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美琴「まだ生きてたの?」

1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/01(日) 18:26:09.00 ID:6gqQ2Spv0 [1/64]
暇だから俺の持つ全ての厨二スキルを駆使して書いてみる

とりあえず誰か俺を罵ってくれないか?
でも心に来るのはやめてくれ

4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/01(日) 18:28:58.31 ID:6gqQ2Spv0 [2/64]
巡り合わせ、運命の因果。
おおよそ、この世界最高の科学技術を誇る学園都市では、鼻で笑われて一蹴させられそうな話の様に思える。

しかし、苦しんでいる人達を救えると信じて自分のDNAマップを提供したあの幼き日から始まった運命は、多くの人間を悲劇と欲望の連鎖に巻き込んだ。
大量の血を、欲望で固めて鎖の形にし、それで縛り上げた人間に悲劇を与え続ける。
例え何度も何度もその鎖を引き千切ろうとも、何度でも何度でも欲望がその鎖を紡ぎ直し、運命の束縛から逃れる事をけして許さない。
分かりやすく言えば、目を覆いたくなる様な最低最悪なBAD ENDが確定しているのに、けしてリセットボタンを押させてもらえず、その最低最悪なエンディングを最後まで見ない限りは終らせてくれないゲームに似ている。

だが、絶望の底に沈められ、全てを失うまで延々と広がり続けると思われた運命の因果は、あの日、そう全てを諦め絶望したあの日に、一人のヒーローによって断ち切られた。

あらゆる幻想を消しさる右手が、彼女を縛り続けていた運命をも打ち砕いてしまった。

そのヒーローがあの史上最悪の悪魔を倒したあの日、彼女は全てが終わったものだと確信していた。


しかし、幼き日から始まり、そしてあの右手に打ち砕かれたと思われた運命は、けして消滅することは無かった


残骸争奪戦。妹達を2万人殺す事を啓示したあの樹形図の設計者のレムナントが、彼女の後輩を巻き込み、そしてまた、あのヒーローにより助けられたのだが…
ただの残骸ごときが、再びあの運命の鎖を紡ぎ直そうとしていたのだ

ただの残骸にすら広がる運命の因果。
それに巻き込まれる人達との巡り合わせ。

そして彼女には、もう二度と巡り合いたくない人間、いや悪魔が1人いる

そんな悪魔と再び出会ってしまう事も、運命の巡り合わせと呼ぶのだろうか


6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/01(日) 18:30:09.22 ID:6gqQ2Spv0
一方通行「……」

美琴「……」

そこは学園都市のとある病院。
美琴は、自分の後輩のお見舞いに来ていた。

ただお見舞いに来ていただけの彼女には、そこであの悪魔とばったり偶然出会ってしまう可能性など、1%も考えられなかっただろう。
200万人を超える人間が住むこの都市で、その一片の中の一片にすら値しないこの病院で、それこそ10年前に買ってそのまま忘れていた宝くじが、実は1億円に当選していた事を偶然知るくらいの確率で起こるかもしれない偶然中の偶然など…

久しぶりに見たその悪魔は、緑色の病衣を纏い、首に黒いチョーカーを付け、現代的なデザインの杖をついている。
以前彼と会った時とはかなり違う印象を受けたのは事実であるが、それでもあの白髪と鮮血の様な紅い瞳、美白を通り越して生気を感じさせない程の真っ白な肌。
そして何よりも、正面に立つだけで足がすくんでしまうほどの、呼吸の仕方すら忘れてしまいそうなほどの得体のしれない恐怖感。
それらが、彼があの悪魔であるという事をほんの一瞬も迷うことなく確信づける。

事実、彼女は一方通行と対峙した事で、足がすくんでいた。
呼吸すらまともにできているか分からない。
それでも、彼女は何とか声を絞り出す。

美琴「……まだ生きてたの?怪我してるみたいだけど、実験失敗の責任でも負わされて殺されかけたのかしら?」

一方「……」


7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/01(日) 18:34:26.46 ID:6gqQ2Spv0
美琴「で?今度は何を企んでるの?レベル6とかいう下らない幻想にしがみついて、今度は何万人殺すのかしら?」

一方「……」

美琴「どうせアンタは人間の命なんてなんとも思っちゃいないんでしょ?
   あの娘達が受けた痛みのほんの少しでも理解できているのかしら?そんなわけないわよね?」

美琴「もしも本当に万が一できているとしたら、生きてる事すら申し訳ないと思って自殺してなきゃおかしいもの。一万回死んだって足りないくらいじゃない?」

もしも普段の自分が客観的に今の自分を見たら、殴り飛ばして蹴り飛ばして、あまつさえとどめに超電磁砲を食らわせてるだろう。そのくらいに汚い罵詈雑言。

分かってはいる。今の自分がどれだけ醜いか。
それでも彼女は、心の底から湧きあがるコールタールの様にドロドロとしたどす黒い感情を抑える事が出来ない。
レベル5、学園都市第3位で、他の誰よりも自分の精神を制御する術に長けているはずなのにも関わらず

そして、そんな彼女に罵詈雑言を浴びせられても、目の前の白い悪魔は眉ひとつ動かさないし、口を開こうともしない。
まるで真っ白な石像に独り言をつぶやいているみたいに。
そんな態度が、余計に彼女の神経を逆なでした


8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/01(日) 18:36:07.92 ID:6gqQ2Spv0
美琴「すかしてんじゃないわよ!何とか言いなさいよこの殺人鬼!」

大音量で浴びせる怒声。
一体何事かと思った当病院の関係者達が、彼女と白い悪魔の方に向かってくる

一方「チッ…」

一方通行は軽く舌打ちすると、一言も喋ることなく彼女の脇を通り過ぎる

その通り過ぎる一瞬、ぞくっとした感覚が彼女を襲う
彼が横を通る時に生じる僅かな風圧が彼女の体に纏わりつき、恐怖が彼女の体中を駆け巡る

一方通行が完全に通り過ぎた後、彼女はまるで空気が抜けたかのようにその場にへたり込んでしまった
「大丈夫ですか!?」と言う看護士の声も、彼女の耳には届かない


9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/01(日) 18:39:20.28 ID:6gqQ2Spv0
【一方通行視点】

一方「眠ィ…」

その言葉の通り、本当に眠そうな目をして彼は病院の廊下を歩いていた。
あのガキとクソッタレな実験に関係しているというから、わざわざ入院中にも関わらず外出し、
無理矢理脳を動かして学園都市最強の能力を行使し、取るに足らない三下をぶちのめして下らない事件を終わらせた。
しかもアフターサービスまで完璧にこなしてきたのだ。全く一秒も寝る事無く。
まだ体力も怪我も完璧に回復してない彼にとってはシャレにならないくらの重労働だった。
まあ、そんな終わった事をぐちぐちとぼやいても、何がどう変わるわけでもない。
とにかく、彼の今最もしなければならない事は、病室のベッドに戻って、まっさらなシーツに包まって惰眠を貪る事……のはずだった。
しかし、病室じゃ中はガキがうるさくて眠れない。
外はどっかの馬鹿が「いえーい!」とか馬鹿騒ぎしてやがるからうるさくて眠れない。
ガキはともかく、騒いでたどっかの馬鹿は、特定でき次第この手で顔と骨格のバランスが変るくらいにぶちのめしてやりたい気分だ。

そろそろどっかの馬鹿も居なくなったろうし、ガキも昼寝の時間か?
ようやく病室で安眠できそうだ……などと考えている時に、その場面は訪れた

御坂美琴 学園都市第3位の電撃使い
そして、彼が一万人以上殺し続けてきた妹達のオリジナル

……言葉が出なかった。
こんな所で偶然遭遇した驚きも、気まずさも全てを含めて…


10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/01(日) 18:40:41.21 ID:6gqQ2Spv0
両者の間に漂う沈黙を破ったのは、彼女の方だった

浴びせられる罵声の数々。
しかし、彼はそれに対して怒る事も悲しむ事も無い。
申し訳なく思う気持ちすらも無い。
ただ、心地良かった。別に我々の業界ではご褒美です的な意味ではない。

罵詈雑言を浴びせられるのが、憎しみや敵意を向けられるのが、当然だと思っていた。
そうあってほしいとすら願っていたかもしれない。むしろ、そうでなければかえって居心地が悪く、気まずい空気に押し潰されそうになる。

例えここで殺されても、こいつがあのガキの面倒を代わりに見てくれるなら、それでも構わないとすら思っていた


謝る気など今更ない。許してもらうつもりもない。反論するつもりも、あまつさえ逆上して目の前の弱者を殺すつもりもない。
ただ単に、彼は彼女の激情の全てを受け入れる気でいた

彼女が大声を上げた事により、ただならぬ空気を読み取った職員が、こちらに移動してきた

邪魔が入った…そう思った彼は、彼女の脇を通り抜け、そのまま振り返る事無く一言も口を開くことなくその場を後にした

できることならもう二度と会いたくねェと彼は心からそう願った


11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/01(日) 18:43:18.02 ID:6gqQ2Spv0
その晩

美琴「……」

美琴は自室で布団にくるまっていた
本来は隣のベッドに居るはずの後輩もとい白井黒子は、現在入院中である。
あの悪魔と遭遇した病院に。
もしかしたら、自分の後輩がアイツに襲われるかもしれない…
さすがに考えすぎだとは思うが、あの悪魔がしてきた事を思えば、その考えがあり得ないものだと断言する事はできない。





美琴「眠れない…」

無駄に溢れるアドレナリンが副交感神経の働きを阻害する
原因は言うまでもないだろう。
これが恋の病とかならまだ微笑ましいものなのだが、
このまま寝ると間違いなく史上最悪21禁ホラー映画並みの悪夢を見そうな気がする…

結局、彼女は一睡もできないまま朝を迎えてしまった。


13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/01(日) 18:46:56.66 ID:6gqQ2Spv0
翌朝


今日も彼女は後輩のお見舞いに来ていた。
昨日のショッキングな出来事もあってか、病院に足を運ぼうか運ぶまいか、その単純なニ択の問答を小一時間眺めていた気がする。

結局

「お姉さま!どうして来てくださいませんの!まさか、この黒子というものがありながら他の男と!
 きいーっ!どうしてですの!?黒子は黒子はこんなにもお姉さまの事をお慕いしているというのに!!
 ……見捨てられた?この私が……お姉さまに愛想を尽かされて………
 これは、孤独な病室で一人寂しく朽ち果てろというお姉さまからの無言のメッセージ!?
 い゛や゛ぁぁぁぁぁぁあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!
 お姉さまお姉さまお姉さまおねえさまオネエサマオネエサマオネエサマ!!!!!」

とか叫びながら病室の壁にリズミカルに額を打ち付けて顔面血だらけにしてる後輩の姿がリアルに想像できてしまったため、
足を運ぶという選択肢を選んでしまった。

問題は、あの白い悪魔との遭遇率。



できることなら絶対にもう二度と会いたくないわねと彼女はそう思った


14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/01(日) 18:49:04.77 ID:6gqQ2Spv0
黒子「お姉様、目の下にもの凄いクマができてますわ。以前も同じような事がありましたけど、
   また何か悩み事でも?寝不足でしたら、無理にお見舞いに来て下さらなくてもよろしかったのに。」

美琴「……」

自分が想像したバイオレンスなイメージは、少々考えすぎだった様だ。
入院してる身にも関わらず、先輩の事を心配してくれる。
少々変態ではあるが、良い後輩を持ったものだと御坂h

黒子「そんな状態でもこの黒子に会いに来て下さるなんて、これも愛があればこそ!
   お姉様、今は二人きりですわ!そしてベッドが1つ!さあお姉様、今こそ二人の愛を一つに!」

何やら分けの分からない事を口走りながら飛びついてきた黒子を死なない程度の電撃で撃ち落とし、御坂は病室のドアを開けた。

黒子「あれ?お姉様、どちらへ?おトイレでしたらぜひ病室の備え付けをグへへ」

美琴「黙れ変態。ちょっと喉が渇いたからジュース買ってくる。」

そう言って、美琴は病室から出てった。

どうやら黒子も元気そうだし、もう心配はいらないかな?
まあ最初からたいして心配してなかったけど。


15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/01(日) 18:49:46.19 ID:6gqQ2Spv0
もっと俺を罵ってくれ

17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/01(日) 18:52:21.08 ID:6gqQ2Spv0
その頃とある中庭では

?「うーん、このヤシの実サイダーを買いたいけど、ミサカの背じゃ届かない!
  ヤシの実サイダー、どうしてあなたは上の段に鎮座してるの?
  ってミサカはミサカは届かぬ想いを愛しいあなたに問いかけてみる。これってまるでロミオとジュリエット?」

などと言いつつ、自販機相手に背伸びをしているお子様が居た。
水色のキャミソールに、白い大人物のシャツを羽織った女の子。
一生懸命かかとを浮かし、腕を伸ばし、むーんと唸りながら、懸命にボタンを押そうとする。
女の子がどれだけ必死か、頭上のアホ毛がブンブンと激しく暴れている様を見ればよく分かる。

その必死そうな女の子を、美琴は何やら奇妙な物を見る様な目で見ていた
そして、やれやれと一言つぶやき、美琴はその女の子の後ろに立った。

美琴「ヤシの実サイダーで良いのね?」

?「ほえ?」

美琴が自販機のボタンを押すと、ガコンと小気味の良い音とともに、女の子の目的としていた飲み物が出てきた。

?「ありがとう!ってミサカはミサカは見ず知らずの美少女を助けてくれた親切な御方にお礼を…」

と、途中で女の子は喋るのを止め、じーっと顔を見つめてきた


20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/01(日) 18:55:13.49 ID:6gqQ2Spv0
一体何なのだろう?そう言えば、ミサカって言ってなかったか?まさか…
でもよく見ると、小さい頃の自分に似ている様な気がしなくもない。

何も知らず、DNAマップを提供してしまったあの頃の自分の姿に…

?「もしかしてお姉様?美琴お姉様なの?」

どうやらビンゴの様だ。しかし、自分の知っているシスターズとはあまりにもかけ離れすぎている

打ち止め「うーんとね、初めましてお姉様!ミサカはナンバー20001号、識別名は打ち止め(ラストオーダー)だよ
     ってミサカはミサカは初対面の人の心を掴む極上のスマイルで挨拶してみたり!」

その後、美琴は様々な情報を打ち止めから得た。
彼女が妹達の上位個体であり、2万人の妹達を統制するために製造された事。
そして、今はある男の人と一緒に居る事など。
その男の話をする時、打ち止めは少々ためらいを見せた。
だが、話を聞く限りでは、どうやらその人には良くしてもらっているみたいだから、
何も心配はいらないだろう。
もしかすると、この病院の関係者だろうか?

打ち止め「お姉様、お姉様はなんでこの病院に来てるの?」

美琴「うん?ああ、私は後h」

打ち止め「もしかして、例のツンツン頭のお兄さん?」

美琴「な!なに言ってんのよ!なんであんな奴の名前がここで出てくんのよ(ビリビリッ)!」

と美琴が顔を真っ赤にしながら慌てふためくと、同時になぜか打ち止めも慌てふためく


22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/01(日) 18:56:15.58 ID:6gqQ2Spv0
>>16
ありがとう


25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/01(日) 18:58:46.09 ID:6gqQ2Spv0
ふと異常なノイズが左方向から聞こえてくるのに気付き、そちらを見る
自販機が警告音とともに、気前よくジュースを大量に吐き出していた。解せぬ。
とりあえず、彼女はとっさの判断でジュースをかき集め、同時に打ち止めの手を引っ張って全速力で逃走した。


その後、打ち止めに軽く説教を食らってしまった。
確かに非は自分にあるものの、自分より一回り小さい子供に説教されるのは大いに情けない。
打ち止めは、先ほど自販機が気前よく吐き出した大量のジュースの中からブラックコーヒーを選び、打ち止めが話していた男の元へと去って行った。
ブラックコーヒーが好きという事は、相手は大人か、少し背伸びをした少年か。
まあ保護者というくらいだから、後者はたぶん無いだろう。

美琴は軽くため息をつき、変態もとい黒子の病室に戻ろうとした。


それにしても眠い


思えば、今日は授業中ずっと眠かった。
しかし、瞼を閉じる事もできなかった。
それができるくらいなら、そもそも今現在進行形で寝不足で悩んだりはしていない。
とまあそんな事をぼーっと考えながら、両腕いっぱいのジュースを抱えて意識半分で階段を下っていると

ポロっと、腕の中に抱えているジュースの缶が一つ、そこからこぼれ落ちてしまう。
ぼーっとしていた意識がそこで初めて覚醒される。
しまった!と、彼女は後ろを振り向き、こぼれ落ちた缶に注意を向ける。
自分が階段を下っている最中であるという事に気付くことなく…


30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/01(日) 19:03:09.70 ID:6gqQ2Spv0
美琴「え……!」

重力により、なすすべなく体を後ろにもっていかれる

一体何をやってるんだか…
自分で自分が情けなく思えてくる。
今日の自分は本当にダメだ…

階段から転落していく身にも関わらず、その瞬間は案外冷静である事に自分自身でも少し驚いていた
だが、本当に驚いた事がもう一つ

そのまま階段から転落し、背中や後頭部を強打するはずだった彼女の体は、
転落するどころか、背中の方から重力とは反対方向の力で無理矢理押し返され、踊り場に両手を付いた

美琴「え?」

この状況に対し、理解が追い付かない

振り返ると、そこには白髪に赤い目、緑色の病衣に現代的なデザインの杖を付いた、けして会いたくはなかった白い悪魔がいた


31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/01(日) 19:04:51.85 ID:6gqQ2Spv0
>>29
それは否定しないが
罵られるとちょっと嬉しくてにやけてしまうのも事実です

33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/01(日) 19:07:34.11 ID:6gqQ2Spv0
一方「ボケっとしてンじゃねェよ」

と一言だけ言うと、彼は、驚きのあまりまだ立ち上がれない美琴の横をすり抜け、階段を上っていく



アイツが…私を助けた…?



美琴「どういうつもり?」

と美琴はようやく口を開いたが、一方通行はそれを無視して階段を上っていく

美琴「今更こんなことして、あの実験の事は許せとか言うつもり?恩でも売ってるわけ?」

違う……お礼を…素直にお礼を言おうと思った
でも、どうして口から出てくるのはこんな言葉ばかりなのだろう…
こんな暴言を言いたいわけじゃない。
とは言え、別に彼に対して何を望むというわけでもないのだが、
とりあえず今この場では、助けてくれた事に対するお礼を素直に言いたかった。

ありがとう…ただその5文字。
感情がこもって無くても棒読みでも構わない。
けれど、そんな簡単な事すら今の自分にはできない。


ふと何を思ったのか、一方通行は足を止め振り返った


35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/01(日) 19:09:44.80 ID:6gqQ2Spv0
>>32
字の文章がやたら多いから、少しでも見易くなるようにと思ってのことだが
修正しろクズって言ってくれる人が多いなら修正する

36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/01(日) 19:13:05.13 ID:6gqQ2Spv0
一方「で?テメェは俺をどうしたいンだ?俺にどうしてほしいンだよ?」

今まで美琴の一方的な罵詈雑言だった状況から、はじめて会話らしき会話として彼は美琴の暴言に対して返答した

一方「土下座でもしろってか?それともテメェの前で自害がお望みか?テメェの手で俺を殺してェンなら好きにしな。俺は反撃も反射もしねェからよ。」

美琴「ッ…」

確かに美琴は彼の事を憎んでいる。
だが、別に彼の並べる様な事をしてほしい分けでもしたい分けでもない。
そもそも、あんな汚い言葉をぶつける事すら彼女は望んでいない。
ただ、全てを終わらせたかった。
あのツンツン頭の少年が終わらせたはずのあの日から、未だにずるずるとしつこく纏わりつく何かを。
分からない…思考がグチャグチャになる…

一方「ただし、まずはその泣きそうなツラを何とかしろ。」

美琴「えっ……」

泣きそう…?自分が…?

美琴は思わず自分の顔面に手を当てる

一方「俺はしばらく入院してっからよ、不意打ちのチャンスも寝首をかくチャンスもいくらでもある。仇打ちとしちゃとンでもねェハンデだなァおィ。
   まずはロクに追いついてねェテメェの思考を整理しろ。そのうざってェ顔をどうにかしやがれ。」

そういうと、彼は美琴に背を向け、階段を上って行ってしまった


37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/01(日) 19:16:45.35 ID:6gqQ2Spv0
結局、また会ってしまったのか。
最悪だ。世界最高の科学を誇るなら、この最悪の偶然がなぜこうも的確に起きてしまうのかを科学で証明してほしいものだ。

追いついてない思考を整理しろと言われたが、美琴はますます一方通行という人物について分からなくなる。
彼は、まるで遊びと同じ感覚で自分のクローンを殺していた男だ。
忘れない。初めて彼と対峙した時から忘れられない、あの独特の全身を蝕む様な恐怖感。
おおよそ、普通の人間からはそんなものを感じる事はあり得ない。
あれを悪魔と呼ばずになんと呼べというのだろうか?人間と呼べ?冗談でしょ?

しかし、だからこそ分からなくなる。
なぜあの悪魔は自分を助けた?気まぐれ?それとも謝意の裏返し?
しかもあまつさえ、殺したければ好きにしろだと?
あの悪魔の様な人間が、なぜこの様な事をするのか?なぜその様な事を言うのか?ますます分からなくなってくる。
結局、その日に得られたものは頭痛と疲労感だけだった。

そう言えば、あの後黒子の部屋に戻ったら、例のツンツン頭の薄倖の少年がやって来た。
なぜか頭に包帯を巻いていたのだが、なんでも、この病室に来る途中の階段にて、いきなり上の階から大量のジュースが転がってきて、
そのジュースの缶に足を取られて階段から転落したとか。まったく、どこまで不幸な人間なのだろう。


39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/01(日) 19:20:50.07 ID:6gqQ2Spv0
【一方通行視点】

一方「ったく…」

ジュースを買いに行きたい。
打ち止めがそう言ったので、500円玉を渡してからはや2時間。
たかが病院内の自販機に行ってボタンを押してジュースを取りだして病室に戻る。
そこに2時間もかかる要素がどこにあるというのだ?
いくらガキとは言え、一週間以上滞在しているのだ。
いい加減この病院の内部構造も理解できていないとは思えない。
それでも万が一、迷子になっている可能性があるとしたら…

一方通行は軽く舌打ちをしてから、めんどくさそうにベッドから降り、スリッパを履き、杖を手にする。
あのガキの行きそうな場所は、一体どこだろうか?売店か、中庭か
まさか、誰かの病室に入り込んで、人様に迷惑をかけてるんじゃなかろうか

一方「ハァ…」

想像しうる可能性は、どれもため息の出るものしかない。
それに、彼には病院内をあまりウロウロしたくない理由がある。

学園都市最強の能力者。
良くも悪くもそれだけでかなりの有名人である。
それだけで向けられる奇異な視線がある。
外に出れば、それだけで敵意すら向けられる。
顔とオーラの怖さも相まって、それらがより強くなるのだが、無論一方通行自身はそんな状況を喜々として受け入れる様なマゾ太君でもサド太君でもない。
正直言って、いい加減うんざりしている。
変えようとして変えられるものでもないから、もはやそういうものなのだと半ば諦めて受け入れてしまっているのだが。


42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/01(日) 19:25:14.32 ID:6gqQ2Spv0
今回は、問題はそれだけに留まらない
昨日、偶然遭遇した超電磁砲
今まで多くの人間の恨みを買ってきた彼だが、
そんな数多の恨みの中でも特別、おそらく今この世で最も彼を憎んでいるであろう人物。

当然、会えば気まずくなるだろう。絶対に遭遇したくない。

と思っている時に限って彼女の姿を見かけてしまう。
何だ何だよ何ですかァ?神様って奴ァ、余程俺の事が嫌いみてェだなァ…不幸だ…

そんな彼を殴り飛ばしたどこぞの少年の口癖が思わず出てしまったが、不幸中の幸いだろうか、
彼女は自分の存在には気づいてないみたいだ。
それにしても、彼女が両腕いっぱいに抱えている尋常じゃないジュースの量は一体何だ?
自棄飲みってやつだろうか?気にはなるが、どうでもいい話である事に変りはない。

ちょうど自分の行き先が彼女と同じ上の階なのだが、それも彼女が通り過ぎた後に行けば良い。その点は特に問題無い。
一方通行はあくまでも距離を置き、彼女に気づかれない様に自分の進むべきルートを進む。
なんで自分がこんなコソコソとバカみたいな真似をしなきゃならないのだろうか?
と一瞬思いはしたものの、それも理不尽なものではなく、自分に非があるのだから仕方ない。


一方通行は本日2度目のため息を吐いた。
ちょうどそのため息に遅れて、悲鳴の様なものが上から聞こえてきた。

見上げると、その彼のため息の原因である超電磁砲が、バランスを崩して階段から転落しそうになっている。


43 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/01(日) 19:33:43.73 ID:6gqQ2Spv0
あんだけの量のジュースを抱えているとしても、このザマは一体どれだけマヌケで鈍い野郎なんだよ
と思う前に、彼は反射的に右手を伸ばし、遠距離から彼女が落ち行く重力のベクトルを上回る力を彼女の背中に叩きつけ、
彼女の体を押し戻した。

そして、彼女を助けた後に後悔した。
余計な事をしてしまったと。
助けたとこでお礼の言葉が返ってくるわけでもないし、
彼自身、超電磁砲からそんな言葉を受け取りたくは無いと思っている。
となると、助けた報酬は所詮彼女の罵声でしかないのだが、
それを延々と聞かされるのもうんざりだ。
だから会いたくなかった……


ただ一つ、予想と違っていた事がある


それは、彼女の顔が、目が、憎しみのこもったものではないという事だ

言葉は相も変わらず敵意むき出しだが、なぜか今にも泣きそうな顔をしている

一方通行が一番嫌いな表情だ


44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/01(日) 19:35:35.58 ID:6gqQ2Spv0
ああ、たぶんコイツは、頭ン中がぐちゃぐちゃなんだろう
超電磁砲は自分とは違う、いわゆる善人と言うやつだ。
クソッタレな科学者達が自分の利権のために製造した
二万体ものクローンを命がけで守ろうとしたくらいの。
こういう時は、なんの迷いもためらいも無く素直に感謝の言葉が言えるくらいの。


だから、今目の前のこの女の中では、
自分への感謝と、敵意や憎悪と、それを止めようとする理性が葛藤しているのだろう。

まったく、メンドクセェ奴だ


一方通行は、そんな彼女に一つのカギを渡した

シンプルな答えをはじき出すためのものだ。
感謝する必要は無い。素直に俺を憎めば良いという答えを導き出すための。

だが、そのカギは余計に彼女を苦しめるものになってしまったのであった。

45 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/01(日) 19:40:06.57 ID:6gqQ2Spv0
その晩

一方通行はベッドでくつろいでいた。
そのベッドを横切る様に、患者がベッドの上で食事をするための白い机が設置されている。
本来は食事をするための机なのだが、今その机の上は打ち止め専用のスペースとなっている。
行儀は悪いが、特に注意する気も起きない。
だが、まさか「今日のメインディッシュはミ・サ・カよ♪てへっ♪」とかふざけた事を言い出したりはしないだろうか?
いやまさかそんな…

打ち止め「今日のメインディッシュはミ・サ・カよ♪てへっ♪」

本当に言いやがったよこの馬鹿野郎

一方「どこでンな下らねェ事覚えてくンのか知らねェけどよ。
   テスタメントを使ってもう一回テメェの記憶を1から塗り替えた方が良いかもなァ?」

一方通行は打ち止めの小さな顔をがっちりとアイアンクローで握りしめた

打ち止め「いだだだだだ!冗談なのに!ただの微笑ましいウイットに富んだジョークなのにぃ!
     しかもミサカの記憶はバックアップがあるから、いくら記憶を消去しても塗り替えても意味が無いの
     ってミサカはミサカはあなたのアイデアは根本的な部分に欠陥があることを指摘していたーい!!」

打ち止めは小さな悲鳴を上げながら手足をバタつかせていたが、
あまり騒がしくすると周りに迷惑なので、一方通行はきりの良いところで解放してやった


47 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/01(日) 19:43:22.17 ID:6gqQ2Spv0
打ち止め「もう、相変わらず激しいのね♪でもそこがあなたのかわいいとこだよねってミサk」

一方「そンなに良かったンなら第二ラウンド行っときますかァ?」

打ち止め「のーさんきゅー」

やれやれと一息つき、一方通行はリクライニングのベッドに体を預けた

打ち止め「ねえ、今日ね、中庭でお姉様にあったんだよ。」

一方通行「……」

唐突だった。
まあ自分ですら二回も遭遇してるくらいだ。
打ち止めが超電磁砲と遭遇していたって不思議ではない。
あまり聞こえのいい話ではないが…

打ち止め「それでね、ミサカが一生懸命頑張ってたのに届かなかったボタンを、
     代わりに押してくれたの。それから、一緒にお話ししてね…」

一方「そォかい……俺の事は話したりしてねェだろうな?」

打ち止め「うん。あなたの名前は出してないよ。偉い?」

一方「及第点ってとこだな。」

一方通行は打ち止めの頭に手を乗せ、撫でてやる。
少し乱暴な手つきだが、それでも打ち止めは幸せそうに顔を綻ばせていた。


48 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/01(日) 19:49:55.24 ID:6gqQ2Spv0
打ち止め「ねえ、あなたはお姉様とお話ししないの?」

一方「……」

もしかしたら、打ち止めは知ってるのかもしれない。
この病院には打ち止めだけではない。他の妹達が数人いる。
そのうちの一人が、自分と超電磁砲のやり取りを目撃していれば、
MNWを通じて打ち止めも知る事ができる。

一方「…全部知ってるってことか」

打ち止め「うん…」

一方「…俺がお前らにしてきた事、忘れたわけじゃねェだろ?」

打ち止め「うん…でも、あなたは助けてくれた。ウイルスコードの時は、命がけでミサカを助けてくれたよね?それに、今回の事件だって…」

一方「…それでも、取り返しのつかねェ事が世の中にはあンだよ。
   何でもかンでもやり直しがきくンなら、人生なンか誰も挫けたり悩ンだりはしねェ。」

自分の犯した罪の重さは、良く分かっているつもりだ。
こいつ等の受けた痛みだって、自分なりに理解しているつもりだ。
アイツがどれだけ苦しんでいたかも…

何であんな実験に手を出してしまったのか?
絶対的な力を手にすれば、自分と関わろうとする馬鹿は誰も居なくなる。
だから、誰も傷つけずに済む。

どうしてそんなふうに考えてしまったのだろうか?

49 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/01(日) 19:52:01.96 ID:6gqQ2Spv0
もしかしたら、考えたくないことだが、怖かったのかもしれない。
誰かに好意を向ける事が。
そして、その好意が敵意に、憎悪に変る瞬間を見るのが。

このガキの様に、一方的に勝手に好意を抱いてくるのなら構わない。
もしそれが敵意に変っても、勝手にやってろよって感じで流す事ができる。
それでもダメージが全くないと言えば嘘になるが。
だが、自分が向けた好意が拒絶されたり、例え受け入れられても裏切られたりしたら…
考えたくなかった。情けない話だ。

そんな度胸も無い自分が、もしアイツに好意を向けたら確実に拒絶されるのが分かっているというのに、
良好な関係を築こうだなんて思えるだろうか?
そんな事は答えるまでも無い。


51 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/01(日) 19:55:55.84 ID:6gqQ2Spv0
一方「有り得ねェ話だ。」

打ち止め「でもッ!」

一方「ガキは寝る時間だ。さっさと部屋に戻れ!」

打ち止め「うぅ…」

打ち止めは机の上から降りると、未練がましさを全力で訴えつつ部屋を出ていこうとする

打ち止め「それじゃあ、おやすみなさいってミサカはミサカは弱々しく
     何かを訴えるような目をあなたに向けながら部屋から出ていくよ。」

一方通行は一言も言葉を発しない。
結局、病室の扉が閉まるまで、打ち止めに視線を向ける事は無かった。


52 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/01(日) 19:57:09.47 ID:6gqQ2Spv0
いらんとの指示が出たので消そうか


「おかしいよ…こんなの…」

いがみ合うよりは、仲良くした方がずっと良い。
悪い関係よりは、良い関係の方がずっと良い。
なのに、どうして上手く行かないのかな?

お姉様。確かにミサカ達は、あの実験で傷ついた。痛かったし苦しかった。
でも、それでもシスターズは彼の事を許している。
むしろ、彼の苦しみに気付いてあげられなかった事を申し訳なく思ってすらいる。

シスターズは一万人近く居るのだ。
もしかしたら、そう考えてるのは上位個体の打ち止めだけかもしれない。でも…

誰も彼の事を、血も涙も無い悪魔だなんて思ってないよ?
ちょっと不器用で乱暴で顔が怖くて性格も口もちょっと悪いかもしれないけど

「本当は優しいんだよ?優しくて、弱いの……気付いてよ……お姉様……」


54 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/01(日) 19:59:46.54 ID:6gqQ2Spv0
翌日

今日も美琴は病院に居た

昨日は一方通行に会いたくないが故に病院に来るのをためらっていた
しかし、今日は違う
むしろ、彼に会う事を覚悟していた。
相変わらずロクに寝ていないため、目の下のクマもレベルアップしているが。

で、今現在、美琴はとある人物と共にいる。
おそらく傍から見ると、二人は双子だと勘違いされかねないだろう。

「それで?話と言うのは何でしょう?とミサカは話を切り出します。」

「単刀直入に聞くけど……アンタ、一方通行がここに入院してる事は知ってるはずよね?」


55 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/01(日) 20:03:04.54 ID:6gqQ2Spv0
「……はい」

「で?アイツの事をどう思ってるわけ?」

「どういう意味でしょうか?ミサカはお姉様の質問の意図を理解することができません。」

「とぼけないで。アンタ、アイツに何されたか忘れたわけじゃないでしょう?」

「……はい。おそらく、一生忘れる事は無いでしょう。」

「じゃあ、何で平然としていられるのよ?何で殺人鬼と同じ屋根の下で平気で過ごしてられるのよ?」

「その質問に答える前に、ミサカはお姉様に話さなければならない事があります。
 これは、上位個体の意思でもありますから、どうか聞いてください。」

上位個体?あの小さな妹の…


56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/01(日) 20:06:14.99 ID:6gqQ2Spv0
ミサカ妹は、自分が知る限りの全てを伝えた。
8月31日に、上位個体に投入されたウイルスにより、
シスターズが暴走するという危機を一方通行により救われた事。
同時に、一方通行は演算能力と言語機能を失い、今はシスターズが代理演算している事。
上位個体は今、一方通行と共に居て、とても幸せそうである事。
そして、あの残骸争奪戦を最終的に解決したのは一方通行であるという事も……

話が終わるまで、美琴は眩暈で倒れそうなのをずっと耐えていた
自分の中の何かが揺らぐ……軽い吐き気すら覚える…
一方通行は……彼は……

彼女の知る本来の一方通行、昨日助けられた時の一方通行、そして妹達が語る一方通行

どれが本当の彼なのだろうか?

解決するどころか、ますます分からなくなっていく…

「大丈夫ですかお姉様?顔色が優れないみたいですが…」


57 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/01(日) 20:09:37.86 ID:6gqQ2Spv0
ミサカ妹は美琴の額に手のひらを当て、簡易的な体温検査を行う

「大丈夫よ…ありがとう、話してくれて…」

美琴は妹に気を遣うように、笑顔でミサカ妹の手をどける

「最後に一つだけ、良い?」

「はい、何でしょうか?」

「アンタは、アイツを許してるの?それとも、まだアイツを恨んでる?」

「その質問はナンセンスです。そもそも量産型能力者計画が失敗に終わったにも関わらず
 ミサカ達が造られたのはあの実験のためであり、ミサカ自身もあの研究に対して積極的に協力していました。
 全てを彼のせいにして一方的に恨むのは、適切ではないとミサカは判断しています。一方通行なだけに一方的に……フフフ」

その言葉(最後を除く)は、美琴の胸に鋭く突き刺さる


58 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/01(日) 20:13:47.88 ID:6gqQ2Spv0
そう、もとはと言えば、自分がDNAマップを渡してしまった事が元凶なのだ。
あの実験の責任も、全てではないとしても、大半は負っているはず。
それでも彼女達が生まれた事。それは間違いではない。
それだけは、絶対に誰にも否定させたりはしない。
その事は、あの狂った実験を止めてくれた少年も認めてくれた。

そして、実験の負の部分。
実験が中止されて今もなお、彼女を縛り続けている悪夢。
そろそろ、決着をつける時なのかもしれない。
全てを知り、全てを受け入れて、そして前に進むために


「お姉様、私達は彼を憎む前に、彼の事をもっとよく知るべきではないでしょうか?」

「……そうね、全くその通りだわ。ほんと、アンタには頭が上がらないわ。」


その時は、今しかない
絶対に逃げるわけにはいかない


59 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/01(日) 20:15:32.74 ID:6gqQ2Spv0
逃げるわけにはいかない

そう決心したまでは良い。
実際に、彼の病室を見つけた。
しかし、いざ病室の前まで来たものの、ドアをノックする勇気がない。
実際会って、どうやって話を切り出せばいい?
あんな酷い言葉をぶつけておきながら、今更……

美琴「ええい!今更怖気づいてどうすんのよ!」

美琴は自らを奮い立たせ、そしてドアをノックする

一回、二回、コンコンと音を立てる

美琴「やばい…心臓が…」

心臓が尋常じゃないくらいのスピードで脈打つ
これだけ緊張したのはいつ以来だろうか?


しかし、そんな美琴の焦り具合とは裏腹に、病室の方からは全く返事が返ってこない


60 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/01(日) 20:17:29.94 ID:6gqQ2Spv0
すまん、無意識で名前つけた


「?」

美琴は怪訝に思い、首を傾げた後、再びドアをノックする
しかし、全く返事が返ってくる様子はない。
もしかしたら無視されているのでは?と思い、美琴はドアを開けてみる…


そこには……




誰も居なかった


61 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/01(日) 20:20:14.13 ID:6gqQ2Spv0
「やれやれ、ウザってェくれェに退屈なもンだな、入院生活ってなァ。」

一方通行は退屈な病室という空間に耐えられず、中庭で散歩していた。
時間的にはもうすぐ夜の7時。日も沈みかけ、外はもうほとんど人が居ない。
わざとこの時間帯を狙って散歩しているのは言うまでもないだろう。

中庭を散歩してるとは言え、病院内である時点で退屈な事に変りはない。

これからは生活習慣に関してもっと気をつけるべきか?
かつては銃もナイフも核ミサイルすらも恐れた事の無い無敵な彼が、
珍しく自分の身体の安全と健康に気を配った貴重な瞬間かもしれない。


62 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/01(日) 20:22:35.26 ID:6gqQ2Spv0
打ち止めは芳川と一緒に外に出てるから遅くなるらしい。
居たら居たでやかましい事この上無いが、居ないとそれはそれで静かすぎる気もする。
しかし、けして寂しいという結論を選ぶつもりは無い。

さて、そろそろ戻るか。と一方通行は退屈な病室へ向かい、
退屈な時間を睡眠という手段で回避する計画を頭の中に打ちたてた。


しかし、その計画は初っ端から頓挫する




目の前には、なぜか息を切らせながら、彼の進路に立ちふさがる御坂美琴が居た。


63 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/01(日) 20:24:32.63 ID:6gqQ2Spv0
「あと一時間で面会時間は終了だぜ?それとも何か?ここで俺を殺そうってか?」

「………」

「ったく、用があンならさっさと言えよ。」

「……て」

「はァ?何言ってンだかきこえ」

「話して、全部。アンタがこの実験に関わった理由の全てを!」


「……」

今更そんな事を聞いてどうするつもりだ?
答えなら以前教えたはずだ。


65 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/01(日) 20:28:11.61 ID:6gqQ2Spv0
「決まってンだろ。絶対能力者に進化するためだ。
 オマエ記憶障害でもあンじゃねェの?良かったなァ、ここはちょうど病院だぜ?」

「嘘よ…」

「嘘じゃねェよ」

「嘘よ!じゃあ何でアンタはそんなボロボロになっても打ち止めとあの娘達を守ったのよ!
 あの娘達をただのモルモットとしか見ていなかったはずのアンタが、何であの娘達のために体をはったのよ!」

一方「……」

打ち止めは今日は居ない。
おそらく、喋ったのはこの病院に居るシスターズのうちの誰かだろう。
余計なことをしてくれたものだ。

「気まぐれだ。特別な理由なンかねェ。」

「あれ程力に執着してたのに、どうでも良い理由なんかで演算能力を捨てるわけないじゃない!
 実験を諦めるわけないじゃない!本当の事を話してよ!」


67 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/01(日) 20:32:29.12 ID:6gqQ2Spv0
「どォでもいいだろォが!俺は悪人だ!てめェの言うとおり殺人鬼だ!悪魔だ!
 それで良いじゃねェかよ!何を期待してンだか知らねェけどよォ、事実は変らねェんだよ!」

「変らないなんてどうして言えるのよ!本当の事を話もしないで!
 アンタ、さっきからずっと私の目を見ようとしてないわよねぇ!
 アンタの言う事が本当だって言うなら、ちゃんと私の目を見て話しなさいよ!」

「しつけェぞ!付き合ってられるか!」

互いに激昂する二人。一方通行も美琴も、互いにけして譲ろうとはしない。
そして、うんざりした一方通行は、この病院で最初に会ったときと同じように
美琴の脇を通り抜け、その場を後にしようとする。

しかし、あの時とは違う。

美琴は去ろうとする一方通行の腕を掴み、強引に引っ張る

おおよそ平均的な男子高校生なら、女子中学生が腕を掴んできても比較的簡単に振りほどけるだろう
しかし、一方通行の力は平均的な男子高校生よりも劣っている上に、彼は杖をついている身である。
そんな彼が、後ろから思いっきり引っ張られたら…


68 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/01(日) 20:34:32.30 ID:6gqQ2Spv0
「どあッ!テメェ!なにしやがッ!」

「えっ!ちょ、キャッ!」

もつれ合うように転倒する二人

「ったくよォ、なンなン…」

「あ……」

気がつくと、自分の鼻先1センチあるかどうかの距離に美琴の顔があった
一方通行が美琴に覆いかぶさっている状態である。
誤解を受けそうな非常によろしくない状況だ。


69 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/01(日) 20:36:40.27 ID:6gqQ2Spv0
そして美琴の方はと言うと、彼女は一体何があったのか理解できていない様子だ。
驚きで見開いたままの目はじっと一方通行の顔を見つめており、
「近くで見ると本当に真っ白な肌ね……」とか呑気にそんな事を考えていた。
なぜか頬が紅潮しているが、その自覚は無い。

とりあえず起き上がるために、一方通行は手に力をこめたのだが、
その手には固い地面の感触ではなく、何やら妙に軟らかい物が……

「あン?まさか…」

それは、打ち止めに抱きつかれた時には絶対に感じる事のない感触

「んっ…だめ…」

「目を覚ませ三下ァ!」

今日は、レベル0の少年に拳ひとつで敗北したあの日に匹敵するくらいに嫌な日だと、一方通行は確信した


70 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/01(日) 20:38:44.70 ID:6gqQ2Spv0
「……で、何の話をしてたンだ俺達はよォ」

「えっと…」

すっかり調子が狂ってしまった。
今はむしろ違う意味で気まずくて、お互い目を合わせる事が出来ない。

美琴は軽く咳払いをして、何とか彼女の目的である本題を切り出す

「アンタがあの実験に参加した、いえ、むしろ何でそんなにも絶対能力者になる事に執着してたのかを話して。」

「だから、俺は単純に力が欲しかっただけだっt」

「胸……触った…」


71 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/01(日) 20:41:03.30 ID:6gqQ2Spv0
「はァ?」

「女の子の胸を触ったら、何か一つ絶対に言う事を聞かなきゃいけないの!
 じゃなきゃ死刑よ!法律で決まってんだから!」

一体何という法の第何条第何項にそんなふざけた事が書いてある?
本当にあるなら六法全書を穴が空くまで調べつくしてやると叫びたい気分だった

結局、一方通行が美琴に押し負ける形となってしまった

日はすでに沈んでいる
一体今は何時くらいだろう?
何時にせよ、常盤台の女子寮の門限はとっくに過ぎている

だが、そんな事は微塵も気にならない。今は、それよりも遥かに大切な事がある。


72 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/01(日) 20:47:02.44 ID:6gqQ2Spv0
二人は中庭のベンチに腰かけていた
傍にある街灯のおかげでお互いの顔を認識する事は可能であるが、
もしかしたら明かりがなくても、一方通行の真っ白な肌は、
真っ暗闇でも相当目立つのではないだろうか?
想像してみると、まるで幽霊みたいだ。
学園都市の七不思議に数えられてもおかしくはない。

「オマエ、今ものすげェ失礼なこと考えてなかったか?」

「え!?そんな事ないわよ!?それよりも話してよ。」

「……オマエが望む様な答えは無いかもしれねェぞ?それでも良いンだな?」

「うん…話してくれたらそれで良い。」

「はァ…」

どうしてこんな事になってしまったのだろうかと、一方通行は改めて思い、ため息をついた。
そして、彼は静かに自分の過去を語り始めた。

一般人が聞いたら耳を疑いたくなるであろう、しかし悲劇としては世界中、
今この瞬間にもどこかで起きているであろうそんなありふれた悲劇の一つに過ぎない過去を


74 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/01(日) 20:51:58.01 ID:6gqQ2Spv0
一方通行は、普通の少年だった。
友達と遊び、喧嘩をし、いたずらをして先生に叱られたり、
素直に良い事をして褒められたり…
そんな普通の下らない事を心の底から望んでいた普通の少年だった

9歳までは特力研、その後も虚数研・叡智研・霧ケ丘付属とこの街の暗部を転々とさせられた。
その末に開発された学園都市最強の能力。

それは、彼が望んでいたものを全て傷付け、壊してしまうものだった。

10歳のあの日、自分は触れるだけで何もかも傷付け、壊してしまう化け物なのだと知った。




彼は化け物になった。
色んな人間から罵倒されたり、怖がられたりしていた。
うんざりするくらいの敵意、畏怖、憎悪を向けられた。
昨日まで優しかった人が、次の日には凶悪な殺人犯でも見るような目で彼を見る
彼は耐えられなくなって、周りの人間を避ける様になった。


75 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/01(日) 20:56:11.96 ID:6gqQ2Spv0
「怖かったンだよ…誰かを傷つけちまう事が…それ以上に、
 俺に向けられた好意が、憎悪に変ンのを見るのが…」

「そう…なんだ…」

美琴は驚いていた。
彼の凄惨な過去もそうであるが、何よりも彼が「怖い」と口にした事に驚いた。
あの悪魔の様な、口が裂けるほどの凶悪な笑みを浮かべていた彼が…

「あの頃の俺はドン底だった。学園都市最強って奴になったせいで、
 俺に挑んでくる馬鹿がやたら増えた。そンでもって、
 勝手に挑ンできて、勝手に傷ついて、まるで化け物でも見る様な目で怯えやがって…」

「だから、手を出しちまったンだよ、あの実験に。例え普通には戻れなくても、
 化け物を極めれば、それはそれで誰も傷つけずに済む様になる。あの時は本当にそう考えた。
 馬鹿みてェだな本当に…」

一体俺は何を言ってんだ?自分でも分からなくなる。
けして他人に弱さを見せないはずの自分が、よりによって超電磁砲相手に…
本当に心の底から馬鹿みたいだと思い、彼は自嘲気味に苦笑いした。

それでも、美琴は彼の言葉を真剣に聞いていた

「続けて、お願い…」


76 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/01(日) 20:59:24.69 ID:6gqQ2Spv0
それから、彼はシスターズを1万人以上殺した話をした
しかし、それはもはや話す程の事ではない。
美琴も知っている事実であり、彼にとっても蒸し返されたくない話題だ。


だが、美琴が知りたいのはそこではない

「止めようとは思わなかったの?」

「さあな。普通の人間ならそう思うだろう。
 だけど、俺は化け物、アイツらは単価18万のクローン。痛いとも怖いとも嫌だとも言わねェ、
 話しかけても早く実験を開始する様に促すだけの人形だ。あの狂った場所には、
 人間と呼べるのが誰ひとり居なかったからな。」

「じゃあ、もしあの娘達が、もう実験は嫌だって、
 殺さないでって泣いてたら、アンタは実験を止めてたの?」

「……」

以前、同じ質問を誰かからされた覚えがある……打ち止めだ
あの時は、それは違うと思っていた。


77 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/01(日) 21:02:58.96 ID:6gqQ2Spv0
自分が絶対能力者になるための、自分のための実験だ。

だが、なぜ絶対能力者になろうとしたのか?
なぜあの実験で、何かが変るだろうと信じたのか?
なぜ変る事を望んだのか?

そう言えば、あの実験の後から、何かが変った気がした。
しかも、実験に成功したからではなく、レベル0に敗北して失敗したのにだ。
何が変ったのか?
考えてはみたものの、あまりにも漠然とし過ぎていて答えが見つからなかった。

だが今、自分の過去と本音を語るという下らないこの行為が、一つの結論を導き出した

たぶん、好意を受け入れられるようになったのだろう。
まだ不器用で素直になれないが、それでも不器用なりに向けられた好意を大切にしてみようと
そう思える様になったのかもしれない。

以前の自分からは確かに考えられない事だ。
だが、そんな過去の自分と、今のあのガキが向けてくれる好意の対比が、
その答えを確かなものだと確信させてくれる。


78 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/01(日) 21:05:53.71 ID:6gqQ2Spv0
絶対能力者にならなくても、大切な人間を傷つけずに済むなら
この力で誰かを守れるなら
こんな自分でも好意を向けてくれる人間が1人でもいるならば

「たぶン……俺はこの手を引いていただろうな……」

「そう……よかった」

なんでコイツにこんな話をしようと思ってしまったのか。
別に嘘を言って、適当な話でこの場を切り抜けても良かったはずだ。
なのに、なぜ自分の弱さを晒け出してしまったのだろうか。
理解される保証などどこにも無いのに。

本当に下らない事をしてしまったものだ。

「話は終わりだ。テメェもさっさと帰れ。」

一方通行はベンチから立ちあがろうとした。
しかし、立ち上がる前に、美琴がしがみついてきた。


79 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/01(日) 21:08:02.58 ID:6gqQ2Spv0
彼女の中の一方通行のイメージは、例えるなら真っ黒な画用紙に自分の想像し得る一番怖い怪物を描いた絵画。
見るたびに自分の視界がどこまでもどこまでも果てしなく黒く染まってしまいそうな絵だ。

しかし、彼とこの病院で再会してから、その絵に誰かの悪戯で穴を開けられて、
そこから一筋の光が差し込む様な、そんな感覚を覚え始めた。

今、彼の話してる事が本当かどうかは分からない。
もしかしたら、嘘を言ってるのかもしれない。
それでも、美琴は彼の言葉に共感を覚えてしまう。


強者ゆえの孤独


それは、同じレベル5である自分も常々感じていた。
それでも、自分の周りには自分を慕ってくれる後輩や、対等に付き合ってくれる友人もいる。
周りの人間からも畏敬こそあれ、畏怖や憎悪というものは感じられない。


80 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/01(日) 21:10:53.49 ID:6gqQ2Spv0
しかし、第3位の自分ですらこんな状況なのだ

一方通行は美琴の序列は2つしか違わない。
それでも、彼と彼女の実力は次元が違う。
超えられない壁とか、運が良ければとか、そんな程度の低い話ではない。
レベル5の能力者は、その圧倒的な実力ゆえに化け物呼ばわりされることが多々ある。
しかし彼の前では「この程度で化物?冗談だろ?ただの貧弱な一般人と何も変わらねェだろ」
と、そう言われても全く反論できないくらいに次元が違うのである。

ただの貧弱な一般人と変わらない。化け物をそう錯覚させてしまう程の化け物。

そんな彼は、一体どれほどの孤独を抱えて生きてきたのだろうか?
どれほどの悲しみを抱えて生きてきたのだろうか?
どれほどの葛藤と理不尽を、どれほどの恐怖と絶望を。
そして、それらをすべて受け入れる事が出来てしまったら
すべてを仕方ないと諦めてしまえるまで苦しめられ続けたら

人間という生き物は、それでも理性や矜持を失わずに生きてゆけるのだろうか?
生きていくだけの勇気を持ち続けられるものなのだろうか?


81 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/01(日) 21:13:20.43 ID:6gqQ2Spv0
もしも自分が、自分を慕ってくれる後輩を、ただ触れるだけで傷つけてしまったら
その後輩から、そして友人から悪魔でも見る様な目で見られたら、
最上の憎しみを込めた敵意を向けられたら
自分の居場所が本当に無くなってしまったら、生きてゆけるだろうか?
生きてゆく勇気を持てるだろうか?


ふと気がつくと、美琴は、頬にムズムズとした違和感を感じた
彼女の目から、一筋の涙がこぼれ、頬を伝う

彼に同情でもしたのだろうか?彼女自信も分からない


83 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/01(日) 21:16:04.56 ID:6gqQ2Spv0
ただ気付いたら、美琴は彼の胸に顔をうずめていた。
弱々しい嗚咽が聞こえてくる。


一方「……なンでオマエが泣くンだよ」

美琴「泣いてんのよ……」

一方「はァ?」

美琴「アンタが泣かないから…代わりに泣いてあげてんのよ……ばか……」

そう、たぶん泣いているのだ。
泣く事を忘れてしまった、本当は誰も傷付けたくないと願っていたはずの
心優しい人間の代わりに泣いているのだ。


84 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/01(日) 21:17:51.19 ID:6gqQ2Spv0
あのおぞましい怪物の絵に開けられた穴は、さらに大きくなる

そこからまばゆい程の光が溢れる

光の量と角度で絵が変わる、一種のトリックアートだろうか?
自分がおぞましい怪物だと思っていた絵は、本当はちょっと無愛想で怖い表情だが
不思議な温かさを感じる。


そんなどこにでもいそうな普通の少年の絵だった。

今まで自分を縛っていた、ずっと引きずっていたものが、
涙と共に流れ落ちて消えていく様な気がする。
これでやっと、前に進める


今日はよく眠れそうだ


85 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/01(日) 21:20:54.01 ID:6gqQ2Spv0
その後(おまけ)

「どうしてこうなった…?」

あの話が終わってから一時間
実はそのまま、一方通行はずっとベンチに座っていた

何故かというと、今自分の胸にしがみついて、
気持ち良さそうに静かに寝息を立てている少女が居るからだ。
この病院で一方通行と会ってからロクに眠れなかった負担が、
ここにきて一気に爆発したようである。

それにしても、一体どういう神経をしてるのだろうか?
世界一憎いはずの人間の胸の中で、昨日一昨日とあれだけの罵声を浴びせた人間の胸の中で
どうしてこんなにも穏やかな顔をして眠る事ができるのだろうか?
一体どれだけ図太い神経をしてるのだろうか?
呆れを通り越し、もはやそれを調べるために研究所が一つ設置されても良いのではないかと関心すらしている。


86 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/01(日) 21:22:46.52 ID:6gqQ2Spv0
「不幸だ……おィ、もう良いだろ!いい加減起きやがれ!」

「うーん…あと五分……」

「テメェのクローンの打ち止めはそう言った後必ず一時間以上寝てンだよォ!」

「うるさいわねえ、薄っすい胸板で我慢してあげてんだから感謝しなさい。」

「……」

「あれ…気にしてたの?」

「うるせェ…」

間違いない、今日は本当に最悪な日だ…


88 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/01(日) 21:24:37.09 ID:6gqQ2Spv0
「ねえ…?」

「なンだ?まだこの貧相な殺人もやし悪魔に言いてェ事でもあンのか?」

「意外と根に持つタイプなのね。そうじゃなくて、その…」

「あァ?」

「ごめん…あんな酷い事言って…助けてくれたのにお礼も言えなくて…いまさらだけど、ありがとう……」

「……」

まただ、またあの嫌な表情になっている。

一方通行は美琴の頭に手を伸ばすと、打ち止めの時と同じ様に少し乱暴な手つきで撫でてやった


92 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/01(日) 22:02:31.53 ID:6gqQ2Spv0
「はィ、よくできましたァ」

「ちょッ!なにしてんのよ!」

突然の出来事に驚き、そして頬を赤くする

「ガキを褒める時はこうするンだろ?」

「ガキ!?って、アンタまさか打ち止めもこんな乱暴に撫でてんの?」

「何か問題でも?」

「はぁ…まったく、アンタは女の子の扱い方をもっとよく知るべきね」

「くッだらねェ、ただのガキじゃねェか」

「あーもう最低、アンタって本当に最ッ低ね!」

「なンだ?今更気付いたのか?」


93 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/01(日) 22:11:58.58 ID:6gqQ2Spv0
「少しでも見直した私が馬鹿だったわ……
 よし、明日からはアンタのお見舞いにも来てあげる!」

「いや、意味がわからないンですけど」

「このままじゃ打ち止めがかわいそうだからよ!
 この美琴先生が、アンタに女の子の扱い方ってものをレクチャーしてあげるんだから!」

「つつしンでお断りさせていただきますー。つーか、
 女らしさの欠片も感じられねェオマエから学ぶ事なンかありませンー」

「なッ!なんだとゴラァ!!!」

「うわッ!テメェ!病人に向かって電撃放つじゃねェ!」

「どうせ当たらないじゃない!一発くらい食らいなさいよこのもやし人間!」

「誰がもやしだオラァ!」

その後、夜間の病院で馬鹿騒ぎを起こすという
TPOも全裸で逃げだす様な事をした結果、
二人は当然のごとくカエル顔の医者から小一時間説教を食らった。
その説教中にも二人はいがみ合い、やかましい口論に発展したため
医者は本気で病院を変えさせる事を検討したという。



94 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/01(日) 22:19:03.55 ID:qF1JsdEC0
ちなみに打ち止めはというと、そんな二人を前になぜかニヤニヤしていたため、
癪に障った一方通行から連続脳天チョップを食らったのであった

「うわーんお姉様ー!あの人がミサカをいじめるのー!
 ってミサカはミサカは嘘泣きをしつつお姉様に抱きついてみたり!」

「ちょっと!こんなかわいい子供になんて事すんのよ!
 アンタそれでも学園都市最強の保護者なの!?」

「思いっきり嘘泣きとか言ってンじゃねェか」

そして黒子はその光景を見て、「お姉様!まさか……隠し子ですの!?」
とぶっ飛んだ誤解をし、その場を余計にややこしくしてしまった。

「乱暴なアンタに打ち止めを任せておくのは心配だから」
という理由で一方通行の見舞いに来る口実が絶対的になったのは言うまでも無いだろう


おわり
放置プレイも悪くないと思う

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