スポンサーサイト
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
唯「0079!」
1 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/08/27(金) 20:48:42.15 ID:vS1BKfgo [1/32]
取りあえず全十話
初めてのスレ立てなんで何かあっても多めに見てくれ。
第一話 戦争!
唯たちが大学を受験するあたりに、戦争が始まった。
それから10ヶ月を経たある日のこと。
それは、紬の一言から始まった。
紬「みんなには悪いんだけど、私、バンドを辞めなければならなくなったの…みんなにも…もう会えないかもしれないの…。」
紬の目には溢れんばかりの涙が溜まっている。辞めるのは望んでのことではないだろう。たまりかねた律が口を開く。
律「ムギ…何かあったのかよ。いきなりそう言ってもみんな納得できないぜ。」
澪「そうだぞ。今は世間も冷たいけど、いつかきっと平和な時代が来るから、それまで頑張ろうって、練習場所を提供してくれたのもムギじゃないか。」
唯「そうだよ、ムギちゃんがいないと練習さえできなくなっちゃうし、なによりムギちゃんのキーボードがないと、放課後ティータイムじゃないよ!そんなのいやだよ!」
梓「ムギ先輩、よかったら理由を話してください。」
時は宇宙世紀0079、後に一年戦争と呼ばれる戦いの真っ只中である。
大学内でも活動が制限されはじめ、なんとかコロニーの有力者である父を持つ紬を頼って、世間の冷たい視線を避けて練習する場所を確保し、安堵していたところであった。
2 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/08/27(金) 20:50:55.91 ID:vS1BKfgo [2/32]
紬「私の父が、スペースノイドの独立運動に関わっていることは知っているわよね…」
一同は、頷いて紬に視線を向け続ける。
思えば紬がこういう類の話をしたことはなかった。
重要なことが起こっているのだと、理解できる。
紬「でも父はジオン派だったから、ザビ家とは折り合いが悪いの。」
紬「色々あったんだけど、それが原因で、私軍隊に入ることになっちゃったの…人質みたいなものかしら。」
たまらず律が口をはさむ
律「ちょっと待てよ。なんでムギが軍隊なんか行くんだよ。」
紬「最近、ジオンは旗色が悪いわよね…」
唯「ほえ?テレビでは勝ってるって言ってたよ?」
澪「バカ、昨日だかにオデッサの鉱山を放棄しちゃったし、大きい声じゃ言えないけど、負けてんだよ。」
梓「そうですよ、連邦軍が宇宙への大反攻作戦を計画してるって話もありますし。これ、アングラの出版物がソースですけど。」
紬「それでね、軍は長期戦に備えて、学生の動員も視野に入れ始めたらしいの。そしてその先駆けを、私にやれってことなのよ。」
4 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/08/27(金) 20:53:41.44 ID:vS1BKfgo [3/32]
紬「艦もMSも、家のお金で用意させられたわ。だからみんなが練習に使っているこのスタジオも、もうすぐ人手に渡っちゃうの。」
紬「私がみんなに練習を続けようってわがまま言っておいて、みんなを裏切るようなことになっちゃって、本当に申し訳ないと思っているわ。」
紬は泣きながら頭を垂れた。
重い沈黙が響き渡る。
それを破ったのはまたしてもバンドリーダーの律だった。
律「ムギ、それさ、私も一緒に行けないか?」
一同の視線が律に集まる。紬も泣きはらした目をこすりながら律を見上げる。
律の表情は真剣そのものだった。
澪「おい律、お前何言ってるのかわかってるのか?死ぬかも知れないんだぞ?戦争なんだぞ!」
律「分かってるよ、分かってるから行きたいんだ。」
澪「お前は絶対わかってない!」
6 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/08/27(金) 20:54:10.62 ID:vS1BKfgo [4/32]
律「さっき唯も言ってたよな、放課後ティータイムはムギがいないと駄目なんだ。ムギをひとりで死なせたら、私は絶対後悔するし、このバンドも終わりだ。」
澪「りつぅ…」
最早泣き顔の澪は上手く声が出ず、反論ができない。さらに律が続ける。
律「ムギが言ってたことが本当なら、いずれ私らも徴兵されるだろうしな。そうなったらムギがひとりで死ぬどころか、みんなバラバラで、あの世でバンド組むにしても、探す手間が大変だ。」
律「だから私は、ムギと行きたい。一人でなんか、絶対に行かせないからな、ムギ。」
紬は、相談したことを深く後悔していた。
8 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/08/27(金) 20:56:21.07 ID:vS1BKfgo [6/32]
しかしそれに追い打ちをかけるように唯が続ける。
唯「私もつれてってよ、ムギちゃん。」
梓「唯先輩はダメです!邪魔になるだけです!」
唯「あずにゃんは黙ってて!」
梓の目にもあっという間に涙がたまって今にも溢れそうだ。
唯は続ける。
唯「ムギちゃん、わたしね、毎日家で練習してるんだけどね…」
梓「ゆい…せんぱい…」
唯「みんなと演奏してるのを思い浮かべながら弾くと、すごく楽しいし、練習も上手くいくんだよ。」
唯「でも、もし誰かが死んじゃったら、きっと想像の中でも、その誰かがいなくなっちゃって…私きっと…練習できなくなっちゃう…」
いつの間にか、その場の全員が泣いていた。
唯「そうしたら…私…和ちゃんがいうように…何もできないニートになっちゃうよ…」
和は、唯とは違う大学だったが、入って早々つまらないと言い残してどこかに消えていた。彼女なりの道を見つけたのだろうが、唯にとっては寂しい話だった。
9 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/08/27(金) 20:59:49.83 ID:vS1BKfgo [7/32]
紬「唯ちゃん、艦にギターは持ち込めないわよ・・・」
唯「ムギちゃんと一緒に居させて!ギー太は帰ってきたら弾くことができるけど、ムギちゃんは…わたし、そんなの嫌だよ!」
紬「りっちゃん…唯ちゃん…ダメよ…お願い…諦めて…」
紬「私も辛いけど…みんなを巻き込むのはもっと辛いの…」
律「巻き込むとか、そういう事言うな!」
唯「そうだよ、ムギちゃん!」
熱くなってきたその場の空気を、澪が静めるように、言った。
澪「もうさ、話し合いになってないぞ…今夜一晩頭を冷やして考えて、明日また話しあおう…な。」
10 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/08/27(金) 21:02:32.79 ID:vS1BKfgo [8/32]
それを聞いて律と唯が急いで帰り支度をはじめる。
律「私はもう決めたからな。これから家族を説得しなきゃならないから、先に帰るぞ、澪。」
唯「私も憂を説得しに帰るよ。あずにゃん、悪いけど先行くね。バイバイ。」
二人が帰ったあと、紬はか細い声で謝り続けた。
紬「ふたりとも…ごめんなさい…私が軽率に相談なんかしなければ…」
澪「…ムギは悪くないよ…だから心配しないで、今日は帰って休もう。」
梓「そうですね…明日また話し合いましょう。ムギ先輩、ひとりで消えたりしないでくださいね。唯先輩と律先輩、何するかわかりませんから。」
紬「うん…明日、必ずまたここに来るわ。」
11 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/08/27(金) 21:03:38.98 ID:vS1BKfgo [9/32]
澪と梓は、話し合いながら一緒に帰っていた。
澪「なあ、大変なことになったけど、梓はどうするんだ?」
梓「私は、唯先輩が行くなら、ついていこうと思います。」
澪「あ…梓、それって…やっぱり唯のこと…///」
梓「ち、違いますです!///あの人は私がいないと何もできないから心配なだけです//////」
澪(どうしてこう素直じゃないかな…私も律が心配でついていきたいけど…戦争……怖い…)
12 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/08/27(金) 21:05:15.98 ID:vS1BKfgo [10/32]
田井中家では家族会議が行われていた。
律「…というわけだから。私はもういないと思ってくれ。」
律父「…」
律母「…」
聡「姉ちゃん…なんでだよ。男の俺が行けばいいじゃないか!」
律「聡…お前は年齢制限に引っかかるから父ちゃんと母ちゃんを守る役だ。しっかりやれよ。」
律母「律…何も進んで志願することはないんじゃないの?」
律「さっきも言ったけどこれは私の仲間内の問題なんだ。ムギをひとりで行かせる訳にはいかない。」
律「私は荷物をまとめるから、もう部屋もどるぜ。」
律が逃げるように居間から出る。
話が長引けば、それだけ自分の決心がブレてしまいそうだったからである。
律も、怖かったのだ。
だが、紬を一人で戦場に送るという選択肢は律にはなかった。
聡「父ちゃんはどうして何も言わないんだよ!」
律父「どうせ一晩考えて、怖くなって明日にでも止めると言い出すに決まってる。愛国熱に浮かれてるだけだからほっとけ。」
律父の読みはほぼ当たっていた。
紬という仲間の命がかかっていなければの話であるが。
13 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/08/27(金) 21:08:43.92 ID:vS1BKfgo [11/32]
憂は、泣いていた。
憂「お姉ちゃん、断ってきてよ。今すぐ!」
唯「いやだ。私ムギちゃんと行くって決めたんだよ。」
憂「お父さんもお母さんも地球で戦闘に巻き込まれて死んじゃって、今度はお姉ちゃんも戦争に行くなんて、私そんなの嫌!!」
憂が突然立ち上がり、受話器のボタンを操作する。
琴吹家に電話して、唯の入隊を阻止するためだった。
唯がそれを止める。
琴吹家の番号が表示されたコードレスの受話器が床に転げ落ちた。
唯「私、ちゃんと帰ってくるから、憂はおとなしくお留守番してて!」
憂「嫌だ、お姉ちゃん!行かないで!」
姉妹喧嘩は、一晩中続いた。
14 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/08/27(金) 21:13:29.24 ID:vS1BKfgo [12/32]
次の日、紬がスタジオに入るとすでに何人かは荷物まで持ち込んでいた。
今すぐでも入隊可能なくらいである。
律「よう、ムギ。荷物はこんなもんでいいか?私のおやじったら、家出る時、口をあんぐり開けちゃって、傑作だったぜ。」
紬「そ、そう…って、憂ちゃんまで!?」
憂「私、お姉ちゃんについていきます。」
唯「ごめん…私が止めきれなかったの。」
澪「私も決めたよ。みんなバラバラは、嫌だからな。」
紬「梓ちゃんは?」
律「何か手間取ってるって唯の方に連絡があったってさ。受験生だし、こないんじゃないか?」
話している先からドアが開いて、梓が現れた。
梓「遅れてすみません…ちょっと言い辛いんですけど…」
純「やっほー。来ちゃったよ。やっぱり憂もいるね。」
憂「純ちゃん!どうして!?」
純「昨日電話したら、梓が学校辞めるって言い出してさあ、問い詰めたったわけ。憂は電話にすらでなかったし。」
純「私も憂みたいに両親死んじゃったし、軍隊はご飯困らないしね。」
15 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/08/27(金) 21:14:43.34 ID:vS1BKfgo [13/32]
紬が、観念したように口を開く。
紬「みんな、今日一日だけ良く考えて。明日の8時にうちで適正検査を行うわ。」
律「私はもう家出てきたからここに泊まるぜ。」
次の日、全員が琴吹家に集合していた。
適性検査は丸一日掛かり、次の日には結果が出た。
ただ、結果が知らされるのは一週間の基礎訓練の後になる。
適性検査の結果で大体の職域が振り分けられるが、基礎訓練でその絞り込みが行われる為である。
適性検査の次の日から、軍の施設で基礎訓練が始まった。
16 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/08/27(金) 21:18:22.29 ID:vS1BKfgo [14/32]
次回予告(ナレーション:澪)
軍隊での生活は、私たちにとってショックの連続だった。
教官の無茶な命令に、ボロボロになっていくみんな…。
皆を励ます律の笑顔の先にあるのは、みんなで絶対に生き残るという強い意志だった。
次回 第二話 入隊!
君は、生き延びることができるか…///ハズカシイ
19 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/08/27(金) 21:29:55.62 ID:vS1BKfgo [16/32]
第二話 入隊!
ジリリリリリリリリリリリ
その音に、唯を除く全員がベッドから飛び起きる。
律「唯、起床だ!Bグループに負けちまうぞ!」
唯「う~ん…おかわり…」
紬「取りあえず、唯ちゃんは私が担いでいくから、澪ちゃんたちは、唯ちゃんのベッドをお願い。」
澪「分かった、律は毛布を頼む。」
律たちAグループが点呼に降りたとき、憂たちBグループは点呼を終えるところだった。
20 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/08/27(金) 21:30:47.98 ID:vS1BKfgo [17/32]
憂「Bグループ、総員3名、欠なし。健康状態異常なし。集合完了!」
憂が敬礼し、教官が答礼する。
教官「Bグループ、点呼終わり。解散。」
憂(お姉ちゃん…大丈夫かな…)
律「Aグループ、総員4名、欠なし。健康状態異常なし。集合完了!」
律が敬礼するが、教官は答礼しなかった。
教官「オイ、平沢姉二等兵。」
唯「ふえ…たくあん…」
教官「田井中二等兵、こいつも健康状態異常なしか?」
律「ええっと…そのう…」
教官「上官の質問には即答しろ!」
律「ハイ、すみません。平沢唯二等兵は半分寝てます!」
教官「秋山二等兵、そいつを殴って覚醒させろ!」
澪「え、ええっと…唯、起きろ。(教官…怖い…目がイッちゃってるじゃないか…)」
澪は唯を軽く叩く。もちろん唯は起きない。
21 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/08/27(金) 21:31:34.28 ID:vS1BKfgo [18/32]
教官「こうやるんだ、修正!!!」
ホールにビンタの音がこだまする。
唯「ぽへ」
教官「田井中二等兵、罰としてその場に腕立て伏せの姿勢を取れ!30回!」
紬「わ、私たちも…」
全員が腕立て伏せの姿勢をとろうとするが、教官がそれをさせなかった。
教官「俺は田井中に命令したんだ!他の奴は田井中がやり遂げるまで黙って見てろ!」
律「いち、に、さん…」
唯「りっちゃんごめんなさい……私のせいで…」
唯を始め、全員が泣きじゃくっていた。
22 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/08/27(金) 21:32:45.67 ID:vS1BKfgo [19/32]
教官「駄目だ、声が聞こえない!俺が数えてやる!」
教官「しい、ごお、ろく、ろく、ろーく、ろおおおおく…」
律「うへえ~」ペタ
回数が六から進まない。律が、たまらずその場にへたり込んだ。
教官「どうした、まだ5回しかできていないぞ。貴様は根性なしか!」
起床は6時だったが、点呼が終わると7時近くになっていた。
絶望にまみれた朝だった。
結局Aグループは朝食に間に合わなかった。
唯「みんなごめんね…おなかすいたよね…」
律「唯、気にすんな。それより午前は座学だ。寝ないように気をつけろよ。寝たら朝の悪夢がよみがえるぜ。」
紬「第一講堂で現代戦史よ。忘れ物は無い?」
唯「うん、大丈夫。」
澪「私は食べ物を買いに酒保に行ってくるから、カバン頼むな。」
紬「OKよ、時間に遅れないでね。」
23 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/08/27(金) 21:34:16.38 ID:vS1BKfgo [20/32]
全員が、聞きなれない戦史の授業を必死に聞いていた。
教官「ミノフスキー粒子の使用によって、それまで戦闘方法は一転し…」
教官「お…もうこんな時間か…よし、10分の休憩を与える。」
律「休憩、入ります。」
律「よし、手早く食うぞ。」
澪「カ○リーメイトだけどいいかな?」
紬「わあ、なにこれ。クッキーみたいで美味しそう!」
唯「食べれるならなんでもいいよ!いただきます!」
唯たちがカ○リーメイトを口に入れた瞬間、悪夢が蘇った。
教官「貴様ら、何を食っているのか?」
唯「ほえ?カ○リーメイトですけど…」
教官「朝食は?」
唯「点呼が遅くなって食べれませんでした~。えへへ…」
澪「あわわわわ…」ガクガク
24 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/08/27(金) 21:35:03.69 ID:vS1BKfgo [21/32]
講堂に、ビンタの音が響き渡った。
唯「ぺひゃ」
教官「食堂の飯を食うのも軍人の勤めだ!貴様らの食う飯は、同胞の血と汗と涙の結晶である!貴様らはそれを無駄にしたのだ!」
教官「おまけに朝食をとっていれば食わなくてよかったものまで買っているとは、無駄にも程がある!」
教官「酒保の商品も軍の物資である。貴様らはそれも無駄にしたのだ!金を払えば買えるとでも思ったんだろうが、前線でそれを言ってみろ!後ろから撃たれるぞ!!」
たまらず、唯が泣き崩れる。
唯「うええええええん!!」
教官「やかましい!琴吹、そいつを黙らせろ!!」
紬が唯の口を必死に塞ぐ。
紬「唯ちゃん、お願い、泣き止んで。」
唯「うう~ひっぐ…むぐ…」
25 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/08/27(金) 21:36:35.12 ID:vS1BKfgo [22/32]
しかしこれで教官の追求は終わりではなかった。
教官が続ける。
教官「で、この貴重な軍の物資を、貴様らの胃袋という名のゴミ入れに捨てるため、わざわざ酒保から買ってくるという愚かな行為をしたのはどいつだ?」
澪「わ、私です…ごめんなさい…」
教官「よし、田井中二等兵、腕立て伏せの姿勢を取れ!20回!」
律の腕は、朝の腕立てでパンパンに張っており、使い物にならなかった。
澪「私がやったことですし、私が…」
教官「俺は田井中と言ったはずだが。」
澪「ヒッ!!」
教官「秋山!貴様のヘマで貴様が死ぬだけで済むと思うな!貴様がヘマすることで田井中が死ぬことだってあるのだ!これはそういう事だと思え!!お前は腕立ての回数でも数えてろ!!」
澪「いち、にい、…頑張れ、律。」
澪「じゅうご…じゅうろく…もう少しだぞ、律。」
教官「腕の曲げ方が足りない。四回目からやり直せ!」
澪「そ…そんな…」
教官「早くしろ!休憩時間は終わってるんだぞ!講義の時間までむだにする気か?」
澪「うう…ひっく…よん…ごお…」
26 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/08/27(金) 21:38:00.19 ID:vS1BKfgo [23/32]
講義が終わって、四人はようやく食料にありつけた。
律「全く、たまんねーなあ。腕が太くなっちゃうぜ。」
昼食をとり終わり、律がいつものように笑いながら皆に語りかける。
唯「みんな…ごめんなさい…」
澪紬「私も…」
律が、制する。
律「ちょっと待った。ごめんとか、悪かったとかいうのは金輪際止めにしよう。」
律「一人のミスは、皆のミスだ。いちいち謝ってちゃ、キリがないしな。何があっても、恨みっこなしで行こうぜ。私たちはチームだからな。」
澪「律…」
紬唯「りっちゃん…」
律「さあ、次は体育だぞ!着替えなきゃいけないから、そろそろ居室に戻ろうぜ。」
体育は、本当の地獄だった。
四人はへとへとになって居室に帰ってきた。
27 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/08/27(金) 21:38:44.42 ID:vS1BKfgo [24/32]
唯「ほええええ。」
律「キツかったな~唯隊員。」
紬「みんな…こんなことに巻き込んでしまって、本当にg」
律「ムギ、ルール違反だぞ!」
紬は涙をこらえて、笑顔を作った。
紬「じゃあ、言い換えるね。私に付き合ってくれて、ありがとう…みんな。」
澪「明日からは、お互いに負担を掛けないよう、皆頑張ろうな。」
唯紬「おーーーーっ!!」
律は照れ隠しに頭を掻きながら、口を開いた。
律「ささ、今日の復習しとかないと、明日も腕立てで、みんなマッチョになっちゃうぞ!」
居室に、笑いが溢れた。
今日一日で、初めての笑い声だった。
28 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/08/27(金) 21:39:49.88 ID:vS1BKfgo [25/32]
リーダーは、日替り制である。
純は、慌しく朝を迎えた。
純「ええっと…こうして…」
憂「純ちゃん、点呼だよ。急いで。」
梓「ああもう、毛布は私たちでたたんであげるから、リーダーなんだから、しっかりして。」
純「うん、二人共、ありがと。」
ホールに降り、整列。点呼報告をする。
純「えっと…Bグループ、全員集合…だったっけ?」
教官「号令が違う!」
純「Bグループ…」
憂がすかさず、耳打ちする。
憂「総員三名、だよ、純ちゃん。」
29 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/08/27(金) 21:40:58.49 ID:vS1BKfgo [26/32]
そうこうしているうちに、Aグループが点呼をとってしまう。
紬「Aグループ、総員四名、欠なし。健康状態異常なし。集合完了。」
教官「Aグループ、点呼終わり。解散。」
純「Bグループ、総員三名、欠なし。えっと…みんな元気です!」
教官「そんな号令はない!」
純「Bグループ、総員三名、欠なし…」
憂「健康状態異常なし。集合完了。だよ。」
純「健康状態異常なし。集合完了。」
教官「…点呼終わり。Bグループは居室点検!」
純「え…?」
教官がズケズケと居室に侵入する。
純は慌ててそれを追いかけたが、部屋に入ると教官が純の毛布を引っ張り出していた。
純「ちょ…ちょっと…」
教官「鈴木二等兵、何だこの毛布は!クンクン!」
純「えっと、琴吹繊維製…ウール100%…」
教官「誰が品質表示を読めと言った!ふざけるな!見ろ、この折り目はなんだ!汚すぎる!!クンカクンカ!!」
純「…すみません…」
教官「鈴木二等兵!腕立て伏せの姿勢を取れ。20回!」
30 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/08/27(金) 21:43:10.64 ID:vS1BKfgo [27/32]
朝食の時間はギリギリだった。
食べ終わったら重い装備を身につけて射撃訓練である。慌ただしかった。
純「はあ、はあ…」
憂「純ちゃん、大丈夫?」
梓「リーダーでしょ、へばんないでよ。」
純「へ、へばってないもん…」
武器庫に到着すると、教官が待っていた。
純「き・・・気をつけ。右へ倣え。」
純「Bグループ、総員三名、欠なし。健康状態異常なし。集合完了。」
教官「オイ、鈴木二等兵、昨日武器庫の開錠時間は何時だと教わった?」
純「8時20分です。」
教官「軍隊では時間をそのように表現すると教わったのか?」
純「すみません…マルハチフタマルです。」
教官「今、何時だ?」
純「ええっと…0840です。」
教官「遅い!!武器庫の開錠は部隊ごとに時間によって厳しく統制されている!貴様のヘマで、訓練施設全体の行動が遅延した!どうしてくれる!!」
純「す…すみません…」
31 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/08/27(金) 21:44:26.19 ID:vS1BKfgo [28/32]
教官「貴様の銃だ。受け取れ。」
純「はい!!」
教官「控え銃!駆け足、進め!営庭二周!」
純「はっ…はっ…」
教官が純の後ろにぴったりついて罵声を浴びせ続ける。
教官「速く走れ!貴様が走り終わるまで教育は一ミリも進まんのだぞ!」
三キロ以上ある小銃を抱え、純は死ぬ思いで走っていた。
純「ふう…はあ…おもい…」
教官「へばるな!もっと速く走れ!おら!!」
純のスピードが落ちると、教官が背中を無理やり押して、スピードを落とさない。
教官「歩調、数え!」
純「いち、いち、いちにい!」
純は、ヘトヘトになって武器庫に帰りついた。
純「ぜーっ…ぜーっ…」
教官「このクズのせいで、教育に遅延が生じている!急ぐぞ!射撃場まで駆け足!!」
純は一日、走り通しだった。
32 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/08/27(金) 21:46:04.36 ID:vS1BKfgo [29/32]
純「憂はスゴイね…昨日憂が問題なくこなしてたから、私リーダーって簡単なことだと思ってたよ。」
憂「いつもお姉ちゃんの世話で忙しいの慣れてるから…でも純ちゃん大変だったね。」
梓「明日はリーダー私か…憂鬱だな~。っていうか唯先輩、大丈夫かな?」
その一言で、憂の顔色が変わる。
憂「そうだ…お姉ちゃんも…きてるんだった…」
憂の目が、みるみるうちにうるんで来る。
憂「おねえちゃん…」
梓「だ…大丈夫だよ。他の先輩たちもいるし。」
純「そうだよ!な、なんとかなるって。」
純と梓が慰めたが、寝るまで憂が泣き止むことはなかった。
一週間は、すぐに過ぎた。
これからは、各職域に分かれて訓練する。
今日はその、職域が発表される。
教官「Aグループは、全員MSパイロット。Bグループは、中野二等兵、MSパイロット、平沢妹二等兵、医療班、鈴木二等兵は通信に配属される。これからそれぞれの訓練所に分かれて専門教育を受ける。移動は明日までだ。さっさと行け。」
33 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/08/27(金) 21:47:20.83 ID:vS1BKfgo [30/32]
各人は、慌しく準備を始めた。
律「引越ーし、引越ーし、とっとと引越ーし♪」
梓「久しぶりです、先輩。」
唯「おー、あずにゃん。放課後ティータイムはやっぱり見えない糸で結ばれてるんだね。」
梓「そんな事より唯先輩、私が先輩の荷物まとめてあげますから、憂のところに行ってあげてください。お姉ちゃんと一緒じゃないって、泣いてますよ。」
唯「わかった!行ってきます!!」
澪「それにしても、唯がMSパイロットとはな…」
律「唯は飲み込み早いからな。よいしょ。」
紬(唯ちゃんの適正…何かの間違いよね…)
実は、紬は適性検査の結果を斉藤から見せられていた。
唯の脳波測定記録には、N+ 微弱な感応波を観測 と書かれていた。
ニュータイプ適正である。
唯とは、もしかしたら最後まで一緒にいられないかも知れない。
紬はそう思っていた。
34 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/08/27(金) 21:48:18.39 ID:vS1BKfgo [31/32]
唯は、泣きながら荷物をまとめる憂に歩み寄った。
唯「うい…大丈夫?」
憂「お姉ちゃん…私…お姉ちゃんと一緒になれなかった…寂しいよ…」
唯は、しっかりと憂を抱きしめた。
唯「憂…私、毎日電話するよ。それに教育が終わって艦に配属になったら、毎日会えるよ。だから、寂しくないよ。」
憂「おねえちゃん…」
唯「憂、頑張ろうね!」
唯は抱きしめる手に、力を込めた。
憂「お姉ちゃん、苦しいよ。」
二人は、笑顔を作って離れた。
35 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/08/27(金) 21:50:23.91 ID:vS1BKfgo [32/32]
次回予告(ナレーション:唯)
MSの訓練施設でね、懐かしい人に会ったんだ。
不死身の女の人だよ。
恥ずかしがりの澪ちゃんは実機訓練で、大変そう。
これ以上は、ネタバレになっちゃうから、言わないね。
次回 第三話 パイロット!
君は、生き延びることができるかっ!フンス
39 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/08/28(土) 19:27:27.58 ID:3g3TlqEo [2/10]
第三話 パイロット!
MSパイロットの訓練は、座学、シミュレーター、実機と、順を追って行われる。
唯たちが座学を受けに教場に向かっていると、シミュレーター室の方でざわめきが起こっていた。
唯「なんか向こうが騒がしいよ。」
律「よ~し、時間に余裕もあるし、シミュレーター見学も含めて、行ってみようぜ。」
澪「怒られるかも知れないぞ。」
紬「その時はその時よ。行ってみましょ。」
梓「みなさん肝が大きくなりましたね。」
唯「はいよっと、ごめんなさいね。え~と、何があったんですか?」
パイロット候補生「教官が模擬戦で不死身のコーラサワコに負けたんだよ。」
唯「へえ、どんなひとだろ?」
パイロット候補生「模擬戦全勝の女だ。いま出てくるぜ。2番シミュレーター。」
40 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/08/28(土) 19:36:47.77 ID:3g3TlqEo [3/10]
「2」と記されたカプセルからパイロット候補生が出てくる。
ヘルメットを取ると、髪の長い女のようだった。
「ま、これが実力ってやつよねえ。」
唯は、その女に見覚えがあった。
唯「さわちゃん先生!?」
さわ子「あら…!唯ちゃん!?」
律「さわちゃんだって!?」
律を始め皆が人ごみをかき分けて出てくる。
さわ子「皆まで…どうして!?」
律「どうしてはこっちのセリフでもあるぜ。なんでさわちゃんが…」
澪「おい律、時間時間。」
律「おっと…私たち講義があるから後でだ。さわちゃん夕食後大丈夫?」
さわ子「ええ、大丈夫よ。夕食後ね。」
41 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/08/28(土) 20:18:54.18 ID:3g3TlqEo [4/10]
そして、夕食後。
六人は談話室に集まっていた。
さわ子「で、皆はなんでこんなところにいるの?」
律「実はムギが…かくかくしかじかで…」
さわ子「そうだったの…私も学校にいるときに学徒動員の話は何回か耳にしたけど、本当にやりだしたわけね。」
澪「さわ子先生は知ってたんですか?学徒動員の事?」
さわ子「教育委員会から通達が回ってきたのよ。学徒動員があるかも知れないから、スムーズな動員を助けるために、スペースノイドの独立論やニュータイプ論を教育に盛りこむようにってね。」
さわ子「うちは女子高だったからあまり気に留めなかったけど、まさかあんたたちが来ちゃうとはねえ…。」
紬「さわ子先生はどうしてMS訓練施設に来たんですか?」
さわ子「その愛国教育の一環ね。女子高の、女教師が志願したとなると、真面目な男の子なら黙っちゃいないでしょうから。今頃コロニーじゃプロパガンダに使われて私も有名人ねえ。」
梓「お互い大変なんですね。ていうか私さわ子先生が学校いなかったの気づきませんでした。」
さわ子「中野ォ!!オメーは顧問を何だと思ってんだあ!!」キシャア
梓「」
さわ子「…私はもうすぐ実機やって艦に配属になるけど。皆はこれからだから。頑張ってね。」
そう言ってさわ子は部屋に戻っていった。
悲しそうな、背中だった。
42 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/08/28(土) 21:18:30.91 ID:3g3TlqEo [5/10]
唯たちも、すぐにシミュレーター訓練に入り、今は実機を残すのみだ。
学徒兵は促成栽培である。
軍隊に入ったのが11月の始めで、今は11月の終わりである。
やってる最中は長く感じたが、あっという間の教育期間だった。
来月初めには、紬の家が買ったという軍艦に配属になる。
これでも短いというのに次の期からは年齢制限も低くなり、さらに教育期間を短縮するらしい。
澪「そろそろジャブローを攻めるらしい。」
律「ジャブローを落とせれば、私たちの出番は無いな。」
紬「そうなってくれればいいんだけど…」
唯「ジャブローって、月だっけ?」
梓「唯先輩は黙っててください。」
施設の職員が、呼びに来る。
職員「田井中候補生、秋山候補生、初飛行だ。1番デッキに15分後。ノーマルスーツの点検はしておけよ。」
律「じゃ、行ってくる。」
澪「またな。」
澪の手は、震えていた。
確実に、戦場に向かって前進しているという手応えがあった。
43 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/08/28(土) 21:19:56.79 ID:3g3TlqEo [6/10]
教官「カタパルトで射出後、ポイントC-5でカプセルを採取した後、2番ゲートに着陸する。シミュレーター通りだ。出来るな。」
澪「はい。」
教官「カタパルトは出力を絞ってあるから、感じるG自体はシミュレーターで経験したものと同じだ。君の前に田井中候補生が飛ぶから、それを見て落ち着いてやるように。」
その時、律がカタパルトに前進しているところが、サブモニターで確認できた。
律「T-04、MS-05、田井中律、いっくぜー!!」
T-04とは、練習機(trainer)104番という意味のコードネームである。
パイロット候補生は出撃時、コードネーム、機種名、パイロット名、出撃号令(行きます)を呼称することが義務付けられていた。
澪「教官、その…射出時の呼称なんですけど…」
教官「何だ、秋山候補生。」
澪「その…イク///とか…出る///…とかホントに言わなきゃいけないんですか?///」
教官「当たり前だ!君のタイミングで射出しないと、舌を噛んだり、Gで気絶したりするぞ!」
澪「は…はい…(人前でそんな事言うなんて…恥ずかしい///)」
44 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/08/28(土) 21:20:55.75 ID:3g3TlqEo [7/10]
教官「ほら、カタパルトまで前進して。機体を固定。」
澪「歩行モード、微速前進。…カタパルト装着完了。」
教官「出撃呼称。」
澪「T-05、MS-05、秋山澪、イ…イク…//////」
教官「声が小さい!」
澪「T-05、MS-ぜrあむっ!」
教官「出撃呼称で噛むな!」
澪「T-05、MS-05、秋山澪、イクッ!//////」
教官「もっと大きな声で!」
澪「イクゥっ!!/////////」
45 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/08/28(土) 21:21:47.76 ID:3g3TlqEo [8/10]
唯たちの居る待合室では、澪と教官のやり取りが放送で聞こえるようになっている。後から飛ぶ候補生が参考にできるようにである。
唯「澪ちゃん怒られてるね。」
梓「そ…そうみたいですね…//////(恥ずかしいならイク///じゃなくてもっと他の表現があると思うんだけど…)」
唯「ムギちゃん大丈夫?すごい鼻血だよ!!」
紬「唯ちゃん、悪いけどティッシュを貸してもらえるかしら。持ってる分じゃどうあがいても足りないわ。」ボタボタ
梓「ム…ムギ先輩…」
澪「イクゥーーーーーっ!!////////////」
教官「よし、出すぞ!!」
澪の体がシートに押し付けられる。
本物のGだ。
ゲートを抜けると、星の海だった。
教官の声が聞こえなかったら、ずっと見とれていただろう。
46 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/08/28(土) 21:23:01.46 ID:3g3TlqEo [9/10]
教官「AMBACを併用してサブスラスターで姿勢を制御。ポイントC-5をセンターに入れてみろ。」
澪は、訓練通りにやったが、上手く行かずにもたつく。
教官「落ち着け。スラスターを吹かし過ぎだ。」
澪「は、はい…」
スロットルとフットペダルを、優しく操作してやる。
教官「上手いじゃないか、次はメインスラスターも使ってポイントC-5まで行ってみろ。加速しすぎて、通りすぎるなよ。」
澪「はいっ…うっ!」
スロットルを開けていくと、澪の背中にGがかかる。
目標がみるみるうちに大きくなる。
教官「逆噴射。」
澪「ウウッ…」
逆噴射をすると、シートベルトが食い込み、頭が前に持って行かれる。
徐々に速度が落ちてくる。目標の目の前で澪のザクはそれとの相対速度を0とし、Gも止んだ。
47 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/08/28(土) 21:23:37.43 ID:3g3TlqEo [10/10]
教官「マニュピレーターをマニュアル起動、目標を掌握しろ。」
澪「はい。」
澪はザクの手で目標を優しく包み込んだ。
細かい作業は得意である。
教官「いいぞ。マニュピレーターをホールド。帰投する。着地は難しいから、気を抜くなよ。」
澪「はい。帰投します。」
澪のザクは、カプセルを抱えてスムーズに着地した。
また、戦場に向かって一歩を踏み込んだように思えた。
まもなく、五人は訓練施設を卒業した。
ジャブロー攻略戦は失敗した、という情報も入ってきた。
50 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/08/29(日) 17:59:14.08 ID:Kgh7t32o [2/53]
第四話 軍艦!
配属になる艦が見えてくる。チベ級の重巡洋艦だ。
唯「こ、これムギちゃんちで買ったの…?」
紬「別荘、なくなっちゃったけどね。会社も火の車らしいわ。」
梓「私はムサイ級だとばっかり思ってましたよ…すごい。」
澪「ああ…でかいな。」
律「とにかく荷物置きたいな。部屋はどこだ?」
斉藤「みなさんの居室は第2居住区にございます。こちらへ。」
新造艦の新しいペンキの匂いが5人の鼻をつく。
理由はよくわからないのだがなぜか誇らしい気持ちになってくる。
パイロットは個室が与えられるはずだが、五人は士官ではないということで二人部屋なのだそうだ。
51 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/08/29(日) 18:01:54.45 ID:Kgh7t32o [3/53]
斉藤「荷物を居室に置かれましたら、艦長への着任報告をしていただきます。」
律「いっそがしいねえ。一息つかせて欲しいんだけどなあ。」
梓「艦長は琴吹グループ関係の方ですか?」
斉藤「いえ、皆さんと同い年くらいで、非常に有能な方です。」
律「おいおい、艦長も若年兵かよ。大丈夫か?」
斉藤「史上最年少で大型航宙船舶の艦長資格を取られた方です。心配は無用かと。」
律「エリートじゃねーか、そんなのみすみす戦争に引っ張ってきていいのかよ。簡単に殺していい人材じゃないだろ?」
斉藤「本人たっての希望のようです。」
澪「変わり者なんだな…」
斉藤「到着いたしました。お嬢様は1号室、田井中様と秋山様は2号室、平沢様と中野様は3号室でございます。」
52 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/08/29(日) 18:03:07.81 ID:Kgh7t32o [4/53]
唯「あの…妹はどこですか?」
斉藤「憂様は隣の第1居住区にお住まいです。」
紬「取りあえず荷物を置いて艦長室に行きましょうか。」
居室の自動ドアが開く。
紬の部屋は酒臭かった。
紬「…うっ。」
さわ子「なによ~、だれ~?」
紬「さわ子先生!?」
斉藤「山中様、艦内はアルコール厳禁でございますが…」
さわ子「出航したら調達できなくなるんだし、今だけよ~」
さわ子「あらムギちゃん訓練施設以来ね。いらっしゃ~い。」
ドアが閉まる。
53 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/08/29(日) 18:03:50.69 ID:Kgh7t32o [5/53]
唯「ムギちゃん前途多難だね。」
梓「私だって前途多難です///。唯先輩と一緒なんて…//////。」
唯「ほえ?じゃあ澪ちゃんと変わってもらおうかな?」
梓「だだだダメです。律先輩に迷惑掛けないでください///」
律と澪が荷物を置いて出てくる。
律「じゃあ艦長室に行くか。斉藤さん、案内よろしく。」
斉藤「かしこまりました。」
艦長室はそう遠くはなかった。
これならば憂の居室もそう苦もなく行けそうだ。
通路はどこも似たようなつくりだが、壁に案内の矢印が付いているので初めてのものでも艦内のどこへでもアクセスできそうである。
54 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/08/29(日) 18:11:54.35 ID:Kgh7t32o [6/53]
律が艦長室のドアをノックする。
「どうぞ」
自動ドアが開くと、そこには見知った人物が座っていた。
律「の…和!」
唯「和ちゃん!?」
和「驚くのはわかるけど、着任報告をして頂戴。話はそれからよ。」
律が、ぎこちなく敬礼する。
律「宇宙軍軍曹、田井中律他4名、MSパイロットとして着任いたします。」
和「着任を許可します。私は艦を任されている真鍋和少佐よ。この艦はチベ級重巡洋艦ブオンケ。艦名の由来は東北地方に生息する妖怪だそうだけど、そんな話必要ないわね。」
55 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/08/29(日) 18:12:48.05 ID:Kgh7t32o [7/53]
和「ちなみに今後の予定は本コロニーを明日0600出航、明後日1130には宇宙要塞ソロモンの第6スペースゲートに入港。じ後宇宙攻撃軍の指揮下に編入されるわ。」
和「あなた達は出航までに受領したMSの初期点検を済ませておくこと。あとのことは山中曹長に一任してあるから、彼女に聞いて。」
律「了解。…ってなんで和がここにいるんだよ?」
和「うーん、どこから話せばいいのかしら?」
唯「和ちゃんが大学やめたとこからだよ。」
和「私は大学を辞めて、木星船団へ志願したの。木星のプレッシャーを体感してみたかったし、社会の根底を支えるやりがいのある仕事だと思ったから。」
木星船団とは、核融合エネルギー源のヘリウム3を、木星から採取し、地球圏まで運搬することを主な業務としている。
地球圏を離れての航行は長期にわたり、過酷である。
56 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/08/29(日) 18:13:33.89 ID:Kgh7t32o [8/53]
和「試験さえ通れば私みたいな大学中退の若輩者でも別け隔てなく採用してくれるし、艦長職の資格も取らせてもらったわ。でも祖国が戦争してる時に、木星だのなんだのとロマンを求めているのもどうかと思ってた。」
和「そんな時に会社づてでこの部隊が発足することを知ったのよ。木星船団は、琴吹グループとも関わりがあったから。」
澪「そうだったのか…」
和「木星には行けなかったけど、また戦争が終わったら船団に戻りたいと思っているわ。木星行きも諦めきれないしね。」
唯「すごいね和ちゃん、木星帰りの女って呼んでいい?」
和「……だからまだ行ってないって…。」
梓「唯先輩は口を開かない方がいいです。」
和「さ、話はまたあとで聞くから、MSの点検の方をお願いね。」
律「わかった。要件終わり、退出します。」
59 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/08/29(日) 18:22:43.22 ID:Kgh7t32o [10/53]
部屋を出ると、律は唯の方に体を寄せた。
律「唯、お前は憂ちゃんのとこへ行ってやれ。起動チェックと初期点検は私たちがやってやるから。」
唯「え…いいの?」
律「あとから合流して、お前に合わせてペダルや操縦桿なんかを調整をすりゃいいだけにしとくからさ。憂ちゃんとずっと離れ離れだったから会いたいだろ。」
唯「うん…りっちゃんありがと!」
紬「憂ちゃんよろこぶわねえ」
澪「そうだな、早く行ってやれよ。」
梓「ですね。」
60 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/08/29(日) 18:23:25.97 ID:Kgh7t32o [11/53]
第1居住区はすぐに見つかった。
憂は純と同室らしい。部屋をノックすると純の間延びした声が聴こえる。
純「どうぞ~」
唯「あ、純ちゃん。憂は?」
純「唯先輩、憂なら医務室ですけど。今日は当直らしいんで。」
唯「えっと…医務室は…」
純「私が案内しますよ。今暇ですし。」
純は手際よく部屋から出て、リフトグリップをつかんだ。
唯もそれに続く。
純「唯先輩、MSパイロットなんですよね。カッコいいなあ。」
唯「乗っている時は洗濯機の中に居るみたいだよ。Gがすごいんだあ。」
唯「まだ訓練施設でザクにしか乗ったこと無いんだけどね。」
純「ここにはリックドムが配備されているみたいですよ。」
唯「へえ、すごいね。新型だよ。」
純「医務室はここです。じゃ、私はこれで。」
純がリフトグリップに引っ張られて戻っていく。
唯はなんだか久しぶりに妹に会うのが気恥ずかしいような気持ちだった。
62 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/08/29(日) 18:30:11.04 ID:Kgh7t32o [12/53]
唯「失礼します…」
医務室に入って初めて目を合わせたのは中年くらいの女医だった。
その女医が目を丸くしている。
女医「ひ…平沢伍長!?今そこに…」
唯「ええっと…私は平沢軍曹だよ。」
憂「先生、呼びましたか?」
女医「ひ…平沢伍長が二人…!?」
憂「おねえちゃん!!」
唯「うい~、元気にしてた?」
二人が抱きあう。女医もようやく事態が飲み込めたようだ。
63 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/08/29(日) 18:30:58.94 ID:Kgh7t32o [13/53]
女医「ああ、いつも平沢伍長が喋っている、MSパイロットになったお姉さんだったのかい…あまり似てるもんだからびっくりしたわ。」
憂「はい、姉の唯です。」
憂の目は嬉し涙で濡れていた。涙はみるみるうちに溜まって、今にもこぼれ落ちそうである。
それをぬぐいながら憂は続ける。
憂「お姉ちゃん、ちゃんと食べてた?具合悪くない?ケガとかしてない?」
唯「みんな一緒だったから大丈夫だよ。」
憂「私、看護師になったから、何かあったらいつでも来てね。」
唯「うん。それじゃあ私、自機の点検に行ってくるね。」
憂「頑張ってね、お姉ちゃん。」
医務室の扉を出ると、唯はMSデッキを目指した。
64 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/08/29(日) 18:31:29.47 ID:Kgh7t32o [14/53]
その時、MSデッキでは驚嘆の声が上がっていた。
律「しかしすげーな、ザクとは段違いじゃねーか。」
実際に乗ってみなくても、モニター越しに性能に関するデータを拾うだけで。MSがどれほどのものなのかが、想像できる。
リックドムは、訓練施設で使った旧式のザクとはまるで別物だった。
梓「ちょっと動かしてみたいですね。」
さわ子「出航が近いからダメよ。出航したら、警戒態勢になるから各チームシフトを組んで待機ね。その時に敵襲があれば処女飛行できるわよ。それまではシミュレーターで我慢しなさい。」
梓「敵が来たときに処女飛行なんて、初期不良とかメカニカルトラブルが起こったらどうするんですか?」
さわ子「冗談よ。私と斉藤さんのドムが飛行試験まで終わってるから、それで出ることになるわね。私の機体に傷をつけたら許さないけど。」
さわ子「まあ敵が出るような宙域ではないから安心して。」
65 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/08/29(日) 18:31:57.20 ID:Kgh7t32o [15/53]
さわ子「取りあえずチーム分けをするわ。私と斉藤さんとムギちゃんがキーボードチーム。りっちゃんと澪ちゃんがドラムスチーム、唯ちゃんと梓ちゃんがギターチームよ。コードネームは、チーム名の後ろに番号をつけて。」
紬「私はキーボード03がコードネームね。」
澪「嫌だ。」
さわ子「ああん!!?なんだってえ!?」
澪「ヒッ!!!!」
さわ子の顔が優しそうないつもの表情に戻る。
さわ子「何か言いたいことがあったら言いなさいね。」
澪「ええっと、コードネームはベース01がいいです…」
さわ子「澪ちゃんはどうでもいいことにこだわるわねえ…」
澪「ど、どうでもよくなんかありません!」
その時、唯が医務室から帰ってきた。
67 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/08/29(日) 18:39:20.56 ID:Kgh7t32o [16/53]
唯「みんなお待たせ~」
律「よう、ギター01、憂ちゃんはどうだった?」
唯「ほえ?なにそれ?」
梓「唯先輩のコードネームですよ。私がギター02で、二人でチームです。」
さわ子「シフトは6時間交代で、最初はドラムスチーム、次にギターチーム、キーボードチームの順で行くわ。待機場所はデッキ横の仮眠室ね。」
律「私はシミュレーターやりながら待機しとくよ。唯、操縦系の硬さと位置の調整しとけよ。」
唯「ほいさ。」
さわ子「熱心なのはいいけど、ちゃんと休息も取りなさいよ。」
さわ子の言う通り、ソロモンまで敵影はなかった。
ブオンケの緑の船体は、静かにソロモンの第6スペースゲートに入港した。
68 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/08/29(日) 18:40:08.02 ID:Kgh7t32o [17/53]
和に、呼び出された。
唯がブリーフィングルームに到着すると、もうすでに主だったメンバーが揃っていた。
和「着任報告に行くわよ。」
唯「和ちゃんにりっちゃんがしたじゃん。」
和「ソロモンの司令に私が着任報告に行くのよ。あなた達も来るの。」
唯「ほええ。」
梓「唯先輩はしゃべらない方がいいです。」
律「そういえば、ここの司令はザビ家だろ。ムギ、大丈夫か?」
紬「ドズルさんは優しいから大丈夫よ。上の二人はちょっと苦手だけど…。」
澪「それなら問題ないな。」
紬「澪ちゃんにはちょっと刺激が強すぎるかも…」
澪「え、なんだって?」
紬「なんでもないわ~」
70 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/08/29(日) 18:40:50.22 ID:Kgh7t32o [18/53]
7人は艦から降り、司令室を目指す。
途中で何人かの兵士が奇異の目を向けてくる。
若すぎると思っているのだろう。特に和は階級と年齢があっていない。
通り過ぎる兵士たちは、ほとんどが和より低い階級だったが、和に敬礼をすることはなかった。
和は気にせず進んだ。
気まずい空気を何とかしようと、唯が話題をふる。
唯「私たちで、みんなのあだ名を考えようか。ソロモンのゴキブリ、なかのあずにゃん、とか。」
梓「なんで私がゴキブリなんですか?」
唯「すばしっこくて攻撃が当たんないし、出てくるだけでみんな恐れおののくんだよ!」フンス
梓「そんなの嫌です!唯先輩ろくな事言いませんね!」
71 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/08/29(日) 18:41:27.91 ID:Kgh7t32o [19/53]
澪「光速のベーシスト、秋山澪…」ボソ
律「みおちゅわん、なんだって~?」
澪「ヒッ!!何も言ってない…」
紬「きこえたわよ~」
澪「ムッ…ムギィ~っ///」
笑いが起こる。
最近は入隊した当初に比べてみんなよく笑うようになった。
この状況に、慣れてきているのだろうか。
澪は、自分が普通の人間じゃなくなったように感じ、少し寂しい気持ちになった。
72 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/08/29(日) 18:46:51.61 ID:Kgh7t32o [20/53]
司令室のドアが開け放たれたとき、澪は震え上がった。
司令の机に収まっているのは、澪が見たこともないくらい恐ろしい形相の大男だったからだ。
和「重巡洋艦ブオンケ艦長、兼、在学徴集兵運用実験隊隊長、宇宙軍少佐、真鍋和以下7名。着任報告に上がりました。」
ドズル「ご苦労。楽にしてくれ。」
司令室には7人分の椅子が用意されていた。腰掛けろということなのだろうが、澪だけ立ったまま動かなかった。
紬「澪ちゃん、座って。」
紬が力まかせに椅子に押し付け、ようやく形ばかりは椅子に収まった。
澪は気絶しているようだ。
ポツリポツリと、ドズルが語りだす。
ドズル「琴吹殿には大変申し訳無く思っている。」
73 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/08/29(日) 18:47:43.53 ID:Kgh7t32o [21/53]
紬「閣下がそのように思う必要はありません。父もそう言うでしょう。」
ドズル「いや、言いだしっぺは俺なのだ。俺が、戦いは数だと言いすぎたせいで兄上か姉上が学徒動員の話を進めてしまった。」
話が長くなりそうだと踏んだ和が切り出す。
和「すみません、今後の任務に関する仕事があるので、私はこれで失礼したいと思います。」
ドズル「おう、艦長は行ってくれ。気づかんで悪かったな。」
ドズル「琴吹殿、ミネバに会っていかんか?他の者も。」
紬「ミネバ様にお会いしてもよろしいのですか?」
ドズル「かまわん。ミネバも喜ぶ。付いてきてくれ。」
ミネバのいる部屋までは結構な距離を歩いた。
公私をくっきりと区別しなくては他の兵に対して示しが付かないというドズルの配慮だろうと紬は思った。
ザビ家の中で、政治や権力に毒されていなかったのは、ドズルだけだった。
そのため、ドズルは人望も厚く、紬の父もドズルとだけは交友があった。
紬が背中におぶった澪を重たいと感じ始めた頃に、ミネバのいる部屋へ到着した。
74 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/08/29(日) 18:48:47.00 ID:Kgh7t32o [22/53]
唯「わあ、ちっちゃい。ムギちゃん、この子すっごくかわいいよ!」
梓「まさしく玉のようですね。」
律「わっ、ちっちゃい手で指をつかんだぞ!!」
動かない澪を部屋の隅において、紬もミネバのベッドに近づく。
紬「ミネバちゃ~ん、ほ~ら、マンボウのマネ~」
ミネバ「キャッキャッ」
唯「笑ったよ!ミネバちゃん笑った!!ミネバちゃ~ん!」
さわ子「ミ~ネ~バ~ちゃ~ん。ほんと、かわいいわねえ。」
律「反則だろこれ…つ…連れて帰りたいな…。」
梓「ダメですよ!」
律「わーってるよ!冗談、冗談。」
紬「私たちも仕事があるし、これでおいとましましょうか。」
唯「ええ~、もっとミネバちゃんとあそびたいよ~」
さわ子「遊びに来たんじゃないわよ。」
76 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/08/29(日) 18:55:08.98 ID:Kgh7t32o [23/53]
帰りの道中、紬は始終俯き加減だった。
律「ムギ、どうしたんだ?澪をおぶるの代わろうか?」
紬「違うの…ミネバちゃんのことでね…」
律「…」
紬「あの子、ザビ家の娘だって言うことが一生ついて回るんだろうなって考えると…何か複雑な気分なの。」
紬「まだちっちゃいのに…あんなにかわいいのに…彼女の未来は、ザビ家の色に染められてる…私たちみたいに普通の高校にいって、部活やって…そんな未来がないなんて思うと、とても人事とは思えないの。」
律「気持ちは分かるけど、そんなに心配するほどじゃないと思うぞ。」
紬「え…?」
律「私たちだって、急に軍隊入って色々やらされて、今度は明日にでも死ぬかも知れないってのに、今日あの子を見て可愛がって、みんなで笑って、すごく楽しかったろ。」
律「人は、どんな状況でも、笑顔くらい作れるんだよ。楽しい気持ちになることだってできる。」
77 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/08/29(日) 18:55:55.73 ID:Kgh7t32o [24/53]
紬「りっちゃん…」
律「今私たちにできることは、ソロモンが堕ちないように、あの子に危害が及ばないようにしっかり任務をこなすことだ。」
紬「やっぱりりっちゃんてすごいわ…私じゃ思いもよらないことを、考えることができるんだもの。」
律「そう言われるとなんか照れるな…///。」
律「とにかく、燃えてきたぜ。早く艦に帰って、仕事だ!」
軽い、足取りだった。
澪は艦に帰りつくまで起きなかった。
78 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/08/29(日) 18:56:38.02 ID:Kgh7t32o [25/53]
第五話 初陣!
リックドムの慣熟飛行が終わると、すぐに任務の話になった。
和「B区域の[ピザ]リ群の哨戒任務が来ているわ。」
ソロモンの宙域は[ピザ]リ群が多く、たびたび連邦軍は隠掩蔽良好なこれらの[ピザ]リ群を足がかりにソロモンに対して中小規模の攻撃を仕掛けてきていた。
そのため敵部隊の隠密行動に適した[ピザ]リ群を監視し続ける必要があったのである。
和「このピザリ群はそう広いものではないから単艦で二日かけて哨戒するわ。みんないいわね。」
唯「敵がいなかったらどうするの?」
和「帰ってきて、いませんでしたって報告するのよ。」
梓「唯先輩は何も言わなくていいです。」
84 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/08/29(日) 19:04:01.56 ID:Kgh7t32o [30/53]
第五話 初陣!
リックドムの慣熟飛行が終わると、すぐに任務の話になった。
和「B区域のデブリ群の哨戒任務が来ているわ。」
ソロモンの宙域はデブリ群が多く、たびたび連邦軍は隠掩蔽良好なこれらのデブリ群を足がかりにソロモンに対して中小規模の攻撃を仕掛けてきていた。
そのため敵部隊の隠密行動に適したデブリ群を監視し続ける必要があったのである。
和「このデブリ群はそう広いものではないから単艦で二日かけて哨戒するわ。みんないいわね。」
唯「敵がいなかったらどうするの?」
和「帰ってきて、いませんでしたって報告するのよ。」
梓「唯先輩は何も言わなくていいです。」
85 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/08/29(日) 19:04:50.25 ID:Kgh7t32o [31/53]
和「出航は明日0400。出港後30分でキーボードチームとドラムスチームを射出。当初キーボードチームを前衛として、B区域を捜索するわ。」
梓「ギターチームは、当初機体に搭乗して待機でいいですか?」
和「後衛のチームもいるし、指示があるまで仮眠室待機でいいわ。」
和「基本的に3時間おきに前衛、後衛、待機を入れ替えるからそのつもりで準備して。」
唯律紬梓さわ子斉藤「了解!」
澪「…」
86 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/08/29(日) 19:05:35.10 ID:Kgh7t32o [32/53]
律が部屋に帰ると、ベッドの上で澪がうずくまっていた。
律「どうした?澪?」
澪は答えない。小刻みに震えているところから見て、泣いているようだ。
律「澪、初陣が怖いのか?」
澪はうなずいて答える。声も出せないらしい。
律「大丈夫だって、私が付いてる。」
澪が何か言おうとするが、歯がガチガチと鳴る合間にか細いうめき声になるだけで、意味を成さない。それでも律には、澪が何を伝えたいのか分かるような気がした。
律が、澪を優しく抱きしめる。
律「こうか、澪。」
澪は頷いているのか震えているのか分からない。
律は、耳元でささやくように続ける。
律「澪には仲間がたくさんいるぞ、私もいるし、さわちゃんや、ムギ、斉藤さん、危なくなったら、唯と梓も来てくれる。だから心配すんなって。それともみんな、信じられないか?」
澪は首を横に振る。
抱きしめていると、いつの間にか澪の震えは止まっていた。
87 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/08/29(日) 19:06:21.03 ID:Kgh7t32o [33/53]
ブオンケは、定刻通りに出航した。
続いて、MS隊が発進する。
さわ子「オラァ、キーボード01、MS-09R、山中さわ子、出しやがれぇ!!」ヒャッハー
斉藤「キーボード02、09R、斉藤、出ます。」
紬「キーボード03、09R、琴吹紬、出してください。」
律「ドラムス01、09R、田井中律、いっくぜー!」
澪「ベース01、09R、秋山澪、イクッ///」
さわ子「よっしゃあ、こんなデブリ群は、一日で捜索しつくしてやんよ!」
さわ子「付いて来い、オメーら!!」
88 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/08/29(日) 19:07:17.66 ID:Kgh7t32o [34/53]
澪「ふふふっ…」
律「どうした、澪?」
澪「なんだかさわ子先生見てると、あんなに怖がってた自分が可笑しくて…」
律「そうだぞ、リラックスしていこうぜ、澪。」
律「それにしても、さわちゃん突出し過ぎじゃないか?大丈夫かよ?」
澪「大丈夫だろ、さわ子先生シミュレーターで教官倒すほどの腕だぞ。」
澪がそう言って、さわ子の機体を見上げた瞬間、さわ子のリックドムを一瞬、一条の光が貫いたように見えた。
澪がなんだろう、と思っていると、さわ子の機体が見る間に赤熱し、風船のように膨らんで、破裂して赤い火球になり、消えた。
その時初めて、さわ子からの通信が途絶えていることに澪は気づいた。
89 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/08/29(日) 19:08:19.98 ID:Kgh7t32o [35/53]
律「狙撃だ、散開しろ!」
律の声に、全員の機体が放射状に、散った。
澪は自分が恐怖を感じているのかも、分からなかった。
唯は夢を見ていた。
ギターを引きながら、歌う練習をしている。
傍らには、さわ子がいた。
何度も、何度もふわふわ時間を歌う。
歌い終わるたびに、さわ子がアドバイスをくれる。
その時、必ずさわ子は何か一つ、いいところを褒めてくれた。
それが嬉しくて、唯は何度もギターを掻き鳴らし、歌い続ける。
完璧よ、と言われたが、さわ子に聞いてもらえるのが楽しくて、何度も、何度も歌い続けた。
気がついたら、声が枯れていた。それでも、歌った。
突然、さわ子が言った。
もうそろそろ、終わりにしましょうか。先生、行かなきゃならないところがあるのよ。
唯は、練習をやめたくなかった。
90 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/08/29(日) 19:08:55.50 ID:Kgh7t32o [36/53]
唯「さわちゃん先生!!!」
唯の周りには、涙の粒が漂っている。
その奥に、真っ青になった梓の顔が見えた。
梓「唯先輩…さわ子先生…死んじゃいました…」
しばらく漂う涙の粒を眺めていた唯が、突然立ち上がって、呟いた。
唯「出撃だね…あずにゃん!」
梓は、唯の顔を見て息を呑んだ。
唯の顔は、さわ子を殺した相手への殺意に満ちていた。
91 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/08/29(日) 19:18:24.31 ID:Kgh7t32o [37/53]
緑のジムが、ピザリを蹴って数キロ離れた同じような[ピザ]リに取り付く。
ジムスナイパーカスタムと呼ばれる特別機だ。
パイロットは三浦 茜
歳は梓位だが、家が貧乏で中学を卒業してすぐに連邦軍に入隊した。
戦争の始めからパイロットとして戦ってきたベテランである。
茜は狙撃任務中、移動する時スラスターは使わないようにしていた。
光で自分の位置が特定されるからだ。
ジムスナイパーカスタムのコックピットに僚機から通信が入る。
「やったね、茜。」
茜「これからよ。敵もスナイパーがいるって気づいたからね。しっかり観測してね、モブ子。」
モブ子「了解。あ、艦からスラスター光。増援よ。」
茜「何機?」
モブ子「一機…二機出たわ。β1、β2とするわね。」
茜「了解。」
モブ子「茜、β1、動きが鈍いわ。いいカモよ。左に140。上に45。」
茜「了解、見つけたわ。距離5千。」
茜は、静かに、長く息を吐きながらトリガーを引いた。
93 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/08/29(日) 19:21:02.44 ID:Kgh7t32o [39/53]
律は、マズイと思った。
増援として唯と梓が来てくれたが、唯の動きが単調すぎる。
モビルスーツは通常、弾を避けるためにジグザグに回避機動をとりながら移動するが、その基本を忘れているようだった。
突然、唯のドムが横から叩かれたように飛んだ。
その瞬間、今まで唯のドムがいたところをビーム光が貫いていた。
律「…避けた…まさかな…」
紬「今のビーム光で、狙撃ポイントが分かったわ。」
突然、紬のドムが動くのを止め、近くのデブリに隠れる。
律「ムギ、どうするつもりだ?やられちまうぞ。」
紬「射程の長い艦砲を使うわ。射弾を誘導しなきゃならないから、私は動けない。」
紬「敵はスラスター光で私たちの位置を観測してるはず。だから私一機が止まっててもそうそう見つかるものじゃないわ。」
律「分かった。私たちはスラスターを派手にふかして、囮になってムギを援護すりゃいいんだな。澪、動き回れ!」
澪「はあ、はあ、はあ…り、了解…はあ、はあ…」
94 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/08/29(日) 19:22:49.77 ID:Kgh7t32o [40/53]
紬「ブオンケ、聞こえる?こちらキーボード03、射撃要求。」
紬は、射撃要求を使うとは思ってもいなかった。
教育中にみんなで協力して、教科書に書かれていることのほとんどを頭に入れていた。
その膨大な知識のうちの一つだった。
みんなで生き残れるように、そう思って勉強したことが、役に立った。
純「射撃要求、了解。諸元をお願いします。」
紬「観測点、キーボード03。基準星M9から、F4方向に120。R8方向に60。距離5千。メガ粒子をお願い。」
観測による間接照準射撃は旧世紀の古典的な方法である。
しかしミノフスキー粒子の影響でレーダーが使用不能になったこの戦争の初期に艦砲を精密に目標に誘導するためにまた使われだした。
それも、MSの活躍により、艦砲が主力兵器としての座を追われて単なる支援火器となっていくにつれ、すぐに使われなくなっていった。
二度死んだ戦法を、また引っ張り出してきたのだ。
対する連邦のスナイパーも、同じような戦い方である。
スナイパーライフルの望遠カメラは倍率こそ高いものの、視野は狭い。だから敵を狙うにはいいが探すには向いていない。
そこで観測手たる僚機がスナイパーライフルを向けるべき方向を誘導するのだ。
どちらも基準となる星を利用し、三角関数を用いて観測手が射手や艦砲を誘導するというやり方だ。
これは、艦とMSの長距離射撃戦である。
97 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/08/29(日) 19:28:16.42 ID:Kgh7t32o [43/53]
純「諸元出ました。艦体そのまま、前部メガ粒子砲1から3番、左へ43、仰15。効力射、三発。」
純「砲に諸元を入力。…3…2…1…砲身固定。MS隊は射線から退避。射撃準備完了。」
和「打ち方、始め。」
前部メガ粒子砲、3門からそれぞれ3発、計九発のメガ粒子は正確に紬の狙った場所に吸い込まれていったが、手応えはなかった。
回避のスラスター光も観測できない。
98 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/08/29(日) 19:29:47.66 ID:Kgh7t32o [44/53]
茜は、驚いていた。
未熟な回避軌道のリックドムが、茜の正確な射撃を回避した。
偶然だ、と自分に言い聞かせてスラスターを使わずに陣地変換を行う。
ライフルを構えようとしたその時、茜がさっきまで取り付いていた辺りに、9発のビームが殺到したのだ。
茜は、背筋が冷たくなった。
茜「モブ子、敵は艦砲の射撃を誘導してる。観測手を探して!」
モブ子「目標α3をロストしてる。多分そいつだわ。今探してる。」
茜「急いで!」
茜はジオン兵の恐ろしさを見にしみて感じていた。
連邦の将兵は、こんな使われなくなった旧来の戦術など、一応は士官学校のカリキュラムにはあるものの習ったその日に忘れてしまう。それを、ジオンはとっさに使ってくるのだ。
練度が、違う。数を頼みにできるならまだしも、茜たちは2機編成のスナイパーユニットでしかない。
後退、という言葉が脳裏をよぎった。艦は、はるか向こうである。
そもそも艦の他の機体は偵察任務中で、茜たちはその支援任務としてここに居る。そのため増援の要求も出来ない。
茜は自分の弱気をかき消すように、トリガーを引いた。
β1と名付けたリックドムが、また茜の射撃を回避した。
99 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/08/29(日) 19:32:05.97 ID:Kgh7t32o [45/53]
紬「手応えがない、敵はスラスターを炊かずに陣地変換をしている模様。」
紬「広域を制圧できるミサイルで…」
和「キーボード03、そんなんじゃ埒があかないわ。あなたもいずれ発見されてしまう!」
紬「どうやったら…」
和「ビーム撹乱膜弾を使うわ。」
紬「でもアレは…」
ビーム撹乱膜は使用の難しい兵器である。これを展開した地域ではビーム兵器が確実に無力化される。それは味方のビームも同じである。
短時間といえど味方の行動を制限する兵器は、使うことを嫌がられる。
ビーム撹乱膜はその最たるもので、和たちのようなパトロール部隊が使うには上級部隊への申請と許可が必要なのである。
そんな時間は無かった。
和「事後承諾で行くわ、これ以上、戦力を傷つけられるわけには行かない。」
和「鈴木伍長、前方デブリ群手前100に撹乱膜を展開!」
純「諸元出ました!船体取舵42、上げ舵13、前部ミサイル発射管1から12番、撹乱膜弾、2発。」
操舵手「取舵42、上げ舵13!」
純「MS隊射線より退避完了!発射管、発射準備完了です!!」
和「発射!撹乱膜展開と同時にMS隊は突撃!!」
100 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/08/29(日) 19:34:00.25 ID:Kgh7t32o [46/53]
モブ子「α4を発見!射撃方向を計算中…右へ68、下へ26。」
茜「よくやったわ、モブ子!」
モブ子「ミサイル接近!!」
茜「脅しよ!!貰った!!」
茜がトリガーを引いた瞬間、24発のミサイルが破裂した。
ビームは手持ち花火のように拡散していた。
茜「ビーム…撹乱膜…?」
モブ子「茜、敵が接近してくるわ!!撃って、撃ってよ!!」
茜「ビームが効かない!キャノンで援護して!!格闘戦をやるわ!」
ジムスナイパーカスタムが、ビームサーベルを発振する。
モブ子「敵が多すぎるのよおおおおおお!!!」
モブ子の機体はジムキャノンである。
支援機であるためサーベルは持たない。
この状況で唯一効果のある肩の180ミリキャノンを迫り来る敵に連発しているが、なかなか当たらない。
モブ子「あかね…助けて!…こっちくる…いやあああこないでえええ!」
キャノンはリックドム一機の肩に命中して左腕をもぎとったが、そのリックドムによってモブ子の機体は真っ二つにされていた。
101 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/08/29(日) 19:35:10.53 ID:Kgh7t32o [47/53]
茜「モブ子おおおおおおお!!」
正面を向き直ると、さっき茜の射撃をかわしたリックドムがヒートロッドを構えて突っ込んできていた。
茜「そんなんでやられるかよ!この下手くそ!!」
茜がリックドムの単調な攻撃をかわした、と思った瞬間、別のリックドムがバズーカを茜のジムの左足に命中させた。膝から下が無くなった。
茜「くそ、AMBACが…」
警報が鳴り、コックピットに衝撃が走る。
今度はマシンガンの攻撃を受けたようだ。
ジムの右手が、サーベルごと無くなっていた。
茜「なんなのよ…なんなのよあんたら…よってたかってええええええ!!!」
さっきの単調なリックドムが、モニターに写りこんだ。
茜は、モニターが割れてコックピットがひしゃげるのを、見た。
102 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/08/29(日) 19:37:49.01 ID:Kgh7t32o [48/53]
唯は、敵のジムを貫いたとき、頭の中に見たことのない情景が広がるのを感じた。
ポニーテールの女の子が、公園で暮らしている。
父親は傭兵で、雑草の中から食べられるものを、教えてくれた。
見たことのない楽器を吹いている。
ユーフォニアム、と言っていた。
父親が、歩兵の戦い方を、熱を込めて語っている。
撃ったら移動、敵に見つからないように…
あのジムのパイロットだ、と唯は思った。
高校に入ったら、部活でユーフォニアムを吹きたいと言っている。
唯は、信じられないものを、見た。
自分たちのティータイムに、あの子が参加していた。
みんなで一緒に、笑っていた。
お茶を飲んでいる唯が、こっちを見て囁いた。
違うふうに会えれば仲良くなれたのに、デビちゃんを殺しちゃったね。
103 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/08/29(日) 19:38:16.74 ID:Kgh7t32o [49/53]
唯「わあああああああああああああ!!!」
梓「唯先輩、どうしたんですか!?唯先輩!!」
唯「頭が…痛い。痛いよお…ゴメンなさい…。」
片腕のないリックドムが唯に近づく
律「おい、唯、しっかりしろ!もう敵はいないぞ!」
唯「私が…殺しちゃった…ごめんなさい…ごめんなさい…」
澪「唯、何言ってるんだ…?おかしいぞ!」
紬(やっぱり…唯ちゃん……)
唯は、頭を締め付けられるような痛みに、意識をなくしていった。
104 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/08/29(日) 19:38:48.01 ID:Kgh7t32o [50/53]
気がついたら、医務室のベッドの上だった。
憂と梓が見える。
唯「うい・・・あずにゃん・・・」
憂「お姉ちゃん!!よかった…」
梓「唯先輩…」
唯「あれ…私…どうして…?」
梓「敵を倒したあと、急に苦しみだしたんです。覚えてませんか?」
唯「そうだった…私…」
梓「先輩、さわ子先生の敵をとったんですよ!」
唯「うん…そうだね。」
憂「お姉ちゃん!?」
唯「うい…もう少し…寝かせて…」
唯は、再び深い眠りに入っていった。
105 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/08/29(日) 19:39:42.20 ID:Kgh7t32o [51/53]
和がビーム撹乱膜を無許可で使用したせいで、ブオンケ全体が謹慎中であった。
任務も与えられないが、訓練も出来ない。
律は、不安に打ちひしがれていた。
律「はあ、はあ、はあ、はあ…」
律(なんで、体が震えんだよ…澪じゃああるまいし…)
律は、帰艦した後、自機を見て驚愕した。
左手が吹き飛ばされたのはモニターで確認していたが、降りてみるとその損傷が生々しすぎたのである。
少しずれていたら、コックピットだった。
生還したものの、生きた心地がしなかった。
自分は亡霊になってしまっているんじゃないかとも考えた。
何度も澪に、紬に、話しかけた。
ペラペラと、饒舌に笑い話を。
そうしているうちに、急に空元気を出している自分が虚しくなった。
律は、走り出していた。
そして、ベッドに潜り込んだ。
106 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/08/29(日) 19:41:20.52 ID:Kgh7t32o [52/53]
澪「律、居るのか?」
澪が部屋に入ってきた。
こんな自分を見せたくない。嫌だ、嫌だ。
律「来ないでくれ!!」
澪が、近づいて来る。
澪「律も、怖かったんだな。」
一番言われたくないことを言われ、律の頭に血が登った。
ベッドから起き上がり、澪に掴みかかる。
澪は逃げようともしなかった。
澪「私ばっかり甘えて、ごめんな。」
律は、澪の胸に顔を押し付けて、泣いた。
今まで我慢していた分、辛かった分を、すべて吐き出すように。
気がつくと、澪をベッドに押し倒していた。
部屋の外では、紬がドアに耳を押し当てながら鼻血を流していた。
第五話 初陣! おわり
取りあえず全十話
初めてのスレ立てなんで何かあっても多めに見てくれ。
第一話 戦争!
唯たちが大学を受験するあたりに、戦争が始まった。
それから10ヶ月を経たある日のこと。
それは、紬の一言から始まった。
紬「みんなには悪いんだけど、私、バンドを辞めなければならなくなったの…みんなにも…もう会えないかもしれないの…。」
紬の目には溢れんばかりの涙が溜まっている。辞めるのは望んでのことではないだろう。たまりかねた律が口を開く。
律「ムギ…何かあったのかよ。いきなりそう言ってもみんな納得できないぜ。」
澪「そうだぞ。今は世間も冷たいけど、いつかきっと平和な時代が来るから、それまで頑張ろうって、練習場所を提供してくれたのもムギじゃないか。」
唯「そうだよ、ムギちゃんがいないと練習さえできなくなっちゃうし、なによりムギちゃんのキーボードがないと、放課後ティータイムじゃないよ!そんなのいやだよ!」
梓「ムギ先輩、よかったら理由を話してください。」
時は宇宙世紀0079、後に一年戦争と呼ばれる戦いの真っ只中である。
大学内でも活動が制限されはじめ、なんとかコロニーの有力者である父を持つ紬を頼って、世間の冷たい視線を避けて練習する場所を確保し、安堵していたところであった。
2 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/08/27(金) 20:50:55.91 ID:vS1BKfgo [2/32]
紬「私の父が、スペースノイドの独立運動に関わっていることは知っているわよね…」
一同は、頷いて紬に視線を向け続ける。
思えば紬がこういう類の話をしたことはなかった。
重要なことが起こっているのだと、理解できる。
紬「でも父はジオン派だったから、ザビ家とは折り合いが悪いの。」
紬「色々あったんだけど、それが原因で、私軍隊に入ることになっちゃったの…人質みたいなものかしら。」
たまらず律が口をはさむ
律「ちょっと待てよ。なんでムギが軍隊なんか行くんだよ。」
紬「最近、ジオンは旗色が悪いわよね…」
唯「ほえ?テレビでは勝ってるって言ってたよ?」
澪「バカ、昨日だかにオデッサの鉱山を放棄しちゃったし、大きい声じゃ言えないけど、負けてんだよ。」
梓「そうですよ、連邦軍が宇宙への大反攻作戦を計画してるって話もありますし。これ、アングラの出版物がソースですけど。」
紬「それでね、軍は長期戦に備えて、学生の動員も視野に入れ始めたらしいの。そしてその先駆けを、私にやれってことなのよ。」
4 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/08/27(金) 20:53:41.44 ID:vS1BKfgo [3/32]
紬「艦もMSも、家のお金で用意させられたわ。だからみんなが練習に使っているこのスタジオも、もうすぐ人手に渡っちゃうの。」
紬「私がみんなに練習を続けようってわがまま言っておいて、みんなを裏切るようなことになっちゃって、本当に申し訳ないと思っているわ。」
紬は泣きながら頭を垂れた。
重い沈黙が響き渡る。
それを破ったのはまたしてもバンドリーダーの律だった。
律「ムギ、それさ、私も一緒に行けないか?」
一同の視線が律に集まる。紬も泣きはらした目をこすりながら律を見上げる。
律の表情は真剣そのものだった。
澪「おい律、お前何言ってるのかわかってるのか?死ぬかも知れないんだぞ?戦争なんだぞ!」
律「分かってるよ、分かってるから行きたいんだ。」
澪「お前は絶対わかってない!」
6 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/08/27(金) 20:54:10.62 ID:vS1BKfgo [4/32]
律「さっき唯も言ってたよな、放課後ティータイムはムギがいないと駄目なんだ。ムギをひとりで死なせたら、私は絶対後悔するし、このバンドも終わりだ。」
澪「りつぅ…」
最早泣き顔の澪は上手く声が出ず、反論ができない。さらに律が続ける。
律「ムギが言ってたことが本当なら、いずれ私らも徴兵されるだろうしな。そうなったらムギがひとりで死ぬどころか、みんなバラバラで、あの世でバンド組むにしても、探す手間が大変だ。」
律「だから私は、ムギと行きたい。一人でなんか、絶対に行かせないからな、ムギ。」
紬は、相談したことを深く後悔していた。
8 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/08/27(金) 20:56:21.07 ID:vS1BKfgo [6/32]
しかしそれに追い打ちをかけるように唯が続ける。
唯「私もつれてってよ、ムギちゃん。」
梓「唯先輩はダメです!邪魔になるだけです!」
唯「あずにゃんは黙ってて!」
梓の目にもあっという間に涙がたまって今にも溢れそうだ。
唯は続ける。
唯「ムギちゃん、わたしね、毎日家で練習してるんだけどね…」
梓「ゆい…せんぱい…」
唯「みんなと演奏してるのを思い浮かべながら弾くと、すごく楽しいし、練習も上手くいくんだよ。」
唯「でも、もし誰かが死んじゃったら、きっと想像の中でも、その誰かがいなくなっちゃって…私きっと…練習できなくなっちゃう…」
いつの間にか、その場の全員が泣いていた。
唯「そうしたら…私…和ちゃんがいうように…何もできないニートになっちゃうよ…」
和は、唯とは違う大学だったが、入って早々つまらないと言い残してどこかに消えていた。彼女なりの道を見つけたのだろうが、唯にとっては寂しい話だった。
9 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/08/27(金) 20:59:49.83 ID:vS1BKfgo [7/32]
紬「唯ちゃん、艦にギターは持ち込めないわよ・・・」
唯「ムギちゃんと一緒に居させて!ギー太は帰ってきたら弾くことができるけど、ムギちゃんは…わたし、そんなの嫌だよ!」
紬「りっちゃん…唯ちゃん…ダメよ…お願い…諦めて…」
紬「私も辛いけど…みんなを巻き込むのはもっと辛いの…」
律「巻き込むとか、そういう事言うな!」
唯「そうだよ、ムギちゃん!」
熱くなってきたその場の空気を、澪が静めるように、言った。
澪「もうさ、話し合いになってないぞ…今夜一晩頭を冷やして考えて、明日また話しあおう…な。」
10 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/08/27(金) 21:02:32.79 ID:vS1BKfgo [8/32]
それを聞いて律と唯が急いで帰り支度をはじめる。
律「私はもう決めたからな。これから家族を説得しなきゃならないから、先に帰るぞ、澪。」
唯「私も憂を説得しに帰るよ。あずにゃん、悪いけど先行くね。バイバイ。」
二人が帰ったあと、紬はか細い声で謝り続けた。
紬「ふたりとも…ごめんなさい…私が軽率に相談なんかしなければ…」
澪「…ムギは悪くないよ…だから心配しないで、今日は帰って休もう。」
梓「そうですね…明日また話し合いましょう。ムギ先輩、ひとりで消えたりしないでくださいね。唯先輩と律先輩、何するかわかりませんから。」
紬「うん…明日、必ずまたここに来るわ。」
11 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/08/27(金) 21:03:38.98 ID:vS1BKfgo [9/32]
澪と梓は、話し合いながら一緒に帰っていた。
澪「なあ、大変なことになったけど、梓はどうするんだ?」
梓「私は、唯先輩が行くなら、ついていこうと思います。」
澪「あ…梓、それって…やっぱり唯のこと…///」
梓「ち、違いますです!///あの人は私がいないと何もできないから心配なだけです//////」
澪(どうしてこう素直じゃないかな…私も律が心配でついていきたいけど…戦争……怖い…)
12 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/08/27(金) 21:05:15.98 ID:vS1BKfgo [10/32]
田井中家では家族会議が行われていた。
律「…というわけだから。私はもういないと思ってくれ。」
律父「…」
律母「…」
聡「姉ちゃん…なんでだよ。男の俺が行けばいいじゃないか!」
律「聡…お前は年齢制限に引っかかるから父ちゃんと母ちゃんを守る役だ。しっかりやれよ。」
律母「律…何も進んで志願することはないんじゃないの?」
律「さっきも言ったけどこれは私の仲間内の問題なんだ。ムギをひとりで行かせる訳にはいかない。」
律「私は荷物をまとめるから、もう部屋もどるぜ。」
律が逃げるように居間から出る。
話が長引けば、それだけ自分の決心がブレてしまいそうだったからである。
律も、怖かったのだ。
だが、紬を一人で戦場に送るという選択肢は律にはなかった。
聡「父ちゃんはどうして何も言わないんだよ!」
律父「どうせ一晩考えて、怖くなって明日にでも止めると言い出すに決まってる。愛国熱に浮かれてるだけだからほっとけ。」
律父の読みはほぼ当たっていた。
紬という仲間の命がかかっていなければの話であるが。
13 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/08/27(金) 21:08:43.92 ID:vS1BKfgo [11/32]
憂は、泣いていた。
憂「お姉ちゃん、断ってきてよ。今すぐ!」
唯「いやだ。私ムギちゃんと行くって決めたんだよ。」
憂「お父さんもお母さんも地球で戦闘に巻き込まれて死んじゃって、今度はお姉ちゃんも戦争に行くなんて、私そんなの嫌!!」
憂が突然立ち上がり、受話器のボタンを操作する。
琴吹家に電話して、唯の入隊を阻止するためだった。
唯がそれを止める。
琴吹家の番号が表示されたコードレスの受話器が床に転げ落ちた。
唯「私、ちゃんと帰ってくるから、憂はおとなしくお留守番してて!」
憂「嫌だ、お姉ちゃん!行かないで!」
姉妹喧嘩は、一晩中続いた。
14 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/08/27(金) 21:13:29.24 ID:vS1BKfgo [12/32]
次の日、紬がスタジオに入るとすでに何人かは荷物まで持ち込んでいた。
今すぐでも入隊可能なくらいである。
律「よう、ムギ。荷物はこんなもんでいいか?私のおやじったら、家出る時、口をあんぐり開けちゃって、傑作だったぜ。」
紬「そ、そう…って、憂ちゃんまで!?」
憂「私、お姉ちゃんについていきます。」
唯「ごめん…私が止めきれなかったの。」
澪「私も決めたよ。みんなバラバラは、嫌だからな。」
紬「梓ちゃんは?」
律「何か手間取ってるって唯の方に連絡があったってさ。受験生だし、こないんじゃないか?」
話している先からドアが開いて、梓が現れた。
梓「遅れてすみません…ちょっと言い辛いんですけど…」
純「やっほー。来ちゃったよ。やっぱり憂もいるね。」
憂「純ちゃん!どうして!?」
純「昨日電話したら、梓が学校辞めるって言い出してさあ、問い詰めたったわけ。憂は電話にすらでなかったし。」
純「私も憂みたいに両親死んじゃったし、軍隊はご飯困らないしね。」
15 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/08/27(金) 21:14:43.34 ID:vS1BKfgo [13/32]
紬が、観念したように口を開く。
紬「みんな、今日一日だけ良く考えて。明日の8時にうちで適正検査を行うわ。」
律「私はもう家出てきたからここに泊まるぜ。」
次の日、全員が琴吹家に集合していた。
適性検査は丸一日掛かり、次の日には結果が出た。
ただ、結果が知らされるのは一週間の基礎訓練の後になる。
適性検査の結果で大体の職域が振り分けられるが、基礎訓練でその絞り込みが行われる為である。
適性検査の次の日から、軍の施設で基礎訓練が始まった。
16 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/08/27(金) 21:18:22.29 ID:vS1BKfgo [14/32]
次回予告(ナレーション:澪)
軍隊での生活は、私たちにとってショックの連続だった。
教官の無茶な命令に、ボロボロになっていくみんな…。
皆を励ます律の笑顔の先にあるのは、みんなで絶対に生き残るという強い意志だった。
次回 第二話 入隊!
君は、生き延びることができるか…///ハズカシイ
19 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/08/27(金) 21:29:55.62 ID:vS1BKfgo [16/32]
第二話 入隊!
ジリリリリリリリリリリリ
その音に、唯を除く全員がベッドから飛び起きる。
律「唯、起床だ!Bグループに負けちまうぞ!」
唯「う~ん…おかわり…」
紬「取りあえず、唯ちゃんは私が担いでいくから、澪ちゃんたちは、唯ちゃんのベッドをお願い。」
澪「分かった、律は毛布を頼む。」
律たちAグループが点呼に降りたとき、憂たちBグループは点呼を終えるところだった。
20 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/08/27(金) 21:30:47.98 ID:vS1BKfgo [17/32]
憂「Bグループ、総員3名、欠なし。健康状態異常なし。集合完了!」
憂が敬礼し、教官が答礼する。
教官「Bグループ、点呼終わり。解散。」
憂(お姉ちゃん…大丈夫かな…)
律「Aグループ、総員4名、欠なし。健康状態異常なし。集合完了!」
律が敬礼するが、教官は答礼しなかった。
教官「オイ、平沢姉二等兵。」
唯「ふえ…たくあん…」
教官「田井中二等兵、こいつも健康状態異常なしか?」
律「ええっと…そのう…」
教官「上官の質問には即答しろ!」
律「ハイ、すみません。平沢唯二等兵は半分寝てます!」
教官「秋山二等兵、そいつを殴って覚醒させろ!」
澪「え、ええっと…唯、起きろ。(教官…怖い…目がイッちゃってるじゃないか…)」
澪は唯を軽く叩く。もちろん唯は起きない。
21 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/08/27(金) 21:31:34.28 ID:vS1BKfgo [18/32]
教官「こうやるんだ、修正!!!」
ホールにビンタの音がこだまする。
唯「ぽへ」
教官「田井中二等兵、罰としてその場に腕立て伏せの姿勢を取れ!30回!」
紬「わ、私たちも…」
全員が腕立て伏せの姿勢をとろうとするが、教官がそれをさせなかった。
教官「俺は田井中に命令したんだ!他の奴は田井中がやり遂げるまで黙って見てろ!」
律「いち、に、さん…」
唯「りっちゃんごめんなさい……私のせいで…」
唯を始め、全員が泣きじゃくっていた。
22 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/08/27(金) 21:32:45.67 ID:vS1BKfgo [19/32]
教官「駄目だ、声が聞こえない!俺が数えてやる!」
教官「しい、ごお、ろく、ろく、ろーく、ろおおおおく…」
律「うへえ~」ペタ
回数が六から進まない。律が、たまらずその場にへたり込んだ。
教官「どうした、まだ5回しかできていないぞ。貴様は根性なしか!」
起床は6時だったが、点呼が終わると7時近くになっていた。
絶望にまみれた朝だった。
結局Aグループは朝食に間に合わなかった。
唯「みんなごめんね…おなかすいたよね…」
律「唯、気にすんな。それより午前は座学だ。寝ないように気をつけろよ。寝たら朝の悪夢がよみがえるぜ。」
紬「第一講堂で現代戦史よ。忘れ物は無い?」
唯「うん、大丈夫。」
澪「私は食べ物を買いに酒保に行ってくるから、カバン頼むな。」
紬「OKよ、時間に遅れないでね。」
23 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/08/27(金) 21:34:16.38 ID:vS1BKfgo [20/32]
全員が、聞きなれない戦史の授業を必死に聞いていた。
教官「ミノフスキー粒子の使用によって、それまで戦闘方法は一転し…」
教官「お…もうこんな時間か…よし、10分の休憩を与える。」
律「休憩、入ります。」
律「よし、手早く食うぞ。」
澪「カ○リーメイトだけどいいかな?」
紬「わあ、なにこれ。クッキーみたいで美味しそう!」
唯「食べれるならなんでもいいよ!いただきます!」
唯たちがカ○リーメイトを口に入れた瞬間、悪夢が蘇った。
教官「貴様ら、何を食っているのか?」
唯「ほえ?カ○リーメイトですけど…」
教官「朝食は?」
唯「点呼が遅くなって食べれませんでした~。えへへ…」
澪「あわわわわ…」ガクガク
24 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/08/27(金) 21:35:03.69 ID:vS1BKfgo [21/32]
講堂に、ビンタの音が響き渡った。
唯「ぺひゃ」
教官「食堂の飯を食うのも軍人の勤めだ!貴様らの食う飯は、同胞の血と汗と涙の結晶である!貴様らはそれを無駄にしたのだ!」
教官「おまけに朝食をとっていれば食わなくてよかったものまで買っているとは、無駄にも程がある!」
教官「酒保の商品も軍の物資である。貴様らはそれも無駄にしたのだ!金を払えば買えるとでも思ったんだろうが、前線でそれを言ってみろ!後ろから撃たれるぞ!!」
たまらず、唯が泣き崩れる。
唯「うええええええん!!」
教官「やかましい!琴吹、そいつを黙らせろ!!」
紬が唯の口を必死に塞ぐ。
紬「唯ちゃん、お願い、泣き止んで。」
唯「うう~ひっぐ…むぐ…」
25 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/08/27(金) 21:36:35.12 ID:vS1BKfgo [22/32]
しかしこれで教官の追求は終わりではなかった。
教官が続ける。
教官「で、この貴重な軍の物資を、貴様らの胃袋という名のゴミ入れに捨てるため、わざわざ酒保から買ってくるという愚かな行為をしたのはどいつだ?」
澪「わ、私です…ごめんなさい…」
教官「よし、田井中二等兵、腕立て伏せの姿勢を取れ!20回!」
律の腕は、朝の腕立てでパンパンに張っており、使い物にならなかった。
澪「私がやったことですし、私が…」
教官「俺は田井中と言ったはずだが。」
澪「ヒッ!!」
教官「秋山!貴様のヘマで貴様が死ぬだけで済むと思うな!貴様がヘマすることで田井中が死ぬことだってあるのだ!これはそういう事だと思え!!お前は腕立ての回数でも数えてろ!!」
澪「いち、にい、…頑張れ、律。」
澪「じゅうご…じゅうろく…もう少しだぞ、律。」
教官「腕の曲げ方が足りない。四回目からやり直せ!」
澪「そ…そんな…」
教官「早くしろ!休憩時間は終わってるんだぞ!講義の時間までむだにする気か?」
澪「うう…ひっく…よん…ごお…」
26 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/08/27(金) 21:38:00.19 ID:vS1BKfgo [23/32]
講義が終わって、四人はようやく食料にありつけた。
律「全く、たまんねーなあ。腕が太くなっちゃうぜ。」
昼食をとり終わり、律がいつものように笑いながら皆に語りかける。
唯「みんな…ごめんなさい…」
澪紬「私も…」
律が、制する。
律「ちょっと待った。ごめんとか、悪かったとかいうのは金輪際止めにしよう。」
律「一人のミスは、皆のミスだ。いちいち謝ってちゃ、キリがないしな。何があっても、恨みっこなしで行こうぜ。私たちはチームだからな。」
澪「律…」
紬唯「りっちゃん…」
律「さあ、次は体育だぞ!着替えなきゃいけないから、そろそろ居室に戻ろうぜ。」
体育は、本当の地獄だった。
四人はへとへとになって居室に帰ってきた。
27 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/08/27(金) 21:38:44.42 ID:vS1BKfgo [24/32]
唯「ほええええ。」
律「キツかったな~唯隊員。」
紬「みんな…こんなことに巻き込んでしまって、本当にg」
律「ムギ、ルール違反だぞ!」
紬は涙をこらえて、笑顔を作った。
紬「じゃあ、言い換えるね。私に付き合ってくれて、ありがとう…みんな。」
澪「明日からは、お互いに負担を掛けないよう、皆頑張ろうな。」
唯紬「おーーーーっ!!」
律は照れ隠しに頭を掻きながら、口を開いた。
律「ささ、今日の復習しとかないと、明日も腕立てで、みんなマッチョになっちゃうぞ!」
居室に、笑いが溢れた。
今日一日で、初めての笑い声だった。
28 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/08/27(金) 21:39:49.88 ID:vS1BKfgo [25/32]
リーダーは、日替り制である。
純は、慌しく朝を迎えた。
純「ええっと…こうして…」
憂「純ちゃん、点呼だよ。急いで。」
梓「ああもう、毛布は私たちでたたんであげるから、リーダーなんだから、しっかりして。」
純「うん、二人共、ありがと。」
ホールに降り、整列。点呼報告をする。
純「えっと…Bグループ、全員集合…だったっけ?」
教官「号令が違う!」
純「Bグループ…」
憂がすかさず、耳打ちする。
憂「総員三名、だよ、純ちゃん。」
29 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/08/27(金) 21:40:58.49 ID:vS1BKfgo [26/32]
そうこうしているうちに、Aグループが点呼をとってしまう。
紬「Aグループ、総員四名、欠なし。健康状態異常なし。集合完了。」
教官「Aグループ、点呼終わり。解散。」
純「Bグループ、総員三名、欠なし。えっと…みんな元気です!」
教官「そんな号令はない!」
純「Bグループ、総員三名、欠なし…」
憂「健康状態異常なし。集合完了。だよ。」
純「健康状態異常なし。集合完了。」
教官「…点呼終わり。Bグループは居室点検!」
純「え…?」
教官がズケズケと居室に侵入する。
純は慌ててそれを追いかけたが、部屋に入ると教官が純の毛布を引っ張り出していた。
純「ちょ…ちょっと…」
教官「鈴木二等兵、何だこの毛布は!クンクン!」
純「えっと、琴吹繊維製…ウール100%…」
教官「誰が品質表示を読めと言った!ふざけるな!見ろ、この折り目はなんだ!汚すぎる!!クンカクンカ!!」
純「…すみません…」
教官「鈴木二等兵!腕立て伏せの姿勢を取れ。20回!」
30 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/08/27(金) 21:43:10.64 ID:vS1BKfgo [27/32]
朝食の時間はギリギリだった。
食べ終わったら重い装備を身につけて射撃訓練である。慌ただしかった。
純「はあ、はあ…」
憂「純ちゃん、大丈夫?」
梓「リーダーでしょ、へばんないでよ。」
純「へ、へばってないもん…」
武器庫に到着すると、教官が待っていた。
純「き・・・気をつけ。右へ倣え。」
純「Bグループ、総員三名、欠なし。健康状態異常なし。集合完了。」
教官「オイ、鈴木二等兵、昨日武器庫の開錠時間は何時だと教わった?」
純「8時20分です。」
教官「軍隊では時間をそのように表現すると教わったのか?」
純「すみません…マルハチフタマルです。」
教官「今、何時だ?」
純「ええっと…0840です。」
教官「遅い!!武器庫の開錠は部隊ごとに時間によって厳しく統制されている!貴様のヘマで、訓練施設全体の行動が遅延した!どうしてくれる!!」
純「す…すみません…」
31 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/08/27(金) 21:44:26.19 ID:vS1BKfgo [28/32]
教官「貴様の銃だ。受け取れ。」
純「はい!!」
教官「控え銃!駆け足、進め!営庭二周!」
純「はっ…はっ…」
教官が純の後ろにぴったりついて罵声を浴びせ続ける。
教官「速く走れ!貴様が走り終わるまで教育は一ミリも進まんのだぞ!」
三キロ以上ある小銃を抱え、純は死ぬ思いで走っていた。
純「ふう…はあ…おもい…」
教官「へばるな!もっと速く走れ!おら!!」
純のスピードが落ちると、教官が背中を無理やり押して、スピードを落とさない。
教官「歩調、数え!」
純「いち、いち、いちにい!」
純は、ヘトヘトになって武器庫に帰りついた。
純「ぜーっ…ぜーっ…」
教官「このクズのせいで、教育に遅延が生じている!急ぐぞ!射撃場まで駆け足!!」
純は一日、走り通しだった。
32 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/08/27(金) 21:46:04.36 ID:vS1BKfgo [29/32]
純「憂はスゴイね…昨日憂が問題なくこなしてたから、私リーダーって簡単なことだと思ってたよ。」
憂「いつもお姉ちゃんの世話で忙しいの慣れてるから…でも純ちゃん大変だったね。」
梓「明日はリーダー私か…憂鬱だな~。っていうか唯先輩、大丈夫かな?」
その一言で、憂の顔色が変わる。
憂「そうだ…お姉ちゃんも…きてるんだった…」
憂の目が、みるみるうちにうるんで来る。
憂「おねえちゃん…」
梓「だ…大丈夫だよ。他の先輩たちもいるし。」
純「そうだよ!な、なんとかなるって。」
純と梓が慰めたが、寝るまで憂が泣き止むことはなかった。
一週間は、すぐに過ぎた。
これからは、各職域に分かれて訓練する。
今日はその、職域が発表される。
教官「Aグループは、全員MSパイロット。Bグループは、中野二等兵、MSパイロット、平沢妹二等兵、医療班、鈴木二等兵は通信に配属される。これからそれぞれの訓練所に分かれて専門教育を受ける。移動は明日までだ。さっさと行け。」
33 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/08/27(金) 21:47:20.83 ID:vS1BKfgo [30/32]
各人は、慌しく準備を始めた。
律「引越ーし、引越ーし、とっとと引越ーし♪」
梓「久しぶりです、先輩。」
唯「おー、あずにゃん。放課後ティータイムはやっぱり見えない糸で結ばれてるんだね。」
梓「そんな事より唯先輩、私が先輩の荷物まとめてあげますから、憂のところに行ってあげてください。お姉ちゃんと一緒じゃないって、泣いてますよ。」
唯「わかった!行ってきます!!」
澪「それにしても、唯がMSパイロットとはな…」
律「唯は飲み込み早いからな。よいしょ。」
紬(唯ちゃんの適正…何かの間違いよね…)
実は、紬は適性検査の結果を斉藤から見せられていた。
唯の脳波測定記録には、N+ 微弱な感応波を観測 と書かれていた。
ニュータイプ適正である。
唯とは、もしかしたら最後まで一緒にいられないかも知れない。
紬はそう思っていた。
34 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/08/27(金) 21:48:18.39 ID:vS1BKfgo [31/32]
唯は、泣きながら荷物をまとめる憂に歩み寄った。
唯「うい…大丈夫?」
憂「お姉ちゃん…私…お姉ちゃんと一緒になれなかった…寂しいよ…」
唯は、しっかりと憂を抱きしめた。
唯「憂…私、毎日電話するよ。それに教育が終わって艦に配属になったら、毎日会えるよ。だから、寂しくないよ。」
憂「おねえちゃん…」
唯「憂、頑張ろうね!」
唯は抱きしめる手に、力を込めた。
憂「お姉ちゃん、苦しいよ。」
二人は、笑顔を作って離れた。
35 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/08/27(金) 21:50:23.91 ID:vS1BKfgo [32/32]
次回予告(ナレーション:唯)
MSの訓練施設でね、懐かしい人に会ったんだ。
不死身の女の人だよ。
恥ずかしがりの澪ちゃんは実機訓練で、大変そう。
これ以上は、ネタバレになっちゃうから、言わないね。
次回 第三話 パイロット!
君は、生き延びることができるかっ!フンス
39 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/08/28(土) 19:27:27.58 ID:3g3TlqEo [2/10]
第三話 パイロット!
MSパイロットの訓練は、座学、シミュレーター、実機と、順を追って行われる。
唯たちが座学を受けに教場に向かっていると、シミュレーター室の方でざわめきが起こっていた。
唯「なんか向こうが騒がしいよ。」
律「よ~し、時間に余裕もあるし、シミュレーター見学も含めて、行ってみようぜ。」
澪「怒られるかも知れないぞ。」
紬「その時はその時よ。行ってみましょ。」
梓「みなさん肝が大きくなりましたね。」
唯「はいよっと、ごめんなさいね。え~と、何があったんですか?」
パイロット候補生「教官が模擬戦で不死身のコーラサワコに負けたんだよ。」
唯「へえ、どんなひとだろ?」
パイロット候補生「模擬戦全勝の女だ。いま出てくるぜ。2番シミュレーター。」
40 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/08/28(土) 19:36:47.77 ID:3g3TlqEo [3/10]
「2」と記されたカプセルからパイロット候補生が出てくる。
ヘルメットを取ると、髪の長い女のようだった。
「ま、これが実力ってやつよねえ。」
唯は、その女に見覚えがあった。
唯「さわちゃん先生!?」
さわ子「あら…!唯ちゃん!?」
律「さわちゃんだって!?」
律を始め皆が人ごみをかき分けて出てくる。
さわ子「皆まで…どうして!?」
律「どうしてはこっちのセリフでもあるぜ。なんでさわちゃんが…」
澪「おい律、時間時間。」
律「おっと…私たち講義があるから後でだ。さわちゃん夕食後大丈夫?」
さわ子「ええ、大丈夫よ。夕食後ね。」
41 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/08/28(土) 20:18:54.18 ID:3g3TlqEo [4/10]
そして、夕食後。
六人は談話室に集まっていた。
さわ子「で、皆はなんでこんなところにいるの?」
律「実はムギが…かくかくしかじかで…」
さわ子「そうだったの…私も学校にいるときに学徒動員の話は何回か耳にしたけど、本当にやりだしたわけね。」
澪「さわ子先生は知ってたんですか?学徒動員の事?」
さわ子「教育委員会から通達が回ってきたのよ。学徒動員があるかも知れないから、スムーズな動員を助けるために、スペースノイドの独立論やニュータイプ論を教育に盛りこむようにってね。」
さわ子「うちは女子高だったからあまり気に留めなかったけど、まさかあんたたちが来ちゃうとはねえ…。」
紬「さわ子先生はどうしてMS訓練施設に来たんですか?」
さわ子「その愛国教育の一環ね。女子高の、女教師が志願したとなると、真面目な男の子なら黙っちゃいないでしょうから。今頃コロニーじゃプロパガンダに使われて私も有名人ねえ。」
梓「お互い大変なんですね。ていうか私さわ子先生が学校いなかったの気づきませんでした。」
さわ子「中野ォ!!オメーは顧問を何だと思ってんだあ!!」キシャア
梓「」
さわ子「…私はもうすぐ実機やって艦に配属になるけど。皆はこれからだから。頑張ってね。」
そう言ってさわ子は部屋に戻っていった。
悲しそうな、背中だった。
42 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/08/28(土) 21:18:30.91 ID:3g3TlqEo [5/10]
唯たちも、すぐにシミュレーター訓練に入り、今は実機を残すのみだ。
学徒兵は促成栽培である。
軍隊に入ったのが11月の始めで、今は11月の終わりである。
やってる最中は長く感じたが、あっという間の教育期間だった。
来月初めには、紬の家が買ったという軍艦に配属になる。
これでも短いというのに次の期からは年齢制限も低くなり、さらに教育期間を短縮するらしい。
澪「そろそろジャブローを攻めるらしい。」
律「ジャブローを落とせれば、私たちの出番は無いな。」
紬「そうなってくれればいいんだけど…」
唯「ジャブローって、月だっけ?」
梓「唯先輩は黙っててください。」
施設の職員が、呼びに来る。
職員「田井中候補生、秋山候補生、初飛行だ。1番デッキに15分後。ノーマルスーツの点検はしておけよ。」
律「じゃ、行ってくる。」
澪「またな。」
澪の手は、震えていた。
確実に、戦場に向かって前進しているという手応えがあった。
43 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/08/28(土) 21:19:56.79 ID:3g3TlqEo [6/10]
教官「カタパルトで射出後、ポイントC-5でカプセルを採取した後、2番ゲートに着陸する。シミュレーター通りだ。出来るな。」
澪「はい。」
教官「カタパルトは出力を絞ってあるから、感じるG自体はシミュレーターで経験したものと同じだ。君の前に田井中候補生が飛ぶから、それを見て落ち着いてやるように。」
その時、律がカタパルトに前進しているところが、サブモニターで確認できた。
律「T-04、MS-05、田井中律、いっくぜー!!」
T-04とは、練習機(trainer)104番という意味のコードネームである。
パイロット候補生は出撃時、コードネーム、機種名、パイロット名、出撃号令(行きます)を呼称することが義務付けられていた。
澪「教官、その…射出時の呼称なんですけど…」
教官「何だ、秋山候補生。」
澪「その…イク///とか…出る///…とかホントに言わなきゃいけないんですか?///」
教官「当たり前だ!君のタイミングで射出しないと、舌を噛んだり、Gで気絶したりするぞ!」
澪「は…はい…(人前でそんな事言うなんて…恥ずかしい///)」
44 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/08/28(土) 21:20:55.75 ID:3g3TlqEo [7/10]
教官「ほら、カタパルトまで前進して。機体を固定。」
澪「歩行モード、微速前進。…カタパルト装着完了。」
教官「出撃呼称。」
澪「T-05、MS-05、秋山澪、イ…イク…//////」
教官「声が小さい!」
澪「T-05、MS-ぜrあむっ!」
教官「出撃呼称で噛むな!」
澪「T-05、MS-05、秋山澪、イクッ!//////」
教官「もっと大きな声で!」
澪「イクゥっ!!/////////」
45 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/08/28(土) 21:21:47.76 ID:3g3TlqEo [8/10]
唯たちの居る待合室では、澪と教官のやり取りが放送で聞こえるようになっている。後から飛ぶ候補生が参考にできるようにである。
唯「澪ちゃん怒られてるね。」
梓「そ…そうみたいですね…//////(恥ずかしいならイク///じゃなくてもっと他の表現があると思うんだけど…)」
唯「ムギちゃん大丈夫?すごい鼻血だよ!!」
紬「唯ちゃん、悪いけどティッシュを貸してもらえるかしら。持ってる分じゃどうあがいても足りないわ。」ボタボタ
梓「ム…ムギ先輩…」
澪「イクゥーーーーーっ!!////////////」
教官「よし、出すぞ!!」
澪の体がシートに押し付けられる。
本物のGだ。
ゲートを抜けると、星の海だった。
教官の声が聞こえなかったら、ずっと見とれていただろう。
46 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/08/28(土) 21:23:01.46 ID:3g3TlqEo [9/10]
教官「AMBACを併用してサブスラスターで姿勢を制御。ポイントC-5をセンターに入れてみろ。」
澪は、訓練通りにやったが、上手く行かずにもたつく。
教官「落ち着け。スラスターを吹かし過ぎだ。」
澪「は、はい…」
スロットルとフットペダルを、優しく操作してやる。
教官「上手いじゃないか、次はメインスラスターも使ってポイントC-5まで行ってみろ。加速しすぎて、通りすぎるなよ。」
澪「はいっ…うっ!」
スロットルを開けていくと、澪の背中にGがかかる。
目標がみるみるうちに大きくなる。
教官「逆噴射。」
澪「ウウッ…」
逆噴射をすると、シートベルトが食い込み、頭が前に持って行かれる。
徐々に速度が落ちてくる。目標の目の前で澪のザクはそれとの相対速度を0とし、Gも止んだ。
47 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/08/28(土) 21:23:37.43 ID:3g3TlqEo [10/10]
教官「マニュピレーターをマニュアル起動、目標を掌握しろ。」
澪「はい。」
澪はザクの手で目標を優しく包み込んだ。
細かい作業は得意である。
教官「いいぞ。マニュピレーターをホールド。帰投する。着地は難しいから、気を抜くなよ。」
澪「はい。帰投します。」
澪のザクは、カプセルを抱えてスムーズに着地した。
また、戦場に向かって一歩を踏み込んだように思えた。
まもなく、五人は訓練施設を卒業した。
ジャブロー攻略戦は失敗した、という情報も入ってきた。
50 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/08/29(日) 17:59:14.08 ID:Kgh7t32o [2/53]
第四話 軍艦!
配属になる艦が見えてくる。チベ級の重巡洋艦だ。
唯「こ、これムギちゃんちで買ったの…?」
紬「別荘、なくなっちゃったけどね。会社も火の車らしいわ。」
梓「私はムサイ級だとばっかり思ってましたよ…すごい。」
澪「ああ…でかいな。」
律「とにかく荷物置きたいな。部屋はどこだ?」
斉藤「みなさんの居室は第2居住区にございます。こちらへ。」
新造艦の新しいペンキの匂いが5人の鼻をつく。
理由はよくわからないのだがなぜか誇らしい気持ちになってくる。
パイロットは個室が与えられるはずだが、五人は士官ではないということで二人部屋なのだそうだ。
51 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/08/29(日) 18:01:54.45 ID:Kgh7t32o [3/53]
斉藤「荷物を居室に置かれましたら、艦長への着任報告をしていただきます。」
律「いっそがしいねえ。一息つかせて欲しいんだけどなあ。」
梓「艦長は琴吹グループ関係の方ですか?」
斉藤「いえ、皆さんと同い年くらいで、非常に有能な方です。」
律「おいおい、艦長も若年兵かよ。大丈夫か?」
斉藤「史上最年少で大型航宙船舶の艦長資格を取られた方です。心配は無用かと。」
律「エリートじゃねーか、そんなのみすみす戦争に引っ張ってきていいのかよ。簡単に殺していい人材じゃないだろ?」
斉藤「本人たっての希望のようです。」
澪「変わり者なんだな…」
斉藤「到着いたしました。お嬢様は1号室、田井中様と秋山様は2号室、平沢様と中野様は3号室でございます。」
52 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/08/29(日) 18:03:07.81 ID:Kgh7t32o [4/53]
唯「あの…妹はどこですか?」
斉藤「憂様は隣の第1居住区にお住まいです。」
紬「取りあえず荷物を置いて艦長室に行きましょうか。」
居室の自動ドアが開く。
紬の部屋は酒臭かった。
紬「…うっ。」
さわ子「なによ~、だれ~?」
紬「さわ子先生!?」
斉藤「山中様、艦内はアルコール厳禁でございますが…」
さわ子「出航したら調達できなくなるんだし、今だけよ~」
さわ子「あらムギちゃん訓練施設以来ね。いらっしゃ~い。」
ドアが閉まる。
53 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/08/29(日) 18:03:50.69 ID:Kgh7t32o [5/53]
唯「ムギちゃん前途多難だね。」
梓「私だって前途多難です///。唯先輩と一緒なんて…//////。」
唯「ほえ?じゃあ澪ちゃんと変わってもらおうかな?」
梓「だだだダメです。律先輩に迷惑掛けないでください///」
律と澪が荷物を置いて出てくる。
律「じゃあ艦長室に行くか。斉藤さん、案内よろしく。」
斉藤「かしこまりました。」
艦長室はそう遠くはなかった。
これならば憂の居室もそう苦もなく行けそうだ。
通路はどこも似たようなつくりだが、壁に案内の矢印が付いているので初めてのものでも艦内のどこへでもアクセスできそうである。
54 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/08/29(日) 18:11:54.35 ID:Kgh7t32o [6/53]
律が艦長室のドアをノックする。
「どうぞ」
自動ドアが開くと、そこには見知った人物が座っていた。
律「の…和!」
唯「和ちゃん!?」
和「驚くのはわかるけど、着任報告をして頂戴。話はそれからよ。」
律が、ぎこちなく敬礼する。
律「宇宙軍軍曹、田井中律他4名、MSパイロットとして着任いたします。」
和「着任を許可します。私は艦を任されている真鍋和少佐よ。この艦はチベ級重巡洋艦ブオンケ。艦名の由来は東北地方に生息する妖怪だそうだけど、そんな話必要ないわね。」
55 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/08/29(日) 18:12:48.05 ID:Kgh7t32o [7/53]
和「ちなみに今後の予定は本コロニーを明日0600出航、明後日1130には宇宙要塞ソロモンの第6スペースゲートに入港。じ後宇宙攻撃軍の指揮下に編入されるわ。」
和「あなた達は出航までに受領したMSの初期点検を済ませておくこと。あとのことは山中曹長に一任してあるから、彼女に聞いて。」
律「了解。…ってなんで和がここにいるんだよ?」
和「うーん、どこから話せばいいのかしら?」
唯「和ちゃんが大学やめたとこからだよ。」
和「私は大学を辞めて、木星船団へ志願したの。木星のプレッシャーを体感してみたかったし、社会の根底を支えるやりがいのある仕事だと思ったから。」
木星船団とは、核融合エネルギー源のヘリウム3を、木星から採取し、地球圏まで運搬することを主な業務としている。
地球圏を離れての航行は長期にわたり、過酷である。
56 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/08/29(日) 18:13:33.89 ID:Kgh7t32o [8/53]
和「試験さえ通れば私みたいな大学中退の若輩者でも別け隔てなく採用してくれるし、艦長職の資格も取らせてもらったわ。でも祖国が戦争してる時に、木星だのなんだのとロマンを求めているのもどうかと思ってた。」
和「そんな時に会社づてでこの部隊が発足することを知ったのよ。木星船団は、琴吹グループとも関わりがあったから。」
澪「そうだったのか…」
和「木星には行けなかったけど、また戦争が終わったら船団に戻りたいと思っているわ。木星行きも諦めきれないしね。」
唯「すごいね和ちゃん、木星帰りの女って呼んでいい?」
和「……だからまだ行ってないって…。」
梓「唯先輩は口を開かない方がいいです。」
和「さ、話はまたあとで聞くから、MSの点検の方をお願いね。」
律「わかった。要件終わり、退出します。」
59 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/08/29(日) 18:22:43.22 ID:Kgh7t32o [10/53]
部屋を出ると、律は唯の方に体を寄せた。
律「唯、お前は憂ちゃんのとこへ行ってやれ。起動チェックと初期点検は私たちがやってやるから。」
唯「え…いいの?」
律「あとから合流して、お前に合わせてペダルや操縦桿なんかを調整をすりゃいいだけにしとくからさ。憂ちゃんとずっと離れ離れだったから会いたいだろ。」
唯「うん…りっちゃんありがと!」
紬「憂ちゃんよろこぶわねえ」
澪「そうだな、早く行ってやれよ。」
梓「ですね。」
60 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/08/29(日) 18:23:25.97 ID:Kgh7t32o [11/53]
第1居住区はすぐに見つかった。
憂は純と同室らしい。部屋をノックすると純の間延びした声が聴こえる。
純「どうぞ~」
唯「あ、純ちゃん。憂は?」
純「唯先輩、憂なら医務室ですけど。今日は当直らしいんで。」
唯「えっと…医務室は…」
純「私が案内しますよ。今暇ですし。」
純は手際よく部屋から出て、リフトグリップをつかんだ。
唯もそれに続く。
純「唯先輩、MSパイロットなんですよね。カッコいいなあ。」
唯「乗っている時は洗濯機の中に居るみたいだよ。Gがすごいんだあ。」
唯「まだ訓練施設でザクにしか乗ったこと無いんだけどね。」
純「ここにはリックドムが配備されているみたいですよ。」
唯「へえ、すごいね。新型だよ。」
純「医務室はここです。じゃ、私はこれで。」
純がリフトグリップに引っ張られて戻っていく。
唯はなんだか久しぶりに妹に会うのが気恥ずかしいような気持ちだった。
62 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/08/29(日) 18:30:11.04 ID:Kgh7t32o [12/53]
唯「失礼します…」
医務室に入って初めて目を合わせたのは中年くらいの女医だった。
その女医が目を丸くしている。
女医「ひ…平沢伍長!?今そこに…」
唯「ええっと…私は平沢軍曹だよ。」
憂「先生、呼びましたか?」
女医「ひ…平沢伍長が二人…!?」
憂「おねえちゃん!!」
唯「うい~、元気にしてた?」
二人が抱きあう。女医もようやく事態が飲み込めたようだ。
63 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/08/29(日) 18:30:58.94 ID:Kgh7t32o [13/53]
女医「ああ、いつも平沢伍長が喋っている、MSパイロットになったお姉さんだったのかい…あまり似てるもんだからびっくりしたわ。」
憂「はい、姉の唯です。」
憂の目は嬉し涙で濡れていた。涙はみるみるうちに溜まって、今にもこぼれ落ちそうである。
それをぬぐいながら憂は続ける。
憂「お姉ちゃん、ちゃんと食べてた?具合悪くない?ケガとかしてない?」
唯「みんな一緒だったから大丈夫だよ。」
憂「私、看護師になったから、何かあったらいつでも来てね。」
唯「うん。それじゃあ私、自機の点検に行ってくるね。」
憂「頑張ってね、お姉ちゃん。」
医務室の扉を出ると、唯はMSデッキを目指した。
64 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/08/29(日) 18:31:29.47 ID:Kgh7t32o [14/53]
その時、MSデッキでは驚嘆の声が上がっていた。
律「しかしすげーな、ザクとは段違いじゃねーか。」
実際に乗ってみなくても、モニター越しに性能に関するデータを拾うだけで。MSがどれほどのものなのかが、想像できる。
リックドムは、訓練施設で使った旧式のザクとはまるで別物だった。
梓「ちょっと動かしてみたいですね。」
さわ子「出航が近いからダメよ。出航したら、警戒態勢になるから各チームシフトを組んで待機ね。その時に敵襲があれば処女飛行できるわよ。それまではシミュレーターで我慢しなさい。」
梓「敵が来たときに処女飛行なんて、初期不良とかメカニカルトラブルが起こったらどうするんですか?」
さわ子「冗談よ。私と斉藤さんのドムが飛行試験まで終わってるから、それで出ることになるわね。私の機体に傷をつけたら許さないけど。」
さわ子「まあ敵が出るような宙域ではないから安心して。」
65 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/08/29(日) 18:31:57.20 ID:Kgh7t32o [15/53]
さわ子「取りあえずチーム分けをするわ。私と斉藤さんとムギちゃんがキーボードチーム。りっちゃんと澪ちゃんがドラムスチーム、唯ちゃんと梓ちゃんがギターチームよ。コードネームは、チーム名の後ろに番号をつけて。」
紬「私はキーボード03がコードネームね。」
澪「嫌だ。」
さわ子「ああん!!?なんだってえ!?」
澪「ヒッ!!!!」
さわ子の顔が優しそうないつもの表情に戻る。
さわ子「何か言いたいことがあったら言いなさいね。」
澪「ええっと、コードネームはベース01がいいです…」
さわ子「澪ちゃんはどうでもいいことにこだわるわねえ…」
澪「ど、どうでもよくなんかありません!」
その時、唯が医務室から帰ってきた。
67 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/08/29(日) 18:39:20.56 ID:Kgh7t32o [16/53]
唯「みんなお待たせ~」
律「よう、ギター01、憂ちゃんはどうだった?」
唯「ほえ?なにそれ?」
梓「唯先輩のコードネームですよ。私がギター02で、二人でチームです。」
さわ子「シフトは6時間交代で、最初はドラムスチーム、次にギターチーム、キーボードチームの順で行くわ。待機場所はデッキ横の仮眠室ね。」
律「私はシミュレーターやりながら待機しとくよ。唯、操縦系の硬さと位置の調整しとけよ。」
唯「ほいさ。」
さわ子「熱心なのはいいけど、ちゃんと休息も取りなさいよ。」
さわ子の言う通り、ソロモンまで敵影はなかった。
ブオンケの緑の船体は、静かにソロモンの第6スペースゲートに入港した。
68 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/08/29(日) 18:40:08.02 ID:Kgh7t32o [17/53]
和に、呼び出された。
唯がブリーフィングルームに到着すると、もうすでに主だったメンバーが揃っていた。
和「着任報告に行くわよ。」
唯「和ちゃんにりっちゃんがしたじゃん。」
和「ソロモンの司令に私が着任報告に行くのよ。あなた達も来るの。」
唯「ほええ。」
梓「唯先輩はしゃべらない方がいいです。」
律「そういえば、ここの司令はザビ家だろ。ムギ、大丈夫か?」
紬「ドズルさんは優しいから大丈夫よ。上の二人はちょっと苦手だけど…。」
澪「それなら問題ないな。」
紬「澪ちゃんにはちょっと刺激が強すぎるかも…」
澪「え、なんだって?」
紬「なんでもないわ~」
70 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/08/29(日) 18:40:50.22 ID:Kgh7t32o [18/53]
7人は艦から降り、司令室を目指す。
途中で何人かの兵士が奇異の目を向けてくる。
若すぎると思っているのだろう。特に和は階級と年齢があっていない。
通り過ぎる兵士たちは、ほとんどが和より低い階級だったが、和に敬礼をすることはなかった。
和は気にせず進んだ。
気まずい空気を何とかしようと、唯が話題をふる。
唯「私たちで、みんなのあだ名を考えようか。ソロモンのゴキブリ、なかのあずにゃん、とか。」
梓「なんで私がゴキブリなんですか?」
唯「すばしっこくて攻撃が当たんないし、出てくるだけでみんな恐れおののくんだよ!」フンス
梓「そんなの嫌です!唯先輩ろくな事言いませんね!」
71 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/08/29(日) 18:41:27.91 ID:Kgh7t32o [19/53]
澪「光速のベーシスト、秋山澪…」ボソ
律「みおちゅわん、なんだって~?」
澪「ヒッ!!何も言ってない…」
紬「きこえたわよ~」
澪「ムッ…ムギィ~っ///」
笑いが起こる。
最近は入隊した当初に比べてみんなよく笑うようになった。
この状況に、慣れてきているのだろうか。
澪は、自分が普通の人間じゃなくなったように感じ、少し寂しい気持ちになった。
72 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/08/29(日) 18:46:51.61 ID:Kgh7t32o [20/53]
司令室のドアが開け放たれたとき、澪は震え上がった。
司令の机に収まっているのは、澪が見たこともないくらい恐ろしい形相の大男だったからだ。
和「重巡洋艦ブオンケ艦長、兼、在学徴集兵運用実験隊隊長、宇宙軍少佐、真鍋和以下7名。着任報告に上がりました。」
ドズル「ご苦労。楽にしてくれ。」
司令室には7人分の椅子が用意されていた。腰掛けろということなのだろうが、澪だけ立ったまま動かなかった。
紬「澪ちゃん、座って。」
紬が力まかせに椅子に押し付け、ようやく形ばかりは椅子に収まった。
澪は気絶しているようだ。
ポツリポツリと、ドズルが語りだす。
ドズル「琴吹殿には大変申し訳無く思っている。」
73 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/08/29(日) 18:47:43.53 ID:Kgh7t32o [21/53]
紬「閣下がそのように思う必要はありません。父もそう言うでしょう。」
ドズル「いや、言いだしっぺは俺なのだ。俺が、戦いは数だと言いすぎたせいで兄上か姉上が学徒動員の話を進めてしまった。」
話が長くなりそうだと踏んだ和が切り出す。
和「すみません、今後の任務に関する仕事があるので、私はこれで失礼したいと思います。」
ドズル「おう、艦長は行ってくれ。気づかんで悪かったな。」
ドズル「琴吹殿、ミネバに会っていかんか?他の者も。」
紬「ミネバ様にお会いしてもよろしいのですか?」
ドズル「かまわん。ミネバも喜ぶ。付いてきてくれ。」
ミネバのいる部屋までは結構な距離を歩いた。
公私をくっきりと区別しなくては他の兵に対して示しが付かないというドズルの配慮だろうと紬は思った。
ザビ家の中で、政治や権力に毒されていなかったのは、ドズルだけだった。
そのため、ドズルは人望も厚く、紬の父もドズルとだけは交友があった。
紬が背中におぶった澪を重たいと感じ始めた頃に、ミネバのいる部屋へ到着した。
74 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/08/29(日) 18:48:47.00 ID:Kgh7t32o [22/53]
唯「わあ、ちっちゃい。ムギちゃん、この子すっごくかわいいよ!」
梓「まさしく玉のようですね。」
律「わっ、ちっちゃい手で指をつかんだぞ!!」
動かない澪を部屋の隅において、紬もミネバのベッドに近づく。
紬「ミネバちゃ~ん、ほ~ら、マンボウのマネ~」
ミネバ「キャッキャッ」
唯「笑ったよ!ミネバちゃん笑った!!ミネバちゃ~ん!」
さわ子「ミ~ネ~バ~ちゃ~ん。ほんと、かわいいわねえ。」
律「反則だろこれ…つ…連れて帰りたいな…。」
梓「ダメですよ!」
律「わーってるよ!冗談、冗談。」
紬「私たちも仕事があるし、これでおいとましましょうか。」
唯「ええ~、もっとミネバちゃんとあそびたいよ~」
さわ子「遊びに来たんじゃないわよ。」
76 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/08/29(日) 18:55:08.98 ID:Kgh7t32o [23/53]
帰りの道中、紬は始終俯き加減だった。
律「ムギ、どうしたんだ?澪をおぶるの代わろうか?」
紬「違うの…ミネバちゃんのことでね…」
律「…」
紬「あの子、ザビ家の娘だって言うことが一生ついて回るんだろうなって考えると…何か複雑な気分なの。」
紬「まだちっちゃいのに…あんなにかわいいのに…彼女の未来は、ザビ家の色に染められてる…私たちみたいに普通の高校にいって、部活やって…そんな未来がないなんて思うと、とても人事とは思えないの。」
律「気持ちは分かるけど、そんなに心配するほどじゃないと思うぞ。」
紬「え…?」
律「私たちだって、急に軍隊入って色々やらされて、今度は明日にでも死ぬかも知れないってのに、今日あの子を見て可愛がって、みんなで笑って、すごく楽しかったろ。」
律「人は、どんな状況でも、笑顔くらい作れるんだよ。楽しい気持ちになることだってできる。」
77 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/08/29(日) 18:55:55.73 ID:Kgh7t32o [24/53]
紬「りっちゃん…」
律「今私たちにできることは、ソロモンが堕ちないように、あの子に危害が及ばないようにしっかり任務をこなすことだ。」
紬「やっぱりりっちゃんてすごいわ…私じゃ思いもよらないことを、考えることができるんだもの。」
律「そう言われるとなんか照れるな…///。」
律「とにかく、燃えてきたぜ。早く艦に帰って、仕事だ!」
軽い、足取りだった。
澪は艦に帰りつくまで起きなかった。
78 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/08/29(日) 18:56:38.02 ID:Kgh7t32o [25/53]
第五話 初陣!
リックドムの慣熟飛行が終わると、すぐに任務の話になった。
和「B区域の[ピザ]リ群の哨戒任務が来ているわ。」
ソロモンの宙域は[ピザ]リ群が多く、たびたび連邦軍は隠掩蔽良好なこれらの[ピザ]リ群を足がかりにソロモンに対して中小規模の攻撃を仕掛けてきていた。
そのため敵部隊の隠密行動に適した[ピザ]リ群を監視し続ける必要があったのである。
和「このピザリ群はそう広いものではないから単艦で二日かけて哨戒するわ。みんないいわね。」
唯「敵がいなかったらどうするの?」
和「帰ってきて、いませんでしたって報告するのよ。」
梓「唯先輩は何も言わなくていいです。」
84 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/08/29(日) 19:04:01.56 ID:Kgh7t32o [30/53]
第五話 初陣!
リックドムの慣熟飛行が終わると、すぐに任務の話になった。
和「B区域のデブリ群の哨戒任務が来ているわ。」
ソロモンの宙域はデブリ群が多く、たびたび連邦軍は隠掩蔽良好なこれらのデブリ群を足がかりにソロモンに対して中小規模の攻撃を仕掛けてきていた。
そのため敵部隊の隠密行動に適したデブリ群を監視し続ける必要があったのである。
和「このデブリ群はそう広いものではないから単艦で二日かけて哨戒するわ。みんないいわね。」
唯「敵がいなかったらどうするの?」
和「帰ってきて、いませんでしたって報告するのよ。」
梓「唯先輩は何も言わなくていいです。」
85 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/08/29(日) 19:04:50.25 ID:Kgh7t32o [31/53]
和「出航は明日0400。出港後30分でキーボードチームとドラムスチームを射出。当初キーボードチームを前衛として、B区域を捜索するわ。」
梓「ギターチームは、当初機体に搭乗して待機でいいですか?」
和「後衛のチームもいるし、指示があるまで仮眠室待機でいいわ。」
和「基本的に3時間おきに前衛、後衛、待機を入れ替えるからそのつもりで準備して。」
唯律紬梓さわ子斉藤「了解!」
澪「…」
86 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/08/29(日) 19:05:35.10 ID:Kgh7t32o [32/53]
律が部屋に帰ると、ベッドの上で澪がうずくまっていた。
律「どうした?澪?」
澪は答えない。小刻みに震えているところから見て、泣いているようだ。
律「澪、初陣が怖いのか?」
澪はうなずいて答える。声も出せないらしい。
律「大丈夫だって、私が付いてる。」
澪が何か言おうとするが、歯がガチガチと鳴る合間にか細いうめき声になるだけで、意味を成さない。それでも律には、澪が何を伝えたいのか分かるような気がした。
律が、澪を優しく抱きしめる。
律「こうか、澪。」
澪は頷いているのか震えているのか分からない。
律は、耳元でささやくように続ける。
律「澪には仲間がたくさんいるぞ、私もいるし、さわちゃんや、ムギ、斉藤さん、危なくなったら、唯と梓も来てくれる。だから心配すんなって。それともみんな、信じられないか?」
澪は首を横に振る。
抱きしめていると、いつの間にか澪の震えは止まっていた。
87 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/08/29(日) 19:06:21.03 ID:Kgh7t32o [33/53]
ブオンケは、定刻通りに出航した。
続いて、MS隊が発進する。
さわ子「オラァ、キーボード01、MS-09R、山中さわ子、出しやがれぇ!!」ヒャッハー
斉藤「キーボード02、09R、斉藤、出ます。」
紬「キーボード03、09R、琴吹紬、出してください。」
律「ドラムス01、09R、田井中律、いっくぜー!」
澪「ベース01、09R、秋山澪、イクッ///」
さわ子「よっしゃあ、こんなデブリ群は、一日で捜索しつくしてやんよ!」
さわ子「付いて来い、オメーら!!」
88 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/08/29(日) 19:07:17.66 ID:Kgh7t32o [34/53]
澪「ふふふっ…」
律「どうした、澪?」
澪「なんだかさわ子先生見てると、あんなに怖がってた自分が可笑しくて…」
律「そうだぞ、リラックスしていこうぜ、澪。」
律「それにしても、さわちゃん突出し過ぎじゃないか?大丈夫かよ?」
澪「大丈夫だろ、さわ子先生シミュレーターで教官倒すほどの腕だぞ。」
澪がそう言って、さわ子の機体を見上げた瞬間、さわ子のリックドムを一瞬、一条の光が貫いたように見えた。
澪がなんだろう、と思っていると、さわ子の機体が見る間に赤熱し、風船のように膨らんで、破裂して赤い火球になり、消えた。
その時初めて、さわ子からの通信が途絶えていることに澪は気づいた。
89 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/08/29(日) 19:08:19.98 ID:Kgh7t32o [35/53]
律「狙撃だ、散開しろ!」
律の声に、全員の機体が放射状に、散った。
澪は自分が恐怖を感じているのかも、分からなかった。
唯は夢を見ていた。
ギターを引きながら、歌う練習をしている。
傍らには、さわ子がいた。
何度も、何度もふわふわ時間を歌う。
歌い終わるたびに、さわ子がアドバイスをくれる。
その時、必ずさわ子は何か一つ、いいところを褒めてくれた。
それが嬉しくて、唯は何度もギターを掻き鳴らし、歌い続ける。
完璧よ、と言われたが、さわ子に聞いてもらえるのが楽しくて、何度も、何度も歌い続けた。
気がついたら、声が枯れていた。それでも、歌った。
突然、さわ子が言った。
もうそろそろ、終わりにしましょうか。先生、行かなきゃならないところがあるのよ。
唯は、練習をやめたくなかった。
90 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/08/29(日) 19:08:55.50 ID:Kgh7t32o [36/53]
唯「さわちゃん先生!!!」
唯の周りには、涙の粒が漂っている。
その奥に、真っ青になった梓の顔が見えた。
梓「唯先輩…さわ子先生…死んじゃいました…」
しばらく漂う涙の粒を眺めていた唯が、突然立ち上がって、呟いた。
唯「出撃だね…あずにゃん!」
梓は、唯の顔を見て息を呑んだ。
唯の顔は、さわ子を殺した相手への殺意に満ちていた。
91 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/08/29(日) 19:18:24.31 ID:Kgh7t32o [37/53]
緑のジムが、ピザリを蹴って数キロ離れた同じような[ピザ]リに取り付く。
ジムスナイパーカスタムと呼ばれる特別機だ。
パイロットは三浦 茜
歳は梓位だが、家が貧乏で中学を卒業してすぐに連邦軍に入隊した。
戦争の始めからパイロットとして戦ってきたベテランである。
茜は狙撃任務中、移動する時スラスターは使わないようにしていた。
光で自分の位置が特定されるからだ。
ジムスナイパーカスタムのコックピットに僚機から通信が入る。
「やったね、茜。」
茜「これからよ。敵もスナイパーがいるって気づいたからね。しっかり観測してね、モブ子。」
モブ子「了解。あ、艦からスラスター光。増援よ。」
茜「何機?」
モブ子「一機…二機出たわ。β1、β2とするわね。」
茜「了解。」
モブ子「茜、β1、動きが鈍いわ。いいカモよ。左に140。上に45。」
茜「了解、見つけたわ。距離5千。」
茜は、静かに、長く息を吐きながらトリガーを引いた。
93 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/08/29(日) 19:21:02.44 ID:Kgh7t32o [39/53]
律は、マズイと思った。
増援として唯と梓が来てくれたが、唯の動きが単調すぎる。
モビルスーツは通常、弾を避けるためにジグザグに回避機動をとりながら移動するが、その基本を忘れているようだった。
突然、唯のドムが横から叩かれたように飛んだ。
その瞬間、今まで唯のドムがいたところをビーム光が貫いていた。
律「…避けた…まさかな…」
紬「今のビーム光で、狙撃ポイントが分かったわ。」
突然、紬のドムが動くのを止め、近くのデブリに隠れる。
律「ムギ、どうするつもりだ?やられちまうぞ。」
紬「射程の長い艦砲を使うわ。射弾を誘導しなきゃならないから、私は動けない。」
紬「敵はスラスター光で私たちの位置を観測してるはず。だから私一機が止まっててもそうそう見つかるものじゃないわ。」
律「分かった。私たちはスラスターを派手にふかして、囮になってムギを援護すりゃいいんだな。澪、動き回れ!」
澪「はあ、はあ、はあ…り、了解…はあ、はあ…」
94 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/08/29(日) 19:22:49.77 ID:Kgh7t32o [40/53]
紬「ブオンケ、聞こえる?こちらキーボード03、射撃要求。」
紬は、射撃要求を使うとは思ってもいなかった。
教育中にみんなで協力して、教科書に書かれていることのほとんどを頭に入れていた。
その膨大な知識のうちの一つだった。
みんなで生き残れるように、そう思って勉強したことが、役に立った。
純「射撃要求、了解。諸元をお願いします。」
紬「観測点、キーボード03。基準星M9から、F4方向に120。R8方向に60。距離5千。メガ粒子をお願い。」
観測による間接照準射撃は旧世紀の古典的な方法である。
しかしミノフスキー粒子の影響でレーダーが使用不能になったこの戦争の初期に艦砲を精密に目標に誘導するためにまた使われだした。
それも、MSの活躍により、艦砲が主力兵器としての座を追われて単なる支援火器となっていくにつれ、すぐに使われなくなっていった。
二度死んだ戦法を、また引っ張り出してきたのだ。
対する連邦のスナイパーも、同じような戦い方である。
スナイパーライフルの望遠カメラは倍率こそ高いものの、視野は狭い。だから敵を狙うにはいいが探すには向いていない。
そこで観測手たる僚機がスナイパーライフルを向けるべき方向を誘導するのだ。
どちらも基準となる星を利用し、三角関数を用いて観測手が射手や艦砲を誘導するというやり方だ。
これは、艦とMSの長距離射撃戦である。
97 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/08/29(日) 19:28:16.42 ID:Kgh7t32o [43/53]
純「諸元出ました。艦体そのまま、前部メガ粒子砲1から3番、左へ43、仰15。効力射、三発。」
純「砲に諸元を入力。…3…2…1…砲身固定。MS隊は射線から退避。射撃準備完了。」
和「打ち方、始め。」
前部メガ粒子砲、3門からそれぞれ3発、計九発のメガ粒子は正確に紬の狙った場所に吸い込まれていったが、手応えはなかった。
回避のスラスター光も観測できない。
98 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/08/29(日) 19:29:47.66 ID:Kgh7t32o [44/53]
茜は、驚いていた。
未熟な回避軌道のリックドムが、茜の正確な射撃を回避した。
偶然だ、と自分に言い聞かせてスラスターを使わずに陣地変換を行う。
ライフルを構えようとしたその時、茜がさっきまで取り付いていた辺りに、9発のビームが殺到したのだ。
茜は、背筋が冷たくなった。
茜「モブ子、敵は艦砲の射撃を誘導してる。観測手を探して!」
モブ子「目標α3をロストしてる。多分そいつだわ。今探してる。」
茜「急いで!」
茜はジオン兵の恐ろしさを見にしみて感じていた。
連邦の将兵は、こんな使われなくなった旧来の戦術など、一応は士官学校のカリキュラムにはあるものの習ったその日に忘れてしまう。それを、ジオンはとっさに使ってくるのだ。
練度が、違う。数を頼みにできるならまだしも、茜たちは2機編成のスナイパーユニットでしかない。
後退、という言葉が脳裏をよぎった。艦は、はるか向こうである。
そもそも艦の他の機体は偵察任務中で、茜たちはその支援任務としてここに居る。そのため増援の要求も出来ない。
茜は自分の弱気をかき消すように、トリガーを引いた。
β1と名付けたリックドムが、また茜の射撃を回避した。
99 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/08/29(日) 19:32:05.97 ID:Kgh7t32o [45/53]
紬「手応えがない、敵はスラスターを炊かずに陣地変換をしている模様。」
紬「広域を制圧できるミサイルで…」
和「キーボード03、そんなんじゃ埒があかないわ。あなたもいずれ発見されてしまう!」
紬「どうやったら…」
和「ビーム撹乱膜弾を使うわ。」
紬「でもアレは…」
ビーム撹乱膜は使用の難しい兵器である。これを展開した地域ではビーム兵器が確実に無力化される。それは味方のビームも同じである。
短時間といえど味方の行動を制限する兵器は、使うことを嫌がられる。
ビーム撹乱膜はその最たるもので、和たちのようなパトロール部隊が使うには上級部隊への申請と許可が必要なのである。
そんな時間は無かった。
和「事後承諾で行くわ、これ以上、戦力を傷つけられるわけには行かない。」
和「鈴木伍長、前方デブリ群手前100に撹乱膜を展開!」
純「諸元出ました!船体取舵42、上げ舵13、前部ミサイル発射管1から12番、撹乱膜弾、2発。」
操舵手「取舵42、上げ舵13!」
純「MS隊射線より退避完了!発射管、発射準備完了です!!」
和「発射!撹乱膜展開と同時にMS隊は突撃!!」
100 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/08/29(日) 19:34:00.25 ID:Kgh7t32o [46/53]
モブ子「α4を発見!射撃方向を計算中…右へ68、下へ26。」
茜「よくやったわ、モブ子!」
モブ子「ミサイル接近!!」
茜「脅しよ!!貰った!!」
茜がトリガーを引いた瞬間、24発のミサイルが破裂した。
ビームは手持ち花火のように拡散していた。
茜「ビーム…撹乱膜…?」
モブ子「茜、敵が接近してくるわ!!撃って、撃ってよ!!」
茜「ビームが効かない!キャノンで援護して!!格闘戦をやるわ!」
ジムスナイパーカスタムが、ビームサーベルを発振する。
モブ子「敵が多すぎるのよおおおおおお!!!」
モブ子の機体はジムキャノンである。
支援機であるためサーベルは持たない。
この状況で唯一効果のある肩の180ミリキャノンを迫り来る敵に連発しているが、なかなか当たらない。
モブ子「あかね…助けて!…こっちくる…いやあああこないでえええ!」
キャノンはリックドム一機の肩に命中して左腕をもぎとったが、そのリックドムによってモブ子の機体は真っ二つにされていた。
101 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/08/29(日) 19:35:10.53 ID:Kgh7t32o [47/53]
茜「モブ子おおおおおおお!!」
正面を向き直ると、さっき茜の射撃をかわしたリックドムがヒートロッドを構えて突っ込んできていた。
茜「そんなんでやられるかよ!この下手くそ!!」
茜がリックドムの単調な攻撃をかわした、と思った瞬間、別のリックドムがバズーカを茜のジムの左足に命中させた。膝から下が無くなった。
茜「くそ、AMBACが…」
警報が鳴り、コックピットに衝撃が走る。
今度はマシンガンの攻撃を受けたようだ。
ジムの右手が、サーベルごと無くなっていた。
茜「なんなのよ…なんなのよあんたら…よってたかってええええええ!!!」
さっきの単調なリックドムが、モニターに写りこんだ。
茜は、モニターが割れてコックピットがひしゃげるのを、見た。
102 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/08/29(日) 19:37:49.01 ID:Kgh7t32o [48/53]
唯は、敵のジムを貫いたとき、頭の中に見たことのない情景が広がるのを感じた。
ポニーテールの女の子が、公園で暮らしている。
父親は傭兵で、雑草の中から食べられるものを、教えてくれた。
見たことのない楽器を吹いている。
ユーフォニアム、と言っていた。
父親が、歩兵の戦い方を、熱を込めて語っている。
撃ったら移動、敵に見つからないように…
あのジムのパイロットだ、と唯は思った。
高校に入ったら、部活でユーフォニアムを吹きたいと言っている。
唯は、信じられないものを、見た。
自分たちのティータイムに、あの子が参加していた。
みんなで一緒に、笑っていた。
お茶を飲んでいる唯が、こっちを見て囁いた。
違うふうに会えれば仲良くなれたのに、デビちゃんを殺しちゃったね。
103 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/08/29(日) 19:38:16.74 ID:Kgh7t32o [49/53]
唯「わあああああああああああああ!!!」
梓「唯先輩、どうしたんですか!?唯先輩!!」
唯「頭が…痛い。痛いよお…ゴメンなさい…。」
片腕のないリックドムが唯に近づく
律「おい、唯、しっかりしろ!もう敵はいないぞ!」
唯「私が…殺しちゃった…ごめんなさい…ごめんなさい…」
澪「唯、何言ってるんだ…?おかしいぞ!」
紬(やっぱり…唯ちゃん……)
唯は、頭を締め付けられるような痛みに、意識をなくしていった。
104 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/08/29(日) 19:38:48.01 ID:Kgh7t32o [50/53]
気がついたら、医務室のベッドの上だった。
憂と梓が見える。
唯「うい・・・あずにゃん・・・」
憂「お姉ちゃん!!よかった…」
梓「唯先輩…」
唯「あれ…私…どうして…?」
梓「敵を倒したあと、急に苦しみだしたんです。覚えてませんか?」
唯「そうだった…私…」
梓「先輩、さわ子先生の敵をとったんですよ!」
唯「うん…そうだね。」
憂「お姉ちゃん!?」
唯「うい…もう少し…寝かせて…」
唯は、再び深い眠りに入っていった。
105 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/08/29(日) 19:39:42.20 ID:Kgh7t32o [51/53]
和がビーム撹乱膜を無許可で使用したせいで、ブオンケ全体が謹慎中であった。
任務も与えられないが、訓練も出来ない。
律は、不安に打ちひしがれていた。
律「はあ、はあ、はあ、はあ…」
律(なんで、体が震えんだよ…澪じゃああるまいし…)
律は、帰艦した後、自機を見て驚愕した。
左手が吹き飛ばされたのはモニターで確認していたが、降りてみるとその損傷が生々しすぎたのである。
少しずれていたら、コックピットだった。
生還したものの、生きた心地がしなかった。
自分は亡霊になってしまっているんじゃないかとも考えた。
何度も澪に、紬に、話しかけた。
ペラペラと、饒舌に笑い話を。
そうしているうちに、急に空元気を出している自分が虚しくなった。
律は、走り出していた。
そして、ベッドに潜り込んだ。
106 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/08/29(日) 19:41:20.52 ID:Kgh7t32o [52/53]
澪「律、居るのか?」
澪が部屋に入ってきた。
こんな自分を見せたくない。嫌だ、嫌だ。
律「来ないでくれ!!」
澪が、近づいて来る。
澪「律も、怖かったんだな。」
一番言われたくないことを言われ、律の頭に血が登った。
ベッドから起き上がり、澪に掴みかかる。
澪は逃げようともしなかった。
澪「私ばっかり甘えて、ごめんな。」
律は、澪の胸に顔を押し付けて、泣いた。
今まで我慢していた分、辛かった分を、すべて吐き出すように。
気がつくと、澪をベッドに押し倒していた。
部屋の外では、紬がドアに耳を押し当てながら鼻血を流していた。
第五話 初陣! おわり
<<唯「0079!」後半 | ホーム | 上条一家の夏休み indexページ>>
コメント
コメントの投稿
トラックバック
| ホーム |