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暦「うそつきー!」 戦場ヶ原「あらあら仕方が無いわね」3
154 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/07(火) 18:21:18.79 ID:tH.lndoo [1/46]
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156 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/07(火) 19:44:58.62 ID:tH.lndoo
プロローグ
先日の騒動の後、公認の取り消しをいただいた僕は、する事もなく家でゴロゴロとしていた。
本当なら、受験勉強をしなければいけないのだが。
どうやら僕に勉強をさせたくない人が居るらしい。
受験勉強では物語が進まないらしい。
規定事項―――既にそういう路線で原作は進んでいるのに、規定が捻じ曲げられ勉強をする必要が無い。
いいよな、人生の焼き直し。
出来たら、どこからやり直させて貰おうか?
バナナの皮を捨てた奴をとっ捕まえようか?
そうすれば……いや、意味が無いな。
どこまで遡っても意味が無い。
結局は、都合の良い様に直近のごく一部の事だけ修正され、僕は自堕落な休日の朝を過ごす。
まぁ、そういう日があってもいいじゃないか―――と、楽天的性格な僕はその設定を甘受する。
157 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/07(火) 19:45:49.94 ID:tH.lndoo
001
「兄ちゃん!お布団干すから、布団から出なさいよ!」
火憐が僕を叩き起こしに来る。
勿論、月火も一緒だ。
(月火居なかったら押し倒してやるのに!)
「お兄ちゃん、私が居なかったら火憐ちゃんを布団の中に引き込んだりする心算でしょ?」
「ば、馬鹿な事いうなよ!僕がそんな事する訳ないだろ!」
(あぶねー!バレてる!)
「お兄ちゃんって―――私より火憐ちゃんの方が可愛い訳?」
「そんな事無いよ。妹はどっちも可愛いよ」
「ふーん。何か火憐ちゃんばかり可愛がっている様に思えるんだけど?」
「いや、それは月火ちゃんの考え過ぎ。まぁ、僕に対する接し方の違いで―――」
「ちょっとロープ買ってくる!」
「おーい月火ちゃん!色々と間違ってるよ、僕はそういうの趣味じゃないから!」
「じゃ、兄ちゃん布団は貰っていくぞ。あと、パジャマも洗いにだしてよ。今からママと出掛けるんだから」
「はいはい」
158 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/07(火) 19:46:54.87 ID:tH.lndoo
僕はベッドから抜け出し、着替えてパジャマを洗濯機に投入し、リビングでコーヒーを貰う。
「暦、今日どこかに出掛けるの?」
「いや、今のところ予定なし。それより今日はどこへ?」
「二人の服を買いにね」
「ふーん、分かった」
「じゃあ、留守番宜しく。あと、出掛けるなら布団は取りこんでおいてよ?」
「うん、分かった」
母さん、会話で初登場。
誰得って話。
もし、僕の人生がアニメ化されたのなら、母の声は生天目という人がいい。
まちがっても、おとぎ話のナレーションや写真部部長の人は勘弁。
と、今日の僕は誰と何の話をしているんだ?
母さんとの会話を終えるや否や、火憐と月火が「待ってました」と言わんばかりに、母さんの脇に立ち、僕に手を振る。
「ちゃんと母さんの言う事聞くんだぞ」
いつの間にか、父さんのポジションを奪う僕。
「兄ちゃん、お土産はケーキでいい?」
「いや、出来たらドーナツがいいな」
「ん?ドーナツなら冷蔵庫に入ってるよ」
「そっか、ならドーナツで」
「どんだけドーナツ好きなのよ、太るよ?」
「お兄ちゃん、最近筋肉質だからって、糖分摂って緩める気じゃない?」
月火、そんな奴はあまりいないと思うぞ。
159 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/07(火) 19:47:35.08 ID:tH.lndoo
台風一過。
妹達が出掛けた後、リビングに静寂が戻る。
「お前様、今日は機嫌がいいのか?さっきからツラツラと独り言をいいおって」
僕の影から声がした。
「忍!久しぶりだな!ここ最近―――あれから全然話してくれないから心配したじゃないか!」
「まぁ、儂もたまには反省するからな。それよりカーテンを閉めてくれないか?」
「ちょっとまてよ」
僕はリビングカーテンを2重に閉じ、部屋の電気を消す。
「何も電灯まで消す必要はないのじゃぞ?」
「ああ、一応。どのくらい太陽光が入るか分かるだろ?」
「親切な事だな」
忍が影からひょいと姿を出す。
「それよりお前様、冷蔵庫を開けるといい事があるぞ」
「いい事がありそうだな」
僕はキッチンへ向かい、冷蔵庫を開ける。
そこには、ミスタードーナツの箱があった。
手に取り、リビングへ戻る。
160 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/07(火) 19:48:23.63 ID:tH.lndoo
「忍、これだろ?」
「おお!おお!それじゃ!」
「本当にお前はドーナツが好きだな」
「この世で―――人間界の食べ物ではこれが一番うまい」
「でも、本来は人間の血や怪異を食らうだろ?」
「まぁそうじゃが。例えるなら、儂が一番好きなトカゲの怪異の味に良く似ておる」
「ええー、トカゲの怪異ってのはドーナツの味がするのか!」
「うむ。甘い味がするのじゃ」
「へー、それ嘘だろ?」
「ふはは、なんならおまえ様も一度食うてみるか?」
「結構です」
本当のところは良く分からないが、忍の機嫌が良かったので僕はそれで納得した。
「ところで、お前様。最近、血を吸っていないので、そろそろお願いできるか?」
「ああ、僕も気になってたんだ」
「先日、一滴だけ飲んだが―――物足りんわ」
「そりゃそうだな」
僕は忍を抱きかかえる。
忍はゆっくりと僕の首筋に食らいつく。
161 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/07(火) 19:49:43.55 ID:tH.lndoo
「今日は―――少し多めにいただくぞ」
「ん?何かあるのか?」
「いや、少し間隔が開いたのでな」
「あれだけドーナツ食った後にかよ!」
「甘いのは別腹じゃ」
「どっかのOLみたいな事いってんじゃねーよ」
まぁ、多少なら問題は無い、多少なら。
ただあまり飲みすぎると、育ち過ぎるので注意だ。
忍が僕の首に吸いついていると、リビングのドアが開く。
何故か僕の家のドアが不意に開くと、そこには月火が立っている。
「んあ?」
顎でも外したか?という擬態音と共に、月火はドアを閉める。
数秒後に金属バットを携え、リビングに戻ってきた。
が、忍は既に影の中。
「兄ちゃん、今金髪の女の子と抱き合ってなかった?」
「月火ちゃん、よくその話するけど……金髪コンプレックスか?」
「いや、マジで今居たし」
「いねぇよ」と僕は薄ら笑いで答える。
162 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/07(火) 19:50:26.27 ID:tH.lndoo
「おかしいな」
「あれだろ、カーテンを閉めてたから光の関係でそう見えただけじゃないのか?」
「そんな筈は……」
「前は風呂場で湯気を見間違えるし」
「んあぁ」
「で、出掛けたんじゃなかったのか?」
「いや、ハンカチ忘れて……」
「女子はいつでも身だしなみが大事だぞ」
「うん……」
「じゃ、行ってくるね」
「ああ、こけるなよ」
玄関のドアが閉まる音がし、月火が出て行った。
直ぐに、車の急ブレーキ音と鈍い音がした。
月火?まさか、車に轢かれる様なドジはしないだろう。
万が一怪我したとしても直ぐに治っちまうから心配は要らない。
163 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/07(火) 19:51:46.57 ID:tH.lndoo
「もう行ったみたいだぞ」
と、声を掛けたが忍が出てこない?
「おーい」
と、僕は自分の影を覗きこむ。
「お前様、ここじゃ」
背後から声がした。
「なんだ、もうそこに居たのか」
若干成長した忍、中学生ぐらいだろうか?
「もう少しだけ吸うぞ」
「え?」
僕の返答を待たず、忍が僕の首筋に吸いついた。
で、出来上がったのは余弦と手合わせをした時の忍。
「さて、今から服を作るか」
「服?」
「ああ、今日はお前様も暇そうなので、出掛ける」
「出掛けるって……まだ日が高いぞ」
「勿論、そんな事は分かっている」
「とりあえず目的地まではお前様一人で行けばよい」
「で、どこに行くんだ?」
「映画じゃ」
「ああ、成程。それなら何時でも問題ないな」
164 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/07(火) 19:52:38.16 ID:tH.lndoo
「そういう事じゃ」
「で、映画に行くぐらいで大きくなる必要があったのか?」
「そこじゃ。先日、お前様の巨大な方の妹と映画に行った折、儂は前が見えにくかったのじゃ」
「なんだ、見てたのか」
「当たり前じゃ。あんな面白い物を見ずに居られるか」
B級ホラーで、どうしようもなかったのだが……
忍の魂を揺さぶるような内容だったらしい。
忍はいつものように服を作る。
が、僕がデザインに文句を付ける。
「何が気に入らんのじゃ!」
「派手すぎるんだよ!」
「これぐらいで丁度じゃ!」
「幾らなんでも映画に行く格好じゃねえよ!」
「誰が映画だけと言った!」
「え?」
165 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/07(火) 19:53:40.16 ID:tH.lndoo
「映画が終わったら食事じゃ!」
「食事?」
「ああ、人間の食事じゃ。儂だってそういう事をしてみたい」
映画は良いとしよう。
が、食事となると、それなりに人目のある場所。
そんな所で金髪美人と歩けば、渦中の人から禍中の人になるのは必然。
こんな小さな町じゃ誰に逢うか分からない。
それでなくても、神原の一件で学校中の噂の人になったと言うのに!
「なんじゃ?何か不服か?お前様」
「いや、あまり目立つのは……」
「大丈夫じゃ。人前では結界を張る。伊達に小僧と数カ月過ごした訳じゃない」
結界を張るとか言う怪異、おかしいだろ!
「心配はいらん、そうそう人目には付かんからな」
なし崩し的に忍に丸めこまれた。
挙句、僕の服まで作りだす。
「これは着られないだろ?」
「着られないのではなく、着た事が無いだけじゃ」
「でも派手過ぎだろ?」
「今が地味すぎるだけじゃ。心配はいらん、結界を貼ればお前様も目立たん」
「なら、この服でも……」
「馬鹿者。儂の連れ添う相手がそんな地味では、儂のプライドが許さんわ」
「へーへーそうですか。そりゃあ、わるうござんす」
半ば諦め、半ば投げやりな返事をした僕。
「そうじゃ、今日は儂の言う事を聞けばいいのじゃ」
結局、忍の作った服に着替えた頃、時計の針は12時を少し越えた辺りになっていた。
167 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/07(火) 19:55:13.32 ID:tH.lndoo
002
布団を取り入れ、戸締りを確認し、財布をポケットにねじ込み僕は外へ出る。
もう秋だと言うのに今年は残暑が酷く、直ぐに汗ばむ。
忍の作った服は、薄手のジャケットに少し大きめな襟のシャツ、下はやや細めのスラックス、靴は皮靴。
とても僕が着る様な服ではなかった。
「ところでお前様、少し髪型を―――」
「そこまでしなきゃならないか?」
「まぁ、強制はせんが、その髪は少々うざい」
「お前がウザいというな!と、いうか短くすると色々と不都合もあるだろ、首の辺りとか」
「ああ、それはカモフラージュであったか、失敬」
大事な事を忘れるな。
「しかし、セットぐらいはしてもいいと思うぞ」
「そんなの無駄金だよ。2000円も払うならお前にドーナツを買ってやるよ」
「おお、その心意気は嬉しいが―――金が無いなら儂が作ってやろう」
「え?」
「何が『え?』だ。服が作れて、金が作れない訳なかろう」
「ああ。まぁそうだな。そりゃそうだ」
「ほれ、これを今日の糧にせい」
足元を見ると、帯付きの1万円札の束が落ちていた。
168 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/07(火) 19:56:16.47 ID:tH.lndoo
「おい、これは多過ぎるだろ!」
「なら、そこから必要な分だけ使え」
で、3万円頂きました。
ああ、これで僕も犯罪者か。
「言っておくが、それは本物ぞ。偽物ではないぞ」
本物と全く同じ偽物、どちらに値打ちがあるか―――貝木の問いか。
「でもお前が作ったんだよな?」
「そうじゃ、しかし、本物じゃ」
「でも番号は……」
「この世に存在しうる番号のコピーであるが、例え2枚並べたところで人間のもつ測定能力では違いは無い」
「うーん、しかしこんな事をすると日本中がインフレに―――」
「たかが100万でインフレなど起こるか!本気で日本銀行が100兆刷れば別じゃが」
また、なし崩し的に丸め込まれ、僕はありがたく使う事に。
「ではとりあえず、美容院だ」
忍に勧められるまま、近くの美容院へ。
で、人に逢いたくない時に限って、人に逢う。
169 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/07(火) 19:57:57.24 ID:tH.lndoo
「やぁ、阿良々木先輩。こんにちは」
神原駿河。
凡そ、美容院とは縁もゆかりも無さそうな人物だが。
「最近、髪を伸ばし始めてから半月に1度は綺麗にして貰っているんだ」
ショタのお姉さまは綺麗に、が基本ですか?
「まぁ、身嗜みは乙女の基本だからな」
その男言葉をまず直せ。
「で、阿良々木先輩が美容院とはどうした?病院と間違えたのか?」
「そんなベタな間違いをするのは八九寺ぐらいだ!」
「あはは、八九寺ちゃんなら今頃部屋で執筆中だ」
「何の執筆だよ?」
「ああ、今度二人で本を出す事にしたんだ。薄い本だけど、年末に」
僕には何の事か全く分からなかった。
「出来上がったら先輩にも1冊贈呈しよう」
「あ、有難う」
絶対に見てはイケない気がした。
170 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/07(火) 19:58:42.76 ID:tH.lndoo
で、僕の番。
切りはしないが、整えて貰う。
霧吹きで濡らされ、白い泡を塗りたくられ、櫛でとき、ドライヤーを当てられる。
トレードマークのアホ毛も抑えて貰い―――目元がハッキリと出る髪型。
「とてもよくお似合いですよ。いつもこの髪型にすれば如何ですか?」
と言われた髪型は、サイドを少し流した感じで爽やか系だった。
「おお、先輩。良く似あってますよ」と隣の席の神原に褒められる。
照れる。
プラチナヤバいぐらいに照れた。
「じゃ、神原お先に」
「ああ、しっかりとデート頑張ってください」
「いや、別に今日は……」
「ん?戦場ヶ原先輩とではないのか?」
「ああ、ちょっと私用で―――」
「そうなのか」
「じゃあな」
僕は店を後にし、映画館へ向かった。
ちなみに、美容院で神原が携帯電話を取り出した事には全く気付かなかった。
171 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/07(火) 20:00:34.57 ID:tH.lndoo
003
映画館に着いたが、今日は何を見るか?
「さて、どれにする?」
「どれとはどういう意味だ?」
「ああ、最近の映画館はマルチプレックスシアターと言って、いくつかの映画が上映されてるんだ」
「ほう、TVのチャンネルの様なものか」
「ん。まぁそんな感じ。みたい物を選べばいい」
「ほう。ならば、まずは前回ちゃんと見られなかった映画を―――」
「また見るのかよ!」
「儂は全部見られなかったのだ」
「分かったよ」
が、次は16時半開始。
「時間があり過ぎる。他のを見るか?」
「お前様、この映画館は幾らで借りられるのだ?」
「おい!幾らなんでも僕が大金持って、貸し切ろうとしたら疑われる!」
「そうか。仕方が無いのう」
「とりあえず、違う映画でも見ておかないか?」
「他は何がある?」
「洋画が2本、アニメが2本、邦画は2本。お?邦画でホラーがあるぞ」
「おお、それにしようぞ」
172 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/07(火) 20:02:17.87 ID:tH.lndoo
僕は窓口でチケットを2枚買った。
「お前様は馬鹿か?何故儂の分まで買う。中に入るまで影に居れば金は要らんだろうに」
ケチくせぇ!
というか、今の映画館は全席指定だ。
中に入って、また影から見るのかと忍に教えた。
「儂とした事が―――少々無知であった」
「まぁ気にするな」
僕は入場し、ドリンクとポップコーンを買い、席に着いた。
その暗がりの中で忍が現れる。
「ほら、これ」
僕は忍の分のチケットとジュースを渡す。
「おお、これが映画のチケットか!記念に大事にしておくぞ」
「ただの紙切れじゃないか」
「何を言う。儂の為にお前様が買ってくれたものだ、大事にするに決まっているであろう」
「金は忍のだけどな」
「金銭の問題ではないのだ」
「ちなみに、どこで保管するんだ?」
「影の中に決まっておる」
「あのさー、一つ聞いていい?」
「なんだ?」
「僕が買ったドーナツも影の中で保管しているのか?」
「かかか!お前様は馬鹿か?そんな物、直ぐに食べるに決まっているであろう」
「そ、そうだよな」
「だが、箱は取ってあるぞ」
「ちょっとまて!僕の影の中はどれだけ広いんだよ!」
173 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/07(火) 20:05:27.90 ID:tH.lndoo
「ん?それはほぼ無限大の広さじゃ。幾らでも物が置けるぞ」
まるで、猫型ロボットのポケットのようだ。
「しかし、だからと言って溜めこんだらゴミ屋敷みたいにならないか?」
「心配するでない。ゴミが出た時は、誰かの影に捨ておいておる」
「は?」
「お前様の影と誰かの影が交差する時、そちらに移しておるわ」
具体的に誰の影かと聞くのは止めにした。
何故か誰の影か、何となく分かってしまったから。
そんな他愛ない話をしているうちに上映時間となる。
映画は、まぁ楽しめる物だった。
ただ、忍が……
他のお客さんが悲鳴を上げる所で拳を握り「いけ!」と言ってみたり、
MOB的な小物妖怪に対し、「美味そうじゃ」と食いしんぼう万歳をやってみたり、
挙句、ボスキャラが倒されると「おのれ人間め!」と怒りを顕わにする。
僕にはそっちの方が楽しかった。
映画が終わると、一旦影に入りロビーへ出る。
直ぐに次の映画が始まる。
またチケットを買って入場し、席につく。
174 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/07(火) 20:06:33.85 ID:tH.lndoo
「お前様、先程食った白いのは無いのか?」
「ああ、ポップコーンか?買ってこようか?」
「そうしてくれるとありがたい」
僕は塩味とキャラメル味を買いこみ、席につく。
「これはなんじゃ?」
「さっきのは塩味だったので、今度はこれが良いかと思って」
忍にキャラメル味のポップコーンを差し出す。
それを一口頬張った途端―――
「うはー、これは美味い。甘い、甘いのぅ!」とバクバク食べる。
金髪女子がキャラメル味のポップコーンを歓喜して食らう図。
映画より面白いかもしれない。
で、上映前に空になったので、もう一度買いに走る。
今度はLLサイズにした。
「おお!これはまたデカイ。幾らじゃ?3万で足りたのか?」
「こんなもん、数100円しかしねえよ」
「何!これが1000円でおつりが出ると?恐ろしいのぉ人間の世界は」
今度から怪異にであったら「このポップコーン800円!」で逃げてくれるといいな。
で、そこから15分。いつの間にか僕は眠っていた。
175 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/07(火) 20:07:24.47 ID:tH.lndoo
「お前様、お前様」
「ん?」
「おわったぞ」
忍に起こされる。
「何故、これほど面白いのに眠るのじゃ?」
「あー、まぁ僕は2度目だしな」
「そうか。それは悪い事をしたな」
「いや、気にしなくていい。最近、お前に構ってやれなかったしな」
「そう言ってくれると、儂も嬉しいぞ」
今度は、そのままロビーに出た。
「時間は……あれ?」
「どうしたのじゃ?」
「いや、時間が気になって―――」
「時間は夜の7時じゃ」
「そうじゃなくて、携帯忘れた」
「どこに?」
「多分、家」
「なら、心配はいらんな」
「一応、家に電話しておくよ」
僕は公衆電話から家に電話する。
176 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/07(火) 20:08:28.14 ID:tH.lndoo
「はい、阿良々木です」
電話口に火憐が出た。
「あ、火憐ちゃん。兄ちゃんだけど」
「おお、兄ちゃん。どうした?」
「いや、今日な、遊びに出てるんだけど、少し遅くなるんで母さんに言っておいて」
「ガッテン承知のスケだ!」
またどこかで変な言葉を覚えてきたようだ。
「あ、それから。兄ちゃん、携帯忘れてんぞ」
「うん、そうなんだ。うっかり忘れてさ」
「何度も何度も電話が鳴って五月蠅かったから、電源切ったよ」
「え?」
「心配すんな、誰から架かって来たとか見てないから安心しろ」
いや、逆に安心できない。
というか、執拗に鳴らしているのに取らないと恐ろしい人が1名いる。
どうしよう?
電話を切って、少しため息をつく。
「お前様、どうした?何か問題か?」
「あ、いや、なんでもない。ただちょっとね」
忍は察したのかそうでないのか分からないが、それ以上は何も言わなかった。
177 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/09/07(火) 20:09:57.68 ID:tH.lndoo
映画館を出ると、外はもう真っ暗。
「さて、あとは食事だな。何が食べたいんだ?」
「うむ、店は決めてある」
「ん?そうなの?」
「儂も最近はインターネットとやらを始めたのでな。検索して調べた」
「待て。僕のパソコンを勝手に―――」
「心配するな。自作じゃ自作」
部品まで自作してそうだな。
忍が本気を出せば、地球上には存在しない速度のCPUまでも作れそうだ。
「しかし、マルチプレックスシアターを知らずに、ネットは知ってると謂うのも―――」
「何でもは知らん、知ってる事だけじゃ」
うん、カッコいい。
ちょっと忍に惚れた。
「儂も一度言ってみたかったのだ」
「まぁ、何かと便利だよな、その言葉」
「あのメス猫は最近元気か?」
「メス猫って……まぁ羽川なら元気だが」
「そうか。ならいい。儂的には殺めておきたいのだが」
「おいおい、物騒な事いうなよ」
「まぁ、1年もすれば―――」
「何?何かあるの?」
「まぁ、楽しみにすればいい」
僕には何の事か全く分からなかったのだが……
178 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/09/07(火) 20:11:06.22 ID:tH.lndoo
「で、店の場所はどっちだ?」
「こっちじゃ」
今日の忍はドレスのように派手な服にハイヒール。
それで透き通るような白い肌、輝く金髪。
すれ違う人が振り向かない訳は無い。
その横に僕。
歩いているうちに、忍が僕の腕に絡んできた。
「お前様、こうやって歩くのが若者の基本じゃな?」
「あー、まぁ交際しているなら」
「なら、問題ない。儂とお前様は一蓮托生。交際より深い絆で結ばれておる」
「あはは」
「それに娶って貰わねばならんしな、かかか」
忍はじゃれる様に話す。
そんな二人を皆が見る。
「なぁ、結界というのは効果あるのか?」
179 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/09/07(火) 20:12:00.96 ID:tH.lndoo
「なんじゃそれは?」
「は?」
「そんなもん張ったら、儂が動けんわ」
「お前、騙したな!」
が、後の祭り。
今更どうしようもない。
もう、メインストリートを500m近く歩いてしまった。
「さて、今日の店はここじゃ」
案内されたのは、高級そうなレストラン。
「イタリアンじゃ」
「待て。僕はこんな店で食事した事無いぞ?」
「なーに、イタリアンは気張らなくても大丈夫じゃ」
「そうなのか?」
「ああ、フランス料理のコースと違い、形式なんて無いに等しい」
少し安心した。
店に入り、席につく。
色々メニューにあるが、よく分からない。
「お前様、パスタは何でも大丈夫か?」
「ああ、一応好き嫌いは無い」
「そうか、なら大丈夫だ」
180 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/09/07(火) 20:13:26.11 ID:tH.lndoo
忍は店員にオーダーを伝える。
少しして、ワインが運ばれる。
「酒?」
「食前酒みたいなものだ、お前様」
忍は何の問題も無かったかのように、グラスを取り軽く上げる。
「お前様と儂の人生、いや一生に乾杯」
僕も連なり、復唱する。
「なぁ、お前様。こういう生活に憧れるか?」
「ん?あー、あまり良く分からない」
「前にも話したが、お前様の一生はいつまで続くか分からん」
「まぁ、早くて人並み。長ければ―――」
「そうじゃ。でな、儂は思う。どうせ生きるならお前さんの好きなように生きて欲しい」
「あ、うん」
「毎日美味い物を食って、好きな事をする。何も日本に居る必要は無い。日本で遊ぶ事が無くなれば、どこか海外に行けばいい」
「まぁ、悪い生活では無いとは思うんだけど―――」
「思うが?なんだ?」
「今の生活を今すぐ捨てるのは、出来ないかも知れない。いや、出来ない」
181 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/09/07(火) 20:15:43.29 ID:tH.lndoo
「はっはっ!流石、我があるじ様じゃ。本当にお前様は優しい。それに今の生活も自由に生きているとでも言いたいのであろう?」
「ああ、そうだな」
「では、こういう約束をしないか?」
アルコールが入った忍はいつも以上に饒舌だった。
「50年。50年だけ待とう。以後は儂と一緒に遊べ」
「50年?」
「ああ、50年じゃ。恐らくお前様は50年経っても今と殆ど変らぬ姿じゃろう」
「その頃迄にお前様の家族も周りも何かに気づく。勿論、お前様の妹の事も合わせてな」
「その時に打ち明けるのか?」
「打ち明ける必要は無い。死んでしまえと言う事だ。厳密には死んだと思わせればいい」
「小さな妹君の怪異も、その頃には妹君の身体から離れるであろうしな」
「え?」
「そもそも負荷が高いのじゃ、幾ら再生すると言っても、人間の身体に負荷を掛ける。
本来100年が関の山の身体を酷使すれば、その寿命も短くなる」
「月火はそんなに早く死ぬのか?」
「何を言う、長く生きて60数歳であるぞ。人間の寿命はそんなものであろう」
「確かに」
「儂らとは根本的に怪異としての成り立ちが違うのでな、奴の場合。故に眷族とは違うのだ」
「そっか」
182 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/09/07(火) 20:17:07.15 ID:tH.lndoo
「だから50年待つ」
「分かった。50年経てば親も居ないだろうしな」
「物分かりがいいな、お前様。あともう一つ―――」
「あと一つ?」
「ああ、あと一つ。憂いをなくせ」
「憂い?」
「世に子孫は残すでない。故に人間は娶るな。娶ればその子らが心配になる」
「え?独身でないと駄目なの?」
「そうじゃ。だからあのツンデレかツンドロか知らぬが、あの女子とも深い関係になってはならん」
「深い関係……」
「性交渉ぐらい好きにすれば良い。ただ、絶対に娶るでないぞ」
「それは……」
「それは?出来ぬか?」
「約束できない」
「ふん、まぁ慌てる事も無い。よく考えていてくれ。料理も来た。話はここまで」
「ああ」
それからは、今日見た映画の話や服の話で盛り上がる。
ここ最近味わう事が出来なかった『楽しさ』がそこにはあった。
食前酒と言いながら飲んだワインが程良く、僕を良い気分にさせる。
183 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/09/07(火) 20:18:04.95 ID:tH.lndoo
「お前様、この後はどこに連れて行ってくれるのじゃ?」
「ん?そうだなぁ、カラオケでもいくか?」
「おお、それは是非に。儂は行った事が無いでな」
500年生きても、日本の文化には疎い。
おまけに、若い世代の遊びなど知る筈も無いからな。
カラオケ店を目指し歩いていると、前からBLダッシュ(今はこう呼んでいる)で走ってきた神原に出会う。
「本日2回目だな」
「阿良々木先輩!探したぞ!」
「ん?何?」
「今、この一帯に阿良々木包囲網が敷かれている」
「何?どういう事だ!」
「戦場ヶ原先輩がお怒りだ」
「え?何で?」
「理由は知らない!でも探せと号令が下った」
「で、探していたのは神原だけだろ?」
「いや、今回は違う。私の後輩や人伝で探している」
「何それ。僕が何かしたか?」
「さぁ?その辺の事情は分からないんだ―――」
神原は携帯を取り出し電話を始めた。
その隙を見て僕は走り始めた。
184 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/09/07(火) 20:19:00.58 ID:tH.lndoo
「あ!逃げた!」
神原の声が響く。
僕は何故だか、逃げた。
大凡の見当はつく。
昼間に携帯に電話して来たのは戦場ヶ原。
それを五月蠅いからと火憐が切った。
戦場ヶ原はシカトされたと思い、使える全ての人脈を使い捜査中。
捕まれば……僕の体中に文房具が刺さるのは目に見えている。
「走るぞ、忍!」
「なんだか知らぬが、楽しそうじゃ」
ハイヒールを脱ぎ、裸足で駆ける忍。
僕はいつの間にか、忍に手を引かれるように走る。
人混みのお陰で神原を撒く事は出来たが、次に見つかればアウトだろう。
どこかに隠れる所は無いか?
185 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/09/07(火) 20:19:37.24 ID:tH.lndoo
「お前様、こっちじゃ」
忍に手を引かれ、どこかのビルに入った。
入った先はラブホテルだった。
「とりあえずここまでくれば大丈夫であろう」
「ああ、そうだな」
切れた息をしながら僕は返事をする。
「しかし、お前様にこんな所に連れ込まれるとは儂も驚いた」
「!!」
声にならなかった。
「嘘じゃ、冗談じゃ」
悪い冗談だ。
「ところでお前様、何故逃げた?ちゃんと事情を説明すれば良かったではないか?」
「お前の事、どう説明すんだよ!」
「ああ、儂か。儂の事は黙っていればよかろう。適当に影に隠れれば終わりじゃった」
「あ!」
確かに、忍がいなければ携帯を忘れたと言って終わりだった。
が、逃げてしまった今となってはもう遅い。
神原が今頃、全部報告しているだろう。
186 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/09/07(火) 20:20:38.78 ID:tH.lndoo
「はぁ、僕も影に隠れたいよ」
「ん?なんなら入るか?」
「え?入れるの?」
「勿論入れる」
「どうやって?」
「儂がお前様の影に入り、その手を引けば―――」
「ならそうしてくれよ」
「本当にいいのか?」
「え?何?何かあるの?」
「お前様が、お前様の影に入ればその影は消える。と言う事は、二度と出れん。儂と二人ずっと影の中じゃ」
「出られないの?」
「そうじゃ」
……
あまりに怖い話でそれ以上何も言えなかった。
「さて、それでは明日まで時間を潰すか、ここで」
「ここで?」
「今から出て、捕まって、尋問と言う拷問に逢いたいか?」
「いや」
「なら今夜は儂とここで過ごせばいい」
「ああ……」
結局、忍とここで逃避行の続きとなった。
187 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/09/07(火) 20:21:30.73 ID:tH.lndoo
黒
駒
エロは無い。作者風呂
188 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/07(火) 20:38:49.08 ID:tH.lndoo
初めてのホテルで、何も出来ない僕。ウロウロする忍。
「お前様、この自販機はなんだ?」
「それは―――」
家族計画、最近じゃそんな呼び名は滅多に聞かないが。
「まぁ、娶り防止用の帽子を売ってる」
「ほう。コンドームか」
「知ってるなら聞くな!」
「使った事あるのか?」
「無い!」
「使うか?」
「どこで!」
「ここで」
「いつ!」
「今から」
「誰と!」
「儂と」
とんでもない会話だ。
少し前のドーナツ談義からは想像も出来ない。
「で、何もせず過ごすのも退屈じゃろ?TVでも見るか?」
忍は何気にTVのスイッチを入れる。
突然AVが流れる。
「ほう。人の性交渉もわれらの性交渉も殆ど変らぬな」
「だれもそんな事、聞いてない!」
「独り言じゃ」
189 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/09/07(火) 20:39:50.42 ID:tH.lndoo
「このマイクはなんじゃ?」
「カラオケ」
「おお、ラブホテルにもカラオケがあるのか。お前様、始めるぞ」
僕は無理やりマイクを握らされる。
「ところで、どうやって歌うのじゃ?」
「まず、この本で歌いたい曲を探し、その番号を入れる。すると―――」
「なんじゃこの曲は?」
「my diaryっていう曲」
「知らんぞ」
「え?知らないの?」
「え?そんなに有名なのか?」
「オリコン初動1万枚越えたアルバムの表題曲なのに……」
「まぁ、知らぬ事もある。なにせ、何でもは知らぬからな」
「ああ。で、忍は何を歌いたい?」
「それがのう、知っている歌が無い」
そもそも忍自身、日本にずっといた訳でもなく、カルチャーに接し生きた訳でもない。
だから知っている歌が無くてもそれはおかしな事ではなかった。
英語表記のページをパラパラとめくり、指で曲名をなぞる。
すっと止まった所で、僕に番号を伝える。
「これなら歌えるぞ」
そう言って忍が歌ったのは、シューベルト第5曲『菩提樹』だった。
僕はその歌声に魅了され、聞き入る。
歌い終わった忍に拍手を送る。
190 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/09/07(火) 20:41:00.97 ID:tH.lndoo
「は、恥ずかしいから拍手などするでない!」
「いや、素晴らしかった」
「まぁ、この歌曲が流行った頃、儂もまだ若かったからな」
リアルタイムかよ!200年も前だぞ!
「まぁ、シューベルトなら魔王がお勧めだがな」
分からない。分からないから生きて帰れたらyoutubeで探してみるよ。
「カラオケも飽きたぞ」
「はや!」
「今日は良く遊んだし、これでお仕舞いでも良いのだが―――」
忍は僕の背中の向こうを見る。
「お前様、風呂に入りたい」
「は?あ、うん。分かった。用意してくる」
僕はバスルームへ行き、バスタブに湯を貯める。
蛇口から出る湯を見つめながら―――明日以降の言い訳を考えた。
「はぁ~」
小さくため息をつく。
「お前様、ため息は良くないぞ」
「うわ!」
突然背後から声を掛けられ驚く。
「何を驚いておる?ここには儂とお前様しか、いないではないか?」
191 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/09/07(火) 20:43:08.72 ID:tH.lndoo
「そうだけど……」
「湯は溜ったのか?おお、これは大きな風呂だな」
「まぁ、何故か大きいね」
「何故じゃ?」
「さぁ?」
「まぁいいわ。お前様も疲れたであろう?先に入れ」
「いや、忍の為に入れたんだし」
「良いから先に入れ!」
忍は僕の服に手を掛けると、消し去ってしまった!
「わっ!明日帰れない!」
「心配するでない、もう明日の服は用意しておいた」
部屋のソファーの上に新しい服が用意されていた。
「さて、それでは儂も」
「まて!一緒に入るのか?」
「何を今更。この間も一緒に入ったではないか?」
「えっと、この間は……その、小さくて……」
確かに、全てを曝け出したから恥ずかしいとは思わなかったのだが……
「小さくなくとも、この風呂のサイズなら儂ら二人でも十分なサイズではないか?」
「いや、そういう事じゃなく」
「遠慮はいらん、さぁ入れ」
僕はそのままバスタブに押し込まれた。
192 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/09/07(火) 20:45:04.94 ID:tH.lndoo
「はー、いい湯じゃ、なぁ我があるじ様よ」
「あ、うん」
「何を隅で小さくなっておるのじゃ?」
ええ小さくなっていますが、大きくもなっています。
「こっちに来て寛がんのか?」
「あ、うん」
「何をさっきから遠慮しておるのじゃ、あるじたるもの堂々とされよ」
忍は僕の手を引き、僕の身体を引き寄せる。
ちょうど足を伸ばした格好の忍に乗っかる形で。
「なぁ、お前様。今日の話は本気だぞ?」
「ん、うん。分かってる。分かってるから少し返事をするを待ってほしい」
「ああ、50年は待ってやるから心配するでない」
そういうと忍は僕の首筋を軽く噛んだ。
それは血を吸う為ではなく、ただ何かを伝える為に。
「50年待てないのであれば、今ここで全部吸えば良いだけの話だろ?」
「ほう。流石は我があるじ様。察しが良いのう」
「まぁ、最近まで鈍感な方だったが―――研ぎ澄まされてきたのかな?」
「魔王になる為にか?」
「さぁ、それはどうだろうか?」
「それより、お前様のお前様が魔王になっているのは気のせいか?」
「ぶっ!」
193 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/09/07(火) 20:46:29.80 ID:tH.lndoo
「成程。儂と一緒に入るのを拒んだのはこういう事だったか」
「すまん」
「別に謝る事は無い。儂もこの姿まで戻れば男を虜に出来る事が分かっただけでも収穫はあった」
「……」
「なんなら、今宵の夜伽は儂に任せるか?」
僕は全力で首を横に振った。
「あるじ様は―――かわいいな」
僕の肩を撫でる忍の手と普通言葉の語尾に耐えられず、つい立ちあがってしまう。
「洗う」
僕は風呂椅子に座り、素数を数えながらボディソープを泡だて、無心に体を擦った。
黙々と洗う僕を、バスタブから眺める忍。
僕は忍を直視できない、幼児体型の時は見れたのにな。
一応、普通の男だったという事か!
「さて、儂も逆上せそうじゃ」
と言いながら、忍はバスタブからあがる。
また僕の背後に立ち、言った。
「今日は儂が頭を洗ってやろう。戯れも必要だろ?」
そういうと、忍は僕の頭にシャワーをかけ、シャンプーをドッと乗せる。
「多くない?」
「なぁに、全部流せばいい」
細くやわらかい手が僕の頭皮を撫でる。
まるで、ピアノでも弾いているかのように小刻みに動かしながら。
194 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/09/07(火) 20:48:21.77 ID:tH.lndoo
「なぁ、お前様―――」
「いうな」
「察したか?」
「ああ。ちゃんと本気で考えてるから、もう今日はその話は無しだ」
「分かった、我があるじ様」
忍はシャワーを強くし、僕の頭を一気に流す。
頬を伝い、顎から流れ落ちる泡を僕は見つめていた。
「終わりじゃ」
「ああ、ありがとう。忍も洗ってやろうか?」
「いいのか?」
「いいぞ、遠慮するな」
「このシャンプーと言うのは本当に気持ちがいいのぉ」
「ああ、人が考え出した行為の中では至高だと僕は思うよ」
「至高か。それはまた大げさな」
「まぁ色々と精神的なリセットも出来るからな」
「リセットか……」
僕達は互いに逢わなければ……そんなリセットは要らない。
忍に逢えたという事が、今の僕には十分なぐらい有意義な毎日を送らせてくれる。
「はい、終わったぞ。今日は妹に覗かれる事がないが、僕は先に出る」
もう少し浸かりたいという忍を置いて、僕は先に出た。
195 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/09/07(火) 20:50:42.02 ID:tH.lndoo
髪を乾かし、備え付けのバスローブを身につけ、冷蔵庫からコーラを取り出し、ベッドでそれを飲みつつ、TVのニュースを見る。
色んなニュースが流れているが、僕のこの半年をニュースにしたら……視聴率100%かもしれないな。
ま、そんな番組、世界に一つしかないけどさ。
ゴロゴロしていると、忍も風呂から上がり、髪を乾かし、バスローブを纏い、ベッドに入ってきた。
「寝る」
一言、そう言って目を瞑ってしまった。
僕はTVの音声を限りなく下げ、忍が寝られるようにと配慮をする。
が、次に耳を引っ張られた。
「のう、お前様。儂が寝たと言うのに、何故何もせんのだ?」
「は?」
「普通は襲うモノであろう」
「ごめん、忍は襲えないよ」
「何も性交渉までしろとは言わんぞ?」
「は?」
「何が研ぎ澄まされただ!この鈍感!」
「いや、意味わかんねぇよ」
「お前様、寝ている妹にした事忘れたのか?」
あ、ああ。あ?
「いや、鬼畜の称号を得た行為だし、忘れないよ」
「何が鬼畜じゃ、鬼を名乗るには100年早いぞ!」
「言ったな!」
「よし、忍にもしてやろう!」
僕は忍に抱きつく。
「どんと来い!あるじ様」
どんと来いなんて言われると、ドン引きしてしまうじゃないか!
196 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/09/07(火) 20:52:53.37 ID:tH.lndoo
二人で笑ったあと、言葉が途切れた。
僕は忍にキスをし、言った。
「おやすみ、忍」
忍は僕の手を握り、そのまま深い眠りに就いた。
そんな忍を見た後、僕はゆっくりと一人で反省会を開いた。
で、そのまま夢の中に墜ちた。
197 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/09/07(火) 20:54:30.40 ID:tH.lndoo
朝、目覚めると忍の姿は無かった。
既に影の中で眠っているのか?
と思いきや、ベッドの反対側に落ちて、床で寝ていた。
「おーい忍、そろそろ帰る時間だぞ」
「うぬ?もうそんな時間か?久しぶりに夜寝してしまったわ」
「まぁ、たまにはいいもんだろ?」
「まぁ、お前様が襲ってくるかと期待しておったんだが、空振りのようだな」
「何を言う。今まで爆睡してたのに」
僕は着替え、忍は影に潜み部屋を出る。
外は既に人通りがあり、結構な時間だった。
開店直後のミスタードーナツへ寄り、朝飯を取る。
それから、家に向かう。
が、ついに捕獲された。
「暦お兄ちゃん捕まえた!」
千石だった。
「あれ?千石何やってんの?」
「え?暦お兄ちゃんの捕獲」
「いつから?」
「朝から」
「へー」
「他の人は一晩中探してたみたいだよ?」
一気に背筋が凍った。
僕を左手で掴み、右手で携帯を操作する千石。
5分もしないうちに神原到着。
そしてその1分後、右手に携帯、左手に三角定規をもった戦場ヶ原が来た。
198 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/09/07(火) 20:55:15.08 ID:tH.lndoo
「あら?阿良々木君でなくて?」
「はい!おはようございます」
「昨日、自宅に携帯忘れたそうね」
「はい!忘れました!」
「で、用があったので皆で探したんだけど」
「はい、有難うございます!」
「見つけた途端、逃げたわよね」
「はい、逃げました!」
「その理由、言いたい?」
「はい、説明させてくださ―――」
三角定規の角が頬に刺さった。
全部言う前に刺さった。
勿論、そのまま終わる事も無く、神原に抱えられ戦場ヶ原の家に連れて行かれ、夕方まで正座したまま、説教された。
「で、もう一度聞くけど、金髪女は誰なの?」
「しりません」
「知らない女とどこに行ってたのかしら?」
「しりません」
「自分の事でしょ?」
「覚えていません」
「阿良々木君、公認の取り消し忘れていないわよね?」
「はい。だから神原とは遊んでいません」
199 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/09/07(火) 20:58:13.32 ID:tH.lndoo
「だから他の女と遊んだと言う事ね。ちなみに、私―――浮気には非常に厳しいから、覚悟しなさい!」
「へ?」
ボコボコだった。
あー逃げたい、本当にこの女から逃げたい。
ちょっと前までは寛容だとか言ってたくせに!
50年待たなくていい、50秒で答えが出るわ!
ふらふらになった頃、影から声がした。
「お前様、開いておるぞ?逃げ込むか?」
流石に、この状況では逃げ込みたかったが、その先にある恐ろしさと戦場ヶ原の恐怖を天秤に掛けたら……
「Incomparable」だったので、そのまま耐えた。
ありとあらゆる文房具で責められ、僕はズタボロになった。
というか、またしても失神してしまった。
200 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/09/07(火) 21:09:40.54 ID:tH.lndoo
で、今回のオチ
オチなんてねぇよ!って感じのオチ。
ほんの少し、遊んだだけで死線を彷徨った!
回復が間に合わないぐらいに!
前日に忍へ血をやっていなかったら確実に死んでた。
というか、戦場ヶ原が病んだ。
病的な攻撃をしやがった!
影の中の忍が飛び出す一歩手前まで。
翌日学校に行ったら、既に金髪外人女性の話でもちきり。
というか、町中の噂。
職員室にも呼び出されるし、休み時間ごとに教室の前には人集り。
羽川には「良い御身分ね。えっと英語の勉強でもしていたの?ネイティブに習うなんて、いい「ゴミ」分ね」と嫌味を言われる。
そして、人集りを利用した戦場ヶ原が僕にベタベタする。
「ねぇ、阿良々木君、放課後デートにカラオケ行きましょうね」と大声で言いながら、ベタベタする。
人前でデレて、彼女宣言。
病んだり、デレたり。
あれ?こういうのってなんとかって言うんだったよな?
昨日、脳が損傷するまで暴行受けたので思いだせないや。
で、忍が今日も言う。
「お前様、儂の予定は空いておるでな、来週も映画に行きたいぞ」と。
50秒だけ考えさせてくれ!
おわり
204 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/07(火) 21:23:07.85 ID:tH.lndoo [46/46]
金髪美女話を聞いた千石ちゃんが暴走とかあってもいいよね?
プロローグ
先日の騒動の後、公認の取り消しをいただいた僕は、する事もなく家でゴロゴロとしていた。
本当なら、受験勉強をしなければいけないのだが。
どうやら僕に勉強をさせたくない人が居るらしい。
受験勉強では物語が進まないらしい。
規定事項―――既にそういう路線で原作は進んでいるのに、規定が捻じ曲げられ勉強をする必要が無い。
いいよな、人生の焼き直し。
出来たら、どこからやり直させて貰おうか?
バナナの皮を捨てた奴をとっ捕まえようか?
そうすれば……いや、意味が無いな。
どこまで遡っても意味が無い。
結局は、都合の良い様に直近のごく一部の事だけ修正され、僕は自堕落な休日の朝を過ごす。
まぁ、そういう日があってもいいじゃないか―――と、楽天的性格な僕はその設定を甘受する。
157 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/07(火) 19:45:49.94 ID:tH.lndoo
001
「兄ちゃん!お布団干すから、布団から出なさいよ!」
火憐が僕を叩き起こしに来る。
勿論、月火も一緒だ。
(月火居なかったら押し倒してやるのに!)
「お兄ちゃん、私が居なかったら火憐ちゃんを布団の中に引き込んだりする心算でしょ?」
「ば、馬鹿な事いうなよ!僕がそんな事する訳ないだろ!」
(あぶねー!バレてる!)
「お兄ちゃんって―――私より火憐ちゃんの方が可愛い訳?」
「そんな事無いよ。妹はどっちも可愛いよ」
「ふーん。何か火憐ちゃんばかり可愛がっている様に思えるんだけど?」
「いや、それは月火ちゃんの考え過ぎ。まぁ、僕に対する接し方の違いで―――」
「ちょっとロープ買ってくる!」
「おーい月火ちゃん!色々と間違ってるよ、僕はそういうの趣味じゃないから!」
「じゃ、兄ちゃん布団は貰っていくぞ。あと、パジャマも洗いにだしてよ。今からママと出掛けるんだから」
「はいはい」
158 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/07(火) 19:46:54.87 ID:tH.lndoo
僕はベッドから抜け出し、着替えてパジャマを洗濯機に投入し、リビングでコーヒーを貰う。
「暦、今日どこかに出掛けるの?」
「いや、今のところ予定なし。それより今日はどこへ?」
「二人の服を買いにね」
「ふーん、分かった」
「じゃあ、留守番宜しく。あと、出掛けるなら布団は取りこんでおいてよ?」
「うん、分かった」
母さん、会話で初登場。
誰得って話。
もし、僕の人生がアニメ化されたのなら、母の声は生天目という人がいい。
まちがっても、おとぎ話のナレーションや写真部部長の人は勘弁。
と、今日の僕は誰と何の話をしているんだ?
母さんとの会話を終えるや否や、火憐と月火が「待ってました」と言わんばかりに、母さんの脇に立ち、僕に手を振る。
「ちゃんと母さんの言う事聞くんだぞ」
いつの間にか、父さんのポジションを奪う僕。
「兄ちゃん、お土産はケーキでいい?」
「いや、出来たらドーナツがいいな」
「ん?ドーナツなら冷蔵庫に入ってるよ」
「そっか、ならドーナツで」
「どんだけドーナツ好きなのよ、太るよ?」
「お兄ちゃん、最近筋肉質だからって、糖分摂って緩める気じゃない?」
月火、そんな奴はあまりいないと思うぞ。
159 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/07(火) 19:47:35.08 ID:tH.lndoo
台風一過。
妹達が出掛けた後、リビングに静寂が戻る。
「お前様、今日は機嫌がいいのか?さっきからツラツラと独り言をいいおって」
僕の影から声がした。
「忍!久しぶりだな!ここ最近―――あれから全然話してくれないから心配したじゃないか!」
「まぁ、儂もたまには反省するからな。それよりカーテンを閉めてくれないか?」
「ちょっとまてよ」
僕はリビングカーテンを2重に閉じ、部屋の電気を消す。
「何も電灯まで消す必要はないのじゃぞ?」
「ああ、一応。どのくらい太陽光が入るか分かるだろ?」
「親切な事だな」
忍が影からひょいと姿を出す。
「それよりお前様、冷蔵庫を開けるといい事があるぞ」
「いい事がありそうだな」
僕はキッチンへ向かい、冷蔵庫を開ける。
そこには、ミスタードーナツの箱があった。
手に取り、リビングへ戻る。
160 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/07(火) 19:48:23.63 ID:tH.lndoo
「忍、これだろ?」
「おお!おお!それじゃ!」
「本当にお前はドーナツが好きだな」
「この世で―――人間界の食べ物ではこれが一番うまい」
「でも、本来は人間の血や怪異を食らうだろ?」
「まぁそうじゃが。例えるなら、儂が一番好きなトカゲの怪異の味に良く似ておる」
「ええー、トカゲの怪異ってのはドーナツの味がするのか!」
「うむ。甘い味がするのじゃ」
「へー、それ嘘だろ?」
「ふはは、なんならおまえ様も一度食うてみるか?」
「結構です」
本当のところは良く分からないが、忍の機嫌が良かったので僕はそれで納得した。
「ところで、お前様。最近、血を吸っていないので、そろそろお願いできるか?」
「ああ、僕も気になってたんだ」
「先日、一滴だけ飲んだが―――物足りんわ」
「そりゃそうだな」
僕は忍を抱きかかえる。
忍はゆっくりと僕の首筋に食らいつく。
161 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/07(火) 19:49:43.55 ID:tH.lndoo
「今日は―――少し多めにいただくぞ」
「ん?何かあるのか?」
「いや、少し間隔が開いたのでな」
「あれだけドーナツ食った後にかよ!」
「甘いのは別腹じゃ」
「どっかのOLみたいな事いってんじゃねーよ」
まぁ、多少なら問題は無い、多少なら。
ただあまり飲みすぎると、育ち過ぎるので注意だ。
忍が僕の首に吸いついていると、リビングのドアが開く。
何故か僕の家のドアが不意に開くと、そこには月火が立っている。
「んあ?」
顎でも外したか?という擬態音と共に、月火はドアを閉める。
数秒後に金属バットを携え、リビングに戻ってきた。
が、忍は既に影の中。
「兄ちゃん、今金髪の女の子と抱き合ってなかった?」
「月火ちゃん、よくその話するけど……金髪コンプレックスか?」
「いや、マジで今居たし」
「いねぇよ」と僕は薄ら笑いで答える。
162 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/07(火) 19:50:26.27 ID:tH.lndoo
「おかしいな」
「あれだろ、カーテンを閉めてたから光の関係でそう見えただけじゃないのか?」
「そんな筈は……」
「前は風呂場で湯気を見間違えるし」
「んあぁ」
「で、出掛けたんじゃなかったのか?」
「いや、ハンカチ忘れて……」
「女子はいつでも身だしなみが大事だぞ」
「うん……」
「じゃ、行ってくるね」
「ああ、こけるなよ」
玄関のドアが閉まる音がし、月火が出て行った。
直ぐに、車の急ブレーキ音と鈍い音がした。
月火?まさか、車に轢かれる様なドジはしないだろう。
万が一怪我したとしても直ぐに治っちまうから心配は要らない。
163 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/07(火) 19:51:46.57 ID:tH.lndoo
「もう行ったみたいだぞ」
と、声を掛けたが忍が出てこない?
「おーい」
と、僕は自分の影を覗きこむ。
「お前様、ここじゃ」
背後から声がした。
「なんだ、もうそこに居たのか」
若干成長した忍、中学生ぐらいだろうか?
「もう少しだけ吸うぞ」
「え?」
僕の返答を待たず、忍が僕の首筋に吸いついた。
で、出来上がったのは余弦と手合わせをした時の忍。
「さて、今から服を作るか」
「服?」
「ああ、今日はお前様も暇そうなので、出掛ける」
「出掛けるって……まだ日が高いぞ」
「勿論、そんな事は分かっている」
「とりあえず目的地まではお前様一人で行けばよい」
「で、どこに行くんだ?」
「映画じゃ」
「ああ、成程。それなら何時でも問題ないな」
164 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/07(火) 19:52:38.16 ID:tH.lndoo
「そういう事じゃ」
「で、映画に行くぐらいで大きくなる必要があったのか?」
「そこじゃ。先日、お前様の巨大な方の妹と映画に行った折、儂は前が見えにくかったのじゃ」
「なんだ、見てたのか」
「当たり前じゃ。あんな面白い物を見ずに居られるか」
B級ホラーで、どうしようもなかったのだが……
忍の魂を揺さぶるような内容だったらしい。
忍はいつものように服を作る。
が、僕がデザインに文句を付ける。
「何が気に入らんのじゃ!」
「派手すぎるんだよ!」
「これぐらいで丁度じゃ!」
「幾らなんでも映画に行く格好じゃねえよ!」
「誰が映画だけと言った!」
「え?」
165 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/07(火) 19:53:40.16 ID:tH.lndoo
「映画が終わったら食事じゃ!」
「食事?」
「ああ、人間の食事じゃ。儂だってそういう事をしてみたい」
映画は良いとしよう。
が、食事となると、それなりに人目のある場所。
そんな所で金髪美人と歩けば、渦中の人から禍中の人になるのは必然。
こんな小さな町じゃ誰に逢うか分からない。
それでなくても、神原の一件で学校中の噂の人になったと言うのに!
「なんじゃ?何か不服か?お前様」
「いや、あまり目立つのは……」
「大丈夫じゃ。人前では結界を張る。伊達に小僧と数カ月過ごした訳じゃない」
結界を張るとか言う怪異、おかしいだろ!
「心配はいらん、そうそう人目には付かんからな」
なし崩し的に忍に丸めこまれた。
挙句、僕の服まで作りだす。
「これは着られないだろ?」
「着られないのではなく、着た事が無いだけじゃ」
「でも派手過ぎだろ?」
「今が地味すぎるだけじゃ。心配はいらん、結界を貼ればお前様も目立たん」
「なら、この服でも……」
「馬鹿者。儂の連れ添う相手がそんな地味では、儂のプライドが許さんわ」
「へーへーそうですか。そりゃあ、わるうござんす」
半ば諦め、半ば投げやりな返事をした僕。
「そうじゃ、今日は儂の言う事を聞けばいいのじゃ」
結局、忍の作った服に着替えた頃、時計の針は12時を少し越えた辺りになっていた。
167 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/07(火) 19:55:13.32 ID:tH.lndoo
002
布団を取り入れ、戸締りを確認し、財布をポケットにねじ込み僕は外へ出る。
もう秋だと言うのに今年は残暑が酷く、直ぐに汗ばむ。
忍の作った服は、薄手のジャケットに少し大きめな襟のシャツ、下はやや細めのスラックス、靴は皮靴。
とても僕が着る様な服ではなかった。
「ところでお前様、少し髪型を―――」
「そこまでしなきゃならないか?」
「まぁ、強制はせんが、その髪は少々うざい」
「お前がウザいというな!と、いうか短くすると色々と不都合もあるだろ、首の辺りとか」
「ああ、それはカモフラージュであったか、失敬」
大事な事を忘れるな。
「しかし、セットぐらいはしてもいいと思うぞ」
「そんなの無駄金だよ。2000円も払うならお前にドーナツを買ってやるよ」
「おお、その心意気は嬉しいが―――金が無いなら儂が作ってやろう」
「え?」
「何が『え?』だ。服が作れて、金が作れない訳なかろう」
「ああ。まぁそうだな。そりゃそうだ」
「ほれ、これを今日の糧にせい」
足元を見ると、帯付きの1万円札の束が落ちていた。
168 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/07(火) 19:56:16.47 ID:tH.lndoo
「おい、これは多過ぎるだろ!」
「なら、そこから必要な分だけ使え」
で、3万円頂きました。
ああ、これで僕も犯罪者か。
「言っておくが、それは本物ぞ。偽物ではないぞ」
本物と全く同じ偽物、どちらに値打ちがあるか―――貝木の問いか。
「でもお前が作ったんだよな?」
「そうじゃ、しかし、本物じゃ」
「でも番号は……」
「この世に存在しうる番号のコピーであるが、例え2枚並べたところで人間のもつ測定能力では違いは無い」
「うーん、しかしこんな事をすると日本中がインフレに―――」
「たかが100万でインフレなど起こるか!本気で日本銀行が100兆刷れば別じゃが」
また、なし崩し的に丸め込まれ、僕はありがたく使う事に。
「ではとりあえず、美容院だ」
忍に勧められるまま、近くの美容院へ。
で、人に逢いたくない時に限って、人に逢う。
169 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/07(火) 19:57:57.24 ID:tH.lndoo
「やぁ、阿良々木先輩。こんにちは」
神原駿河。
凡そ、美容院とは縁もゆかりも無さそうな人物だが。
「最近、髪を伸ばし始めてから半月に1度は綺麗にして貰っているんだ」
ショタのお姉さまは綺麗に、が基本ですか?
「まぁ、身嗜みは乙女の基本だからな」
その男言葉をまず直せ。
「で、阿良々木先輩が美容院とはどうした?病院と間違えたのか?」
「そんなベタな間違いをするのは八九寺ぐらいだ!」
「あはは、八九寺ちゃんなら今頃部屋で執筆中だ」
「何の執筆だよ?」
「ああ、今度二人で本を出す事にしたんだ。薄い本だけど、年末に」
僕には何の事か全く分からなかった。
「出来上がったら先輩にも1冊贈呈しよう」
「あ、有難う」
絶対に見てはイケない気がした。
170 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/07(火) 19:58:42.76 ID:tH.lndoo
で、僕の番。
切りはしないが、整えて貰う。
霧吹きで濡らされ、白い泡を塗りたくられ、櫛でとき、ドライヤーを当てられる。
トレードマークのアホ毛も抑えて貰い―――目元がハッキリと出る髪型。
「とてもよくお似合いですよ。いつもこの髪型にすれば如何ですか?」
と言われた髪型は、サイドを少し流した感じで爽やか系だった。
「おお、先輩。良く似あってますよ」と隣の席の神原に褒められる。
照れる。
プラチナヤバいぐらいに照れた。
「じゃ、神原お先に」
「ああ、しっかりとデート頑張ってください」
「いや、別に今日は……」
「ん?戦場ヶ原先輩とではないのか?」
「ああ、ちょっと私用で―――」
「そうなのか」
「じゃあな」
僕は店を後にし、映画館へ向かった。
ちなみに、美容院で神原が携帯電話を取り出した事には全く気付かなかった。
171 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/07(火) 20:00:34.57 ID:tH.lndoo
003
映画館に着いたが、今日は何を見るか?
「さて、どれにする?」
「どれとはどういう意味だ?」
「ああ、最近の映画館はマルチプレックスシアターと言って、いくつかの映画が上映されてるんだ」
「ほう、TVのチャンネルの様なものか」
「ん。まぁそんな感じ。みたい物を選べばいい」
「ほう。ならば、まずは前回ちゃんと見られなかった映画を―――」
「また見るのかよ!」
「儂は全部見られなかったのだ」
「分かったよ」
が、次は16時半開始。
「時間があり過ぎる。他のを見るか?」
「お前様、この映画館は幾らで借りられるのだ?」
「おい!幾らなんでも僕が大金持って、貸し切ろうとしたら疑われる!」
「そうか。仕方が無いのう」
「とりあえず、違う映画でも見ておかないか?」
「他は何がある?」
「洋画が2本、アニメが2本、邦画は2本。お?邦画でホラーがあるぞ」
「おお、それにしようぞ」
172 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/07(火) 20:02:17.87 ID:tH.lndoo
僕は窓口でチケットを2枚買った。
「お前様は馬鹿か?何故儂の分まで買う。中に入るまで影に居れば金は要らんだろうに」
ケチくせぇ!
というか、今の映画館は全席指定だ。
中に入って、また影から見るのかと忍に教えた。
「儂とした事が―――少々無知であった」
「まぁ気にするな」
僕は入場し、ドリンクとポップコーンを買い、席に着いた。
その暗がりの中で忍が現れる。
「ほら、これ」
僕は忍の分のチケットとジュースを渡す。
「おお、これが映画のチケットか!記念に大事にしておくぞ」
「ただの紙切れじゃないか」
「何を言う。儂の為にお前様が買ってくれたものだ、大事にするに決まっているであろう」
「金は忍のだけどな」
「金銭の問題ではないのだ」
「ちなみに、どこで保管するんだ?」
「影の中に決まっておる」
「あのさー、一つ聞いていい?」
「なんだ?」
「僕が買ったドーナツも影の中で保管しているのか?」
「かかか!お前様は馬鹿か?そんな物、直ぐに食べるに決まっているであろう」
「そ、そうだよな」
「だが、箱は取ってあるぞ」
「ちょっとまて!僕の影の中はどれだけ広いんだよ!」
173 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/07(火) 20:05:27.90 ID:tH.lndoo
「ん?それはほぼ無限大の広さじゃ。幾らでも物が置けるぞ」
まるで、猫型ロボットのポケットのようだ。
「しかし、だからと言って溜めこんだらゴミ屋敷みたいにならないか?」
「心配するでない。ゴミが出た時は、誰かの影に捨ておいておる」
「は?」
「お前様の影と誰かの影が交差する時、そちらに移しておるわ」
具体的に誰の影かと聞くのは止めにした。
何故か誰の影か、何となく分かってしまったから。
そんな他愛ない話をしているうちに上映時間となる。
映画は、まぁ楽しめる物だった。
ただ、忍が……
他のお客さんが悲鳴を上げる所で拳を握り「いけ!」と言ってみたり、
MOB的な小物妖怪に対し、「美味そうじゃ」と食いしんぼう万歳をやってみたり、
挙句、ボスキャラが倒されると「おのれ人間め!」と怒りを顕わにする。
僕にはそっちの方が楽しかった。
映画が終わると、一旦影に入りロビーへ出る。
直ぐに次の映画が始まる。
またチケットを買って入場し、席につく。
174 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/07(火) 20:06:33.85 ID:tH.lndoo
「お前様、先程食った白いのは無いのか?」
「ああ、ポップコーンか?買ってこようか?」
「そうしてくれるとありがたい」
僕は塩味とキャラメル味を買いこみ、席につく。
「これはなんじゃ?」
「さっきのは塩味だったので、今度はこれが良いかと思って」
忍にキャラメル味のポップコーンを差し出す。
それを一口頬張った途端―――
「うはー、これは美味い。甘い、甘いのぅ!」とバクバク食べる。
金髪女子がキャラメル味のポップコーンを歓喜して食らう図。
映画より面白いかもしれない。
で、上映前に空になったので、もう一度買いに走る。
今度はLLサイズにした。
「おお!これはまたデカイ。幾らじゃ?3万で足りたのか?」
「こんなもん、数100円しかしねえよ」
「何!これが1000円でおつりが出ると?恐ろしいのぉ人間の世界は」
今度から怪異にであったら「このポップコーン800円!」で逃げてくれるといいな。
で、そこから15分。いつの間にか僕は眠っていた。
175 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/07(火) 20:07:24.47 ID:tH.lndoo
「お前様、お前様」
「ん?」
「おわったぞ」
忍に起こされる。
「何故、これほど面白いのに眠るのじゃ?」
「あー、まぁ僕は2度目だしな」
「そうか。それは悪い事をしたな」
「いや、気にしなくていい。最近、お前に構ってやれなかったしな」
「そう言ってくれると、儂も嬉しいぞ」
今度は、そのままロビーに出た。
「時間は……あれ?」
「どうしたのじゃ?」
「いや、時間が気になって―――」
「時間は夜の7時じゃ」
「そうじゃなくて、携帯忘れた」
「どこに?」
「多分、家」
「なら、心配はいらんな」
「一応、家に電話しておくよ」
僕は公衆電話から家に電話する。
176 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/07(火) 20:08:28.14 ID:tH.lndoo
「はい、阿良々木です」
電話口に火憐が出た。
「あ、火憐ちゃん。兄ちゃんだけど」
「おお、兄ちゃん。どうした?」
「いや、今日な、遊びに出てるんだけど、少し遅くなるんで母さんに言っておいて」
「ガッテン承知のスケだ!」
またどこかで変な言葉を覚えてきたようだ。
「あ、それから。兄ちゃん、携帯忘れてんぞ」
「うん、そうなんだ。うっかり忘れてさ」
「何度も何度も電話が鳴って五月蠅かったから、電源切ったよ」
「え?」
「心配すんな、誰から架かって来たとか見てないから安心しろ」
いや、逆に安心できない。
というか、執拗に鳴らしているのに取らないと恐ろしい人が1名いる。
どうしよう?
電話を切って、少しため息をつく。
「お前様、どうした?何か問題か?」
「あ、いや、なんでもない。ただちょっとね」
忍は察したのかそうでないのか分からないが、それ以上は何も言わなかった。
177 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/09/07(火) 20:09:57.68 ID:tH.lndoo
映画館を出ると、外はもう真っ暗。
「さて、あとは食事だな。何が食べたいんだ?」
「うむ、店は決めてある」
「ん?そうなの?」
「儂も最近はインターネットとやらを始めたのでな。検索して調べた」
「待て。僕のパソコンを勝手に―――」
「心配するな。自作じゃ自作」
部品まで自作してそうだな。
忍が本気を出せば、地球上には存在しない速度のCPUまでも作れそうだ。
「しかし、マルチプレックスシアターを知らずに、ネットは知ってると謂うのも―――」
「何でもは知らん、知ってる事だけじゃ」
うん、カッコいい。
ちょっと忍に惚れた。
「儂も一度言ってみたかったのだ」
「まぁ、何かと便利だよな、その言葉」
「あのメス猫は最近元気か?」
「メス猫って……まぁ羽川なら元気だが」
「そうか。ならいい。儂的には殺めておきたいのだが」
「おいおい、物騒な事いうなよ」
「まぁ、1年もすれば―――」
「何?何かあるの?」
「まぁ、楽しみにすればいい」
僕には何の事か全く分からなかったのだが……
178 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/09/07(火) 20:11:06.22 ID:tH.lndoo
「で、店の場所はどっちだ?」
「こっちじゃ」
今日の忍はドレスのように派手な服にハイヒール。
それで透き通るような白い肌、輝く金髪。
すれ違う人が振り向かない訳は無い。
その横に僕。
歩いているうちに、忍が僕の腕に絡んできた。
「お前様、こうやって歩くのが若者の基本じゃな?」
「あー、まぁ交際しているなら」
「なら、問題ない。儂とお前様は一蓮托生。交際より深い絆で結ばれておる」
「あはは」
「それに娶って貰わねばならんしな、かかか」
忍はじゃれる様に話す。
そんな二人を皆が見る。
「なぁ、結界というのは効果あるのか?」
179 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/09/07(火) 20:12:00.96 ID:tH.lndoo
「なんじゃそれは?」
「は?」
「そんなもん張ったら、儂が動けんわ」
「お前、騙したな!」
が、後の祭り。
今更どうしようもない。
もう、メインストリートを500m近く歩いてしまった。
「さて、今日の店はここじゃ」
案内されたのは、高級そうなレストラン。
「イタリアンじゃ」
「待て。僕はこんな店で食事した事無いぞ?」
「なーに、イタリアンは気張らなくても大丈夫じゃ」
「そうなのか?」
「ああ、フランス料理のコースと違い、形式なんて無いに等しい」
少し安心した。
店に入り、席につく。
色々メニューにあるが、よく分からない。
「お前様、パスタは何でも大丈夫か?」
「ああ、一応好き嫌いは無い」
「そうか、なら大丈夫だ」
180 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/09/07(火) 20:13:26.11 ID:tH.lndoo
忍は店員にオーダーを伝える。
少しして、ワインが運ばれる。
「酒?」
「食前酒みたいなものだ、お前様」
忍は何の問題も無かったかのように、グラスを取り軽く上げる。
「お前様と儂の人生、いや一生に乾杯」
僕も連なり、復唱する。
「なぁ、お前様。こういう生活に憧れるか?」
「ん?あー、あまり良く分からない」
「前にも話したが、お前様の一生はいつまで続くか分からん」
「まぁ、早くて人並み。長ければ―――」
「そうじゃ。でな、儂は思う。どうせ生きるならお前さんの好きなように生きて欲しい」
「あ、うん」
「毎日美味い物を食って、好きな事をする。何も日本に居る必要は無い。日本で遊ぶ事が無くなれば、どこか海外に行けばいい」
「まぁ、悪い生活では無いとは思うんだけど―――」
「思うが?なんだ?」
「今の生活を今すぐ捨てるのは、出来ないかも知れない。いや、出来ない」
181 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/09/07(火) 20:15:43.29 ID:tH.lndoo
「はっはっ!流石、我があるじ様じゃ。本当にお前様は優しい。それに今の生活も自由に生きているとでも言いたいのであろう?」
「ああ、そうだな」
「では、こういう約束をしないか?」
アルコールが入った忍はいつも以上に饒舌だった。
「50年。50年だけ待とう。以後は儂と一緒に遊べ」
「50年?」
「ああ、50年じゃ。恐らくお前様は50年経っても今と殆ど変らぬ姿じゃろう」
「その頃迄にお前様の家族も周りも何かに気づく。勿論、お前様の妹の事も合わせてな」
「その時に打ち明けるのか?」
「打ち明ける必要は無い。死んでしまえと言う事だ。厳密には死んだと思わせればいい」
「小さな妹君の怪異も、その頃には妹君の身体から離れるであろうしな」
「え?」
「そもそも負荷が高いのじゃ、幾ら再生すると言っても、人間の身体に負荷を掛ける。
本来100年が関の山の身体を酷使すれば、その寿命も短くなる」
「月火はそんなに早く死ぬのか?」
「何を言う、長く生きて60数歳であるぞ。人間の寿命はそんなものであろう」
「確かに」
「儂らとは根本的に怪異としての成り立ちが違うのでな、奴の場合。故に眷族とは違うのだ」
「そっか」
182 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/09/07(火) 20:17:07.15 ID:tH.lndoo
「だから50年待つ」
「分かった。50年経てば親も居ないだろうしな」
「物分かりがいいな、お前様。あともう一つ―――」
「あと一つ?」
「ああ、あと一つ。憂いをなくせ」
「憂い?」
「世に子孫は残すでない。故に人間は娶るな。娶ればその子らが心配になる」
「え?独身でないと駄目なの?」
「そうじゃ。だからあのツンデレかツンドロか知らぬが、あの女子とも深い関係になってはならん」
「深い関係……」
「性交渉ぐらい好きにすれば良い。ただ、絶対に娶るでないぞ」
「それは……」
「それは?出来ぬか?」
「約束できない」
「ふん、まぁ慌てる事も無い。よく考えていてくれ。料理も来た。話はここまで」
「ああ」
それからは、今日見た映画の話や服の話で盛り上がる。
ここ最近味わう事が出来なかった『楽しさ』がそこにはあった。
食前酒と言いながら飲んだワインが程良く、僕を良い気分にさせる。
183 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/09/07(火) 20:18:04.95 ID:tH.lndoo
「お前様、この後はどこに連れて行ってくれるのじゃ?」
「ん?そうだなぁ、カラオケでもいくか?」
「おお、それは是非に。儂は行った事が無いでな」
500年生きても、日本の文化には疎い。
おまけに、若い世代の遊びなど知る筈も無いからな。
カラオケ店を目指し歩いていると、前からBLダッシュ(今はこう呼んでいる)で走ってきた神原に出会う。
「本日2回目だな」
「阿良々木先輩!探したぞ!」
「ん?何?」
「今、この一帯に阿良々木包囲網が敷かれている」
「何?どういう事だ!」
「戦場ヶ原先輩がお怒りだ」
「え?何で?」
「理由は知らない!でも探せと号令が下った」
「で、探していたのは神原だけだろ?」
「いや、今回は違う。私の後輩や人伝で探している」
「何それ。僕が何かしたか?」
「さぁ?その辺の事情は分からないんだ―――」
神原は携帯を取り出し電話を始めた。
その隙を見て僕は走り始めた。
184 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/09/07(火) 20:19:00.58 ID:tH.lndoo
「あ!逃げた!」
神原の声が響く。
僕は何故だか、逃げた。
大凡の見当はつく。
昼間に携帯に電話して来たのは戦場ヶ原。
それを五月蠅いからと火憐が切った。
戦場ヶ原はシカトされたと思い、使える全ての人脈を使い捜査中。
捕まれば……僕の体中に文房具が刺さるのは目に見えている。
「走るぞ、忍!」
「なんだか知らぬが、楽しそうじゃ」
ハイヒールを脱ぎ、裸足で駆ける忍。
僕はいつの間にか、忍に手を引かれるように走る。
人混みのお陰で神原を撒く事は出来たが、次に見つかればアウトだろう。
どこかに隠れる所は無いか?
185 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/09/07(火) 20:19:37.24 ID:tH.lndoo
「お前様、こっちじゃ」
忍に手を引かれ、どこかのビルに入った。
入った先はラブホテルだった。
「とりあえずここまでくれば大丈夫であろう」
「ああ、そうだな」
切れた息をしながら僕は返事をする。
「しかし、お前様にこんな所に連れ込まれるとは儂も驚いた」
「!!」
声にならなかった。
「嘘じゃ、冗談じゃ」
悪い冗談だ。
「ところでお前様、何故逃げた?ちゃんと事情を説明すれば良かったではないか?」
「お前の事、どう説明すんだよ!」
「ああ、儂か。儂の事は黙っていればよかろう。適当に影に隠れれば終わりじゃった」
「あ!」
確かに、忍がいなければ携帯を忘れたと言って終わりだった。
が、逃げてしまった今となってはもう遅い。
神原が今頃、全部報告しているだろう。
186 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/09/07(火) 20:20:38.78 ID:tH.lndoo
「はぁ、僕も影に隠れたいよ」
「ん?なんなら入るか?」
「え?入れるの?」
「勿論入れる」
「どうやって?」
「儂がお前様の影に入り、その手を引けば―――」
「ならそうしてくれよ」
「本当にいいのか?」
「え?何?何かあるの?」
「お前様が、お前様の影に入ればその影は消える。と言う事は、二度と出れん。儂と二人ずっと影の中じゃ」
「出られないの?」
「そうじゃ」
……
あまりに怖い話でそれ以上何も言えなかった。
「さて、それでは明日まで時間を潰すか、ここで」
「ここで?」
「今から出て、捕まって、尋問と言う拷問に逢いたいか?」
「いや」
「なら今夜は儂とここで過ごせばいい」
「ああ……」
結局、忍とここで逃避行の続きとなった。
187 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/09/07(火) 20:21:30.73 ID:tH.lndoo
黒
駒
エロは無い。作者風呂
188 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/07(火) 20:38:49.08 ID:tH.lndoo
初めてのホテルで、何も出来ない僕。ウロウロする忍。
「お前様、この自販機はなんだ?」
「それは―――」
家族計画、最近じゃそんな呼び名は滅多に聞かないが。
「まぁ、娶り防止用の帽子を売ってる」
「ほう。コンドームか」
「知ってるなら聞くな!」
「使った事あるのか?」
「無い!」
「使うか?」
「どこで!」
「ここで」
「いつ!」
「今から」
「誰と!」
「儂と」
とんでもない会話だ。
少し前のドーナツ談義からは想像も出来ない。
「で、何もせず過ごすのも退屈じゃろ?TVでも見るか?」
忍は何気にTVのスイッチを入れる。
突然AVが流れる。
「ほう。人の性交渉もわれらの性交渉も殆ど変らぬな」
「だれもそんな事、聞いてない!」
「独り言じゃ」
189 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/09/07(火) 20:39:50.42 ID:tH.lndoo
「このマイクはなんじゃ?」
「カラオケ」
「おお、ラブホテルにもカラオケがあるのか。お前様、始めるぞ」
僕は無理やりマイクを握らされる。
「ところで、どうやって歌うのじゃ?」
「まず、この本で歌いたい曲を探し、その番号を入れる。すると―――」
「なんじゃこの曲は?」
「my diaryっていう曲」
「知らんぞ」
「え?知らないの?」
「え?そんなに有名なのか?」
「オリコン初動1万枚越えたアルバムの表題曲なのに……」
「まぁ、知らぬ事もある。なにせ、何でもは知らぬからな」
「ああ。で、忍は何を歌いたい?」
「それがのう、知っている歌が無い」
そもそも忍自身、日本にずっといた訳でもなく、カルチャーに接し生きた訳でもない。
だから知っている歌が無くてもそれはおかしな事ではなかった。
英語表記のページをパラパラとめくり、指で曲名をなぞる。
すっと止まった所で、僕に番号を伝える。
「これなら歌えるぞ」
そう言って忍が歌ったのは、シューベルト第5曲『菩提樹』だった。
僕はその歌声に魅了され、聞き入る。
歌い終わった忍に拍手を送る。
190 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/09/07(火) 20:41:00.97 ID:tH.lndoo
「は、恥ずかしいから拍手などするでない!」
「いや、素晴らしかった」
「まぁ、この歌曲が流行った頃、儂もまだ若かったからな」
リアルタイムかよ!200年も前だぞ!
「まぁ、シューベルトなら魔王がお勧めだがな」
分からない。分からないから生きて帰れたらyoutubeで探してみるよ。
「カラオケも飽きたぞ」
「はや!」
「今日は良く遊んだし、これでお仕舞いでも良いのだが―――」
忍は僕の背中の向こうを見る。
「お前様、風呂に入りたい」
「は?あ、うん。分かった。用意してくる」
僕はバスルームへ行き、バスタブに湯を貯める。
蛇口から出る湯を見つめながら―――明日以降の言い訳を考えた。
「はぁ~」
小さくため息をつく。
「お前様、ため息は良くないぞ」
「うわ!」
突然背後から声を掛けられ驚く。
「何を驚いておる?ここには儂とお前様しか、いないではないか?」
191 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/09/07(火) 20:43:08.72 ID:tH.lndoo
「そうだけど……」
「湯は溜ったのか?おお、これは大きな風呂だな」
「まぁ、何故か大きいね」
「何故じゃ?」
「さぁ?」
「まぁいいわ。お前様も疲れたであろう?先に入れ」
「いや、忍の為に入れたんだし」
「良いから先に入れ!」
忍は僕の服に手を掛けると、消し去ってしまった!
「わっ!明日帰れない!」
「心配するでない、もう明日の服は用意しておいた」
部屋のソファーの上に新しい服が用意されていた。
「さて、それでは儂も」
「まて!一緒に入るのか?」
「何を今更。この間も一緒に入ったではないか?」
「えっと、この間は……その、小さくて……」
確かに、全てを曝け出したから恥ずかしいとは思わなかったのだが……
「小さくなくとも、この風呂のサイズなら儂ら二人でも十分なサイズではないか?」
「いや、そういう事じゃなく」
「遠慮はいらん、さぁ入れ」
僕はそのままバスタブに押し込まれた。
192 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/09/07(火) 20:45:04.94 ID:tH.lndoo
「はー、いい湯じゃ、なぁ我があるじ様よ」
「あ、うん」
「何を隅で小さくなっておるのじゃ?」
ええ小さくなっていますが、大きくもなっています。
「こっちに来て寛がんのか?」
「あ、うん」
「何をさっきから遠慮しておるのじゃ、あるじたるもの堂々とされよ」
忍は僕の手を引き、僕の身体を引き寄せる。
ちょうど足を伸ばした格好の忍に乗っかる形で。
「なぁ、お前様。今日の話は本気だぞ?」
「ん、うん。分かってる。分かってるから少し返事をするを待ってほしい」
「ああ、50年は待ってやるから心配するでない」
そういうと忍は僕の首筋を軽く噛んだ。
それは血を吸う為ではなく、ただ何かを伝える為に。
「50年待てないのであれば、今ここで全部吸えば良いだけの話だろ?」
「ほう。流石は我があるじ様。察しが良いのう」
「まぁ、最近まで鈍感な方だったが―――研ぎ澄まされてきたのかな?」
「魔王になる為にか?」
「さぁ、それはどうだろうか?」
「それより、お前様のお前様が魔王になっているのは気のせいか?」
「ぶっ!」
193 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/09/07(火) 20:46:29.80 ID:tH.lndoo
「成程。儂と一緒に入るのを拒んだのはこういう事だったか」
「すまん」
「別に謝る事は無い。儂もこの姿まで戻れば男を虜に出来る事が分かっただけでも収穫はあった」
「……」
「なんなら、今宵の夜伽は儂に任せるか?」
僕は全力で首を横に振った。
「あるじ様は―――かわいいな」
僕の肩を撫でる忍の手と普通言葉の語尾に耐えられず、つい立ちあがってしまう。
「洗う」
僕は風呂椅子に座り、素数を数えながらボディソープを泡だて、無心に体を擦った。
黙々と洗う僕を、バスタブから眺める忍。
僕は忍を直視できない、幼児体型の時は見れたのにな。
一応、普通の男だったという事か!
「さて、儂も逆上せそうじゃ」
と言いながら、忍はバスタブからあがる。
また僕の背後に立ち、言った。
「今日は儂が頭を洗ってやろう。戯れも必要だろ?」
そういうと、忍は僕の頭にシャワーをかけ、シャンプーをドッと乗せる。
「多くない?」
「なぁに、全部流せばいい」
細くやわらかい手が僕の頭皮を撫でる。
まるで、ピアノでも弾いているかのように小刻みに動かしながら。
194 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/09/07(火) 20:48:21.77 ID:tH.lndoo
「なぁ、お前様―――」
「いうな」
「察したか?」
「ああ。ちゃんと本気で考えてるから、もう今日はその話は無しだ」
「分かった、我があるじ様」
忍はシャワーを強くし、僕の頭を一気に流す。
頬を伝い、顎から流れ落ちる泡を僕は見つめていた。
「終わりじゃ」
「ああ、ありがとう。忍も洗ってやろうか?」
「いいのか?」
「いいぞ、遠慮するな」
「このシャンプーと言うのは本当に気持ちがいいのぉ」
「ああ、人が考え出した行為の中では至高だと僕は思うよ」
「至高か。それはまた大げさな」
「まぁ色々と精神的なリセットも出来るからな」
「リセットか……」
僕達は互いに逢わなければ……そんなリセットは要らない。
忍に逢えたという事が、今の僕には十分なぐらい有意義な毎日を送らせてくれる。
「はい、終わったぞ。今日は妹に覗かれる事がないが、僕は先に出る」
もう少し浸かりたいという忍を置いて、僕は先に出た。
195 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/09/07(火) 20:50:42.02 ID:tH.lndoo
髪を乾かし、備え付けのバスローブを身につけ、冷蔵庫からコーラを取り出し、ベッドでそれを飲みつつ、TVのニュースを見る。
色んなニュースが流れているが、僕のこの半年をニュースにしたら……視聴率100%かもしれないな。
ま、そんな番組、世界に一つしかないけどさ。
ゴロゴロしていると、忍も風呂から上がり、髪を乾かし、バスローブを纏い、ベッドに入ってきた。
「寝る」
一言、そう言って目を瞑ってしまった。
僕はTVの音声を限りなく下げ、忍が寝られるようにと配慮をする。
が、次に耳を引っ張られた。
「のう、お前様。儂が寝たと言うのに、何故何もせんのだ?」
「は?」
「普通は襲うモノであろう」
「ごめん、忍は襲えないよ」
「何も性交渉までしろとは言わんぞ?」
「は?」
「何が研ぎ澄まされただ!この鈍感!」
「いや、意味わかんねぇよ」
「お前様、寝ている妹にした事忘れたのか?」
あ、ああ。あ?
「いや、鬼畜の称号を得た行為だし、忘れないよ」
「何が鬼畜じゃ、鬼を名乗るには100年早いぞ!」
「言ったな!」
「よし、忍にもしてやろう!」
僕は忍に抱きつく。
「どんと来い!あるじ様」
どんと来いなんて言われると、ドン引きしてしまうじゃないか!
196 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/09/07(火) 20:52:53.37 ID:tH.lndoo
二人で笑ったあと、言葉が途切れた。
僕は忍にキスをし、言った。
「おやすみ、忍」
忍は僕の手を握り、そのまま深い眠りに就いた。
そんな忍を見た後、僕はゆっくりと一人で反省会を開いた。
で、そのまま夢の中に墜ちた。
197 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/09/07(火) 20:54:30.40 ID:tH.lndoo
朝、目覚めると忍の姿は無かった。
既に影の中で眠っているのか?
と思いきや、ベッドの反対側に落ちて、床で寝ていた。
「おーい忍、そろそろ帰る時間だぞ」
「うぬ?もうそんな時間か?久しぶりに夜寝してしまったわ」
「まぁ、たまにはいいもんだろ?」
「まぁ、お前様が襲ってくるかと期待しておったんだが、空振りのようだな」
「何を言う。今まで爆睡してたのに」
僕は着替え、忍は影に潜み部屋を出る。
外は既に人通りがあり、結構な時間だった。
開店直後のミスタードーナツへ寄り、朝飯を取る。
それから、家に向かう。
が、ついに捕獲された。
「暦お兄ちゃん捕まえた!」
千石だった。
「あれ?千石何やってんの?」
「え?暦お兄ちゃんの捕獲」
「いつから?」
「朝から」
「へー」
「他の人は一晩中探してたみたいだよ?」
一気に背筋が凍った。
僕を左手で掴み、右手で携帯を操作する千石。
5分もしないうちに神原到着。
そしてその1分後、右手に携帯、左手に三角定規をもった戦場ヶ原が来た。
198 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/09/07(火) 20:55:15.08 ID:tH.lndoo
「あら?阿良々木君でなくて?」
「はい!おはようございます」
「昨日、自宅に携帯忘れたそうね」
「はい!忘れました!」
「で、用があったので皆で探したんだけど」
「はい、有難うございます!」
「見つけた途端、逃げたわよね」
「はい、逃げました!」
「その理由、言いたい?」
「はい、説明させてくださ―――」
三角定規の角が頬に刺さった。
全部言う前に刺さった。
勿論、そのまま終わる事も無く、神原に抱えられ戦場ヶ原の家に連れて行かれ、夕方まで正座したまま、説教された。
「で、もう一度聞くけど、金髪女は誰なの?」
「しりません」
「知らない女とどこに行ってたのかしら?」
「しりません」
「自分の事でしょ?」
「覚えていません」
「阿良々木君、公認の取り消し忘れていないわよね?」
「はい。だから神原とは遊んでいません」
199 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/09/07(火) 20:58:13.32 ID:tH.lndoo
「だから他の女と遊んだと言う事ね。ちなみに、私―――浮気には非常に厳しいから、覚悟しなさい!」
「へ?」
ボコボコだった。
あー逃げたい、本当にこの女から逃げたい。
ちょっと前までは寛容だとか言ってたくせに!
50年待たなくていい、50秒で答えが出るわ!
ふらふらになった頃、影から声がした。
「お前様、開いておるぞ?逃げ込むか?」
流石に、この状況では逃げ込みたかったが、その先にある恐ろしさと戦場ヶ原の恐怖を天秤に掛けたら……
「Incomparable」だったので、そのまま耐えた。
ありとあらゆる文房具で責められ、僕はズタボロになった。
というか、またしても失神してしまった。
200 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/09/07(火) 21:09:40.54 ID:tH.lndoo
で、今回のオチ
オチなんてねぇよ!って感じのオチ。
ほんの少し、遊んだだけで死線を彷徨った!
回復が間に合わないぐらいに!
前日に忍へ血をやっていなかったら確実に死んでた。
というか、戦場ヶ原が病んだ。
病的な攻撃をしやがった!
影の中の忍が飛び出す一歩手前まで。
翌日学校に行ったら、既に金髪外人女性の話でもちきり。
というか、町中の噂。
職員室にも呼び出されるし、休み時間ごとに教室の前には人集り。
羽川には「良い御身分ね。えっと英語の勉強でもしていたの?ネイティブに習うなんて、いい「ゴミ」分ね」と嫌味を言われる。
そして、人集りを利用した戦場ヶ原が僕にベタベタする。
「ねぇ、阿良々木君、放課後デートにカラオケ行きましょうね」と大声で言いながら、ベタベタする。
人前でデレて、彼女宣言。
病んだり、デレたり。
あれ?こういうのってなんとかって言うんだったよな?
昨日、脳が損傷するまで暴行受けたので思いだせないや。
で、忍が今日も言う。
「お前様、儂の予定は空いておるでな、来週も映画に行きたいぞ」と。
50秒だけ考えさせてくれ!
おわり
204 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/07(火) 21:23:07.85 ID:tH.lndoo [46/46]
金髪美女話を聞いた千石ちゃんが暴走とかあってもいいよね?
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