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朝倉「ただ月が綺麗だったから…」2


朝倉「ただ月が綺麗だったから…」
の続きになります

431 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/30(日) 15:31:05.79 ID:CELa7gScO

2年生4月

短い春休みが終わり…入学式の季節だ

俺も涼子も、学校が始まりほんの少しだけ寂しさが埋まった…ように思えた

ハルヒ「おはよう、キョン」

キョン「ん…よう、ハルヒか。久しぶりだな」

ハルヒ「…そうね、アンタが最近活動に来ないから、余計そう感じるわね」

最近、休日に運悪く予定が重なってしまう事が多く、よくSOS団の活動を休んでいた

キョン「こっちも、忙しいんだよ。平日の活動は参加してるだろ?」

ハルヒ「土日の活動が本番でしょ? おかげで不思議探索も、滞り中よ」

432 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/30(日) 15:36:00.76 ID:CELa7gScO
キョン「…悪かったよ」

俺の中でも、優先順位がある

今は涼子が一番にいる…それだけだ

みんなにも、少しずつだが涼子の事は色々と話している

理解はしてくれているが…やはりたまに一人欠員が出るのは、微妙な心情なんだろう

特に目の前の団長にとっては

ハルヒ「…全く、あんたはいつも……」

キョン(ああ…涼子に会いたいな…今頃何をしているんだろうか…)

もうハルヒの言葉はあまり耳に入っていなかった

434 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/30(日) 15:40:20.75 ID:CELa7gScO
4月 佐々木

久しぶりの学校…外の風はとても暖かい

佐々木「好きだな、この空気…」

太陽が眩しい…一人学校への道を歩く

その前を歩いている人の中に…朝倉さんの後ろ姿を見つける

佐々木「…や…」

朝倉「はぁ…キョンに会いたいな…」

佐々木「…相変わらず、キョン一筋みたいだね」

朝倉「あ…佐々木さん、お…おはよう…びっくりしたわよ」

佐々木「おはよう。驚かせてしまったかな、ごめんごめん」

朝倉「ううん、大丈夫。今日は暖かいわね…学校に行くのも楽しみだわ」

佐々木「そうだね…また同じクラスになれるといいね」

朝倉「そうね、休み時間でいちいち教室移動するのも面倒だもんね」

…以前にあんな事があっても、彼女は変わらずに接してくれる

もちろん、恋愛的な進展は何も無いけど…

435 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/30(日) 15:44:26.14 ID:CELa7gScO
佐々木(諦めきれないけど…でも、彼女達の仲を壊す事はできないよね…)

これが以前からの正直な気持ちだった

今は…友達として彼女を見守っていられれば…

朝倉「でね…この前キョンに会って…料理作ってあげたのよ」

胸はずっと痛いけど…少なくとも、笑う彼女の姿を側で見られる

佐々木(これだけは…唯一キョンに勝っている事だから、ね)

言い聞かせるように、言葉を繰り返す

気持ちが彼女の近くにいられなければ、意味はないってわかっているのに

佐々木(…まったく、精神病だよ本当に)

そんな自分に少し苛立ちを覚えながらも、私は彼女の隣にいる

学校に着くと、私たちはまた同じクラスだった

佐々木(彼女と一緒に笑える日々が…また始まるのね)

それだけが、何だか虚しくて嬉しかった…

437 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/30(日) 15:49:11.86 ID:CELa7gScO
4月後半 キョン

新しい…と言ってもあまり変わりの無いクラスにも慣れ、俺はまたいつもと変わらない日常を過ごしていた

今夜も涼子との電話…これだけが平日の楽しみだ

キョン『…そう言えばどうだ、そっちの新しいクラスは?』

朝倉『んー、あまり人が変わらなかったから特に何もないわね。あ、佐々木さんも一緒よ』

キョン『佐々木か…あれから何かあったか?』

朝倉『ううん…いつも通りよ。よく話してくれる、いいお友達』

キョン『お友達ねぇ…まあ、何もないならとりあえず安心だ』

朝倉『うん、何かあったらちゃんと言うわよ』

キョン『そうだな…』

いつもの彼女との会話…でも、今回はちょっと違った

438 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/30(日) 15:52:32.21 ID:CELa7gScO
『―バタン』

?『…また電話してるのか!』

受話器越しに…扉の開く音と、男の怒鳴る声…

朝倉『…お父さん…勝手に部屋に入らないでよ!』

朝倉父『お前、最近の電話代がどれだけかわかってるのか!』
お互いの大きな声が電話から響いてくる…電話代の事は、俺も耳が痛い

朝倉『ちゃんと自分で払ってるじゃない! それで何が悪いのよ!』

朝倉父『そういう問題じゃないんだ…いい加減にしろ!』

…ブツッ

…ツー、ツー

そして、電話は一方的に切れてしまった

父親に切られた事は容易に想像ができた

439 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/30(日) 15:59:16.32 ID:CELa7gScO
ただ張るだけで大丈夫な部分は比較的すぐ貼れるんですが…

手直しある部分はどうしても時間かかるので、先にすいません



受話器の向こうでは、俺には何もする事ができず…

彼女に電話をもう一度する事も…やはり躊躇われた

時間はもう2時を過ぎた

高校生には、ちょっとした夜更かしの時間だ

そろそろ限界だ…おやすみメールだけしておくか

キョン『涼子大丈夫か…?俺はもう休むけど、平気になったらまた連絡してくれ。じゃあ、おやすみ。好きだよ涼子』

メールを送ったが、不安は残ったままだ…

…とりあえず眠る事にした

キョン(おやすみ、涼子…)

440 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/30(日) 16:00:54.84 ID:CELa7gScO
その夜 朝倉

夜…といってももう深夜の3時だ…

朝倉「おかしいな…キョンからメールの返事が来ない…」

朝倉「なんでメールくれないのよ…バカ…バカ……」

朝倉「…変よね、こんなの…携帯取り上げられたんだから、連絡なんてわかるわけないのに…」

朝倉「寝れない…寝れないよキョン…キョン…不安だよ……寂しいよ……」

電話は、両親の寝室に電源が切られた状態で置かれている…

取りにいく事もできない…いつ返してもらえるかも解らない…

朝倉「キョン…キョン……駄目だよ、私耐えられないよ…助けてよ…キョン…」

…結局、あれからずっと朝まで泣いていた

眠れない…眠れるわけがない…

441 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/30(日) 16:03:03.62 ID:CELa7gScO
窓…カーテンの隙間から光が漏れてくる

もう学校に行く準備を時間だ…
重い体をベッドから起こし、服を着替え出す…

居間には、もう両親が起きて朝食が並んでいた

朝倉母「あら、おはよう涼子、ご飯用意できてるわよ」

朝倉父「…」

朝倉「…今日は早く学校行かないとダメだから、もう出るわね」

朝倉母「早くって…まだ7時じゃない。それに何だか顔だって赤いし…」

朝倉「何でもないってば! いってきます…」

朝倉母「ちょっと、涼子…」

母の言葉も聞かず、私は家を飛び出す

…学校には、まだ誰もいなかった

朝倉「…学校に用事なんて、あるわけないのにね…」

時計は7時20分をさしている

始業まではまだ1時間以上ある…

444 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/30(日) 16:05:00.74 ID:CELa7gScO
朝倉「でも…こういう雰囲気も悪くないわね…」

ひんやりとした空気…窓からは爽やかな風が私の髪を揺らす…

朝倉「…キョンに会いたいな…連絡、欲しいな」

頭は自然と、彼の事を考えてしまう

手元には彼と唯一繋がる携帯電話が無い…それだけで、涙が出そうになる

朝倉「考えても、仕方ないわね…」

そのまま、机に突っ伏して…何も考えない時間に入る事にした…

…そのうち、教室に何人か生徒が入ってくる

佐々木「おや…早いね、朝倉さん」

その中には、佐々木さんの姿もあったようだ

445 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/30(日) 16:07:43.56 ID:CELa7gScO
声をかけられて、私は頭をあげる

朝倉「…おはよ」

佐々木「…どうしたんだい、その顔。目が真っ赤だし…クマもできてるじゃないか」

朝倉「ちょっと、ね……」

佐々木「訳あり、みたいだね…」

朝倉「うん…」

佐々木「よかったら、話聞かせてくれないかな?吐き出せば、楽になると思うよ」

朝倉「…あのね…」



佐々木「そう…電話を取り上げられちゃったんだ」

朝倉「うん…いつ返ってくるかもわからないし…何より連絡を取れないのがつらい…」

佐々木「自分が望んだならともかく…他人に好きな人と離されるのは泣いてしまうだろうね」

朝倉「昨日から、泣きっぱなしよ…」

佐々木「…もう、二度と会えないような気すら出てくるよね」

朝倉「うん…そんな感じね…」

447 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/30(日) 16:09:46.25 ID:CELa7gScO
…佐々木さんも、少し困ったような表情で私の事を見ている

佐々木「ふぅ…携帯を返してもらうしか、元気になる方法は無いみたいだね、」

朝倉「…とりあえず、帰ったらまた話してみる。連絡が全くできないのは、嫌…」

佐々木「…何かあったら、遠慮なく相談してね?」

朝倉「うん…ありがとう、佐々木さん」

佐々木「…朝倉さんの、そんな悲しい顔、見たくないからね…」

朝倉「ありがとう…ね…」

そこまで話すと、始業のベルが鳴った

…はっきり言って、その日の授業は先生が何を喋ってたか全く覚えていない

ノートも一枚もとっていない

今日だけは、早く家に帰りたかった…キョンにどうしても…近付きたかった…


448 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/30(日) 16:13:48.74 ID:CELa7gScO
朝倉「ただいま…」

と言っても、家には誰もいない…両親が帰ってくるのは夕方過ぎだ、しばらく時間がある

少し電話も探したが、やはり家には置いていないみたいだ

朝倉「なんだか疲れちゃった…」

昨晩は一睡もしていない…そして学校の後…疲れを感じる

朝倉「寝よ…」

そのままベッドに飛び込む



―コンコン

朝倉母「涼子、ご飯よ」

朝倉「寝てるの?大丈夫?」

朝倉「…んん…はぁい…」

部屋の外からの、母の声で目を覚ます

朝倉(あんま…食欲ないや…)

それでも、居間に向かって歩いていく

450 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/30(日) 16:15:34.90 ID:CELa7gScO
朝倉「…いただきます」

朝倉父「…」

朝と変わらず、父は何も話さない

私も何かを話す気はなく…黙々と食事を過ごす

『それでね……ハハハハッ…』

テレビからは、乾燥したような笑いが響いている

…今は何を聞いても楽しいとは思えない

私は黙々と箸を動かしているだけだ

朝倉「…あのさ、お父さん。携帯いつになったら返してくれるの?」

朝倉父「…」

朝倉母「お父さん…今朝話した時は返してあげるって…」

朝倉父「…親が家にいる間だけな。それと、しばらく電話は禁止だ」

朝倉「何よそれ…電話くらい…いいじゃない!」

朝倉父「しばらくは…ダメだ」

朝倉「しばらくっていつまでよ…明日?明後日?!」

451 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/30(日) 16:17:09.65 ID:CELa7gScO
朝倉父「しばらくだ…メールで我慢しなさい」

朝倉「…何でよ、電話代だって、ちゃんとバイトのお金で払ってるじゃない!」

朝倉父「深夜遅くまで電話、それがほぼ毎晩続く…そんな生活はダメだ許さん」

朝倉「学校だって…ちゃんと行ってるじゃない…!」

朝倉父「…でも、成績は少し落ちたな。勉強に支障が出ているんじゃあ、以前と同じというわけには行かないよ」

朝倉「…」

確かに、私の成績は以前と比べちょっとだけ悪くなっていた

でも今の私には…口撃する手段の一つにしか、聞こえない

朝倉父「…いいか涼子。何も携帯を解約しようってわけじゃない…ほんの少し使う時間を制限するだけなんだ」

452 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[age] 投稿日:2010/05/30(日) 16:21:29.05 ID:CELa7gScO
―解約

そっか…私の電話は親名義の携帯だ…

父親が店に行けば、すぐに電話は解約できる

…その言葉を聞いて、自分の中に新しい恐怖が浮かぶ

朝倉「解約は、嫌…」

朝倉父「時間で…使いすぎなければいいんだ。ほら…」

父はポン、と携帯をテーブルの上に置く

朝倉父「明日、学校に行く前には返すんだぞ」

朝倉「……」

453 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/30(日) 16:23:26.16 ID:CELa7gScO
すぐに携帯を取り、私は部屋に戻っていく

電源を入れる、懐かしい重量感が手にフィットする…

メールをチェックすると…一通、二通、三通…

全てキョンからだ

返せなかったおやすみメール…

学校に行く前のいってきますメール…

夕方、私の身を心配してくれているメール…

朝倉「キョン…」

すぐに私は、返信のためにメールをうつ…

454 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/30(日) 16:25:09.10 ID:CELa7gScO
同日 キョン

変だ…あれからメールが返ってこない

深夜のメールはともかく、朝と夕方…学校が始まる前と、終わった後でも返事が来ていない

思い当たる節は…父親との口論らしきやり取り

無理やり切られた電話…

そしてこれだけ時間が過ぎているという事は…携帯を没収された?

キョン「…涼子と連絡がとれないだけで、こんなに気持ちがザワザワするなんてな」

…それでも、いつか来ると思う連絡を信じて…俺は携帯を握りしめていた

―ピリリリリ

キョン「…!」

これは…メール、いや電話か?

携帯の表示を見ると…ハルヒからだった

キョン「なんだ、ハルヒか…」

がっかりしたとは言え、電話に出ないわけにはいかない

455 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/30(日) 16:27:16.56 ID:CELa7gScO
これが涼子だったらどんなに嬉しい事か…

―ピッ

キョン『…もしもし?』

ハルヒ『もしもしキョン?今大丈夫かしら?』

あまり大丈夫な気分ではない

キョン『ああ、どうしたんだ。いきなり電話なんて』

ハルヒ『連休…ゴールデンウィーク中の活動内容をちょっとね』

キョン『なんだよ…そんな事なら明日学校で話せばいいだろ?』

ハルヒ『本当は、今日話すつもりだったのよ。なのにキョンがさっさと帰っちゃうから…』

キョン『…ちょっと、居残りする余裕がなくてな。』

ハルヒ『ははぁ…また朝倉涼子ね』

キョン『…そうだよ、悪いかよ』

456 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/30(日) 16:29:42.99 ID:CELa7gScO
ハルヒ『別に悪いなんて言ってないわよ。ただ、そのおかげで確認だって取れなかったんだからね』

こういう気分の時は、些細な小言を言われても、気持ちが焦り不安定になる

キョン『…わかってる、悪かったよ。それで、ゴールデンウィークがなんだって?』

ハルヒ『今年のゴールデンウィークは、火、水、木曜日が3連休になるじゃない?』

ペラッ、とカレンダーをめくり確認してみる

キョン『ああ…月曜日と金曜日が厄介な週だな。それで?』


ハルヒ『それでね…活動に都合がいい日を今みんなに聞いているのよ。とりあえず日曜日から……』

…結局、ハルヒとはニ時間くらい話していた

月曜日と金曜日に学校はあるものの、放課後も含めて一週間丸ごと活動しよう、という結論になった

457 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/30(日) 16:32:03.59 ID:CELa7gScO
彼女に会いに行くには、その中で1日あればいい

一週間のうちに、1日くらいは活動を休んでも文句は言われないだろう

休みをもらうのは、いつもの事だ


キョン「ふぅ…なんだかんだで、話し込んじまったな」


改めて、メールを問い合わせする

…ピリリリリ

キョン「メールが…来ている?」

時間を見ると、電話をし出してから…10分ほど後


キョン「…涼子だ!」





458 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/30(日) 16:34:07.28 ID:CELa7gScO
俺はすぐにメールをひらく

朝倉『長い時間メール返せなくてごめんね。携帯親にとられてたわ。学校行ってる間は親に電話預けないといけなくなっちゃった』

朝倉『電話も禁止されちたから…夜しかメールできないの。しばらくは我慢しないとね』

キョン「…」

考えた通りだった。やはり親に携帯を使わせてもらえなかったらしい…

キョン「…夜の間だけ、か」

キョン『こっちも、返事が遅れて悪かったな。親に止められたなら、仕方ないな…とにかく、できるだけメール返すからさ』

…送信

459 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/30(日) 16:36:08.52 ID:CELa7gScO
メールはすぐに来た

朝倉『そうね。今は我慢するしかないわね…』

…短いメール。落ち込んでいる様子が手にとるようにわかる
キョン(よしてくれ…涼子がそんなに落ち込んでいたら…)

キョン『そうだな』

朝倉『うん…』

…お互い、1行のメール

朝倉『…今日はもう寝るね、おやすみなさい』



なんだろう、この気持ちは

電話が出来なくなったのは…どちらが悪いわけでもない

確かに、電話をし過ぎた自分たちのせい…自業自得なのかもしれない

俺はまだそれで納得はできる。多少の寂しさはあるが…

でも涼子は…親から電話を禁止され、携帯を持つ時間も制限されている

今日もすぐにメールを返せなかった…

気持ちが荒んでいくのは、なんとなくわかる

460 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/30(日) 16:38:27.06 ID:CELa7gScO
キョン「…本当は、俺が優しい言葉をかけるて支えるべきなんだろうな」

それなのに、自分もつられて寂しげなメールをしてしまった

キョン「…俺も寝よう」

その日は、なぜだかよく眠れた

胸には突っかかってるものが沢山あるのに…

462 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[age] 投稿日:2010/05/30(日) 17:44:29.35 ID:CELa7gScO
さる→居眠りしてました
やっぱさるはつらいんで、いつものペースで


起きて少しメールをして…

眠るまで少しメールをする…

涼子との連絡これだけになってから、数日…

そんなに日にちは過ぎてなかったと思う

相変わらず、どこか寂しい様子の涼子のメール

電子の文字が無表情のまま、画面に並んでいる

キョン『…連休中に会うなら、どこか遠出でもするか?』

朝倉『1日じゃあ厳しいわよ? 時間ができたら、ね』

464 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/30(日) 17:51:11.38 ID:CELa7gScO

なるべく元気に振る舞ってみても、彼女の反応はどこか寂しそうで…

朝倉『そろそろ…寝るね。おやすみなさい』

今日も…短い彼女との時間は終わった

何となく、言葉の裏に本音が隠れているのはお互いわかっている…

でも、本当に言いたい事を言えないような…そんなもどかしさがあった

歯切れの悪い生活…それが数日、続いてしまった

465 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/30(日) 17:57:01.90 ID:CELa7gScO
翌日…朝

―ピリリリリ

目覚ましとは違う電子音で目が覚める

この音は…メールだ

キョン(多分…涼子かな…)

時計を見ると…朝の5時か

朝倉『寂しい。ここから逃げ出したいよ…キョンに会いたい…家出したい…』

キョン(…何を言ってるんだ涼子…)

家出…その考えは全く無かったわけじゃない

でも俺たちは高校生だ

身の回りの色んなものを捨てて、大好きな人の所へ逃げていく…

そんな大それた事は考えが浮かんでも、口には出せなかった

外に出した所で…相手にかかる負担、周りに言った所で、絶対に変わる事のない日常

そのアンバランスさと優先度の不等号が…いつも自分の考えと言葉を遮っていた

467 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/30(日) 18:02:12.70 ID:CELa7gScO
それを…涼子今朝のメールで言葉に出してきた

少し意外なような…安心はしたような印象もある

でも…

キョン『おはよ。ちゃんと眠れたか? 連休中には会いに行くからさ』



朝倉『休みまで待てないよ…今日…すぐに会いたい…』

今日も明日も学校だ

…これは困った

キョン『…何かあったのか?』

朝倉『寂しい…会いたい…もう寂しい思いをするのは嫌だよ…』

キョン『家出したら、学校はどうするんだ?家族は?』

朝倉『もうなんでも…キョンがいればいい……』


469 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/30(日) 18:14:30.48 ID:CELa7gScO
キョン『……』

自分も密かに持っていた願望

この環境から逃げたしたい欲望

止めるという考えより先に、会いたい気持ちが出てきてしまう

キョン『…それでいいのか?』

朝倉『いい…会いたい…私、あなたについて行きます…』



この時の俺たちは…学校とか、友達とか…

明日の事も何も考えないで…寂しさを我慢する事も全部忘れて…

ただ彼女に会いたかった…

周りから見たら、とても愚かな事なんだろう

今の俺たちには、周りの言葉なんて何の関係も無い事だった

470 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/30(日) 18:18:12.06 ID:CELa7gScO
5月2日(月)

昼過ぎ 佐々木

学校

佐々木「朝倉さん、ご飯にしようか」

朝倉「そうね。食べましょう」

彼女は…心なしか軽い感じで昼食を机に広げる

その様子は、なんだが少し嬉しそうだ

佐々木「…何かいい事でもあったのかい? あ、携帯を返してもらったとか?」

朝倉「ふふっ…ちょっとね。携帯はまだだけど…もういいのよ」

もういい?

今まではあまり聞かなかった…彼女からは初めて聞くような言葉だ

佐々木「ふぅん? まあ、元気そうならよかったよ。明日から3連休だね」

474 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/30(日) 18:28:33.72 ID:CELa7gScO
朝倉「そうね。今週はあと金曜日に学校があるだけだから楽よね」

佐々木「やっぱり、連休中はキョンに会いに行くの?」

朝倉「…」

佐々木「ん、都合が悪い…とか?」

朝倉「まだちょっと…わからない、かな。キョンも忙しいみたいだし…」

彼女が少ししょんぼりとしてしまった

佐々木「ああ…ごめんごめん。でも休みがたくさんあるんだから、1日くらいは時間を作ってくれるはずだよ」

慰めるように、言葉を投げ掛ける


朝倉「…ふふっ、ありがとう。佐々木さんにはなんか心配して貰いっぱなしね…」

彼女の笑顔につられて、自分も少し安堵をする

佐々木(心配は…いらなかったかな? 朝倉さんに対して…ちょっと敏感になりすぎ、かもね)

476 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/30(日) 18:33:50.68 ID:CELa7gScO
不思議そうな顔を、自分もしていたんだろう

彼女も、ハッと私の方を見つめ直してくれる

朝倉「あ、ごめんね。なんだか変な話して…」

佐々木「…ううん、いいんだよ。人の話を聞くのは好きだからね」

朝倉「いつかちゃんとお礼もしないとね…」

佐々木「お礼なら…いつも朝倉さんが作った卵焼きを貰ってるから、それで十分だよ」

彼女の作る卵焼きは…おいしい

砂糖のきいた甘い卵焼き…それを一切れ食べるだけで幸せになれる


477 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/30(日) 18:38:41.43 ID:CELa7gScO
朝倉「そう…じゃあ、今日はこれ全部あげるわよ」

佐々木「全部…? 食欲無いの?」

朝倉「ううん、そんなじゃないわよ。今日のは佐々木に食べて欲しいの」

佐々木「くつくつ…じゃあ、遠慮なく…いただきます」

彼女からもらった卵焼き…
相変わらず美味しい…けど、今日は少しだけ砂糖が抑えられていた気がした

微妙に砂糖の量が違ったのか

私の味覚がいつもと変わったのか

彼女に何か変化があったのか

さっき…考える事をやめた私には、食事中に微かに沈む彼女の顔を見つける事は…

私にはできなかった

478 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/30(日) 18:43:25.28 ID:CELa7gScO
佐々木「じゃあ、よい休日をね」

朝倉「うん、さよなら佐々木さん」

彼女とは、いつものコンビニ…バイト先まで彼女を見送ってから別れた

明日から連休だ…何をして過ごそう

ちょっと遠出でもしようか、誰か友達と遊ぼうか…

朝倉さんと遊ぶのもいいかもしれない

そんな事を考えながら帰路につく



佐々木「ただいま」

家に帰ってきたものの…特別やる事があるわけでもない

カバンを置き、服を着替え…自分の勉強机に座る

佐々木(…ああ、そう言えば宿題も多目に出てるんだったな…)

480 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[age] 投稿日:2010/05/30(日) 18:50:56.77 ID:CELa7gScO
カバンから教科書を取りだし、ザッと目を通す

佐々木(…まあ、ちょっとだけ片付けておこうかな)

スラスラと、問題を説いていく

時間は…帰宅してから1時間が経っていた

佐々木「ふぅ…ちょっと休憩しようかな」

トタトタ、と台所の冷蔵庫に向かう

佐々木「あら…飲み物、何も無いじゃない…」

佐々木(買ってこなくちゃ…)

玄関を出て、彼女…朝倉涼子がいるコンビニに向かう

買い物のついでだ、少し話して行こう

私の舌は、彼女の卵焼きの味をまだ覚えていた

それくらい、今日食べた卵焼きはおいしくて、嬉しかった

481 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/30(日) 18:54:31.44 ID:CELa7gScO
―ピンポーン

店内に入り、辺りを見回す

いつものレジには、いつもの彼女の姿が…無い

佐々木「あら…」

佐々木(裏の仕事をしてるのかしら? でもこの時間はいつも一人だったし…)

つい1時間前に、このバイト先で別れたばかりだ

彼女がいないはずがない…

佐々木「あの…すいません」

店員「はい?」

佐々木「今日朝倉さんて、来ていませんか?」

店員「あー、朝倉さんね。あの子辞めちゃったんだよね。ほんの数日前にさ」

佐々木「え…」

辞めた?

彼女からは一言もそんな事は聞いてない

482 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/30(日) 19:04:31.49 ID:CELa7gScO
佐々木「あの…理由とかわかりますか?」

店員「んー…ちょっとわからないかな。特にトラブルも無かったから…」

佐々木「そうですか…」

とりあえずその場は、ジュースを2本だけ買ってお店を出た

佐々木(彼女に、連絡してみようか…)

しかし、携帯は持ってきていない

ここからだったら、家に帰るより朝倉さんの家に行く方が距離は近い

でもなんだか、今日は胸騒ぎがする

佐々木「…ちょっと行ってみよう」

483 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/30(日) 19:12:13.91 ID:CELa7gScO
―ピンポーン

急ぎ足で向かった、朝倉涼子のマンション

ここに来るのは…彼女に手を出してしまった、いつかの日以来…

ちょっと嫌な記憶がよみがえる…

―ガチャリ

朝倉母「はい?」

中からは彼女の母親が出てきた

何度か顔を合わせた事もあるので、お互いに知己の仲だ

朝倉母「あら、佐々木さん、こんばんは」

佐々木「こんばんは。あの、涼子さんいらっしゃいますか?」

朝倉母「あら、涼子は今日はバイトの日なのよ。ほら、あの大通りのコンビニで……」

佐々木(……)

484 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/30(日) 19:20:01.94 ID:CELa7gScO
朝倉母「なにか用事だった?」

佐々木「あ、いえ…ちょっと近くまで来たものですから」

朝倉母「そう、ごめんなさいね。来たこと伝えておくわね」

佐々木「…はい。連休が終わったら、学校で会えますしね」

朝倉母「そうね…じゃあ、体に気をつけて休日を過ごしてね」

佐々木「はい…お邪魔しました」



公園

ベンチに座って、さっきのジュースを一口…

佐々木「ふぅ……」

一息ついて、何もない空を見ている

辺りはすっかり暗い…

確証なんて無いけれど…多分、自分にはわかってしまったような気がする

佐々木「ああ…君はもうこの街にはいないんだね……」

486 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/30(日) 19:26:29.52 ID:CELa7gScO
同時刻 駅 朝倉

―ガタン、ガタン

夜を走る電車の中に私はいる

手には…ちょっとした荷物と、胸にいっぱいの不安

朝倉(キョンに…会いたい…)

会いたいからこそ、私はこうやって電車に乗っている

家族も、友人も、学校も…

全てを捨てて、私はここにいる

朝倉(…早く着かないかな…)

ただ彼に会う時間だけが待ち遠しい

でも、この数時間を乗りきれば…あとはずっと、キョンと一緒にいられる

朝倉(キョン…キョン…)

今からでは、向こうに着くのは0時近くになってしまう

それでも、大好きな人に会えるなら…残りの時間なんて、どうでもいい事だった

489 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/30(日) 19:35:24.96 ID:CELa7gScO
乗り換え駅

朝倉「あ…」

キョン「よう…おかえり」

彼がいる

ずっと会いたかった、大好きな彼が目の前にいる

朝倉「うん…うん…ただいま…」

キョン「…泣くなよ。ほら、とりあえず電車に乗るぞ」

グイッと彼は私の手をとる

朝倉「うん…」

490 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/30(日) 19:40:54.69 ID:CELa7gScO
―電車

朝倉「迎えに来てくれて、ありがとう」

キョン「いいんだよ。いつもあの駅で待ち合わせしていたからな…思い出の駅みたいなもんだ」

朝倉「思い出…本当ね…」

キョン「…携帯も置いてきたんだろ?」

朝倉「持ってて、連絡くると嫌だから…あ、キョンとのメールはちゃんと別に保存してあるからね?」

キョン「ああ…ありがとうな。今日からは、ずっと一緒だ」

朝倉「うん…思い出…キョンといっぱい作りたいな…」

キョン「ああ、ああ…一緒にいるんだ。これから、たくさん作ればいい」

朝倉「キョン……」

自分のワガママ…全部を受け止めてくれる彼の横顔…

やっぱり私は…彼に恋していたんだと…そう思った

491 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/30(日) 19:52:14.83 ID:CELa7gScO
地元駅 キョン

涼子と話していると、時間が過ぎるのがあっという間だ

もう、俺たちを最後の駅まで運んでくれた

キョン「着いたな…ほら、カバン持つぞ」

朝倉「あ…ありがとう」

時間はもう0時近く…人影は、あまり見当たらない

人目が少ない駅は…今の俺たちにはとても落ち着ける空間だった

…クリスマスの日の、駅を少し思い出してしまう

492 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[age] 投稿日:2010/05/30(日) 19:55:26.29 ID:CELa7gScO
朝倉「この時間なら、知り合いもいないわよね?」

キョン「さすがにこの時間じゃあな…誰か駅で待ち合わせでもしてれば、いるかもな」

朝倉「こんな時間に出歩く高校生も、なかなかいないわよね」

彼女はふふっ、と小さく笑う

…駅前で、待っていたハルヒの事が頭に浮かんだのは…涼子には秘密だ

キョン「…さ、いくか」

朝倉「うん!」

知っている道…家への帰り道を歩いていく

今日は涼子と一緒に、ゆっくりと…

493 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/30(日) 19:59:42.50 ID:CELa7gScO
朝倉「住んでいた地元でも…久しぶりに来ると、ちょっと懐かしい感じがするわね」

キョン「そうか?」

朝倉「うん。それに深夜だから、ちょっと雰囲気も違うし…ね」

キョン「確かにな…」

そんな話しているうちに、もう家の側まで来てしまった

キョン「っと…もう家か…」

朝倉「そうね…ねえ、本当に大丈夫なの?」

家出をするにあたって、まず涼子をどこに泊めるか…それがまず問題だった

一人でホテルに泊めるわけにもいかず…結局、家で匿う形となったのだが…

キョン「見つからないようにするから、大丈夫さ。家族に見られたら…ヤバいからな」

当然、家族には内緒だ

494 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/30(日) 20:07:33.98 ID:CELa7gScO
朝倉「うん…でもずっとキョンの部屋にいられるかなら…いいかな」

キョン「…ちょっと窮屈な思いさせちまうかもしれないけどな」

朝倉「キョンといられるなら…いい…」

キョン「涼子…」



キョン「ただいま…」

廊下には誰もいない…大丈夫…

言う間に涼子を部屋に走らせる

涼子が部屋に入った音が聞こえた

とりあえず…これで一安心だ

俺も部屋の扉を開け…中に入る

496 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/30(日) 20:13:56.12 ID:CELa7gScO
朝倉「もう、寂しい思いしなくていいんだよね…?」

キョン「ああ…一緒だ。ずっと一緒にいよう…」

朝倉「うん…うん……」

キョン「…もう、寝るか?」

朝倉「そうだね…もう1時だもんね」

キョン「…布団1つしかないけど、いいよな?」

朝倉「うん…一緒がいい…」

―ドクン

2人布団に入って…隣に並んでいる

キョン「涼子、ほら…頭」

朝倉「ん……」

彼女は頭をスッと、俺の腕にのせてくる

そのまま…彼女を引き寄せ、また腕にギュッと抱きいれる

朝倉「あったかい……」

キョン「布団の中に涼子がいる…いい匂いだ…」

497 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[age] 投稿日:2010/05/30(日) 20:19:45.12 ID:CELa7gScO
心臓がドキドキ言っている

朝倉「本当に夢を見てるみたい…」

キョン「涼子……」

そのまま、彼女にキスをする

朝倉「ん…」

少し…肩がフルフルと、揺れている

キョン「涼子…緊張してるのか?」

朝倉「ほんのちょっと…」

キョン「それなら…心臓の音をきくといい。ほら」

もう一度、彼女を抱き寄せる

今度は胸の位置に彼女の顔が来るように

朝倉「んっ…」

499 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/30(日) 20:27:00.44 ID:CELa7gScO
朝倉「ふ~ん…じゃあ、キョンちゃんも落ち着く?」

キョン「ん…」

朝倉「心臓の音…きく?」

キョン「あ、ああ…そうだな…」

朝倉「えへへっ、じゃあ…おいでおいで♪」

ピョコッ、と布団から頭を出した彼女が腕を広げる

その胸に吸い込まれるように…俺は頭を彼女の心臓にくっつけた

―トクン トクン

朝倉「きこえる…?」

キョン「ああ…落ち着く…」

確かに落ち着く…心地よい鼓動が俺の耳をとらえて離さない…

が…それ以上に…

心臓…つまり涼子の胸が俺の頬に当たっている状況が…俺の心臓をまた早くする

キョン「…柔らかい」

500 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/30(日) 20:35:04.92 ID:CELa7gScO
朝倉「私の胸?」

キョン「ああ…なんか、柔らかい…」

朝倉「えっちだ…」

キョン「…心臓がちょっと早くなったぞ」

朝倉「そ、そういうのは、言わなくていいのよ…ばか…」

キョン「おっ…また少し…」

朝倉「…! もうダメ。胸に耳くっつけるの禁止!」

プイッと…彼女は反対側を向いてしまう

キョン「…そうか、涼子はそっちの方がいいのか」

朝倉「え…あ……」

彼女が向こうを向いたまま…俺は涼子を後ろから、覆うように抱きしめる

501 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[age] 投稿日:2010/05/30(日) 20:38:46.89 ID:CELa7gScO
キョン「涼子は後ろからくっつかれる方が好きなんだな」

朝倉「……」

彼女の首筋が熱くなるのがわかる…

朝倉「キョン…余裕で襲ってるなフリしてるけどさ…」

キョン「ん……」

朝倉「心臓…すごい鳴ってるのがバレバレよ?」

…この言葉だけで、俺の余裕と優位な立場は崩されてしまった

…そのまましばらく、くっついて、抱きあって…今日が終わった

明日から涼子が一番近くにいる…

その日は、心が経験した事のないような幸せを抱えて眠った…

キョン「おやすみ、涼子…」

朝倉「おやすみ、キョン…」

503 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/30(日) 21:05:20.32 ID:CELa7gScO
5月3日 朝倉宅

―お父さん、お母さんへ

私は家を出ます

捜索届けは不要です
今までありがとうございました

こんな娘でごめんなさい

朝倉涼子


リビングの机には、娘からの置き手紙

朝倉父「家出なんて…馬鹿げてる…携帯の事が原因なのか?」

朝倉母「でも、携帯はここに…」

手紙と一緒には、携帯も置いてある

何かヒントになる事は無いかと思い、携帯を調べてみたがデータは何も残ってなかった

メール、履歴、電話帳…全て消去されていて、ここからは何もわからなかった

朝倉母「…とりあえず、お昼になったら涼子の友人に連絡してみますよ」

朝倉父「ああ…」

504 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/30(日) 21:13:30.72 ID:CELa7gScO
5月3日(火) 早朝

目が覚めて…隣に涼子がいる

キョン「夢じゃないんだな…」
朝倉「……」

腕の中で、彼女が寝息をたてている

もう一度、涼子を引き寄せ抱きしめる



次に俺に意識が戻ったのは、涼子に起こされて…だった

朝倉「あ…起きた?おはよう」

キョン「ああ…おはよ。もう…昼くらいか?」

朝倉「えへへ…寝顔見ちゃった…」

キョン「俺も一度起きたんだがな…涼子の寝顔を見るのを忘れてた」

朝倉「…見なくていいの。恥ずかしい…」

キョン「今度、意地でも見てやる…」

朝倉「もう…いいのよ、別に私の寝顔なんて」

2人笑い合いながら、目が覚めていく

506 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[age] 投稿日:2010/05/30(日) 21:21:51.49 ID:CELa7gScO
キョン「あ…」

朝倉「どうしたの?」

キョン「…今日からSOS団の活動があるんだ、そう言えば」

この3連休…結局毎日が活動、という予定になってしまった

彼女を迎えに行く事に一杯で…すっかり忘れていた

朝倉「そうなの…」


彼女は少し寂しそうな顔をする…

でも、俺の気持ちはもう決まっていた

キョン「…でも、涼子を一人にはできないからな。活動は休むよ」

朝倉「え…そんな…それは悪いわよ…」

キョン「いいんだよ。こっちは連絡一つでなんとかなる」

すぐに、俺は携帯で連絡をとる

…古泉に変わりに言って貰うのは、さすがに悪いか

ハルヒに電話をかける

508 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/30(日) 21:26:09.06 ID:CELa7gScO
―ピリリリリ

―ピリリリリ

ハルヒ『もしもし、キョン?』

キョン『ああ…今大丈夫か?』

ハルヒ『ええ、どうしたのよ?』

キョン『ああ、実はな…どうやら活動に参加できそうに無いんだ』

ハルヒ『…理由は?』

キョン『ちょっと、病気でな』

ハルヒ『その割には、元気そうじゃない?』

キョン『いや…昼は体調がいいんだが夜になると一気に悪くなるんだ。典型的な風邪だよ』

ハルヒ『ふーん…また朝倉涼子に会いに行くの?』

キョン『…行かないよ。風邪だからな』

ハルヒ『…まあいいわ。3日のうちで、治ったら参加しなさいよね』

キョン『ああ…悪いな』

509 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/30(日) 21:34:18.78 ID:CELa7gScO
ハルヒとの電話を終え、俺は携帯を置く

キョン「…ところで涼子」

朝倉「なにかしらキョンくん?」

キョン「電話の間、ずっと抱きついてるのはやめてくれないか?」

彼女は後ろからくっついたまま、俺を離さない

朝倉「昨日のお返しよ。それに…他の女の子と話しているのが悔しいんだもん…」

キョン「…くっついてるんだから、いいだろ。それに俺は涼子以外に興味は無い」

朝倉「…」

キョン「な?」

朝倉「うん……」

そのまま…また布団の中で抱き合っていた

…とは言っても、下に家族がいる以上、俺は部屋にこもりっぱなしというわけにも行かない

510 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/30(日) 21:40:13.35 ID:CELa7gScO
時間も適度なところで、居間に向かい家族と顔を合わせる

この間も涼子は部屋にいるが…部屋から一人で出る事はない

妹にも、前日から部屋には入らないように言ったので…とりあえずは大丈夫だろう、多分…

キョン(あとはご飯とか、風呂のタイミングだな……)

まだ、涼子と一緒にいられる…連休は始まったばかりだ…

511 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/30(日) 21:46:50.45 ID:CELa7gScO
同日 昼過ぎ 佐々木

―プルルルル

家の電話が鳴る

佐々木『はい、もしもし佐々木です』

朝倉母『あ…もしもし。朝倉涼子の母ですが…佐々木さん?』

電話は、朝倉さんの母親からだった

その様子は…慌てて疲弊している事が声から何となくわかる

いい予感はしない

佐々木『…はい。どうかしましたか?』

朝倉母『実はね…涼子が…家出、してしまってね……』

佐々木『家出ですか……』

朝倉母『そうなの…それで誰か友達の家に行ってないかと思って…』

佐々木『いえ…家には来てませんね』

朝倉母『そう…バイト先もね、少し前に辞めていたみたいなのよ…家出した日にはまだバイトしてたと思ったんだけど…』

佐々木『ああ…昨日私がお宅にお邪魔した時ですね』

512 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/30(日) 21:50:47.07 ID:CELa7gScO
朝倉母『ええ…佐々木さんなら何か知ってると思ったんだけど…』

佐々木『私も、何も聞いてないですね…何かわかったら、連絡しますよ』

朝倉母『ありがとうね。涼子、携帯も家に置いたままでね…だから心当たりある人に聞くしかないのよ』

佐々木『…友達に聞いてみますよ』

朝倉母『ええ、お願いね佐々木さん…』

―ガチャン

513 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/30(日) 21:58:18.38 ID:CELa7gScO
佐々木「ふう…」

何となく予想はしてた

でも、彼女はもうこの街にはいない

それが何だか、とても悲しかった

佐々木「何を考えてるんだろうね、私は…」

佐々木「彼女のいる場所が…何となくわかってしまうよ…」

でも…

佐々木「どういう風に行動すればいいか…わからないよ…」

素直な自分の気持ちを推すか…

彼女の気持ちを優先するか…私はまた悩み出してしまう

佐々木「近くにいないから、特に…ね」

悩ましいこの連休は…まだ始まったばかりだ

514 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/30(日) 22:02:09.12 ID:CELa7gScO
同日深夜 キョン

もう日付も変わった頃…俺たちはそっと部屋を出た

涼子を風呂に入れるためだ

この時間なら妹はもちろん、親も寝静まっている

キョン「さ…なるべく早めにな」

朝倉「うん、ありがと」

キョン「俺は外で見張ってるからな」

朝倉「わかった。覗かないでね…?」

キョン「…気が向いたら、見ちゃうかもな」

朝倉「…えっち」

キョン「冗談だよ、ほら、向こうむいてるから」

俺は涼子に背を向ける

背中からは、衣服が擦れる音…彼女が服を脱いでいる音が聞こえる

なんだか余計に官能的だ

515 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/30(日) 22:09:27.75 ID:CELa7gScO
朝倉「ふぅ…気持ちよかったわ」

キョン「ああ。よかった」

朝倉「ええ…あ、ドライヤーなんて使えないわよね…?」

キョン「ドライヤーか…下から持ってくるよ。音も響かないだろうし…大丈夫だろう」

朝倉「ありがと。ごめんねワガママ言っちゃって」

キョン「いやいや、女の子はそういうのが大事なんだろ。何となくわかるよ」

そう言って、洗面所からドライヤーを持ってくる

彼女が髪を乾かすその姿が…なんだか新鮮だ…

朝倉「ん…どうしたの、そんなに見ちゃって?」

キョン「女の子のそんな仕草見たこと無いからな。珍しいんだ」

朝倉「…変なキョン」

516 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/30(日) 22:14:56.56 ID:CELa7gScO
キョン「なんか、俺はそういうのが好きみたいだ。女の子の日常って言うか…上手くは表現できないが」

朝倉「ふうん…」

彼女が少し顔に難色を示す

キョン「あ…いや、女の子というより、涼子の普段の姿が見れるのが嬉しいんだ。これは本当の気持ちだ」

朝倉「…そういう、ハッキリ言ってくれる所、好きよ」

キョン「ああ。本当だから、逆に恥ずかしくはないんだ」

朝倉「うん……」

彼女はもう髪を乾かし終えて…一息ついている

湯上がりの女性は、普段とはまた違った色っぽさがあるものだ

朝倉「…さ、もう寝ましょうか」

キョン「あ、ああ…」

2人…慣れた感じで布団に入る

まるでもうずっと前からここに一緒にいたように…

518 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/30(日) 22:20:51.99 ID:CELa7gScO
朝倉「じゃあ…おやすみなさい」

キョン「ああ…おやすみ涼子」

朝倉「チュー…」

キョン「……」

朝倉「おやすみのチュー…して?」

腕枕をしながら、ゆっくりと唇を重ねる…

キョン(風呂上がりの唇って、冷たいんだな…)

冷たい唇、暖かい体…

また彼女の心臓の音を聴きながら、眠った…

519 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/30(日) 22:32:23.69 ID:CELa7gScO
5月4日(水) ハルヒ

時間は午後1時

太陽がポカポカ暖かい

絶好の探索日和…なのだが…

自分の目線は、携帯の無機質な画面だけを見つめていた

もしかしたら、彼から連絡が来るかもしれない

でも…私の電話は一向に変化する様子が無い

ハルヒ「ふん…今日もあのバカは休みかしら」

古泉「そうみたいですね…」

朝比奈「心配ですね…」

長門「…軽度の風邪の場合、1日休めば症状は回復。完全回復には2~3日が必要」

ハルヒ(電話の様子じゃあ、平気そうだったのに…)

古泉「…さて。今日はどうしますかね。昨日に続いてまた隣町まで…」

ハルヒ「決めた…キョンのお見舞いに行きましょう!」

古泉「おや…」

521 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/30(日) 22:42:45.04 ID:CELa7gScO
朝比奈「お見舞いですか、いいですねー」

長門「…私は賛成」

ハルヒ「じゃあ、ちゃっちゃと行きましょうか。あ…その前に、何か買っていきましょう」

古泉「そうですね。お邪魔するわけですし…では、僕が彼に連絡を入れておきますよ。いきなりも悪いですからね」

ハルヒ「わかったわ。買う物は…どうしましょうか、みくるちゃん」

朝比奈「そうですねぇ…食欲が無さそうならみかんの缶詰めとかですけど…」

ハルヒ「一応缶詰めと…お菓子でいいかしらね。すぐに食べなくても、お土産みたいな感じでね」

朝比奈「そうですね。では、早速買い物に行きましょう」

長門「……」

古泉「ふふっ、ではこちらも……」

―ピリリリリ

523 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/30(日) 23:04:39.81 ID:CELa7gScO
―ピリリリリ

ピッ

谷口「もしもし? 珍しいな、どうしたんだ?」

古泉「おや……」

表示された電話番号を見返してみる

…そこには彼の番号では無く、以前クリスマス会の時に番号を交換した相手『谷口』の名前があった

古泉「これは…すいません、どうやら間違い電話をしてしまったようでして…」

谷口「お、そうなのか。おおかた、キョンとでも間違ったか?」

古泉「すいません。彼が体調が悪いという事でお見舞いをしようと…」

谷口「お見舞い…あいつ、具合悪いのか?」

彼に今日の事を説明する……

谷口「そうか…」

古泉「ええ、そういう事ですから……」

谷口「それなら、俺も参加していいか?」

古泉「あなたが?」

525 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/30(日) 23:19:07.70 ID:CELa7gScO
谷口『ああ、暇なんだよ。あ、国木田も誘ってみていいか? あいつと連休中どこか出かけたいとも話してたんだよ』

古泉『ふむ…少々お待ち下さい』

友人間の事とはいえ、一応はSOS団の活動、団長の許可が必要…ですよね

ハルヒ「いいじゃない。その2人も呼びましょう」

古泉『…というわけです』

谷口『うっし。じゃあ国木田にも連絡して……』

古泉「…というわけで、2名追加になります」

ハルヒ「一気に賑やかになったわね。じゃあ、こっちも買い物をして……」

朝比奈「あ、あの涼宮さん…一つ提案が…」

ハルヒ「ん、何かしら?」

朝比奈「その2人が来るなら、鶴屋さんもお誘いしてもいいですか?」

530 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[age] 投稿日:2010/05/30(日) 23:35:35.07 ID:CELa7gScO
ハルヒ「…今さら、一人増えても変わらないわよね。よしっ、許可するわよ、みくるちゃん」

朝比奈「はい~。じゃあ私も連絡を……」



最終的には、以前行ったクリスマス会のメンバーが再び集まった

ハルヒ「今度は…キョンもいる…」

長門「……」

朝比奈「何か言いました?」

ハルヒ「な、何でもないわよ! さっさと行くわよ。時間がもったいないわ」

朝比奈「は、はいぃ……」

古泉「では、行きましょうか」
…他の人間に電話をした事によって、その時僕は…

肝心の彼に、連絡をとるのを忘れてしまっていたのでした


長門「……危険」

533 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/30(日) 23:50:27.27 ID:CELa7gScO
キョン宅

少し遅い昼食を、一人で食べている

涼子は、食欲があまりないから、俺一人居間で食事をすませた

今日はどうしようか…と言っても、部屋に戻って涼子とくっつく。それだけだ

穏やかな気持ちで…食後のお茶をすすっている…

―ピンポーン

妹「はいはーい」

妹が、とてとて、と玄関に向かって行く

妹「キョンくん、はるにゃんたちがきたよー」

キョン「…ゲホッ、ゲフッ…! ハルヒ…なんでだ!」

緑茶が気管の嫌な部分に入る…熱さは感じない

ハルヒ「なによ、やっぱ元気そうじゃない」

古泉「すいません、お邪魔します」

朝比奈「こんにちは、キョン君」

長門「……」

538 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/30(日) 23:58:52.17 ID:CELa7gScO
谷口「よ、お見舞いだ」

国木田「お邪魔するよ、キョン」

鶴屋「風邪だってね~、大丈夫かい?」

SOS団だけならまだしも、谷口や国木田…鶴屋さんまで…

ハルヒ「ほら、お見舞い品買ってきたから…あがって大丈夫よね?」

あがる? 部屋?

キョン「ま…待った! 部屋はダメだ! 断じてダメだ!」

ハルヒ「なによ…ははぁ、変な本でも広げっぱなしなのね、イヤらしい」

蔑んだような目でハルヒが見てくる…その怒りが変な本ですむのなら、今なら喜んで差し出そう

キョン「ち…散らかってるんだ! とにかく…ちょっと待ってろ、すぐ片付けるから!」

ハルヒ「別に気にしないわよ、みんなが座れれば……」

539 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/31(月) 00:07:53.86 ID:VCzSJ9p1O [1/79]
長門「……」ツンツン

話しているハルヒの裾を、長門が小さく突っついた

ハルヒ「なによ…待った方がいいっていうの?」

長門「……」コク

ハルヒ「はあ…有希が言うんじゃ仕方ないわね。待ってるから、さっさと片付けてきなさいよ」

キョン「すまないな…(ありがとう、長門)」

ダダダッ、と早足で部屋に戻り…涼子に知らせに行く

朝倉「…困ったわね…」

キョン「そうなんだよ…ベッドにずっと入ってるわけにもいかないし…見つかっちまう…」

朝倉「……」

キョン「…涼子。トイレは大丈夫か?」

朝倉「え…う、うん…」

キョン「水分は? 空腹は?」

朝倉「大丈夫…だけど……」

キョン「じゃあ…頼む……」

546 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/31(月) 00:21:42.15 ID:VCzSJ9p1O
ハルヒ「お邪魔するわよ」

鶴屋「おじゃまっさ」

キョン「あ、ああ…適当に座ってくれ」

古泉「ふふっ、これだけの人数がいるとギリギリですね」

…とっさに、彼女と荷物を押し入れに隠したが…大丈夫だろうか

朝比奈「お見舞い品、たくさん買ってきたんですよ」

出された品は、スナック菓子にジュース…そして、桃缶とみかんの缶詰め等だ

キョン(本当に…お見舞いなんだな)



547 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/31(月) 00:29:46.67 ID:VCzSJ9p1O
国木田「僕たち3人は緊急参戦だったんだけどね。涼宮さん達に無理行って連れてきてもらったんだよ」

谷口「いやぁ、古泉からの間違い電話でな…キョンと俺を間違えたんだとさ」

古泉「今から向かう連絡をあなたにしようと思ったんですがね…まったく、迂闊でしたよ」

キョン「肝心の、俺に連絡が来てないんだが」

古泉「…そう言えば、忘れてしまったようですね。すいません」

キョン(お前のせいか……)

…なんだかんだで、友人が集まれば話は盛り上がるもので…

いつも通りの、賑やかな空間が広がっている

押し入れに隠れている涼子にも、この会話は全部聞こえているので…少し気持ちはドキマギしていたが…

548 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/31(月) 00:41:33.37 ID:VCzSJ9p1O
谷口「…そうだキョン!」

何かを思い出したかのように、いきなり谷口が叫び出す

キョン「な、なんだ谷口……」

谷口「お前…朝倉涼子とはどうなってるんだ。最近何にも聞いてないぞ!」

朝倉『……!』

キョン「な、な…何いってるんだい、谷口さんよ…」

国木田「ここに来るまで、ずっと言ってたんだよ。今日はいい機会だから、ってさ…」

鶴屋「…そう言えば、クリスマス会の時に尋問するって誰か言ってたねぇ」

キョン(クリスマス会…ああ、俺がいなかった時…)

谷口「そう! その辺りも全部含めて…白状したらどうだ、キョン?」

キョン「そんな事おおっぴらに言えるか!」

谷口「いいだろ別に! 何言っても、本人に聞かれるわけでもないんだぜ?」

キョン(聞かれるんだよ…いるんだよここに…)

553 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/31(月) 00:56:17.78 ID:VCzSJ9p1O
鶴屋「いやぁ、実は鶴屋さんも、ちょこっと興味があるんだよ。遠距離恋愛って、どんなかなぁ、って」

キョン「鶴屋さん…」

朝比奈「わ…私も個人的に…聞いてみたいなあ…なんて…」

キョン「…はぁ…」

みんなの目は一斉に俺の方を向いている

俺だけは、涼子がいる押し入れの方向…

朝倉『……』

長門「……」

ちょうど、長門の後ろにいる、姿の見えない涼子の方を向いていた

キョン「やれやれ……」

観念して俺は…少しずつだが、涼子との恋愛模様を話す事にした

鶴屋「それでそれで…どんな恋愛なんだい!」

朝比奈「や、やっぱり大変なんですか? どうなんですか!」

…心なしか、鶴屋さんと朝比奈さんが興奮している



554 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/31(月) 01:07:09.02 ID:VCzSJ9p1O
キョン「大変…確かに、大変かもしれませんね。あまり会えないですし…」

鶴屋「会う時は?」

キョン「お互い真ん中の距離の駅で…朝早くに出掛けて、夕方帰ってきますね」

ハルヒ「SOS団の活動も、それくらい熱心だと助かるんだけど?」

谷口「ままま、おさえて涼宮さん。で…クリスマスはお泊まりしたのか?」

キョン「は…何でお泊まりなんだよ」

古泉「…出掛けた時間を考えると、帰ってこられる可能性が見えなかったので…そういう会話になったんですよ」

キョン「勝手な事を…。その日は……」

ハルヒ「……」

ハルヒの事がチラッと頭をよぎってしまい…言葉につまる

鶴屋「や、やっぱりお泊まりだったのかい!」

朝比奈「大胆ですぅ…」

555 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/31(月) 01:20:01.56 ID:VCzSJ9p1O
キョン「…ちゃんと、帰ってきましたよ。終電ギリギリでしたけど、ね」

国木田「ははっ、残念だったね谷口」

谷口「チッ…」

ハルヒ「……」

鶴屋「…その薬指のそれ。その時彼女からもらったプレゼントかい?」

鶴屋さんが、俺の左手を指差して言ってくる

キョン「ああ…これは俺があげたんですよ。その…ペアリングって…やつで……」

ハルヒ「……!」

谷口「学校でも、いつもつけてるもんな、それ」

キョン「…外す事に、段々抵抗が出てきてな」

古泉「体の一部、という感じですよね」

谷口「はぁ…俺もそんな大事な彼女が欲しいもんだぜ…」

国木田「まずは相手から探さないとね」

鶴屋「ふふっ…仲よくやってるみたいだね、キョン君」

ハルヒ「……」

556 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/31(月) 01:31:19.72 ID:VCzSJ9p1O
そんなこんなで、時間は過ぎていく…涼子も、無音で押し入れに入ったまま…このまま平和に終わりそうだ

ハルヒ「そろそろ…帰る時間かしらね」


谷口「聞きたい事…まだあったのにな…」

国木田「また、次の機会でいいじゃないの?」

キョン(次があってたまるか……)

鶴屋「ふふっ、またこのメンバーで尋問っさね」

古泉「では…これで失礼しますよ?」

長門「……」

ぞろぞろと…みんな部屋を出ていく

キョン「…見送りするか。涼子、もう少しま……」

ハルヒ「…何、一人で喋ってるのよ」

キョン「うおっ!」

ハルヒだけが一人…部屋に戻ってきている

今のを聞かれただろうか…?

559 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/31(月) 01:47:09.26 ID:VCzSJ9p1O
キョン「なんだハルヒ…忘れ物でもしたか? ん?」

焦っている…早口で訪ねてしまう

ハルヒ「ちょっと…話したい事があっただけよ。みんなの前だと…ちょっとね」

キョン「…何だよ、話したい事って」

先ほどの会話は、気にしていない様子らしい

ハルヒ「キョンがあれだけ話してくれたから…私も、少しお話……」

キョン「……」

ハルヒ「えっとね…クリスマスの日に、会ったわよね。あの時…私すごい嬉しかったんだよ…」

キョン「……!」

朝倉『……』

ハルヒ「本当はクリスマス会なんて夜9時くらいに終わって…ずっと電車待ってて…でも、キョンが来なくて…」

ハルヒ「なんで自分で…もあんな時間まで駅にいたかなんてわからないのよ…! 会いたいって願ったら…キョンがタクシーからおりてきて…それで……」

564 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/31(月) 02:03:56.69 ID:VCzSJ9p1O
ハルヒも、焦っているのか知らないが…言葉がとても多くなっている

ハルヒ「…その指輪だって、朝倉涼子から貰ったとばかり…思ってた…だから、見た瞬間…」
キョン「渡すのを…戸惑ったと…?」

ハルヒ「…なんか、悔しかった。わかってたのに…キョンには恋人がいるってわかってたのに…やっぱり…実際に付き合っている形を見ちゃうと…」

キョン「……」

ハルヒ「バカみたいよね…。プレゼントしたいって思ってたのに、結局…渡せなくて、そのまま…」

キョン「あのさ、ハルヒ……」

ハルヒ「でもね! いいのよ、もう…キョンの気持ちを聞けたから…私も…思ってる事今言えたから…」

565 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/31(月) 02:06:39.24 ID:VCzSJ9p1O
すいません、お早い方はお休み下さい
ここは書きだめしてある部分じゃないんです……
どうしても、時間かかってしまいますので、それだけ…すいません

568 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/31(月) 02:14:32.98 ID:VCzSJ9p1O
クリスマスの彼女の独白…

多分、俺だけに伝えたかった事を…もう一人が聞いてしまっている…

ハルヒ「ねえ…もう一回だけ聞かせて? あなたは…朝倉涼子が好き?」

…それはとてもシンプルで…胸に響く質問だった

キョン「ああ…俺は朝倉涼子が好きだ…。今は…涼子しか見えないんだ…」

涼子『……』

ハルヒ「…うん、ありがとう…しっかり聞いたから…ね?」

キョン「ああ……」

ハルヒ「じゃあ…私も行くわ。みんなを待たせているしね…」

キョン「気をつけて帰れよ。今日はお見舞い、ありがとう…な」

ハルヒ「どういたしまして。元気になって学校来なさいよ」

彼女はしっかりした足取りで出口に向かっていく…

ハルヒ「あ、それと……」

キョン「まだ何かあるのか?」

569 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/31(月) 02:24:15.93 ID:VCzSJ9p1O
ありがとうございます、の一言です


ハルヒの足が…途中でピタッと止まる

ハルヒ「…彼女にも、ごめんなさいって、一応謝っておくわね」

キョン「彼女……?」

ハルヒ「押し入れの中の彼女よ? 古泉君がちゃんと連絡していれば、私たちがみんなで来る事はなかったんですもの」

押し入れ…ハルヒはピンポイントで場所を言い当てる…

キョン「…なんで、知ってるんだよ…?」

ハルヒ「部屋に入った瞬間…女の子の匂いがしたのよ。意外と部屋に残るのよ?」

キョン「そ、そんな…」

ハルヒ「それにアンタ…押し入れ見すぎ。そわそわした様子でさ…最初はあまり気にしなかったけど…朝倉涼子の話題が出るたびに…」

キョン「……」

570 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[age] 投稿日:2010/05/31(月) 02:32:40.34 ID:VCzSJ9p1O
ハルヒ「ふっ…アハハッ! 冗談よ!」

そう笑いながら…優しい笑顔でこっちを見つめてくる

ハルヒ「最初の匂いと押し入れも気になったけど…さっきの会話聞いちゃったのよ。それで確信になって、ね?」

キョン「…マジかよ…」

ハルヒ「ちょっと…フザケすぎたわね、ごめん。でもね…彼女にもちょっと聞いて欲しかったの、私の気持ち…」

朝倉『……』

ハルヒ「あなたがここにいる理由はわからないけど…よっぽどキョンに会いたいから、ここにいるのよね」

キョン「ハルヒ……」

ハルヒ「クリスマスの日にできなかった、お泊まりできてよかったじゃない。お幸せに…ね? 嫌みなんかじゃないわよ? これも本音…」


572 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/31(月) 02:41:24.40 ID:VCzSJ9p1O
キョン「泊まりまで…わかるのか?」

ハルヒ「…机の上のドライヤーと、女の子用の髪櫛。櫛はカバンに大抵しまうもの…出しっぱなしなのは、日常的に使っている証拠よ」

キョン「片付け忘れた…俺も迂闊だったよ」

ハルヒ「ま…細かい事は聞かないわ。じゃあ…またね、キョン。さよなら、朝倉さん」



今度こそ、ハルヒは行ってしまった…

結局彼女には…涼子が見つかってしまった。話をして…気持ちも全部見せつけられてしまった…

キョン「りょ……」

押し入れの中の名前を途中まで呼んだ時……

長門「……」

キョン「…今度は長門か。何か、話し忘れたことか?」

長門「忘れ物……」

…長門はそう言って、座っていた近くに置いてあった携帯を拾い上げる

573 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[age] 投稿日:2010/05/31(月) 02:49:52.10 ID:VCzSJ9p1O
長門「この、携帯電話を…」

涼子『……』

キョン「…そうか。長門も…知っているんだろ?」

長門「……」コク

キョン「そうだよな…わざわざ押し入れの近くに座ってくれたんだ…」

長門「あなたたちの恋愛に口を挟む気は無い…本人同士の気持ちが何より大事……」

キョン「ああ…ありが…」

長門「でも…彼女は携帯電話と一緒に、大切な物を忘れてきた気がする…」

キョン「忘れ…物? なんだよ、それは…」

―バンッ

涼子「私が、何を忘れてきたって言うのよ?」

キョン「涼子…!」

彼女が、押し入れから出てくる…

冷たい…氷のような表情で、長門の事を見ている…


574 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/31(月) 03:01:29.70 ID:VCzSJ9p1O
長門「……」

朝倉「…私には、その忘れてきた物がわからない。長門さんはそれを知っているの?」

長門「話を聞いただけだから…はっきりとはわからない…でもそれは…」

長門「多分、2人にとって…大切な忘れ物…」

キョン「俺たちに…?」

朝倉「……」

長門「それだけ…さよなら……」

キョン「ま、待てよ長門…」

彼女は振り返らずに…そのまま部屋を出てしまう

さっきまで大勢いた人間が、今はただの2人…

扉を閉めて…この部屋はまた、また2人だけの閉鎖された空間に戻っていった

576 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/31(月) 03:13:26.75 ID:VCzSJ9p1O
深夜

布団でまた俺たちは眠っている

二人とも、同じ天井を見つめて…多分、同じ事を考えている

朝倉「ねえキョン…長門さんの言ったこと…」

キョン「ん……」

やっぱり、同じみたいだ

朝倉「忘れ物…何なんだろうね?」

キョン「俺も少し考えたんだ…でも、全くわからない…」

朝倉「そうよね…。携帯電話…あとは、両親…?」

キョン「親…そうなのかな…?」

忘れ物…抽象的すぎるその言葉は、俺たちの頭の中でずっとぐるぐると回っていた

577 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/31(月) 03:14:18.91 ID:VCzSJ9p1O
考えてもわからない…哲学のような…

いや、多分答えはちゃんとあるんだ…

長門はそれをわかっているようだった…

自分で勝手に哲学にして、わからない答えを誤魔化しているだけだ…

朝倉「いつか…わかるのかな?」

キョン「わからない…でも、二人にとって大切な物なら…二人で考えていけば、いつか見つかるさ…多分な」

朝倉「キョン……」

ギュッと…彼女が暗闇の中で手を握ってくる

そろそろ眠気も襲ってくる…

見えない答えを探すのをやめて…俺たちは夢の中に旅立っていった…

578 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[age] 投稿日:2010/05/31(月) 03:16:27.29 ID:VCzSJ9p1O
5月5日(木) 佐々木

この3日間…ずっと胸がざわざわしている

不安定な気持ちは相変わらずだ

佐々木「ふぅ…」

やはりメールも電話も、返っては来ない

佐々木「…どうしようかな」

迷っている、自分は…何をどうするか

彼女のために何をすれば一番いいのか

自分の気持ちをどう行動にうつせばいいのか…わからない

佐々木「ああ…遠距離恋愛ってこんな気持ちなのかな」

歩いて行ける場所に彼女はいない


佐々木「それなら…手の届く距離まで…」

佐々木「私に…それができるの? 私がそれを…していいの?」

579 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/31(月) 03:28:24.05 ID:VCzSJ9p1O
5月6日(金) キョン

3連休も終わり…今日から学校だ

布団の中にいる涼子を横目に、俺は学校へ向かう準備をする

キョン「…じゃあ、いってくるよ涼子」

朝倉「ん…いってらっしゃい…」

布団の中から、彼女は唇をんー、とつき出す

キョン「…ほら、いってきます」

―チュ

朝倉「うん…いってらっしゃい」

彼女は満足そうに、また布団の中へ潜っていった

キョン「ああ…いってきます」

あれから、俺と涼子でずっと忘れ物について考えていた…

キョン(2日でわかるはずもない…か)

ただ学校に行って、涼子の待っている部屋に帰る…俺の今の生活は、これだけだった

580 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/31(月) 03:36:57.14 ID:VCzSJ9p1O
女子校 佐々木

始業時間前…3日ぶりの学校

私はまだこの街にいる

もしかしたら、彼女が帰ってきているのかもしれない

そんな期待を抱いていた

…私は、まだ気持ちのどこかで臆病だったんだろう

朝のホームルームで、彼女…朝倉涼子の名前が呼ばれる

しかしその席に彼女はいない

欠席理由は、軽い風邪と先生は言っていた

自分の隣に彼女がいない

恋愛的な意味合いとは違うけど、彼女がこの空間にいないのが堪らなく不安だった

佐々木「やっとわかったよ…私も、バカみたいだね」

ホームルームの途中…席を立ち上がり、発言する

佐々木「先生、大事な用ができたので早退させて下さい」

582 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/31(月) 03:39:20.98 ID:VCzSJ9p1O
佐々木さんの事調べたら、確かに男性には僕で、女性には私と、女言葉で…とありましたね

色々曖昧でしたね、失礼しました



気が付くと、私は電車に乗っていた

今から、とてもとても遠い…自分にとっては懐かしいあの街に向かう電車に…

学校のある日に、こんな風に電車に乗って何処かへ行く

何かから解放された、まるで旅のような気分だった

彼女に会いに行く…小さな旅

佐々木(…ここからどれくらいで着くんだろうね)

まだ電車は走り出したばかり…

知らない駅を、私の鼓動は駆け抜けていく…

584 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/31(月) 03:45:22.06 ID:VCzSJ9p1O
北高 キョン

キョン「…まだ昼、か」

ハルヒ「今日またいな日は、もうお昼休みって言うんじゃないの?」

今日は特別に、学校に流れる時間がゆっくりな気がする

それもこれも…部屋で涼子が待っている事が全ての原因だろう

キョン「ハルヒとは、時間のベクトルが違うんだ」

ハルヒ「え、何々? なんか不思議な話かしら?」

キョン「…わかって聞いてらっしゃいます? ハルヒさん」

ハルヒ「あら…何か身に覚えがあるのかしら? 朝倉さん」

キョン「ハ、ハハッ…」

ハルヒ「…クスッ」

気持ちをぶつけて話した彼女とは…なんだか、少し打ち解けた気がした

だから、今はこんな冗談も言える

ハルヒ「…クスッ」

この冷たい笑い…本当に冗談か?

585 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/31(月) 03:48:03.15 ID:VCzSJ9p1O
16時過ぎ キョン宅 朝倉

―ペラ

家から持ってきた小説を1ページ…また1ページとめくっていく

部屋から出る事が出来ない生活…行動が制限されている…

でもそれは自分から望んだこと、何より…

キョンの部屋にずっといられる幸福

朝倉「キョン…」

思わず名前を呼ぶ…もうすぐで彼が帰ってくる…

587 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/31(月) 03:52:50.20 ID:VCzSJ9p1O
―ガチャリ

遠くで…玄関の扉が開いた音が聞こえる

朝倉「あ…帰ってきたのかな…!」

胸が高鳴る

学校から帰って来るキョンの姿が待ち遠しくて…

思わず正座して待ってしまう

―ガチャリ

朝倉「おか…え……?」

佐々木「くつくつ…やっぱり此処にいたね」

そこにいるべき彼の姿では無く…いるはずの無い彼女の姿…


朝倉「佐々木…さん? どうしてここに……」

佐々木「君を連れ戻しに来たんだ」

彼女は力強く…凛と答える

その真っ直ぐな瞳を、私は直視する事ができない

588 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/31(月) 03:57:32.78 ID:VCzSJ9p1O
朝倉「…嫌よ。私は帰らない」

佐々木「ふぅ…好きになったら、ってヤツなんだろうけどさ…」

スッと、彼女は目の前に座る

近すぎもなく、遠すぎもせず…そんな距離に…

朝倉「そうよ…私はキョンが好き。離れたくないのよ…もうつらい思いはしたくないの…」

佐々木「好きな人の側にいられれば、それで幸せかい?」

朝倉「ええ、幸せよ…!」

威圧感に負けないよう力強く答えたつもりだけど…自分の声は震えている

佐々木「こんな小さな部屋に一人で…ただ待ち続けるだけの生活でも?」

朝倉「キョンがいるもの…」

佐々木「……」

しばらく沈黙が続いた

―ガチャリ

「ただいまー」

また遠くから声がする…キョンの声…

589 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/31(月) 04:02:13.78 ID:VCzSJ9p1O
同時刻 キョン

キョン「ただいまー」

…急ぎ足で家まで帰ってきた

早く部屋に戻りたい。そう思う気持ちを遮るよう、母親が声をかけてくる

キョン母「あら、おかえり。あのね、女の子が……」

キョン「!!」

キョン母「…何びっくりしてるのよ。女の子が部屋で待ってるわよ。会う約束してるなら、遅れちゃダメじゃない」

…約束? 女の子が待っている?

キョン「女の子って…誰が?」

キョン母「誰って…ショートカットの…何て言ったかしら、忘れちゃったけど」

キョン(ショートカット? 長門?)

この時点で、涼子の姿では無い事に気付く

キョン(会ってみればわかるか…)

母親との会話もそこそこに、俺は部屋に向かった

590 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/31(月) 04:05:28.74 ID:VCzSJ9p1O
―ガチャリ

キョン「……!」

朝倉「キョン…」

佐々木「やあ……」

キョン「佐々木…か?」

久しぶりに会う彼女…雰囲気は少し大人びたような…綺麗になったような…

そして、女子高の制服を着ている彼女の姿…

佐々木「お邪魔しているよ」

キョン「待っている女の子って、佐々木だったのか」

佐々木「…待ち合わせの約束なんて、嘘は使っちゃったけどね」

キョン「それはどうでもいい。なんで佐々木がここにいるんだ?」

佐々木「僕が逆に聞きたいよ。どうして朝倉さんがキョンの部屋にいるんだい? 彼女は学校にも行かずに…」

591 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/31(月) 04:12:33.61 ID:VCzSJ9p1O
キョン「家出…だから……」

佐々木「家出ね…確かに彼女は自宅を離れてこんな遠くにいる。でもこの様子はまるで…監禁だね…?」

キョン「……」

朝倉「私は自分の考えでここにいる…そんな言葉使わないで…」

俺たちに構わず、佐々木は言葉を続ける

佐々木「朝倉さんは…さっき言ったよね。キョンがいるからこんな生活でも幸せだ、と」

朝倉「幸せよ…だって一緒にいられるんですもの」

佐々木「じゃあ…キョンは幸せなのかい?」

キョン「…俺だって、近くにいられれば幸せだ」

佐々木「……」

ふうっ、と彼女はため息をついて…

もう一度、俺たちをじっと見つめてきた

592 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/31(月) 04:19:34.53 ID:VCzSJ9p1O
佐々木「確かに…今は幸せかもしれないね。でも、この恋愛に未来はあるの…?」

「……!」

佐々木「…もし彼女が家族に見つかってしまったら? 見つからなくても、後1年もしたらキョンは卒業して…彼女はまだこの部屋にいるの?」

朝倉「……」

キョン「…俺も家出するつもりだ」

口から出任せではない…本当にそういう話はしていた

佐々木「へえ…愛し合う2人が家出…駆け落ちだね。そのお金は? 最低50…いや、100万は無いと無謀だと思うよ…」

ただ…

具体的な計画なんて何もたててはいないんだ…

594 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[age] 投稿日:2010/05/31(月) 04:25:27.07 ID:VCzSJ9p1O
佐々木「それに、僕たち未成年に住む場所を貸してくれる会社なんて…まず無いだろうね」

さっきから…佐々木の言う事は最もだ

確かに俺たちの幸せは、刹那的なものかもしれない

でも今は…その刹那が欲しいんだ…

キョン「俺たちは……」

でも、それを上手く言葉には出来ない

佐々木「ねえ…学校や家族、それこそ…全てを捨ててまで…君たちは一緒になりたいの?」

佐々木「そんなに、未来に絶望しているの?」

朝倉「未来…」

佐々木「そうだよ…このまま大人になっても、周りは誰も祝福してくれない。それならば…今は少し寂しくても…自分の場所で生きるしかないじゃない……」

596 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/31(月) 04:46:57.12 ID:VCzSJ9p1O
キョン「……」

佐々木「二人が欲しいのは…明日だけの幸せじゃないでしょ?」

言われれば…思い知る

言われなくても、多分俺たちにはわかっていた…

この家出が、どういう形なら成功と言えるのか…

分かれ道が何百通りもあって…本当はそのうちのどれかが明るい未来の…はずなんだ

でも俺たちが歩く道は…どこに行っても暗い、そんな道…

キョン「……」

朝倉「キョン…3日間、ありがとう。短かったけど…楽しかった…」

涼子……?

朝倉「キョンと一緒に起きて、ご飯食べて…同じ布団で眠る…幸せだったわ…」

そんな言い方しないでくれ…

朝倉「今はまた離れちゃうけど…もう一度ここに帰って来るから……」

佐々木「朝倉さんは…決めたみたいだね…」

598 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/31(月) 05:03:57.61 ID:VCzSJ9p1O
朝倉「キョン…ありがとうね…」

佐々木「…帰ろう。今ならまだ、帰りの電車があるから…」

彼女は荷物をまとめ始め…帰る支度をしている

洋服や美容品…彼女の形がどんどんカバンの中にしまわれていく

俺と佐々木は、ただその姿を見つめているだけだ…

悲しさを感じさせないような、テキパキとした動きの彼女を…

佐々木「キョンも…納得してくれるよね?」

キョン「……」

佐々木は俺に問いかけてくる

キョン「……」

口が一つの塊になったように、俺は喋れない

冗談でも何でもなく…話し方をこの瞬間だけ忘れてしまっている…

佐々木「キョン……?」

もう一度…佐々木が名前を繰り返す…

628 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/31(月) 19:17:42.45 ID:VCzSJ9p1O

キョン「……だからな……」

佐々木「ん……」

キョン「俺は嫌だからな! このまま俺は…涼子と一緒に……」

朝倉「キョン…私だって一緒にいたいけど、でも……」

佐々木「本気で…言ってる? 違うね、キョンは意地になっているだけだよ…今は、その感情を出したらだめだよ…」

キョン「ぐっ……」

当たっているだけに、何も言い返せない

久しぶりに口を開いた第一声が…我ながら、わからない

佐々木「気持ちの中では、わかってるんでしょ…ここで一緒になっても何も無いって…帰らないといけないって…」

朝倉「キョン……」

俺も涼子も、ボロボロと涙をこぼしている

631 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/31(月) 19:21:25.65 ID:VCzSJ9p1O
気持ちではわかっていても、体が…頭がそれを受け入れてくれない

それは…俺だけか…

ただこうやって駄々をこねる…まるで子供だ…

佐々木「朝倉さんは…今はここにいちゃいけないんだ…わかるだろ?」

キョン「今も早いもあるかっ! …涼子は今ここにいるんだ! ここから引き離して、何が幸せなんだ!」

佐々木「っ…いい加減目を覚ませ! バカキョン!!」

―バチイィィン!

キョン「……」

朝倉「……!」

佐々木の手が…俺の頬を力一杯に叩いた

一瞬、何が起きたかわからなくて…言葉を失った

頬がとてもビリビリする

佐々木「キョン…『私』だって本気なんだ。好きな人が遠くにいて、寂しいのはわかるよ。痛いほどにね」

キョン「…」

632 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/31(月) 19:26:00.14 ID:VCzSJ9p1O
佐々木「でも、今は耐えるしか…ないじゃないか。僕たちには何も出来ない…色んな物が私たちを縛っている」

キョン(…だから俺たちは…それから逃げるために……)

佐々木「でも目の前の寂しさに負けて…全てを投げ出していいの?」

キョン(投げ出す…今回結果的には…先に涼子の方がそうなってしまった…俺は…まだ日常を変わらず生きている…)

キョン(俺は…まだ何も棄てていない…涼子にだけ…結果的にとは言え…俺はバカみたいだ…)

朝倉「キョン…私もう逃げないよ。ちょっとつらいけど…祝福の貰えない未来は、悲しすぎるから……」


佐々木「キョン…彼女は生きていく決意をしたよ。多分、心の中は…寂しさで満たされているだろうけど、ね」


キョン(俺だって…寂しい…涼子が帰るんだろ? いなくなるんだ)

キョン(でも……)

634 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[age] 投稿日:2010/05/31(月) 19:30:46.12 ID:VCzSJ9p1O
キョン「そう…だな。わかったよ…」

沈黙を破り…答えた

キョン「一緒に…帰ろう。いや、この言い方は変か…」

朝倉「ううん…キョンの言いたいこと、わかるから…帰りましょう。私たちの場所に」

佐々木「うん、それがいい…」

残りの荷物をまとめる彼女…

帰り支度をする姿を見ると、理由も無く悲しくなってしまう

それは、友達でも…恋人でも…
一人になっていく瞬間が、俺はたまらなく嫌だった

やりきれず、俺は窓の外に目をやる

外ではまだ夕陽が輝いている

…電車が無くなる心配は、大丈夫そうだ

635 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/31(月) 19:36:13.36 ID:VCzSJ9p1O
朝倉「準備…できたわよ」

佐々木「じゃあ…帰ろう、朝倉さん」

涼子はこちらをジッと見つめてくる…

佐々木「…僕は、先に玄関に行ってるよ。朝倉さんは、お母さんに見つからないようにね」

そう言って、佐々木は部屋を出ていった

2人だけの時間…すぐに壊れてしまう空間だけれども

抱き合って…お互い力強く抱き合って…しばらくそのままでいた

朝倉「…」

キョン「…」

離れたくない。そう言ったら…ダメなんだろう

考えている事は…きっと同じなのに、俺たちは離れなければならない

朝倉「また…すぐ会えるわよね…」

キョン「ああ…すぐ会いに行くさ…」

朝倉「じゃあ、それまで…約束……」

涼子…俺に約束のキスをした…優しくて、痛い…

636 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/31(月) 19:42:03.99 ID:VCzSJ9p1O
この先、もう会えないような…別れ際は、いつもそんな気がする

この手を離したら、もう二度と触れられないような…

でも今は…少しだけ違う…

朝倉「ほんの少しの我慢ね…」
一言一言が、名残惜しい

朝倉「…佐々木さんが待ってるから、そろそろ…」

キョン「ああ…そうだな」

俺は一緒に…外まで彼女達を見送る事にした

駅まで行ってしまったら、また悲しくなりそうだから

佐々木「じゃあ…またね」

朝倉「キョン…帰ったら連絡するから…ね」

キョン「ああ、2人とも気をつけてな」

彼女達は、駅に向かい歩き出す

その後ろ姿を、俺は見送らなかった

やっぱり…寂しいからだ

638 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/31(月) 19:47:23.36 ID:VCzSJ9p1O
駅とは反対方向の道に、俺は歩き出した

このまま部屋に戻るのも…なんだか切なかった

…30分程、歩いただろうか

頭の中は真っ白で、歩いている間に何を考えていたか思い出せない

いや、何も考える事ができてなかったのかもしれない

フラフラと、俺はまた家に戻っていく

キョン「ただいま…」

キョン妹「あ、キョンくんおかえり~。もうごはんだよ~」

キョン「ああ…もうちょっとしたら行くよ」

返事も適当に、俺は部屋に戻る…

扉をゆっくりと開けると…彼女の甘い匂いがしてくる

女性の匂い…確かにわかる

部屋で涼子が待っている…涼子がいる…!

641 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/31(月) 19:57:17.74 ID:VCzSJ9p1O
キョン「ただいま、涼子…!」

『おかえり、キョン…』

彼女の声は…返ってこない

ベッドにも彼女の姿は無い

…思わず布団に抱きつき、彼女の匂いを探す

さっきまで、彼女がここにいた…

でも…涼子はもういない

そう思うと…涙が止まらない

離れる事がつらいのは分かっていた

でも、この選択肢を選んだ俺は…もう、ただ泣くしかなくて…

涼子に会うために…ただ時間だけが過ぎてくれるのを待つしかない…

窓の外はもう、真っ暗になっている…

643 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/31(月) 20:01:47.22 ID:VCzSJ9p1O
帰りの電車 朝倉

電車の揺れが、私たちの距離を確実に離していく

一駅、また一駅と…私は元いた場所へと帰っていく

数時間後には…私はまたあの街にいる

朝倉「……」

うつむきながら、持っているカバンを抱きしめる

隣には佐々木さんがいて…でも、私から何か話をする気分は起きない

佐々木「…そう言えばさ」

途中、佐々木さんが声をかけてくれる

佐々木「帰る前に…親御さんに連絡しておいた方がいいよ。今家に向かっている事だけさ」

朝倉「そう…ね。乗り換えの駅に着いたら連絡するわ」

佐々木「うん…」

それ以上彼女は会話をしなかった

落ち込んでいる私を気遣ってくれてるのだろう…

電車は相変わらず、揺れている

644 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/31(月) 20:05:13.56 ID:VCzSJ9p1O
朝倉「じゃあ、ちょっと電話してくるから…」

佐々木「私はホームで待ってるよ」

緑色の…今では珍しい公衆電話に私は向かう

料金を入れて、自宅のダイヤルを押す…

―プルルルルル

朝倉母「もしもし…」

電話にはすぐに出た。懐かしい母親の声…

朝倉「……」

でも私は言葉が出ない

喉の奥がカラカラしてて…緊張のあまり呼吸も出来ていない

朝倉母「もしかして…涼子? 涼子なの…」

少し弱々しい声の母が…私の名前を呼ぶ

朝倉「うん……」

小さく…やっと出た言葉。その一言を返すだけで精一杯だった

朝倉母「ああ、涼子なのね……よかった、今どこにいるの…?」

645 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/31(月) 20:11:08.13 ID:VCzSJ9p1O
朝倉「今…佐々木さんと駅にいる…今から帰る…」

朝倉母「佐々木さんも…そう。とにかく、早く帰って来なさい…心配かけて全く……」

朝倉「うん……」

電話を切り…私はホームに向かう

言葉通り、佐々木さんは待っていてくれていた

手には…ミルクココアが2つ握られている

佐々木「おかえり。はい、これ…落ち着くよ」

朝倉「……」

その言葉と温かさで……私は泣いてしまう…

646 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[age] 投稿日:2010/05/31(月) 20:16:50.78 ID:VCzSJ9p1O
夜の駅…人通りも多いのに、私は…

また、子供みたいに泣いていた
朝倉「…ヒッ……ヒック……!」

佐々木「…よしよし、よく頑張ったね…」

優しく頭を撫でてくれる彼女の手が…愛しい…あたたかい…

優しい…

―ガタンガタン

朝倉「…」

佐々木「…」

電車の中で、私は自然と彼女に寄り添っていた

彼女の肩に頭をのせて…そのぬくもりに揺られていた

佐々木「電話、大丈夫だった…?」

朝倉「…お母さん、泣いてた」

佐々木「心配だったんだよ…声聞けて安心したんだよ」

朝倉「……」

647 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/31(月) 20:19:29.93 ID:VCzSJ9p1O
佐々木「…不安?」

朝倉「わからない…自分が今何を考えてるのか、わからないの。キョンの事でも…家族の事でも無いの」

佐々木「…一度に色々な事があったからね。時間をかけてゆっくり考えればいいと思うよ」

朝倉「うん…落ち着いたら…また佐々木さんとも話したいな…」

佐々木「うん…私はいつでも話相手になるよ。朝倉さんが不安に思ってる事…何でも聞くよ」

朝倉「うん…ありがとう…ね」

佐々木「…もう着くみたいだよ」

…荷物を抱え、私たちは電車を出る

キョンから遠く離れ…またこの街に帰ってきた…

何だか、目の前に見える景色が…少し違う気がした…

たった数日しか、この街を離れていないのに

648 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/31(月) 20:22:38.20 ID:VCzSJ9p1O
―ピンポーン

朝倉母「…はい」

佐々木「夜分遅くにすいません。あの、涼子さんを送りに来ました」

…ガチャン

玄関の扉が勢いよく開く

…少し痩せた感じのお母さんが、私の目の前にいる

朝倉「あ、あの…」

佐々木「彼女が心配だったので…お家まで連れてきました」

言葉を繋いでくれるように、彼女がまず話をしてくれる

朝倉母「佐々木さん…本当にありがとう…涼子…」

朝倉「ん……ありがとう、佐々木さん…」

佐々木「いいんだよ。じゃあ私はこれでね…。お母さん、あまり彼女を…責めないであげて下さいね」

それだけ言い残し、佐々木さんは帰って行った

…残された私は、すぐにリビングに呼ばれた

649 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/31(月) 20:26:49.20 ID:VCzSJ9p1O
そこには、とても落ち着いた様子の父親が座っていた

怒っているのか、何かを考えているのか…

朝倉父「…座りなさい」

私は言われるままに正座をする

母も一緒に座った

朝倉父「…どこに行ってた?」

朝倉母「涼子…」

朝倉「彼…キョンの所…」

朝倉父「…理由は?」

朝倉「…家出…のつもりだった」

朝倉父「…電話を制限したから?」

朝倉「ううん…とにかく近くに行きたかった……」

朝倉「今考えると…不満があったわけじゃないの…でも、会いたくて…待てなくて…」

朝倉父「そう…か。向こうの親御さんは?」

朝倉「事情は…知らない。こっそり会ってたから……」

650 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/31(月) 20:30:24.85 ID:VCzSJ9p1O
淡々と…会話が続いていく

頭ごなしに叱られるかと思っていたが…雰囲気はとても静かで、口調も落ち着いていた

私は正直に…聞かれた事に答えていった

朝倉「…」

朝倉父「…あまり、唐突な事はするな。若いだけじゃ、認めて貰えない罪もある」

朝倉「…」

朝倉父「今日はもう遅いから…休みなさい」

その日は、それで部屋に帰された

あの怒りやすい父親から…思ったほど怒られる事が無かった…

それが私にとって一番の不思議だった

朝倉「あ…」

651 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[age] 投稿日:2010/05/31(月) 20:34:02.73 ID:VCzSJ9p1O
部屋に入り…机に目がいく…

置きっぱなしにした携帯電話の近くに…メモ書きが一枚

『あまり遅くまで使いすぎないように』

朝倉「…」

そのメモ書きがあって、携帯が没収されずにここにある理由が…わからなかった

私が理由を知ったのは…もう少し気持ちが落ち着いて、時間が経ってからだ…

今は…キョンに一通だけ…

『家に着いたよ。おやすみなさい…大好きなキョン…』

おやすみなさい…おやすみ…

653 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/31(月) 20:49:00.48 ID:VCzSJ9p1O
―学校 キョン

あの家出から1週間

涼子が学校を休んだのも、連休の合間の1日だけだったので、周りで騒がれる事は無かったようだ

休みも終わり、俺は今まで通りの生活を送っている

ハルヒ「キョン」

ハルヒ「ねえってば…」

ハルヒ「…このバカ!」

キョン「…いてて…いきなり叩くなよ」

ハルヒ「なんで返事しないのよ。無視?」

キョン「…」

ハルヒ「…元気無いじゃない」

キョン「…ほっといてくれ」

以前の上の空に加え…人と話す元気も無くなっていた

誰と話しても楽しくない

ずっと涼子の事ばかり考えて…目の前の事など、いつも見えていなかった

655 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/31(月) 21:06:17.22 ID:VCzSJ9p1O
そんな脱け殻のような姿の俺を見て…彼女は、ふぅとため息をつく

彼女には、多分理由も…わかっているんだろう

ハルヒ「…精神的な気休めだけど、教えてあげる」

キョン「ん……」

呆れたような表情で…彼女は会話を続ける

さっきまでの話題とは…違うんだろう…

ハルヒ「会いたい人がいたらね、心の中で会うの。何度も何度も…幸せな形を描くの…そうすると、現実で会えるのよ」

キョン「……」

ハルヒ「それだけよ……じゃあね」

プイッ、と彼女は教室を出ていってしまう

彼女なりの…慰めなんだろうか?

キョン「心の中で…ね……」

656 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[age] 投稿日:2010/05/31(月) 21:11:06.99 ID:VCzSJ9p1O
ある日の夕飯…いつもの食卓

キョン母「ねえ…」

キョン「ん…」

キョン母「今日の昼間に向こう…朝倉さんのお母さんとお話したのよ」

キョン「涼子…の…」

キョン母「ええ。事情を聞いて…一応謝罪もしたわ」

そうか…涼子、ちゃんと親に話したんだな

キョン「…ごめんなさい」

キョン母「…怒るつもりは無いのよ。ただ、他の家の人に問題を起こしちゃうと…ね」

キョン「反省…してます」

ふぅ、と母はため息をつき…何かを決めたように俺に話しかけてくる

キョン母「そんなに、彼女が好き?」

657 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/31(月) 21:15:14.73 ID:VCzSJ9p1O
―コクン

俺は黙って頷く

キョン母「そう…。あのね、反省してるならって、向こうのご両親がね……」

キョン「え…休みの日……?」


妙な形ながらお互いの両親に関係を認めてもらい…

俺たちは、休日をまた新しい形で過ごせる事となった……

部屋に戻ると…外の空気を吸いたいために、窓を開ける……

もうすぐ…夏が来る…

658 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[age] 投稿日:2010/05/31(月) 21:19:24.48 ID:VCzSJ9p1O
何処かの道 何時かの日

佐々木「そうなんだ…休日に……」

朝倉「ええ…これから、色々……」

佐々木「くつ…それは忙しくなるかもね……」

朝倉「ふふっ…そうね……」

夕闇、景色が薄い藍色に染まる頃…私たちは一緒に街を歩いていた

行く場所も決めず…二人でただのんびりと……


佐々木「…いい、月だね」

朝倉「本当…綺麗な満月……」
空には大きなお月様…


月の光が彼女の瞳を照らしていて…私はその姿に心をまた奪われてしまう…

でも、今はいいんだ…

彼女と一緒に、お月様を見ている…この瞬間だけで……

659 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/31(月) 21:24:20.37 ID:VCzSJ9p1O
朝倉「……」

月を見ている途中…彼女は携帯を取り出して…

佐々木「ん、電話?」

朝倉「うん…キョンから…」

佐々木「さっきの事じゃない?」

朝倉「そうかも……もしもし…?」

気を利かせて離れようとしたけれど…

電話はとても早く、15秒程で終わったので離れるまでいかなかった

佐々木「早いね?」

朝倉「う、うん……」

佐々木「そんなにすぐ終わる内容だったの?」

朝倉「えっと…その…言うの、恥ずかしいな……」

佐々木「くつくつ、いつもは聞かないけど…今日はちょっと聞いちゃおうかな?」

660 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/31(月) 21:30:46.60 ID:VCzSJ9p1O
朝倉「イジワル…あ、あのね、実は……」

彼女と話しているこの一時が…ゆっくりと過ぎていく…

光を浴びた曇達を優しく運ぶ風のような…大切な時間…

これからも私たちは、そんな時間を…大切な人と過ごしていけたらいいな…

話の中で…彼女は言っていた

とても優しい目で…満月をみつめながら…

涼子「ただ月が綺麗だったから…私の声を聞きたいって……」



665 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/31(月) 21:34:14.36 ID:VCzSJ9p1O
これで、とりあえず終わりとなります

本当は、まだ半分程の地点なんですけど…家出編がクライマックスな感じになってしまったので、ここで……

読んでいただいた方、支援して下さった方本当にありがとうございました

666 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/31(月) 21:36:14.51 ID:3apTiS6Y0 [2/4]
>>ただ月が綺麗だったから…君の声を聞きたい

全く、言ってみてえもんだな!乙!

668 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/31(月) 21:36:28.56 ID:HRWAHruE0

一つ質問なんだけど
>俺たちは、休日をまた新しい形で過ごせる事となった……
て具体的にどういう事なの?

669 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/31(月) 21:42:06.04 ID:VCzSJ9p1O
>>666
SSを投稿するまで、このラストもタイトルも決めてなかったんですよね

半分は思いつきですが、もう半分は「たったそれだけの事でも、恋人に伝えたい」
のような意味を含みました

>>668
残りの半分の中に書いてありますが、ここで終わりなんで引っ張る形に…
最後辺りの言葉も、あえてボカしてあります

670 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/31(月) 21:44:26.05 ID:rquDB+dYP [2/3]
すごく乙

余力があるのならただのイチャイチャもみたいれす

672 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/31(月) 21:45:46.15 ID:3apTiS6Y0 [3/4]
>>669
「月が綺麗」の元ネタはやっぱり夏目漱石かい?

675 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/31(月) 21:51:46.04 ID:VCzSJ9p1O
>>670
まだ元気なんで…ポチポチやってみます

>>672
あそこまで、深い意味は本当に無いんですよね…
自分が深夜に出かける→月が綺麗→SS書く

正直、これがタイトルの理由です…冒頭だけができていたSSを、勢いで投下させて頂きました…

678 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/31(月) 21:58:28.70 ID:VCzSJ9p1O
キョン「じゃあ…いってきます」

土曜日の朝…俺は駅に向かう

手には普段なら持たないような量の荷物と、胸いっぱいの希望…

いつもの電車に乗って…彼女の街に向かう

涼子「キョン、こっちこっち!」

駅に着くと、涼子と…今日は…

朝倉母「あら…」

朝倉父「…」

キョン「あ、あの…はじめまして。キョンと言います…その…涼子さんとお付き合いさせて頂いております……」

深々と頭を下げて…一礼をする

朝倉母「ふふっ、あまり硬くならなくていいのよ? ね、父さん…」

朝倉父「う、む……」

涼子「えへへっ…じゃあ早速ご飯食べに行きましょ! キョン、一緒に後ろに…」

引っ張られるまま、車に連れ込まれる

朝倉母「あらあら……」

679 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/31(月) 22:00:00.52 ID:3apTiS6Y0 [4/4]
まさか残り半分とやらか?

683 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/31(月) 22:07:40.38 ID:VCzSJ9p1O
>>679
とりあえず、触りの部分だけ…全部書くかは…未定な感じで、


あれから…土日を利用して、俺は朝倉家に泊まり込みに来ている

朝倉家の親御さんが…来れる時は泊まりに来ていい、と話をしてくれた

俺はもちろんそれに甘える事にした…

まあ、今日が初顔合わせなんだが…

車内では、母親が運転をし、父親は助手席に座っている

朝倉父「……」

涼子「それで、お父さんてね……!」

朝倉母「ふふふっ」

キョン「は、ははっ…」

どうやら、緊張しているのは、男性側だけのようだった

684 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/31(月) 22:16:23.15 ID:VCzSJ9p1O
朝倉母「はい…着いたわよ」

レストランでの食事を終えて、俺たちは涼子のマンション…第二の自宅に帰ってきた

望んでも、泊まる事のできなかった場所…

今日は…ここにいていいんだ…

朝倉母「あ、布団敷いておいたからね? 仲良く寝るのよ?」

キョン「……え?」

朝倉母「ウチって、部屋が少なくてね…私の部屋と涼子の部屋…それと居間しか寝るスペースが無いのよ」

キョン「そ、それなら僕は居間で……!」

朝倉母「あら、居間はお父さんが寝てるのよ。テレビを遅くまで見たりするから…そっちのがいい?」

キョン「いえ、お許し頂けるなら、そのままで結構です」

我ながら、初対面の親御さんを前にはっきりと言えたもんだ

685 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/31(月) 22:21:27.80 ID:VCzSJ9p1O
朝倉母「ふふっ…涼子と、仲良くね? ……」ボソッ

一緒の部屋で寝る事は、両親公認らしい

少しは気持ちが楽だが…

俺は、じっと…涼子を見てみる…

涼子「?」

彼女は笑顔でこっちを見てくれている…俺も合わせて、引きつった笑いをする…

部屋に向かう前に…小さく呟かれた言葉を思い出しながら…

朝倉母『子供だけは作らないでね』

…はい

687 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/31(月) 22:31:29.59 ID:VCzSJ9p1O
夕飯後…俺は率先して食器を片付け、皿を洗っていた

朝倉母「キョンちゃん、そんな事いいのに…」

キョン「いえ、お世話になるからには…何か手伝いませんと…」

これくらいはやらなければ…

ただ座って、涼子とお茶を飲んでばかりもいられない

涼子「ふふっ、お手伝い終わったら、このシートに書き込んでね」

見てみると、冷蔵庫に貼られた一枚の…シート

床掃除、洗濯、風呂、洗い物、猫の餌やり…家事全般と、涼子の印がついている

朝倉母「うちは共働きでね…平日は、どうしても家事が満足にできないのよ」

涼子「手伝ったらこれに印をつけるの。そうすると、お小遣いが増える仕組みなのよ」

キョン「そ、それはすごいシステムですね…」

689 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/31(月) 22:42:40.93 ID:VCzSJ9p1O
風呂に入り…就寝だ

部屋の明かりは全部消えて…俺は涼子の隣にいる

布団とベッド…段差は違いがあるが、確かに隣に涼子が寝ている

こんな穏やかな気持ちで涼子と眠れる日が来るなんて…ちょっと、信じられなかった…

涼子「キョン……」

キョン「ん…起きてたのか?」

涼子「ちょっと…寒いかなぁ、って……」

キョン「寒い? じゃあ、俺の毛布やるよ。ほら、こっちの…」

涼子「…バカキョン!」

ヒソヒソ声の中で…涼子がちょっと大きな声を出す

キョン「な、なんだよ…」

涼子「…知らない」

プイッと…背中を向けて布団に顔を潜らせてしまう

その姿を見て…思い出した

690 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/31(月) 22:48:49.72 ID:VCzSJ9p1O
キョン「……」

涼子「あ……」

後ろから、涼子を抱きしめて…ギュッとする…

キョン「これ…好きだったよな」

涼子「…うるさい、バカ…」

キョン「あのさ…涼子が良ければ…一緒の布団で眠りたいんだが……」

涼子「……」

キョン「ダメか…?」

涼子「腕まくらか…今みたいにギューってしてくれるなら…いいわよ……」

この日から、俺たちは…改めて、毎晩一緒の布団で眠るようになった

ベッドの中で、もう一度彼女を抱きしめて…

いつかのように、心臓に耳を当てながら…

691 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/31(月) 22:54:48.97 ID:VCzSJ9p1O
涼子と過ごした時間も…もうすぐ終わってしまう

日曜日の昼過ぎ…今は、車で駅まで送ってもらう途中

別れる直前なのに、寂しさはそんなに生まれない…

心の余裕が、そうさせているんだろう

朝倉母「そろそろ駅だから、降りられる用意してね?」

キョン「は、はい」

涼子「気をつけて帰ってね?」

朝倉父「……」

この二日間、涼子の父親とは殆ど会話をしていない

テレビを見ていても、食事をしていても…涼子や母親とはよく喋ったが、父親とだけは話した記憶は無い

692 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/31(月) 22:59:11.35 ID:VCzSJ9p1O
キョン(…嫌われてるのかな)

他人の家庭にお邪魔しているわけだ…人によっては、そういう感情が出るのが当たり前かもしれない

朝倉母「はいっ、到着よ」

そんな心配をよそに、もう駅まで着いてしまう

キョン「じゃあ…この二日間、お世話になりました…ありがとうございました」

朝倉母「どういたしまして…気をつけてね」

涼子「じゃあ…またね、キョン。落ち着いたら、メールしてね」

車を出て…助手席に座っている父親に、外から最後のお礼をする

キョン「あ、あの…色々ありがとうございました。本当に…ありがとうございます」

緊張で…ありがとう以外の言葉が出てこない…

朝倉父「…また、おいで。待ってるから」

キョン「は、はい…!」

693 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/31(月) 23:06:37.14 ID:VCzSJ9p1O
彼女とは、これから会う時の話ばかりをするようになった

別れ際にずっと話していたような…まだ見えない未来の話じゃなくて…

周りが祝福してくれるような、そんな歩き方を…俺たちは始めていた…

父親とはまだ話がぎこちない…
母親は、もう俺を家族の一員だと言ってくれている…


猫は…少しずつ俺にもなついてくれている…

そして涼子とは…今も一緒の布団で眠っている…


このまま…いくつもの季節が流れて、俺の高校生活は終わって行くんだろう…

今日、俺は初めて夕方の電車に乗って…涼子のいる街に向かっている……



694 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/31(月) 23:11:30.97 ID:VCzSJ9p1O
こんな感じの生活を…残り一年半、大学に行くまで繰り返す事になります

障害から安定に変わった2人は…幸せな高校時代を過ごしていきます

今回は、正直ここまでで…

ありがとうございました

697 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/31(月) 23:16:29.37 ID:VCzSJ9p1O
書ききれないんで、残り後半のネタとか、設定を最後に…


キョン

大学試験を受けるために、また涼子の家に転がり込んでいる

彼女がいるから…近くの大学に進む決心をした

向こうの家族とも順調に仲を深めて、お正月や夏休みなど、長い期間を涼子の家で過ごす


朝倉涼子

2年目のクリスマスに、手作りのマフラーをもらう

3年目には、手作りのセーターだった

さらに、気合いの入ったバレンタインチョコなど、女の子のスキルを見せられっぱなしだった

大学に入ってからの、彼女との事はまだわからない…

もしかしたら、別れてしまうかもしれない

もしかしたら、ずっと一緒にいられるかもしれない…

698 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/31(月) 23:16:42.37 ID:S5gPvNrX0 [2/2]
最後の一文がわけわからん

699 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/31(月) 23:24:04.02 ID:VCzSJ9p1O
>>698
学校の終わった金曜日の夕方に…電車に乗って会いに行ってます、という感じで…


佐々木

今でも、ずっと同じ人を好きなようだ

涼子とは、よく遊びに行くらしい


結局、俺と佐々木が会って遊ぶ事は無かった

たまに…涼子の事でメールをする


700 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/31(月) 23:28:27.94 ID:VCzSJ9p1O
ハルヒ

一度お互いの本音を話したので、弱音から愚痴まで、なんでも言い合えるようになった

俺たちしか知らない(クリスマス、押し入れ)ネタを武器に、毎日俺を笑っている

周りに人がいる中、このネタを言って…二人で含み笑いをするのが最高に楽しいんだそうだ

2年生のクリスマスに、綺麗な灰色をした毛皮の手袋をプレゼントしてもらう

3年生になったら、クラスが離れてしまった…
古泉曰く「朝倉涼子の事を考えて身を引いたから」らしい
そのせいか、話す機会も減って、冗談も言ってくれなくなった

同時期に、遠距離の彼氏ができたみたいだ
チラッとハルヒに聞いた話だと「同じ事を感じたかったから」

それのせいかは知らないが、一緒の大学に行く事になる

702 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/31(月) 23:33:00.99 ID:VCzSJ9p1O
古泉

ハルヒの大学を教えてくれたのは古泉だ

発生していない閉鎖空間の事を、俺に話してくれる

でも、その空間の本当の理由は、俺もまだ知らない…


朝比奈さん

遠くの街に引っ越してしまった
再会する予定は、一応ある


長門

あまり変わらずに3年間を過ごしたようだ

今日も彼女は、部室で新しい本のページをめくっている

俺たちが『忘れ物』を見つけるのは、もう少し先の事になってしまった

703 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/31(月) 23:38:30.90 ID:VCzSJ9p1O
谷口

3年生でクラスが別れたので、あまり知らない

「愛しい彼女に会いたい会いたい、空腹のお前に昼飯をおごったのは誰だっけ?」

このセリフで、学食を13回おごらされた思い出しか無い

国木田
彼も、3年生でクラスが別れた

やっぱり勉強して、いい大学に行くんだろうか

鶴屋さん

卒業してからは、どこか遠くへ行ってしまったみたいだ

また…会いたい気もする

706 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/31(月) 23:51:43.94 ID:VCzSJ9p1O
話としては、このまま前作に繋がっていきます

まだ書ききってない部分を…次はどういう設定で書くか、考え中ですが…やっぱり続けていきたいと思っています

大学に行って朝倉さんと別れないかもしれない、前作の続きを書くかもしれない…どのレールでまだ書くかは、サッパリですけど…

ネタをまとめて、また頑張りたいと思います

ここまで読んで下さって、本当にありがとうございました

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