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朋也「軽音部? うんたん?」-4

朋也「軽音部? うんたん?」-3
の続きです

299 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/25(土) 16:21:51.00 ID:cUBlBpOS0
………。

―――――――――――――――――――――

つん つん

頬に感触。

声「起きて~、岡崎くん」

続いて、すぐそばで声がした。
目を開ける。

唯「おはよ~」

…近い。すごく。
ちょっと前に顔を出せば唇が触れそうな距離。
俺は多少動揺しつつも、身を起こして顔を離した。

唯「もう授業終わったよ」

朋也「あ、ああ…」

4時間目…そう、俺は途中で眠ってしまったんだ。
担当の教師が、寝ようが内職しようが、なにも言わない奴だったから、気が緩んで。
教師としてはグレーゾーンな奴なんだろうけど、生徒にとってはありがたい存在だった。

唯「よく寝てたね」

朋也「ああ、まぁな」

300 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/25(土) 16:22:59.60 ID:1qYNd8dxO
朋也「ん…」

伸びをして体をほぐす。

唯「寝顔かわいいんだね」

突っ伏していたはずだが…無意識に頭の位置を心地いいほうに変えていってしまったのだろう。
それで、こいつに寝顔をさらしてしまっていたのだ。

朋也「勝手にみるな」

唯「え~、無理だよ。どうしてもみちゃう」

朋也「授業に集中しろ」

唯「それ、岡崎くんが言っても全く説得力ないよ…」

春原「岡崎~。飯」

そこへ、春原がだるそうにやってくる。

朋也「動詞を言え、動詞を」

春原「あん? んなもん、僕たちの仲なら、なくても通じるだろ?」

朋也「わかんねぇよ。飯みたいになりたい、かと思ったぞ」

春原「なんでそんなもんになりたがってんだよっ、食われてるだろっ!」

朋也「いや、残飯だから大丈夫だろ」

301 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/25(土) 16:23:16.64 ID:cUBlBpOS0
春原「廃棄っすか!? 余計嫌だよっ」

朋也「じゃあ、ちゃんと伝わるように今度から英雄風にいえ」

春原「ひでお? 誰だよ」

朋也「えいゆう、だ」

春原「英雄ねぇ…そんなんでほんとに伝わんのかよ」

朋也「ああ、ばっちりだ」

春原「わかったよ、なら、やってやるよ…」

春原「じゃ、もういこうぜ」

朋也「ああ」

立ち上がる。

唯「あ、待ってっ。今日は学食だよね? だったらさ、一緒に食べない?」

春原「またあの時のメンバー?」

唯「うん」

春原「まぁ、別にいいけど…」

唯「岡崎くんは?」

302 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/25(土) 16:24:33.84 ID:1qYNd8dxO
朋也「俺も、別に」

唯「よかったぁ」

うれしがるほどのことでもないような気もするが…。
賑やかなのが好きなんだろう、こいつは。

唯「じゃ、みんなに言ってくるね」

朋也「俺たちは先いって席取っとくぞ」

唯「うん、よろしくね。それじゃ、またあとで!」

―――――――――――――――――――――

無事席の確保ができ、平沢たちも合流した。

唯「やっほ」

律「おう、ご苦労さん」

春原「あん? おまえ、なに普通に座ってんだよ」

春原「おまえの席はあっちに確保してるから、移れよ」

春原が指さすゾーン。ダストボックスの目の前だった。
なんとなく不衛生な気がして、みんな避けている場所だ。
実際、そんなことはないのだろうけど、気分の問題だった。

律「あんたが行けよ。背景にしっくりくるだろ」

303 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/25(土) 16:24:53.91 ID:cUBlBpOS0
春原「ははっ、おまえの自然に溶け込みそうな感じには負けるさ」

律「おほほ、そんなことないですわよ。あなたなんて背景と判別がつきませんもの」

春原「………」
 律「………」

無言でにらみ合う。

唯「あわ…ふ、ふたりとも、やめようよ…」

澪「律…なんでそう、すぐいがみ合おうとするんだ?」

律「えぇっ? 今のはあっちが先だったじゃんっ!」

春原「けっ…」

紬「春原くん…仲良くしましょ?」

春原「ムギちゃんとなら、喜んでするけどね」

律「ムギはいやだってよ」

春原「んなことねぇよっ! ね、ムギちゃん?」

紬「えっと…ごめんなさい、距離感ブレてると思うの」

春原「ただの他人でいたいんすか!?」

律「わははは!」

305 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/25(土) 16:26:04.11 ID:1qYNd8dxO
久しぶりだが、この流れも変わらないようだった。

―――――――――――――――――――――

唯「そういえばさぁ、選挙っていつだったっけ?」

和「今週の金曜日ね」

唯「じゃ、もうすぐだねっ」

和「そうね」

律「絶対和に投票するからな」

紬「私も」

澪「私だって」

唯「私も~」

和「ありがとう、みんな」

春原「なに? CDでも出してるの?」

和「…どういうこと?」

春原「ほら、CD買ったらさ、その中に投票券が入ってるっていうあれだよ」

和「某アイドルグループの総選挙じゃないんだけど…」

306 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/25(土) 16:26:22.29 ID:cUBlBpOS0
律「んなお約束ネタいらねぇって」

春原「ふん、言ってみただけだよ」

和「あ、そうだ。話は変わるんだけど、あなたたち、最近奉仕活動してるんですってね」

朋也「やらされてるんだよ。今までの遅刻を少し大目にみてくれるって話だからな」

和「そういう裏があるってことも、一応聞いてるわ」

唯「和ちゃん、なんか情報いっぱい持ってるよね」

和「そうでもないわよ」

律「この学校の重要機密とか、校長の弱みとかも握ってるんじゃないのか?」

和「何者よ、私は…っていうか、機密なんてそんなドス黒いものあるわけないでしょ」

律「てへっ」

春原「かわいくねぇよ」

律「るせっ」

和「まぁ、それで、昨日もあなたが書類整理してくれたって聞いたの」

春原「ああ、あれね」

和「けっこう大変だったでしょ」

308 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/25(土) 16:27:30.44 ID:1qYNd8dxO
春原「まぁね」

和「あれ、私が選挙管理委員会に提出するものだったのよ」

和「それで、期限が昨日までだったんだけど、整理が終わってなくてね」

和「すぐにやらなきゃいけなかったんだけど、どうしても外せない用事ができちゃって…」

和「でも、先生から、代打であなたにやってもらうから大丈夫だって、そう背を押してもらったの」

和「本当に助かったわ。遅れたけど、この場を借りてお礼を言うわね」

和「ありがとう」

春原「う~ん…言葉だけじゃ足りないねぇ」

朋也「気をつけろ、こいつ、体を要求してくるつもりだぞ」

春原「んなことしねぇよっ!」

唯「………」
紬「………」
澪「………」
和「………」
律「…引くわ」

春原「は…」

春原「岡崎、てめぇ!」

309 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/25(土) 16:28:03.09 ID:cUBlBpOS0
―――――――――――――――――――――

………。

―――――――――――――――――――――

放課後。
俺と春原はまたさわ子さんに呼び出され、空き教室にいた。

さわ子「今日からは、真鍋さんの手伝いをしてもらうわ」

春原「誰?」

さわ子「あんたたち、親しいんじゃないの?」

春原「いや、だから、そいつ自体知らないんだけど…」

さわ子「真鍋和さんよ。同じクラスでしょうに」

春原「真鍋和…?」

朋也「昼に一緒に飯食ったあのメガネの奴だろ」

春原「ああ…でも、そんな名前だったっけ?」

朋也「前にフルネーム聞いただろ」

春原「そうだっけ。忘れちゃったよ」

さわ子「向こうからのオファーだったから、てっきり親しいんだと思ってたのに」

310 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/25(土) 16:29:18.27 ID:1qYNd8dxO
朋也「そんな親しいってほどでもねぇよ…つーか、オファー?」

それは、俺たちをわざわざ指名してきたということだ。
どういう意図なのか全く読めない。

さわ子「ええ。まぁ、詳しいことは本人から聞いてちょうだい」

―――――――――――――――――――――

さわ子さんに言われ、生徒会室に向かった。
聞けば、通常、役員が決まるまで使われることはないそうだ。
新生徒会が始動して、初めて活用されるらしい。

春原「なんでこんなとこにいるんだろうね」

朋也「さぁな」

がらり

戸を開け、中に入った。

―――――――――――――――――――――

声「遅かったわね」

教室の奥、一番大きい背もたれつきのイスがこちらに背を向けていた。
そこから声がする。
くるり、と回転し、こちらを向いた。

和「さ、掛けて」

311 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/25(土) 16:29:43.39 ID:cUBlBpOS0
朋也「あ、ああ…」

春原「………」

異様な気配を感じながらも、近くにあった椅子に腰掛ける。

和「先生から話は聞いてると思うけど、私の手伝いをしてもらうわ」

しん、とした部屋に声が響き、次第に消えていった。
…なんだ、この緊張感。

朋也「…ひとつ訊いていいか」

和「なに?」

朋也「なんで俺たちなんだ」

和「それはね…二つ理由があるわ」

立ち上がり、ゆっくりと歩き出す。

和「ひとつは、私の、一年から地道に作り上げてきた政党から人が離れたこと」

こちらに近づいてくる。

和「ふたつめは…」

ぽん、と俺と春原の肩に手を置く。

和「…あななたちが悪(あく)だからよ」

313 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/25(土) 16:30:54.40 ID:1qYNd8dxO
顔を見合わせる。
大丈夫か、こいつ…と目で訴えあっていた。

和「いい? 政治は綺麗事だけじゃ動かないの」

言いながら、離れて歩き出した。

和「時には汚いことだってしなきゃいけない…理想を貫くとはそういうことよ」

春原「あー…あのさ、そういう遊びがしたいんだったら、友達とやってくんない?」

和「遊び? 私がやっていることが遊びだって言いたいの?」

春原「ああ、なんか、キャラ作って遊びたいんだろ? 僕たち、そんなの…」

和「トイレットペーパー泥棒事件」

びくり、と春原が反応する。

和「二年生のとき、あったわよね」

春原「………」

確かにあった。
男子トイレのストック分が丸々なくなっていたとか、そんなセコい事件だった。

和「あれね、現場を見ていた人間がいたの」

和「いや…正確には押さえていた、かしら」

314 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/25(土) 16:31:19.34 ID:cUBlBpOS0
窓に寄って行き、外を見る。

和「写真部の子がね、外で撮影していたんですって」

和「それで、校舎が写った写真も何枚かあったの」

和「その中にね…あったのよ」

ごくり、とツバを飲み込む春原。

和「金髪が、トイレットペーパーのようなものを抱えている姿が」

…おまえが犯人だったのか。

和「私はそのネガを買い取って、その子の口封じもしたわ」

春原「な…なんで…」

和「いつかなにかあった時、取引の材料になるんじゃないかと思ってね」

どんぴしゃでなっていた。

春原「う…嘘だろ…」

和「遊びじゃないって、わかってくれたかしら?」

春原「うぐ…は、はい…」

和「でもね、だからこそリスクが高いのよ」

315 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/25(土) 16:32:36.90 ID:1qYNd8dxO
和「こんなことをしていると、こっちだって、ひとつミスれば即失脚してしまう」

和「ぎりぎりのところでやっているの」

和「だから、今になって保守派に鞍替えした人間も出てきてしまったのだけどね」

和「そこで、あなたたちの出番というわけよ」

朋也「善人を懐柔するより、最初から悪人を使ったほうが早いってことか」

和「そういうことね。なかなか物分りが早いわね」

和「知ってる? あなたは今日、本来なら奉仕活動は免除されていたの」

朋也「遅刻しなかったから…だろ?」

なんとなく、俺もそれっぽく言っていしまう。

和「ええ。でも、無理いって呼んでおいて正解だったわ」

和「春原くんだけじゃ、少し不安を感じるから」

春原は、その独特の小物臭を嗅ぎ取られていた。

朋也「それで、俺たちはなにをすればいいんだ」

暗殺か、ゆすりか、ライバルのスキャンダルリークか…
内心、ちょっとドキドキし始めていた。

和「まずはこの選挙ポスターを校内の目立つ場所に貼ってきてくれる?」

316 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/25(土) 16:32:58.41 ID:cUBlBpOS0
そう言うと、どこからかポスターの束を取り出し、机の上に置いた。
案外普通のことをするようだ。

和「それが終わったら一旦戻ってきてね」

朋也「ああ、了解」

―――――――――――――――――――――

春原「なぁ、岡崎。僕たち、ヤバイのと絡んじゃってるんじゃない?」

朋也「かもな…でも、なんかおもしろそうじゃん」

春原「おまえ、ほんとこわいもの知らずだよね…」

朋也「おまえほどじゃねぇよ、コソ泥」

春原「コソ泥いうなっ!」

朋也「大丈夫だって、事件はもう風化してるんだしさ」

朋也「そのワードからおまえにつながることなんてねぇよ」

春原「そういうの関係なしに嫌なんですけどっ!」

―――――――――――――――――――――

掲示板、壁、下駄箱…はてはトイレにまで貼った。
今は外に出て、校門に貼りつけている。

318 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/25(土) 16:34:04.79 ID:1qYNd8dxO
朋也「もういいよな。戻るか」

春原「ちょっとまって。ついでに貼っておきたいとこあるから」

朋也「あん? どこだよ」

春原「おまえもくる?」

朋也「まぁ、一応…」

春原「じゃ、いこうぜ」

―――――――――――――――――――――

やってきたのは、ラグビー部の部室。
今は練習で出払っていて無人だ。
春原は得意満面でその扉に貼り付けていた。
どうやらいやがらせがしたかっただけらしい。

春原「よし、帰ろうぜ」

朋也「いいのか、んなことして」

春原「大丈夫だって」

声「なにが、大丈夫だって?」

春原「ひぃっ」

ラグビー部員「てめぇ…」

320 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/25(土) 16:34:26.30 ID:cUBlBpOS0
振り向くと、ラグビー部員がご立腹な様子で立っていた。

ラグビー部員「春原、おまえ、今部室になに…」

ポスターを見て、止まる。

ラグビー部員「真鍋…和…」

少し腰が引けていた。

ラグビー部員「おまえら、あの人の使いか…?」

朋也「ああ、そうだけど…」

ラグビー部員「そ、そうか、がんばれよ…」

それだけを言い残し、運動場の方に引き返していった。

春原「…ほんと、なに者だよ、あの子」

朋也「…さぁな」

―――――――――――――――――――――

春原「ただいま帰りましたぁ…」

中に入ると、真鍋は携帯を片手に、誰かと話し込んでいた。

和「…ええ、そうね。いや、あの件はもう処理したわ。ええ、じゃ、あとはよろしく」


321 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/25(土) 16:37:12.74 ID:1qYNd8dxO
ぴっ、と電源を切り、こちらを向く。

和「ご苦労様」

春原「いえいえ…和さんもお疲れさまっす」

完全に媚びまくっていた。

和「今日のところはこれだけでいいわ」

春原「そっすか。じゃ、お疲れさまっした」

足早に去っていこうとする。

和「まって、まだ伝えておきたいことがあるから」

春原「…なんでしょう?」

和「ここでのことは絶対に口外しないこと」

和「指示はここで出すから、この場以外でその内容を口に出さないこと。質問、意見も一切禁止」

和「私たちは普段どおりに接すること」

和「以上のことを守ってほしいの」

春原「わかりましたっ! 死守するっす!」

必死すぎだった。


322 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/25(土) 16:37:45.21 ID:cUBlBpOS0
和「それから、岡崎くん。あなた、配布係だったわよね」

朋也「ああ」

和「じゃ、明日、これをそれとなく配ってほしいんだけど」

俺に三枚の封筒を渡してきた。
それぞれに名前が書いてある。

朋也「これは…?」

和「それは、うちのクラスの各派閥の中心人物に宛てたものよ」

和「そこにある内容を飲ませれば、今度の選挙で結構な規模の組織票が得られるわ」

和「直接交渉は危険だからね…そういう形にしたの。頼んだわよ、岡崎くん」


325 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/25(土) 16:38:47.99 ID:1qYNd8dxO
朋也「でも、形として残ったほうが危険なんじゃないのか」

和「大丈夫。私が書いたものだってわからないから」

朋也「それなのに、おまえに入るのか」

和「ええ。いろんな利権が複雑に絡んでいるからね。結果的に私に入るわ」

そんな勢力図がうちのクラスにうずまいていたとは…。
…というか、ドロドロとしすぎてないか?

和「これが可能になったのは、岡崎くんが配布係であったことと、私との接点が薄いことが決め手ね」

和「感謝してるわ」

いい手駒が手に入って…と続くんだろうな、きっと。

―――――――――

326 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/25(土) 16:39:31.79 ID:cUBlBpOS0
4/14 水

朋也「…おはよ」

唯「おはよ~」

落ち合って、並んで歩き出す。

朋也「…ふぁ」

大きくあくび。

唯「今日も眠そうだね」

朋也「ああ、まぁな」

唯「やっぱり、授業中寝ちゃうの?」

朋也「そうなるだろうな」

唯「じゃ、またこっちむいて寝てね」

朋也「いやだ」

唯「いいじゃん、けち」

朋也「じゃあ、呼吸が苦しくなって、息継ぎするときに一瞬だけな」

唯「そんな極限状態の苦しそうな顔むけないでよ…」

328 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/25(土) 16:40:43.96 ID:1qYNd8dxO
―――――――――――――――――――――

坂を上る。周りには俺たちと同じように、喋りながら登校する生徒の姿がまばらにあった。
その中に混じって歩くのは、まだ少し慣れない。
いつか、この違和感がなくなる日が来るんだろうか…こいつと一緒にいるうちに。

唯「ねぇ、今日も一緒にお昼食べない?」

朋也「いいけど」

唯「っていうかさ、もう、ずっとそうしようよっ」

朋也「ずっとはな…気が向いた時だけだよ」

唯「ぶぅ、ずっとだよっ」

朋也「ああ、じゃ、がんばれよ」

唯「流さないでよっ、もう…」

唯「あ…」

坂を上りきり、校門までやってくる。

唯「和ちゃんのポスターだ」

昨日俺たちが貼った物だった。

唯「もう、明後日だもんね。和ちゃん、当選するといいなぁ」

329 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/25(土) 16:42:29.44 ID:1qYNd8dxO
あいつの政治力なら容易そうだった。
にしても…

朋也(清く正しく、ねぇ…)

ポスターに書かれた文字を見て、なにかもやもやとしたものを感じた。
学校は社会の縮図、とはよくいったものだが…なにもここまでリアルじゃなくてもいいのでは…。

―――――――――――――――――――――

………。

―――――――――――――――――――――

昼。

春原「がははは! 岡崎、昼飯にするぞ」

いきなり春原が腰に手を当て、ふんぞり返りながら現れた。

朋也「…はぁ?」

春原「春原アターーーーーーーーーーーーック!」

びし

朋也「ってぇな、こらっ!」

春原「はぁ? ではない! 飯だと言っているだろ! バカなのか?」

330 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/25(土) 16:42:57.68 ID:cUBlBpOS0
バカにバカっていわれた…。

春原「がはははは! 世界中の美女は俺様のもの!」

完全に自分を見失っていた。

朋也「…春原、もうわかった。もういいんだ。休め」

春原「あん?」

朋也「なにがあったかは知らないけど、もういいんだ」

朋也「がんばらなくていい…休め…」

春原「なんで哀れんでんだよっ!」

朋也「春だからか。季節柄、そんな奴になっちまったのか…」

春原「お、おい、ちょっと待て、おまえが昨日、英雄風に言えって言ったんだろ!?」

朋也「え?」

春原「え? じゃねぇよっ! 思い出せっ!」

そういえば、そんなことを言った気もする。

朋也「じゃ、なにか、今のが英雄?」

春原「そうだよっ。ラ○スだよっ」


331 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/25(土) 16:44:17.06 ID:1qYNd8dxO
朋也「ああ、ラン○ね。まぁ、確かに英雄だけど」

春原「だろ?」

朋也「でも、おまえの器じゃないからな、あの人は」

朋也「再現できずに、ただのかわいそうな人になってたぞ」

春原「再現度は関係ないだろっ!」

春原「くそぅ、おまえの言った通りにしてやったのに…」

朋也「悪かったな。じゃ、次は中学二年生のように誘ってくれ」

春原「ほんっとうにそれで伝わるんだろうなっ」

朋也「ああ、ばっちりだ」

春原「わかったよ、やってやるよ…」

朋也「それと、今日も平沢たち、学食来るんだってさ」

春原「そっすか…別になんでもいいよ…」

―――――――――――――――――――――

7人でテーブルの一角を占め、食事を始める。

春原「ムギちゃんの弁当ってさ、気品あるよね」

332 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/25(土) 16:44:40.15 ID:cUBlBpOS0
紬「そうかな?」

春原「うん。やっぱ、召使いの料理人が作ってたりするの?」

紬「そんなんじゃないよ。自分で作ってるの」

春原「マジ? すげぇなぁ、ムギちゃんは」

紬「ふふ、ありがとう」

唯「澪ちゃんのお弁当は、可愛い系だよね」

澪「そ、そうか?」

唯「うん。ご飯に海苔でクマ描いてあるし」

律「りんごは絶対うさぎにしてあるしな」

紬「澪ちゃんらしくて可愛いわぁ」

澪「あ、ありがとう…そ、そうだ、唯のは、憂ちゃん作なんだよな」

唯「うん、そうだよ」

澪「なんか、愛情こもってる感じだよな、いつも」

唯「たっぷりこもってるよ~。それで、すっごくおいしいんだぁ」

澪「でも、姉なんだから、たまには妹に作ってあげるくらいしてあげればいいのに」

335 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/25(土) 16:46:14.60 ID:1qYNd8dxO
唯「えへっ、無理っ」

澪「唯はこれだからな…憂ちゃんの苦労が目に浮かぶよ…」

律「和のは、なんか、全て計算ずくって感じだよなぁ」

和「そう?」

律「ああ。カロリー計算とかしてそうな。ここの区画はこれ、こっちはあれ、って感じでさぁ」

唯「仕切りがすごく多いよね」

春原「さすが、和さん」

唯「和さん?」
律「和さん?」

春原「あ、いや…」

春原に注目が集まる。

和「………」

真鍋の強烈な視線が春原に突き刺さっている。
普段通りに接すること…その鉄則を破っているからだ。

春原「ひぃっ」

春原「…真鍋も、やるじゃん」

336 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/25(土) 16:46:44.99 ID:cUBlBpOS0
冷や汗をかきながら、必死に取り繕っていた。

春原「あそ、そうだ、部長、おまえのはどんなんだよ」

律「私? 私のは…」

春原「ああ、ノリ弁ね」

律「まだなにも言ってないだろっ」

春原「言わなくてもわかるよ。おまえ、歯に海苔つけたまま、がははって笑いそうだし」

律「なんだと、こらっ! そんなことしねぇっつの!」

律「おまえなんか、弁当で例えると、あの緑色の食べられない草のくせにっ!」

朋也「それは言いすぎだ」

春原「岡崎、おまえ…」

律「な、なんだよ、男同士かばいあっちゃって…」

朋也「フタの裏についてて、開けたらこぼれてくる水滴ぐらいはあるだろ」

春原「追い討ちかけやがったよ、こいつっ!」

律「わははは!」

―――――――――――――――――――――

337 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/25(土) 16:48:09.96 ID:1qYNd8dxO
………。

―――――――――――――――――――――

放課後。無人の生徒会室へ。
周囲を警戒して、真鍋とは別ルートで向かった。
そして、席につき、会議が始まる。

和「岡崎くん、ちゃんと渡してくれた?」

朋也「ああ」

和「そう。ご苦労様」

渡した時、なにも不審がられなかったのが逆に不気味だった。
みな、手馴れた様子でさっと机の中に隠していた。
こういうことが日常的に起きているんだろうか…。

和「今日は届けものをして欲しいんだけど」

机の上には、封筒から小包まで、大小様々な包みが並べられていた。

和「それぞれにクラス、氏名…この時間いるであろう場所、等が書いてあるから」

朋也「わかった。どれからいってもいいのか」

和「ええ、どうぞ」

とりあえず、軽めのものからかき集めていく。
なぜか春原は小包を見て、そわそわし始めていた。

338 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/25(土) 16:48:35.05 ID:cUBlBpOS0
和「それから、中は絶対に見ないでね」

下手な好奇心は身を滅ぼす、と今の一言に集約されていた。

春原「う、は、はいっ」

歯切れの悪い返事。
こいつは中身を覗いてみるつもりだったに違いない。

―――――――――――――――――――――

春原「なぁ、岡崎…これって、俗に言う運び屋なんじゃ…」

朋也「だろうな」

男子生徒1「ファッキューメーン!」

男子生徒2「イェーマザファカッ!」

いきなりニット帽をかぶった二人組が俺たちの前に立ちはだかった。

春原「なに、こいつら」

男子生徒1「おまえら、真鍋和の兵隊だろ、オーケー?」

男子生徒2「そのブツ、ヒアにおいてけ、ヨーメーン?」

中途半端すぎる英語だった。

春原「ああ? うっぜぇよっ、やんのか、らぁっ!」

339 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/25(土) 16:49:56.37 ID:1qYNd8dxO
男子生徒1「…怖いメーン。帰りたいYO」

男子生徒2「俺もだYO」

男子生徒1「じゃ、帰ろっか」

男子生徒2「うん」

最後は素に戻り、立ち去っていった。

春原「マジでなんなの」

朋也「さぁ…」

―――――――――――――――――――――

朋也「えーと…二年B組か」

封筒を確認し、教室を覗く。
適当な奴を捕まえて、記載された名前の人物を呼んでもらった。

男子生徒「なんすか」

いかにもな、チャラい男だった。

朋也「これ」

封筒を渡す。

男子生徒「あい?」

340 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/25(土) 16:50:17.26 ID:cUBlBpOS0
受け取ると、少し開けて中を確認した。

男子生徒「ああ…そういうこと」

次に俺たちを見て、何かを納得したようだった。

男子生徒「30…いや、50はかたいって伝えてといてください」

朋也「わかった」

男子生徒「それじゃ」

一度片手を上げ、たむろしていた連中の輪の中に戻っていった。

春原「なにが入ってたんだろうね…」

朋也「俺たちの知らなくていいことなんだろうな」

きっと、高度な政治的駆け引きが行われたのだ…。

―――――――――――――――――――――

女子生徒「あの…なんでしょう」

やってきたのは図書室。
カウンターの女の子へ届けることになっていた。

春原「ほら、これ。配達にきたんだよ」

小包を渡す。

341 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/25(土) 16:51:32.66 ID:1qYNd8dxO
女子生徒「はぁ…」

よくわかっていない様子だ。
開封していく。

女子生徒「………」

みるみる顔が青ざめていく。
そして、俺たちに謝罪の言葉を伝えて欲しいと、そう言って、そのまま意気消沈してしまった。

―――――――――――――――――――――

春原「…中身、みなくてよかったのかな、やっぱ」

やはりなにが入っているか気になっていたようだ。

朋也「だろうな」

もし見ていれば、次はこいつのもとに小包が届くことになっていたのだろう。

―――――――――――――――――――――

手持ちも全てなくなり、一度生徒会室に戻ってくる。

春原「和さん、なんか、途中変な奴らに絡まれたんすけど。僕たちが和さんの兵隊だとかいって」

和「それで、どうしたの」

春原「蹴散らしてやりましたよっ」

342 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/25(土) 16:52:48.79 ID:1qYNd8dxO
和「それでいいわ。よくやってくれたわね」

春原「へへ、楽勝っす」

和「その人たちは私の政敵が雇った刺客ね」

朋也「刺客?」

和「ええ。私と似たようなことをしている輩もいるのよ」

和「でも、ま、雇えたとしても、その働きには期待できないでしょうけどね」

和「正規運動部を雇うのは、あとあと面倒だろうし…」

和「一般生徒や、途中で部を辞めてしまった生徒じゃ力不足になるわ」

和「なぜなら…」

すっ、とメガネを上げる。

和「スポーツ推薦でこの学校に入ってこられるほどの身体ポテンシャルを持ち…」

和「なおかつ、喧嘩慣れしたあなたたちには、到底適わないでしょうから」

こいつ…俺たちのプロフィールも事前にしっかり調べていたのか…。

春原「ふ…そうっすよ。僕たち、この学校最強のコンビっすからっ」

いつもラグビー部に好き放題ボコられている男の言っていいセリフじゃなかった。

343 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/25(土) 16:53:07.69 ID:cUBlBpOS0
和「頼もしいわ。その調子で残りもお願いね」

春原「まかせてくださいよっ」

朋也(すぐ調子に乗りやがる…)

―――――――――――――――――――――

その後も俺たちは似たようなやり取りを繰り返した。
そして、最後の配達を追え、また戻ってくる。

―――――――――――――――――――――

春原「全部終わりましたっ」

和「ええ、そうね。ご苦労様」

春原「いえいえ」

春原「あ、そうだ。メガネの奴が、今までの3割増しなら60、って言ってました」

和「そう…わかったわ。ありがとう」

伝言もことあるごとに頼まれていた。
その都度、こうして真鍋に報告を入れていた。

和「ふぅ…」

ひとつ深く息をつき、生徒会長の椅子に座る。

344 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/25(土) 16:54:14.54 ID:1qYNd8dxO
和「本当に…あと少しなのね」

声色に覇気がなかい。

朋也「まだなにか不安があるのか」

和「まぁね」

朋也「これだけやれば、もうおまえが勝ったも同然な気がするけどな」

春原「そっすよ」

和「…あなたたち、二年生の坂上智代って子、知ってる?」

聞いたことがなかった。

春原「いや、知らないっす」

朋也「有名な奴なのか」

和「ええ。それも、この春編入してきたばかりだというのによ」

なら、まだこの学校に来て二週間も経っていないことになる。
それで有名なら、よっぽどな奴なんだろう。

和「純粋な子なんでしょうね…それを、周囲の人間が感じ取ってる」

朋也「そいつとおまえと、どう関係あるんだ」

和「立候補してるのよ。生徒会長に」

345 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/25(土) 16:54:42.93 ID:cUBlBpOS0
朋也「そら、すげぇな」

そんな型破りな奴なら、有名になるのも頷ける。

和「ええ。求心力も抜群でね…私の党から離れて、坂上さんサイドに移った人間もいるわ」

和「いえ…それが大多数かしら」

ぎっと音を立て、椅子から立ち上がった。

和「汚いことをしているとね…綺麗なもの、純粋なものが一層美しく映るの」

和「みんな心の底ではそんなものに憧憬の念を抱いていたわ」

和「そこへ、一点の曇りもない、指導者と成り得るだけの器を持った人物が現れた」

和「それは私にとって由々しき事態だったわ」

和「私は一年の頃からこちら側に芯までつかっていた」

和「そう…全ては生徒会長の椅子を手に入れるために」

和「それなのに…会長を務めていた先輩も卒業して、ようやく私がそのポストにつけると思っていたのに…」

和「なんのしがらみも持たず、何にも囚われない最強の敵が現れた!」

和「私は焦った。どんどん人が離れていく。中核を成していた実働部隊もいなくなった」

和「残ったのは少数の部下だけ…」


346 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/25(土) 16:55:51.18 ID:1qYNd8dxO
和「悩んだわ…たったこれだけの戦力じゃ、どうあっても勝てっこない…」

和「途方にくれていた時…あなたたちが奉仕活動をしていることを知ったの」

和「そして思いついた…なにも知らない、一不良を使った『封神計画』を!」

朋也「なんか、ずれてないか」

和「冗談よ」

朋也「あ、そ」

和「まぁ、それであなたたちに働いてもらったってわけね」

そっと椅子に手を触れる。

和「ようやく、互角…まだ戦えるわ」

和「そして、この椅子を手に入れるのは…」

じっと、俺たちを見据えて…

和「私よ」

そう言い放った。

―――――――――――――――――――――

347 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/25(土) 16:56:23.64 ID:cUBlBpOS0
4/15 木

唯「おはよぉ」

朋也「ああ、おはよ」

今日も角を曲がったところで、変わらず待っていた。
そのほがらかな姿を見ると、僅かに心が躍った。
そんな想いを胸中に秘めながら、隣に立ち、並んで歩き始めた。

唯「…はぁ」

隣でため息。

朋也「………」

唯「…はぁっ」

今度はさっきより大きかった。

朋也「………」

唯「…もうっ! どうしたの? って訊いてよっ」

朋也「どうしたの」

唯「…まぁ、いいよ」

唯「えっとね、先週新勧ライブあったでしょ」


348 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/25(土) 16:57:55.37 ID:cUBlBpOS0
朋也「ああ」

唯「あれから今日で一週間経つんだけど、まだ新入部員ちゃんが来てくれないんだよ…」

朋也「ふぅん…」

唯「やっぱり、私の歌がヘタだったから、失望されちゃったのかな…」

朋也「そうかもなっ」

唯「って、こんな時だけはきはき答えないでよっ」

朋也「悪い。眠さの波があるんだ」

唯「意地悪だよ、岡崎くん…」

―――――――――――――――――――――

………。

―――――――――――――――――――――

4時間目が終わる。

唯「今日も、一緒でいい?」

朋也「ああ、別に」

唯「やたっ!」

349 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/25(土) 16:58:27.37 ID:cUBlBpOS0
唯「じゃ、またあとでねっ」

高らかにそう告げると、席を立ち、ぱたぱたと駆けていった。
いつものメンツを集め、その旨を伝えているようだった。

春原「とーもーやーくん」

そこへ、いやに馴れ馴れしさのこもった呼び声を発しながら、春原がやって来た。

朋也「…あ?」

春原「がくしょくいーこーお」

春原「いや、でもさ、その前に…河原いかね?」

朋也「…なんでだよ」

その前に覚えた違和感はとりあえず置いておき、訊いてみる。

春原「なんでって…おまえ、言わせんなよ…」

耳打ちするように手を口に添えた。
結局言うつもりらしい。

春原「…エロ本…だよ…」

げしっ!

春原「てぇなっ! あにすんだよ!」

350 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/25(土) 17:01:40.98 ID:1qYNd8dxO
朋也「おまえが真っ昼間からサカってるからだろうがっ!」

朋也「なにがエロ本だっ! 性欲が食欲に勝ってんじゃねぇよっ!」

生徒1「春原やっべ、エロ本とか…」

生徒2「あいつ絶対グラビアのページ開きグセついてるよな」

生徒1「ははっ、だろーな」

春原「うっせぇよ!」

生徒1「やべ、気づかれた」

生徒2「エロい目で気づかれた」

春原「ぶっ飛ばすぞ、こらっ!」

生徒1「逃げれっ」

生徒2「待てって」

二人のクラスメイトたちは、わいわいと騒ぎながら教室を出て行った。

春原「岡崎、てめぇ、声でかいんだよっ」

朋也「おまえがエロ本とかほざくからだろ」

春原「おまえが中学二年生みたいにって要求したんだろっ!」

352 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/25(土) 17:02:09.54 ID:cUBlBpOS0
朋也「だったか?」

春原「もう忘れたのかよっ!? なら、最初からいうなっ!」

朋也「いや、最初のほうは小学二年生だったからわかんなかったんだよ」

春原「ちゃんと第二次性徴むかえてただろっ」

朋也「いきなりすぎて気づかなかったんだ」

春原「なんだよ、おまえの言う通りにしてやったのによ…」

朋也「悪いな。じゃ、次はさ、一発屋芸人のようにやってくれよ」

春原「おまえさ、僕で遊んでない?」

朋也「え? そうだけど?」

春原「さも当たり前のようにいうなっ!」

春原「くそぅ、やっぱ、確信犯かよ…」

朋也「まぁ、結構おもしろかったんだし、いいじゃん」

春原「それ、あんただけだよっ!」

―――――――――――――――――――――

唯「とうとう明日だね、和ちゃん」

353 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/25(土) 17:03:23.08 ID:1qYNd8dxO
和「そうね」

律「確か、演説とかするんだよな」

和「ええ」

律「公約とか、理想みたいなのを延々語るんだろ?」

和「ごめんなさいね、退屈で」

律「いや、和が謝ることないけど」

澪「和が生徒会長になってくれたら、学校も今よりよくなるよ」

和「ありがとう」

唯「和ちゃんの公約って、なに?」

和「無難なものよ。女の子受けするように、スカート丈が短くてもよくするとか…」

和「ソックスの種類を学校の純正品以外も可にするとかね」

和「男の子向けだと、夏はシャツをズボンから出してもよくする、とか…」

和「まぁ、先生受けは悪いし、ほとんど守れないんだけどね」

こいつが本気になればどれも軽く実現しそうだった。

律「じゃあさ、春原をこの学校から根絶します、とかだったらいいんじゃね?」

354 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/25(土) 17:03:40.65 ID:cUBlBpOS0
律「それなら、先生受けもいいだろうし」

春原「いや、デコの出し過ぎを取り締まったほうがいいよ」

春原「昔、ルーズソックスとかあったじゃん。もう絶滅してるけど」

春原「それと同じで、ルーズデコも、もう世の中が必要としてないと思うんだよね」

 律「………」
春原「………」

引きつった笑顔で睨み合う。

澪「また始まった…」

朋也「なら、折衷案しかないな」

春原「折衷案?」
 律「折衷案?」

朋也「ああ。間を取って、春原の上半身だけ消滅すればいいんだよ」

春原「僕が一方的に消えてるだろっ!」

律「わははは!」

―――――――――――――――――――――

………。


355 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/25(土) 17:06:12.44 ID:1qYNd8dxO
―――――――――――――――――――――

放課後。生徒会室に集まった。

和「じゃあ、今日は…」

こんこん

扉がノックされる。

和「…どうぞ」

真鍋の表情が険しくなる。
警戒しているようだった。

女生徒「失礼する」

ひとりの女生徒が入室してくる。
真鍋が俺に目配せし、廊下の方に小さく顎を振った。
他に誰かいないか、確認するよう指示してきたのだろう。
俺はそのサインを汲み取り、廊下を見渡しに出た。
人影はみあたらない。
女生徒がこちらに背を向けていたので、その場から手でOKサインを送った。
真鍋も目だけをこちらに向けて気取られない程度に頷く。

和「私に用があるのよね?」

女生徒「ああ」

和「でも、どうしてここが?」

356 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/25(土) 17:07:25.54 ID:cUBlBpOS0
女生徒「去年あなたと生徒会役員をやっていた生徒が、私の友達になってくれたんだ」

女生徒「それで、挨拶しに行きたいと言ったら、ここにいるはずだと教えてくれた」

和「…なるほどね」

女生徒「ああ、申し遅れたが、私は二年の坂上智代という」

こいつが、例の…。

和「ええ、知ってるわ」

智代「そうか。それは光栄だ」

智代「あなたは、かなりのやり手だと聞く。けど、私も退くわけにはいかない理由がある」

智代「明日は誰が勝っても恨みっこなしだ。お互いがんばろう。それだけ言いにきた」

和「…そう」

智代「他の立候補者にも挨拶に行きたいので、これで失礼する」

出入口のあるこちら側に振り返る。
そこへ、春原がチンピラ歩きで寄っていった。

春原「おい、てめぇ。上級生にたいして口の利き方がなってねぇなぁ、おい」

智代「…なんだ、この黄色い奴は」

春原「金色だっ」

357 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/25(土) 17:09:33.54 ID:1qYNd8dxO
智代「うそをつけ。ブレザーと同じ色だぞ」

春原「なにぃっ!?」

智代「真鍋さん、こいつは部外者じゃないのか」

和「いえ…私の手伝いをしてもらっていたの」

智代「そうか…」

残念そうな顔。

朋也「始末したいなら、別にいいぞ」

春原「おい、岡崎っ!?」

智代「…真鍋さん、そっちは」

和「同じく、私のお手伝いよ」

智代「そうか。なら、正式な許可がおりたということだな」

春原「ああ? なに言って…」

ばしぃっ!

春原「ぎゃぁぁあああああああああああああっ!!」

内股に強烈なインローが入り、悶絶し始めた。
うずくまり、ぷるぷると震えている。

358 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/25(土) 17:10:00.94 ID:cUBlBpOS0
智代「すっきりしたし、これで本当に失礼する」

転がっている春原を跨ぎ、俺がいる方のドアに近づいてくる。

和「…待って」

智代「なんだ」

立ち止まり、真鍋に向き直った。

和「考え直さない?」

智代「というと?」

和「生徒会長よ。あなた、まだ二年だし、副会長からでもいいんじゃない?」

智代「それは…だめだ。言ったはずだ。退けない理由があると」

智代「あなたにもあるだろう。それと同じことだ」

和「…そうね。引き止めて悪かったわ」

智代「いや、これくらいなんでもない。それでは」

会釈し、歩き出す。
そして、俺の脇を抜けて出て行こうとした。

朋也「待てよ」

智代「なんだ? 今度はおまえか?」

359 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/25(土) 17:12:48.52 ID:1qYNd8dxO
朋也「ああ。差し支えなかったら、おまえのその、退けない理由ってのを教えてくれないか」

智代「…まぁ、いいだろう」

智代「坂のところに桜並木があるだろ」

朋也「ああ」

智代「私は、あれを守りたいんだ」

朋也「守るって…なにから」

智代「この学校…と言っていいのかな…」

朋也「あん? どういうことだ」

智代「この学校の意向でな、あそこの桜が撤去されることになるらしいんだ」

智代「だから、私は生徒会長になって、直接訴えたいんだ」

智代「あの桜は残して欲しい、とな」

朋也「なんでまた、そんなもんのために…」

智代「それは…」

さっきまでの、固い意志を感じさせる凛とした表情が急に崩れた。
どこか悲しそうにして、目を泳がせている。

朋也「ああ、いいよ、言いたくないなら」

360 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/25(土) 17:13:19.56 ID:cUBlBpOS0
智代「うん…助かる」

朋也「でもさ、それっておまえが生徒会長にならなくてもできるんじゃねぇ?」

智代「どうやってだ」

朋也「今の願いを真鍋に聞いてもらえばいいだろ」

智代「でも、これは私が直接したいんだ。誰かが代わりにやったんじゃ、意味がないことなんだ」

朋也「じゃあ、おまえがこのまま選挙で戦ったとして、絶対に勝つことができるのか?」

朋也「真鍋も、そうとう手強いぞ」

智代「それは…」

朋也「もし、負けでもしたら、おまえはただの一般生徒」

朋也「おまえ一人の声なんて、上には届かないよな?」

朋也「だったらさ、副会長として真鍋の下についたほうがよくないか」

智代「でも…」

朋也「ああ、おまえ自身の手でやりたかったんだよな」

朋也「でも、結局おまえが生徒会長の座についても、誰かの手は借りることになるんだぜ」

朋也「桜並木を撤去するなんて、相当大きな力が働いてそう決まったんだろ」

361 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/25(土) 17:14:30.84 ID:1qYNd8dxO
朋也「だったら、いくら生徒会長でも、ひとりだけじゃ太刀打ちできないよな」

智代「………」

朋也「な? そうしろよ」

朋也「おまえ、この学校に来てまだ間もないんだろ? 聞いたよ」

朋也「だからさ、真鍋の下について、いろいろ教えてもらえ」

朋也「この学校にはこの学校のルールがあるんだからさ」

本当に、いろいろと。
俺もここで真鍋に使われる前は知らなかった裏がたくさんある。

智代「…今から副会長に変更しても間に合うだろうか」

朋也「どうなんだ、真鍋」

和「ええ…可能よ。前日になって変更なんて、前代未聞だけど」

智代「そうか。どこで手続きを踏めばいい?」

和「選挙管理委員会が使ってる教室が旧校舎の三階にあるから、そこへいけば」

智代「わかった。ありがとう、新生徒会長」

朋也「っと、今まで真鍋が当選するって前提で話しちまってたけど、その限りじゃないからな」

智代「いや…私と真鍋さんの二強だって、なんとなくわかっていたからな」

362 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/25(土) 17:14:51.19 ID:cUBlBpOS0
智代「これで、もう真鍋さんがなったも同然だ」

にこっと笑う。その相貌には邪気がない。
自虐的なそれでもなく、純粋な、祝福する時の笑顔だった。

智代「それじゃ、失礼する」

廊下へ出て、戸を閉めた。
足音が遠ざかっていく。
旧校舎へ向かったんだろう。

和「………」

朋也「だとよ、新生徒会長」

和「…岡崎くん、あなたやるわね。あの坂上さんを、ああもスマートに言いくるめるなんて」

朋也「そりゃ、どうも」

和「これからも私の元で働く気はない? 磨けば光るものを持っている気がするんだけど…」

朋也「いや、もうこの遊びもそろそろ飽きたからな。遠慮しとく」

和「おいしい目をみれるわよ? 大学の推薦だって、欲しければ力になってあげられるわ」

朋也「俺、進学する気ないんだけど」

朋也「それに、いくらドロドロしてて面白いってことがわかっても、生徒会だからな」

朋也「俺の肌に合わねぇよ」

364 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/25(土) 17:16:01.91 ID:1qYNd8dxO
和「そう…残念」

和「でも…これで今夜はゆっくり眠れるわ」

和「不確定要素は、なにも知らない一般のミーハーな無党派層だけだし…」

和「明日はただのデキレースになるでしょうね」

朋也「そっか」

和「今まで本当にありがとう。晴れてあなたたちは自由の身よ」

つまりもう帰っていいということか。
普通にそう言えばいいのに。

朋也「ああ、そうだ、ひとつ教えてくれ」

和「なに?」

朋也「おまえの退けない理由ってなんだ?」

和「え?」

朋也「坂上が退けない理由があるから戦うっていった時、おまえ、折れたじゃん」

朋也「だから、おまえにもあるんだろ。理由がさ」

和「そうね…あるわ。それは…」

がっ、と下にあったものを踏みつけ、片足の位置を上げた。

366 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/25(土) 17:16:30.40 ID:cUBlBpOS0
そして、腕を組む。

和「プライドよ」

あきれるほど自分に正直だった。
坂上の、安易に立ち入れなそうな理由を聞いた後では、ちょっと可笑しくて笑ってしまいそうになる。

朋也「そっか。まぁ、そういう奴も、嫌いじゃないよ」

和「それは、どうも」

春原「…あの、和さん…足、頭からどけてくれませんか…」

―――――――――――――――――――――


368 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/25(土) 17:18:02.38 ID:1qYNd8dxO
4/16 金

この日、全校朝会に続き、一時間目を使って選挙が行われた。
春原も珍しく朝から姿を現していた。
なんだかんだ、自分が暗躍したことなので、気になったらしい。
演説が終わると、教室に戻り投票が行われた。
当然、俺は真鍋に一票を投じた。
発表は明日行われるらしい。

―――――――――――――――――――――

昼は、おなじみのメンバーで食べた。

唯「当選してるといいね」

和「ほんと、そうだといいけど…」

律「楽勝だって」

和「そこまで甘くないわよ」

よく言う。
デキレースだと言い切ったのと同じ口から出た言葉だとは思えない。

―――――――――――――――――――――

そして、放課後。
俺はなぜかまた生徒会室に呼び出されていた。

朋也「どうした。もう終わりなんじゃなかったのか」

369 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/25(土) 17:18:29.62 ID:cUBlBpOS0
和「忘れてたの。これで本当に最後よ」

朋也「春原は?」

和「呼んでないわ。あなたにやってもらいたいの」

朋也「はぁ…」

―――――――――――――――――――――

依頼内容は、こうだった。
ある生徒を呼び出して、真鍋から渡されたメモ用紙に書いてある内容を読み上げる。
かなり単純だった。
だが、呼び出す、というところに乱暴なニュアンスを感じる。
最後の最後でキナ臭い指令が下ったものだ。
まさか…秘密を知った俺を始末するためにやらせるんじゃないだろうな…。
警察沙汰になって、退学になれば、なにを証言しても、すべて妄言だと取られるだろう。
もしかしたら、春原はもう…。

朋也(まさかな…)

少しビクつきながらもターゲットを探した。

―――――――――――――――――――――

そして、俺はその男を指定された場所につれてくることに成功した。

男子生徒「…なんですか」

朋也「えーっとな…」

370 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/25(土) 17:19:37.56 ID:1qYNd8dxO
ポケットから紙を取り出し、読み上げる。

朋也「ゆいは俺の女だ。手出したら殺すぞ…」

朋也(ゆい? 俺の知ってる奴は…平沢くらいだぞ)

男子生徒「あ…うぅ…」

朋也(抵抗した場合、三枚目へ。ひるんだ場合二枚目へ、か)

朋也(ひるんでるよな…二枚目…)

朋也「おら、もういけ」

そう書いてあった。

男子生徒「…はい」

うなだれて、とぼとぼと立ち去っていった。

和「…うん、上出来よ」

木陰から真鍋がひょこっと出てくる。
…いたのかよ。

朋也「これ、なんだったんだ」

和「ん? わからない?」

朋也「ああ、まったく」

371 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/25(土) 17:19:57.09 ID:cUBlBpOS0
和「そういうことには鈍感なのね」

朋也「あん?」

和「だから、さっきのあの人、唯に気があったのよ」

朋也「ふぅん…って、それ、なんか生徒会と関係あんのか」

和「いいえ。これはただの私事よ」

朋也「おまえ、あいつになんの恨みがあったんだよ…」

和「恨みはないわ。ただ、唯に悪い虫がつかないようにしただけよ」

朋也「なんでおまえがんなことするんだよ」

和「幼馴染だしね。大事にしてるのよ」

朋也「へぇ、おまえ、幼馴染なんていたの…」

…幼馴染?

朋也「もしかして、この紙にある ゆい って、平沢か?」

和「ええ、そうよ。気づかなかった?」

朋也「気づかなかった? じゃねぇよっ! なんてことさせてくれるんだよっ!」

和「あら? なんで怒るの?」

372 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/25(土) 17:21:09.43 ID:1qYNd8dxO
朋也「そりゃそうだろっ。俺、別にあいつの彼氏でもなんでもねぇし」

和「でも、かなり仲良くしてるじゃない。一緒に登校もしてるみたいだし」

朋也「それは、いろいろあって、しょうがなくだよ」

和「ふぅん。両思いなのに、お互い踏み出せないでいるのかと思ってたわ」

朋也「それはないっての。つか、いいのかよ」

和「なにが?」

朋也「俺、思いっきり悪い虫じゃん」

和「まぁ、見かけはね。でも、なかなか見所もあるってわかったし…」

和「あなたならいいかなって思ったのよ。そうじゃなきゃ、こんな役させないわ」

和「まぁ、唯がなついた人だから、悪い人ではないのかなとは思ってたけどね」

朋也「いや、おまえに買われるのも、悪い気はしねぇけどさ…」

和「それで納得しときなさいよ」

朋也「はぁ…」

和「ま、最初は潰しておこうかと思ったんだけどね」

さらりと怖いことをいう。

374 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/25(土) 17:21:32.45 ID:cUBlBpOS0
和「でも、ほら、今までのゴタゴタがあって、手が回らなかったのよ」

…俺は坂上に感謝しなければいけないのかもしれない。

和「あの子に近づく変な男って今までたくさんいたのよ」

和「ほら、あの子可愛いじゃない? だから、大変だったわ」

和「それが高校に入って、軽音部に入部してからはもう、それまでの倍は手間取ったわ」

和「生徒会の権力を使ってようやく追いつくくらいだったもの」

そこまでモテていたのか…。

和「あなたも、あんな可愛いのに、彼氏の気配がないのはおかしいと思わなかった?」

朋也「まぁ、普通に彼氏がいても不思議じゃないとは思うけど」

和「私が全て弾いていたからね」

強力すぎるフィルターだった。

和「だから、あの子、今まで男の子と交際したことがないの。大切にしてあげてね」

朋也「いや、だから、そもそも付き合ってないんだけど」

和「あら、そうだったわね。でも、時間の問題な気がするの」

和「女のカンだから、根拠はないけどね」

375 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/25(土) 17:22:40.54 ID:1qYNd8dxO
朋也「ああ、そう…」

和「それじゃあね」

言って、背を向ける。

朋也「あ、なぁ」

和「なに?」

振り返る。

朋也「おまえに彼氏がいたことってないのか」

なんとなく気になったので訊いてみた。

和「私? 私は、ないけど」

朋也「そっか。なんか、もったいないな」


376 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/25(土) 17:22:59.72 ID:cUBlBpOS0
朋也「おまえも平沢の保護ばっかしてないで、彼氏くらい作ればいいのに」

和「私はいいのよ、別に」

朋也「なんでだよ」

和「特に容姿がいいわけでもないし…作るの大変そうじゃない」

朋也「いや、おまえも普通に可愛いじゃん。男はべらせてうっはうはだろ」

和「っ…馬鹿ね…」

そう小さく言って、踵を返した。
そのまま校舎の方に戻っていく。
………。
初々しい反応も見れたことだし…よしとしておこう。

―――――――――――――――――――――


377 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/25(土) 17:24:27.59 ID:1qYNd8dxO
4/17 土

唯「あ、おはよ~」

女の子「おはようございます」

朋也「ん…」

平沢と、その隣にもうひとり。
髪を後ろで束ねた女の子がいた。校章の色は、二年のものだ。

唯「岡崎くん、やったねっ。合格だよっ」

朋也「なにが」

事情が飲み込めない。

唯「前に言ったでしょ? もう少し早く来れば私の妹と一緒にいけるって」

そういえば、言っていたような…。

唯「これが、私の妹でぇす」

女の子「初めまして。平沢憂です」

平沢に大げさな手振りで賑やかされながら、そう名乗った。

朋也「はぁ、どうも…」

見た感じ、妹というだけあって、顔はよく似ていた。

378 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/25(土) 17:24:55.60 ID:cUBlBpOS0
雰囲気的には平沢に比べ少し堅い感じがある。
まぁ、それも、見知らぬ上級生に対する、作った像なのかもしれないが。

憂「岡崎さんのことは、お姉ちゃんからよく聞いてます」

朋也「はぁ…」

なにを言われているんだろう。

憂「聞いてた通りの人ですね」

朋也「あん? なにが」

憂「お姉ちゃん、よく岡崎さんのこと…」

唯「あ、憂っ、あそこっ、アイスが壁にめり込んでるっ」

憂「え? どこ?」

唯「あ~、残念、もう蒸発してなくなっちゃった」

憂「えぇ? ほんとにあったの?」

唯「絶対間違いないよっ、多分っ」

憂「どっちなの…」

朋也(にしても…うい、ねぇ…う~む…)

俺は、その響きに引っかかりを覚えていた。

379 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/25(土) 17:26:11.53 ID:1qYNd8dxO
どこかでその名を聞いた気がする。

朋也(どこだったかな…)

記憶をたどる。
そう…あれは確か、軽音部の新勧ライブの日だったはずだ。
薄暗い講堂の中、会話が聞えてきた。
そこで、お姉ちゃん、と言っていたのが、その うい という子だった。
とすると…あの時、あの場に居たのはこの子だったのだ。

憂「あの…どうかしましたか?」

はっとする。
俺は考え込んでいる間、ずっとこの子を凝視してしまっていた。
さすがにそんなことをしていれば、不審に思われても仕方ない。
ただでさえ、俺は生来の不機嫌そうな顔を持っているのだ。
よく人に、怒っているのかと聞かれるくらいに。

朋也「いや、なんでも」

精一杯の作り笑顔でそう答えた。
不自然さを気取られて、さらに引かれていないだろうか…。
それだけが心配だった。

唯「私たち、ちょうどさっき来たばっかりなんだよ」

朋也「そうなのか」

唯「うん。でね、なんか、予感してたんだ」

380 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/25(土) 17:26:32.99 ID:cUBlBpOS0
朋也「予感?」

唯「うん。そろそろ岡崎くんが来るんじゃないかってね」

朋也「そら、すげぇ第六感だな。大当たりだ」

唯「違うよぉ。そんなのじゃないって」

唯「岡崎くん、日に日に来るの早くなってたでしょ。それでだよ」

今週はずっと朝から登校してたからな…。
そろそろ体が慣れてきたのかもしれない。
といっても、相変わらず眠りにつくのは深夜だったから、今も眠気はたっぷりあるが。
どうせまた、授業中は寝て過ごすことになるだろう。

唯「ずっとがんばり続けてたから、今日はこんなボーナスがつきました」

妹を景品のようにして、俺の前面にすっと差し出した。

朋也「じゃあ、さらに早くきたらどうなるんだ」

唯「え? えーっとね…」

しばし考える。

唯「どんどん憂の数が増えていきますっ」

憂「お、お姉ちゃん…」

朋也「そっか。なら、あと三人くらい増やそうかな」

382 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/25(土) 17:27:49.13 ID:1qYNd8dxO
憂「ええ!? お姉ちゃんの話に乗っちゃった!?」

憂「っていうか、私は一人しかいませんよぅ」

唯「そうなの?」

憂「常識的に考えてそうだよぉ、もう…」

唯「憂なら細胞分裂で増えるくらいできるかなぁと思って」

憂「それ、もはや人じゃないよね…」

妹のほうは姉と違って普通の感性をしているんだろうか。
突拍子も無いボケに、冷静な突っ込みを入れていた。

唯「じゃ、そろそろいこっか」

憂「うん」

ふたりが歩き出し、俺もそれに続いた。

―――――――――――――――――――――

唯「あーあ、とうとう全部散っちゃったね、桜」

憂「そうだね」

平沢姉妹と共に坂を上っていく。
これを、両手に花、というんだろうか…。
意識した途端、なんとも気恥ずかしくなる。

383 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/25(土) 17:28:14.98 ID:cUBlBpOS0
朋也(ホストじゃあるまいし…)

俺はワンテンポ遅れて、後ろを歩いた。

憂「岡崎さん、どうしたんですか?」

その変化に気づいたのか、後ろにいる俺に振り返った。

朋也「いや、別に」

唯「ああっ、わかった! 憂、気をつけないとっ」

憂「え? なに?」

唯「岡崎くん、坂で角度つけて私たちのスカートの中覗こうとしてるんだよっ」

憂「え? えぇ?」

その、覗く、という単語に反応してか、周りの目が一瞬俺に集まった。

朋也(あのバカ…)

朋也「んなわけねぇだろっ」

俺は一気にペースを上げ、ふたりを抜き去っていった。

唯「あ、冗談だよぉ。待ってぇ~」

憂「岡崎さん、早いですっ」

384 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/25(土) 17:30:17.61 ID:1qYNd8dxO
ぱたぱたと追ってくる元気な足音が後ろからふたつ聞こえていた。

―――――――――――――――――――――

唯「もう許してよぉ…ね?」

下駄箱までずっと無視してやってくる。
平沢はさっきから俺の周囲をうろちょろとして回っていた。

朋也「………」

憂「あれは、お姉ちゃんが悪いよ、やっぱり」

唯「うぅ、憂まで…」

朋也「よくわかってるな」

俺は妹の頭に手を乗せ、ぽんぽんと軽くなでた。

憂「あ…」

唯「………」

それを見ていた平沢は、片手で髪を後ろでまとめ…

唯「私が憂だよっ。憂はこっちだよっ」

微妙な裏声でそういった。

朋也(アホか…)

385 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/25(土) 17:33:39.35 ID:cUBlBpOS0
だが、同時に毒気も抜かれてしまった。

朋也「似てるけど、あんま似てない」

平沢の頭にぽん、と触れる。

唯「あ、やっと喋ってくれたっ」

憂「よかったね、お姉ちゃん」

唯「うん。えへへ」

ふたりして、喜びを分かち合う。
仲のいい姉妹だった。

梓「…おはようございます」

いつの間にか、軽音部二年の中野が近くに立っていた。
こいつも、今登校してきたんだろう。

唯「あっ、あずにゃん。おはよう」

憂「おはよう、梓ちゃん」

梓「うん、おはよう憂」

梓「………」

じろっと俺を睨む。
そして、平沢の手を引いて俺から離した。

386 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/25(土) 17:35:08.36 ID:1qYNd8dxO
唯「あ、あずにゃん?」

そして、俺の方に寄ってくる。

梓「…やっぱり、仲いいんですね。頭なでたりなんかして…」

ぼそっ、と不機嫌そうにささやいた。

梓「しかも、憂にまで…」

朋也「いや、ふざけてただけだって…」

梓「へぇ、そうですか。先輩はふざけて女の子の頭なでるんですか」

梓「やっぱり違いますね、女の子慣れしてる人は」

朋也「そういうわけじゃ…」

言い終わる前、平沢のところに戻っていった。

梓「先輩、今日も練習がんばりましょうねっ」

言って、腕に絡みつく。

唯「うんっ…って、あずにゃんから私にきてくれたっ!?」

梓「なに言ってるんですか、いつものことじゃないですか」

梓「私たち、すごく仲がいいですからね。もう知り合って一年も経ちますし」

387 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/25(土) 17:35:26.19 ID:cUBlBpOS0
梓「その間にかなり絆は深まってますよ。部外者がそうやすやすと立ち入れないほどに」

ちらり、と俺を見る。

唯「う…うれしいよ、あずにゃんっ」

がばっと勢いよく正面から抱きしめた。

梓「もう、唯先輩は…」

中野もそれに応え、腕を回していた。
しばしそのままの状態が続く。

梓「ほら、もう離してください」

回していた手で、とんとん、と背中を軽く叩く。

梓「続きは部活のときにでも」

唯「続いていいんだねっ!?」

梓「ええ、どうぞ」

唯「やったぁ!」

ぱっ、と離れる。

梓「憂、いこ」

憂「うん」

388 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/25(土) 17:36:40.46 ID:1qYNd8dxO
二年の下駄箱がある方に連れてだって歩いていく。

朋也(俺、あいつに嫌われてんのかな…)

―――――――――――――――――――――

教室に到着し、ふたりとも自分の席についた。
まだ人もそんなに多くない。
かなり余裕のある時間。俺にとっては未知の世界。
そんなに耳障りな声もなく、眠るには都合がよかった。

唯「岡崎くん」

今まさに机に突っ伏そうとしたその時、声をかけられた。

朋也「なんだ」

唯「岡崎くんたちがやってるお仕事のことなんだけどね…」

朋也「ああ」

唯「あれって、遅刻とか、サボったりしなかったら、やらなくていいんだよね?」

多分こいつはまた、さわ子さんにでも話を聞いたのだろう。
あの人は軽音部の顧問を務めているらしいし…
会話の中で、その事について触れる機会は十分すぎるほどある。

朋也「みたいだな」

唯「じゃあ、最近ずっと遅刻してない岡崎くんは、放課後自由なんだよね?」

389 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/25(土) 17:37:04.21 ID:cUBlBpOS0
朋也「ああ、まぁな」

唯「だったらさ…何度もしつこいようだけど…遊びにおいでよ。軽音部に」

朋也「前にも言っただろ。遠慮しとくって」

唯「でも、お昼だって私たちと一緒に食べて、盛り上がってたでしょ?」

唯「あんな感じでいいんだよ?」

朋也「それでもだよ」

唯「…そっか」

しゅんとする。

唯「やっぱりさ…」

でも、すぐに口を開いた。

唯「部活動が嫌いって言ってたこと…関係あるのかな」

朋也「………」

あの時春原が放った不用意な発言が、今になって負債となり、重くのしかかってきた。
きっかけさえ作らなければ、話題にのぼることさえなかったはずなのに。
そもそも、自ら進んで人にするような話でもない。
だが、もし、仮に…
こいつとこれからも親しくなっていくようであれば…
そうなれば、いつかは訊かれることになっていたかもしれないが。

390 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/25(土) 17:38:47.29 ID:1qYNd8dxO
こいつは、そういうことを気にしてしまうだろうから。
………。
俺は頬杖をついて、一度視線を窓の外に移した。
そして、気を落ち着けると、また平沢に戻す。

朋也「…中学のころは、バスケ部だったんだ」

朋也「レギュラーだったんだけど、三年最後の試合の直前に親父と大喧嘩してさ…」

朋也「怪我して、試合には出れなくなってさ…」

朋也「それっきりやめちまった」

………。
こんな身の上話、こいつにして、俺はどうしたかったのだろう。
どれだけ、自分が不幸な奴か平沢に教えたかったのだろうか。
また、慰めて欲しかったのだろうか。

唯「そうだったんだ…」

今だけは自分の行為が自虐的に思えた。
その古傷には触れて欲しくなかったはずなのに。

唯「………」

平沢は、じっと顔を伏せた。

唯「私…もう一度、岡崎くんにバスケ始めて欲しい」

そのままの状態で言った。

391 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/25(土) 17:39:08.84 ID:cUBlBpOS0
そして、今度は俺に向き直る。

唯「それで、みんなから不良だなんて呼ばれなくなって…」

唯「本当の岡崎くんでいられるようになってほしい」

本当の俺とはなんだろう。
こいつには、俺が自分を偽っているように見えるのだろうか。
そんなこと、意識したことさえないのに。

唯「みんなにも、岡崎くんが優しい人だって、わかってほしいよ」

ああ、そういえば…
こいつの中では、俺はいい人ということになっていたんだったか…。
だが、それも無理な相談だった。

朋也「…無理だよ」

唯「え? あ、三年生だからってこと…」

朋也「違う。そうじゃない」

もっと、根本的な、どうしようもないところで。

朋也「俺さ…右腕が肩より上に上がらないんだよ」

朋也「怪我して以来、ずっと…」

…三年前。
俺はバスケ部のキャプテンとして順風満帆な学生生活を送っていた。

392 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/25(土) 17:40:21.55 ID:1qYNd8dxO
スポーツ推薦により、希望通りの高校に進み、そしてバスケを続けるはずだった。
しかし、その道は唐突に閉ざされた。
親父との喧嘩が原因だった。
発端は、身だしなみがどうとか、くつの並べ方がどうとか…そんなくだらないこと。
取っ組み合うような喧嘩になって…
壁に右肩をぶつけて…
どれだけ痛みが激しくなっても、意地を張って、そのままにして部屋に閉じこもって…
そして医者に行った時はもう手遅れで…
肩より上に上がらない腕になってしまったのだ。

唯「あ…ご、ごめん…軽はずみで言っちゃって…」

朋也「いや…」

………。
静寂が訪れる…痛いくらいに。

朋也「…春原もさ、俺と同じだよ」

先にその沈黙を破ったのは俺だった。

朋也「一年の頃は、あいつも部活でサッカーやってたんだ」

朋也「でも、他校の生徒と喧嘩やらかして、停学食らってさ…」

朋也「レギュラーから落ちて、居場所も無くなって、退部しちまったんだ」

唯「そう…だったんだ…」

唯「でも…春原くんは、もう一度、サッカーできるんじゃないかな」

393 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/25(土) 17:40:45.33 ID:cUBlBpOS0
朋也「再入部するってことか」

唯「うん」

朋也「それは…無理だろうな。あいつ、連中からめちゃくちゃ嫌われてるんだよ」

朋也「あいつの喧嘩のせいで、今の三年は新人戦に出られなかったらしいからな」

朋也「第一、あいつ自身、絶対納得しないだろうし」

唯「でも…やっぱり、夢中になれることができないって、つらいよ」

唯「なんとかできないかな…」

朋也「なんでおまえがそんなに必死なんだよ…」

唯「だって、私も今、もうギター弾いちゃだめだって…バンドしちゃだめだって言われたら、すごく悲しいもん」

唯「きっと、それと同じことだと思うんだ」

唯「私は、岡崎くんや春原くんみたいに、運動部でレギュラーになれるほどすごくないけど…」

唯「でも、高校に入る前は、ただぼーっとしてただけの私が、軽音部に入って、みんなに出会って…」

唯「それからは、すごく楽しかったんだ。ライブしたり、お茶したり、合宿にいったり…」

唯「それが途中で終わっちゃうなんて絶対いやだもん」

唯「もっとみんなで演奏したいし、お話もしたいし、お菓子も食べたいし…ずっと一緒に居たいよ」


395 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/25(土) 17:44:33.15 ID:1qYNd8dxO
唯「だから、なんとかできるなら、してあげたいんだ」

唯「それじゃ、だめかな」

こいつは、自分に置き換えて考えていたらしい。
よほど軽音部が気に入っているんだろう。
その熱意が、言葉や口ぶりの節々から窺えた。
つたなくても、伝えようとしてくれるその意思も。

朋也(いや…それだけじゃないよな、きっと)

いつだってそうだった。
俺が親父を拒否して彷徨い歩いていた時も、ずっと後ろからついてきた。
朝だって、ずっと待っていた。自分の遅刻も顧みずに。

朋也「…おまえ、すげぇおせっかいな奴な」

唯「う…そ、そうかな…迷惑かな、やっぱり…」

朋也「いや…いいよ、それで」

唯「え?」

肯定されるとは思っていなかったんだろう。
それが、表情にわかりやすく現れていた。

朋也「ずっとそういう奴でいてくれ」

そんな真っ直ぐさに救われる奴もいるのだから。

396 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/25(土) 17:45:27.63 ID:cUBlBpOS0
…少なくとも、ここにひとり。

唯「あ…」

一瞬、固まったあと…

唯「うん、がんばるよっ」

そう、はっきりと答えた。

朋也「俺、寝るからさ。さわ子さん来たら起こしてくれ」

唯「え、ずるい! 私も寝る!」

朋也「目覚ましが贅沢言うなよ」

唯「もう、目覚まし扱いしないでよっ」

朋也「じゃ、どうやって起きればいいんだよ」

唯「自力で起きるしかないよね」

朋也「無理だな」

唯「それじゃ、私に腕枕してくれたら、起こしてあげるよ」

朋也「おやすみ」

唯「あ、ひどいっ!」


397 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/25(土) 17:47:15.02 ID:1qYNd8dxO
視界が暗くなる。目を閉じたからだ。
それでも、窓の方に顔を向けると、まぶたの上からでも光が眩しく感じられた。
頭を動かし、心地いい位置を模索する。
腕の隙間から半分顔を出すと、しっくりきた。
そのまま、じっとする。
次第に意識が薄れていく。
室内の静けさ、春の陽気も手伝って、すぐに眠りに落ちていった。

―――――――――――――――――――――

………。

―――――――――――――――――――――

SHRが終わり、放課となる。

朋也(ふぁ…)

昼になり、ようやく体も目覚めてくる。
一度伸びをして、血の巡りを促す。
頭にもわっとした圧迫がかかった後、脱力し、心地よく弛緩した。

唯「岡崎くん、聞いて聞いてっ」

朋也「…ん。なんだ」

唯「あのね、あした、みんなでサッカーしない?」

朋也「はぁ?」

398 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/25(土) 17:48:19.33 ID:cUBlBpOS0
唯「ほら、あしたって日曜日でしょ。だから、学校に集まって、やろうよ」

朋也「それは、やっぱ…」

春原のことで、なにか意図するところがあるんだろうか。

唯「…うん。なんの助けにもならないかもしれないけど…」

唯「春原くんが、少しでも夢中になれた時のこと思い出してくれたらいいなって」

やっぱり、そうだった。

朋也「俺も行かなきゃだめなのか」

唯「もちろんだよ。岡崎くんは、春原くんとすっごく仲いいからね」

朋也「いや、別によくはないけど」

唯「照れちゃってぇ~。いつも楽しそうにしてるじゃん」

朋也「それは偽装だ。フェイクだ。欺くための演技なんだ」

朋也「実際は、おたがい寝首を掻かれまいと、常に牽制し合ってるんだ」

唯「もう、変な設定捏造しないでいいよ。岡崎くんは来てくれるよね」

朋也「暇だったらな」

唯「うん、待ってるね」


399 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/25(土) 17:50:26.99 ID:1qYNd8dxO
まぁ、どうせ、あいつが断れば、その計画も流れてしまうのだ。
伸るか反るかで言えば、反る方の可能性が高いだろう。

春原「おーい、岡崎。飯いこうぜ」

考えていると、ちょうど春原が前方からチンタラやってきた。

唯「あ、春原くん。あのさ、あしたみんなでサッカーしない?」

春原「あん? サッカー?」

唯「うん。学校に集まってさ、やろうよ」

春原「やだよ。なんで休みの日に、わざわざんなことしなくちゃなんないだよ」

唯「練習じゃないんだよ? 遊びだよ?」

春原「わかってるよ、そのくらい。試合に出るわけでもないのに練習なんかするわけないしね」

唯「岡崎くんも来るんだよ?」

春原「え? マジ?」

驚きの表情を俺に向ける。

朋也「…まぁ、暇だったら行くってことだよ」

春原「ふぅん、珍しいこともあるもんだ」

唯「どう? 春原くんも。いつも一緒に遊んでるでしょ?」

400 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/25(土) 17:50:56.08 ID:cUBlBpOS0
春原「そうだけど、こいつが行くとこに、必ず僕もついていくってわけじゃないからね」

唯「ムギちゃんなら、きっとお菓子も紅茶も用意してくれると思うよ?」

春原「え、ムギちゃんもくんの?」

唯「まだ誘ってないけど、言えばきてくれると思うな」

春原「ふぅん、そっか…」

顔つきが変わる。

春原「ま、そういうことなら…行くよ」

なにかしらの下心があるんだろう。
じゃなきゃ、こいつがわざわざ休日を使ってまで動くはずがない。

唯「ほんとに? よかったぁ」

唯「それじゃあ、時間は何時ごろがいいかな」

春原「昼からなら、起きられるけど」

唯「う~ん、なら、1時くらいからでどう?」

春原「いいけど」

唯「決まりだね。集合場所は校門前でいいよね」

春原「ああ、いいよ」

401 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/25(土) 17:52:36.62 ID:1qYNd8dxO
唯「岡崎くんも、いい?」

朋也「ああ」

唯「じゃ、私みんなにも頼んでくるよ」

言って、席を立つ。

唯「あ、そうだ。今日も一緒にお昼どう?」

春原「どうする? おまえ、学食でいいの?」

朋也「俺は、別に」

春原「あそ。じゃ、僕も、学食でいいや」

朋也「つーことだ」

唯「じゃ、またあとで、学食で会おうねっ」

朋也「ああ」

平沢は仲間を呼び集めるため、俺たちは席を取るために動き出した。

―――――――――――――――――――――

朋也「おまえ、明日ほんとにくんのか」

春原「ああ、いくね。それで、ムギちゃんに僕のスーパープレイをみせるんだ」

402 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/25(土) 17:53:23.39 ID:cUBlBpOS0
春原「それでもう、あの子は僕にメロメロさ」

朋也「やっぱ、そういう魂胆か」

春原「まぁね。それよか、おまえこそ、よく行く気になったね」

春原「そういうの、好きな方じゃないだろ。なんで?」

朋也「別に…なんとなくだよ」

春原「ふぅん。僕はてっきり、平沢と居たいからだと思ったんだけど」

朋也「はぁ? なんでそうなるんだよ」

春原「だって、おまえら一緒に登校したりしてるんだろ」

どこで知ったんだろう。
こいつには言っていなかったはずなのに。

春原「それに、いつも仲よさそうにしてるじゃん」

春原「でも、付き合ってるってわけじゃなさそうだし…」

春原「両思いなのに、どっちも好きだって伝えてない感じにみえるね」

昨日同じようなことを言われたばかりだ。
傍目には、そういうふうに見えてしまうんだろうか…。

春原「ま、おまえ、そういうとこ、奥手そうだからなぁ」


403 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/25(土) 17:55:47.13 ID:1qYNd8dxO
朋也「勝手にひとりで盛り上がるな。まったくそんなんじゃねぇんだよ」

春原「そう怒るなって。明日は頑張ってかっこいいとこみせとけよ」

春原「おまえ、運動神経いいんだしさ」

春原「まぁ、でも、本職である僕の前では、引き立て役みたいになっちゃうだろうけどね」

朋也「そうだな。おまえの音色にはかなわないな」

春原「音色? うん、まぁ、僕のプレイはそういう比喩表現がよく似合うけどさ…」

朋也「うるさすぎて、指示が聞えないもんな」

春原「って、それ、絶対ブブゼラのこと言ってるだろっ!」

朋也「え? おまえ、本職はブブゼラ職人だろ?」

春原「フォワードだよっ!」

朋也「おいおい、素人がピッチに立つなよ」

春原「だから、ブブゼラ職人じゃねぇってのっ!」

―――――――――――――――――――――

律「いやぁ、ほんと、めでたいな」

澪「改めておめでとう、和」

404 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/25(土) 17:56:37.42 ID:cUBlBpOS0
紬「おめでとう」

唯「おめでと~」

和「ありがとう」

今朝のSHRで、先日の選挙結果が発表されていたのだが…
真鍋は見事、というか、順当に当選していた。
副会長はあの坂上だった。
他の役員は、興味がないのですぐに忘れてしまったが。

和「これから忙しくなるわ」

澪「大変な時は言ってくれ。力になるから」

和「ありがとね、澪」

澪「うん」

律「おい、春原。あんたのおごりで、特上スシの食券買って来いよ」

春原「ワリカンだろっ!」

そもそもそんなメニューは無い。

紬「そんなのもあるの?」

朋也「いや、あるわけない」

紬「なぁんだ。あるなら、私が出してもよかったのに」

405 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/25(土) 17:58:40.77 ID:1qYNd8dxO
軽く言ってのけるところがすごい。

律「セコいな、春原」

春原「るせぇよ、かっぱ巻きみたいな顔しやがって」

律「なっ、あんたなんか頭に玉子のせてんじゃねぇかよっ」

春原「あんだと!?」

律「なんだよ!?」

唯「はい、そこまで!」
紬「お昼時にね、判定? だめよ、KOじゃなきゃっ」

割って入ろうとした平沢を、横から琴吹が腕を取って制止させた。

唯「む、ムギちゃん?」

紬「嘘、ごめんなさい。冗談よ」

ぱっと手を離す。

紬「五味を止められるのはレフリーだけぇ~♪」

朋也(PRIDE…)

琴吹は謎のマイクパフォーマンスを挟みはしたが、仲裁する側に回っていた。
平沢も困惑状態から復帰すると、一緒に止めに入っていた。

朋也「軽音部? うんたん?」-5
に続きます

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