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妹「兄さんとわたし」
1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/29(水) 22:05:30.68 ID:UYvOdlUt0 [1/33]
男「そういえば今日は何の日だっけ」
妹「父さんと母さんが死んだ日」
男「あー……そうだった」
妹「いつからこうやって二人で暮らしてる?」
男「もうかれこれ十年前か」
妹「私が五歳で、兄さんが八歳」
男「あの頃は何も分かってなかったよな」
男「人の悪意に無意味に怯えたり、誰も信じれなくなったり」
妹「でも、私には兄さんがいたから」
男「そんなもんか? 頼りにない兄だったと思うけど」
妹「ううん、私にとってはいつも自慢の兄さんだったよ」
男「そういえば今日は何の日だっけ」
妹「父さんと母さんが死んだ日」
男「あー……そうだった」
妹「いつからこうやって二人で暮らしてる?」
男「もうかれこれ十年前か」
妹「私が五歳で、兄さんが八歳」
男「あの頃は何も分かってなかったよな」
男「人の悪意に無意味に怯えたり、誰も信じれなくなったり」
妹「でも、私には兄さんがいたから」
男「そんなもんか? 頼りにない兄だったと思うけど」
妹「ううん、私にとってはいつも自慢の兄さんだったよ」
4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/29(水) 22:09:32.47 ID:UYvOdlUt0
妹「そういえば、近所の弓ちゃん」
男「ああ、お前の幼馴染のことだったな」
妹「昨日見たら、首のところに痣作ってた」
男「……何だって?」
妹「聞いてみたら、辛そうに笑ってただけ」
男「誰かの助けがいるんじゃないのか」
妹「んー……人のお家のことだから私は判断出来ない」
男「俺は、なんとかすべきだと思うけどな」
妹「両親はもうすぐで離婚するらしいし、多分、大丈夫だよ」
男「母方につくのか」
妹「……多分」
5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/29(水) 22:12:53.33 ID:UYvOdlUt0
男「アル中の父親か……どうしようもないな」
妹「私達の親よりはマシだと思うけど」
男「でも、虐待してるんだぞ?」
妹「そうだけど、私ならそれでもいいなあ」
男「生きてるだけマシってか?」
妹「うん、いるだけいいじゃん」
男「……んー、まあ、そうかもしれないけどさ……」
妹「ちょっと暗い話になっちゃったね、何か新しい話してよ」
男「新しい話?」
妹「うん、学校で何があったとか、そういうの」
7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/29(水) 22:16:16.35 ID:UYvOdlUt0
男「特に面白い話もないしなあ」
妹「誰かに告白されたりしてるんじゃないの?」
男「はは、そんなに余裕あるように見えるか?」
妹「時たま見せる幼さがギャップ受け」
男「何だそれ、初めて聞くぞ」
妹「ほら兄さん、昨日だって、寝言で呟いてるじゃん」
男「いや、俺は知らん……」
妹「えーっ、結構な回数で喋ってるのになあ」
男「俺はそれでなんて言ってるんだ?」
妹「んー……内緒」
9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/29(水) 22:19:24.80 ID:UYvOdlUt0
男「……腹が減ったぞー」
妹「ちょっと待って、もう少しで出来るから」
男「あと何分?」
妹「十分ぐらい」
男「なら、プラス十分はみないとな」
妹「ひどいなー、出来るだけ早く作るからー」
男「気長に待ってるよ……あー腹減った」
妹「その付け加えるようにプレッシャーかけるの止めてよねっ」
男「はいはい、ごめんね」
10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/29(水) 22:22:53.10 ID:UYvOdlUt0
妹「じゃーん、完成だぁー」
男「十分どころか、もう三十分だよ……」
妹「いいのっ、その分だけクオリティ高いんだからっ」
男「ほんとかー? とりあえず、早くお前も席につけ」
妹「うん、麦茶もって今から行くよっ」
男「早く早く」
妹「ふふっ、兄さん、子供みたい」
男「よし、これで家族全員揃ったな」
妹「二人だけ、だけどね」
男「手を合わせて……いただきますっ」
妹「いただきまーす」
11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/29(水) 22:29:13.18 ID:UYvOdlUt0
男「あっ、そうだ明日のことだけど」
妹「ん、どうかした?」
男「しかし、この鯖煮うまいな」
妹「それはしっかりと味付けしたからね」
男「兄貴としては、妹が料理がうまくなるのは大歓迎だな」
妹「いつかは他人に取られるかもしれないのに?」
男「……そういうのは止めろよ」
妹「ふふっ、ちょっと意地悪したかっただけー」
男「ドキってくんだろ……ドキって」
妹「もうー、ごめんってばぁー」
男「味方から機関銃ぶっ放された気分だ」
妹「……そこまで?」
12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/29(水) 22:34:02.06 ID:UYvOdlUt0
妹「それで、『明日のこと』って何なの?」
男「……うっかり忘れてた」
妹「しっかりしてよね」
男「明日さ、この近所で花火やるんだって」
妹「それって……個人が?」
男「違う違う、祭りだよ」
妹「えー、それ私、初めて聞くよ?」
男「あれ? 明日じゃなかったっけ?」
妹「もしかして兄さんが言ってるの、来週の祭りじゃない?」
男「どんなやつだ?」
妹「この辺の町内会の人たちが、ばか騒ぎするやつ」
男「それそれっ、神社の境内借りる祭りだっ」
妹「気が早過ぎるよ、来週の話だよ……」
男「そうだったか……早とちりしちまった」
13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/29(水) 22:36:30.21 ID:UYvOdlUt0
男「仕切り直して、来週の祭り、一緒に行こうぜ」
妹「うん、了解」
男「体調は大丈夫そうか?」
妹「来週のことだから分かんないけど、多分」
男「ふむ……」
妹「もう、心配性なんだからっ。私は大丈夫だよ」
男「それならいいけど、無理はすんなよ」
妹「うん、分かってる」
男「ならいい」
14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/29(水) 22:42:57.22 ID:UYvOdlUt0
男「ただいまー」
妹「あっ、兄さん、お帰りなさい」
妹「今日はこの後、予定ある?」
男「八時からコンビニのバイトが入ってるな」
妹「そう……ならゆっくりは出来ないね」
男「いや、十分出来ると思うぞ」
妹「うん、でも……」
男「とにかく、夕飯を食べながら話でもしよう」
妹「……うんっ」
15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/29(水) 22:46:49.56 ID:UYvOdlUt0
男「それでな、影山のやつ二階の窓から飛ぼうとしたんだ」
妹「えー……それ危ないじゃん」
男「だから皆が必死に止めにかかったんだけどさ」
妹「大丈夫だったの?」
男「実はそいつ、初めから飛ぶ気なんてさらさら無かったんだよ」
男「『飛び降りるぞー』って人を集めて……」
男「足かけた状態で、担任がくるの待ってんの」
妹「……ああ、うん」
男「なんか腹立つだろ。確かに虐めは悪いと思うけどさ」
16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/29(水) 22:49:24.26 ID:UYvOdlUt0
妹「でも影山さんなりに、助けてって言うアピールだったんじゃないの?」
男「それでも命をお粗末にしようって考え方が許せないな」
妹「……兄さん」
男「だから、俺。アイツの背中を押してやったんだよ」
妹「ちょ、ちょっとっ」
男「そしたらアイツなんて言ったと思う?」
男「『や、やめてっー』だって」
男「死ぬ気だったんじゃないのかよって、話だ」
妹「……兄さん、それはやりすぎだと思う」
男「分かってるよ……後で、職員会議だったからな」
妹「本当に反省してる? これから絶対そんなことしちゃ駄目だからねっ」
男「……悪かったよ」
17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/29(水) 22:53:07.36 ID:UYvOdlUt0
男「なあ妹……そろそろ機嫌直してくれよ……」
妹「別に怒ってないもん」
男「怒ってるだろ……こっちをまともに向かないし」
妹「怒ってないって言ってるじゃん、うるさいなあっ」
男「悪かった……ごめんって」
妹「…………」
妹「兄さんは……なんで私が腹を立ててると思う?」
男「それは……」
妹「正直、影山さんがどうなろうと私は知ったこっちゃない」
妹「死んでもらっても、自殺しても、別にどうでもいい」
男「……妹」
18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/29(水) 22:55:33.47 ID:UYvOdlUt0
妹「でも兄さんがやったことになったら……私……」
男「……ごめん……」
妹「もう、怒ってないっていってるもんっ」
男「それでも……ごめんな。軽卒だったよ……」
妹「…………」
妹「……もういいよ、分かったから」
男「……よし、気を取り直してゲームでもしようっ」
妹「大富豪がいい」
男「またそれかよ……二人だとつまんねーよ……」
妹「むっ」
男「……分かった……んじゃ、二人大富豪な……」
19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/29(水) 22:58:36.91 ID:UYvOdlUt0
男「うぉー凄い活気だな……」
妹「日頃の鬱憤を発散させる意味での祭りだからね」
男「町内会レベルで花火なんて普通ないからな……」
妹「ほら兄さん、あっちに行こっ」
男「おいおい、初めにはしゃぎ過ぎると後でもたないぞっ」
妹「もうっ、すぐに子供扱いするんだからっ」
男「ははっ……って、うおっ引っ張るなっ」
妹「早くぅー」
男「うわぁー分かったからっ、一旦、離してっ」
20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/29(水) 23:01:10.55 ID:UYvOdlUt0
男「何だ? さっきから見てるばっかりだな」
妹「んー、それが楽しんだよ」
男「いいんだぞ、何か買っても」
妹「別にお腹好いてないし、いいよ」
男「そんなんでいいのか……」
妹「兄さんとデートしてるだけ楽しいから、ねっ」
男「……まあ、ならいいけど」
妹「ふふっ、照れちゃって」
男「うるさいっ、大人の男をからかうなっ」
妹「本当に、大人かな~っ?」
22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/29(水) 23:02:57.76 ID:UYvOdlUt0
妹「あれ……あそこにいるの……」
男「ん? 誰か見つけたか?」
妹「ほらあそこ……弓ちゃんだ……」
男「あーほんとだ」
妹「ねっ、兄さん、挨拶してこようよ」
男「俺はいいよ」
妹「ほら、恥ずかしがってないで、一緒に行くっ」
男「分かったからっ、一人で行けるからっ」
妹「手は離しませーん」
24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/29(水) 23:07:30.30 ID:UYvOdlUt0
妹「弓ちゃん、こんばんわー」
男「……ういっす」
弓「あっ……どうも」
妹「ん? 今日はもしかして一人で来たの?」
男「連れがいるなら遠慮するよ?」
弓「あっいえ、今日は一人で来たんです……」
妹「……そう、なんだ……」
男「…………」
弓「ちょっと、楽しい気分になれればいいかなって……」
妹「弓ちゃん……」
男「まだ、家庭内はうまくいってないか」
妹「兄さんっ、そういうのは……」
弓「はい、もうすぐで離婚すると思います……母はそうしたいって」
25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/29(水) 23:11:12.49 ID:UYvOdlUt0
男「まあ何かあったら、すぐに呼んでくれれば良い」
妹「そうだよっ、近くなんだから遠慮しないでっ」
弓「……すみません……」
男「……無理かもしれないけど、元気出しな」
弓「はい……出来るだけ、頑張ります」
妹「……ねぇ兄さん、この後は弓ちゃんと一緒に行動しようよ」
男「そうだな……弓ちゃん、これから時間は空いてるか?」
弓「えっ……は、はい」
男「だったら、一緒に見て回ろう」
弓「い、いいんですか?」
妹「全然オッケーだよっ! ねっ、兄さん」
男「勿論、構わない。いや、是非頼む」
弓「あ、ありがとうございます……」
26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/29(水) 23:14:49.14 ID:UYvOdlUt0
妹「……弓ちゃん、元気無かったね」
男「ああ、相当参ってるみたいだ」
妹「…………」
男「彼女が助けを求めない限り、何も出来ないからな」
妹「なんか悔しいね」
男「……俺達に出来ることは、明るく彼女に話しかけることだけだろう」
妹「うん」
男「明日も早い。もう寝ような」
妹「……兄さん」
男「ん?」
27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/29(水) 23:17:59.09 ID:UYvOdlUt0
妹「……私、重荷じゃないかな?」
男「……はっ? 何だ急に?」
妹「私、知ってるんだ」
妹「兄さんは何でも出来る、とっても凄い人なんだって」
男「おいおい、おだてても……」
妹「いいの、聞いて」
男「……妹……」
妹「小さい頃から私の自慢で……今では、だいだいだーい自慢の兄でっ」
男「…………」
28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/29(水) 23:20:44.64 ID:UYvOdlUt0
妹「兄さんは、もっと大きく羽ばたける」
男「…………」
妹「大空を自由に……どこまで、飛んでいけるんだっ」
男「……そんなことないさ」
妹「ううん、私は知ってるもん」
妹「兄さんと小さい頃から一緒にいて、ずっといて」
妹「両親が心中計ったときだって、兄さんは私のためにずっと堪えてくれた」
妹「私のために必死に頑張ってくれた」
男「…………」
妹「泣きたくて、時には苦しくて……でも、それでもって」
妹「だから、兄さん、本当にありがとう」
男「……妹……」
30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/29(水) 23:24:28.97 ID:UYvOdlUt0
妹「でもね、今の私は、兄さんの重荷」
妹「大きく羽ばたこうとして兄さんを、地面につなぎ止めてるの」
妹「だから、もう、いいんだ」
男「…………」
妹「自分がやらなきゃって時は、私のことは気にしないで」
妹「それが私のお願い」
妹「ははっ、ちょっと真面目すぎたかもね」
男「…………」
男「……分かった」
男「しっかりしないとな、今以上にな」
妹「…………」
男「隣でしっかり見てろよ……俺がどこまで行けるのかをな」
妹「うん、期待してる」
31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/29(水) 23:29:28.18 ID:UYvOdlUt0
男「今日は日曜日か」
妹「久しぶりに一日中ゆっくり出来るね」
男「こういう日は、ぐっすり昼寝でもしてるのが幸せだ」
妹「うあぁー、もう、だらけてる」
男「いいんだよ……メリハリが大事なんだから」
妹「兄さんは、いつもオフ状態なんじゃないのー?」
男「やるときはやってる……」
妹「あんまり見れないなーもう、寝ないのっ」
男「うぅー……頼む……寝かせてくれー」
妹「もう……ホント」
男「…………」
妹「……子供なんだから……ふふっ」
32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/29(水) 23:32:43.49 ID:UYvOdlUt0
男「…………」
妹「……もう寝たかな……?」
妹「…………」
妹「……兄さん……」
妹「…………」
妹「……知ってる? 寝言の話」
妹「あれはね、兄さん……」
妹「……兄さんは、いつも夜……一人で泣いてるんだ……」
妹「眠りながら涙を流して、嗚咽を漏らしてるんだ……」
妹「……辛いんだと思う……苦しんだと思う……」
33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/29(水) 23:35:24.34 ID:UYvOdlUt0
妹「……でも、本当は……」
妹「寂しいんだよ……私、分かってる……」
妹「寂しくて、寂しくて……仕方がないんだよね……」
妹「ごめんね……兄さん……本当にごめん……」
妹「……でも」
妹「私は……兄さんの重荷……」
妹「もう……大丈夫……」
妹「…………」
妹「……ふふ……良い寝顔……」
妹「……兄さん……」
妹「私ね……兄さんのことが……」
──本当に、大好きだよ
34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/29(水) 23:37:49.53 ID:UYvOdlUt0
……バンバンッ。
……バンバンッ。
男「……何だ……」
バンバンッ。
バンバンッ。
男「……おいおい、誰だ……」
男「くそっ……久しぶりに良い夢見て眠ってたのに……」
バンバンッバンバンッ。
バンバンッバンバンッ。
男「分かったよ……今、行くっ……」
男「…………」
男「あれ……妹はどこだ?」
35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/29(水) 23:40:45.49 ID:UYvOdlUt0
ガチャ。
弓「男さんっ! 助けて下さいっ!」
男「ゆ、弓ちゃん……?」
弓「お父さんが……お父さんが……っ」
男「ちょっと待って、一旦、落ち着こうね……」
弓「早くしないと……早くしないとお母さんが……」
男「…………」
男「分かった、急ごう」
弓「男さんっ?」
男「どこに行けばいい? 弓ちゃんの家か?」
37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/29(水) 23:43:50.21 ID:UYvOdlUt0
たったったったっ。
弓「お母さんが今日こそは離婚するって」
弓「それで、お父さんに離婚届を見せて話をしてたら……」
男「……どうなった」
弓「急にお父さんが激昂して……私、それで怖くなって……」
弓「逃げて来ちゃったけど……誰に助けを呼んでいいか分からなくて……」
弓「……男さんしか、頼る人がいなくて……うぅ……」
男「いい判断だよ、よく頑張った」
弓「ううぅ……ひっく……ぐす……」
男「よし、後少しだ。頑張ろうっ」
弓「は、はいっ……」
たったったったっ。
39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/29(水) 23:54:53.84 ID:UYvOdlUt0
ピーピーピー……。
男「よし着いたぞ」
弓「……はぁーはぁ……」
男「……よく頑張ったな。でも、弓ちゃんは、ここで待ってろ」
弓「えっ……」
男「俺だけが中に入るから。なっ?」
弓「……男さん……」
男「いいから任せろ、お父さんを止めてくるから」
弓「……ッ……お、お願いしますっ……」
男「うんっ」
ピーピーピーピーピーピー。
男(……しかし、警察の車がさっきから多いな……)
40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/29(水) 23:56:37.95 ID:UYvOdlUt0
ガチャ。
男(……奥で言い合っている声が聞こえるぞ……)
男「…………」
?「や、やめて……それ以上……」
?「ああああああっ」
男「……くそっ……最悪な状況かもしれない……」
男「…………」
男「よし……覚悟を決めろ……」
男「……行くぞ……」
ガチャっ!!
41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/29(水) 23:59:03.60 ID:UYvOdlUt0
母親「だ、誰っ!?」
男「大丈夫ですかっ!」
男「……えっ?」
男「な、なんだこれ……」
男(部屋中のものが壊れてる……どれだけ暴れたんだ……)
母親「お、お願い、助けてっ!」
父親「うおおおおおおおおおおおおおおっ!」
男「あ、危ないっ!」
バンッ。
父親「くうっ……」
母親「はぁはぁはぁ……」
男「今ですっ、こっちにっ!」
母親「は、はいっ」
43 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/30(木) 00:01:34.35 ID:Bpww7cOc0
男「俺の後ろに隠れてて下さい」
母親「す、すみません……助かりました……」
男「一体、何があったんですか?」
母親「……そ、それが……」
父親「……うぅ……ううう」
男「……え?」
男「……どうなってんだ……?」
父親「くっ……おおっ……おおおおお」
母親「夫が……き、急に……暴れ出して……」
男「……傷は大丈夫ですか」
母親「は、はい……かすり傷です……」
男「とりあえず、包丁は俺が預かっておきます」
母親「……はい……」
44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/30(木) 00:05:22.92 ID:e5kCZWsF0 [1/41]
男「申し訳ありませんが……」
父親「ごほっ……ほおお……おほおっ……あああっ」
男「どう見ても夫さんは正常とは思えません」
母親「……そ、そうなんです……」
男「アルコール中毒だとは知っていましたが、これはちょっと違いますね」
母親「あ、あの……あなたは……」
男「弓さんの知り合いの者です」
母親「ああ、弓は……弓は大丈夫なんですかっ……」
男「家の外で待ってます。後で、再会しましょう」
母親「うぅ……あ、ありがとう……」
男「安心するのは、まだ早いですよ。とりあえず……」
父親「がああああああああああああああああっ!!」
男「夫さんを何とかしないと……」
45 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/30(木) 00:08:36.95 ID:e5kCZWsF0 [2/41]
父親「……ぅ……ふぅ……」
男「そろそろ落ち着きましょうよ、お父さん」
父親「……ああぅ……ゆ、……」
男「……駄目だ……言葉が通じない……」
男「とにかく夫さんがあそこからどけば、リビングから出れますね」
母親「は、はい……」
男「俺が引きつけます。その隙に逃げて下さい」
母親「……えっ……あ、あなたは……」
男「先に行って待ってて下さい……俺は、夫さんをなんとかします」
母親「で、でも……」
男「行きますよっ! 一瞬が勝負ですっ!」
母親「は、はいっ」
46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/30(木) 00:12:27.59 ID:e5kCZWsF0 [3/41]
バンッ。
父親「うぅ!?」
男「今ですっ! 早くっ!」
母親「……ッ」
たたたたたた。
父親「っ!!」
男「お前の相手は俺だよっ! おらっ!」
ダンっ!
父親「くっ……ああ」
……ガチャン。
男「……何とか、間に合ったな……」
父親「……うぅ……おおあ」
男「ここからはあんたと俺だけだよ」
男「この先は……絶対通させねえ」
父親「あああああああああああああッ!!」
47 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/30(木) 00:15:52.85 ID:e5kCZWsF0 [4/41]
男「離婚がそんなに嫌か?」
父親「………うぅ……」
男「娘を傷つけて……ここまでやって……」
男「はっきり言って、あんたは終わってるよ」
父親「……ぐる……ががああ」
男「……ははっ……これじゃあ、獣と一緒だ」
男「言葉は通じないし……一体、あんたどうしちまったんだ?」
父親「がががががががあああっ!!」
ダダダダダッ。
男「……ッ」
バンッ。
父親「……ぅ……」
男「だから言ってんだろ、ここは通さねぇって」
48 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/30(木) 00:19:09.63 ID:e5kCZWsF0 [5/41]
男「……はぁ……はぁ……」
男(どれくらい経ったんだろう……)
父親「……があ……あああ」
男(これじゃあ埒があかねぇ……)
男(何とかアイツを動かねえようにしねえと……)
男「…………」
ダダダダ……。
男「ん?」
ダダダダダダダダッ。
男「何だ……この音は……」
男「……これは……足音?」
ガチャンッ!
?「動くなっ!!」
49 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/30(木) 00:23:18.08 ID:e5kCZWsF0 [6/41]
男「……な、なんで……軍人……?」
軍人「いいから動くな」
男「ちょ、ちょっと待てくれ……」
男(こいつ……拳銃を持ってやがる……)
父親「……がああ、ああああっ……」
男「……本当に獣じみてきたな……涎を垂れ流してる……」
軍人「……進行三か。早く始末しないとまずいな」
男(進行三……って、始末?)
男「待てっ! 始末って何だよっ!」
軍人「動くなと言っているのが分からんのかっ!」
ダンッ。
男「くっ……」
50 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/30(木) 00:25:43.27 ID:e5kCZWsF0 [7/41]
父親「がああああああああああああッ!!!」
軍人「一発でしとめてやる」
男「……ま、まって」
男(くそ……足で押さえつけられて動けない……)
父親「ああああああああああああああああああっ!!」
軍人「死ね、怪物」
バンバンッ!!
父親「……くはあっ……」
父親「ごほっ……こほっ……」
バタン……。
男「……う、嘘だろ……」
男「こ、殺したのか……?」
ピピッ……。
軍人「こちら制圧完了しました」
52 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/30(木) 00:28:26.17 ID:e5kCZWsF0 [8/41]
軍人「立て」
男「こ、この人殺しがっ!」
軍人「…………」
男「殺す必要は無かっただろっ! せめて病院に連れてけよっ!」
軍人「……無知であることはいいことだな」
男「な、なんだとっ!」
軍人「手遅れだよ、ほれ、死体を見てみろ」
男「……は?」
男「…………」
男「……え?」
男(……何だこれ……目ん玉が……飛び出して……)
男「……ぐうっ」
54 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/30(木) 00:30:19.09 ID:e5kCZWsF0 [9/41]
ビチャ……。
男「はぁ……はぁ……はぁ……」
軍人「吐いたか、まあ、それが普通の反応だな」
男「どういうことだ……説明……しろ……」
軍人「…………」
軍人「……この家の妻と娘を連れてこい」
男「お、おいっ!」
軍人「いいから、黙ってろ」
ガチャ。
55 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/30(木) 00:32:30.84 ID:e5kCZWsF0 [10/41]
男「奥さん……弓ちゃん……」
母親「えっ……ど、どういうこと……?」
弓「……男さん……?」
男「…………」
母親「しゅ、主人は……?」
男「……ッ」
軍人「…………」
母親「……う、嘘……嘘でしょ……」
母親「ああ……あああああ」
母親「そ、そんなああああ」
母親「ああああああああああああっ」
男「…………」
弓「……お父さん……」
56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/30(木) 00:34:51.43 ID:e5kCZWsF0 [11/41]
母親「どうして……どうして……」
母親「こんなことに……ああ……うあああ……」
弓「……うぅ……」
チャカ……。
軍人「…………」
男「……おい」
軍人「…………」
男「あんた……ふざけてんのか?」
軍人「…………」
男「何か言ったらどうだ? なあ、おい!」
軍人「…………」
男「なんで……」
男「──二人に銃口を向けてんだよっ!!」
58 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/30(木) 00:37:01.12 ID:e5kCZWsF0 [12/41]
母親「……へ?」
弓「……?」
バンッ!!
男「なっ……」
母親「……か……」
バタン……。
弓「えっ……? お、お母さんっ?」
男「……そ、そんな……」
軍人「全て制圧しろとの指示を受けている」
男「……き、貴様……」
軍人「ここにいるお前らは、全員制圧対象だ」
男「くっ」
タタタタタッ。
軍人「なっ……」
60 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/30(木) 00:39:04.15 ID:e5kCZWsF0 [13/41]
弓「……ッ」
男「弓ちゃん、我慢してくれっ!」
軍人「逃がすかっ!」
男「……くっ……」
ガシャーンッ!
軍人「………アイツ……」
軍人「……ガラスを破って、退路を作ったか……」
ピピッ。
軍人「二名を逃がした……応援をよこしてくれ」
62 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/30(木) 00:42:05.50 ID:e5kCZWsF0 [14/41]
たたたたたっ。
弓「おかあさん……おかあさん……」
男「頼むっ! 弓ちゃん、今だけは頑張るんだっ!」
弓「うぅ……ッ」
男「逃げないと……早くしないとあいつらがやってくるっ」
弓「うぅ……死んじゃったよ……男さん……」
男「……辛いと思う……でも、今は我慢するんだ……」
弓「……ぅ……ああ」
男「……スピードを上げるよっ、ついて来てっ!」
男(さて……どこに行くか……隠れるとこ……隠れられる場所……)
たたたたたっ。
63 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/30(木) 00:44:51.18 ID:e5kCZWsF0 [15/41]
──神社
男「よし……ここでひとまず休憩しよう……」
弓「…………」
男「弓ちゃん……」
弓「お、男さん……ねぇ、男さん……?」
男「うん……どうした?」
弓「私、夢を見てるんだよね……? 今、夢の中なんだよねっ?」
男「…………」
弓「お父さんも死んじゃって……お母さんも死んじゃって……」
弓「で、でも、これっ、夢の中だからっ! 夢の中だから大丈夫だよねっ!?」
男「…………」
64 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/30(木) 00:48:17.06 ID:e5kCZWsF0 [16/41]
弓「……そ、それなのに……おかしいんだ……」
男「…………」
弓「イタいの……イタいんだ……」
弓「……ほっぺた掴むと……痛い……いたいんだよぉ……」
弓「……嘘だよ……嘘だ……」
弓「夢の中だよって……お願いだからっ……男さんっ……」
男「…………」
弓「……嫌だ……嫌だよ……」
弓「私……一人に……一人ぼっちだよ……」
弓「………あああ……ああああああ」
男「……ッ」
65 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/30(木) 00:50:17.15 ID:e5kCZWsF0 [17/41]
ギュッ……。
弓「……えっ?」
男「一人じゃない……一人じゃないから」
弓「お、男さん……」
男「俺がいる……だから、お前は一人じゃない……」
弓「……うぅ……」
男「ずっと側にいるから……守ってやるから」
弓「うああ……あぁっ」
男「だから……だから、今は安心して……」
弓「ああああっ……ああっ」
男「……泣いていいんだ」
弓「あああああああああああああっ!!」
66 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/30(木) 01:43:13.63 ID:e5kCZWsF0 [18/41]
こりゃ落ちるな
68 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/30(木) 01:53:43.52 ID:e5kCZWsF0 [19/41]
>>67
ちいっすサーセンww
76 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/30(木) 05:27:14.08 ID:e5kCZWsF0 [20/41]
男「……どうだ、落ち着いたか?」
弓「……はい……何とか……」
男「…………」
男(……妹が心配だ……)
弓「……男さん?」
男「弓ちゃん……君には申し訳ないけど」
男「ここで俺の帰りを待っててくれ……」
弓「──嫌ですっ!」
男「……ッ」
弓「離れたくないですっ! もう一人は嫌っ」
男「……弓ちゃん……」
78 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/30(木) 05:29:17.93 ID:e5kCZWsF0 [21/41]
弓「男さんは言いました……ずっと側にいるって、守ってくるって」
男「ああ、そうだったな……」
弓「……お願いします……私を、側にいさせて下さい……」
男「…………」
男「弓ちゃん、今から、俺の家に行こうと思う」
弓「……えっ?」
男「ほら、妹が帰ってるかもしれないし」
男「こんな状況だと、兄としては心配なんだ」
弓「……妹さん?」
男「ん?」
79 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/30(木) 05:32:03.13 ID:e5kCZWsF0 [22/41]
弓「……男さんって、妹がいたんですか?」
男「……何言って……」
弓「だって、私、一人暮らしの人だって思ってて……」
男「いや、ちょっと待ってっ」
男(何を言ってるんだ……? 俺をからかってるのか?)
男「弓ちゃんだって、知ってるはずだろ」
弓「……え? 私、知りませんよ……」
男「俺の妹は、君の幼馴染じゃないか?」
弓「……幼馴染? 私に、そんな人はいないですけど……」
男「……は、ははっ、う、嘘は駄目だよ」
80 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/30(木) 05:34:47.02 ID:e5kCZWsF0 [23/41]
男「こんな状況だから、ちょっとからかってやろうと思ってるんだろ?」
弓「……そんなつもりは全くないです」
男「…………」
弓「私は、男さんの妹の方とは一度もお会いしたことがありません」
男「……う、嘘だ……」
弓「男さん……?」
男「そ、そんなことあるわけないじゃないかっ!」
弓「ひっ……」
男「この前だって、一緒に祭りの時に会ってるはずだっ!」
弓「……そ、そんな」
81 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/30(木) 05:37:43.15 ID:e5kCZWsF0 [24/41]
男「ほら、俺の隣にいた子だよっ! 覚えてるだろっ!?」
弓「……お、男さんは、一人でしたよ……?」
男「嘘をつくなっ!」
弓「嘘なんてついてませんっ!」
男「話しかけてきた子だよっ! 俺達の会話にきちんと……」
弓「……男さん……?」
男「そうだよ……きちんと、いたはずじゃないか……」
弓「一体……どうしちゃったんですか……?」
男「今日だって、一緒に喋った……いつも側にいたんだ……」
男「ずっと、あの日から、片時も離れたことはなくて……」
男「身体は他の人より弱いけど、とってもいい子で……」
男「……いないはずが……そんなわけが……」
82 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/30(木) 05:43:09.96 ID:e5kCZWsF0 [25/41]
弓「……男さん……」
男「俺には一人妹がいるはずなんだ……」
男「両親が死んで、それからずっと一緒に生きてきた妹が……」
男「弓ちゃん……頼むから、ホントのことを言ってくれ」
弓「…………」
男「この前の祭りの時、君は会ってるよね……?」
弓「…………」
弓「……す、すみません……」
男「……ッ」
男(嘘だ……そんなことあるわけがないじゃないか……)
男(だって……あの時、一緒に……)
男(思い出せ、思い出すんだ……)
83 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/30(木) 05:45:39.70 ID:e5kCZWsF0 [26/41]
妹『あれ……あそこにいるの……』
男『ん? 誰か見つけたか?』
妹『ほらあそこ……弓ちゃんだ……』
男『あーほんとだ』
妹『ねっ、兄さん、挨拶してこようよ』
男『俺はいいよ』
妹『ほら、恥ずかしがってないで、一緒に行くっ』
男『分かったからっ、一人で行けるからっ』
妹『手は離しませーん』
妹『弓ちゃん、こんばんわー』
男『……ういっす』
弓『あっ……どうも』
84 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/30(木) 05:48:49.95 ID:e5kCZWsF0 [27/41]
男「やっぱり、いる……俺の記憶では……きちんと」
男「よく、思い出してくれ‥‥頼む……」
弓「…………」
弓「……何がどうなってるか分かりませんけど……」
弓「確かにあの時、男さんは一人でしたよ?」
男「違う……違うだろ……隣に……」
弓「私が一人で歩いてるところを、声をかけてくれたんです」
男「いや……だから、その時……」
弓「それで色々話して、その後、誘って頂いて……」
男「……ああ……」
弓「男さん……あなたも、覚えてるでしょ?」
男「…………」
85 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/30(木) 05:50:43.75 ID:e5kCZWsF0 [28/41]
男『……ういっす』
弓『あっ……どうも』
男『連れがいるなら遠慮するよ?』
弓『あっいえ、今日は一人で来たんです……』
男『…………』
弓『ちょっと、楽しい気分になれればいいかなって……』
男『まだ、家庭内はうまくいってないか』
弓『はい、もうすぐで離婚すると思います……母はそうしたいって』
86 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/30(木) 05:52:03.19 ID:e5kCZWsF0 [29/41]
男『まあ何かあったら、すぐに呼んでくれれば良い』
弓『……すみません……』
男『……無理かもしれないけど、元気出しな』
弓『はい……出来るだけ、頑張ります』
男『そうだな……弓ちゃん、これから時間は空いてるか?』
弓『えっ……は、はい』
男『だったら、一緒に見て回ろう』
弓『い、いいんですか?』
男『勿論、構わない。いや、是非頼む』
弓『あ、ありがとうございます……』
87 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/30(木) 05:53:29.91 ID:e5kCZWsF0 [30/41]
男「……は、はは……」
男「……いない……どこにもいない……」
弓「…………」
男「……そんな、馬鹿な……」
男「嘘だ……嘘だと言ってくれよ……」
男「ああ……あああ……」
男「うわああ……ああああああっ」
男「………ッ」
たたたたたっ……。
弓「お、男さんっ!?」
88 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/30(木) 05:56:29.14 ID:e5kCZWsF0 [31/41]
たたたたたっ。
男(俺の隣にいた……)
男(優しくて、いつも俺を励ましてくれて……)
男(最近、みるみる料理が上手くなって……)
男(……あの家に……あいつはいるっ……)
男(どんなときだって、俺の帰りを待っててくれたじゃないかっ)
男(だから、今日も……笑顔で俺を迎えてくれるはずなんだっ……)
男「……はぁ……はぁ……」
男「……着いた」
男(……妹……俺の、大事な……人……)
ガチャ……。
男「…………」
89 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/30(木) 05:59:51.22 ID:e5kCZWsF0 [32/41]
弓「‥‥はぁ……はぁ……」
弓「やっと着いた……」
弓「男さん……もう、入ってるのかな……」
弓「……鍵、かかってないよね……?」
……ガチャ。
弓「……お邪魔します……」
弓「男さん……? どこ?」
トコトコトコ……。
弓「……えっ」
弓「……何これ……」
弓「……ここに……男さんは住んでたの……?」
弓「…………」
弓「……こんな……」
弓「物が……殆どない殺風景な部屋……」
90 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/30(木) 06:02:01.74 ID:e5kCZWsF0 [33/41]
弓「……男さん……?」
男「…………」
弓「どうしちゃったんですか……?」
男「……は、はは……」
弓「……この部屋……」
男「……そうだ、そうだよ……」
弓「えっ?」
男「俺は、こんな部屋で一人暮らしてたんだ……」
弓「男さん……?」
男「……いない」
男「初めから……いなかったんだ……」
男「……だって」
──アイツは……十年前に死んでるんだから
91 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/30(木) 06:07:09.82 ID:e5kCZWsF0 [34/41]
警察『……残念だよ』
男『…………』
警察『君はまだこんなに幼いのにね……』
男『ねぇ……父さんは? 母さんは?』
警察『……そこにいるよ』
男『これが、父さんだっていうの? 母さんだって?』
警察『…………』
92 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/30(木) 06:08:02.97 ID:e5kCZWsF0 [35/41]
男『お巡りさん、嘘つきだよ……こんな冷たい身体じゃなかった……』
男『もっと、二人とも温かくて……』
警察『……死んでしまったんだよ』
男『……い、妹も……?』
警察『…………』
男『この横になってるのが……僕の妹……?』
警察『…………』
男『そ、そんな……嘘だよ……間違ってるよ……』
男『なんで……なんで僕だけ……』
警察『……っ』
男『──僕だけ、生きてるんだよぉぉっ!!』
93 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/30(木) 06:13:00.52 ID:e5kCZWsF0 [36/41]
男「……一家心中だったんだ」
弓「え……?」
男「父親の借金が膨らんでね、もう返せないところまで来てた」
男「毎日、取り立ての男たちに怯えて……そんな日々だった……」
弓「……そ、そんな……」
男「だから、両親は死ぬことを選んだ」
男「家族全員で、冬の海に身体を投げようって……」
男「まだ訳もわからない妹の手を握って……でも、俺はきちんと理解してた」
男「冷たい水に身体が投げ出された時、こうやって死ぬんだって」
男「そう覚悟して……でも、最後に見てしまったのが」
男「……まだ泳げない妹の……苦しむ横顔だった……」
弓「…………」
男「気が付いたら、病院のベットだ。馬鹿みたいに俺だけが生き残った」
95 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/30(木) 06:17:11.58 ID:e5kCZWsF0 [37/41]
男「……は、ははっ、滑稽だよな……」
男「寂しさに負けて……妹の虚像を作り出してたなんて……」
弓「…………」
男「分からない……もう、俺には分からない……」
男「確かに、俺の頭には……アイツがいたんだ……」
男「でも実際は、妹はとっくに死んでいて……」
男「何が正しくて間違ってるのか……もう、俺には判断できない……」
弓「……男さん」
男「ごめん……悪いけど、俺は付き合えそうもない……」
弓「そんなこと言わないで下さい……」
男「……生きる意味を、失ったんだ……」
男「これ以上無駄に生きて……意味が見つかるなんて思えない……」
96 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/30(木) 06:19:36.86 ID:e5kCZWsF0 [38/41]
弓「……うぅ……でも私、男さんしか頼る人がいないです……」
男「……ごめん、本当にごめんな」
弓「……ああ……そんな……」
男「…………」
弓「…………」
弓「わ、わかりました……」
男「……っ」
弓「……私、これで失礼しますね……」
トコトコトコ……。
弓「……男さん、ありがとう」
弓「そして……さよなら、です……」
ガチャ……。
男「…………」
97 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/30(木) 06:28:33.32 ID:e5kCZWsF0 [39/41]
数年後、男は旅に出た。
それが伝説の始まりであることを
今は誰も知らない。
-完-
103 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/30(木) 07:55:46.75 ID:e5kCZWsF0 [40/41]
【いらない解説】
話に出てくる妹は男が作り出した想像の人物
本当の妹は十年前に両親とともに死亡
始めのくだりは、全て男の想像の世界
弓の父親が異常になったのは、とある事情による
後半の展開のために用意しておいたんだけど、
ちょっとまとめられる気配がなかったので、打ち切りエンドにした
ここまで読んでくれてありがとねっ!
保守、支援してくれた人、みんな大好きっ!
ヤッフーっ!!
妹「そういえば、近所の弓ちゃん」
男「ああ、お前の幼馴染のことだったな」
妹「昨日見たら、首のところに痣作ってた」
男「……何だって?」
妹「聞いてみたら、辛そうに笑ってただけ」
男「誰かの助けがいるんじゃないのか」
妹「んー……人のお家のことだから私は判断出来ない」
男「俺は、なんとかすべきだと思うけどな」
妹「両親はもうすぐで離婚するらしいし、多分、大丈夫だよ」
男「母方につくのか」
妹「……多分」
5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/29(水) 22:12:53.33 ID:UYvOdlUt0
男「アル中の父親か……どうしようもないな」
妹「私達の親よりはマシだと思うけど」
男「でも、虐待してるんだぞ?」
妹「そうだけど、私ならそれでもいいなあ」
男「生きてるだけマシってか?」
妹「うん、いるだけいいじゃん」
男「……んー、まあ、そうかもしれないけどさ……」
妹「ちょっと暗い話になっちゃったね、何か新しい話してよ」
男「新しい話?」
妹「うん、学校で何があったとか、そういうの」
7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/29(水) 22:16:16.35 ID:UYvOdlUt0
男「特に面白い話もないしなあ」
妹「誰かに告白されたりしてるんじゃないの?」
男「はは、そんなに余裕あるように見えるか?」
妹「時たま見せる幼さがギャップ受け」
男「何だそれ、初めて聞くぞ」
妹「ほら兄さん、昨日だって、寝言で呟いてるじゃん」
男「いや、俺は知らん……」
妹「えーっ、結構な回数で喋ってるのになあ」
男「俺はそれでなんて言ってるんだ?」
妹「んー……内緒」
9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/29(水) 22:19:24.80 ID:UYvOdlUt0
男「……腹が減ったぞー」
妹「ちょっと待って、もう少しで出来るから」
男「あと何分?」
妹「十分ぐらい」
男「なら、プラス十分はみないとな」
妹「ひどいなー、出来るだけ早く作るからー」
男「気長に待ってるよ……あー腹減った」
妹「その付け加えるようにプレッシャーかけるの止めてよねっ」
男「はいはい、ごめんね」
10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/29(水) 22:22:53.10 ID:UYvOdlUt0
妹「じゃーん、完成だぁー」
男「十分どころか、もう三十分だよ……」
妹「いいのっ、その分だけクオリティ高いんだからっ」
男「ほんとかー? とりあえず、早くお前も席につけ」
妹「うん、麦茶もって今から行くよっ」
男「早く早く」
妹「ふふっ、兄さん、子供みたい」
男「よし、これで家族全員揃ったな」
妹「二人だけ、だけどね」
男「手を合わせて……いただきますっ」
妹「いただきまーす」
11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/29(水) 22:29:13.18 ID:UYvOdlUt0
男「あっ、そうだ明日のことだけど」
妹「ん、どうかした?」
男「しかし、この鯖煮うまいな」
妹「それはしっかりと味付けしたからね」
男「兄貴としては、妹が料理がうまくなるのは大歓迎だな」
妹「いつかは他人に取られるかもしれないのに?」
男「……そういうのは止めろよ」
妹「ふふっ、ちょっと意地悪したかっただけー」
男「ドキってくんだろ……ドキって」
妹「もうー、ごめんってばぁー」
男「味方から機関銃ぶっ放された気分だ」
妹「……そこまで?」
12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/29(水) 22:34:02.06 ID:UYvOdlUt0
妹「それで、『明日のこと』って何なの?」
男「……うっかり忘れてた」
妹「しっかりしてよね」
男「明日さ、この近所で花火やるんだって」
妹「それって……個人が?」
男「違う違う、祭りだよ」
妹「えー、それ私、初めて聞くよ?」
男「あれ? 明日じゃなかったっけ?」
妹「もしかして兄さんが言ってるの、来週の祭りじゃない?」
男「どんなやつだ?」
妹「この辺の町内会の人たちが、ばか騒ぎするやつ」
男「それそれっ、神社の境内借りる祭りだっ」
妹「気が早過ぎるよ、来週の話だよ……」
男「そうだったか……早とちりしちまった」
13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/29(水) 22:36:30.21 ID:UYvOdlUt0
男「仕切り直して、来週の祭り、一緒に行こうぜ」
妹「うん、了解」
男「体調は大丈夫そうか?」
妹「来週のことだから分かんないけど、多分」
男「ふむ……」
妹「もう、心配性なんだからっ。私は大丈夫だよ」
男「それならいいけど、無理はすんなよ」
妹「うん、分かってる」
男「ならいい」
14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/29(水) 22:42:57.22 ID:UYvOdlUt0
男「ただいまー」
妹「あっ、兄さん、お帰りなさい」
妹「今日はこの後、予定ある?」
男「八時からコンビニのバイトが入ってるな」
妹「そう……ならゆっくりは出来ないね」
男「いや、十分出来ると思うぞ」
妹「うん、でも……」
男「とにかく、夕飯を食べながら話でもしよう」
妹「……うんっ」
15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/29(水) 22:46:49.56 ID:UYvOdlUt0
男「それでな、影山のやつ二階の窓から飛ぼうとしたんだ」
妹「えー……それ危ないじゃん」
男「だから皆が必死に止めにかかったんだけどさ」
妹「大丈夫だったの?」
男「実はそいつ、初めから飛ぶ気なんてさらさら無かったんだよ」
男「『飛び降りるぞー』って人を集めて……」
男「足かけた状態で、担任がくるの待ってんの」
妹「……ああ、うん」
男「なんか腹立つだろ。確かに虐めは悪いと思うけどさ」
16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/29(水) 22:49:24.26 ID:UYvOdlUt0
妹「でも影山さんなりに、助けてって言うアピールだったんじゃないの?」
男「それでも命をお粗末にしようって考え方が許せないな」
妹「……兄さん」
男「だから、俺。アイツの背中を押してやったんだよ」
妹「ちょ、ちょっとっ」
男「そしたらアイツなんて言ったと思う?」
男「『や、やめてっー』だって」
男「死ぬ気だったんじゃないのかよって、話だ」
妹「……兄さん、それはやりすぎだと思う」
男「分かってるよ……後で、職員会議だったからな」
妹「本当に反省してる? これから絶対そんなことしちゃ駄目だからねっ」
男「……悪かったよ」
17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/29(水) 22:53:07.36 ID:UYvOdlUt0
男「なあ妹……そろそろ機嫌直してくれよ……」
妹「別に怒ってないもん」
男「怒ってるだろ……こっちをまともに向かないし」
妹「怒ってないって言ってるじゃん、うるさいなあっ」
男「悪かった……ごめんって」
妹「…………」
妹「兄さんは……なんで私が腹を立ててると思う?」
男「それは……」
妹「正直、影山さんがどうなろうと私は知ったこっちゃない」
妹「死んでもらっても、自殺しても、別にどうでもいい」
男「……妹」
18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/29(水) 22:55:33.47 ID:UYvOdlUt0
妹「でも兄さんがやったことになったら……私……」
男「……ごめん……」
妹「もう、怒ってないっていってるもんっ」
男「それでも……ごめんな。軽卒だったよ……」
妹「…………」
妹「……もういいよ、分かったから」
男「……よし、気を取り直してゲームでもしようっ」
妹「大富豪がいい」
男「またそれかよ……二人だとつまんねーよ……」
妹「むっ」
男「……分かった……んじゃ、二人大富豪な……」
19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/29(水) 22:58:36.91 ID:UYvOdlUt0
男「うぉー凄い活気だな……」
妹「日頃の鬱憤を発散させる意味での祭りだからね」
男「町内会レベルで花火なんて普通ないからな……」
妹「ほら兄さん、あっちに行こっ」
男「おいおい、初めにはしゃぎ過ぎると後でもたないぞっ」
妹「もうっ、すぐに子供扱いするんだからっ」
男「ははっ……って、うおっ引っ張るなっ」
妹「早くぅー」
男「うわぁー分かったからっ、一旦、離してっ」
20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/29(水) 23:01:10.55 ID:UYvOdlUt0
男「何だ? さっきから見てるばっかりだな」
妹「んー、それが楽しんだよ」
男「いいんだぞ、何か買っても」
妹「別にお腹好いてないし、いいよ」
男「そんなんでいいのか……」
妹「兄さんとデートしてるだけ楽しいから、ねっ」
男「……まあ、ならいいけど」
妹「ふふっ、照れちゃって」
男「うるさいっ、大人の男をからかうなっ」
妹「本当に、大人かな~っ?」
22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/29(水) 23:02:57.76 ID:UYvOdlUt0
妹「あれ……あそこにいるの……」
男「ん? 誰か見つけたか?」
妹「ほらあそこ……弓ちゃんだ……」
男「あーほんとだ」
妹「ねっ、兄さん、挨拶してこようよ」
男「俺はいいよ」
妹「ほら、恥ずかしがってないで、一緒に行くっ」
男「分かったからっ、一人で行けるからっ」
妹「手は離しませーん」
24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/29(水) 23:07:30.30 ID:UYvOdlUt0
妹「弓ちゃん、こんばんわー」
男「……ういっす」
弓「あっ……どうも」
妹「ん? 今日はもしかして一人で来たの?」
男「連れがいるなら遠慮するよ?」
弓「あっいえ、今日は一人で来たんです……」
妹「……そう、なんだ……」
男「…………」
弓「ちょっと、楽しい気分になれればいいかなって……」
妹「弓ちゃん……」
男「まだ、家庭内はうまくいってないか」
妹「兄さんっ、そういうのは……」
弓「はい、もうすぐで離婚すると思います……母はそうしたいって」
25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/29(水) 23:11:12.49 ID:UYvOdlUt0
男「まあ何かあったら、すぐに呼んでくれれば良い」
妹「そうだよっ、近くなんだから遠慮しないでっ」
弓「……すみません……」
男「……無理かもしれないけど、元気出しな」
弓「はい……出来るだけ、頑張ります」
妹「……ねぇ兄さん、この後は弓ちゃんと一緒に行動しようよ」
男「そうだな……弓ちゃん、これから時間は空いてるか?」
弓「えっ……は、はい」
男「だったら、一緒に見て回ろう」
弓「い、いいんですか?」
妹「全然オッケーだよっ! ねっ、兄さん」
男「勿論、構わない。いや、是非頼む」
弓「あ、ありがとうございます……」
26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/29(水) 23:14:49.14 ID:UYvOdlUt0
妹「……弓ちゃん、元気無かったね」
男「ああ、相当参ってるみたいだ」
妹「…………」
男「彼女が助けを求めない限り、何も出来ないからな」
妹「なんか悔しいね」
男「……俺達に出来ることは、明るく彼女に話しかけることだけだろう」
妹「うん」
男「明日も早い。もう寝ような」
妹「……兄さん」
男「ん?」
27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/29(水) 23:17:59.09 ID:UYvOdlUt0
妹「……私、重荷じゃないかな?」
男「……はっ? 何だ急に?」
妹「私、知ってるんだ」
妹「兄さんは何でも出来る、とっても凄い人なんだって」
男「おいおい、おだてても……」
妹「いいの、聞いて」
男「……妹……」
妹「小さい頃から私の自慢で……今では、だいだいだーい自慢の兄でっ」
男「…………」
28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/29(水) 23:20:44.64 ID:UYvOdlUt0
妹「兄さんは、もっと大きく羽ばたける」
男「…………」
妹「大空を自由に……どこまで、飛んでいけるんだっ」
男「……そんなことないさ」
妹「ううん、私は知ってるもん」
妹「兄さんと小さい頃から一緒にいて、ずっといて」
妹「両親が心中計ったときだって、兄さんは私のためにずっと堪えてくれた」
妹「私のために必死に頑張ってくれた」
男「…………」
妹「泣きたくて、時には苦しくて……でも、それでもって」
妹「だから、兄さん、本当にありがとう」
男「……妹……」
30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/29(水) 23:24:28.97 ID:UYvOdlUt0
妹「でもね、今の私は、兄さんの重荷」
妹「大きく羽ばたこうとして兄さんを、地面につなぎ止めてるの」
妹「だから、もう、いいんだ」
男「…………」
妹「自分がやらなきゃって時は、私のことは気にしないで」
妹「それが私のお願い」
妹「ははっ、ちょっと真面目すぎたかもね」
男「…………」
男「……分かった」
男「しっかりしないとな、今以上にな」
妹「…………」
男「隣でしっかり見てろよ……俺がどこまで行けるのかをな」
妹「うん、期待してる」
31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/29(水) 23:29:28.18 ID:UYvOdlUt0
男「今日は日曜日か」
妹「久しぶりに一日中ゆっくり出来るね」
男「こういう日は、ぐっすり昼寝でもしてるのが幸せだ」
妹「うあぁー、もう、だらけてる」
男「いいんだよ……メリハリが大事なんだから」
妹「兄さんは、いつもオフ状態なんじゃないのー?」
男「やるときはやってる……」
妹「あんまり見れないなーもう、寝ないのっ」
男「うぅー……頼む……寝かせてくれー」
妹「もう……ホント」
男「…………」
妹「……子供なんだから……ふふっ」
32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/29(水) 23:32:43.49 ID:UYvOdlUt0
男「…………」
妹「……もう寝たかな……?」
妹「…………」
妹「……兄さん……」
妹「…………」
妹「……知ってる? 寝言の話」
妹「あれはね、兄さん……」
妹「……兄さんは、いつも夜……一人で泣いてるんだ……」
妹「眠りながら涙を流して、嗚咽を漏らしてるんだ……」
妹「……辛いんだと思う……苦しんだと思う……」
33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/29(水) 23:35:24.34 ID:UYvOdlUt0
妹「……でも、本当は……」
妹「寂しいんだよ……私、分かってる……」
妹「寂しくて、寂しくて……仕方がないんだよね……」
妹「ごめんね……兄さん……本当にごめん……」
妹「……でも」
妹「私は……兄さんの重荷……」
妹「もう……大丈夫……」
妹「…………」
妹「……ふふ……良い寝顔……」
妹「……兄さん……」
妹「私ね……兄さんのことが……」
──本当に、大好きだよ
34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/29(水) 23:37:49.53 ID:UYvOdlUt0
……バンバンッ。
……バンバンッ。
男「……何だ……」
バンバンッ。
バンバンッ。
男「……おいおい、誰だ……」
男「くそっ……久しぶりに良い夢見て眠ってたのに……」
バンバンッバンバンッ。
バンバンッバンバンッ。
男「分かったよ……今、行くっ……」
男「…………」
男「あれ……妹はどこだ?」
35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/29(水) 23:40:45.49 ID:UYvOdlUt0
ガチャ。
弓「男さんっ! 助けて下さいっ!」
男「ゆ、弓ちゃん……?」
弓「お父さんが……お父さんが……っ」
男「ちょっと待って、一旦、落ち着こうね……」
弓「早くしないと……早くしないとお母さんが……」
男「…………」
男「分かった、急ごう」
弓「男さんっ?」
男「どこに行けばいい? 弓ちゃんの家か?」
37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/29(水) 23:43:50.21 ID:UYvOdlUt0
たったったったっ。
弓「お母さんが今日こそは離婚するって」
弓「それで、お父さんに離婚届を見せて話をしてたら……」
男「……どうなった」
弓「急にお父さんが激昂して……私、それで怖くなって……」
弓「逃げて来ちゃったけど……誰に助けを呼んでいいか分からなくて……」
弓「……男さんしか、頼る人がいなくて……うぅ……」
男「いい判断だよ、よく頑張った」
弓「ううぅ……ひっく……ぐす……」
男「よし、後少しだ。頑張ろうっ」
弓「は、はいっ……」
たったったったっ。
39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/29(水) 23:54:53.84 ID:UYvOdlUt0
ピーピーピー……。
男「よし着いたぞ」
弓「……はぁーはぁ……」
男「……よく頑張ったな。でも、弓ちゃんは、ここで待ってろ」
弓「えっ……」
男「俺だけが中に入るから。なっ?」
弓「……男さん……」
男「いいから任せろ、お父さんを止めてくるから」
弓「……ッ……お、お願いしますっ……」
男「うんっ」
ピーピーピーピーピーピー。
男(……しかし、警察の車がさっきから多いな……)
40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/29(水) 23:56:37.95 ID:UYvOdlUt0
ガチャ。
男(……奥で言い合っている声が聞こえるぞ……)
男「…………」
?「や、やめて……それ以上……」
?「ああああああっ」
男「……くそっ……最悪な状況かもしれない……」
男「…………」
男「よし……覚悟を決めろ……」
男「……行くぞ……」
ガチャっ!!
41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/29(水) 23:59:03.60 ID:UYvOdlUt0
母親「だ、誰っ!?」
男「大丈夫ですかっ!」
男「……えっ?」
男「な、なんだこれ……」
男(部屋中のものが壊れてる……どれだけ暴れたんだ……)
母親「お、お願い、助けてっ!」
父親「うおおおおおおおおおおおおおおっ!」
男「あ、危ないっ!」
バンッ。
父親「くうっ……」
母親「はぁはぁはぁ……」
男「今ですっ、こっちにっ!」
母親「は、はいっ」
43 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/30(木) 00:01:34.35 ID:Bpww7cOc0
男「俺の後ろに隠れてて下さい」
母親「す、すみません……助かりました……」
男「一体、何があったんですか?」
母親「……そ、それが……」
父親「……うぅ……ううう」
男「……え?」
男「……どうなってんだ……?」
父親「くっ……おおっ……おおおおお」
母親「夫が……き、急に……暴れ出して……」
男「……傷は大丈夫ですか」
母親「は、はい……かすり傷です……」
男「とりあえず、包丁は俺が預かっておきます」
母親「……はい……」
44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/30(木) 00:05:22.92 ID:e5kCZWsF0 [1/41]
男「申し訳ありませんが……」
父親「ごほっ……ほおお……おほおっ……あああっ」
男「どう見ても夫さんは正常とは思えません」
母親「……そ、そうなんです……」
男「アルコール中毒だとは知っていましたが、これはちょっと違いますね」
母親「あ、あの……あなたは……」
男「弓さんの知り合いの者です」
母親「ああ、弓は……弓は大丈夫なんですかっ……」
男「家の外で待ってます。後で、再会しましょう」
母親「うぅ……あ、ありがとう……」
男「安心するのは、まだ早いですよ。とりあえず……」
父親「がああああああああああああああああっ!!」
男「夫さんを何とかしないと……」
45 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/30(木) 00:08:36.95 ID:e5kCZWsF0 [2/41]
父親「……ぅ……ふぅ……」
男「そろそろ落ち着きましょうよ、お父さん」
父親「……ああぅ……ゆ、……」
男「……駄目だ……言葉が通じない……」
男「とにかく夫さんがあそこからどけば、リビングから出れますね」
母親「は、はい……」
男「俺が引きつけます。その隙に逃げて下さい」
母親「……えっ……あ、あなたは……」
男「先に行って待ってて下さい……俺は、夫さんをなんとかします」
母親「で、でも……」
男「行きますよっ! 一瞬が勝負ですっ!」
母親「は、はいっ」
46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/30(木) 00:12:27.59 ID:e5kCZWsF0 [3/41]
バンッ。
父親「うぅ!?」
男「今ですっ! 早くっ!」
母親「……ッ」
たたたたたた。
父親「っ!!」
男「お前の相手は俺だよっ! おらっ!」
ダンっ!
父親「くっ……ああ」
……ガチャン。
男「……何とか、間に合ったな……」
父親「……うぅ……おおあ」
男「ここからはあんたと俺だけだよ」
男「この先は……絶対通させねえ」
父親「あああああああああああああッ!!」
47 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/30(木) 00:15:52.85 ID:e5kCZWsF0 [4/41]
男「離婚がそんなに嫌か?」
父親「………うぅ……」
男「娘を傷つけて……ここまでやって……」
男「はっきり言って、あんたは終わってるよ」
父親「……ぐる……ががああ」
男「……ははっ……これじゃあ、獣と一緒だ」
男「言葉は通じないし……一体、あんたどうしちまったんだ?」
父親「がががががががあああっ!!」
ダダダダダッ。
男「……ッ」
バンッ。
父親「……ぅ……」
男「だから言ってんだろ、ここは通さねぇって」
48 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/30(木) 00:19:09.63 ID:e5kCZWsF0 [5/41]
男「……はぁ……はぁ……」
男(どれくらい経ったんだろう……)
父親「……があ……あああ」
男(これじゃあ埒があかねぇ……)
男(何とかアイツを動かねえようにしねえと……)
男「…………」
ダダダダ……。
男「ん?」
ダダダダダダダダッ。
男「何だ……この音は……」
男「……これは……足音?」
ガチャンッ!
?「動くなっ!!」
49 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/30(木) 00:23:18.08 ID:e5kCZWsF0 [6/41]
男「……な、なんで……軍人……?」
軍人「いいから動くな」
男「ちょ、ちょっと待てくれ……」
男(こいつ……拳銃を持ってやがる……)
父親「……がああ、ああああっ……」
男「……本当に獣じみてきたな……涎を垂れ流してる……」
軍人「……進行三か。早く始末しないとまずいな」
男(進行三……って、始末?)
男「待てっ! 始末って何だよっ!」
軍人「動くなと言っているのが分からんのかっ!」
ダンッ。
男「くっ……」
50 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/30(木) 00:25:43.27 ID:e5kCZWsF0 [7/41]
父親「がああああああああああああッ!!!」
軍人「一発でしとめてやる」
男「……ま、まって」
男(くそ……足で押さえつけられて動けない……)
父親「ああああああああああああああああああっ!!」
軍人「死ね、怪物」
バンバンッ!!
父親「……くはあっ……」
父親「ごほっ……こほっ……」
バタン……。
男「……う、嘘だろ……」
男「こ、殺したのか……?」
ピピッ……。
軍人「こちら制圧完了しました」
52 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/30(木) 00:28:26.17 ID:e5kCZWsF0 [8/41]
軍人「立て」
男「こ、この人殺しがっ!」
軍人「…………」
男「殺す必要は無かっただろっ! せめて病院に連れてけよっ!」
軍人「……無知であることはいいことだな」
男「な、なんだとっ!」
軍人「手遅れだよ、ほれ、死体を見てみろ」
男「……は?」
男「…………」
男「……え?」
男(……何だこれ……目ん玉が……飛び出して……)
男「……ぐうっ」
54 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/30(木) 00:30:19.09 ID:e5kCZWsF0 [9/41]
ビチャ……。
男「はぁ……はぁ……はぁ……」
軍人「吐いたか、まあ、それが普通の反応だな」
男「どういうことだ……説明……しろ……」
軍人「…………」
軍人「……この家の妻と娘を連れてこい」
男「お、おいっ!」
軍人「いいから、黙ってろ」
ガチャ。
55 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/30(木) 00:32:30.84 ID:e5kCZWsF0 [10/41]
男「奥さん……弓ちゃん……」
母親「えっ……ど、どういうこと……?」
弓「……男さん……?」
男「…………」
母親「しゅ、主人は……?」
男「……ッ」
軍人「…………」
母親「……う、嘘……嘘でしょ……」
母親「ああ……あああああ」
母親「そ、そんなああああ」
母親「ああああああああああああっ」
男「…………」
弓「……お父さん……」
56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/30(木) 00:34:51.43 ID:e5kCZWsF0 [11/41]
母親「どうして……どうして……」
母親「こんなことに……ああ……うあああ……」
弓「……うぅ……」
チャカ……。
軍人「…………」
男「……おい」
軍人「…………」
男「あんた……ふざけてんのか?」
軍人「…………」
男「何か言ったらどうだ? なあ、おい!」
軍人「…………」
男「なんで……」
男「──二人に銃口を向けてんだよっ!!」
58 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/30(木) 00:37:01.12 ID:e5kCZWsF0 [12/41]
母親「……へ?」
弓「……?」
バンッ!!
男「なっ……」
母親「……か……」
バタン……。
弓「えっ……? お、お母さんっ?」
男「……そ、そんな……」
軍人「全て制圧しろとの指示を受けている」
男「……き、貴様……」
軍人「ここにいるお前らは、全員制圧対象だ」
男「くっ」
タタタタタッ。
軍人「なっ……」
60 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/30(木) 00:39:04.15 ID:e5kCZWsF0 [13/41]
弓「……ッ」
男「弓ちゃん、我慢してくれっ!」
軍人「逃がすかっ!」
男「……くっ……」
ガシャーンッ!
軍人「………アイツ……」
軍人「……ガラスを破って、退路を作ったか……」
ピピッ。
軍人「二名を逃がした……応援をよこしてくれ」
62 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/30(木) 00:42:05.50 ID:e5kCZWsF0 [14/41]
たたたたたっ。
弓「おかあさん……おかあさん……」
男「頼むっ! 弓ちゃん、今だけは頑張るんだっ!」
弓「うぅ……ッ」
男「逃げないと……早くしないとあいつらがやってくるっ」
弓「うぅ……死んじゃったよ……男さん……」
男「……辛いと思う……でも、今は我慢するんだ……」
弓「……ぅ……ああ」
男「……スピードを上げるよっ、ついて来てっ!」
男(さて……どこに行くか……隠れるとこ……隠れられる場所……)
たたたたたっ。
63 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/30(木) 00:44:51.18 ID:e5kCZWsF0 [15/41]
──神社
男「よし……ここでひとまず休憩しよう……」
弓「…………」
男「弓ちゃん……」
弓「お、男さん……ねぇ、男さん……?」
男「うん……どうした?」
弓「私、夢を見てるんだよね……? 今、夢の中なんだよねっ?」
男「…………」
弓「お父さんも死んじゃって……お母さんも死んじゃって……」
弓「で、でも、これっ、夢の中だからっ! 夢の中だから大丈夫だよねっ!?」
男「…………」
64 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/30(木) 00:48:17.06 ID:e5kCZWsF0 [16/41]
弓「……そ、それなのに……おかしいんだ……」
男「…………」
弓「イタいの……イタいんだ……」
弓「……ほっぺた掴むと……痛い……いたいんだよぉ……」
弓「……嘘だよ……嘘だ……」
弓「夢の中だよって……お願いだからっ……男さんっ……」
男「…………」
弓「……嫌だ……嫌だよ……」
弓「私……一人に……一人ぼっちだよ……」
弓「………あああ……ああああああ」
男「……ッ」
65 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/30(木) 00:50:17.15 ID:e5kCZWsF0 [17/41]
ギュッ……。
弓「……えっ?」
男「一人じゃない……一人じゃないから」
弓「お、男さん……」
男「俺がいる……だから、お前は一人じゃない……」
弓「……うぅ……」
男「ずっと側にいるから……守ってやるから」
弓「うああ……あぁっ」
男「だから……だから、今は安心して……」
弓「ああああっ……ああっ」
男「……泣いていいんだ」
弓「あああああああああああああっ!!」
66 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/30(木) 01:43:13.63 ID:e5kCZWsF0 [18/41]
こりゃ落ちるな
68 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/30(木) 01:53:43.52 ID:e5kCZWsF0 [19/41]
>>67
ちいっすサーセンww
76 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/30(木) 05:27:14.08 ID:e5kCZWsF0 [20/41]
男「……どうだ、落ち着いたか?」
弓「……はい……何とか……」
男「…………」
男(……妹が心配だ……)
弓「……男さん?」
男「弓ちゃん……君には申し訳ないけど」
男「ここで俺の帰りを待っててくれ……」
弓「──嫌ですっ!」
男「……ッ」
弓「離れたくないですっ! もう一人は嫌っ」
男「……弓ちゃん……」
78 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/30(木) 05:29:17.93 ID:e5kCZWsF0 [21/41]
弓「男さんは言いました……ずっと側にいるって、守ってくるって」
男「ああ、そうだったな……」
弓「……お願いします……私を、側にいさせて下さい……」
男「…………」
男「弓ちゃん、今から、俺の家に行こうと思う」
弓「……えっ?」
男「ほら、妹が帰ってるかもしれないし」
男「こんな状況だと、兄としては心配なんだ」
弓「……妹さん?」
男「ん?」
79 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/30(木) 05:32:03.13 ID:e5kCZWsF0 [22/41]
弓「……男さんって、妹がいたんですか?」
男「……何言って……」
弓「だって、私、一人暮らしの人だって思ってて……」
男「いや、ちょっと待ってっ」
男(何を言ってるんだ……? 俺をからかってるのか?)
男「弓ちゃんだって、知ってるはずだろ」
弓「……え? 私、知りませんよ……」
男「俺の妹は、君の幼馴染じゃないか?」
弓「……幼馴染? 私に、そんな人はいないですけど……」
男「……は、ははっ、う、嘘は駄目だよ」
80 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/30(木) 05:34:47.02 ID:e5kCZWsF0 [23/41]
男「こんな状況だから、ちょっとからかってやろうと思ってるんだろ?」
弓「……そんなつもりは全くないです」
男「…………」
弓「私は、男さんの妹の方とは一度もお会いしたことがありません」
男「……う、嘘だ……」
弓「男さん……?」
男「そ、そんなことあるわけないじゃないかっ!」
弓「ひっ……」
男「この前だって、一緒に祭りの時に会ってるはずだっ!」
弓「……そ、そんな」
81 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/30(木) 05:37:43.15 ID:e5kCZWsF0 [24/41]
男「ほら、俺の隣にいた子だよっ! 覚えてるだろっ!?」
弓「……お、男さんは、一人でしたよ……?」
男「嘘をつくなっ!」
弓「嘘なんてついてませんっ!」
男「話しかけてきた子だよっ! 俺達の会話にきちんと……」
弓「……男さん……?」
男「そうだよ……きちんと、いたはずじゃないか……」
弓「一体……どうしちゃったんですか……?」
男「今日だって、一緒に喋った……いつも側にいたんだ……」
男「ずっと、あの日から、片時も離れたことはなくて……」
男「身体は他の人より弱いけど、とってもいい子で……」
男「……いないはずが……そんなわけが……」
82 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/30(木) 05:43:09.96 ID:e5kCZWsF0 [25/41]
弓「……男さん……」
男「俺には一人妹がいるはずなんだ……」
男「両親が死んで、それからずっと一緒に生きてきた妹が……」
男「弓ちゃん……頼むから、ホントのことを言ってくれ」
弓「…………」
男「この前の祭りの時、君は会ってるよね……?」
弓「…………」
弓「……す、すみません……」
男「……ッ」
男(嘘だ……そんなことあるわけがないじゃないか……)
男(だって……あの時、一緒に……)
男(思い出せ、思い出すんだ……)
83 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/30(木) 05:45:39.70 ID:e5kCZWsF0 [26/41]
妹『あれ……あそこにいるの……』
男『ん? 誰か見つけたか?』
妹『ほらあそこ……弓ちゃんだ……』
男『あーほんとだ』
妹『ねっ、兄さん、挨拶してこようよ』
男『俺はいいよ』
妹『ほら、恥ずかしがってないで、一緒に行くっ』
男『分かったからっ、一人で行けるからっ』
妹『手は離しませーん』
妹『弓ちゃん、こんばんわー』
男『……ういっす』
弓『あっ……どうも』
84 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/30(木) 05:48:49.95 ID:e5kCZWsF0 [27/41]
男「やっぱり、いる……俺の記憶では……きちんと」
男「よく、思い出してくれ‥‥頼む……」
弓「…………」
弓「……何がどうなってるか分かりませんけど……」
弓「確かにあの時、男さんは一人でしたよ?」
男「違う……違うだろ……隣に……」
弓「私が一人で歩いてるところを、声をかけてくれたんです」
男「いや……だから、その時……」
弓「それで色々話して、その後、誘って頂いて……」
男「……ああ……」
弓「男さん……あなたも、覚えてるでしょ?」
男「…………」
85 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/30(木) 05:50:43.75 ID:e5kCZWsF0 [28/41]
男『……ういっす』
弓『あっ……どうも』
男『連れがいるなら遠慮するよ?』
弓『あっいえ、今日は一人で来たんです……』
男『…………』
弓『ちょっと、楽しい気分になれればいいかなって……』
男『まだ、家庭内はうまくいってないか』
弓『はい、もうすぐで離婚すると思います……母はそうしたいって』
86 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/30(木) 05:52:03.19 ID:e5kCZWsF0 [29/41]
男『まあ何かあったら、すぐに呼んでくれれば良い』
弓『……すみません……』
男『……無理かもしれないけど、元気出しな』
弓『はい……出来るだけ、頑張ります』
男『そうだな……弓ちゃん、これから時間は空いてるか?』
弓『えっ……は、はい』
男『だったら、一緒に見て回ろう』
弓『い、いいんですか?』
男『勿論、構わない。いや、是非頼む』
弓『あ、ありがとうございます……』
87 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/30(木) 05:53:29.91 ID:e5kCZWsF0 [30/41]
男「……は、はは……」
男「……いない……どこにもいない……」
弓「…………」
男「……そんな、馬鹿な……」
男「嘘だ……嘘だと言ってくれよ……」
男「ああ……あああ……」
男「うわああ……ああああああっ」
男「………ッ」
たたたたたっ……。
弓「お、男さんっ!?」
88 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/30(木) 05:56:29.14 ID:e5kCZWsF0 [31/41]
たたたたたっ。
男(俺の隣にいた……)
男(優しくて、いつも俺を励ましてくれて……)
男(最近、みるみる料理が上手くなって……)
男(……あの家に……あいつはいるっ……)
男(どんなときだって、俺の帰りを待っててくれたじゃないかっ)
男(だから、今日も……笑顔で俺を迎えてくれるはずなんだっ……)
男「……はぁ……はぁ……」
男「……着いた」
男(……妹……俺の、大事な……人……)
ガチャ……。
男「…………」
89 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/30(木) 05:59:51.22 ID:e5kCZWsF0 [32/41]
弓「‥‥はぁ……はぁ……」
弓「やっと着いた……」
弓「男さん……もう、入ってるのかな……」
弓「……鍵、かかってないよね……?」
……ガチャ。
弓「……お邪魔します……」
弓「男さん……? どこ?」
トコトコトコ……。
弓「……えっ」
弓「……何これ……」
弓「……ここに……男さんは住んでたの……?」
弓「…………」
弓「……こんな……」
弓「物が……殆どない殺風景な部屋……」
90 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/30(木) 06:02:01.74 ID:e5kCZWsF0 [33/41]
弓「……男さん……?」
男「…………」
弓「どうしちゃったんですか……?」
男「……は、はは……」
弓「……この部屋……」
男「……そうだ、そうだよ……」
弓「えっ?」
男「俺は、こんな部屋で一人暮らしてたんだ……」
弓「男さん……?」
男「……いない」
男「初めから……いなかったんだ……」
男「……だって」
──アイツは……十年前に死んでるんだから
91 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/30(木) 06:07:09.82 ID:e5kCZWsF0 [34/41]
警察『……残念だよ』
男『…………』
警察『君はまだこんなに幼いのにね……』
男『ねぇ……父さんは? 母さんは?』
警察『……そこにいるよ』
男『これが、父さんだっていうの? 母さんだって?』
警察『…………』
92 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/30(木) 06:08:02.97 ID:e5kCZWsF0 [35/41]
男『お巡りさん、嘘つきだよ……こんな冷たい身体じゃなかった……』
男『もっと、二人とも温かくて……』
警察『……死んでしまったんだよ』
男『……い、妹も……?』
警察『…………』
男『この横になってるのが……僕の妹……?』
警察『…………』
男『そ、そんな……嘘だよ……間違ってるよ……』
男『なんで……なんで僕だけ……』
警察『……っ』
男『──僕だけ、生きてるんだよぉぉっ!!』
93 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/30(木) 06:13:00.52 ID:e5kCZWsF0 [36/41]
男「……一家心中だったんだ」
弓「え……?」
男「父親の借金が膨らんでね、もう返せないところまで来てた」
男「毎日、取り立ての男たちに怯えて……そんな日々だった……」
弓「……そ、そんな……」
男「だから、両親は死ぬことを選んだ」
男「家族全員で、冬の海に身体を投げようって……」
男「まだ訳もわからない妹の手を握って……でも、俺はきちんと理解してた」
男「冷たい水に身体が投げ出された時、こうやって死ぬんだって」
男「そう覚悟して……でも、最後に見てしまったのが」
男「……まだ泳げない妹の……苦しむ横顔だった……」
弓「…………」
男「気が付いたら、病院のベットだ。馬鹿みたいに俺だけが生き残った」
95 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/30(木) 06:17:11.58 ID:e5kCZWsF0 [37/41]
男「……は、ははっ、滑稽だよな……」
男「寂しさに負けて……妹の虚像を作り出してたなんて……」
弓「…………」
男「分からない……もう、俺には分からない……」
男「確かに、俺の頭には……アイツがいたんだ……」
男「でも実際は、妹はとっくに死んでいて……」
男「何が正しくて間違ってるのか……もう、俺には判断できない……」
弓「……男さん」
男「ごめん……悪いけど、俺は付き合えそうもない……」
弓「そんなこと言わないで下さい……」
男「……生きる意味を、失ったんだ……」
男「これ以上無駄に生きて……意味が見つかるなんて思えない……」
96 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/30(木) 06:19:36.86 ID:e5kCZWsF0 [38/41]
弓「……うぅ……でも私、男さんしか頼る人がいないです……」
男「……ごめん、本当にごめんな」
弓「……ああ……そんな……」
男「…………」
弓「…………」
弓「わ、わかりました……」
男「……っ」
弓「……私、これで失礼しますね……」
トコトコトコ……。
弓「……男さん、ありがとう」
弓「そして……さよなら、です……」
ガチャ……。
男「…………」
97 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/30(木) 06:28:33.32 ID:e5kCZWsF0 [39/41]
数年後、男は旅に出た。
それが伝説の始まりであることを
今は誰も知らない。
-完-
103 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/30(木) 07:55:46.75 ID:e5kCZWsF0 [40/41]
【いらない解説】
話に出てくる妹は男が作り出した想像の人物
本当の妹は十年前に両親とともに死亡
始めのくだりは、全て男の想像の世界
弓の父親が異常になったのは、とある事情による
後半の展開のために用意しておいたんだけど、
ちょっとまとめられる気配がなかったので、打ち切りエンドにした
ここまで読んでくれてありがとねっ!
保守、支援してくれた人、みんな大好きっ!
ヤッフーっ!!
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