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憂「もう、高校三年生か……」
1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/07(火) 23:46:23.96 ID:DBsKX8wY0 [1/13]
平沢家
唯はN女大に合格した。結果、唯は大学の学生寮で暮らすこととなった。
憂は、一人で家に暮らしていた。
憂「なんか、家が広くなったなぁ…………」
今日は、桜高の始業式があった。今日から憂は、高三となったのだ。
憂「寂しいなぁ。お姉ちゃん……」
平沢家
唯はN女大に合格した。結果、唯は大学の学生寮で暮らすこととなった。
憂は、一人で家に暮らしていた。
憂「なんか、家が広くなったなぁ…………」
今日は、桜高の始業式があった。今日から憂は、高三となったのだ。
憂「寂しいなぁ。お姉ちゃん……」
3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/07(火) 23:47:59.70 ID:DBsKX8wY0 [2/13]
憂「あ、もう、こんな時間。ご飯作ろう」
時計にはP・M6:00と表示されている。
憂はキッチンへと向かった。
憂(お姉ちゃんがいなくても、ちゃんと生活しなきゃ!)
憂(お姉ちゃんに依存してばっかじゃ駄目なんだ!)
憂はご飯を作り終える。
5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/07(火) 23:49:37.19 ID:DBsKX8wY0
そして気づく。
憂(また、二人分作っちゃった……)
憂(…………お姉ちゃんと一緒だったころの癖、抜けてないなぁ)
憂(……残すのももったいないしね。全部食べよ)
憂(…………太っちゃうなぁ。ははは)
憂(このままじゃ、私、おでぶさんになっちゃうよ。お姉ちゃんに会っても、別人って思われるかもなぁ……)
7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/07(火) 23:51:06.02 ID:DBsKX8wY0
憂(ははは……)
憂(……はぁ)
憂(……ううん! だめだめ! お姉ちゃんがいなくなったって、死んだわけじゃないんだ!)
憂(それに、お姉ちゃんに心配かけたくないし!)
憂(笑おう。暗い顔じゃ、お姉ちゃん心配しちゃうよ)
8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/07(火) 23:52:42.49 ID:DBsKX8wY0
憂はリビングに、二人分の料理を持っていった。
憂「いただきます」
ムグムグ ムグムグ ムグムグ 憂「……普通」 ムグムグ
自分の料理を褒めてくれる相手がいないと、モチベーションが下がる。
憂(いつもはお姉ちゃんがいたのに……)
憂は食べ終わると、食器を洗いに、再びキッチンへ向かった。
9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/07(火) 23:54:20.64 ID:DBsKX8wY0
憂「…………お姉ちゃんがいないと、こうも静かなんだなぁ」
憂「…………そうだよね、一人しかいないんだもの」
憂「…………一人って、つらいなぁ」
憂「…………もう、やだな」
皿洗いを終える。
10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/07(火) 23:55:38.16 ID:DBsKX8wY0
リビングへ向かう。
憂「TVでもみよっと」
憂「面白いの、やってないかな」
憂「…………うーん。どれも、つまらなさそうだなぁ」
憂「…………いいや。部屋戻ろう」
憂はTVの電源を消すと、自室へ向かった。
12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/07(火) 23:57:07.86 ID:DBsKX8wY0
憂部屋
憂「勉強でもしようかな」
憂「受験生だしね」
憂「……そっか、もう受験生なんだ」
憂「うん。勉強した方が良いだろうな」
憂「よし、そうしよう」
13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/07(火) 23:59:16.98 ID:DBsKX8wY0
カキカキ カキカキ
憂「……何か、静か過ぎて気味悪いな」
憂「……ラジオでも、つけようかな」
憂は机を離れ、ラジオの電源を入れにいく。
ラジオ『所ジョージのオールナイトニッポンゴールド!』
憂(うん。すこしBGMがあったほうがいいよね)
そのまま机に戻る。
15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/08(水) 00:01:13.31 ID:DBsKX8wY0
カキカキ カキカキ
憂「えーと。ここにλが入ってるから……」
憂「……うん、よし。出来た。答えは……あってる」
憂「………………うん」
憂(…………お姉ちゃん)
16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/08(水) 00:01:46.31 ID:D+ZZUN2v0 [1/48]
憂(今、何やってるんだろうなぁ)
憂(悪い男の人とかと、一緒になってないかな)
憂(彼氏とか、いるのかなぁ)
憂(大丈夫だよね、女子大だもん)
憂(きっと、今頃律さんとかと一緒にわいわいやってるんだろうな)
憂(……………………いいなぁ)
17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/08(水) 00:02:38.81 ID:DBsKX8wY0
そのとき、インターホンの音がした。
憂「あ、今開けまーす」
憂は玄関へと向かった。
憂(こんな時間に誰だろう?)
憂(もしかして……)
玄関の扉を開ける。
――純がいた。
18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/08(水) 00:03:18.60 ID:D+ZZUN2v0 [2/48]
純「やほー、憂」
憂「純ちゃん……どうしたの?」
純「お姉ちゃんと離れ離れになった憂が、しょげていないか心配になっちゃったんだ」
純「いてもたってもいられなくて、来ちゃったよ」
憂「……べつに、大丈夫だよ」
嘘だ。
20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/08(水) 00:03:59.41 ID:DBsKX8wY0
純「またまたー。梓じゃないんだから、強がんなくたっていいんだよ」
でも、すぐにばれた。
憂「強がってなんか、ないもん」
憂は口を尖らせた。
純「本当?」
憂「本当だもん!」
純「でも、泣いてるよ」
21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/08(水) 00:04:57.68 ID:DBsKX8wY0 [13/13]
憂「え?」
純「ほら」
純が憂の目元をぬぐう。
憂「……本当だ」
純「無理しなくて、いいんだよ」
憂「……眼に、ゴミが入っただけだよぅ」
24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/08(水) 00:06:35.97 ID:D+ZZUN2v0 [3/48]
純「はいはい。あがらせてもらっていい?」
憂「いいけど……純ちゃん、お母さんとかになんかいわれない?」
純「両親共働きでね、家には私に小言を言う人はいないんだ」
憂「ふぅん」
純「と、いうわけであがらせてねー」
25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/08(水) 00:07:59.84 ID:D+ZZUN2v0 [4/48]
純は憂の脇をすりぬけ、玄関に入る。靴を脱ぎ、そのままリビングへ。
憂「あ、ちょっと!」
憂は純の後を追いかけた。
不思議と、寂しくなくなった。
純が来てくれたことが、嬉しかった。
26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/08(水) 00:08:44.39 ID:D+ZZUN2v0 [5/48]
****************************************
純「あ、お土産持ってきたんだ。はい、ミスド」
憂「あ、うん。ありがとう」
純「私、ポンデリング食べるから」
憂「うん」
純は、リビングに置かれたテーブルの近くに、ゆっくりと腰を下ろした。
27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/08(水) 00:09:35.39 ID:D+ZZUN2v0 [6/48]
純「いやー、私たちも、もう高三だねー」
憂「うん。早いね」
憂は二人分のコーヒーを運んできた。
純「お、サンキュ」
憂「……そうだ。純ちゃんは、どこの大学に行くの?」
28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/08(水) 00:10:51.05 ID:D+ZZUN2v0 [7/48]
純「私かー。私は……どこでもいいな!」
憂(……純ちゃんらしい答えだな)
純「憂と一緒なら!」
憂「…………………………へ?」
純「なーんて、冗談冗談」
29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/08(水) 00:11:53.21 ID:D+ZZUN2v0 [8/48]
憂「な、な、なーんだ。お、驚かせなないでよ、もぉー」
純「うは。マジにとっちゃった?」
憂「まさか。冗談だっててて、わかってたよ」
純「…………まだ、驚いてるのね」
純「憂はどこにするの?」
30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/08(水) 00:12:34.38 ID:D+ZZUN2v0 [9/48]
憂「え? 私?」
純「うん。やっぱN女?」
憂「うーん。でも、あまり気が進まないんだよなー」
純「何で?」
憂「純ちゃんと、一緒じゃなきゃ嫌だもん」
憂は純を、まぁるい瞳で真摯に見つめた。
純「…………………………へ?」
31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/08(水) 00:13:07.34 ID:D+ZZUN2v0 [10/48]
純が動揺する番だった。
憂「冗談」
憂はいたずらな笑みを見せた。
純「あ、ああ、そうだよね……」
冗談だとわかっているのに、どきどきしている自分がいた。
32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/08(水) 00:13:42.68 ID:D+ZZUN2v0 [11/48]
二人はその後、談笑した。
ジャズ研の話。
梓の話。
午後の紅茶は午前に飲んだ方がうまい、と言う話。
温くなったコーヒーを飲み終え、一息ついたころには、もう日付が変わっていた。
憂「あ、もう12:00だ」
33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/08(水) 00:14:22.71 ID:D+ZZUN2v0 [12/48]
純「あ、本当だ。そろそろ帰るね」
憂「――待って」
純「え?」
憂「ほら、夜道は危険だし、今日はうちにとまらない?」
純「…………いいの?」
憂「うん。大丈夫、変なことしないよ!」
純「じゃあ、お言葉に甘えて……」
34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/08(水) 00:15:13.10 ID:D+ZZUN2v0 [13/48]
憂「パジャマとって来るね!」
純「う、うん」
憂「とってきたよ!」
純「はやっ!」
憂「私のなんだけど、合うかな?」
純「……うん、ぴったり!」
憂「よかったぁ!」
35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/08(水) 00:15:55.29 ID:D+ZZUN2v0 [14/48]
純「じゃ、私はどこで寝れば?」
憂「私の部屋?」
純「え、いいの?」
憂「うん」
憂「二人で一つのベッドになるけど、いい?」
純「いい、けど」
憂「よかった! じゃあ、行こうよ!」
憂の手に引かれて、純は半ば強制的に、憂の部屋で寝かせられることになった。
37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/08(水) 00:16:30.41 ID:D+ZZUN2v0 [15/48]
憂部屋
純「そういえば、中学校の修学旅行のときも、こんな風に寝たね」
憂「そうだねー。もう、あれから三年もたってるのかぁ」
純「時間が流れるのは、早いね」
憂「…………うん」
純「ねえ、中学校のときにいた、Hちゃんっておぼえてる?」
憂「あ、うん。お下げの子でしょ」
38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/08(水) 00:17:02.21 ID:D+ZZUN2v0 [16/48]
純「あの子ね、東大目指してるんだって」
憂「へえ! 頭良かったもんね」
純「すごいなぁ。何か、溝みたいなもの感じちゃう」
憂「……そだね」
シングルベッドに、二人で寝るのはすこし窮屈だ。
41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/08(水) 00:17:59.90 ID:D+ZZUN2v0 [17/48]
それでも憂には、心地よかった。
純と……誰かと一緒にいることが、心地よかった。
憂「ふわ~ぁ。純ちゃん、私、眠くなっちゃった。寝るね」
純「うん。お休み」
数分ほどして、憂の寝息が聞こえた。
純はむくり、と起きだした。
憂の顔を覗き込む。
中学生のころから変わらない、でもどこか大人びた顔つき。
42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/08(水) 00:18:43.63 ID:D+ZZUN2v0 [18/48]
純は、憂の頬を触る。
ぴくん、と憂が反応したような気がした。
柔らかくて、あったかくて。
抱きしめたい衝動に、駆られた。
すんでのところで、それをおさえこんだ。
純(………………憂)
43 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/08(水) 00:19:25.72 ID:D+ZZUN2v0 [19/48]
純はそっと、憂の唇に自分のそれを近づける。
重ねる。それは長い長い、一瞬。
感触は頬よりも、柔らかかった。羽毛のように、ふわふわしていた。
そして憂の唇は、すこし甘かった。
唇を離す。憂は起きていないようだ。
純「…………大好きだよ、憂」
その呟きは、誰にも聞こえないけれど。
****************************************
44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/08(水) 00:20:27.36 ID:D+ZZUN2v0 [20/48]
憂が眼を覚ますと、時計の針は九時をさしていた。
憂「……ふぁ~あ」
憂「…………あれ?」
憂(今日って、平日だよね)
憂(なのに九時ってことは…………)
憂(遅刻ううううううううううううううううううううううううう!!)
45 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/08(水) 00:20:58.49 ID:D+ZZUN2v0 [21/48]
憂の傍らにいるはずの純はいない。
代わりに机にメモ用紙。
『あまりに寝顔が可愛かったので、起こしませんでしたー
先に学校行ってくるね 純 』
憂「うう、もう、純ちゃんったら……」
毒づきながらも、許せる気になった。
46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/08(水) 00:21:39.76 ID:D+ZZUN2v0 [22/48]
学校!
数学教師「で、ここにγが――」
ガララッ
憂「すいません! 遅れました!」
数学教師「……珍しいな、平沢が」
憂「すいません……」
羞恥に頬を赤らめながら、憂は自分の席に座る。
47 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/08(水) 00:22:17.44 ID:D+ZZUN2v0 [23/48]
数学教師「じゃ、再開するぞ。それでだ、ここにωを代入して――」
憂は純の方を見やる。
目が合った。
憂(今、目が合ったよね?)
純(わー、ごめーん!)
憂(もう! おかげで遅刻したじゃない!)
純(反省してるよー)
憂(…………もう)
48 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/08(水) 00:22:59.94 ID:D+ZZUN2v0 [24/48]
お昼休み!
梓「今日は何で遅刻したの?」
憂「目覚ましかけ忘れちゃった」
純「憂らしくないねー」
憂「う、うん」
梓「そうだ。純、覚えてる?」
純「な、何?」
梓「けいおん部に新入生来なかったら、入ってくれるんだよね?」
49 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/08(水) 00:23:29.33 ID:D+ZZUN2v0 [25/48]
純「えー、本当に入るの?」
梓「当ったり前じゃない。ただでさえ廃部寸前なんだから」
純「うーん。入ってくるでしょ、きっと」
憂「新歓っていつなの?」
梓「あさって」
憂「何の曲弾くの?」
梓「ごはんはおかず、とふわふわ時間、かな」
50 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/08(水) 00:25:32.82 ID:D+ZZUN2v0 [26/48]
憂「来るといいねー、新入部員」
梓「うん。あ、そういえば、唯先輩の調子はどう?」
憂「うーん、あまり連絡とってないんだ」
梓「そか」
憂「心配?」
51 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/08(水) 00:27:33.76 ID:D+ZZUN2v0 [27/48]
梓「う、ううん! ちょっと気になっただけよ!」
憂(……心配、してくれてるんだなぁ)
純「よかったねー、憂」
憂「な、何が?」
純「心配してくれる人、他にもいてさ」
憂「…………まあ」
梓「わ、私はそんなに心配してないもん!」カァァ
52 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/08(水) 00:28:57.11 ID:D+ZZUN2v0 [28/48]
放課後!
憂「純ちゃん、帰ろ!」
純「ごめん、ジャズ研あるんだ」
純は、また今度ね、と言いながら、ジャズ研部室へ行く。
憂「えー、じゃあ、梓ちゃんは?」
梓「私も部活。今度は一人でやらなきゃいけないからね」
53 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/08(水) 00:30:45.25 ID:D+ZZUN2v0 [29/48]
憂「そっかー……」
梓「ごめんね」
憂「……あ!」
梓「何?」
憂「私も、手伝ってあげる!」
梓「え? 何を?」
憂「新歓ライブ!」
梓「え、でも、憂は部員じゃ……」
憂「じゃあさ、私が部員になるのはどうかな?」
56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/08(水) 00:33:48.14 ID:D+ZZUN2v0 [30/48]
梓「――――へ?」
憂「部員ならいいんでしょ?」
梓「う、うん」
憂「なら、私も部員になるよ」
梓「いいの?」
憂「うん。家に帰っても、暇なだけだし、それに……」
梓「それに?」
憂「……もう、高校生活最後でしょ。だから、今のうちに思いで作っておきたいんだ」
58 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/08(水) 00:34:29.09 ID:D+ZZUN2v0 [31/48]
梓「…………憂」
憂「いいでしょ?」
梓「うん」
憂「ありがとう!」
憂は笑う。つられて、梓も笑みをこぼした。
60 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/08(水) 00:38:26.98 ID:D+ZZUN2v0 [32/48]
音楽室!
憂「先生、今日からよろしくお願いします!」
さわこ「いいけど……急に、何で?」
憂「音楽に目覚めたんです!」
梓「と、言うわけなんで、憂と二人で新歓やります」
さわこ「いいけどねぇ……憂ちゃん、楽器出来るの?」
憂「ギターなら……」
61 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/08(水) 00:39:19.22 ID:D+ZZUN2v0 [33/48]
さわこ「ギターは梓ちゃんがやってるのよ。他は?」
憂「ああ、なら――」
迷った。それ以外に弾ける自信がない。
憂「――ハーモニカ、なんてどうでしょう」
思い切って、言ってみた。未経験で、一度もやったことがない。
律たちがいたら、既視感を感じていたに違いない。
****************************************
63 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/08(水) 00:40:11.62 ID:D+ZZUN2v0 [34/48]
梓「さわこ先生は、職員会議で出て行ったから、二人だけかー」
憂「うん、何か新鮮だね」
梓「だね。じゃあ、早速練習しようか」
憂「わかった!」
憂はハーモニカを吹く。
梓「へえ、なかなか上手いじゃん!」
64 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/08(水) 00:40:43.27 ID:D+ZZUN2v0 [35/48]
憂「ありがと。…………何か、上から目線?」
梓「あ、ごめんごめん。嬉しくなっちゃって」
憂「まあいいや。でも、本当に上手く吹けてる?」
梓「うん! 練習したら、もっと上手くなれると思うよ!」
憂「えへへ、そうかな」
憂は頭をかいた。
梓「じゃあ、次は私の演奏聴いてね」
憂「うん!」
****************************************
65 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/08(水) 00:41:42.56 ID:D+ZZUN2v0 [36/48]
>>62 ほのぼのが好きな俺にそんなこと言われても…
平沢家!
憂(梓ちゃん、凄かったな……)
憂(演奏もプロ並みだし……声も綺麗だし)
憂(梓ちゃんに負けないように、私も頑張んなきゃ!)
憂(でも、ハーモニカなんてどうやったら上手く吹けるのかなぁ)
憂(練習したら上手くなるって言ってたけど、練習の仕方がわからないや)
ピンポーン
憂(…………純ちゃんかな?)
憂は玄関へ向かった。
****************************************
66 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/08(水) 00:42:54.54 ID:D+ZZUN2v0 [37/48]
純が、玄関先にたっていた。
憂「やっぱ、純ちゃんかー」
純「へえ、わかったんだ」
憂「うん」
純「どうしたの? 浮かない顔して」
憂「うん、実はね…………」
憂はけいおん部に入ったことを言った。
67 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/08(水) 00:43:24.75 ID:D+ZZUN2v0 [38/48]
憂「それでね、純ちゃんに聞きたいんだけど……」
純「何?」
憂「……ハーモニカって、どうやって吹くの? 上手にさ」
純「ハーモニカ? 私もあんまやったことないなぁ」
憂「そっか…………」
純「うーん。でもさ、何でハーモニカにしたの? もっとやりやすい楽器あったんじゃない?」
68 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/08(水) 00:44:03.77 ID:D+ZZUN2v0 [39/48]
憂「まあ。じゃあさ、何の楽器がいいかな?」
純「キーボード、とか?」
憂「キーボード、かぁ。うちにはないなぁ」
純「あ、私の家に一個あるよ。やってみる?」
憂「え、いいの?」
純「うん。どうせ、使わないしね」
69 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/08(水) 00:44:35.00 ID:D+ZZUN2v0 [40/48]
純宅
憂「へー。純ちゃんの家って、はじめて来たよ」
純「そうだっけ?」
憂「うん。で、キーボードはどこ?」
純「私の部屋。大抵の楽器は、私の部屋にあるんだ」
憂「へー、すごいな」
純「じゃ、部屋においでよ」
憂「うん!」
71 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/08(水) 00:45:10.00 ID:D+ZZUN2v0 [41/48]
純部屋
憂「へえ、本当だ! キーボードある!」
純「へへー」
憂「弾いてみていい?」
純「うん」
♪ ♪
純「うーん、何か今ひとつ」
72 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/08(水) 00:45:46.78 ID:D+ZZUN2v0 [42/48]
憂「うう、どうしたら…」
純「ほら、こんな風に……」
♪ ♪ ♪ ♪
憂「すごい! 上手」
純「いやー、それほどでもー」
憂「んーと、こうかな?」
♪ ♪ ♪ ♪
純(飲み込み早!)
憂「どう?」
純「うまくなってるよ! じゃあ次は……」
二人の練習が終わったのは、一時間ほど経ってからのことだった。
73 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/08(水) 00:46:23.07 ID:D+ZZUN2v0 [43/48]
鈴木家玄関前
憂「今日はありがと! 純ちゃん!」
純「いやいや、なんの」
憂「なんか、とてもうまくなった気がするよ…」
純「気、じゃなくて、本当にうまくなったよ……」
純(何しろ、私より上手になったもんな)
憂「そうだ! お礼するよ。何か欲しいものある?」
74 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/08(水) 00:47:07.77 ID:D+ZZUN2v0 [44/48]
純(欲しいもの……)
純「キス?」
憂「へ?」
純「わわわ、なんでもない!」
憂「そ、そう?」
憂(いま、キスって言ったよね……)
憂(よし……)
75 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/08(水) 00:47:58.67 ID:D+ZZUN2v0 [45/48]
翌日、放課後!
梓「……で、キーボードにしたの?」
憂「うん。ハーモニカは無理なような気がしてね」
梓「まあ、いいけどね。でも、なんか憂が紬先輩に見えてきた」
憂「紬さんに?」
梓「キーボードが紬先輩ってイメージだから、ね」
梓は遠い目をした。
76 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/08(水) 00:48:46.59 ID:D+ZZUN2v0 [46/48]
憂「ねえ、梓ちゃん」
梓「何?」
憂「寂しい?」
梓「…………ちょっと、ね」
梓「一人で頑張るぞーって、張り切ってたんだけどさ」
梓「こうしてみると、寂しくなっちゃってね」
憂「…………そっか」
梓「まあいいや! とにかく、練習しよ! もう時間もないんだし。明日に迫ってるんだし、新歓!」
憂「そうだね、頑張ろう!」
梓憂「おー!」
77 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/08(水) 00:49:35.22 ID:D+ZZUN2v0 [47/48]
翌日 新歓ライブ――体育館
梓「えーと、軽音部です! 部員は、二名しかいませんが………………」
梓はMCが終わった後、憂と目配せし、演奏を始める。
流れるような旋律が、体育館を包んだ。
小気味いい歌詞が、一年生の鼓膜を震わす。
その音楽は、聴く人の耳を捉えて放さない。
梓「――ありがとうっ!」
梓の科白の一瞬後、怒涛のような拍手が、沸きあがった。
78 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/08(水) 00:52:39.20 ID:D+ZZUN2v0 [48/48]
放課後! 音楽室!
梓「新入生、来るかな?」
憂「……来る、と思うよ。精一杯やったんだし」
梓「だよね。早く、来て欲しいな」
梓の期待にこたえるように、音楽室のドアが開いた。
一年生数名「あの、部活見学に着たんですけど……」
初々しいその態度に、梓は頬を緩める。
梓「――ようこそ、軽音部へ!」
梓の晴れ晴れとした笑顔に、一年生はすこし見とれていた。
****************************************
79 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/08(水) 00:55:08.04 ID:D+ZZUN2v0
純「こんばんわー」
純が憂の家に来たのは、その日の八時のことだ。
憂「あ、純ちゃん。あがってあがってー」
純「お邪魔しまーす」
憂「と、言っても私以外誰もいないけどね」
純「それもそうだね」
憂「今日の新歓、見に来てくれた?」
80 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/08(水) 00:57:41.94 ID:D+ZZUN2v0
純「ごめん。私もジャズ研で忙しくてさ」
純「部員は入ったの?」
憂「まだわからないけどね」
憂「――多分、入ってくれると思うよ」
純「……そっか」
純は何故か、一抹の寂寥を感じていた。
憂「…………純ちゃん?」
82 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/08(水) 00:58:34.17 ID:D+ZZUN2v0
純「……………………」
憂「…………純ちゃん!?」
純「……あ、ごめん、すこしぼーっとしてた」
憂「疲れてるの?」
純「あ、うん。それもあるかもしれないけど――」
憂「けど?」
純「何か、ものかなしいっていうか」
83 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/08(水) 00:59:07.04 ID:D+ZZUN2v0
憂「……もしかして」
純「……何?」
憂「……軽音部、入りたかった?」
純「……まぁね」
純「楽しそうだなーって、思ったし」
憂「そっか」
純「うん」
憂「ねえ、純ちゃん」
純「ん?」
憂「軽音部、入らない?」
84 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/08(水) 01:00:00.28 ID:D+ZZUN2v0
純「……いいの?」
憂「駄目ってことは無いよ」
純「……本当に?」
憂「本当に」
純「本当に本当?」
憂「本当に本当」
純「………………」
憂「………………」
85 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/08(水) 01:00:54.87 ID:D+ZZUN2v0
純「………………かな」
憂「え?」
純「入ってみよう、かな」
憂「本当?」
純「うん。入る。高校三年なんだし、好きなことやりたいしね」
純「それに―――」
純は憂を見つめた。
小悪魔のように、瞳を細めて。
純「憂と、一緒がいいしね」
86 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/08(水) 01:01:54.77 ID:D+ZZUN2v0
それは本音だった。
それが本音だった。
憂はきっと、頬を赤らめて驚くに違いない――そう、高をくくっていた。
しかし、憂は意に反して。
憂「…………私も、一緒がいいな」
純「…………え?」
憂「私も、純ちゃんと一緒がいいな」
87 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/08(水) 01:02:55.80 ID:D+ZZUN2v0
純「…………何かの冗談?」
憂「ううん。冗談じゃないよ。私の本心」
純「…………からかってたり、しないよね」
憂「うん」
憂の瞳には、迷いがなかった。それは、憂の言葉が真実だ、と示唆しているようにも思えた。
純「…………うれしい」
88 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/08(水) 01:03:43.21 ID:D+ZZUN2v0
憂「私もうれしいよ。純ちゃんに、やっと言えたんだもん」
純「この前も、言ってなかった?」
憂「あれは、どんな反応するかなーって」
純「………………」
憂「そういえばさ」
純「なに?」
憂「私にキス、してきたよね」
89 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/08(水) 01:04:23.91 ID:D+ZZUN2v0
純「え、お、起きてたの?」
憂「ほっぺ触ってくれたおかげでね」
純「ご、ごめん! 悪気はなかったの! 衝動に駆られたの!」
憂「うん。だからさ、今回は、お互いの合意を得た上でキスしようよ。無理やり、とか寝込みを見計らって、とかじゃなくて」
純「……え?」
憂「私は純ちゃんとキスしたいな。純ちゃんは?」
憂はきっぱりと言った。
90 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/08(水) 01:04:55.81 ID:D+ZZUN2v0
純「私は――、私も、したい」
言うのはかなり、恥ずかしい。
憂「じゃあ、どっちもキスしたいってことで。しようか」
純「今?」
憂「うん。私は今、キスがしたいな」
純「……うん。わかった」
91 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/08(水) 01:05:36.77 ID:D+ZZUN2v0
憂「じゃあ、はい」
憂は純のところに詰め寄り、そのまま目を閉じた。
純「……え?」
憂「純ちゃんから、私にしてよ」
その科白に、純はつばを飲み込む。
ええいままよ! そう心の中で叫びながら、純はその唇を、憂の唇に触れ合わせる。
92 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/08(水) 01:06:49.17 ID:D+ZZUN2v0
柔らかい肉感。どこか懐かしい、感触。
憂の鼓動が聞こえてきそうなほど、接近している。
甘い味がする。イチゴの味。
純は唇を放す。
憂が目を開ける。
93 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/08(水) 01:07:55.01 ID:D+ZZUN2v0
憂「ねえ、純ちゃん」
純「うん?」
憂「これからも、ずっと一緒にいようね」
大学生になっても、社会人になっても、ずっと――。
憂「一緒にいてくれるよね?」
94 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/08(水) 01:08:54.40 ID:D+ZZUN2v0
純「もちろん」
純「ずっと一緒にいよう」
死ぬまで、ずっと、一緒に……。
純「約束するよ、憂」
躊躇いもなく答えていた。
終わり
95 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/08(水) 01:09:35.29 ID:D+ZZUN2v0
番外編 憂と純と
ある日の学校
憂「ねえ、純ちゃん」
純「なーにー?」
憂「私たち、友達? それとも恋人?」
純「え?」
96 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/08(水) 01:10:11.92 ID:D+ZZUN2v0
憂「どっちなんだろ」
純「えー、えー、えーっと」
憂「恋人かな?」
純「うーん、恋人ってのは何か違う気がする」
憂「じゃあ、何だろ? 友達?」
97 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/08(水) 01:10:51.76 ID:D+ZZUN2v0
純「もっと、親しい関係のような気が……」
憂「あ、じゃあさ、『親友』かな?」
純「あ、しっくりくる」
憂「そっか、まだ親友かぁ」
憂(いつか、恋人って認識されたいなぁ)
98 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/08(水) 01:11:52.38 ID:D+ZZUN2v0
憂(そのためにも、コミュニケーションを……)
純「…ねえ、憂」
憂「へ?」
純「やっぱり、恋人にならない? そっちの方が、いいなーって」
純の科白に、憂は少し驚いた。
99 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/08(水) 01:12:27.40 ID:D+ZZUN2v0
憂「……私でいいの?」
純「うん。むしろ、憂がいいな」
憂「――――嬉しいな」
純「よし、今日から『恋人』ね」
憂「うん。純ちゃん」
純「あのさ、恋人なんだから、呼び捨てにして欲しいなーなんて」
憂「うん、わかったよ、――純」
何だかとても、新鮮で。
純「ありがと、憂」
何となく、お礼を言ってしまった。
終わり
100 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/08(水) 01:13:05.83 ID:D+ZZUN2v0
終わり。
憂「あ、もう、こんな時間。ご飯作ろう」
時計にはP・M6:00と表示されている。
憂はキッチンへと向かった。
憂(お姉ちゃんがいなくても、ちゃんと生活しなきゃ!)
憂(お姉ちゃんに依存してばっかじゃ駄目なんだ!)
憂はご飯を作り終える。
5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/07(火) 23:49:37.19 ID:DBsKX8wY0
そして気づく。
憂(また、二人分作っちゃった……)
憂(…………お姉ちゃんと一緒だったころの癖、抜けてないなぁ)
憂(……残すのももったいないしね。全部食べよ)
憂(…………太っちゃうなぁ。ははは)
憂(このままじゃ、私、おでぶさんになっちゃうよ。お姉ちゃんに会っても、別人って思われるかもなぁ……)
7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/07(火) 23:51:06.02 ID:DBsKX8wY0
憂(ははは……)
憂(……はぁ)
憂(……ううん! だめだめ! お姉ちゃんがいなくなったって、死んだわけじゃないんだ!)
憂(それに、お姉ちゃんに心配かけたくないし!)
憂(笑おう。暗い顔じゃ、お姉ちゃん心配しちゃうよ)
8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/07(火) 23:52:42.49 ID:DBsKX8wY0
憂はリビングに、二人分の料理を持っていった。
憂「いただきます」
ムグムグ ムグムグ ムグムグ 憂「……普通」 ムグムグ
自分の料理を褒めてくれる相手がいないと、モチベーションが下がる。
憂(いつもはお姉ちゃんがいたのに……)
憂は食べ終わると、食器を洗いに、再びキッチンへ向かった。
9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/07(火) 23:54:20.64 ID:DBsKX8wY0
憂「…………お姉ちゃんがいないと、こうも静かなんだなぁ」
憂「…………そうだよね、一人しかいないんだもの」
憂「…………一人って、つらいなぁ」
憂「…………もう、やだな」
皿洗いを終える。
10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/07(火) 23:55:38.16 ID:DBsKX8wY0
リビングへ向かう。
憂「TVでもみよっと」
憂「面白いの、やってないかな」
憂「…………うーん。どれも、つまらなさそうだなぁ」
憂「…………いいや。部屋戻ろう」
憂はTVの電源を消すと、自室へ向かった。
12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/07(火) 23:57:07.86 ID:DBsKX8wY0
憂部屋
憂「勉強でもしようかな」
憂「受験生だしね」
憂「……そっか、もう受験生なんだ」
憂「うん。勉強した方が良いだろうな」
憂「よし、そうしよう」
13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/07(火) 23:59:16.98 ID:DBsKX8wY0
カキカキ カキカキ
憂「……何か、静か過ぎて気味悪いな」
憂「……ラジオでも、つけようかな」
憂は机を離れ、ラジオの電源を入れにいく。
ラジオ『所ジョージのオールナイトニッポンゴールド!』
憂(うん。すこしBGMがあったほうがいいよね)
そのまま机に戻る。
15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/08(水) 00:01:13.31 ID:DBsKX8wY0
カキカキ カキカキ
憂「えーと。ここにλが入ってるから……」
憂「……うん、よし。出来た。答えは……あってる」
憂「………………うん」
憂(…………お姉ちゃん)
16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/08(水) 00:01:46.31 ID:D+ZZUN2v0 [1/48]
憂(今、何やってるんだろうなぁ)
憂(悪い男の人とかと、一緒になってないかな)
憂(彼氏とか、いるのかなぁ)
憂(大丈夫だよね、女子大だもん)
憂(きっと、今頃律さんとかと一緒にわいわいやってるんだろうな)
憂(……………………いいなぁ)
17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/08(水) 00:02:38.81 ID:DBsKX8wY0
そのとき、インターホンの音がした。
憂「あ、今開けまーす」
憂は玄関へと向かった。
憂(こんな時間に誰だろう?)
憂(もしかして……)
玄関の扉を開ける。
――純がいた。
18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/08(水) 00:03:18.60 ID:D+ZZUN2v0 [2/48]
純「やほー、憂」
憂「純ちゃん……どうしたの?」
純「お姉ちゃんと離れ離れになった憂が、しょげていないか心配になっちゃったんだ」
純「いてもたってもいられなくて、来ちゃったよ」
憂「……べつに、大丈夫だよ」
嘘だ。
20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/08(水) 00:03:59.41 ID:DBsKX8wY0
純「またまたー。梓じゃないんだから、強がんなくたっていいんだよ」
でも、すぐにばれた。
憂「強がってなんか、ないもん」
憂は口を尖らせた。
純「本当?」
憂「本当だもん!」
純「でも、泣いてるよ」
21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/08(水) 00:04:57.68 ID:DBsKX8wY0 [13/13]
憂「え?」
純「ほら」
純が憂の目元をぬぐう。
憂「……本当だ」
純「無理しなくて、いいんだよ」
憂「……眼に、ゴミが入っただけだよぅ」
24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/08(水) 00:06:35.97 ID:D+ZZUN2v0 [3/48]
純「はいはい。あがらせてもらっていい?」
憂「いいけど……純ちゃん、お母さんとかになんかいわれない?」
純「両親共働きでね、家には私に小言を言う人はいないんだ」
憂「ふぅん」
純「と、いうわけであがらせてねー」
25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/08(水) 00:07:59.84 ID:D+ZZUN2v0 [4/48]
純は憂の脇をすりぬけ、玄関に入る。靴を脱ぎ、そのままリビングへ。
憂「あ、ちょっと!」
憂は純の後を追いかけた。
不思議と、寂しくなくなった。
純が来てくれたことが、嬉しかった。
26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/08(水) 00:08:44.39 ID:D+ZZUN2v0 [5/48]
****************************************
純「あ、お土産持ってきたんだ。はい、ミスド」
憂「あ、うん。ありがとう」
純「私、ポンデリング食べるから」
憂「うん」
純は、リビングに置かれたテーブルの近くに、ゆっくりと腰を下ろした。
27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/08(水) 00:09:35.39 ID:D+ZZUN2v0 [6/48]
純「いやー、私たちも、もう高三だねー」
憂「うん。早いね」
憂は二人分のコーヒーを運んできた。
純「お、サンキュ」
憂「……そうだ。純ちゃんは、どこの大学に行くの?」
28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/08(水) 00:10:51.05 ID:D+ZZUN2v0 [7/48]
純「私かー。私は……どこでもいいな!」
憂(……純ちゃんらしい答えだな)
純「憂と一緒なら!」
憂「…………………………へ?」
純「なーんて、冗談冗談」
29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/08(水) 00:11:53.21 ID:D+ZZUN2v0 [8/48]
憂「な、な、なーんだ。お、驚かせなないでよ、もぉー」
純「うは。マジにとっちゃった?」
憂「まさか。冗談だっててて、わかってたよ」
純「…………まだ、驚いてるのね」
純「憂はどこにするの?」
30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/08(水) 00:12:34.38 ID:D+ZZUN2v0 [9/48]
憂「え? 私?」
純「うん。やっぱN女?」
憂「うーん。でも、あまり気が進まないんだよなー」
純「何で?」
憂「純ちゃんと、一緒じゃなきゃ嫌だもん」
憂は純を、まぁるい瞳で真摯に見つめた。
純「…………………………へ?」
31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/08(水) 00:13:07.34 ID:D+ZZUN2v0 [10/48]
純が動揺する番だった。
憂「冗談」
憂はいたずらな笑みを見せた。
純「あ、ああ、そうだよね……」
冗談だとわかっているのに、どきどきしている自分がいた。
32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/08(水) 00:13:42.68 ID:D+ZZUN2v0 [11/48]
二人はその後、談笑した。
ジャズ研の話。
梓の話。
午後の紅茶は午前に飲んだ方がうまい、と言う話。
温くなったコーヒーを飲み終え、一息ついたころには、もう日付が変わっていた。
憂「あ、もう12:00だ」
33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/08(水) 00:14:22.71 ID:D+ZZUN2v0 [12/48]
純「あ、本当だ。そろそろ帰るね」
憂「――待って」
純「え?」
憂「ほら、夜道は危険だし、今日はうちにとまらない?」
純「…………いいの?」
憂「うん。大丈夫、変なことしないよ!」
純「じゃあ、お言葉に甘えて……」
34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/08(水) 00:15:13.10 ID:D+ZZUN2v0 [13/48]
憂「パジャマとって来るね!」
純「う、うん」
憂「とってきたよ!」
純「はやっ!」
憂「私のなんだけど、合うかな?」
純「……うん、ぴったり!」
憂「よかったぁ!」
35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/08(水) 00:15:55.29 ID:D+ZZUN2v0 [14/48]
純「じゃ、私はどこで寝れば?」
憂「私の部屋?」
純「え、いいの?」
憂「うん」
憂「二人で一つのベッドになるけど、いい?」
純「いい、けど」
憂「よかった! じゃあ、行こうよ!」
憂の手に引かれて、純は半ば強制的に、憂の部屋で寝かせられることになった。
37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/08(水) 00:16:30.41 ID:D+ZZUN2v0 [15/48]
憂部屋
純「そういえば、中学校の修学旅行のときも、こんな風に寝たね」
憂「そうだねー。もう、あれから三年もたってるのかぁ」
純「時間が流れるのは、早いね」
憂「…………うん」
純「ねえ、中学校のときにいた、Hちゃんっておぼえてる?」
憂「あ、うん。お下げの子でしょ」
38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/08(水) 00:17:02.21 ID:D+ZZUN2v0 [16/48]
純「あの子ね、東大目指してるんだって」
憂「へえ! 頭良かったもんね」
純「すごいなぁ。何か、溝みたいなもの感じちゃう」
憂「……そだね」
シングルベッドに、二人で寝るのはすこし窮屈だ。
41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/08(水) 00:17:59.90 ID:D+ZZUN2v0 [17/48]
それでも憂には、心地よかった。
純と……誰かと一緒にいることが、心地よかった。
憂「ふわ~ぁ。純ちゃん、私、眠くなっちゃった。寝るね」
純「うん。お休み」
数分ほどして、憂の寝息が聞こえた。
純はむくり、と起きだした。
憂の顔を覗き込む。
中学生のころから変わらない、でもどこか大人びた顔つき。
42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/08(水) 00:18:43.63 ID:D+ZZUN2v0 [18/48]
純は、憂の頬を触る。
ぴくん、と憂が反応したような気がした。
柔らかくて、あったかくて。
抱きしめたい衝動に、駆られた。
すんでのところで、それをおさえこんだ。
純(………………憂)
43 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/08(水) 00:19:25.72 ID:D+ZZUN2v0 [19/48]
純はそっと、憂の唇に自分のそれを近づける。
重ねる。それは長い長い、一瞬。
感触は頬よりも、柔らかかった。羽毛のように、ふわふわしていた。
そして憂の唇は、すこし甘かった。
唇を離す。憂は起きていないようだ。
純「…………大好きだよ、憂」
その呟きは、誰にも聞こえないけれど。
****************************************
44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/08(水) 00:20:27.36 ID:D+ZZUN2v0 [20/48]
憂が眼を覚ますと、時計の針は九時をさしていた。
憂「……ふぁ~あ」
憂「…………あれ?」
憂(今日って、平日だよね)
憂(なのに九時ってことは…………)
憂(遅刻ううううううううううううううううううううううううう!!)
45 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/08(水) 00:20:58.49 ID:D+ZZUN2v0 [21/48]
憂の傍らにいるはずの純はいない。
代わりに机にメモ用紙。
『あまりに寝顔が可愛かったので、起こしませんでしたー
先に学校行ってくるね 純 』
憂「うう、もう、純ちゃんったら……」
毒づきながらも、許せる気になった。
46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/08(水) 00:21:39.76 ID:D+ZZUN2v0 [22/48]
学校!
数学教師「で、ここにγが――」
ガララッ
憂「すいません! 遅れました!」
数学教師「……珍しいな、平沢が」
憂「すいません……」
羞恥に頬を赤らめながら、憂は自分の席に座る。
47 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/08(水) 00:22:17.44 ID:D+ZZUN2v0 [23/48]
数学教師「じゃ、再開するぞ。それでだ、ここにωを代入して――」
憂は純の方を見やる。
目が合った。
憂(今、目が合ったよね?)
純(わー、ごめーん!)
憂(もう! おかげで遅刻したじゃない!)
純(反省してるよー)
憂(…………もう)
48 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/08(水) 00:22:59.94 ID:D+ZZUN2v0 [24/48]
お昼休み!
梓「今日は何で遅刻したの?」
憂「目覚ましかけ忘れちゃった」
純「憂らしくないねー」
憂「う、うん」
梓「そうだ。純、覚えてる?」
純「な、何?」
梓「けいおん部に新入生来なかったら、入ってくれるんだよね?」
49 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/08(水) 00:23:29.33 ID:D+ZZUN2v0 [25/48]
純「えー、本当に入るの?」
梓「当ったり前じゃない。ただでさえ廃部寸前なんだから」
純「うーん。入ってくるでしょ、きっと」
憂「新歓っていつなの?」
梓「あさって」
憂「何の曲弾くの?」
梓「ごはんはおかず、とふわふわ時間、かな」
50 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/08(水) 00:25:32.82 ID:D+ZZUN2v0 [26/48]
憂「来るといいねー、新入部員」
梓「うん。あ、そういえば、唯先輩の調子はどう?」
憂「うーん、あまり連絡とってないんだ」
梓「そか」
憂「心配?」
51 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/08(水) 00:27:33.76 ID:D+ZZUN2v0 [27/48]
梓「う、ううん! ちょっと気になっただけよ!」
憂(……心配、してくれてるんだなぁ)
純「よかったねー、憂」
憂「な、何が?」
純「心配してくれる人、他にもいてさ」
憂「…………まあ」
梓「わ、私はそんなに心配してないもん!」カァァ
52 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/08(水) 00:28:57.11 ID:D+ZZUN2v0 [28/48]
放課後!
憂「純ちゃん、帰ろ!」
純「ごめん、ジャズ研あるんだ」
純は、また今度ね、と言いながら、ジャズ研部室へ行く。
憂「えー、じゃあ、梓ちゃんは?」
梓「私も部活。今度は一人でやらなきゃいけないからね」
53 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/08(水) 00:30:45.25 ID:D+ZZUN2v0 [29/48]
憂「そっかー……」
梓「ごめんね」
憂「……あ!」
梓「何?」
憂「私も、手伝ってあげる!」
梓「え? 何を?」
憂「新歓ライブ!」
梓「え、でも、憂は部員じゃ……」
憂「じゃあさ、私が部員になるのはどうかな?」
56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/08(水) 00:33:48.14 ID:D+ZZUN2v0 [30/48]
梓「――――へ?」
憂「部員ならいいんでしょ?」
梓「う、うん」
憂「なら、私も部員になるよ」
梓「いいの?」
憂「うん。家に帰っても、暇なだけだし、それに……」
梓「それに?」
憂「……もう、高校生活最後でしょ。だから、今のうちに思いで作っておきたいんだ」
58 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/08(水) 00:34:29.09 ID:D+ZZUN2v0 [31/48]
梓「…………憂」
憂「いいでしょ?」
梓「うん」
憂「ありがとう!」
憂は笑う。つられて、梓も笑みをこぼした。
60 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/08(水) 00:38:26.98 ID:D+ZZUN2v0 [32/48]
音楽室!
憂「先生、今日からよろしくお願いします!」
さわこ「いいけど……急に、何で?」
憂「音楽に目覚めたんです!」
梓「と、言うわけなんで、憂と二人で新歓やります」
さわこ「いいけどねぇ……憂ちゃん、楽器出来るの?」
憂「ギターなら……」
61 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/08(水) 00:39:19.22 ID:D+ZZUN2v0 [33/48]
さわこ「ギターは梓ちゃんがやってるのよ。他は?」
憂「ああ、なら――」
迷った。それ以外に弾ける自信がない。
憂「――ハーモニカ、なんてどうでしょう」
思い切って、言ってみた。未経験で、一度もやったことがない。
律たちがいたら、既視感を感じていたに違いない。
****************************************
63 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/08(水) 00:40:11.62 ID:D+ZZUN2v0 [34/48]
梓「さわこ先生は、職員会議で出て行ったから、二人だけかー」
憂「うん、何か新鮮だね」
梓「だね。じゃあ、早速練習しようか」
憂「わかった!」
憂はハーモニカを吹く。
梓「へえ、なかなか上手いじゃん!」
64 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/08(水) 00:40:43.27 ID:D+ZZUN2v0 [35/48]
憂「ありがと。…………何か、上から目線?」
梓「あ、ごめんごめん。嬉しくなっちゃって」
憂「まあいいや。でも、本当に上手く吹けてる?」
梓「うん! 練習したら、もっと上手くなれると思うよ!」
憂「えへへ、そうかな」
憂は頭をかいた。
梓「じゃあ、次は私の演奏聴いてね」
憂「うん!」
****************************************
65 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/08(水) 00:41:42.56 ID:D+ZZUN2v0 [36/48]
>>62 ほのぼのが好きな俺にそんなこと言われても…
平沢家!
憂(梓ちゃん、凄かったな……)
憂(演奏もプロ並みだし……声も綺麗だし)
憂(梓ちゃんに負けないように、私も頑張んなきゃ!)
憂(でも、ハーモニカなんてどうやったら上手く吹けるのかなぁ)
憂(練習したら上手くなるって言ってたけど、練習の仕方がわからないや)
ピンポーン
憂(…………純ちゃんかな?)
憂は玄関へ向かった。
****************************************
66 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/08(水) 00:42:54.54 ID:D+ZZUN2v0 [37/48]
純が、玄関先にたっていた。
憂「やっぱ、純ちゃんかー」
純「へえ、わかったんだ」
憂「うん」
純「どうしたの? 浮かない顔して」
憂「うん、実はね…………」
憂はけいおん部に入ったことを言った。
67 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/08(水) 00:43:24.75 ID:D+ZZUN2v0 [38/48]
憂「それでね、純ちゃんに聞きたいんだけど……」
純「何?」
憂「……ハーモニカって、どうやって吹くの? 上手にさ」
純「ハーモニカ? 私もあんまやったことないなぁ」
憂「そっか…………」
純「うーん。でもさ、何でハーモニカにしたの? もっとやりやすい楽器あったんじゃない?」
68 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/08(水) 00:44:03.77 ID:D+ZZUN2v0 [39/48]
憂「まあ。じゃあさ、何の楽器がいいかな?」
純「キーボード、とか?」
憂「キーボード、かぁ。うちにはないなぁ」
純「あ、私の家に一個あるよ。やってみる?」
憂「え、いいの?」
純「うん。どうせ、使わないしね」
69 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/08(水) 00:44:35.00 ID:D+ZZUN2v0 [40/48]
純宅
憂「へー。純ちゃんの家って、はじめて来たよ」
純「そうだっけ?」
憂「うん。で、キーボードはどこ?」
純「私の部屋。大抵の楽器は、私の部屋にあるんだ」
憂「へー、すごいな」
純「じゃ、部屋においでよ」
憂「うん!」
71 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/08(水) 00:45:10.00 ID:D+ZZUN2v0 [41/48]
純部屋
憂「へえ、本当だ! キーボードある!」
純「へへー」
憂「弾いてみていい?」
純「うん」
♪ ♪
純「うーん、何か今ひとつ」
72 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/08(水) 00:45:46.78 ID:D+ZZUN2v0 [42/48]
憂「うう、どうしたら…」
純「ほら、こんな風に……」
♪ ♪ ♪ ♪
憂「すごい! 上手」
純「いやー、それほどでもー」
憂「んーと、こうかな?」
♪ ♪ ♪ ♪
純(飲み込み早!)
憂「どう?」
純「うまくなってるよ! じゃあ次は……」
二人の練習が終わったのは、一時間ほど経ってからのことだった。
73 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/08(水) 00:46:23.07 ID:D+ZZUN2v0 [43/48]
鈴木家玄関前
憂「今日はありがと! 純ちゃん!」
純「いやいや、なんの」
憂「なんか、とてもうまくなった気がするよ…」
純「気、じゃなくて、本当にうまくなったよ……」
純(何しろ、私より上手になったもんな)
憂「そうだ! お礼するよ。何か欲しいものある?」
74 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/08(水) 00:47:07.77 ID:D+ZZUN2v0 [44/48]
純(欲しいもの……)
純「キス?」
憂「へ?」
純「わわわ、なんでもない!」
憂「そ、そう?」
憂(いま、キスって言ったよね……)
憂(よし……)
75 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/08(水) 00:47:58.67 ID:D+ZZUN2v0 [45/48]
翌日、放課後!
梓「……で、キーボードにしたの?」
憂「うん。ハーモニカは無理なような気がしてね」
梓「まあ、いいけどね。でも、なんか憂が紬先輩に見えてきた」
憂「紬さんに?」
梓「キーボードが紬先輩ってイメージだから、ね」
梓は遠い目をした。
76 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/08(水) 00:48:46.59 ID:D+ZZUN2v0 [46/48]
憂「ねえ、梓ちゃん」
梓「何?」
憂「寂しい?」
梓「…………ちょっと、ね」
梓「一人で頑張るぞーって、張り切ってたんだけどさ」
梓「こうしてみると、寂しくなっちゃってね」
憂「…………そっか」
梓「まあいいや! とにかく、練習しよ! もう時間もないんだし。明日に迫ってるんだし、新歓!」
憂「そうだね、頑張ろう!」
梓憂「おー!」
77 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/08(水) 00:49:35.22 ID:D+ZZUN2v0 [47/48]
翌日 新歓ライブ――体育館
梓「えーと、軽音部です! 部員は、二名しかいませんが………………」
梓はMCが終わった後、憂と目配せし、演奏を始める。
流れるような旋律が、体育館を包んだ。
小気味いい歌詞が、一年生の鼓膜を震わす。
その音楽は、聴く人の耳を捉えて放さない。
梓「――ありがとうっ!」
梓の科白の一瞬後、怒涛のような拍手が、沸きあがった。
78 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/08(水) 00:52:39.20 ID:D+ZZUN2v0 [48/48]
放課後! 音楽室!
梓「新入生、来るかな?」
憂「……来る、と思うよ。精一杯やったんだし」
梓「だよね。早く、来て欲しいな」
梓の期待にこたえるように、音楽室のドアが開いた。
一年生数名「あの、部活見学に着たんですけど……」
初々しいその態度に、梓は頬を緩める。
梓「――ようこそ、軽音部へ!」
梓の晴れ晴れとした笑顔に、一年生はすこし見とれていた。
****************************************
79 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/08(水) 00:55:08.04 ID:D+ZZUN2v0
純「こんばんわー」
純が憂の家に来たのは、その日の八時のことだ。
憂「あ、純ちゃん。あがってあがってー」
純「お邪魔しまーす」
憂「と、言っても私以外誰もいないけどね」
純「それもそうだね」
憂「今日の新歓、見に来てくれた?」
80 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/08(水) 00:57:41.94 ID:D+ZZUN2v0
純「ごめん。私もジャズ研で忙しくてさ」
純「部員は入ったの?」
憂「まだわからないけどね」
憂「――多分、入ってくれると思うよ」
純「……そっか」
純は何故か、一抹の寂寥を感じていた。
憂「…………純ちゃん?」
82 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/08(水) 00:58:34.17 ID:D+ZZUN2v0
純「……………………」
憂「…………純ちゃん!?」
純「……あ、ごめん、すこしぼーっとしてた」
憂「疲れてるの?」
純「あ、うん。それもあるかもしれないけど――」
憂「けど?」
純「何か、ものかなしいっていうか」
83 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/08(水) 00:59:07.04 ID:D+ZZUN2v0
憂「……もしかして」
純「……何?」
憂「……軽音部、入りたかった?」
純「……まぁね」
純「楽しそうだなーって、思ったし」
憂「そっか」
純「うん」
憂「ねえ、純ちゃん」
純「ん?」
憂「軽音部、入らない?」
84 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/08(水) 01:00:00.28 ID:D+ZZUN2v0
純「……いいの?」
憂「駄目ってことは無いよ」
純「……本当に?」
憂「本当に」
純「本当に本当?」
憂「本当に本当」
純「………………」
憂「………………」
85 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/08(水) 01:00:54.87 ID:D+ZZUN2v0
純「………………かな」
憂「え?」
純「入ってみよう、かな」
憂「本当?」
純「うん。入る。高校三年なんだし、好きなことやりたいしね」
純「それに―――」
純は憂を見つめた。
小悪魔のように、瞳を細めて。
純「憂と、一緒がいいしね」
86 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/08(水) 01:01:54.77 ID:D+ZZUN2v0
それは本音だった。
それが本音だった。
憂はきっと、頬を赤らめて驚くに違いない――そう、高をくくっていた。
しかし、憂は意に反して。
憂「…………私も、一緒がいいな」
純「…………え?」
憂「私も、純ちゃんと一緒がいいな」
87 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/08(水) 01:02:55.80 ID:D+ZZUN2v0
純「…………何かの冗談?」
憂「ううん。冗談じゃないよ。私の本心」
純「…………からかってたり、しないよね」
憂「うん」
憂の瞳には、迷いがなかった。それは、憂の言葉が真実だ、と示唆しているようにも思えた。
純「…………うれしい」
88 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/08(水) 01:03:43.21 ID:D+ZZUN2v0
憂「私もうれしいよ。純ちゃんに、やっと言えたんだもん」
純「この前も、言ってなかった?」
憂「あれは、どんな反応するかなーって」
純「………………」
憂「そういえばさ」
純「なに?」
憂「私にキス、してきたよね」
89 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/08(水) 01:04:23.91 ID:D+ZZUN2v0
純「え、お、起きてたの?」
憂「ほっぺ触ってくれたおかげでね」
純「ご、ごめん! 悪気はなかったの! 衝動に駆られたの!」
憂「うん。だからさ、今回は、お互いの合意を得た上でキスしようよ。無理やり、とか寝込みを見計らって、とかじゃなくて」
純「……え?」
憂「私は純ちゃんとキスしたいな。純ちゃんは?」
憂はきっぱりと言った。
90 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/08(水) 01:04:55.81 ID:D+ZZUN2v0
純「私は――、私も、したい」
言うのはかなり、恥ずかしい。
憂「じゃあ、どっちもキスしたいってことで。しようか」
純「今?」
憂「うん。私は今、キスがしたいな」
純「……うん。わかった」
91 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/08(水) 01:05:36.77 ID:D+ZZUN2v0
憂「じゃあ、はい」
憂は純のところに詰め寄り、そのまま目を閉じた。
純「……え?」
憂「純ちゃんから、私にしてよ」
その科白に、純はつばを飲み込む。
ええいままよ! そう心の中で叫びながら、純はその唇を、憂の唇に触れ合わせる。
92 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/08(水) 01:06:49.17 ID:D+ZZUN2v0
柔らかい肉感。どこか懐かしい、感触。
憂の鼓動が聞こえてきそうなほど、接近している。
甘い味がする。イチゴの味。
純は唇を放す。
憂が目を開ける。
93 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/08(水) 01:07:55.01 ID:D+ZZUN2v0
憂「ねえ、純ちゃん」
純「うん?」
憂「これからも、ずっと一緒にいようね」
大学生になっても、社会人になっても、ずっと――。
憂「一緒にいてくれるよね?」
94 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/08(水) 01:08:54.40 ID:D+ZZUN2v0
純「もちろん」
純「ずっと一緒にいよう」
死ぬまで、ずっと、一緒に……。
純「約束するよ、憂」
躊躇いもなく答えていた。
終わり
95 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/08(水) 01:09:35.29 ID:D+ZZUN2v0
番外編 憂と純と
ある日の学校
憂「ねえ、純ちゃん」
純「なーにー?」
憂「私たち、友達? それとも恋人?」
純「え?」
96 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/08(水) 01:10:11.92 ID:D+ZZUN2v0
憂「どっちなんだろ」
純「えー、えー、えーっと」
憂「恋人かな?」
純「うーん、恋人ってのは何か違う気がする」
憂「じゃあ、何だろ? 友達?」
97 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/08(水) 01:10:51.76 ID:D+ZZUN2v0
純「もっと、親しい関係のような気が……」
憂「あ、じゃあさ、『親友』かな?」
純「あ、しっくりくる」
憂「そっか、まだ親友かぁ」
憂(いつか、恋人って認識されたいなぁ)
98 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/08(水) 01:11:52.38 ID:D+ZZUN2v0
憂(そのためにも、コミュニケーションを……)
純「…ねえ、憂」
憂「へ?」
純「やっぱり、恋人にならない? そっちの方が、いいなーって」
純の科白に、憂は少し驚いた。
99 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/08(水) 01:12:27.40 ID:D+ZZUN2v0
憂「……私でいいの?」
純「うん。むしろ、憂がいいな」
憂「――――嬉しいな」
純「よし、今日から『恋人』ね」
憂「うん。純ちゃん」
純「あのさ、恋人なんだから、呼び捨てにして欲しいなーなんて」
憂「うん、わかったよ、――純」
何だかとても、新鮮で。
純「ありがと、憂」
何となく、お礼を言ってしまった。
終わり
100 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/08(水) 01:13:05.83 ID:D+ZZUN2v0
終わり。
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