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美琴黒子佐天初春「貴方たちを全力で倒す!」 vs 上条一方通行「……やってみろ」1-2

美琴黒子佐天初春「貴方たちを全力で倒す!」 vs 上条一方通行「……やってみろ」1-1
の続き

242 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga sage] 投稿日:2010/06/13(日) 21:43:14.31 ID:iWKmmLw0 [2/6]
学園都市某所。学生は滅多に寄り付かないような郊外の寂れたエリアに、その資材置き場はあった。
物陰に隠れ、目の前の空間を見つめる美琴、黒子、佐天、初春の4人。
資材置き場は広く、イメージとしては体育館ぐらいの大きさがあった。
しかし、逆に言えばその中央に立っているだけで目立ってしまい、狙われた者は不意を衝かれることになる。

佐天「……来ませんね」

黒子「現在時刻23時50分。私たちが来てから既に20分は経っていますわ」

目的の人物がなかなか姿を現さないことに焦りを感じているのか、佐天と黒子がそう言う。

美琴「待ち合わせ時刻は0時よ。だけど、油断しちゃダメ。広場の隅々までよく目を通して」

初春「…緊張しますね……」

彼女たちの鼓動と共に、時間はただ過ぎていく。

23時55分…

23時57分…

23時59分…

そして、遂にその時刻が訪れた。



美琴「午前0時よ」



4人の顔が強張る。

黒子「……………」ゴクリ

佐天「……………」ドキドキ

初春「……………」ドキドキ

静寂がその場を支配する。
それぞれ、目につく場所に視線を流す彼女たち。しかし、何者かが現れる気配はまるで無い。

243 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga sage] 投稿日:2010/06/13(日) 21:50:36.38 ID:iWKmmLw0 [3/6]
5分後――。

佐天「…ぜ、全然来ないですね…」

静寂に耐えられない、と言うように佐天が言葉を紡ぐ。

黒子「5分ぐらいの遅延は想定内ですわ」

初春「でも、もしこのまま来なかったら…」

黒子はそう言うが、初春は懸念を口にする。
美琴はそんな3人を前に、自分に言い聞かせるように声を上げる。

美琴「来る! 絶対来るわ!!」

が、しかし、それから25分経っても誰1人その場に姿を現れなかった。
4人の間に、無駄足だったのでは、という空気が流れ始める。美琴はそんな空気を感じ取り、冷や汗を流す。

美琴「(ここで来なかったら……私たちのこれまでの行動は全て無駄になる…そんなの嫌。来るなら来なさい…)」

美琴は、より気合いを入れて目の前の広場を見据えた。

245 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga sage] 投稿日:2010/06/13(日) 21:55:40.10 ID:iWKmmLw0 [4/6]
そんな彼女たちを、鷹の目のように監視する1つの視線があるとは、この時は誰も気付かなかった。
美琴たちを注視する鷹の目が、ヘッドセットのイヤホンに声を吹き込む。

『付近のサーチが終了しました。“子猫4匹”以外に、ジャッジメントやアンチスキルといった人影は見当たりません』

報告を受けた男は、ニヤリと口元を歪めた。

246 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga sage] 投稿日:2010/06/13(日) 21:58:34.13 ID:iWKmmLw0 [5/6]
その頃、美琴たちの焦りも限界にまで来ていた。

黒子「………………」

佐天「………………」

初春「………………」

美琴「………………」

誰も、何も喋ろうとしない。否、喋ることが出来なかったのかもしれない。
やはり、無駄骨だったか、という落胆と絶望が彼女たちの心を支配し始めたとき、ソレは訪れた。

247 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga sage] 投稿日:2010/06/13(日) 22:01:44.34 ID:iWKmmLw0 [6/6]






「あァれェ? こンな寂れた場所に似ても似つかない、4匹の子猫ちゃンたちが紛れこンでるぜェ~」









250 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga sage] 投稿日:2010/06/13(日) 22:09:22.63 ID:NwFQ4G60 [1/9]
神経を逆撫でするような、しかしその言葉1つだけで人間を殺せそうな、鋭い声が背後から美琴たちを貫いた。

美琴黒子佐天初春「!!!!!!!!!!!!!!!」

一斉に、4人は後ろを振り返る。しかし、声の主の姿は見えない。




「いけねェなァ……ここは子猫が遊びに来るような場所じゃねェンだ」




暗闇から再び、殺気に包まれたような声が届く。そのあまりの強大過ぎる威圧感に、美琴たちは声を忘れるほど戦慄していた。

美琴「だ……誰よ!」

何とか美琴が言葉を搾り出す。

251 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga sage] 投稿日:2010/06/13(日) 22:15:38.47 ID:NwFQ4G60 [2/9]
やがて、コツコツと誰かが歩いてくる足音に気付くと、美琴は身体中に電気を纏い始めた。
同様に、黒子も太腿の金属矢に手を添える。佐天はバットを握る手に力を込め、初春もまた前方に意識を集中させた。



「おいおい、つれねェなァ……誰とはねェだろ。あンなに激しくヤり合った仲じゃねェか」



突風に吹かれたような殺気が4人を襲う。
美琴はそんな男の言葉と声を聞き、心の奥底に眠っていたはずの恐怖が蘇るような感覚を覚えた。

美琴「(この声……どこかで……)」

美琴が思考を巡らす暇も無く、遂に、その男は姿を現した。


「よォ、久しぶりだな超電磁砲(レールガン)」


ニヤリと不気味な笑みを口元に刻んだその男。
美琴はその男を知っていた。嫌と言うほど知り尽くしていた。
彼女は驚愕と恐怖が混合した視線を向ける。
そこに立っていたのは、紛れもなく、学園都市最強の超能力者“一方通行(アクセラレータ)”だった。





「………一方通行(アクセラレータ)……!?」







253 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga sage] 投稿日:2010/06/13(日) 22:22:34.17 ID:NwFQ4G60 [3/9]
思わず出た言葉はそれだった。寧ろ、それ以外の言葉は出てこなかったと言える。
彼女にとって、あまりにも予想外の人物が唐突に目の前に出現したからだ。

黒子「お、お姉さま、知り合いですの!?(この殺気と威圧、只者じゃありませんわ!)」

続いて黒子も何とか声を絞り出す。それを皮切りに、佐天も初春もまたようやく声を上げた。

佐天「この人、能力者なんですか!? 御坂さん!?」

初春「この人の能力値は!? レベル3!? それともレベル4とか!?」

一斉に、喋り出す彼女たち。しかし、その声はどこか震えている。
それは、目の前で獰猛な殺気と威圧感を放つ一方通行によって生み出された動揺とも言えた。

一方通行「あン? 何だ超電磁砲、俺のこと教えてなかったのかよ…」

美琴「…………っ…」

夢でも幻でもない。今、自分の目の前に立つのはあの学園都市最強の超能力者・一方通行(アクセラレータ)だ。
しかも、見たところ彼は以前ついていた杖も、能力を制御するチョーカー型の電極バッテリーも首に巻いていない。どこからどう見てもそれは健康な人間そのもの。間違いない。彼は今、完全回復して最盛期の力を取り戻している。
美琴の脳裏に、彼の人智を越えた無慈悲なまでの強さが蘇ってくる。

一方通行「いや、無理か。そもそもここに来るのが俺だと分かってたンなら、ダチをわざわざ連れてくる危険冒すわけねェもンなァ」

佐天「み、御坂さん! この人の能力は何なんですか!?」

黒子「レベルの位は!? お姉さま!!」

焦りを隠しきれず、彼女たちは一斉に混乱する。

美琴「……こいつの能力は……ベクトル操作…」

初春「ベクトル……操作? 聞いたことありません。こ、この人の序列は!?」

信じられない、という表情でありながらも、美琴は何とか説明を口にする。
黒子たちは、自分がよく知るレベル5の美琴がここまで慄いている姿に不安を覚える。

美琴「第1位よ」

黒子佐天初春「え………」

美琴「こいつは……学園都市の230万もの頂点に立つ超能力者、最強のレベル5、一方通行(アクセラレータ)よ!!」

258 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga sage] 投稿日:2010/06/13(日) 22:29:35.18 ID:NwFQ4G60 [4/9]
美琴は、不安を搾り出すように大声を張り上げた。

黒子「……超能力者……」

佐天「最強……」

初春「……レベル5?」

初めて幽霊を見るように、彼女たちは恐る恐る一方通行の顔を見た。

一方通行「よく言えましたァ! 超電磁砲には花丸をあげねェとな!!」ニヤァ

誰かの歯がカタカタ鳴った。誰かの震えが肌越しに伝わってくる気がした。無理もない。今、目の前にいるのは、学園都市の頂点に立つ人間なのだから。
そんな一方通行を前に彼女たちは今、まるでライオンと対峙した子猫のように小さくなっていた。

美琴「……して…」

一方通行「あン?」

美琴「どうして!? …どうして固法先輩を、泡浮さんを、湾内さんを殺したのよ!!!!」

恐怖と焦りを隠しつつ、美琴は必死に搾り出した言葉で一方通行に詰問していた。
それを黒子と佐天と初春が不安げに見つめる。

美琴「……あんた…改心したんじゃなかったの……。一般人に危害は加えないんじゃなかったの? ……どうして、何の罪も無い人たちを……」

語尾が弱くなる。そんな美琴を無表情で見ていた一方通行は口を開いた。

一方通行「俺に聞くなよ」

美琴「何ですって……?」ギリッ

思わず、と言うように美琴が一方通行を睨む。
そんな彼女の行動など気にする素振りも見せず、一方通行は答える。

一方通行「首謀者は俺じゃねェ」

美琴「え?」

一方「だろ?  三  下  ァ  」

ニヤリと再び一方通行が笑った。
彼の視線を辿り、美琴たちが振り返る。
そして、1つの声が暗闇の奥から聞こえた。

259 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga sage] 投稿日:2010/06/13(日) 22:36:41.40 ID:NwFQ4G60 [5/9]






「……久しぶりだな……“ビリビリ”」








265 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga sage] 投稿日:2010/06/13(日) 22:44:51.27 ID:NwFQ4G60 [6/9]
美琴は目を丸くする。
そこに現れたもう1人の男。その姿を視認して、彼女は言葉を失った。





「警告したのに……何で来ちまったんだよ、お前は……」





一方通行とは違い、殺気も、威圧感も無く、寧ろどこか悲しそうな表情と声をした男は、美琴を見つめそう言った。

黒子「貴方は……!!」

ようやくその姿を確認し、黒子もまた驚きの声を上げた。

佐天「だ……誰?」

初春「知ってるんですか、2人とも!?」

新たに現れた男を前に、また別の懸念と恐怖を抱いた佐天と初春が訊ねていた。

美琴「あ……あ……何で…何で…あんたが……」

「…………………」

美琴の声が震え出す。目を瞑るもう1人の男。

「こんな形で、お前と会いたくなかったのに……」

美琴「何であんたがここにいるのよ!!!」


美琴「上条当麻!!!!」

上条「御坂………」


美琴の目の前に立ったもう1人の男――上条当麻は、美琴の声を受け悲しそうな表情で彼女を見つめた――。

268 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga sage] 投稿日:2010/06/13(日) 22:51:29.89 ID:NwFQ4G60 [7/9]
美琴と黒子と佐天と初春の4人を挟み撃ちにするかのように、一方通行と上条は暗闇に立つ。
彼女たちは小さく寄り添って事の成り行きに身を任せるしかなかった。

上条「わざわざ警告したはずだろ、電話まで掛けて……」

美琴黒子佐天初春「!!!!!?????」

黒子「では……貴方が、あの電話の主……」

佐天「じゃあ、こいつらが……こいつらが、固法先輩たちを殺した犯人なんだ……っ!!」

初春「どうして、あんなことを!?」

憎しみが篭った目で3人は上条を睨み据える。
対して、上条は素っ気無く言う。

上条「答える義務は無い」

黒子「……っ!!」

佐天「ふざけないでよ!!」

初春「何て血も涙も無い人なんですか……」

上条「御坂」

美琴「……何よ!?」

上条は黒子たちの言を無視するかのように美琴に顔を向ける。
美琴は、失望と驚愕と絶望が混ざったような表情で目に涙を溜め上条を睨み返した。

上条「今すぐこいつらを連れて帰れ。そして、言ったようにもう2度とお前たちはこの件に関わるな」

美琴「……勝手なことを…」





「ほーら、だからお姉さまは来るって言ったでしょ? ってミサカはミサカは勝ち誇った顔をしてみる!」





美琴「え……?」

277 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga sage] 投稿日:2010/06/13(日) 22:58:43.17 ID:NwFQ4G60 [8/9]
一方通行「うっせェよ。つーか何でお前までついてきたンだよ」

「だぁってぇー」

その場に似合わないような、子供の声が響いた。
上条に気を取られていた美琴が再び一方通行の方を振り返ると、確かにそこには10歳ぐらいの1人の女の子が立っていた。

美琴「……あんた……打ち止め(ラストオーダー)?」

目を丸くし、美琴は眼前の女の子に訊ねていた。

打ち止め「こんばんわお姉さま! …とお姉さまのお友達! ってミサカはミサカは元気に挨拶してみる!」

一方通行の手を握りながら、『打ち止め(ラストオーダー)』と呼ばれた女の子がペコと子供らしい可愛いお辞儀をする。

佐天「……誰?……御坂さんに似てるけど…」

黒子「…お姉さまの妹さまですか?」

初春「あ、貴女…もしかして、アホ毛ちゃん……?」

美琴と瓜二つな女の子の顔を見、3人が各々思っていることを口にする。

美琴「………っ……打ち止め……どうしてあんたまで……」

打ち止め「? どうして、ってミサカがこの人と一緒にいたら悪いかな? ってミサカはミサカは疑問を口にしてみる」

美琴「だって……あんた、こいつらが何やったのか分かってるの?」

自分の末妹のような存在である打ち止めに、美琴は衝撃を受けたような顔で質す。

打ち止め「それはもちろん! モガガ」

一方通行「もう黙ってろお前。ややこしィから」

打ち止め「ブー……あなたってばいじわるぅ」

ふてくされる打ち止め。そんな彼女を片手1つであしらいながら、一方通行は美琴たちに顔を向ける。

一方通行「どうも、オマエらには脅しも通用しねェようだな。スキルアウトの一団壊滅させただけじゃ、刺激足りなかったみてェだな」

美琴「……あんた!」

一方通行「あァ、俺がやったぜ。情報漏らしてたンだからその制裁は受けねェとなァ!」
一方通行「それがオマエらへの脅しにもなると思って、敢えてこっちから警告せずに放置してたンだが……まさかそれでもノコノコこんなところまで来るとは思わなかったぜ。危機感無さ過ぎ!」

美琴「……何て事を…」

美琴は唇を噛む。

278 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga sage] 投稿日:2010/06/13(日) 23:05:50.69 ID:NwFQ4G60 [9/9]
上条「だからと言ってわざわざ殺す必要は無かったろ、一方通行」

一方通行「はァ? だからお前は甘いンだよ上条」
一方通行「アイツら、スキルアウトにしてみれば筋の通った連中なンだろうが、仕事のためには無実の一般人を殺すようなこともしてたンだぜ? 本人たちは雇用主の依頼だからと、生きるためだと自分の意思に反して渋々やってたみたいだが、どっちにしろやってることは外道そのものだろ。そンなクズどもが死ンだところで誰も困らねェだろ。ま、今の俺らもアイツらと変わンねェのかもしれねェがなァ?」チラッ

美琴黒子佐天初春「!」

一瞬、ニヤリと笑って一方通行が美琴たちを一瞥した。

打ち止め「でも上条さんの言うことも一理あると思う、ってミサカはミサカは主張してみたり」

一方通行「あーうっせェうっせェ」

上条「やれやれ」

自分たちを無視し、頭越しに行われる会話を前に美琴たちは胸の中で何かが湧き上がってくる感覚を覚えた。

佐天「(……何なのこいつら…。人の友達を殺しておいて、こんな余裕綽々で…。ムカつく……)」
佐天「(こんな奴らに……固法先輩は……泡浮さんは……湾内さんは……)」

ギリッと唇を噛み締め、佐天はバットを強く握り締める。

佐天「ふ………」

初春「佐天さん?」

佐天「ふざけんなああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!」

美琴黒子初春「佐天さん!!!」

美琴たちが止める間もなく、佐天はバットを持って一方通行に突進していった。

美琴「ダメ佐天さん!! そいつだけは!!!」

282 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga sage] 投稿日:2010/06/13(日) 23:13:04.78 ID:DmLQYHI0 [1/2]
バットを構え突進してくる佐天を見、一方通行は待ってました、と言わんばかりに不気味な笑みを刻んだ。
佐天が思いっきり振ったバットが一方通行の顔を狙う。しかし……

佐天「きゃあああああああ!!!」

その瞬間、バットは大きく弧を描き弾き飛ばされ、佐天もまたすごい衝撃と共に後ろへ転倒した。
どのようにベクトルの向きを操ったのか、佐天に怪我はない。と言うよりも、攻撃を加える直前に何らかのベクトル操作で佐天を押し戻したようにも見えた。が、どの道それは佐天を気遣っての行動ではなかった。初っ端から遊び相手が簡単に減ってしまうのはつまらない。美琴には、一方通行がそんなことを楽しげに言いたそうに見えた。

一方通行「いいぜいいぜ、始めようぜェ!!!」

顔に傷を1つもつけることなく、一方通行は足元にあった木材に手を伸ばす。

美琴「!!!」

佐天に危険が及ぶのを察知した美琴は、飛び出し、一方通行の足元へ電気を飛ばした。

黒子「お姉さま!!」

初春「佐天さん! 御坂さん!!」

黒子と初春が無意識に体勢を起こす。
一方通行の足元に散乱していた砂塵が小爆発を起こし、それが辺りに撒き散らせる。

上条「!! チッ……!」

戦闘が始まってしまった。その状況に対して舌打ちするように、上条は砂煙に顔を覆いつつ、足を前へ踏み出した。


こうして、美琴・黒子・佐天・初春 vs 上条・一方通行の戦いの火蓋が切って落とされた――。

345 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga sage] 投稿日:2010/06/14(月) 22:29:02.91 ID:pAArqkA0 [2/5]
誰がどこにいるのか判別もつかない砂煙の中、黒子は目を細めながらも状況を把握しようと努めた。

黒子「…あの学園都市第1位……とてつもない殺気と威圧でしたわ。お姉さまは一体どこに……」

ふと、彼女は砂煙の中に美琴の後姿を確認した。

黒子「あ、お姉さま!」

次の瞬間、黒子の頭上をバックステップで美琴が、それを追うように一方通行が飛び跳ねていった。

黒子「お姉さま!……ハッ!?」

美琴を追おうとしたのも束の間、黒子は背後に何者かの気配を感じ取り咄嗟に振り返った。
砂煙の中に1人の影が浮かび上がる。
やがて砂煙が晴れていくと、その人間は姿を現した。

上条「………………」

無言でその場に立ち、黒子を見つめていたのは上条だった。
黒子はその顔を見ているうちに、怒りが込み上げそして叫んでいた。

黒子「どうして固法先輩たちを殺しましたの!?」

上条「………………」

しかし、上条は何も答えない。

黒子「何か答えたらどうですの!?」

怒りに任せ黒子は突進し、上条の腹部に手を触れる。

黒子「(空中5mほど頭上にテレポートして、地面に落下させてやりますわ!)」

しかし……

黒子「あら……?」

唖然とする黒子。
上条はうんともすんとも言わず、その場に立ち止まっている。

黒子「何故……ハッ!」

上条「忘れたのかよ白井?  俺  の  右  手  に  何  が  あ  る  の  か  」

変わらず、低い声のトーンでそう呟いた上条の顔を見、黒子は悪寒を覚えた。

黒子「(まずい……っ!)」

347 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga sage] 投稿日:2010/06/14(月) 22:37:07.11 ID:pAArqkA0 [3/5]
一端、上条から離れようと1歩後ろへ下がろうとする黒子だったが、その余裕が与えられる間は無かった。

ギシィ!!

素早い動きで上条が両手を器用に使って黒子の腕の関節を背後から極めた。

黒子「くっ…! 不覚……!!」

上条「………お前ら…」

上条が何かを言いかけた時だった。

佐天「うおおおおおおおおおおおお!!! 白井さんから手を離せええええええええええええ!!!!」

バットを手にした佐天が上条に向かって暗闇から飛び出してきた。

佐天「おりゃあああああ!!!」

バットを振る佐天。
しかし上条はそれをヒラッとかわしてみせる。

佐天「!? 逃げるな!!」

佐天は続けてバットを右に、左に、上から、下から、あらゆる方向から力のまま振り抜く。

佐天「これでも! キャパシティダウンを破壊したバットなんだ!! 食らったら、一たまりもないはず!!」

ブンッブンッと佐天はバットを振りまわすが、上条は黒子の腕を極めながらも全ての攻撃を難なく回避する。
ずば抜けた反射神経だった。

佐天「クソ! 何で当たらない!?」

上条「それはなあ……」

勢い余って、佐天は前方につんのめりそうになる。

上条「街の不良なんて、大多数で凶器を振り回してくるからだよ」

佐天「!!!」

上条「対して君の場合は…脇も締まってない、軌道が単調、バットの重さにつられてる、で簡単に避けられるんだよ」

佐天「……くっそおおおおおおおおおお!!!!」

転倒しそうな身体を何とか保ち、佐天は強く地面を踏む。そのままの勢いで、彼女はバットを右に薙いだ。

348 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga sage] 投稿日:2010/06/14(月) 22:45:03.02 ID:pAArqkA0 [4/5]
上条「おっと……」

しかし決定打にはならず、バットは上条の髪の毛にほんの少しだけ触れると虚空を引き裂いた。

佐天「きゃっ!」

思いっきり振り切った挙句、上条にかわされたせいか、佐天は派手に仰向きに倒れてしまった。

黒子「佐天さん!」

上条「おいおい」

手の力が緩まったのか、黒子は上条の身体から解き放されてしまう。
急いで彼女は倒れた佐天に駆け寄った。

黒子「大丈夫ですか!?」

佐天「へ、平気です……。それよりあいつ、何の能力なんですか?」

黒子「あの方は全くの無能力……レベル0ですわ…」

起き上がる佐天を手伝いながら、黒子は何とか言葉を紡ぐ。

佐天「は? レベル0?」

黒子「ええ…。しかしそれでありながら、右手には超能力を何でも打ち消す力を備えています」

佐天「ど、どういう……」

黒子「さっき、私が彼を飛ばそうとした時、手で触れてもテレポートできなかったでしょう? それも右手の力です。一切の攻撃能力は持っていませんが、最強の防衛能力ですわ」

そう言って黒子は上条を見据える。

佐天「それでも……レベル0?」

黒子「ええ」

佐天「(…でも、さっきの身のこなし、只者じゃなかった…。いくらそんな不思議な能力があっても、レベル0の無能力であそこまで強くなれるの?)」

上条「話は済んだかよ?」

敢えて手も出さず、ずっと2人の様子を見ていた上条が静かに問う。
共に肩を貸し合って立ち上がった黒子と佐天は上条を睨み据えた。

上条「…………………」

349 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga sage] 投稿日:2010/06/14(月) 22:53:34.41 ID:pAArqkA0 [5/5]
その頃、美琴の方は、一方通行との戦闘がヒートアップしていた。

一方通行「どうした逃げるだけかァ!?」

電気を発しながらも、美琴は軽快なバックステップとジャンプで一方通行の追撃から何とか逃れていた。

美琴「えやぁ!!!」

バチバチバチッ!!!!

耐えかねたのたか、美琴が一方通行に向かって雷撃の槍を飛ばす。
しかし、一方通行がそれを右手の甲で弾くと一気に霧散してしまった。

一方通行「オマエ、俺の身体がどうなってンのか知ってて攻撃してンのか? 自爆しちまうぞ。まあ上条のような幻想殺しがあれば話は別だけどなァ。それとも木原神拳でもやってみっか?」

ニヤニヤと一方通行は言う。彼の言うことはもっともで本来なら一方通行の身体に当たった雷撃の槍は跳ね返って美琴に向かうはずだった。だが、そうならなかったのは一方通行が雷撃の槍を右手の甲で弾いたからだ。しかし彼は、自分が傷つく恐れがあるから弾いたのでなく、美琴が傷つく恐れがあるから弾いただけなのだ。
もちろんそれは美琴を思っての行動、とは言い難くどちらかと言えば一方通行にとって戦闘があっけなく終了するのがつまらなかったためだ。

美琴「………うりゃああ!!」

次いで、美琴は砂鉄を集めて作った剣を振り回す。が、しかし、一方通行はそれを掴むと彼女の身体ごと、空中へ飛ばしてしまう。10mほど一直線に吹き飛び、やがて美琴は地面に落下した。

美琴「……くっ…」

ポケットに手を突っ込んだまま、一方通行は美琴に接近する。

一方通行「おィおィ、こっちは本気を出してないどころかまだ何1つ攻撃してないンだぜ? そんな早くくたばってもらっても、つまらねェだろう?」

楽しそうに、一方通行は笑う。

美琴「…ハァ…ハァ…ハァ…」

一方通行「撃てよ」

美琴「…ハァ…ハァ…」

美琴は一方通行を睨む。

一方通行「お前の切り札……超電磁砲(レールガン)、俺に撃ってみろよ」

美琴「くっ……」

一方通行「やってみろよほらァ!! 状況は何も改善しねェぞ!! ひゃははははははは!!!!」

351 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga sage] 投稿日:2010/06/14(月) 23:00:37.97 ID:UWYkmp60 [1/10]
2つの戦闘がまさにワンサイドゲームな展開で行われる中、少し離れた所で打ち止めはその様子をじっくりと眺めていた。

打ち止め「ハァ……なんかつまんない、ってミサカはミサカは愚痴ってみる」
打ち止め「完全復活した一方通行とは言え、お姉さまならダメージ1つぐらい負わせられると思ったけど劣勢だね。お姉さまの戦闘を目の前で見られるって思って楽しみにしてついてきちゃったけど、期待して損した感じ、ってミサカはミサカは冷めた目で溜息を吐いてみる」

チラッと打ち止めは逆方向に視線を移す。

打ち止め「あっちもダメだね。あのツインテールのお姉ちゃん、レベル4って話だからちょっとは期待したけど全然ダメ。それと、あの黒髪のお姉ちゃんはバット持ってるから能力者じゃないのかな?」

打ち止めはその場で上体を僅かに反らし、退屈そうに頭上を仰ぐ。

打ち止め「つまんないつまんないつまんないつまんないつまんなぁ~い、ってミサカはミサカは更に愚痴ってみる」
打ち止め「これじゃあ勝負にもなってないよ。あーもう、あの2人遊んでないで早く終わってくれないかな? 退屈過ぎる~、ってミサカはミサカはもう他人事」

打ち止めはそう言って、あくびをした。

354 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga sage] 投稿日:2010/06/14(月) 23:06:30.61 ID:UWYkmp60 [2/10]
美琴「うおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!」

ポケットからコインを取り出す美琴。視線の先の一方通行の姿を捉えると、容赦なく彼女は超電磁砲(レールガン)を発射した。



ズッオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!!!



その轟音に、その場にいた者たちが咄嗟にそちらに視線を寄越す。

黒子「お姉さま!」

佐天「御坂さん!?」

上条「…………………」

打ち止め「………………」

美琴「ハァ…ハァ…ハァ……」

目の前の空間を見つめる美琴。超電磁砲によって巻き起こされた砂煙が彼女の視界を覆う。
超電磁砲を放ったと同時に、咄嗟に痛む身体を出来るだけ動かし回避行動を取った美琴だったが、超電磁砲が跳ね返ってくることはなかった。
その理由として考えられる可能性は2つ。1つは、先程のように戦闘を終わらせたくない一方通行がわざと手を出し超電磁砲を霧散させた可能性。そしてもう1つは、超電磁砲が一方通行に直撃した可能性………。




一方通行「こンなもンか」




美琴「!!!!????」

目を細めていた美琴の前に、突如、一方通行がミサイルのように猛スピードで突進してきた。
回避する間もなく、美琴は一方通行の蹴りによって地面を転がった。

355 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga sage] 投稿日:2010/06/14(月) 23:12:37.44 ID:UWYkmp60 [3/10]
黒子「お姉さま!!」

上条「余所見してる暇、あるのか?」

黒子「くっ……」

佐天「白井さん、先にこいつを倒しましょう!」

黒子「ええ!」

両者の距離は約5mほどだ。が、上条は微動だにしない。
そして、突然黒子が上条の視界から消え失せた。

上条「………」

1秒後、黒子は上条の背後に現れた。今まさに彼女は上条の背中を蹴り飛ばそうとしていた。

上条「遅い」

刹那の速さで振り返る上条。

黒子「え……」

空中で一瞬静止した黒子の腕を掴み取ると、上条はそのまま彼女を地面に叩き下ろす。

黒子「ぐっ…あっ……」

逃げられぬよう右手で腕を掴み、小さな背中に膝を押し付けて動けないようにする。

上条「直接、俺の身体に触れて効かないと思ったら、自身をテレポートさせて背後から奇襲……お前の戦術はバレバレだ」
上条「それに、お前が消えてから背後に現れるまでのタイムラグを俺が知らないとでも思ったか?」

黒子「くっ……」

悔しそうな目を浮かべて黒子が横目で上条の顔を睨み上げる。

佐天「うおおおおおおおおおおおおおお!!!!」

不意に佐天の声がこだまする。上条がそちらに顔を向けると、佐天がバットを構えて走ってくるのが見えた。

356 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga sage] 投稿日:2010/06/14(月) 23:18:27.65 ID:UWYkmp60 [4/10]
上条「またそれか」

思いっきり振り下ろされたバットを左手で掴む上条。佐天の動きが停止する。

佐天「なっ……」

上条はバットを強い力で素早く引っ張る。それにつられ、佐天が前のめりに倒れそうになる。

佐天「きゃっ!」

しかし上条はそのままの勢いでバットを押し戻した。

佐天「きゃあ!!」

受け身も取れず、佐天は後方に仰向けに倒れ込んだ。

黒子「佐天さん!!」
黒子「くっ……離しなさいですの!! そんな汚れた手で私に触れないで……くあっ」ギュウ

上条「あまり動くな。こっちもお前をこれ以上、痛い目に遭わせたくないんだ」

黒子「何を舐めたことを……」

357 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga sage] 投稿日:2010/06/14(月) 23:23:27.67 ID:UWYkmp60 [5/10]
美琴「…………くっ」

その頃、美琴は立ち上がることも出来ず、地面に倒れたままでいた。

一方通行「おいおい、わざわざ手加減してやったンだぜ? それぐらいでヘバってンなよ。…でもまあいいか」
一方通行「これ以上警告を無視しないよう、身体に痛みを覚えさせておいたほうがいいのかもなァ」

ニヤリと一方通行は美琴を見下すように笑う。

美琴「…ざ…け…ないでよ」

一方通行「じゃあ、試してみるか!!」

美琴「!!!!」

一方通行が右手を振りかざす。
と、その時だった――。

359 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga sage] 投稿日:2010/06/14(月) 23:28:37.93 ID:UWYkmp60 [6/10]






「動かないで下さい!!!」








360 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga sage] 投稿日:2010/06/14(月) 23:35:41.74 ID:UWYkmp60 [7/10]
出し抜けに、甲高い声が一方通行の耳に届いた。

一方通行「あァ?」

興を削がれた、と言うように一方通行が顔を上げた。

美琴「!?」

一方通行につられ、美琴も声がした方に視線を寄越す。

上条「…あれは……」

上条たちもまた、そちらの方に注意を向けた。





初春「動いたら……この子を殺しますよ!!!」カチャリ





見ると、少し離れた所で初春が拳銃を持ち、その銃口を打ち止めの頭に向けていた。

367 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga sage] 投稿日:2010/06/14(月) 23:42:40.45 ID:UWYkmp60 [8/10]
黒子「初春!!」

佐天「初春!! …くっ…」

美琴「初春さん!!」

一方通行「そういやァ……さっき、頭に花生やしたヤツも見かけたっけかァ…」

初春は、全ての状況を把握できる場所で、打ち止めを人質にとっている。
美琴は一方通行の足元でうずくまり、黒子は上条によって組み伏せられたまま。佐天もまたダメージを負ったのか、地面から起き上がれずにいた。現状、動けるのは初春しかいなかった。

一方通行「てっきり逃げたかと思ったが…コソコソと移動してたのか…」

美琴「あの拳銃……」

初春の手元に注意を向ける美琴。その手に握られていたのは、攻撃的な能力も持っていない、その上で華奢な身だからと言う理由で、美琴が支部を出る前に初春に託したものだった。

初春「これ以上御坂さんたちを傷つけたら……この子を撃ち殺します……っ!」

打ち止め「………………」

初春の声は明らかに震えている。そんな初春を、打ち止めは冷めた目をして横目で窺がっている。

時が止まったように、辺りが静寂に包まれる。

美琴「ダメ! ……初春さん…あなたの力だけでは……」

黒子「初春! 馬鹿な真似はお止めなさい! こやつらは私たちだけで倒します!!」

佐天「そうだよ初春! 早くそれを降ろして……!!」

必死に説得の声を上げる美琴たち。対して、上条と一方通行は特に興味が無いように無言のままだ。
埒があかないと思ったのか、初春は更に拳銃を打ち止めのこめかみに突きつける。

初春「私は本気ですよ!!」

初春の手は震えに震え、右手の人差し指もトリガーガードに添えられておらず今すぐにでも引き金が引かれそうだった。
しかし、上条と一方通行からは何のアクションも無い。

打ち止め「無駄だよお姉ちゃん」

初春「え?……」

371 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga sage] 投稿日:2010/06/14(月) 23:50:27.26 ID:UWYkmp60 [9/10]
唐突に下から聞こえた声に気付き、初春は涙を浮かべた顔をそちらに向けた。

打ち止め「お姉ちゃん、ミサカを殺すどころか傷つける気も一切ないでしょ?」

初春「なっ……」

打ち止め「そんなこと、お姉ちゃんの顔見てたらすぐに分かるよ。ミサカが気付いてるんだから、あの人が気付いてないわけないよ」

初春「!!」

絶句する初春。

打ち止め「ってミサカはミサカは断言してみたり!!」ニコッ

一方通行「そういうわけだァ……嬢ちゃん」

初春「!?」

一方通行「ガバメントかァ。いい銃持ってンじゃねェか。かつてアメリカで製造されたヤツだ。つゥか、持ってて重たくねェの?」
一方通行「だけどそれ、そのまンまの状態じゃ撃てねェぞ」

初春「え? え?」

オロオロと、初春は手元の拳銃を見てとる。

一方通行「いや、ガバメントはダブルアクションじゃなくてシングルアクションだからまず初めに撃鉄を……って…」

初春「え、あ…えーっと…え? あ…あ…」

一方通行「ハァ…」

そこで一方通行は説明するのも億劫になったのか、片手で頭を抱えて溜息を吐いた。
そしていまだ自分の持つ拳銃を見て焦っている初春をジッと横目で見る。

一方通行「なァ嬢ちゃん、オマエ覚悟あンのか?」

初春「えっ…」

376 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga sage] 投稿日:2010/06/14(月) 23:57:23.83 ID:UWYkmp60 [10/10]
一方通行「そのガキを撃つ覚悟、あンのかって聞いてンだ」

一方通行は先程までとは違った雰囲気を放ち、初春を見据える。

初春「覚悟……?」

一方通行「別にオマエだけじゃねェ……そこのテレポーターも」

黒子「!」

一方通行「バット持った嬢ちゃンも」

佐天「!」

一方通行「超電磁砲も…」

美琴「!?」

一方通行「ハナっから、俺たちを全力で殺す覚悟でここに来てンだろうなァ?」

美琴たちは一瞬、黙りこくる。
誰も即答しようとしない。それはまるで一方通行の問いに真っ正面から肯定出来る自信が無い、と言っているようなものだった。

佐天「あ……当たり前でしょ!! …じゃなきゃここに来るはずがない!!」

地面の上で痛みに顔を歪めながらも、佐天はそう叫ぶ。

黒子「そ…そうですわ。私たちは相手が誰だろうと……全力で殺す覚悟をもってここに来ましたわ!!」

美琴「そうよ……私たちは…死ぬ覚悟も出来てる!…」

次々と、声を上げる3人。
一方通行は顔も動かさず聞き入れる。まるで、言い訳のような彼女たちの言葉を。

一方通行「嘘つけェ」

美琴黒子佐天初春「!!??」

美琴「な…なんですって?」キッ

一方通行「大体オマエら、俺たちを殺す覚悟があるってことは、それに見合う実力が自分たちにあると思ってるからだよなァ?」
一方通行「でなきゃ、超電磁砲やテレポーターはともかく、こんな所にまで普通の中学生のガキがついてこれるわけねェ」

佐天初春「………っ……」

一方通行「独自の調査でオマエらのお友達を殺した誘拐犯が、ある程度の実力を持つ能力者であることも判明していたはずだァ。それを分かってて尚、ここに4人で来たってことはだ」

一方通行は1拍置いて言う。

一方通行「自分たちに誘拐犯の能力者を倒せるだけの実力と自信が少しでもあると思ったからだ。違うかァ?」

377 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga sage] 投稿日:2010/06/15(火) 00:04:43.04 ID:SRWvneI0 [1/10]
佐天「そ…そうだよ!! それが何か悪いの!?」

一方通行「じゃあその根拠は何だ?」

佐天「え?」

一方通行「その結論に至った根拠だよ」

佐天「根拠って……」

美琴「そんなの簡単よ…くっ」

美琴が痛みに耐えながら言葉を紡ぐ。

上条「………………」

美琴「これでも私たち、数々の事件を4人一緒で乗り越えてきたのよ……。例えレベル5の私でも、この子たちがいなかったら、解決出来なかったり、もしかしたら死んでいたかもしれないことだってあったわ」

一方通行「………ほゥ」

佐天「あんたは知らないでしょうけど…あたしたちは、グラビトン事件、レベルアッパー、ビッグスパイダー、テレスティーナの暴走……と、ただの学生じゃ遭遇しないような修羅場を一緒に潜ってきてるの!!」
佐天「そう……あたしたち4人でどんな修羅場も潜ってきた。だから……」

一方通行「だから? だから俺たちを殺せると思ったか? それでこのザマかァ?」

美琴たち4人の過去を簡単に否定するかの如く、一方通行は追い討ちを掛けるように更に問い詰める。
反論しようとしても、一方通行の指摘する通りほぼ戦闘不能になっている4人の現状では説得力が無かった。

美琴黒子佐天初春「…………っ……」

一方通行「オマエらやっぱり甘すぎるわ。そして世間を知らない子供(ガキ)だわ」

美琴「…子供…ですって?」ギリッ

一方通行「簡単に言うとだなァ…お前らが潜ってきた修羅場なんて、俺が味わってきたソレと比べたら、足元にも及ばねェ…ただのガキのお遊戯なンだよ」

美琴黒子佐天初春「なっ!?」

一方通行「テレスティーナ=木原ちゃンだっけかァ? 聞いてるぜェ。オマエ、アイツに苦戦したらしいじゃねェか。レベル5の癖に情けねェと思わねェのかよ? あンな奴、俺にかかれば楽勝なンだがなァ」

美琴「……あんたは…曲がりなりにも学園都市最強……だからそんなことが言えるのよ…!」

一方通行「そうかァ? だとしたらアイツはどうだ?」

そう言って、一方通行は上条の方に指を指す。

上条「………………」

381 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga sage] 投稿日:2010/06/15(火) 00:11:25.82 ID:SRWvneI0 [2/10]
一方通行「アイツはレベル0の無能力者だぜェ? なのにアイツは自ら厄介ごとに突っ込み、今までいくつもの事件を解決してきてやがった。実際、俺を倒したのもあのヤロウだぜ? それは覚えてるだろ?」ニヤァ

美琴「……だから、何よ?」

黒子「(…あの殿方が……)」

佐天「(レベル0の無能力者が……学園都市最強の超能力者を倒した!?)」

信じられない、と言うように黒子と佐天が上条に顔を向けた。

一方通行「アイツも、オマエらとは……質も! 経験も! その危険度も! 全く比較に出来ねェほどの死線を今まで何度も潜ってきやがった。例えアイツが全くの無能力者だろうと、オマエらには勝てねェよ」

黒子佐天「くっ……」

一方通行「オマエらは、学園都市を余りにも知らなさ過ぎるンだよ。学園都市の裏の世界がどンだけ汚れてるのか、どンだけ洒落にならない世界なのかを知らない」

そう語る一方通行の目には美琴たちに対するただの侮蔑とも見下しとも言い難い、何かがあった。まるで本当の地獄を知っているような、それでいて地獄を知った気でいる4人に僅かながら苛立ちを抱えているようなそんな感じだった。

一方通行「知らないのにオマエらは、過去の大したこともない経験を根拠に自分たちの力を過信して、俺たちに勝負を挑みやがった。おまけに、敵を殺す覚悟も自分が死ぬ覚悟もないと来たもンだ」
一方通行「だから、お前らは子供(ガキ)なンだよ」

一方通行の最後の言葉は、どこか真剣に聞こえた。
黒子も佐天も、自分たちの自信を打ち砕かれたようにうなだれている。もはや、彼女たちに戦意は残っているとは言い難かった。

美琴「……子供じゃない…」

一方通行「あァ?」

382 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga sage] 投稿日:2010/06/15(火) 00:17:29.17 ID:SRWvneI0 [3/10]
美琴「私たちは……子供じゃない!!!」

最後に残った力を振り絞って、一方通行を睨みつつ美琴は叫んでいた。

一方通行「…………そうかよ」
一方通行「いいぜ。だったら、オマエらの覚悟ってヤツを今ここで確かめてみようか!?」

再び、一方通行が笑う。

美琴「!?」

その場を離れた一方通行が目にも止まらない速さで、移動する。

美琴「何を…?」

並べられた鉄骨に視線を流すと彼は打ち止めに声を掛けた。

一方通行「打ち止め!!」

打ち止め「ん?」

打ち止めがキョトンと一方通行のほうに顔を向ける。

一方通行「ちょォっと、その嬢ちゃンから離れてろ……危ないからなァ」

打ち止め「はーい!」

元気な返事をし、打ち止めは初春に目も暮れず小走りで離れていった。

初春「あ、ちょ、ま、待って……」

人質だった打ち止めに逃げられ、狼狽する初春。

一方通行「嬢ちゃン」

初春「!」

一方通行「オマエが死ぬ覚悟出来てるか、見てやンよ」

そう言って、一方通行はニヤリと笑う。

上条「!!」
上条「おい、待て……どうするつもりだ一方通行」

この状況にして、上条が久しぶりに口を開く。
しかし、一方通行は既に聞いてはいなかった。

384 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga sage] 投稿日:2010/06/15(火) 00:23:38.67 ID:SRWvneI0 [4/10]
黒子「まさか……初春!!」

佐天「…初春!! 逃げて!!」

黒子と佐天が顔を蒼ざめ叫ぶ。
ようやく初春も、自分が置かれている状況を理解した。
が、時既に遅しだった。

一方通行「はっはァ!! その幻想をぶち殺すってなァ!!!」

そう言うと一方通行は足元にあった鉄骨を1つ空中高くに蹴り上げ、同時に自身も上空に飛び上がった。
間髪入れず、彼は鉄骨に手を触れた。まるで撫でるような仕草だったが、それだけで十分だった。

一方通行「バイバァイ」ニヤァ

上条「一方通行!!!」

美琴「やめてえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!!!!」

美琴の悲痛な叫び声がこだまする。
それを合図にするかのように、鉄骨は目にも止まらぬ速さで初春目掛けて一直線に落下していった。

初春「え……?」





ドガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!!!!!!!!!!!







386 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga sage] 投稿日:2010/06/15(火) 00:28:27.36 ID:SRWvneI0 [5/10]
その時、時間が停止した。


上条「…………!!」

打ち止め「…………………」

黒子「――――――!!!」

佐天「―――――――!!!」

美琴「――――――――」

一方通行「………………」ニヤァ


誰かが叫んだような気がした。誰かが泣いたような気がした。だが、誰も何も聞こえなかった――。
この時、一方通行の手によって、初春は鉄骨の下敷きにされた………

390 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga sage] 投稿日:2010/06/15(火) 00:34:35.19 ID:SRWvneI0 [6/10]





初春「はっ!!」





……かに見えた。

初春「………はっ……あっ……あが……」

気付くと、初春は地面に腰をペタンと降ろし、息継ぎにもならない息継ぎをしていた。

初春「…はっ……かっ…あああ…」

どうやら、自分がまだ生きていることを状況から理解した彼女の背中に、冷や汗の滝が流れ落ちる。見ると、鉄骨は彼女の目の前に剣のように突き刺さって屹立していた。
そして、音が戻り、再び時間も動き出す。

佐天「初春!!!!!!」

黒子「初春!!?? 良かった……生きてますの……ああ」

美琴「初春さん!! 大丈夫!? 怪我はない!?」

初春の無事を確認した美琴たちが泣きべそをかきながら叫ぶ。

初春「わた……わたし……あ…あああ……」

呂律も回らない初春が自らの下半身の異変に気付く。

一方通行「はっはァ! こりゃあ傑作だぜェ!!」

初春「やだ……わたし…ああ、見ないで……///」カァァ

一方通行「怖かったかァ? お漏らししちゃうほど怖かったでちゅかァ?? ヒャハハハハハハハハハ!!!!!!」

美琴「コイツ……」ギリ

黒子「許せませんの…」

佐天「ざけやがって…」

怒りの視線が一方通行に注がれる。

上条「おい、一方通行!」

391 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga sage] 投稿日:2010/06/15(火) 00:41:13.95 ID:SRWvneI0 [7/10]
その時、ずっと様子を見守っていた上条が声を上げた。

一方通行「あァ? 何だ上条?」

上条「殺さない、って約束したはずだろ!?」

一方通行「あァ。だから殺してねェし、誰1人死ンでねェだろ?」

上条「にしても、やり過ぎだお前!」

一方通行「やり過ぎ? はン、どこがだ? 俺は、コイツらが『覚悟がある』って言ったからそれを見させてもらっただけだぜェ。ま、結果は見ての通りだ」

一方通行は初春に顔を向ける。

初春「ひっ!」

一方通行「自分たちが本物の修羅場を知ったような口でギャアギャア叫ぶから、ちと試してみたが……化けの皮を剥がしてみれば、結局は現実が見えてねェ、ただのガキだったわ」

初春「はうう……」ガクッ

美琴「初春さん!」

初春がその場に倒れ込んだ。

一方通行「気絶したか。まァ、そういうこった」

上条「………………」

一方通行「コイツらは自分たちの力を過信してたンだよ。ンで、ノコノコとここまでピクニック気分でやって来て、完膚無きまでに俺たちにやられてやがる。大方、舞い上がってたンだろうなァ。一緒に修羅場を潜り抜けてきた4人なら何でも出来る、って。が、俺たちの前ではこのザマだ。……情けないねェ、超電磁砲」

一方通行はしたり顔で美琴を見る。

美琴「何ですって?」

一方通行「レベル5のオマエがついていながら、友達ごっこに感化されて、お友達巻き込んでェ。あァ、やっぱりオマエも所詮はガキだってことだ」ニヤッ

美琴「こいつ……」

黒子「………くっ」

佐天「うっ……クソォ…」

上条「………………」

黒子「………」チラッ

佐天「………」チラッ

上条が一方通行に気を取られている隙に、黒子と佐天が目配せをする。

392 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga sage] 投稿日:2010/06/15(火) 00:47:33.09 ID:SRWvneI0 [8/10]
上条「どっちにしろ、お前はやり過ぎだ」

一方通行「あァはいはい、分かりましたよ。オマエがリーダーだもンな」

美琴「……リーダー?」

一方通行「あァ、言ってなかったっけか? コイツが俺たちのリーダー、ってわけだ」

美琴「!?」

美琴は目を丸くして上条を見やる。しかし、上条は特に反応も示さない。

上条「……………」

一方通行「上条」

上条「ああ」

黒子「…うっ!」ドスッ

突然、上条が掴んでいた黒子を強引に引っ張り上げ、その鳩尾に当身を入れた。

美琴「黒子!」

黒子が気絶したのを確認すると、上条はようやく彼女を腕から離した。

佐天「えやあああああああああああ!!!!!」

その時、佐天が最後の力を振り絞ってバットを持ち上条に向かってきた。
振られたバットを難なくかわし、上条は佐天の後頭部に手刀を食らわす。

佐天「かはっ……」

そのままの勢いで、佐天は地面にうつ伏せに倒れ込んだ。バットが地面を転がる乾いた音が響く。

美琴「佐天さん!」

一方通行「俺の目を盗もうったってそうはいかないぜェ? 嬢ちゃンたち」

一方通行は美琴の顔を歪んだ笑みで見つめる。

一方通行「で、残るはオマエだけだがどうすンの? まだやる?」

まだ遊ぶ? という感覚で一方通行は訊ねる。

美琴「当たり前……」

上条「帰るぞ一方通行」

一方通行「ンン?」

394 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga sage] 投稿日:2010/06/15(火) 00:53:25.84 ID:SRWvneI0 [9/10]
上条「用は済んだ。こいつらへの脅しも十分効いただろうし、2度と馬鹿な真似はしないだろ」

美琴「…何を…!!」

上条「これ以上、無理にこいつらを傷つける必要はない。帰るぞ」

一方通行「ふン…まァ、リーダー様がそう言うなら仕方ねェか…正直、遊び足りない気もするが…」
一方通行「打ち止めァ!!」

その言葉に反応するように、どこにいたのか打ち止めが暗闇から飛び出してきた。

打ち止め「はーーーーい! ってミサカはミサカは一方通行に突進!」

一方通行「うぜ」ヒョイ

打ち止め「あう! もう、よけないでよ照れ屋さん!」

一方通行「だァれが照れ屋だアホ。帰ンぞ」

打ち止め「了解!」ビシッ

美琴「ま、待ちなさいよ打ち止め!」

打ち止め「んー? なぁにお姉さま?」

地面に倒れていた美琴が背後から打ち止めに声をかけた。打ち止めが楽しそうに振り返る。

美琴「あんた、何でこいつらと一緒にいるのよ? こいつらが、何やってるか知ってて一緒にいるの?」

打ち止め「知ってるよ?」

美琴「なっ」

10歳ほどの女の子のあっさりとした答えに絶句する美琴。

打ち止め「だってこの人たちは……」

上条「もういいだろ。さ、帰ろう」

一方通行「ほら、行くぞクソガキ」

と、打ち止めがそこまで言いかけて上条と一方通行が打ち止めを促した。

打ち止め「OK!!」

一方通行にくっつくように打ち止めは歩き始めた。それを確認し、上条も一歩遅れて歩き出す。

美琴「“当麻”!!!!!!」

399 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga sage] 投稿日:2010/06/15(火) 00:59:24.18 ID:SRWvneI0 [10/10]
美琴は一言叫んでいた。

上条「………………」

後ろを振り返らずに、上条は立ち止まった。

美琴「…何で、こんなことするの?」

上条「………お前らには知る必要のないことだ」

美琴「……それで、納得しろっての?」

上条「……お前らは、“その時”が来るまでジッとしてろ」

美琴「え?」

上条「じゃあな、“ビリビリ”」

美琴「私……!!」

再び、上条が立ち止まる。一方通行と打ち止めは数m先でその様子を見ている。

美琴「私……あんたを信じてたのよ!!」

美琴の悲痛な叫びに上条の目が、伏せられる。

上条「…悪いな御坂」

美琴「!!」

上条は歩き出し、やがて一方通行と打ち止めの横に並ぶ。

美琴「……ふざけんな…………ふざけんな……」

目に涙を溜め、美琴は全身に紫電を纏う。
そして彼女は、ポケットから最後の1枚のコインを取り出した。

美琴「ふざけんなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!」



ズオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!!!!!!!



放たれる超電磁砲。一方通行と打ち止めがゆっくりと振り返る。

401 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga sage] 投稿日:2010/06/15(火) 01:05:58.76 ID:B1LMPnU0 [1/5]




バギィィン!!!!




美琴「ハァ…ハァ…ハァ…」

コインが着弾した地点から煙が漂う。
そして…

上条「………………」

そこには、上条が右腕を突き出し立っている姿があった。

上条「……レベル0の俺すら倒せないなら、もう2度と関わるな」

美琴「………っ……」

最後にそれだけ残し、上条は再び背を見せて一方通行と打ち止めと歩き出した。

美琴「クソッ!」

徐々に、3人の姿が小さくなっていく。

美琴「クソッ!! クソッ!!!」

美琴の両目から大量の涙が零れ落ちる。

美琴「何で……私の超電磁砲(レールガン)が……効かないのよ!!」
美琴「友達も守れない……友達の仇も討てない……そんな超電磁砲に……何の意味があるのよ!!」

やがて、上条たちの姿は暗闇に消えていった。

美琴「……信じてたのに……」
美琴「………信じてたのに…」

美琴「信じてたのにぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!!!!!!」

次の瞬間、フッと事切れたように彼女は地面に倒れ伏せた。
こうして美琴たちの長い1日は、『屈辱』と『完全敗北』という名の下に終わりを迎えた。
気絶した後も、美琴の双眸から涙が途切れることは無かった――。

402 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga sage] 投稿日:2010/06/15(火) 01:12:31.40 ID:B1LMPnU0 [2/5]

ガバッ!!!

目覚める美琴。

美琴「………夢…?」

開口一番、出てきたのはその単語だった。

美琴「…悪夢でも、見てたのかな…?」

彼女にとって、あまりにも信じられなかった状況を思い出し、そう呟く。
ふと視線を前方に上げた。
いつもの見慣れた寮の部屋じゃない。だとすると、そこは……

黒子「お姉さま、お目覚めになられましたか?」

真横から知った声が聞こえ、美琴はそちらに顔を向けた。

美琴「……黒子?」

そこには、ベッドの上で元気の無い顔を浮かべる黒子の姿があった。

美琴「ここは?」

黒子「病院ですわ。お姉さま、1日近く眠っていて心配しましたわ」

キョロキョロと室内を窺う美琴。確かにそこは、病室だった。独特の薬品めいた臭いが鼻を刺激する。

美琴「病院……じゃあ…今のは……」

黒子「残念ながら、現実ですわ」

そう言って、黒子は暗くなった顔を俯かせる。
彼女の顔を見つめていた美琴は、腹の底から何かが沸き上がってくる感覚を覚えた。

美琴「…………っ!!」
美琴「………何で夢じゃないのよ…? …何で現実なのよ!!」



   ――「……レベル0の俺すら倒せないなら、もう2度と関わるな」――



最後に見た少年の顔が蘇る。

美琴「何であいつが……っ!! …何であいつが……っ!!!」

404 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga sage] 投稿日:2010/06/15(火) 01:17:39.79 ID:B1LMPnU0 [3/5]
ワナワナと手を震わせる美琴。それを見た黒子が目を伏せる。

黒子「………あの後、私たちは全員が気絶していたところを近くの病院に運び込まれましたの。お医者様によると通報は匿名の人間から。おそらく、上条さんたちが通報したのでしょうね……」

美琴「…………ふざけやがって…!!」

ギュウッと美琴は唇を噛み締める。
彼女には許せなかった。友達を殺した上条のことが。その上条に傷1つつけられなかった自分の無力さが。そしてそんな敵に堕ちた少年から情けをかけられたことが。

黒子「……あの3人の行方は不明です。あの後、どこに消えたのか。駆けつけた救急隊員が現場に来たときには、倒れている私たち以外に人の気配は無かったようです」

と、そこで美琴はあることを思い出す。

美琴「そうだ! 佐天さんと初春さんは!? 無事だったの?」

黒子「え? ああ…2人とも命には別状はありません。ただ、初春が少々……」

美琴「!?」

美琴は初春のことを思い出す。彼女が今回1番死ぬ思いをした張本人だ。美琴が彼女に拳銃を渡したことで、彼女は死ぬよりも怖い目に遭い、挙句、みんなの前で女の子としては屈辱的な大恥をかかされてしまったのだ。

美琴「初春さんがどうしたの!!??」

ガラッ

と、その時、病室のドアが開けられる音が響いた。2人ともその瞬間、ビクッと肩を震わせた。

佐天「白井さん、また来たよ…って御坂さん! 起きたんですか!?」

扉を開けるなり、美琴の姿を視認した佐天が大声で駆け寄ってきた。

美琴「…ええ、たった今ね…」

佐天「良かった~」

美琴「それより、初春さんはどうしたの!? 無事なの?」

佐天「ああ…命に別状はありません。けど、余りに怖い思いしたからか、放心状態で……。お医者さんが言うには、じきすぐに症状は戻るらしいですけど…」

美琴「放心状態……」

俯く美琴。それを見て、佐天は慌てふためいた。

佐天「あ、気にしないで下さい。別に御坂さんのせいじゃありませんよ!」

美琴「でも、唯一攻撃手段を持っていないからって、彼女に拳銃を渡したのは私よ……」

佐天「だけどそれは御坂さんが責められるようなことじゃないですよ」

407 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga sage] 投稿日:2010/06/15(火) 01:23:30.49 ID:B1LMPnU0 [4/5]
黒子「そうですわ…。真に悪いのは、彼女をそこまで追い詰めたあの2人……」

はた、と黒子の言葉で室内が静かになった。3人は、憎き敵の顔を思い出す。
白い髪に白い肌を持つ、それでいて全身から殺気を容赦なく垂れ流す華奢な少年。そして、寝癖の鎮まらない髪をツンツンと立てた幸薄そうな少年。大して歳も変わらないのに、彼女たちはその2人に完膚なきまでに叩き潰された。

美琴「………………」

ベッドから出、美琴の足は部屋の入り口に向かった。佐天が道を開ける。

黒子「…お姉さま……信じられないのは分かります。それは私も同じですから。ですが、昨夜起こったことは確かに事実。あの殿方が何故、学園都市第1位の超能力者と組んでいたのかは図りかねますが、上条さんが固法先輩や泡浮さん、湾内さんを殺したのは事実ですの…。だから…」

美琴「……あーあ…」

黒子「え?」

美琴「もう少しだったのになぁ……。もう少しで、固法先輩たちの仇を討てたのに……」

黒子と佐天に背中を向け、天井を見上げる美琴が呟く。

美琴「でも次は絶対に仕留めてやるんだから! そうだよね、黒子? 佐天さん?」

黒子「え…ああ…はい。そうですね……」

佐天「も、もちろんですよ……」

美琴「うん、そうよね…」
美琴「………………」

黙りこくった美琴を見つめる2人。

黒子「お姉さま……」

美琴「何よ?」

黒子「泣きたい時は、泣いていいんですのよ……」

美琴「………………馬鹿。知ってるわよ…」

そう言って美琴は、顔も見せないまま病室を出て行った。
しばらくして、病室の外から美琴の嗚咽が聞こえてきた。
黒子と佐天もまた、ぶつけどころのない己の悔しさを噛み締めていた。

459 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga sage] 投稿日:2010/06/16(水) 22:09:34.15 ID:pGXaOCY0 [2/10]
3日後・ジャッジメント第177支部――。

ガチャリ、と扉が開かれる音がした。
久しぶりに見る支部は、4日前、誘拐犯たちを絶対倒すと4人で意気揚々に出ていった時のままだった。

黒子「………………」

美琴「何よ黒子、入らないの?」

後ろから美琴に促され、黒子は室内に足を踏み入れる。

美琴「フー…4日前のままね」

美琴がソファに腰を降ろすと、黒子はパソコンの電源を入れた。

美琴「……これから、どうすんの?」

黒子「…どう、とは?」

美琴「やっぱり、あいつらのこと調べんの?」

ふと、無言になる室内。彼女たちは、上条からこれ以上「深入りするな」と警告されている。

黒子「……そう…ですわね。調べましょうか…」

美琴「何か気にかかる言い方ね。もしかして嫌なの?」

黒子「……それを言うなら、お姉さまのほうでは?」

黒子は冷めた目で美琴を見る。

美琴「何ですって?」

黒子「いつものお姉さまなら、何度も負けようが、その都度諦めずに障壁に立ち向かっていくはずです。ですが、この3日間、お姉さまから積極的に『誘拐犯を追い詰めよう』といった意志や言葉を聞きませんでしたの。まあ、今回は特例中の特例ですから……」

美琴「何それ? まるで私がもう、やる気がないみたいな言いようじゃない」

黒子の口調に美琴が少し苛立ちを見せた。

黒子「違うのですか?」

美琴「…………違う……わよ」

黒子「嘘をつかないで下さいまし」

美琴「何ですって!?」バチバチッ

460 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga sage] 投稿日:2010/06/16(水) 22:16:36.02 ID:pGXaOCY0 [3/10]
美琴が立ち上がり、電気を発する。黒子は一瞬、ビクと肩を震わせた。

佐天「こんにちわー。初春、復帰しましたよー」

出し抜けに、明るい声がドアの方から響いた。美琴と黒子はそちらに注意を向ける。

初春「ごめんなさい。ご迷惑掛けましたー」

佐天に続き、軽く礼をした初春が部屋に入ってきた。

美琴「佐天さん、初春さん……」

佐天「ん? あれ? どうしたんですか? 何か雰囲気が……」

ピリッとした空気を感じ取ったのか、佐天が疑問を口にする。

黒子「…別に大したことではありませんの。少しお姉さまの意固地に呆れてただけで……」

美琴「はぁ? それを言うならあんたでしょ黒子?」

佐天「な、何かあったんですか?」

妙に喧嘩腰な2人を見て戸惑う佐天。

黒子「お姉さまったら、もうやる気は無いくせに、まだ誘拐犯の調査について続けるつもりですの」

佐天「え…」

美琴「やる気がないのはあんたでしょ。言わなくても態度で分かるわよ」

初春「わっわっわっ」

居たたまれなくなったのか、初春が困惑の声を上げる。

美琴「佐天さんはどうなの?」

佐天「え…?」

美琴が突然、佐天に顔を向け訊ねてきた。

美琴「佐天さんは、誘拐犯…“上条当麻”と一方通行の2人をまだ追い続けたい…?」

佐天「それは……」

461 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga sage] 投稿日:2010/06/16(水) 22:23:43.84 ID:pGXaOCY0 [4/10]
途端に、佐天が俯く。

佐天「……そりゃ、もちろんそうですよ……。あいつらは、固法先輩や泡浮さん、湾内さんを連れ去り殺した張本人ですよ? きっと、他に誘拐された学生たちだって既に殺されてるはずです」
佐天「御坂さんと白井さんはあの2人の知り合いだからまだ信じられないところもあるかもしれませんが、あたしにとっては憎き仇でしかありません。だからあたしは…あの2人を許せません……」

美琴黒子「………………」

佐天「だけど…許せないのと、諦めないのはまた別問題です」

美琴黒子「?」

佐天「……正直なことを言うと、あの2人と対峙してとても怖かったです…。まさか、2人のうちの1人が学園都市最強の超能力者だなんて夢にも思いませんでしたし……それに、実際に戦った上条とか言うあの高校生……。半端ない強さでした。いえ…強い、って言うよりかは凄まじく戦い慣れてるって言うか…。とにかく信じられませんでした。あたしと同じレベル0の無能力者なのに、あそこまで強くなれるなんて……」

佐天の言葉は静かでどこか暗い。

佐天「正直、同じ目に遭っていたらあたしも初春みたいになったと思います」

初春「佐天さん…」

佐天「それほど、あいつらは強かった…怖かった…。もう2度と会いたくないほどに。あたしたち4人なら何でも出来るって思ってたけど、その自信も見事にあっさり打ち砕かれて……」

徐々に佐天の口調は弱々しくなっていく。喋っているうちに3日前の状況が思い出されているようだ。

佐天「正直、御坂さんより強い人たち相手にこれ以上は……」

美琴「………………」

佐天「だから、本当のところを言わせてもらうと……固法先輩たちには悪いけど……もう……」

そこで言葉は途切れた。
一斉に無言になる美琴と黒子。2人が言いたかったことは全て佐天が代弁してくれた。
一気に、室内に諦めの空気が漂う。しかし、1人だけ諦めていない者がその場にいた。




初春「本当にこのまま終わっていいんですか!?」




美琴黒子佐天「!!??」

不意に、か弱くも怒りを混ぜた声が聞こえた。

462 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga sage] 投稿日:2010/06/16(水) 22:31:32.65 ID:pGXaOCY0 [5/10]
初春「本当に、諦められるんですか!?」

美琴「初春さん?」

3人が顔を上げると、初春が真剣な表情をして美琴たちを鋭い目で捉えていた。

初春「ここで諦めて、まだあの人たちの凶行を放っておくんですか? 固法先輩たちのような被害者がまた出るかもしれないのを、むざむざと見過ごすんですか?」

美琴黒子佐天「!!!」

初春「……敵討ち…それも大事かもしれません。だけど、固法先輩たちが望んでいるのは、これ以上自分たちと同じ被害者が出ないことなんじゃないですか!?」

美琴黒子佐天「…………っ」

3人は普段からは考えられない、初春の気迫に呑まれそうになる。

初春「きっと、このままだとあの人たちはまた犯行を重ねます。そうなるとまた、罪も無い学生たちが犠牲になります。それを、固法先輩たちが許すでしょうか!?」
初春「誘拐犯まで辿り着いたのは、私たちしかいないんですよ? 私たちが今、最もあの2人の近いところにいるんですよ? なら、それを活かさない手はないんじゃないんですか!?」

佐天「初春は……怖くないの?」

初春「そりゃ、私だって怖いですよ。思い出すだけでも怖いですよ……」

美琴たちは初春を見つめる。その言葉通り、彼女の足はワナワナと震えているようだった。
しかし、初春は目に涙を溜めながらも続ける。

初春「でも、私はこのまま彼らを看過できません。これ以上、彼らの手によって学園都市の学生たちが被害に遭うなんて考えたくもありません。それ以前に、私は悔しいんです……」
初春「全力で立ち向かった私たちが負けたのは確かに実力差からです。それは認めます。でも、私が悔しいのはあんな、人の命を何とも思っていない人たちに、私たちの信念を馬鹿にされたことです」

美琴「信念……」

初春「確かに私たちには覚悟が足りなかったかもしれません。力も無かったかもしれません。でも、それでも『何があっても誘拐犯たちを追い詰める』って誓った私たちの決心を、あの2人は貶しました」

美琴は思い出す。上条の言葉を。



   ――「………お前らには知る必要のないことだ」――


   ――「……お前らは、“その時”が来るまでジッとしてろ」――


   ――「……レベル0の俺すら倒せないなら、もう2度と関わるな」――



無意識に、美琴の拳が強く握られた。

463 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga sage] 投稿日:2010/06/16(水) 22:38:19.96 ID:pGXaOCY0 [6/10]
初春「確かに、あの2人と私たちの実力の差は歴然です。3日前の戦いがそれを証明しています」

黒子「…それは言われなくても嫌ほど身に染みましたわ…」

佐天「そうだよ。あのレベル0の高校生だって強かったけど、もう1人は学園都市最強のレベル5だよ? そんなの、どうやってもあたしたちに敵いっこないよ…」

負けたショックがいまだ抜け切れていないのか、黒子と佐天は弱音を吐く。

初春「だけど、今は状況が違います。私たちは既に、あの2人の実力を目の当たりにしています。3日前は、彼らがどんな人間で、どんな能力者なのか、どれほどの実力を持っているのか、など全く知らない状況で真っ正面からほとんど策の無いままぶつかっていきました」
初春「じゃあ逆に、彼らを倒す……いえ、倒さなくても、せめて追い詰められる策を考えてみてはどうでしょうか?」

美琴「………………」

黒子「…どうやってですの? 貴女も見たでしょう。あの2人は超能力者としても無能力者としても、反則レベルの力の持ち主です」

初春「ええ、でも…人間である以上、どこかに隙が、弱点が必ずあるはずなんです。あの2人と相まみえたのはほんの僅かな時間ですが、その僅かな時間のうちに、彼らはその手の内を見せています。格下と見下した私たちを徹底的に絶望させるためだけに、自分たちの力を自ら披露しているのです。そこが、彼らの突破口です。そして、その突破口を元に、いくつでも策は立てられるはずです!」

初春の声に覇気が宿る。

初春「確かに彼らは強いです。でも、私たちの実力を見下してること、私たちに手の内を見せたこと。この2点の僅かな隙間に、私たちが彼らを攻略するための道があると思います!!」

美琴「!!!」

黒子佐天「………っ」

黒子と佐天は押し黙る。
自分たちは怖気づき、既に厭戦気分であったと言うのに、一番怖い目に遭わせられたはずの初春は、諦めるどころか、上条と一方通行を再度倒すことを考えていたのだ。
正直なところ、彼女たちは初春の止め処ない強い意志を前に、逃げ腰だった自分を恥じ言葉を失くしていた。

美琴「初春さん…」

初春「はい?」

ずっと黙って聞いていた美琴が口を開いた。

美琴「貴女の言いたいことは分かったわ。でもね、私は同じレベル5の第3位でありながら、たった2つしか序列が離れていない一方通行に一度も勝ったことがないの」
美琴「……あいつとは、色々あって何度か敵対したことあるけど、1回も勝つことが出来なかった……。いえ、傷1つつけることさえ出来なかった……。一方通行の絶望的な実力の前では、私の超電磁砲(レールガン)も赤子の手をひねるようなもの。攻撃することすら躊躇ってしまう。まさにその名に相応しい“最強”の力……」

初春「………………」

美琴「そして、もう1人の上条当麻。こいつは全くの無能力のレベル0だけど、その右手には超能力を何でも打ち消す幻想殺し(イマジンブレイカー)が備わっている。最近は会ってなかったけど、以前までは日常茶飯事に遭遇してたわ」

美琴は遠い日の記憶を思い出すように語る。これからはもう、味わうことが出来ないだろう一晩中追って追いかけられた日々のことを。

美琴「私はあいつの右手の力が信じられなくて、毎回会うたびに攻撃を仕掛けてたけど…その都度、私の攻撃はいとも簡単にかき消されてたわ……」

464 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga sage] 投稿日:2010/06/16(水) 22:46:36.76 ID:pGXaOCY0 [7/10]
美琴「分かる? レベル5第3位の私すら簡単にあしらうあの2人。それほど、あいつらの力は反則なの。それでも初春さん、あいつらに勝てるって断言できる?」

何かの真意を問うように美琴は初春に相対する。

黒子佐天「……………」

初春「出来ません」

美琴「……………」

初春「でも、御坂さん、基本的にその2人とはいつも1人で立ち向かってたんですよね?」

美琴「…? そうだけど?」

初春「なら、可能性はあります。僅かですけど彼らを攻略する方法が見つかるかもしれません」

美琴「どうやって?」

美琴が眉をひそめる。対し、初春は満面の笑みで、至極簡単に、それが当然であるかのように答えた。

初春「だって、私たちがいるじゃないですか」

美琴「!」

初春「私たち4人で1人だって…4人合わされば、何でも出来る、って言いませんでしたか?」

黒子佐天「あ…」

初春「ね? 私たちは戦友であり4人で1つの“超電磁砲(レールガン)組”。一心同体なんです。私たちが力を合せれば、1+1+1+1も、100×100×100×100になる。そうでしたよね、佐天さん?」

佐天「あ…うん。そうそう!」

初春「御坂さん、白井さん、佐天さん。あの2人に完全勝利出来る可能性は100%も無いと思います。ですが、4人で知恵を振り絞ったら1%ぐらいの可能性は出てくるかもしれません。もう1度、考える直すことぐらい出来るんじゃないでしょうか?」

黒子「…………」

佐天「…………」

誰も何も喋ろうとしない。いつもとは雰囲気が違う初春の問いに、彼女たちは逡巡するように黙っていた。
その時だった。

美琴「ふっ……」
美琴「あはははははははははははは」

黒子「お姉さま?」

突如、笑い出す美琴。黒子と佐天がそんな彼女を奇異の目で見る。

美琴「ふふ…ふふふ」

465 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga sage] 投稿日:2010/06/16(水) 22:53:14.48 ID:pGXaOCY0 [8/10]
佐天「ど、どうしたんですか急に?」

美琴「いえ……なーんか、今までウジウジ悩んでた自分が馬鹿馬鹿しくなって…」

佐天「はぁ?」

何かが吹っ切れたように、美琴は明るい調子で話す。

美琴「だって、一番怖い目に遭ったのは初春さんのはずなのに……初春さんが一番あいつらにやり返そうって思ってるんだもん」

初春「えっ? えっ?」

美琴「それが何よ。私はやる気を完璧に無くしちゃってさあ。ホンット、バッカみたい!」

黒子佐天初春「??」

美琴「それで何がレベル5よ。何が超能力者よ。何が超電磁砲(レールガン)よ。笑っちゃうわね」

言いたいことを言い終え、美琴は初春に笑顔を見せた。

美琴「初春さん…ありがとう」

初春「えっ?」

美琴「貴女のお陰で目覚めたわ。……気持ち、切り替えないとね!」

そう言って美琴は初春にウインクする。

初春「え……あ…はい!」

初春もまた、美琴の言葉に笑顔で返した。

美琴「で、黒子と佐天さんはどうすんの?」

黒子佐天「え?」

美琴「別に今ここで抜けても臆病者扱いなんてしないわ。やめるのも、1つの勇気だから。それはそれで賞賛すべきことだわ」

黒子と佐天は顔を見合わせる。しばらくして、彼女たちは笑みを浮かべ合った。

黒子「なーに仰っているのでしょうかお姉さまは」

佐天「今更やめる? そんなかっこ悪いところ見せられませんよ。まだ、あいつらに仕返しもしてないのに」
佐天「初春1人にかっこいい思いはさせないぜ?」ニヤリ

初春と美琴に影響されたのか、黒子と佐天の声に元気が戻る。

初春「佐天さん、白井さん…」

466 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga sage] 投稿日:2010/06/16(水) 23:00:22.02 ID:pGXaOCY0 [9/10]
美琴「じゃあいいわね。改めて言うけど、私たちの敵は、一方通行と上条当麻。一筋縄じゃいかない奴らよ?」
美琴「死ぬ気でないと、逆に痛い目見るわよ」

腰に手を当て、美琴はやる気を取り戻した3人の顔を見る。

黒子「それはもう十分身に染みて承知しておりますわ」

佐天「あいつらにも指摘されたことですしね」

初春「それが分からないで諦めないほど、私たちは馬鹿じゃありません」

美琴「そうね。では、各自まずは“自分が出来ること”を再確認すること。自分の得意分野を振り返るのよ。いいわね?」

黒子と佐天と初春は元気良く頷く。

美琴「じゃあ、超電磁砲(レールガン)組、再始動よ!!!」

美琴黒子佐天初春「おーーーーーーーーーーーーっ!!!!!!!!!!!!」

儚くも、力強い声を上げる4人。
彼女たちは意気揚々に気合いを入れる。黒子と初春は自分のデスクに着きパソコンのブラウザを開き、佐天は支部に置かれている武器類の物色を始める。美琴は大量のコインを集めるべく、ゲームセンターに向かおうと………




黄泉川「そこまでじゃん!!」




バンッと、勢いよく支部の扉が開かれた。
驚き肩をビクつかせ、美琴たちはそちらの方に注意を向けた。
そこには、アンチスキルの黄泉川と鉄装が2人、険しい顔をして立っていた。

黒子「黄泉川先生?」




黄泉川「ジャッジメント第177支部はただ今をもって、その全ての業務を凍結する」




美琴黒子佐天初春「!!!!!?????」

467 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga sage] 投稿日:2010/06/16(水) 23:07:16.57 ID:pGXaOCY0 [10/10]
初春「ど、どういうことですか先生!!」

信じられない、というように初春が黄泉川に駆け寄る。

黄泉川「どうもこうもない。今まで知った仲と言うことで大目に見てきたが、さすがに限界じゃん。ここ最近のお前らの行動は許容範囲を逸脱している」

黒子「そ、それは……」

黒子たちは困った顔を見せ、どうしよう、と無言で美琴に訴える。
しかし、美琴は黄泉川を見据えたまま何も答えない。

黄泉川「捜査の重要な証拠となる携帯電話を、アンチスキルの許可を得ずに勝手に他の機関に指紋鑑定依頼する。休校措置が出てるにも関わらず、無断で外出する。そして御坂……」

美琴「…」ピクッ

黄泉川「壊滅したスキルアウトの一団のアジトからお前の毛髪が見つかったぞ」

美琴「…………」

黒子佐天初春「!!!」

黄泉川「手口から見て、奴らを殺したのはお前の仕業じゃないんだろうが……何らかの情報を得るために奴らと接触していたな?」

美琴「……………」

黄泉川「どちらにしろ、アンチスキルの中にはお前がスキルアウトを壊滅したと疑ってる連中がいるじゃん」

黄泉川の言葉に、黒子と佐天と初春が声を上げた。

黒子「そ、そんなお姉さまはただ……!!」

佐天「そうです! 御坂さんはスキルアウトを殺してなんかいませんよ!!」

初春「そうだ、聞いてください黄泉川先生! 最近学園都市の学生が誘拐されてる事件で私たち遂に……」

黄泉川「うるさい!!!!」

黒子佐天初春「!!!!!」

黄泉川「キャンキャンキャンキャンうるさいじゃん」

黒子佐天初春「なっ……」

黄泉川「このかしまし娘どもが。ちょっとは静かに出来ないのか」

3人は怒鳴られたショックからか、黄泉川の顔を唖然と見返す。

黄泉川「今まで色んな事件を解決してきたお前らだから見逃してたが……これ以上は看過出来ないじゃん。よって、処分内容が決定するまで、当支部は凍結。お前らは、私の部下たちの監視の下、自宅にて謹慎してもらう」

黒子佐天初春「そんな!!」

468 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga sage] 投稿日:2010/06/16(水) 23:14:30.82 ID:2J65Eag0 [1/5]
黄泉川の言葉を聞き、一斉に彼女たちは抗議の声を上げるが……

黄泉川「黙れ!!」

黒子佐天初春「ひっ」

またも、黄泉川の発する大人特有の気迫に慄く3人。

黄泉川「ジャッジメントだろうが、レベル5だろうが、お前らはまだ子供じゃん」

美琴「…」ピク

黄泉川「ここからは大人の領分。大人には、子供を守る役目がある。お前らの安全を守るためにも、従ってもらうぞ」

黒子「お姉さま…」

佐天「御坂さん…」

初春「御坂さん…」

今にも泣きそうな顔で、3人は美琴を見つめる。無表情で黙っていた美琴はようやく口を開いた。

美琴「みんな、ここは黄泉川先生に従いましょう…」

黒子佐天初春「そんな!」

美琴「耐えることも、1つの戦いよ」

黄泉川「良いことを言うじゃん御坂。強者には我慢も必要不可欠な要素じゃん。…鉄装、この子らを頼む。家まで送り帰して、謹慎生活中の詳細も説明してやってくれ」

鉄装「分かりました。さ、みんな、いつまでも我が儘言ってないで行くわよ」

互いの顔を見ると、4人は不服そうにトボトボと鉄装に従った。

美琴「1つ、あんたたち“大人”に言っておくことがあるけど……」

ふと、美琴が立ち止まり呟いた。

黄泉川「……何だ?」

美琴「“子供”を舐めないことね。“子供”ってのは“大人”の気付かないうちに、成長してるもんなんだから……」

鉄装「……………」

黄泉川「………フン、胸に留めておくじゃん」

それだけ言い残すと、美琴は鉄装に従って部屋を出て行った。

470 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga sage] 投稿日:2010/06/16(水) 23:21:36.55 ID:2J65Eag0 [2/5]
常盤台中学女子寮――。

寮監「ふざけるな!!」

バンッ、と机を思いっきり叩く音が響く。その音に驚き、黒子は肩をビクつかせた。
美琴と黒子の2人は今、寮の管理人室にいる。

寮監「勝手な行動ばかり起こしよって…。周りの迷惑になると考えんのか!?」

寮監は怒りに溢れた顔を美琴と黒子に向ける。

寮監「いくらレベル4とレベル5とはいえ、中身はまだ子供だな」

美琴「(またそれ…)」

黒子「寮監様、どうかお話を聞いてくださいまし。私たちは……」

美琴「無駄よ黒子。どうせ聞いたって信じてくれないし相手にもしてくれない」

黒子が何とか事情を説明したが、横から美琴が止めた。

美琴「学園都市の“大人”ってそういう薄情な人が多いからね」

黒子「お、お姉さま…」

寮監「ああ? 随分と大層なことを言うじゃないか。やはりお前らには再教育が必要なようだな」

寮監の額には青筋が浮かんでいた。

472 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga sage] 投稿日:2010/06/16(水) 23:27:19.50 ID:2J65Eag0 [3/5]
常盤台中学女子寮・某室――。

ベッドに腰掛ける美琴。その感触は自分の部屋のものと同じもので、寝心地は良い。それだけでなく、その部屋は浴室やトイレもついており、美琴が普段暮らす部屋とは大して変わらない。ただし、じめじめしていること以外は。

美琴「部屋の空気が淀んでいるわね」

その部屋に窓と呼べるものはなかった。ついているにはついているのだが、壁の最上部に小さな窓枠が並んでいるだけで、外の景色を眺めたりと窓としての本来の使い方が出来ない。しかも鉄格子まで嵌められており、仮にそれを破壊しても人間1人脱出出来るだけのスペースは無かった。

美琴「さながら牢屋ね」

寮監によると、その部屋は校則を破ったり、寮の規則を守らなかったりする生徒を謹慎させるためにわざわざ作られたものらしい。ここ数年は使われたことはなかったが、今回は特例ということで美琴が閉じ込められることになった。

美琴「あー囚人になった気分」

部屋には通信手段となるような電話やパソコンがなく、暇潰しのために少量の本が置いてあるだけである。もちろん美琴の携帯電話も取り上げられており、部屋の外には黄泉川の部下のアンチスキルの隊員が部屋の見張りについている。
さながらその部屋は陸の孤島だった。

美琴「寮にこんな部屋があったとはねー」

美琴は扉に近付く。そこには、食事の受け渡し用の投函口がついているが、どうやら室内からは開けられないらしい。鍵はついているようだが、対能力者用に簡単には突破されないよう何らかの細工がなされているのは容易に想像出来た。
顔を上げると、天井の隅に監視カメラらしきものまで設置されている。どこか別室で彼女の様子をモニターしているのだろう。
しかし、何より問題なのは、美琴は今自分がいる部屋の場所を知らないことだった。目隠しされ、エレベーターに乗せられやって来たので、そこが何階なのか、そして何号室なのかも分からなかった。故に、

美琴「……破壊して逃げることも出来ないのよね…。壁か天井か床に超電磁砲でもぶっ放して、もしそこが誰かの部屋だったら大変だし、ドアを能力で破壊しても偶然通りかかった誰かを傷つけたら怖いし」

474 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga sage] 投稿日:2010/06/16(水) 23:34:21.50 ID:2J65Eag0 [4/5]
何より、もし彼女が何らかの抵抗を試みた場合、別の場所で謹慎されている3人の罪が重くなるどころか身の安全を保障できない、と警告されていた。
黄泉川の性格を考えると、後者の言は中身がハッタリの警告だろうが、前者ばかりは実際に嘘とも思えなかった。要するに彼女は、物理的にではなく状況的にがんじがらめにされていた。

美琴「…そういや黒子はどうなったんだろ? 佐天さんや初春さんはどうしてるのかな?」

ボフッとベッドの上に仰向けになる美琴。ふと、3日前の夜のことを思い出す。



  ――「……レベル0の俺すら倒せないなら、もう2度と関わるな」――



美琴「………………」
美琴「…必ず、這い上がってもう1度あんたのところに辿り着いてやるんだから…覚悟しておきなさいよ上条当麻!!」

美琴はグッと握った拳を上げる。

美琴「あんたが私たちのことを何も出来ない子供だって見下してるなら………」





美琴「まずはそのふざけた幻想をぶち殺す!!!」






522 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga sage] 投稿日:2010/06/17(木) 22:08:43.62 ID:KfRKkG20 [2/6]
常盤台中学女子寮・管理人室――。

黒子「………………」ジロリ

寮監「そう睨まないでくれるか? これから先、仲良くやる身だ」

黒子「………仲良く? ただの監視のくせに?」

黒子は今、寮の管理人室にいる。美琴は、スキルアウトを壊滅したという疑いが掛かっているため、1人で謹慎用の部屋に閉じ込められているが、黒子の場合、謹慎用の部屋は管理人室だった。
つまり、黒子は見張り役の寮監と当分の間、管理人室で寝食を共にしなければならなかった。

寮監「ふん、言っておくが能力を使用しないことだな。さっきも説明したが、この部屋は女性警備員が監視カメラで交代で絶えず監視している。異常が起これば、寮内の全警備員が速やかに対処できるようなっているからな」

脅すように寮監は黒子に説明する。

黒子「…プライバシーさえ無いのですのね」

寮監「それは私も同じだ。悪いが、この部屋にいる限りは私の指示に従ってもらうからな」

黒子「………………」

黒子は横を向き、1つ溜息を吐いた。

523 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga sage] 投稿日:2010/06/17(木) 22:13:26.57 ID:KfRKkG20 [3/6]
とある寮――。

初春「はぁ……佐天さんたち、どうしてるかな?」

そう言って初春は覗き窓を覗く。警備員が2人、背中を見せて立っているのが見えた。

初春「……この謹慎処分って、いつまで続くんだろう?」
初春「ケータイも没収されちゃったし、電話も使えなくされちゃったし、パソコンも取り上げられちゃった……」
初春「おまけに、監視もされちゃってるんだよね……」

チラッと初春は部屋の一角を見る。取り付けられたばかりの監視カメラが初春をジッと見つめていた。

初春「落ち着くことも出来ないや……」

ベッドに腰を降ろすと、彼女は本棚に置いてあるネットワークセキュリティ関係の本を読み出した。

524 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga sage] 投稿日:2010/06/17(木) 22:17:30.45 ID:KfRKkG20 [4/6]
また別の寮――。

佐天「……………」シャカシャカシャカ

ゴロン

佐天「……………」シャカシャカシャカ

ベッドの上に寝転がりながら、音楽を聴く佐天。

ゴロン

佐天「……………」シャカシャカシャカ

彼女はうっとおしそうに何度も体勢を変える。

佐天「……………」シャカシャカシャカ

佐天「だーもう!! カメラが気になって集中できない!!!」

立ち上がり、天井の隅につけられたカメラを指差し、佐天は抗議の声を上げる。

佐天「見てなさいよ!! 絶対出し抜いてやるんだからぁ!!!」

525 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga sage] 投稿日:2010/06/17(木) 22:22:43.43 ID:KfRKkG20 [5/6]
常盤台中学女子寮・管理人室――。

テレビ『アンチスキルによると今朝、第5学区で発生した爆発事件は、テロの可能性が濃厚なものとして……』

ガチャッ

黒子がボーッとテレビを眺めていると、扉が開かれる音がした。

寮監「テロテロテロ、世知辛くなったもんだな」

黒子「………………」

黒子は横目で寮監を窺う。

テレビ『また、3日前に殺害された田中重工の取締役は、学園都市の上層部と繋がりが深く……』

寮監「そして要人暗殺か。若いうちからこんな物騒なものまじまじと見るんじゃない」ポチッ

机の上に置かれてあったリモコンを取り、寮監はテレビの電源を消した。途端に、部屋の中の静けさが増した。

黒子「……これでも、ジャッジメントですので。情報の取得は欠かせませんの」

寮監「どちらにしろそういった凶悪事件はアンチスキルの担当だ。そして今のお前はジャッジメントも停職中の身。謹慎が解けるまでこの部屋からは出られん。間違っても、私の目を盗んで御坂を助けに行こうと思わないことだな」

黒子「お姉さまがどの部屋にいるのかも分からないのに、そんな馬鹿な真似はしませんわ」

526 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga sage] 投稿日:2010/06/17(木) 22:28:49.86 ID:KfRKkG20 [6/6]
寮監「はぁ……ったく、無愛想だな。一緒の部屋にいるのに。なんなら私を本当の母親と思って甘えてくれてもいいんだぞ?」

黒子「ご冗談がきつすぎますわ」

寮監「はっは、言ってくれる」

コンコン

と、その時、扉をノックする音が響いた。

寮監「はい」

警備員「謹慎中の生徒に面会人です」

寮監がドア越しに返事をすると、見張りについていた警備員がそう告げてきた。

寮監「どうぞ」

ガチャッ

黒子「貴女は……」

開かれた扉の方に注意を向け、黒子は意外な者を見るように僅かに目を大きくした。



婚后「ご機嫌いかが白井さん? ま、そんなおブサイクなお顔では元気とも言えませんわね」



そこには、黒子のよく知る人物――常盤台中学2年の婚后光子が、扇子を口元で扇ぎながら立っていた。

528 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga sage] 投稿日:2010/06/17(木) 22:36:18.59 ID:7YWEbyI0 [1/2]
黒子「……見ない間に毒舌は進化したようですわね婚后さん。で、何のご用かしら?」

いささか顔を引きつらせながら、黒子が訊ねる。

婚后「まーったく、アンチスキルの殿方ったら、私の身体を身体検査と称してベタベタ触るのですもの。嫌になりますわね」

黒子「…まあ、私が謹慎中の身ですから仕方がありませんわ」

婚后はチラッと寮監のほうを見る。寮監は椅子に座って雑誌を読んでいる。
次いで、婚后は顔を動かさずに視線だけをグルリと部屋中に巡らせた。

婚后「………………」

一点で彼女の視線が止まる。それは、天井の隅に向けられていた。

黒子「で、何しにいらっしゃったのかしら? 私を蔑みでも?」

黒子が言葉を掛けると、それに気付いた婚后の表情が一転した。

婚后「……泡浮さんと湾内さんの件については、お世話になりましたわね」

黒子「!」

婚后「何でも、無茶をしてまで、あの子たちの行方を追おうとしたとか……」
婚后「アンチスキルの黄泉川という方からお聞きしたのですが、あの2人が既に手遅れな可能性もあるとか……」

黒子は寮監の方を一瞥した。友達との面会ということで気を利かしてくれているのか、寮監は黙ったまま雑誌を読み続けている。

婚后「確定の情報ではないので、公表は控えているようですが……。でも、私はあの2人がまた戻ってくると信じていますわ」

黒子「……………」

529 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga sage] 投稿日:2010/06/17(木) 22:42:26.03 ID:7YWEbyI0 [2/2]
婚后の表情はいつもの高飛車な彼女のものとは信じられないほど、暗い。と言うのも、婚后は泡浮と湾内の2人と親しく、最近ではよく一緒にいることが多かったのだ。

黒子「………………」

黒子は婚后から顔を背ける。
彼女は、泡浮や湾内がどのような末路を辿ったのかを2人を誘拐した犯人の口から直接聞いている。もちろん今ここで、2人の顛末を語ることも出来たが、僅かでも希望を抱いている婚后の様子を見ると、出来なかった。

婚后「どうかなされましたか?」

ギュッと黒子の手が握られているのを見て、婚后が不審に思ったのか扇子越しに見つめ訊ねてきた。

黒子「…いえ、別に……」

婚后「ハァ……まったく。張り合いがありませんわね。いつまでもここにいてもつまりませんから、そろそろお暇させて頂きますわ」

黒子「え?」

そう言って、婚后は立ち上がる。

婚后「では寮監様。失礼いたしますわ」

寮監「うむ。分かった」

ガチャッ

ドアを開けると、婚后は1度立ち止まった。

婚后「白井さん。私も諦めませんから、貴女も元気になってくださいね」

黒子「………え…」

バタン

どこか辛そうな笑顔を浮かべたまま、婚后は部屋を出て行った。

黒子「………………」

残された黒子は、握っていた拳に更に力を込めた。

530 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga sage] 投稿日:2010/06/17(木) 22:49:52.23 ID:sZZFADU0
その頃、とある場所――。

上条「……………」

一方通行「おい」

上条「………………」

一方通行「おい!」

上条「…………………」

一方通行「聞いてンのか上条?」

上条「え? あ、何だ?」

ようやく反応があったことを確かめると、一方通行はやれやれ、と言うように溜息を吐いた。

一方通行「ったく……それでリーダーの自覚あンのかねェ?」

上条「……悪い。んでどうした? 何か用か?」

我に返った上条が一方通行の顔を見上げる。
すると、一方通行は顎をしゃくった。その先にいたのは御坂妹だった。



御坂妹「……………………」





531 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga sage] 投稿日:2010/06/17(木) 22:56:52.25 ID:HbEzq6Y0 [1/2]
一方通行「2人っきりで話したいンだとよ」

上条「そ、そうなのか……。入れよ、御坂妹」

一方通行「じゃあ俺はお邪魔かもしれねェからなァ、出て行くぜェ」

ニヤリと笑みを浮かべ、一方通行は部屋から出て行った。

上条「で、どうした?」

上条が訊ねると、ほとんど無表情で彼の顔を見つめていた御坂妹が口を開いた。

御坂妹「ここ最近、貴方が物思いに耽っていることが多かったので、とミサカは不安を率直に述べます」

上条「そうか? 気のせいじゃねぇか?」

そう言って上条は立ち上がり、コーヒーを淹れた紙コップを御坂妹に手渡した。

御坂妹「………………ズズズ」

一口だけ仰ぐと、御坂妹は紙コップを両手に持ち上条を見据えた。

御坂妹「お姉さまのことを……考えていらっしゃるのですね? とミサカはズバッと真正面から斬り込みます」

バシャア、と上条は持っていた紙コップの中身をぶちまけた。

上条「やっべ、零しちゃったよ。あはは…何だよいきなりお前はもう…」

慌てたように上条は床に広がった液体を見やる。

御坂妹「図星ですね、とミサカは追い討ちを掛けます」

上条「…………布巾はどこにあったかな…?」

目にした雑巾を手に、上条は床に零れたコーヒーを拭いていく。

御坂妹「ま、あれほど突き放せば逆に気になるのも無理はないでしょうね。それにミサカたちがやっていることもやっていることですし……」

532 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga sage] 投稿日:2010/06/17(木) 23:03:24.14 ID:HbEzq6Y0 [2/2]
御坂妹「残念ですが、お姉さまはあれで諦めるとは思えませんよ。むしろ逆に、貴方が宿敵なら立ち向かってくるでしょうね。わざわざ貴方が出て行かなくても良かったのに、とミサカは今更ながら意見を唱えてみます」

上条「……………」

コーヒーを啜る音に混じり、御坂妹の絶え間ない言葉の数々が後ろから上条の背中を貫く。
それでも上条は、彼女に背中を見せながらひたすら床を拭いている。

御坂妹「わざわざ貴方が非難の的になる必要はないのに。それとも、修羅の日々の合間に、お姉さまの顔が見たかったのですか? …と、ミサカは多少の嫉妬を覚えつつも切り込んでみます」

やがて、上条は立ち上がる。

上条「………俺が一方通行と一緒に、あいつらの前に出て行ったのは、あいつら自身の身の丈を分からせるためだ」

御坂妹「…嘘ばっかり。貴方も、そんなことされてもお姉さまが諦めない人だって最初から分かってるくせに、とミサカは見透かしてみます」

上条「………どっちでもいいさ。またあいつらがでしゃばって来たら、何度でも完膚無きまでに叩きのめすまで。あいつにしたって…何度もやっても無駄だと分かっているのに、いつまでも友達を巻き込んだまま愚行を続けるほど馬鹿じゃない」

御坂妹「あのお姉さまに、恨まれたままになるのですよ? 既に1人、大事な方を失くしている貴方にしてみればお姉さまは……」

上条「関係ねぇよそんなこと…」

そう言って上条は棚に両手をかけ、目の前にある壁を見つめる。

上条「目的を完遂するためには、俺たちは修羅道に落ちる必要があるんだよ」

534 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga sage] 投稿日:2010/06/17(木) 23:10:32.99 ID:4Ycj0Xc0 [1/2]
どこか悲しそうな声を窺わせる上条。それを見て御坂妹は飲み干したコーヒーカップを机に置き、上条に近付くと、そのまま彼の身体にピタリと寄り添い、上条の肩にそっと頭を預けた。

御坂妹「貴方は、多くのものを背負い過ぎています…。それだけは初めて出会った時と変わっていませんね」

上条「……………」

御坂妹「ミサカも、貴方と最後まで人生を共にすると誓った身……。お姉さまには敵わないかもしれませんが、せめて貴方の苦しみや悲しみをミサカにも分けてください…と、ミサカは呟きます」

上条「……………」

2人はそのまま、しばらく無言の時を過ごす。

御坂妹「………………」

上条「………………」

しかし…

打ち止め「ねー10032号! いつもと同じように寝る前に本読んでー! とミサカはミサカはお願いしてみたり!」

唐突に、その場にそぐわない明るい子供の声が聞こえてきた。
振り返ると、入り口のところに打ち止めが笑顔で立っていた。

御坂妹「チッ…まったく空気の読めないガキはこれだから……とミサカは愚痴りながらも上位個体の指示に従います」

打ち止め「早く早くー!」

御坂妹「はいはい、今行きます今行きます、とミサカは嫌がりつつも何故かいつも言う通りにしてしまう自分に多少呆れ返ります」

御坂妹の手をとりながら、打ち止めは部屋を出て行った。
それを笑顔で見送っていた上条の表情はやがて、徐々に暗くなっていった。

上条「………………」

576 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga sage] 投稿日:2010/06/19(土) 22:19:49.81 ID:89/qlxo0 [2/3]
数日後・常盤台中学女子寮・食堂――。

昼食時、広大な面積を持つ豪華絢爛な食堂に、常盤台中学の女子生徒たちがずらりとテーブルに並んで食事をとっていた。
さすがはお嬢様学校といったところか、昼食のメニューも豪勢で、ご飯を口に運ぶ生徒たちの動きも繊細で優雅だ。

婚后「ふー……」

その中の1人、婚后が突如顔を蒼くして溜息を吐いた。

生徒「あら? どうなされたのですか婚后さん? 食事が進んでいませんわよ?」

彼女を心配した横の女子生徒が声を掛ける。

婚后「ええ。少しばかり気分が悪くて……」

生徒「まあそれは大変ですわね。寮監様に途中退席を願い出てみては如何ですか?」

婚后「そうさせてもらいますわ…」

額に手を当て、気持ち悪そうな顔で婚后は寮監の元へ歩いていく。
それに気付いた寮監が眉をひそめて婚后に訊ねた。

寮監「なんだ? 食事中だぞ? 無断で歩くな」

婚后「いえ……少々、気分が悪くて食欲が無くて……。出来るなら部屋で休ませて頂きたいのですが……?」

婚后の声は弱々しく、今にも吐き出して倒れてしまいそうだった。

577 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/06/19(土) 22:25:45.80 ID:gNfUXkc0
kitaーーーーー

578 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/06/19(土) 22:26:25.58 ID:mGvIcGAo [2/2]
キタアアアアアアアアアア

579 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga sage] 投稿日:2010/06/19(土) 22:26:32.67 ID:89/qlxo0 [3/3]
寮監「そうなのか…。なら仕方ないな。いいだろう。部屋に戻ってよし」

婚后「ありがとうございますわ」フラフラ

そう言って、頭を抱えたまま婚后は食堂を出て行く。
彼女はそのまま、廊下を曲がり、食堂が見えなくなった時点で物陰にサッと隠れた。

婚后「…………………」ニヤリ

婚后の様子が一変する。

婚后「……フン、この常盤台の婚后光子に掛かればちょろいものですわね」

扇子を口元に、婚后は笑う。
明らかにそれは、病人とは思えない健康な人間のものだった。

婚后「毎日健康に気を使っているこの私の体調がそう易々と不調になるはずがないでしょう。そう……私が途中退席した本当の目的は…っと。来ましたわね」ササッ

婚后は身を引っ込める。すると、彼女の目の前を、食器を乗せたお盆を持った1人の女性が通り過ぎていった。
姿形こそ、普通のスーツを着た若い女性だったが、婚后には違和感だらけに写っていた。

婚后「ふふん。大方、男性で無ければ怪しまれずに済むと考えたのでしょうが甘いですわね。あの歩き方、事件の際によく見かけるアンチスキルの方の訓練されたそれですわ。私の眼力は欺けませんわよ」

どや顔で婚后はスーツ姿の女性を観察する。

婚后「ここ最近毎日、違った女性が食事の時間に食堂に姿を現しては生徒たちと一緒に食事もせずにお盆だけを持って出て行っていますが……ただの来客や賓客がそんな怪しい行動をするはずがないでしょう」

彼女はお盆を持った女性の跡を密かに尾ける。
相手もプロだと思われるので、あくまで慎重に進む。

婚后「ずばり、あの方の正体はアンチスキルに所属する女性隊員、と言ったところでしょうか」

583 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga sage] 投稿日:2010/06/19(土) 22:34:12.95 ID:nG9oKnM0 [1/4]
婚后は、黒子が謹慎されていた寮監の部屋を思い出す。その時、彼女は、天井の隅にカメラのようなものがついているのを確認している。

婚后「管理人室にあったカメラは、白井さんの室内での行動を監視するために取り付けられたもの。恐らく、寮内のどこかで女性隊員が絶えずモニターを窺っているのでしょう。あの女性はそのうちの1人でしょうね……」

サササと婚后は足音を立てないよう気をつけながら、スーツ姿の女性を追う。

婚后「この女子寮で男性の、しかも装甲服を着たアンチスキルの方が無闇やたらに動き回れば、目立つ上に警戒されますからね」

美琴が謹慎を受けている部屋番号は秘密にされている。それは、彼女が外部の人間と接触を取らせないようにするための処置だ。
だが、美琴の仲間による不穏な動きを想定しての寮内の巡回や、美琴への食事の運搬など、アンチスキルはどうしても寮内を頻繁に動き回る必要性が出てきてしまう。しかし、装甲服姿の男性警備員が寮内をうろついていれば、それだけで生徒の目を引き、それが原因で美琴がいる部屋の場所を特定される恐れも出てくるのだ。

婚后「だから一般人を装った女性隊員を使っているのですわね」

そう言った理由から、男性警備員は美琴と黒子が謹慎中の部屋の見張りだけに役割を固定させて、寮内での巡回や食事の運搬は、監視カメラのモニターを見張っている女性警備員が交代で担当しているのだった。

婚后「この寮に派遣されてきた警備員は全て男性、と聞いていますが、それも私たち生徒の目を欺いて御坂さんたちの監視をスムーズに行うための嘘でしょうね……」

婚后は数m先のスーツ姿の女性の背中をキッと見据える。

婚后「ですが、毎日毎日、見たこともない女性が食堂から食事をお盆に乗せて持って行ったら、さすがにこの私が気付きますわよ」

彼女の表情は真剣そのものだ。

婚后「大方、生徒たちが食事に夢中になっていると思って油断していたのでしょうが、私の目はごまかせまんわ」

584 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga sage] 投稿日:2010/06/19(土) 22:41:25.93 ID:nG9oKnM0 [2/4]
絶対に気付かれないよう注意しながら、婚后は物陰から物陰へ移って、アンチスキルと思われる女性の後を追う。
と、フロアを3階ほど登ったところで婚后は少し足を止めた。

婚后「ここは……普段から立ち入りを控えるように寮監様から厳命されているフロアのはず…。まあ、こんなじめじめした薄暗い場所など、誰も近付かないのですが……」

彼女が視線を向けると、階段からフロアに繋がる道の真ん中に、コーンバーによって繋がれたロードコーンが置かれていた。コーンバーの真ん中には紙が貼り付けられており『立ち入り禁止』と書かれている。

婚后「…ふん、もし誰かがこのフロアまで上がってきた時のための保険策といったところでしょうか。ですが、何者であってもこの常盤台の婚后光子を通せんぼすることなど出来ませんわよ」

彼女は簡単にロードコーンの横を素通りする。
短い廊下を数mほど進み、そして……

婚后「見つけましたわ!」

角から少し顔を覗かせ、廊下を窺う婚后。
見ると、十数m先の向かいの壁のドアの前に装甲服姿のアンチスキルが2人立っていた。

女性「御坂への昼食です」

アンチスキル「ご苦労」

スーツ姿の女性に声を掛けられると、2人のアンチスキルが敬礼し、それぞれ横に移動した。
スーツ姿の女性がコンコンとドアを叩く。

女性「御坂さん。昼食を持ってきたわ」

婚后「(ちゃんと部屋の位置を記憶するのよ婚后光子…。私の手に、御坂さんや白井さんの命運が掛かっているのだから)」

スーツ姿の女性は、ドアの中央部分に設置された投函口を開け、お盆をそのまま中に入れる。
室内でお盆が受け取られたことを確認すると、彼女は投函口を閉め一歩下がった。

婚后「……さて、用は済みましたわ。早いところ撤収しましょう」

腕時計を見る。あと5分ほどで昼食後の点呼が始まる。点呼が終われば、恐らく寮監は婚后の様子を見るため、真っ先に彼女の部屋へ訪れるだろう。その時に、婚后の姿が無ければ怪しまれてしまう。
足音を立てぬよう気をつけながら、婚后はその場を離れていった。

586 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga sage] 投稿日:2010/06/19(土) 22:48:31.85 ID:nG9oKnM0 [3/4]
管理人室――。

寮監「なるほど。そんなことが……分かりました」

寮監はソファに座りながら、チラッとベッドの方を一瞥した。

黒子「スースー………」

謹慎中の黒子が子供のような寝顔を浮かべて眠っている。
なんだかんだ言って子供だな、と思いつつ寮監は目の前の人物――昼食時、美琴の部屋まで食事を運んでいったスーツ姿の女性に顔を戻した。

寮監「それで? 黄泉川先生には報告したんですか?」

女性「ええ。既に」

寮監「何ておっしゃってました?」

女性「対策を考えるとのことです。取り敢えず明日までには決まるので、それまではいつも通りに見張りを続けるようにと言われてます」

寮監の質問に、スーツ姿の女性はきびきびと答えていく。

寮監「ああ、確か『環境保全ルーム』でモニター監視しているんでしたっけ?」

女性「え? あ、まあ…」

少し言い淀み、スーツ姿の女性はベッドの方に視線を流した。
黒子は眠っているようだが、謹慎を受けている彼女に、カメラによる監視を行っている部屋の場所はあまり知られなくなかったのだ。
が、しかし、どうせ知られたところで今の彼女に何が出来たわけでもないので、スーツ姿の女性は気にしないことにした。

寮監「なるほど。分かりました。それではまた明日、対策内容が決定したら教えて下さい」

女性「はい。それでは私はこれで失礼させて頂きます」

寮監「お仕事ご苦労様です」

そう言って寮監はスーツ姿の女性をドアの外まで送る。
背後にその動きを感じつつ、黒子は密かに両目を開いた。

黒子「(お姉さま……)」

594 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga sage] 投稿日:2010/06/20(日) 22:14:30.83 ID:YN0H3jM0 [2/7]
翌日――。

女子生徒「遅刻だ遅刻! 遅刻しちゃうよ~~」ダダダダ

1人の女子生徒が、筆記用具を手にしながら寮内の1階を駆けていた。
もし寮監にその姿が見つかれば、廊下を走ったということでただ事では済まなかったが、最近、遅刻を連発している彼女にとって、そんなことを考える余裕は無かった。

女子生徒「わーーーー!! あと5分もないよー!!!」
女子生徒「っとととととと」キキーッ

とある十字路で立ち止まる女子生徒。
彼女は電気が点いていない左の暗い道を見つめる。

女子生徒「このエリアはお客様とか学校の先生が使う部屋が多いから、普段から生徒は余り通らないよう注意されてるけど……近道になるんだよね」

寮内には、立ち入りを禁じるようなフロアやエリアがいくつかある。
1階にあるここも、その1つだった。

女子生徒「寮監様に見つかったら怒られるけど……行っちゃえ!」

ダダダと彼女は再び走り出す。

女子生徒「ん?」

ふと、違和感を覚え女子生徒は、ある部屋の前で立ち止まる。
立ち止まりながらも、彼女の足だけはその場で走り続けている。

女子生徒「?? 『環境保全ルーム』? 何その使いどころも無いような存在してるだけで邪魔になりそうな意味不明な部屋は?」

キョトンとした顔で女子生徒は部屋のドアに近付いてみた。

女子生徒「でもなんだろ? 部屋の中から話し声が聞こえる…?」

彼女は耳を澄ましてみた。

女子生徒「んー?」

595 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga sage] 投稿日:2010/06/20(日) 22:22:32.97 ID:YN0H3jM0 [3/7]
午後――。

現在、相次ぐテロ事件を受けて、学園都市の全ての学校は、一部例外を除き休校中である。
通常の学校では、休校中の処置として宿題が出されていたのだが、常盤台中学には「宿題」と呼べるものはない。
しかし、常盤台中学は学園都市の中でも5本の指に入るほどの名門校。非常事態とはいえ、生徒たちの学力低下を恐れた理事会は、代案として寮内での授業を行うこととした。

婚后「さてと、次の授業は確か家庭科でしたわね」

準備を整えると、婚后は自分の部屋を出て行く。
ドアを開けたところでクラスメイトに会った彼女は一緒に向かうことにした。

クラスメイト「寮内での学業も、新鮮ですわね。ただし、代わりの教室は学校のものとは随分違いますけど」

次は5限目で、授業は家庭科。その日の内容は調理実習だが、寮に家庭科室は無いので厨房を使うことになる。
厨房、と言っても常盤台中学学生寮のものは普通の学校とは違い広大なので、1クラス分の生徒が実習を行えるだけのスペースはある。その上、常盤台中学には寮が2つあり、授業もそれぞれ2つの寮で分かれて行われているので、クラスメイトの数もいつもより少なく全員分が入れるだけの余裕は十分にあった。

婚后「まあ、何にしてもこの常盤台の婚后光子にかかれば、環境の違いなんて関係ありませんわ! オーッホッホッホ!!」

扇子を口元に高笑いを上げる婚后を見て、クラスメイトは苦笑いする。
と、その時クラスメイトはあることを思い出した。

クラスメイト「あ、そう言えばご存知ですか? 2年生の御坂さまのこと」

婚后「!」
婚后「え、ええ…確か問題を起こして、とある部屋で謹慎中だとか…」

クラスメイト「そう、その件なのですが、確か急に予定を変更して、放課後御坂さんをどこかへ移送させるそうですわ」

婚后「なんですって!!!!????」

596 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga sage] 投稿日:2010/06/20(日) 22:28:28.34 ID:YN0H3jM0 [4/7]
大声を上げる婚后。クラスメイトがその反応にビクついた。

婚后「そ、それは本当ですの?」

クラスメイトに詰め寄り、婚后は慌てふためくように訊ねる。

クラスメイト「は、はい……いや、私も噂でしか聞いていないのですが……」

婚后「噂?」

婚后の眉がひそめられる。

クラスメイト「何でも隣のクラスの子が、普段は使われていない部屋の前を通りがかった時に、会話を聞いたらしいですわ。大人の女性たちの声で『今日の放課後、御坂さんをアンチスキルの支部へ移送させる』と…」

婚后「!?」

クラスメイト「私も人づてに聞いたので本当かどうか分からないのですが、どうなのでしょう?」

婚后「………………」

クラスメイト「この寮内に寮監様以外の大人の女性って何人もいたでしょうか? それとも特別な事情で、外部のお客様が宿泊されているのでしょうか? アンチスキルの殿方なら御坂さまと白井さんがいる部屋の見張りで来ているのは知っているのですが…」

597 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga sage] 投稿日:2010/06/20(日) 22:34:44.24 ID:YN0H3jM0 [5/7]
時が止まったように固まり、クラスメイトの話を聞く婚后。
彼女は口を開けたまま、しばらく思いを巡らせる。

婚后「(ただの噂……? いえ、待って…。もしその声が聞こえてきた、とある部屋というのが、御坂さんと白井さんを監視カメラで見張っている女性警備員たちの詰め所だとしたら……。有り得なくは無いかもしれませんわ…)」

閉じた扇子の先を顎に添え、婚后は黙考する。

婚后「(でも、何故急にアンチスキル支部への移送などと……)」

クラスメイト「どうなされました?」

婚后「その、会話を聞いた隣のクラスの子は誰か分かりますか? 他に何て言っていたかとかも」

クラスメイト「さぁ、そこまでは。ただ、その子も次の授業に急いでいたそうなので、聞こえた内容はそれだけかと…」

婚后「その子がその会話を耳に入れたのはいつ?」

クラスメイト「それも分かりませんが、結構な速さで噂は広まっているようなので、早くても3限目か4限目の始め頃ではないかと」

婚后「………っ」

婚后は軽く唇を噛む。
さすがは女の子が通う女子校である。お嬢様であっても話の種になるような噂が広がる速度は尋常ではない。

クラスメイト「さすがに、アンチスキルの支部にまで移送させられるとなると、皆さんも気になるようで。そこまで御坂さまは大変なことを仕出かしたのかと、色んな憶測が立っていますわ」

598 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga sage] 投稿日:2010/06/20(日) 22:40:26.64 ID:YN0H3jM0 [6/7]
婚后「(一体何故、急に? やはり御坂さんと白井さんを同じ寮内に置いておくのは危険と判断したため? いえ、それとも……)」

婚后は昨日のことを思い出す。

婚后「(まさか私の動きが勘付かれていた?)」

確かに、婚后は昨日の昼食時、適当な理由をつけて食堂から抜け出し、アンチスキルの隊員と思われるスーツ姿の女性の後を尾け、御坂が謹慎されている部屋を見つけたが、勘付かれた様子は無かった………はずだ。

婚后「(ふん…さすがはプロ、と言ったところでしょうか。恐らく私の姿を確認していなくても、誰かが尾行している、ということぐらいは見抜いていたかもしれませんわね…)」ギリッ

クラスメイト「?」

婚后「(いえ、それほどでなくても…多少の違和感を覚えたのでしょうか。どちらにせよ、万が一のことを考えて移送させることにしたのでしょうねきっと……随分な念の入れようだこと)」

婚后は扇子を握る手にギュッと力を込める。

婚后「………………」

美琴と黒子のためにやった、処罰をも覚悟に入れての行動だったが、まさかそれが裏目に出るとは思っていなかった。
美琴と黒子が同じ寮内にいれば、状況を覆すだけのチャンスもいくらかあったかもしれないが、2人が極端に離れ離れになってしまえば、それも困難になってしまうだろう。
これでは、婚后が自ら進んでそのチャンスを潰したようなものだ。

婚后「(ならば……私が責任を持ってなんとかしないと……)」

600 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga sage] 投稿日:2010/06/20(日) 22:46:22.80 ID:YN0H3jM0 [7/7]
クラスメイト「あ、もう5限目が始まりますわ」

腕時計を見てクラスメイトが呟いた。

婚后「………………」

もし、美琴が放課後、アンチスキルの支部へ移送させられるならば、婚后が手を尽くせる時間は残り少ない。

婚后「(かと言ってまた適当な理由をつけて授業を抜け出すと、寮監様に怪しまれかねないですし……。何とか手はありませんか? 考えるのよ婚后光子!!)」

彼女は、何か策が無いものかと深く深く考える。

婚后「…………………」

しかし、こんな時に限って妙案というものは思い浮かんでこない。その上、時間も無いのだ。
焦燥心が婚后をジワジワと煽り立てる。
と、その時だった。

クラスメイト「婚后さん、急ぎましょう。今日は調理実習ですから準備も必要なんですよ?」

婚后「!」

ふと、何かに気付いたように婚后は顔を上げた。

クラスメイト「?」

クラスメイトを呆然と見つめる婚后に、クラスメイトは首を傾げる。

婚后「……………今、何て仰いました?」

クラスメイト「はい?」

602 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga sage] 投稿日:2010/06/20(日) 22:53:51.06 ID:skkhT860 [1/2]
婚后「今、何て仰いました!?」

クラスメイト「いえ…だから、次の5限目は調理実習で準備も必要ですから、急ぎましょうと……」

婚后「!!!!」

クラスメイト「???」

何やら様子がおかしい婚后に、クラスメイトは奇異の目を寄せる。

婚后「(そうですわ……これなら…!!)」
婚后「申し訳ありませんが、先に行っておいて頂けません?」

クラスメイト「え!? でも、もう始まってしまいますよ」

婚后「大丈夫ですわ。少し忘れ物をしただけですから。授業が始まるまでには厨房に着くので」

クラスメイト「分かりました。ではまた後で」

婚后「ええ」

一瞬、不思議そうな表情を浮かべたが、クラスメイトはすぐにその場を去っていった。

婚后「…………………」

走っていくクラスメイトの後ろ姿が廊下の角に消えていったのを確認すると、婚后は持っていた筆記用具から適当にペンを取り出した。
そして、同じく胸に抱えていたノートの端を丁寧に破くと、壁を下敷きに何かを書き出した。

婚后「これで完璧……」

10秒も経たず書き終えると、婚后はその切れ端を、持っていたエプロンのポケットにしまいこんだ。
そして、腕時計を確認すると厨房に急ぐため走り出した。

626 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga sage] 投稿日:2010/06/22(火) 21:40:48.43 ID:E60pkZs0 [2/15]
とある部屋――。

バタン、という音とともに、来客は出ていった。

美琴「………これで、チェックメイトかしら?」

愚痴を吐き捨てるように美琴はベッドに仰向けに倒れ込んだ。
壁の上部に設置された格子付きの細い窓から僅かに青空が見える。

美琴「今、ちょうど5時間目が始まったところかしら?」
美琴「となると2、3時間後には移送されることになるわね」

ついさっき、部屋に訪れたスーツ姿の女性警備員は、放課後、美琴をアンチスキル支部へ移送する、という旨を伝えにきた。何でも、突如決まったものらしく理由は聞かされていない。
更に、移送中は手錠をかけられるらしく、抵抗した場合は、同様に謹慎を受けている黒子や佐天、初春の罪も一気に重くなる、とのことだ。黒子たちがどこで謹慎を受けているのか知らない以上、下手に動くのも逆効果だった。

美琴「別に退学になるってわけじゃないけど、これでしばらくは黒子たちと会うことも難しくなるわね。そうなったら本格的に、私たちは動けなくなる」

美琴は窓に映える青空を眺めながら、ボーッとした口調で独り言を呟く。

美琴「で、学園都市の学生たちはあの2人に好きなように誘拐蹂躙殺害されまくるわけね」

彼女は、とある少年――もとい、とある宿敵の顔を思い出す。

美琴「私らの協力も無しに、あの2人を捕まえることなんて出来るのかしら? つかそもそもアンチスキルはやる気無さすぎでしょ」

目を閉じ、美琴は空中に溜息を吐く。

美琴「はぁ…」
美琴「何とかならないかな……。せめて、この状況から逃げ出すことが出来れば……」

ピリピリッと美琴は空中に上げた右手から電気を発する。

美琴「本当に…私が超能力者である意味……あるのかしら?」

力を抜いた右手をバフッとベッドの上に下ろすと、彼女は沈んだ目で空を眺め続けた。

627 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga sage] 投稿日:2010/06/22(火) 21:48:19.09 ID:E60pkZs0 [3/15]
管理人室――。

現在、寮内の時間割は5限目が終わって6限目までの10分休憩の最中である。
裏で美琴の移送計画が進んでいることも知らず、黒子は本を読んで過ごしていた。

トントン

寮監「ん?」

ドアが叩かれた音がし、寮監と黒子はそちらの方に顔を向ける。
すぐに、見張りについていた警備員の声が聞こえた。

警備員「白井への面会人です」

黒子「(面会人……はて、誰でしょう?)」

寮監「どうぞ」

警備員「面会人が『白井への差し入れがある』と言っておりますが、どうしましょう? 許可しますか?」

寮監「差し入れ? 何です?」

寮監が眉をひそめて訊ねる。

警備員「どうやら見た限り、弁当のようですが…」

黒子「(お弁当の差し入れ?)」

寮監「どこの弁当ですか? 寮の外で販売されているものとか?」

警備員「いえ、彼女によるとつい先程の調理実習で作製したものとか」

寮監「……調理実習で作ったばかりのもの…か」

数秒ほど考え込み、寮監は答えた。

寮監「構いません。彼女を室内に入れて下さい」

警備員「了解しました」

ガチャッとドアが開かれる。


婚后「おーっほっほっほ!!!! 白井さん、相変わらずおブサイクな顔のままですわね!!」


黒子「こ、婚后光子!!!」

628 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga sage] 投稿日:2010/06/22(火) 21:54:25.67 ID:E60pkZs0 [4/15]
そこには、胸に弁当箱らしきものを抱え、上品らしい下品な笑い声を上げる婚后が立っていた。
後ろでドアが閉まると、彼女は黒子に近付いてきた。

婚后「あらおブサイク。ホント、おブサイク。謹慎を受けてからずっとおブサイクな顔ですわよ」

黒子「……………」ピキッ
黒子「そ、それで? お弁当を差し入れしてくれたようですが、私を哀れんでのことでしょうか? いえきっとそうでしょうね、貴女なら!」

黒子の額に青筋が浮かぶ。

婚后「ハァ…うるさいですわね。せっかく、私が作ってここまで持ってきたのに」

寮監「婚后、一応その弁当見せてくれ」

横から尋ねてきた寮監に、婚后はパカッと弁当の蓋を開けて中を見せる。
直径3cm~4cmぐらいの、オムライスをおにぎり状にしたものが2つ、仕切りを隔てて野菜とおかずが所狭しと入っていたが、どこか豪華な感じがした。

寮監「ん。もういいぞ」

婚后「本当は差し入れは厳禁なのでしょうけど」

寮監「わざわざお前が白井の分まで作ってくれたんだからな。拒否するのも酷い話だろうし、食べるなら温かいうちがいいだろう」

婚后「ご厚意に感謝しますわ寮監様」

すまし顔で婚后は礼を述べた。



婚后「“とても助かりますわ”」





629 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga sage] 投稿日:2010/06/22(火) 22:00:26.36 ID:E60pkZs0 [5/15]
黒子「しかし、何故貴女が私にお弁当を? 気味が悪くて寒気がしますわ」

寮監「こら、白井。そういうことを言うもんじゃないぞ」

黒子「だって…」

本当に不思議がるように言った黒子を寮監が諌めた。

婚后「気になりますか? 理由は簡単ですわ。さっきも言ったように謹慎を受けてからというもの、白井さんがおブサイクに見えて不憫に思えて」ホロ

黒子「…」イラッ

婚后「そういうわけで、この常盤台の婚后光子が作ったお弁当を食したら、貴女も少しはおブサイクレベルがマシになるでしょう? ほら? 如何です? それともこの私が慈悲で恵んであげたお弁当をいらないとでも?」

黒子「………フン。せっかく作ってもらったのですから、食べさせて頂きますわ」

不満な表情を浮かべたまま、黒子は弁当を受け取る。

婚后「さっさと食べることですわね。冷めたら私の慈悲のパウワーが低下しますから」

黒子「はいはい。分かっておりますの」

婚后「ちなみに、そのオムライスおにぎり。私の自信作なのですわ」

黒子「自信作?」

弁当を手にした黒子が訝しげに横目で質した。

婚后「ええ。今まで人類が味わったことがないほどの隠し味を入れてますの。それはもう、信じられないほどのお味でしょうね! まあ貴女の貧相な舌に合うかどうかは分かりませんが」

黒子「……そ、そう。不吉な予感しかしませんが、それは楽しみにさせてもらいますわ」

婚后「ええ。是非」パチ

黒子「?」

630 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga sage] 投稿日:2010/06/22(火) 22:08:03.09 ID:E60pkZs0 [6/15]
一瞬、婚后は真剣な表情を浮かべ、ウインクを飛ばしてきた。
婚后の背後にいる寮監はその表情を見ることは出来なかったが、黒子は見逃さなかった。

黒子「(何なんでしょう今のウインクは?)」

婚后「あーっと! まずいですわ。もう6限目が始まる頃ですの。そろそろ行かなければ!」

婚后は慌てたように、ドアに向かう。

黒子「あ…婚后さん!」

婚后「何でしょう?」

振り返る婚后。

黒子「貴女に感謝を述べるのには抵抗がありますが…わざわざ私のために作ってもらったものです。ぜひ食べさせて頂きますわ」

婚后「フフン。素直じゃないですこと。きっと次、貴女が私に会ったときは、そのお弁当がどれほどの美味か記憶に留めている頃。私に頭が上がらぬほど感謝しているに違いませんわ! オーッホッホッホ!!」

扇子を口元に、婚后は高笑いを上げる。

黒子「(……ムカつきますの)」ピキキ

婚后「では寮監様、私はこれで失礼させて頂きます」

寮監「うむ。授業に遅れぬようにな」

婚后「白井さん、  機  会  が  あ  れ  ば  またお会いしましょう。アデュ~」

最後まで黒子を小馬鹿にしたまま、婚后は部屋から出て行った。
警備員によって閉められたドアを背後に、婚后は口元に覆った扇子の中で小さな笑みを浮かべる。

婚后「(さて白井さん。私が出来ることはここまでです。あとは、貴女次第ですわ)」
婚后「(この常盤台の婚后光子の厚意をフイにしてヘマなどしたら、許しませんわよ)」

彼女は次の授業に向かうため、管理人室を離れていった。

631 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga sage] 投稿日:2010/06/22(火) 22:14:26.87 ID:E60pkZs0 [7/15]
寮監「どうした? 食べんのか? せっかく婚后がお前のために作ってきてくれたんだ。冷めてしまうぞ」

黒子「いえ…なんだか食材に不気味なものでも使われていないかと」

弁当箱の箱を開け、まじまじと観察する黒子。

寮監「いらんなら私が食う」

黒子「い、いえ冗談ですの。ぜひ頂きますわ」

椅子の上に腰を降ろし、黒子は箸を取り出す。
寮監は再びソファに座り雑誌を読み始めた。

黒子「(さて、いただきますの)」

まずはパクッとおかずのハンバーグ(黒毛和牛)を口に入れてみる。

黒子「(あらあらまあ……これはこれは。とても美味しいではありませんか)」

更に一口、と黒子の手は進む。

黒子「(以前はカレーライスも作れなかったというのに、随分と進歩したじゃありませんか)」

本当に美味しいのか、彼女は次々とおかずを口に運ぶ。

黒子「(これは本当に後で感謝せねばなりませんわね)」

お嬢さまらしい優雅な食べ方で、おかずが徐々に消えていく。

632 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga sage] 投稿日:2010/06/22(火) 22:20:13.65 ID:E60pkZs0 [8/15]
そして、彼女はようやく、婚后自慢のオムライスおにぎりに手をつける。

黒子「(さて。これが婚后さんの自信作……とてつもない隠し味を秘めているということですが…)」

黒子は箸で掴んだオムライスおにぎりを見つめる。
卵で作られた皮が、丸く球体状に握られた橙色のご飯の面積を半分ほど包んでいる。

黒子「(では、いざ行かん)」

パクッ

顎の下で左手の掌を上に向けながら、彼女は優雅にオムライスおにぎりを口に運ぶ。
お嬢さま用に作られたせいか、おにぎりは小さく、二口か三口もあれば黒子の小さな口でも食べきれるサイズだった。

黒子「(あら…あらあら……。美味しいではありませんの)」
黒子「(隠し味、というものですからどれほど奇抜なものかと覚悟を決めていたのに…。このおかずの中で一番の味を兼ね備えていますわ)」

ホクホクと笑みを浮かべ黒子はオムライスおにぎりを食べる。

黒子「………………」モグモグ

しかし、その美味も長くは続かなかった。


黒子「うっ!」


ふと、黒子は口の中に違和感を覚えた。

633 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga sage] 投稿日:2010/06/22(火) 22:26:15.70 ID:E60pkZs0 [9/15]
黒子「(な、何ですの? 明らかに異物と思われるものが混入してますの…)」

寮監「?」

突如、口を覆った黒子の様子を見て、寮監が怪訝な目を向ける。

黒子「……………っ(この感触は……)」
黒子「(…………紙!?)」

と、そこで黒子は思い出す。



   ――「ちなみに、そのオムライスおにぎり。私の自信作なのですわ」――



何故、婚后が『自信作』と豪語してまで、オムライスおにぎりを薦めたのか。



   ――「ええ。今まで人類が味わったことがないほどの隠し味を入れてますの。それはもう、信じられないほどのお味でしょうね! まあ貴女の貧相な舌に合うかどうかは分かりませんが」――



『隠し味』と言った婚后。それの意味するところは、おにぎりに異物を混入させて嫌がらせをするためなのか。
いや、違う。憎まれ口を叩きながらも、彼女からはそんな雰囲気は一切感じ取れなかった。

635 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga sage] 投稿日:2010/06/22(火) 22:32:11.20 ID:E60pkZs0 [10/15]
  


   ――「ええ。是非」パチ――



気になるのは一点。オムライスおにぎりの話をしていた時、彼女は一瞬だけ真剣な表情を浮かべ、ウインクをした。
ウインク…映画などでよく見かける、至近距離での仲間内での秘密の合図、またはメッセージ。

そう、もし婚后が、何らかの“メッセージ”を密かに黒子に伝えようとしていたとしたら……。



   ――「白井さん、  機  会  が  あ  れ  ば  またお会いしましょう。アデュ~」



そして、彼女が最後に放った言葉。
『機会があればまた』……一見、何の不思議も無いように思われる。しかし、前回や今回のように、婚后は面会のために気軽に寮監の部屋を訪れている。友達の部屋を訪れる感覚で面会に来ていた彼女の言葉としてはどこか不自然だ。




黒子「(…………………)」




この間、5秒――。

636 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga sage] 投稿日:2010/06/22(火) 22:37:13.43 ID:E60pkZs0 [11/15]
寮監「どうした白井?」

黒子「………」ギラリ

一瞬、黒子は寮監の顔を見据えた。

寮監「?」

黒子「う……」

寮監「??」

黒子「ううっ!!」

ダダダッ

突如、黒子が走り出す。

寮監「白井!?」

バタァァン!!

口元を抑えたまま、黒子はトイレに駆け込み、ドアを勢いよく閉めた。

637 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga sage] 投稿日:2010/06/22(火) 22:42:11.67 ID:E60pkZs0 [12/15]
黒子「………………」

そのまま彼女はトイレの中で静止する。
お嬢さまの身分としては、少し汚い行為だと思ったが、彼女は口の中から違和感の原因である異物を取り出すと、残りは全て飲み干した。
そして……

黒子「えぐっ!! ううええっ!!! ゲホッ!! えぐぅっ!!!」

まるで、嘔吐しているような声を出す。
ドンドンとトイレのドアが叩かれる。

寮監「どうした白井!? まさか弁当の中に悪いものでも入ってたのか!?」

黒子「………………」
黒子「えぐっ!! ゲホッ!!」

演技を続ける黒子。
そのまま彼女は、異物の正体だった紙を見る。三重に畳まれていたそれを開くと、そこには歪つな文字でこう書かれていた。

『御坂 放課後 移送
 部屋番 315』

黒子「…………………」

急いで書いたかのような崩れた文字を無言で見つめる黒子。

638 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga sage] 投稿日:2010/06/22(火) 22:47:25.73 ID:E60pkZs0 [13/15]
寮監「おい! 大丈夫か!?」ドンドン

黒子は背後に視線をチラッと移す。
彼女は紙を再び折り畳み、便器の中に放り込むと、水洗ボタンを押した。

ガラガラガラジャーーーー

水が流れる音が聞こえ、しばらくすると黒子はドアを開けトイレから出てきた。

寮監「白井? どうした?」

見ると、黒子は胸をさすりながら、蒼ざめた顔をしている。

黒子「うっぷ…言っていた通り、凄まじい隠し味でしたの……」

寮監「弁当か?」

黒子「ええ…あまりの不味さに耐えられなくなって…つい…はしたないことを」

寮監「あいつ…何てものを作っているんだ」サーッ

黒子に影響されたのか、寮監の顔も蒼ざめる。

黒子「………………」

トボトボと黒子は寮監の横を通り過ぎると、彼女は椅子に腰を降ろした。
そして再び箸を取る。

639 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga sage] 投稿日:2010/06/22(火) 22:53:11.88 ID:E60pkZs0 [14/15]
寮監「お、おい。まだ食べる気か?」

見ると、弁当箱の中にはオムライスおにぎりがまだ1つ残っている。

黒子「ええ…。これでも婚后さんが丹精込めて作ってくれたんですもの…。最後まで食べないと……」

ホロッと、今にも泣き出してしまいそうな、そんな悲しい顔を浮かべ黒子は言葉を紡ぐ。

寮監「いや、何も目に涙を溜めてまで食べなくてもいいと思うが」

黒子「なら、寮監様が食べます?」

黒子は寮監に見えるように弁当を傾ける。オムライスおにぎりがコロッと動いた。

寮監「……………」ゴクリ
寮監「い、いや。やめておこう」

黒子「そうですの」

オムライスおにぎりを口に入れる黒子。
念のための確認作業だったが、どうやらこっちには紙のようなものは入っていなかった。

黒子「うっ!!」
黒子「うおええええええええええ!!!!!!」

ダダダダ…ガチャッ…バタン!!

再び、口元を抑えながら黒子がトイレに駆け込んだ。

黒子「うげげげげ…うえ……ゲロゲロゲロゲー……」

寮監「白井ーーーーーっ!!!!」

それが彼女の演技とは露知らず、寮監は必死に叫ぶ。
チラッと寮監は、黒子を今まさに地獄に突き落としていた原因の弁当箱を見る。
全てのおかずを食べきったのか、中にはもう何も残っておらず、空の弁当箱があるだけだった。

658 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga sage] 投稿日:2010/06/23(水) 21:41:13.65 ID:TAK3oYM0 [2/18]
とある場所――。

御坂妹「……情報によると、お姉さまはアンチスキルの小隊によって、第7学区にあるアンチスキル支部へそろそろ移送させられるらしいです」

上条「そうか」

一方通行「となると、超電磁砲とあの白井とかいうテレポーターは離れ離れになるわけかァ」

狭い部屋の中央にある、横長のソファに腰を降ろす上条と一方通行の2人。
彼らを前にして、御坂妹は立ったまま状況を伝える。

一方通行「超電磁砲のグループはたった4人。うち2人は無能力者と低能力者。つまりは主力は残りの超電磁砲とテレポーター、と言うことになるなァ」

顎に手を添えるように一方通行は推理する。

一方通行「いや、違うなァ……。どちらかと言うと、アイツらは超電磁砲を中心としたグループだ。テレポーターは超電磁砲の補佐的役割が強い。つまりだァ…絶対的な影響力を持つ超電磁砲さえいなきゃ、ただの子猫ちゃンの集団ってわけだなァ」

楽しそうに一方通行は笑う。

一方通行「超電磁砲とテレポーターが離れりゃ、行動も制限されるわなァ」

御坂妹「離れる、と言うよりもお姉さまは更に限られた環境に隔離されるわけです。それもアンチスキル支部の施設に。あのツインテールの少女が今後、自由の身になったとしてもお姉さまに会うにはかなり難しい状況になるのでは、とミサカは推測します」

一方通行「アイツら、4人で動いてたようだし、事情が事情だけに協力者もいねェだろうなァ…。ハッ、これは詰ンだな超電磁砲」

上条「何にせよ、ようやくこれで俺たちも“活動”に専念出来るというわけだ」

スクッと上条は立ち上がる。

一方通行「余裕だねェ。詰ンだとは言え、俺はアイツらがそう簡単に諦めるとは思えねェけどなァ。きっと無様にも最後まで泥の中であがき続けると思うぜェ」
一方通行「まァ、またちょっかいかけて来るなら来るで何度でもぶっ潰すまでだがなァ」

上条「俺だって、あいつらがそう簡単に諦めるとは思ってないし、油断をするつもりはないさ」
上条「だが、御坂が戦線を離脱させられる以上、少なくともしばらくは行動出来なくなるはずだ。お前の言うように、協力者なんてそうそういないだろうし」

スタスタと上条は扉の無い出口へ向かっていく。

御坂妹「では、お姉さまたちの件についてはしばらく放置、ということで?」

上条「ああ…一先ずこれで御坂たちはチェックメイトだ」

背後も振り向かずに、それだけ呟くと上条は部屋を出て行った。

659 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga sage] 投稿日:2010/06/23(水) 21:48:16.25 ID:TAK3oYM0 [3/18]
とある密室――。

黒子「………………」

拳を握り締め、正面を見据え、黒子はその場に立つ。

黒子「婚后さん、手作りのお弁当ありがとうございますわ。貴女が仰ったように、人生で一度も味わったことがないほどの隠し味でしたの」

密室の中、彼女は1人呟く。

黒子「悔しいですが、貴女には頭が上がらぬほど感謝せねばならないようですわ」
黒子「婚后さん、機会があればまたお会いしましょう」

強い意志が彼女の心に火を点ける。

黒子「そして…上条当麻、一方通行。貴方たちには返しても返し切れない借りがあります。待っていなさい。必ず私たち4人でそれを返しに行きますから」

そして最後に、彼女は『315』という数字を頭に浮かべ、上を見る。

黒子「お姉さま、待ってて下さい。今、行きます」

660 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga sage] 投稿日:2010/06/23(水) 21:54:13.44 ID:TAK3oYM0 [4/18]
常盤台中学学生寮・廊下――。

寮監「わざわざご苦労様です」

黄泉川「それはこっちの台詞です。あの勝気な白井と一緒の部屋だと疲れるでしょう?」

長くて瀟洒な廊下を、寮監と装甲服に身を包んだ黄泉川が歩いていた。

寮監「まあ、反抗期の女の子はあれぐらいのほうが丁度いいのでしょう」
寮監「あ、女性警備員の方々が詰めていらっしゃるモニタールームはこちらです」
寮監「部屋に着いたら、改めて御坂の移送後の詳細について説明をお願いしますね」

黄泉川「その前に、白井の顔を見ておきたいんですが宜しいですか?」

寮監「はあ…それぐらいは構いませんが、もし貴女と会えば、御坂の移送について勘付かれませんかね? あいつ、勘は鋭いので」

黄泉川「まあ、その辺りは『2人の様子を見に来た』とか適当なことを言っておけば大丈夫でしょう」

寮監「そうですか。あ、ここが管理人室です」

ガチャッとドアを開け、寮監が室内に入る。それに黄泉川が倣う。

寮監「あら?」

ふと、寮監が立ち止まった。
黄泉川も立ち止まり、部屋の中を見回すと後ろから呟いた。

黄泉川「白井のやつがいませんが……」

寮監「ああ、トイレですよ。電気が点いているでしょう?」

スタスタと寮監は歩き、トイレのドアを叩く。

寮監「コラ白井。黄泉川先生が来ている。挨拶ぐらいしないか」ドンドン

黄泉川「………………」

寮監「聞いてるのか? ったく…。いいか? 早く用を済ませて出て来い」

言うだけ言って、トイレから離れると寮監は再び客を迎えるための顔になった。

寮監「すみません黄泉川先生。どうやら本当に反抗期らしくて……ホホホホ」

黄泉川「反抗期か……。なら、いいんだが……」

寮監「え?」

661 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga sage] 投稿日:2010/06/23(水) 22:01:18.45 ID:TAK3oYM0 [5/18]
黄泉川「白井! 黄泉川だ! 返事しろ!!」ドンドンドン!!!

トイレに近付くと、黄泉川は大声で叫びながらドアを叩き始めた。

寮監「黄泉川先生?」

黄泉川「嫌な予感がするじゃん」ボソッ

寮監「は?」

黄泉川「白井! 今すぐ返事しろ!! 返事しないとドアをぶち破るぞ!!」ガチャガチャガチャドンドンドン!!!

寮監「黄泉川先生!?」

更に黄泉川は力強くドアを叩く。同時にドアノブも回してみるが、鍵がかかっているのか反応はない。

黄泉川「白井!!!」ドンドンドン!!!

が、ドアの向こうからはうんともすんとも言わない。呆然と口を開けその様子を見つめる寮監。
彼女の脳裏に嫌な不安が過ぎる。何か、異常が起こりつつある――。

黄泉川「白井!!!!」

ドンッ!!!!

最後に1回、黄泉川は大きなノックを叩き込んだ。

黄泉川「チッ」

舌打ちをし、一歩下がると黄泉川は右太腿に巻いていたレッグホルスターから拳銃を取り出した。

寮監「黄泉川先生!!??」

パン! パァン!!

黄泉川は引き抜いた拳銃をドアノブに向かって2発、撃ち抜く。

662 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga sage] 投稿日:2010/06/23(水) 22:07:19.84 ID:TAK3oYM0 [6/18]
黄泉川「子供には向けてないから私のルール外じゃん」

そう言って、黄泉川はドアを蹴っ飛ばした。

黄泉川「白井!!」

外開きであるはずのドアが、嫌な音を立てて内側に開いた。

黄泉川「しら……!!」

寮監「いない!?」

奥に向けて細く作られたトイレの中には、誰もおらず、電灯だけが空しく光を放っているだけだった。
2人は3秒ほど呆然としていたが……

黄泉川「………クソッ!」ダッ

振り向いたと同時、走り出す黄泉川。

寮監「先生!」

黄泉川「御坂の部屋の鍵を持って私と一緒に来るじゃん!!」

叫びながら既に黄泉川は部屋から出ていた。

寮監「分かりました!」

慌てて、御坂が謹慎されている部屋の鍵を持ち、寮監は黄泉川の後を追いかける。

663 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga sage] 投稿日:2010/06/23(水) 22:13:10.90 ID:TAK3oYM0 [7/18]
黄泉川は1秒も無駄に出来ないと言うように、無線を取り出すと怒号を上げた。

黄泉川「こちら黄泉川! 白井が脱走した!! 見張りの隊員は襲撃に備え部屋の防護を固めろ!! それからモニター室! どうなってる!? 現在の管理人室と御坂の部屋の様子を報告せよ!!!」

見張りの隊員からは、「了解!」と声が上がったが、モニター室からは何の反応も無い。
無理も無かった。モニター室――正しくは『環境保全ルーム』にいた3人の女性警備員たちは全員気絶し、モニターも全て破壊されていたのだから。

黄泉川「モニター室!! 応答せよ!!」
黄泉川「チッ!」

そうこうしている間に、黄泉川と寮監は件の部屋があるフロアに辿り着いた。
ライフルを構えた2人の男性警備員が黄泉川の姿を見つけると、「隊長!」と叫び腕を上げた。
黄泉川と寮監は、御坂が謹慎中の部屋の前で足を止める。部屋番号は―――『315号室』だ。

黄泉川「寮監さん、早く!」

黄泉川の声に押されるように、寮監は特殊な素材で出来た鍵を鍵穴に通す。
そして、開錠の音を聞くと同時、寮監は315号室のドアを開けた。

寮監「御坂!!!」

寮監と黄泉川はほぼ同時に室内に足を踏み込む。

664 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga sage] 投稿日:2010/06/23(水) 22:18:46.05 ID:TAK3oYM0 [8/18]
が、そこには無人の空間が広がっているだけだった。

寮監と黄泉川は2人して、動きを止める。

寮監「な………」

寮監が唖然とした声を上げる一方、一足早く我に返った黄泉川は室内を駆け、トイレや浴室の扉を次々と開けていった。
だが、どこを開けようが誰もいなかった。

黄泉川「…………っ」

もう室内に隠れられる場所はない。かと言って、壁や天井を破壊して逃げた跡もない。となると、考えられる状況は1つだけだ。
浴室のドアを開けたまま一瞬固まっていた黄泉川は、やがてその場を離れ右に薙いだ拳で手近の壁を殴りつけた。

黄泉川「クソッ!!」ドンッ!!

その行動に、寮監と2人の男性警備員が一瞬肩を震わせた。

黄泉川「やってくれるじゃんよぉ~白井ぃ………」

低い声で呟く黄泉川は、恨めしそうな顔を主のいなくなった室内に向ける。

665 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga sage] 投稿日:2010/06/23(水) 22:23:12.84 ID:TAK3oYM0 [9/18]
そして、僅かな無言の後、装甲服に包まれた背中を見せながら、黄泉川は搾り出すような声で寮監に質した。

黄泉川「……白井がトイレに入った時間がいつか、分かりますか?」

寮監「は? え…あ…さ、さあ、どうでしょう。ただ、私が黄泉川先生を迎えるために管理人室を出たのは10分ほど前です。その時は、白井も部屋の中で本を読んでいたのですが……」

黄泉川「…10分前か」

寮監「はい」

黄泉川「……まだ、間に合うかもしれん」

寮監「え?」

黄泉川は、無理矢理笑みを刻んだ。

黄泉川「勝負はまだ終わってないじゃん、白井……っ!!」

666 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga sage] 投稿日:2010/06/23(水) 22:27:12.05 ID:TAK3oYM0 [10/18]
とある寮A――。

近くに停められていた大型の黒い輸送バスの後部ドアから、黒服の集団がダカダカと飛び出してくる。
全員、装甲服に身を包み、専用のアサルトライフルやジュラルミンの盾を装備している。――アンチスキルだ。

『こちら隊長の黄泉川! 常盤台中学学生寮から謹慎中の御坂と白井が15分ほど前に脱走した。状況から鑑みて、両名はそちらの寮に向かうものと推測される。現場に待機中の小隊は直ちに部隊を展開、寮の全ての出入り口を封鎖せよ!! 御坂と白井を見つけた場合、全力をもってこれを捕縛。よほどのことが無い限り発砲はなるべく控えろ』

黄泉川から入った無線報告を受け、総勢20名あまりのアンチスキルたちは寮の周囲に展開していく。

『部屋の見張りについている隊員は直ちに室内の監視対象を確保。小隊本部の下、厳重に監視し御坂・白井両名との接触に備えろ。なお、万が一、御坂・白井両名と室内で鉢合わせする場合を想定して、部屋に踏み込む際には、完全武装すること。以上!!』

黄泉川の指示を受け、訓練された警備員たちはきびきびと動いていく。
一方、そこから少し離れた場所にある、とある寮Bでも黄泉川から同じ指示を受けたアンチスキルが展開していた。

2つの寮が騒然となる。
その中心点――監視対象の部屋の見張りに就いていた隊員は、後からやって来た3名ほどの増援と共に、部屋の扉の前で拳銃を構える。



とある寮A――。

小隊長『状況開始!』

小隊長の無線の指示を合図に、2人の警備員が室内に踏み込む。
彼らが目指すは部屋の中央部。
しかし………

667 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga sage] 投稿日:2010/06/23(水) 22:33:08.79 ID:TAK3oYM0 [11/18]
とある寮B――。

小隊長『状況開始!』

同様の展開は、とある寮Bでも起きていた。
部屋の前で待機していた2人の隊員が拳銃を持ち、室内を進む。
もしもの事態――御坂や白井との遭遇――を懸念して慎重に歩む。
が………

警備員「アンチスキルだ! 一緒に来てもらお……っ!!」

先頭を歩いていた警備員が突然、言葉を失くした。

警備員「いない……!?」



とある寮A――。

警備員「何!?」

拳銃を部屋の中に向け、固まる2人の警備員。

警備員「……………!!」

部屋の中は空っぽだった――。

668 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga sage] 投稿日:2010/06/23(水) 22:38:40.76 ID:TAK3oYM0 [12/18]
常盤台中学学生寮・モニター室――。

黄泉川「やられたじゃん……!!」

ガシャアアアン!!!

持っていた無線機を放り投げる黄泉川。

寮監「では…御坂たちは……」

黄泉川「……残念ながら……」

寮監「……っ」

315号室から御坂が消えたのを確認した後、黄泉川は寮監と共にモニター室に来ていた。
今は、鉄装ら他の警備員たちによって、気絶した女性警備員の応急手当てと監視カメラのモニターの復旧作業が始まっている。

黄泉川「子供だと思って甘く見てたじゃん……」

寮監「は?」

黄泉川「食事の運搬も、生徒たちが一斉に食堂に集まる時間に行ってたから、誰かに尾行される恐れははないと思ってたが……。御坂にしても、誰も滅多に近付かないような、寮の奥深くの部屋で謹慎させてたはずじゃん」

悔しそうに黄泉川は言う。

黄泉川「そもそも、寮監さんと監視カメラで見張られている白井は、どうやって御坂の部屋番号を知ったんだ……?」

寮監「御坂の部屋番号を知っていたのは、寮内でも私と見張りについていた警備員だけです。生徒たちは知らないはずですが……」

それを聞き、黄泉川は少し顔を逸らして呟いた。

黄泉川「…………………」
黄泉川「……………いや」ボソッ
黄泉川「…内部に協力者がいるな……」ボソッ

寮監「え?」

黄泉川「まあいいか」

スクッと黄泉川は立ち上がる。

黄泉川「まだ終わってないじゃん。人間は追われる側になって初めて自分が劣勢にあるのを自覚するじゃん」

669 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga sage] 投稿日:2010/06/23(水) 22:45:13.58 ID:TAK3oYM0 [13/18]
黒子「上手くいきましたわね」

とある寮からさほど離れていない裏路地の一角――。そこで黒子は呟いた。

美琴「黒子のお陰で何とか脱出出来たわね」

初春「突然、部屋に現れた時は驚きましたけどね」

佐天「でもギリギリでしたね。あたしの部屋から逃げる時は既に、部屋の外のアンチスキルたちが騒ぎ始めてましたから」

美琴は裏路地の陰から表の通りを覗くように窺う。

美琴「黒子には無理をさせたわね」

黒子「いえいえ」

寮内の協力者から、美琴のアンチスキル支部への移送計画の情報を密かに得た黒子は、移送直前に行動に出たのだった。
まず同室にいた寮監が部屋から出たところで、監視カメラの隙をつくためトイレに篭り、そのすぐ後『環境保全ルーム』までテレポート。モニターで監視を行っていた3人の女性警備員を奇襲によって気絶させ、モニターを破壊。その後、予め得ていた情報から美琴が謹慎されていた部屋にテレポートしたのだ。
そのまま美琴と共に連続テレポートで常盤台中学学生寮から全速で離れた黒子は、順に初春、佐天が謹慎されていた寮まで飛び、彼女たちを密かに部屋から連れ出すことに成功したのだった。

黒子「礼ならまず婚后さんに。あの方の協力が無ければ、ここまで来れませんでしたから」

美琴「そうね。全部終わったら、みんなで婚后さんに礼を言いに行きましょう」

黒子初春佐天「はい!」

美琴「……で、こっからどうするか、ね」

美琴は再び表通りに顔を向ける。

670 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga sage] 投稿日:2010/06/23(水) 22:51:18.23 ID:TAK3oYM0 [14/18]
美琴「さっき2台ほど、アンチスキルの車が通り過ぎて行ったけど……」

黒子「十中八九、私たちを探すためのものですわね。恐らく黄泉川先生の部隊でしょう。きっと間も無く、この付近を中心に捜査網が敷かれますわ。指名手配、とまではいかないでしょうけど表通りを歩くのは自殺行為ですわ」

初春「もし、黄泉川先生が他の部隊や支部に協力を仰げば、第7学区全体にも捜査網が広がるかもしれません……」

佐天「うええ…最悪じゃん」

黒子「私も一度にテレポート出来るのは、私自身を入れて3人までですし。いちいち行って戻ってテレポートを繰り返してたら、下手に無駄な時間を費やしてしまってアンチスキルに発見されかねませんわ」

美琴「どちらにしろ表通りに出たら、完全に監視カメラに映るわね」

初春「監視カメラで見つけられない、となれば衛星を使ってくることも考えられますし……」

3人は頭上の先――少し赤く染まりかけた空を眺める。

佐天「でも、そこまでやるかな? ちょっと大げさ過ぎじゃない?」

黒子「首謀者は、レベル5の超能力者である超電磁砲(レールガン)ですし、アンチスキルの中には、スキルアウトの一団を壊滅したのはお姉さまであると疑ってる人間もいるようですから、場合によってはそうなる可能性も否めませんわ」

佐天「にしても、何か黄泉川先生やあたしの見張りに就いてたアンチスキルたちもどこか大袈裟、って言うかやり過ぎな感じがしたんだけど……」

初春「よっぽど私たちが目障りなんでしょうか」

黒子「まあ、確かに執拗な感じはしますけどね」

美琴「…………………」

671 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga sage] 投稿日:2010/06/23(水) 22:57:46.49 ID:TAK3oYM0 [15/18]
黒子「でも今は、ここからどう逃げるか、ですわね。そしてこれからどこに隠れるか、も」

佐天「うわぁぁ、脱出出来たと思ったら、問題が山積みだあ」

黒子「どちらにしろ、このまま放っておけば上条当麻と一方通行は更に学園都市の学生を誘拐・殺害しかねません。アンチスキルが頼りにならない以上、私たちで動くしか手はありませんわ」

初春「でもどうやって逃げれば……」

美琴「うーん……」

顎に手を添え、美琴は黙考する。
時間が刻々と過ぎれば過ぎるほど、彼女たちの状況も悪くなってしまう。しかし、そう易々と逃走ルートや隠れ場所を確保出来ないのも現実だった。寮からの脱走に必死で、そこまで考える余裕は無かったのだ。

美琴「(となれば、やっぱり黒子に数回に分けて私たちをテレポートさせてもらって逃げるしか……。でもどこに? それにそんなことしたら、黒子の体力がもたない…。それに、そんなこと黒子1人に任せられないし」チラッ

黒子「?」

美琴「(駄目ね。でも一体どうすれば……)」
美琴「………ん?」

視界の隅に何かを捉え、美琴は黒子に据えていた視線をそのまま横に流す。

美琴「あれは……」

何かを視認した瞬間、美琴は裏路地の奥に向かって走り出した。

黒子「お姉さま!?」

佐天初春「御坂さん!」

672 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga sage] 投稿日:2010/06/23(水) 23:04:13.82 ID:TAK3oYM0 [16/18]
慌てて黒子たちもついてくる。
美琴が立ち止まった裏路地の一角。彼女の足元にあったのは、古びたマンホールだった。

黒子「マンホール?」

美琴はそのマンホールを見つめている。そのマンホールの蓋の中央には、『D-14』と刻まれていた。

美琴「“D-14”………」

その番号には見覚えがあった。美琴はその番号を初めて目にした時の状況を、なるべく詳しく思い出そうとする。




   ――「じゃあこの『A-25』とか『D-14』って英数字がマークの横に書かれてる線は何?」――

   ――「それは地下のルートだ」――

   ――「地下?」――

   ――「ああ。主に今では使われなくなった『共同溝』を利用したルートだ。ただし、ルートによっては、今も使われている共同溝を一部に組み込んだものもある。まあ、ちゃんと監視カメラやセキュリティを避けたエリアを組み込んでるし問題はないんだがな」――

   ――「で、その『A-24』だの『D-14』って言う数字は入口のことだ」――

   ――「入口?」――

   ――「ああ、入口と言っても大層なもんじゃなく、ただのマンホールなんだけどな。その数字はマンホールの蓋に刻まれてるものだ」――

   ――「マンホールって言っても、設置箇所は色々あるようでな。例えば、人目がつくような大通りの道路にあるマンホールは『A-○○』、人目につかないような裏路地にあるマンホールは『D-○○』って言うようにアルファベットでランク分けされてるんだ。『A』ランクのマンホールは今でもバンバン使われている共同溝に繋がってるが、逆に『D』ランクぐらいになると、今では使われていない、点検もほとんど行われていない共同溝に繋がってる」――

   ――「じゃあ、アルファベットの後ろにくっついてる数字のほうは?」――

   ――「それは単に、『同じ数字が刻まれたマンホールとマンホールは一直線で繋がってますよ』って印だ。まあ実際には曲がり道もあるし、階段の上り下がりもあるんだけどな」――




美琴「…………………」

673 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga sage] 投稿日:2010/06/23(水) 23:11:13.91 ID:TAK3oYM0 [17/18]
そう、その番号はマンホールとマンホールを繋ぐ共同溝への入口だった。

美琴「D-14……」

美琴は思い出す。
『D-14』と蓋に刻まれたマンホール。ここを始点とする共同溝の終点のマンホールの場所は………

黒子「お姉さま?」

佐天「一体どうしたんですか急に?」

初春「マンホールの蓋に何か書いてたりするんですか?」

急に黙りこくった美琴を不思議に思ったのか、3人が顔を覗き込むように訊ねてきた。

美琴「フフ……」

黒子佐天初春「え?」

妙な笑みを零したかと思うと、美琴は急に振り返った。

美琴「隠れ場所、見つかったわ!」

692 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga sage] 投稿日:2010/06/24(木) 21:31:18.41 ID:WLYl2ZQ0 [2/2]
とある場所――。

一方通行「逃げただと?」

御坂妹「はい」

窓も無い狭い部屋の中、一方通行は目を細めて御坂妹に質していた。

御坂妹「手に入れた情報によると移送直前、お姉さまは常盤台中学学生寮から白井さまと一緒に脱走したようです」

一方通行「………………」

御坂妹「それだけでなく、佐天さまや初春さまも寮の部屋から消えたようですね、とミサカは報告します」

淡々と、御坂妹は説明する。

一方通行「………………」

御坂妹「…………………」

一方通行「…ハッ!」

ドカッと一方通行はソファに腰を降ろす。

一方通行「やってくれるねェ、超電磁砲……」

御坂妹「恐らく現在も第7学区にいると思われますが、まだアンチスキルも消息は掴めていないようです、とミサカは多少驚きつつ現状を報告してみます」

一方通行「今更逃げたところで何が出来るンだか……。罪に罪を重ねてるだけじゃねェか」

御坂妹「それほどお姉さまたちは本気、ということでは?」

一方通行「くっだらねェ。何度歯向かってきても叩き潰すまでだ。無駄だと言うのが分かンねェのかアイツら」
一方通行「が、しかしだ…。出し抜かれたのは気に入らねェなァ……」

低い声で呟く一方通行。イライラしているわけではなさそうだが、どこか納得出来ないといった表情だった。

一方通行「オマエ、本当はアイツらが逃げ出すって、予想ついてたンじゃねェの?」

腕を組み、正面を見据えたまま一方通行は横に座る人物に訊ねた。

上条「…………………」

一方通行「いや、そこまでいかなくとも、本当はアイツらの脱走成功を心のどこかで願ってたンじゃねェか?」

上条「……冗談も休み休み言えよ」

続きます

コメント

マンホールに「D-14」って書いてあるのはおかしくないか?ルートのランク分けをやってたのはスキルアウトだろ?「14」とだけ書かれてるべきでは?

No title

いやしかし、13,4歳の小娘なんだし言動見てても名実共にまさしくガキだな…

No title

コレどうなるか気になるな。上条さんはキャラ崩壊してなければいいが・・・。
キャラ崩壊ってなにもヤミ条、カス条、ゲス条だけの事じゃないし、ただここまでいっちゃうとその理由が何であれ、キャラ崩壊させなきゃ無理がでてきちゃうな。少なくとも、
もう”上条さん”ではないかも・・・

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