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佐天「こんなに気持ち良い物だったなんてね」
750 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/07/12(月) 22:09:19.79 ID:NdJ1sAgo [1/17]
14レスお借りします。
~注意点~
・キャラ崩壊
・地の文形式
・原作読んでない。能力の解釈間違いとかあったらごめん
・独自の物理学を展開
・幻想御手にものすごい設定変更
14レスお借りします。
~注意点~
・キャラ崩壊
・地の文形式
・原作読んでない。能力の解釈間違いとかあったらごめん
・独自の物理学を展開
・幻想御手にものすごい設定変更
751 名前:佐天「こんなに気持ち良い物だったなんてね」 1/14[saga] 投稿日:2010/07/12(月) 22:11:47.01 ID:NdJ1sAgo [2/17]
「っは……はぁっ……!」
少年が必死に走る。髪は赤く染められ、身に付ける制服はだらしなくボタンが外されている。
お世辞にも行儀が良い格好とは言えなかった。
まるで化物でも見たかのような、酷く怯えた様子を見せる少年の視線の先には、口の両端を吊り上げて笑う少女が居た。
「待ってくださいよぉ」
傍から見ればただの追いかけっこ。少年の方が有利だろう。
しかし、ここ学園都市には『超能力』というものが存在する。
このシステムは男性と女性、肉体的なハンディキャップなど軽く覆せる物。
少年が少女を恐れる理由はこれにあった。
「んー……じゃあそろそろお終いにしよっかな」
少女は軽く膝を曲げ、地を蹴る。
すると50m近くあった距離は一気に縮まった。少女の疾走、否、滑空に因って。
前方に回りこむと、たじろぐ少年を見据え、言った。
「風紀委員です。暴行の現行犯で、貴方を拘束します。……くっはー、一度言ってみたかったんだよね」
「っふ、ざけんなぁぁぁぁ!!!」
近くにあった木材を掴み、少女に殴りかかる。
しかし頭部に達する僅か数cm手前、何か見えない壁にぶつかったかのように、そこから先へ進むことは無かった。
「手を出しました。じゃあこれで正当防衛♪」
決着が付くのは一瞬だった。一瞬で充分だったはずなのに、少女は徹底的に攻勢に回る。
少年の携帯電話を抜き取り、まともに動かなくなった体で必死に命乞いする少年を横目に、携帯電話を弄り出す。
「もしもし、警備員ですか? 能力者同士の喧嘩です。場所は――」
少女――佐天涙子は、通報を終えると携帯電話を放り出し、その場を後にした。
752 名前:佐天「こんなに気持ち良い物だったなんてね」 2/14[saga] 投稿日:2010/07/12(月) 22:12:56.03 ID:NdJ1sAgo [3/17]
風紀委員第一七七支部。
風紀委員の白井黒子はパソコンの前に座り、目の前の資料と睨めっこを続けていた。
ディスプレイに表示されていたのは、ここ最近発生している謎の通報についての案件である。
その様子に気付いた美琴が、後ろから覗き込む。
「……なーに眉間に皺寄せてんのよ。どれどれ?」
通報者不明。現場に到着した時には姿は無し。
重傷を負った被害者。辺りはまるで台風が過ぎ去った後かのような惨状。
高位能力者が関与していると思われる。
「被害者は皆スキルアウトですから、大方風紀委員の真似事ではないかと」
「姿は無し」とはまるでヒーロー気取りである。
しかし被害者の少年の有様を見る限り、そこまで綺麗な聞こえに当て嵌まらないことは、はっきりと言えた。
「監視カメラに姿は映ってないの?」
「それなら今初春が確認作業を行っています」
「付近の人を書庫と照らし合わせながらですので、もうちょっと時間が掛かりそうですね……」
「そのまま続きをお願いします。しかし、この現場の写真を見る限り……」
現場は凄惨な光景が拡がっていた。崩壊した建物、辺りには鉄くずやゴミが飛び散っている。
まるで巨人が空間を掴んで振り回したかのような。
「これをやったって言うなら、それなりに能力は高そうね……」
「幻想御手の件がありますから、書庫はあまり当てにならないかもしれませんわね」
幻想御手。以前はただの都市伝説と言われていた。曰く、使用するだけで簡単に能力レベルが上がる代物。
素行の悪い少年達が使用していた事件もあり、治安は悪くなっていく一方。
最も危険なのが幻想御手の代償、使用者の精神である。
人格の破綻や多重人格、記憶喪失、その他精神病諸々……
学園都市内の入院患者のおよそ5割が、幻想御手使用者であった。
753 名前:佐天「こんなに気持ち良い物だったなんてね」 3/14[saga] 投稿日:2010/07/12(月) 22:13:57.04 ID:NdJ1sAgo [4/17]
「……あれ?」
ふいに初春が声を上げた。声を聞き、美琴が駆け寄る。
「初春さん、見つかった?」
「あの、この人……」
初春はカメラの映像を巻き戻し、事件が発生した路地裏付近を指差す。
そこには後姿ではあるが、よく知る黒の長髪が映し出されていた。
そして、彼女は路地裏の方へと入っていった。
「佐天さん……こんなところで何を」
「っていうか佐天さん、何か目撃してるんじゃない?」
「連絡を取ってみれば如何です?」
はい、と初春は少しばかり慌てた様子で携帯電話を取り出す。やはり友人のことが心配のようだ。
コールしたが、聞こえてくるのは「留守番電話サービス」の音声のみだった。
「連絡、付きませんね……」
今のところ最も重要な手がかりと思えていただけに、一同一気に肩を落とす。
また新たな被害者が出る前になんとかしたい――そのような焦りがあった。
「はい、こちら風紀委員第一七七支部です」
部屋内に響くコール音。
不安を抱えていたせいか、また新たな事件が発生したようである。
これで、被害者は一気に5人増えた。
754 名前:佐天「こんなに気持ち良い物だったなんてね」 4/14[saga] 投稿日:2010/07/12(月) 22:14:28.00 ID:NdJ1sAgo [5/17]
常盤台学生寮。
御坂美琴はシャワーを浴びながら、思慮を巡らせていた。
件の通報者。初めは自分のよく知る、あの無能力者かとも考えた。
風紀委員以外でスキルアウトとこう何度も接触してしまう人物など、そうそう居るものではないからだ。
しかしそれはほんの最初だけ。現状を知り、今ではあの少年の仕業とは微塵も思えなかった。
第一彼は無能力者だ。
ではどんな人物なのか、美琴は興味が湧いていた。もしかしたらレベル5か。
学園都市の選ばれし7人。他はどんな人物なのか、是非一目見てみたいと常日頃思っていたが……
「……被害者は沢山居る。私は、何を馬鹿な事考えてるのよ……」
そこまで考えて、やめる。
「お姉様、お背中お流しぷぎゅっ」
「だから勝手に入ってくるなって言ってんでしょ!?」
顔面に全力でスタンプキック。
互いに慣れてきたせいか美琴の反応速度は良くなっているし、黒子は多少のダメージなら立ち上がれる。
「寮に帰ってきてまで仕事追われていてほしくない」と黒子の心配をしていたのだが、その必要は無さそうだった。
「ふふ……お姉様の生足……!」
「私が馬鹿だったわ。手加減できそうにないわね……!」
「お姉様ったらあんなに足を振り上げて、絶景でしたのようえっへへへ……」
物理攻撃ではなく、全力で電撃を放っても良いようであった。
755 名前:佐天「こんなに気持ち良い物だったなんてね」 5/14[saga] 投稿日:2010/07/12(月) 22:15:03.05 ID:NdJ1sAgo [6/17]
翌日の一七七支部。
初春は入室するなり美琴と黒子に尋ねる。
「白井さん、御坂さん! 佐天さんを見ませんでしたか!?」
「今日も来てないみたいだけど、何かあったの?」
「佐天さんが、どこにも居ないんです! 連絡もつかなくて……!」
佐天は前日も此処には来ていなかった。
その時は皆特別気にも留めていなかったが、さすがに今日も連絡が付かないとあっては心配にもなる。
「落ち着きなさい初春。佐天さんは学校にも来ていませんでしたの?」
「はい……さすがに授業を抜け出して探すわけにはいかなかったんですけど……」
黒子は立ち上がり、腕章を付けて言った。
「わたくしが巡回がてら探してみますの。見つけたら連絡を入れますわよ」
「黒子、私も行く。例の事件と遭遇するかもしれない」
沈黙が続く。
仮に相手との戦闘になった時、確かに美琴の力は非常に頼りになる。
しかし、二人の風紀委員としての立場を考えると、受け入れ辛いのも事実であった。
そんな態度を見て美琴は言った。
「なら私は……勝手に行くから。二人は何も知らなかった」
「……ですわよね。お姉様を止めるなど、最初から選択肢には無かったようですの」
「私ももちろん協力します。何かあったら、その時は三人で責任をとりましょう」
756 名前:佐天「こんなに気持ち良い物だったなんてね」 6/14[saga] 投稿日:2010/07/12(月) 22:15:32.15 ID:NdJ1sAgo [7/17]
「とりあえず二手に。あと、1時間くらいしたら一度連絡を取るから」
「分かりました。わたくしは主に空から探してみます」
「何かあったら呼ぶのよ。アンタの能力なら私が着くまでの時間稼ぎも出来るでしょうし」
「わたくし一人で解決が可能な内容であれば良いのですけど」
支部から出た美琴と黒子がそれぞれ真逆方向を探し始めてから、30分が経過しようとしている。
黒子は自身の力を揮い空を飛び回っていた。
(いささか酷使し過ぎましたか……)
能力の連続使用の為、息が切れ始めてきている。
一度徒歩に切り替えようと地面に着地した時、携帯電話が着信を告げた。
初春は一人支部に残り、監視カメラの映像を見つめ続けている。
ただ佐天のことが心配だった。状況が状況だけに、巻き込まれていないという確証は一切無い。
「佐天さん……佐天さん……佐天さん……!」
答える相手がいないのに無意識に名前を零してしまう。
そんな思いが通じたか、モニターに佐天の姿が映った。急いで美琴と黒子に連絡を入れる。
そして、自らも支部を飛び出した。
757 名前:佐天「こんなに気持ち良い物だったなんてね」 7/14[saga] 投稿日:2010/07/12(月) 22:16:02.43 ID:NdJ1sAgo [8/17]
佐天は、苛ついていた。
何故だか分からないが、目の前の物を全て疎ましく思っていた。
今までの制裁を加えたスキルアウトは皆、佐天に馴れ馴れしく声を掛け、無理矢理路地裏に連れ込もうとした連中ばかり。
言うなれば痴漢に対して仕方なく撃退スプレーで反撃をするようなもの、と佐天は考えている。
しかし、今は違った。
一目も憚らずいちゃつくカップル。馬鹿みたいに大きな声で下品に笑う女子高生達。ジュースを飲みながら歩く学生まで。
次々と殺意が芽生えてくるのを佐天は必死で堪えた。
いけない、こんなの。早く帰って寝よう。
そう思って駆け出したが、前も見ていなかったため目の前の男子学生に勢いよくぶつかってしまった。
「すみません。お怪我はありませんか?」
謝罪と共に、転んでしまった佐天に手を差し伸べてくる優しい男性。
しかしそんな相手に佐天は、我慢が出来なかった。
「何か、様子が……?」
初春から連絡があった地点に近付くにつれ、周囲が騒がしくなってくる。
何があったのか、一旦辺りの学生達に話を聞いて回る。
「一体何が?」
「の、能力者がいきなり暴れ始めたんだよ……!」
「分かりました。一刻も早く避難を」
また幻想御手使用者だろうか。あるいは例の謎の通報者か。
黒子の持つ空間移動能力は非常に強力なものであり、並の能力者ではとてもではないが相手にならない。
主に無能力者ばかりを相手にしてきた黒子ではあるが、それなりの場数を踏んでいる為、負けはしないだろうと考えていた。
「風紀委員ですの!」
「あれぇ、白井さん……」
その相手がよく知る友人、佐天涙子であることを知るまでは。
758 名前:佐天「こんなに気持ち良い物だったなんてね」 8/14[saga] 投稿日:2010/07/12(月) 22:16:36.78 ID:NdJ1sAgo [9/17]
佐天が幻想御手を使う可能性を考えていないわけではなかったが、いざ現実を目の当たりにすると、思考が中々追いついてくれない。
辺りの惨状。そしてその中心地にいる友人に対し、黒子は動揺してしまっていた。
おそらく佐天の仕業だろうか。一人の少年が空中に浮かんでいる。
少年は酷く怯えた様子で、必死に黒子に助けを求めた。
「佐天さん……その方を放しなさい」
「何でですかー?」
佐天は本当に理由が分からない、といった表情を浮かべる。その態度に黒子は確信を抱いた。
一気に男性の元へ飛び、空間移動によって開放する。
この場を離れるよう指示すると、男性は一気に逃げ出した。
佐天をその様子を目で追ってはいたが、大して興味は無さそうである。
「佐天さん、あなた……幻想御手を使用したのですか」
「そうですよ? いやぁ本当にスカッとします。能力レベルが高いって。御坂さんや白井さんの気持ちが分かりますね」
「何故このようなことを?」
「肩がぶつかっちゃって、ついイラッとしたんですよぉ」
ついイラッと。軽く言われては堪らない。
それで済まされるような状況ではなかった。
759 名前:佐天「こんなに気持ち良い物だったなんてね」 9/14[saga] 投稿日:2010/07/12(月) 22:17:16.93 ID:NdJ1sAgo [10/17]
「……佐天さん……」
「なんですか、その哀れんだ目。白井さんもちょっとイラッときちゃうなぁ……」
「それで結構ですの。佐天涙子、能力乱用に因る暴行、器物破損の現行犯で……貴方を拘束します」
黒子の精一杯の目力を込めた通告も、佐天はまったく意に介さないようであった。
それどころか、黒子の表情から滲み出る動揺を読み取り、更なる余裕さえ見せていた。
「迫力、無いですよ白井さん。ちっとも怖くない」
「……! でしたら、力尽くでいかせて頂きますわよ!」
「いいですよ!? さあやってみせてください!」
黒子は鉄矢を取り出し、一息で距離を詰める。
一気に飛び掛る。身構えた佐天の背後への空間移動。
完全に不意を突いたはず。そのまま体を回転させて空間移動させ、一気に体勢を崩しに掛かった。
このまま地面に組み伏せて自由を奪う。
腕を掴もうとした瞬間、まるで空を蹴ったように佐天の体はその場から飛び出した。
「アハ、危ない危ない。普通の人なら今のでアウトでしたね」
「そういえば忘れていましたわね。貴女の今の能力……」
「空気を操る、って感じです。単純で分かり易いでしょ? 空だって飛べますから」
宙に浮かんだまま佐天は言う。
確かに分かりやすい。が、非常に多彩な用途がある。総合的に見れば強力だ。
見れば周囲には切り裂かれたような跡も残っている。どうも攻撃方法は空気をただぶつける訳ではないのだろう。
黒子は鉄矢を握り締める。こうなったら直接鉄矢を打ち込んで、まず動きを鈍らせた方がいい。
意を決し、鉄矢を空間移動させた。が、その地点には既に佐天はいなかった。
760 名前:佐天「こんなに気持ち良い物だったなんてね」 10/14[saga] 投稿日:2010/07/12(月) 22:18:02.24 ID:NdJ1sAgo [11/17]
「当たらなきゃ、意味無いですよ」
「……よく知っていますのね」
確かに空間移動能力は、正確な座標指定が出来なければならない。
静止した物体に当てるのならまだしも、ここまで不規則な高速移動をされては当てることなど不可能に近い。
「もうネタは切れたんですか? つまんないですね~」
佐天は、あくまでも楽しんでいた。
余裕の表情の佐天。対する黒子は息が切れ、鉄矢もほぼ無意味になってしまっている。
ここに来るまでに能力を使い過ぎたようで、このままでは空間移動自体が不安定になってしまう可能性があった。
「……もういいですよ白井さん。相手にならなさ過ぎてつまんない」
何が起こったかは分からない。
風が吹き付けたか。ほぼ感じ取れないような、そんな小さな違和感を両足に感じた。
小さな違和感はやがて大きな違和感、焼けるような激痛へと変わる。深く、幾重にも切り刻まれた足は大量の血液を流し始める。
やがて自身の体重をも支えきれなくなった黒子は、その場へ倒れこんだ。
「ぐッ……!」
「あは、あははははははははは!!! 弱いっ!!! さぁーって、次はどうしよっかなぁ?」
高らかに笑う佐天は、悶え苦しむ黒子を見下ろして頭を踏みにじる。元の彼女はもうそこに居なかった。
そして、別の方向を見て言った。
「……二人は仲が良いんですね。私もそんな風に分かり合える友達が欲しかったなぁ」
「黒子っ……!」
御坂美琴がこの空間に足を踏み入れた。
761 名前:佐天「こんなに気持ち良い物だったなんてね」 11/14[saga] 投稿日:2010/07/12(月) 22:18:50.52 ID:NdJ1sAgo [12/17]
「もうやめて、佐天さん……!」
「正当防衛ですよ。仕方ないじゃないですか」
黒子の頭部から足を離し、代わりに腹部を蹴りつける。黒子はそのまま動かなくなった。
一気に頭に血が上る。
今目の前にいる人物は、もう友人の佐天涙子ではない。
自分の周りにある平和を壊す、ただの害だ。
手加減無しで電撃を飛ばす。生身の人間がまともに受ければ助からないレベル。
そんな電撃にたじろぐことなく、佐天は宙を舞い身を躱す。
「そんな単調なものばかりじゃないですよね? レベル5でしょ?」
「……ッ!」
「そうだ。これから攻撃を避ける度に、白井さんに一回ずつ攻撃をしましょう」
まるで幼児だった。
閃いた、と言う佐天の表情の明るさはまさにそれ。
黒子の体が宙に浮かび、地面に叩き付けられる。
そんな行為を楽しんでいた。
「やめなさい……!」
美琴はポケットからコインを取り出す。
「ヒハ、出ました超電磁砲。さぁどうぞ?」
掛け値無しの、自身が出せる最大出力。
御坂美琴の通り名にもなっている超電磁砲を、佐天目掛けて撃つ。
しかし、佐天に届くことなく、超電磁砲は消失した。
762 名前:佐天「こんなに気持ち良い物だったなんてね」 12/14[saga] 投稿日:2010/07/12(月) 22:19:30.97 ID:NdJ1sAgo [13/17]
自信はあった。学園都市の序列第三位としての自覚はあったし、それに驕ることなく、努力も絶やさなかった。
伊達にレベル5として生きていない。なのに。自らの、最高の技があっさりと止められた。
「初めて超電磁砲を見たとき、ビームでも発射してるように思いました。でもこれ、要はコインを速く飛ばしているだけだったんですよね」
風が吹き荒れる。その風は黒子を吹き飛ばし、壁に叩き付けた。
「飛んでくる物質なんて、風をぶつければ止まります。さすがにちょっと距離は取らせてもらいましたけど」
佐天の表情が変わる。それは、美琴に対して完全に興味を無くしたようだった。
一気に懐へ飛び込み、右足を振り抜く。
そのつま先が美琴の体に触れようかというところで、一気に身体が逆回転した。
勢いをそのままに、踵が後ろ首を撃ち抜く。
「がはッ……!」
「あたた……やっぱり無理に体を動かすものじゃないなぁ」
突風を手足の先から噴射することにより、高い攻撃力を持たせたり、寸止めフェイント。空中でも自在に打撃を与えることが出来る。
レベル5とはいえ、美琴はあくまでただの女子中学生。
格闘戦術など学んでいるわけがなく、この攻撃には完全に反応が出来なかった。
「周りに適当に電撃を出せば、防げたはずデスケド? 今更何を躊躇してるんですか?」
(呼んでもない時に来るくせに、こういう時は来てくれないんだ……助けて、欲しかったなぁ)
意識が途切れる瞬間、美琴は一人の少年のことを思い出す。
不良に囲まれる自分を助けにくる馬鹿。いつの間にか逢う度に追いかけっこ。
そんな無能力者の少年のことを。
「なに人様の撃墜数をキリの悪ィ19999で止めようとしてやがるンですかねェ?」
763 名前:佐天「こんなに気持ち良い物だったなんてね」 13/14[saga] 投稿日:2010/07/12(月) 22:20:14.50 ID:NdJ1sAgo [14/17]
美琴は目を覚ます。
自分の物じゃないベッドに、あまり好まない独特の匂い。
体は上手く動いてくれないが、頭ははっきりしている。ここが病院であることはすぐに理解出来た。
「御坂さん……よかった……」
「初春さん……私、何で……?」
美琴は初春から事情の説明を受ける。
警備員が駆け付けた所、倒れている美琴と黒子しか居なかったこと。
周辺住民の話によれば、暴走する能力者と戦闘をした人物がいたこと。
「ちょっと部屋は離れてますけど、白井さんも無事です。足に大怪我を負っていて治るには時間がかかるそうですけど」
「ねぇ、初春さん……」
「あ、リンゴ食べます? 剥きますよ」
話を逸らす初春。
美琴は、既に予想が出来ていた。
初春の様子を見て、答えづらいのは分かっていたが……
「佐天さんはどうしたの……?」
動きが止まる。
しかし、目は逸らせない。
「私と黒子、佐天さんと戦ったわ。能力をしっかり使っていた……」
「……ええ。幻想御手です」
764 名前:佐天「こんなに気持ち良い物だったなんてね」 14/14[saga] 投稿日:2010/07/12(月) 22:21:04.56 ID:NdJ1sAgo [15/17]
初春は美琴に背を向けたまま、続ける。
「御坂さんと白井さんが運ばれた後、路地裏で倒れているところを発見されました」
「その症状から、幻想御手と見て間違いないらしいと……」
「私、佐天さんのこと、何も分かってあげられませんでした……」
嗚咽が混じりだす。
とりあえず一命は取り留めたらしい。
しかし、使用したのはあの幻想御手である。最後に、一つだけ気に掛かることが美琴にはあった。
「佐天さんと、今話せる……?」
「別の部屋ですけど、入院しています。ただ、お話するのはちょっと難しいかもしれません」
「……なんで?」
その問いに初春は答えなかった。が、案内はしてくれると言う。
美琴は思うように動かせない体を初春に支えてもらい、佐天のいる病室まで辿り着く。
そして、ドアノブに手を掛け、室内に入った。
ベッドに潜って上半身を起こしている少女。その穏やかな表情は、確かに佐天涙子だった。
佐天がゆっくりと微笑み、口を開く。
「……こんにちは……えっと、どちら様ですか?」
幻想御手は、少女達の体に傷を、心に傷を与えた。
佐天はつい先日まであった自分を、確かに無くしていた。
765 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/07/12(月) 22:21:46.22 ID:NdJ1sAgo [16/17]
以上、終わりです
最初の注意書きの通り原作を読んでいないため、どこかおかしなところがあるかもしれません
地の文もバトル展開も初挑戦なので日本語すら怪しい
これから頑張っていきたいのでアドバイス等あれば書いて頂ければ幸いです
佐天さん壊してごめんなさい、美琴と黒子あっさりやられさせてごめんなさい
「っは……はぁっ……!」
少年が必死に走る。髪は赤く染められ、身に付ける制服はだらしなくボタンが外されている。
お世辞にも行儀が良い格好とは言えなかった。
まるで化物でも見たかのような、酷く怯えた様子を見せる少年の視線の先には、口の両端を吊り上げて笑う少女が居た。
「待ってくださいよぉ」
傍から見ればただの追いかけっこ。少年の方が有利だろう。
しかし、ここ学園都市には『超能力』というものが存在する。
このシステムは男性と女性、肉体的なハンディキャップなど軽く覆せる物。
少年が少女を恐れる理由はこれにあった。
「んー……じゃあそろそろお終いにしよっかな」
少女は軽く膝を曲げ、地を蹴る。
すると50m近くあった距離は一気に縮まった。少女の疾走、否、滑空に因って。
前方に回りこむと、たじろぐ少年を見据え、言った。
「風紀委員です。暴行の現行犯で、貴方を拘束します。……くっはー、一度言ってみたかったんだよね」
「っふ、ざけんなぁぁぁぁ!!!」
近くにあった木材を掴み、少女に殴りかかる。
しかし頭部に達する僅か数cm手前、何か見えない壁にぶつかったかのように、そこから先へ進むことは無かった。
「手を出しました。じゃあこれで正当防衛♪」
決着が付くのは一瞬だった。一瞬で充分だったはずなのに、少女は徹底的に攻勢に回る。
少年の携帯電話を抜き取り、まともに動かなくなった体で必死に命乞いする少年を横目に、携帯電話を弄り出す。
「もしもし、警備員ですか? 能力者同士の喧嘩です。場所は――」
少女――佐天涙子は、通報を終えると携帯電話を放り出し、その場を後にした。
752 名前:佐天「こんなに気持ち良い物だったなんてね」 2/14[saga] 投稿日:2010/07/12(月) 22:12:56.03 ID:NdJ1sAgo [3/17]
風紀委員第一七七支部。
風紀委員の白井黒子はパソコンの前に座り、目の前の資料と睨めっこを続けていた。
ディスプレイに表示されていたのは、ここ最近発生している謎の通報についての案件である。
その様子に気付いた美琴が、後ろから覗き込む。
「……なーに眉間に皺寄せてんのよ。どれどれ?」
通報者不明。現場に到着した時には姿は無し。
重傷を負った被害者。辺りはまるで台風が過ぎ去った後かのような惨状。
高位能力者が関与していると思われる。
「被害者は皆スキルアウトですから、大方風紀委員の真似事ではないかと」
「姿は無し」とはまるでヒーロー気取りである。
しかし被害者の少年の有様を見る限り、そこまで綺麗な聞こえに当て嵌まらないことは、はっきりと言えた。
「監視カメラに姿は映ってないの?」
「それなら今初春が確認作業を行っています」
「付近の人を書庫と照らし合わせながらですので、もうちょっと時間が掛かりそうですね……」
「そのまま続きをお願いします。しかし、この現場の写真を見る限り……」
現場は凄惨な光景が拡がっていた。崩壊した建物、辺りには鉄くずやゴミが飛び散っている。
まるで巨人が空間を掴んで振り回したかのような。
「これをやったって言うなら、それなりに能力は高そうね……」
「幻想御手の件がありますから、書庫はあまり当てにならないかもしれませんわね」
幻想御手。以前はただの都市伝説と言われていた。曰く、使用するだけで簡単に能力レベルが上がる代物。
素行の悪い少年達が使用していた事件もあり、治安は悪くなっていく一方。
最も危険なのが幻想御手の代償、使用者の精神である。
人格の破綻や多重人格、記憶喪失、その他精神病諸々……
学園都市内の入院患者のおよそ5割が、幻想御手使用者であった。
753 名前:佐天「こんなに気持ち良い物だったなんてね」 3/14[saga] 投稿日:2010/07/12(月) 22:13:57.04 ID:NdJ1sAgo [4/17]
「……あれ?」
ふいに初春が声を上げた。声を聞き、美琴が駆け寄る。
「初春さん、見つかった?」
「あの、この人……」
初春はカメラの映像を巻き戻し、事件が発生した路地裏付近を指差す。
そこには後姿ではあるが、よく知る黒の長髪が映し出されていた。
そして、彼女は路地裏の方へと入っていった。
「佐天さん……こんなところで何を」
「っていうか佐天さん、何か目撃してるんじゃない?」
「連絡を取ってみれば如何です?」
はい、と初春は少しばかり慌てた様子で携帯電話を取り出す。やはり友人のことが心配のようだ。
コールしたが、聞こえてくるのは「留守番電話サービス」の音声のみだった。
「連絡、付きませんね……」
今のところ最も重要な手がかりと思えていただけに、一同一気に肩を落とす。
また新たな被害者が出る前になんとかしたい――そのような焦りがあった。
「はい、こちら風紀委員第一七七支部です」
部屋内に響くコール音。
不安を抱えていたせいか、また新たな事件が発生したようである。
これで、被害者は一気に5人増えた。
754 名前:佐天「こんなに気持ち良い物だったなんてね」 4/14[saga] 投稿日:2010/07/12(月) 22:14:28.00 ID:NdJ1sAgo [5/17]
常盤台学生寮。
御坂美琴はシャワーを浴びながら、思慮を巡らせていた。
件の通報者。初めは自分のよく知る、あの無能力者かとも考えた。
風紀委員以外でスキルアウトとこう何度も接触してしまう人物など、そうそう居るものではないからだ。
しかしそれはほんの最初だけ。現状を知り、今ではあの少年の仕業とは微塵も思えなかった。
第一彼は無能力者だ。
ではどんな人物なのか、美琴は興味が湧いていた。もしかしたらレベル5か。
学園都市の選ばれし7人。他はどんな人物なのか、是非一目見てみたいと常日頃思っていたが……
「……被害者は沢山居る。私は、何を馬鹿な事考えてるのよ……」
そこまで考えて、やめる。
「お姉様、お背中お流しぷぎゅっ」
「だから勝手に入ってくるなって言ってんでしょ!?」
顔面に全力でスタンプキック。
互いに慣れてきたせいか美琴の反応速度は良くなっているし、黒子は多少のダメージなら立ち上がれる。
「寮に帰ってきてまで仕事追われていてほしくない」と黒子の心配をしていたのだが、その必要は無さそうだった。
「ふふ……お姉様の生足……!」
「私が馬鹿だったわ。手加減できそうにないわね……!」
「お姉様ったらあんなに足を振り上げて、絶景でしたのようえっへへへ……」
物理攻撃ではなく、全力で電撃を放っても良いようであった。
755 名前:佐天「こんなに気持ち良い物だったなんてね」 5/14[saga] 投稿日:2010/07/12(月) 22:15:03.05 ID:NdJ1sAgo [6/17]
翌日の一七七支部。
初春は入室するなり美琴と黒子に尋ねる。
「白井さん、御坂さん! 佐天さんを見ませんでしたか!?」
「今日も来てないみたいだけど、何かあったの?」
「佐天さんが、どこにも居ないんです! 連絡もつかなくて……!」
佐天は前日も此処には来ていなかった。
その時は皆特別気にも留めていなかったが、さすがに今日も連絡が付かないとあっては心配にもなる。
「落ち着きなさい初春。佐天さんは学校にも来ていませんでしたの?」
「はい……さすがに授業を抜け出して探すわけにはいかなかったんですけど……」
黒子は立ち上がり、腕章を付けて言った。
「わたくしが巡回がてら探してみますの。見つけたら連絡を入れますわよ」
「黒子、私も行く。例の事件と遭遇するかもしれない」
沈黙が続く。
仮に相手との戦闘になった時、確かに美琴の力は非常に頼りになる。
しかし、二人の風紀委員としての立場を考えると、受け入れ辛いのも事実であった。
そんな態度を見て美琴は言った。
「なら私は……勝手に行くから。二人は何も知らなかった」
「……ですわよね。お姉様を止めるなど、最初から選択肢には無かったようですの」
「私ももちろん協力します。何かあったら、その時は三人で責任をとりましょう」
756 名前:佐天「こんなに気持ち良い物だったなんてね」 6/14[saga] 投稿日:2010/07/12(月) 22:15:32.15 ID:NdJ1sAgo [7/17]
「とりあえず二手に。あと、1時間くらいしたら一度連絡を取るから」
「分かりました。わたくしは主に空から探してみます」
「何かあったら呼ぶのよ。アンタの能力なら私が着くまでの時間稼ぎも出来るでしょうし」
「わたくし一人で解決が可能な内容であれば良いのですけど」
支部から出た美琴と黒子がそれぞれ真逆方向を探し始めてから、30分が経過しようとしている。
黒子は自身の力を揮い空を飛び回っていた。
(いささか酷使し過ぎましたか……)
能力の連続使用の為、息が切れ始めてきている。
一度徒歩に切り替えようと地面に着地した時、携帯電話が着信を告げた。
初春は一人支部に残り、監視カメラの映像を見つめ続けている。
ただ佐天のことが心配だった。状況が状況だけに、巻き込まれていないという確証は一切無い。
「佐天さん……佐天さん……佐天さん……!」
答える相手がいないのに無意識に名前を零してしまう。
そんな思いが通じたか、モニターに佐天の姿が映った。急いで美琴と黒子に連絡を入れる。
そして、自らも支部を飛び出した。
757 名前:佐天「こんなに気持ち良い物だったなんてね」 7/14[saga] 投稿日:2010/07/12(月) 22:16:02.43 ID:NdJ1sAgo [8/17]
佐天は、苛ついていた。
何故だか分からないが、目の前の物を全て疎ましく思っていた。
今までの制裁を加えたスキルアウトは皆、佐天に馴れ馴れしく声を掛け、無理矢理路地裏に連れ込もうとした連中ばかり。
言うなれば痴漢に対して仕方なく撃退スプレーで反撃をするようなもの、と佐天は考えている。
しかし、今は違った。
一目も憚らずいちゃつくカップル。馬鹿みたいに大きな声で下品に笑う女子高生達。ジュースを飲みながら歩く学生まで。
次々と殺意が芽生えてくるのを佐天は必死で堪えた。
いけない、こんなの。早く帰って寝よう。
そう思って駆け出したが、前も見ていなかったため目の前の男子学生に勢いよくぶつかってしまった。
「すみません。お怪我はありませんか?」
謝罪と共に、転んでしまった佐天に手を差し伸べてくる優しい男性。
しかしそんな相手に佐天は、我慢が出来なかった。
「何か、様子が……?」
初春から連絡があった地点に近付くにつれ、周囲が騒がしくなってくる。
何があったのか、一旦辺りの学生達に話を聞いて回る。
「一体何が?」
「の、能力者がいきなり暴れ始めたんだよ……!」
「分かりました。一刻も早く避難を」
また幻想御手使用者だろうか。あるいは例の謎の通報者か。
黒子の持つ空間移動能力は非常に強力なものであり、並の能力者ではとてもではないが相手にならない。
主に無能力者ばかりを相手にしてきた黒子ではあるが、それなりの場数を踏んでいる為、負けはしないだろうと考えていた。
「風紀委員ですの!」
「あれぇ、白井さん……」
その相手がよく知る友人、佐天涙子であることを知るまでは。
758 名前:佐天「こんなに気持ち良い物だったなんてね」 8/14[saga] 投稿日:2010/07/12(月) 22:16:36.78 ID:NdJ1sAgo [9/17]
佐天が幻想御手を使う可能性を考えていないわけではなかったが、いざ現実を目の当たりにすると、思考が中々追いついてくれない。
辺りの惨状。そしてその中心地にいる友人に対し、黒子は動揺してしまっていた。
おそらく佐天の仕業だろうか。一人の少年が空中に浮かんでいる。
少年は酷く怯えた様子で、必死に黒子に助けを求めた。
「佐天さん……その方を放しなさい」
「何でですかー?」
佐天は本当に理由が分からない、といった表情を浮かべる。その態度に黒子は確信を抱いた。
一気に男性の元へ飛び、空間移動によって開放する。
この場を離れるよう指示すると、男性は一気に逃げ出した。
佐天をその様子を目で追ってはいたが、大して興味は無さそうである。
「佐天さん、あなた……幻想御手を使用したのですか」
「そうですよ? いやぁ本当にスカッとします。能力レベルが高いって。御坂さんや白井さんの気持ちが分かりますね」
「何故このようなことを?」
「肩がぶつかっちゃって、ついイラッとしたんですよぉ」
ついイラッと。軽く言われては堪らない。
それで済まされるような状況ではなかった。
759 名前:佐天「こんなに気持ち良い物だったなんてね」 9/14[saga] 投稿日:2010/07/12(月) 22:17:16.93 ID:NdJ1sAgo [10/17]
「……佐天さん……」
「なんですか、その哀れんだ目。白井さんもちょっとイラッときちゃうなぁ……」
「それで結構ですの。佐天涙子、能力乱用に因る暴行、器物破損の現行犯で……貴方を拘束します」
黒子の精一杯の目力を込めた通告も、佐天はまったく意に介さないようであった。
それどころか、黒子の表情から滲み出る動揺を読み取り、更なる余裕さえ見せていた。
「迫力、無いですよ白井さん。ちっとも怖くない」
「……! でしたら、力尽くでいかせて頂きますわよ!」
「いいですよ!? さあやってみせてください!」
黒子は鉄矢を取り出し、一息で距離を詰める。
一気に飛び掛る。身構えた佐天の背後への空間移動。
完全に不意を突いたはず。そのまま体を回転させて空間移動させ、一気に体勢を崩しに掛かった。
このまま地面に組み伏せて自由を奪う。
腕を掴もうとした瞬間、まるで空を蹴ったように佐天の体はその場から飛び出した。
「アハ、危ない危ない。普通の人なら今のでアウトでしたね」
「そういえば忘れていましたわね。貴女の今の能力……」
「空気を操る、って感じです。単純で分かり易いでしょ? 空だって飛べますから」
宙に浮かんだまま佐天は言う。
確かに分かりやすい。が、非常に多彩な用途がある。総合的に見れば強力だ。
見れば周囲には切り裂かれたような跡も残っている。どうも攻撃方法は空気をただぶつける訳ではないのだろう。
黒子は鉄矢を握り締める。こうなったら直接鉄矢を打ち込んで、まず動きを鈍らせた方がいい。
意を決し、鉄矢を空間移動させた。が、その地点には既に佐天はいなかった。
760 名前:佐天「こんなに気持ち良い物だったなんてね」 10/14[saga] 投稿日:2010/07/12(月) 22:18:02.24 ID:NdJ1sAgo [11/17]
「当たらなきゃ、意味無いですよ」
「……よく知っていますのね」
確かに空間移動能力は、正確な座標指定が出来なければならない。
静止した物体に当てるのならまだしも、ここまで不規則な高速移動をされては当てることなど不可能に近い。
「もうネタは切れたんですか? つまんないですね~」
佐天は、あくまでも楽しんでいた。
余裕の表情の佐天。対する黒子は息が切れ、鉄矢もほぼ無意味になってしまっている。
ここに来るまでに能力を使い過ぎたようで、このままでは空間移動自体が不安定になってしまう可能性があった。
「……もういいですよ白井さん。相手にならなさ過ぎてつまんない」
何が起こったかは分からない。
風が吹き付けたか。ほぼ感じ取れないような、そんな小さな違和感を両足に感じた。
小さな違和感はやがて大きな違和感、焼けるような激痛へと変わる。深く、幾重にも切り刻まれた足は大量の血液を流し始める。
やがて自身の体重をも支えきれなくなった黒子は、その場へ倒れこんだ。
「ぐッ……!」
「あは、あははははははははは!!! 弱いっ!!! さぁーって、次はどうしよっかなぁ?」
高らかに笑う佐天は、悶え苦しむ黒子を見下ろして頭を踏みにじる。元の彼女はもうそこに居なかった。
そして、別の方向を見て言った。
「……二人は仲が良いんですね。私もそんな風に分かり合える友達が欲しかったなぁ」
「黒子っ……!」
御坂美琴がこの空間に足を踏み入れた。
761 名前:佐天「こんなに気持ち良い物だったなんてね」 11/14[saga] 投稿日:2010/07/12(月) 22:18:50.52 ID:NdJ1sAgo [12/17]
「もうやめて、佐天さん……!」
「正当防衛ですよ。仕方ないじゃないですか」
黒子の頭部から足を離し、代わりに腹部を蹴りつける。黒子はそのまま動かなくなった。
一気に頭に血が上る。
今目の前にいる人物は、もう友人の佐天涙子ではない。
自分の周りにある平和を壊す、ただの害だ。
手加減無しで電撃を飛ばす。生身の人間がまともに受ければ助からないレベル。
そんな電撃にたじろぐことなく、佐天は宙を舞い身を躱す。
「そんな単調なものばかりじゃないですよね? レベル5でしょ?」
「……ッ!」
「そうだ。これから攻撃を避ける度に、白井さんに一回ずつ攻撃をしましょう」
まるで幼児だった。
閃いた、と言う佐天の表情の明るさはまさにそれ。
黒子の体が宙に浮かび、地面に叩き付けられる。
そんな行為を楽しんでいた。
「やめなさい……!」
美琴はポケットからコインを取り出す。
「ヒハ、出ました超電磁砲。さぁどうぞ?」
掛け値無しの、自身が出せる最大出力。
御坂美琴の通り名にもなっている超電磁砲を、佐天目掛けて撃つ。
しかし、佐天に届くことなく、超電磁砲は消失した。
762 名前:佐天「こんなに気持ち良い物だったなんてね」 12/14[saga] 投稿日:2010/07/12(月) 22:19:30.97 ID:NdJ1sAgo [13/17]
自信はあった。学園都市の序列第三位としての自覚はあったし、それに驕ることなく、努力も絶やさなかった。
伊達にレベル5として生きていない。なのに。自らの、最高の技があっさりと止められた。
「初めて超電磁砲を見たとき、ビームでも発射してるように思いました。でもこれ、要はコインを速く飛ばしているだけだったんですよね」
風が吹き荒れる。その風は黒子を吹き飛ばし、壁に叩き付けた。
「飛んでくる物質なんて、風をぶつければ止まります。さすがにちょっと距離は取らせてもらいましたけど」
佐天の表情が変わる。それは、美琴に対して完全に興味を無くしたようだった。
一気に懐へ飛び込み、右足を振り抜く。
そのつま先が美琴の体に触れようかというところで、一気に身体が逆回転した。
勢いをそのままに、踵が後ろ首を撃ち抜く。
「がはッ……!」
「あたた……やっぱり無理に体を動かすものじゃないなぁ」
突風を手足の先から噴射することにより、高い攻撃力を持たせたり、寸止めフェイント。空中でも自在に打撃を与えることが出来る。
レベル5とはいえ、美琴はあくまでただの女子中学生。
格闘戦術など学んでいるわけがなく、この攻撃には完全に反応が出来なかった。
「周りに適当に電撃を出せば、防げたはずデスケド? 今更何を躊躇してるんですか?」
(呼んでもない時に来るくせに、こういう時は来てくれないんだ……助けて、欲しかったなぁ)
意識が途切れる瞬間、美琴は一人の少年のことを思い出す。
不良に囲まれる自分を助けにくる馬鹿。いつの間にか逢う度に追いかけっこ。
そんな無能力者の少年のことを。
「なに人様の撃墜数をキリの悪ィ19999で止めようとしてやがるンですかねェ?」
763 名前:佐天「こんなに気持ち良い物だったなんてね」 13/14[saga] 投稿日:2010/07/12(月) 22:20:14.50 ID:NdJ1sAgo [14/17]
美琴は目を覚ます。
自分の物じゃないベッドに、あまり好まない独特の匂い。
体は上手く動いてくれないが、頭ははっきりしている。ここが病院であることはすぐに理解出来た。
「御坂さん……よかった……」
「初春さん……私、何で……?」
美琴は初春から事情の説明を受ける。
警備員が駆け付けた所、倒れている美琴と黒子しか居なかったこと。
周辺住民の話によれば、暴走する能力者と戦闘をした人物がいたこと。
「ちょっと部屋は離れてますけど、白井さんも無事です。足に大怪我を負っていて治るには時間がかかるそうですけど」
「ねぇ、初春さん……」
「あ、リンゴ食べます? 剥きますよ」
話を逸らす初春。
美琴は、既に予想が出来ていた。
初春の様子を見て、答えづらいのは分かっていたが……
「佐天さんはどうしたの……?」
動きが止まる。
しかし、目は逸らせない。
「私と黒子、佐天さんと戦ったわ。能力をしっかり使っていた……」
「……ええ。幻想御手です」
764 名前:佐天「こんなに気持ち良い物だったなんてね」 14/14[saga] 投稿日:2010/07/12(月) 22:21:04.56 ID:NdJ1sAgo [15/17]
初春は美琴に背を向けたまま、続ける。
「御坂さんと白井さんが運ばれた後、路地裏で倒れているところを発見されました」
「その症状から、幻想御手と見て間違いないらしいと……」
「私、佐天さんのこと、何も分かってあげられませんでした……」
嗚咽が混じりだす。
とりあえず一命は取り留めたらしい。
しかし、使用したのはあの幻想御手である。最後に、一つだけ気に掛かることが美琴にはあった。
「佐天さんと、今話せる……?」
「別の部屋ですけど、入院しています。ただ、お話するのはちょっと難しいかもしれません」
「……なんで?」
その問いに初春は答えなかった。が、案内はしてくれると言う。
美琴は思うように動かせない体を初春に支えてもらい、佐天のいる病室まで辿り着く。
そして、ドアノブに手を掛け、室内に入った。
ベッドに潜って上半身を起こしている少女。その穏やかな表情は、確かに佐天涙子だった。
佐天がゆっくりと微笑み、口を開く。
「……こんにちは……えっと、どちら様ですか?」
幻想御手は、少女達の体に傷を、心に傷を与えた。
佐天はつい先日まであった自分を、確かに無くしていた。
765 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/07/12(月) 22:21:46.22 ID:NdJ1sAgo [16/17]
以上、終わりです
最初の注意書きの通り原作を読んでいないため、どこかおかしなところがあるかもしれません
地の文もバトル展開も初挑戦なので日本語すら怪しい
これから頑張っていきたいのでアドバイス等あれば書いて頂ければ幸いです
佐天さん壊してごめんなさい、美琴と黒子あっさりやられさせてごめんなさい
Tag : とあるSS総合スレ
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コメント
御坂が上条頼りだすのって一方通行戦後だったり御坂さん意外とスタンガンレベルの電撃なら黒子だろうが初対面の小学生だろうが容赦無くかます性格だったりするんだが電撃かまさないのは原作読んで無い弊害だろうな
No title
佐天さんが能力を得て黒化したり傲慢になるSSは良い!
実際人間力を得てしまったら多かれ少なかれそうなるもんだろうし、佐天さんの抑圧されていた思いが歪んだ形で解放されていくのには何かゾクゾクする
実際人間力を得てしまったら多かれ少なかれそうなるもんだろうし、佐天さんの抑圧されていた思いが歪んだ形で解放されていくのには何かゾクゾクする
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