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ぐり「ぐら? ぐらはどこにいるんだ?」

1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/03(土) 14:37:46.87 ID:fQ1Cecli0 [1/74]
ぐらがいない。

ふと気付いたらぐらがいなかった。
まだ寝ているのかな。 でもベッドにもいない。
もしかしてトイレ? だけど誰も入っていない。
いやかくんぼ? どこを探しても見つからない。

思い当たる場所を探しても、ぐらは見つからなかった。

3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/03(土) 14:39:26.55 ID:fQ1Cecli0 [2/74]
ぐらのお気に入りの赤い帽子はまだ家の中にある。
外に行くときはいつも被っている帽子だ。

ぐり「おかしいな。外に遊びに行ったのかな」

帽子だけが家に残されていることを疑問に思いつつも、ぐらを探しに出掛けることにした。

7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/03(土) 14:41:04.60 ID:fQ1Cecli0
いつも一緒に行動しているから、ぐらが行きそうな場所は全部知っている。

高い高い草むらや、大きな木の洞の中。
さらさら流れる小さな川や、野いちごが沢山採れる山。

でもどこを探しても、ぐらはいなかった。
いったいどこへ行っちゃったんだろうか。

9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/03(土) 14:42:22.81 ID:fQ1Cecli0
探し続けて日が傾き始めたころ、きつねさんに会った。

きつね「…やぁ、ぐり。どうしたんだい? 顔色が優れないみたいだけど」

きつねさんは僕を心配してくれたのだろうか、僕に声を掛けてくれた。
なんて優しいんだろうか。

ぐり「ぐらがいなくなって探しているんだ」
きつね「…そうなんだ。…森のみんなにも話しておくよ。
     でも今日はもう遅いから家に帰った方がいいんじゃないかな?」

11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/03(土) 14:43:42.43 ID:fQ1Cecli0
きつねさんの言うことは尤もだった。
日が落ちると真っ暗で家に帰るのも一苦労になる。
だけどぐらが見つからないのが僕にとっては一番怖いんだ。
そういったことを僕はきつねさんに伝えた。

きつね「でも君までいなくなっちゃったら、僕たちも不安になるよ」

きつねさんのこの言葉にハッとした。
確かにそうだ。僕の身のために言ってくれているんだ。
そう思って、僕は自分の言動を少し恥じた。

13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/03(土) 14:44:48.65 ID:fQ1Cecli0
きつね「夜の捜索はふくろうさんにちょっとお願いしておくよ」
ぐり「ありがとう。迷惑かけてごめんね」
きつね「…いや、どうってことないさ。だから今日は家に帰ってゆっくりお休み」

僕はきつねさんに挨拶をして、家路を急いだ。
日はもう半ば沈みかけており、長い影が僕の足に付いてきていた。

15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/03(土) 14:46:20.13 ID:fQ1Cecli0
その日はなかなか眠れなかった。
いつも一緒にいるぐらがいないだけでこうも心細いとは思わなかった。

これまでの思い出が頭の中で再生され、懐かしく思うと同時に悲しくなった。
ぐらは見つかるだろうか。それを思うとなかなか寝付けなかった。

また明日も朝から探そう。ぐらを見つけなくちゃ…

16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/03(土) 14:47:30.43 ID:fQ1Cecli0
朝になった。
ぐらのベッドは空っぽで誰もいない。

今日も家の中を一通り探してみる。
歯ブラシもそのままだし、タオルだってそのままだ。
ぐらがいなくなってから誰も使った形跡がない。

ぐり「やっぱり家には帰ってきてないみたいだ…」

17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/03(土) 14:48:11.03 ID:fQ1Cecli0
僕は今日も、ぐらを探しに出掛けた。
昨日探した場所に加えて、さらに遠い場所も探すことにした。

少し遠い山にやってきた。
いつかピクニックに来た場所だ。景色が良かったのを覚えている。

ぐらとの思い出を振り返りながら、野道を歩いていく。
ほどよい日光とさわやかな風が心地よい。
それでも気分は上がらなかった。

18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/03(土) 14:48:48.73 ID:fQ1Cecli0
野道の向こうからくまさんがやってくるのが見えた。
くまさんは僕に気付くいて、ちょっと驚いたようだった。

くま「あ…ぐりくん」

ぐり「こんにちは。」

くま「久しぶりだね。今日はこっちに何か用かい?」

ぐり「えぇ、ぐらがいなくなったので探しに来たんです」

くま「…そうかい。見つかるといいね。
   ぼくも探すのを手伝うよ。あっちの方を見てくるね」

ぐり「ありがとうございます!」

くまさんも探すことを手伝ってくれるらしい。
きつねさんといいくまさんといい、僕たちは良い友人に恵まれてるなぁ。

19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/03(土) 14:49:28.70 ID:fQ1Cecli0
くま「見つかったら教えるね」

くまさんは駆けるように森の中へと入っていき、次第に姿が見えなくなった。

ぐり「僕も探さないと」

僕は野道を歩きぐらがいないか念入りに探した。
しかし、ぐらは見つからずただただ時間がすぎるばかりだった。

21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/03(土) 14:50:08.55 ID:fQ1Cecli0
ぐり「あぁ…見つからないなぁ…」

探し続けて時間が経ち、棒のようになった足が悲鳴を上げていた。
崩れるように近くの石に腰掛けると、ため息が漏れた。

ぐり「いったい、ぐらはどこで何をしているんだろう…」

僕はぐらが今どうしているのかを考えてみた。

23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/03(土) 14:50:50.02 ID:fQ1Cecli0
ぐらがいなくなる前、ぐらはどうだっただろうか。

思い返してみても特に不自然なところは見当たらない。
いつものように二人で楽しく過ごしていたはずだ。

僕がぐらのことで知らないのは僕が寝ている時ぐらいだろう。
ぐらに何があったんだろうか。

25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/03(土) 14:51:29.77 ID:fQ1Cecli0
思い返してみても、思い返してみても答えには至らなかった。
思い当たる節がこれ一つといってないのだ。

ぐり「はぁ…」

また、ため息が一つ漏れた。
焦燥感にかられ、どうにも落ち着かない。

すると、後ろから声を掛けられた。

26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/03(土) 14:52:09.44 ID:fQ1Cecli0
声の主は、りすさんだった。

りす「こんにちは」

ぐり「やぁ、こんにちは」

りす「…声に元気がないけど、調子はどう…?」

ぐら「ぐらが…」

僕はそれ以上言葉が続かず、またため息をついてしまった。
ぐらがいない事からりすさんは察してくれたようだった。

27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/03(土) 14:52:48.40 ID:fQ1Cecli0
りす「…そう。大変ね…」

ぐり「でも、きっとなんとかなるさ」

りす「…強いのね。応援してるわ」

ぐり「ありがとう」

僕はその後りすさんと当たり障りのない言葉を交わした後別れた。
りすさんの言葉でまた探す気力が沸いてきた。
足に力を入れ、また野道を歩き始めた。

28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/03(土) 14:53:28.80 ID:fQ1Cecli0
しかし、野道を歩き続けても何も見つからなかった。
結局その日も何も収穫はなかった。

ぐり「ぐら、帰ってきてくれよ…」

僕は肩を落とし、とぼとぼと家に帰った。
一緒に入る兄弟も、迎えてくれる兄弟もいなかった。

僕はそのまま倒れ込むようにベッドに落ち込んだ。

30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/03(土) 14:54:09.17 ID:fQ1Cecli0
さらにその次の日。

いつものように家の中を探してみた。
しかし、何一つ変わったところはなく、もう家を探すことは無駄であるということが分かった。

ぐり「今日こそ見つかってくれよ…」

力なく、家のドアを開け、僕はまた探しに出掛けた。

31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/03(土) 14:54:50.28 ID:fQ1Cecli0
今日もよく二人行く場所を探してみる。
でもやっぱり見つからなかった。

ぐらを探しているときに僕はふと、視線を感じた。
その元を見てみるとうさぎさんが遠巻きに僕を見ていた。

僕の視線に気がつくと、うさぎさんは姿を隠してしまった。

32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/03(土) 14:55:28.92 ID:fQ1Cecli0
ぐり「うさぎさん。どうしたんだい」

僕はうさぎさんがいた方に声を掛けた。
しかし返事はなくうさぎさんはその場を離れていく。

ぐり「ねぇ。どうしたんだよ!」

僕は声を張り上げてうさぎさんを追った。
流石にうさぎさんは足が速い。
でも僕だって追いかけっこにはそれなりの自信はあるんだ。

33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/03(土) 14:56:08.95 ID:fQ1Cecli0
僕とうさぎさんの距離は離れつつも、うさぎさんの家まで見失うことなくたどり着くことが出来た。
うさぎさんは家に飛び込むとドアを閉めてしまった。

ぐり「うさぎさん。どうしたの?」

僕はドアをノックし、問いかけた。
中から返事はない。

ぐり「ねぇ! どうしたんだよ!」

声を張り上げてドアを叩いた。

34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/03(土) 14:56:50.88 ID:fQ1Cecli0
中から声がした

うさぎ「なんでもない! なんでもない!! 帰ってよ!」

うさぎさんはそればかりを言い、僕を遠ざけようとした。
いったい僕がうさぎさんに何をしたって言うんだ。

ぐり「じゃあどうして逃げるの?教えてよ!」

うさぎ「それは…」

うさぎさんは返答に困ったようだった。

36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/03(土) 14:57:30.95 ID:fQ1Cecli0
ぐり「やっぱり何か僕に隠していることがあるんだろう!」

うさぎ「別に何も隠してない!」

ぐり「嘘だ! だったらそんなに逃げたり、遠ざけようとしたりするもんか!」

うさぎ「本当だって! 信じてよ!」

うさぎさんはあくまでもしらを切るつもりらしい。
それならこっちだってそれなりの態度で臨むつもりだ。

ぐり「何が本当なんだよ!」

どんっ

僕はドアを蹴り飛ばした。
ドアは大きな音を立てたがドアは開かなかった。

37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/03(土) 14:58:14.14 ID:fQ1Cecli0
うさぎ「うわぁ!」

うさぎさんの驚く声がする。

ぐり「開けないつもりなら無理矢理開けさせてもらうよ!」

どんっ どんっ

僕はドアを蹴りつづける。
大きな音が辺りに響き渡ったがそんなことは気にしてられなかった。
僕にはうさぎさんがぐらについて何か隠し事をしているという確信があったからだ。
みすみすこの機会を逃してはならないと思ったのだ

どんっ どんっ

うさぎ「やめてよ! ドアが壊れちゃうよ!」

ぐり「だったらちゃんと話してよ!」

どんっ どんっ

うさぎ「何を話せばいいの!?」

ぐり「ぐらのことだよ!」

38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/03(土) 14:58:53.26 ID:fQ1Cecli0
うさぎ「えっ…」

うさぎさんから返ってきたのはその一言だった。
当惑の声だ。やはり何か知っているに違いない。

ぐり「何か知っているんだな! 早く話すんだ!」

うさぎ「…ぐらの何を話せばいいの?」

ぐり「とぼけるな! きつねさんから話は聞いているだろう!?
   ぐらがいなくなったんだ!」

僕は声を張り上げて怒鳴りつけた
しかしそれに対するうさぎさんの返答は予想外のものだった。

うさぎ「ぐらはもう死んじゃったじゃない!」

39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/03(土) 14:59:28.65 ID:fQ1Cecli0
ぐり「…えっ」

僕は驚いた。
ぐらが死んだだって?

そんなはずがない。

だってこれまで毎日一緒に暮らしてたし、これからもそのつもりだ。
一緒に草原や川にも行っていたし、山や海にも行っていた。

僕とぐらとうさぎさんとで、一緒に野いちごをとりにいったりもしたじゃないか。
覚えてないのか、それとも僕を騙しているのか。

だっておかしいだろう。
ぐらが死ぬはずないじゃないか。
僕の兄弟なんだもの。双子なんだもの。

この前まで一緒に生活していたもの。
絶対に死ぬはずが…

…“この前まで”?
…いやそんなはずがない。僕とぐらはずっと一緒なんだ。

ぐらが死んだ。そんなはずはない。
ぐらが死んだ。そんなはずはない。
ぐらが死んだ。そんなはずはない。

40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/03(土) 15:00:09.19 ID:fQ1Cecli0
ぐり「冗談にしては度が過ぎるぞ!」

うさぎ「冗談なんかじゃない! 森のみんなでぐらを一緒に埋めたじゃない!」

ぐり「巫山戯るな! いくら友達でも言っていいことを悪いことがあるぞ!」

うさぎ「何言ってるの! 私には何を言ってるのか分からないよ!」

ぐり「こっちだって分からない! いったいいつぐらが死んだって言うんだ!」

うさぎさんはどうしてもぐらを死んだことにしたいらしい。
どうやら一筋縄ではいかないようだ。

うさぎ「この前海に行ってあなたを助けようとして溺れ死んだんじゃない!」

ぐり「そんなはずはない! 僕はぐらと一緒に帰ってきたはずだ!」

うさぎ「違う! あなたは泣きながらぐらを背負って来たじゃない!
    そんなことも忘れてしまったの!?」

41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/03(土) 15:00:48.87 ID:fQ1Cecli0
確かに僕は、ぐらと一緒に海に行った。
あの日はとても良い天気だった。
どれくらい遠くまで泳げるかを競ったり、どれくらい深く泳げるかを競ったりしたっけなあ。
それで僕が溺れかけて、ぐらが助けてくれたんだっけ。

…あれ、その後どうしたんだっけ。思い出せないぞ。
いや、確かその後ぐらと一緒に家に帰ったんだ。
そうに違いない。
だってぐらが死ぬはずないじゃないか。

ぐり「ぐらが死ぬはずない! 絶対にそんなことはない!」

うさぎ「そうじゃない! 思い出してよ!」

ぐり「いい加減にしろ!」

僕は力を込めてドアを蹴った。
思った以上に大きな音がして、空気が鈍く振動した。

42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/03(土) 15:01:30.54 ID:fQ1Cecli0
後ろから声がした。
きつねさんだった。

きつね「…ぐりくん」

ぐり「あ、きつねさん。うさぎさんが僕に酷い嘘をつくんです」

きつね「…あぁ、途中からだけど話は聞いていたよ。
    きっとうさぎさんは疲れているんだ。そっとしてあげようよ」

ぐり「でも…」

きつね「…うさぎさんは昨日も一生懸命に一日中ぐらくんを探していたって聞いてるよ。
    だから疲れてあんな意地悪なことを言ったんだろうね」

ぐり「…そうだったんですか。悪いことしたな…」

きつね「いや、今はぐりくんが一番辛いんだろうからしょうがないよ。
    だから今日はもうお帰り。連日ぐらくんを探して疲れてるんだろう?」

ぐり「でも……」

きつね「いいからいいから。ぐらくんは僕たちで探すよ。
    だって僕たちは仲間じゃないか」

ぐり「ありがとうございます…」

43 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/03(土) 15:02:13.21 ID:fQ1Cecli0
きつねさんは本当に優しい。
多分僕のことを今一番分かってくれているだろう。
僕はきつねさんにお礼を言って帰路に着いた。

家に着くとそこには、くまさんがいた。
どうやら僕を待っていたようだ。

くま「…やぁ、ぐりくん」

ぐり「こんばんは、くまさん」

くま「…ねぇ、いい加減にやめにしないか?」

くまさんは宥めるように話しかけてきた。

44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/03(土) 15:02:49.38 ID:fQ1Cecli0
くま「君が辛いのは皆よく分かっているよ。
   僕だって、ぐらくんがいなくなったのは辛い。
   でもいい加減に認めないと前には進めないよ…」

ぐり「? 何を認めるんですか?」

僕はくまさんが言おうとしていることが分からなかった。
分かったのは何か説き伏せようとしているということだけだった。

くま「…ぐらくんは死んだんだ。
   もうやめなよ…ありもしない幻想にしがみつくのは…」

46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/03(土) 15:03:28.56 ID:fQ1Cecli0
僕は苛ついた。
うさぎさんに続いて、くまさんまで僕を虐げようとする。

ぐり「くまさん。昨日ぐらを探すのを手伝ってくれたじゃないですか?
   何を言っているんですか?」

くま「…君が怖かったから嘘をついてしまったんだよ。それは謝るよ…
   言いたくはないけど今の君の顔はまともに見ることができないぐらいだ…」

ぐり「この顔は最近眠れないからです。
   くまさんも酷いですね。僕を酷い嘘で騙そうだなんて正気ですか?」

くま「正気じゃないのは君だよ…いい加減に目を覚まして欲しい」

ぐり「もう結構です。お引き取り下さい。」

くま「…そうか。もう来ないよ。邪魔して悪かったね」

ぐり「二度と来ないでください」

くまさんはとぼとぼと帰って行った。
その後ろ姿は寂しそうであったが、僕は特になんとも思わなかった。

47 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/03(土) 15:04:08.64 ID:fQ1Cecli0
帰ってからうさぎさんとくまさんについて思い返してみた。
ぐらが死んだという嘘を二人ともが言うなんてどう考えてもおかしい。
あの二人は共謀しているのではないかという疑念がふと浮かんだ。

ぐり「まさかあの二人がぐらを…」

そう思うと考えは止まらなかった。
きつねさんはああ言っていたけど、僕にはうさぎさんが信用できないように思われた。
くまさんにしてもそうだ。一度あんなことを言うということは何か隠したいことがあるに違いない。
ここまで来ると疑念は確信へと変わった。

ぐり「あの二人に違いない」

僕はその日の内に実行に移すことにした。

48 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/03(土) 15:04:49.04 ID:fQ1Cecli0
僕はキッチンに向かった。
僕の分の食器や食具、ぐらの分の食器や食具がある。

ぐり「悪いけどちょっと借りるね」

僕は自分とぐらの分の包丁を取り出した。
武器は多い方が良い。
僕は慎重に包丁をバッグに詰めて出掛けることにした。
日が落ちかけていたけれど、ぐらのためにそれでも行かなければならないのだ。

49 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/03(土) 15:05:28.53 ID:fQ1Cecli0
まずは遠い方のくまさんの所だ。
ぐらを隠すという目的があるなら遠い方が適している。
くまさんの所にいる可能性が高いだろう。

ぐり「ぐら、待ってろよ」

僕は熊さんの家に到着した。
ノックをして、くまさんが出てくるのを待った。

くま「…ぐりくんか」

ぐり「少しお話があるのですが…」

くま「…いいよ。入りなよ」

驚くことにくまさんはあっけなく僕を中に入れた。
どうやらくまさんはぐらを隠していないように思われた。

50 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/03(土) 15:06:08.71 ID:fQ1Cecli0
僕と熊さんはテーブルごしに対面した。
テーブルにはくまさんが入れてくれた紅茶がある。

くま「…話はなんだい?」

しばらく沈黙が続いたあと、くまさんは重い口を開いた。

ぐり「ぐらを探しに来たんです」

僕がそう言うとくまさんは呆れたように額に手を当てた。
そして少し間を置いてからこう話した。

くま「ぐらはここにはいない。それだけは確かだ。
   何なら好きな場所を好きなだけ調べればいいさ」

ぐり「分かりました」

そう言うが否や僕はくまさんの家中を調べ出した。
熊さんは僕を制止しようともせず、ただ僕を目で追っていた。

52 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/03(土) 15:06:49.44 ID:fQ1Cecli0
壺の中もタンスの中も、ぐらが入りそうな場所は全て調べたけれども、見つからなかった。
今思えば当然のことだ。くまさんの家にはぐらはいなかったのだ。

ぐり「いない…」

くま「…もう、いいかい?」

ぐり「…ご迷惑をおかけしました」

くま「…いや、いいんだ。…見つかると良いね」

くまさんは悲しそうに僕を見つけた。
今思うとそれは憐れみの表情だったのだろうか。

ぐり「…ありがとうございます。もう帰ります…すいません…」

僕はくまさんの家を出た。
結論は出た。ぐらはうさぎさんの家にいる。

53 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/03(土) 15:07:32.87 ID:fQ1Cecli0
しばらく歩き、うさぎさんの家に到着した。
あたりはすっかり真っ暗になっている。

僕はうさぎさんの家のドアをノックした。
しばらくしてうさぎさんがドア越しに話しかけてきた。

うさぎ「…誰ですか?」

ぐり「ぐりです。ぐらを探しに来ました」

うさぎ「帰ってください! もうあなたとは会いたくないです!」

うさぎさんはあからさまに僕を拒絶した。
間違いない。この中にぐらはいる。

ぐり「ぐら! 助けに来たよ! もう少しの辛抱だ!」

僕はドアから距離を取った。
そして勢いよくドアに体当たりをした。

重く低い音が響く。
ドアは歪み始めている。

うさぎ「うわあああ!!」

中からうさぎさんの驚く声が聞こえた。
どうやら恐れをなしているらしい。
僕はもう一度距離を取り、ドアに向かって体当たりをした。

54 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/03(土) 15:08:13.95 ID:fQ1Cecli0
ドアは破られた。
見るとうさぎさんは腰を抜かして座り込んでいる。

ぐり「動くなよ」

僕は包丁を取り出しうさぎさんに見せつけた。
それを見るとうさぎさんは無言で何回も何回も頷いた。

僕は万が一に備え、うさぎさんを柱に結びつけ、逃げないようにした。
これでぐらを安心して探せると言うものだ。

55 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/03(土) 15:08:57.08 ID:fQ1Cecli0
僕はぐらを探し始めた。
しかし探せど探せど、ぐらは見つからない。
次第に苛つきが募ってくる。

ぐり「おい」

僕はうさぎさんに声を掛けた。
うさぎさんは身体を震わせた。

ぐり「ぐらをどこに隠したんだ?」

僕は包丁をちらつかせながらうさぎさんに問いかける。
うさぎさんは僕を恐れているのかなかなか答えられないようだ。

56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/03(土) 15:09:28.88 ID:fQ1Cecli0
僕は早く答えないうさぎさんに苛ついた。
そこで僕はカウントダウンを始めることにした。

「10」

「9」

「8」

うさぎさんは唐突のことに訳が分からないようだったので、僕の意図を教えてあげることにした。
勿論この意図というのははったりのつもりだった。

「7、早く答えないと包丁を刺すぞ」

57 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/03(土) 15:10:08.30 ID:fQ1Cecli0
うさぎさんはびくりとし、さらにガタガタと震え始めた。
ぐらを隠された辛さよりはまだましだろう。

「6」

「5」

「4」

「3」

うさぎ「ぐりくんの家の裏に埋まっているよ!」

58 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/03(土) 15:10:48.22 ID:fQ1Cecli0
予想だにしない返答に僕は言葉に詰まった。

埋めただと。

うさぎさんがぐらを殺したということはこの時点で明らかとなった。
うさぎさんは泣いているが、それは罪への懺悔ではなさそうだった。

ぐり「よくもぐらを殺したな…」

うさぎ「違う! 私はぐらを殺していない!」

ぐり「じゃあ誰がぐらを埋めたんだ!」

うさぎ「森のみんなで埋めたんじゃない! 覚えてないの!?」

ぐり「黙れ!」

僕は包丁をうさぎさんの目の前に突きつけた。

59 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/03(土) 15:11:31.03 ID:fQ1Cecli0
…突きつけたつもりだった。
包丁はうさぎさんの頬をかすり、深い切り傷をつくりだしていた。
途端にうさぎさんは大きな声で泣き叫んだ。

まずい。
ドアを壊した時に大きな音を立てた上、ドアがないために音は外にだだ漏れである。
それに加えこの大きな泣き叫ぶ声。
このままでは僕まで人殺しに扱いをされてしまう。

ぐり「黙れ! 黙らないと刺すぞ!」

61 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/03(土) 15:12:08.39 ID:fQ1Cecli0
思ってもいなかった言葉が口から飛び出してしまった。
恐らく後で弁明をしても、殺意があったと捉え兼ねられない。
くそっ。どうしてこんなことに。

うさぎさんは泣き叫び続ける。
流石に刺すわけにもいかないので僕はうさぎさんの口を塞ぐことにした。

63 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/03(土) 15:12:51.45 ID:fQ1Cecli0
僕はうさぎさんの口を手で押さえつけた。
手足の自由を奪ったうさぎさんでも、首は動かせるために抵抗された。
それに対して僕の力も自然と強まり、うさぎさんの口を塞ぎ続けた。

気がついた時、うさぎさんは息をしていなかった。
まだ身体は温かかったがうさぎさんがぐったりしていることは明らかであった。

ぐり「しまった…」

僕はうさぎさんを殺してしまったのだ。

65 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/03(土) 15:13:28.36 ID:fQ1Cecli0
僕は慌ててうさぎさんの家を飛び出した。
見つかったらどうなるか分からない。
ぐらを皆で殺すような奴らだ。きっと僕も殺される。
僕はとにかく全力で走り、自分の家へと向かった。

ぐり「はあ…はあ…」

僕は家に着くなりシャベルを持ち出し、家の裏へと回った。
ぐらを確認するためだ。
もしかしたらぐらは本当は生きているかもしれない。
そういった希望の元、事実を確かめようとしたのだ。

66 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/03(土) 15:14:09.91 ID:fQ1Cecli0
それらしきものはすぐに見つかった。
綺麗な花がいくつも供えられた、小さなお墓があった。
僕はそれに目もくれず、墓石や花をどかして掘りはじめた。

聞こえる音は僕の荒い息と墓を掘るシャベルの音だけだった。
しばらく掘っていると何か堅い物にシャベルが当たった。
さらに掘るとそこには一つの棺桶があった。

68 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/03(土) 15:14:48.44 ID:fQ1Cecli0
ぐり「…」

僕は棺桶があることを信じられなかった。
しかしこうして棺桶がある以上、この中を確認しないわけにはいかなかった。

僕は棺桶に手を伸ばし、その蓋に触れる。
そしてゆっくりと蓋を開こうとした。
棺桶に隙間が生じた瞬間、凄まじい腐敗臭が鼻を突き僕は棺桶の蓋から手を放した。
棺桶の蓋は再び閉まった。

69 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/03(土) 15:15:28.69 ID:fQ1Cecli0
ぐり「うっ…」

死の臭いを嗅ぎ、僕は嘔吐しそうになった。
ふと、あのうさぎさんがこの後どうなっていくかを考えぞっとした。

ぐり「くそっ…」

涙目になりながらも再び蓋を開けようと思った。
今度は一気に開けてすぐに閉じることを頭に置き、意を決して蓋を開けた。

先ほどよりも凄まじい異臭がしたものの中身は確認できた。
そして落とすように蓋をまた閉じた。

70 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/03(土) 15:16:09.08 ID:fQ1Cecli0
それはぐらであった。
ぐらであったものであった。

ぐり「あああああああああああああ!!」

これまでの僕の中からいつもの僕の中へと、記憶が嵐のような勢いで雪崩れ込んで来た。
記憶の波は僕の中を掻き乱し、暴れ回った。

完全に思い出した。
ぐらは僕を助けるために死んでいたのだ。

72 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/03(土) 15:16:48.59 ID:fQ1Cecli0
僕は訳の分からない大声を夜空に向かって放っていた。

やっと気がついた。
くまさんもうさぎさんも本当のことを言っていたのだ。

涙が止めどなく流れ出てくる。

僕はぐらが死んでしまったことを信じられなくて、いないぐらを探し回っていたのだ。
こんなに近くに、こんなに近くにぐらはいたのに気がつかずに! 気がつこうともせずに!

脚を折り、その場に崩れ座る。

思えばおかしな話だ! ぐらを探そうとするなら家の周りも探すはずだ!
なのに僕は事実から逃げようと遠出をして探していた!

73 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/03(土) 15:17:29.00 ID:fQ1Cecli0
挙げ句の果てに皆に言いがかりをつけた!
そうやって自分を騙そうとしていた!

自分の行動を思い返す度に後悔という感情が僕を襲ってくる。

皆本当のことを言ってくれていたのに!
誰も信じてなかった!

そして、うさぎさんを…

ぐり「うわああああああああああああああああああ!!!」

うさぎさんを殺した時の感触が手に思い出された。
わななく両手を見つめ僕は慟哭した。

75 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/03(土) 15:18:10.99 ID:fQ1Cecli0
後悔と申し訳なさで僕は押しつぶされそうだった。
今までの自分が自分じゃないと言い訳できない。
自分で自分を押し込めていたんだ。言い訳になるわけがない。

都合の悪いことから目を背け、都合の良いことだけを盲信して、
仲間を疑い、自分だけを信じて。

全て自分の奥底にある心が突き動かしたんだ。

今更皆に謝っても許されるはずがないだろう。
ぐらが殺されたと思っていた時の自分の感情を考えるとそうとしか思えなかった。

大切な人が殺された時の感情は抑えがたいものだとよく分かっている。
もうどうすることもできない。

76 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/03(土) 15:18:50.89 ID:fQ1Cecli0
ぐり「ああああああ…」

僕は力なくその場に座り込んだ。
不規則に乱れた自分の呼吸しか聞こえない中で僕を呼びかける声がした。

きつね「ぐりくん!」

振り返るとそこには息を荒くしたきつねさんがいた。
どうやらここまで走ってきたようであった。

ぐり「きつねさん…」

僕が答えるときつねさんは少し安心した表情になってこう続けた。

きつね「ぐりくん…大丈夫かい…」

驚いたことにきつねくんは僕の身を案じてくれていた。
まさか。うさぎさんを殺した僕に対してなんでそんなことを…

78 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/03(土) 15:19:32.50 ID:fQ1Cecli0
ぐり「…はい」

きつね「…思い出したんだね」

きつねさんは俯いて呟くように口を開いた。
安心したような、悲しそうなそんな表情だった。

ぐり「全部…思い出しました。本当に申し訳ありませんでした…」

ぐりはゆっくりと立ち上がり、頭を下げた。

ぐり「…僕がしたことは許されることではありません。
   僕が犯した罪は償いきれませんが、何でも受け入れるつもりでいます。
   あなたは僕を捕らえに来たんですよね」

もう覚悟は出来ている。
命を奪うということがどんなに重いことかはよく分かっている。
それ相応の罰を受けなくてはならない。

79 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/03(土) 15:20:08.74 ID:fQ1Cecli0
きつね「大丈夫…君をどうにかしようというわけじゃないんだ。
    それに意識は失ってはいるけど、うさぎさんは死んでないよ」

うさぎさんは生きていたのだ。
後から分かったことだが恐怖で意識を失ってしまったらしい。
それを僕が死んだと勘違いしたというのだ。

きつね「叫び声がしてすぐに発見できたからね。命に別状はないよ」

ぐり「そう…ですか…」

少し沈黙の間ができる。

ぐり「ところでどうして僕だと?
   やっぱりこの前うさぎさんに押しかけたからですか?」

80 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/03(土) 15:20:48.70 ID:fQ1Cecli0
きつね「…いや、最初は君じゃないと信じたかったけどね。
    柄が青い包丁が落ちてたから…
    確か皆でカレーを作るときにぐりくんが使っていたよね」

きつねさんは苦笑いした。

きつね「でもそれで分かったのさ。
    どれだけ君が追いつめられているかをね。
    だからここまできた」

ぐり「…」

ぐりは顔を俯いた。
きつねさんは僕を信じてくれていたのだ。
僕はそれを裏切っていたのだ。

ぐり「本当に…申し訳ないです…」

81 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/03(土) 15:21:28.28 ID:fQ1Cecli0
きつね「…いいんだよ。誰しも大切な人を失ったら不安になる」

ぐり「それでも僕のしたことは…」

きつね「確かに許されないことだ。
    もしうさぎさんが死んでいたら、僕も君に対する態度を変えていたかもしれない。
    だが、今はまだ引き返せるはずだよ」

ぐり「…」

きつね「それに前に言っただろう。“僕たちは仲間じゃないか”」

84 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/03(土) 15:22:08.74 ID:fQ1Cecli0
ぐり「…ありがとうございます」

僕が震えた声で答えるにはこれが精一杯だった。
様々な感情が胸に満ちあふれ、涙があふれ出してきた。

きつね「さて、とりあえずはぐらの墓を戻してあげようか。
    このままじゃ、ぐらも可哀想だ」

きつねさんは僕が置いておいたシャベルを手に取り、棺を埋め始めた。
僕はしばらく動けなかったがやるべきことが分かり、
ぐらのものだったシャベルを持ってきて一緒に墓を元に戻していった。

85 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/03(土) 15:22:50.25 ID:fQ1Cecli0
掘り返した土に埋もれた花はどうしようもなかったものの、
ある程度まで墓を元通りに戻すことができた。

きつね「こんなものかな」

ぐり「…」

元に戻った墓の出来映えを見て、きつねさんが呟いた。
そしてこちらを向いて話しかけてきた。

きつね「…これから君がしなければいけないことは沢山ある。
    それがどういうことかは多分今の君なら分かっていると思う」

僕はきつねさんの言葉に頷いた。

86 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/03(土) 15:23:28.50 ID:fQ1Cecli0
きつね「失った信頼を取り戻すには時間もかかるし、苦労もすると思う。
    でもだからといってそれを諦めたらいけない。
    結局それは自分のしたことから逃げていることになる」

僕は黙ってきつねさんの方を向き耳を傾けた。
きつねさんは真剣な眼差しで僕を見ている。

きつね「いいね。約束だよ」

ぐり「はい」

僕は出来る限りの声できつねさんに答えた。

きつね「じゃ、僕は君を信じて帰ることにするよ。」

きつねさんはそれを言うと一つ大きなあくびをして帰って行った。
僕はその背中をきつねさんが消えるまで見つめていた。

88 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/03(土) 15:24:08.39 ID:fQ1Cecli0
きつねさんが帰った後、僕はしばらくその場に立ちつくしていたが、
周りが段々明るくなったことに気がつき行動に移すことにした。

家の近くにある草原に行き、綺麗な花を集め始めた。
墓を綺麗に戻すためだ。

僕は一つ一つの花を丁寧につんでいった。
花は次第に集まっていき、元の量には及ばないもののそれなりに多くの花を集めることができた。

90 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/03(土) 15:24:51.19 ID:fQ1Cecli0
僕はぐらの墓へと戻った。
辺りはすっかり明るくなり、暖かな日差しを感じた。

僕は花をできる限り丁寧に並べた。
掘り返したせいで寂しそうになっていた墓も少しは賑わいを取り戻したように見えた。

僕はその出来に満足し、家に戻ることにした。

91 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/03(土) 15:25:28.31 ID:fQ1Cecli0
僕はバッグを降ろし、椅子に腰掛けた。
僕はため息をつき、今までを思い返した。

様々なことを思い巡ったが、途中であることにふと気がつきバッグを開けた。
その中にはぐらの包丁があった。

ぐり「…」

僕はその包丁を見つめ、自分が凶行していたことを再度思い出した。
同時に一緒に料理をしたことも思い返された。

ぐり「ごめんね…全然ぐらのことを考えてやれなかった…」

僕は包丁をバッグから取り出し、元あった場所に戻した。

92 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/03(土) 15:26:08.57 ID:fQ1Cecli0
そして僕はお風呂でシャワーを浴び、眠りに就くことにした。
その日はすぐに寝付くことができた。

その日の夢ははっきりと覚えていないが、
厳しくも優しくもあったものだった覚えがある。

起きるとすでに昼過ぎであった。
しなければならないことは沢山あったが、なかなか身体は動こうとしなかった。
今になって皆に顔を合わせるという恐怖が芽生えてきた。

93 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/03(土) 15:26:48.26 ID:fQ1Cecli0
しかし僕は動かなければならないのだ。
謝って許されることではないし、うさぎさんには心身ともに深い傷を負わせた。
きつねさんとの約束でもあるし、なにより自分の罪は自分で償わなければならない。

僕は一つ大きく深呼吸し、背中を張り、ベッドから降りた。
そしていつものように顔を洗い、朝食を食べ、朝の支度をした。

準備は整った。
僕はやらなければならないことのために出掛けることにした。
その前に僕はぐらの墓に立ち寄った。


ぐり「ぐら、行ってくるよ」


                                          ┼ヽ  -|r‐、. レ |
                                           d⌒) ./| _ノ  __ノ
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