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唯「ゴールデン☆ランチ☆タイム」

6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/30(日) 00:02:48.63 ID:ourrogOQO [1/65]
乗っ取らせてもらう

7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/30(日) 00:05:55.07 ID:ourrogOQO [2/65]
【PM 12:24 鈴木純】

私はひたすら壁掛け時計をにらんでいた。

十二時二四分。

時計というのは不思議なものでこっちが早く動けと念じてにらむと逆に秒針の動きは遅くなる。

いや、そもそもにらもうがにらむまいが時間の進み具合は変わらない、か。

授業終了まで残り三六分。

この授業を乗り切ればいよいよ昼休み。

ああ……早くお弁当が食べたい。今日はご飯の上に昨日の残りのから揚げを大量にのせた私特製のから揚げ弁当。

二日目のふにゃっとしたから揚げと多少固くなったお米の庶民的な組み合わせの味に、思いを馳せてると急にお腹が鳴った。


ぐううぅ~


私の隣の席で板書していた梓の手が止まった。


8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/30(日) 00:11:24.01 ID:ourrogOQO
【PM 12:26 中野梓】

我輩は猫ではありません。ただの女子高生です。なんちゃって。

そしてそんな女子高生である私の耳にも隣の席からのお腹の虫の音は、はっきり聞こえてきました。

思わず手を止めてしまった私を、隣の席に座っている純がにらんできました。

いやいや、どうしてそんなとがめるような視線を私が浴びなければいけないのでしょうか。
本人には自覚が無いかもしれませんが花の女子高生のお腹の虫の音にしてはいささか大きすぎるように思えます。

猫じゃなくても聞こえますよ。ほら、みんなだってこっちを向いて……


梓「ぷっ……」


あ、笑ってしまったのはあれです。

いつかムギ先輩が私に見せてくれたマンボウの真似を思い出しただけです本当です。



9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/30(日) 00:14:36.46 ID:ourrogOQO
【PM 12:30 真鍋和】

人間が物事に集中するのにはおおよそ三十分の時間がかかり
さらにその集中力が継続される時間はだいたい一時間半程度だと言われている。

つまり二時間を勉強一回分と考え、休憩を挟みつつそれを繰り返すのが理想の勉強のスタイルらしい。

中学生の頃に通っていた塾の講師がそんなようなことを話していた気がする

しかし、だとしたら学校の授業が一限、五十分に設定されているのはなぜだろう……


……などと自分で言うのもおかしな話しだけど、私にしては珍しく授業中に授業と全く関係のない内容にうつつをぬかしていた。


授業が終わるまであと三十分。

ランチタイムまであとちょっと。頑張ろう。



12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/30(日) 00:19:59.50 ID:ourrogOQO
【PM 12:32 田井中律】

後の祭というのか後悔先立たずというのかとにかく私が自分の致命的なミスに気づいたのは、今から約一時間前のことだった。

普段は絶対にしない古典の宿題をして意気揚々と学校に行ったまではよかった。
しかし、三限と四限の間の休み時間に小腹がすいたので早弁と洒落込もうとして私はとんでもないことに気づいた。


緊急事態!オーノー!弁当を忘れた!


いやいやいやいや、宿題をやらなかったり教科書を忘れたりするのは私にとっては日常茶飯事だが、まさか弁当を忘れるとは。

なんでもっと早く気づかなかったんだろう。
家に出る前に、なんて贅沢なことは言わないがせめて学校に着くまでに気づいていれば……


さすがに昼抜きで午後の授業を乗り切るのは私には無理だ。

こうなったらみんなの弁当からお裾分けしてもらうか?
でもそれだと絶対に足りないし、そうじゃなくてもいちいちみんなから貰うのは心苦しい。

どうしよう。大ピンチだ。
このままではりっちゃん隊員は放課後のティータイムにありつく前にくたばってしまう。


早急に対策を練らねば……!

13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/30(日) 00:23:28.10 ID:ourrogOQO
【PM 12:33 秋山澪】

ピシッ

板書してある内容を片っ端からノートに写していたら不意にシャープペンの芯が折れた。

カチカチカチカチッ

どうやら今ので中の芯が完璧に切れてしまったらしい。

私は手を休めて新しい芯をシャープペンに入れることにした。

しかし、本来芯を入れるはずの部分についていた消しゴムは酷使した結果、削れてしまっていた。

これでは消しゴムを外せない。

仕方なく先端部分から芯を入れようとするが、今度は芯が詰まっているのか上手く入らない。


澪「……む」

思わず唸ってしまった。
他のものに変えればそれで済む話しだったけど安易に他のペンに変えるのは何か悔しい。

澪「こうなったら……」

とりあえず先端の辺りで詰まっている芯を取り除けば入れることができるだろう。


私はシャープペン本体を解体することにした。

15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/30(日) 00:26:42.35 ID:ourrogOQO
【PM 12:34 琴吹紬】

お勉強にはぴったりのぽかぽか陽気のおかげで私はいつもより集中して授業に取り組むことができていた。

この時間は世界史の授業。

誰だってきっとそうだろうけど、やっぱりできるなら私も勉強の時間はなるべく減らしたい。


そういうわけで、普段から授業中は他事には気を払わないで、先生の言葉にのみ集中するように心がけている。

でも……うららかな陽気は私を睡眠へと誘おうとしていた。
一瞬寝たいという欲求が頭を掠めだけれど、そんな誘惑には負けちゃだめ。

あと三十分もしないうちにお昼休みだもの。


毎日の楽しみのひとつであるみんなとのおしゃべりの時間がもうすぐ来る。


今日はどんなことを話そう?

16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/30(日) 00:31:18.64 ID:ourrogOQO
【PM 12:36 平沢憂】

「――ここでよく皆さんが勘違いするのは奥さんがお嬢さんの了承を得ずに勝手に――」


現在、先生が熱心に話しをしているのは夏目漱石の彼の名作についてですが
私は昨日お姉ちゃんと一緒のベッドで寝ていたせいで田山花袋の蒲団を思い出していました。

先に断っときますが、別にお姉ちゃんのベッドで眠りについたからと言って変なことはしていません。

まさかお姉ちゃんの匂いが染み込んだベッドを嗅いだりだとか、自分の鼻水をベッドにつけたりだとか
とにかくそのような人間としての品性を疑われるようなことは、お姉ちゃんと神様と仏様に誓って一切していません。

ただ、仲睦まじい姉妹らしく二人で抱き合って寝ていただけなんです。


「――まあ、そもそも田舎の出身で恋愛もしたことのないわたしやKのことなど奥さんやお嬢さんからしたら――」


さて、あと三十分程度の時間でお昼休みです。それくらいの時間はきちんと授業に集中しましょう。


姿勢を正して、黒板に書いてあることを書き取ろうとしていると
鞄の中をごそごそと探っている純ちゃんが私の視界に入ってきました。

何をしているんでしょう?



17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/30(日) 00:35:30.63 ID:ourrogOQO
【PM 12:37 鈴木純】

基本、私はある程度の我慢はできるタイプの人間だ。
少なくとも自分ではそう思っている。けどやっぱり私も青春を謳歌する女子高生。

一度自覚してしまった空腹にはさすがにあらがえないみたいだった。


というわけで、私は鞄から、下敷きはどこいったかな~、とか探すふりをしつつ
お弁当と一緒に用意しておいた、たけのこの里をこっそり頂こうと鞄を漁っていた。

純「ん?」

おかしい。

これはおかしい。ううん、おかしいとかそういうレベルじゃない。

もしかして、いや、もしかしなくてもまさか私はしでかしてしまったのか?


私は。


お弁当を忘れた。

19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/30(日) 00:38:33.38 ID:ourrogOQO
はい、ここで問題。私こと鈴木純の三種の神器はなんでしょうか?

回答時間は三秒………………はい終了。


答えはお弁当と携帯電話とベースでした。


それにしてもお弁当を忘れるなんて。いったい私はこの先どうやって生きていけばいいんだろう。

しかも今日はお気に入りのから揚げ弁当だったのに……。


こうなったらタイムマシーンでも作って過去にさかのぼろうか?
いや、それよりもどこでもドアを作って家にさっさと帰るほうがいいかな?

もう考えるのもメンドクサイなあ。

ドラえもんを作るのが一番手っ取り早い気がする。
ドラえもんなら秘密道具とかでお昼ご飯を出すのも朝飯前なんだろうなあ。

ん?お昼ご飯なのに朝飯前?

意味がわからなくなってきた。私はもうダメがもしれない。

ていうか私がドラえもんになるのが、この問題を解決する一番の近道なんじゃないのかな?

21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/30(日) 00:43:16.41 ID:ourrogOQO
【PM 12:40 秋山澪】

「――そもそもヘンリ8世がなぜ首長法を制定したのかと言うと彼の妻であるカザリン――」

「せんせーい!カザリンがキャサリンになってまーす」

三分かけてようやくシャープペンを直し、再び動き始めた私の手が再び止まった。

キャサリンと書いてしまった部分をカザリンと書き直すために消しゴムで消そうとして――


ぐしゃっ


澪「……!」

力を入れすぎたのかノートがしわくちゃになってしまった。

せっかく丁寧に書いていたのに……。


どうしよう書き直そうかな?

23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/30(日) 00:50:37.58 ID:ourrogOQO
【PM 12:41 琴吹紬】

「――先生は今カザリンをキャサリンと誤って書いてしまいましたが、別にこれは間違いではなく――」

そういえばキャサリンという名前には様々な派生があると聞いたことがあった。

単純に読み間違えてしまう場合もあるらしいけど、国によって読み方が違うらしい。


そうそう。名前と聞いて次に思い出すのは唯ちゃんのギターのことだった。

唯ちゃんのギターには名前がある。ギー太っていう素敵な名前が。
どうやら唯ちゃんにとって、あのレスポールのギターは男の子らしい。


そういえば、最近は澪ちゃんや梓ちゃんまで自分の楽器に名前をつけていたっけ。

エリザベスにムッタン。

どちらもとってもいい名前だと思う。

私も自分のキーボードに名前をつけてみようかしら。


たとえば……キーボーなんてどうだろう?

24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/30(日) 00:54:24.88 ID:ourrogOQO
【PM 12:44 中野梓】

今日の天気はお昼ねをするのにまさにぴったりでした。

猫じゃなくても思わず寝てしまいたくなるようなぽかぽか陽気に睡魔が活動し始めたみたいです。
私のまぶたは徐々に重くなっていきました。


純「先生!」

梓「!?」

純の鋭い声がまどろむ私を起こしました。

この娘は、授業中は静かにしていなければならないということを教えてもらわなかったのでしょうか。
私は隣で突然立ち上がったクラスメイトにとがめるような視線を送ってみましたが、彼女はまるで気づいていませんでした。

純「先生。目眩がするんでちょっくら保健室に行ってきてもいいですか!」

妙にキビキビとした純はお腹を押さえてそう言いました。

どうして目眩がするのにお腹を押さえるんでしょうか?


25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/30(日) 00:56:08.38 ID:ourrogOQO
【PM 12:46 鈴木純】

私のオスカー女優も目の玉を飛び出してしまうような素晴らしい演技に
現代文の教師は完璧に騙されたらしく、あっさり保健室に行くのを許してくれた。

ちょろい!

まあでも、空腹のせいで少し目眩がするような気がしないでもないので全くのウソってわけでもないんだけど。


さて、なぜ私がこんなウソをついたのか説明してさしあげよう。

そう。私は思い出したんだ。


この学校に購買があることに!

つまり食料ゲットは簡単にできるということだ。


でもでも、問題が全くないわけでもない。

購買のパンは意外と人気があるわりに販売数は多くない。
つまり、お望みのパンが手に入る可能性は高くない。

ましてゴールデンチョコパンを手に入れるのは至難と言っても過言ではないと思う。

最悪の場合、コッペパンのお世話になるかもしれない。

28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/30(日) 01:01:42.69 ID:ourrogOQO
コッペパン。

コッペパンだけはイヤだ。絶対に絶対にイヤだ。

梓や憂が色彩豊かな美味しいお弁当を食べている中、私だけ味も見た目もそっけないコッペパンを食べる。

なんて貧しいランチタイムなんだろう。

しかも梓も憂も基本的に優しい性格の持ち主だから、

憂『純ちゃんかわいそう……』

梓『お母さんがお弁当を作ってくれない上に、購買で一番安いコッペパンを買ってくるなんて……』

憂『あんまりにもかわいそうだから私のタコさんウインナーあげるね』

梓『私のうさぎの形したりんごもあげるよ』


なんて、同情を誘うような風景がお昼休みに待っているのかと思うと、背筋に氷水を流されたかのようなゾッとした気分になる。


しかし心配はご無用。今回私にはとっておきの秘策がある。


純「さて、狙うはもちろんゴールデンチョコパン!」

29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/30(日) 01:05:38.65 ID:ourrogOQO
【PM 12:50 田井中律】

よく考えるまでもなく、私は購買で食料を手に入れればいいことに気がついた。

だがしかし、だがしかし!。

購買のパンの競争率の高さはハンパじゃない。

過去に私も購買の争いに参戦したことがあるけど、これがすごいすごい。

女子高とは思えないほどの押し合いへし合い。
うっかり間違ってオバサマたちのバーゲンセールスに迷い込んでしまったのかと思うほどだった。

購買の激闘は私のような可憐でほっそい身体の女子にはとてもじゃないけど、キツすぎる。

柔道部部員とかは特にヤバい。マジででかいし太いしで、一回かるーくミンチにされた。


正直購買にはいい思い出がないけど、背に腹は変えられない。

……んーところで背に腹は変えられないってどういう意味だっけ?

31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/30(日) 01:11:23.26 ID:ourrogOQO
【PM 12:53 秋山澪】

「――ところでヘンリ8世と言えばロリコンでエロくて有名ですが――」

「せんせー、ロリコンでエロいについては書いたほうがいいですかー?」

「欄外にでもメモっといて下さい」


今度はエリザベス1世をエロザベス1世と書いてしまった。
しかもオレンジのペンなので消しゴムで消すこともできない。

澪「……」

でも大丈夫。こういう時に備えて修正テープを用意してある。

これさえあれば何度間違っても安心。

澪「……?」

あ、あれ?

おかしいぞ?

なんでテープが出てこないんだ?

嫌な予感がして確認してみると案の定テープが切れていた。


私はノートをひきちぎった。

32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/30(日) 01:16:20.26 ID:ourrogOQO
【PM 12:54 真鍋和】

「――今渡したプリントはきちんと保管して下さい」

「せんせーい。プリントが三枚足りませーん」

「えーそれでは……」


視線を感じて私は顔をあげた。

「すみませんが、真鍋さん」

和「はい」

「このプリントを職員室に行ってコピーしてもらっていいですか?」

もちろん私は頷いた。

33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/30(日) 01:20:50.94 ID:ourrogOQO
【PM 12:56 平沢憂】

地球温暖化が関係あるのかは知りませんが、ここのところ蒸し暑い日が続いていたので今日のようなからっとした天気は久々でした。

しかし、照りつける日差しは夏を象徴するかのように鋭く、気温も決して低くないので過ごしやすいとは言い難いですが。

ちなみに私の席は窓に一番近い廊下側なので比較的風が通るので過ごしやすいです。

今し方、保健室に向かった純ちゃんも窓側付近で、しかも一番後ろという絶好のポジションに陣取っています。

「――わたしがお嬢さんを好きだということはとっくに二人にはばれていたわけです。つまりこの話は――」

不意に私が身を乗り出ししたのは、先生の話に興味が湧いたからではありません。
私は窓から廊下を見ました。より正確に言うなら廊下を我が物顔で歩いている黒ネコを。


にゃあ~


ほんのわずかの時間だけネコさんと目が合いましたが、ネコさんはすぐ目を逸らすと
そのまま教室を横切っていきました。

34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/30(日) 01:27:27.76 ID:ourrogOQO
【PM 12:59 真鍋和】

私が何かにつけて雑用を任されるのは、生徒会長だからではなく
あくまで私自信が信頼されているからだと信じたい……信じていいわよね?


和「失礼しました」

プリントをコピーしてもらった私は職員室を後にした。

授業もまもなく終わる。今日はお弁当を作る余裕がなかったため
コンビニで買ってきたものだけど、コンビニ弁当だって立派なお昼ご飯。

空腹は最高の調味料だと言うし。
今日、朝ご飯を食べていない私にはコンビニのお弁当だって立派な料理になるだろう。


「お嬢さん」


今まさに階段を上がろうとした私をしわがれ声が呼びとめた。

振り返るとやや腰の曲がったおじさんが手をすり合わせて、私を見上げていた。

35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/30(日) 01:29:34.94 ID:ourrogOQO
和「なんですか?」

「いやあ実はお願いがあって……ちょっとお手伝いしてもらいたいことがあるんだよ。いいかい?」

やっぱり私は反射的に頷いていた。

私はイエスマンの代表とも言える日本人だけど何でもかんでも頷いてばかりなのはどうなんだろう。
というか、女なんだからイエスマンじゃなくて、イエスウーマンかしら?

和「何を手伝えばいいんですか?」

「簡単なことだよ」


聞けば、このおじさんは購買の担当者らしい。

確かに言われてみれば、ああそういえば見たことあるな、という程度には知っているけれど
基本的に私は購買を利用しないので、ほとんどそのおじさんを見たことがなかった。


36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/30(日) 01:35:09.36 ID:ourrogOQO
【PM 1:00 田井中律】

「きりーつ!きをつけー!れーい!」


よっしゃー!ついに授業が終わったあ!

号令が終わるとともに、私は全力疾走の体勢に入った。

小柄な私には購買でのひしめき合いは向いていない。
だったら当然の帰結として、私が取るべき行動は一つ。

みんなが購買にたどり着くよりも先に購買に行き、そしてパンを購入してさっさと帰る。

これしかない!

さあ行くぜ!


りっちゃあああああああんダアアアアアアアアアアアアっしゅっってあれれ!?


学校内でも有数の足の速さを誇る私のスーパーダッシュは誰かに腕を掴まれたことによりいともあっさり止まった。


紬「りっちゃんどこ行くの?」


私の腕を掴んでいたのは興味津々と目を輝かせたムギだった。

37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/30(日) 01:42:26.22 ID:ourrogOQO
律「とりあえず腕を離してほしいなムギいやマジで急いでんだってほら
私の台詞にも句読点一個も入ってないだろそれくらい急いでんだよたのむ早く離してくれ」

紬「あ、ごめん急いでたんだ」

ムギは私の腕から手を離した。ていうかムギってお嬢さまなのにすげー力持ちだよなあ。

紬「どうしたのりっちゃん?私の顔に何かついてる?」

うん、前髪の間から沢庵らしきものがちらほらと。

どうでもいいけど沢庵の美味しいメーカーと言えば
右大臣とかいうのが確か美味しかったような……って違うわ。右大臣は卵焼きのメーカーだ。

紬「りっちゃん、もしかして購買に行くの?」

律「うん、もしかしてムギも購買に行くとか?」

紬「そうよ。前から私、購買のパンを食べるのが夢だったの」


そこで何の脈絡もないけど私は唐突に思い付いた。



38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/30(日) 01:45:10.88 ID:ourrogOQO
【PM 1:01 真鍋和】

和「いいんですか?このパン、ただでもらってしまって」

購買のおじさんはお礼だよ、と愉快そうに笑った。

「お嬢さんのおかげで今日もこうして無事にパンを販売できるしね」

和「でも……」

「若いもんが遠慮しちゃいかん。年寄りの好意を無下にしちゃいかんと母親から聞いたことないかい?」

和「……そうですね。じゃあこのパンはいただきます。ありがとうございました」

「いいよいいよ。こちらこそお世話になったね」


こうして私はパンをただで一個手に入れた。


パンの名前はゴールデンチョコパン。

39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/30(日) 01:50:02.79 ID:ourrogOQO
【PM 1:02 平沢唯】

なんだかすごく楽しかったような楽しくなかったような
あるいは怖かったような怖くなかったようなよくわからない夢を見ていた気がする。

なんだろう。

すごくすごい夢だってことは覚えてるのに、肝心の内容はまるで覚えていなかった。

まあ、寝ているときに見た夢なんてそんなものだよね。

うん、わたしだけじゃないよね?


ところで今は何時何分何秒地球は何回回ったの?

40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/30(日) 01:55:55.20 ID:ourrogOQO
【PM 1:03 琴吹紬】

お昼休みはほとんどの場合教室にいるからこうやって購買に人が集まっているのを見るのは初めてだった。

律「くっそーすでに生徒が沢山集まってるな」

紬「すごい人ね」

本当にすごいすごい。

激しいおしくらまんじゅうみたいにみんながひしめいていて、見ているだけでこっちまで暑くなってきた。

律「くっ……仕方ない。こうなったら……!」

強行突破だ!――りっちゃんはそう叫ぶと群れに飛び込んでいった。


紬「頑張ってりっちゃん!」

41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/30(日) 01:57:30.45 ID:ourrogOQO
【PM 1:04 田井中律】

この学校の購買でもっとも人気があり、かつもっとも数が少ないパン。

その一つがゴールデンチョコパン。

そしてもう一つが爆熱ゴッドカレーパン。

どちらも数が極端に少なくどちらか一つでも食べられたら、必ず幸せが訪れるなんて噂までまことしやかに囁かれている。

まあ、ようはそれだけ二つのパンを手に入れるのが難しいってことなんだろう。

難しい……うん、確かに難しいんだろうなと思う。

ちょっ……パンを下さっあああいてええ誰だ私の足を踏んだやつは!?

「カレーパンとアンパンマンください!」

なんだよアンパンマンって!?

「ピカチュウパンと夕張メロンパンを!」


ちょっ……マジ死ぬ、死ぬうううつぶさないでえええええええ!

42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/30(日) 02:05:04.00 ID:ourrogOQO
【PM 1:06 秋山澪】

ようやく黒板の内容の全てを丁寧に書き写した私は伸びをした。

やっぱりノートは綺麗にとっておいたほうが、気持ちがいい。
後々、特にテストの時とかはノートが重宝するし。


まあそれは置いておくとして。

お腹がすいた。

私は椅子から立ち上がって、いつもみんなで昼食を食べている唯の席へ向かった。


43 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/30(日) 02:07:12.45 ID:ourrogOQO
【PM 1:07 中野梓】

学校で一番楽しみなことは何ですか?

小学生の頃にこんなを質問をされたことがありましたが、ほとんどの子が給食と答えていた気がします。

私もたしかみんなと同じようにそう答えていたような気がします。

今はお弁当ですけど。


高校になってからはさすがに学校生活において昼食が一番楽しみだ、とは言いませんが、
それでもお昼ご飯の時間がなかったらと思うと何とも言えない虚しい気持ちになります。


憂「梓ちゃん、ご飯食べよ」

梓「やっぱりお昼ご飯の時間は大事だよね」

憂「え?」

梓「ううん、独り言だよ。」

憂「純ちゃんはまだ戻ってこないね」

梓「そうだね」


そういえば授業が終わってから未だに姿を見ていないです。

44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/30(日) 02:11:31.45 ID:ourrogOQO
【PM 1:07 真鍋和】

和「そういえば……」

ふと小耳に挟んだ噂のことを思い出して、図らずも呟いていた。

私はポケットに突っ込んだゴールデンチョコパンの入っていた袋を取り出した。

もらったパンは美味しそうだったので、一人でこっそり食べてしまった。
もし、教室にパンを持ち帰っていたら、唯の胃に収まっていたかもしれないし。


和「やっぱり……」

それにしてもこのゴールデンチョコパン。私の記憶が正しければこれは相当価値のあるパンだ。

三年生から絶大な支持を得ているとかで、滅多に食べれないらしい。

と、なると私は相当ラッキーな人間ということになるのだろうか。



45 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/30(日) 02:17:07.07 ID:ourrogOQO
和「とは言っても……」

私はこのパンについてそれほど詳しくは知らないし
興味もあまりなかったせいか、ラッキー特した、とは思ってもそれ以上の感想は正直何もなかった。


情けは人のためならず。今回のことはいい教訓になった。そういうことにしておこう。


にゃあ


聞いた人間全員を知らず知らずのうちに骨抜きにしてしまうような愛らしい鳴き声が足元から聞こえた。

視線を下ろせすと、ちょうど猫が私の足元を横切っていくところだった。


その猫は黒色だった。

78 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/30(日) 19:22:08.18 ID:ourrogOQO
【PM 1:08 田井中律】

ネズミを狭い空間に大量に入れたとする。

どれくらい大量なのかと言うとほとんど隙間がないような
――とにかく大量にネズミを一カ所に集めるとどうなるのか。

ネズミは互いに争い互いの肉を食って殺しにかかるらしい。
この話を澪あたりが聞いたら、凍りつくこと間違いなしだろう。

なんでこんな話をしたのかと言えば、まあ今の私がまさにそんな感じの状態だからだ。

「そこをどきなさいよ!」

「うるさい!アンタこそっ」

律「すんませーん!あの、パンとかもう諦めるんで……ちょっ押さないでええぇぇ」


つうかもうパンとかぶっちゃけ、どうでもよかった。とりあえずこの肉の空間から脱出したかった。

しかし、さっきから脱出を試みているが、脱出どころかどんどん奥へ奥へと押しやられていく。


サマソニのモッシュだってここまでは酷くなかった。

80 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/30(日) 19:26:07.97 ID:ourrogOQO
【PM 1:09 平沢憂】

梓「そういえば、この前コーヒーを自分で炒れてみたんだけどね」

憂「うん」

梓「なんだか美味しくないんだ。お母さんがその後作ったやつはすごく美味しかったのに」

憂「梓ちゃんと梓ちゃんのお母さんが使ったコーヒーパックは同じ種類だったの?」

梓「うん、一緒だったよ。えと、そうそうブルックスコーヒーっていうのだった」

そこまで言ってから梓ちゃんは腕を組んでう~ん、と唸りました。
普段梓ちゃんはそんなポーズをしないので、なかなか新鮮でした。

私はコホン、と喉を鳴らして梓ちゃんにアドバイスをすることにしました。

憂「とりあえずゆっくり熱湯を入れるのがポイントかな?」

梓「うんうん」

憂「熱湯を入れる際にはカップを傾けておいて、円を描くようにするんだよ」

81 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/30(日) 19:31:16.25 ID:ourrogOQO
梓「それで変わるの?」

憂「うん。それと最初、熱湯を入れる一回、もしくは二回までは、特にゆっくり待たなきゃダメだよ」

梓「ほえー」

憂「それとコーヒーのパックを抜くときなんだけど、コーヒーは最後の一滴が一番まずいからすぐ処理すること」

梓「うんうん、さすが憂。ありがとう」

憂「どういたしまして」

梓「そうだ、お昼ご飯食べたら純の様子見に行こっか?」

憂「うん、そうしよう」



82 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/30(日) 19:36:00.87 ID:ourrogOQO
【PM 1:09 平沢唯】

澪「唯、どうした?顔色が悪いけど……」

唯「た、大変だよ、澪ちゃん……!」

恐ろしいことが起きてしまった。
視界が滲んで、澪ちゃんの心配げな表情までぼやけてしか見えない。

唯「お弁当忘れちゃった……」

わたしのランチタイムはわたしのせいで一瞬にして台なしになった。

澪「お弁当を忘れたって……家に置いてきたのか?」

唯「ぅん」

憂にお弁当を渡されたところまでは覚えてるんだけれど、そこからの記憶がなかった。

どうしたんだっけ?どうしたんだろう?

唯「……思い出せない」

思い出しても意味ないから思い出さなくても別にいっか。


和「あら?まだご飯食べてなかったの?」

ちょうどその時和ちゃんが帰ってきた。

83 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/30(日) 19:38:43.13 ID:ourrogOQO
【PM 1:10 田井中律】

目の前に黄金の輝きがあった。

ゴールデンチョコパン。


必死に女傑たちの群れから抜けようとして逆に押し込められた私は、いつの間にか購買の最前列に来ていた。

そして目の前にある神々しい物体は――


律「ゴールデンチョコパン……!」

私はそれを手にとった。

律「ゴールデンチョコパンくださあああああああい!」

腹の底からのシャウトとともに財布を開いて、金払って、後は素早く立ち去るだけ!

「あいよ!360円ね!」








私の財布に入っていた全財産は260円だった。

84 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/30(日) 19:43:33.35 ID:ourrogOQO
【PM 1:11 琴吹紬】

紬「あ……」

人だかりから不意にりっちゃんが出てきた……とんでもなくボロボロになってだけど。

紬「りっちゃん大丈夫!?」

律「うぅ……ムギいぃ!」

りっちゃんの顔がくしゃりとゆがんだ。次の瞬間、倒れそうになって慌てて私は足を踏ん張った。

りっちゃんに抱き着かれた。

紬「り、りっちゃん、ど、どうしたの?」

律「わ、私のランチタイムが、ううぅ……」

抱き着かれてちょっと照れつつ、困りつつ、どうしようかな、と途方に暮れていると
りっちゃんの叫び声に負けないくらいの悲鳴が、目の前の人だかりから聞こえてきた。


「どうしてゴールデンチョコパンが一つしかないの!?」

85 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/30(日) 19:48:48.00 ID:ourrogOQO
「な、なんだと!!」

「ば、馬鹿な!?」

「ゴールデンチョコパンは三つあるはずだ!!」

「おじさんどうなってるの!?」

「なんですって!?一個生徒にあげた!?」

「誰に!?」

「そんな……!」

「待って!でもたとえ一人にあげたとしてもあと、もう一個はどこにいったのよ!?」

「そ、そうよ!どこにもう一個はあるのよ!」

「このままだと職員会議もんの問題になるわよ!」


どうも何か問題が起きたしい。

そういえば以前、梓ちゃんがゴールデンチョコパンというパンは
一日に三つしか販売しないってそう言っていたような気がする。


86 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/30(日) 19:55:48.54 ID:ourrogOQO
雰囲気がピリピリし始めたので、とりあえずは一旦教室に戻ろうと足を一本踏み出そうとすると、


にゃあ


女の子たちの悲鳴やら怒声やらに交じって可愛らしい鳴き声が足元からした。
視線を落とすと黒猫が、まさに私の横を過ぎ去っていったところだった。

ただしその猫は何かを加えていた。ううん、引きずっていたと言ったほうがいいかしら。

長いパン。まるで、今話題筆頭のゴールデンチョコパンのようにそれは見えた。

みんなに教えてあげるべきか少し迷って、何となくやめた。

紬「りっちゃん……とりあえず教室に戻りましょ」

私の胸に顔を押し付けていたりっちゃんがようやく顔をあげた。

紬「!」

次の瞬間、魔法にかけられたかのように私は固まってしまった。

律「ムギ……?」

魔法。確かに今の――カチューシャが外れて前髪の下りた
涙目のりっちゃんには、それくらいの効力はあるかもしれない。


87 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/30(日) 19:57:49.19 ID:ourrogOQO
【PM 1:14 真鍋和】

唯「うまい!うまいよ!和ちゃんっ!」

和「食べながら喋らないの」

唯は口をモグモグ動かすともう一度口を開いた。

唯「でも本当に美味しいよ!和ちゃんが作ったんでしょ?」

和「そう、ありがとう」

澪「でも、和はお弁当食べなくていいのか?」

和「いいのよ。今日はいいことがあったから」

いいこと。というか嬉しかったこと。

ゴールデンチョコパンを食べれたこともそうだけど、おじさんに感謝してもらったことが嬉しかった。

別に感謝してもらいたくて、いつも頑張っているわけじゃないけど、なんだかおじさんのお礼の言葉は不思議と心地よかった。


紬「ただいま帰りましたー」

ムギがようやく帰ってきた。

ただし、ゾンビのように腰にしがみつく律と一緒にだが。


88 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/30(日) 20:05:00.61 ID:ourrogOQO
【PM 1:20 田井中律】

あれだ。ごぞーろっぷに染み渡るってやつだ。

澪がくれた卵焼きは味付けが妙に甘口だったけど、腹が減った私にはどんな高級料理にも勝るくらいの美味しさに感じられた。

律「卵焼きうめー」

唯「りっちゃん、これ和ちゃんのお弁当だけど、ミニハンバーグあげるね」

律「ハンバーグうめー」

紬「はい、りっちゃん、いっぱい食べて」

律「うめー!!」

いや、さっきからうめーしか言ってないけど味わって食べてるからな。

ムギが用意してくれたお茶を飲む。これがまたうまい!

うん、こういうとき、私は思うんだ。

友達は素晴らしいなあ、と。

89 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/30(日) 20:07:25.07 ID:ourrogOQO
【PM 1:21 秋山澪】

律「かあーっ!ムギのお茶もうまい!」

紬「ふふ、ありがとう」

澪「律、オヤジくさいぞ」

律「ははは、なんとでも言うがいいさ!」

唯「いいなあ、澪ちゃんの卵焼き美味しそう」

和「アンタはどれだけ食べるつもりよ」


やっぱりみんなで食べるご飯が一番美味しいな、とママが作ってくれたピーマンの肉詰めをそしゃくしながら思う。

こうしてみんなで他愛のない話しで、盛り上がって笑いあって……

律「澪?どした?」

ただ、一方で寂しくも思う。

90 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/30(日) 20:12:40.61 ID:ourrogOQO
こうやって私たちが、この学校で一緒にお昼ご飯を食べられるのも、後一年……ううん、一年もないのか。

やだな……みんなと離れたくない。いつまでもこうしてみんなと一緒にいたい……

律「おーいみーお」

澪「うん……ああ」

どうやら少しだけ自分の世界に入っていたらしい。

唯「どうしたの、澪ちゃん?」

紬「体調悪いの?」

澪「え?」

和「律の面倒を見るのに疲れたんじゃないの?」

律「な、なんだとー!」

唯「りっちゃん、ダメだよ?澪ちゃんに頼りっぱなしじゃ」

和「アンタが言うか」

律「そーだそーだ」

和「律も人のこと言えないでしょ」

91 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/30(日) 20:17:27.25 ID:ourrogOQO
私がしんみりしている間にみんなは相変わらずのやりとりをしていた。

紬「澪ちゃん」

隣に座っていたムギが私の腕をつついた。

紬「私は、みんなでこうやって楽しく過ごしてる時間が一番好きなの」

澪ちゃんもそうでしょ――そう言ってムギは微笑んだ。
どうやら私が今、何を考えているのか、ムギにはわかっているらしい。

澪「うん」

ムギには人を素直にさせる力でもあるのかもされない。私は小さく頷いていた。

律「ほい、澪あーん」

律がいつの間にか私のきんぴらごぼうを私の目の前に突き付けていた。

私は食べてやった。

律「!?」

うん、美味しい。律の驚いた顔で二度美味しかった。

律「どうしたんだ澪!?普段なら恥ずかしがるところだろ!?」

92 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/30(日) 20:22:17.30 ID:ourrogOQO
澪「別に……たまにはいいだろ」

それでもやっぱりそこは私、顔に血が集中するのを感じて目をそらした。

唯「わあー二人ともラブラブだー」

律「じゃあ次は卵焼きを……あーん」

澪「調子に乗るな!」

律「あだっ!」

紬「ふふ」

唯「和ちゃん、わたしたちもやろっ。はいあーん」

和「遠慮するわ」

気づけばそこにはいつも通りの日常が広がっていた。

うん。今はまだ感傷にひたるには早すぎるな。
今はこの何気ない日常ををしっかり楽しもう。

私は一人そう、心の中で呟いた。



93 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/30(日) 20:28:12.63 ID:ourrogOQO
【PM 1:32 鈴木純】

新年をうっかりトイレで過ごしてしまったなんて経験の人は私以外にどれくらいいるんだろう。
まあ、私の間の悪さは半端じゃないけどね。

今だってしっかりタイミングを逃したせいで全力疾走しているわけだし。

まさか、自分の立てた作戦によってかえって首を絞めるハメになるとは。

ちなみに私の企てた作戦はこうだ。

まず私の教室は購買から近くないので、とりあえず購買に一番近い、保健室に仮病を使って行く。

授業終了と同時に保健室からダッシュで購買に行き、一番乗り。

そしてゴールデンチョコパンゲット!


……のはずだったのに。

保健室のベッドに寝転がっていたらうっかり寝過ごしてしまうなんて。

103 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/30(日) 22:22:42.62 ID:ourrogOQO
しかし、私の行き先は購買じゃない。
いや、ていうか今さら購買に行ったってコッペパンすら売ってないだろう。

純「はあ……はあ、はあ」

お腹が空きすぎて力が出ないけど、ここで足を止めたらまじめにノーランチになってしまう。

純「待て、猫ー!」


そう、私は猫を全力で追い掛けている。言わなくてもわかるだろうけど、
空腹に耐えられなくなって学校に迷い込んだ猫を捕まて食ってやろう、とかそんなことは一切考えてない。

黒い猫――そいつが口に加えているパン。

私の目に狂いがなければ、そのパンは間違いない。


純「ゴールデンチョコパン!」

105 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/30(日) 22:27:43.07 ID:ourrogOQO
【PM 1:35 中野梓】

我が輩は猫である。

いえ、私はこれ読んだことないんですけどね。
今日授業でやったこゝろも読んだことありませんし。

しかし、猫は好きです。犬よりもはるかにかわいいと思いますし。野良猫は怖くて苦手ですけど。

なんで、急に猫の話をしたのかと言うと、それは単純明快な話で、目の前に猫がいるからです。


にゃあ


か、かわいい。なんて愛らしい鳴き声なんでしょう。
唯先輩じゃないですけど思わず、抱きしめたくなります。

憂「あれ、この猫……」

私の隣で憂が不思議そうに呟きました。

梓「なんでパンをくわえてるんだろうね」


しかもそのパンは桜校一人気のゴールデンチョコパンだったりします。

106 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/30(日) 22:32:07.84 ID:ourrogOQO
【PM 1:36 鈴木純】

本来猫の走る速度に人間が追いつけるわけないんだけど
それでも私はなんとか猫に距離を離されることなくついていくことができていた。

ていうか多分、猫はゴールデンチョコパンをくわえているせいでスピードが遅くなってるんだろうけど。

しかし、しんどい。ちなみにどうでもいいけど名古屋弁では、しんどいをえらい、というらしい。

自分で言っといてなんだけど、本当にどうでもいいなあ!

いったいさっきから一階と二階を何回行ったり来たりしてるんだ私は……?


107 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/30(日) 22:37:02.97 ID:ourrogOQO
【PM 1:37 中野梓】

しばらく、にらめっこをするかのように固まっていた私たちと猫さんでしたが
猫さんはやがて私たちに興味を無くしたのか、踵を返すと、トボトボ歩き出しました。

太くて短いしっぽがまた、かわいい。


憂「どこに行くんだろうね?」

梓「さあ?それより早くも純のところに行かないと、お昼休み終わっちゃうよ」

憂「そうだね、純ちゃんのとこに行かなきゃね。でも……」

梓「?」

憂「今の猫さんゴールデンチョコパン、だっけ?あれ持ってたね」

梓「不思議だね」

憂「不思議だよ」

109 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/30(日) 22:44:20.36 ID:ourrogOQO
【PM 1:38 鈴木純】

神様は私を見捨てなかった。

ついに、ついに……私は活路を見出だした!

現在、私がいるのは保健室。そう、完璧な密室空間である保健室。

すでに入口は閉じてある。

いかに俊敏な猫とはいえ、この密室かつ狭い空間なら十分に勝機はある!

猫はどうやらどこかに隠れたみたいだけど、こっちだって猫飼い主歴十年!

純「さあ、猫はどこいった~」

あたりをじっくりちっくりぱっくりみっちり探す。

純「おぉ?」


棚と棚の隙間から長くて細いにょろにょろ動く物体が見えた。

まさに頭隠して尻隠さず!

この勝負、もらった!

110 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/30(日) 22:49:02.89 ID:ourrogOQO
【PM 1:39 中野梓】

特筆するべきこともなくごく普通に保健室の前に私と憂は、たどりつきました。


にゃあ


いいえ訂正します。プラス一匹、しっぽの太くて短い黒猫を随伴しています。

相変わらずパンをくわえて。

憂「知らないうちにこの猫さん、ついてきちゃったね」

梓「本当だね」

しかし、この短いしっぽは本当に愛らしい。

ちょっとだけ触ってみようかな?


気づかれないようにそーっと触ろうとする前に、猫さんは保健室に入っていきました。

梓「……」

ちょっとだけガッカリ。

111 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/30(日) 22:57:34.47 ID:ourrogOQO
【PM 1:40 鈴木純】

純「ふふふ」

ついに、ついに私は手に入れた。

そう伝説のパン。

ゴールデンチョコパン。

猫の激闘のすえ、ついに私はついに勝利し、そして戦利品をゲットした。

猫が私を恨むかのようにねめつけてくるけど、そんなのはもちろん気にしない。

なにせ、私はずっとご飯を食べてないんだ。もうこのパンを食べないと餓死してしまう。

遠慮なんてしないんだからね。

袋を開ける。ああ……甘い香りがする!

さあ大きく口を開いて……


いっただきまーす!

112 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/30(日) 23:03:19.83 ID:ourrogOQO
【PM 1:41 平沢憂】

純「あ~ぉいしぃなぁーゴール……で……チョコパン、モグモグ」

梓「何だか幸せそうだね、純」

憂「うん、すごく幸せそうな顔してる」


純ちゃんは本当に幸せそうな顔をしてベッドに寝ていました。
ただ、抱いた枕に歯を立ててヨダレを垂らす姿はちょっと女の子的にどうなんでしょう。


純「もぅ……食べ、られな、ぃよ……」


ぐううぅ~

純ちゃんの台詞とは裏腹にそんな低い地鳴りのような音が、彼女のお腹からしました。

梓「そういえば、純はまだお昼食べてないんだったよね」

憂「そっか……今までずっと寝てたんだろうしね」


にゃあ


まるで私の言葉に相槌を打つかのように猫さんは鳴きました。

113 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/30(日) 23:11:30.39 ID:ourrogOQO
梓「あ……」

梓ちゃんの足元にいた猫さんが、ジャンプして純ちゃんが寝ているベッドに飛び乗りました。

……猫ってこんなに高く跳べるんですね。


にゃあ


黒猫さんはもう一回そう鳴くと今までくわえていた、ゴールデンチョコパンを純ちゃんの顔の前に置きました。

それで用は済んだと言わんばかりに猫さんはベッドから飛び下りると、そそくさと出口に向かいました。



115 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/30(日) 23:15:47.76 ID:ourrogOQO
保健室から出る瞬間、黒猫さんはもう一度だけ、振り返りました。

にゃあ


なんとなく笑ったようにも見えましたが、私が表情を確認するよりも先に、猫さんは去っていきました。

梓「そういうば、黒い猫はアメリカでは幸福を呼ぶって聞いたことがあるけど……」

梓ちゃんが、そこで言葉を切りました。私もその話は聞いたことがあります。

純「えへへ……」

まあ、純ちゃんはすでに幸せの絶頂を夢の中で迎えているようですけど。

梓「せっかくだし、ゴールデンチョコパンは置いといてあげよっか」

憂「そうだね……純ちゃん喜ぶだろうなあ」


そろそろチャイムが鳴ってランチタイムも終わる頃です。お暇するとしましょう。


ぐううぅ~

また純ちゃんのお腹が鳴りました。
この調子だと起きたらすぐに純ちゃんはゴールデンチョコパンにかぶりつくだろうなあ。

私と梓ちゃんは顔を見合わせて笑って、保健室を後にしました。

116 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/30(日) 23:16:25.19 ID:ourrogOQO
おわり

121 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/30(日) 23:29:34.06 ID:ourrogOQO
見てくれた人保守してくれた人ありがと

ちなみにこのスレを立てたのは俺だからね

一昨日まで規制されてて昨日ふざけてスレ立てしたらうっかり立ってしまって困った

もう「ゴールデン☆ランチ☆タイム」の☆とかなんでつけたんだよと思って放置しようとしたけど
最近けいおん!SS乱立してるからやっぱ責任もって終わらそうと思って

でも親が夜中に急に帰ってきて12時までにパソコンやめろ言うから
とりあえず、パソコンに書き溜めた分をケータイに移した

んでもう時間空きすぎたからもういいや、乗っ取りってことにしようとしたわけだ


ちなみに12月14日もポッキーの人とも関係ないんで

手法はなんかいいなあって思ったから真似した
やってみたかった

でも文体は真似してないよ!

長文失礼

というわけでバイバイちーん

126 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/30(日) 23:48:24.39 ID:ZWvaxYSS0 [4/4]
乙見てないけど
ちーんとか使うのって「こころ」の作者だろ

128 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/30(日) 23:58:59.34 ID:ourrogOQO [65/65]
>>126

う、うん?

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