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キョン「朝起きたら鶴屋さんが隣で寝ていた」

1 名前:都留屋シン[sage] 投稿日:2010/02/17(水) 23:45:19.69 ID:zg1LfBPO0
本日ラストになります。それでは最後までお付き合いくださいませ。
ここまでついてきてくれて本当にありがとうございます。


あらすじのようなもの

俺と鶴屋さんの前にちゅるやさんと、あの朝倉の分身であるあしゃくらが現れる。

俺にナイフを向けるあしゃくら。だがちゅるやさんの説得で正気を取り戻した。

その直後に現れた朝倉涼子。あしゃくらのおかげで復活したという。
朝倉はあしゃくらを操って俺を殺そうとしていた。

だがあしゃくらと同じように、朝倉はあしゃくらから影響を受けちゅるやさんを邪魔に思う気持ちが芽生えていた。

鶴屋さんに襲いかかる朝倉。間に立ちはだかる俺。
鶴屋さんの機転で俺は脇腹をえぐられる程度で済んだ。
だが身動きひとつできず、朝倉はなおも鶴屋さんに迫る。

そんなとき、誰かが朝倉のナイフを掴み上げて止めた。

最初は長門かと思った。けど実際に自分の目で見て正気疑ったよ。

そこに居たのは俺だった。ちゅるやさんにひどい仕打ちをして、追い出した張本人。

そいつ……にょろキョンはゆっくりと両手を上げ体の正面で交差させ朝倉に言った。

にょろキョン「だーめ」

まったく笑えない冗談だった。

2 名前:31/10halfstart[sage] 投稿日:2010/02/17(水) 23:48:49.08 ID:zg1LfBPO0

次の瞬間、朝倉がナイフを握っていない方の手を金属質の槍に変異させ
もう一人の俺に突き立てようと突進してきた。
弾丸のように飛来する金属質の槍は正確ににょろキョンの心臓を貫かんとしていた。

だがもう一人の俺はまるで気配を感じさせない動きで朝倉の突進をスルリとかわすと
瞬時に距離を詰め朝倉の足を払い浮き上がらせたその腹に深々と俊脚をめり込ませた。

突進してきた朝倉は逆に弾き返され机や椅子を巻き込みながら盛大に吹き飛んだ。
もう一人の俺はそのまま両手をポケットの中にしまう。
どうやら俺と鶴屋さんを守るために朝倉を蹴り飛ばしてくれたらしい。
表情からは読めないが意外と考えている奴だった。

俺には真似できそうにないな。

ふとそんなことを思った。
朝倉は憤怒の形相で机や椅子を吹き飛ばしながら立ち上がった。
ダメージはあるが深くはなくむしろ精神的な動揺で我を忘れているようだった。

朝倉がナイフと槍を交互に突き出しもう一人の俺に襲いかかる。

にょろキョン「いけない子だ」

余裕綽々、というか余裕という感情自体存在するのかどうかまるで読めない表情で
朝倉の連続攻撃を事も無げにかわしていく。
その場からほとんど動きもせずに朝倉の連続攻撃をさばききった。

朝倉は疲れているように見えた。肉体的な疲労ではなく、精神的な疲労によって。
朝倉とにょろキョンはなおも格闘を繰り広げていく。


4 名前:31/11[sage] 投稿日:2010/02/17(水) 23:51:13.80 ID:zg1LfBPO0

椅子が飛び、カーテンが裂かれ、床が壁が飛び散った。
そんな喧騒の中で俺は鶴屋さんに話しかける。

キョン「すみません……鶴屋さん……本当は俺が助けたかったんですけど……
     できませんでした……ははっ、笑っちまいますよね……」

どうやら俺にも冗談を言うぐらいの余裕はあるようだ。
同じ人間に何度も刺されているせいか変な耐性ができてしまっているのかもしれない。

鶴屋さんは泣きそうな顔で俺に振り向いた。

鶴屋さん「キョンくんは……ちゃんと守ってくれたさ……
       あたしを ……こんなになってまで守ってくれたさ……
       こんなに嬉しいことはないっさ……だから……」

涙を目尻にいっぱいに貯める。こらえきれなかった涙がぽろぽろと俺の顔に落ちた。

鶴屋さん「死なないで欲しいにょろよ……キョンくん……」

俺は泣き顔も美人だなと場違いな感想を抱く。
それが自分の為ならことさら可愛く見えるのも無理はないのだ。

俺は鶴屋さんの髪を撫でる。ごめんなさい、鶴屋さん。
俺のせいで、あなたを何度も何度も泣かせてしまって。何度も何度も傷つけてしまって。
本当に、本当にごめんなさい。

そしてこんな俺の傍についていてくれて、見捨てないでいてくれて、本当にありがとうございます。

キョン「鶴屋さん……俺はあなたのことが……大好きです……」

5 名前:31/12[sage] 投稿日:2010/02/17(水) 23:54:01.64 ID:zg1LfBPO0

思えば鶴屋さんにはっきりと気持ちを伝えるのはこれが初めてなんじゃないだろうか。
いつも頭の中で考えているだけで、
まったく口に出すことがなかった言葉を俺は今になってようやく伝えることができた。

鶴屋さんの表情が悲痛に歪む。こぼれ続ける嗚咽が悲しみと苦しみの深さを物語っていた。

それでも鶴屋さんは一つの弱音も一つの弱気を吐くこともなく俺の隣に居てくれる。
俺の隣に居たいと言ってくれる。俺は鶴屋さんの頬を伝う涙を指先でぬぐった。

キョン「お返事は……?」

鶴屋さんは生意気だぞっと一瞬責めるような表情をした。

それもすぐに微笑みに変わる。
泣きながら、笑う。そんな複雑な表情で。

鶴屋さん「そんなの……決まってにょろ……」

鶴屋さんが女神のように微笑む。
頬をニカッと釣り上げて、目いっぱい八重歯をのぞかせながら。

鶴屋さん「あたしは……キョンくんのことが大好きっさっ……」

俺は鶴屋さんの頬を撫でた。
校舎の柱の一つが吹き飛んで天井が軋むような音を立てる。
戦いはなおもつづいていた。



6 名前:31/13[sage] 投稿日:2010/02/17(水) 23:57:06.49 ID:zg1LfBPO0

朝倉が繰り出す怒涛の連続攻撃はすべてもう一人の俺にさばかれ
そのたびにカウンターを打ち込まれている。
一撃一撃のダメージは軽いようだが二発三発と立て続けに食らうたびに朝倉の動きが鈍くなっていく。

にょろキョンはときどき朝倉の機先を制するように軽い打突をあご先などの急所に打ち込んでいる。
一瞬だけ手元が見えたのだが人差し指と中指を軽く伸ばしてそっと触れるように突いているだけだった。
だがそれだけの動きで朝倉の速度は半分以下に殺され
微妙な重心の変化で体勢を崩し足元はおぼつかなくなり頭から盛大にずっこけた。

もう一人の俺は軽くステップを踏む。
だがそれでも朝倉の体力は尽きることがなく転倒するたびに起き上がり
もう一人の俺に直線的な突進を繰り返す。

微妙なパワーバランスの膠着状態が続く。
焦った朝倉が大ぶりの攻撃を加えるとにょろキョンはふわりと跳躍した。

朝倉「バカね、空中では逃げ場がないわよ──!」

待っていたと言わんばかりに朝倉は叫ぶ。
朝倉の背後から無数の隠し槍が展開されもう一人の俺に迫った。

戦いの駆け引きの上では朝倉の方が上なのか。

スピードでは叶わないと見るや、直線的な突進を繰り返していたように見えて
もう一人の俺が飛び上がって逃げ場をなくすのを待ちかまえていたらしい。

畜生、もうお終いなのか。
やっぱりいくら超人的な異世界人とはいえ本物の人外である朝倉にはかなわないっていうのかよ。
畜生──。

7 名前:31/14[sage] 投稿日:2010/02/17(水) 23:59:33.57 ID:zg1LfBPO0

俺がそう思った次の瞬間、すべての槍が宙を切っただけで
にょろキョンは瞬間移動でもしたかのように突如別の場所に出現した。

何事か理解していない様子の朝倉。単にそれを信じられないだけなのかもしれない。
だがここから見ていた俺にはよくわかる。

なんのこともない。あいつは天井を蹴って天井を走って今、天井に立っているだけだ。

大丈夫、あれは異世界の俺だ。不思議じゃない。なんのこともない。俺はまだ正気だ。
そのはずだ。俺が電車に楽々と追いつけた脚力。あいつはそれを持っているんだ。

なぁ、俺。遊ぶのはもう終わりにしようぜ。
あいつは俺だけじゃなく鶴屋さんやちゅるやさんまで傷つけようとした。怒っているんだろ。
言わなくてもわかるぜ。だってお前は俺なんだ。お前の感じる怒りは俺の怒りなんだ。

やっちまえよ。なぁ、キョン。やっちまえ──!

にょろキョン「……しょうがない子だ」

もう一人の俺の声に朝倉の肩がぴくりと反応する。
髪を振り乱してボロボロにすり切れた体を小刻みに揺らし静かに笑い始めた。

朝倉「ふふ……ふ……なによ……ちょっと驚いただけじゃない……得意げになっちゃってさ。
    ただちょっと動きが素早くて、天井を走れるからなに? なんだっていうの?
    ただの人間でしょう。どこまでいってもただの原始的な生命体でしょう!?」

そして金属質の槍を元の人間の手に戻し勢いよく正面にかざすとニヤリと頬を引きつらせて笑った。

嫌な笑い方だった。

8 名前:31/15[sage] 投稿日:2010/02/18(木) 00:01:44.05 ID:g4lxuVci0

朝倉は一体何をするつもりだっていうんだ。

朝倉「あなたの存在……面白いけど……涼宮ハルヒには及ばない……
    もういいわ、構成情報の一辺まで……消えて……なくなりなさい!」

朝倉の手の平から未知の光線が放たれる。
それは無数の光の粒子へと変化しにょろキョンの体にまとわりついた。まずい、逃げろ、俺!

朝倉「ふふふ……楽しい時間はもう終わりよ……
    あなたの情報は量子レベルまで分解されて消えてなくなるわ。
    自分が跡形もなく消される気分はどう? 私はなかなかいいと思うの。
    自分の存在理由も何もかもが失われて消え去っていく、あの一瞬は本当に忘れられないわ!」

朝倉の顔面は狂喜に満ちていた。

高らかに叫ぶその声は無感情な宇宙人などではなく、狂った一人の人間のようだった。
その肉体を構成する有機情報があしゃくらの感情に刺激されて激情の糸を紡ぎ始めたのだろうか。

生まれて初めて感じた感情が他人への不快感だった、そんな朝倉に対して俺は哀れみさえ感じた。

光に包まれるにょろキョン。だがもう一人の俺はなんでもないような顔で光の束の中から足を踏み出す。
肌にも制服にもどこにも変わったところは見受けられない。

朝倉は驚愕に顔を引きつらせながら叫ぶ。

朝倉「な、なんでよ……なんでなのよ! あ、アナタは一体なんなのよ!!!」

にょろキョン「キョンです」

9 名前:31/16[sage] 投稿日:2010/02/18(木) 00:05:08.76 ID:g4lxuVci0

そう言ってにょろキョンは朝倉との距離を瞬時にして潰した。
朝倉は完全にムキになってもう一人の俺を渾身の一撃で迎え撃つ。軌道が直線的だ。

にょろキョンは軽やかな足さばきで四方八方を蹴りクレーターを残しながら部屋中を跳躍する。
眩惑されたように立ち尽くす朝倉。視線が完全に泳いでいた。

にょろキョンを捉えられないでいた朝倉は一瞬現れた影に斬りかかるもそれはスモチだった。なぜにスモチ?

もう一人の俺は死角から朝倉に飛びかかると朝倉を抱えたまま机や椅子や教壇を弾き飛ばしながら直進し
朝倉共々黒板にめり込んだ。建物全体が揺れたようにさえ感じるほどの凄まじい衝撃が伝わってきた。
正面から完全に押さえつけられた朝倉は一切身動きが取れない。背中の槍も封じられたようだった。
もう一人の俺は朝倉を締め上げる力を強くする。朝倉のうめき声と共に握り占めていたナイフが滑り落ちた。

朝倉「ふ……ふふふ……異世界のあなたに私の力は通用しないってわけね……
    誤算だったわ……きっと切っても刺しても無駄なんでしょうね……
    ナイフを素手で掴んだって平気ですものね……ふふふ」

朝倉は先程までとは打って変わって余裕の表情を見せていた。
なんだその余裕は。さっきまでの燃えるような怒りを見せていた朝倉はどこへ行ったんだ。
なんでそんなに余裕のある顔をしているんだ。
ある種の諦観や覚悟さえ感じさせるようなその嫌な表情はなんだ。

俺は悪い予感がした。

朝倉の形相が一転にして憤怒に変わり金切り声を上げながらその口から血反吐をまき散らし叫んだ。

10 名前:31/17[sage] 投稿日:2010/02/18(木) 00:07:22.86 ID:g4lxuVci0

朝倉「でもこの教室はこちらの世界のものよ──!
    この空間そのものがなくなったらあなたはどうなるのかしら? 死なないかもしれないわね。
    でも永遠に時空の狭間を漂い続けることになるんじゃないの? 永遠に、老いることもなく、意識を保ったままね!
    私もそうなるわ! でもいいの……私は私が生まれた目的さえ果たせればそれでいい!
    涼宮ハルヒの絶望する顔が目に浮かぶようね、

    あはははははは!」


俺は背筋に寒気がした。俺に膝枕をしている鶴屋さんも凍りついたように動かなくなっていた。
朝倉の言葉の意味はわからないが、言わんとしていることは理解できたのだろう。
蒼白な顔で事の成り行きを見守っている。

もう一人の俺もさすがに朝倉の情報改変そのものをやめさせることはできないようだ。
読めないその表情の奥では今の俺のように焦りを感じているのだろうか。

ふいにもう一人の俺が口を開きちゅるやさんに語りかけた。

にょろキョン「ちゅるやさん。逃げなさい」

いつの間にか意識を取り戻していたちゅるやさんがそれに答える。

ちゅるやさん「きょ、キョンくんを置いていけないにょろ……」

ちゅるやさんも鶴屋さん同様健気であった。そんなちゅるやさんにも構わずもう一人の俺は続ける。

にょろキョン「逃げないともうスモチあげません」

冷たく言い放つその言葉の裏にはちゅるやさんに対する暖かい気遣いが感じとれた。

11 名前:31/18[sage] 投稿日:2010/02/18(木) 00:09:36.00 ID:g4lxuVci0

こいつもこいつで、傍から見て不可解ながらちゅるやさんのことを気遣っているのだ。
そう思うだけでこいつののっぺりとした表情が急に人間味を帯びてくる。
ちゅるやさんが何故このもう一人の俺と居たがるのか今ならわかるような気がした。

ちゅるやさん「いいにょろ……キョンくんと一緒に食べられないスモチなら……
         いらないにょろ……」

ちゅるやさんは泣きながら訴える。そんなちゅるやさんに対してもう一人の俺はかすかに、
注意しなければわからないほど本当にかすかに頬を動かして小さく笑う。

にょろキョン「本当にしょうがない子だ」

この二人にはこの二人で、俺にはわからない絆があるようだった。

俺はこいつのことを誤解していたのかもしれない。その点では反省する。
だがお前がちゅるやさんにしたことをまだ許したわけじゃないからな。そこんところは勘違いするなよな。

そう思うとにょろキョンの頬がかすかに吊り上がった気がした。
バカにされたような気がしたのは気のせいだったのだろうか。

俺の思考を遮るように朝倉が絶叫する。

この世のすべてを呪い蔑むかのように激しく、暗く、陰鬱な瞳で俺たちを睥睨していた。

朝倉「あははははは! 美しいわね!
    でもあなた達のね……そういうところが……

    大っきらいなのよ!!!!」

12 名前:21/19[sage] 投稿日:2010/02/18(木) 00:12:11.79 ID:g4lxuVci0

朝倉は既に狂っていた。

最初っから狂っている奴だったが、今は自分さえ見失っている。その姿は哀れにすら思えた。
あいつには自分なんて初めからなかったのかもしれない。

だから自分があしゃくらから受け継いだ──自分自身の──感情に対応できないでいるのだろう。

使命を超えて、感情をぶちまけているように見える。
あいつは間違いなく、自分ごとこの場にいる全員を殺すだろう。そう断言するに十分すぎる狂気をはらんでいた。
この場で動ける者は誰一人としていない。もう終わりなのかもしれない。

俺は鶴屋さんを見る。鶴屋さんも俺を見つめている。不安と恐怖で張り裂けそうな胸の内が伺える。

鶴屋さん、最後にあなたの膝の上で死ねるなら本望です。けれども、けれどもですよ。
できればこのまま、あなたと生きていたい────
そう思うことは今は贅沢なのかもしれない。けれども、それは本心からなんですよ。

鶴屋さん────

教室中が白い光に包まれる。
朝倉が白い粒子となって消えたあの光が、この場にいる生命体以外のすべてを消し去っていく。

窓の外の風景さえも、泡のように弾けて消えていく。これが空間ごと消されるっていうことなのか。

鶴屋さんが俺をぎゅっと抱きしめる。俺も力無くそれに応えた。

ごめんなさい、鶴屋さん。あなたを巻き込んでしまって。

ごめんなさい……本当にごめんなさい。

13 名前:31/20[sage] 投稿日:2010/02/18(木) 00:15:06.23 ID:g4lxuVci0

朝倉「あぐっ……あぁああぁああっっ!!!」

朝倉が突如絶叫した。
それと同時に消えていく教室もいつの間にか何事もなかったかのように元に戻っていた。

外の景色も、差し込む夕日もある世界に帰ってきた。だが何故だ、何があった?
朝倉のあの尋常ではない痛がりようはなんなんだ。もう一人の俺が何かやったのか?

いや、違う、あれは、見覚えのあるあいつは、あいつは──。

それはちゅるやさん並に小さくて遠目に見つけるのは困難だった。
ただでさえあの俺と朝倉が暴れてさんざん備品が飛散したこの教室ではなおさらのことだ。

それは小刻みに震えていた。何か恐れを必死でこらえているような小さな嗚咽と共に。

あしゃくらは朝倉が落としたナイフを握りしめていた。

赤い血が滴り落ちる。誰の血だ、もう一人の俺を刺したっていうのか。

違う、叫んだのは朝倉だ、なら、ならあしゃくらが刺したのは────
だがバカな、そんなことがあるっていうのか。

あしゃくらが刺したのは朝倉だった。
ナイフを構えたまま肩を、全身を震わせて泣いている。そのあしゃくらは、
俺が知っている朝倉とは違う、まったく違う生き物だと信じられるほどに人間らしく悲しんでいた。
少なくとも俺にはそう見える、そう見えないわけがなかった。

14 名前:31/21[sage] 投稿日:2010/02/18(木) 00:17:33.91 ID:g4lxuVci0

朝倉「な、なんで……あなたは……私なのに……私の味方であるべきなのに……!
 なんで……なんで私が私を裏切るの!!? なんで、なんでなんでなんでなんでなんで!!

 どうしてッ──!?」


心底納得できないという表情で驚愕と理解の不全による不快感を隠すこともなく朝倉はもう一人の自分をなじった。
言葉を発するたびに口からは赤い血がこぼれ落ち朝倉の構成物質が有機体であることを物語る。

顔を振るたびにまき散らされた血液があしゃくらの前にも散らばる。
あしゃくらはもう一人の自分を悲痛な面持ちで見上げている。


あしゃくら「それむり……」


ただ一言、あしゃくらはつぶやいた。

朝倉が目を見開いて驚愕する。
親玉である情報統合思念体に見捨てられたってあんな顔はしないだろう。
言葉をつなぐこともできずただ口だけが宙を噛む。
わなわなと肩を震わせて、信じられないといった表情で。

あしゃくら「キョ、キョンくんや……ちゅるやさんを傷つけようとする人は……
       たとえわたしであっても許せない……ちゅるやさんは……こんな私でも友達だって言ってくれたの……
       だから……あなたを止めるの……ごめんね……もう一人のわたし……
       私は……私より……大切な人がいるから……あなたに……この気持ちもわかってほしかった……
       けどごめんね……あなたを狂わせたのも……わたしの気持ちだから……
       だから私が……あなたを止めるの……誰よりもあなたにとって身近な……私自身の手で……」

15 名前:31/22[sage] 投稿日:2010/02/18(木) 00:19:56.38 ID:g4lxuVci0

あしゃくらの言葉を聞いた朝倉の顔からみるみるうちに力が抜けていき、
張り詰めていた表情が解きほぐされていった。

その瞳はどこか寂しげな光をたたえてゆらゆらと揺らめいた。
俺には、あの朝倉が泣いているように見えた。うすらぼんやりとする視界の中で、その光は確かに見えた。

俺には、確かに見えたんだ。

夕日が雲で陰り教室から光が失われていく。その影の中で朝倉が少しだけ微笑んだ気がした。

朝倉「そうなの……これは……あなたの気持ちだったのね……」

その言葉はどこか優しげで、あしゃくらに語りかけるようでいて、自分自身に言い聞かせているようにもとれた。
先程までの朝倉からは考えられない、信じられないほど穏やかな表情だった。

朝倉「ふふふ……素敵じゃない……
    あたしも……生きている間にこんな気持ちを感じてみたかったわ……
    そうしたら、ただの長門さんのバックアップじゃなくって……

    きっと、あなた達と一緒に……」

朝倉はそう言って優しく微笑んだ。

その表情はどこか納得しているような、儚げなものだった。
もう一人の俺が朝倉を開放する。もう害はないと判断したのだろう。
ゆっくりと朝倉を黒板から引き出し、その場に寝かせた。

朝倉はもう一人の俺の頬を指の背でなぜるような仕草をした。
そしてその頬に優しく手を添える。

16 名前:31/23[sage] 投稿日:2010/02/18(木) 00:22:26.07 ID:g4lxuVci0

朝倉「ふふふ……あたしのために泣いてくれるの……?
    あなたって……本当は……」

朝倉の体は既に半分以上消滅していて、立ち上る光の粒子へと変わっていく。
いつかに消滅したときのように、やはり涼しい笑顔を見せながら、朝倉涼子が消えていく。
光の粒へと変わっていく。

朝倉「優しい人なのね」

そう言った次の瞬間、朝倉涼子の存在はこの教室から完全に消え去っていた。

再び大粒の涙を流すあしゃくら。人目もはばからず泣き崩れる。
そんなあしゃくらを見下ろすにょろキョンの目は表情こそ読めなかったが決して冷たく蔑むようなそれではなかった。

俺にはわからない、もう一人の俺だけの感情がそこにはあった。
俺に俺だけの感情があるように、こいつにはこいつだけの感情があるのだ。
他の誰に教えるでもない、たった一つの感情が。

でも、今ならわかるぜ。俺にだって、お前の考えていることがよ。
そう思わせてくれよ。なぁ、俺。

鶴屋さんが俺の手を取り微笑みかけてくる。俺は鶴屋さんの手を握り返して返事をする。
鶴屋さんの表情からはもはや恐怖や不安は消え失せていて
いつもの朗らかで気持ちのいい鶴屋さんに戻っていた。

やっぱり俺の可愛い先輩には笑顔が一番似合う。
俺がそう思ったのを感じたのか鶴屋さんは照れくさそうに笑った。
どうやら俺の顔は今相当ニヤついているようだ。なに、鶴屋さんが笑ってくれるんだ。
それぐらいのこと、かまやしないさ。

17 名前:31/24[sage] 投稿日:2010/02/18(木) 00:25:27.19 ID:g4lxuVci0

ちゅるやさんが鶴屋さんの傍を離れもう一人の俺のもとへと駆け寄る。
にょろキョンとちゅるやさんがあしゃくらのもとへと歩み寄る。
ちゅるやさんはあしゃくらの肩を抱いて顔を上げさせた。その瞳には後悔の涙がいまだ浮かんでいた。
もう一人の俺はそんな二人をまとめて抱え上げると俺たちの方を向く。
あしゃくらの頬が若干桃色に染まっているのが見えた。

にょろキョン「しっかりやれよ」

俺は俺にそんなことを言われた気がした。

なにをやれというのか。
それは決して俺が考えているような不埒なことではなく、きっと別のもっとましな何かの事なのだろう。
俺は軽く手を軽く動かして返事をする。今は口を動かすわずかな体力さえ惜しかった。
時間がない、そんな漠然とした予感だけを根拠にして。

再びちゅるやさん、もう一人の俺、あしゃくらの姿がぼんやりと輪郭をなくし、
あの煙のような白い光へと変わっていく。うっすらと薄まっていく光は夕日の中に溶けるように消えて、
やがて見えなくなった。かすかな余韻さえも残さずに連中はさっさと行ってしまった。

後に残されたのは無残に崩壊した教室と、粉々に破壊された備品と、へし折れた掃除用具と、
俺の脇腹の傷跡だけなのだった。

これをどう片付けろというのだろう。ちょっと無理な相談だった。日直の鶴屋さんが可哀想ではないか。
仮に鶴屋さんがどんなに不器用で壊滅的な掃除の腕を持っていたとしてもここまではできまい。
うっかり鶴屋さんの掃除の腕が破壊的だという評判が立てばさっさと一緒に下校できるかな、
などという不埒な考えをしてしまう。

そんな俺の馬鹿な考えを知ってか知らずか鶴屋さんは一連の惨状を眺めて俺に笑いかける。

18 名前:31/25[sage] 投稿日:2010/02/18(木) 00:28:07.64 ID:g4lxuVci0

鶴屋さん「あっははっ、これじゃぁ一週間くらい帰れないかもしれないっさっ」

あっけらかんと笑う鶴屋さんの表情は晴れやかだった。
さきほどまでの騒動が嘘のように、心は天高く澄みきっていた。

俺は鶴屋さんの手を握る。鶴屋さんは握り返してくれる。
なんとも言えない静かな時間が流れた。

教室の床や外の景色から徐々に光の粒が立ち上っていく。
それはやがて光の帯へと変わり天に地に様々な場所を這い回る。

存在自体がゆらいでいく。既視感を伴ないながら初めてみる光輪が世界を包み込んでいく。
空を見上げると流星群が天に輪を作っていた。そして何か人型の物体が勢いよく天を駆けていくのが見えた。

なんだあの面白い生き物は。ハルヒが見たら爆笑するんじゃぁないのか。
いや、突飛すぎて呆れ返り夢か何かだと思って自分を納得させようとするかもしれない。
そんな姿を想像して俺は笑っちまった。

何を考えているのかわかってはいないだろうに、そんな俺に付き合って鶴屋さんも笑ってくれる。

だんだんと意識が薄ぼんやりとして眠くなってきた。
白んでいく世界の中で俺は鶴屋さんにもう一度自分の気持ちを伝えようとした。
なのに今の今になって気恥ずかしくて上手く言葉が出てこない。
参ったなこりゃ。そんな俺に先回りするように鶴屋さんは自分の唇を俺の唇に重ねる。

まどろむような夢の時間が過ぎると鶴屋さんの明るい笑顔がそこにあった。
口は開かず八重歯はのぞかせて。とても器用な笑い方だった。
やっぱりこの人は美人なだけじゃなくて、とてつもなく可愛らしいのだ。
そんなこの人に、俺は惚れてしまって、もはや逃げ出せないところまで来てしまったのだった。

19 名前:31/26end[sage] 投稿日:2010/02/18(木) 00:31:07.94 ID:g4lxuVci0

鶴屋さん「きっと迎えにいくっさ……」

鶴屋さんは俺にそう囁いた。

それは俺のセリフですよ、と俺。

鶴屋さんはかすかに笑うと寂しそうな、恋しそうな、いとおしそうな眼差しで俺のことを見下ろす。

その頬にはうっすらと涙が浮かんでいた。しかし力強い瞳で、俺から視線を逸らさずに言う。
一時足りとも目を離すものかという決意を顔ににじませて、俺にそう感じさせながら。

鶴屋さん「ごめんにょろっ……でも、どうしても……言いたかったっさ……
      待ってるだけは、あたしには似合わないっからねっ!」

キョン「あはは、そうですね……鶴屋さん……
     本当に……本当に……」


その通りです────。





光の中に消えゆく世界。その中で、鶴屋さんと俺はもう一つ……何か大切なことを誓い合ったのだった。


……

20 名前:幕間[sage] 投稿日:2010/02/18(木) 00:34:08.43 ID:g4lxuVci0
昨日投下するはずだった分はこれにて終了です。

ここからはエピローグになります。もう少しだけお付き合いくださいませ。

21 名前:32/1dream[sage] 投稿日:2010/02/18(木) 00:38:15.34 ID:g4lxuVci0

ちゅるやさん「今日はすっごい大変だったね……もうあたしお腹ぺこぺこっさぁ」

にょろキョン「走りまわったのは俺だけどな」

ちゅるやさん「てっへへ……ねぇ、キョンくんキョンくん、
         この後スモークチーズっとか……食べないっかな……?」

にょろキョン「だーめ」

ちゅるやさん「にょろ~ん……」

にょろキョン「うーそ」

ちゅるやさん「にょろっ……!?」

にょろキョン「一緒に食べよう」

ちゅるやさん「……うんっ」

ちゅるやさん、にょろキョン「にょろ~ん」

あしゃくら「あ、あの……あたしも……一緒に行ってもいーい……?」

にょろキョン「だーめ」

あしゃくら「あわわわわ……」

にょろキョン「ぜんぶ元に戻してからな」

23 名前:32/2dreamend[sage] 投稿日:2010/02/18(木) 00:40:24.90 ID:g4lxuVci0

あしゃくら「あ……う、うんっ!」

ちゅるやさん「ねぇねぇあしゃっち、
         あしゃっちも一緒ににょろ~んってやろうよっ」


あしゃくら「それむり」

ちゅるやさん「にょろ~ん……」

あしゃくら「にょろ~ん」

ちゅるやさん「あっ……!」

あしゃくら「一回だけ……なら……」

ちゅるやさん「……ほっこり」

にょろキョン「それじゃぁさっさと帰りますよ」

ちゅるやさん、あしゃくら「「にょろ~~~ん!」」







にょろキョン「なにこのカオス」

24 名前:33/1[sage] 投稿日:2010/02/18(木) 00:43:16.63 ID:g4lxuVci0

エピローグ


俺は目覚ましの音で目を覚まし目覚ましを手元に引き寄せて止めるとようやく目を覚まし……。

気がついたら朝だった。
そろそろ妹が起こしに来る時間だ。これ以上もみくちゃにされるのは勘弁願いたい。
俺はそう思ってもそもそと布団から出るとあくびをしながら部屋の扉を開いた。

ちょうど妹が起こしに階段を登って来ていたようで、部屋から現れた俺の顔を見て怪訝な顔をした。

妹ちゃん「あっ! お、お母さん~! キョンくんが、キョンくんがちゃんと起きてるよ~!」

なんだそりゃ。俺だって起きるときはちゃんと起きられるわい。
しかしいつの間に俺はちゃんと起きられるようになったんだ。

なんだか誰かに起こされているうちに自然と身についた習慣のような気がしたのだが、
それが一体誰なのか俺には見当がつかなかった。
なんだか俺にとってとても良い人のような気がしたんだが、とんと思い出せない。

こういうことってあるもんなんだな。

俺はなんとも言えない不思議な気持ちになりながらもダイニングに下りて朝食を取った。

部屋に戻り制服に着替える。
一人でタイを結んでいると不意に誰かが結んでくれるような気がして背後を振り返った。
当然そこには誰も居らず、俺はなにもない空間と壁を交互に見つめて頭をかいた。
なんだ、どうしたってんだ。なんだか白昼夢でも見た後のようなはっきりしない感覚がした。

25 名前:33/2[sage] 投稿日:2010/02/18(木) 00:45:33.73 ID:g4lxuVci0

俺は鞄をひっかけて階段を降りる。

そうだ、登校する前にホットミルクでも作ってあったまっておくか。
昨日の豪雪はいくらか引いたとはいえまだちらほらその辺に積雪が残っている。
風が吹けば当然凍えるように寒いはずだ。

俺は冷蔵庫から新しい牛乳を取り出すとカップに注いでレンジの電源を入れた。
そういや使った牛乳は野菜室に入れるんだったな。まったくめんどくさいこった。
うちの両親の健康志向にも困ったもんだ。

俺は野菜室の扉を開いて封を切った牛乳をそこに置いた。
逆にカビかなんか生えちまいそうな気がしたが、親の言うことには逆らうまい、大人しく野菜室の片隅に置いておいた。

不意に目に止まる長方形の物体があった。俺はその物体を手にとる。


そのパッケージにはスモークチーズと書かれていた。

スモークチーズ? なんだ、燻製にしたチーズかなにかか。こんなもんうちにあったっけか。
大方母親が興味本位で買ってきてそのまま忘れちまってたんだろう。冷蔵庫の肥やしだもんな、こんなもん。

ところでなんだか香ばしい匂いがするぞ。だんだん食欲がそそられてきた。
俺の腹が鳴ろうか鳴るまいかというところでレンジが牛乳を温め終わりアラームが鳴る。
とはいえ今は食ってる時間もない。

まぁいい、放課後に部室でおやつにでもするか。
連中が好きかどうかはわからないが、まぁひとつすすめてみるとしよう。
俺はそう思ってなんとなくスモークチーズを鞄の中に入れホットミルクをすすった。

26 名前:33/3[sage] 投稿日:2010/02/18(木) 00:47:49.14 ID:g4lxuVci0

寒空の中、北高への坂道を登っていく。
途中で出会った谷口と適当にダベりながら寒さを紛らわす。

学校の玄関口の前で朝比奈さんと出会った。こんにちは、朝比奈さん。

みくる「こんにちわ♪」

朝比奈さんは俺に優しく笑いかけてくれる。朝の一番にこの笑顔を見ることができたのは最先がいいぞ。
今日は何かいいことが起こるかもしれない。
ハルヒが余計なことを思いつかなければ、という付帯条件付きだが。
まぁ、そうじゃなければその時で、また考えればいいさ。

キョン「あれ、ところで今日は鶴屋さんと一緒じゃないんですね。どうしました?」

みくる「鶴屋さんは今日は家族の用事があるって言うので学校へは午後から登校するそうですよ」

キョン「あ、そうなんすか」

俺はあの元気な笑顔をした可愛い先輩を思い浮かべる。
一体家族との用事とはどのようなものだろう。何か危険な悪事の企みか何かなんだろうか。

鶴屋さんの家は実は極道的な何か良からぬ悪事を働く秘密結社的な組織で、
日夜世界征服の準備を進める為に怪人を次々と量産していて、
そんな中正義の心に目覚めた鶴屋さんが実家の悪事をかろやかに成敗し、
悪にまみれた親族眷族をばったばったとなぎ倒し、ちぎっては投げちぎっては投げ……ん? 実家?

なんで俺実家なんて思ったんだ。まぁいい。どうせ言葉のアヤだろ。
気にしない気にしない。

27 名前:33/4[sage] 投稿日:2010/02/18(木) 00:50:09.96 ID:g4lxuVci0

みくる「なんでもすごくバタバタしてるらしくて。ちょっと心配なんです」

キョン「未来人でもそういうのはわかんないものなんですね」

みくる「さすがにそこまでは……もうっ! キョンくん、禁則事項ですよっ♪」

朝比奈さんは可愛らしく俺に笑いかける。くっふぅ、正直辛抱たまりませんっ、鶴屋さんっ!
ってあれ? 鶴屋さん? どうしたんだ、俺。頭大丈夫か。

俺が二回三回と首をひねっているのを不思議に思ったのだろう。
朝比奈さんが心配そうな顔で俺を覗き込んでくる。正直抱きしめたくなった。

だがなぜだろう。俺は何か違う人を何度も抱きしめていたような気がした。
それはスラリとしたスレンダーな人で。うーん、思い出せない。

どうやら本格的にどうかしちまったようだ。
俺は朝比奈さんに別れを告げると下駄箱でうんざりした顔をしている谷口に追いついて教室へと向かった。
教室へ向かう途中、一年九組の前の廊下で俺は古泉と偶然顔を合わせた。

すまん、谷口、先に教室へ行っててくれ。俺はこいつと話があるんだ。

そう言うと谷口はお熱いこって、と悪意満面にわざと教室の中にまで聞こえるように指笛を吹いた。
教室の中からこちらをチラチラと伺う女子達の紫色の視線が気に障る。

おい谷口、まじでいい加減にしろよ。お前までそういう冗談を言い始めるとマジでキリがないんだからな。

谷口は後ろ手に俺に手を振るとごゆっくり~と言ったか言わなかったかは知らないが
さっさと一年五組の教室へと歩いていった。

28 名前:33/5[sage] 投稿日:2010/02/18(木) 00:52:18.71 ID:g4lxuVci0

なぁ、古泉。お前もこういうのにはうんざりしてんじゃないか?

古泉「僕は別に──ただあなたがなんでそこまで必要以上に気にかけるのかその理由がわかりかねますね。
    ただまぁ、そういうお年頃だ、ということにしておきましょうか。まだ若いですもんね」

そういうお前だって俺と同年代なんだろうが。マジでお前がいくつになるのかたまにわからん時があるぞ。

古泉「あっはは、実年齢より年上に見られることはよくあることです」

ったくよ。その余裕がムカつくんだよ。

キョン「ところで古泉、お前見たことのない筈のものを知っているような感覚に襲われたことはないか?
     何かを見たとき、何か別のものがぼんやりと浮かびあがってきて、
     それでいてはっきりと思い出せないっていう妙な感覚のことだ」

古泉「それはデジャヴ、という奴じゃないですかね。感覚の不調とも超常現象の一種とも言われています。
    それを涼宮さんに話されてみてはいかがですか? きっとお喜びになられると思いますよ」

おれはうへっと辟易するような顔をした。

キョン「そんなことはまっぴらごめんだよ。この件はこれで忘れっちまうことにするぜ。
     じゃぁな、古泉。悪かったな、時間取らせちまってよ」

俺は軽く手を上げて古泉に別れの挨拶をする。
古泉もそれに応じて軽く手を振った。

九組の中から女子の黄色い歓声が湧き上がる。……こいつらほんとに進学クラスなのか?
くだらねぇ妄想なんかしてないで、せっせとお勉強でもしてろってんだ。
とはいえ俺よりも頭の出来がいいことは確かなわけで。

29 名前:33/6[sage] 投稿日:2010/02/18(木) 00:54:57.44 ID:g4lxuVci0

そんな紫色だか黄色だかわからんような奴らが俺よりも好成績を修めているという事実に憤りを禁じえないのだった。

(そう思うなら勉強しろ)

頭の中でもう一人の自分に叱られる俺。へいへい、わかりましたよ良識様よ。
どーせ俺はあいつらとはもともと頭の出来が違うんですよーだ。

教室に入るとハルヒが眠そうに突っ伏していた。こいつが寝不足なんて珍しいこともあるもんだ。
俺は自分の席に鞄を置くとハルヒに軽く挨拶をする。

キョン「よっ」

ハルヒ「よっ、じゃないわよまったくぅ……もう……」

キョン「どうしたってんだよ? いつものお前の元気はどこへ行っちまったんだ?」

ハルヒ「うるさいうるさいうるさいっ! 昨日なんか変な夢を見ちゃってすっごくヤな気分なのよ……
     生まれ変わったら貝になりたいわ……」

キョン「はいはい、怪になりたいんですよね。わかりますよ、ハルヒさん」

ハルヒ「なによ、その引っかかる言い方……
     おおかた変な漢字でも頭の中に思い浮かべて一人でいい気になってるんでしょ。ふんっ」

大正解。そこまでわかっているなら今更解説してやる必要はないな。
俺は鞄から荷物を取り出して朝の授業の支度を始めた。

ハルヒは相変わらず後ろでつっぷしてあーだのうーだのみくるちゃんダメ~だのとつぶやいている。
一体どんな夢を見たっていうんだ。こいつの鋼鉄の精神にここまでダメージを与える現象ってなんだ?

30 名前:33/7[sage] 投稿日:2010/02/18(木) 00:57:26.08 ID:g4lxuVci0

また閉鎖空間でも現れてやしないだろうな。
古泉の顔色はそんなに悪くはなかったからまぁそこまでのもんではないんだろう。

なら俺が心配する必要はないな。それよりも支度支度っ。

朝のホームルーム、
授業、
休み時間、
何度目かの授業、
何度目かの休み時間、
昼休み、
放課後。

時間はあっと言う間に過ぎて俺はいまだ机につっぷしたままのハルヒに軽く
「先に部室に行ってるぞ」とだけ言ってさっさと教室を後にした。
ハルヒは特に返事をするでもなく片手をあげるとうぅっ、と唸った。

まったくワケのわからん奴だ。ハイになったりローになったり、まったくお忙しいことである。

俺は部室棟へ言って文芸部、もといSOS団の部室の扉に手をかける。

部室に入ると長門が一人で本を読んでいた。

キョン「よっ、長門。今日は何を読んでいるんだ?」

長門「不完全性定理。クルト・ゲーデルの第一定理と自然に導かれた第二定理の──」

キョン「オーケー、オーケー。俺には荷が重いってことがわかった。
     後で簡単にまとめた感想なんかを聞かせてくれればそれでいい」

31 名前:33/8[sage] 投稿日:2010/02/18(木) 01:00:11.62 ID:g4lxuVci0

SF小説のワープ航行とかならまだしもなんとか定理だとかなんとか原理だとかいう
科学的な用語に関して俺はまったくの門外漢だ。
まぁ普段から宇宙人とか未来人とか超能力者とかパラレルワールドとかと接している俺にしてみれば
むしろそんなものは机上の空論に過ぎないのであって……ん? パラレルワールド?
最近そんなところと関わった覚えはないが。これは異世界人が現れる前触れかなのかなのか?

うぅ、考えたくもない。やめておこう。
今はいつくるかわからない異世界人のことよりもストーブであったまる方が先決だ。

俺がストーブの前で慎ましやかに暖を取っていると古泉が入ってきた。
小脇に長方形の板状のものを抱えて。

キョン「おう古泉、オセロでもしようぜっ」

古泉「すみませんが……今日はオセロのお相手はできないんですよ。
    実は新しいゲームを用意してきましてね、これで決まりです。その名もバックギャモン」

キョン「なんだそりゃ。俺は知らねぇぞそんなゲーム」

古泉「なぁに、簡単なボードゲームですよ。二人対戦のすごろくみたいなものです」

キョン「それなら簡単そうだな。どれっ、いっちょやってみるかっ」

古泉「お手やわらかにお願いします」

俺と古泉はバックギャモンとかいうゲームを始める。
これが簡単ながらなかなか奥の深い遊びで俺は徐々にのめりこんで行った。

キョン「おりゃっ、ここでダブルだ! 16倍だぜ!」

32 名前:33/9[sage] 投稿日:2010/02/18(木) 01:02:49.56 ID:g4lxuVci0

古泉「おやおや、負けてしまいましたね」

キョン「へっへん、どんなもんだってんだ」

俺が古泉を見事に打ち負かしたところで朝比奈さんがやってきた。

みくる「すいません~遅れました~」

キョン「朝比奈さんこんにちわ」

みくる「キョンくんこんにちわ~」

俺と古泉は朝比奈さんが物陰に入ったのを確認するとそそくさと部室の外に退散した。
朝比奈さんが着替え終わるのを待つ俺と古泉。
俺は先程の勝利の余韻に浸りながら次はどうやって古泉を負かしてやろうかと考えていた。

古泉「しかし困ったものですね。サイコロを使ったゲームでもあなたに一回も勝てないとは。
    何か秘訣でもあるんですか?」

キョン「お前が弱すぎるだけだよ、古泉」

古泉はおやおや、手厳しいですねと笑うと両手の平を天に向けて困りましたのポーズを取った。

朝比奈さんの着替えが終わったらしい。
どうぞ、という朝比奈さんの声を合図に俺と古泉は部室内へと戻った。
朝比奈さんのメイド姿がまぶしい。ウホッ、いいメイド。MADE in MIKURU。MAID in SOS-DAN!
冥土の土産に持って帰りたいくらいだぜ。ん? なんだ、最近なんか死にかけたような気が……。

ってなんだそりゃ。さすがに死にかけたことなんてそうそうないぞ。

33 名前:33/10[sage] 投稿日:2010/02/18(木) 01:04:59.08 ID:g4lxuVci0

一度や二度ならあるが、なんだかごく最近そういう目にあった気がする。
それも一週間二週間も離れていない、ごく最近の数日のうちに。
だめだ、喉元まで出かかってるんだがな。やっぱり思い出せん。こういうのは気持ちが悪いな。

俺は再び古泉とゲームを再開するとこてんぱんに打ち負かしてやった。
やっぱり気分が晴れないときは古泉とゲームをやるに限る。
2、6、8、3と思った通りに面白いほどぽんぽんと欲しい手が出てくる。

なんだ、俺には勝利の女神でもついてやがんのか? なっはっは、全く笑いが止まらないぜ。
にーろくやーさんっ、と。勉強もこう楽だといいんだがな。

そう思った瞬間俺の浮かれていた気分が一瞬にして奈落の底へと突き落とされた。
俺……進級できるんだろうか。世界の危機の前に俺自身の進学の危機である。希望はまだない。
がんばれ、俺。がんばるにょろよっ。ん? にょろ?

鶴屋さんじゃあるまいし、マジでどうしちまったんだ俺は。

キョン「にょろ~ん」

不意に妙な生き物みたいな鳴き声を口ずさんでしまう。これには古泉が怪訝な顔をする。

一体全体マジでどうしちまったってんだ俺は。ダメだ、思い出せない。
この鳴き声の持ち主が思い出せない。喉元まで出かかってるっていうのに。うぐぐ、悔しい。
そんな俺をいたわるように朝比奈さんがお茶を出してくれた。
ありがとう朝比奈さんっ。そういえばお茶うけにスモチなんかどうだろうか。
ちょっと朝比奈さんにお願いして分けてもらおうか。

ん、スモチ? まぁいいか。

35 名前:33/11[sage] 投稿日:2010/02/18(木) 01:07:29.12 ID:g4lxuVci0

キョン「朝比奈さん」

みくる「なんですか? キョンくん」

キョン「これをちょっとみんなに分けて──」

俺がそう言いかけたところで部室の扉が勢いよく開かれる。
手で開かれたのではなく、足で蹴り飛ばされたことは蝶番の盛大な軋みようから用意に察することができた。

おいハルヒ、ただでさえボロっちいのに壊しちまったらどうするんだ。文芸部の予算からってのはナシだぞ。

ハルヒは俺の言葉に反応するでもなくさっさと自分の席について鞄をおろす。まったく困った奴だな。
今朝といい今といい寝不足なんだか不機嫌なんだかどっちかにしろよな。

俺がそんなことを考えているとハルヒが突然机をバンッと力強く叩いて高らかに言い放つ。

ハルヒ「今週末は鶴屋さんの家が所有する鶴屋山で
     宇宙生物が寄生していると思われる謎の隕石を探す冒険に旅立ちたいと思います。
     異議のある人は認めません。各自しっかりと準備してくるように!」

おいハルヒ、今日は火曜だぞ。もう週末の話か? ちょっと気が早いんじゃないのか。

ハルヒ「なによ、こういうのは数日前からちゃんと準備しとかなきゃいけないのよ。何かあったら大変じゃない。
     じゃないと謎の仏教系だかキリスト教系だかわからない恐怖のエイリアンに改宗させられちゃうわよっ!」

なんだそのどこのB級ホラー映画だかなんだかわからないSFものは。
一体全体どこでそんなネタを仕入れてきた。

36 名前:33/12[sage] 投稿日:2010/02/18(木) 01:10:58.49 ID:g4lxuVci0

ハルヒ「知らないわよ。なんとなくそんなのがいるような気がしてるだけよ。
     でもあんたなら大丈夫ね。生粋の無宗教っぽい顔をしてるもの。
     何のご利益もなさそうな感じが案外エイリアンに同情されて道を指し示してもらえるかもね」

いらねぇよ、そんな道。だいたい俺が無宗教ってなんで決めつけるんだよ。

ハルヒ「何よ、実家がどっかの檀家さんだったりするわけ?」

んなこたぁない。生粋の無宗教的日本人でクリスマスも正月も祝いますよーだ。まいったか。
しかし実家って言ったかハルヒ。本日二回目だ。なんだろう、このきゅんと来る感じ。
たまらなくくすぐったい感触がする。なんでだ? やっぱり思い出せない。あー気持ちわりー。
くすぐってー。

ハルヒ「じゃぁキョンはどうでもいいとして、各自このリストに書かれたものを持ってきてくださーい、
     それじゃぁみんなちゃんと読んでね~、
     はい、有希、はい、みくるちゃん、はい、古泉くん、はい、万年衆生」

誰が迷えるシープスか。ていうかハルヒ、さっき鶴屋山って言ったか?
そんなの鶴屋さんがオーケーしてくれるとは限らないだろうが。
だいたいお前は鶴屋さんに迷惑かけすぎなんだよ。ちっとは自重しろ。

ハルヒ「なによ、鶴屋さんだったらきっといつも通り快くオーケーしてくれるわよ、あんたとは心の広さが違うのよ。
     いーっだっ」

んなっ。ったく、どうなっても知らねぇぞ。
俺は宇宙人未来人超能力者の相手はできてもコテコテのSFクリーチャーと戦うなん
てまっぴらごめんだからな。なぁ、古泉、お前もそう思うだろ?

古泉「あっははは……それは少し……いえ、絶対にご勘弁願いたいですね」

37 名前:33/13[sage] 投稿日:2010/02/18(木) 01:13:44.21 ID:g4lxuVci0

だろう? なぁ、お前からもハルヒになんとか言ってやってくれよ。

古泉「それもご勘弁願います」

あー、そうかよ。古泉、お前はしばらく黙ってろ。

俺はハルヒに対する文句をハルヒに聞こえない程度の小声とぶつぶつとつぶやきながら
古泉とのゲームを再開した。相変わらず俺のサイコロ運はつきまくっていた。

に、ろく、はち、さん。ふはははは、笑いが止まらねぇぜ。ダメだ、まだ笑うな。ふはははは。

俺が間抜けなニヤけ面を晒していると部室の扉が再び勢い良く開かれた。
蝶番はビキビキと嫌な音をさせている。こりゃぁどっかで新品を買ってきて交換しなきゃぁならんかもな。

ハルヒばりに扉を勢いよく開いたのは何を隠そう鶴屋さんその人であった。
そういえば2、6、8、3はつーるーやーさんとも読めるな。
なんだ、俺のバカヅキが鶴屋さんまで召喚しちまったっていうのか?
案外俺の幸運の女神はこの人なのかもしれない。いや、案外なんていうもんじゃなく──

ん、どうした、俺。どうしたんだ。何か、何かが喉元まででかかって……あぁ、もう。

鶴屋さん「おっすハルにゃんっ! みくるは今日もメイド姿がまぶしいねっ!
       長門っち、相変わらず本読んでっかいっ! 一樹くん、いつもいい男だねっ!」

鶴屋さんは俺にだけ挨拶をしなかった。どうした、俺、なんか鶴屋さんにまずいことやったっけか。
ううん、思い出せない。なんかすごく、とんでもない間違いをおかしてしまったような
後に引けない既成事実を作ってしまったような……

ダメだ思い出せねー。

38 名前:33/14[sage] 投稿日:2010/02/18(木) 01:17:03.00 ID:g4lxuVci0

ん、そういや鶴屋さんの髪型、今日はポニーテールじゃないか?
どんな髪型をしても似合うと思うが今日の鶴屋さんは格別美人だな。
決してポニーテールで当社比63%増しだからというだけではない、
なんだかいつもよりハキハキしているというか、強い意思と決意が感じられるというか。

ハルヒ「鶴屋さんっ! ちょうどよかったぁ、ちょうどお願いしたいことがあったのよねっ。
     今週末に鶴屋さんとこの山へみんなでピクニックに行ってもいいかしらっ」

おい、謎の宇宙生命体が寄生した隕石を探しに行くんじゃなかったのかっ?
調子のいいことを言って鶴屋さんを丸め込もうってんだろ、ったくよ。

まったく鶴屋さんもいい迷惑だろうぜ。

鶴屋さん「うんっ、ぜんっぜんばっちオッケーっさっ! うちの山だったらいっくらでも使うといいさねっ、
      ただしちゃんと準備をして気をつけて使ってほしいにょろっ。けが人が出たら大変だかんねっ」

ハルヒ「大丈夫大丈夫、キョンがバカなツッコミでもしない限りそんなこと起こりっこないんだから~」

俺はお前の中で一体どういう役どころなんだよおいっ。
まさか俺をSFクリーチャーの格好に仮装させて一発ギャグでもやらせようっていうんじゃないだろうな。

ハルヒ「あら、それはいい考えね。採用。
     ついでに全身タイツの古泉くんと戦ったりすると面白いかもしれないわね!」

ちょっと待てーい! 却下! 却下だ、おい! 聞いてんのか、おい……おーい……ハルヒさーん……。

古泉の顔面がひきつっていたのは言うまでもない。

39 名前:33/15[sage] 投稿日:2010/02/18(木) 01:19:46.35 ID:g4lxuVci0

ハルヒ「それで鶴屋さん、今日はなに?
     なんか用事があったから来たんでしょう? なんでも言ってちょうだい、
     SOS団名誉顧問の鶴屋さんにはもれなくSOS団総出で問題解決にあたっちゃうんだからっ!」

鶴屋さん「あぁっ、そうそうっ、ちょっちみんなの顔でも見よっかなって思っただけさね。
       まぁでも今日はちょっと別の用事もあったりするんだけどねっ」

鶴屋さんはいたずらっぽく笑うと照れくさそうに笑った。めずらしいな、鶴屋さんがこんな風にして笑うなんて。
笑っているのはいつものことなのだが今日は微妙に様子が変だ。
どこか浮き足立っているというかかんというか。

ん? なして俺を見るんですか鶴屋さん。え?

鶴屋さんは俺の方へつかつかと歩み寄ると俺のすぐ目の前で足を止めた。なんだか嬉しそうに俺を見下ろしている。
どこか切なげにうるんだ目に一瞬うっすらと涙が浮かんだ気がしたのだが、俺の気のせいだろうか。

ど、どうしたんですか、鶴屋さん。そんな顔をして。
俺の顔になんか面白いもんでもついてますか? 鶴屋さん? 鶴屋さん……?

鶴屋さん「ねぇ、キョンくん……スモークチーズはあるかい……? 」

キョン「スモークチーズ……ですか? 一応ありますけど……
     なんで鶴屋さんが俺がスモークチーズを持ってきてることを知ってるんですか?」

鶴屋さん「そっか~持ってきてるんだ~えへへっ」

鶴屋さんは嬉しそうに恥ずかしそうに笑う。
古泉や朝比奈さんやハルヒが怪訝そうな顔をする。

40 名前:33/17[sage] 投稿日:2010/02/18(木) 01:22:04.11 ID:g4lxuVci0

見慣れない表情の鶴屋さん。
その鶴屋さんの胸の内を推し量ろうとして全員があれこれと思索を巡らせている。

だが誰一人として一定の結論に達した者はいないようだ。
ただことの成り行きを見守るように鶴屋さんと俺に見入っている。ハルヒの突き刺すような視線が痛い。
俺にもわからないんだってば。ただなんとなく、とても切ない感覚がした。

なにかとても大切なことを俺は忘れてしまっているような、そんな寂しさを伴なう感覚。
いったいこれはいつのどのときの感情なのだろう。俺には思い出せない。

そしてそれが今、鶴屋さんを前にしてたまらなく狂おしいのだった。

鶴屋さんは優しく俺に微笑みかける。俺はその意味もわからないまま微苦笑を返す。
鶴屋さんは面白いものでも見たようにふふっと嬉しそうにはにかんだ。

鶴屋さん「キョンくんっ、その……一緒に……屋上で食べないっかなっ……?
       スモークチーズをさっ、その方がきっと……
       美味 しく食べられると思うにょろっ!」

俺はわけがわからなかった。
どうして鶴屋さんが俺がスモークチーズを持っているのを知っているのかという疑問だけではない。
鶴屋さんの思考、鶴屋さんの感情、鶴屋さんの思惑、鶴屋さんの意図が俺にはまったくつかめなかった。

あれこれ考えてみてもさっぱりだ。ただ胸の奥の、ずっとずっと奥の底の方で
なにかチリチリと火がともったような感覚がした。
その感覚に導かれるままに、従うままに俺は呆然としながらも受け答えをする。

キョン「俺も……そう思います」

41 名前:33/18[sage] 投稿日:2010/02/18(木) 01:24:17.46 ID:g4lxuVci0

俺と鶴屋さんは見つめ合う。

ただならぬ雰囲気に古泉は目を丸くし朝比奈さんは若干うろたえている。
ハルヒはというと大きく身を乗り出してわけがわからないといった表情だ。
長門も珍しいもんでも見るように本を読むのをやめてこっちを見ている。

いったい全体どうなってるんだ。俺にはわけがわからない。

この胸の奥にくすぶる感覚はなんだってんだ。スモークチーズじゃあるまいし、
これじゃぁ俺の脳みその方が先に燻製になっちまうよっ。


そんな俺の考えを知ってか知らずか、鶴屋さんはその場で身を屈めると俺の唇に自分の唇を重ねた。


騒然とする団内。呆然とする俺。


鶴屋さんは俺の両頬に手を添え、軽くではなく、深く深く永いキスをした。


ハルヒが椅子から立ち上がる音がする。古泉が思わず後ずさる。
朝比奈さんは顔を真っ赤にして驚愕している。長門は目をまん丸に見開いてこちらを見ていた。

鶴屋さんが俺から唇を離すと唾液が一本うっすらと線を引いた。
鶴屋さんはそれをぺろりと舌で舐めとると得意げに俺を見下ろしてくる。
どうだ、まいったかいっ、と言わんばかりにそのスレンダーなお胸を突き出して嬉しそうに八重歯を見せながら。

俺は呆然としながら自分の口元をなぞる。

43 名前:33/19[sage] 投稿日:2010/02/18(木) 01:26:52.99 ID:g4lxuVci0

ついさっきまで鶴屋さんの唇が重ねられていたとはとても思えない俺の唇。

現実世界では俺の初めてのキスになるんじゃないか?
そんな俺のリアル・ファーストキッスを奪った鶴屋さんはおもむろに俺の手を取ると
力一杯引っ張って俺を立ち上がらせたのだった。

そして俺を間に挟んでハルヒを覗き込みながら言う。

鶴屋さん「それじゃぁハルにゃんっ、キョンくんを借りてくよっ! それじゃぁまったねぇ~っ!」

そう言い放つと俺の手を引いて、俺をつれたまま風のように駆けていく。

俺をぐいぐいと引っ張って、俺のことなどおかまいなしに、
風の向くまま気の向くまま、ただ勢い込んで走るままに。

嬉しそうな表情で、弾けるような笑顔で。
楽しそうに、跳ねるように、踊るように。

わけもわからずについて走る俺の手に鶴屋さんのぬくもりだけがかすかに灯って、

そして、俺の胸の内側に熱い炎が灯ったような感覚がした。

怒涛のように押し寄せてくる記憶の波。

怒涛のように吹き寄せてくる鶴屋さんがまとう風。
その風に巻き込まれて俺の心は軽やかに舞い上がっていく。高く高く、天を空を抜けていくように。

背後からハルヒの叫び声が聞こえる。どうやら俺達を追いかけてきているようだ。

44 名前:33/20[sage] 投稿日:2010/02/18(木) 01:29:02.97 ID:g4lxuVci0

ハルヒ「こら~! ちょっとどういうことなのキョン! あんた鶴屋さんに何したのよ!
     ちゃんと説明しなさい! 団長命令よ! 止まらないと死刑なんだから~~っっ!!」

何をした、っていうかお前の考えているような不埒なことではないぞ多分。
まぁもうちょっとだけ爽やかな感じに受け取ってもらえると嬉しい。
説明のしようもないのでこういう曖昧な表現になるわけだが。
まぁ別にいいだろ、どーせこの世はお前みたいにいい加減にできてんだからよ。

そんな俺に振り返っていたずらっぽく笑う鶴屋さん。なんだか笑顔がいつも以上にお美しいですね。

鶴屋さん「ごめんねっ、キョンくんっ!」

元気いっぱいに、少しだけ申し訳なさそうに鶴屋さんはウインクしながら笑う。
その姿はとても見慣れた、いつもの鶴屋さんのいつもの謝り方だった。

ようやくハルヒを振り切って俺と鶴屋さんは北高を抜け出し坂道を勢いよく駆け下っていった。
鶴屋さんが走りながら言うにはどうやら俺の家の俺の部屋に転がり込むつもりらしい。

鶴屋さん「いやっさ~っ、親に泣かれるわ爺やにせがまれるわもう大変だったさ~っ! にゃっはははっ!」

そうあっけらかんと笑う。それはなんだかとんでもないことなんじゃないでしょうか、鶴屋さん。
もっと深刻そうな顔をしたほうがいいのでは?

鶴屋さん「なんでっ?」

鶴屋さんはそう言って俺に振り返る。

鶴屋さん「だってあたしたちいままで一緒に暮らしてたじゃんっ」

45 名前:33/21[sage] 投稿日:2010/02/18(木) 01:31:29.44 ID:g4lxuVci0

まぁ、それもそうですね。ってあれ。鶴屋さん?
鶴屋さんは、鶴屋さんですよね。俺の知っている鶴屋さんは、鶴屋さんで、あ──

え? ええ!? 鶴屋さん──
どうしてあなたが、ここに──。

鶴屋さん「迎えにいくって──待ってるだけはあたしに似合わないって言ったはずにょろよっ!
       キョンくん、もう忘れたのかいっ? いけないなぁ、若い子がそんなことじゃぁ、
       将来が思いやられて心配っさっ。なんならキョンくんがうちに来るかい?
       でも、そんときは命の保証はできないにょろよっ!」

マジですか、ていうかヤバイんですか鶴屋さんの家はやっぱりそっち系ですか。

鶴屋さん「ううん、そんなことはないんだけどねっ」

鶴屋さんと俺はそんな風にやりとりをしながら坂道を駆け下っていく。

俺の家への坂道を駆け上り俺は自分の家の前で鶴屋さんと佇んでいた。
鶴屋さんは両手を後ろに回して懐かしいものでも見るように俺の部屋がある場所を眺めている。

俺はそんな鶴屋さんの横顔を眺める。嬉しそうな、はにかむような笑顔。
鶴屋さんが俺の方へと向き直る。

鶴屋さん「正直目が覚めたときは悶絶して死にそうだったよっ!
       なんていうか……あたし達いろいろとんでもないことしちゃってたからねっ!」

そういう鶴屋さんの顔は真っ赤だった。
今の鶴屋さんは俺の知っていた鶴屋さんで、
また同時に俺とよく知り合っていた鶴屋さんでもあるらしく。

46 名前:33/22[sage] 投稿日:2010/02/18(木) 01:34:13.59 ID:g4lxuVci0
そりゃぁ悶絶の一つもするってもんだろう。
朝起きて気づいたら散々キスをねだったり自分の家が経営しているデパートでデートしていたり
実際にあれこれそれな場面やらが頭の中で再生されれば俺だったら悶絶したまま発狂してもおかしくない。

鶴屋さんの精神はかなり頑丈にできているらしい。そして常識の方はしなやかに柔軟だった。

鶴屋さん「最初は、ひょっとしたら全部夢かもって思ったにょろ。
       でもあたしがキョンくんにお願いしたことに……
       それがどんなに勝手でめちゃくちゃなお願いでも全部、あますとこなく
       しっかりかっきりぜーーんっぶ応えてくれて……それがすっごく嬉しくって仕方がなかったことは、
       ちゃっきりしっかりすっかりばっちり、間違いないって胸を張って信じられるくらい
       
       はっきり覚えてるにょろよっ!」

鶴屋さんは今までの俺のあんな無様な受け答えでさえ心の底から喜んでくれていた。
そう思うだけで俺の胸は暖かいもので満たされた。

自分のしてきたことが報われたような、
そんなくすぐったさとも恥ずかしさとも照れくささとも取れるような得も言われぬ実感を伴って。

そんな自分の感情を上手く言葉にできず、
俺は鶴屋さんの透き通るような瞳にただ見入っていた。
そんな俺に優しく微笑んで鶴屋さんは大事なことを思い出すように少しの間目を閉じた。そしてゆっくりと開く。
うっすら開かれた鶴屋さんの瞳はまっすぐに俺を見つめていた。

鶴屋さん「それじゃぁキョンくんっ……今後とも、よろしくお願いするっさっ!」

キョン「あ、はいこちらこそ。っていきなりですか。いきなりそこに戻っちまいますか」

鶴屋さん「うんっ、だってここはあたしの家みたいなもんだからねっ!」

47 名前:33/23[sage] 投稿日:2010/02/18(木) 01:36:41.16 ID:g4lxuVci0

鶴屋さんは太陽のような笑顔でにぱっと笑う。
口は開かず八重歯は覗かせて、それはそれは器用なもんだった。

どうやったらそんな笑い方ができるのか教えてほしいくらいに。

鶴屋さん「それじゃぁ、キョンくんっ! 最後にした約束は、ちゃんと覚えてるっかなっ!?」

俺は「なんでしたっけ」と尋ねる。
鶴屋さんは不機嫌そうに表情を曇らせながらもすぐにぱっと明るい表情に戻ると、
めいっぱいそのスレンダーなお胸を張って得意げになる。

鶴屋さん「それじゃぁ教えてしんぜようっ! キョンくんとあたしが交わした約束っ! それは──!」

それは──!?


鶴屋さん「それはキョンくんがあたしを一生鶴屋さんって呼ぶことっさ!」

俺はガクッと体勢を崩してつんのめりそうになる。

キョン「な、名前では呼ばせていただけないんですね」

鶴屋さん「そりゃそうっさっ、なんたって今更名前なんかで呼ばれたらくすぐったくって仕方がないからねっ。
       キョンくんだって今更キョンくん意外で呼ばれるなんて考えられないっしょっ」

いや、俺の場合そうでもないんですけど。
鶴屋さんは俺のそんな気持ちを知ってか知らずかあっけらかんと笑うのだった。
なんとも豪快な、男らしい笑い方だった。壮絶な人だ。鶴屋さんがお嫁にいく家は大変だな。
いや、この場合鶴屋家では鶴屋さんが将来家長になるんだから婿養子を取るわけか。

48 名前:33/24[sage] 投稿日:2010/02/18(木) 01:38:49.75 ID:g4lxuVci0

ん? なんだ、何か嫌な予感がするぞ。なにかとてつもなーく嫌ーな予感がするぞ。

冷たい汗が流れてきた。俺の危険予測スキルがレッドアラートを鳴らしている。
どういうことだこれは。

鶴屋さん「それを実現する方法がたった一つだけあるんだよねっ」

鶴屋さんが勿体つけたように笑う。俺は生唾を飲んでその言葉を待った。
次の言葉は用意に予想ができてはいるのだが、
だがそれはある意味死刑宣告よりも緊張する内容で、
そして俺はその宣告に対していまだ微妙に準備不足なのであった。

鶴屋さん「キョンくんがぁ……うちの家に────」

風が吹いて鶴屋さんの声がかき消えた。
それでも俺は唇の動きから鶴屋さんの言いたいことがわかった。

まったく驚きの展開で、まったく参った結末だった。

鶴屋さんが俺の家へとやってくる。それだけでもてんやわんやだっていうのに。

しかも俺の隣で毎晩寝起きするんだという。どうすりゃいいってんだこりゃ。

ハルヒにはなんて説明しよう。
古泉や長門や朝比奈さんにはなんて言おう。

なぁ、お前ら。どう思う?

これって、驚くべきことだって、そう思わないか?

49 名前:33/25[sage] 投稿日:2010/02/18(木) 01:41:02.85 ID:g4lxuVci0

鶴屋さん「それじゃぁキョンくんっ!」

鶴屋さんが俺に向き直る。そして目いっぱいはにかんだ素敵な笑顔を俺に見せた後、

鶴屋さん「めがっさお疲れっ! これからもよろしくっぽ!」

と高らかに笑ったのだった。



その後俺が何度も死にかけるような目にあったのは言うまでもない。

だがそれは──また────別の機会にしよう──────


ただ俺はこの笑い袋のような先輩の。

俺の可愛い先輩の、この溢れんばかりの優しさと愛情に満ちた笑顔を。

いつまでもそのかたわらで見ていたいと、心の底から。

そう願ったのだった。


鶴屋さんは初めて俺に言うような口調で叫ぶ。

51 名前:fin[sage] 投稿日:2010/02/18(木) 01:43:25.28 ID:g4lxuVci0

鶴屋さん「キョンくんっ、愛してるよっ!」

俺はそんな鶴屋さんに小さく、しかし力強く答える。

キョン「俺もです、鶴屋さん」

鶴屋さんが俺の部屋に、俺の隣に現れた、あの日あの時あの朝から。

これから先も未来にわたって。

魅き寄せられるままに、ずっと……。

嬉しそうに飛び掛ってきた鶴屋さんに抱きしめられながら。

俺が鶴屋さんを抱きしめながら。


鶴屋さん「てっへへっ……にょろ~んっ♪」


本日二度目の口づけを交わしながら。



俺はそんなことを思ったのだった──

52 名前:都留屋シン[sage] 投稿日:2010/02/18(木) 01:45:46.09 ID:g4lxuVci0

これにて終了です。

あとはちょこちょことあとがきのようなものを書いていきたいと思います。

なにか質問などあればできる限り答えたいと思います。

ただその前にちょっとだけ休憩しますね。疲れました……w

55 名前:都留屋シン[sage] 投稿日:2010/02/18(木) 01:54:10.67 ID:g4lxuVci0

若干自分語りになるのでウザかったら読み飛ばしてください。


最初は、ビデオ屋で偶然ハルヒちゃん&ちゅるやさんのDVDを見かけたのがきっかけでした。

100円レンタルで他に見たいものもなかったので何の気なしに借りてきて。

鶴屋さんのハキハキした表情とちゅるやさんの可愛さにどっぱまりしました。

そいで同じ店で漫画版のハルヒ消失を読んでうぉお!ってなりました。

それでも友達と店で仮面ライダーのグッズなどを探しながら

「こんなん考えたんだけどどうよ~」
「いや俺ハルヒとか知らないんだけど」
「まぁまぁ聞いてくれよ。こうこうこうでこうこうあれなんだよ」

とかいい加減にダベってるだけでその時は気が済みました。
でもなんとなーくいつもだいたいそうだなーとか。とらドラとかの時もそんなこと考えてたなーっと。

56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/18(木) 01:59:21.02 ID:g4lxuVci0

そいでなんの気なしに一月に隣町で見た仮面ライダームービー大戦2010のことをふと思い出して、

ちゅるやさんの世界とハルヒの世界混ぜたら笑えるんじゃね? とか考えたり。

それで爆笑しながらラストのバトル展開のことをだっと書きなぐったりしてました。


で、ふと鶴屋さんって硬派だよな~っという思いが脳裏を過ぎり。
恋愛してドギマギしてる鶴屋さんが想像できず。軟派な自分には思いつかず。

ボーッとDVDを見ているとちゅるやさんがキョンと同居しててなにぃっ!?と思った瞬間、
設定が部分的に入れ替わるというほとんど強引なやり方で
キョンと鶴屋さんをくっつけてしまおうという邪念が芽生えました。

58 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/18(木) 02:05:16.51 ID:g4lxuVci0
そん時には書き始めていました。本当に端的な箇条書きのプロットです。

真面目に文章を書いたのは二年ぶりぐらいで、その前は中学生のときでした。


初期の展開をダーッと書きなぐり、2月7日に名古屋で弟とハルヒ消失を見に行って
改めてキョンの心の動きに共感して、キョンのことも大好きになりました。
消失を見る前と見た後では大分文体が変わってますね。
最初にキョンらしくないと指摘された時はギクリとしました。まったくもって当然ですね。

そうこうしているうちに体調を崩したり誕生日を迎えたりしながら14日の正午を
個人的な締切として書き始めていました。

遊びたくて遊びたくてたまらない中さそわれるままに10時間以上ドライブしてたのはいい気分転換でした。

59 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/18(木) 02:09:34.90 ID:g4lxuVci0
死ぬ。
生き返る。
死ぬ。

レッドブルを飲む。

即死。

ザオリク。

を繰り返しながらなんとか14日の朝7時頃に書き上げて、
余韻で眠れないながらも朝食を済ませて11時には布団で昏倒していました。

その後はそのまま誤字脱字を探したり展開を見直したりしようとするも意識の限界で、
なら投稿と並行して作業するしかないか、と思い休養につとめ。

ていうかそもそもどこに投稿すればいいのか。

そんなことすら考えず、いや考えてたんですけど、決められないまま書き終わってしまいました。

60 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/18(木) 02:13:30.51 ID:g4lxuVci0

SSまとめサイトでVIPに投稿されたものをまとめています、という文を読んで

「vipか……こええよぉ……ガクガクブルブル」

とか思いながら逡巡し、15日の深夜に投稿を初めて。

いやあんときはキモイ文ですいませんでした。
見にくいとか読みづらいとか一人称が違うとかほんっとにまったくそのとおりで、
いろんな人の指摘に助けられながら自分なりに見せ方を工夫できたと思います。

途中で思いついた展開や文章、言い回しを微妙に変えながら、ちょこちょこ原文とはまた
違った味が出てきたと思います。本当にありがとうございました。

ここまで読んでくれて。

62 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/18(木) 02:17:30.22 ID:g4lxuVci0

ここまでキャラを壊してしまっていいんだろうか、とか。
キョンと鶴屋さんがこういう関係になっていいの? とか。
最後はちょっとだけ仲良くなった友情エンドで締めくくろうと思っていたのに
脳内で鶴屋さんが勝手に動き出してしまったり、
ハルヒがキョンをぶん殴ったり、古泉がネタの被害者になり始めたり、
みくるがググれ流星群になったり、長門が状況を説明する役割を一手に引き受けたりしてくれました。

ハルヒはキョンラブじゃないのか、という質問をされました。
個人的にクロスオーバーする世界のハルヒはキョンのことが好きだと思っています。

64 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/18(木) 02:21:24.32 ID:g4lxuVci0

でも自分の中ではハルヒはものすごく愛情深いと思っているので、自然とずっとキョンのことを応援する立場になりました。

ハルヒがただ常識的なだけなら……ふと世界を憎むようなことをかけらでも思ったのなら
もっと悲惨な事件があちらこちらで起こっているだろうな、と思い、ならハルヒは普段も世界につまらない、退屈だ、と
不満を抱くことはあっても今の世界で生きている人を心の底では大切に思っているんじゃないか、そう思いました。

65 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/18(木) 02:21:46.99 ID:N/veGISFP
>>62
それはぐらかされたから、きっと後半にハルヒの逆襲があるんじゃないかと思たわ

66 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/18(木) 02:24:36.10 ID:g4lxuVci0

ハルヒは結局自分が超人になりたい、なんてことは思わず、(私はよく妄想しますが)
ただ自分が一般人の立場としてそういう不思議にめぐり合いたいという立場を貫いていますよね。

これって、すごく操作的じゃないんですよね。自分が世界を裏技で世界を変えられると知っても、
きっとがっかりするんじゃないでしょうか。
なんだ、そんなことか。それじゃぁ世界はやっぱりもともとつまらないままで、私一人が特別なのか、と。

仲間が欲しい。そう思うと思います。

67 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/18(木) 02:28:37.79 ID:g4lxuVci0
>>65 逆襲するとしたら物語終了後なんだと思いますw
    そう思って何度も死にそうな目に、という一文を挟みました。
    鶴屋さんがキョン争奪戦に参加しているところを想像すると若干和みますw

そろそろ語り口がくどくなってきたので終わりにしたいと思います。

もういい加減三時前ですし、バッテリーもなくなってきました。



文庫一冊分、そうですね、カウントしてないですけどそのぐらいありますよね。

本当に長い間、それも夜の3時までお付き合いいただいて申し訳ないです。

本当に感謝しています。

68 名前:あとがきのようなもの おわり[sage] 投稿日:2010/02/18(木) 02:30:51.14 ID:g4lxuVci0

それでは、Capital Stayer Sincereの提供でお送りしました。



都留屋シンという名前を使い続けるかはわかりませんが、
どこかで見かけたらまたバカなことをやっているな、と嘲笑ってやってください。

それでは、またどこかで。






ありがとうございました。

70 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/18(木) 02:36:31.94 ID:g4lxuVci0
忘れていましたがdatファイルまとめになります。

つ ttp://www.dotup.org/uploda/www.dotup.org664104.zip.html
メモ帳からhtmlに変えれば見られると思います。

あとvipでpartスレがダメなのは知りませんでした、
そういえばないよな、とか後で気づきました。すみません。
そしてろだにうpできずにすいません……わかんなくて……。


それでは今度こそ、ありがとうございました。

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