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女「星の海で……つかまえて」後半

女「星の海で……つかまえて」前半
の続き

153 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/29(水) 17:58:48.34 ID:NKRHgRbbO
九月。

僕「……はぁ」

家の天井を見上げながら、僕はただ溜め息だけを増やしていた。

彼女に告白し、フラれてからおよそ一ヶ月。

僕(学校が無い分、変に気持ちをすり減らす事はないけれども……)

彼女に気持ちを受け入れて貰えなかった寂しさは、やはりそう簡単には消えない。

あれから、僕はただ、何となくで毎日を過ごしている。

友からの誘いも、彼女からの連絡も何も無い。

日々、自分のやるべき事だけをやって……三年生の夏休みは終わっていった。

九月は、僕にとって何もない月だった。

154 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/29(水) 18:04:16.92 ID:NKRHgRbbO
活発「や、おはよう~」

友「よ、おは」

暑さも落ち着いた、九月の真ん中。

少し短い夏休みが終わり、いつもの学食にいる僕たち。

でも……彼女の姿だけはこのテーブルの周りには見当たらなかった。

僕(今日が後期初日なのに……サボっているのかな)

午前中に、一つ同じ授業があったはずだが、彼女は教室に現れなかった。

顔を合わせるのが気まずい、と思いながら待っていたが……余計な心配だったみたいだ。

活発「今日は何食べようかな」

女のいない、三人だけのお昼が始まった。


友「……お、そう言えば聞いたか? 女が告白されたっていう話さ」

155 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/29(水) 18:07:57.79 ID:NKRHgRbbO
女、の名前が出た所で僕のスプーンの動きは止まる。

活発「え、なになに~。また告白されたの!」

活発も、興味津々といった様子で体を乗り出した。

友「また? 以前にも告白されてんのけ?」

活発「ん……アタシが知ってるのは、夏休み前の話だよ。女ちゃんから聞いたの」

友「俺の方は夏休み中の事だから、違うか。俺は告白した奴から、直接聞いたんだけどさ」

一瞬、自分の事かと思ってしまった。

僕(女が友に何か相談でもしたのか、と思ったけど……そういうわけでも無いみたいだな)

僕は少しだけ安心した。

活発「それでそれで?」

156 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/29(水) 18:11:50.43 ID:NKRHgRbbO
友「ああ……夏休み中にな、課題で学校に集まる用事があったらしくてさ。まあ、同じ学年の奴が……な」

活発「へえ、そんな話よく知ってるね」

友「知り合いの後輩でさ。まあ、ボロボロにフラれたらしくてさ……夏休み中ずっと落ち込んでたんだな、これが」

活発「いやあ、鉄壁だねえ女ちゃん。理想が高いのかな~」

活発がちょっと笑いながら、こちらを見つめてくる。

僕「こっちを見るな、こっちを」

友「……で、俺は夏休み前に告白された話を知らないんだけど?」

活発「あ、あのね。アタシたちの同級がね……」

会話は続いた。

彼女の名前が出る度に、冷たく突き放すような表情が、いちいち鮮明に浮かんでくる。



157 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/29(水) 18:16:15.23 ID:NKRHgRbbO
僕(フラれた後の反応が、想像できるな)

活発「……その子もボロボロだったみたいでさ。落ち込んだって話だよ」

友「大変な子みたいだ……なあ?」

僕「……」

僕の腕には、彼女に抱きしめられたあの一瞬の温もりがずっと残っていて……。

僕は、冷たい表情よりも、その暖かい感触を思い出してしまう。

活発「僕ちゃん?」

友人にからかわれてるのにも応えず、僕は一人で彼女の事を考えていた。

158 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/29(水) 18:18:36.81 ID:NKRHgRbbO
どうしても、僕には彼女を忘れる事が出来なかった。

僕(他の人は知らないけれど、少なくとも僕は友達でいられるはずだから)

僕(……新学期、彼女に会ったらまず笑顔で挨拶をしよう)

そう決めていたのに、今日から始まった学校で、彼女には会えなかった。

僕と彼女がもう一度会えたのは……そんな、何もない九月が終わった辺りだった。

159 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/29(水) 18:26:45.84 ID:NKRHgRbbO
翌日、すぐに彼女に会う事はできた。

放課後の学食で、いつも通りのテーブルに座って……。

女「あ、活発ちゃんに僕ちゃん」

いつもの様子で、僕たちに話し掛けてくれたんだ。

活発「や、久しぶり。元気だった?」

女「うん!」

本当に元気そうに、返事をする。

女「……僕ちゃんは、元気だった?」

僕「え、あ、うん。大丈夫だったよ」

いきなり話しかけられ、とっさに返事をする。

その様子は、何も事情を知らない活発の目にも変に見えた……と思う。

女「そ、なんだね」

彼女は、やはりどこか濁ったような笑顔で僕を見ていた。

女「……今日は、二人だけ?」

160 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/29(水) 18:33:02.16 ID:NKRHgRbbO
僕「ああ、友は場所取りに行ってくれてるんだよ。今から、就活セミナーみたいなのがあってさ」

活発「アタシたちも、一応就活生だからね~」

女「そっか、そうだよね」

活発「……そろそろ行かないと。じゃあ、またね女ちゃん」

女「ん……またね」

挨拶を済ませると、活発はすぐに学食の外に向かって歩き出した。

僕は少しだけそこに止まり、彼女と二人の時間を無理やり作った。

女「……なに?」

分かりやすいくらいに、冷たい顔の彼女がそこにいる。

163 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/29(水) 18:46:56.91 ID:NKRHgRbbO
僕「てっきり、もう話して貰えないって思ったよ」

女「友達とは、話さないと」

皮肉混じりな彼女を前にしているはずなのに、僕の心はどこかに余裕を感じているようだった。

僕「ははっ、友達ならよかったよ。三人でご飯っていうのも、少しだけ寂しくてさ」

女「ふ~ん……」

ジトッ、とした目。

初めて見る表情かもしれない。

僕「友達なら……もう少し笑ってくれてもいいんじゃない?」

女「ん……こう?」

すぐに、彼女はいつものスマイルを取り戻す。

学食で見ていた、いつもの顔だ。

僕「うん。演技でも何でも……僕はそっちの方が好きかな」

女「……僕ちゃんの好みなんて、考えてないから」

そう言うと彼女は、またプイッとしたむくれた顔に戻ってしまう。

166 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/29(水) 18:56:22.18 ID:NKRHgRbbO
僕「でも、元気みたいで安心したよ。学校来てないから心配だったんだ」

女「ん……」

余裕のお陰か、彼女を気遣う言葉の一つ一つを……僕は冷静に話せていた。

一度嫌われたからこそ、こうして開き直っているような。

なんだか、とても素直な気持ちで彼女と話す事が出来ていた。

活発「お~い、来ないと置いてくよ~」

遠くで、活発が僕を呼んでいる。

女もその声に合わせるように、椅子から立ち上がった。

女「電車だから、帰るね」

僕「ん……わかった、またね」

女「……また、ね」

短くそれだけを言うと、彼女は駅に近い扉から出ていってしまった。

僕「話せたから……いいか」

そう呟いた後、僕は急いで前を歩いている活発を追いかけた。

彼女との会話は、どんな物でも僕を元気にしてくれる。

167 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/29(水) 19:00:12.18 ID:NKRHgRbbO
活発「女ちゃん、学校にいてよかったね」

途中、活発に話を振られる。

僕「そうだね」

活発「なによその反応。嬉しくないの?」

不満な様子で、彼女は僕を見ている。

僕「そりゃあ嬉しいけどさ……あまり大っぴらに喜ぶだけが反応じゃないでしょ」

女の影響か、僕もいくらか冷静な様子で言葉を返した。

168 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/29(水) 19:03:31.90 ID:NKRHgRbbO
活発「ふむ、なるほど。でも、わざわざ学食で待っててくれたんだからさ。もう少し嬉しい雰囲気してもいいんじゃない?」

僕「……待っていた?」

活発「だって、ほら。いつもの場所にいたんだからさ。アタシたちと遊びたかったんだよ、きっとさ」

僕(……そういう捉え方もあるのか)

完全に嫌われていればいつもの場所にはいないだろうし、挨拶すらしてくれないはずだろうか。

僕「それじゃあ、今度また時間ができたらさ……」

みんなで、と言おうとした時。

活発が珍しく沈んだ顔で語り出した。

活発「……でもさ、しばらくみんなで遊びにも行けないかもね。どんどん就活だって忙しくなるだろうし」

活発「今日みたいに何か放課後の集まりがあったりさ……これから、四人で遊べる機会は少なくなっちゃうかもね」

170 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/29(水) 19:49:32.37 ID:NKRHgRbbO
活発「……ま、息抜きも兼ねてさ。時間を見つけては誘ってみようよ。アタシが女ちゃんには話しておくからさ」

ニコリと、隣で活発が笑う。

応援のつもりなのか……優しい目でこちらを見つめてくれている。

僕「そう、だね。ありがとう活発」

活発「あははっ、お礼なんて変だよっ。遊びたいから遊ぶ……まあ友情の一種さ」

僕「友情……」

その言葉が、やけに胸に突っかかった気がした。

目の前に彼女がいないせいか、僕の余裕はいつの間にか消えてしまっている。



171 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/29(水) 19:59:40.34 ID:NKRHgRbbO
僕らの言葉を邪魔するように、建物からはセミナーの始まりを報せるチャイムが鳴る。

活発「あっ、ヤバヤバ~。急ごっか」

僕「……走ろう」

活発「賛成賛成~」

僕たちは走った。

意識を切り替えて、僕は何もドキドキしない教室へ走って行った。


172 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/29(水) 20:02:36.15 ID:NKRHgRbbO
あれから活発の言葉通り、僕たちが四人揃って遊ぶ機会は殆ど無くなっていった。

学食で会って話はするものの、放課後や、日中の暇な時間もあまりとれない事が多くなってしまい。

……それでも、たまの休みには四人で遊ぶ事もできたりしていた。

時間を合わせて、いつものメンバーで……ほんの少しでも、四人集まって同じ時間を過ごしていた日々。

夏休みの告白以来、彼女の僕に対する反応は何も変わらない。

173 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/29(水) 20:04:45.19 ID:NKRHgRbbO
笑顔で僕に話をしてくれて……見た目だけは本当に、仲のいい友達同士だった、と思う。

二人きりになっても、露骨に冷たさは見せないようになっていて。

彼女の何が本心なのか、僕にはよくわからなかった。

僕に笑ってくれている彼女は、確かに笑顔なんだけれども。

どうして笑顔で僕と接してくれているのか、それが分からなかった。

……と、遊ぶ度にこの事を考えてしまう。

考えても、答えが出ない問題だけを、僕は一人で考えている。

それは、冬休みが始まる……確か、クリスマスの日の事。

そのクリスマスの日に、四人で遊ぶ約束をして……。

僕と彼女が、久しぶりに笑いながら話す事ができた……そんな夜だった。

174 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/29(水) 20:08:02.11 ID:NKRHgRbbO
友「……う~、さぶい」

ジャンパーに両手を突っ込みながら、震えている友がそう呟いた。

友「しかし、綺麗なアパートだよな。活発の奴、こんないい所に住んでるのか……」

僕「ま、女の子だしさ。そういうもんさ」

この、しっかりとした三階建てのアパート。

その二階の角部屋に、活発は住んでいた。

名前の扱い上、アパートだと言ってたが、綺麗に塗装された外壁や階段を見ると、一見マンションのようにも思えてしまう。

友「……とにかく早く部屋まで行こう」

冬の風が、僕たちに容赦なく襲いかかる。

もう、夕焼けもあまり長くは空にいないこの季節。

暖かさを求めて、僕と友は小さなインターホンを押した。


175 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/29(水) 20:10:05.15 ID:NKRHgRbbO
活発『鍵開いてるから、入っちゃっていいよ~』

中から、聞き慣れた彼女の声がする。

僕たちはすぐに扉を開け、玄関に飛び込んだ。

僕「お邪魔しま~す」

活発「いらっしゃい」

女「いらっしゃい~」

出迎えてくれたのは、部屋着を着て緩い姿のままの彼女たちだった。

友「あ、あったかい……」

活発「外寒かったでしょ。さ、上がって上がって」

僕「あ、ありがとう……」

女「ふふっ、僕ちゃん震えてる~」

僕「さ、寒いのは苦手なんだよ……」

促されるまま、僕たちは部屋の中に通される。

176 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/29(水) 20:12:58.55 ID:NKRHgRbbO
女「へえ、そうだったんだ」

僕「でも、思い切り凍えた後に暖房で安らぐのが好き」

女「私は寒くても、余裕余裕~」

活発「じゃ適当に座ってて。料理とか持ってっちゃうからさ~」

途中、女と少しだけ話す事ができた。

彼女はやっぱり笑顔だった。

部屋の暖かさに加えて……彼女から話し掛けてもらっただけで、僕は嬉しかった。

クリスマスはまだ始まったばかりで……何かいい事がありそうな、そんな気がした。

177 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/29(水) 20:16:06.38 ID:NKRHgRbbO
活発「じゃあ……メリークリスマスと言うことで……乾杯っ!」

勢いよく、活発の右手が振り上げられる。

友「ああ、乾杯」

女「かんぱ~い」

僕「乾杯」

各々、手に持った缶を口に……四人のクリスマスが始まる。

女「あまあま~」

活発「あ、女ちゃんお酒は初めてだっけ?」

女「うん。でも飲みやすいから大丈夫~」

活発「あははっ、アタシがオススメしたお酒だからね。好みに合ったならよかったよ」

女「♪」

嬉しそうに、彼女は手元の缶に口付けをしている。

友「そう言えば、これ。俺たちからの差し入れ」

僕たちは袋から、先ほど買ってきたチキンとケーキの箱を差し出した。

活発「あ、ありがとう~。これでやっとクリスマスっぽくなったね~」

178 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/29(水) 20:23:13.95 ID:NKRHgRbbO
クリスマスに……こうして四人でまた集まって、テーブルを囲んでいる。

やはり、みんなで集まって過ごせる時間は楽しかった。

僕(活発の部屋、いい匂いがする……)

アルコールと嬉しさが入ったせいか、僕の頭には陽気な感覚が流れ込んでくる。

僕(枕元にはぬいぐるみなんて置いちゃって、女の子らしいな。あのクローゼットの中だって、多分綺麗に整頓されているのかな)

活発「……何、じろじろ見てるのかな?」

視線に気付いた活発が、僕に冷たく語りかけてきた。

僕「ああ……いや、女の子らしい部屋だなって思って」

179 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/29(水) 20:25:02.84 ID:NKRHgRbbO
活発「お酒のせいか、目がイヤらしくなってるよ?」

女「わ、僕ちゃんてやっぱり……」

僕「はいはい、変態変態」

女「あ~、開き直った?」

活発「あははっ、いいねいいね。そういう雰囲気好きだよ~」

活発が笑って、女も友もみんな笑って。

久しぶりの笑顔に包まれる。

女「あ、サンタが映ってる~」

女が、テレビを指差して言った。

活発「ホントだね~。街の明かり、綺麗だね……」

友「カップルばっかり……チクショウ」

こうやって、みんなで同じテレビを見て話す事ができる。

これもまた、贅沢なクリスマスの過ごし方……なんだろう。

180 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/29(水) 20:27:45.37 ID:NKRHgRbbO
気持ちの上で、僕は楽しく酔う事ができていた。

テレビに映るイルミネーション、部屋を暖める暖房の柔らかみ。

そして、女の笑う姿。

女「……あれ。僕ちゃん、どうかした?」

途中、彼女が僕の様子に気付いて声をかけた。

僕「……ちょっと、気持ち悪いかも」

活発「あ、顔真っ青……大丈夫?」

僕は、アルコールに弱い。

友「悪酔いしやすいんだっけな。まあ、少し休んでろよ」

活発「どうする、ベッドでちょっと寝る?」

項垂れた僕を見て、活発は女と座っているベッドをポンポンと叩き始めた。

僕「さすがにそこまでは、平気。無理はしないから、大丈夫だよ」

181 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/29(水) 20:33:12.68 ID:NKRHgRbbO
思ったより、元気に返事をする事ができた僕を見て、彼女はニコリと笑った。

活発「……あ、それとも膝枕とかのがいいのかなっ?」

僕「い、いきなりなんでそうなる!」

女「僕ちゃんのエッチ」

僕「お、女まで……大丈夫だってば。少しゆっくりしてればすぐ治るよ!」

活発「あははっ、それだけ元気があれば大丈夫かな~」

女「ムキになって子供みたい~」

僕「……からかわないの」

僕は、そう言いながらスッと立ち上がった。

184 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/29(水) 21:05:35.60 ID:NKRHgRbbO
活発「ん、トイレ?」

僕「ちょっと、外の風に当たってくるよ」

活発「そっか、いってらっしゃ~い」

少しだけ、息の詰まるようなこの空間から逃げたしたかった。

女が、目の前にいるだけで……僕の心臓は早くなる。

アルコールと、彼女のせいでいつもの僕でいられなくなる空間が怖かった。

玄関の扉を開けて……僕はつかの間の一人になった。

185 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/29(水) 21:10:55.79 ID:NKRHgRbbO
活発「僕ちゃん大丈夫かな~」

友「まあ、無理はしない奴だから大丈夫だろう。もし苦しかったら、ちゃんと言うだろうしさ」

女「お酒……あまり飲めないんだね」

友「そういうタイプなんだってさ」

活発「ね~。でも、弱ってる人を一人にするのはちょっと、ね」

女「……」

活発「アタシ、ちょっと見てくるよ。二人はちょっとゆっくりしててねっ」

友「ああ、わかったよ」

女「ん……いってらっしゃい」

活発「うん、わかったわかった~」

187 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/29(水) 21:21:41.59 ID:NKRHgRbbO
僕「ふぅ……」

僕は一人で、部屋の前の開けた景色を見ていた。

吹いてくる風が気持ちいい……その後ろで、扉の開く音がした。

活発「やっ、元気~?」

お酒のせいか、少し頬を赤らめた活発が声を掛けてくる。。

オレンジ色の玄関が小さくなって……扉が閉まり、また少し寒くなったような気がした。

活発「心配になってさ。大丈夫?」

僕「ん、大丈夫。悪いね活発」

活発「いやいや~。こちらこそ……女ちゃんでなくてごめんね?」

僕「いや、別に……ね」

活発「ふふっ……冗談。でもね、女ちゃんも心配してる様子だったよ?」

僕「え?」

その一言は、なんだか信じられなかった。

188 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/29(水) 21:25:57.70 ID:NKRHgRbbO
活発「部屋から出る時も、ずっと僕ちゃんの事見てたしさ~。さっきだって、複雑な感じでこっち見つめてたし……うん」

僕「そう、なんだ」

活発「もしかしたら、本当に僕ちゃんの事が好きなのかもね~」

ははっ、と。

軽く笑いながら活発は言う。

その言葉を、何も疑わずに信じる事が出来れば僕は……。

クリスマスという、何かが起こりそうなこの日に、もう一度彼女に告白をしていたんだろう。

……。

僕「……あのさ、活発」

活発「ん?」

僕「僕はさ、もう彼女に告白しているんだよ」

活発「え……」

189 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/29(水) 21:32:40.75 ID:NKRHgRbbO
活発「……そうだったんだね」

僕「フラれてから、もう遊んだりは出来ないと思ってた。でも、いつもと同じ反応をしてくれて……」

活発「……」

僕「まあ、友達でいようっていう彼女の意思表示があったからなんだけどさ。今は……そんな所だよ」

活発「そっか~……」

む~っとした様子で、活発は街の光を見つめている。

どう話しをしたらいいのか分からず、ただ景色を見ている……そんな様子だった。

活発「……でもさっ」

それでも、沈黙だった時間は意外と短くて……すぐに活発は言った。

活発「もしかしたら、告白されて意識し出したのかもよ。だって彼女、明らかに普通の反応じゃないんだものっ」

さらに活発は続けた。

190 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/29(水) 21:39:16.44 ID:NKRHgRbbO
活発「たまにね、僕ちゃんの事も話題に挙がるんだよ。時間があったら遊びたいって……結構言ってるんだよ?」

活発「友達でいたいって言われたなら……やっぱり嫌いではないと思うけどな~」

僕「……」

活発「嫌な人となんて、遊ばないでしょ?」

僕「でも、冷たい女の表情がずっと残っているんだ」


活発「ん、まだ冷たくされてるの?」

活発にはその『氷のような彼女』の話していなかった事に気付く。

僕(話のついで……いい機会だ、ここでそれを話してしまおうか)
活発「ん?」

僕「冷たいと言えばさ、彼女と最初会った時に……」

191 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/29(水) 21:42:17.57 ID:NKRHgRbbO
ガチャリ。

そう切り出した瞬間、閉まっていた玄関の扉がゆっくりと開いた。

再び光る、オレンジの明かり……中から現れたのは、彼女だった。

女「僕ちゃん、大丈夫?」

一番に、彼女は僕の体を心配してくれた。

活発「あははっ、ごめんね。外の方が気持ちいいみたいでさ……つい長話をねっ」

高いトーンで活発が言う。

女「そうなんだ。あまり遅いから心配したよ~」


上手に切り返してくれたお陰か、女も何一つ気にする様子もなく、僕たちを笑ってくれている。

活発「……さて、アタシは中に戻るけどさ、女ちゃん」

女「ん~?」

192 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/29(水) 21:51:21.04 ID:NKRHgRbbO
活発「僕ちゃんまだ、気分が悪いみたいだから……ちょっとだけ付き添ってあげて?」

えっ。

女「うん、いいよ~」

活発「ふふっ、じゃあお願いねっ」

ほら、と言わんばかりの顔をしながら……活発はオレンジの向こうに消えてしまった。

僕「……」

女「……」

僕と彼女の、小さなクリスマスが始まる。

194 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/29(水) 22:04:56.74 ID:NKRHgRbbO
女「具合、大丈夫?」

言葉と共に、彼女は僕の背中を擦ってくれている。

長袖とTシャツ……二枚の上から感じる彼女の手は、とても暖かく感じた。

僕「……!」

女「ん、どうかした~?」

僕「優しい女に、なんだか慣れなくて」

女「……背中なんか擦らないで、鍵閉めた方がよかった?」

僕「だったら、背中のがいいかな」

女「ん……」

もう一度、彼女は僕の背中に手を置いてくれた。

僕(冷たい……彼女?)


196 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/29(水) 22:12:31.71 ID:NKRHgRbbO
冷たいけれど、冷たくない……彼女の考えてる事は分からないけれども。

なんとなく、彼女の扱い方が分かった気がした。

僕(なんだか、心地好い気がする……)

あの日から半年近く経った今では、そう思うくらいの余裕が出来ていた。

気持ちの変化だろうか。


僕「あのさ」

女「ん」

僕「今日は門限、大丈夫なの?」

女「門限?」

柔らかい夜の中で、僕と彼女は何気ない会話を始める。

少しだけ、彼女に踏み込むような事を話せたら……。

二人きりになった今は、なんだかそういう話をしても許される気がした。

197 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/29(水) 22:17:42.94 ID:NKRHgRbbO
女「私、一人暮らしだから門限なんてないよ~」

返ってきた答えは、意外な物だった。

僕「そう? てっきり……ほら、ずっと早く帰っていた印象があったから」

女「あんまり、夜中に出歩かないようにしてただけだよ。最近は慣れてきたけど……今度は遊ぶ事自体が減っちゃったからさ」

確かに、時間が無くなった最近は放課後に少し遊んだりするくらいで……。

女「今日だって、私はこのままお泊まりだから。あれ、僕ちゃんたちはどうするの?」

僕「友が運転して帰るよ」

女「ああ、そう言えば烏龍茶のボトル手放してなかったね~」

くすくす、と女は笑う。

そのまま、彼女の目線は上を向いたような気がした。

僕は相変わらず、街の灯だけを見ているけれども……。

女「……ほら、見て。冬だからさ……星が綺麗だよ」

198 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/29(水) 22:25:12.24 ID:NKRHgRbbO
優しい手のひらが、僕の弱った体を暖める。

背中の一部が熱を持って……少し熱いくらいの温度になっているのが、この寒空の下でよくわかる。

女「……」

彼女は何も言わず、空を見て僕に触れて。

僕はただ光だけを見つめて……しばらくは何も考えられないで、街の灯だけを見つめていた。

僕「……あのさ」

女「ん……?」

次に頭に浮かんだのは、本当に他愛も無いような……そんな普通の話題。

僕「誕生日、いつかな」

女「誕生日……?」

僕「うん。知らなかったからさ」

女「教えたら、お祝いしてくれる?」

僕「さあ、それは分からないけど」

女「……だったら教えてあげないから」

僕「冗談だってば。教えてくれたら、ちゃんとお祝いするよ」

199 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/29(水) 22:32:05.21 ID:NKRHgRbbO
女「……本当に?」

僕「本当だって。誕生日、もうすぐ?」

女「……ううん、三ヶ月前に終わっちゃったよ」

僕「三ヶ月前……九月?」

女「うん、9月30日。私の誕生日だよ」

今年の九月は、彼女にフラれたショックでお祝いどころではなかった。

その彼女に、こうして誕生日を聞いている今が不思議な感じだ。

女「覚えていたら、適当にお祝いしてね」

僕「適当でいいんだ?」

女「四年生になったら……忙しいんでしょ? あんまり邪魔にはなりたくないんだよ。そういうの、すごく嫌いだから……」

彼女は、冷たいままの様子で空を見ている。

僕「うん、覚えておく」

200 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/29(水) 22:41:32.76 ID:NKRHgRbbO
嫌い、という言葉に僕はちょっとだけ敏感になってしまう。

他人の琴線に少しだけ触れたような、この感覚。

僕は彼女の中に、わずかでも踏み込む事が出来たような、そんな風に思っていた。

女「少し……さむいね」

体を震わせながら、彼女は言う。

僕「そうだね、戻りなよ。僕はもう大丈夫だからさ」

女「うん……僕ちゃんは?」

彼女の手が、背中から離れて……。

僕「僕はまだ、少しこのまま……」

そのまま僕が着ていた服の裾をキュッと小さく掴んで……。

女「寒いからさ、おいでよ」

僕「ん……」

とても軽く引っ張られただけなのに、僕の体は……いつの間にか、彼女と一緒にオレンジ色の玄関を歩いていた。

僕のクリスマスは、暖かいままで終わっていった。

201 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/29(水) 22:53:09.36 ID:NKRHgRbbO
今年が終わって、新しい年が来て……すぐに三年生としての僕たちが終わる。

就活と、飛ばし飛ばしで通う大学と……一ヶ月に一度、遊べるか遊べないかくらいの、仲間たちと。

四年生になるまでの三ヶ月は、そんな生活が続いていた。

僕(最近、女にも会ってないな……)

たまに大学で会って、話す事ができるだけの、そんな関係。

普段の僕は、それだけで満足だった。

でも、あと一年で卒業という……時間を考えてしまうと。

僕(今みたいにに、友や活発……女と会う事は、出来なくなるのかな)

一人の時間が増えた途端に、僕はずっとこんな事を考えていた。

202 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/29(水) 22:57:51.33 ID:NKRHgRbbO
四年生という事を意識し出した時から……僕の頭の中には、離れたくない、と言った考えが具現化されていった。

それと同時に、彼女への気持ちも……。

僕「もう一度……彼女に伝えよう」

決めたのは、四月になる少し前だ。

自分の就活が終わったら、もう一度彼女に話をする……僕はそう決めたんだ。

203 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/29(水) 23:03:49.36 ID:NKRHgRbbO
友「就活、ダルいよなぁ……」

活発「そんな嫌な顔しないの。頑張るしかないじゃないっ」

僕「ね」


時間もあまりないせいか、あれから彼らに恋愛の話をする事はなくなっていた。

不安も悩みも、彼女の事で尋ねてみたい部分もたくさんあったけれども。

僕はもう決めたから、彼らには何も話さずにいたんだ。

たまに、こうしてファミレスで集まって、愚痴を言い合っては、また明日には元の世界に飛び込んでいく。

彼らとは……そんな普通の大学生活を送っていた。

205 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/29(水) 23:06:19.83 ID:NKRHgRbbO
友「そうだな、頑張るしかないよな~」

活発「そうだよっ。みんな受かったらさ、お祝いしようよお祝い」

僕「いいね~。女も呼んで……パァーッとさ」

僕はもう、気持ちを隠さない。

活発「ん」

友「お」

そんな普通の気持ちが……こうして素直に言えるようになっていた。

今はまだ、彼女の事を想っている『だけ』だけれども……。

全ての活動が終わったら、僕は……。

活発「……」

207 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/29(水) 23:22:21.05 ID:NKRHgRbbO
女「……」

女「また今日も一人ぼっち」

誰もいない学食で、私は箸を動かしている。

女(誰か一人くらい……来ればいいのに)

いつもの席で、私は誰かを待っている。

女(……こうなると、友情も意外と邪魔かもしれないね)

今日の魚は、ちょっとだけ塩が多く振られているようで……なんだかひどくしょっぱく感じた。

私は、半分だけ片付いたお皿を見ていた。

女(本当に、誰か来ないかな……自分で決めた事だけど、やっぱり寂しいや)

「や、元気?」

その時背中から……活発的な声がした。

208 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/29(水) 23:30:54.54 ID:NKRHgRbbO
活発「いやあ、おはよう女ちゃん」

女「活発ちゃん……どうしたの?」

活発「就活帰りに、つい寄ってしまったよ」

リクルートスーツを来た彼女は、大人びた雰囲気を醸し出しながら私に話しかけてきてくれた。

一週間ぶりに会った彼女は、ほんの少しの期間で、また少し成長しているような気さえした。

活発「他には誰か来てる?」

女「ううん。活発ちゃんだけだよ」

活発「そっか……女ちゃんさ、午後暇?」

女「? うん、暇だよ」

活発「じゃあさ、少しお話しよう?」

彼女は、真剣な眼差しでこっちを見つめている。

ただの、他愛ない話ではないんだろうか。

女「ん……平気だよ」

彼女は、すぐに向かいの椅子に座った。

209 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/29(水) 23:43:36.77 ID:NKRHgRbbO
活発「僕ちゃんには、告白されたんだって?」

話題は、いきなり本題から話されていた。

回りくどい言い方をしない……彼女らしい切り口。

女「うん、夏休みに。聞いたんだ?」

活発「彼が色々悩んでるみたいだったから……お節介で、ね」

女「ふぅ~ん……」

活発「僕ちゃんの事、嫌いなの?」

女「……」

活発「嫌いだったら、友達でいてあげるなんて言えないよね。あれからだって遊んでいたしさ」

活発「仲良さそうに話していたから、女ちゃんの気持ちがよくわからなくて……」

女「……」

活発「ちょっと、それだけ知っておきたかったんだよっ」

女「知ったら……」

活発「ん?」

女「知ったら、それを彼に話す?」

210 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/29(水) 23:50:59.37 ID:NKRHgRbbO
活発「話したいなら、直接話せばいいよ。アタシは……女ちゃんの考えが知りたいだけ」

女「……」

活発「あ、嫌だったら無理に話さないでも。言わなくても、嫌いになったり付き合いが変わったりはしないから……」

女「……」

女「愛情が……欲しくないの」

活発「……?」

女「好きな人も、恋人も、邪魔になるだけだから」

活発「邪魔って、何に対して?」

女「それは……」

私は、少し口をつぐんだ。

211 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/29(水) 23:56:31.65 ID:NKRHgRbbO
活発「でもさ、愛情って男女の……好きっていう感情だけじゃないよね。アタシがこうして話しているのも、愛情の一種で……」

女「私の中では、これは友情だから。邪魔になんて……なってないの」

活発「そう……。考えがちゃんとあるんだ。理由はいいけどさ、一つだけ聞かせて?」

女「?」

活発「女ちゃんは、彼の事が好き?」

女「……」

活発「ふぅ。あのさ、彼が今どんな状態か知ってる?」

女「……知らない」

活発「合格したらさ、もう一度みんなで遊ぶんだって……頑張ってるんだよ」

活発「あとね、いつも女ちゃんの事も心配してるの」

女「……」

212 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/30(木) 00:02:19.84 ID:+6+i69xlO
活発「学校に来られない分、アタシが彼に報告をして……いつも心配してる」

女「……バカみたい。そんなの、就活の邪魔になるだけなのに」

活発「邪魔なんかじゃないよ。そんな言い方したら、まるで……女ちゃんが邪魔みたいになっちゃうよ?」

女「……」

活発「何を考えているかは分からないけどさ……もう一度だけさ」

女「ん……」

活発「お別れする前に、ちゃんとお話しておきなよ。このまま離れて会えなくなったら……モヤモヤだけが残っちゃうよ?」

女「そんなの、知ってる……」

213 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/30(木) 00:08:20.09 ID:RooYQAzXO [1/76]
活発「一緒に遊んでさ」

女「?」

活発「一緒にご飯食べて、笑って、また明日」

活発「当たり前だと思ってたこんな事が、もうすぐ無くなっちゃうんだよね……」

女「活発ちゃん……」

活発「……ごめんね。ちょっと最近疲れちゃってさ」

女「ううん、いいよ。大丈夫」

活発「うん……アタシも後悔したくないからさ。だから、女ちゃんとお話しようって思ったんだよ」

活発「卒業しても会えるかもしれないけどさ、今言いたい事は言わないと……ね?」

女「……」

活発「私の話は、これでおしまい」

215 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/30(木) 00:15:20.96 ID:RooYQAzXO [2/76]
「卒業しても会えるかもしれないけどさ」

女「……」

誰もいなくなった学食で、私は一人息をつく。

彼女の言葉を抱えながら、テーブルに突っ伏しては考え事をしていた。

女(言いたい事は……言うよ)

女(言うけどさ)

女「時間が経ったら……もう会えなくなるんだよ」

大切な親友に言えなかった言葉を、一人きりでポツリと口に漏らした。

女「帰らないと……」

……そろそろ、電車の時間だ。

私は学食を後にし、駅に向かった。

誰もいない学食の電灯の明るさが、ひどく無駄に思えて……イライラしながら歩いていたんだ。

216 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/30(木) 00:22:20.56 ID:RooYQAzXO [3/76]
『不合格』

僕「また、か……」

これで何社目だろう。

僕の手元には、いまだに合格を知らせる封筒は届いていない。

もう、六月も終わり。

少しすれば夏休みに入ってしまうこの時期……僕は焦っていた。

僕「本当に、受かるもんなのかな」

活発は、五月に入ってすぐに内定が出たようだった。

友も、今は最終面接までこぎ着けた会社が三社程あるらしかった。


採用の基準なんて、自分にはよくわからない。

だから全力でぶつかって、それが気に入られれば受かる。

少しでもそのフィーリングに合わなければ、落ちる。

僕「落ち込むのはゴメンだ……」

これくらいに軽く考えて、僕はまた空元気で外に飛び出した

僕「……よしっ」

217 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/30(木) 00:30:30.69 ID:RooYQAzXO [4/76]
女「……」

もう、夏休みも終わりそうな九月。

ずっと考えていた問題も、自分の中では解決しつつあって……。

女「あとは、彼の返事だけなんだけど」

この様子では、夏休みが終わって、今年の九月も何もないまま……

女「……ちゃんと、言うからさ」

ピリリリリッ。

女「!」

私の言葉に反応したかのように、携帯電話がいきなり鳴り出した。

女「相手は……」

ああ、久しぶりに彼の名前なんて見た気がする。

女「……」

通話ボタンを押す手が、少しだけ震えていた。

219 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/30(木) 00:36:09.00 ID:RooYQAzXO [5/76]
女『ん……もしもし? どうかした~?』

いつものように、私は優しく聞いてあげた。

僕『やっと……うん。就活終わったよ』

女『えっ、受かったの!?』

僕『受かった、長かった……』

女『そっか~、おめでとう。これでみんな内定だね~』

僕『結局、一番遅くなっちゃったけどさ……』

夏休みも終わるギリギリで、彼はなんとか内定を貰えた。

女(そっか、これで……)

221 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/30(木) 00:38:47.92 ID:RooYQAzXO [6/76]
女『ね、明日は学校来る?』

僕『授業無いからなあ……あ、でも学校に報告とかもするんだっけ』

女『活発ちゃんも来るって言ってたから、ついでにおいでよ~』

僕『そうだね、じゃあ、とりあえず明日行くよ』

女『うん!』

僕『あのさ、何かいい事あった? 機嫌いいみたいだけど……』

女『ふふ~』

プツッ。

私は、ただ笑いながら電話を切った。

223 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/30(木) 00:45:07.80 ID:RooYQAzXO [7/76]
ツーッ。

ツーッ。

ツーッ。

僕「き、きられた……何なんだ一体」

僕「……まあ、いいか」

携帯電話を布団に投げ捨て、僕は壁のカレンダーに目を移す。

僕「言いたい事は……」

赤く、丸の付いた日付を見ながら僕は……機嫌のよさそうな彼女の声を思い出しては、まだ笑っていた。

224 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/30(木) 00:48:17.29 ID:RooYQAzXO [8/76]
9月29日


僕は、いつものテーブル……誰も姿が見えない、放課後の学食にいた。

内定祝いとして、久しぶりに四人で遊ぶ約束をした今日の日。

あと十分もすれば、授業を終えた女が。

あと三十分もすれば、友と活発もここに集合する時間になる。

僕は、本当にゆったりとした気持ちでここに座っていた。

今は、本当に何もないというリラックスした気持ちで……いつもの場所に座っていたんだ。

僕「久しぶりだな、この場所も……」

226 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/30(木) 00:53:43.76 ID:RooYQAzXO [9/76]
僕「しかし……広い学食に一人ってのもな~」

夏休みが終わったばかりなせいか、人影が全く見当たらない。

授業が終わるまで、誰かが来る気配も無い。

僕「普段は、もう少し人もいるんだけれど……」

僕は、まあいいかという気持ちで学食を見渡していた。

何がある訳じゃない、この広い部屋を……ただ。

僕「ん……」

そんな間、入り口から誰かが歩いて来るのが見えた。

遠くなので顔はよくわからないが……知っている人間の雰囲気ではなかった。

この位置からでも、男性と女性が並んで……こちらに歩いて来るのはわかった。

「ほら、早く行こうよ」

「そんな走ると……また転んじゃうよ」

僕(なんだ、ただの……カップルか?)

228 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/30(木) 01:02:07.89 ID:RooYQAzXO [10/76]
そのカップルの話が、静かな学食に響いていて……自分の耳にも入ってくる。

聞き耳を立てる気はなかったが……自然と、それは聞こえてしまう。

「ね、どこか遊びにいこうよ」

小さな姿の女の子が、話している。

「遊びにって……どこがいい?」

こちらも、大柄とは言えない……小柄な印象の男性が、その女の子の話を受けていた。

「ん~、とりあえずお菓子屋さんかな。食べたらどこかのんびりできるような、静かな……」

「え、またお菓子?」

「好きなんだよ、お菓子」

「今さら始まった事じゃないけどさ……」

「ふふっ、いいから早く行こうよ。ね」

229 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/30(木) 01:06:21.24 ID:RooYQAzXO [11/76]
「……普通のご飯もちゃんと食べないと。だからそんなに胸が」

「うるさいっ!」

「あづっ! 本気で蹴るなよ、バカ!」

「ふ~んだ。……ちゃんは遊びにいかないでさ、保健室にでも行ってればいいんだよ」

「……ごめんてば。ほら、謝るから……」

「……」

「お菓子、好きなだけ買ってあげるから」

「本当に!?」

231 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/30(木) 01:08:32.06 ID:RooYQAzXO [12/76]
「……はいはい、可愛い可愛い」

「えへへ~、知ってる」

「まったく。まあ、何が食べたいか考えておいて……」

「……ちゃんもさ、食べたいの考えておいてね」

「?」

「たくさん買って、一緒に食べよう? 半分っこだよ?」」

「……うん」

「くすっ、素直な……ちゃん可愛い」

「はいはい、じゃあ……行こう」

「うん……」

232 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/30(木) 01:14:00.56 ID:RooYQAzXO [13/76]
そのまま、彼らは別の出入り口から外に消えてしまった。

僕「……」

女「ふふっ、カップルさんだったね」

僕「あ、来てたんだ」

女「なんか、不思議な感じだったね」

僕「カップル、カップル……ね」

女「?」

僕の傍で、彼女はあんな風に……笑ってくれるんだろうか。

どこかに行く約束をして、同じお菓子やご飯を一緒に食べて。

そんな夢みたいな姿を、僕は先ほどの幸せに重ねてしまっていた。

僕(でも、まだ彼女には何も言っていないんだよな)

女「……ん?」

今日一番の彼女は、まず優しく微笑んでくれた。

僕も久しぶりに、親しい人に見せる笑顔が浮かんだ。

234 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/30(木) 01:25:13.03 ID:RooYQAzXO [14/76]
女「なんか、顔付き変わった?」

僕「そう? ずいぶん会ってなかったから、そのせいだよ。女だって何だか……」

女「変わった?」

僕「うん、明るくなった気がするよ」

女「……うんっ、ありがとう」

僕たちは、二人一緒に小さく笑いあった。

彼女といる時の僕は、元気で正直な僕でいる事ができて……。

活発「や。お待たせ」

友「よ~。しばらく。待った?」

235 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/30(木) 01:26:04.69 ID:RooYQAzXO [15/76]
女「ふふっ、全然」

僕「久しぶりだな、友も活発もさ」

友「……ん。何か、元気になったな」

活発「ね。女ちゃんも、楽しい事でもあった?」

女「うん、楽しいよ~。みんなでまた遊べるんだから……嬉しくて仕方がないくらいだよっ!」

感情を、素直に吐き出す彼女は、この数ヶ月で本当に別人みたいになっていて……。

女「じゃあ出掛けようよ。みんなのお祝い~」

でも、笑顔だけは何一つ変わった様子が無くて。

ああ、やっぱりこれが本当の彼女の顔なんだと……僕は誰にもわからないように、頷いていたんだ。

活発「……ふふっ」

236 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/30(木) 01:31:17.63 ID:RooYQAzXO [16/76]
僕「じゃあ、みんなの内定をお祝いして……乾杯」

友「よっ、おめでとさん」

活発「乾杯~」

女「おめでとう~」

夕方の街で遊び疲れた僕たちは、相変わらずのファミリーレストランで夕食をとっていた。

乾杯はジュースだが、それでも友達と囲む食卓は、やはり嬉しいものだ。

僕「ご飯が美味しい……」

女「はい、お水」

僕「あ、ありがとう女」

女「うん~」

活発「ふふっ」

友「……これで、後は卒業式だけかあ」

パスタをすすりながら、友が言う。

活発「そうだねそうだね~。卒業……みんな離ればなれだもんね」

237 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/30(木) 01:40:02.51 ID:RooYQAzXO [17/76]
友「結局俺は地元だけど……お前はどこだっけ?」

僕「ん、どこ行くかわかんないんだ。色んな場所に支店があるみたいでさ……まだ未定」

活発「近くだったら、たまには遊んだりしようね~」

女「活発ちゃんは?」

活発「アタシは、実家の方だよ。まあ、車で一時間もあれば来られるからさ。女ちゃんにも会いに来るよ」

女「ん……ありがと」

彼女の表情が、一瞬だけ曇った気がする。

女「……ね、もうカレー冷めてるよ~?」

238 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/30(木) 01:40:44.10 ID:RooYQAzXO [18/76]
右手に遊ばせていたスプーンを見つめて、彼女は言う。

そんな曇った顔も、今は何もないように消えている。

女「ふふっ、美味しい~」

……嬉しそうに、グラタンを頬張る彼女の笑顔を見たら、そんな細かい事はどうでもよくなってしまって。

僕は、丁度いい温かさになったカレーを食べながら……ずっと、彼女の事だけを考えている。

今日が終わって、明日になれば。

240 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/30(木) 01:43:54.28 ID:RooYQAzXO [19/76]
友「いやあ、食べた食べた」

活発「美味しかったね~」

女「みんなで食事なんて、久しぶりだったもんね」

帰りの車の中では、こんな会話をしていた。

僕だけは、返事をしながらも明日の事だけをずっと一人で考えていて、少しだけ上の空だったのを覚えている。

僕はこのまま、明日が普通の形で訪れる物だと、そう思っていた。

友「……な、ちょっといいかな」

話の途中、運転しながら友が口を挟んだ。

242 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/30(木) 02:00:41.59 ID:RooYQAzXO [20/76]
もうすぐ、彼女たちを降ろす場所に着くというくらいなのに。

その口調は、えらく改まったような静かな口調で……みんなに語りかけていた。

活発「どうしたのっ?」

友「このまま帰るのもさ……勿体ない気がしないか?」

友「せっかく忙しい時期が終わって、こうやって遊んだついでだから……もう少し遊ぶのも、いいかなって」

活発「ふむふむ~。アタシたち四年生組はいいと思うんだよ。授業は無いし、用事だって……ねえ僕ちゃん?」

僕「まあ、用事は無い、けれども」

活発「問題は女ちゃんだよ。授業もあるし、今から夜まで付き合わせるのは……ね?」

女「私は……」

一呼吸おいて、女は元気に言った。

女「ふふっ、私は大丈夫。一緒にいて……楽しいから、平気だよ」

243 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/30(木) 02:09:33.95 ID:RooYQAzXO [21/76]
友「おっ、いいよいいよ~。じゃあ、どこ行くか!」

活発「ふふっ、はしゃぎすぎ。この時間だったら……どこがいいかな?」

僕「ん~。女は、どこか行きたい場所ある?」

女「……」

活発「あ、あるって顔してる。どこでもいいよ、お姉さんが付き合ってあげるから」

女「じゃあ……」

女「海に行きたい、かな」

僕「……海? 今から?」

女「うん、行きたい」

活発「……ふふっ、女ちゃんて正直になったよね」

友「運転手は、行きたい場所に連れてくだけだからな」


活発「……僕ちゃんも、それでいい?」

今の僕なら、徹夜でも何でも出来てしまう。

そんな元気な僕だった。

245 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/30(木) 02:19:27.56 ID:RooYQAzXO [22/76]
活発「あっはっはっ、でも女ちゃんも言うよね」

車は、陽気な四人の笑い声を乗せながら道路を走っている。

あと二時間もすれば海に着いて……日付も変わる、そんな辺りだった。

女「だって、どこでもいいって言ったからさ~」

活発「まさか海が出るとは考えてなかったよ。いやあ、好きだよそういうの」

女「うんっ!」

友「大学生らしい、いいノリだよな~」

活発「本当に、ね。僕ちゃん」

僕「う、うん。そうみたいだね」

彼女は、勢いやその場のノリで、海という選択肢を選んだのだろうか?

僕(分からない部分は分からないや……)

バックミラーの中で見かけた彼女は、また小さく笑っている。

窓の外から入る明かりが……その口元を照らしては、また暗闇に戻していた。

246 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/30(木) 02:23:04.71 ID:RooYQAzXO [23/76]
女「あ、潮の匂いがする……」

夜の十一時過ぎ……僕たちは、いつかと同じアスファルトの上に立っていた。

前より少し海に近い場所に車が停まっているため、波の音と海から吹く風が側に感じる。

太陽も見当たらない夜の海からは、肌寒いくらいの風が吹いている。

女「んっ……」

彼女は、少し上を見つめながら歩き出した。

海の向こうを見つめているのか、低い位置の星を見つめているのか……まだわからない。

僕も、彼女の後ろから、付いていくように歩いていった。

風に負けず、僕はすぐに彼女の横に並んだ。

すぐに、足場のアスファルトが砂浜に変わる。

249 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/30(木) 02:28:30.85 ID:RooYQAzXO [24/76]
活発「……来たね、海」

友「ああ、勢いだけで、な」

活発「大学生にはよくある事よね~」

……。

ザーザーっという音が、海から何度も聞こえてくる。

四人は、ただ静かに見えない向こうだけを見つめて……風の中に身を任せていた。

何も、話す事は無くなっていた。

しばらくは、そのまま……みんなで海の中をさ迷っていた気がする。

僕(今日は、星が見えるんだろうか……)

視線を空に移そうとした瞬間……。

活発「ん……少しだけ、眠いかも」

ふいに、活発が言った。

250 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/30(木) 02:32:45.61 ID:RooYQAzXO [25/76]
友「眠いのか?」

活発「あははっ、最近寝不足だったからさ」

友「仕方ないな、車で少し休んでるか?」

活発「……そうさせて、もらおおかな」

友「ん。二人はどうする、戻るか?」

僕「いや、僕は……」

女「私たちは、もう少しここにいるよ」

僕より早く、彼女が言った。

友「そっか、俺も車にいるからさ。気がすんだら戻ってこいよ」

僕「ん、わかった」

女「は~い」

……。

夜の海に、二人だけ。

251 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/30(木) 02:36:11.65 ID:RooYQAzXO [26/76]
波はさっきより大きく聞こえて……でも、体はなぜか寒さをあまり感じていない。

女「ね……」

そんな不思議を感じる夜に……彼女が、僕に笑って話しかけてくれている。

彼女は、まっすぐに僕を見ている。

女「綺麗だね、空」

彼女の言葉で、僕は海から一気に目線を上に向けた。

言葉通り、僕たちの真上には……満天の星空と、季節のせいかとても輝いて見える月が一つ。

僕「……前は、月は出てなかったものね」

女「うん……そうだね」

僕も彼女も、同じ八月の事を思い返していたんだろうか。

あの時と同じように、僕たちは空を見上げている。

彼女ともう一度、この場所にいる事が、何だかまだ信じる事が出来なくて……何かを探すように、僕は空の星だけを見つめていた。

253 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/30(木) 02:40:06.82 ID:RooYQAzXO [27/76]
女「……」

僕「……」

もう一度、彼女に言わなければ。

僕が考えていた事、想いや今までの事も……今日、全部。

僕「あのさ、女」

彼女は、何も言わずに僕を見ている。

まるで、今から言う言葉がわかっているみたいな顔で。

静かに、ただ静かに……僕だけを見てくれている。

僕「もう一度、女に伝えたい事があるんだ……」

女「……」

254 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/30(木) 02:44:15.63 ID:RooYQAzXO [28/76]
僕「僕は、やっぱり好きで忘れないから、どうしてもそれだけ言いたくて」

女「うん……」

僕「全部が終わった今、もう一度言うよ。僕は、君の事が好きなんだ」

女「んっ……」

彼女は、小さく頷く。

その視線は、海を見つめるまでに落ちている。

女「……気持ちは、嬉しいよ」

女「でも、ね……」

僕「……」

彼女の言葉が続き……嫌われて、断られる言葉を吐き出されるのかと、そう思っていた。

でも、次に聞こえた言葉は、それとは違う。

女「私は……愛情をここに残していきたくないんだよ」

残して……いきたくない?

255 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/30(木) 02:47:15.71 ID:RooYQAzXO [29/76]
それだけでは、言葉の意味がよく分からない。

彼女は更に言葉を続ける。

女「もう、僕ちゃんは四年生で……あと数ヶ月で、私とバイバイ」

女「……それが、辛いの」

僕「辛い?」

女「うん。離れたらさ……愛情って我慢出来ないんだよ……」

女「活発ちゃんや友君との友情はね……多分離れても我慢出来るんだよ。たまに会いたくなっても、すぐに抑え込む事は出来ると思う」

女「でも……好きな気持ちだけは、持っていたくないの。お別れしたくなくなるから、それだけが辛いから……」

僕「……」

259 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/30(木) 03:00:26.19 ID:RooYQAzXO [30/76]
僕「……辛いなら、気持ちをずっと持っていればいいよ」

女「……?」

僕「卒業したら、もう会えなくなるわけじゃないんだからさ。離れて辛いなら、僕は女の側にいる」

女「……」

僕「時間だって、女のために作って……休みの時はたまに学校に遊びに来たりさ。ほら、時間なんて、何とかなるから……」

僕「だから……」

女「……」

僕「だからさ……そんなに寂しそうに笑うのはやめてよ……」

僕は、もう好きという言葉を言えなくなってしまった。

何かを話す度に、彼女の顔が悲しさで染まっていくのが見えてしまったから。

僕が何を言っても彼女は……まるで、僕ともう会う事が出来ないと決まってるような……。

そんな、寂しい顔を浮かべている。

260 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/30(木) 03:05:45.06 ID:RooYQAzXO [31/76]
でも、すぐにその寂しい顔を、スッ、と消し去った彼女が次に言った言葉は……。

女「ね、私はさ僕ちゃんの事が好きだよ」

僕「えっ……」

その寂しさの中で、いきなり僕にそれを言われて……。

女「うん、好き……最初はね、愛情を作るつもりなんて無かったけれど、一緒にいるうちに段々……」

僕「女……」

さっきまで、僕は否定されているような気すらしていた中で、彼女は僕に語ってくれる。

女「好きだから……君には正直に話しておくね」

女「私さ、あの場所に帰らないといけないんだ」

彼女が指差したのは、見上げていた空の先……星が、何重にも輝いている夜の一部分を。

彼女は指差している。

261 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/30(木) 03:11:51.31 ID:RooYQAzXO [32/76]
僕「……空」

女「違うよ、星」

僕「そこに……帰る?」

女「うん。私は星の一つだから……いつかはあそこに帰らないと」

僕「意味が、よくわからないんだ……」

女「ふふっ……嘘みたいだけどさ、本当の話だよ。だからずっと一緒にはいられない。それだけ」

僕「……」

夜の海が見せる、夢みたいなものだろうか?

僕には、彼女の言葉を信じる事が出来なかった。

彼女は空から来て、星になって……僕の前から離れていってしまう。

だから、何も残さずに帰ろうとしていた?

僕「……」

女「やっぱり、信じられない?」

264 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/30(木) 03:21:13.56 ID:RooYQAzXO [33/76]
女「ふふっ、こんな事信じられないよね? 誰にも話すつもりなかったから、不安で仕方なくてさ」

僕「……女の言う事なら、信じるよ」

女「ふふっ、本当に?」

僕「当たり前だよ。女が星なら、僕も星……だよ」

頭に浮かんだすぐの言葉を話す僕は、本当に夢の中にいるみたいだった。

265 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/30(木) 03:21:56.79 ID:RooYQAzXO [34/76]
女「……ありがとう。やっぱり、優しいんだね」

僕「だって、僕は……」

女「……ね、ちょっと待って」

僕の言葉を遮り、彼女はまた空に指を差し始める。

女「あの、ほら。月が今重なりそうな辺りにさ……私の帰る場所があるんだよ」

女「お父さんやお母さん、身内の星って言うのかな……みんな、あの辺」

僕「へえ、もしかしてこっちを見てるとか?」

冗談混じりに、僕は笑いながら受け答えをしてみる。

267 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/30(木) 03:25:17.49 ID:RooYQAzXO [35/76]
女「ふふっ、バッチリ見られてるよ~。こんな所見られたら、帰ってから怒られちゃうかもね~」

彼女は、すぐに僕の手をギュッと握ってくる。

直に、手のひらと手のひらが触れ合う感触が……自然と僕を高めていく。

僕「み、見られてるなら、こんな……」

女「今は平気だよ、ほら……」

もう一度、彼女は空中で指を動かしながら言った。

大きな月が、その指の先でゆっくりと動き……すっかりとその辺り一帯を覆い隠してしまったように見える。

268 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/30(木) 03:29:19.04 ID:RooYQAzXO [36/76]
月の周りには、その光のせいかさっきまで見えていた星が見えなくなっていた。

女「ほら、これで見えないから……だから……」

女「最後に愛情だけ、ちょうだい……?」

そのまま、彼女の唇がゆっくりと近付いて来て……僕の唇と優しく触れ合う。

しっかりと握りしめた手のひらのように、唇と肌と彼女に……僕の体が、くっついている。

長い時間、彼女と一緒にいて……何度も海から吹く風をお互いの唇で挟みながら……。

空に浮かんでいた月は、もうとっくにその場所からは動き出している。

でも、ずっと目を閉じて、星の海の中で抱き合っている僕たちには……その月はもう見えない。

269 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/30(木) 03:33:21.67 ID:RooYQAzXO [37/76]
僕「……あ、そう言えばさ」

女「ん……」

僕「もう一個、言わなくちゃいけない事があったんだ」

女「ん、なーに?」

僕「今日は、女の誕生日だから」

女「……あ、覚えててくれたんだ」

僕「うん。適当なんかじゃなくて、ちゃんと……」

女「うん……」

僕「女……」

……。

僕たちの声は、吹き抜けた強い風と波の音でもう聞こえない。

ただ、彼女と一緒にこの海と……輝く星の下で、ただ静かに抱き合って……二人の今日が、始まって。

271 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/30(木) 03:38:49.44 ID:RooYQAzXO [38/76]
……。

活発「……ふふっ、じゃあ写すよ~。はい、チ~ズ」

活発「はいっ、オッケ~」

友「次は俺のデジカメで頼むよ!」

活発「わかったわかった、ほら、女ちゃんも僕ちゃんも寄って寄って」

友「そうそう。せっかくのツーショットなんだからよ、笑顔笑顔」

僕「わかってるって……」

女「ふふっ、こんな感じ?」

活発「お、いいねいいね~。じゃあそのまま、はいっ」

273 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/30(木) 03:45:13.89 ID:RooYQAzXO [39/76]
僕「次は、みんなで写ろうよ」

友「んだな。俺、シャッター頼んでくるよ」

活発「ん~、お花持った方がいいかな? あ、僕ちゃんネクタイ曲がって……って、これはアタシの役目じゃないかな?」

女「あははっ、ネクタイ~」

僕「それくらい、自分で直せるよ」

活発「ふふっ。せっかくの卒業写真だからね。一生物だよ」

僕「ん……」

友「よ、お待たせ。ささ、集まれ集まれ」

活発「お~っ、アタシ女ちゃん隣ね」

女「うん、一緒~。ちょっと借りますよっ?」

僕「……勝手にしてくれ」

女「ふふっ」

友「はい、よろしくお願いしま~す」

……。

カシャリ。

275 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/30(木) 04:02:24.34 ID:RooYQAzXO [40/76]
友「さて、もういいだろ。帰る……もとい、打ち上げ行こうぜ」

活発「そうだね~。でも、予約したのは六時くらいだっけ?」

女「あと三時間くらいあるね~」

僕「どこかで、時間潰しでもしてるか?」

活発「あ、賛成賛成~」

友「んじゃ、どうするか。まあ、結構時間があるからどこだって……」

女「……あ、あのさ」

活発「ん、どうしたの女ちゃん?」

女「私、行きたい場所があるんだ。その……僕ちゃんと、二人だけで……」

二人……だけ?

276 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/30(木) 04:09:07.83 ID:RooYQAzXO [41/76]
女「……」

僕「ごめんね、待った?」

女「ううん、大丈夫だよ。今来たところだからさ」

大学に一番近い駅から電車に乗って……僕たちは、今からどこかに行くらしい。

女「じゃあ行こうよ。すぐ電車来るみたいだからさ」

僕「ん……」

女「ふふっ、早く早く」

ギューッと音が聞こえて来そうなくらい、彼女は僕の手を強く握りしめたかと思うと。

軽い足取りで、僕を目的の電車まで引っ張って行った。

僕の足が軽く感じたのは……スーツから私服に着替えたせいでは、多分ない。

女「ふふっ」

278 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/30(木) 04:15:46.83 ID:RooYQAzXO [42/76]
僕「……ここは?」

女「私の、お気に入りの場所だよ。一緒に来たかったんだ~」

目の前の看板には『プラネタリウム』の文字が見えた。

落ち着いた雰囲気の建物だと思っていたけれど……。

僕「プラネタリウムなんて、初めてかもしれない」

女「……よかった、初めてで。なんか、嬉しいよ」

僕「女……?」

彼女の顔は、少しだけ疲れているように見えた。

昼の疲れが出てきたんだろうか?

女「入ろう。一緒に……ね?」

僕「うん……」

僕たちは、再び手を握りあって……建物の中へ入っていった。

その背中で夕焼けが落ちていくのを、僕は感じていた。

279 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/30(木) 04:26:35.87 ID:RooYQAzXO [43/76]
絨毯の上を案内のままに歩き。

僕たちは、星の見える大きな部屋に入っていった。

中では、静かな音楽に……一瞬で目の前の全てが星になる、そんな夜の中を歩いていた。

女「ここ、座ろ」

彼女は、ドームの中心に一番近い席を指差した。

僕「ここがよく見えるの?」

女「ううん、好きな場所だから、それだけ」

僕たちは腰を下ろし……二人で肩を寄せながら、球体の空を見ていた。

僕「誰もいないね」

女「僕ちゃんがいればいい……」

僕「ん……」

女「ここには、見られて困る星はないからさ……ね」

女「もう一回、愛情欲しいな……」

……。

僕たちの唇がゆっくりと合わさっても……この星たちには、何を見る事も出来ない。

281 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/30(木) 04:32:53.65 ID:RooYQAzXO [44/76]
女「ね……」

僕「ん?」

女「星が見たい」

僕「本物? じゃあ、そろそろ外に出て……」

女「ふふっ、違うよ。こっち」

僕「?」

女「ついてきて?」

席をパッと立ち上がり、出入口に続く段差の上を軽快に。

ピョン、ピョンと一番上の段まで上り詰めてしまう。

僕「ま、待ってよ」

女「こっちだよ~」

扉を開けたままの彼女は、今入ってきた方向とは逆の、建物の更に奥の方を指差している。

彼女がすぐに走り出してしまったので、見失わないように後を追う。

彼女の姿を……一秒だって視界から消したくなかった。

僕は、扉を勢いよく開いき、彼女に向かって走っていった。

283 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/30(木) 04:43:12.71 ID:RooYQAzXO [45/76]
女「入って……」

僕「これは……天体望遠鏡か」

扉を開けた僕らの前には、白の大きな望遠鏡が、空に向かって真っ直ぐに伸びている。

女「うん、自由に見ていいんだよ。普段見る星とは、また違って見えて……好きなんだ」

僕「……星が望遠鏡を覗くの?」

女「人間観察と同じようなものだよ~。なんてね」

ふふっ、といつもの笑いが漏れる。

女「僕ちゃんにいい物見せてあげるよ、ちょっと待っててね」

……彼女は望遠鏡を覗き始め、なんだか手元の辺りで小さく機械をいじっている、ように見えた。

女「……ん、お待たせ~」

以外と早く、その作業は終わったみたいだ。

284 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/30(木) 04:53:48.36 ID:RooYQAzXO [46/76]
女「えへへ~、ここに座ってさ、見つめてごらん。夜の星を」

木工作りの、背もたれのないイスを軽く叩きながら言った。

表面が反射して、テカテカとしたそのイスは……新調された感じを受ける。

薄暗い部屋の中で、彼女の真っ白なパーカーだけがよく見えている。

僕は、そこまでゆっくりと歩く。

女「そのまま、覗いてみて……見えるはずだからさ」

僕「……」

いつも見ている、空の色。

でも、そこに混ざる一つ一つの光が大きくて、ただひたすらに輝いている。

僕「星が、すぐそこにあるみたいだ……」

女「えへへ~、綺麗でしょ?」

286 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/30(木) 05:02:50.21 ID:RooYQAzXO [47/76]
小さな光も、大きな光も関係ない。

僕に見る事の出来ている全ての星が、ただ綺麗に光っていて……波のように、僕の瞳に入ってくる。

女「……その星の中にさ」

背後から、声が聞こえる。

女「ちょっとだけ小さいけど、でもよく光って見える星が一つだけ……ない?」

僕「ええっと……」

女「その、真ん中辺りの……うん」

僕「……これかな?」

僕は、言われた通りの星を見つけた。

確かに大きさ自体は小さく見えるが、望遠鏡で見るとその光の強さがよくわかった。

女「うん……その星が、私なんだよ」

僕「え……」

288 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/30(木) 05:06:30.70 ID:RooYQAzXO [48/76]
言葉……そしてすぐに、僕を背中から抱きしめてくる両腕が……。

僕は、思わず彼女の方を向こうとした。その時。

女「振り向いちゃダメ!」

僕「っ……」

女「レンズから目離しちゃ、ダメ……星を見ていないと……ダメ」

制止の言葉と、両腕の絞まりが一層強くなる。

僕は、全く動けないようになってしまい……ただ、彼女と思われる星を見つめていた。

女「……」

僕「……」

290 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/30(木) 05:14:02.37 ID:RooYQAzXO [49/76]
彼女が後ろから僕を抱きしめて、僕はずっと星の彼女を見つめていてから……どれくらい時間が経っただろう。

静かな部屋に、誰かが入ってくる事もなく……僕たちは、そのままの姿勢で時を過ごしている。

女「ね……」

口を開いた彼女の声は……目の前に見える星と一緒で、少し暗くなっている気がする。

女「会えた事、それって流星みたいなものだよね」

女「何となく空を見て、偶然に星を見つけて……でも、見つけたらそれでおしまい」

僕「……」

女「あ、言っておくけど私は流れないからね? ずっと……僕ちゃんが見ているその星のままでいるから……」

女「だから……」

291 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/30(木) 05:26:23.43 ID:RooYQAzXO [50/76]
彼女は震えている……。

震える度に、僕を抱きしめる力が強くなるのが、僕には分かっていた。

キツいくらいに僕を抱いても、どんなに体をくっつけて近付いても、その震えは止まらない。

僕「女……一つだけ教えて」

僕「もし僕が今、この星から目を離したら女は……」

女「……」

僕「……もう、帰らないといけない時間なのか?」

女「……」

僕「どうなんだ、答えてくれ……お願いだから……」

僕の方も、体が震えそうになっている。

声をまだ……辛うじて、はっきりと出す事が出来たのは、彼女から答えを聞いていないから。

でも、なんとなく僕にはわかっていた。

292 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/30(木) 05:35:27.78 ID:RooYQAzXO [51/76]
女「その星から目を離したら……私はそこに帰らないといけないんだ」

僕「っ……」

喉と胸に、体の奥から余計な感情が込み上げてきて……。

息が、出来ない。

女「ふふっ、私の家、門限厳しいからさ……だから、バイバイしないといけないんだよっ」

僕「……嘘つきだ。門限、無いって言ったクセに」

女「あっ、ははっ。時間なんて気にしないで、一緒にいたいのにね~」

僕(そんなに、無理に笑おうとしないでくれ……)

泣きそうな僕が、ひどく小さな星に思えてくる……。

293 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/30(木) 05:48:50.63 ID:RooYQAzXO [52/76]
僕「大学も、二年だけ通うつもりだったんだ?」

女「あと二年もここにいたら……多分私は、星になるのを止めてるよ」

僕「どういう事……?」

女「二年も僕ちゃんに愛情貰い続けたら……今以上に、別れるのが辛いから……」

僕「自分で……決めた事だったんだね」

女「私にとっての愛情は、もういっぱい。だか、ら……」

女「……」

そこまで言うと、彼女は僕の背中に顔を埋めて……しばらくは何も喋らなくなってしまった。

泣かないような話題を、精一杯探してみたけれど……その全てが、彼女の愛情に繋がってしまう気がして。

少しの間、レンズの中だけをただ覗いていた。

294 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/30(木) 05:54:19.17 ID:RooYQAzXO [53/76]
女「……そろそろさ、電車乗らないと。六時になっちゃうよ」

僕(ここから離れたら、女が……)

女「待たせるのは悪いからさ、そろそろ……行こう?」

僕「女が行かないなら……俺も行かない」

女「でも、ここだって……七時には閉まっちゃうから、早めに……」

僕「……」

僕「ね、女。僕のポケットからさ、携帯出してくれないかな?」

女「ん……はい」

すぐに、彼女は片手を動かして僕に電話を渡してくれた。

僕「ついでに、友に電話して。そしたら、後は僕が話すから……」

女「……」

ピタリ、と耳に電話の感触を感じる。

呼び出し音、繋がる音……友の声が聞こえる。

296 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/30(木) 06:00:04.86 ID:RooYQAzXO [54/76]
友『もしもし、どうした~?』

僕『あ、実はちょっと遅れそうなんだ。先に店に入っててくれないかな』

震えそうな声を必死で抑え、僕はなるべく元気に話をする。

友『ん、何かトラブル?』

僕『そんなんじゃないよ、ただ……彼女が今日は「帰る」って言うからさ。お見送り』

女「……」

ギュッ。

友『そっか、参加出来ないのか。残念だな~』

僕『ああ、だから僕は直接店に向かうからさ。それで頼むよ』

友『わかった。じゃあ、また後で。女にもよろしく言っておいてくれ』

活発『女ちゃん、また今度遊ぼうね~!』

友『わっ、横から大声をだ』

ブツッ。

298 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/30(木) 06:09:20.73 ID:RooYQAzXO [55/76]
僕「……ははっ、切れちゃったや」

女「ふふっ、ね」

僕「これで、七時までは一緒」

女「……」

僕「最後に、二人に挨拶しておく?」

女「ううん、声が聞けたから……それだけでいい」

電話の向こうで、二人も笑っていた。

彼女にとっては……まるで自分が卒業するような気持ちで、彼らの笑い声を聞いていたんだろう。

299 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/30(木) 06:12:22.40 ID:RooYQAzXO [56/76]
僕「あれ、でもさ。友情は我慢出来るから、大丈夫じゃないの?」

女「もうっ、いちいちイジワルしないでよ。卒業の時って、雰囲気で泣いちゃうものでしょ?」

僕「ん、そういう事にしておく~」

女「……あんまり生意気言うと、歯形で皮膚ボコボコにしちゃうぞ?」

僕「ははっ、女が残してくれる物なら何でもいいよ」

女「……本気?」

僕「あと一時間なんだからさ……女の好きなようにくっついてくれていいよ」

僕「僕は……ずっと同じ星だけを見てるから」

女「うん……まあ、それも私なんだけどね」

僕「ん、じゃあ後ろにいる女を見たって別に」

ガブッ。

300 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/30(木) 06:20:38.05 ID:RooYQAzXO [57/76]
僕「……冗談なんだからさ。後ろなんて振り向かないから……もう少し優しくして欲しいな」

女「ご、ごめん。ちょっと強く噛みすぎたかも……」

冗談を言った僕が悪かったのか、左の首筋辺りがヒリヒリと悲鳴をあげている。

女「じゃあ、これくらい……んっ」

今度は、優しい歯の感触が右の辺に流れている。

彼女の口に挟まれた首筋に……ゆっくりと生暖かい舌が触れる。

噛んだ痕はもちろん、口の中の彼女……粘膜を塗られているような感覚すら覚える。

残りの一時間は……彼女がずっと僕を甘噛みしていて、僕に印を付けている、そんな時間が流れた。

301 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/30(木) 06:26:54.50 ID:RooYQAzXO [58/76]
女「ん……」

ずいぶんと長い時間、僕の首にくっついていた彼女がその唇を離す。

僕「満足した?」

女「……満足。いっぱい噛んだよ~」

僕「うん、それはよかった」

女「うん……私も会えてよかった」

……急に、シリアスになるのはズルい。

沈んだトーンのまま、彼女は言葉を続けた。

女「もう七時……私、そろそろ帰らないと」

僕「ずっと、この望遠鏡を見ていたいんだけどな」

女「ふふっ、係の人が来るから止められちゃうよ。だから……本当にバイバイしなきゃ」

僕「……」

女「ね?」

302 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/30(木) 06:35:14.98 ID:RooYQAzXO [59/76]
僕は、その言葉に反応せずに、ずっと彼女を見つめている。

この土壇場になって、僕は……星を見る事をやめたら彼女が消える、という言葉を信じられなくなっていた。

女「……最後にさ。笑ってバイバイって言って?」

嫌だ。

女「ね……何か言ってよ……」

さっきからずっと……僕の目には、海のような涙が浮かんでは、彼女を見る事を邪魔している。

何かを言ったら、僕の声は……情けなく震えて、彼女をまた不安にさせるんだ。

女「……そっか。言葉じゃなくてさ……」

女「ね、そのまま目を瞑って? 星を、海の中に閉じ込めるように……そう」

303 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/30(木) 06:44:33.53 ID:RooYQAzXO [60/76]
女「そしたら、こっちを向いて……うん。そのまま目は閉じていてね」

僕の体は、彼女がいるであろう方に向けられる。

望遠鏡も、周りの景色さえも見えず、僕の瞼には一つの星だけが浮かんでいる。

女「……」

キュッ、彼女の両手が僕の肩を掴んだ。

服を軽く握られて……星がどんどん近付いてくるのが見えた。

女「二年間ありがとう。さよなら……大好きだよ」

女「これが最後の……」

女「んっ……」

瞳の中の星が、パッと煌めいて……消えた。

唇の感触は、まだ僕の呼吸を止めているのに。

肩を掴む両手の暖かさが、まだここにあるのに。

もう、浮かんでいた星が見える事は無くなっていて、ただ真っ黒な海だけが残っていた。

306 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/30(木) 06:52:45.72 ID:RooYQAzXO [61/76]
……ガチャリ。

扉が開いた瞬間、唇が自由になった。

それと同時に、すぐに目を開けて……僕は彼女を探した。

僕「……」

部屋の中には、僕と係の人間以外誰もいるはずもなかった。

閉館です、と声を掛けられてからも……僕はもう一度だけ望遠鏡を覗いてみたんだ。

綺麗に光る星の中に、一つだけ……まるで、こちらを見つめているみたいに、輝く星がある。
その光は僕に何かを……。

僕(うん……うん)

僕(ちゃんと挨拶しとくよ。待たせないように、急いで行くから……)

僕(……)

僕(僕は、女の事が……ずっと好きだから)

女(うん……ありがとう)

星がキラリと……優しく光って、微笑んだ。

僕には、そんな気がした……したんだ。

307 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/30(木) 07:00:21.87 ID:RooYQAzXO [62/76]
友「……ん、おおっ。遅かったな。大丈夫だったか?」

活発「あ、来た来た。心配しちゃったよ~」

僕「ああ、ごめんごめん。電車が混んでてさ」

活発「あ、電車だったんだ。女ちゃん、しっかり送ってきた~?」

僕「ちゃんと……自分の場所に帰っていったよ」

友「そっか。まあ、とにかくお疲れ。じゃあみんな……いや、いない分の女も含めてさ」

友「乾杯」

活発「うん、お疲れ様~」

僕「ん……乾杯」

心の中で、僕は彼女の名前を呼んだ。

友と活発の顔を見て……彼女の言っている事を、少し理解した気がする。

僕(友情はまだ我慢出来るけれど……)

僕(愛情だけは、我慢出来ないみたいだ……)

308 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/30(木) 07:05:44.26 ID:RooYQAzXO [63/76]
活発「……あれっ、僕ちゃん。また酔った? と言うか……泣いてる!?」

友「おうおう、泣け泣け。男にだって泣く権利くらいは~」


活発「もう、飲み過ぎ!」

活発「……また変に酔っちゃったかな。ほら、お水と……あ、む、無理にご飯なんて食べなくていいんだよっ!」

活発「……なに、もしかしてやけ酒みたいな感じ? 女ちゃんと喧嘩でもした?」

活発「もう……そんなに荒れるくらいだったら、アタシが仲介してあげるからさ。もう、泣かないの」

309 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/30(木) 07:13:46.57 ID:RooYQAzXO [64/76]
活発「……あ、そう言えばね、会社のお休みが日曜休みみなんだよ。だから女ちゃんを誘って……」

活発「ふふっ、お給料出たらお洋服買って、着せ替えさせるんだ~。女ちゃん可愛いんですもの」

活発「あと、ケーキやお菓子だってたくさん買ってあげて、それから……」

それから……居酒屋から、声は段々と遠ざかっていく。

その、賑やかのお店を……一人の女の子が、寂しそうに見ていた。

彼女にだけ見える光景と、聞こえる会話……。

その日の夜の記憶は、悪酔いのせいで何も覚えていなかった。

眠ったら、次の日はに起き上がって……。

彼女のいない僕の生活が、ただ始まった事だけを覚えている。

310 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/30(木) 07:20:32.10 ID:RooYQAzXO [65/76]
……。

その記憶を持ったのは……何十年前の事だっただろう。

正確な年数を思い出すには、今の頭では少しだけ時間が掛かる。

何より今日は……そんな数字を数えて過ごすような日ではない。

男「……よし。準備はこれでバッチリだ」

大きな、白い天体望遠鏡を覗きながら……僕は一人ではしゃいでいた。

311 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/30(木) 07:24:52.11 ID:RooYQAzXO [66/76]
九月三十日、快晴。

空には一つの雲すら無くて……星の光が無限に広がっている。

僕はその無限の中から一つ……小さいけれど、とても綺麗に光を放っている星を見つける。

その光は久しぶりに見たはずなのに、懐かしくて、僕はそれをよく覚えていた。

男「……」

妻「んっ……また望遠鏡覗いてるの?」

男「ああっ、まだ起きてたんだ」

妻「もう寝るけど……あ、何か飲む?」

男「ううん。気にしないで、ゆっくりおやすみ」

妻「そう……じゃあ、おやすみ。あまり遅くならないでね」

男「……ん、おやすみ。また明日」

313 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/30(木) 07:33:34.74 ID:RooYQAzXO [67/76]
男「ふぅ……」

一人になり、レンズから見える、星に再び目を戻すと……その光は先ほどよりも強くなっている気がした。

男(……いや、毎回そう怒るのはやめてくれないかな)

女(ふ~んだ……浮気者)

男(そんな事言わないで。ほら、ちゃんと今年も会えたんだから)

女(……)

男(ね?)

女(わかった……から)

男(ははっ、じゃあいつもの……ね)

女(ん……)

ガラスのような、液晶のような……小さなレンズを見つめて。

遠くにいる君に向かって……僕はお祝い言葉を呟いた。

『お誕生日、おめでとう』

314 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/30(木) 07:43:50.36 ID:RooYQAzXO [68/76]
星は、それで満足したのか、落ち着いた光のまま、僕を見つめてきた。

そこからは……静かに二人でお喋りをして。

太陽が星を隠してしまうまで、僕と彼女はレンズ越しに見つめあっていたんだ。

男(……そろそろ、帰らないと)

女(うん、私も……)

男(また今度、ね)

女(ふふっ、笑ってバイバイできるって幸せだよね)

男(うん)

女(じゃあ、また……)

……。

これが、僕の過ごした記憶の全てだった。

315 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/30(木) 07:51:59.95 ID:RooYQAzXO [69/76]
……。

それからまた何十回と季節が巡っては……過ぎていく。

「……」

「どうかした?」

「星が、綺麗だったから……つい」

「くすっ。なんだかロマンチック」

「一緒に見よう。ほら、こっちにおいでよ」

「うん……」

恋人たちが寄り添うように……。

誰かが見上げているこの夜空でも……二つの星が、笑っていた。

小さくて見る事は出来ないかもしれないけれど、彼女はずっとそこにいる。

その横で、静かに彼女を見つめる……新しい星の存在が。

この星の海に、広がっている。

316 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/30(木) 08:09:39.93 ID:RooYQAzXO [70/76]
今夜も……晴れていたら、僕は空を見上げるんだろう。

明るい月と、寒さでよく見えるようになった星がそこにはあって……。

どこかで、一つの星が笑っているように光を放っていて。

素敵な気持ちになった僕は、また彼女を想って笑うんだ。

その星に……お祝いの言葉をあげよう。

「お誕生日、おめでとう」

それだけで、彼女は笑ってくれる。


二人で、星と海を見つめながら抱き合ったあの日を……僕は忘れない。

この記憶は、空にいる彼女の側に行っても……。

星として生きる僕の記憶に、永遠に残るのだから。

星の裏側に付いた……消えない、彼女の印と一緒に。


「星の海で……つかまえて」



317 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/30(木) 08:13:10.62 ID:RooYQAzXO [71/76]
終わりです。

読んでくれた人、保守の人ありがとうございます。

九月にどうしても書きたかった文章がこれでした。

コメント

妻がいるのに生きてる時も死後も思いは別のところにあるんだね!最低だね!

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