2ntブログ

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

和「唯、また明日ね」

1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/05(金) 21:05:15.57 ID:wEtBu5pMO
唯「347……347……347………あっ、あったぁ!」

和「本当っ!?」

唯「うん。私も合格だね」

和「自分以上に心配したわ…でも、よかった!これで高校も一緒ね」

唯「そうだね」

4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/05(金) 21:06:33.89 ID:wEtBu5pMO
桜が丘高等学校の合格発表

たくさんの人達が自分の番号を探し食い入るように掲示板に視線を送る

番号があれば天国なければ地獄といったところか

「よっしゃー!合格だぜー!」

「嘘…私の番号ない…」

あっちの笑い跳びはねている子は合格
あっちで顔を覆い泣いている子は不合格

結果は聞かなくても誰もが表情を見れば一目で分かるだろう

しかし、私は違った。
合格という結果に素直に喜ぶことができず、もちろん悲しむ事もできずにいた

6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/05(金) 21:08:03.30 ID:wEtBu5pMO
唯「むー…」

和「どうしたのよ?唯らしくないわね、もっと喜んでいいのよ」

唯「やったー……こんな感じ?」

和「なんで私確認するのよ」

唯「えへへ…」

和ちゃんと同じ学校へまた通えるのは確かに嬉しい

だけど今はそれよりもこれで行きたくもない学校に3年間も通わなくてはいけなくなった憂鬱…

そして、もう一つ私の犯した罪のせいで心の底から笑うことができなかった

7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/05(金) 21:09:32.69 ID:wEtBu5pMO
いまひとつ喜べない私をみて和ちゃんが不安そうな顔をする

今は表情だけでも合格を現す笑顔を作っておく
和ちゃんもそれを見て安心したようにに笑ってくれた

和「そうだ!憂ちゃんに報告してあげなさいよ、あの子が1番あんたのこと心配してるだろうし」

唯「そ、そうだね…じゃあ早速」

憂『はいっ!お姉ちゃん!結果どうだったの!?』

唯「電話出るの早いね」

憂『電話くるのずっと待ってたんだもん!それで結果はどうだったの?』

9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/05(金) 21:11:09.17 ID:wEtBu5pMO
唯「合格だよー」

憂『よかったぁ~…』

唯「そんな心配しなくても大丈夫に決まってるよ~」

憂『そうだね……今日はご馳走にするから楽しみにしててね』

唯「わかった」

そういうと電話は切れてしまった

和「憂ちゃんなんだって?」

唯「今日はご馳走にするって~」

和「よかったじゃない」

11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/05(金) 21:13:08.47 ID:wEtBu5pMO
和「それにしても心配しなくても大丈夫に決まってるよ~なんて実は自信あったのね」

唯「まぁ…」

和「試験前は高校なんて行きたくない~って大変だったのに…勉強よく頑張ったわね」

そうだ、私は高校なんて行きたくなかった。あの頃もそして今も勉強なんてしたいと思うことはない

私の意思なんて微塵もない教師と両親に決められた進路

高校へ進学したくなかった私は両親に口うるさく言われながらも試験勉強を拒否したまま寒い冬を越えた

そんな私が高校受験に受かることができたのは全部憂のおかげだった

憂が受験勉強をして私と入れかわって入試を受けてくれた

12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/05(金) 21:14:59.43 ID:wEtBu5pMO
これで受かればお父さんとお母さんに怒られなくて済むね
そう言って憂は笑いかけてくれた

あの時は勉強もせずに高校に受かり親にうるさく言われることもなくなるし、憂も来年受けるから受験勉強も無駄にならない

誰も損をしない名案だと思った

でも違った。受験に落ちて泣く人を見て激しく後悔した
私の個人的な事情のせいで1人の人を悲しませてしまった

私は最も選んでは行けない道を選んだ
そんな自責の念にかられながら私は帰路についた

14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/05(金) 21:16:48.57 ID:wEtBu5pMO
唯「ただいま」

憂「お姉ちゃんおかえり。ご飯はどうする?」

唯「うーん…食欲ないから今日はいいや」

憂「わかった。お腹空いたらいつでも言ってね」

唯「うん」

もちろんご馳走なんてあるハズがない
私も憂もとても盛大に合格を祝おうなんて気分にはなれない

私は自分の部屋へ行き3年間お世話になった制服を脱ぎ部屋着に着替えてベッドに横になった

16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/05(金) 21:18:54.17 ID:wEtBu5pMO
何も考えずただ天井を眺める
こんな時間が永遠に続いてくれればどんなにいいことか

だけど時間は限られていて4月になったらもう今のようにボーッとしていられないだろう

窓を開けると日は既に沈み空は私の心を現しているような深い闇に支配されていた

全てを打ち明ければ、まだ引き返す事ができたのに…
私は非難を免れるために打ち明けることはしなかった

部屋に吹き込む冷たい風のように私も冷たい人間になってしまっていた

17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/05(金) 21:20:28.48 ID:wEtBu5pMO
――――――――――

草木は芽を出し花は開き、春らしい暖かな陽気に包まれた日

今日は入学式だ
鏡の前に立ち桜高の制服を着た自分を眺める

とても似合わないのは当たり前のことだ、私はこの制服に袖を通してはいけない人間なんだから

鏡を見つめ決心する。この3年間しっかりと学校へと通うことを…それが私のできる唯一の罪滅ぼしだと思うから

憂「お姉ちゃーん!和さん迎えにきたよー!」

唯「今いくよー!」

18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/05(金) 21:21:43.99 ID:wEtBu5pMO
唯「お待たせしやした!おはよう和ちゃん」

和「おはよう。さ、初日から遅刻なんか出来ないんだから早く行くわよ」

唯「はーい」

和「ふふ、今日は晴れてよかったわね」

唯「入学式の日が雨なんて嫌だもんね」

和「本当よね」

唯「和ちゃんと同じクラスだといいなー」

和「きっと一緒のクラスだから心配しなくて大丈夫よ」

唯「和ちゃん分かるの?」

和「なんとなくよ」

19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/05(金) 21:24:21.59 ID:wEtBu5pMO
まだ慣れない学校への道を確認しながら歩く
学校が近づくにつれて同じ制服を着た人達がまわりに目立つようになる

入試で不正をした私がみんなと同じ道を歩いている事に違和感を感じた

学校に着くと貼り出されたクラス表にたくさんの人が群がっていた

和「すごい人ね…えーと、私の名前は…あった!2組ね」

唯「あった!私も2組だー」

和「一緒のクラスね、これから1年よろしくね唯」

唯「こちらこそ、よろしくねー和ちゃん」

22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/05(金) 21:26:11.77 ID:wEtBu5pMO
これから自分達が一年間お世話になる教室へと足を踏み入れる

「あっ!和ちゃんに唯ちゃんおはよう」

声をかけてきたのは同じ中学にいた子だった

和「おはよう。高校でも引き続き同じクラスね、よろしく」

唯「おはよ…」

どうしたことか、当たり前のような挨拶が私にはとても気持ちが悪かった
私は自分の席を探し急いで席についた

その様子を和ちゃんは不思議そうに見ていた

24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/05(金) 21:28:00.54 ID:wEtBu5pMO
和「唯どうしたの?あんたあの子と仲悪かったっけ?」

唯「そんな事ないけど…なんか…分かんない」

不快だった。相手がではなく自分が

ここに存在することが許されない自分が当たり前のように挨拶しているのが酷く不快で吐き気がした

和「大丈夫?どこか具合とか悪いの?」

唯「ううん、大丈夫だよぉ」

笑顔で答えたつもりだが、うまく笑えていたか分からない

それからの事は正直よく覚えていない
入学式での事、教室での事、帰り道での事…
気がつけば私はまた自室のベッドの上だった

25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/05(金) 21:30:21.85 ID:wEtBu5pMO
今夜の夕飯はカレーライス。食卓について初めてその香りに気がついた

唯憂「いただきまーす」

カレーを口に運んだ後にライスを口に運ぶ
いつもは美味しい憂の手料理も疲れているからか、今日は味気なく感じた

憂「美味しい?」

唯「うん!美味しいよー!憂は料理の天才だね!」

憂「そう……」

心なしか憂の表情が曇ったような気がした

私が間違ったことを言ったのか、それとも私の気分が沈んでいるからかな?

26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/05(金) 21:31:30.52 ID:wEtBu5pMO
唯「そうだ!あのね、和ちゃんと同じクラスだったんだよー」

憂「あ、そうなんだ!よかったね」

唯「うん!クラスに知ってる人がいないと寂しいからねー助かったよ」

私を学校に入れてくれた憂の前では絶対に暗い表情は見せられないと私は無理をして明るく振る舞って見せると憂は笑ってくれた

そして最後まで味気なかったカレーを食べ終わるとその日は早々に眠りについた

28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/05(金) 21:38:41.00 ID:wEtBu5pMO
――――――――――

それから2週間辛い日々が続いた

学校で授業、休み時間を普通に過ごしてることに罪悪感を感じ

クラスメートと交わす挨拶や何気ない優しい言葉が鋭い刃となって今の私の心に突き刺さる

あまりの辛さに私は授業を抜け出し屋上へと来ていた

唯「ここはどこなんだろう?」

私は青く晴れた空に問い掛けると涙が零れた

何の変哲もない日常が私には地獄のようでまるで生きた心地がしなかった

唯(ここから飛び降りれば楽になれるんだよね…)

29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/05(金) 21:40:03.42 ID:wEtBu5pMO
そう思った時、後ろから私を呼ぶ声がした

和「こんな所にいたのね、いないから捜したのよ」

唯「あ…」

和「なんか悩みでもあるの?」

唯「和ちゃん……」

和「どうしたの?暗い顔して唯らしくないわよ、ほら悩みがあるならなんでも言ってみなさい」

そんな和ちゃんの優しさも今は痛かった…その優しさは本当の私に向けられた言葉じゃないから

でも、少し温かかった気がした

30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/05(金) 21:42:08.33 ID:wEtBu5pMO
和ちゃんはなんだか太陽みたいだった
授業を抜けてまで暗く沈む私を捜して照らしてくれる

唯「こんな私でも学校に来ることを許してくれる?」

和「何言ってるのよ、いいに決まってるじゃない」

唯「そう…だよね」

和「そうよ、唯が学校来ちゃいけない理由なんてある訳ないでしょ?」

そうなんだ、今の私は学校に来ていいんだ
嘘の私だってこのまま突き通せば本当の私になる

そう思えば今は辛い学校も時間がたてば慣れて楽しくなるかもしれないし
そして、なにより和ちゃんともっと一緒にいたかった

31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/05(金) 21:44:02.71 ID:wEtBu5pMO
その日は和ちゃんと2人一緒に帰ることにした

学校を出て校門の辺りまで来る

すると前の方から1人の女子生徒が風のようにこちらへ走ってきた

律「うおーっ!確保ぉっ!」

唯「へっ?なになに?」

律「もうちまちまビラ配りなんてやってらんないぜ!あなたこの時間に下校してるって事は部活入ってないよね?」

唯「え、えぇ…」

律「軽音部に入りませんか?未経験者大歓迎で今なら毎日お菓子付きで…いだぁっ!」

突然飛んできた裏拳がカチューシャの子の顔をとらえた

澪「強引に勧誘するな」

33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/05(金) 21:45:49.26 ID:wEtBu5pMO
紬「りっちゃん大丈夫?」

澪「ごめんな、強引な勧誘して…4月のうちにあと1人入らないと廃部だから焦っててさ。よかったらこれ」

そう言って黒髪の女の子はビラを渡すとほかの2人とまたビラ配りへと戻って行った

和「なんだったのかしら…」

唯「なんか一瞬の出来事で圧倒されちゃったね」

和「軽音部って言ってたわね」

唯「うん、私だけじゃなくて和ちゃんも勧誘すればいいのにね」

和「そうね」

34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/05(金) 21:48:33.67 ID:wEtBu5pMO
帰り道いつものように会話がすることはできなかったが、和ちゃんは黙って隣を歩いてくれた

別れ道まで来る。私は右へ、和ちゃんは真っすぐ行く

もっと一緒にいたくて立ち止まっている私に和ちゃんは一言こう言ってくれた

和「唯、また明日ね」

また明日。

それは私がまた明日も今のまま生きていていていいという免罪符だった

唯「うん、また明日ね」

そう言うと安心して歩き出すことができた

36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/05(金) 21:50:00.78 ID:wEtBu5pMO
――――――――――

私は部屋で下校時に渡された軽音部のビラと睨めっこしていた

何か運命めいたものを感じたからだ
これから学校に馴染むためには部活に入るのもいいことだろう

未経験者歓迎と言っていたし私が入れば廃部を避けることができる

唯「軽音部入ってみようかな」

入部届を取り出し軽音部と記入する

唯「これは過去の自分を忘れて新しい私になるためのパスポート」

綺麗に四つ折にした入部届を大切に鞄にしまい就寝した

38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/05(金) 21:52:09.18 ID:wEtBu5pMO
ピピピッピピピッ…

目覚まし時計の甲高い音で目を覚ます
最近までのような朝の憂鬱はない。これも和ちゃんのおかげかな

カーテンを開けるといっぱいの朝陽が差し込んできた
それを見ると理由も分からず涙が流れる
もう毎朝の事だ。太陽の光を見るとなぜか涙が溢れてくる

・・・

登校時。ただ1つだけ信号のある十字路
入学した時からこの信号で足を止めなかった事はない

私を学校へ行かせないとばかりに毎朝足止めをしてくる
いつかこの十字路で足を止めなずに歩ける日が来るだろうか

と思いながら歩みを止めていた

40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/05(金) 21:57:30.33 ID:wEtBu5pMO
教室に着くと先にきていた和ちゃんのもとへ行き宣誓した

唯「軽音部ってとこに入ってみようと思います」

和「部活入るの?めずらしいわね、唯が自主的に行動するなんて」

唯「学校に慣れるためにね、部活に参加するのは大事だと思ってね。だから放課後は音楽室へゴーします」

和「私はついていけないからね、1人で頑張るのよ唯」

唯「そんなの分かってるよーついてきて欲しくて言ったんじゃないもん」

41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/05(金) 21:59:34.53 ID:wEtBu5pMO
終業のチャイムが鳴り響く

今日の学校はそれほど辛くはなかった。
今の自分を私が受け入れたからか

学校が終わるとすぐに音楽室へと向かい軽音部に入部届を出した

律「ありがとうーっ!入部届は確かに受けとったよ!私は部長の田井中律。よろしくな」

澪「私は秋山澪。よろしく」

紬「琴吹紬です。よろしくお願いします」

・・・

部活に入ってから楽しい日々が続いた
みんなの協力でギターを買い私はギターの練習に熱中した

上達のためではなく以前の自分を忘れるために

42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/05(金) 22:00:42.62 ID:wEtBu5pMO
ある日の下校時

唯「今日もムギちゃんのお菓子美味しかったね~」

律「明日も楽しみだな」

唯「でもこんなに毎日ただでお菓子もらっていいの?」

紬「ええ、どうせ余らせてるもの。それに美味しそうに食べてくれると持ってくる方としても嬉しいわ」

澪「まったく食べてばっかりで…私達は軽音部って事を忘れるなよ」

律「分かってるよー」

唯「私は家でしっかり練習してるもん」

43 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/05(金) 22:01:55.42 ID:wEtBu5pMO
律「確かに頑張ってるみたいだなーすごい早さでギター上達していってるし、どれくらい練習してるんだ?」

唯「家にいる時は暇ならいつも弾いてるよー」

律「ほーすごいなー」

澪「これなら文化祭でいいライブができそうだな」

文化祭でのライブを想像を話しながら4人横に広がり歩き十字路へと出る

紬「あ、私こっちなんで」

律「おう、またなムギー」

澪「じゃ私と律はあっちだからまたな唯」

唯「うん!みんなまた明日ねー!」

44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/05(金) 22:03:30.73 ID:wEtBu5pMO
また明日か…

私は携帯電話を取り出し和ちゃんにメールする。
今日あった出来事を話して最後にまた明日とつけ送信する

あの日からの日課になっていた

辛かった学校での生活にも慣れた
今ではクラスでも部活でも楽しく過ごす事ができている

しかし、これは偽者の私

十字路の真ん中に立ち夕日に照らされて私の足元に大きく伸びた真っ黒な影
真っ黒な闇に染まったこの姿がみんなに隠している本当の私なんだ

携帯電話がメールを受信する
和ちゃんからのまた明日と書かれたメールを確認すると私は帰路についた

46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/05(金) 22:05:19.74 ID:wEtBu5pMO
――――――――――

季節はすっかり夏になり、私はもう新しい自分に変われていた
変わらないことと言えば朝陽を見るとなぜか泣けてくることくらいだ

今日は軽音部の合宿で海に行くので水着を買いに和ちゃんと買い物に来ていた

和「ていうか、なんで水着なの?」

唯「海に行くからだよ~」

和「そうじゃなくて合宿に行くんだから練習するんじゃないの?」

唯「練習もちゃんとするよ~でも遊ぶのがやっぱり1番楽しみだよね」

47 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/05(金) 22:07:03.42 ID:wEtBu5pMO
和「まったく…あの律が部長じゃね、そんな風にもなるわね」

唯「あれ?和ちゃんってりっちゃんと友達だったの?」

和「え?あ、あぁこの前学校でちょっと話す機会があったのよ」

唯「そうだったんだ、知らなかったー!りっちゃんおもしろいよね」

和「ちょっといい加減なとこがあるけどね。あっ、唯プリクラ撮ろうよ」

唯「うん!いいねー撮ろう撮ろう」

48 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/05(金) 22:09:30.96 ID:wEtBu5pMO
ゲームセンターの中にあるプリクラ機で撮り出てきたプリクラには楽しそうに笑う私と和ちゃんが写っている

しかし私は自分の笑顔に違和感を感じた
笑ってはいるが、本当に心の底から笑えていない作られた笑顔

私はいつもこんな顔で笑っていたのか?
そう思うと途端に気分が悪くなった

・・・

その後、水着を見に行ったが買うことはなかった

初めて桜高の制服を着た時と同じようにどんな水着も私には似合わないと思ったからだ

私は変われたと思っていたが、まったくそんな事はなかった

49 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/05(金) 22:16:18.25 ID:wEtBu5pMO
――――――――――

合宿当日
場所は予想を遥かに超える大きさのムギちゃん別荘

私が遊ばず練習をしようと提案するとみんなは驚いていた

ムギちゃんとりっちゃんはつまらなそうな顔をしていたが、文化祭ライブも近いということで仕方がなく遊ぶのを我慢し練習をした

何度か演奏を合わせたがみんなが満足することはできなかった

律「うーん…なんか足りないんだよなぁ」

澪「確実にみんな上手くなってるんだけどな」

紬「私お茶を入れてくるから少し休憩にしましょう」

律「そうだな」

50 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/05(金) 22:17:23.46 ID:wEtBu5pMO
何が足りないのか私には分かっていた
みんながバラバラなのだ。いや正確には私だけが外れているのだ

みんなと一緒に演奏しているのに私だけが輪の外にいる
それは当然の事だ。罪を犯してこの場所にいる私がみんなと一つになれる訳がなかった

練習後、外に出てみんなでバーベキューをした

律「肉だぞ肉ー!さあ食え食え!」

唯「おいしい!」

澪「野菜も美味しいぞ!」

紬「食材は家の方で勝手に揃えたけど、みんなのお口にあったみたいでよかったわ」

51 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/05(金) 22:19:20.60 ID:wEtBu5pMO
澪「ムギが用意したって事は相当の高級食材なんだな」

律「やっぱり高級品は違うぜ」

唯「やっぱり生産地直送みたいな感じなの?」

紬「ううん、近所スーパーの安売りしてたのを買ってきたの」

律「やっぱりそうか~馴れ親しんだ味だからそうだろうと思ったよ」

澪「おい」

唯「真実を知らずムギちゃんが買ってきたってだけならプラシーボ効果的なので高級に感じたのに…」

紬「ふふ、ごめんね」

52 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/05(金) 22:21:06.23 ID:wEtBu5pMO
律「よーし、花火をするぞー」

紬「用意してありまーす」

律「よーし四尺玉でもなんでもこいムギ!ガンガン打ち上げてやるぜー」

紬「手持ち花火です」

唯「すごい可愛いねー」

澪「あっ、これ火花の色変わったりするんだ」

唯「こっちのはパチパチ音がするよー」

律「…」

紬「りっちゃん花火やらないの?」

律「こうなったら全力で手持ち花火やってやるー」

53 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/05(金) 22:23:53.79 ID:wEtBu5pMO
花火の後はみんなで大きなお風呂に入った

律「うー…」

唯「ほー…」

澪「人の胸をジロジロと見るな!」

律「なんでこんなに差がついた…」

唯「りっちゃんが揉むからとか」

律「私のおかげか!感謝しろよ澪」

澪「するもんか」

それから私達は大きなお風呂で泳いで遊んだりみんなで身体を洗いあったりした

みんなと一緒に遊ぶと私も笑うことができたが、心の中はどこか悲しかった

55 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/05(金) 22:26:04.82 ID:wEtBu5pMO
・・・

まだ外は暗い時間に私は目が覚めた
みんなは疲れたようでぐっすりと眠っていた

もう一度寝ようとするが、なかなか寝付けない
次第に自分だけ起きている事でまた疎外感を感じ始めた
少し気分転換に外を歩こうと別荘を出る

空はまだ夜明け前で今の私のように真っ黒で辺りも闇に包まれていた

私は浜辺に座り生きている実感がまるでなかった半年を振り返りながら日の出を待った

56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/05(金) 22:27:43.61 ID:wEtBu5pMO
どれだけの時が流れたか徐々に空の黒は薄れていき太陽が顔を見せる

それを見て私は涙を流す…
太陽の光で辺りの闇は消え去っていた

しかし、私だけはまだ真っ黒な闇のままだった
その時やっと自分が泣いている理由が分かった

私はこの半年間を太陽のように明るい和ちゃんや軽音部のみんなと一緒にいたいから生きてきた

でも本当はそうじゃなくて私はみんなのようになりたかったんだ

58 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/05(金) 22:29:14.76 ID:wEtBu5pMO
太陽に照らされる事で明るくなれる夜空ではなくて
夜空を照らす太陽になりたかったんだ

みんなの笑顔に囲まれて笑顔になるんじゃなくて
私の笑顔でみんなを笑顔にしてあげられる

そんな人に私はなりたかった

そんなことをいつも心のどこかで思っていたから太陽を見るたびに涙が溢れていたんだと気付いた

私は自分のなりたかったのとは逆の人間なってしまったから、みんなといるのが楽しくてもどこか悲しかったんだ

59 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/05(金) 22:30:33.87 ID:wEtBu5pMO
こんな闇に染まってしまった私が太陽になりたいなんて願いは叶わないのか

いや、そんな事はないと思った
大事なことに気付いた私なら戻れると思ったから

私は決めた
迷惑をかけた憂に謝り、私を支えてくれたみんなに感謝して

文化祭のライブの日に半年間両手に握り隠し続けた罪を全て打ち明け
罰を受けて全部終わらせようと

60 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/05(金) 22:31:44.45 ID:wEtBu5pMO
――――――――――

文化祭当日。

講堂ステージ裏でライブを目前にしてみんな緊張していた

その中で私だけはみんなとは違うことで緊張していた

澪「人いっぱい入ってるな…」

律「そりゃ学校外からも人がくるからな」

紬「すごいドキドキするわ」

唯「………みんなありがとうね」

律「なんだよ急に」

唯「いや、みんながいなかったら私はこの場にいなかった訳だし」

紬「それは私達も一緒よ」

唯「え?」

62 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/05(金) 22:33:21.59 ID:wEtBu5pMO
澪「そうだぞ、唯がいなかったら軽音部は廃部になってたかもしれないんだからな。ありがとう」

律「だから私達もお前に感謝してるよ。ありがとうな」

紬「唯ちゃんがいたからみんな楽しく笑顔で軽音部でいられるのよ、ありがとう」

唯「みんな…うぅ…」

律「おい泣くなよ、これから出番なんだぞ」

嬉しかった、こんな私がみんなの力になれてたと知って

和「軽音部出番よ」

唯「うん、和ちゃんもありがとう」

最後に和ちゃんにも感謝をすると幕が開いた

唯「皆さんこんにちは!軽音部です!きいてください!ふわふわ時間!」

63 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/05(金) 22:35:18.18 ID:wEtBu5pMO
・・・

ライブは決して褒められたものではなかった
やはり私だけはみんなと一つになる事はできなかった

ライブを終えみんなステージからはける中
私はステージのセンターに残った

和「唯…?何してるの?」

澪「唯…?」

紬「唯ちゃん?」

律「どうしたんだ?あいつ」

ステージ脇でみんなが不思議そうに私を見ている

唯「聞いてください。私は今日打ち明けなければいけないことがあります」

唯「実は私はとても悪い事をしました」

唯「それを私は今まで隠し続けていました」

64 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/05(金) 22:36:18.90 ID:wEtBu5pMO
講堂内の人達が「えっ?」「なに?」と騒がしくなる

唯「私は罪悪感を感じながらも罪を隠して桜高学生として生活してきました」

唯「桜高のみんなに憧れて、罪を隠し忘れてしまえば私は新しい私に変われるんじゃないか。本当の桜高生としてみんなと一緒にいれるんじゃないかって思った」

唯「だけど、それは違った。私が望んだのはそんな事じゃなかった」

唯「私の本当の望みはみんなといる事じゃなくてみんなのようになる事」

65 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/05(金) 22:38:22.95 ID:wEtBu5pMO
唯「罪を隠してては絶対にみんなのようにはなれない。だから私は今日全てを打ち明けます」

唯「私は入試の時に不正行為をしてこの学校に受かりました!」

衝撃的だったのか、講堂内は静寂に包まれた……が、しばらくすると講堂内から次々と声があがる

私に向けられて講堂内の人達からはっせられた非難の声

そして叫ばれる思いやりのない言葉や罵声

しかし、それらは全て正しい言葉だった

66 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/05(金) 22:40:17.33 ID:wEtBu5pMO
普通なら心が傷つくような言葉が今の私には半年ぶりに生きているということ実感できる暖かな言葉だった

駆け付けた教師にステージから降ろされ講堂の外へ連れていかれる

和ちゃんが私に何かを叫んでいたが聞き取ることは出来なかった

外に出ると空は晴れ太陽が輝いていた

太陽を見上げる私の目からもう涙は流れない

だから笑ってみせた
どれだけ久しぶりだろうか、心の底から笑えたのは……


終わり

69 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/03/05(金) 22:42:40.09 ID:wEtBu5pMO
終わりです
完全に自己満SSで楽しさのないものですまん

最後まで読んでくれた人ありがとう

コメント

コメントの投稿

トラックバック


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)