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ホロ「ぬしよ」

1 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/06/02(水) 17:18:33.42 ID:8yLxKVM0 [1/66]
ホロ「この状況、いかように考えておる」

ロレンス「お前からそういう言葉を聞くのは久しいな」

ホロ「たわけ、今は遊んでる場合でない」

余裕があるとは言っていないが、囲まれている人数は7人だ。

ホロ「なんとかなる、と?」

ロレンス「心を読むな」

ホロ「読んでほしそうじゃったからの」

2 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/06/02(水) 17:19:37.79 ID:8yLxKVM0
ホロ「しかしいきなり襲い掛かってくるとは、よっぽど警戒されてるの」

ロレンス「うさんくさい儲け話だったんだ、これくらいは覚悟してるさ」

ホロ「錬金術士というのはこれほど血気盛んなものなのかや?」

錬金術士「粉を返せ」

ロレンス「なに?」

錬金術士「お前たちが持っているのは知っている!」

ホロ「くふ。まるで勇猛な騎士じゃな」

3 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/06/02(水) 17:21:35.84 ID:8yLxKVM0
ロレンス「どうやらあたりらしい。【銀色の粉】、の噂はな」

ホロ「欲をかくのはこの場を切り抜けてからにしてほしいの」

ロレンス「商人なんだ、欲だけは四六時中かいてるさ」

ホロ「一流の商人ならば、まずは目の前の困難を克服する手だてを考えるべきだといっておる」

やれやれといった表情でホロが首元の麦に手をのばした。

ホロ「こやつらの前ならば平気じゃろ」

ロレンス「助かるよ」

4 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/06/02(水) 17:22:34.76 ID:8yLxKVM0
狼となったホロが走り抜けるその様は、いつみても圧巻だったが、町外れとはいえ路地で見るのは初めてだった。

ロレンス「あの焦り様、間違いなくこの粉は本物だ」

ホロ『やつらをまいたら、いったん別れたほうがよさそうじゃの』

ロレンス「夜に、宿で落ち合おう」

昔なら考えられないようなやりとりだ。



-狼と銀色の粉-

駄文ですが、よろしければお付き合いください。

5 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/06/02(水) 17:23:50.67 ID:8yLxKVM0
夜になり、宿に戻ると、先にホロのほうがベッドにいた。

ロレンス「すまない、少し酒場で話していて」

ホロ「雄を待つのは雌のつとめとは言うが」

ロレンス「?」

ホロ「退屈させぬのは雄のつとめ、なんじゃろうなあ、ぬし様よ」

ロレンス「悪かった」

ホロ「よい。退屈した雌には、より良き雄を選ぶ権利があるからの」

ロレンス「悪かったよ・・・」

6 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/06/02(水) 17:24:59.58 ID:8yLxKVM0
向かい合わせになっているベッドに腰を下ろす。
俺たち二人の間では馴染みのある光景だ。

ロレンス「まず、状況を整理しよう」

ホロ「わっちにも、誰かさんにもわかりやすいようにしてくりゃれ」

ロレンス「誰かさん?」

ホロ「なんでもありんせん」

7 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/06/02(水) 17:26:50.75 ID:8yLxKVM0
ロレンス「辺境の村で俺たちはあるうわさを聞いた」

ホロ「銀色の粉、じゃな」

ロレンス「そうだ。どのような難病に伏した患者でも、たちどころに回復させるという魔法の粉。調べてみると、どうやらこの町からうわさが広まってるらしい」

ホロ「やれやれ、最初に聞いたときはたいそう訝しげな面をしとったくせに、いざ眼前にかまえてみると、これじゃ。敵わぬ」



8 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/06/02(水) 17:28:11.59 ID:8yLxKVM0
ロレンス「本当に最初は町に寄るついでだったんだ。それに、取引についても、効果を実践してからと念を押して仕入れた。薬に関しては根も葉もないような嘘がよく出回るからな」

ホロ「ぬしよ、話が飛んでおる」

ロレンス「ああ、そうだった」

ホロ「焦らずとも夜は長い」

ロレンス「だな」

9 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/06/02(水) 17:32:52.12 ID:8yLxKVM0
ロレンス「たまたま懇意になった酒場の店主から、噂の源泉として紹介された先が錬金術士の塒だったのは意外だったな」

ホロ「彼奴らは魔術のようなものを研究しておるのじゃろ?」

ロレンス「いや、実際にはそういう人間はごく少数らしい。お前が好きな、『燃えるぶどう酒』も元は彼らの成果から生まれたものだ」

ホロ「ほおう、わっちからすると敬意を払うべき存在じゃな」

ロレンス「ありがたみが伝わったか?」

ホロ「うむ、ありがたく、これからも恩恵を受けることとしよう」

ロレンス「・・・・」

10 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/06/02(水) 17:38:05.89 ID:8yLxKVM0
ロレンス「さて、何を試していたかは知らないが、彼らのやっていることで生まれたものがあることは事実だ。かといって、世間的に疎まれていないかといえばそれも違う。俺一人ならよっぽどのことがない限りそんな場所には行かないが、俺たち二人なら話は別だ」

ホロ「なかなか聡い物言いじゃが、実際はわっちに甘えただけじゃろ」

ロレンス「・・・認めるよ。まさか本当にあんなことになるとは思わなかった」

ホロ「その割にはあせってなかったの」

ロレンス「お前を信用してるからな」

11 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/06/02(水) 17:40:15.47 ID:8yLxKVM0
ホロ「言葉は便利で、同時に難しいものでありんす。信用と信頼は別物じゃ」

ロレンス「もちろん、信頼もしている」

ホロ「くふ、じゃがわっちを用いたのは事実じゃ」

ロレンス「ホロ、話が進まないんだが」

ホロ「おっとすまぬ、ぬしを『信用』しておるから、つい」

ロレンス「お前な・・・」

ホロ「続けてみよ」


12 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/06/02(水) 17:45:21.37 ID:8yLxKVM0
ロレンス「紹介された錬金術士から手渡されたのがこの粉。最初はただの塩か砂糖と思ったが」

ホロ「ふむ」

ロレンス「この町で塩を仕入れるのは大変な苦労なんだ。もしこの粉が本物だったときの値段と、この町で仕入れる塩の値段とを照らし合わせても、向こうにとっては損が出る。前に話したとおり」

ホロ「海から離れれば離れるほど、価値があがり、最後には宝石のような、とかいうくだりかや?」

ロレンス「その通り。また、砂糖だのなんだの、訳のわからない粉だったとしたら、お前の耳で見抜けるはず。だいいち、こういった代物の最初の価値はきわめて低いんだ。効果が実践され、人々から認められてこそ、はじめて価値があがる」


13 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/06/02(水) 17:47:11.92 ID:8yLxKVM0
ロレンス「あの錬金術士がいってたこと、覚えてるか?」

ホロ「侮るでない。たしか・・・こうじゃろ。

『製法については我々しか預かり知らないもので、かつその価値が明らかなら、あとはどうやってそれを世に広めるか。残念ながら我々という存在は、外界からはきわめて疎まれる存在であるゆえ、価値あるものを市場に広める手段がない。ならば、外界において信頼できる人間に、信頼できる人間を選ばせ、この価値を広める手段とするのが道理』、

じゃったか。賢そうな雌じゃったのう」

ロレンス「お前がいうと厭味に聞こえるのはなんでだろうな」

ホロ「ぬしがわっちの能力を認めておる証拠じゃ」

14 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/06/02(水) 17:49:41.91 ID:8yLxKVM0
ロレンス「ちょうどあの酒場の主人がその信頼できる人間、だったわけだ。酒場という場所も納得できる。酒場で儲け話にありつくのは商人だけだし、価値あるものを広められるのも商人だけだ」

ホロ「その中で選ばれたぬしもまた、信頼できる人間、ということじゃな?ふむ、ぬしよりは言葉を選べているようじゃ」

ロレンス「そういうお前は言葉を選びすぎなんだよ」

ホロ「ほう、では言葉ではなく、別のものを選ぶとしよう。良き雄、とかの」

ロレンス「・・・雌の特権か」

ホロ「うむ」

15 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/06/02(水) 17:51:42.84 ID:8yLxKVM0
ロレンス「動機についても、損得勘定についても、取り扱ってみる価値はある。おそらく金銭的な面での被害はないだろう。ただその上でも、うさんくさい雰囲気は最後までぬぐえなかったがな」

ホロ「ぬしが一番ひっかかっておる部分をあててやろう」

ロレンス「うん?」

ホロ「あの粉を出されたとき、結晶を舐めて確かめようとしたぬしを、あの錬金術士は止めていた。たしか、『健康な人間にとっての薬は毒以外の何モノでもない』、とかなんとかいっての。そこじゃろ?」

ロレンス「ああ。正直、本当にただの毒薬なんじゃないかとも思ったりはした」

ホロ「くふ、わっちの耳で判断できように」

ロレンス「まあ、それは商人としては反則技なんだけどな」

16 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/06/02(水) 17:53:03.42 ID:8yLxKVM0
ロレンス「しかしよくよく考えれば、もしも毒ならばうわさになる方がおかしい。火のないところに噂は立たないようにな。この粉に効用があるかどうかはわからないが、よもや害があるならば、俺のような人間はあの女のところにたどり着けないはずだ」

ホロ「たしかに、悪評と好評は相容れぬ。たつのはどちらか一方じゃ」

ロレンス「それに加えてあの襲撃だ。おそらく錬金術士の間で何かしらの協定が結ばれていたに違いない。これも噂の真偽を裏付けている」

ホロ「あの女と共犯という可能性はないのかや?」

ロレンス「まずないだろう。預かったのは少量だ、相手側のメリットがない」

17 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/06/02(水) 17:53:53.64 ID:8yLxKVM0
ホロ「そう思わせるのが目的だったとしたら?」

ロレンス「ほう、お前も、考え方が商人のそれになってきたな」

ホロ「ぬしのせいじゃ、たわけ」

ロレンス「ハハ、仮にそうだとしても」

ホロ「相手方が取引を要求するという根拠を裏付けるだけ、じゃろ?」

ロレンス「・・・まあ、そんなところだ」

ホロ「くふ、商人とは負けず嫌いな生き物で可愛いらしいの」

18 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/06/02(水) 17:54:29.59 ID:8yLxKVM0
ロレンス「とにかく、以上の情報から、俺としては前向きに検討するつもりだ。前向きというのは、つまり」

ホロ「儲け話として扱う、ということじゃな?」

ロレンス「そのとおりだ。それに、いくら頭を回したところで、情報のない品物を扱う上でリスクはつきものだ。商人にとってのリスクというのはつまり、金銭の損失を意味する。この場合、儲けることはあっても失うものはないからな」

ホロ「ま、理屈は通っておる」

ロレンス「何か言いたいのか?」

19 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/06/02(水) 17:55:12.06 ID:8yLxKVM0
ホロ「まず、ぬしはひとつ見落としておる」

ロレンス「?どこにだ?」

ホロ「なんと、気づいておらんのかや?なるほど、こういうこともあるんじゃの」

ロレンス「含んだ物言いはやめてくれ」

ホロ「ぬしのプライドをこれ以上傷つけてしまっては困りんす」

ロレンス「お前な」

ホロ「怒るでない。仕方ないの」

20 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/06/02(水) 17:56:12.84 ID:8yLxKVM0
ホロ「ときにぬし様よ、商人にとって大切なこととはなんじゃ?」

ロレンス「お、お前な、いくらなんでも馬鹿にしすぎだぞ!」

ホロ「言ってみよ」

ロレンス「・・・多々あるが、そうだな、契約を守る、取引先との関係を大事に・・・・・・あ」

ホロ「気づいたかや?」

ロレンス「お前、最初からこれを言わせる気で・・・」

ホロ「くふ。はて?なんのことやらわかりんせん」

21 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/06/02(水) 17:58:23.63 ID:8yLxKVM0
ロレンス「信頼」

ホロ「うむ、ぬしは先ほど、この話のリスクとして金銭の損失をあげていたが、ぬしが扱うこの粉のいかんによっては、目にも見えないそれが損失となることもあろう?」

ロレンス「もともとうわさからはじまっている儲け話だ、俺が扱えば瞬く間に町に広がる」

ホロ「ぬしはわっちが見る限り、良き商人じゃ。金銭ならば今まで何回も取り戻してきた。が、信頼というのはそう簡単に戻せるものではありんせん。それこそ壊れるときはあとかたもなく、の。これがもし偽物であったときは、それなりのリスクを伴うじゃろ。ぬしが取引するときにはいつも口にしていることではないかや」

ロレンス「この町にも商会はあるからな・・・。公証人を介して薬を流す以上、下手をしたら、いやせずとも今後の商売に影響する」

ホロ「目に見えるものだけを損失と考えるのは、いささか軽薄じゃの。ぬしならば当然心得ているかと思っていたんじゃが」

22 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/06/02(水) 18:00:24.39 ID:8yLxKVM0
ロレンス「慢心は恐ろしいな・・・。だが、それでも、だな」

ホロ「わかっておる、信頼というのは数字ではありんせん、リスクとしては計れぬところもあろう?それに、良き商人であるぬしが考えてもこの話は信頼性が高いようじゃ。しかしな、いざ粉を扱うそのときに、判断材料を忘れていては話になりんせん」

ロレンス「ホロ、お前はどうなんだ」

ホロ「どうとはなんじゃ」

ロレンス「その・・・どう思うんだ、この話」

23 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/06/02(水) 18:01:17.29 ID:8yLxKVM0
ホロ「くふ、ぬしのそういう素直なところは好きじゃ。正直に言っていいかや」

ロレンス「もちろんだ」

ホロ「あの雌は確かに、嘘はいうておらぬ。じゃが、嫌な予感はしておる」

ロレンス「なぜ?」

ホロ「・・・・わっちゃぁ賢狼じゃ。ぬしらよりはるかに長い人生を送る。その中で、病気にかかって死ぬのも、寿命で死ぬのも、結局は一緒じゃ」

ロレンス「?」

24 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/06/02(水) 18:02:46.80 ID:8yLxKVM0
ホロ「・・・・万病を治す薬なんぞ、この世にはありんせん」

ホロが遠い目をしているように見えたのは気のせいだろうか。

ホロ「それこそぬしらが言う、神とやらの所業じゃ。その粉は何かに効くのかもしれぬが、同時に差し出すような対価がある気がしてならぬ」

ロレンス「それも信頼、か?」

ホロ「そこまで考えて話してないわいな。何の根拠もないが、おそらくもっと直接的な損失、じゃ」

ロレンス「ますますわからん」

ホロ「今の段階ではわっちにも判断できぬ。感覚の問題じゃからの。しかしぬしさまよ、油断だけはしないでくりゃれ」

ロレンス「そうだな・・・覚えておく」

25 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/06/02(水) 18:06:48.97 ID:8yLxKVM0
ホロ「で、どうするのかや?」

ロレンス「まずは効果を試さなければならないが、相手は慎重に選ぶつもりだ」

ホロ「実証されたら?」

ロレンス「そのときは改めて商談だ。しかしこの話、俺ひとりでは片付けられないかもな」

ホロ「ほう?」

26 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/06/02(水) 18:11:27.90 ID:8yLxKVM0
ロレンス「さっきも言ったが、この手の話で大切なのは効果に対する信用であり、信頼だ」

ホロ「またひとつ賢くなったの」

ロレンス「うれしい限りだな。・・・今は噂で終わっていることが現実味を帯びるためには、この町で信頼されている人間の太鼓判がいる」

ホロ「教会かや?」

ロレンス「それはダメだ、危険すぎる。教会に公表するのは、効果が実証されてからだ。でないと、錬金術士が作り出した薬など認められるわけがない。できるだけ水面下で効果を広げていくべきだ」

ホロ「ややこしいのう」

27 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/06/02(水) 18:16:52.88 ID:8yLxKVM0
ロレンス「さっき酒場で主人に礼を言いにいくついでに、何人か薬を所持している人間の名を聞いた。おそらくはそいつらと話を進めていくことになるだろう」

ホロ「ずいぶんと出たとこ勝負じゃな」

ロレンス「そう言うな、薬を扱うのは初めてなんだ。とはいっても、最終的に取引するのは俺じゃなくてもいい。儲けさえ出ればな」

ホロ「うむ・・・・」

28 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/06/02(水) 18:17:39.94 ID:8yLxKVM0
ホロ「さて、わっちはそろそろ寝る」

ロレンス「あ、ああ。もう遅いから、明日は少し予定をずらそう」

ホロ「ぬしよ」

ロレンス「うん?」

ホロ「わっちが今、この話に反対したら怒るかや?」

29 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/06/02(水) 18:19:18.78 ID:8yLxKVM0
ロレンス「・・・そんなに、するのか、嫌な予感とやらは」

ホロ「・・・」

ロレンス「おいホロ」

ホロ「忘れてくりゃれ。雄にあれこれ文句を言うのは、雌の悪い癖じゃな。自分のことならば責任が持てるのじゃが、皮肉なもんじゃ」

ロレンス「・・・・」

ホロ「くふ、その顔が見たかっただけじゃ」

ロレンス「お前な!」

ホロ「ベッドの上でも儲け話でも、よい夢を、じゃ。ぬし様よ」

ロレンス「・・・ああ。がんばってみるよ」

30 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/06/02(水) 18:27:08.58 ID:8yLxKVM0
ホロはそれっきり、口を開くことなく眠りについた。
今まで儲け話にたいして助言があることは少なくなかったが、それを止めるということは本当に珍しい。

どうもそれが腑に落ちなくて、その日はなかなか眠れなかったのを記憶している。
しかしおそらくリスクに関わらず、この時の俺ならば商談に望んでいただろう。
数字で計算はしたとしても、結局はのるか、そるかであり、十分すぎるほどの情報は持っているとも思っていた。

それでも、結論からいうなら、このときのホロの判断は正しく、間違っていたのは俺だった。
儲かるとか、そういう次元の話ではない。いや、そもそも商人という形でする話ですらないのだ。

そういうわけで、この不思議な粉に関する出来事は失敗談である。

おそらくこれから先、何年経ってもこのエピソードを忘れることはないだろう。
否、忘れてはいけないように思えた。

33 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/06/02(水) 20:22:55.47 ID:8yLxKVM0
ロレンス「集まったのは私を含めて3人、ですね。私はクラフト・ロレンスと申します」

翌日、町の酒場の隅には、歳も風貌もばらばらな3人の男と、一匹の、狼。

帽子を被った男「ふん。女を連れて商談とはなかなか肝が太い」

ロレンス「これでいて連れはなかなかの傑物でしてね。私はこれに何度も助けられているのです」

帽子を被った男「ハ、単に君の能力不足では?」

男はかなり老齢に見えた。


34 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/06/02(水) 20:23:42.52 ID:8yLxKVM0
ロレンス「仰せの通り、私もまだまだ駆け出しの小生です。しかし」

ホロ「よきぶどう酒を作るにはよき土地が必要と聞いたことがありんす」

始まった、と思った。

帽子を被った男「何?」

ロレンス「おい・・・・」

35 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/06/02(水) 20:24:15.40 ID:8yLxKVM0
ホロ「ならばよき商人を作るのはなんぞや?よきつれ、よき友、よき敵(かたき)、よき商売、よき品物であると思いんす。ぶどう酒と土地のように、不足を補えるよき関係ならば、尚更。ぬし様よ、それを踏まえての発言かや?」

帽子を被った男「・・・・っ」

つり目の男「これは面白い。旦那、あんたの負けだ」

帽子を被った男は何かいいたげに、それでも腰をおろした。なんとか丸くおさまったようだ。

36 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/06/02(水) 20:25:34.46 ID:8yLxKVM0
ロレンス「失礼、つれは口が達者でね。今回集まってもらったのは」

つり目の男「能書きはいいさ。薬をどう捌くかだろう」

こちらの男は、まだ若い。しかし、その眼光の鋭さは俺がまだ持っていないそれだった。

ロレンス「これはこれは、話が早い」

つり目の男「俺たちも初めのうちは、あなたと同じ結論に至ったからな」

ロレンス「というと?」

つり目の男「ロレンスさん。見たところ、商人としての歴はそれなりに長いようだが、この話においては不用の心得だ。なにしろまだ市場に出回っていない商品を扱うわけだからな」

37 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/06/02(水) 20:26:36.28 ID:8yLxKVM0
ロレンス「癖のようなものでしてね」

つり目の男「助言してやろう。この手の取引で名前を先に名乗るのはやめたほうがいい。これは毛皮や鉄の取引とはワケが違う。この時点で俺たちの間にある信頼関係はいくらでも崩れるし、失敗したときに祭り上げられるのはあんたのような人間だ」

帽子を被った男「まあ、今回は運がよかったな」

ロレンス「どういうことです?」

つり目の男「我々はすでにこの薬の効果を実証している」

38 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/06/02(水) 20:31:47.30 ID:8yLxKVM0
ロレンス「・・・つまり、お二人はすでに協定を結んでいるわけですね」

帽子を被った男「正確にはもう少し多い」

ロレンス「組織化していると?」

つり目の男「そこまではいかない。我々としてもこの商品を世に送り出す機を伺っていてね」

39 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/06/02(水) 20:33:05.05 ID:8yLxKVM0
どうやら抜け駆けはできないようだ。わかっていたことではあったが、若干気持ちが下がるのを感じた。

ロレンス「しかし、協定を結んでいるなら、私を呼んだ理由は?儲けが減るだけでしょう」

帽子を被った男「君の呼び出しに応じたのは、この薬の利益を独占してもらっては困るからなのだよ」

ロレンス「なるほど。あの錬金術士はあなたたちの間での協定とは無関係に薬を流しているのですね」

つり目の男「察しがよくて助かる。その通りだ」

40 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/06/02(水) 20:55:21.48 ID:8yLxKVM0
つり目の男「あの女は変わっていてな。いかんせん誰にでも薬を売ろうとしていて、こちらの要求は聞かん。俺も旦那も、はじめは一人の客として店に入った。当然、最初に受け取る量は少量にしておく。あんたと違うのは、仕入れてからすぐにこの薬を使ったこと」

ロレンス「なぜです?」

帽子を被った男「君もこれを手に入れたとき、損得計算をしたはずだ。何を天秤にかけたかは知らないが。だがそれは行商人の発想だ」

つり目の男「我々はこの町に店を構える者だ。何年も住んでいれば、藁にでもすがりたい病人の話など、いくらでも舞い込む。その手のやつらは、たとえ塩だろうが砂糖だろうが砂だろうが、タダでもらえるものならもらっておくものなのさ。なに、教会のお隅つきとでも言えばいい」

ロレンス「なるほど」

42 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/06/02(水) 21:04:35.18 ID:8yLxKVM0
つり目の男「そこであの薬を試してやったところ、どうだ。それまで病状で苦しそうにしていた老人が、とたんに元気になってな」

ロレンス「・・・・」

帽子を被った男「町商人としては副業で儲けるというのはいい顔をされないのだがな。うわさが広まるうちに、あの女と交流のある者が、酒場を介して知り合うようになっていった」

つり目の男「あの女としてはおそらく、より大物がつれるまで、薬を流し続けるつもりなのだろう。だから酒場の主人も薬を買った者のことを隠したりはしない。そのほうがうまくうわさが広がるからな」

帽子を被った男「我々は独自に組合を作り、あの女のところに商談に行くつもりだ。製造方法から取引までを掌握するためにな。すでに噂はまことしやかに囁かれる段階だが、あの女にそこまではわかっていないようだ、相変わらず低価格で提供してくれている」

43 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/06/02(水) 21:16:17.77 ID:8yLxKVM0
ロレンス「それならば実際には商談が成立していないだけで、時間の問題だ。私が一人で儲けた額など、そちらが得る利益に対しては微々たるもの。あなたたちだけで商えばいいでしょう?やはり私の呼びかけに応じる理由にはなっていない。慈善運動ですか?」

皮肉たっぷり言ってやった。

つり目の男「ふ、立派な仮面を持っているな。しかしあなたが今身につけている仮面は、市場取引のそれだろう。一流の商人ならば、いくつも仮面を用意しておくことだ。こういった場所では、腹の探りあいはするだけ無駄だろう」

ロレンス「腹は明かしていますよ。ただ近頃太りましてね」

つり目の男「肥えた商人はよき商人の証というが」

思わず笑ってしまったが、言葉遊びをしている場合ではない。

44 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/06/02(水) 21:18:48.09 ID:8yLxKVM0
帽子を被った男「そういう意味でも、君は運がいいな」

何もわかっていないといった様子で、男は言った。
隣のホロは表情を見せないようにしていて、俺からも確認できない。

つり目の男「行商人であそこにたどり着いたのはロレンスさん、あなただけなんだよ」

なるほど、と頭で炸裂する音がきこえた。

ロレンス「あれを外に持ち出されては困る、ということですね?」

つり目の男「やはり聡い方だ」

45 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/06/02(水) 21:28:53.11 ID:8yLxKVM0
つり目の男「あの粉は巨万の富を産む至宝だ。あれを使えば、世に存在するどんな大商会よりも強力な商会を生み出すことが可能だろう。効果を見ていない君にはわからんだろうが」

うまい話にありつく数だけ、泣きを見ることもある。
この目で見ない限りは信用できないのは、確かにそうだ。

ロレンス「それも私の悪い癖です」

つり目の男「巨大な市場を形成する前に、競合の芽は摘んでおきたい。あなたが流す粉は少量かもしれないが、行商人であそこにたどり着けるならば有能な商人なのだろう。いずれ製法に至るかもしれん、何かしらのツテを使ってな。それは砂漠で拾った砂粒の中で、ひとかけらの砂糖を見つけることくらいの可能性かもしれないが、価値を知っている我々としては、慎重にならざるを得ない」


46 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/06/02(水) 21:31:32.17 ID:8yLxKVM0
ロレンス「つまり、出る杭は打っておくと」

つり目の男「ものは言い様だ。先考投資と考えてほしい」

風向きが変わってきた。

47 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/06/02(水) 21:39:37.59 ID:8yLxKVM0
帽子を被った男「君には恩を売っておき、いずれ我々が異国に進出する際の道しるべとなってほしいのだ」

ロレンス「単刀直入ですね。つまり、報酬を与えるかわりに目をつむっていてほしいと」

帽子を被った男「それだけではない。適切な製法が見込めた際には君の行商人の腕で、この粉を捌いてほしい。今までいくつも国を渡ってきたのだろう?」

ロレンス「私の腕を信頼してくれているんですね」

帽子を被った男「腕は知らんよ。だが、あの酒場の主人が選んだ男だ。我々のように、な」

信頼というものはときに予想外の儲け話を引き出す。

48 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/06/02(水) 21:45:06.09 ID:8yLxKVM0
ロレンス「私の夢は、あなたたちのように自分の店を持つことです」

つり目の男「結構だ。うちの商会で稼いだ後、独立でもすればいい」

ホロが一瞬、店という単語に反応していたのを見逃さなかった。

49 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/06/02(水) 21:59:23.30 ID:8yLxKVM0
ロレンス「独立した後、粉の製造にこぎつけるかもしれません。怖くはないのですか?」

つり目の男「あなたが独立する頃にはこの薬の市場は我々が独占している。またノウハウもな。それくらいの自信はこちらにもある」

確かに、この男ならばものさえあればやってのせそうだ。

つり目の男「そして・・・これが最後の助言だ。ロレンスさん。あなたは大きな勘違いをしている。気づかないか?私たちの間には、市場のそれとは違ってはいるが、特殊な信頼関係が存在している」

言っている意味がわからなかった。


50 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/06/02(水) 22:03:31.36 ID:8yLxKVM0

つり目の男「錬金術士と交流を持っていることがもし今、教会にばれたら?」

ロレンス「!」

つり目の男「我々はこの時点でリスクを共有している。もちろん、ゆくゆく我々も教会に取り入って薬を売ることになるだろう。そのときになって、元は錬金術士からの品とばれたところで、教会が認めるはずもない。だが、現時点で我々のうち、一人でも密告しようものなら、たちまち芋づる式に火刑台行きだ。密告者も含めてな」

ロレンス「裏切りができない代わりに、抜け駆けもできない」

つり目の男「その通り。あなたは最初、商人としてこの場に来た。だが実際にはこの場において、腹の探りあいなど何になる?同じ鎖につながれた者同士、進むべき方向は同じのはず。あなたにできることは、我々の用件を飲むことだけだ」

51 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/06/02(水) 22:08:43.64 ID:8yLxKVM0
つり目の男「さらに金額の話になるが、今回の取引で生まれるであろう利益のうち、1割をあなたに先行投資する」

ロレンス「・・・・・」

帽子を被った男「聞かないのかね?」

勝ち誇ったような態度で、男は言った。
そして、次に口を開いたのは・・・。

ホロ「いかほどで?」


52 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/06/02(水) 22:12:40.43 ID:8yLxKVM0
つり目の男「ふふ。つれの方は正直なものだ」

ホロ「わっちゃぁ金に目がなくての」

話を聞いていたようで、口調も普段のものに戻っている。
しかし、これは嘘だ。

俺の夢は確かに店を持つことだが、このつれを故郷に連れて行った後の話だ。
今まで何度もこの話でもめて、そのたびに俺が優先したのは後者だった。

ホロはそんな俺に気を遣っているのだ。

ロレンス「おいホロ」

ホロ「ぬしは黙っておれ!」


53 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/06/02(水) 22:19:56.90 ID:8yLxKVM0
帽子を被った男「くく、よき連れとは言ったものだな」

ホロ「ぬしも黙りんす。これは商談ではない。そうじゃな?なら、わっちも隠す必要はなさそうじゃ」

帽子を被った男「ふん、何を隠すというのだ?」

ホロ「あえていうなら・・・牙じゃな」

帽子を被った男「それは怖い」

肩で笑っているのがバレバレだった。


54 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/06/02(水) 22:24:23.74 ID:8yLxKVM0

ホロ「言ってみよ。この話の儲けの一割はいくらなんじゃ」

つり目の男「最低でもトレニー銀貨5000枚」

ロレンス「な・・・馬鹿な!」

つり目の男「本気だ。誓約書に書いてもいいくらいのな」

ホロ「嘘はついておらぬようじゃな?」

ホロの耳は嘘を見分けるのだが、それでも信じられなかった。
2000枚でも店は出せるほどなのだ。

ロレンス「本当に・・・万能薬なんだな」

つり目の男「いかにも」


55 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/06/02(水) 22:29:14.38 ID:8yLxKVM0
ホロ「ぬし」

ロレンス「なんだ」

ホロは俺の方を向いて言った。

ホロ「契約成立じゃ」

ロレンス「馬鹿をいうな!こんな暴利が信じられるか!」

つり目の男「ならどうするんだ?俺たちを告発するか?こっちは数で勝っている、正当なやり口でいくらでもあなたを貶められるぞ」

56 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/06/02(水) 22:41:00.22 ID:8yLxKVM0
ロレンス「ならなぜ初めからそうしない」

帽子を被った男「人材確保のため」

ロレンス「それが信じられないから言っている!」

つり目の男「先見の明はどの商売でも必要だ。それは品物だけでなく人材においても同じ。我々はいまだ少人数の団体、確実な利益が見込めるならば次に流用方法を模索するのは当然だろう?正直、あなたに才がなければ、こんな話をせずに放っておいたよ。だが、話せば話すほどあなたの商才は確かなものだ。加えて酒場の評価。ロレンスさん、これはチャンスなんだよ、お互いにとってのな」

帽子を被った男「荒っぽい歓迎のようなものだ」

そう言い放つ二人の人相は、会ったときより何倍も悪人面に見えた。

57 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/06/02(水) 22:42:06.02 ID:8yLxKVM0
ホロ「最初から、わっちらは対等ではなかったのじゃな」

つり目の男「そう。あなた方は品定めをされる側。我々は定める側。しかし喜んでほしい。ある意味ではあなた方の勝ちだ」

ホロ「何を勝ちとするかはわっちらが決めることじゃ」

つり目の男「結構なことです」

男がはじめてみせる笑顔は、屈託がなく、そして残酷だった。

59 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/06/02(水) 23:03:24.55 ID:8yLxKVM0
ホロ「すまぬ」

宿に着くなり、突然ホロがそう言った。

ロレンス「何のことだ?」

ホロ「彼奴らが嘘をついていることは途中から見抜いていた。じゃが、あの場でそれを言うのが正しいのか、わっちにはわからぬ」

ロレンス「たしかに、その時点で引き上げていれば、交渉は決裂したんだろうが、あいつらに奇妙な足かせをつけられることもなかった。銀貨5000枚の代償として、将来はやつらの商会の一員だ」

60 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/06/02(水) 23:05:46.78 ID:8yLxKVM0
ホロ「うむ・・・」

ロレンス「だが、お前の責任じゃない。協定を結んでいるとわかった時点で、疑問に思うべきだったんだ」

ホロ「ぬしは・・・嫌なのかや?」

ロレンス「何がだ?」

ホロ「銀貨5000枚をほぼ元手なしで手に入れられる上に、将来も約束されておる。わっちの耳では、粉に関しての情報に嘘はないようじゃった。それでも・・・・嫌なのかや?」

61 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/06/02(水) 23:09:21.31 ID:8yLxKVM0
ロレンス「できることなら断りたかった」

心なしかホロの表情がこわばっているように見えた。

ホロ「それは・・・・その・・・・・な、なんでじゃ?」

少し頬が赤いようにも見える。なぜだろう。わからない。

62 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/06/02(水) 23:15:10.30 ID:8yLxKVM0
ロレンス「あんな人間と商売はしたくない。俺にもプライドがあるからな」

言ったとたん、あっけにとられたようにホロが目を丸くする。

ホロ「・・・・・・・・・・・・それだけ?」

ロレンス「ああ、それだけだ。これ以上はないと言っていい。だいたい、あんなものはほとんど脅迫に近い。今はよくても、いつか必ず足元をすくわれる。俺はそう信じている」

63 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/06/02(水) 23:16:05.72 ID:8yLxKVM0
俺としては、商人としてのプライドの高さを見せたつもりだった。
しかし。

ホロ「ぬしよ」

ホロの顔は明らかに憤怒の色で染まっていた。

ロレンス「な、なんだ?」

ホロ「本当に、ぬしはいつまでたっても変わらぬ。あの場でぬしを立てたわっちが阿呆のようじゃ」

そこまで言われて、あっと気がついた。
もしや、自分のことを話題に出してほしかったのか?


65 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/06/02(水) 23:23:50.06 ID:8yLxKVM0
ロレンス「も、もちろん、お前との旅のこともある!」

ホロ「たしかにわっちはぬしの夢を優先してああ言った!本来ならばそれだけでよい。それに、ぬしがわっちの身を案じてくれておるのも知っておる。じゃがな、雄として、言うべきときに言わねばならぬことを言うことがいかに大事であるか、以前教えたじゃろうが!ぬしは商人じゃろう?借りは返してこそじゃ!」

ロレンス「わ、悪かったよ」

ホロ「ふん」

66 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/06/02(水) 23:29:46.55 ID:8yLxKVM0
ホロ「まあよい。彼奴らはひさしぶりにこのわっちを本気で怒らせたからの、気にいらぬのは一緒じゃ」

ロレンス「お前がいつ噴火するか心配だったよ」

ホロ「そこまで子供ではありんせん。腹の内では10回ほど体を引き裂いてやったがの」

ロレンス「しかしそれでも、あの場では取引を受けないわけにはいかなかった。あの判断はたしかに正解だったよ」

ホロ「ぬしが取り乱しておるのを横から見ていたからじゃ。いつもは冷静なぬしでも、万一刺し違えようとでも思おうものなら、ことじゃ」

67 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/06/02(水) 23:37:23.62 ID:8yLxKVM0

ロレンス「実際には、差し違えようにもできなかった。俺が教会に告発したとしても、やつらの言う通り明らかに不利だ。たった一人、かつよそ者の俺に交渉の余地はない。かといって条件を飲まないと言えば、間違いなくつぶされる。信頼はお前が教えてくれたように、商人にとっての要だ。町の事情に精通している町商人なら、俺の評価を落とすことくらいわけはないからな」

ホロ「力技でならわっちの独壇場なんじゃが」

ロレンス「そこがあいつらのねらい目だ。まぁ、よもやお前が狼の化身だとは考えていないだろうが」

ホロ「暴力に訴えても、評価は下がるだけだしの。いわんやわっちの姿を見せようものなら」

ロレンス「首を絞めることになるのは俺たちだ」

68 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/06/02(水) 23:42:36.37 ID:8yLxKVM0
ロレンス「ペンは剣より強し、だな」

ホロ「くふ、この場合はペンではなく粉じゃ」

ロレンス「しかし、牙を隠しているとはうまいこと言ったな」

ホロ「本気でかみ殺してやろうかと思ったがの。ま、あれはハッタリじゃ」

ロレンス「あそこでかぶけるだけ立派だ」

ホロ「誉めても何も出てこぬ」

そういいながら、少し自慢げだった。


70 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/06/02(水) 23:48:43.57 ID:8yLxKVM0
ホロ「さて、かぶいたはいいが、どうするんじゃ」

ロレンス「ひとまずは要求を飲むしかない。それに、まだわかっていないこともある」

ホロ「薬の効果かや?」

ロレンス「もちろんそれもある。嘘は言っていないと思う。お前の耳でも実証されているしな。だが、人間は嘘でも本当でもないことを語ることができる生き物だ。お前と同じく、俺も本当の万能薬なんてものは存在しないと考えている。あいつらがそう思っているだけだ」

ホロ「それはわっちに対する信頼と受け取っていいのじゃな?」

ロレンス「謹んで贈呈するよ」

71 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/06/03(木) 00:01:53.51 ID:YIHTobQ0 [1/10]
ロレンス「もうひとつ。俺たちを襲ってきた錬金術士がいただろ?」

ホロ「おお、忘れておった」

ロレンス「これがひっかかる」

ホロ「ふむ」

ロレンス「俺たちが取引した女とあいつらは現在、敵対関係にあると考えるのが妥当だろう。おそらく粉の製造方法については共有していて、外部に情報が漏れるのを防いでいたはずだ。錬金術士は世間的に疎まれている存在、つまり」

ホロ「まずは内部において、あの町商人たちのようなことをしようとしておったのじゃな」

ロレンス「そうだ。ああいった特定の集団にとって、背信行為は自殺行為に等しい。順序が逆なんだ」

72 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/06/03(木) 00:11:29.57 ID:YIHTobQ0 [2/10]
ホロ「町商人にはツテはあるが技術がない。反対に、錬金術士には技術はあるがツテがない、という状況なわけじゃな」

ロレンス「ああ。その中であの女の存在だ。もし、あの女が錬金術士たちの代表としてあの粉を流していたとしたら、俺たちが襲われるはずがない。だが俺たちが襲われた以上、あの女は裏切り者だ。下手をしたらあの女は殺されていてもおかしくない。それは町商人側も知っているはずだ」

ホロ「そこから導き出される結論は何かや」

ロレンス「まだ情報が足りていない。これは単純な二つの勢力の話じゃない、まずは情報手に入れることが先決だ。そのためには町商人に協力して、調べてみるしかない。俺にまだ話していないということは、付け入る隙は必ずある。この足かせを外す方法もな」

ホロ「くふ、くふふふふふふ」

ロレンス「どうした?」

73 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/06/03(木) 00:17:56.43 ID:YIHTobQ0 [3/10]
ホロ「いやの、足かせというのは銀貨5000枚と、目もくらむほどの利益なんじゃろ?」

ロレンス「まあ、そうだが・・・・」

ホロ「いやなに、商人が最も欲しているであろう儲け話を、ぬしが足かせと言っておるのが、くふ、おかしくての」

ロレンス「そう言われてみれば、たしかに、おかしな話だな」

ホロ「じゃろ?」

74 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/06/03(木) 00:21:37.30 ID:YIHTobQ0 [4/10]
ロレンス「まったく、欲はかきたくないものだ」

ホロ「ぬしが言うかや?」

ロレンス「とんだ災難だ。商人として、あるまじき行為を俺はこれからする。儲けから遠ざかるんだからな」

ホロ「じゃが同時に、商人としてのプライドを守る行為でもあるんじゃろ?」

ロレンス「う、まぁ、そうは言ったがな・・・・」

ホロ「今宵のぬしはたわけじゃのう。いや、狐に摘まれるとはこのことかや」

75 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/06/03(木) 00:25:09.16 ID:YIHTobQ0 [5/10]
ロレンス「明日は町商人たちに薬の効果を見せてもらう約束だ。そろそろ寝るか」

ホロ「うむ。なあに、何が起きてもわっちは驚かぬ」

ロレンス「お前が言うと、それもおかしな話になるんだがな」

ホロ「おかしいことはありんせん。わっちゃぁただの賢狼じゃ」

ロレンス「必要なときは知恵を借りることにするよ」

ホロ「任せるがよい」


77 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/06/03(木) 00:28:35.36 ID:YIHTobQ0 [6/10]
灯りを消そうとしたそのとき。

ホロ「ぬしよ」

ロレンス「ん」

ホロ「助言になるかはわからぬがな。彼奴らばかりに言われては癪じゃ。わっちもぬしに助言をする」

ロレンス「なんだ?」

ホロ「わっちらのような狼もな、時として森の外に狩りに出ることがある」

ロレンス「ほう」

78 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/06/03(木) 00:36:03.79 ID:YIHTobQ0 [7/10]

ホロ「たいていは集団で獲物を狩ることの方が多いが、獲物を見つけるときには一人で行動することもありんす。そんなとき、帰ってこぬのは大概、一番欲をかいている者じゃ」

ロレンス「なぜなんだ?」

ホロ「欲をかいた者はたいてい、欲に負けて隙を見せるからじゃ。手を出さなくてよいものにまで手を出すからの。そこに漬け込まれて、気がついたときには、じゃ」

ロレンス「耳が痛い話だな」

ホロ「くふ。じゃがこれはぬしのことを指しているわけではありんせん。相手が錬金術士だろうと町商人だろうと同じじゃ。彼奴らの中にも様々な欲が渦巻いておるはずじゃろ。ぬしはその中でも一番欲深きものを見つけよ。そこに隙はあるはずじゃ」

ロレンス「覚えておくよ」

ホロ「うむ」

言うか言わないか、ホロの口からは寝息が聞こえてきた。

80 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/06/03(木) 00:40:59.53 ID:YIHTobQ0 [8/10]
粉を使って大商会設立をもくろむ町商人。
その粉の製法を知り、対立しているであろう錬金術士。
さらに、錬金術士を裏切った女。
魔法の粉。
万能薬。


色々なことがありすぎて目がまわりそうだ。

それでも万能薬なんてもの、あるはずがない。
しかし、実際のところは?見たことがないということは、ないとも言い切れないということだ。

どちらにせよ、確認しなければ。

そうこう考えているうちに、俺の意識は闇の中へと吸い込まれていった。

89 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/06/03(木) 20:56:15.48 ID:NG3oSR60 [1/36]
ホロ「ところで、ぬしよ」

朝食をほうばりながらホロが言った。

ホロ「薬を扱うのは初めてと言っておったの」

ロレンス「ああ」

ホロ「わっちら狼の間でも薬草についてはしばしば言い争いになりんす。本当に効くのか、騙していないか、云々じゃ。それが確かに価値あるものだとしても、やはり商品として扱うのは難しいのかや?」

ロレンス「難しいというか、そうだな」

俺は頭の中から、師匠譲りの知識を引き出してみた。


90 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/06/03(木) 20:58:15.58 ID:NG3oSR60 [2/36]
ロレンス「疫病についての知識はあるか」

ホロ「馬鹿にするでない。わっちもこの目で幾度か見てきておる。・・・凄惨な光景じゃった。どの病人も、ほとんど助からぬ」

ロレンス「今や疫病は民衆にとっての恐怖そのものだ。俺も医者に世話になったことは何度かあるが、それはあくまで外傷についてで、ああいった流行り病に対して有効な治療ができる医者は見たことがない」

ホロ「うむ、それはわっちもいっしょじゃな」

91 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/06/03(木) 20:59:46.55 ID:NG3oSR60 [3/36]
ロレンス「正直、今の知識では治せない病気なのかもしれない。大いなる神の所業か、下賤な悪魔の仕業かは分からないが、疫病その他の不治の病に関して医者なんてものは無力だ。少なくとも今はな。そうなると民衆は誰に救いを求めればいい?当然、神の代弁者にして高貴な存在、教会だ」

ホロ「むう、いちいちでしゃばってくる奴らじゃのう」

92 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/06/03(木) 21:00:55.97 ID:NG3oSR60 [4/36]
ロレンス「まあ、こういう話し方をするとそう思うかもしれないが、病人に対して献身的に看病をしていたのが教会だったのは事実なんだ。民衆からの信頼、教会の権威の向上。原因は様々だったかもしれないが、自然と彼らに救いを求める病人は増える」

ホロ「ぬしらはあれじゃの、自らのあずかり知らぬ現象を、誰かの意思になぞられるのが好きじゃの。そうでもせぬとやり切れるからかや」

ロレンス「俺は神学者じゃないからな。そういう議論は別の機会にすればいい」

ホロ「かわされたの」

ロレンス「続けるぞ」


93 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/06/03(木) 21:02:01.22 ID:NG3oSR60 [5/36]
ロレンス「薬を扱いのは難しいかと聞いたな。答えはイエスでもあり、ノーでもある。以上のような理由から、病人が救いを求めるのは教会と相場が決まっている。俺がもし万能薬なるものを手に入れたとしても、その信頼性を自分ひとりで高めて、民衆に普及させるのは効率が悪いだろう。だが、あの町商人が言っていたように、教会の後ろ盾があればいくらでも価値をつけて売ることができる。神の奇跡とでも言ってな」

ホロ「くふ、いつも思うんじゃが、神父だの司祭だの、あやつらこそ神を信じておらぬのではないかや?」

ロレンス「腹の内はわからんさ。人は大いなる権力の前では誰しも頭を垂れる」

ホロ「教会が羊を好きな理由がわかったの」

ロレンス「まったくだ」

94 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/06/03(木) 21:04:26.17 ID:NG3oSR60 [6/36]
ロレンス「そういうわけで、町商人たち・・・あのつり目の男も同じことを考えるはずだ。正直、俺も教会に接近しようかと思っていた。あの薬が本物ならば、教会と組んだ後、目が飛び出るほどの利益が生まれるだろう」

ホロ「神の奇跡、とやらで?」

ロレンス「そうだ。お前、以前毛皮にりんごの匂いをつけて、大もうけしたことあっただろう」

ホロ「ああ、なつかしいの。あの頃のぬしはまだ初(うぶ)じゃった」

ロレンス「初は余計だ。・・・薬に関してもやっていることはあれと同じように考えていい。ただ額が違うだけでな」

ホロ「ふん、明らかにケタが違うと言いたげじゃの」

ロレンス「まあ、それも事実だ」

95 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/06/03(木) 21:11:49.34 ID:NG3oSR60 [7/36]
ホロ「しかし、そのような経緯がありつつ、錬金術士と教会が結託できぬとは、難儀なもんじゃ。確かに、彼奴らは価値あるものを生み出しておるんじゃろう?」

ロレンス「教会にとって大事なのはやはり威信だ。そして威信を支えているのは彼らが掲げている体裁。実のところ、奇跡さえ起これば扱うものはなんでもいいのさ。それでも民衆は奇跡を願う」

ホロ「つまり教会にとって万能薬とは、あればあったで助かるが、なければないで損はない、その程度のものというわけじゃな」

ロレンス「その通り。もっと言うと、あったとしても、自分たちが扱えないと知るなり弾圧するだろうな。威厳を保つために」

ホロ「食えないやつらじゃのう」

96 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/06/03(木) 21:13:13.62 ID:NG3oSR60 [8/36]
ホロ「さて、悪徳商人の鼻をくじきにいくかの」

ロレンス「今日は派手な行動はできないぞ。薬が本物かどうか、判断するだけだ」

ホロ「あやつら、本気でぬしを組合に取り入れたいんじゃな」

ロレンス「ああ。しっかりと確認させたうえで、金を渡したいんだろう。俺を引き込むやり口はかなり強引だが、筋は通している」

ホロ「くふ、商人として優秀なのも考え物じゃ」

ロレンス「少しは見直したか?」

ホロ「たわけがおる」

支度をすませると、俺たちは宿を後にした。

97 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/06/03(木) 21:21:04.04 ID:NG3oSR60 [9/36]
つり目の男「よく眠れたか、ロレンスさん」

ロレンス「ああ。眠りすぎて、昨日の出来事が夢のようだ」

つり目の男「どちらが夢でも大差ないことだ。実際に見て、感じていることには違いない」

ロレンス「夢ならば、起きたら忘れていることもある」

つり目の男「ならば思い出させてやろう。こっちだ」

男は町はずれにある狭い路地へと歩き出した。

98 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/06/03(木) 21:22:03.67 ID:NG3oSR60 [10/36]

つり目の男「ああ、それとな」

途中、歩きながら男が口を開いた。

つり目の男「その連れ、あんたの何なんだ?」

ロレンス「何、とは?」

その言葉を聞いて、つり目の男がこちらを振り返る。
同時に、ホロが俺の横っ腹を殴ってきた。

ホロ「ぬしの好きなように思うがよい」

その言葉をきくなり、男はふきだしていた。


99 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/06/03(木) 21:22:45.95 ID:NG3oSR60 [11/36]
つり目の男「あんた、この手の話には素人なんだな」

ロレンス「どういう意味」

ホロ「わっちが手取り足取り教えておるところじゃ」

つり目の男「赤子は覚えがいいと聞くが、どうなんだ?」

ホロ「才能が感じられぬ」

つり目の男「ロレンスさん、あんた大物になりそうだ。独立させるには惜しい」

何のことだかまったくわからない。

100 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/06/03(木) 21:36:02.95 ID:NG3oSR60 [12/36]
路地は狭かった。
空気もこころなしか少し重い。

ホロもそれを感じているのか、いつもより俺に近い位置で歩いていた。

つり目の男「この粉にな、名前をつけたんだ」

ロレンス「名前?」

つり目の男「ああ。銀色の粉、では野暮だろう」

ロレンス「真に効果があるものなら、名前は関係ないと思うがな」

つり目の男「それで済むならそうしているが、あんたも分かるだろう?こういった商品には付属する価値が必要なのさ」

先ほどのホロとの話を思い出す。

101 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/06/03(木) 21:37:33.05 ID:NG3oSR60 [13/36]
つり目の男「神の涙」

男は感慨深げにそういった。

つり目の男「この残酷で冷淡な世の中に、慈悲深い神が唯一落とした涙。ぴったりだと思わないか?」

ロレンス「やはり教会に取り入るつもりか」

つり目の男「そうでもしなければ大もうけはできない。安っぽい説法をこいつに一振りしてもらえれば、瞬く間に奇跡の粉の完成だ」

ロレンス「俺も商人だ。それが汚いとは言わない」

つり目の男「随分えらそうに言うな。綺麗だの汚いだの、そもそも商人が使う言葉ではない。金儲けは等しく下賤さ」

それはある種、達観した物言いだった。

102 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/06/03(木) 21:45:04.13 ID:NG3oSR60 [14/36]
ホロ「悪魔の涙かもしれんがの」

ホロがそうつぶやいたのは、男がとある家の前にたどり着いたときだった。

つり目の男「ほう」

面白い、といった表情でホロを見つめる。

ホロ「下賤な悪魔が、罪の意識から流した涙、とでも言おうかや?じゃが罪というものは流した涙の量で許されるもんではありんせん。等しく地上に降り注ぎ、また別の罪を産む。ぬしらはその代行者じゃ」

つり目の男「これは面白い。神学か何かをかじったことが?」

ホロ「わっちは無神論者じゃからの。信じておるのは摂理だけじゃ。そして罪は裁かれるのもまた摂理」

男はつりあがっている目をさらにつりあげてみせた。

つり目の男「俺は悪魔も好きだ。商人にはきっと向いている」

103 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/06/03(木) 21:49:58.39 ID:NG3oSR60 [15/36]
つり目の男「じいさん、また来た」

部屋にあがると、病状に伏している老人がそこにいた。

老人「おお・・・助かるな。また、例の薬か」

つり目の男「あれからどうだ?」

老人「あれを使ってから調子がすこぶるいい。何でもできそうな気分になってきてなあ」

つり目の男「それはよかった」

男の眼の中に、にごったものが見えたのは気のせいだろうか。

104 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/06/03(木) 21:57:35.30 ID:NG3oSR60 [16/36]
ロレンス「いつから使っているんです?」

老人「私が使い出したのはつい先日のことだ。はは、今はこうして普通に話せているがな、それまでは体中の痛みでまともに話すことすらできなかった」

ホロに横目で合図すると、無言でうなづいた。
嘘はついていないらしい。


ロレンス「そんなに効くんですか」

老人「ああ、体中が楽になってな」

つり目の男「百聞は一見にしかずだ。じいさん、飲んでみろ」

そういうと、男は水に粉をとかして、老人に手渡していた。


105 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/06/03(木) 22:03:26.35 ID:NG3oSR60 [17/36]
老人「ああ、これだこれだ。まったく、神の涙とはよく言ったものだ」

ロレンス「・・・・」

つり目の男「あんたが茶々を入れないということは、納得したと判断するが、いいのか?」

男はホロの能力を知らない。
それでいて、俺が黙っているのが不思議なのだろう。
老人と共犯だとは考えないのか、と。

だが俺は薬に効果があることはホロの耳で知っている。
問題はそれが万能薬かどうかだ。

ロレンス「本当に・・・よくなっているんですか」

老人「間違いなくな。はは、さっきまで重かった体が嘘のようだ」

たしかに、老人は家にきたときよりも元気になっていた。

106 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/06/03(木) 22:09:10.96 ID:NG3oSR60 [18/36]
ロレンス「やはり本物、か」

ホロ「ぬし様よ、この薬はどれくらいの頻度で処方するんじゃ?」

老人「ん?だいたい1日おきだな。こいつが適量、持ってきてくれる」

ホロ「同じ量を?」

つり目の男「おいおい、疑っているのか?」

ホロ「貸しんす」

ホロは老人が持っていた水を嗅いでみせた。

107 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/06/03(木) 22:17:05.87 ID:NG3oSR60 [19/36]
ホロ「・・・・」

反応はない。

つり目の男「無駄だ、この粉は無臭だぞ」

ホロ「本当に痛みがひくのかや?」

老人「お嬢ちゃん、私はこれでも若い時には酒場を営んでいた。病にかかった経験は何回もあったが、これほどまでに効く薬には出会ったことがない。これで儲けるんだろう?効果なら私がいくらでも証明してみせる。教会のうそ臭い説法には辟易していたが、この粉を扱うのなら喜んでやつらの前で頭を下げるというものだ」

つり目の男「じいさん、俺があんたを必ず治してやる。もちろんこれまでみたいにタダで与えることはできないが、なに、あんたには借りがある。特価で提供するよ」

老人「すまんな」

そう語る男は、俺たちと対しているときとは違う語調だった。

108 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/06/03(木) 22:24:22.07 ID:NG3oSR60 [20/36]
その後しばらくして、俺たちは家を後にした。
ホロは何やら神妙な顔で悩んでいるように見えた。

つり目の男「どうだった?」

ロレンス「?」

突然話しかけられて、思わず反応に困ってしまった。

つり目の男「俺もな、最初は信じられなかった」

ロレンス「粉のことか」

つり目の男「ああ。昨日はあんな言い方をしたが、ここのじいさんは昔からの馴染みだ。病に倒れる前は俺なんぞ足元に及ばぬくらいの傑物だった。それが一旦病にかかると、気を弱くしてな。二言目にはいつ終わってもいいだの、弱気なことを言いやがる」

ロレンス「・・・・」

109 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/06/03(木) 22:28:19.21 ID:NG3oSR60 [21/36]
つり目の男「実際、藁にもすがりたかったのは俺の方だ。教会の神父はくだらない祈りを捧げるだけで、じいさんの痛みを少しも取り除いてやれない。そんなときに、この粉の噂をきいた」

ロレンス「それでこの商売を思いついたんだな」

つり目の男「ああ。大商会をつくれば、いくらでもこの粉を流すことができる。俺は力なき正論、ってやつが大嫌いなんだ。力がなければ真に正しいことなどできはしない。そんなものは弱者の論理としてあしらわれるだけだ」

その点については同意見だった。

110 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/06/03(木) 22:32:05.25 ID:NG3oSR60 [22/36]
つり目の男「あんたを拘束する形になったのは、すまないと思っている」

ロレンス「最初からそう話していたら、俺の考えも違ったかもしれない」

それは素直な気持ちだった。

つり目の男「正直焦っている。俺たちはある程度、この粉の流通ルートは把握しているが、誰が先に教会にこぎつけるかの勝負だ。カードは一枚でも多いほうがいい。当然、あんたもその一枚だ」

ロレンス「・・・・」


111 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/06/03(木) 22:34:42.39 ID:NG3oSR60 [23/36]
そのときだった。

男の声「貴様ら!」

俺たちの後方から鋭い叫び声が聞こえた。
見ると、4、5人の男がこちらに向かって走ってきている。

つり目の男「錬金術士か」

ロレンス「走るか?」

つり目の男「いや、丁度いい」

男はまったく迷うことなく、錬金術士たちがいる方向に歩いていった。

112 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/06/03(木) 22:37:40.02 ID:NG3oSR60 [24/36]
ロレンス「ホロ」

ホロ「わかっておる。もしものときは、じゃ。この中でわっちを教会に差し出せる人間はおらぬからの」

ロレンス「告発しようものなら共倒れだ」

ホロ「まあ、彼奴らに捕まるわっちではないがの」

113 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/06/03(木) 22:40:12.06 ID:NG3oSR60 [25/36]
つり目の男「そろそろこちらから出向こうと思っていたところだ」

錬金術士「欲に目がくらんだ悪徳商人が!あれは貴様らごときに扱えるものではない!」

つり目の男「ならばお前らになら扱えるというのか?価値を独占したいのはお前らも同じだろう。あの、神の涙、をな」

錬金術士「神の涙だと?」

つり目の男「説明するのも面倒だ、勝手に想像しろ」

114 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/06/03(木) 22:47:16.53 ID:NG3oSR60 [26/36]
錬金術士「貴様・・・既にあれを・・・」

つり目の男「当たり前だろう?お前らのお仲間さんが快く流してくれたからな。宝の持ち腐れほど馬鹿な話はない。そうそう、そのお仲間さんだがな、家にはいなかったんじゃないか?」

錬金術士「何のことだ?」

つり目の男「隠しても無駄だ。製造法を知っているあの女だよ。大方裏切りの代償として始末するつもりだったんだろうが、町商人をなめるなよ。すでにこちらで保護している。あとは時間をかけて交渉するだけだ」

錬金術士「馬鹿な、そこまでして・・・」

115 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/06/03(木) 22:50:46.68 ID:NG3oSR60 [27/36]
つり目の男「欲に目がくらんでいるのはどっちだ。隠れてこそこそと人の儲けを奪おうとしやがって。・・・・と、言いたいところだが、貴様らには感謝している。この俺たちに千載一遇のチャンスを与えてくれたんだからな」

錬金術士「お前らが・・・お前らがやろうとしていることは、お前らが信じる神の名を語った悪魔の所業だ!何度も言っているだろう、



あれは断じて万能薬などではない!」






ホロの耳が隣で動くのが見えた。


116 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/06/03(木) 22:56:01.01 ID:NG3oSR60 [28/36]
つり目の男「今更なにを嘯いたところで無駄だ。お前らの持つ知識はすでにこちらに渡り、後はその扉を開くだけ。交渉は俺たちの得意技だ。お前らできるのは口をあけてことの顛末を見届けることのみ」

錬金術士「やはり・・・前もって処分しておくべきだった」

つり目の男「儲けが出ないとなると負け惜しみか?お前たち、残念だが間違っても商人にはなれないな」

錬金術士「もう何もいわん。好きにするがいい」

それだけ言うと、錬金術士たちはその場を去ろうとした。」

117 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/06/03(木) 23:04:10.80 ID:NG3oSR60 [29/36]
ロレンス「待ってくれ!」

俺が口を開いた瞬間、場が凍りつくのを感じた。

ロレンス「あれは・・・・あの粉は本当に万能薬ではないのか?何の救いもないこの世の中に、万物の創造主たる神が流した一粒の涙。そうじゃなければ何なんだ!悪魔のそれとでもいうのか!」

ホロ「ぬし!」

自分でも無謀だったと思う。それに、男との交渉に割って入ったことも、商人としては失格な行為だ。ホロの視線からは、そんな言葉が感じられた。

つり目の男の話を聞いて、納得したわけではない。だが、当初から疑い、あるわけがないと思っていた幻想も、それが幻想と気づくや否や、抵抗したくなるのも人の性なのだろう。

118 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/06/03(木) 23:11:39.52 ID:NG3oSR60 [30/36]
錬金術士「・・・悪魔の涙?なるほど、それも面白い」

俺の声に立ち止まった一人の錬金術士が、こともなげにそういった。

錬金術士「こちらにとっては神も悪魔も同じようなものだ。真実は貴様らの眼で確かめるがいい。だがあの女は我々の同胞。それなりの処遇はこちらでする。せいぜい夜には気をつけるんだな」

つり目の男「好きにしろといったのはお前らの方だが?」

錬金術士「我々にツテがないと、本気で思っているのか?」

つり目の男「何・・・?」

錬金術士「そんなものが必要ならばとっくに手に入れている。この言葉の意味がわからぬうちの下手な動きは身を滅ぼすぞ」

振り返りながらそう言い放つ男の後姿は、すぐに小さくなり、やがて消えていった。

121 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/06/03(木) 23:41:23.97 ID:NG3oSR60 [32/36]
ロレンス「交渉にはどれくらいの時間がかかるんだ」

帰り道、別れ際に聞いてみた。

つり目の男「遅くとも一週間。あの女が首を縦に振ればそれで済む」

ロレンス「同時に、巨大な市場が形成される」

つり目の男「ああ。世の誰も見たことがないほどのな。今世にあふれる優れた商品が、初めて世に評価され始めたとき、まだ人は商売を覚えていなかった。そしてその利益は世界中に飛散し、誰か一人が独占できる機会はほとんどなかったんだ。だが俺たちは違う。俺たちには培った知恵がある。その知恵で利益を独占すれば、間違いなく億万長者になれるはずだ」

122 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/06/03(木) 23:46:00.27 ID:NG3oSR60 [33/36]
ロレンス「商人とは商うことこそがその本質。価値あるものを手にしたならば、価値を認めさせなければならない。世の大商人はそういうやつらの集まりだからな」

つり目の男「そういうやつの大抵は運に乗っかって生きている。俺もそのうちの一人だ。運は過信を生むことも多いがな」

こんな男とでも、商売の話をするのは面白いから不思議だ。

123 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/06/03(木) 23:51:23.20 ID:NG3oSR60 [34/36]
ロレンス「あんた、今の商売は何を商ってるんだ」

つり目の男「陳腐な果物屋さ。くそみたいな利益率の上に、収穫ときたらそれこそ神頼み。行商人の旅は辛いが、扱う品物にはことかかないだろう?」

ロレンス「扱う品物が多ければ、知識も分散しがちだ。その道の商人には勝てないさ。交渉になったら大抵は、相手の専門外の商品で取引する」

つり目の男「あんたなら果物くらい訳なく捌きそうだがな、俺の前でも」

ロレンス「それは買いかぶりすぎというものだ」

124 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/06/03(木) 23:56:09.17 ID:NG3oSR60 [35/36]
ロレンス「それにしても、錬金術士のやつらは必死だったな」

つり目の男「気にするな。負けが決まって焦っているだけさ」

ロレンス「あんたは本当にこれが万能薬だと思っているのか」

つり目の男「何を今更。見ただろう?またあのじいさんのとこに行くつもりか?」

苦笑しながら通ってきた道を指差す。

125 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/06/03(木) 23:58:33.61 ID:NG3oSR60 [36/36]
ロレンス「・・・・女と取引した粉はどれくらいなんだ?」

つり目の男「まだ大した量じゃない。なぜか女が渋りだしてな」

ロレンス「女が?」

つり目の男「ああ。多分俺たちの動向に気がついて、慎重になってるんだろう。さっきじいさんに渡した薬、あれが一日分なんだが、処方する量は女がすべてきめている」

ロレンス「・・・・」

126 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/06/04(金) 00:01:35.80 ID:DZiXbyE0 [1/15]
つり目の男「まだ迷っている顔だな。よほどの修羅場を潜り抜けてきたと見える。どうだ、女に会っていくか」

ロレンス「会えるのか?」

つり目の男「大切な客だ。うちの組合でかくまっている。女と話せばあんたの頭も切り替わるかもしれない。どっちにしろ、金を渡せるのは交渉がまとまってからだ。ま、ほぼ確定だろうがな」

男はそう言うと、夕日に包まれる町を歩き出した。

127 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/06/04(金) 00:04:12.06 ID:DZiXbyE0 [2/15]

悪魔と神ならば、信じたいのは後者だが、自分と近しいのは前者だと思う。
欲がなければ気力もない。そんな人間は淘汰されていくだけだ。

商人は欲で動いている。
それが大きいか、小さいかの違いであり、それは善悪とは別物だ。

神の涙と悪魔の涙。
仮に万能薬があるのなら、そこにも善悪はないのだろう。

128 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/06/04(金) 00:07:02.95 ID:DZiXbyE0 [3/15]
ホロ「疲れたの」

ぶどう酒を飲みならがら言うセリフではないと思った。

ロレンス「あの後しばらく居座ったからな。しかし、女を本当にかくまっていたのは驚いた。あの男、組合は大きくないとは言っていたが、まとまってはいるらしい」

ホロ「ふん、ぬしが何を考えているかは手に取るようにわかる」

ロレンス「どういう意味だ?」

ホロ「やり口は気にいらぬが、考えるところは自分と似ている、とでも思っておるのじゃろ?たしかに、あの男はただの守銭奴というわけではなさそうじゃ」

129 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/06/04(金) 00:11:43.59 ID:DZiXbyE0 [4/15]
ロレンス「多少はな」

ホロ「嘘が下手じゃのう。ぬし、正直なところ悪くない話と思っておるじゃろう?」

ロレンス「・・・・・」

ホロ「わっちに遠慮することはありんせん。わっちらの仲じゃろ」

ロレンス「・・・あの粉が、本物ならば、だが・・・・」

そこまで言ったところで、ホロの指で口をおさえられた。

ホロ「くふ。さっきのは嘘じゃ。わっちにも聞きたくないことはありんす」

ロレンス「・・・・・すまない」

130 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/06/04(金) 00:15:11.36 ID:DZiXbyE0 [5/15]
ホロ「ぬしがよいと思うならそれでよい」

ロレンス「・・・・だがホロ、あの錬金術士たちも嘘は言ってなかったんだろ?」

ホロ「ほう、さすがじゃの。わっちの耳にも注意を払っておったのかや」

ロレンス「それを見てさらに悩む要素が増えた。老人も錬金術士も嘘はついていない。片方は神の涙を万能薬と言うし、もう片方はそうでないと言う。これはどういうことなんだ」

ホロ「そのままじゃないかや」

ロレンス「うん?」

131 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/06/04(金) 00:18:23.08 ID:DZiXbyE0 [6/15]
ホロ「両方正しいと言っておる」

ロレンス「そんなことありえないだろ」

ホロ「今回のぬしはわっちの耳に頼りすぎじゃのう。頼りすぎて盲点を増やしておる。まあ、わっちが話したことの影響やもしれぬが」

ロレンス「どういうことだ?」

ホロ「ぬしよ、この世の中に真の善人なるものは存在するのかの?」

ロレンス「何を急に・・・」

ホロ「答えてみよ」

132 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/06/04(金) 00:20:24.09 ID:DZiXbyE0 [7/15]

ロレンス「それは・・・まあ、真かどうかはわからないが、善人と呼べる人間は俺も何人か知っている」

ホロ「ふむ。わっちのことじゃな」

ロレンス「ホロ、今はそんな場合じゃ・・・・」

ホロ「癖みたいなものじゃ、ぬしが言われたようにの」

ロレンス「・・・・」

133 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/06/04(金) 00:24:50.20 ID:DZiXbyE0 [8/15]
ホロ「ではの、善人と呼ばれる人間が、とある商店からりんごを盗んだ。これは悪事かや?」

ロレンス「そりゃ、盗みは罪だろう」

ホロ「ふむ。じゃがそのりんごは、お金に困った善人の妹が、どうしても食べたいと言って頼んだ品じゃったとしたら、どうなんじゃ」

ロレンス「俺は商人だから、やはり悪と言いたいが、その妹にとっては良い事なんだろうな」

ホロ「ふむ」

ホロはぶどう酒を眺めてにやにやしている。何がいいたいんだ。

134 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/06/04(金) 00:27:56.25 ID:DZiXbyE0 [9/15]
ロレンス「なんだっていうんだ?謎かけのようなものか?」

ホロ「くふ。まだ気づかぬか」

ロレンス「気づくも何も、今の話は立場によって善悪が・・・・・・・あ」

俺が声を上げるのと、ホロがぶどう酒を飲み干すのはほぼ同時だった。

135 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/06/04(金) 00:33:16.61 ID:DZiXbyE0 [10/15]
ホロ「いい酒じゃ。・・・わかったかや?物事は見る角度によっていかようにも色を変える。前から見れば黒でも、裏から見れば白、なんてことはいくらでもありんす。今回の話も一緒じゃ。ある者にとっては確かに、あの粉は神の涙、なのかもしれぬ。じゃが、一方ではそれが悪魔のそれになることもある。真実はひとつじゃが、見方は人の数だけ存在するんじゃ」

ロレンス「あれは・・・老人にとっては万能薬であり、錬金術士にとっては違うと?」

ホロ「いかにも。そしてどちらも真実じゃ。ぬしがそこで頭を悩ませても何の解決にもなりんせん。ぬしにとって、どちらに映るかを考えるべきじゃ」


136 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/06/04(金) 00:37:32.75 ID:DZiXbyE0 [11/15]
ロレンス「お前といると、自分の浅はかさに泣けてくるときがあるよ」

ホロ「なあに、わっちとぬしとじゃ生きてきた長さが違うんじゃ。気にすることはありんせん」

ロレンス「しかしそうすると、やはりあの粉にはまだ秘密があるのか」

ホロ「そう考えるのが普通じゃの。老人にとって効果があったのは確かじゃが、果たしてそれだけなのかのう」

137 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/06/04(金) 00:44:22.69 ID:DZiXbyE0 [12/15]
ロレンス「もうひとつ、俺が気になったのは錬金術士の態度だ。あれは儲けを取られた悔しさ、というのもあるのかもしれないが、そう考えると最後の言葉が説明できない」

ホロ「ツテがどうたら、とかいうやつかや」

ロレンス「そうだ。俺の耳でも分かる。あれは張ったりじゃなく、本当にその気になればいくらでも流せる、という言い方だった。確かに、錬金術士と交流している商人は少なくない。あの女を介さなくても、はじめようと思えばいくらでもはじめられたはずなんだ。なのにやつらはそうしないし、その理由もわからない」

ホロ「うむ、確かにあれは嘘ではなかった。お手上げじゃの」

138 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/06/04(金) 00:49:57.05 ID:DZiXbyE0 [13/15]
ロレンス「逆に考えてみよう。もしも、あいつらにとって儲けることが目的じゃないとしたら・・・。そういえばあの女、量は少しずつしか渡さないと言っていたな。しかし、あのじいさんにとっては万能薬・・・・」

今までに集めてきた情報を頭で整理する。

ロレンス「くそ、わからない。ホロ、何か気づいたことはないか」

ホロ「気づいたことというか、うむ、ぬしに話してないことはある」

ロレンス「本当か」

ホロ「うむ。今日の夕方、あの錬金術士の女と会ったじゃろ」

ロレンス「ああ」

139 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/06/04(金) 00:51:49.98 ID:DZiXbyE0 [14/15]
ホロ「あの女の体からは、花の匂いがしとった」

ロレンス「花?」

ホロ「うむ。何の花かは分からぬが」

ロレンス「うう・・・む」

ホロ「くふ、役立ちそうにないの」

ホロはそう言って笑うと、尻尾をまいて布団に入ってしまった。

146 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/06/04(金) 21:50:54.49 ID:FEiTFVc0 [1/28]
ホロ「ぬし」

不意に声が聞こえた。
今が何時かはわからないが、空気からしてまだ夜中のようだ。

ロレンス「ホロ?」

ホロ「眠れぬ」

ロレンス「あ、ああ」

寝つきが悪いときは今までもあったようだが、こうして夜中に起こされるのはひさしぶりだ。

147 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/06/04(金) 21:52:05.78 ID:FEiTFVc0 [2/28]
目をこすりながら起き上がる。

ロレンス「待っていろ、今灯りをつける」

ホロ「よい」

ロレンス「どうしたんだ」

言うか言わないか、ホロが俺に抱きついてきた。

ロレンス「お、おい」

急だったのと寝起きだったのとで、思わず情けない返事をしてしまった。

148 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/06/04(金) 21:53:50.93 ID:FEiTFVc0 [3/28]
ホロ「ぬし・・・あの男と組むのかや」

ロレンス「・・・それはまだわからない。だが、そうだな・・・」

落ち着いてきた心をさらに落ち着かせようと、一息つく。

ロレンス「なんというか、まあ、最初にあったときよりは信頼してもいいかと思っている。ただ、組むかどうかは、粉のことがもっとわかってから決めるつもりだ」

こういうときにうまいこと言えるようになるのはいつなのだろう。

149 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/06/04(金) 21:54:52.01 ID:FEiTFVc0 [4/28]
ホロ「・・・・」

ロレンス「・・・そんな顔するな。お前は必ず故郷に連れていってやる。しばらくはここに滞在するかもしれないが、あの町商人たちも交渉しだいでは許可するだろうさ。俺は異国に、『神の涙』を売りにいくことになるらしいからな」

ホロ「そういうことを聞いておるのではない」

ロレンス「うん?」

ホロ「・・・何も言わずに、この町を去る気はないのかや」

150 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/06/04(金) 21:55:45.81 ID:FEiTFVc0 [5/28]
ロレンス「それはできない。そんなことをしたら、間違いなく俺の商人としての人生は終わりだ。町商人たちの入れ知恵であらぬ噂を流されるだろう」

ホロ「・・・わっちがおるではないか」

ロレンス「どうしたんだ、急に」

ホロ「わっちは・・・わっちはいらぬことを知ってしまったかもしれぬ」

ロレンス「何?」

151 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/06/04(金) 21:59:36.65 ID:FEiTFVc0 [6/28]

ロレンス「どういうことだ?」

ホロ「ただ、それをぬしに言うべきかどうかがわからぬ。正直・・・・迷いんす」

ロレンス「おいホロ」

ホロ「わかってくりゃれ。さっき話したじゃろ?わっちにとって正しいこと、正しくないことが、ぬしにとってそうとは限らぬ。今までもそうじゃった」

ロレンス「何を言ってるんだ?俺とお前の仲だろう!」

ホロ「・・・・・」

そのときだった。

152 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/06/04(金) 22:03:03.25 ID:FEiTFVc0 [7/28]

声「ロレンス!行商人ロレンスはいるか!!」

突然、扉を叩く音が鳴り響いた。

声「あ、あんたら何なんだ!ここは俺の店だぞ!!」

次に聞こえたのは、宿屋の主人の声だ。

声「大変なことになった!!じいさんが・・・じいさんが」

聞き終わらぬうちに、俺は扉を開けていた。

153 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/06/04(金) 22:07:25.41 ID:FEiTFVc0 [8/28]
ロレンス「どうしたっていうんだ」

つり目の男「起きていたか!」

ロレンス「いいから、何があったのかを教えてくれ」

つり目の男「錬金術士のやつらを甘くみていたんだ・・・。じいさんが・・・・・あいつらに・・・・」

そう言う男の眼は、今まで見たことがないくらい沈んでいた。

154 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/06/04(金) 22:12:54.14 ID:FEiTFVc0 [9/28]
つり目の男「一緒に来てくれ。ここも危ない」

何がなんだかわからなかったが、鬼気迫るその物言いに対抗する言葉を俺は持っていなかった。

つり目の男「畜生・・・・侮っていた・・・侮っていたんだ」

宿から出るときに、つぶやくその言葉が印象的だった。

155 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/06/04(金) 22:18:04.12 ID:FEiTFVc0 [10/28]
町商人たちの集会所は、地下にあった。
夕方に来たときはにぎやかに見えたその場所も、今は空気が沈んでいる。
そこにいたのは20人ほどの男たち。
誰しもが商人のようだった。

つり目の男「夜に、錬金術士のやつらがここを襲撃してきたんだ」

ロレンス「あの言葉は本気だったんだな」

つり目の男「迂闊だった。錬金術士のやつらはあの路地からは滅多に出てこない。そこに甘んじていた。俺らも普段は店があるから、ここには最低限の見張りしかつけていない。もっと警備を頑丈にしていれば・・・。どちらにせよ、後の祭りだ」

156 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/06/04(金) 22:26:53.07 ID:FEiTFVc0 [11/28]
ロレンス「それで、あの女は?」

つり目の男「連れて行かれた。俺のミスだ。あいつらに対して有効なカードはすべて揃っていたし、資金も計画も、すべて順調に進んでいた。同時に、それが慢心を生んだ・・・・。そこでピンと来た」

男は頭を抱えだす。

つり目の男「もしやと思いじいさんの家に向かった。扉を叩いても返事がない。叩きやぶって中に入ると・・・・・・・・・・じいさんは、ナイフで腕を切られて死んでいた」

157 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/06/04(金) 22:31:40.29 ID:FEiTFVc0 [12/28]
男は服の中から、血がまだついているナイフを取り出した。
おそらく、そのナイフであの老人は殺されたのだろう。
その刀身を見つめ、男はまた口を開く。

つり目の男「俺たちは今からあいつらのところに行く。もちろん、女を取り戻すという理由もある。まだあいつらが襲撃してきてからそこまで時間はたっていない、すぐに始末されることもないだろう。だが、それ以上に、俺はじいさんから光を奪ったあいつらを許せない。必ず報復してやる」

その瞳には覚悟が映っているようだった。


158 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/06/04(金) 22:35:06.29 ID:FEiTFVc0 [13/28]
あたりを見渡すと、集まった商人たちも手に武器を持っているようだった。

つり目の男「ロレンスさん。あんたもこちら側の人間のはずだ」

ロレンス「・・・・断れるような雰囲気じゃなさそうだな」

つり目の男「賢明な判断だ」

ロレンス「だが、俺はあくまで商人だ。確かにあの老人のことは残念だったが・・・」

つり目の男「残念だと?」

159 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/06/04(金) 22:44:18.43 ID:FEiTFVc0 [14/28]
次の瞬間、男は俺の眼前にナイフを突きつけてきた。

つり目の男「貴様に何がわかる。いや、貴様こそそんな台詞は吐けないはずだ。じいさんは俺の知る限り最高の商人だった。病さえ治せば、すぐにでも現場に戻れるほどのな。あいつらは、何の関係もないじいさんを、威嚇のために殺したんだ。ただそれだけのために。これが残念、だと?安い言葉で片付けるな!」

ロレンス「・・・・・」

ホロ「ぬしの言いたいことはわかった。わっちらも行けばよいのじゃろ」

ロレンス「お前」

ホロ「ここでもめても解決せぬ」

160 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/06/04(金) 22:54:39.46 ID:FEiTFVc0 [15/28]
つり目の男「あんたのつれは相変わらず物分りがいいな。・・・・すぐに出るぞ。場所はすでに察している」

男はそう言ってナイフをしまいこみ、むらがる商人たちを連れて地上に出ていった。

ロレンス「またお前に助けられたな」

ホロ「だいぶ頭に血がのぼっておったからの。ああいう時に何を言っても無駄じゃ。下手をしたらわっちらが報復されておった」

161 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/06/04(金) 22:59:26.21 ID:FEiTFVc0 [16/28]
ロレンス「しかし、本当に襲撃してくるとはな。その上老人まで・・・。やはりあいつらの目的は町商人たちとは別物・・・?」

ホロ「こうなってしまっては、もう止まらぬじゃろうな」

ロレンス「?」

ホロ「ほれ、何をしておる。この劇の終幕を見にいくんじゃ」

ロレンス「お前・・・やっぱり何か知ってるんだな?」

ホロ「行けばわかろう」

歩き出すホロの背中を追いかけて、俺たちは地上へと向かった。

164 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/06/04(金) 23:22:06.44 ID:FEiTFVc0 [18/28]
ホロ「しかし、今回の件は展開が早いの」

ロレンス「なんだ、突然」

錬金術士の塒へと向かう途中のことだった。

ホロ「くふ、ぬしとは色々あったからの。いくつかの町で今回のような事件に巻き込まれ、損をするときもあれば得をしたこともあった」

ロレンス「こんなときに思い出話か?」

ホロ「まったく慣れとは怖いものじゃ。ちょっと前からわっちもぬしも八方塞、頭を抱えて悩んでいたようなことも、今となっては多少の好奇心が芽生えてきておる。今回についても、ぬしは本気で心配してはいなかったじゃろ」


165 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/06/04(金) 23:25:45.15 ID:FEiTFVc0 [19/28]
ロレンス「それは俺たちならなんとかなる、という自負があってのことだ」

ホロ「わかっておる。じゃがな、欲には底がなく、慣れは次の欲を生む。わっちゃぁ長いこと神として崇められていたがよ、結局のところぬしらと何にも変わりゃぁせん。いつかぬしとおることも当たり前になってしまうのかもしれぬ。それを埋めるのはより強い刺激じゃ」

ロレンス「・・・・?」

166 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/06/04(金) 23:27:38.72 ID:FEiTFVc0 [20/28]
ホロ「じゃが死を前にしたわっちなら、あるいはそれに慣れてしまうとしても、対価を払ってでも、手に入れようとするかもしれなんだ。そうして手に入れてまた言うんじゃ、『もっと刺激を』とな」

ロレンス「ホロ、何の話をしているか、見えてこないんだが」

ホロ「ぬしよ、おそらく今回はわっちが一肌脱ぐことになるじゃろ。わっちが何をしても、目をそらさないでくりゃれ」

ロレンス「それはどういう・・・」

ホロ「ほれ、ついたみたいじゃ」


167 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/06/04(金) 23:34:24.11 ID:FEiTFVc0 [21/28]
路地の奥、薄暗い扉を叩いたその先には、先刻あったばかりの錬金術士の姿があった。

つり目の男「逃げ出しているかと思ったぞ」

錬金術士「馬鹿をいうな。貸していたものを返してもらっただけだ、どこに逃げる必要がある」

目の前で向き合う二人の男。両者の周りには、それぞれの仲間がいた。

168 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/06/04(金) 23:35:11.15 ID:FEiTFVc0 [22/28]
つり目の男「嫉妬は感心できないな。もはやあの女も、あの粉も、貴様らの専売特許ではない。返してもらう」

錬金術士「まるで最初から自分たちのモノだったかのような言い分だな」

つり目の男「まだ始末はしていないんだろう?」

錬金術士「始末などせぬ」

明らかに余裕があるのは錬金術士のほうだった。

169 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/06/04(金) 23:39:01.24 ID:FEiTFVc0 [23/28]
錬金術士「貴様も商人というなら、貸し借りについてはもう少し学ぶことだな。もともと過ぎた玩具だったのだ。下賤な商人風情にはな」

つり目の男「最後の一言だけなら認めてやるが、前半部分についてはそのままお前らに返してやる。先に返しようのないものを奪ったのはお前らの方だ」

錬金術士「何のことだ?」

つり目の男「とぼけるな!!じいさんを・・・じいさんをなぜ殺した!」

170 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/06/04(金) 23:43:41.44 ID:FEiTFVc0 [24/28]
錬金術士「じいさん?」

つり目の男「お前らは昨日、俺らがじいさんの家から出てくるところを見ていたな。・・・正直、甘んじていたのは俺らの方かもしれん。まさか貴様らがそこまで堕ちているとは思わなかったからな・・・・!」

男が取り出したのは、先ほどのナイフだった。

つり目の男「病に倒れていたじいさんは、もう少しで光を取り戻せるところだったんだ。商人としての光をな。それを・・・・それをお前らは・・・・」

錬金術士「・・・・そうか、死んだか」

つり目の男「なんだと・・・?」

171 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/06/04(金) 23:45:32.15 ID:FEiTFVc0 [25/28]

錬金術士「もとはといえば貴様らが撒いた種だ。神の涙?笑わせるな」

つり目の男「言うにことかいてその台詞か・・・!」

錬金術士「だからやめておけと言っただろう?聞く耳を持たない貴様らが招いた結果だ、同情の余地はない」

172 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/06/04(金) 23:52:28.66 ID:FEiTFVc0 [26/28]

つり目の男「・・・これ以上は野暮というものか」

錬金術士「こちらも最初から交渉で解決するとは思っていない。馬鹿な貴様らのことだ、今更何を言っても聞かぬだろう。まあ、出会ったときから変ってはおらぬがな」

つり目の男「ならば償わせてやる。教会にも世間にも見放された町の埃、ここで掃除するのが町のためというものだ」

錬金術士「その埃にすら出し抜かれる貴様らは何だというのだ?・・・抜くがいい、我々も覚悟はできている」

173 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/06/04(金) 23:53:21.88 ID:FEiTFVc0 [27/28]
まさに一触即発といった雰囲気だった。
たしかに冷静さでは錬金術士の方が勝っていたようだったが、彼らにも迷いはない。
血が流れることは必至のように思えた。

ただ、

ただひとつ、





ホロ「待ちんす」





そこでこの声が出るのは、本当に予想外だったが。

174 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/06/04(金) 23:58:05.72 ID:FEiTFVc0 [28/28]
ロレンス「お、おいホロ・・・・」

ホロ「そろそろ潮時じゃの。錬金術士とやら、タネ明かしをせずに無駄な血を流すつもりかや?」

ホロの表情はあきれたような、悲しそうな、複雑なものだった。

錬金術士「貴様は・・・?」

ホロ「ふん」

今度は不機嫌な顔をして、両者の間に入っていった。

175 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/06/05(土) 00:02:58.69 ID:K6O3co20 [1/22]
つり目の男「何様のつもりだ!着いて来いとは言ったが、何の権限があってこの場に出る!」

ホロ「ぬしらが扱っているあの粉、神の涙と言ったの。ふん、気は進まぬがあえて言うとするなら、わっちがその神じゃ。ほれ」

ホロは言い終わらぬうちに、かぶっている帽子を脱いで耳を出した。
俺の心臓が尋常じゃない速さで鳴っていたのは言うまでもない。

176 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/06/05(土) 00:07:15.06 ID:K6O3co20 [2/22]
思わず場がどよめく。

つり目の男「き、貴様、あ、悪魔憑きか!!」

ホロ「神だと言っておろうに。まあ、ぬしらにとっては、神だの悪魔だの、立場によって言い換えるのじゃろうな。なんでもよい、好きに呼ぶがよい」

ロレンス「お、おい・・・」

ホロ「今までこの男のつれだと言っておったがな。実際にはわっちのつれがこの男じゃ。とある事情でわっちについて来るようになっての」

よくも口がまわるものだ。

178 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/06/05(土) 00:12:41.47 ID:K6O3co20 [3/22]
ホロはため息をついてから、ゆっくりと語りだした。

ホロ「さて、ちなみにわっちの耳は真実を聞き分ける。まずひとつ、町商人とやらよ、おぬし嘘をついておったの」

つり目の男「何・・・?」

ホロ「隠さずともよい。あの女はすでにぬしらに粉の作り方を教えておったのじゃろ?」

つり目の男「!!」

男が後ずさりをしそうになるのを、俺からでもはっきりと確認することができた。

180 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/06/05(土) 00:25:19.00 ID:K6O3co20 [4/22]
>>179
元気でた

ホロ「それでもなお、あの女の身柄を拘束するのはなぜか?答えは簡単じゃ、原材料を仕入れることができるのが、あの女だけじゃからの」

つり目の男「・・・・」

黙っている様子からして、真実のようだ。
だが、ホロはいつからそれに気づいていたのか。
なぜ、俺に言わなかったのだろうか。

ホロ「図星のようじゃの。商人とはいえ、原材料の仕入れに莫大な関税がかかっていては、差し引きとして損をすることになる。いくら効果が素晴らしい秘薬とて、あまりにも効率が悪い。また、その材料は自らの手で作ることもできるが、町商人が商売の傍ら、人にばれぬようにそれを作るのはまず無理じゃ」

ロレンス「ホロ、お前はその材料を知っているのか?」

181 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/06/05(土) 00:33:24.11 ID:K6O3co20 [5/22]
ホロは俺を無視して話を続けた。

ホロ「かようにして、ぬしらはその製造方法は手中に収めたが、効率よく粉を生み出すためには女を利用した方がよいと考えた。うむ、そこまでは正しい判断じゃの。問題はあの粉の効果を間違えていたところじゃ」

つり目の男「間違えてなどいない!!あの粉は・・・・あの粉は万能薬だ!じいさんの痛みはあれで消えた!!笑顔を見せることなど、とうに諦めていたじいさんが・・・あの粉で元気になったんだ!たしかにすぐに効果はでなかったかもしれない。だが確実に容態はよくなっていたはずだ!一日に何度も処方していたんだからな!!」

錬金術士「量は?」

つり目の男「量・・・?」

錬金術士「処方する粉の量だ。おそらく日に日に増えていったはずだ」

男の目の色が変わった。



182 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/06/05(土) 00:38:11.16 ID:K6O3co20 [6/22]
錬金術士「あれには一時的にだが、確かに鎮静作用がある。だが使用しているうちに体には耐性が生まれ、処方する量は日に日に増えていく。凄まじい中毒性を有し、終いにはあれなしでは生きられなくなる代物だ。そんなこともわからずに使っていたのか」

つり目の男「嘘・・・だ・・・・」

あきれたような、それでいて冷酷な顔つきで錬金術士は言った。

183 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/06/05(土) 00:40:10.66 ID:K6O3co20 [7/22]
錬金術士「神とやら。お前はどこかであれを見たことがあるんだな」

ホロ「大昔にはあれがよく出回っていての。わっちらの仲間の間でも噂になっておった」

錬金術士「いつから気づいていた?」

ホロ「ふん、ぬしの同胞とやらの女の体から、花の匂いがしたんじゃ。






ケシの花の、甘い匂いがの。」






184 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/06/05(土) 00:42:11.60 ID:K6O3co20 [8/22]
その瞬間、俺の中でバラバラだったものが一瞬にして固まるのを感じた。

神の涙。
悪魔の涙。

老人の病と万能薬。

ロレンス「ケシの花の樹脂から精製していたのか」

つり目の男「・・・・」

ロレンス「大昔の話だ、あれが薬草として使われていたのは・・・」

つり目の男「馬鹿な・・・・」

185 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/06/05(土) 00:47:43.98 ID:K6O3co20 [9/22]
つり目の男「だ、だが、じいさんを殺したのはお前らではないのか」

もはやつり目の男に覇気は感じられなかった。

ホロ「あれには幻覚作用があっての。効果がきれると、悪夢にうなされ、いてもたってもいられなくなるそうじゃ。考えてもみよ、人を殺すつもりの者が腕を切るなど大それたことをするかや?普通なら心臓を一突きじゃ。もっと言うなら、そのような小さい短剣で他の部分に外傷をつけぬまま、腕を切れるわけがありんせん。おそらく・・・あの老人が自分で切ったのじゃ。幻覚にうなされての」

つり目の男「俺が・・・・俺がじいさんを・・・・」

186 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/06/05(土) 00:52:07.28 ID:K6O3co20 [10/22]
錬金術士「・・・・あれを生み出したのは我が同胞だ。ケシの花の毒性についての知識はあったが、精製することでさらに効果を高めた品を、あの女は市場に流そうとしていた」

ロレンス「最初からあなたたちは、あの粉を世間に出さないことだけが目的だったんだな」

錬金術士「神など信じておらぬが、人の欲が限りなく存在することは知っている。この目で見るまではにわかに信じられなかったが、いざ存在を知るとなると、恐れ慄いたよ。まさに『悪魔の涙』、とな」


187 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/06/05(土) 00:55:52.56 ID:K6O3co20 [11/22]

それからのことの顛末は、書くにも無残なものだった。

もちろん、ケシの話が真実かどうかを男に確かめる術はないし、ホロが神だといい放つことに異論を唱えられたら面倒なことになっていたかもしれない。

だが、その点ホロのやり方は実に合理的なものだった。

まずは姿を示し、嘘を見抜き、錬金術士と俺の知識を引っ張り出すことで、言葉に説得を持たせる。

それは確かに、神のような所業だった。

ホロ「悪魔やもしれぬぞ、ぬしよ」

一言多いのはいつもだが。


188 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/06/05(土) 00:58:44.79 ID:K6O3co20 [12/22]
町商人たちの組合は、男の判断により決裂。
意図しないとはいえ、救うべきだった人を送ってしまったのだ、当然だろう。

錬金術士とも、今後あの品を扱うことをお互いに禁止することで話がまとまったようだった。



ロレンス「なあ」

ホロ「なんじゃ」

ロレンス「ほんとはお前、かなり前から粉の正体に気づいていたんじゃないのか?」

ホロ「ほう。して根拠は?」


189 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/06/05(土) 01:02:40.59 ID:K6O3co20 [13/22]
ロレンス「ない。だが、よくよくお前の行動を考えなおしてみると、俺に首をつっこませないようにしていたとしか思えん。最初から一貫して、取引には否定的だったしな」

ホロ「ふむ」

ロレンス「俺たちは慈善活動をしているわけじゃない。儲けを出すのが仕事だからな。だが、それでもお前なら、粉の正体に気づいた時点であの老人を救うことはできたんじゃないのか?」

ホロ「救う、とはなんじゃ?」

ホロはまっすぐとこっちを見つめる。


190 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/06/05(土) 01:06:09.89 ID:K6O3co20 [14/22]
ホロ「粉の使用をやめさせ、苦しみを取り戻すことかや?」

ロレンス「それは、・・・うむ」

ホロ「はて、どっちがいいのかの。それはわっちにもわかりんせん。あの薬が、あの老人の痛みや苦しみを一時でも取り除いたのは事実じゃ。結果としてはああいうことになってしまったがの。ぬしならばどうするのじゃ?たとえ耐性ができてしまうとしても、苦しみに立ち向かえるかや?わっちは無理じゃろうなあ、苦しいじゃろうなあ」

ロレンス「・・・・」

191 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/06/05(土) 01:09:07.45 ID:K6O3co20 [15/22]
ホロ「あの薬がいいものか悪いものかはわっちにもわからぬ。そして、おそらくそれは意味のないことじゃ。使う者がそれを欲するなら、それは良きものなんじゃろう。そういう意味では、連中の言うように、あれは神の涙であり、同時に悪魔の涙だったのかもしれぬ」

ロレンス「人の数だけ見方がある、か」

ホロ「場合によるがの。ぬしが使おうとしていたら是が非でも止めていたところじゃ」


192 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/06/05(土) 01:11:45.71 ID:K6O3co20 [16/22]
ホロ「しかし、うむ。似ておるの」

ロレンス「うん?」

ホロ「ぬしらも恋をするじゃろ。言わなかったかや?慣れとは恐ろしいが、それでも人は求めてしまう。一人は、寂しいからの。実に似ておる、今回の話とな」

ロレンス「まるで他人事だな」

ホロ「わっちは賢狼じゃ」

193 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/06/05(土) 01:17:03.06 ID:K6O3co20 [17/22]
ロレンス「結局、お前の言ってた『一番欲深きもの』ってのは、俺たち人間のことだったのかもな。たしかに、おかげで足かせが外れた」

ホロ「くふ。今回はわっちの独壇場だったの。一つ貸しにしてくりゃれ」

ロレンス「・・・・俺に黙っていたのは、やっぱり、あれか。狼の姿を・・・」

ホロ「ぬし、その話はもうやめじゃ」

ホロは人に崇められる存在だった。
だが、その信仰は彼女に孤独しかもたらすことはなく、その影響からか、ホロは人に畏敬の念を持たれるのを極端に嫌う。

おそらくこういう結果になることは見えていて、出来ることなら何もなかったかのように町を去りたかったのだろう。

俺が粉の誘惑にそそのかされたせいで、ホロにいらない迷惑をかけてしまったわけだ。

194 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/06/05(土) 01:19:56.91 ID:K6O3co20 [18/22]
ロレンス「あの女は少しずつ、粉を商人に流していた。耐性がつくのを少しでも遅らせるために。あの男はそこに疑いを持たなかったみたいだな」

ホロ「ぬしも少し頭を使えば気づいたはずなんじゃがの」

ロレンス「面目ないとしかいえない。・・・・だが」

町の出口に差し掛かったところでふと思った。


195 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/06/05(土) 01:28:28.59 ID:K6O3co20 [19/22]
ロレンス「あの粉はすべて処分したそうだが、これから先、いつの時代かはわからないが、あれが商売に使われることになるのは間違いないだろうな。使えば使うほど、より多くの粉が必要になる。それは苦しみや痛みを和らげる魔法の粉。公にはならないだろうが・・・確かに、莫大な利益を生む元にはなりそうだ」

ホロ「少なくとも、わっちらには扱えるような代物ではありんせん。その時代のやつらに、判断は任せることじゃな」

その時代の人々も、多いに振り回されることになるのだろう。

その度にもしかしたら、俺たちと同じようなことを考えるのかもしれない。

これは神の涙か、悪魔の涙か、と。

196 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/06/05(土) 01:30:59.16 ID:K6O3co20 [20/22]
ロレンス「判断は人それぞれあっていい。だが今回の俺たちに限って、あの粉は悪魔の涙だったのかもしれないな」

ホロ「くふ、神の涙なんぞ、そう簡単に見れるもんじゃありんせん」

そこで、ひらめいてしまった。

ロレンス「俺は何回か見たことがあるがな」

ホロ「む?」

ロレンス「その神は気づくと近くにいてな、大酒飲みで、理屈っぽい。素直になったかと思えばひねくれる。そうそう、かつては麦に宿る狼の・・・・」

ゆれる荷馬車の上で、ホロに横っ腹を殴られたのは、言い終わるか否かのときだった。

197 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/06/05(土) 01:34:08.39 ID:K6O3co20 [21/22]
あとがきとかをかいてみる。

原作の舞台が中世ということで、この時代にこういうものがあったらどうなるんだろうなーって思ってかいてみました。
かなり早く書いたので、誤字脱字多くて申し訳ないです。

感想とかあれば、書いてくださると励みになります。
最後まで見てくれた方、ありがとうございました。

おしまい

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