辺を走り回ってとにかくアイツを探せ』

「チッ、調子に乗りすぎたか……。仕方ねえ、本腰入れて探すとするか」

追跡者は苦い表情を作ると、自らの能力を展開させて一瞬にしてその場を去ってしまう。
……だから追跡者達は、遂に気付くことができなかった。
雪崩れて山と積まれた木箱の下に、僅かに開け放されたマンホールがあることに。

48 名前:タイトル未定 3/10[saga sage] 投稿日:2010/10/02(土) 01:36:42.68 ID:y1ZSErM0 [5/16]
第七学区。
誰もいない裏路地のマンホールの蓋がひとりでに持ち上がったかと思うと、ゆっくりと横にずれていき、
やがてぽっかりと下水道への入り口が口を開ける。
マンホールの蓋が動きを止めて暫らくすると、その中から幽霊のように真っ白な手がぬっと伸びてきた。
まるでホラー映画のワンシーンのような光景だが、続けてそこから顔を出したのは追跡者から逃げ回っていたあの少年だった。

少年は傷だらけの身体を引き摺って何とかマンホールから這い出ると、ぺたんと座り込んで壁に凭れかかる。
血を流しすぎた所為もあるだろうが、体力の消耗が激しかった。
どういうわけかわからないが、どうやら以前の自分は体力のない人間だったらしい。

「はっ、はあ、は、はあ……。な、とか、撒いたか……」

荒い息を繰り返しながら、それでも少年は身体を引き摺りながらマンホールの蓋をしっかりと閉める。
こうでもしないと今にもマンホールの奥の暗闇からあの追跡者の姿が現れそうな気がしたからだ。
そこまで考えて自分はなんて臆病な奴なんだだろうと自嘲すると、少年は痛む身体に鞭打って再び立ち上がる。

「……ここ、何処だ?」

マンホールを通ってきたので、今自分が何処にいるのかよく分からない。
なんとなく何かから遠ざからなければならないという事は分かるのだが、それが何なのかが分からないのだからどうしようもない。
少年は一瞬途方に暮れかけるが、ふと耳を澄ませてみるとすぐそばに町の喧騒があることが窺い知れた。

どうやらここは大通りから一本裏に入っただけの路地らしい。ちょっと行けばすぐに大通りに出ることができるようだ。
しかし大通りに出て良いものだろうか、と少年は迷った。
確かに大通りに出れば、あの追跡者達もそう簡単に自分に手出しすることはできなくなるだろう。
だがこの血だらけ泥だらけの姿で大通りに出てしまえば、
不審者として通報されて捕まって、最悪あの追跡者達の所へと身柄を引き渡されてしまうことも考えられる。
それだけは何とかして避けたかった。

少年は暫らく考えた後、やはりこのまま路地裏を進むことにした。
やはり大通りに出るのは躊躇われるし、大通りのすぐそばの裏路地なら追跡者達もあまり派手な破壊行為はできないだろうと踏んだからだ。

そうと決めると、少年は再び歩き始めた。
ふと顔を上げてみれば、そう遠くないところに病院が見える。
あそこに行って治療を受けるのが最善だろうが残念ながら少年は無一文で、しかも病院で身元を尋ねられても答えることができない。
そうして最終的には通報されて……という最悪の結末が脳裏を過ぎり、少年は力なく首を振った。
……自分の力だけで、何とかしなければならない。

49 名前:タイトル未定 4/10[saga sage] 投稿日:2010/10/02(土) 01:37:18.03 ID:y1ZSErM0 [6/16]
同じく第七学区、とある大通り。
完全下校時刻間近で人通りの多いこの場所にも、世にも恐ろしい追跡者から必死で逃げ続けている不幸な少年が居た。
ただし、この少年を追いかけている追跡者は、なんとも可愛らしい少女であった。
学園都市有数のお嬢様学校である常盤台中学の制服に身を包み、セミロングの茶髪を靡かせているその少女は、しかし、体中から紫電を発していた。

バチバチと派手な音を立てて放電しながら疾走する少女は、時折少年に向かってその紫電を解き放つ。
しかし、とんでもない速度で逃げ続ける少年を見失ってしまわないように全力疾走しながら能力を使っているからなのか、
狙いが甘くなってしまい、放った電撃は少年に届くことなく掻き消えるか外れるかで、少年に届くことは決してない。
いつまで経っても少年に一矢報いることもできないことにいい加減痺れを切らした少女が、走る速度を落とさないままに声を張り上げた。

「あーっ!! もう! いつまで逃げてんのよ、大人しく私と勝負しろーっ!!」

「そんなことを言われましてもですね、俺はただの無能力者であって、これは流石に命の危険を感じざるを得ないというかーッ!!」

「うっさい、どの口でそんなことを言うか! 待・て・や・ゴルァアアア――ッ!!」

「ハッハッハ、待てと言われて待つ馬鹿がどの世界に居るというのやら! ……ああ、不幸だ――ッ!!」

少年の名は、上条当麻。幻想殺しという特殊能力を持つが、普段は不幸体質の無能力者。
対して、少女の名は御坂美琴。名門常盤台中学の誇るエース、超能力者(レベル5)の第三位。

途轍もないレベル差のある二人だが、こうした追いかけっこイベントは、そう珍しいことではない。
むしろ美琴は上条を見つける度にこうして勝負を挑んでは逃げられ、追いかけっこを開始するので、もはや日常茶飯事とさえ言える。
周囲の人々は好奇の視線こそ向けてくるものの、こうした能力者同士の喧嘩はよくあることだからなのか、
いらぬ火の粉を浴びないように道を開けたりはするものの、この二人の追いかけっこを積極的に止めさせようとは思っていないようだ。
当然、風紀委員や警備員に見つかったら大事だが、周囲の人々はこれをそれほど深刻な事件とは思っていないのか、通報してくれる気配がない。

……ああ、不幸だ。
上条は、今度は心の中だけで、再び自らの口癖を呟いた。

今日は不幸体質の上条にしては非常に珍しいことに、タイムセールでお手頃な値段になっていた牛肉を手に入れることができて、
意気揚々と自らの住まう学生寮に帰ろうとしたら、これだ。
久々に牛肉を味わうことが出来ると思って幸せな気分でいたのに、つくづく神様は自分を素直に幸せにしてくれる気がないらしい。

先程から全力疾走するために高速で両腕を前後させているので、左手に提げられたビニール袋の中身は、もうすっかりシャッフルされてしまっている。
流石に牛肉はまだ大丈夫だろうが、他にも諸々の食品が入っている。そちらの方がどうなっているかなんて、想像するまでもなかった。
いやしかし、多少傷んだり形が崩れてしまっても、まだまだ充分食べることはできるはずだ。希望を捨てるにはまだ早い。

(その為にも、なんとかしてビリビリを撒かなくては……)

上条は胸中で呟くと、何か利用できるものはないだろうかときょろきょろと辺りを見回し始めた。
すると、ふと路地裏への入り口が目に付いた。
確かに入り組んだ構造をしている路地裏に逃げ込めば、美琴を巻くことのできるチャンスが生まれるかもしれない。
しかし路地裏には、物騒なスキルアウトが屯している。一般人が気軽に近付いて良いような場所ではないのだ。

50 名前:タイトル未定 5/10[saga sage] 投稿日:2010/10/02(土) 01:38:04.59 ID:y1ZSErM0 [7/16]
だが、上条は訳あって少しばかり路地裏の構造に詳しかったし、不良の一人二人ならなんとか相手にできる程度の腕っ節も持っている。
学園都市の第三位と居るかどうかも分からない不良達、どちらが恐ろしいかなんて火を見るよりも明らかだ。

ただ、そんな物騒な場所に、年頃の女の子である美琴を引きずり込んでしまうことになる。
そこに少々の抵抗があったが、如何に年頃の女の子と言っても、美琴は超能力者だ。
たとえスキルアウトが100人束になってかかってきたとしても、余裕で返り討ちにしてしまうだろう。
少々の申し訳なさを感じながら、それでも上条は決断を下すと、急ブレーキをかけて真横に方向転換。
路地裏に飛び込むと、一気に美琴を引き離すべく全速力で走って路地裏の入り組んだ迷路の中に身を隠そうとした。

と、その時。
上条は黒で塗り潰されているはずの路地裏に、白い人影があるのを見つけた。
まさかこんな所に人が居るとは思っていなかったので上条は驚いたが、近道をする為に路地裏を利用する勇敢な人間は実は少なくないのだ。
少年の方も上条に気付いて少し驚いた顔をしたが、大した反応を見せることなく二人はすぐにすれ違い、別々の方向へと向かっていく。
……しかし、美琴がそれを許さなかった。

「逃がすかあああ―――ッ!!」

美琴の方も上条を逃がすまいと必死になっていたのと、上条と同じようにまさかこんな所に人が居るとは思っていなかったのだろう。
美琴は路地裏に飛び込んでくるなり、よく前方を確認することなく電撃を放ってしまった。
しかし美琴の目の前に立っていたのは上条ではなく、先程の少年。
それを見た美琴は慌てて放った電撃を引っ込めようとするが、間に合わなかった。

バチィッ、と大きな音がして、電撃が少年に直撃する。
少年は咄嗟に両腕で頭を庇ったが、少年にできた防御行動はたったそれだけだった。
ただし上条のような能力を持っていたのなら、それで何の問題もなかっただろう。

しかし当然ながら、こんな通りすがりの少年が、そんな能力を持っているわけがない。
そんなただの少年が超能力者の第三位たる美琴の電撃に耐えられるはずもなく、少年はそのまま気絶してその場に倒れこんでしまう。

先程までの威勢は何処へやら、電撃を放った張本人である美琴は顔を真っ青にして凍り付いている。
もちろん致死量の電撃など放ってはいないが、上条に当てるつもりで放った電撃だったので、それでもかなりの威力を持っている。
もしかしたら、最悪後遺症が残ってしまうかもしれないレベルだった気がする。
走りながらも後方を確認していた上条は、それを見て慌てて急ブレーキを掛けてUターンすると、
すぐさま血の気の引いた顔をしている二人のもとへと駆け寄った。

「ど、どどどどうしよう……、わ、私とんでもないことを……」

「言ってる場合か! 早く病院、救急車だ! いや、ここからなら救急車を待つよりも運んで行ってやった方が早いか」

「う、うん……」

混乱のあまりにどうしたら良いのか分からずおろおろとしている美琴を尻目に、上条は慣れた手つきで少年を負ぶっていた。
不幸中の幸いか、病院はすぐそこにある。二人は路地裏を飛び出ると一目散に病院に向かって駆け出した。

51 名前:タイトル未定 6/10[saga sage] 投稿日:2010/10/02(土) 01:38:34.60 ID:y1ZSErM0 [8/16]
第七学区、とある病院。
例の少年が入院することとなった病室の外にある椅子に、二人は落ち着かない様子で座っていた。
特に、この状況の原因である美琴の落ち着きのなさは尋常ではない。
大人しく座って俯いているかと思ったら、急に立ち上がって落ち着きなく辺りを歩き回り始める。
当然といえば当然の挙動なのだが、いつも美琴に凄まじい電撃を浴びせられている上条にはそれが非常に珍しい光景のように思えた。
上条は暫らくそんな美琴を眺めていたが、いよいよこの沈黙に耐えられなくなったのか、急に美琴が声を掛けてきた。

「……そう言えば、アンタやけに手馴れてたわね。こういうこと、よくあるの?」

「ああ、俺は近道するためにしょっちゅう路地裏を通るからさ。不良どもに絡まれてる奴をよく助けてやるんだよな。
 そういう時って、絡まれてた奴は大抵既に怪我してるから、そういう奴を病院に連れてってやるんだよ。
 ま、殆どの場合その時に俺もボコボコにされてるから、俺も一緒にこの病院で診てもらうんだけどな。アハハ……」

「ふうん……。ほんと、無能力者の癖によくやるわね」

そう呟く美琴の口調は、どことなく不機嫌そうだ。
一体どこで地雷を踏んでしまったのかさっぱり分からない上条は首を傾げると、不意にガラッと病室の扉が開く音がした。
二人は一斉に音のした方向を振り返ると、そこには少年の病室から出てきたカエル顔の医者の姿があった。

「先生! どうでしたか?」

「外傷の方は、どうってことなかったね? 多分、無意識に加減していたんだろう。それより、中身の方が重症みたいだね?」

「そ、それってどういう……」

美琴が再び顔を青くしながら尋ねると、医者は困ったように眉根を寄せる。
どうやら、身内でも何でもない上条たちにあの少年の症状について説明してしまうことを躊躇っているようだった。
しかし恐らく、美琴はあの少年ついてきちんと聞くまで、あらぬ事まで想像してずっと苦しむことになってしまうだろう。
自己中心的な考えかもしれないが、なんとかしてそれだけは避けてやりたい上条は、少し考えてから口を開いた。

「あの人の怪我は、俺達の不注意が原因なんです。それを償うためにも、あの人について教えてもらえませんか?」

「……ふむ。まあ君達もまったく無関係というわけではないようだし、説明しておこうかな?
 結論から言うと、あの子は記憶喪失だね? エピソード記憶がごっそりと、一部の意味記憶と手続記憶も失っている」

医者の言葉を聞いて、これ以上青くはならないだろうと思われていた美琴の顔がもっと青くなった。
しかしそれを見た医者は、慌てて言葉を続ける。

「心配しなくても良い。あの子に確認してみたら、電撃を浴びる前の記憶ははっきりしていた。恐らく君の電撃の所為ではないだろう」

「そ、そうですか……」

医者の言葉を聞いて、美琴はやっと安心したようだった。顔色はまだまだ充分青かったが、少しは頬に赤みが差してきたような気がする。
しかしそんな美琴とは対称的に、今度は医者の方が少し難しい顔になった。

52 名前:タイトル未定 7/10[saga sage] 投稿日:2010/10/02(土) 01:39:01.67 ID:y1ZSErM0 [9/16]
「それより、彼に電撃によるもの以外の外傷があったのが気になる。君達は何か知っているかな?」

「あ。そういえば、路地裏ですれ違ったのでもしかしたらタチの悪い連中に襲われたのかもしれません。
 その時には既に少しふらふらしてた気もします」

「なるほど」

上条の説明に、医者は漸く合点がいったようだった。
……と言うことは、まさか不良に絡まれたときに頭を強く殴られるか何かして記憶を失ってしまった、ということなのだろうか。
上条が考えたことをそのまま医者に伝えると、医者は左右に首を振った。

「いや、それはないね? ちょっと機械で検査をしてみたけど、頭部を強打したことによる記憶喪失ではなかったよ」

記憶喪失と言えば頭を打って……というイメージがあったので、この医者の答えに上条は少し驚いた。
原因を聞いてみたかったが、どうやらこちらは少年に口止めされているらしく、医者は申し訳無さそうにその旨を伝えてきた。

それにしてもすべての記憶を失くしてしまうなんて、まるで想像することもできない。
それでもお人好しの上条は、きっと途轍もなく不安なんだろうなと思った。
上条たちはあの少年の知り合いではないから記憶についてはどうしてやることもできないが、何とかして力になってやりたいと思った。

「話を聞くに、君達はあの子とは面識がないみたいだけど、あの子に関して何か覚えていることはないかな?」

「すみません、何も……。すごく目立つ容姿だけど、今まで一度も街で見かけたことがないし……。
 ……あれ。先生、そう言えばあの人の名前はなんて言うんですか?」

上条が尋ねると、医者は再び困ったように眉根を寄せた。癖なのだろうか。
しかし上条はこの反応を見て、懸念していたことが現実になっていたことを理解した。

53 名前:タイトル未定 8/10[saga sage] 投稿日:2010/10/02(土) 01:39:37.96 ID:y1ZSErM0 [10/16]
「それが、自分の名前も覚えていないみたいだね?
 ただ自分に関する情報として『一方通行』という単語だけは覚えているようだったから、とりあえずそう呼んでいるけどね?」

「アクセラレータ? 加速装置のこと? それが何の関係があるのかしら」

「いや。『一方通行』と書いて『アクセラレータ』と読むみたいだね? 多分、能力名か何かだろう」

「能力名……? そんな能力聞いたこともないわ」

恐らくは「アンタは知ってる?」という意味なのだろう、上条は美琴に見つめられたが何も言わずに首を振った。
学園都市の第三位である美琴も知らないような能力を、無能力者の上条が知っているわけがない。

「もしくは警備員や風紀委員みたいな組織の名前? あるいは計画とか研究とか。
 そうだ、警備員に頼んで書庫で調べてもらったら良いんじゃ……」

「それが、本人が頑なに警備員や風紀委員に相談することを拒んでね? 理由も教えてくれないから、困っているんだよ?」

「うぐ、それは難しいな……」

上条は苦い顔をして、がっくりと肩を落とす。
すると暫らく何事かを考え込んでいたらしい美琴が、何か思いついたのか急に声を上げた。

「そしたら私、風紀委員に知り合いがいるのであの人のことは伏せて一方通行について調べられると思います。それなら良いですよね?」

「そこは本人に訊いてもらわないとね? もうだいぶ良くなってるし、会ってみるかい?」

当然、こうなってしまったことをあの少年に謝らなければならない。
二人は迷うことなくそれを了承すると、医者に続いて例の病室に入っていった。

54 名前:タイトル未定 9/10[saga sage] 投稿日:2010/10/02(土) 01:40:21.71 ID:y1ZSErM0 [11/16]
少年は病室の窓際に置かれたベッドの上で、半身を起こして開け放たれている窓の外を眺めているようだった。
白い病室と殆ど同化してしまっている程に白いその少年は、三人分の足音に気付いてこちらを振り返る。

「ンだァ? まだ何か用か?」

「いや、例の子達が君に謝りたいらしくてね? 連れて来ただけだよ」

医者の言葉に、少年は医者の後ろに佇んでいる二人の方へと目をやった。
見たこともないような鋭い真っ赤な瞳に見つめられてぎくりとするが、美琴は怯むことなく口を開く。

「あ、あの、ほんとに申し訳ありませんでした。ついいつものノリで電撃を……、不注意でした。ごめんなさい」

「……別に、謝られるほどのことじゃねェ。アイツよかマシだ」

最後の方は本当に小さな声だったので聞き取れなかったが、とりあえず少年はそこまで怒っているわけではなさそうだ。
不機嫌そうに見えるのは、どうやら天然のしかめっ面なだけらしい。
少年の言葉に、深々と頭を下げていた美琴は顔を上げると、ほっと胸を撫で下ろした。

「俺も、ちょっと考えれば、あのまま行けば巻き込まれるのは分かってたのに、すみませんでした。えっと……」

「……一方通行で良い。ここの奴らはそう呼ぶ。あと、むず痒いから敬語もいらねェ」

「そ、そっか。とにかく、身体の方は何事もないみたいで安心したよ。あ、俺は上条当麻。こっちはビリビリ。
 これも何かの縁だし、何か困ったことがあったら俺を頼ってくれ」

「誰がビリビリかッ!! ……わ、私は御坂美琴よ。よろしく」

流石に病院内なので電撃のおまけは無かったが、美琴の鋭いツッコミを受けながら上条は一方通行に向かって手を差し出した。
一方通行はそれを見て少し驚いた顔をし、そして少し躊躇ってからその手を取って握手した。
続いて美琴とも握手をしていたが、どうも動きがぎこちない。こういうことに慣れていないのか、人見知りなのだろうか。

「お医者さんから話は聞いたわ。私、こう見えても超能力者だから、そっちの無能力者よりは頼れると思うわよ。
 それから、私は風紀委員の知り合いがいるんだけど、アンタのことは伏せて『一方通行』について調べたいと思ってるの。
 風紀委員や警備員を敬遠してるみたいだからちょっと迷ってるんだけど、大丈夫かしら?」

「あァ。その程度なら構わねェが……」

「それから私達、この辺りには結構詳しいから、外出できるようになったらこのあたりを案内してあげるわ。
 この辺のことも覚えてないだろうし、一応見回っておいたほうが後々便利でしょ?」

「そ、そォか。助かる」

ほんの少し一方通行の様子を観察してみただけだが、やはり彼はどうにもこういうやり取りに不慣れなようだった。反応に困っている気がする。
上条がそんなことを考えながらふと時計を見やってみると、もう完全下校時刻をだいぶ過ぎてしまっているではないか。
確か美琴の寮には門限があったはずだと思い当たり、上条はまだ一方通行と何事かを話しているらしい美琴に声を掛けた。

55 名前:タイトル未定 10/10[saga sage] 投稿日:2010/10/02(土) 01:40:54.48 ID:y1ZSErM0 [12/16]
「ビリビリ、そろそろ帰らないとやばくないか?
 それに一方通行もまだ本調子じゃないだろうし、また今度お見舞いに来ることにしてもう帰ろうぜ」

「へ? ああっ!?」

壁に掛けられている時計を見て、美琴は本日何度目かになるか分からない蒼白な顔をした。
美琴は大慌てで床に置きっぱなしにしていた鞄を引っつかむと、反対の手でがっしりと上条の腕を捕まえた。

「今日は本当にごめんなさい! 早く良くなるといいわね! それじゃ、またお見舞いに来るから! じゃあね!」

美琴は早口にそれだけ言うと、上条の腕を掴んだまま病室を飛び出していった。
当然、腕を掴まれたままの上条は引き摺られる形になるわけだが。

「お、おいコラビリビリ! なぜ上条さんの腕をつかんでいるのでせうか!? は、放してええぇぇぇ……」

美琴が開けっ放しにしたドアから、上条の悲痛な悲鳴が聞こえてくる。
遠くの方から看護士さんの「病院では静かに!」という声が聞こえてきてようやく静かになった。
呆然としながらその様子を眺めていた一方通行は、やがて我に返ると呆れながら呟いた。

「……変な奴ら」

「ま、賑やかで良いんじゃないかな? 病院で騒ぐのは、あまり褒められたことじゃないけどね?」

今度は窓の外から騒ぎ声が聞こえてきたのでふとそちらに目をやると、ちょうど上条と美琴が病院から出てきたところだった。
一応そこも病院の敷地内なのだから騒いではいけないのではないかと思ったが、二人は完全にお構いなしだ。
流石にここからは内容までは分からないが、何やら言い合いをしながら帰っていく二人を眺めながら一方通行は再び同じことを呟いた。

「変な奴ら」



56 名前:タイトル未定 ここまで[saga sage] 投稿日:2010/10/02(土) 01:42:48.26 ID:y1ZSErM0 [13/16]
という、記憶喪失になった一方さんとそれを拾った上条さんと美琴の話です。シリアスほのぼのになる予定。
短くてすみません。
きちんと書くときはスレ立てすることになると思いますが、なにぶん遅筆ですので気長にお待ちください。
それにしてもこういうところにSS投下するのはじめてなんですけど、ものすごい緊張しますね! なにこれ!

あとぜんぜん良いスレタイが思いつかないので、よろしければ考えてくださると嬉しいです。
それでは、読んでくださってありがとうございました。

Tag : とあるSS総合スレ

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