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川д川は口が裂けても言えないようです
1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/06(土) 20:36:19.00 ID:LUlgnaMz0
今日と明日に分けて投下する予定
今日と明日に分けて投下する予定
2 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/06(土) 20:37:10.66 ID:LUlgnaMz0
どうして私はまだこっち側にいて、
どうして私はまだこんな言葉で、
いたずらに誰かを驚かせている。
川д川「わたし、きれい?」
そばかす顔の女の子は、答えた。
('、`*川「え、えーっと……。前髪をあげて、もう少し明るいお化粧をしたらイケると思います」
川д川「……」
('、`*川「……」
川д川「そうかしら」
3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/06(土) 20:38:44.69 ID:LUlgnaMz0
1
9月。庭で胸を張っていた向日葵はうな垂れて、
それでも道行く子供たちは焦げた肌で走り回り、空は抜けるように青い。
ペニサスは縁側に座って、干し竿にかけられたシャツのなびき方を見ていた。
その一方で、背中では叔母と祖母の会話を聞いていた。
「ほんとに着ないのかい?」
(*゚ー゚)「ええ、御母さん。やっぱり…… 恥ずかしいわ」
「何が恥ずかしいことあるかヨ。一回くらい袖通しておきたいもんだがや」
('、`*川「……」
5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/06(土) 20:40:24.82 ID:LUlgnaMz0
祖母は縁側のほうに身体を捻らせて、ペニサスに一言投げた。
「ペニサス! 本当に倉の中に写真はなかったの?」
「うんー」
「だって……」
祖母は叔母にある決断をさせるため、叔母の若い頃の写真を見せるつもりだった。
叔母は今ではどこにでもいそうな中年の女性だが、昔はそれなりの美人だった。
そのときの姿を見せて自信を付けさせたかったのである。
当時の写真。本当は、もう少しよく捜せばあったのかもしれなかった。
だが、中断せざるを得ない思わぬことが起きた。
「でた」のだ
('、`*川「でた のよ」
「でもねぇ、しぃさん。わたしはねぇ……」
(*゚ー゚)「悩むわねえ」
('、`*川(きいてない)
6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/06(土) 20:44:34.50 ID:LUlgnaMz0
写真を捜すという名目で、もう一度倉の中へ行くことにした。
古い建物は、たとえ錠前が外れていても、扉を開くのに一苦労。
だからペニサスは、ほんの少し隙間を設けて、するりと忍び込むように入ることにした。
厚い扉が、ぎぎぎ、と開き、倉の中に光が差し込む。
扉の軋む音に乗っかって、低い女性の声が聞こえた。
ペニサスは戦慄する。
「眩しいわよ」
('、`*川「……!!」
('、`*川「すみません……」
ペニサスは倉の前で立ち尽くした。
塀を歩く野良猫が、彼女を嘲笑うように欠伸をする。
8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/06(土) 20:49:07.04 ID:LUlgnaMz0
ペニサスは、倉の扉に顔を寄せた。
左扉と、右扉の隙間から、冷たい風が緩やかに流れている。
その隙間に細い紙を差し込むように、声を出した。
('、`*川「あのぉ~……」
('、`*川「どちらさまでしょうか……」
('、`*川「ここは私の家なんですけど」
('、`*川「えっとつまりですね……」
左の扉が僅かに開いた。 ペニサスは飛びのく。
そんな様子に、盆栽をいじっていた隣人の親父さんは苦笑いをする。
9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/06(土) 20:52:23.32 ID:LUlgnaMz0
左扉は、もう一度近づいた時には既に閉まっていた。
ペニサスは再度倉の中へと話しかける。
('、`*川「あの、私の考えを述べてもよろしいでしょうか!」
('、`*川「もし当たっていたら倉を開けてくださいね」
('、`*川「私が思うに…… あのですねー……」
「――あなたは口裂け女ではないですか?」
左扉が勢いよく開いた。 先程からペニサスを驚かせていた存在が、眩しそうに姿を現す。
川д川「……だったら、なんだっていうのよ」
そう言う彼女の口は、禍々しかった。両側の口角が、耳まで伸びていた。
10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/06(土) 20:57:24.06 ID:LUlgnaMz0
2
(*゚ー゚)「ごめんね、ペニサスちゃん。手間かけさせちゃって」
('、`*川「別にいいですよ。私、古い倉とか、わくわくしちゃうタイプだし」
お茶置きの饅頭を口に含めながら、だらしなく私は答える。
九月の風は、どこか寂しさがある。
僅かに乗せられた熱が夏を惜しんでいる。そう縁側に座りながら想う。
「それで、しぃちゃんの写真はあったのかい?」
('、`*川「ごめんねおばあちゃん。なかった」
「わざわざホコリだらけの倉開けたのにのぉ」
本当は、あるのだけれど。
13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/06(土) 21:02:02.79 ID:LUlgnaMz0
('、`*川(どうやら私にしか見えない幽霊さんが、持っているようなのです)
私は幽霊と会話するために、しぃさんとおばあちゃんから離れた。
縁側で会話したら、まるで独り言のようで、ただの異常者だから。
('、`*川「あの、必須ではないんですけど、その写真、必要なんです」
自分の日本語の下手さに落胆。だけど幽霊を前にしても物怖じしない自分の呑気さに拍手。
そして眼前の口裂け女さんは舌打ち。
川д川「渡せないね」
('、`*川「どうして?」
川д川「私、幽霊なの。人は死ぬとね、あの世へいけるの。でもね、私みたいにわざわざここに残っているということは」
('、`*川「底意地が悪いです」
川д川「その通りなの。性格がクソ悪いのよね。人が苦しんで困って泣いちゃいそうなのを見るのが、楽しくって仕方がないの」
14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/06(土) 21:06:15.12 ID:e5GOOj730
('、`*川「それは…… 生前からのことでしょうか」
不気味に微笑んでいた幽霊さんの表情が、ロボットみたいに一瞬にして切り替わる。
能面みたいな顔をして、言った。
川д川「知らないよ」
幽霊さんは実に女の幽霊らしく、白いローブのようなものを纏っていた。
お葬式のときに死者が着るような服とも、少し違っていた。
袂から写真を取り出し、今度はあからさまに怒った表情で呟く。
川д川「忌々しい…! この若さ、この美しさ。この笑顔!!!!!!!!!」
('、`*川「やっぱりしぃおばさんの若い頃って美人なんだ! 今も美人だけど…
見たいな。見せてください」
川д川「嫌」
('、`*川「……」
15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/06(土) 21:09:34.69 ID:e5GOOj730
川д川「そもそもどうしてこんな紙切れが必要なのよ」
('、`*川「その写真に写っている人、しぃさんっていうんですけど」
('、`*川「来週、結婚するんです。それで、結婚式があるんです。二度目の」
('、`*川「一度目の結婚は色々とぐだぐだで不遇で不幸で最悪だったみたいです」
川д川「最高」
ちょっと苛立ちを感じつつ私は言葉を続ける。
('、`*川「ウエディングドレスも着れなかったし……」
('、`*川「だから、これを機に親戚はしぃさんにちゃんとした式を挙げてもらおうと思ってるんです」
('、`*川「でも、しぃさんは年を理由に、今更真っ白なウエディングドレスなんか着たくないって……」
本当はしぃさんにドレスを着てほしい理由がもう一つあった。
だけどこれは私の個人的感情に拠るものだし、
初対面の幽霊にそこまで心を許していないから、言うのをやめた。
16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/06(土) 21:12:36.10 ID:e5GOOj730
('、`*川「どう思います? 口裂けさん」
川д川「私の名前は貞子」
('、`*川「ごめんなさい。貞子さん」
川д川「しぃだっけ? また結婚失敗すればいいんだ。相手の男、交通事故でグチャグチャになっちゃえばいいんだ」
('、`*川「どうしてそんなこと言えるんですか?」
幽霊だから。
あ、自分で答えが出てしまった。
須らく閉口するべし。
川д川「私は、この家の女が憎いから」
('、`*川「え?」
それだけが私がこの家に居続ける理由
18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/06(土) 21:15:15.28 ID:e5GOOj730
4
幽霊といとも簡単に遭遇し、早数時間が過ぎ、世界は真っ暗になった。
窓から見える空は綺麗すぎる。きっと明日は雨なんだな。
星の瞬きさえ見えそうなこんな夜に、私は部屋で幽霊と雑談中。
一つ気付いたことがある。
貞子さんは幽霊である前に女だ。
倉でずうっと一人ぼっちは退屈で寂しくて死にそうだったみたい。もう死んでるけど。
一方的なお喋りは続く続く続く。
主な内容は悪口と「男という生物の愚かさ」を交えた自身の恋愛遍歴。
男の子と滅多に喋らないましてや彼氏なんて出来たこともない私は、
実は少し楽しみながらそれを聞いていたりする。
川д川「要するに男なんてものはちんぽこなのよ」
('、`*川「随分ばっさりとした結論なんですね」
川д川「あなたもじきに分かるわ」
('、`*川「……分からなくていいです」
19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/06(土) 21:19:46.40 ID:e5GOOj730
貞子さんが一息ついたところで、今度は私が質問をしようと思った。
聞きたいことは山ほどある。
だけど貞子さんの存在というものを考えるほど、
頭は無意味に科学的に哲学的に宗教的に生物学的に果てしなくこんがらがるから、
('、`*川「なんで倉にいたんですか?」
とりあえずこれだけ。
川д川「だから、私は憎いの。この家系の女が」
('、`*川(あー…… そうだった。また失敗した)
('、`*川「でもなぁ」
('、`*川「憎いのならさっさと一家全員呪い殺してやればいいじゃないですか」
('、`*川「どうしてあそこでじっとしていたんですか?」
川д川「……」
20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/06(土) 21:24:04.54 ID:e5GOOj730
なんでだろう。
自分でもよく分からない。
最後に目標の女を呪い殺したのは覚えてる。
でも、何故か知らないけれど
気持ちは満たされなくて
この体はここから消えない。
頭の中がどんどん磨り減っていく感じ。
このまま存在も消えてしまえばいいのに、
そう思って目を閉めると、悲しいことにまたその目は開く。
私の口はずっと醜く裂けたまま。
なんで私はここにいるんだろう
なんで私は
川д川「……」
('、`*川「あの?」
川д川「今、頭の中で思ったこと、口から出てた?」
('、`*川「安心してください。出てません」
23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/06(土) 21:27:53.99 ID:e5GOOj730
それから貞子さんは水を打ったように静かになり、隅っこでじっとしている。
これはこれで幽霊らしい。私は携帯のカメラを起動しそれを撮ってみたがやはり写らない。
設定や角度が悪いのかと携帯をいじっていたところ、貞子さんの目玉がぎょろりとこちらを向き、
「呪うわよ」と一喝。
まさに身の毛もよだつ怖ろしさなので、私も寝ることにした。
だけど、私が貞子さんに怖さを感じたのはそのときが初めて。
貞子さんとは何か通じるものがあるから、いくら口が裂けていても、あまり怖くないのだった。
24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/06(土) 21:33:25.47 ID:e5GOOj730
5
昨夜の予想は当たり、私の足元には水が滴る。
自分が通っている高校の制服、白いハイソックスを呪う。
トラック、水溜り、はねる泥水、付け根あたりに染みてしまった茶色の点。
それだけで、私の気持ちはすぐに不機嫌になる。
雨の日自体は割りと好きなのだけれど。
雨が降っても、台風がきても、雪が積もっても、
道を行く女の人はみんな化粧で元の顔を隠して綺麗になっている。
綺麗な服を着てぴかぴかの靴をはいている。
髪の毛は色が入ってあり、たまに緩やかなパーマがあててある。
すごいなあ。こんな当たり前のことに感嘆してしまう自分がよく分からないけれど
すごいなあ。
私は大人になっても女性としての責任を果たせそうにない。
色んな意味で。
25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/06(土) 21:37:11.61 ID:e5GOOj730
私は伸ばしっぱなしの髪の毛を撫で付けながら、通学路をのんびり歩く。
横には貞子さん。通行人が容赦なくすり抜けていく。
汚いおじさんや美人な女性と向かい合うとき、少しだけ殺気がこちらに伝わる。
('、`*川「学校についてくるんですか?」
川д川「いいじゃない。あんたにしか私の姿は見えないんだし」
('、`*川「そもそもそれは何故なんでしょうかね」
川д川「何か通じるものがあるのかもしれないわね」
やはり貞子さんもそう思っていたか。
私は少し嬉しくなったが、スキップをしたらこのソックスはますます汚くなるだろう。
そう思っているうちに校舎が見えてきた――――
26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/06(土) 21:42:13.87 ID:e5GOOj730
川д川(憎い。憎いわ。どうしてこんなに若くて可愛い女がここにいるの!?)
('、`*川「ここは高校だからです」
川д川(高校!? なんでそんなところに連れ出したのよ!!)
貞子さんが自主的についてきたのに、
という言葉は仕舞う事にした。
前方から人が歩いてきたのだ。
「伊藤さん、どいて」
「今からここでみんなとお弁当食べるんだ」
私の後ろが、彼女が属するグループの中心格の席だ。
なるほど、ここを中心にグループが集まってお弁当を食べるとなると、私は明らかに場違いで邪魔だ。
27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/06(土) 21:44:58.06 ID:e5GOOj730
私だって、少しは空気を読む力はある。
そういう雰囲気になったら、自分から席を立つことができる。
いつまでも意固地に自分の席で昼休みを楽しむ図々しさなんか、ない。
だけど、いちいち「どいて」と言葉を投げてくるのは
私の容姿および社交能力の低さ に拠る クラス内カースト から 生まれる圧力的一撃なのだろうか。
きっと、そうなんだ。
日常茶飯事。
気にすることなんか、ない。
彼女の口調が不必要に尖っていること。
彼女の後ろに立っているあの子が蔑むように微笑んでいること。
私の机に置いてあるライトノベルをまるで
別世界の持ち物のように珍しがって見ていること。
ブックカバーは、しているのにな。
29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/06(土) 21:48:53.03 ID:e5GOOj730
('、`*川「自意識過剰?」
('、`*川「被害妄想?」
川д川「呪呪呪呪呪呪」
('、`*川「やめてね」
川д川「打撲くらいは?」
('、`*川「許す」
川д川「呪呪呪」
('、`*川「……やっぱりだめ。絶対だめ」
だって、今日はこんなに空が青いんですもの。
いや、別に私はメンヘラとかそういう類の人間ではないが……
そうだ、屋上へ行こう。
30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/06(土) 21:52:59.22 ID:e5GOOj730
屋上は人が見下ろせるから好きだ。
支配欲に拠るものじゃない。物事が全てちっぽけになるからだ。
宇宙へ旅立った男が自分の水虫を心配するだろうか。
('、`*川(水虫は……するか)
屋上への大扉を開けると、視界に入ったのはガラの悪そうな男子三人ほど。
そして風に乗り運ばれてくる嫌いな臭い。
('、`*川(煙草だ)
きっと彼らも煙草という道具を用いて、
学校だの校則だの社会だのという諸々を、ちっぽけにしたかったんだ。
きっと彼らは屋上から街を見下ろして、やっちゃいけないことをしているときだけ生きているんだ。
彼らはライターで煙草に火を灯したとき限定のハックルベリー・フィン。
31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/06(土) 21:55:47.22 ID:e5GOOj730
私は死んでいる。だけど生きている。不思議な不思議な感覚を毎日受け取っている。
私も、鮮明で、汗が流れて、ときに笑顔や感涙の日々を過ごしたいとは少し思う。
だけどそんな世界に飛び込むための「手段」がない。
部活とか趣味とか、そう、煙草とか。
そんなことを考えているうち、群れの中で一番の強面が眼前にそびえた。
「おめぇよぉ」
('、`*川「……」
「ヤニよぉ 言うなよぉ?」
('、`*川「……」
「ちくったらさぁ 退学なんだよぉ わかるか」
('、`*川「……」
32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/06(土) 21:57:28.09 ID:e5GOOj730
「こいつ黙ってる。つーかかたまってる」
「シカトか」
「そーでもないみてぇ」
「シケた」
「煙草が?」
「どっちも」
「かえっべ」
一人の男の肩が私にぶつかる。
そのときの「どいてよ」という無気力な一言で、ようやく私の血液循環は再開したようだった。
どうして頑なに黙っていたか。正義感でも憧憬でもなかった。
小説にして半ページ使うような複雑な感情が入り乱れていたわけでもない。
ただ、こわかった。
気を許すと、漏らしそうなくらいに。
33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/06(土) 22:01:01.84 ID:e5GOOj730
小学校の中学年くらいまでは女の子のほうが強くて大きかった。
でもそれから先は、男の子は女にしてみれば、まさに恐いくらいに大きくなっていく。
いつの間にか彼らは人を傷つける腕力を手に入れ、小さい者を見下ろす背丈を手に入れる。
私は男という生き物がどーしても、ライオンよりは少し非力なだけの獣に見えてしまって仕方がない。
('、`*川(きっと本当はそんな生理的な部分じゃない……)
('、`*川(ということは自分でも薄々分かっている)
やっとのことで屋上の手すりのところまで到達。煙草の臭いは風が流してくれた。
大きく深呼吸すると、自分が思っていた以上の緊張に追い詰められていたことに気付く。
かれこれ教室から。
34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/06(土) 22:02:54.13 ID:e5GOOj730
川д川「あなた」
川д川「弱いわね」
そんなこと自分でも分かってるし
という表情をする。
( 、;*川「……あれ?」
それは泣き顔だった。
35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/06(土) 22:03:49.23 ID:e5GOOj730
涙を流したのは、あのとき以来だった。
でも、泣いたっていいか。どうせ貞子さんにしか見られないし。
川д川「女には二つの種類があるわ」
川д川「泣き顔'さえ'も美しい女と泣き顔'だけ'はぶっさいくな女」
川д川「あんた後者ね」
('、`*川「……元から不細工ですけど、何か」
私は数粒の涙を人差し指で払い、ついさっき雨があがったばかりの青空を仰ぐ。
水溜りの中の。
今の私には両手を広げて空を仰ぐほどの力がない。
36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/06(土) 22:04:53.93 ID:e5GOOj730
そして、思うことは
忍耐とか、勇気とか、人間性とか、そんなもんじゃなくて
ああ、もっともっと
強くなりたいなあ――――――――――
37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/06(土) 22:06:10.42 ID:e5GOOj730
とゆーことで・・ 今日の投下分は終了です
ありがとうございました
続く・・・はず
どうして私はまだこっち側にいて、
どうして私はまだこんな言葉で、
いたずらに誰かを驚かせている。
川д川「わたし、きれい?」
そばかす顔の女の子は、答えた。
('、`*川「え、えーっと……。前髪をあげて、もう少し明るいお化粧をしたらイケると思います」
川д川「……」
('、`*川「……」
川д川「そうかしら」
3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/06(土) 20:38:44.69 ID:LUlgnaMz0
1
9月。庭で胸を張っていた向日葵はうな垂れて、
それでも道行く子供たちは焦げた肌で走り回り、空は抜けるように青い。
ペニサスは縁側に座って、干し竿にかけられたシャツのなびき方を見ていた。
その一方で、背中では叔母と祖母の会話を聞いていた。
「ほんとに着ないのかい?」
(*゚ー゚)「ええ、御母さん。やっぱり…… 恥ずかしいわ」
「何が恥ずかしいことあるかヨ。一回くらい袖通しておきたいもんだがや」
('、`*川「……」
5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/06(土) 20:40:24.82 ID:LUlgnaMz0
祖母は縁側のほうに身体を捻らせて、ペニサスに一言投げた。
「ペニサス! 本当に倉の中に写真はなかったの?」
「うんー」
「だって……」
祖母は叔母にある決断をさせるため、叔母の若い頃の写真を見せるつもりだった。
叔母は今ではどこにでもいそうな中年の女性だが、昔はそれなりの美人だった。
そのときの姿を見せて自信を付けさせたかったのである。
当時の写真。本当は、もう少しよく捜せばあったのかもしれなかった。
だが、中断せざるを得ない思わぬことが起きた。
「でた」のだ
('、`*川「でた のよ」
「でもねぇ、しぃさん。わたしはねぇ……」
(*゚ー゚)「悩むわねえ」
('、`*川(きいてない)
6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/06(土) 20:44:34.50 ID:LUlgnaMz0
写真を捜すという名目で、もう一度倉の中へ行くことにした。
古い建物は、たとえ錠前が外れていても、扉を開くのに一苦労。
だからペニサスは、ほんの少し隙間を設けて、するりと忍び込むように入ることにした。
厚い扉が、ぎぎぎ、と開き、倉の中に光が差し込む。
扉の軋む音に乗っかって、低い女性の声が聞こえた。
ペニサスは戦慄する。
「眩しいわよ」
('、`*川「……!!」
('、`*川「すみません……」
ペニサスは倉の前で立ち尽くした。
塀を歩く野良猫が、彼女を嘲笑うように欠伸をする。
8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/06(土) 20:49:07.04 ID:LUlgnaMz0
ペニサスは、倉の扉に顔を寄せた。
左扉と、右扉の隙間から、冷たい風が緩やかに流れている。
その隙間に細い紙を差し込むように、声を出した。
('、`*川「あのぉ~……」
('、`*川「どちらさまでしょうか……」
('、`*川「ここは私の家なんですけど」
('、`*川「えっとつまりですね……」
左の扉が僅かに開いた。 ペニサスは飛びのく。
そんな様子に、盆栽をいじっていた隣人の親父さんは苦笑いをする。
9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/06(土) 20:52:23.32 ID:LUlgnaMz0
左扉は、もう一度近づいた時には既に閉まっていた。
ペニサスは再度倉の中へと話しかける。
('、`*川「あの、私の考えを述べてもよろしいでしょうか!」
('、`*川「もし当たっていたら倉を開けてくださいね」
('、`*川「私が思うに…… あのですねー……」
「――あなたは口裂け女ではないですか?」
左扉が勢いよく開いた。 先程からペニサスを驚かせていた存在が、眩しそうに姿を現す。
川д川「……だったら、なんだっていうのよ」
そう言う彼女の口は、禍々しかった。両側の口角が、耳まで伸びていた。
10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/06(土) 20:57:24.06 ID:LUlgnaMz0
2
(*゚ー゚)「ごめんね、ペニサスちゃん。手間かけさせちゃって」
('、`*川「別にいいですよ。私、古い倉とか、わくわくしちゃうタイプだし」
お茶置きの饅頭を口に含めながら、だらしなく私は答える。
九月の風は、どこか寂しさがある。
僅かに乗せられた熱が夏を惜しんでいる。そう縁側に座りながら想う。
「それで、しぃちゃんの写真はあったのかい?」
('、`*川「ごめんねおばあちゃん。なかった」
「わざわざホコリだらけの倉開けたのにのぉ」
本当は、あるのだけれど。
13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/06(土) 21:02:02.79 ID:LUlgnaMz0
('、`*川(どうやら私にしか見えない幽霊さんが、持っているようなのです)
私は幽霊と会話するために、しぃさんとおばあちゃんから離れた。
縁側で会話したら、まるで独り言のようで、ただの異常者だから。
('、`*川「あの、必須ではないんですけど、その写真、必要なんです」
自分の日本語の下手さに落胆。だけど幽霊を前にしても物怖じしない自分の呑気さに拍手。
そして眼前の口裂け女さんは舌打ち。
川д川「渡せないね」
('、`*川「どうして?」
川д川「私、幽霊なの。人は死ぬとね、あの世へいけるの。でもね、私みたいにわざわざここに残っているということは」
('、`*川「底意地が悪いです」
川д川「その通りなの。性格がクソ悪いのよね。人が苦しんで困って泣いちゃいそうなのを見るのが、楽しくって仕方がないの」
14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/06(土) 21:06:15.12 ID:e5GOOj730
('、`*川「それは…… 生前からのことでしょうか」
不気味に微笑んでいた幽霊さんの表情が、ロボットみたいに一瞬にして切り替わる。
能面みたいな顔をして、言った。
川д川「知らないよ」
幽霊さんは実に女の幽霊らしく、白いローブのようなものを纏っていた。
お葬式のときに死者が着るような服とも、少し違っていた。
袂から写真を取り出し、今度はあからさまに怒った表情で呟く。
川д川「忌々しい…! この若さ、この美しさ。この笑顔!!!!!!!!!」
('、`*川「やっぱりしぃおばさんの若い頃って美人なんだ! 今も美人だけど…
見たいな。見せてください」
川д川「嫌」
('、`*川「……」
15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/06(土) 21:09:34.69 ID:e5GOOj730
川д川「そもそもどうしてこんな紙切れが必要なのよ」
('、`*川「その写真に写っている人、しぃさんっていうんですけど」
('、`*川「来週、結婚するんです。それで、結婚式があるんです。二度目の」
('、`*川「一度目の結婚は色々とぐだぐだで不遇で不幸で最悪だったみたいです」
川д川「最高」
ちょっと苛立ちを感じつつ私は言葉を続ける。
('、`*川「ウエディングドレスも着れなかったし……」
('、`*川「だから、これを機に親戚はしぃさんにちゃんとした式を挙げてもらおうと思ってるんです」
('、`*川「でも、しぃさんは年を理由に、今更真っ白なウエディングドレスなんか着たくないって……」
本当はしぃさんにドレスを着てほしい理由がもう一つあった。
だけどこれは私の個人的感情に拠るものだし、
初対面の幽霊にそこまで心を許していないから、言うのをやめた。
16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/06(土) 21:12:36.10 ID:e5GOOj730
('、`*川「どう思います? 口裂けさん」
川д川「私の名前は貞子」
('、`*川「ごめんなさい。貞子さん」
川д川「しぃだっけ? また結婚失敗すればいいんだ。相手の男、交通事故でグチャグチャになっちゃえばいいんだ」
('、`*川「どうしてそんなこと言えるんですか?」
幽霊だから。
あ、自分で答えが出てしまった。
須らく閉口するべし。
川д川「私は、この家の女が憎いから」
('、`*川「え?」
それだけが私がこの家に居続ける理由
18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/06(土) 21:15:15.28 ID:e5GOOj730
4
幽霊といとも簡単に遭遇し、早数時間が過ぎ、世界は真っ暗になった。
窓から見える空は綺麗すぎる。きっと明日は雨なんだな。
星の瞬きさえ見えそうなこんな夜に、私は部屋で幽霊と雑談中。
一つ気付いたことがある。
貞子さんは幽霊である前に女だ。
倉でずうっと一人ぼっちは退屈で寂しくて死にそうだったみたい。もう死んでるけど。
一方的なお喋りは続く続く続く。
主な内容は悪口と「男という生物の愚かさ」を交えた自身の恋愛遍歴。
男の子と滅多に喋らないましてや彼氏なんて出来たこともない私は、
実は少し楽しみながらそれを聞いていたりする。
川д川「要するに男なんてものはちんぽこなのよ」
('、`*川「随分ばっさりとした結論なんですね」
川д川「あなたもじきに分かるわ」
('、`*川「……分からなくていいです」
19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/06(土) 21:19:46.40 ID:e5GOOj730
貞子さんが一息ついたところで、今度は私が質問をしようと思った。
聞きたいことは山ほどある。
だけど貞子さんの存在というものを考えるほど、
頭は無意味に科学的に哲学的に宗教的に生物学的に果てしなくこんがらがるから、
('、`*川「なんで倉にいたんですか?」
とりあえずこれだけ。
川д川「だから、私は憎いの。この家系の女が」
('、`*川(あー…… そうだった。また失敗した)
('、`*川「でもなぁ」
('、`*川「憎いのならさっさと一家全員呪い殺してやればいいじゃないですか」
('、`*川「どうしてあそこでじっとしていたんですか?」
川д川「……」
20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/06(土) 21:24:04.54 ID:e5GOOj730
なんでだろう。
自分でもよく分からない。
最後に目標の女を呪い殺したのは覚えてる。
でも、何故か知らないけれど
気持ちは満たされなくて
この体はここから消えない。
頭の中がどんどん磨り減っていく感じ。
このまま存在も消えてしまえばいいのに、
そう思って目を閉めると、悲しいことにまたその目は開く。
私の口はずっと醜く裂けたまま。
なんで私はここにいるんだろう
なんで私は
川д川「……」
('、`*川「あの?」
川д川「今、頭の中で思ったこと、口から出てた?」
('、`*川「安心してください。出てません」
23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/06(土) 21:27:53.99 ID:e5GOOj730
それから貞子さんは水を打ったように静かになり、隅っこでじっとしている。
これはこれで幽霊らしい。私は携帯のカメラを起動しそれを撮ってみたがやはり写らない。
設定や角度が悪いのかと携帯をいじっていたところ、貞子さんの目玉がぎょろりとこちらを向き、
「呪うわよ」と一喝。
まさに身の毛もよだつ怖ろしさなので、私も寝ることにした。
だけど、私が貞子さんに怖さを感じたのはそのときが初めて。
貞子さんとは何か通じるものがあるから、いくら口が裂けていても、あまり怖くないのだった。
24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/06(土) 21:33:25.47 ID:e5GOOj730
5
昨夜の予想は当たり、私の足元には水が滴る。
自分が通っている高校の制服、白いハイソックスを呪う。
トラック、水溜り、はねる泥水、付け根あたりに染みてしまった茶色の点。
それだけで、私の気持ちはすぐに不機嫌になる。
雨の日自体は割りと好きなのだけれど。
雨が降っても、台風がきても、雪が積もっても、
道を行く女の人はみんな化粧で元の顔を隠して綺麗になっている。
綺麗な服を着てぴかぴかの靴をはいている。
髪の毛は色が入ってあり、たまに緩やかなパーマがあててある。
すごいなあ。こんな当たり前のことに感嘆してしまう自分がよく分からないけれど
すごいなあ。
私は大人になっても女性としての責任を果たせそうにない。
色んな意味で。
25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/06(土) 21:37:11.61 ID:e5GOOj730
私は伸ばしっぱなしの髪の毛を撫で付けながら、通学路をのんびり歩く。
横には貞子さん。通行人が容赦なくすり抜けていく。
汚いおじさんや美人な女性と向かい合うとき、少しだけ殺気がこちらに伝わる。
('、`*川「学校についてくるんですか?」
川д川「いいじゃない。あんたにしか私の姿は見えないんだし」
('、`*川「そもそもそれは何故なんでしょうかね」
川д川「何か通じるものがあるのかもしれないわね」
やはり貞子さんもそう思っていたか。
私は少し嬉しくなったが、スキップをしたらこのソックスはますます汚くなるだろう。
そう思っているうちに校舎が見えてきた――――
26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/06(土) 21:42:13.87 ID:e5GOOj730
川д川(憎い。憎いわ。どうしてこんなに若くて可愛い女がここにいるの!?)
('、`*川「ここは高校だからです」
川д川(高校!? なんでそんなところに連れ出したのよ!!)
貞子さんが自主的についてきたのに、
という言葉は仕舞う事にした。
前方から人が歩いてきたのだ。
「伊藤さん、どいて」
「今からここでみんなとお弁当食べるんだ」
私の後ろが、彼女が属するグループの中心格の席だ。
なるほど、ここを中心にグループが集まってお弁当を食べるとなると、私は明らかに場違いで邪魔だ。
27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/06(土) 21:44:58.06 ID:e5GOOj730
私だって、少しは空気を読む力はある。
そういう雰囲気になったら、自分から席を立つことができる。
いつまでも意固地に自分の席で昼休みを楽しむ図々しさなんか、ない。
だけど、いちいち「どいて」と言葉を投げてくるのは
私の容姿および社交能力の低さ に拠る クラス内カースト から 生まれる圧力的一撃なのだろうか。
きっと、そうなんだ。
日常茶飯事。
気にすることなんか、ない。
彼女の口調が不必要に尖っていること。
彼女の後ろに立っているあの子が蔑むように微笑んでいること。
私の机に置いてあるライトノベルをまるで
別世界の持ち物のように珍しがって見ていること。
ブックカバーは、しているのにな。
29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/06(土) 21:48:53.03 ID:e5GOOj730
('、`*川「自意識過剰?」
('、`*川「被害妄想?」
川д川「呪呪呪呪呪呪」
('、`*川「やめてね」
川д川「打撲くらいは?」
('、`*川「許す」
川д川「呪呪呪」
('、`*川「……やっぱりだめ。絶対だめ」
だって、今日はこんなに空が青いんですもの。
いや、別に私はメンヘラとかそういう類の人間ではないが……
そうだ、屋上へ行こう。
30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/06(土) 21:52:59.22 ID:e5GOOj730
屋上は人が見下ろせるから好きだ。
支配欲に拠るものじゃない。物事が全てちっぽけになるからだ。
宇宙へ旅立った男が自分の水虫を心配するだろうか。
('、`*川(水虫は……するか)
屋上への大扉を開けると、視界に入ったのはガラの悪そうな男子三人ほど。
そして風に乗り運ばれてくる嫌いな臭い。
('、`*川(煙草だ)
きっと彼らも煙草という道具を用いて、
学校だの校則だの社会だのという諸々を、ちっぽけにしたかったんだ。
きっと彼らは屋上から街を見下ろして、やっちゃいけないことをしているときだけ生きているんだ。
彼らはライターで煙草に火を灯したとき限定のハックルベリー・フィン。
31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/06(土) 21:55:47.22 ID:e5GOOj730
私は死んでいる。だけど生きている。不思議な不思議な感覚を毎日受け取っている。
私も、鮮明で、汗が流れて、ときに笑顔や感涙の日々を過ごしたいとは少し思う。
だけどそんな世界に飛び込むための「手段」がない。
部活とか趣味とか、そう、煙草とか。
そんなことを考えているうち、群れの中で一番の強面が眼前にそびえた。
「おめぇよぉ」
('、`*川「……」
「ヤニよぉ 言うなよぉ?」
('、`*川「……」
「ちくったらさぁ 退学なんだよぉ わかるか」
('、`*川「……」
32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/06(土) 21:57:28.09 ID:e5GOOj730
「こいつ黙ってる。つーかかたまってる」
「シカトか」
「そーでもないみてぇ」
「シケた」
「煙草が?」
「どっちも」
「かえっべ」
一人の男の肩が私にぶつかる。
そのときの「どいてよ」という無気力な一言で、ようやく私の血液循環は再開したようだった。
どうして頑なに黙っていたか。正義感でも憧憬でもなかった。
小説にして半ページ使うような複雑な感情が入り乱れていたわけでもない。
ただ、こわかった。
気を許すと、漏らしそうなくらいに。
33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/06(土) 22:01:01.84 ID:e5GOOj730
小学校の中学年くらいまでは女の子のほうが強くて大きかった。
でもそれから先は、男の子は女にしてみれば、まさに恐いくらいに大きくなっていく。
いつの間にか彼らは人を傷つける腕力を手に入れ、小さい者を見下ろす背丈を手に入れる。
私は男という生き物がどーしても、ライオンよりは少し非力なだけの獣に見えてしまって仕方がない。
('、`*川(きっと本当はそんな生理的な部分じゃない……)
('、`*川(ということは自分でも薄々分かっている)
やっとのことで屋上の手すりのところまで到達。煙草の臭いは風が流してくれた。
大きく深呼吸すると、自分が思っていた以上の緊張に追い詰められていたことに気付く。
かれこれ教室から。
34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/06(土) 22:02:54.13 ID:e5GOOj730
川д川「あなた」
川д川「弱いわね」
そんなこと自分でも分かってるし
という表情をする。
( 、;*川「……あれ?」
それは泣き顔だった。
35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/06(土) 22:03:49.23 ID:e5GOOj730
涙を流したのは、あのとき以来だった。
でも、泣いたっていいか。どうせ貞子さんにしか見られないし。
川д川「女には二つの種類があるわ」
川д川「泣き顔'さえ'も美しい女と泣き顔'だけ'はぶっさいくな女」
川д川「あんた後者ね」
('、`*川「……元から不細工ですけど、何か」
私は数粒の涙を人差し指で払い、ついさっき雨があがったばかりの青空を仰ぐ。
水溜りの中の。
今の私には両手を広げて空を仰ぐほどの力がない。
36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/06(土) 22:04:53.93 ID:e5GOOj730
そして、思うことは
忍耐とか、勇気とか、人間性とか、そんなもんじゃなくて
ああ、もっともっと
強くなりたいなあ――――――――――
37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/06(土) 22:06:10.42 ID:e5GOOj730
とゆーことで・・ 今日の投下分は終了です
ありがとうございました
続く・・・はず
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