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唯「命は大切に!」
3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/22(木) 13:19:07.32 ID:g+YyXPM3O [1/48]
日記 ×月×日
今日から新学期だ。
暑い。無性に苛々する。
うるさいガキどもが私の周りに群がって、ぺちゃくちゃとまくしたてる。ノイローゼになりそうだ。
女子高生ほど私の神経を逆撫でする生き物はない。無神経で生意気で、そして無知な生き物。繊細な私とはまるでそぐわない。
どいつもこいつも早く死ねばいいのに。
日記 ×月×日
今日から新学期だ。
暑い。無性に苛々する。
うるさいガキどもが私の周りに群がって、ぺちゃくちゃとまくしたてる。ノイローゼになりそうだ。
女子高生ほど私の神経を逆撫でする生き物はない。無神経で生意気で、そして無知な生き物。繊細な私とはまるでそぐわない。
どいつもこいつも早く死ねばいいのに。
5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/22(木) 13:26:26.93 ID:g+YyXPM3O [2/48]
唯「あずにゃん、ご機嫌だね~」
梓「はい、もうすぐライブが出来ると思うとわくわくしちゃって!」
唯達が二年生になり、梓が入部した年。
季節は秋。唯達は学祭のライブを控えていた。
梓「去年のライブも見たかったなあ」
澪「いや梓、世の中には見ない方がいいこともあるぞ?」
律「去年は大活躍だったもんな、澪ちゃんは」
さわ子「去年のライブならビデオに撮ってあるわよ!」
6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/22(木) 13:30:29.23 ID:g+YyXPM3O
澪「で、出たー!」
梓「うわー、見たい!見たいです!」
澪「いや梓、考え直さない?ていうか考え直してくれ」
さわ子「唯ちゃんりっちゃん、ムギちゃん!」
唯律紬「ラジャー!」
澪「こら、離せ!はーなーせー!」
律「おい澪、暴れるなよ。私ら見れないじゃんか」
澪「見なくていいから!……こら、変なとこさわんな!」
梓「こ、これは……」
7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/22(木) 13:35:18.01 ID:g+YyXPM3O
律「どうだった?」
梓「……縞パン」
澪「終わった……何もかも終わった……」
唯「今日はじっくり見れなかったから、今度ゆっくり見ようね、ムギちゃん!」
紬「ええ、そうしましょう」
平和な、いつもの軽音部の光景。
この後バンド名やライブで着る衣装の話題で、部室は大いに盛り上がった。
そしていつものことながら、練習は少ししかできなかった。
9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/22(木) 13:47:05.01 ID:g+YyXPM3O
その日の夜。
唯は早々にベッドに潜り込み、うたた寝をしていた。
たっぷりの夕食で満ち足りた気分になり、実態のない暖色の夢を見る。
電気が点けっぱなしだが、気にならない。猫のように、彼女は眠りを楽しむ。
そんな彼女の幸せな眠りを妨害したのは、電話の切迫した鳴き声だった。
10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/22(木) 13:56:58.31 ID:g+YyXPM3O
電話は二、三回鳴ってから突然ぴたりと沈黙した。憂が受話器を取ったのだろう。
瞼をこすりながら、唯は時計を見る。午後11時。
誰だろう。唯はぼんやりした頭で考える。
彼女の友達は皆、用事がある時は携帯に連絡する。それに誰かに電話をかけるには少々遅い時間だ。
悪いニュースが来たのかもしれない。唯は途端に不安になった。階下から憂の声が聞こえる。
憂「お姉ちゃん、ちょっと来てくれる?」
11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/22(木) 14:08:16.96 ID:g+YyXPM3O
唯「何?大事な話?」
憂「うん、大事な……本当に大事な話。だから、……来て」
何だろう。不安がどんどん大きくなり、唯を飲み込もうとする。
階段を降りたところに、憂が立っていた。……引きつった顔をして。
唯「どうしたの?」
憂「お姉ちゃん……いい?落ち着いて聞いてね?」
唯「私は落ち着いてるよ。憂こそ大丈夫?」
憂「……」
唯「早く言ってよ。ねえ、お父さんとお母さんに何かあったの?」
憂「違うの。お父さんじゃないの。梓ちゃんなの」
唯「あずにゃんがどうしたの?……ねえ、早く教えてよ。
何があったの?何でそんなに震えてるの?何で泣いてるの?」
憂「……梓ちゃんね……自殺、しちゃった……」
13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/22(木) 14:15:32.33 ID:g+YyXPM3O
日記 ×月×日
新学期がスタートして早くも二週間。
ガキの一人が自殺した。学校はひどいパニックに陥っている。
今日もガキが何人か私に同情を求めにきた。うるさくてたまらなかったけど、連中の惨めな泣き顔が見れたから文句は言わないでおく。
学祭は延期になるらしい。いい気味だ。連中の青春の1ページ(笑)が台無しになったから。
もっと自殺者が出ないだろうか。楽しみだ。
16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/22(木) 14:29:58.55 ID:g+YyXPM3O
線香の匂い、白い花。そして内出血して変色した梓の指先。それらが澪をひどく混乱させる。
混乱は時間が過ぎるにつれて静まるどころか、ますます酷くなってゆく。
梓はどこかの高層マンションから飛び降りたらしい。ひどく損傷したのだろう、死に顔は見れなかった。
葬式はひどかった。唯は床に突っ伏して号泣するし、紬はハンカチに顔をうずめてばかりいた。
梓のバカ野郎。澪は一人呟く。
あんな指じゃ、もうギターなんか弾けないじゃん。
17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/22(木) 14:38:55.23 ID:g+YyXPM3O
澪「唯、今日は来てる?」
律「いや、今日も休み。もう三日連続だよ」
葬式の後、唯は学校を休みがちになっていた。もっとも、当分の間休んでいた方がいいのかもしれないが。
数日前に登校した時の唯の顔は、当分忘れられそうにない。水分と生気がごっそり抜け落ちた、ミイラのような顔だった。
紬「そんなにショックだったのね、梓ちゃんが自殺したの」
律「私らだって十分ショックだよ……」
澪「いや、唯は梓のこと、特に気に入ってたみたいだから」
19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/22(木) 14:45:48.89 ID:g+YyXPM3O
律「……くそっ、何で自殺なんだよ。直前までライブやりたがってたじゃんかよ、あいつ」
紬「悩みがあったなら、私達に相談してほしかったわね」
澪「……無理してたんじゃないかな。梓って生真面目な奴だったから」
律「だから何の断りもなく自殺かよ。そりゃないだろ?先輩じゃないか。もっと頼ってほしかったよ」
澪「私達も悪いよ。あいつが思いつめてたのに、何も気づいてやれなかったんだから……」
20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/22(木) 14:51:53.31 ID:g+YyXPM3O
紬「ともかく、今は唯ちゃんの方が心配だわ」
律「そうだな。下手したらあのバカ、梓の後を追っちゃうよ」
澪「……律。冗談でもそういうこと言うな。次は殴るぞ」
律「……ごめん」
紬「まあまあ。りっちゃんも悪気があったわけじゃないんだから」
澪「ともかく放っておいちゃダメだ。今日の放課後にでも早速会いに行こう」
21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/22(木) 15:06:43.11 ID:g+YyXPM3O
だがその日、澪達が唯に会うことはなかった。
唯の部屋の戸は固く閉ざされ、いくら呼んでも返事は返ってこなかった。
憂の説明によれば、彼女は用を足す時と食事の時以外はずっとこの調子らしい。
実の妹ですらどうにもできないのだ。澪達にできることなど何一つ残されていなかった。
そうして鬱屈とした数日が過ぎ、唯の欠席が二週間を越えようとしていた頃。
和が話しかけてきた。
22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/22(木) 15:13:51.62 ID:g+YyXPM3O
澪「何か明るいもの?」
和「そう。漫画でも映画でも何でもいい、とにかく唯の気持ちが明るくなるようなものを貸してほしいの」
紬「唯ちゃんに会うのね」
和「ええ。無理やりにでも会って、思い切り笑わせてやるわ。それからあのニート予備軍を学校に担ぎ込むの」
律「任せとけ!私の漫画、いくつか貸してやるよ」
澪「映画じゃなくて悪いけど、去年の学祭のライブのビデオなんてどうかな。私が盛大にずっこけたやつ」
紬「ケーキを持って行って。唯ちゃん、きっと喜ぶわ」
和「みんな……ありがとう。私に持っていけるの、中学のアルバムくらいしかなくて」
律「それも十分アリだよ」
24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/22(木) 15:18:18.93 ID:g+YyXPM3O
和「本当にごめんね。急に無理なお願いしちゃって」
律「気にするな。その代わり、明日必ず唯を学校に連れてくること」
澪「和……頼むよ」
和「何を?」
澪「情けない話だけど、私達じゃ唯をどうにもできないみたいなんだ。だから」
和「任せておきなさい。……戻ってきたら、優しくしてあげてね」
澪「ああ」
25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/22(木) 15:28:54.14 ID:g+YyXPM3O
紬「幼なじみっていいなあ……。唯ちゃんがうらやましい」
律「そうだな。唯のやつ、こんなに愛されてるのに。帰ってこなかったら承知しないからな」
澪達三人は、横に並んで帰る。どこからか秋の虫の声がした。
きっと唯は明日、学校に来るだろう。そうしたらとびっきりの笑顔で出迎えてやろう。あの楽しい放課後のティータイムも再開しよう。
空は綺麗な茜色をしている。それを見る三人の顔は、わずかに、だが確実に明るくなっていた。
26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/22(木) 15:36:44.73 ID:g+YyXPM3O
その日の夜。
澪は机の上にでんと座っている分厚い参考書とにらめっこしていた。
来年、彼女は受験生として全国の同い年の少年少女と戦うことになるのだ。体勢を整えておかなければならない。
ノートに何か書き始めた瞬間、机の上に置かれた携帯が突然鳴り出した。
律からの電話だ。
27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/22(木) 15:41:27.15 ID:g+YyXPM3O
少し迷ったが、仕方なく澪は電話に出る。下らない用だったら、すぐに切るつもりだった。
澪「もしもし?」
律『澪か?よかった。……大事な話が、あるんだ』
澪「何だよ。早く今勉強中なんだ、早く言えよ」
律『和が……和が……死んだ』
電話の向こうの律の声は、激しく震えていた。
32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/22(木) 15:58:17.65 ID:g+YyXPM3O
高い山から突き落とされ、深い闇の中へと落ちてゆく気分だった。
激しく震える澪の手から、携帯が落ちる。通話が切れ、部屋の中を不気味な沈黙が充満する。
手は純粋なパニックに震えていたが、澪は奇妙に冷静だった。
和が死んだ。私はどうすればいい。そうだ、唯に連絡しなくちゃ。
震える手で唯に電話をかける。コール五回で彼女は出た。
澪「唯、落ち着いて聞いてくれ。……和が、和が死んじゃったんだ。事故なのか事件に巻き込まれたのかは知らない。……そこ、どこだ?」
電話の向こうはやけにうるさかった。何台もの車の走る音だ。唯はどこか大きい通りにいるのかもしれない。
澪「聞いてるのか、唯。お前の幼なじみが、死んじゃったんだよ」
唯『聞いてるよ』
澪「……どこにいるんだよ。うるさくてよく聞こえないよ」
唯『さよなら』
澪「……唯?何言ってんだ?何やってんだ!おい!」
33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/22(木) 16:00:14.67 ID:g+YyXPM3O
紛れもない、大型トラックの走行音。
クラクション。
凄まじいブレーキの悲鳴。
大きなものが、何かを跳ね飛ばした鈍い音。
誰かの悲鳴。
そして、沈黙。
34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/22(木) 16:08:36.33 ID:g+YyXPM3O
日記 ×月×日
ここ数日で、だいぶ涼しくなった。気分は上々。
今日は全校集会があった。先日新たにガキが二人死んだからだろう。
校長が神妙な顔つきで、命の尊さについて語っていた。普段は私達の話なんかろくに聞かないガキ共も、今日は静まり返っていた。
中には感激して涙をボロボロ流してるのもいた。ガキは本当に単純だ。見ていて寒気が走る。
いずれ、お前ら全員をあの世に送ってやる。楽しみに待っていろ。
35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/22(木) 16:17:45.64 ID:g+YyXPM3O
ティーセットを棚から取り出し、一つ一つダンボール箱に詰めていく。
武道館の夢は、あっさりと消えた。ホワイトボードの落書きよりもあっさりと。
今日中に音楽準備室の私物は、全部撤去しなくてはならない。もう軽音部は存在しないのだから。
紬「……りっちゃん。そこの箱取ってくれるかしら」
律「……ああ」
40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/22(木) 16:28:07.13 ID:g+YyXPM3O
律「……ムギ、激やせしたな」
紬「……りっちゃんこそ、目が真っ赤よ。寝不足?」
律「お前もだろ」
紬「澪ちゃんは大丈夫なのかしら?」
律「あいつはまだ自宅療養中。しばらくそっとしといてやってくれ。相当まいってるから」
紬が小さくしゃっくりをする。先ほどひとしきり泣いたばかりなのだ。
42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/22(木) 16:39:23.34 ID:g+YyXPM3O
律「まったく、唯のやつ。こんなに私物持ち込みやがって。迷惑だよなあ」
紬「りっちゃん」
律「見ろよこれ。200円で取れたって自慢してたぬいぐるみだぜ。変なの」
紬「りっちゃん」
律「はは、これ確か薬局の前に置いてあるやつだよな。
あーあ、これ全部あいつのうちに持ってってやらなきゃなんねーのかよ。かったりー」
紬「りっちゃん!」
律「何だよ、また泣き出すのは勘弁してくれよ。澪もいないんだし、もうフォローするのきついんだよ。あはは」
紬「……これで涙、拭って」
律「あはは、バカかよ。私が唯のために泣くわけないだろ。あははは、はは……ああ、ああぁぁぁ……うわああぁぁ……」
44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/22(木) 16:53:14.20 ID:g+YyXPM3O
紬「……落ち着いた?」
律「ああ。ごめんな、取り乱しちゃって」
紬「いいえ」
律「三人とも大バカだよ。勝手に死にやがって。私、あの世で会ったら絶対に許さない。歯が折れるまで殴ってやる」
紬「そうね。私も許さないわ。でも私達は生きましょう。全力で生きて、それから死んであの子達を叱りましょう」
律「……ああ、そうだな」
45 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/22(木) 17:02:24.18 ID:g+YyXPM3O
憂「それじゃこれ、全部お姉ちゃんのなんですね」
平沢家。律と紬は、温かい紅茶とクッキーを頂いていた。
憂は二人が運んできた姉の私物を、一つ一つ大切に手に取る。
憂「あれだけ整理整頓するように言っておいたのに。お姉ちゃんたら……お姉ちゃんたら……」
憂の頬を涙が伝い落ちる。紬が慌ててハンカチを渡す。
憂「……すみません。今日は本当にありがとうございました。私も皆さんに渡すものがあるんです」
紬「何かしら?」
46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/22(木) 17:10:34.38 ID:g+YyXPM3O
憂が学祭のライブのビデオを取り出す。
憂「……お姉ちゃん、和ちゃんと二人で楽しそうに見てたんですよ。久々に見たな、あんなに楽しそうなお姉ちゃん」
紬「よかったら、ずっと持っていてもいいのよ」
憂「いいえ。これは軽音部の皆さんのものですから」
紬「軽音部だった、よ。もう廃部になったの」
憂「それでも、これは皆さんのです。私が持っていてもつらくなるだけですし
お姉ちゃんのお葬式の後で見たら、悲しくなっちゃって。少し泣いちゃった」
49 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/22(木) 17:19:46.10 ID:g+YyXPM3O
律「じゃあ、今日はこれで失礼するよ」
憂「本当にありがとうございました。また遊びに来て下さいね」
紬「その時はケーキを持って来るわね」
憂が微笑みながら手を振る。どこか寂しげな笑顔だった。
紬「……強い子ね。憂ちゃん」
律「ああ。実の姉が死んだのに。私だったらきっと立ち直れないよ」
紬「りっちゃんも弟がいるのよね」
律「ああ。でも最近、生意気で嫌になっちゃうよ。憂ちゃんみたいな妹がほしい」
紬「ふふっ。今の、あの子が聞いたらきっと喜ぶわよ」
律「あんなにいい妹がいるのに。唯のバカ」
紬「……そうね」
50 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/22(木) 17:32:23.78 ID:g+YyXPM3O
その夜。
律「おっかしいなあ。確かここに入れておいたのに」
律の漫画が何冊か本棚から消えていた。
律「聡が持ってったのかな?……あ。そっか」
彼女は在処を思い出した。何冊か和に貸したきりだったのだ。
だが先日、和の葬式で両親に会った時は返ってこなかった。もしかしたら、まだ平沢家にあるのかもしれない。
時計を見る。時刻は八時半。まだ電話をかけても許される時間だろう。
少し憂とお喋りするのも悪くない。
52 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/22(木) 17:42:15.15 ID:g+YyXPM3O
律は憂の携帯ではなく、自宅に電話をかける。
コール十回で、ようやく誰かが出た。だがそれは憂ではない。知らない男の声だった。父親だろう。
『はい』
律「あ、夜分遅くに失礼します。田井中と申します。そちらに憂さんはいらっしゃいますか?」
『……憂ですか』
急に相手の声が聞き取りづらくなる。
「……もしもし?」
『申し訳ありませんが、娘はそちらとお話ができなくなりました』
「……」
『憂は……私の娘は……首にロープを結びつけて……それで……』
電話の向こうで、大人の男が泣き崩れるのがわかった。
54 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/22(木) 17:51:28.87 ID:g+YyXPM3O
日記 ×月×日
四人目の自殺者が出た。いい気味だ。
学校全体がヒステリー気味になっている。お守りを持ち歩く者、インチキな宗教に走る者、不登校になる者。
いろいろいて、見ていて楽しい。
だがちょっとまずいことになった。装置の行方がわからないのだ。
あいつらの誰かが持ち出したのはわかっている。早いとこ回収しなければ。
最悪の場合、装置をもう一つ用意しなければならない。
57 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/22(木) 18:03:37.54 ID:g+YyXPM3O
重いノートの山を抱え、紬は職員室に向かって歩く。
彼女の美しいブロンドの髪は艶やかさを失い、肌は若干荒れていた。
いつの間にか廊下のあちこちに、ポスターや注意書きが貼られていた。
「命を大切にしよう」「命はただ一つ」「今日死んでも悔やまないくらい、全力で生きたいんだ」
どれもこれも、紬には空虚な言葉としか思えない。
先日、桜高はとうとうテレビに出てしまった。スクリーンに映った母校。なんとも奇妙な光景だった。
60 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/22(木) 18:15:02.48 ID:g+YyXPM3O
ニュースキャスターのコメントは、今でもよく覚えている。
「この一見美しい女子校にも、魔物は潜んでいるのでしょうか。
自殺した少女達の心の闇には、果たして何が潜んでいるのでしょうか」
聞くものの神経を逆撫でするような、不快な高い声だった。それ以来紬は、テレビを一度も見ていない。
ニュース番組やワイドショーに、友達を言いたい放題言われるのは我慢ならない。
廊下で何人かの生徒とすれ違う。誰もが深刻な顔をしていた。
61 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/22(木) 18:25:53.30 ID:g+YyXPM3O
紬「失礼します」
彼女は職員室に入る。だが返事はなかった。教師は職員会議で全員留守にしていた。
そういえば最近、職員会議が増えた気がする。
さわ子のデスクに、何十冊ものノートを置く。一息ついた時、彼女の目に何かがとまった。
それは日記帳だった。いかにも大人が持ち歩きそうなデザインの、茶色い表紙の日記帳。
よくないと思いつつも、手に取ってパラパラとページをめくる。
読み進めるうちに、彼女の顔色はだんだんと変わっていった。
66 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/22(木) 18:34:20.82 ID:g+YyXPM3O
澪はぼんやりとベッドに座っていた。
こうしてベッドの上での生活を始めて、もう何日になるだろう。
部屋は衣類や本、食べ物の容器が散らばり、悲惨な状態だ。ハエも飛び始めている。
そろそろ掃除しなきゃ。澪は思う。だが一向に腰を上げる気になれない。
今の私を見たら、唯や梓は何て言うだろう。軽蔑するかもしれないな。
……二人とも。もうすぐ私そっち行くかも。
そんなことを考えていた時。
充電器に突っ込まれたまま何日も放置されていた携帯が鳴った。
67 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/22(木) 18:36:51.43 ID:g+YyXPM3O
澪「……もしもし?」
紬「澪ちゃん?今すぐ私の家に来てほしいの」
澪「……無理」
紬「じゃあ、今すぐそっちに行くわ。りっちゃんも一緒にね」
澪「どうして?」
紬「わかったの。唯ちゃん達の自殺の原因」
69 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/22(木) 18:42:48.09 ID:g+YyXPM3O
律「……ずいぶんとまあ、散らかしたもんだ」
澪「ほっとけ」
何日も着ていたパジャマを脱ぎ捨ててシャワーを浴び、大急ぎで食べ物の容器を片付けた。
それでも、荒んだ生活はごまかしきれなかった。
紬「ちょっとテレビ借りていいかしら?」
澪「いいけど。原因って何なの?」
紬「これよ」
紬が取り出したのは、学祭のライブのビデオだった。
72 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/22(木) 18:52:44.27 ID:g+YyXPM3O
澪「学祭のライブのビデオ?これがどうして」
紬「いいから。ちょっと見てて」
秋山家のテレビに、ライブの映像が現れる。なんとも懐かしい「ふわふわ時間」が流れはじめる。
映像には唯が映っていた。可愛らしい衣装を着て、ギターを持った今は亡き親友。澪の胸が疼く。
だが紬は、映像をスロー再生にしてしまう。音楽は途切れ、画面がコマ送りになる。
律「何をやってるんだ?」
スクリーンには何の変化もおこらないようだった。だが数秒の後、こんなメッセージが画面上に現れた。
74 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/22(木) 18:54:32.78 ID:g+YyXPM3O
【女子高生は死滅しろ!桜高の生徒は自ら死ね!】
80 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/22(木) 19:02:01.03 ID:g+YyXPM3O
律「……なんだこれ。何かのジョークか?」
紬「違うわ。冗談でもなければイタズラでもない。れっきとした殺人よ」
澪「……ムギ、これってまさか」
紬「そう。……サブリミナルよ」
律「ちょっとまった。何なんだそのサブなんとかって」
紬「テレビやラジオなどを利用した洗脳方法よ。
知覚できない程度の速さや音量の映像・音声等を繰り返し挿入して、視聴者の潜在意識を刺激するの」
澪「聞いたことがある。
確か1957年にアメリカの映画館で上映された映画のフィルムに「コーラを飲め」「ポップコーンを食べろ」とメッセージを入れたコマを5分ごとに繰り返し挿入したら、
実際にコーラとポップコーン売り上げが上がったんだ」
84 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/22(木) 19:13:20.49 ID:g+YyXPM3O
紬「まず最初に、梓ちゃんが学祭のビデオを見たわ。それで自殺した」
律「ちょっと待った。あの場には私らもいたぞ。何で梓だけが」
澪「思い出せ。お前やムギや唯が、私を押さえつけてただろう」
紬「そう。この時点で唯ちゃんは命拾いした。だけど次は助からなかった」
澪「和と二人で見てしまったから。だから二人は死んだ」
律「じゃあ、憂ちゃんは……」
紬「私に返す前に、見たって言ったわ。だから……」
律「……でもちょっと待て。誰がこれをしかけたんだ?誰が私達を殺そうとしてるんだ?」
澪「思い出せよ、律。このビデオを持ってきたのは誰だ?」
律「……さわちゃん」
88 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/22(木) 19:27:44.96 ID:g+YyXPM3O
律「そんなバカな!どうしてさわちゃんが私らを殺さなきゃならないんだ?」
紬「それは、これを読めばわかるわ」
紬が日記帳を取り出す。
そこにはさわ子の女子高生に対する憎悪が延々と綴られていた。軽音部に対する罵詈雑言も見つかった。
サブリミナルに関する記述も見つかった。
紬「……あのヒトは、こうして私達を昔から嫌っていたのよ。殺してしまいたいくらいに
でも一人じゃたくさんは殺せない。それに殺人犯になる度胸もない。
だからこうして、サブリミナルで自殺を装って殺すことにしたのよ。大量に、そして自分の手を汚さずに」
律「……ふっざけやがって!」
突然律が立ち上がった。彼女の握られた手は激しい怒りに震えている。
律「こんなわけのわからない方法で、唯や梓や和や憂ちゃんは殺されたのかよ!
あのババア、許せねえ……。今すぐ行って殴り殺してやる!」
澪「待てよ。そんなことをしても、お前の手が汚れるだけだ」
紬「警察に行きましょう。そして全部話すのよ。証拠もあるし、あのヒトを完全に抹殺できるわ」
92 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/22(木) 19:40:09.86 ID:g+YyXPM3O
半ば足をもつれさせながら、三人は夜道を走る。紬の手にはビデオがしっかりと握られていた。仲間たちを殺した凶器が。
交番を発見して、全速力で駆け込む。
澪「あの、すみません」
紬「ちょっと、お見せしたいものが」
交番の中はまったくの無人だった。荒い息を吐きながら、律が舌打ちする。
律「巡回中かよ、役立たずめ」
紬「警察署に、生きましょう」
三人はあらためて走り出そうとする。だが数歩も歩かないうちに、突然若い大学生風の男が前に立ちふさがった。
97 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/22(木) 19:54:27.25 ID:g+YyXPM3O
律「なんだよあんた。そこどいてくれ」
風を切るような音がしたと思った次の瞬間、男の拳がまともに律の顔面に叩きつけられた。小柄な律は何メートルも先に吹っ飛ばされた。
次にたくさんの人が現れた。会社員風の男、主婦と思われる中年の女、老人。
彼らは手を伸ばし、次々に三人を攻撃する。四方八方から暴力が少女達に襲いかかる。
律「何しやがる!」
律の怒声は、突然凄まじい絶叫に変わった。人々は次々に現れ、暴力の輪に加わる。手に棒や刃物を持った人間も現れた。
紬のブロンドの髪は毟られ、顔は血に濡れていた。必死に握っていたビデオも、誰かに奪われてしまった。
これほどの苦しみがあるだろうか。そう思った刹那、ありがたいことに黒く深い眠りが訪れ、彼女を慈悲深く包み込んだ。
98 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/22(木) 20:04:41.78 ID:g+YyXPM3O
律達が澪の家に集まる前、とある動画サイトに一つの動画がupされた。
動画は人目を引くが、一週間もすれば誰もが飽きて忘れてしまうようなニュース動画だ。
この動画に、ちょっと見では確認できないメッセージが何度も挿入されているなど、誰に想像できただろうか。
メッセージは三人の女子高生の顔写真と、一行の文章だ。
【この三人を抹殺せよ】
103 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/22(木) 20:21:08.62 ID:g+YyXPM3O
日記 ×月×日
桜が舞い散る季節。
今日は講堂で部活説明会とやらがあった。ガキどもの下らないお遊びだ。
軽音部の紹介と称して、二年前の学祭のビデオが流された。入部を希望するガキも出てきているらしい。
もっとも、そいつらが入部することは未来永劫有り得ないだろう。
軽音部は、一人も残っていない。これから増えることなどありえるだろうか。
花が散る季節。
今年は、いったいどれだけの花が散るだろうか。
完
109 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/22(木) 20:28:44.14 ID:g+YyXPM3O [47/48]
これでおしまい
元ネタは「世にも奇妙な物語」の一エピソードです
スレを提供してくれた>>1と読んでくれた人、ありがとう
これでもうやり残したことはないぜ。
グッバイけいおんSS
唯「あずにゃん、ご機嫌だね~」
梓「はい、もうすぐライブが出来ると思うとわくわくしちゃって!」
唯達が二年生になり、梓が入部した年。
季節は秋。唯達は学祭のライブを控えていた。
梓「去年のライブも見たかったなあ」
澪「いや梓、世の中には見ない方がいいこともあるぞ?」
律「去年は大活躍だったもんな、澪ちゃんは」
さわ子「去年のライブならビデオに撮ってあるわよ!」
6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/22(木) 13:30:29.23 ID:g+YyXPM3O
澪「で、出たー!」
梓「うわー、見たい!見たいです!」
澪「いや梓、考え直さない?ていうか考え直してくれ」
さわ子「唯ちゃんりっちゃん、ムギちゃん!」
唯律紬「ラジャー!」
澪「こら、離せ!はーなーせー!」
律「おい澪、暴れるなよ。私ら見れないじゃんか」
澪「見なくていいから!……こら、変なとこさわんな!」
梓「こ、これは……」
7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/22(木) 13:35:18.01 ID:g+YyXPM3O
律「どうだった?」
梓「……縞パン」
澪「終わった……何もかも終わった……」
唯「今日はじっくり見れなかったから、今度ゆっくり見ようね、ムギちゃん!」
紬「ええ、そうしましょう」
平和な、いつもの軽音部の光景。
この後バンド名やライブで着る衣装の話題で、部室は大いに盛り上がった。
そしていつものことながら、練習は少ししかできなかった。
9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/22(木) 13:47:05.01 ID:g+YyXPM3O
その日の夜。
唯は早々にベッドに潜り込み、うたた寝をしていた。
たっぷりの夕食で満ち足りた気分になり、実態のない暖色の夢を見る。
電気が点けっぱなしだが、気にならない。猫のように、彼女は眠りを楽しむ。
そんな彼女の幸せな眠りを妨害したのは、電話の切迫した鳴き声だった。
10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/22(木) 13:56:58.31 ID:g+YyXPM3O
電話は二、三回鳴ってから突然ぴたりと沈黙した。憂が受話器を取ったのだろう。
瞼をこすりながら、唯は時計を見る。午後11時。
誰だろう。唯はぼんやりした頭で考える。
彼女の友達は皆、用事がある時は携帯に連絡する。それに誰かに電話をかけるには少々遅い時間だ。
悪いニュースが来たのかもしれない。唯は途端に不安になった。階下から憂の声が聞こえる。
憂「お姉ちゃん、ちょっと来てくれる?」
11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/22(木) 14:08:16.96 ID:g+YyXPM3O
唯「何?大事な話?」
憂「うん、大事な……本当に大事な話。だから、……来て」
何だろう。不安がどんどん大きくなり、唯を飲み込もうとする。
階段を降りたところに、憂が立っていた。……引きつった顔をして。
唯「どうしたの?」
憂「お姉ちゃん……いい?落ち着いて聞いてね?」
唯「私は落ち着いてるよ。憂こそ大丈夫?」
憂「……」
唯「早く言ってよ。ねえ、お父さんとお母さんに何かあったの?」
憂「違うの。お父さんじゃないの。梓ちゃんなの」
唯「あずにゃんがどうしたの?……ねえ、早く教えてよ。
何があったの?何でそんなに震えてるの?何で泣いてるの?」
憂「……梓ちゃんね……自殺、しちゃった……」
13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/22(木) 14:15:32.33 ID:g+YyXPM3O
日記 ×月×日
新学期がスタートして早くも二週間。
ガキの一人が自殺した。学校はひどいパニックに陥っている。
今日もガキが何人か私に同情を求めにきた。うるさくてたまらなかったけど、連中の惨めな泣き顔が見れたから文句は言わないでおく。
学祭は延期になるらしい。いい気味だ。連中の青春の1ページ(笑)が台無しになったから。
もっと自殺者が出ないだろうか。楽しみだ。
16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/22(木) 14:29:58.55 ID:g+YyXPM3O
線香の匂い、白い花。そして内出血して変色した梓の指先。それらが澪をひどく混乱させる。
混乱は時間が過ぎるにつれて静まるどころか、ますます酷くなってゆく。
梓はどこかの高層マンションから飛び降りたらしい。ひどく損傷したのだろう、死に顔は見れなかった。
葬式はひどかった。唯は床に突っ伏して号泣するし、紬はハンカチに顔をうずめてばかりいた。
梓のバカ野郎。澪は一人呟く。
あんな指じゃ、もうギターなんか弾けないじゃん。
17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/22(木) 14:38:55.23 ID:g+YyXPM3O
澪「唯、今日は来てる?」
律「いや、今日も休み。もう三日連続だよ」
葬式の後、唯は学校を休みがちになっていた。もっとも、当分の間休んでいた方がいいのかもしれないが。
数日前に登校した時の唯の顔は、当分忘れられそうにない。水分と生気がごっそり抜け落ちた、ミイラのような顔だった。
紬「そんなにショックだったのね、梓ちゃんが自殺したの」
律「私らだって十分ショックだよ……」
澪「いや、唯は梓のこと、特に気に入ってたみたいだから」
19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/22(木) 14:45:48.89 ID:g+YyXPM3O
律「……くそっ、何で自殺なんだよ。直前までライブやりたがってたじゃんかよ、あいつ」
紬「悩みがあったなら、私達に相談してほしかったわね」
澪「……無理してたんじゃないかな。梓って生真面目な奴だったから」
律「だから何の断りもなく自殺かよ。そりゃないだろ?先輩じゃないか。もっと頼ってほしかったよ」
澪「私達も悪いよ。あいつが思いつめてたのに、何も気づいてやれなかったんだから……」
20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/22(木) 14:51:53.31 ID:g+YyXPM3O
紬「ともかく、今は唯ちゃんの方が心配だわ」
律「そうだな。下手したらあのバカ、梓の後を追っちゃうよ」
澪「……律。冗談でもそういうこと言うな。次は殴るぞ」
律「……ごめん」
紬「まあまあ。りっちゃんも悪気があったわけじゃないんだから」
澪「ともかく放っておいちゃダメだ。今日の放課後にでも早速会いに行こう」
21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/22(木) 15:06:43.11 ID:g+YyXPM3O
だがその日、澪達が唯に会うことはなかった。
唯の部屋の戸は固く閉ざされ、いくら呼んでも返事は返ってこなかった。
憂の説明によれば、彼女は用を足す時と食事の時以外はずっとこの調子らしい。
実の妹ですらどうにもできないのだ。澪達にできることなど何一つ残されていなかった。
そうして鬱屈とした数日が過ぎ、唯の欠席が二週間を越えようとしていた頃。
和が話しかけてきた。
22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/22(木) 15:13:51.62 ID:g+YyXPM3O
澪「何か明るいもの?」
和「そう。漫画でも映画でも何でもいい、とにかく唯の気持ちが明るくなるようなものを貸してほしいの」
紬「唯ちゃんに会うのね」
和「ええ。無理やりにでも会って、思い切り笑わせてやるわ。それからあのニート予備軍を学校に担ぎ込むの」
律「任せとけ!私の漫画、いくつか貸してやるよ」
澪「映画じゃなくて悪いけど、去年の学祭のライブのビデオなんてどうかな。私が盛大にずっこけたやつ」
紬「ケーキを持って行って。唯ちゃん、きっと喜ぶわ」
和「みんな……ありがとう。私に持っていけるの、中学のアルバムくらいしかなくて」
律「それも十分アリだよ」
24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/22(木) 15:18:18.93 ID:g+YyXPM3O
和「本当にごめんね。急に無理なお願いしちゃって」
律「気にするな。その代わり、明日必ず唯を学校に連れてくること」
澪「和……頼むよ」
和「何を?」
澪「情けない話だけど、私達じゃ唯をどうにもできないみたいなんだ。だから」
和「任せておきなさい。……戻ってきたら、優しくしてあげてね」
澪「ああ」
25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/22(木) 15:28:54.14 ID:g+YyXPM3O
紬「幼なじみっていいなあ……。唯ちゃんがうらやましい」
律「そうだな。唯のやつ、こんなに愛されてるのに。帰ってこなかったら承知しないからな」
澪達三人は、横に並んで帰る。どこからか秋の虫の声がした。
きっと唯は明日、学校に来るだろう。そうしたらとびっきりの笑顔で出迎えてやろう。あの楽しい放課後のティータイムも再開しよう。
空は綺麗な茜色をしている。それを見る三人の顔は、わずかに、だが確実に明るくなっていた。
26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/22(木) 15:36:44.73 ID:g+YyXPM3O
その日の夜。
澪は机の上にでんと座っている分厚い参考書とにらめっこしていた。
来年、彼女は受験生として全国の同い年の少年少女と戦うことになるのだ。体勢を整えておかなければならない。
ノートに何か書き始めた瞬間、机の上に置かれた携帯が突然鳴り出した。
律からの電話だ。
27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/22(木) 15:41:27.15 ID:g+YyXPM3O
少し迷ったが、仕方なく澪は電話に出る。下らない用だったら、すぐに切るつもりだった。
澪「もしもし?」
律『澪か?よかった。……大事な話が、あるんだ』
澪「何だよ。早く今勉強中なんだ、早く言えよ」
律『和が……和が……死んだ』
電話の向こうの律の声は、激しく震えていた。
32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/22(木) 15:58:17.65 ID:g+YyXPM3O
高い山から突き落とされ、深い闇の中へと落ちてゆく気分だった。
激しく震える澪の手から、携帯が落ちる。通話が切れ、部屋の中を不気味な沈黙が充満する。
手は純粋なパニックに震えていたが、澪は奇妙に冷静だった。
和が死んだ。私はどうすればいい。そうだ、唯に連絡しなくちゃ。
震える手で唯に電話をかける。コール五回で彼女は出た。
澪「唯、落ち着いて聞いてくれ。……和が、和が死んじゃったんだ。事故なのか事件に巻き込まれたのかは知らない。……そこ、どこだ?」
電話の向こうはやけにうるさかった。何台もの車の走る音だ。唯はどこか大きい通りにいるのかもしれない。
澪「聞いてるのか、唯。お前の幼なじみが、死んじゃったんだよ」
唯『聞いてるよ』
澪「……どこにいるんだよ。うるさくてよく聞こえないよ」
唯『さよなら』
澪「……唯?何言ってんだ?何やってんだ!おい!」
33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/22(木) 16:00:14.67 ID:g+YyXPM3O
紛れもない、大型トラックの走行音。
クラクション。
凄まじいブレーキの悲鳴。
大きなものが、何かを跳ね飛ばした鈍い音。
誰かの悲鳴。
そして、沈黙。
34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/22(木) 16:08:36.33 ID:g+YyXPM3O
日記 ×月×日
ここ数日で、だいぶ涼しくなった。気分は上々。
今日は全校集会があった。先日新たにガキが二人死んだからだろう。
校長が神妙な顔つきで、命の尊さについて語っていた。普段は私達の話なんかろくに聞かないガキ共も、今日は静まり返っていた。
中には感激して涙をボロボロ流してるのもいた。ガキは本当に単純だ。見ていて寒気が走る。
いずれ、お前ら全員をあの世に送ってやる。楽しみに待っていろ。
35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/22(木) 16:17:45.64 ID:g+YyXPM3O
ティーセットを棚から取り出し、一つ一つダンボール箱に詰めていく。
武道館の夢は、あっさりと消えた。ホワイトボードの落書きよりもあっさりと。
今日中に音楽準備室の私物は、全部撤去しなくてはならない。もう軽音部は存在しないのだから。
紬「……りっちゃん。そこの箱取ってくれるかしら」
律「……ああ」
40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/22(木) 16:28:07.13 ID:g+YyXPM3O
律「……ムギ、激やせしたな」
紬「……りっちゃんこそ、目が真っ赤よ。寝不足?」
律「お前もだろ」
紬「澪ちゃんは大丈夫なのかしら?」
律「あいつはまだ自宅療養中。しばらくそっとしといてやってくれ。相当まいってるから」
紬が小さくしゃっくりをする。先ほどひとしきり泣いたばかりなのだ。
42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/22(木) 16:39:23.34 ID:g+YyXPM3O
律「まったく、唯のやつ。こんなに私物持ち込みやがって。迷惑だよなあ」
紬「りっちゃん」
律「見ろよこれ。200円で取れたって自慢してたぬいぐるみだぜ。変なの」
紬「りっちゃん」
律「はは、これ確か薬局の前に置いてあるやつだよな。
あーあ、これ全部あいつのうちに持ってってやらなきゃなんねーのかよ。かったりー」
紬「りっちゃん!」
律「何だよ、また泣き出すのは勘弁してくれよ。澪もいないんだし、もうフォローするのきついんだよ。あはは」
紬「……これで涙、拭って」
律「あはは、バカかよ。私が唯のために泣くわけないだろ。あははは、はは……ああ、ああぁぁぁ……うわああぁぁ……」
44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/22(木) 16:53:14.20 ID:g+YyXPM3O
紬「……落ち着いた?」
律「ああ。ごめんな、取り乱しちゃって」
紬「いいえ」
律「三人とも大バカだよ。勝手に死にやがって。私、あの世で会ったら絶対に許さない。歯が折れるまで殴ってやる」
紬「そうね。私も許さないわ。でも私達は生きましょう。全力で生きて、それから死んであの子達を叱りましょう」
律「……ああ、そうだな」
45 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/22(木) 17:02:24.18 ID:g+YyXPM3O
憂「それじゃこれ、全部お姉ちゃんのなんですね」
平沢家。律と紬は、温かい紅茶とクッキーを頂いていた。
憂は二人が運んできた姉の私物を、一つ一つ大切に手に取る。
憂「あれだけ整理整頓するように言っておいたのに。お姉ちゃんたら……お姉ちゃんたら……」
憂の頬を涙が伝い落ちる。紬が慌ててハンカチを渡す。
憂「……すみません。今日は本当にありがとうございました。私も皆さんに渡すものがあるんです」
紬「何かしら?」
46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/22(木) 17:10:34.38 ID:g+YyXPM3O
憂が学祭のライブのビデオを取り出す。
憂「……お姉ちゃん、和ちゃんと二人で楽しそうに見てたんですよ。久々に見たな、あんなに楽しそうなお姉ちゃん」
紬「よかったら、ずっと持っていてもいいのよ」
憂「いいえ。これは軽音部の皆さんのものですから」
紬「軽音部だった、よ。もう廃部になったの」
憂「それでも、これは皆さんのです。私が持っていてもつらくなるだけですし
お姉ちゃんのお葬式の後で見たら、悲しくなっちゃって。少し泣いちゃった」
49 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/22(木) 17:19:46.10 ID:g+YyXPM3O
律「じゃあ、今日はこれで失礼するよ」
憂「本当にありがとうございました。また遊びに来て下さいね」
紬「その時はケーキを持って来るわね」
憂が微笑みながら手を振る。どこか寂しげな笑顔だった。
紬「……強い子ね。憂ちゃん」
律「ああ。実の姉が死んだのに。私だったらきっと立ち直れないよ」
紬「りっちゃんも弟がいるのよね」
律「ああ。でも最近、生意気で嫌になっちゃうよ。憂ちゃんみたいな妹がほしい」
紬「ふふっ。今の、あの子が聞いたらきっと喜ぶわよ」
律「あんなにいい妹がいるのに。唯のバカ」
紬「……そうね」
50 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/22(木) 17:32:23.78 ID:g+YyXPM3O
その夜。
律「おっかしいなあ。確かここに入れておいたのに」
律の漫画が何冊か本棚から消えていた。
律「聡が持ってったのかな?……あ。そっか」
彼女は在処を思い出した。何冊か和に貸したきりだったのだ。
だが先日、和の葬式で両親に会った時は返ってこなかった。もしかしたら、まだ平沢家にあるのかもしれない。
時計を見る。時刻は八時半。まだ電話をかけても許される時間だろう。
少し憂とお喋りするのも悪くない。
52 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/22(木) 17:42:15.15 ID:g+YyXPM3O
律は憂の携帯ではなく、自宅に電話をかける。
コール十回で、ようやく誰かが出た。だがそれは憂ではない。知らない男の声だった。父親だろう。
『はい』
律「あ、夜分遅くに失礼します。田井中と申します。そちらに憂さんはいらっしゃいますか?」
『……憂ですか』
急に相手の声が聞き取りづらくなる。
「……もしもし?」
『申し訳ありませんが、娘はそちらとお話ができなくなりました』
「……」
『憂は……私の娘は……首にロープを結びつけて……それで……』
電話の向こうで、大人の男が泣き崩れるのがわかった。
54 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/22(木) 17:51:28.87 ID:g+YyXPM3O
日記 ×月×日
四人目の自殺者が出た。いい気味だ。
学校全体がヒステリー気味になっている。お守りを持ち歩く者、インチキな宗教に走る者、不登校になる者。
いろいろいて、見ていて楽しい。
だがちょっとまずいことになった。装置の行方がわからないのだ。
あいつらの誰かが持ち出したのはわかっている。早いとこ回収しなければ。
最悪の場合、装置をもう一つ用意しなければならない。
57 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/22(木) 18:03:37.54 ID:g+YyXPM3O
重いノートの山を抱え、紬は職員室に向かって歩く。
彼女の美しいブロンドの髪は艶やかさを失い、肌は若干荒れていた。
いつの間にか廊下のあちこちに、ポスターや注意書きが貼られていた。
「命を大切にしよう」「命はただ一つ」「今日死んでも悔やまないくらい、全力で生きたいんだ」
どれもこれも、紬には空虚な言葉としか思えない。
先日、桜高はとうとうテレビに出てしまった。スクリーンに映った母校。なんとも奇妙な光景だった。
60 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/22(木) 18:15:02.48 ID:g+YyXPM3O
ニュースキャスターのコメントは、今でもよく覚えている。
「この一見美しい女子校にも、魔物は潜んでいるのでしょうか。
自殺した少女達の心の闇には、果たして何が潜んでいるのでしょうか」
聞くものの神経を逆撫でするような、不快な高い声だった。それ以来紬は、テレビを一度も見ていない。
ニュース番組やワイドショーに、友達を言いたい放題言われるのは我慢ならない。
廊下で何人かの生徒とすれ違う。誰もが深刻な顔をしていた。
61 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/22(木) 18:25:53.30 ID:g+YyXPM3O
紬「失礼します」
彼女は職員室に入る。だが返事はなかった。教師は職員会議で全員留守にしていた。
そういえば最近、職員会議が増えた気がする。
さわ子のデスクに、何十冊ものノートを置く。一息ついた時、彼女の目に何かがとまった。
それは日記帳だった。いかにも大人が持ち歩きそうなデザインの、茶色い表紙の日記帳。
よくないと思いつつも、手に取ってパラパラとページをめくる。
読み進めるうちに、彼女の顔色はだんだんと変わっていった。
66 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/22(木) 18:34:20.82 ID:g+YyXPM3O
澪はぼんやりとベッドに座っていた。
こうしてベッドの上での生活を始めて、もう何日になるだろう。
部屋は衣類や本、食べ物の容器が散らばり、悲惨な状態だ。ハエも飛び始めている。
そろそろ掃除しなきゃ。澪は思う。だが一向に腰を上げる気になれない。
今の私を見たら、唯や梓は何て言うだろう。軽蔑するかもしれないな。
……二人とも。もうすぐ私そっち行くかも。
そんなことを考えていた時。
充電器に突っ込まれたまま何日も放置されていた携帯が鳴った。
67 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/22(木) 18:36:51.43 ID:g+YyXPM3O
澪「……もしもし?」
紬「澪ちゃん?今すぐ私の家に来てほしいの」
澪「……無理」
紬「じゃあ、今すぐそっちに行くわ。りっちゃんも一緒にね」
澪「どうして?」
紬「わかったの。唯ちゃん達の自殺の原因」
69 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/22(木) 18:42:48.09 ID:g+YyXPM3O
律「……ずいぶんとまあ、散らかしたもんだ」
澪「ほっとけ」
何日も着ていたパジャマを脱ぎ捨ててシャワーを浴び、大急ぎで食べ物の容器を片付けた。
それでも、荒んだ生活はごまかしきれなかった。
紬「ちょっとテレビ借りていいかしら?」
澪「いいけど。原因って何なの?」
紬「これよ」
紬が取り出したのは、学祭のライブのビデオだった。
72 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/22(木) 18:52:44.27 ID:g+YyXPM3O
澪「学祭のライブのビデオ?これがどうして」
紬「いいから。ちょっと見てて」
秋山家のテレビに、ライブの映像が現れる。なんとも懐かしい「ふわふわ時間」が流れはじめる。
映像には唯が映っていた。可愛らしい衣装を着て、ギターを持った今は亡き親友。澪の胸が疼く。
だが紬は、映像をスロー再生にしてしまう。音楽は途切れ、画面がコマ送りになる。
律「何をやってるんだ?」
スクリーンには何の変化もおこらないようだった。だが数秒の後、こんなメッセージが画面上に現れた。
74 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/22(木) 18:54:32.78 ID:g+YyXPM3O
【女子高生は死滅しろ!桜高の生徒は自ら死ね!】
80 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/22(木) 19:02:01.03 ID:g+YyXPM3O
律「……なんだこれ。何かのジョークか?」
紬「違うわ。冗談でもなければイタズラでもない。れっきとした殺人よ」
澪「……ムギ、これってまさか」
紬「そう。……サブリミナルよ」
律「ちょっとまった。何なんだそのサブなんとかって」
紬「テレビやラジオなどを利用した洗脳方法よ。
知覚できない程度の速さや音量の映像・音声等を繰り返し挿入して、視聴者の潜在意識を刺激するの」
澪「聞いたことがある。
確か1957年にアメリカの映画館で上映された映画のフィルムに「コーラを飲め」「ポップコーンを食べろ」とメッセージを入れたコマを5分ごとに繰り返し挿入したら、
実際にコーラとポップコーン売り上げが上がったんだ」
84 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/22(木) 19:13:20.49 ID:g+YyXPM3O
紬「まず最初に、梓ちゃんが学祭のビデオを見たわ。それで自殺した」
律「ちょっと待った。あの場には私らもいたぞ。何で梓だけが」
澪「思い出せ。お前やムギや唯が、私を押さえつけてただろう」
紬「そう。この時点で唯ちゃんは命拾いした。だけど次は助からなかった」
澪「和と二人で見てしまったから。だから二人は死んだ」
律「じゃあ、憂ちゃんは……」
紬「私に返す前に、見たって言ったわ。だから……」
律「……でもちょっと待て。誰がこれをしかけたんだ?誰が私達を殺そうとしてるんだ?」
澪「思い出せよ、律。このビデオを持ってきたのは誰だ?」
律「……さわちゃん」
88 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/22(木) 19:27:44.96 ID:g+YyXPM3O
律「そんなバカな!どうしてさわちゃんが私らを殺さなきゃならないんだ?」
紬「それは、これを読めばわかるわ」
紬が日記帳を取り出す。
そこにはさわ子の女子高生に対する憎悪が延々と綴られていた。軽音部に対する罵詈雑言も見つかった。
サブリミナルに関する記述も見つかった。
紬「……あのヒトは、こうして私達を昔から嫌っていたのよ。殺してしまいたいくらいに
でも一人じゃたくさんは殺せない。それに殺人犯になる度胸もない。
だからこうして、サブリミナルで自殺を装って殺すことにしたのよ。大量に、そして自分の手を汚さずに」
律「……ふっざけやがって!」
突然律が立ち上がった。彼女の握られた手は激しい怒りに震えている。
律「こんなわけのわからない方法で、唯や梓や和や憂ちゃんは殺されたのかよ!
あのババア、許せねえ……。今すぐ行って殴り殺してやる!」
澪「待てよ。そんなことをしても、お前の手が汚れるだけだ」
紬「警察に行きましょう。そして全部話すのよ。証拠もあるし、あのヒトを完全に抹殺できるわ」
92 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/22(木) 19:40:09.86 ID:g+YyXPM3O
半ば足をもつれさせながら、三人は夜道を走る。紬の手にはビデオがしっかりと握られていた。仲間たちを殺した凶器が。
交番を発見して、全速力で駆け込む。
澪「あの、すみません」
紬「ちょっと、お見せしたいものが」
交番の中はまったくの無人だった。荒い息を吐きながら、律が舌打ちする。
律「巡回中かよ、役立たずめ」
紬「警察署に、生きましょう」
三人はあらためて走り出そうとする。だが数歩も歩かないうちに、突然若い大学生風の男が前に立ちふさがった。
97 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/22(木) 19:54:27.25 ID:g+YyXPM3O
律「なんだよあんた。そこどいてくれ」
風を切るような音がしたと思った次の瞬間、男の拳がまともに律の顔面に叩きつけられた。小柄な律は何メートルも先に吹っ飛ばされた。
次にたくさんの人が現れた。会社員風の男、主婦と思われる中年の女、老人。
彼らは手を伸ばし、次々に三人を攻撃する。四方八方から暴力が少女達に襲いかかる。
律「何しやがる!」
律の怒声は、突然凄まじい絶叫に変わった。人々は次々に現れ、暴力の輪に加わる。手に棒や刃物を持った人間も現れた。
紬のブロンドの髪は毟られ、顔は血に濡れていた。必死に握っていたビデオも、誰かに奪われてしまった。
これほどの苦しみがあるだろうか。そう思った刹那、ありがたいことに黒く深い眠りが訪れ、彼女を慈悲深く包み込んだ。
98 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/22(木) 20:04:41.78 ID:g+YyXPM3O
律達が澪の家に集まる前、とある動画サイトに一つの動画がupされた。
動画は人目を引くが、一週間もすれば誰もが飽きて忘れてしまうようなニュース動画だ。
この動画に、ちょっと見では確認できないメッセージが何度も挿入されているなど、誰に想像できただろうか。
メッセージは三人の女子高生の顔写真と、一行の文章だ。
【この三人を抹殺せよ】
103 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/22(木) 20:21:08.62 ID:g+YyXPM3O
日記 ×月×日
桜が舞い散る季節。
今日は講堂で部活説明会とやらがあった。ガキどもの下らないお遊びだ。
軽音部の紹介と称して、二年前の学祭のビデオが流された。入部を希望するガキも出てきているらしい。
もっとも、そいつらが入部することは未来永劫有り得ないだろう。
軽音部は、一人も残っていない。これから増えることなどありえるだろうか。
花が散る季節。
今年は、いったいどれだけの花が散るだろうか。
完
109 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/22(木) 20:28:44.14 ID:g+YyXPM3O [47/48]
これでおしまい
元ネタは「世にも奇妙な物語」の一エピソードです
スレを提供してくれた>>1と読んでくれた人、ありがとう
これでもうやり残したことはないぜ。
グッバイけいおんSS
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