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一方通行「ガキはガキらしく、素直に笑ってりゃいいンだよ」
1 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/15(土) 13:03:23.84 ID:HvQspYQo [1/81]
VIPのスレストが収まるの待ってたら規制されて
ちょっと俺の一方さんへの一方的な愛が抑えきれなくなったからこっちでやらせてもらいます。
一応書き溜めアリ。一回じゃ1000までいかないだろうけど
続きの書き溜めもただいま進行中……?
正直ただの俺得な駄文なんで過度な期待はしないでくれよなッ!!
VIPのスレストが収まるの待ってたら規制されて
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一応書き溜めアリ。一回じゃ1000までいかないだろうけど
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正直ただの俺得な駄文なんで過度な期待はしないでくれよなッ!!
2 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/15(土) 13:05:20.90 ID:HvQspYQo
――夜の学園都市を、一人の少年が歩いていた。
その少年の手には大量の缶コーヒーが入ったコンビニのビニール袋が握られている。
「……チッ」
月の光がその少年を怪しく映し出す。
どこまでも白く透き通った髪、どこまでも白く透き通った肌、
その少年は少女と間違えそうになるほど華奢な体をしていた。
若干俯き加減に歩いているため顔が見えず、
その華奢な体つきのため一目見ただけでは性別がわからない。
少年はどこまでも白く澄んでいて、そのまま向こう側が見えるのでは無いかと錯覚するほどに透き通っていて、
まるで自己主張しないように、その白い体は夜の闇に溶け込んでいた。
「……なァオイ?」
少年がふいに歩く足を止め、空を見上げる。
少年の後ろで、ひとつだけ足音がした。
「今夜はやけに月が眩しいよなァ?」
5 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/15(土) 13:10:02.40 ID:HvQspYQo
月の光が、どこまでも白い少年をよりいっそう強く照らし出す。
まるで少年の周りだけを照らしているような、そんな錯覚を覚えそうなほどに。
その少年だけが夜の闇のなか、白く浮かび上がっていた。
空に光る月が、その少年の瞳を照らす。
月の光を受けた瞳が、怪しく光る。
「お前も……そう思うだろォ?」
少年の後ろから聞こえた足跡の主が、くすくすと小さく笑う。
どこまでも透き通った笑い声。
敵意もない、好意もない、相手を嘲るでもない、自己を主張するでもない。
何もない、ただ笑っているだけ。
それゆえに、その笑いにはそこが見えず、どこまでも透き通っていた。
耳をそらそうとしても、なぜだか耳に入ってきてしまうほどに。
少年はその声を聞いて、眉間にしわを寄せる。
「人様を尾行しておいて、挙句笑い出すたァいい趣味してんじゃねェか?」
6 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/15(土) 13:14:16.89 ID:HvQspYQo
少年の瞳が刺す様な視線で背後を見る。
その視線には微かな敵意が篭っていて、その瞳は赤く濁りきっていた。
「あら、これは失礼しました。決してあなたを不快にするつもりはなかったのですけど」
落ち着いた口調で、どこまでも透き通った声でそう言い、また笑い出す。
「失礼だって思うンならさっさとその笑い声を止めなァ」
しかし、笑い声がやむことはない。
相変わらず、透き通った笑い声だけが止むことなくその場に音として存在していた。
その声からは一切の思考が、感情が感じられない。
それゆえに、その底にあるものが読み取れず、ただどこまでも透き通っている。
少年の瞳が笑い声の主を睨む。
「ふふふ、あまり睨まないでください。本当に敵意はないんですよ。」
少女だった。
その口調からは想像ができないほどその体は小柄で、華奢で、
それは少年がほんの少し手を触れれば壊れてしまいそうなほどだった。
夜の闇の中でも自己を主張するように、月の光をあびた茶色い髪はきらきらときらめき、
頭頂部から跳ねたクセ毛は、彼女の一挙一動。それこそくすくすと小さく笑う微かな揺れにも反応して、
まるで意思を持っているかのように揺れ動く。
その瞳には冷たい光が不安定にゆらゆらと揺れ動く。
7 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/15(土) 13:18:00.51 ID:HvQspYQo
そして……
「……あァン? オイオマエ、こいつは一体全体どういうことだァ?」
少女のその顔、幼さこそはあれど確かに見覚えのある顔。
少年がいままで幾度となく見てきた顔。
少年がいままで幾度となく殺してきた顔。
「はじめまして一方通行……といってもこちらはまったく初めてな気はしないんですがね」
――「一方通行(アクセラレータ)」それはこの少年の名前、
この学園都市に7人しかいないレベル5、その第1位の名前。
「……ってェことは、やっぱり俺の思い違いってわけじゃなさそうだなァ?」
「一応、自己紹介をしておきましょうか。私の名前は打ち止め。
検体番号20001号、妹達を統括するために作られた上位固体です」
8 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/15(土) 13:25:05.31 ID:HvQspYQo
――「妹達(シスターズ)」学園都市に7人しかいないレベル5、その第3位、常盤台の超電磁砲。
その体細胞クローンであり、そしてかつて、一方通行をレベル6にするための実験により
一方通行に殺されてきた少女達。
「上位固体だァ?」
イラついた様子の一方通行とは違い、いたって落ち着いたまま打ち止めは続ける。
「えぇ、考えてもみてください。妹達はいくらオリジナルに遠く及ばないとはいえ軍事用に調整されているのです。
そんな彼女たちを何の対策もなく野放しにするわけにはいかないでしょう?」
一方通行は考える、確かに彼女達は中学生の少女という見た目からは想像がつかないほどに危険だ。
大の大人でもそうやすやすと扱えない「鋼鉄破り(メタルイーター)」を軽々と使いこなす上に。
命令とあらば、おそらく人を殺めることに疑問を覚えることもなく黙々とやってのけるであろう。
――かつて一方通行に殺されることなんの疑問も持たなかったように……。
「なるほどォ、まァ確かにあンなのが一斉に反乱でも起こしたンじゃたまったもンじゃねェだろうしなァ」
一方通行は想像してみる。
世界中に散らばった妹達、もし仮に彼女達が一斉に暴れ始めたら……。
「そういうことです、学園都市内だけならまだしも。実験が凍結された今、彼女達は世界中に散らばっています。
私はそんな彼女たちを纏める為に作られたのです。
……色々と他の固体と違っているのは、おそらく私自身が変な気を起こさないように、ということなんでしょうね」
10 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/15(土) 13:30:38.49 ID:HvQspYQo
「ケッ……それでぇ? その反乱を防ぐための上位固体とやらがどうしてこンなとこをほっつき歩いてんだァ?」
「いい質問ですね、実は私もそのことで困っているのです」
いたって淡々と、困った様子など一切見せずに少女は言う。
「そいつはどういう意味だァ?」
「見ていただければわかるように、私の体は他の固体と比べまだ未熟なのです、
本来ならまだ培養機に入っていなければならないのですが……」
確かに彼女の体は今まで一方通行が見てきた妹達に比べると明らかに幼かった。
「どういうわけか成長過程の途中で培養機から出され、毛布一枚で町に放り出され、
その理由も分からずに、今まで行く当てもなくさまよい続けていたのです」
毛布一枚、と言ったが今の彼女は若干くたびれたワンピースのようなものを着ていた。
おそらく能力を使ってどこかから拝借してきたものをずっと着ているのだろう。
「はン、そうかいそりゃ難儀なこったなァ」
「あら意外ですね、同情してくださるんですか?」
「あァン? ……そうだなァ、たしかにそうだぜェ……こんなやつに同情するなんざ俺らしくねェ」
確かに以前の――実験をしていた頃の一方通行ならば同情なんてことはしなかっただろう。
むしろ笑い飛ばし、いっそ楽にしてやるとでも言ってその場で手を出していたかもしれない。
「だが残念だったなァ? 俺はちィとばかし前とは変わったンだよォ……」
11 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/15(土) 13:34:39.16 ID:HvQspYQo
そう、彼は変わった。いや、変えられた。
あの実験で、あの場所で、ある男に止められたときに。
「私にはいまいち、何が変わったのかわかりませんが」
自分はあの時、たった一人のレベル0に倒された。
生まれて初めてだった、今まで誰にも、何にも負けたことはなかった。
「へっ、まぁ確かに根本的なとこはなンにも変わってねェ。もし、刃向かう奴がいりゃあとことンぶち[ピーーー]ぜェ?」
あの時一方通行は――初めて自分を止めてくれる存在にぶち当たった。
「だが、残念ながら今の俺は昔と違って……砂糖菓子みてぇになあまちゃンになっちまったンだよ。
無抵抗のガキに対して牙を向くなんて大人げねェことはしねェ」
あの時一方通行は――初めて人の痛みを知ることができた。
「……いったいあなたは何を言っているの?」
12 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/15(土) 13:37:06.72 ID:HvQspYQo
クックックと不敵に一方通行が笑う。
確かにその笑みは彼の今までの人生を物語るようにひどく悲しく歪んでいた。
しかし、そこに敵意はない、自分を主張するのでも相手を嘲るのでもない。
「なァ、お前行く当てがねェっつってたよなァ?」
その笑みには――ただ微かなやさしさだけが浮かんでいた。
「ついて来な……俺のとこでよけりゃあ、面倒みてやんよォ」
その時一方通行は――初めて偽りなく人に接することができた。
13 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/15(土) 13:42:22.72 ID:HvQspYQo
「もう朝ですか……」
ここに来てもうどれくらい立つだろう。
最近ではすっかりここでの暮らしにも慣れてきてしまった。
初めてここに来た時には、この部屋の主に敵意を向ける者たちによって、
まるでハリウッド映画の戦闘シーンの撮影でもしたのかと思うほど荒れていた部屋も、
ある日外に出かけて、帰ってきたときには綺麗さっぱり片付いていた。
「どうせあの人はまだ起きてはいないのでしょうね」
いつも一方通行は私より起きるのが遅い。
ひどいときには昼過ぎまで寝ていることもある。
「とりあえず起きるとしましょう。朝食を作らないといけません。」
自分が寝泊りしている、一方通行の住むマンションの部屋のこの一室は、
もともとは何にも使っていない空き部屋だったところに、生活に必要なものだけを用意したようだ。
いままで自分の寝ていたやけに清潔感のある白いシーツの敷かれたベッド、
身を起こして見回してみても小さなデスク、ほとんど中身の入っていないクローゼット、
それだけしかない質素な部屋。
「まぁ……居候の身としては贅沢はいえませんが」
しかしそれにしたっていくらなんでもこの部屋は味気なさ過ぎるんじゃないか。
14 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/15(土) 13:47:18.04 ID:HvQspYQo
「……あれ?」
どこからか、なにやらいい香りがする。
いつもなら彼はまだ自分の部屋で眠っているはずですが……。
「まぁ、別に彼が私より早く起きていたからといって、何も問題はないのですが……」
とりあえずリビングへ行くとしよう。
いつまでもベッドの上に座っていてもどうにもならないのだから。
「おはようございます、一方通行」
「ン? あァやっと起きやがったかァ」
なるほど、さきほど部屋までした香りは彼の飲んでいるコーヒーのものでしたか。
「あァ? どうしたンだァ、そンなとこで突っ立ってねェで座れよ」
「え、あぁそうですね。」
しかしいつも思うが、なぜリビングには座れるものがソファひとつしかないのだろう。
別に不満があるわけではないが、これではいつも並んで座らなければならない。
「それにしても、あなたは本当にコーヒーが好きなんですね」
横に座るとより一層コーヒーが香りますね。いつもブラックの彼のコーヒーは香りだけでも十分な目覚ましになります。
「わりィかよ、好きなもンは好きなんだ」
15 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/15(土) 13:52:30.95 ID:HvQspYQo
「いえ、悪いと言っているわけではないんですが。毎朝コーヒーだけでは体に悪いですよ?」
朝もコーヒーだけじゃなくたまにはなにか食べないと、
いつか本当に体調を崩して倒れてしまうんじゃないだろうか。
「余計なお世話だっつゥの、俺はずっと朝はこれなんですゥ」
「ですが……やはりそれだけでは体に悪いと……」
そうだ、自分の朝食を作るついでに彼の分も作らせてもらおう、
作るといってもトーストとサラダくらいのものだが、逆にそれくらいなら彼も食べてくれるだろう。
「私が、あなたの分の朝食も作ります。少しでも食べてください」
「あァン?そんなもンいらねェって……」
「いいですから、少しでも食べてください」
居候の身とはいえ、時には強く言わせてもらいましょう。
さて、そうと決まれば早速朝食を作らねば……。
「それじゃあ作ってきます、待っていてください」
「お、おゥ……しゃあねェな、食ってやンよ……」
「クス……ありがとうございます。それではすぐに作りますね」
16 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/15(土) 13:57:35.86 ID:HvQspYQo
さて、それでは彼の気が変わらない内にぱぱっとキッチンに言ってささっと作ってしまおう。
「えーと、サラダの野菜は……」
しかし、いつになってもこの台の上に乗って料理するというのにはいまいち慣れない……。
「今日は、いつもより気合を入れて作るとしましょうか……ん?」
どうして自分は、たかが朝食を作るくらいでこんなにも楽しんでいるのだろう。
どうして、彼に作ってあげるというだけでこんなにもうれしい気持ちになるのだろう。
「……そもそも、どうして私はここにいるんでしょう……」
そんなのは簡単だ、今でも鮮明に思い出せる。
彼が私に、自分のところへ来いと言ってくれた夜のことを……。
あの日、私はあの後彼に言われるままにこの部屋に来た。
彼がいないうちに襲撃され荒れ果てた部屋で、彼は羽毛のはみ出してはいるものの
まだいくらか損傷の少なかったベッドに私を寝かせ、自分はバネの飛び出したソファで眠った。
17 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/15(土) 14:02:26.15 ID:HvQspYQo
それからというもの、私はなりゆきでもう数週間この部屋に住まわせてもらっている。
この間は、くたびれたワンピースしか持っていなかった私のために、
わざわざ服を買いに連れて行ってくれた。
今使っているこの台も、その身長では不便だろうと言って彼が買ってくれたものだ。
「どうして彼は、私に優しく接してくれるのでしょうか……」
今まで実験で殺してきた1万人の妹達へ対する贖罪の気持ちだろうか。
それとも私を利用して、妹達を操り何かをするつもりなのだろうか。
「いいえ、多分そんなことじゃありません……」
あの夜、部屋へ行く途中の道で彼は言った。
『――勘違いするなよォ、別に俺はお前達に許して貰おうだとか思ってるわけじゃねェ。
それに……もとより許して貰うつもりもねェ』
『それはつまり、私達があなたを恨もうとい恨むまいと関係ないということでしょうか?』
『そうじゃねェよ、勘違いすんなァ? 俺はなァ……俺みたいな人間は許されちゃいけねェンだよ
一生憎まれて、恨まれてェ、そうやって一生罪を背負って生きていかなけりゃいけねェンだ』
『それでは……謝罪の意味ではないのでしたら、どうして私を助けてくれるのですか?』
『別にィ、たいした理由じゃねェよ……さっきも言っただろうがァ?』
18 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/15(土) 14:05:40.52 ID:HvQspYQo
『俺はただァ、もう自分を偽らねェって決めたンだよォ……もう、理由もなく誰かを傷つけンのは嫌になったンだ。
傷つけることしか出来なかったこの手で、誰かを助けてみたくなったンだ』
彼は……おそらく、ただ本当に……純粋に私のことを思ってくれている。
過去の彼がどうだったかは関係ない、確かに彼は妹達を殺したし、
人を傷つけることをなんとも思わない人間だったかも知れない……。
「でも、そんなことは関係ない……」
でも私は知っている。彼が昔、実験が行われていたときだって
本当は私達を傷つけたくないと思っていたこと、私達に生き延びる道を示してくれていたこと。
今の彼は、どこまでもやさしくて、人のことを想うことができて、暖かい……、
その心だけは……きっとどこまでも透き通っているから……。
「あぁ、そうなんですね……」
目が覚めたときは行く当てもない自分の境遇にも悩みはすれど、特に悲しいなどとは思わなかった。
そもそもそういうことを考えるような感情というものが自分には欠落していた。
まったく、この数週間でずいぶんと感情豊かになったものだ……。
――そうか、きっと私は……彼のことが……
19 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/15(土) 14:09:19.26 ID:HvQspYQo
「朝食、できましたよ」
「ン? あァ……本当に俺の分まで作ったのかよ……」
「当然です、さぁどうぞ食べてください」
「チッ、しゃあねェな……」
過去なんて関係ない、他の妹達に彼を許せなんてことも言えるはずもない。
それでも……今はただ、私とこの人と、二人の時間を大切にしよう……
「美味しいですか?」
「あァはいはいィ、美味しい美味しいィ、すっげェ美味しいですゥ」
「そうですか、よかった」
「なァに笑ってンだか……」
「いえ、うれしかったので、大切な人に喜んでもらうというのは。とても暖かい気持ちになります」
「……大切な人ねェ、俺なンかがかよォ?」
「はい、まだ出合ってそんなに長い時間は経っていませんが関係ありませんよ」
「私にとって、あなたはとても大切な人なんです」
20 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/15(土) 14:14:37.18 ID:HvQspYQo
どこまでも白く、どこまでもやさしく透き通った少年と、
どこまでも繊細で、自分の色が見えない少女。
二人はソファに並んで座り、少女の作った朝食を食べていた。
どこにでもあるいたって平和な光景――見る人が見ればなんだこれはと絶句するかもしれないが。
少なくとも、二人にとっては平和で、暖かい時間。
「食後にもやはりコーヒーなんですね」
「別にかまわねェだろォ? きちンと朝食は食ったンだからよォ」
「まぁ、かまいませんが……ところで今日はどうするんですか?」
「ン? 別に何にも予定はねェけどォ?」
「また一日中ごろごろしているんですね……」
「文句あっかよ」
「いえ、別にそういうわけでは……」
少々不満そうにしながらも、打ち止めは食後の二人で過ごす暖かい時間を
のんびりと堪能することにした。
21 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/15(土) 14:20:14.70 ID:HvQspYQo
――ジクリ
「――ッ!?」
打ち止めの頭の中を何かが蠢く様な、とてつもない頭痛が走った。
「かっ……!」
何が起きたのか理解できなかった、
何の前触れもなく襲ってきた頭痛に全身から嫌な汗が噴出すのがわかった。
「――!!」
「あァ? おい、どうしたァ! 打ち止め!?」
打ち止めの異変に気づいた一方通行が今にも倒れそうな打ち止めを抱きかかえる。
その小さく、触れただけで壊れてしまいそうなほど繊細に見える体は痙攣するように震え、
顔は真っ赤になり、その瞳に光はなく、焦点が定まらず視線が宙を泳ぐように揺れていた。
どこの誰が見たとしても、一目見ただけで異常だと見て取ることができるだろう。
「おいィ! しっかりしろ! 打ち止めァ!!」
返事はない、打ち止めはすでに気を失っている。
荒い呼吸、全身から噴出す汗、抱き寄せた体から伝わる乱れた心拍音。
22 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/15(土) 14:23:16.99 ID:HvQspYQo
さきほどまで自分の横で何食わぬ顔で食事をしていた。
コーヒーばかり飲んでいる自分のためにと、わざわざ朝食を作ってくれた。
そんな彼女がいま自分の腕の中で苦しんでいる。
このまま息絶えてしまうのではないかというほどに。
「ちくしょうがァ! 一体何がどうなってやがる!!」
ジクリと胸の奥が痛む、締め付けられたように息が詰まる。
抱きかかえた手のひらに、いやな汗がにじむ。
脳裏にある会話が思い出される。
『――見てもらえばわかるように、私の体は他の固体と比べまだ未熟なの、
本来ならまだ培養液に入っていなければならないのだけど……』
そうだ、あの時確かに彼女は他の妹達に比べて幼すぎると一方通行は思った。
『どういうわけか成長過程の途中で培養液から出されて、毛布一枚で町に放り出され、
今まで行く当てもなくさまよい続けていたのです』
そうだ、彼女は中途半端な状態で培養液からだされたといっていた。
23 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/15(土) 14:24:59.74 ID:HvQspYQo
一方通行は考える。
十分に成長し、しっかりとした状態で生まれた妹達ですら、
今もまだ生きながらえる為に世界中で調整を受けている。
混乱し、複雑に絡まっていた思考がまとまり始める。
では、未熟な状態で放り出され、当てもなく町を彷徨っていた彼女は?
少なくともこの部屋に来てからだけでもかなりの時間が立っているはずだ。
やがてその思考はあるひとつの仮定へとたどり着く。
もし、彼女の体にもう限界が来ていたとしたら?
もともと未熟だった体で町に放り出されるなどという無茶をして……。
もし、彼女の体が普通の生活に耐えられるだけの強さを持っていなかったら?
ろくに調整もせず、一緒にすごしてきたこの日々は……。
24 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/15(土) 14:29:39.30 ID:HvQspYQo
「ふざけンなァ! 死なせるかよォ! ぜってェに死なせたりしねェぞォ!!」
死なせるわけにはいかない。
この腕の中にいる少女だけは絶対に死なせたくはない。
別に罪の意識からこの少女を守りたいと思っているわけでもない。
この少女と過ごしてきた日々も決して長かったわけでもない。
それでも、この短い日々を思い出せば。この少女との僅かな思い出を思い出せば。
この少女の前では自分に素直でいれた。
この少女はこんな自分のことを真っ直ぐ見てくれた。
やっと、偽りのない自分を見せることができるかもしれないと思った。
やっと、傷つけることしかできなかった自分の腕で何かを守れるかも知れないと思った。
やっと、守りたいと思える大切な存在ができたと思った。
自分のことを、大切な人だと言ってくれた。
「チクショウがァ!!」
25 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/15(土) 14:39:25.31 ID:HvQspYQo
一方通行は意識のない打ち止めを抱えて部屋を飛び出した。
とにかく、どこかこの少女を調整できる場所を探さなくてはならない。
実験を行っていた研究所は駄目だ、連れて行けばこの少女がまた何かに使われるかもしれない。
そんなことは許すわけにはいかない。
前に学園都市のある病院で一人の妹達が調整を受けていると聞いたことがある。
そこに連れて行けばなんとかしてくれるかもしれない、
いざとなれば力押しでもなんでもして言うことを聞かせてやる。
この少女を守るためなら、何だってしてやる。
たとえ悪魔と呼ばれようとも、この少女だけは守りきってみせる。
26 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/15(土) 14:43:34.79 ID:HvQspYQo
「お、お客さま。他のお客様の迷惑になりますので、少々落ち着いてください。」
とある病院の受付で、少女を抱えた白い少年が今にも噛み付きそうな剣幕で怒鳴っていた。
「うるせェ! いいからさっさと医者をだせっつってンだろうだァ!」
その手に抱えた少女はすでに息遣いも怪しくなってきている。
早くしなければ手遅れになるかもしれない。
その恐怖が少年の焦りをさらに掻き立てる。
「いいか! 妹達だァ! こういえば絶対に話のわかるやつがいる!そいつを連れてこい!今すぐにだァ!」
「わかりましたので、少々お待ちください!」
受付のナースもその様子にただ事ではないと感じたのだろう。
奥に引っ込んでなにやら人を探している。
「クソがッ! 早くしろォ!早く!!」
1分1秒が、永遠に感じられるほど長く感じる。
少しでも早くこの腕の中の少女を助けなければならない。
1分1秒が、たったそれだけの時間が少女の命を奪っていくように感じた。
27 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/15(土) 14:46:47.67 ID:HvQspYQo
「おやおや、君がさっきから騒ぎ立ててるっていうお客さんだね?」
焦りを隠せず全身に汗を浮かべた一方通行の前に一人の医者が現れた。
カエルのような顔をしたその医者は、本当にこんなやつに任せて大丈夫なのかと
不安を覚えるような、ひょうひょうとした口調で言う。
「話は大体わかっているよ? 本当ならいろいろと君に聞きたいこともあるんだがね?
どうもそうも言ってらっれないようだね……さぁ、早く患者をこちらへ、すぐに処置にとりかかろう」
だがしかしその医者の言葉は力強かった。ひょうひょうとした口調はどこへ消えたのか。
そこにいるのは誰よりも患者を助けることを考えている、一人の名医だった。
――その名医は、「冥土帰し(ヘヴンキャンセラー)」と呼ばれていた。
「オマエが妹達の調整をやってンのかァ!? 頼む! こいつを! 打ち止めを助けてやってくれェ!」
一方通行はすがるように言う。
そこに学園都市第1位としての彼はいなかった。
ただ誰よりも打ち止めのことを助けたいと思っている一人の少年がいた。
「当然だね? 君は一体誰に向かって言ってているんだい?
僕が診る限り、彼女は絶対に助けて見せるよ」
そういうと冥土帰しは一方通行を連れ、建物の奥へと消えていった。
一方通行はカエル顔この医者にすべてを託すことを決めた。
この少女を救うことができない無力な自分の代わりに、この少女を救ってくれと。
28 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/15(土) 14:48:49.81 ID:HvQspYQo
とある病院の薄暗い一室で、一人の医者が戦っていた。
ある少年に託されたの一人の少女を救うべく。
「おかしいね……」
冥土帰しは少女の様子を診て呟く。
ベッドの上で浅い呼吸を繰り返す打ち止めは確かに肉体的に限界が近い。
今すぐにでも調整をしなければ危ないかもしれないほどだ。
しかし、ただそれだけでこんなに危険な症状がでることはないはずだ。
少なくとも、今目の前で少女が苦しみ方は調整不足だけが原因とは思えない。
「そうか、これは……と、なるとそうだね……きみ、ちょっといいかい?」
冥土帰しは部屋の片隅にたたずんでいた一人の少女に声をかける。
「少し、頼みたいことがあってね……」
茶色い髪を肩まで伸ばした少女は小さくうなずく。
29 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/15(土) 14:53:10.27 ID:HvQspYQo
その部屋の前の廊下に置かれたソファに腰掛け、一方通行は祈るように手を握っていた。
「頼む……あいつを救ってくれェ……」
冥土帰しが打ち止めをつれて部屋に入ってから10分ほど経った頃、
ふいに目の前のドアが開いた。
「やぁ、気分はどうだい?」
部屋から出てきた冥土帰しはひょうひょうとした口ぶりで聞く。
「あァン!? そンなことはどうでもいいンだよ!」
一方通行は立ち上がり、冥土帰しの胸倉につかみかかろうかというぐらいに近づき怒鳴りあげる。
「そンなことより打ち止めはどうなったァ! ちゃンと助かるンだろうなァ!?」
その質問に対して一方通行と少し距離をとってから、
冥土帰しは先ほどまでとは打って変わって、妙に重々しい口調で答える。
「そのことなんだけどね……」
30 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/15(土) 14:57:07.31 ID:HvQspYQo
一方その頃、とある公園で一人の少年が俯いて歩いていた。
ツンツンとした髪型をした少年は覇気のない声で一人ぶつぶつと呟いている。
「不幸だ……あぁ、不幸だぁ……」
その少年はつい先ほど、この公園の片隅にある自販機に、
手持ち全財産である二千円札を飲み込まれるという不幸に見舞われていた。
「だあぁぁぁ! もう! どうしてこうも不幸なんだぁー!」
何かが吹っ切れたように叫びながら両手で頭を抱える少年。
周りから見ればあまりにも怪しい人物に見えるだろうが、その少年はもうすでにそんなことも
気にしていられないくらいに精神が擦り切れていた。
「毎日毎日! 身に覚えのない理由で補修! 補修! ほっしゅっう!!
その挙句に自販機には全財産を飲み込まれるわ! 不幸だぁぁぁぁ!!!」
不幸だ不幸だと喚き声をあげる。
その後ろにひとつの影が音もなく近づき、頭を抱え蹲た不幸な少年の肩に手を置いた。
「少々よろしいでしょうか、と、ミサカは不審な行動を起こしているあなたに問いかけます」
茶色い髪を肩まで伸ばし、額には軍用ゴーグル、そして名門常盤台中学の制服を着た少女。
その少女は感情の読みとれない瞳で蹲る少年を見つめる。
31 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/15(土) 15:02:01.80 ID:HvQspYQo
「へ? っておぉ、誰かと思ったら御坂妹か。どうしたんだこんなところで」
御坂妹と呼ばれたその少女は、かつてとある実験の為に生み出された体細胞クローン、検体番号10032号。
かつて、目の前の少年に命を救われた少女。
少年は少女の顔を見るや否や取りあえず立ち上がり、
いまだに未練を断ち切れないといった感じの表情で答える。
「実は上条当麻、あなたに頼みたいことがあります、と、ミサカはあなたに頭を下げます」
上条当麻と呼ばれた少年は、下げるといいながらまったく頭を下げている気配のない少女を見て、
ひとつため息をついてから口の中で「不幸だ」と呟きながら頭を掻く。
「はぁ、またやっかいごとかぁ? まぁいいさ……で、俺に頼みたいことってなんだ?」
その少年は、困っている人を見過ごすことのできない人間だった。
「あなたのその右手で救ってほしい人がいるのです、と、ミサカは願いを伝えます」
少年の右手、正確には手首から先、そこに宿る力。
学園都市のシステムスキャンでレベル0と判定され、能力開発は万年落第。
そんな彼の持つ唯一無二の力「幻想殺し(イマジンブレイカー)」
彼はこれまで、その右手で何人もの人を救ってきた。
32 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/15(土) 15:07:32.39 ID:HvQspYQo
とある病院の一室、そこに一人の少女とそれに連れられるように一人の少年がやってきた。
ツンツンした髪型の少年はその部屋の中にいた一人の少年を見つけると、
一瞬固まり、そして次の瞬間険しい顔つきになり、そしてすぐに何かを振り切るようにもとの表情に戻った。
「一方通行……大体の話は聞いたぜ」
一方通行は俯いていた顔を上げ上条当麻の顔を見ると、一瞬バツの悪そうな顔をする。
だがやはり彼もすぐに元の表情に戻る。
「よォ三下ァ……話は……聞いてるンだなァ?」
「あぁ、お前がその子を連れてきたってことから、そしてその子の今の状況までな」
「そうかよ……けっ、笑えンだろォ?」
一方通行は上条当麻の顔から目をそらし、自らをあざ笑うように言う。
「今まで散々……それこそ1万人以上殺してきた俺がァ
いまさらになって誰かを救いてェなンざ……調子の言い放しだよなァ」
胸の奥がキリキリと痛む。
「しかも結局俺にはこいつを救うことが出来ねェときやがった、はっ、本当にとンだ茶番だよなァ!」
胸が締め付けられるように息が苦しくなってくる。
とうの昔に涸れてしまったと思っていた涙が溢れそうになる。
「それでもよォ! 守りかたかったンだ! 俺の手でも誰かを守れると思いたかったンだ!
でも守れねェ! 俺じゃ結局こいつを守ることが出来なかった!」
33 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/15(土) 15:12:32.03 ID:HvQspYQo
その赤い瞳から涙が溢れだす。
その涙は、どこまでも悲しい色をしていた。
「ハッ! どうだよ……笑えるだろ? 笑えよ! 無様なこの俺を笑えよ!!」
自分でもなにを言っているのかわからなくなってくる。
それでも言葉がとまらなかった、胸のそこから涙と共に自分の意思とは関係なく溢れ出してきた。
それを吐き出さないと、心が壊れてしまいそうな気がして止まらなかった。
悲しさを吐き出して、何かにぶつけなければ張り裂けそうな心を保てなかった。
そんな自分が情けなくて、また涙が溢れ出した。
「――笑わねぇよ」
ビクリ、と一方通行の肩が震えた。
目の前の少年が何を言ったのかわからなかった。
「笑うわけがねぇだろうが!」
力強く、上条当麻はそう言った。
その瞳は真っ直ぐに一方通行を見据えていた。
34 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/15(土) 15:18:20.01 ID:HvQspYQo
「なンで……」
気づけば涙が止まっていた。
「なンで笑わねェンだよ……無様だろ? 滑稽だろ!? 笑えよ! こンなどうしようもない俺を笑えよ!」
自分の弱さをぶつけ、そんな自分を責め続ける醜い心を曝け出し。
それでもなお、そんな自分のことをまっすぐ見据える瞳。
そんな少年の強さに戸惑い、逃げるように一方通行の口から自虐の言葉が溢れる。
「笑わねぇって言ってんだろ!!!」
それでも上条当麻という男は、一方通行の心から目をそらさない。
今度は、先ほどよりももっと強く。
「なにを笑うことがあるっていうんだ! なにも無様なことなんてねぇじゃねぇか!
お前はそいつを! 打ち止めを助けたかったんだろ! 守りたかったんだろ!?
その気持ちに偽りはないんだろう!!? じゃあ何もおかしくねぇしなにも笑うことなんてねぇ!」
言葉が出なかった。
なぜ目の前の少年は自分の為にここまで必死になっているのかわからなかった。
なぜこんな自分を、笑うどころかそんな真っ直ぐな瞳で見つめることが出来るのかわからなかった。
「もし、お前が自分のことを無様だとか滑稽だとか、そんな間違った心に囚われているって言うんなら、
自分の心と素直に向き合えないって言うんなら――」
37 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/15(土) 15:24:18.81 ID:HvQspYQo
その少年はどこまでも真っ直ぐだった。
どこまでも真っ直ぐに人を見つめることができる人間だった。
だからこそ、一方通行という少年の心の奥の、
自らが閉じ込めてしまっていた部分を見つけることができた。
「――まずはそのふざけた幻想を、ぶち[ピーーー]!!」
その悲しく、やさしい心を。
「三下……俺は――」
やっとわかった。
どうして自分がこの少年に負けたのか。
そしてその時から自分は変わろうと思ったのか。
この少年はいつだって真っ直ぐだったから。
自分みたいに偽りで自分を固めるような人間じゃなかったから。
そんな自分の奥までも、わけ隔てなく真っ直ぐに見つめてくれる強さを持っていたから。
だから、多分自分はこの少年に認めてほしかった。
自分という人間の偽りのない部分を、認めてほしかったんだろう。
「――俺は打ち止めを助けてェ! 頼む、三下ァ! そのためにお前の力を貸してくれェ!」
38 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/15(土) 15:25:46.47 ID:HvQspYQo
あ、あぁっ!?ぎゃあああああああああああああああ!!
みすった、まじでみすったぁぁ!?
チクショウ……製作で書くのなんて慣れてないからやっちまった……
すんません、テイク2やらせてくださいッ
ってか>>35フライングやwwwwwwめwwwwwwてwwwwwwwwww
39 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/05/15(土) 15:26:14.90 ID:HvQspYQo
その少年はどこまでも真っ直ぐだった。
どこまでも真っ直ぐに人を見つめることができる人間だった。
だからこそ、一方通行という少年の心の奥の、
自らが閉じ込めてしまっていた部分を見つけることができた。
「――まずはそのふざけた幻想を、ぶち殺す!!」
その悲しく、やさしい心を。
「三下……俺は――」
やっとわかった。
どうして自分がこの少年に負けたのか。
そしてその時から自分は変わろうと思ったのか。
この少年はいつだって真っ直ぐだったから。
自分みたいに偽りで自分を固めるような人間じゃなかったから。
そんな自分の奥までも、わけ隔てなく真っ直ぐに見つめてくれる強さを持っていたから。
だから、多分自分はこの少年に認めてほしかった。
自分という人間の偽りのない部分を、認めてほしかったんだろう。
「――俺は打ち止めを助けてェ! 頼む、三下ァ! そのためにお前の力を貸してくれェ!」
40 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/15(土) 15:29:35.04 ID:HvQspYQo
なにかが吹っ切れた気がした。
心が軽くなった気がした。
もう、自分を偽ることなく、真っ直ぐにぶつかって行ける強さを貰った気がした。
「あぁ、まかせろ! お前の思いは絶対に裏切らない!」
一時はすれ違った二人の少年。
もう二度と交わることのないと思えた二つの道が。
今ここで、一人の少女の為にひとつになった。
41 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/15(土) 15:34:44.89 ID:HvQspYQo
上条当麻は病院の近くの裏路地を走っていた。
放置された自転車やゴミ箱を蹴飛ばしても気に留めている時間はない。
『――この子のこの以上は調整がされていないせいではないね?』
息を切らしながら、汗だくになりながらも怪しいところはすべて見て回る。
途中で不良に絡まれてもかまっている暇はない。
『おそらく何かの能力者、それも直接能力者に干渉しないと手の出しようがないものだろうね』
少しでも怪しいと思えば建物の中だろうがビルの屋上だろうが、
まさに草の根を掻き分けるようにくまなく見て回る。
『ただし、僕の見たところ能力者はここからそんなに遠いところにいないはずだよ?
そこで上条くん、君には能力者を直接見つけてその右手で能力を解除してほしい』
周辺の目ぼしい場所はすべて調べつくした。
残るの目の前にある廃ビルのみ……。
『僕が見たところどうやらあまり時間に余裕はなさそうだ。
出来る限りはやく、能力者を見つけて能力を解除してくれたまえ』
窓も扉も外されている、打ちっぱなしのコンクリートがむき出しになった廃墟へと足を踏み入れる。
走り回って疲労が溜まり、重たくなった脚に気合を入れなおす。
『――三下……俺には打ち止めを救うことの出来る力がねェ……頼む……俺の変わりに打ち止めを救ってくれ!』
42 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/15(土) 15:38:33.64 ID:HvQspYQo
屋上を目指して、上条当麻は力を振り絞り、階段を駆け上る。
静かな建物の中に自分の足音と呼吸音だけがやけに響く。
心臓が血液を体へ送り出す音が聞こえる。
汗が額を垂れるが、そんなものを気にしている暇もない。
上条当麻を動かすもの、それは一人の友人が見せた涙。
初めて自分を偽ることなくさらけ出した一人の友人の願い。
ただそれだけが、彼を動かす力となっていた。
どれくらい上ってきただろう。少年は階段を上りきり、ドアのはずされた屋上へ踏み出した。
一気に上りきったため息が切れ、汗がとめどなく流れ出す。
酸素が足りず、うまく頭が回らない、視界がぼやける。
しかし、屋上の端に見える二人の男、それを見つけたとたんに一気に目が覚めた。
――やっと見つけた。
43 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/15(土) 15:40:58.25 ID:HvQspYQo
友人を、友人の大切な人を傷つけた犯人、その二つの人影は屋上へ入ってきた少年に気づき、
そしてそのうちの一人が静かに振り返る。
振り返った男は白衣を着た中年の男だった。
目は血走り、息遣いが荒い。そしてその右手には、黒光りする拳銃が握られていた。
そしてその拳銃を向けた先にいたもう一人の男は、見たところ何の変哲もない少年。
しかし、その口は塞がれ、手足は抵抗できぬよう拘束され、その瞳は恐怖に震えていた。
「――やっと見つけたぜ……このクソ野郎が!!」
44 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/15(土) 15:45:15.94 ID:HvQspYQo
とある病院の一室、ベッドの上で静かに眠っている打ち止めを見つめ、
一方通行は自分の為に駆け回っているであろう友人を思う。
冥土帰しは他に診るべき患者がいると行って部屋を出て行った。
「チクショウ……ここでこうやって待っているだけしかできねェのか俺は!」
自分の無力さが嫌になるが、いまはそんなことに怒りを覚えているときではない。
一応、冥土帰しに応急処置をしてもらい、今は落ち着いているとはいえ、
目の前の打ち止めが今も危険な状態でいることに変わりはないのだ。
『――さすがの僕もこの能力がこの子にどういった影響を及ぼすかはわからないね?
だから君にはこの子のそばで様子を見ていてほしい』
打ち止めの指先がピクリと動く。
一瞬だが表情が苦痛に歪む。
『残念ながら他にも診なければならない患者もいるから、付きっ切りってわけにもいかないからね?
……それにもしなにかあったとき、僕一人では対処できないかもしれない。
君には彼女を守るという重大な使命があるんだよ?』
打ち止めを守る。
45 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/15(土) 15:53:16.55 ID:HvQspYQo
そう、この少女だけはたとえ何があっても守る。
たとえエゴだと罵られようともかまわない、守ると決めた。
自分が心から彼女を守りたいと思った。その心にだけは偽りはないのだから。
「……ぜってェに助けてやるからな……」
打ち止めの手をそっと握る。
その手は小さくて繊細で、暖かかった。
この温もりを、手放したくなかった。
「うっ……あぁ……」
「打ち止めァ!?」
突然打ち止めが苦しみだし、その表情がどんどん苦痛の色に染まっていく。
無意識に彼女の手を握る手のに力がこもる。
「おィ! 大丈夫か! しっかりしろォ!!」
打ち止めの表情が苦痛の色に染まりきり、そして――
――ふいになにかが切れたように表情から力が抜けた。
46 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/15(土) 16:04:50.54 ID:HvQspYQo
「ラ、打ち止めァ……?」
「……」
力のない表情で、打ち止めが起き上がる。
その瞳に、光は宿っていなかった。何の感情も見せないその瞳から、一滴の涙が音もなく零れ落ちる。
その視線の先は、一方通行の瞳の奥を見つめていた。
――ヒュッ
「ンなっ!?」
不意に部屋の隅においてあったメスの一つが一方通行目掛けて飛んできた。
明らかに敵意の篭った攻撃、まともに当たればただではすまない速度で確実に急所を狙ってくる。
とっさのことに混乱しつつも一方通行は飛んできたメスをなんなく反射する。
跳ね返ったメスはその威力を失うことなく壁に当たり、壁紙に小さな傷をつけて大きく跳ね返る。
落ちたメスかカラカラと音を立てて、一方通行の足元へと地面をすべる。
そのメスは見たところ何の変哲もない、どこの病院でも見られるような一般的なメス。
もう動く気配のないメスをちらりと一瞥し、もう大丈夫かと息をつく。
しかし、異常はそれで終わらなかった。
「――ッ!?なンだなンだァ!?一体なンだってンだァ!!」
周りを見渡すと、部屋中のありとあらゆる刃物、がその切っ先を一方通行に向けて浮いている。
一体何が起こっているんだと一方通行はあせる、反射がある限り自分には一切傷がつくことはない。
だがしかし……下手に反射をしては目の前の打ち止めにあたってしまう可能性がある。
それを考えるとうかつに反射するわけにはいかない、とあせりを見せる一方通行の横で打ち止めが呟く。
さまざまな感情が、思いが絡まりあった濁りきった声で。
「――死んで」
47 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/15(土) 16:19:07.15 ID:HvQspYQo
打ち止めの前髪の辺りでひとつ火花が散る。
その瞬間、部屋中のすべての刃物が一斉に一方通行目掛けて飛んでくる。
もともと冥土帰しが仕事で使う道具や、この部屋での実験などに使うものが大量に置いてあったのだろう、その数はゆうに100を超える。
――「電撃使い(エレクトロマスター)」
学園都市のレベル5、その第3位であり妹達のオリジナルの能力。
そして同時に、それは妹達の使う能力。
そ、打ち止めは自らの能力によって磁力を操作し、部屋中にある金属製の刃物を操っていた。
しかし、彼女達クローンの能力はオリジナルのそれに遠く及ばないもの、
これだけの数の獲物を思うとおりに動かすだけの力はない……。
だがそんなことは関係なかった。
今の打ち止めの目的、それは一方通行であり、その一方通行は今、自分のすぐ目の前。
少し手を伸ばすだけで触れることが出来るほど近くにいるのだから。
「――うおッ!?」
不意に打ち止めが手を伸ばし、一方通行を抱きしめた。
普通なら反射されて誰にも触れることの出来ないその体、だがしかし、彼女は一方通行の反射の対象として認識されてはいなかった。
ならば話は簡単。このまますべての刃物を、自分目掛けて引き寄せるだけでいいのだから――
すべての刃物がとてつもない速さで二人目掛けて放たれる、それらは確実に打ち止めの体を突き破るだろう。
48 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/15(土) 16:21:47.22 ID:HvQspYQo
「くっそがァ!」
とっさに覆いかぶさるようにして倒れこみ、刃物の弾幕から打ち止めを守る。
――キィンと甲高い音がして刃物が真っ直ぐに反射される。
しかし、かなりの勢いがついた刃物はそのうちのいくつかが壁に跳ね返り、またこちらへ向かってくる。
一方通行は跳ね返ってくる刃物から打ち止めを守るために覆いかぶさったまま、その第2撃にそなえる。
その時、打ち止めの体から火花が散った。
「ンな!? この至近距離で……ッ!!」
ほぼ密着したこの状態で電撃を反射すれば、確実に打ち止めを傷つけてしまう。
ただでさえ調整不足と未知の能力の影響によって不安定な今のこの状態で、
少しでもその体にダメージを与えたら……。
「クソがァっ! 打ち止めァ! 何が何でもお前だけは!!」
――刹那、まばゆい光が二人を包んだ。
49 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/15(土) 16:27:42.91 ID:HvQspYQo
『――やっと見つけたぜ……このクソ野郎が!!』
上条当麻が吼える。
拳銃を突きつけられた少年の肩がビクリと振るえ、白衣の男が舌打ちをする。
「くそ! ここまできてまだ邪魔が入るのか……ッ!」
男は焦りを抑えきれないといった様子で頭を掻く。
「私の邪魔をするな!どうせこのままでは私はお仕舞いだ!
もう他にどうしようもないのだ!こうするしかないんだ!!」
「一体何を言ってんだてめぇ……」
男は血走った目で上条当麻をにらみ、拳銃を向ける。
「あいつのせいで私の人生は! 天井亜雄という男の人生は台無しだ!
このままでは殺される、なら! ならばあいつを殺してでも私は生きてみせる!」
銃口を上条当麻に向けたまま、体を震わしながら男は天井亜雄は叫ぶ。
「あいつって……まさか打ち止めのことか!」
やはりこの男が、打ち止めを苦しめていた張本人。
そうとわかればもう迷っている暇はない、一刻も早くこの男を止め、打ち止めを助ける。
そう思い、握り締めた右手に力をこめる。
男との距離はおよそ10メートル、拳銃を撃たれたとしても相手はおそらく素人だ。
1発目をかわし、一気に駆け抜ければ2発目が放たれる前にたどり着ける。
50 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/15(土) 16:30:39.23 ID:HvQspYQo
「は! 何を言っているんだ貴様は!あんな出来損ない一人殺したところでなんになるというのだ。」
「なに……!?」
今にも駆け出し、男に飛び掛ろうかとしていた上条当麻の足がかたまる。
この男の狙いは打ち止めではないと聞き、思考が混乱する。
――たしかにあの病院で、打ち止めは苦しんでいた。
見ているだけで胸が張り裂けそうになるくらいに苦しんでいた。
だが、男の狙いは打ち止めではない。
では、この男は一体誰を狙っているというのだろうか。
「一方通行……」
男が震える声で小さく呟く。
「あいつをよく思ってないやつらなんて、この学園都市にはいくらでもいる!
だから私は奴を[ピーーー]、奴を殺せば匿ってくれる場所なんていくらでもあるのだ!」
「なんだと……?」
「私の計画通り、いまさら贖罪のつもりか!?
奴は私が野放しにした打ち止めを偽りのやさしさで匿った!
そして、打ち止めは奴にとっていつでもそばにいる存在となった!」
男が続ける、その口の端は醜くゆがみ。
見開かれた瞳から見える色は、狂気に染まっていた。
51 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/15(土) 16:35:07.33 ID:HvQspYQo
上条当麻は腹の底が熱くなってくるのを感じていた。
怒りが、体の底から湧き上がってくる。握った右手に爪が食い込み、血が流れる。
「だからこそ今がチャンスなのだ、奴にとって守るべき存在など邪魔でしかないのだから!」
上条に向けられていた拳銃が、再び横にいる少年に向けられる。
「こいつの力を使って打ち止めを操れば、奴を殺せる! 甘え、油断しきっている今のやつならそれで十分殺せる!」
男の隣の少年がビクビクと震える。
その目からは次々と涙がこぼれ、足元に小さなシミを作っていた。
――この少年も、被害者なのだ。
拘束され、抵抗できない状態で拳銃を突きつけられ、無理やり自分の力で人を殺させられる。
罪悪感が、少年の胸を締め付けながらも、それでもやはり抵抗できない。
上条当麻は怒りに震えていた。
目の前の男が許せなかった。
自分の為に、我が身かわいさに人の心を踏みにじり、利用し。
挙句のはてに、一人の少年がやっと手に入れたやさしさを、大切なものを壊そうとした。
「――テメェ!!」
上条当麻の体が跳ねるように駆ける。
身を低くかがめ、右手を握り閉め、拳銃を構える男に向かって一気に走り抜ける。
52 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/15(土) 16:39:12.57 ID:HvQspYQo
天井亜雄は自分目掛けて駆け抜けてくる少年に向け、拳銃を構える。
少年との距離はもう半分近くに狭まっていた。
「私の邪魔をするなぁ!!」
引き金に掛かった指に力をこめる、不慣れな、ぎこちない動作で頭部に狙いを定め、
一気にその引き金を引く。
銃口から吐き出された鉛の塊は空を裂き、衝撃波をその身に纏いながら直進する。
その銃弾が、衝撃波が肉をえぐり、その身を裂く音が聞こえた。
――銃声が響き、拳銃を握った右手が反動でわずかに跳ねる。
なれない拳銃の扱いで僅かに視界がぶれる。
当たった、そう確信できた。
いかに銃の扱いに慣れていないとはいえ、この距離で外しはしない。
これで邪魔者はきえたと安堵し、ぶれた視界を戻す。
その瞳には、右手を握り締め、振りかぶった上条当麻が視界いっぱいに写っていた。
上条当麻は以前、三沢塾でアウレオルス=ダミーと戦ったときの瞬間練成に対して右手で対処したように。
銃口の角度や引き金を引く指の動きから弾道を予測し、自分の頭目掛けて飛んでくる銃弾を反射的に避け、
その右肩に銃弾を受けながらも紙一重で致命傷を避けていたのだ。
53 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/15(土) 16:43:34.89 ID:HvQspYQo
「歯を食いしばりやがれ、このクソ野郎が――」
「ひぃ!」
予想外の事態に、慌てて拳銃を握りなおし狙いを定めようとするが、
上条当麻の左手にあっけなくはじかれ、拳銃が鈍い音をたて地面をすべる。
「てめぇが他人を巻き込んで、人の幸せを踏みにじってでも生きてぇだとか、
あいつの、一方通行のやさしさを偽りだとか決め付けるっていうんなら――」
天井「や、やめろ! やめろぉぉ!!」
右手によりいっそう力をこめる。爪が手のひらの肉に食い込みまた血がにじむ。
先ほど、弾丸が抉っていった右肩に激痛が走る。常人ならその痛みだけで気を保っていられなくなるほどの激痛。
それでも、上条当麻は止まらない。
友達を助けるため、友達の願いを叶えるため。
「――あいつらの、一方通行と打ち止めの大切なモノをぶち壊そうだとか言うんだったら――」
友達のやさしさを、偽りなどではないと証明するため。
「――まずはそのふざけた幻想を、ぶち[ピーーー]!!」
振り上げた右手を振り下ろす。こぶしが天井亜雄の顔に食い込み、肩から血が噴出す。
激痛が走ろうが、いくら血を流そうが構わない。
それでも今は、全力で、その右手で目の前の外道を殴り飛ばす。
54 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/15(土) 16:45:08.67 ID:HvQspYQo
うはーー!!!だぁぁぁぁぁかぁぁぁぁぁぁらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!
ぶち[ピーーー]!!ってなんだよぶち[ピーーー]!!ってぇぇぇ!!orz
しっかりしろおれ!慌てるなおれ!そげぶ!そげぶ!!
55 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/05/15(土) 16:45:34.12 ID:HvQspYQo
「歯を食いしばりやがれ、このクソ野郎が――」
「ひぃ!」
予想外の事態に、慌てて拳銃を握りなおし狙いを定めようとするが、
上条当麻の左手にあっけなくはじかれ、拳銃が鈍い音をたて地面をすべる。
「てめぇが他人を巻き込んで、人の幸せを踏みにじってでも生きてぇだとか、
あいつの、一方通行のやさしさを偽りだとか決め付けるっていうんなら――」
天井「や、やめろ! やめろぉぉ!!」
右手によりいっそう力をこめる。爪が手のひらの肉に食い込みまた血がにじむ。
先ほど、弾丸が抉っていった右肩に激痛が走る。常人ならその痛みだけで気を保っていられなくなるほどの激痛。
それでも、上条当麻は止まらない。
友達を助けるため、友達の願いを叶えるため。
「――あいつらの、一方通行と打ち止めの大切なモノをぶち壊そうだとか言うんだったら――」
友達のやさしさを、偽りなどではないと証明するため。
「――まずはそのふざけた幻想を、ぶち[ピーーー]!!」
振り上げた右手を振り下ろす。こぶしが天井亜雄の顔に食い込み、肩から血が噴出す。
激痛が走ろうが、いくら血を流そうが構わない。
それでも今は、全力で、その右手で目の前の外道を殴り飛ばす。
56 名前:いっそのこと殺してくれぇぇぇぇぇぇぇ[saga] 投稿日:2010/05/15(土) 16:46:20.53 ID:HvQspYQo
「歯を食いしばりやがれ、このクソ野郎が――」
「ひぃ!」
予想外の事態に、慌てて拳銃を握りなおし狙いを定めようとするが、
上条当麻の左手にあっけなくはじかれ、拳銃が鈍い音をたて地面をすべる。
「てめぇが他人を巻き込んで、人の幸せを踏みにじってでも生きてぇだとか、
あいつの、一方通行のやさしさを偽りだとか決め付けるっていうんなら――」
天井「や、やめろ! やめろぉぉ!!」
右手によりいっそう力をこめる。爪が手のひらの肉に食い込みまた血がにじむ。
先ほど、弾丸が抉っていった右肩に激痛が走る。常人ならその痛みだけで気を保っていられなくなるほどの激痛。
それでも、上条当麻は止まらない。
友達を助けるため、友達の願いを叶えるため。
「――あいつらの、一方通行と打ち止めの大切なモノをぶち壊そうだとか言うんだったら――」
友達のやさしさを、偽りなどではないと証明するため。
「――まずはそのふざけた幻想を、ぶち殺す!!」
振り上げた右手を振り下ろす。こぶしが天井亜雄の顔に食い込み、肩から血が噴出す。
激痛が走ろうが、いくら血を流そうが構わない。
それでも今は、全力で、その右手で目の前の外道を殴り飛ばす。
59 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/15(土) 16:52:02.63 ID:HvQspYQo
「ッオルァァァァァァァァァアア!!!!」
右手を振りぬき、天井亜雄の体を力いっぱい吹き飛ばす。
その体は地面に叩きつけられながら転がり、屋上の手すりにぶつかって止まり、天井亜雄そのまま気を失った。
「はぁ、はぁ……」
右肩から血を流しすぎ、激痛と失血により意識が朦朧とする中、
横で拘束され座っている少年に目を向ける。
「さぁ、もう大丈夫だ! 早く打ち止めを、一方通行を助けてくれ!」
動かない右腕を庇いながら少年の拘束を左手のみで解きながら叫ぶ。
しかし少年は力なく呟く。
「――ッ! ……すみません、無理なんです……実は僕も何度も能力を解こうと試みたんです……。
でも、僕の力は一回命令をだすと、相手は自我の力で自力でその命令に打ち勝つか、
それを実行するまではどうやっても止まらない。僕ではどうやっても止められなくなってしまうんです!」
少年の瞳から涙が溢れる。
「ずっとあの子の声が聞こえてきた。殺したくない、傷つけたくない……その声がさっき途絶えてしまった……!
悲しい声で、今にも泣きそうな声で、あの子は僕の能力に抵抗し続けた! あの研究者に感情を奪われ、
抵抗の力を削られていたって言うのに、それでもあの子は苦しみながら抵抗したのに! それなのに……僕は……」
無力な自分を呪う涙、解除できないと知っていながら脅された恐怖に負け、
我が身可愛さに能力を使った自分の弱さを責める涙。
61 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/15(土) 16:56:45.93 ID:HvQspYQo
だが上条当麻はそんな少年にやさしく微笑む。
すでにその顔は失血により血の気を失い、額からは脂汗が垂れている。
「そうか……だけど大丈夫だ、俺がいる。俺が君を、君の能力を止めてみせる」
そういうと、上条当麻は最後の力を振り絞り、右腕を上げる。
戸惑いを隠せない少年に向かって、やさしく声をかける。
「自分が無力だなんて、誰も助けられないだなんて……
そんなふざけた幻想は捨てちまえ……」
上条当麻の右手が少年の額に手を伸ばす。
「誰かを助けたいって思える心は、ちっとも弱くなんかねぇよ」
右手が少年の額に触れた瞬間、パキィンと何かが割れるような甲高い音が響き、
そしてそのまま、上条当麻はその場に倒れこみ、気を失った。
その右肩から赤い液体が静かに流れ、その身を赤く染めながら小さな水溜りを作っていく。
62 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/15(土) 17:02:48.86 ID:HvQspYQo
とある病院の、荒れ果てた一室の中で、一人の少女は目を覚ました。
何か暖かいものがその体に圧し掛かっている。
少女はここがどこだか把握できないまま、はっきりとしない頭を働かせ、ぼやけた視界を晴らす。
まず視界に入ったのは、焦げて黒く滲んだ天井。
そして次に目に入ったのは……。
「ッ! 一方通行!!?」
自分に覆いかぶさるようにして気を失っている白い少年。
一方通行は衣服とその体を焦がし、背中には大量の刃物が突き刺さっている。
「一方通行! しっかりしてください! 一方通行!!」
重たい体を押し上げ、気を失ったままの一方通行を抱きかかえる。
背中に手を回すとヌルリとした感触がした。
「一方通行! 一体どうして!? 目を覚ましてください! 一方通行!!」
少女はわけもわからず叫ぶ。
一体何が起こったのか、理解ができなかった。
なぜ自分は見知らぬ部屋で眠っていて、なぜ彼はそんな自分の上で倒れているのだろうか。
ともかく自体を少しでも理解しようとあたりを見渡す。
壁紙は焦げ、荒れ果ててはいるがどうやら病室のように見えた。
63 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/15(土) 17:08:07.60 ID:HvQspYQo
「ここは、病院!? はっ、ならばすぐにでも医者を!!」
壁に掛かっていた内線の電話が目に入った。
すぐさま手をかけ受話器を持つ、部屋は荒れ果てているが、電話はどうやら無事なようだ。
『どうしたんだい? 彼女になにかあったのかな?』
受話器の向こうからひょうひょうとした声が聞こえてきた。
「早く! 誰でもいいから早く来て! 彼が! 一方通行がぁ!!」
必死の気持ちで怒鳴りたてる。
受話器を握る手に力が入り、一方通行の血でヌルリとすべる。
『その声は……わかった、今すぐそちらへ向かうから落ち着いて待っているんだ、いいね?』
そう言うと電話は切れ、ツーツーという無機質な音が受話器から聞こえてきた。
「早く……早くして……っ!」
電話が切れてから医者がこちらへ向かってくるまでの1分1秒が永遠のように感じられた。
能力により心臓が動いていることは確認したが、それでもあきらかに危険な状態の一方通行。
そんな彼を前に、ただ医者を待つことしかできない自分が、どうしようもなく憎く思えた。
64 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/15(土) 17:13:05.96 ID:HvQspYQo
「あなたが死んでしまうなんて、わたしには耐えられない」
思いが、胸の奥底からこみ上げてきて、抑えられなくなる。
「一方通行、私には……私にはあなたが必要なんです!」
その思いは無人の廊下にやさしく響き、
そして溶けるように消え、あたりは静寂に包まれた。
「お願いです……絶対に帰ってきてくださいね……」
力なくそう呟き、少女は歯を食いしばり、涙を飲む。
ここで自分が喚いても、現実は何も変わらないと、
私が泣いても、悲しんでも、多分あの人は喜んでくれないと、
だから、今はただ精一杯の気持ちをこめて祈り続けようと。そう思ったから。
65 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/15(土) 17:16:38.06 ID:HvQspYQo
手術室前におかれたソファに腰掛け、両手を合わせ、祈るように目を瞑る。
「もし、クローンである私なんかの願いを聞いてくれる神様がいるのなら。
お願いします、彼を救ってください……彼を……助けてください……」
音のない空間で、ただただ時だけが流れていった。
少女はその空間の中で、ただひたすら祈り続けていた。
小さく、華奢な体が、今にも壊れてしまいそうなほど震えていた。
66 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/15(土) 17:19:53.29 ID:HvQspYQo
「ン……あァン? どこだここはァ?」
一方通行は白いベッドの上で目を覚ました。
ぼやけた視界に見慣れない天井が目に入り、次に体中から痛みが走った。
「ぐっ! 体が動きやがらねェ……」
どうやら全身に包帯が巻かれているようだ。
少しでも体を動かそうとするたびに痛みが走る。
「ここはァ……病院かァ?」
なんとか動かせる首から上だけであたりを見渡す。
どうやらここはどこかの病院の一室のようだ。
「なンで俺は病院なンかにいやがるンだァ?」
そこまで口にしてから、一方通行は思い出した。
自分がここにいる理由。自分が全身に傷を負い、倒れている理由を。
「そうだ! 打ち止めァ! あいつはどこだァ!」
全身が痛むがそんなこと気にしていられない。
悲鳴を上げる体を無理やり動かし、起き上がる。
67 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/15(土) 17:26:17.25 ID:HvQspYQo
赤い眼を見開き、あたりを見渡す。痛みで額に汗が滲む。
「あいつは無事なンだろうなァ! 打ち止め! どこだァ! 打ち止めァ!!」
全身を走る痛みを飲み下し、大声で叫ぶ。
あの少女は、打ち止めは無事なのか、それだけが心配だった。
その時、病室の扉が開く。
「一方通行! 目が覚めたんですね!!」
少女が部屋に駆け込んでくる。
すぐにベッドの脇まで駆け寄り一方通行を見つめるその瞳は、赤く充血していた。
「打ち止めァ! よかった……無事だったンだなァ」
打ち止めの無事を確認すると、一方通行の体から糸が切れたように力がぬけ。
そのままベッドに倒れこんだ。
「大丈夫ですか! 私は無事ですから無理をしないでください!」
倒れた一方通行を心配そうに打ち止めが見つける。
「あァ、わかった……もう大丈夫だァ、無理はしねェよ」
「本当にお願いします、今のあなたは怪我人なんですから……」
そういうと打ち止めは俯き、一方通行から視線を下へ落とす。
その小さな肩がぷるぷると小刻みに震えていた。
68 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/15(土) 17:32:15.07 ID:HvQspYQo
「一方通行……すみません」
「あァン……?」
気をつけていないと聞き逃してしまいそうなほど小さな声で、打ち止めは呟いた。
「監視カメラの映像を見て、何が起きたのかはわかっています」
その声は、今にも消え入ってしまいそうなほど弱々しかった。
「私が……傷つけてしまった。私のせいであなたが傷ついてしまった」
その瞳から涙がこぼれる。
「あなたは私を守ろうとしてくれたのに……あの瞬間、私を傷つけないために
すべての反射を切って、そんなにぼろぼろになってまで守ってくれたのに……」
そう、打ち止めが電撃を放ったあの時、一方通行は電撃を反射して彼女を傷つけぬように、
すべての反射を切った。そして、電撃と共に襲い掛かる刃物の弾幕を全身に受けたのだ。
「本当にすみません……私は……私は……!」
自分が許せない、自分の弱さが憎い。
どうして自分はこんなにも無力なのだろうか、たった一人の大切な人を守ることも出来ないほどに。
自己嫌悪の深い闇の底に、まだ幼く儚い心が沈んでいく。
「――謝ってンじゃねぇよ」
69 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/15(土) 17:39:14.72 ID:HvQspYQo
涙を流し、自分を責める打ち止めの言葉を一方通行がさえぎった。
その声が、闇に沈む打ち止めの心を、やさしく救い上げる。
打ち止めはそんな一方通行の表情が見たくて、思わず伏せた顔をあげ、一方通行の顔を見た。
「オマエも助かって、俺も助かった。それだけで十分じゃねェか」
彼は笑っていた。
とてもやさしくて、とても暖かい笑顔で。
「だからオマエはなにも悲しまなくていいンだ。テメェが助かったことを素直に喜ンでりゃ、それでいいンだよォ」
その言葉が、とてもうれしかった。
責められても仕方ないと思った、見捨てられるかもしれないと思った。
自分が情けなくて、嫌になって。もうどうなってもいいと思った。
でも、彼は私を責めはしなかった。
それどころか彼は私を許し、自己嫌悪の闇から救ってくれた。
「一方通行……」
また、涙が溢れてきた。
しかしその涙は冷たい悲しみの涙ではなく、とても暖かいものだった。
「わかったらコーヒーでも買ってきてくンねェかなァ?
こちとら動けねェし喉がカラッカラなンだよォ、ブラックだぞブラックゥ」
一方通行はまるで何事もなかったかのようにそう言う。
70 名前:気づいたら始めてから4時間も経っていた。こんだけ長くぶっ続けで見てるひといるのか……?[sage] 投稿日:2010/05/15(土) 17:43:20.95 ID:HvQspYQo
「は、はい! ブラックですね。すぐに買ってきますから、じっとして待っていてくださいよ?」
だから打ち止めは、精一杯の笑顔で答える。
たとえ涙でクシャクシャになっていようとも、一方通行はきっとそれを望んでいるから。
「あァ、間違えてブラック以外を買ってくンじゃねェぞ」
一方通行の言葉を背に受けながら、彼女は病室をでる。
少しでも早くコーヒーを買って彼の元へ帰ろうと、少し小走りで廊下を通り抜ける。
通りかかった看護婦に廊下を走るなと注意され、慌てて謝り。
今度はゆっくりと歩を進める。
「そうですよね、慌てたりしなくてもいいんです。あの人はもう、どこかへ消えたりしないのですから」
小さくつぶやき、その柔らかな頬が小さく緩む。
静かに進めるその足取りは軽く、喜びにあるれていた。
その瞳に、もう涙は浮かんでいない。
82 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/15(土) 19:54:09.38 ID:HvQspYQo
打ち止めが病室から出て行った後、入れ違うように二人の男が入ってきた。
「よう、三下ァ……」
「一方通行、打ち止めが助かってよかったな」
上条当麻は一方通行が目を覚ましているのを確認するとそう声をかける。
その右腕は包帯で巻かれ、固定されていた。
「しかし、君も無茶をするね? もう少し処置が遅かったら危なかったよ?」
冥土帰しが相変わらずひょうひょうとした口調で言う。
その手にはカルテが握られていた。どうやら仕事として一方通行の様子を見に来たようだ。
「本当だよなぁ、まったく、お前が死に掛けたって聞いたときはびびったぜ」
「上条君?君もかなり無茶をしているね?
君だって、もう少し出血していれば危なかったってことがわかっているのかな?」
「ぐぅ……すみません」
しょうもない会話をする二人を見て一方通行はほっとする。
二人ともまるで何もなかったかのように笑っている、もう、あの悪夢のような事件は終わったのだ。
「しかし、本当によかったよ、皆助かって」
「あァ……そのォ、なンだァ……」
一方通行が照れくさそうに頬を掻く。
83 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/15(土) 19:59:18.94 ID:HvQspYQo
「テメェのおかげで助かったぜェ……ありがとよォ」
そう吐き捨てると、すぐさま視線を逸らして反対側を向いてしまう。
微かに赤く染まった頬が白い肌のおかげで際立っていた。
「ははっ、気にするなよ。上条さんはこういうのには慣れてますから」
上条当麻は一方通行からの思わぬ謝礼に一瞬戸惑ったが、
すぐにニヤリと笑い胸を張った。
「この程度のことはもう慣れっこなのです! なーんにも問題なぁ! いたたたた!」
左手で胸をドンと叩くと、その振動が響いたのか右肩を抱えて蹲る。
「はぁ、まったく何をやっているんだねきみは?」
「ただのバカだろォ、やっぱり三下は三下ってことだァ」
「んなっ!一方通行、いくらなんでもバカってこたぁないだろバカは!」
くだらない会話、どうでもいいような会話だが、一方通行にはそんなことがうれしかった。
昔のままの自分では絶対に感じることのできなかった暖かさが、そこにあった。
目の前でバカをやっている上条当麻をチラリと見る。
84 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/05/15(土) 20:01:28.31 ID:HvQspYQo
かつては自分を止めてくれた、自分に痛みを教えてくれた、自分を真っ直ぐに見てくれた。
そして今回は、自分の弱さを受け止め、自分を救ってくれた。
表面ではバカにしていても、心の中では感謝してもしきれないほど、
上条当麻は一方通行にとって大きな存在になっていた。
一方通行は冥土帰しと話している上条当麻を見つめ、誰にも聞こえないような小さな声で呟く。
「――ありがとよォ、上条当麻」
85 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/15(土) 20:05:55.35 ID:HvQspYQo
「――ちょっと話があるんだが、いいかな一方通行君?」
上条当麻が自分の部屋に戻るといって部屋を出て行くと。
一人部屋に残った冥土帰しが、いつになく真剣な表情で問いかけてきた。
「あァ?なンだ、つまンねェ話なら聞く気はねェぞ」
「つまらない話……ではないと思うよ、少なくとも君にとっては、とても重要な話だと思うんだがね?」
なにやら思わせぶりな言い方をする冥土帰しに、
少々の苛立ちを感じ、急かすように問いただす。
「そうかそうかァ、そンじゃあさっさとその重要な話ってのを聞かせろォ」
「話っていうのあの少女の話なんだがね?」
その言葉を聞いた瞬間、一方通行の眉がぴくりと動く。
あの少女――つまり打ち止めについての話。
「あの少女の体が未熟だというのは知っているね?」
「あァ、それは打ち止め本人に聞いた……やっぱりそれがなにか問題なのかァ?」
「そのこと自体は定期的に調整を受けさえすれば特に問題はないんだがね?
むしろ問題なのはその中身、人格のほうなんだよ」
「どういう意味だそりゃあ」
一方通行は打ち止めの人格に問題があると言われ微かに苛立ちを覚える。
86 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/15(土) 20:08:08.85 ID:HvQspYQo
「まぁそう怒らないで、冷静に聞いてもらえるかな?」
その苛立ちを察したのか、冥土帰しは諭すように続ける。
「彼女たち、妹達の人格は学習装置というものを使って人為的に組み込まれたものなんだがね?
それが、彼女の場合は完全じゃないんだ」
「完全じゃねェ……だと?」
「そう、彼女の人格には他の妹達とも違った独自のデータが使われていてね?
まぁ、おそらく今回の事件の犯人の仕業だろうけど……。
僕が考えるには少しでも能力で操りやすくするように、自我や感情というものを無理やり削ったんだろうね?
……まぁ、ともかくそれが問題なんだよ」
今回の事件の犯人、一方通行も先ほど上条当麻から聞いて、
その犯人が自分の実験に関わっていた研究者、天井亜雄だと知っている。
たしかに研究者であの実験に関わっていた彼になら、人の目に触れずにそういったことを行うことはできただろう。
「そいつは、具体的にどうやべェってンだァ?」
「人格データそのものが不安定だし、不正なデータはあの体には少々影響が強すぎるんだ。
つまり、簡単に言えば外側が中身に耐え切れないってことだね?
このまま放っておけば……彼女は近いうちに外からか内からか、どちらにせよ壊れてしまうだろうね」
「なンだとォ!」
打ち止めが壊れてしまう。その言葉に一方通行は怒鳴り声を上げる。
87 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/15(土) 20:12:36.41 ID:HvQspYQo
やっと、やっとこの手で守ることができたあの少女が、
また危険にさらされると聞いて、一方通行は黙っていられなかった。
「おいィ!そいつはどうにかできねェのか!テメェは医者だろォ!なンとかできねェのかよ!!」
「だから落ち着くんだ。もちろん僕だってこのまま何もしないつもりはないさ……
ただ、彼女を助けるにはある覚悟をして貰わなければならないね?」
「覚悟だァ?そんなもンとっくに出来てるってンだァ! あいつが助かるってンなら何だってしてやる!」
もともと一方通行には覚悟があった。
打ち止めを守るためならなんだってするという覚悟が。
「そうかい? それじゃあ説明させてもらうよ? 彼女を救う方法は……」
88 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/15(土) 20:17:50.60 ID:HvQspYQo
深夜の病院の一室で、一方通行はベッドに横になり天井を見上げていた。
自分の傍らにはイスに座ったままベッドにうつ伏せにもたれ掛かり寝息を立てる打ち止め。
そして、彼の手には彼女の人格データが入った携帯端末。
覚悟は決めていた、だがいざ実行に移すとなると戸惑いを隠しきれなかった。
『――ここに彼女に本来使われる予定だった人格データがあるね?
まぁどこから手に入れたのかはちょっと言えないんだけど。まぁともかく、君の能力、生態電気も操れるんだってね?
それがあればこの人格データを彼女に書き込むこともできる、ただし――』
「ちくしょうが……なにをやってンだ俺はァ、こいつを救うンだろうが……」
一方通行は戸惑い、行動を起こせない自分を捲くし立てるように呟く、
しかし、やはり踏み出すことができない。
携帯端末を握る手に、汗が滲む。
『――今の人格データの上に上書きをしてしまえば、彼女の中身はまったくの空白に戻ることになるね?
つまり、今まで君と過ごしてきた日々の思い出も……君への想いも、すべてを失うことになる』
打ち止めが、自分のことを忘れてしまう。
そう考えるだけで、目眩がした。
彼女を救いたいと思うのに、彼女を救うにはこうするほかないというのに。
最後の一歩が踏み出せない。
89 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/15(土) 20:20:23.91 ID:HvQspYQo
「くそ……一体俺はどうすりゃいいンだ!」
さまざまな感情が自分の中でぶつかり合い、せめぎ合う。
いっそこれは夢なんじゃないかと思いたくなるほど、目の前の現実が苦しかった。
そっと、目の前で眠る打ち止めをみる、安らかな寝顔。
まるで自分にすべてを許し、信頼しているように、その寝顔は穏やかだった。
もし、記憶を失ってしまったら。
もし自分との思い出を忘れてしまったら。
もう二度と彼女が自分を見てくれないような気がして。
かけがえのない彼女が、離れていってしまうような気がして……。
「一方通行……」
ふいに、打ち止めが呟く。
起きてしまったか、と、とっさに手に持った携帯端末を布団の下に隠す。
「うぅん……」
しかし、打ち止めは起き上がるところか瞼を開く気配もない、どうやらただの寝言だったようだ。
ほっと胸をなでおろし、携帯端末を再び取り出し、その画面を見ていると。
また、打ち止めが眠ったまま小さく呟いた。
90 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/15(土) 20:24:34.25 ID:HvQspYQo
「一方通行……」
小さく、そしてやさしく囁くように呟く。
「信じています……ずっと、一緒です……よ……」
その言葉が、一方通行の胸に突き刺さった。
そして、いつまでうじうじしているつもりだと、自分の心の弱さを責める。
「そうだよなァ……そうだ、なにも迷うことなンてねェンだ」
携帯端末の電源を入れる。
画面に大量のデータコードが映し出される。
「たとえ記憶がなくなろうが、俺のことを忘れようが関係ねェ」
常人には理解できないそれを、一方通行は一気に読み取る。
最後の一文字まですべてを頭にいれ、再び電源を切る。
「お前は俺を信じてるってェのに、俺は何を心配してンだァ」
そっと、自分の傍らで眠る打ち止めの額に手を触れる。
暖かい感触が、少女の息遣いが指先から伝わる。
「たとえすべてを忘れようと。お前が俺のことを拒否しようとかンけェねェ」
学園都市第1位「一方通行」のすべての能力を今、彼女のために使う。
91 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/15(土) 20:30:02.65 ID:HvQspYQo
「おまえがまた笑ってくれるなら、お前さえ笑ってくれりゃあ、俺はそれで十分だァ」
脳内で、回路が焼ききれるかと思うほど莫大な量の演算を開始する。
――ひとつ、またひとつと彼女の記憶がかき消されていく。
それでもとめるわけには行かない。
彼女を、一方通行の大切な人、打ち止め救うために。
「あばよォ打ち止めァ、みじけェ間だったが、楽しかったぜェ?」
最後にそう言い残し、彼は演算に集中するべく、言葉を絶った。
――ひとつ、またひとつと、かけがえのない思い出が白く塗りつぶされていく。
92 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/15(土) 20:35:19.99 ID:HvQspYQo
病院の中庭に、一人の少年が立っていた。
少年はどこまでも白く澄んでいて、そのまま向こう側が見えるのでは無いかと錯覚するほどに透き通っていて、、
やわらかな朝の日差しを浴びて、朝の白い世界に溶け込んでいた。
彼の透き通った赤い瞳が見つめる先に、一人の少女がいた。
その少女の体は小柄で、華奢で、それは少年がほんの少し手を触れれば壊れてしまいそうなほどだ。
朝日のやさしい光をあびた茶色い髪はきらきらときらめき、
頭頂部から跳ねたクセ毛は、彼女の一挙一動。それこそくすくすと小さく笑う微かな揺れにも反応して、
まるで意思を持っているかのように揺れ動く。
その瞳には未来を見据える少年のような明るく力強い光が宿っている。
彼女は、姉妹かと思うほどよく似た顔をした少女と、カエル顔をした医者と共に、
朝の澄んだ空気の中、中庭を散歩しているようだ。
その表情は、とても楽しそうだった。
特徴的ながらも明るく素直な口調ではしゃぐその表情は、偽りのない感情に溢れていた。
93 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/15(土) 20:40:34.07 ID:HvQspYQo
白い少年はその姿を遠くから見守る。
何度か彼女達に声をかけようかというそぶりを見せながらも。
しかしその足は石像のように固まって動かない。
遠くから楽しそうな少女達を見る。
その表情は、とてもおだやかでやさしくて、しかし朝の冷えた空気に溶け込んでしまいそうなほど
儚さと切なさに満ちていた。
不意に、少女が少年のほうを振り向いた。
頭頂部のクセ毛が、その動きに合わせてピョンと跳ねる。
少女は一瞬、ハッと驚いたような顔をしたあと、
とてもおだやかで、まるで朝の日の光のように暖かい笑みを浮かべる。
少女はそのまま少年の方へ駆けてくる。
あからさまに視線を向けすぎて怪しまれたか、と少年は予想外の自体にどう反応すれば良いのか戸惑う。
とにかく、少しでも怪しまれないように、感づかれることの無いように、その焦りを少女に悟られぬように、表情を偽りの笑顔で塗り固める。
その時――
94 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/15(土) 20:45:09.74 ID:HvQspYQo
「ただいま! 一方通行!!」
目の前まできた少女がその名を呼んだ。
もう二度と呼ばれることはないだろうと思っていた少年の名を。
笑顔に塗り固めた表情ががらがらと音を立てて崩れる。
その顔は、戸惑いの色に染まっていた。
「なにをそんなに驚いてるの? ってミサカはミサカは間抜け顔のあなたに聞いてみる」
少女は戸惑う少年の白い手を小さくやわらかいその両手で優しく握ると、
心の底からの、偽りのない純粋な笑顔を浮かべ、戸惑う少年にやさしく囁く。
「――ずっと一緒だよって言ったでしょ?」
95 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/15(土) 20:57:39.29 ID:HvQspYQo
朝の中庭、白く霞んだ世界を一人の少年と少女が歩いている。
その光景はとても暖かく、美しい。
そんな二人を窓から眺め、電話をする医者がいた。
「君からもらった人格データだけどね?何か特別な仕掛けでもしてあったのかな?」
医者は受話器の向こうの相手に向かって、ひょうひょうとした口調でたずねる。
『そんなことないわ、何の変哲もない、ただの上位固体用の人格データよ』
受話器から聞こえる声は、落ち着いた、若い女性のものであった。
「ふむ、それじゃあこれも、あの少年の言っていたこころっていうのが関係しているんだろうかねぇ?」
『さぁ、よく分からないけれど、人は時にそれを奇跡と呼ぶそうよ?』
受話器からクスクスと小さく笑う声が聞こえる。
「奇跡、かい? ふむ……まぁしかし、それにしてもなぜ君は僕に人格データを渡してくれたのかな?」
『さぁ、どうしてかしらね? これも奇跡というものかもしれないわよ?』
「そうかい? それじゃあこの奇跡は君の優しさが起こした奇跡ということかな?」
女は医者の問いかけに対して、やわらかく、少し切ない調子で答える。
『私が優しい? 違うわ、私は優しくなんてない……
これはただの甘え、あの子から目を離し、苦しませてしまった自分に対する甘えよ』
女はもう一度、クスリと小さく笑って続ける。
『私は甘いのよ、それは優しさなんかじゃないわ。本当の優しさというのは――』
96 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/15(土) 21:05:59.06 ID:HvQspYQo
朝日が二人をやさしく包んでいた。
二人は手をつなぎ、病院の中庭を歩いていた。
「しっかし、ずいぶンとやかましくなりやがったもンだなァ?」
「むぅ、やかましいとは失礼な、ってミサカはミサカは頬っぺたを膨らましてみる」
「それにィ、ころっころ表情も変わるようになりやがった」
「うー、もしかしてテンションの高いミサカは嫌いなのかな? ってミサカはミサカは
もしかしたらあなたに嫌われたのかと心配になってみたり」
「ばーかァ、前までがガキにしちゃあ大人しすぎただけだろォ。大体ガキってのはギャーギャーと五月蝿いもンなンだよォ」
「ほんとに?ほんとにミサカを嫌いになったりしない? ってミサカはミサカは――」
「ほンっとにしつけェなァオイ、俺はこの程度で態度変わるほど薄情なやつじゃねェよ。
……だからてめェはそンなつまンねェこと気にしてねェで――」
「――ガキはガキらしく、素直に笑ってりゃいいンだよ」
一人の少年と一人の少女がいた。
二人の心はどこまでも澄んできて、二人を包む空気までもが輝いて見えた。
二人は笑う、お互いの心を許し、支えあい、触れ合う。
笑顔が自然とこぼれてしまう。そんな暖かさが二人の間に満ち溢れていた。
少年と少女は手を繋ぎ、明日へ向けて歩き出す。
たとえ過去がつらくても、たとえ向かう先の未来に闇が潜んでいても。
その笑顔は変わることなく輝き続ける。
その輝きは、すべての悲しみを、優しく包み込み、すべての苦しみを乗り越えてきた。
二人を繋ぐその両手に、やさしくきらめく優しさが確かにあった。
97 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/15(土) 21:09:45.36 ID:HvQspYQo
とりあえずここで一つお仕舞いです。
果たして何人もいるかわからないですが
最後まで見てくれた方はありがとうございました。
なんのこともなく一方さんへの愛がとまらなくて書き始めてしまったけど
とりあえずカタチに出来てよかった!
続きもただいま絶賛執筆中なんで、近いうちに完成させようと思います!
でも、無理そうなときにはhtml依頼だしてきます……orz
――夜の学園都市を、一人の少年が歩いていた。
その少年の手には大量の缶コーヒーが入ったコンビニのビニール袋が握られている。
「……チッ」
月の光がその少年を怪しく映し出す。
どこまでも白く透き通った髪、どこまでも白く透き通った肌、
その少年は少女と間違えそうになるほど華奢な体をしていた。
若干俯き加減に歩いているため顔が見えず、
その華奢な体つきのため一目見ただけでは性別がわからない。
少年はどこまでも白く澄んでいて、そのまま向こう側が見えるのでは無いかと錯覚するほどに透き通っていて、
まるで自己主張しないように、その白い体は夜の闇に溶け込んでいた。
「……なァオイ?」
少年がふいに歩く足を止め、空を見上げる。
少年の後ろで、ひとつだけ足音がした。
「今夜はやけに月が眩しいよなァ?」
5 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/15(土) 13:10:02.40 ID:HvQspYQo
月の光が、どこまでも白い少年をよりいっそう強く照らし出す。
まるで少年の周りだけを照らしているような、そんな錯覚を覚えそうなほどに。
その少年だけが夜の闇のなか、白く浮かび上がっていた。
空に光る月が、その少年の瞳を照らす。
月の光を受けた瞳が、怪しく光る。
「お前も……そう思うだろォ?」
少年の後ろから聞こえた足跡の主が、くすくすと小さく笑う。
どこまでも透き通った笑い声。
敵意もない、好意もない、相手を嘲るでもない、自己を主張するでもない。
何もない、ただ笑っているだけ。
それゆえに、その笑いにはそこが見えず、どこまでも透き通っていた。
耳をそらそうとしても、なぜだか耳に入ってきてしまうほどに。
少年はその声を聞いて、眉間にしわを寄せる。
「人様を尾行しておいて、挙句笑い出すたァいい趣味してんじゃねェか?」
6 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/15(土) 13:14:16.89 ID:HvQspYQo
少年の瞳が刺す様な視線で背後を見る。
その視線には微かな敵意が篭っていて、その瞳は赤く濁りきっていた。
「あら、これは失礼しました。決してあなたを不快にするつもりはなかったのですけど」
落ち着いた口調で、どこまでも透き通った声でそう言い、また笑い出す。
「失礼だって思うンならさっさとその笑い声を止めなァ」
しかし、笑い声がやむことはない。
相変わらず、透き通った笑い声だけが止むことなくその場に音として存在していた。
その声からは一切の思考が、感情が感じられない。
それゆえに、その底にあるものが読み取れず、ただどこまでも透き通っている。
少年の瞳が笑い声の主を睨む。
「ふふふ、あまり睨まないでください。本当に敵意はないんですよ。」
少女だった。
その口調からは想像ができないほどその体は小柄で、華奢で、
それは少年がほんの少し手を触れれば壊れてしまいそうなほどだった。
夜の闇の中でも自己を主張するように、月の光をあびた茶色い髪はきらきらときらめき、
頭頂部から跳ねたクセ毛は、彼女の一挙一動。それこそくすくすと小さく笑う微かな揺れにも反応して、
まるで意思を持っているかのように揺れ動く。
その瞳には冷たい光が不安定にゆらゆらと揺れ動く。
7 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/15(土) 13:18:00.51 ID:HvQspYQo
そして……
「……あァン? オイオマエ、こいつは一体全体どういうことだァ?」
少女のその顔、幼さこそはあれど確かに見覚えのある顔。
少年がいままで幾度となく見てきた顔。
少年がいままで幾度となく殺してきた顔。
「はじめまして一方通行……といってもこちらはまったく初めてな気はしないんですがね」
――「一方通行(アクセラレータ)」それはこの少年の名前、
この学園都市に7人しかいないレベル5、その第1位の名前。
「……ってェことは、やっぱり俺の思い違いってわけじゃなさそうだなァ?」
「一応、自己紹介をしておきましょうか。私の名前は打ち止め。
検体番号20001号、妹達を統括するために作られた上位固体です」
8 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/15(土) 13:25:05.31 ID:HvQspYQo
――「妹達(シスターズ)」学園都市に7人しかいないレベル5、その第3位、常盤台の超電磁砲。
その体細胞クローンであり、そしてかつて、一方通行をレベル6にするための実験により
一方通行に殺されてきた少女達。
「上位固体だァ?」
イラついた様子の一方通行とは違い、いたって落ち着いたまま打ち止めは続ける。
「えぇ、考えてもみてください。妹達はいくらオリジナルに遠く及ばないとはいえ軍事用に調整されているのです。
そんな彼女たちを何の対策もなく野放しにするわけにはいかないでしょう?」
一方通行は考える、確かに彼女達は中学生の少女という見た目からは想像がつかないほどに危険だ。
大の大人でもそうやすやすと扱えない「鋼鉄破り(メタルイーター)」を軽々と使いこなす上に。
命令とあらば、おそらく人を殺めることに疑問を覚えることもなく黙々とやってのけるであろう。
――かつて一方通行に殺されることなんの疑問も持たなかったように……。
「なるほどォ、まァ確かにあンなのが一斉に反乱でも起こしたンじゃたまったもンじゃねェだろうしなァ」
一方通行は想像してみる。
世界中に散らばった妹達、もし仮に彼女達が一斉に暴れ始めたら……。
「そういうことです、学園都市内だけならまだしも。実験が凍結された今、彼女達は世界中に散らばっています。
私はそんな彼女たちを纏める為に作られたのです。
……色々と他の固体と違っているのは、おそらく私自身が変な気を起こさないように、ということなんでしょうね」
10 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/15(土) 13:30:38.49 ID:HvQspYQo
「ケッ……それでぇ? その反乱を防ぐための上位固体とやらがどうしてこンなとこをほっつき歩いてんだァ?」
「いい質問ですね、実は私もそのことで困っているのです」
いたって淡々と、困った様子など一切見せずに少女は言う。
「そいつはどういう意味だァ?」
「見ていただければわかるように、私の体は他の固体と比べまだ未熟なのです、
本来ならまだ培養機に入っていなければならないのですが……」
確かに彼女の体は今まで一方通行が見てきた妹達に比べると明らかに幼かった。
「どういうわけか成長過程の途中で培養機から出され、毛布一枚で町に放り出され、
その理由も分からずに、今まで行く当てもなくさまよい続けていたのです」
毛布一枚、と言ったが今の彼女は若干くたびれたワンピースのようなものを着ていた。
おそらく能力を使ってどこかから拝借してきたものをずっと着ているのだろう。
「はン、そうかいそりゃ難儀なこったなァ」
「あら意外ですね、同情してくださるんですか?」
「あァン? ……そうだなァ、たしかにそうだぜェ……こんなやつに同情するなんざ俺らしくねェ」
確かに以前の――実験をしていた頃の一方通行ならば同情なんてことはしなかっただろう。
むしろ笑い飛ばし、いっそ楽にしてやるとでも言ってその場で手を出していたかもしれない。
「だが残念だったなァ? 俺はちィとばかし前とは変わったンだよォ……」
11 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/15(土) 13:34:39.16 ID:HvQspYQo
そう、彼は変わった。いや、変えられた。
あの実験で、あの場所で、ある男に止められたときに。
「私にはいまいち、何が変わったのかわかりませんが」
自分はあの時、たった一人のレベル0に倒された。
生まれて初めてだった、今まで誰にも、何にも負けたことはなかった。
「へっ、まぁ確かに根本的なとこはなンにも変わってねェ。もし、刃向かう奴がいりゃあとことンぶち[ピーーー]ぜェ?」
あの時一方通行は――初めて自分を止めてくれる存在にぶち当たった。
「だが、残念ながら今の俺は昔と違って……砂糖菓子みてぇになあまちゃンになっちまったンだよ。
無抵抗のガキに対して牙を向くなんて大人げねェことはしねェ」
あの時一方通行は――初めて人の痛みを知ることができた。
「……いったいあなたは何を言っているの?」
12 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/15(土) 13:37:06.72 ID:HvQspYQo
クックックと不敵に一方通行が笑う。
確かにその笑みは彼の今までの人生を物語るようにひどく悲しく歪んでいた。
しかし、そこに敵意はない、自分を主張するのでも相手を嘲るのでもない。
「なァ、お前行く当てがねェっつってたよなァ?」
その笑みには――ただ微かなやさしさだけが浮かんでいた。
「ついて来な……俺のとこでよけりゃあ、面倒みてやんよォ」
その時一方通行は――初めて偽りなく人に接することができた。
13 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/15(土) 13:42:22.72 ID:HvQspYQo
「もう朝ですか……」
ここに来てもうどれくらい立つだろう。
最近ではすっかりここでの暮らしにも慣れてきてしまった。
初めてここに来た時には、この部屋の主に敵意を向ける者たちによって、
まるでハリウッド映画の戦闘シーンの撮影でもしたのかと思うほど荒れていた部屋も、
ある日外に出かけて、帰ってきたときには綺麗さっぱり片付いていた。
「どうせあの人はまだ起きてはいないのでしょうね」
いつも一方通行は私より起きるのが遅い。
ひどいときには昼過ぎまで寝ていることもある。
「とりあえず起きるとしましょう。朝食を作らないといけません。」
自分が寝泊りしている、一方通行の住むマンションの部屋のこの一室は、
もともとは何にも使っていない空き部屋だったところに、生活に必要なものだけを用意したようだ。
いままで自分の寝ていたやけに清潔感のある白いシーツの敷かれたベッド、
身を起こして見回してみても小さなデスク、ほとんど中身の入っていないクローゼット、
それだけしかない質素な部屋。
「まぁ……居候の身としては贅沢はいえませんが」
しかしそれにしたっていくらなんでもこの部屋は味気なさ過ぎるんじゃないか。
14 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/15(土) 13:47:18.04 ID:HvQspYQo
「……あれ?」
どこからか、なにやらいい香りがする。
いつもなら彼はまだ自分の部屋で眠っているはずですが……。
「まぁ、別に彼が私より早く起きていたからといって、何も問題はないのですが……」
とりあえずリビングへ行くとしよう。
いつまでもベッドの上に座っていてもどうにもならないのだから。
「おはようございます、一方通行」
「ン? あァやっと起きやがったかァ」
なるほど、さきほど部屋までした香りは彼の飲んでいるコーヒーのものでしたか。
「あァ? どうしたンだァ、そンなとこで突っ立ってねェで座れよ」
「え、あぁそうですね。」
しかしいつも思うが、なぜリビングには座れるものがソファひとつしかないのだろう。
別に不満があるわけではないが、これではいつも並んで座らなければならない。
「それにしても、あなたは本当にコーヒーが好きなんですね」
横に座るとより一層コーヒーが香りますね。いつもブラックの彼のコーヒーは香りだけでも十分な目覚ましになります。
「わりィかよ、好きなもンは好きなんだ」
15 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/15(土) 13:52:30.95 ID:HvQspYQo
「いえ、悪いと言っているわけではないんですが。毎朝コーヒーだけでは体に悪いですよ?」
朝もコーヒーだけじゃなくたまにはなにか食べないと、
いつか本当に体調を崩して倒れてしまうんじゃないだろうか。
「余計なお世話だっつゥの、俺はずっと朝はこれなんですゥ」
「ですが……やはりそれだけでは体に悪いと……」
そうだ、自分の朝食を作るついでに彼の分も作らせてもらおう、
作るといってもトーストとサラダくらいのものだが、逆にそれくらいなら彼も食べてくれるだろう。
「私が、あなたの分の朝食も作ります。少しでも食べてください」
「あァン?そんなもンいらねェって……」
「いいですから、少しでも食べてください」
居候の身とはいえ、時には強く言わせてもらいましょう。
さて、そうと決まれば早速朝食を作らねば……。
「それじゃあ作ってきます、待っていてください」
「お、おゥ……しゃあねェな、食ってやンよ……」
「クス……ありがとうございます。それではすぐに作りますね」
16 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/15(土) 13:57:35.86 ID:HvQspYQo
さて、それでは彼の気が変わらない内にぱぱっとキッチンに言ってささっと作ってしまおう。
「えーと、サラダの野菜は……」
しかし、いつになってもこの台の上に乗って料理するというのにはいまいち慣れない……。
「今日は、いつもより気合を入れて作るとしましょうか……ん?」
どうして自分は、たかが朝食を作るくらいでこんなにも楽しんでいるのだろう。
どうして、彼に作ってあげるというだけでこんなにもうれしい気持ちになるのだろう。
「……そもそも、どうして私はここにいるんでしょう……」
そんなのは簡単だ、今でも鮮明に思い出せる。
彼が私に、自分のところへ来いと言ってくれた夜のことを……。
あの日、私はあの後彼に言われるままにこの部屋に来た。
彼がいないうちに襲撃され荒れ果てた部屋で、彼は羽毛のはみ出してはいるものの
まだいくらか損傷の少なかったベッドに私を寝かせ、自分はバネの飛び出したソファで眠った。
17 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/15(土) 14:02:26.15 ID:HvQspYQo
それからというもの、私はなりゆきでもう数週間この部屋に住まわせてもらっている。
この間は、くたびれたワンピースしか持っていなかった私のために、
わざわざ服を買いに連れて行ってくれた。
今使っているこの台も、その身長では不便だろうと言って彼が買ってくれたものだ。
「どうして彼は、私に優しく接してくれるのでしょうか……」
今まで実験で殺してきた1万人の妹達へ対する贖罪の気持ちだろうか。
それとも私を利用して、妹達を操り何かをするつもりなのだろうか。
「いいえ、多分そんなことじゃありません……」
あの夜、部屋へ行く途中の道で彼は言った。
『――勘違いするなよォ、別に俺はお前達に許して貰おうだとか思ってるわけじゃねェ。
それに……もとより許して貰うつもりもねェ』
『それはつまり、私達があなたを恨もうとい恨むまいと関係ないということでしょうか?』
『そうじゃねェよ、勘違いすんなァ? 俺はなァ……俺みたいな人間は許されちゃいけねェンだよ
一生憎まれて、恨まれてェ、そうやって一生罪を背負って生きていかなけりゃいけねェンだ』
『それでは……謝罪の意味ではないのでしたら、どうして私を助けてくれるのですか?』
『別にィ、たいした理由じゃねェよ……さっきも言っただろうがァ?』
18 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/15(土) 14:05:40.52 ID:HvQspYQo
『俺はただァ、もう自分を偽らねェって決めたンだよォ……もう、理由もなく誰かを傷つけンのは嫌になったンだ。
傷つけることしか出来なかったこの手で、誰かを助けてみたくなったンだ』
彼は……おそらく、ただ本当に……純粋に私のことを思ってくれている。
過去の彼がどうだったかは関係ない、確かに彼は妹達を殺したし、
人を傷つけることをなんとも思わない人間だったかも知れない……。
「でも、そんなことは関係ない……」
でも私は知っている。彼が昔、実験が行われていたときだって
本当は私達を傷つけたくないと思っていたこと、私達に生き延びる道を示してくれていたこと。
今の彼は、どこまでもやさしくて、人のことを想うことができて、暖かい……、
その心だけは……きっとどこまでも透き通っているから……。
「あぁ、そうなんですね……」
目が覚めたときは行く当てもない自分の境遇にも悩みはすれど、特に悲しいなどとは思わなかった。
そもそもそういうことを考えるような感情というものが自分には欠落していた。
まったく、この数週間でずいぶんと感情豊かになったものだ……。
――そうか、きっと私は……彼のことが……
19 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/15(土) 14:09:19.26 ID:HvQspYQo
「朝食、できましたよ」
「ン? あァ……本当に俺の分まで作ったのかよ……」
「当然です、さぁどうぞ食べてください」
「チッ、しゃあねェな……」
過去なんて関係ない、他の妹達に彼を許せなんてことも言えるはずもない。
それでも……今はただ、私とこの人と、二人の時間を大切にしよう……
「美味しいですか?」
「あァはいはいィ、美味しい美味しいィ、すっげェ美味しいですゥ」
「そうですか、よかった」
「なァに笑ってンだか……」
「いえ、うれしかったので、大切な人に喜んでもらうというのは。とても暖かい気持ちになります」
「……大切な人ねェ、俺なンかがかよォ?」
「はい、まだ出合ってそんなに長い時間は経っていませんが関係ありませんよ」
「私にとって、あなたはとても大切な人なんです」
20 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/15(土) 14:14:37.18 ID:HvQspYQo
どこまでも白く、どこまでもやさしく透き通った少年と、
どこまでも繊細で、自分の色が見えない少女。
二人はソファに並んで座り、少女の作った朝食を食べていた。
どこにでもあるいたって平和な光景――見る人が見ればなんだこれはと絶句するかもしれないが。
少なくとも、二人にとっては平和で、暖かい時間。
「食後にもやはりコーヒーなんですね」
「別にかまわねェだろォ? きちンと朝食は食ったンだからよォ」
「まぁ、かまいませんが……ところで今日はどうするんですか?」
「ン? 別に何にも予定はねェけどォ?」
「また一日中ごろごろしているんですね……」
「文句あっかよ」
「いえ、別にそういうわけでは……」
少々不満そうにしながらも、打ち止めは食後の二人で過ごす暖かい時間を
のんびりと堪能することにした。
21 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/15(土) 14:20:14.70 ID:HvQspYQo
――ジクリ
「――ッ!?」
打ち止めの頭の中を何かが蠢く様な、とてつもない頭痛が走った。
「かっ……!」
何が起きたのか理解できなかった、
何の前触れもなく襲ってきた頭痛に全身から嫌な汗が噴出すのがわかった。
「――!!」
「あァ? おい、どうしたァ! 打ち止め!?」
打ち止めの異変に気づいた一方通行が今にも倒れそうな打ち止めを抱きかかえる。
その小さく、触れただけで壊れてしまいそうなほど繊細に見える体は痙攣するように震え、
顔は真っ赤になり、その瞳に光はなく、焦点が定まらず視線が宙を泳ぐように揺れていた。
どこの誰が見たとしても、一目見ただけで異常だと見て取ることができるだろう。
「おいィ! しっかりしろ! 打ち止めァ!!」
返事はない、打ち止めはすでに気を失っている。
荒い呼吸、全身から噴出す汗、抱き寄せた体から伝わる乱れた心拍音。
22 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/15(土) 14:23:16.99 ID:HvQspYQo
さきほどまで自分の横で何食わぬ顔で食事をしていた。
コーヒーばかり飲んでいる自分のためにと、わざわざ朝食を作ってくれた。
そんな彼女がいま自分の腕の中で苦しんでいる。
このまま息絶えてしまうのではないかというほどに。
「ちくしょうがァ! 一体何がどうなってやがる!!」
ジクリと胸の奥が痛む、締め付けられたように息が詰まる。
抱きかかえた手のひらに、いやな汗がにじむ。
脳裏にある会話が思い出される。
『――見てもらえばわかるように、私の体は他の固体と比べまだ未熟なの、
本来ならまだ培養液に入っていなければならないのだけど……』
そうだ、あの時確かに彼女は他の妹達に比べて幼すぎると一方通行は思った。
『どういうわけか成長過程の途中で培養液から出されて、毛布一枚で町に放り出され、
今まで行く当てもなくさまよい続けていたのです』
そうだ、彼女は中途半端な状態で培養液からだされたといっていた。
23 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/15(土) 14:24:59.74 ID:HvQspYQo
一方通行は考える。
十分に成長し、しっかりとした状態で生まれた妹達ですら、
今もまだ生きながらえる為に世界中で調整を受けている。
混乱し、複雑に絡まっていた思考がまとまり始める。
では、未熟な状態で放り出され、当てもなく町を彷徨っていた彼女は?
少なくともこの部屋に来てからだけでもかなりの時間が立っているはずだ。
やがてその思考はあるひとつの仮定へとたどり着く。
もし、彼女の体にもう限界が来ていたとしたら?
もともと未熟だった体で町に放り出されるなどという無茶をして……。
もし、彼女の体が普通の生活に耐えられるだけの強さを持っていなかったら?
ろくに調整もせず、一緒にすごしてきたこの日々は……。
24 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/15(土) 14:29:39.30 ID:HvQspYQo
「ふざけンなァ! 死なせるかよォ! ぜってェに死なせたりしねェぞォ!!」
死なせるわけにはいかない。
この腕の中にいる少女だけは絶対に死なせたくはない。
別に罪の意識からこの少女を守りたいと思っているわけでもない。
この少女と過ごしてきた日々も決して長かったわけでもない。
それでも、この短い日々を思い出せば。この少女との僅かな思い出を思い出せば。
この少女の前では自分に素直でいれた。
この少女はこんな自分のことを真っ直ぐ見てくれた。
やっと、偽りのない自分を見せることができるかもしれないと思った。
やっと、傷つけることしかできなかった自分の腕で何かを守れるかも知れないと思った。
やっと、守りたいと思える大切な存在ができたと思った。
自分のことを、大切な人だと言ってくれた。
「チクショウがァ!!」
25 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/15(土) 14:39:25.31 ID:HvQspYQo
一方通行は意識のない打ち止めを抱えて部屋を飛び出した。
とにかく、どこかこの少女を調整できる場所を探さなくてはならない。
実験を行っていた研究所は駄目だ、連れて行けばこの少女がまた何かに使われるかもしれない。
そんなことは許すわけにはいかない。
前に学園都市のある病院で一人の妹達が調整を受けていると聞いたことがある。
そこに連れて行けばなんとかしてくれるかもしれない、
いざとなれば力押しでもなんでもして言うことを聞かせてやる。
この少女を守るためなら、何だってしてやる。
たとえ悪魔と呼ばれようとも、この少女だけは守りきってみせる。
26 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/15(土) 14:43:34.79 ID:HvQspYQo
「お、お客さま。他のお客様の迷惑になりますので、少々落ち着いてください。」
とある病院の受付で、少女を抱えた白い少年が今にも噛み付きそうな剣幕で怒鳴っていた。
「うるせェ! いいからさっさと医者をだせっつってンだろうだァ!」
その手に抱えた少女はすでに息遣いも怪しくなってきている。
早くしなければ手遅れになるかもしれない。
その恐怖が少年の焦りをさらに掻き立てる。
「いいか! 妹達だァ! こういえば絶対に話のわかるやつがいる!そいつを連れてこい!今すぐにだァ!」
「わかりましたので、少々お待ちください!」
受付のナースもその様子にただ事ではないと感じたのだろう。
奥に引っ込んでなにやら人を探している。
「クソがッ! 早くしろォ!早く!!」
1分1秒が、永遠に感じられるほど長く感じる。
少しでも早くこの腕の中の少女を助けなければならない。
1分1秒が、たったそれだけの時間が少女の命を奪っていくように感じた。
27 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/15(土) 14:46:47.67 ID:HvQspYQo
「おやおや、君がさっきから騒ぎ立ててるっていうお客さんだね?」
焦りを隠せず全身に汗を浮かべた一方通行の前に一人の医者が現れた。
カエルのような顔をしたその医者は、本当にこんなやつに任せて大丈夫なのかと
不安を覚えるような、ひょうひょうとした口調で言う。
「話は大体わかっているよ? 本当ならいろいろと君に聞きたいこともあるんだがね?
どうもそうも言ってらっれないようだね……さぁ、早く患者をこちらへ、すぐに処置にとりかかろう」
だがしかしその医者の言葉は力強かった。ひょうひょうとした口調はどこへ消えたのか。
そこにいるのは誰よりも患者を助けることを考えている、一人の名医だった。
――その名医は、「冥土帰し(ヘヴンキャンセラー)」と呼ばれていた。
「オマエが妹達の調整をやってンのかァ!? 頼む! こいつを! 打ち止めを助けてやってくれェ!」
一方通行はすがるように言う。
そこに学園都市第1位としての彼はいなかった。
ただ誰よりも打ち止めのことを助けたいと思っている一人の少年がいた。
「当然だね? 君は一体誰に向かって言ってているんだい?
僕が診る限り、彼女は絶対に助けて見せるよ」
そういうと冥土帰しは一方通行を連れ、建物の奥へと消えていった。
一方通行はカエル顔この医者にすべてを託すことを決めた。
この少女を救うことができない無力な自分の代わりに、この少女を救ってくれと。
28 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/15(土) 14:48:49.81 ID:HvQspYQo
とある病院の薄暗い一室で、一人の医者が戦っていた。
ある少年に託されたの一人の少女を救うべく。
「おかしいね……」
冥土帰しは少女の様子を診て呟く。
ベッドの上で浅い呼吸を繰り返す打ち止めは確かに肉体的に限界が近い。
今すぐにでも調整をしなければ危ないかもしれないほどだ。
しかし、ただそれだけでこんなに危険な症状がでることはないはずだ。
少なくとも、今目の前で少女が苦しみ方は調整不足だけが原因とは思えない。
「そうか、これは……と、なるとそうだね……きみ、ちょっといいかい?」
冥土帰しは部屋の片隅にたたずんでいた一人の少女に声をかける。
「少し、頼みたいことがあってね……」
茶色い髪を肩まで伸ばした少女は小さくうなずく。
29 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/15(土) 14:53:10.27 ID:HvQspYQo
その部屋の前の廊下に置かれたソファに腰掛け、一方通行は祈るように手を握っていた。
「頼む……あいつを救ってくれェ……」
冥土帰しが打ち止めをつれて部屋に入ってから10分ほど経った頃、
ふいに目の前のドアが開いた。
「やぁ、気分はどうだい?」
部屋から出てきた冥土帰しはひょうひょうとした口ぶりで聞く。
「あァン!? そンなことはどうでもいいンだよ!」
一方通行は立ち上がり、冥土帰しの胸倉につかみかかろうかというぐらいに近づき怒鳴りあげる。
「そンなことより打ち止めはどうなったァ! ちゃンと助かるンだろうなァ!?」
その質問に対して一方通行と少し距離をとってから、
冥土帰しは先ほどまでとは打って変わって、妙に重々しい口調で答える。
「そのことなんだけどね……」
30 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/15(土) 14:57:07.31 ID:HvQspYQo
一方その頃、とある公園で一人の少年が俯いて歩いていた。
ツンツンとした髪型をした少年は覇気のない声で一人ぶつぶつと呟いている。
「不幸だ……あぁ、不幸だぁ……」
その少年はつい先ほど、この公園の片隅にある自販機に、
手持ち全財産である二千円札を飲み込まれるという不幸に見舞われていた。
「だあぁぁぁ! もう! どうしてこうも不幸なんだぁー!」
何かが吹っ切れたように叫びながら両手で頭を抱える少年。
周りから見ればあまりにも怪しい人物に見えるだろうが、その少年はもうすでにそんなことも
気にしていられないくらいに精神が擦り切れていた。
「毎日毎日! 身に覚えのない理由で補修! 補修! ほっしゅっう!!
その挙句に自販機には全財産を飲み込まれるわ! 不幸だぁぁぁぁ!!!」
不幸だ不幸だと喚き声をあげる。
その後ろにひとつの影が音もなく近づき、頭を抱え蹲た不幸な少年の肩に手を置いた。
「少々よろしいでしょうか、と、ミサカは不審な行動を起こしているあなたに問いかけます」
茶色い髪を肩まで伸ばし、額には軍用ゴーグル、そして名門常盤台中学の制服を着た少女。
その少女は感情の読みとれない瞳で蹲る少年を見つめる。
31 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/15(土) 15:02:01.80 ID:HvQspYQo
「へ? っておぉ、誰かと思ったら御坂妹か。どうしたんだこんなところで」
御坂妹と呼ばれたその少女は、かつてとある実験の為に生み出された体細胞クローン、検体番号10032号。
かつて、目の前の少年に命を救われた少女。
少年は少女の顔を見るや否や取りあえず立ち上がり、
いまだに未練を断ち切れないといった感じの表情で答える。
「実は上条当麻、あなたに頼みたいことがあります、と、ミサカはあなたに頭を下げます」
上条当麻と呼ばれた少年は、下げるといいながらまったく頭を下げている気配のない少女を見て、
ひとつため息をついてから口の中で「不幸だ」と呟きながら頭を掻く。
「はぁ、またやっかいごとかぁ? まぁいいさ……で、俺に頼みたいことってなんだ?」
その少年は、困っている人を見過ごすことのできない人間だった。
「あなたのその右手で救ってほしい人がいるのです、と、ミサカは願いを伝えます」
少年の右手、正確には手首から先、そこに宿る力。
学園都市のシステムスキャンでレベル0と判定され、能力開発は万年落第。
そんな彼の持つ唯一無二の力「幻想殺し(イマジンブレイカー)」
彼はこれまで、その右手で何人もの人を救ってきた。
32 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/15(土) 15:07:32.39 ID:HvQspYQo
とある病院の一室、そこに一人の少女とそれに連れられるように一人の少年がやってきた。
ツンツンした髪型の少年はその部屋の中にいた一人の少年を見つけると、
一瞬固まり、そして次の瞬間険しい顔つきになり、そしてすぐに何かを振り切るようにもとの表情に戻った。
「一方通行……大体の話は聞いたぜ」
一方通行は俯いていた顔を上げ上条当麻の顔を見ると、一瞬バツの悪そうな顔をする。
だがやはり彼もすぐに元の表情に戻る。
「よォ三下ァ……話は……聞いてるンだなァ?」
「あぁ、お前がその子を連れてきたってことから、そしてその子の今の状況までな」
「そうかよ……けっ、笑えンだろォ?」
一方通行は上条当麻の顔から目をそらし、自らをあざ笑うように言う。
「今まで散々……それこそ1万人以上殺してきた俺がァ
いまさらになって誰かを救いてェなンざ……調子の言い放しだよなァ」
胸の奥がキリキリと痛む。
「しかも結局俺にはこいつを救うことが出来ねェときやがった、はっ、本当にとンだ茶番だよなァ!」
胸が締め付けられるように息が苦しくなってくる。
とうの昔に涸れてしまったと思っていた涙が溢れそうになる。
「それでもよォ! 守りかたかったンだ! 俺の手でも誰かを守れると思いたかったンだ!
でも守れねェ! 俺じゃ結局こいつを守ることが出来なかった!」
33 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/15(土) 15:12:32.03 ID:HvQspYQo
その赤い瞳から涙が溢れだす。
その涙は、どこまでも悲しい色をしていた。
「ハッ! どうだよ……笑えるだろ? 笑えよ! 無様なこの俺を笑えよ!!」
自分でもなにを言っているのかわからなくなってくる。
それでも言葉がとまらなかった、胸のそこから涙と共に自分の意思とは関係なく溢れ出してきた。
それを吐き出さないと、心が壊れてしまいそうな気がして止まらなかった。
悲しさを吐き出して、何かにぶつけなければ張り裂けそうな心を保てなかった。
そんな自分が情けなくて、また涙が溢れ出した。
「――笑わねぇよ」
ビクリ、と一方通行の肩が震えた。
目の前の少年が何を言ったのかわからなかった。
「笑うわけがねぇだろうが!」
力強く、上条当麻はそう言った。
その瞳は真っ直ぐに一方通行を見据えていた。
34 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/15(土) 15:18:20.01 ID:HvQspYQo
「なンで……」
気づけば涙が止まっていた。
「なンで笑わねェンだよ……無様だろ? 滑稽だろ!? 笑えよ! こンなどうしようもない俺を笑えよ!」
自分の弱さをぶつけ、そんな自分を責め続ける醜い心を曝け出し。
それでもなお、そんな自分のことをまっすぐ見据える瞳。
そんな少年の強さに戸惑い、逃げるように一方通行の口から自虐の言葉が溢れる。
「笑わねぇって言ってんだろ!!!」
それでも上条当麻という男は、一方通行の心から目をそらさない。
今度は、先ほどよりももっと強く。
「なにを笑うことがあるっていうんだ! なにも無様なことなんてねぇじゃねぇか!
お前はそいつを! 打ち止めを助けたかったんだろ! 守りたかったんだろ!?
その気持ちに偽りはないんだろう!!? じゃあ何もおかしくねぇしなにも笑うことなんてねぇ!」
言葉が出なかった。
なぜ目の前の少年は自分の為にここまで必死になっているのかわからなかった。
なぜこんな自分を、笑うどころかそんな真っ直ぐな瞳で見つめることが出来るのかわからなかった。
「もし、お前が自分のことを無様だとか滑稽だとか、そんな間違った心に囚われているって言うんなら、
自分の心と素直に向き合えないって言うんなら――」
37 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/15(土) 15:24:18.81 ID:HvQspYQo
その少年はどこまでも真っ直ぐだった。
どこまでも真っ直ぐに人を見つめることができる人間だった。
だからこそ、一方通行という少年の心の奥の、
自らが閉じ込めてしまっていた部分を見つけることができた。
「――まずはそのふざけた幻想を、ぶち[ピーーー]!!」
その悲しく、やさしい心を。
「三下……俺は――」
やっとわかった。
どうして自分がこの少年に負けたのか。
そしてその時から自分は変わろうと思ったのか。
この少年はいつだって真っ直ぐだったから。
自分みたいに偽りで自分を固めるような人間じゃなかったから。
そんな自分の奥までも、わけ隔てなく真っ直ぐに見つめてくれる強さを持っていたから。
だから、多分自分はこの少年に認めてほしかった。
自分という人間の偽りのない部分を、認めてほしかったんだろう。
「――俺は打ち止めを助けてェ! 頼む、三下ァ! そのためにお前の力を貸してくれェ!」
38 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/15(土) 15:25:46.47 ID:HvQspYQo
あ、あぁっ!?ぎゃあああああああああああああああ!!
みすった、まじでみすったぁぁ!?
チクショウ……製作で書くのなんて慣れてないからやっちまった……
すんません、テイク2やらせてくださいッ
ってか>>35フライングやwwwwwwめwwwwwwてwwwwwwwwww
39 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/05/15(土) 15:26:14.90 ID:HvQspYQo
その少年はどこまでも真っ直ぐだった。
どこまでも真っ直ぐに人を見つめることができる人間だった。
だからこそ、一方通行という少年の心の奥の、
自らが閉じ込めてしまっていた部分を見つけることができた。
「――まずはそのふざけた幻想を、ぶち殺す!!」
その悲しく、やさしい心を。
「三下……俺は――」
やっとわかった。
どうして自分がこの少年に負けたのか。
そしてその時から自分は変わろうと思ったのか。
この少年はいつだって真っ直ぐだったから。
自分みたいに偽りで自分を固めるような人間じゃなかったから。
そんな自分の奥までも、わけ隔てなく真っ直ぐに見つめてくれる強さを持っていたから。
だから、多分自分はこの少年に認めてほしかった。
自分という人間の偽りのない部分を、認めてほしかったんだろう。
「――俺は打ち止めを助けてェ! 頼む、三下ァ! そのためにお前の力を貸してくれェ!」
40 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/15(土) 15:29:35.04 ID:HvQspYQo
なにかが吹っ切れた気がした。
心が軽くなった気がした。
もう、自分を偽ることなく、真っ直ぐにぶつかって行ける強さを貰った気がした。
「あぁ、まかせろ! お前の思いは絶対に裏切らない!」
一時はすれ違った二人の少年。
もう二度と交わることのないと思えた二つの道が。
今ここで、一人の少女の為にひとつになった。
41 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/15(土) 15:34:44.89 ID:HvQspYQo
上条当麻は病院の近くの裏路地を走っていた。
放置された自転車やゴミ箱を蹴飛ばしても気に留めている時間はない。
『――この子のこの以上は調整がされていないせいではないね?』
息を切らしながら、汗だくになりながらも怪しいところはすべて見て回る。
途中で不良に絡まれてもかまっている暇はない。
『おそらく何かの能力者、それも直接能力者に干渉しないと手の出しようがないものだろうね』
少しでも怪しいと思えば建物の中だろうがビルの屋上だろうが、
まさに草の根を掻き分けるようにくまなく見て回る。
『ただし、僕の見たところ能力者はここからそんなに遠いところにいないはずだよ?
そこで上条くん、君には能力者を直接見つけてその右手で能力を解除してほしい』
周辺の目ぼしい場所はすべて調べつくした。
残るの目の前にある廃ビルのみ……。
『僕が見たところどうやらあまり時間に余裕はなさそうだ。
出来る限りはやく、能力者を見つけて能力を解除してくれたまえ』
窓も扉も外されている、打ちっぱなしのコンクリートがむき出しになった廃墟へと足を踏み入れる。
走り回って疲労が溜まり、重たくなった脚に気合を入れなおす。
『――三下……俺には打ち止めを救うことの出来る力がねェ……頼む……俺の変わりに打ち止めを救ってくれ!』
42 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/15(土) 15:38:33.64 ID:HvQspYQo
屋上を目指して、上条当麻は力を振り絞り、階段を駆け上る。
静かな建物の中に自分の足音と呼吸音だけがやけに響く。
心臓が血液を体へ送り出す音が聞こえる。
汗が額を垂れるが、そんなものを気にしている暇もない。
上条当麻を動かすもの、それは一人の友人が見せた涙。
初めて自分を偽ることなくさらけ出した一人の友人の願い。
ただそれだけが、彼を動かす力となっていた。
どれくらい上ってきただろう。少年は階段を上りきり、ドアのはずされた屋上へ踏み出した。
一気に上りきったため息が切れ、汗がとめどなく流れ出す。
酸素が足りず、うまく頭が回らない、視界がぼやける。
しかし、屋上の端に見える二人の男、それを見つけたとたんに一気に目が覚めた。
――やっと見つけた。
43 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/15(土) 15:40:58.25 ID:HvQspYQo
友人を、友人の大切な人を傷つけた犯人、その二つの人影は屋上へ入ってきた少年に気づき、
そしてそのうちの一人が静かに振り返る。
振り返った男は白衣を着た中年の男だった。
目は血走り、息遣いが荒い。そしてその右手には、黒光りする拳銃が握られていた。
そしてその拳銃を向けた先にいたもう一人の男は、見たところ何の変哲もない少年。
しかし、その口は塞がれ、手足は抵抗できぬよう拘束され、その瞳は恐怖に震えていた。
「――やっと見つけたぜ……このクソ野郎が!!」
44 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/15(土) 15:45:15.94 ID:HvQspYQo
とある病院の一室、ベッドの上で静かに眠っている打ち止めを見つめ、
一方通行は自分の為に駆け回っているであろう友人を思う。
冥土帰しは他に診るべき患者がいると行って部屋を出て行った。
「チクショウ……ここでこうやって待っているだけしかできねェのか俺は!」
自分の無力さが嫌になるが、いまはそんなことに怒りを覚えているときではない。
一応、冥土帰しに応急処置をしてもらい、今は落ち着いているとはいえ、
目の前の打ち止めが今も危険な状態でいることに変わりはないのだ。
『――さすがの僕もこの能力がこの子にどういった影響を及ぼすかはわからないね?
だから君にはこの子のそばで様子を見ていてほしい』
打ち止めの指先がピクリと動く。
一瞬だが表情が苦痛に歪む。
『残念ながら他にも診なければならない患者もいるから、付きっ切りってわけにもいかないからね?
……それにもしなにかあったとき、僕一人では対処できないかもしれない。
君には彼女を守るという重大な使命があるんだよ?』
打ち止めを守る。
45 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/15(土) 15:53:16.55 ID:HvQspYQo
そう、この少女だけはたとえ何があっても守る。
たとえエゴだと罵られようともかまわない、守ると決めた。
自分が心から彼女を守りたいと思った。その心にだけは偽りはないのだから。
「……ぜってェに助けてやるからな……」
打ち止めの手をそっと握る。
その手は小さくて繊細で、暖かかった。
この温もりを、手放したくなかった。
「うっ……あぁ……」
「打ち止めァ!?」
突然打ち止めが苦しみだし、その表情がどんどん苦痛の色に染まっていく。
無意識に彼女の手を握る手のに力がこもる。
「おィ! 大丈夫か! しっかりしろォ!!」
打ち止めの表情が苦痛の色に染まりきり、そして――
――ふいになにかが切れたように表情から力が抜けた。
46 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/15(土) 16:04:50.54 ID:HvQspYQo
「ラ、打ち止めァ……?」
「……」
力のない表情で、打ち止めが起き上がる。
その瞳に、光は宿っていなかった。何の感情も見せないその瞳から、一滴の涙が音もなく零れ落ちる。
その視線の先は、一方通行の瞳の奥を見つめていた。
――ヒュッ
「ンなっ!?」
不意に部屋の隅においてあったメスの一つが一方通行目掛けて飛んできた。
明らかに敵意の篭った攻撃、まともに当たればただではすまない速度で確実に急所を狙ってくる。
とっさのことに混乱しつつも一方通行は飛んできたメスをなんなく反射する。
跳ね返ったメスはその威力を失うことなく壁に当たり、壁紙に小さな傷をつけて大きく跳ね返る。
落ちたメスかカラカラと音を立てて、一方通行の足元へと地面をすべる。
そのメスは見たところ何の変哲もない、どこの病院でも見られるような一般的なメス。
もう動く気配のないメスをちらりと一瞥し、もう大丈夫かと息をつく。
しかし、異常はそれで終わらなかった。
「――ッ!?なンだなンだァ!?一体なンだってンだァ!!」
周りを見渡すと、部屋中のありとあらゆる刃物、がその切っ先を一方通行に向けて浮いている。
一体何が起こっているんだと一方通行はあせる、反射がある限り自分には一切傷がつくことはない。
だがしかし……下手に反射をしては目の前の打ち止めにあたってしまう可能性がある。
それを考えるとうかつに反射するわけにはいかない、とあせりを見せる一方通行の横で打ち止めが呟く。
さまざまな感情が、思いが絡まりあった濁りきった声で。
「――死んで」
47 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/15(土) 16:19:07.15 ID:HvQspYQo
打ち止めの前髪の辺りでひとつ火花が散る。
その瞬間、部屋中のすべての刃物が一斉に一方通行目掛けて飛んでくる。
もともと冥土帰しが仕事で使う道具や、この部屋での実験などに使うものが大量に置いてあったのだろう、その数はゆうに100を超える。
――「電撃使い(エレクトロマスター)」
学園都市のレベル5、その第3位であり妹達のオリジナルの能力。
そして同時に、それは妹達の使う能力。
そ、打ち止めは自らの能力によって磁力を操作し、部屋中にある金属製の刃物を操っていた。
しかし、彼女達クローンの能力はオリジナルのそれに遠く及ばないもの、
これだけの数の獲物を思うとおりに動かすだけの力はない……。
だがそんなことは関係なかった。
今の打ち止めの目的、それは一方通行であり、その一方通行は今、自分のすぐ目の前。
少し手を伸ばすだけで触れることが出来るほど近くにいるのだから。
「――うおッ!?」
不意に打ち止めが手を伸ばし、一方通行を抱きしめた。
普通なら反射されて誰にも触れることの出来ないその体、だがしかし、彼女は一方通行の反射の対象として認識されてはいなかった。
ならば話は簡単。このまますべての刃物を、自分目掛けて引き寄せるだけでいいのだから――
すべての刃物がとてつもない速さで二人目掛けて放たれる、それらは確実に打ち止めの体を突き破るだろう。
48 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/15(土) 16:21:47.22 ID:HvQspYQo
「くっそがァ!」
とっさに覆いかぶさるようにして倒れこみ、刃物の弾幕から打ち止めを守る。
――キィンと甲高い音がして刃物が真っ直ぐに反射される。
しかし、かなりの勢いがついた刃物はそのうちのいくつかが壁に跳ね返り、またこちらへ向かってくる。
一方通行は跳ね返ってくる刃物から打ち止めを守るために覆いかぶさったまま、その第2撃にそなえる。
その時、打ち止めの体から火花が散った。
「ンな!? この至近距離で……ッ!!」
ほぼ密着したこの状態で電撃を反射すれば、確実に打ち止めを傷つけてしまう。
ただでさえ調整不足と未知の能力の影響によって不安定な今のこの状態で、
少しでもその体にダメージを与えたら……。
「クソがァっ! 打ち止めァ! 何が何でもお前だけは!!」
――刹那、まばゆい光が二人を包んだ。
49 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/15(土) 16:27:42.91 ID:HvQspYQo
『――やっと見つけたぜ……このクソ野郎が!!』
上条当麻が吼える。
拳銃を突きつけられた少年の肩がビクリと振るえ、白衣の男が舌打ちをする。
「くそ! ここまできてまだ邪魔が入るのか……ッ!」
男は焦りを抑えきれないといった様子で頭を掻く。
「私の邪魔をするな!どうせこのままでは私はお仕舞いだ!
もう他にどうしようもないのだ!こうするしかないんだ!!」
「一体何を言ってんだてめぇ……」
男は血走った目で上条当麻をにらみ、拳銃を向ける。
「あいつのせいで私の人生は! 天井亜雄という男の人生は台無しだ!
このままでは殺される、なら! ならばあいつを殺してでも私は生きてみせる!」
銃口を上条当麻に向けたまま、体を震わしながら男は天井亜雄は叫ぶ。
「あいつって……まさか打ち止めのことか!」
やはりこの男が、打ち止めを苦しめていた張本人。
そうとわかればもう迷っている暇はない、一刻も早くこの男を止め、打ち止めを助ける。
そう思い、握り締めた右手に力をこめる。
男との距離はおよそ10メートル、拳銃を撃たれたとしても相手はおそらく素人だ。
1発目をかわし、一気に駆け抜ければ2発目が放たれる前にたどり着ける。
50 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/15(土) 16:30:39.23 ID:HvQspYQo
「は! 何を言っているんだ貴様は!あんな出来損ない一人殺したところでなんになるというのだ。」
「なに……!?」
今にも駆け出し、男に飛び掛ろうかとしていた上条当麻の足がかたまる。
この男の狙いは打ち止めではないと聞き、思考が混乱する。
――たしかにあの病院で、打ち止めは苦しんでいた。
見ているだけで胸が張り裂けそうになるくらいに苦しんでいた。
だが、男の狙いは打ち止めではない。
では、この男は一体誰を狙っているというのだろうか。
「一方通行……」
男が震える声で小さく呟く。
「あいつをよく思ってないやつらなんて、この学園都市にはいくらでもいる!
だから私は奴を[ピーーー]、奴を殺せば匿ってくれる場所なんていくらでもあるのだ!」
「なんだと……?」
「私の計画通り、いまさら贖罪のつもりか!?
奴は私が野放しにした打ち止めを偽りのやさしさで匿った!
そして、打ち止めは奴にとっていつでもそばにいる存在となった!」
男が続ける、その口の端は醜くゆがみ。
見開かれた瞳から見える色は、狂気に染まっていた。
51 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/15(土) 16:35:07.33 ID:HvQspYQo
上条当麻は腹の底が熱くなってくるのを感じていた。
怒りが、体の底から湧き上がってくる。握った右手に爪が食い込み、血が流れる。
「だからこそ今がチャンスなのだ、奴にとって守るべき存在など邪魔でしかないのだから!」
上条に向けられていた拳銃が、再び横にいる少年に向けられる。
「こいつの力を使って打ち止めを操れば、奴を殺せる! 甘え、油断しきっている今のやつならそれで十分殺せる!」
男の隣の少年がビクビクと震える。
その目からは次々と涙がこぼれ、足元に小さなシミを作っていた。
――この少年も、被害者なのだ。
拘束され、抵抗できない状態で拳銃を突きつけられ、無理やり自分の力で人を殺させられる。
罪悪感が、少年の胸を締め付けながらも、それでもやはり抵抗できない。
上条当麻は怒りに震えていた。
目の前の男が許せなかった。
自分の為に、我が身かわいさに人の心を踏みにじり、利用し。
挙句のはてに、一人の少年がやっと手に入れたやさしさを、大切なものを壊そうとした。
「――テメェ!!」
上条当麻の体が跳ねるように駆ける。
身を低くかがめ、右手を握り閉め、拳銃を構える男に向かって一気に走り抜ける。
52 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/15(土) 16:39:12.57 ID:HvQspYQo
天井亜雄は自分目掛けて駆け抜けてくる少年に向け、拳銃を構える。
少年との距離はもう半分近くに狭まっていた。
「私の邪魔をするなぁ!!」
引き金に掛かった指に力をこめる、不慣れな、ぎこちない動作で頭部に狙いを定め、
一気にその引き金を引く。
銃口から吐き出された鉛の塊は空を裂き、衝撃波をその身に纏いながら直進する。
その銃弾が、衝撃波が肉をえぐり、その身を裂く音が聞こえた。
――銃声が響き、拳銃を握った右手が反動でわずかに跳ねる。
なれない拳銃の扱いで僅かに視界がぶれる。
当たった、そう確信できた。
いかに銃の扱いに慣れていないとはいえ、この距離で外しはしない。
これで邪魔者はきえたと安堵し、ぶれた視界を戻す。
その瞳には、右手を握り締め、振りかぶった上条当麻が視界いっぱいに写っていた。
上条当麻は以前、三沢塾でアウレオルス=ダミーと戦ったときの瞬間練成に対して右手で対処したように。
銃口の角度や引き金を引く指の動きから弾道を予測し、自分の頭目掛けて飛んでくる銃弾を反射的に避け、
その右肩に銃弾を受けながらも紙一重で致命傷を避けていたのだ。
53 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/15(土) 16:43:34.89 ID:HvQspYQo
「歯を食いしばりやがれ、このクソ野郎が――」
「ひぃ!」
予想外の事態に、慌てて拳銃を握りなおし狙いを定めようとするが、
上条当麻の左手にあっけなくはじかれ、拳銃が鈍い音をたて地面をすべる。
「てめぇが他人を巻き込んで、人の幸せを踏みにじってでも生きてぇだとか、
あいつの、一方通行のやさしさを偽りだとか決め付けるっていうんなら――」
天井「や、やめろ! やめろぉぉ!!」
右手によりいっそう力をこめる。爪が手のひらの肉に食い込みまた血がにじむ。
先ほど、弾丸が抉っていった右肩に激痛が走る。常人ならその痛みだけで気を保っていられなくなるほどの激痛。
それでも、上条当麻は止まらない。
友達を助けるため、友達の願いを叶えるため。
「――あいつらの、一方通行と打ち止めの大切なモノをぶち壊そうだとか言うんだったら――」
友達のやさしさを、偽りなどではないと証明するため。
「――まずはそのふざけた幻想を、ぶち[ピーーー]!!」
振り上げた右手を振り下ろす。こぶしが天井亜雄の顔に食い込み、肩から血が噴出す。
激痛が走ろうが、いくら血を流そうが構わない。
それでも今は、全力で、その右手で目の前の外道を殴り飛ばす。
54 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/15(土) 16:45:08.67 ID:HvQspYQo
うはーー!!!だぁぁぁぁぁかぁぁぁぁぁぁらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!
ぶち[ピーーー]!!ってなんだよぶち[ピーーー]!!ってぇぇぇ!!orz
しっかりしろおれ!慌てるなおれ!そげぶ!そげぶ!!
55 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/05/15(土) 16:45:34.12 ID:HvQspYQo
「歯を食いしばりやがれ、このクソ野郎が――」
「ひぃ!」
予想外の事態に、慌てて拳銃を握りなおし狙いを定めようとするが、
上条当麻の左手にあっけなくはじかれ、拳銃が鈍い音をたて地面をすべる。
「てめぇが他人を巻き込んで、人の幸せを踏みにじってでも生きてぇだとか、
あいつの、一方通行のやさしさを偽りだとか決め付けるっていうんなら――」
天井「や、やめろ! やめろぉぉ!!」
右手によりいっそう力をこめる。爪が手のひらの肉に食い込みまた血がにじむ。
先ほど、弾丸が抉っていった右肩に激痛が走る。常人ならその痛みだけで気を保っていられなくなるほどの激痛。
それでも、上条当麻は止まらない。
友達を助けるため、友達の願いを叶えるため。
「――あいつらの、一方通行と打ち止めの大切なモノをぶち壊そうだとか言うんだったら――」
友達のやさしさを、偽りなどではないと証明するため。
「――まずはそのふざけた幻想を、ぶち[ピーーー]!!」
振り上げた右手を振り下ろす。こぶしが天井亜雄の顔に食い込み、肩から血が噴出す。
激痛が走ろうが、いくら血を流そうが構わない。
それでも今は、全力で、その右手で目の前の外道を殴り飛ばす。
56 名前:いっそのこと殺してくれぇぇぇぇぇぇぇ[saga] 投稿日:2010/05/15(土) 16:46:20.53 ID:HvQspYQo
「歯を食いしばりやがれ、このクソ野郎が――」
「ひぃ!」
予想外の事態に、慌てて拳銃を握りなおし狙いを定めようとするが、
上条当麻の左手にあっけなくはじかれ、拳銃が鈍い音をたて地面をすべる。
「てめぇが他人を巻き込んで、人の幸せを踏みにじってでも生きてぇだとか、
あいつの、一方通行のやさしさを偽りだとか決め付けるっていうんなら――」
天井「や、やめろ! やめろぉぉ!!」
右手によりいっそう力をこめる。爪が手のひらの肉に食い込みまた血がにじむ。
先ほど、弾丸が抉っていった右肩に激痛が走る。常人ならその痛みだけで気を保っていられなくなるほどの激痛。
それでも、上条当麻は止まらない。
友達を助けるため、友達の願いを叶えるため。
「――あいつらの、一方通行と打ち止めの大切なモノをぶち壊そうだとか言うんだったら――」
友達のやさしさを、偽りなどではないと証明するため。
「――まずはそのふざけた幻想を、ぶち殺す!!」
振り上げた右手を振り下ろす。こぶしが天井亜雄の顔に食い込み、肩から血が噴出す。
激痛が走ろうが、いくら血を流そうが構わない。
それでも今は、全力で、その右手で目の前の外道を殴り飛ばす。
59 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/15(土) 16:52:02.63 ID:HvQspYQo
「ッオルァァァァァァァァァアア!!!!」
右手を振りぬき、天井亜雄の体を力いっぱい吹き飛ばす。
その体は地面に叩きつけられながら転がり、屋上の手すりにぶつかって止まり、天井亜雄そのまま気を失った。
「はぁ、はぁ……」
右肩から血を流しすぎ、激痛と失血により意識が朦朧とする中、
横で拘束され座っている少年に目を向ける。
「さぁ、もう大丈夫だ! 早く打ち止めを、一方通行を助けてくれ!」
動かない右腕を庇いながら少年の拘束を左手のみで解きながら叫ぶ。
しかし少年は力なく呟く。
「――ッ! ……すみません、無理なんです……実は僕も何度も能力を解こうと試みたんです……。
でも、僕の力は一回命令をだすと、相手は自我の力で自力でその命令に打ち勝つか、
それを実行するまではどうやっても止まらない。僕ではどうやっても止められなくなってしまうんです!」
少年の瞳から涙が溢れる。
「ずっとあの子の声が聞こえてきた。殺したくない、傷つけたくない……その声がさっき途絶えてしまった……!
悲しい声で、今にも泣きそうな声で、あの子は僕の能力に抵抗し続けた! あの研究者に感情を奪われ、
抵抗の力を削られていたって言うのに、それでもあの子は苦しみながら抵抗したのに! それなのに……僕は……」
無力な自分を呪う涙、解除できないと知っていながら脅された恐怖に負け、
我が身可愛さに能力を使った自分の弱さを責める涙。
61 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/15(土) 16:56:45.93 ID:HvQspYQo
だが上条当麻はそんな少年にやさしく微笑む。
すでにその顔は失血により血の気を失い、額からは脂汗が垂れている。
「そうか……だけど大丈夫だ、俺がいる。俺が君を、君の能力を止めてみせる」
そういうと、上条当麻は最後の力を振り絞り、右腕を上げる。
戸惑いを隠せない少年に向かって、やさしく声をかける。
「自分が無力だなんて、誰も助けられないだなんて……
そんなふざけた幻想は捨てちまえ……」
上条当麻の右手が少年の額に手を伸ばす。
「誰かを助けたいって思える心は、ちっとも弱くなんかねぇよ」
右手が少年の額に触れた瞬間、パキィンと何かが割れるような甲高い音が響き、
そしてそのまま、上条当麻はその場に倒れこみ、気を失った。
その右肩から赤い液体が静かに流れ、その身を赤く染めながら小さな水溜りを作っていく。
62 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/15(土) 17:02:48.86 ID:HvQspYQo
とある病院の、荒れ果てた一室の中で、一人の少女は目を覚ました。
何か暖かいものがその体に圧し掛かっている。
少女はここがどこだか把握できないまま、はっきりとしない頭を働かせ、ぼやけた視界を晴らす。
まず視界に入ったのは、焦げて黒く滲んだ天井。
そして次に目に入ったのは……。
「ッ! 一方通行!!?」
自分に覆いかぶさるようにして気を失っている白い少年。
一方通行は衣服とその体を焦がし、背中には大量の刃物が突き刺さっている。
「一方通行! しっかりしてください! 一方通行!!」
重たい体を押し上げ、気を失ったままの一方通行を抱きかかえる。
背中に手を回すとヌルリとした感触がした。
「一方通行! 一体どうして!? 目を覚ましてください! 一方通行!!」
少女はわけもわからず叫ぶ。
一体何が起こったのか、理解ができなかった。
なぜ自分は見知らぬ部屋で眠っていて、なぜ彼はそんな自分の上で倒れているのだろうか。
ともかく自体を少しでも理解しようとあたりを見渡す。
壁紙は焦げ、荒れ果ててはいるがどうやら病室のように見えた。
63 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/15(土) 17:08:07.60 ID:HvQspYQo
「ここは、病院!? はっ、ならばすぐにでも医者を!!」
壁に掛かっていた内線の電話が目に入った。
すぐさま手をかけ受話器を持つ、部屋は荒れ果てているが、電話はどうやら無事なようだ。
『どうしたんだい? 彼女になにかあったのかな?』
受話器の向こうからひょうひょうとした声が聞こえてきた。
「早く! 誰でもいいから早く来て! 彼が! 一方通行がぁ!!」
必死の気持ちで怒鳴りたてる。
受話器を握る手に力が入り、一方通行の血でヌルリとすべる。
『その声は……わかった、今すぐそちらへ向かうから落ち着いて待っているんだ、いいね?』
そう言うと電話は切れ、ツーツーという無機質な音が受話器から聞こえてきた。
「早く……早くして……っ!」
電話が切れてから医者がこちらへ向かってくるまでの1分1秒が永遠のように感じられた。
能力により心臓が動いていることは確認したが、それでもあきらかに危険な状態の一方通行。
そんな彼を前に、ただ医者を待つことしかできない自分が、どうしようもなく憎く思えた。
64 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/15(土) 17:13:05.96 ID:HvQspYQo
「あなたが死んでしまうなんて、わたしには耐えられない」
思いが、胸の奥底からこみ上げてきて、抑えられなくなる。
「一方通行、私には……私にはあなたが必要なんです!」
その思いは無人の廊下にやさしく響き、
そして溶けるように消え、あたりは静寂に包まれた。
「お願いです……絶対に帰ってきてくださいね……」
力なくそう呟き、少女は歯を食いしばり、涙を飲む。
ここで自分が喚いても、現実は何も変わらないと、
私が泣いても、悲しんでも、多分あの人は喜んでくれないと、
だから、今はただ精一杯の気持ちをこめて祈り続けようと。そう思ったから。
65 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/15(土) 17:16:38.06 ID:HvQspYQo
手術室前におかれたソファに腰掛け、両手を合わせ、祈るように目を瞑る。
「もし、クローンである私なんかの願いを聞いてくれる神様がいるのなら。
お願いします、彼を救ってください……彼を……助けてください……」
音のない空間で、ただただ時だけが流れていった。
少女はその空間の中で、ただひたすら祈り続けていた。
小さく、華奢な体が、今にも壊れてしまいそうなほど震えていた。
66 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/15(土) 17:19:53.29 ID:HvQspYQo
「ン……あァン? どこだここはァ?」
一方通行は白いベッドの上で目を覚ました。
ぼやけた視界に見慣れない天井が目に入り、次に体中から痛みが走った。
「ぐっ! 体が動きやがらねェ……」
どうやら全身に包帯が巻かれているようだ。
少しでも体を動かそうとするたびに痛みが走る。
「ここはァ……病院かァ?」
なんとか動かせる首から上だけであたりを見渡す。
どうやらここはどこかの病院の一室のようだ。
「なンで俺は病院なンかにいやがるンだァ?」
そこまで口にしてから、一方通行は思い出した。
自分がここにいる理由。自分が全身に傷を負い、倒れている理由を。
「そうだ! 打ち止めァ! あいつはどこだァ!」
全身が痛むがそんなこと気にしていられない。
悲鳴を上げる体を無理やり動かし、起き上がる。
67 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/15(土) 17:26:17.25 ID:HvQspYQo
赤い眼を見開き、あたりを見渡す。痛みで額に汗が滲む。
「あいつは無事なンだろうなァ! 打ち止め! どこだァ! 打ち止めァ!!」
全身を走る痛みを飲み下し、大声で叫ぶ。
あの少女は、打ち止めは無事なのか、それだけが心配だった。
その時、病室の扉が開く。
「一方通行! 目が覚めたんですね!!」
少女が部屋に駆け込んでくる。
すぐにベッドの脇まで駆け寄り一方通行を見つめるその瞳は、赤く充血していた。
「打ち止めァ! よかった……無事だったンだなァ」
打ち止めの無事を確認すると、一方通行の体から糸が切れたように力がぬけ。
そのままベッドに倒れこんだ。
「大丈夫ですか! 私は無事ですから無理をしないでください!」
倒れた一方通行を心配そうに打ち止めが見つける。
「あァ、わかった……もう大丈夫だァ、無理はしねェよ」
「本当にお願いします、今のあなたは怪我人なんですから……」
そういうと打ち止めは俯き、一方通行から視線を下へ落とす。
その小さな肩がぷるぷると小刻みに震えていた。
68 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/15(土) 17:32:15.07 ID:HvQspYQo
「一方通行……すみません」
「あァン……?」
気をつけていないと聞き逃してしまいそうなほど小さな声で、打ち止めは呟いた。
「監視カメラの映像を見て、何が起きたのかはわかっています」
その声は、今にも消え入ってしまいそうなほど弱々しかった。
「私が……傷つけてしまった。私のせいであなたが傷ついてしまった」
その瞳から涙がこぼれる。
「あなたは私を守ろうとしてくれたのに……あの瞬間、私を傷つけないために
すべての反射を切って、そんなにぼろぼろになってまで守ってくれたのに……」
そう、打ち止めが電撃を放ったあの時、一方通行は電撃を反射して彼女を傷つけぬように、
すべての反射を切った。そして、電撃と共に襲い掛かる刃物の弾幕を全身に受けたのだ。
「本当にすみません……私は……私は……!」
自分が許せない、自分の弱さが憎い。
どうして自分はこんなにも無力なのだろうか、たった一人の大切な人を守ることも出来ないほどに。
自己嫌悪の深い闇の底に、まだ幼く儚い心が沈んでいく。
「――謝ってンじゃねぇよ」
69 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/15(土) 17:39:14.72 ID:HvQspYQo
涙を流し、自分を責める打ち止めの言葉を一方通行がさえぎった。
その声が、闇に沈む打ち止めの心を、やさしく救い上げる。
打ち止めはそんな一方通行の表情が見たくて、思わず伏せた顔をあげ、一方通行の顔を見た。
「オマエも助かって、俺も助かった。それだけで十分じゃねェか」
彼は笑っていた。
とてもやさしくて、とても暖かい笑顔で。
「だからオマエはなにも悲しまなくていいンだ。テメェが助かったことを素直に喜ンでりゃ、それでいいンだよォ」
その言葉が、とてもうれしかった。
責められても仕方ないと思った、見捨てられるかもしれないと思った。
自分が情けなくて、嫌になって。もうどうなってもいいと思った。
でも、彼は私を責めはしなかった。
それどころか彼は私を許し、自己嫌悪の闇から救ってくれた。
「一方通行……」
また、涙が溢れてきた。
しかしその涙は冷たい悲しみの涙ではなく、とても暖かいものだった。
「わかったらコーヒーでも買ってきてくンねェかなァ?
こちとら動けねェし喉がカラッカラなンだよォ、ブラックだぞブラックゥ」
一方通行はまるで何事もなかったかのようにそう言う。
70 名前:気づいたら始めてから4時間も経っていた。こんだけ長くぶっ続けで見てるひといるのか……?[sage] 投稿日:2010/05/15(土) 17:43:20.95 ID:HvQspYQo
「は、はい! ブラックですね。すぐに買ってきますから、じっとして待っていてくださいよ?」
だから打ち止めは、精一杯の笑顔で答える。
たとえ涙でクシャクシャになっていようとも、一方通行はきっとそれを望んでいるから。
「あァ、間違えてブラック以外を買ってくンじゃねェぞ」
一方通行の言葉を背に受けながら、彼女は病室をでる。
少しでも早くコーヒーを買って彼の元へ帰ろうと、少し小走りで廊下を通り抜ける。
通りかかった看護婦に廊下を走るなと注意され、慌てて謝り。
今度はゆっくりと歩を進める。
「そうですよね、慌てたりしなくてもいいんです。あの人はもう、どこかへ消えたりしないのですから」
小さくつぶやき、その柔らかな頬が小さく緩む。
静かに進めるその足取りは軽く、喜びにあるれていた。
その瞳に、もう涙は浮かんでいない。
82 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/15(土) 19:54:09.38 ID:HvQspYQo
打ち止めが病室から出て行った後、入れ違うように二人の男が入ってきた。
「よう、三下ァ……」
「一方通行、打ち止めが助かってよかったな」
上条当麻は一方通行が目を覚ましているのを確認するとそう声をかける。
その右腕は包帯で巻かれ、固定されていた。
「しかし、君も無茶をするね? もう少し処置が遅かったら危なかったよ?」
冥土帰しが相変わらずひょうひょうとした口調で言う。
その手にはカルテが握られていた。どうやら仕事として一方通行の様子を見に来たようだ。
「本当だよなぁ、まったく、お前が死に掛けたって聞いたときはびびったぜ」
「上条君?君もかなり無茶をしているね?
君だって、もう少し出血していれば危なかったってことがわかっているのかな?」
「ぐぅ……すみません」
しょうもない会話をする二人を見て一方通行はほっとする。
二人ともまるで何もなかったかのように笑っている、もう、あの悪夢のような事件は終わったのだ。
「しかし、本当によかったよ、皆助かって」
「あァ……そのォ、なンだァ……」
一方通行が照れくさそうに頬を掻く。
83 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/15(土) 19:59:18.94 ID:HvQspYQo
「テメェのおかげで助かったぜェ……ありがとよォ」
そう吐き捨てると、すぐさま視線を逸らして反対側を向いてしまう。
微かに赤く染まった頬が白い肌のおかげで際立っていた。
「ははっ、気にするなよ。上条さんはこういうのには慣れてますから」
上条当麻は一方通行からの思わぬ謝礼に一瞬戸惑ったが、
すぐにニヤリと笑い胸を張った。
「この程度のことはもう慣れっこなのです! なーんにも問題なぁ! いたたたた!」
左手で胸をドンと叩くと、その振動が響いたのか右肩を抱えて蹲る。
「はぁ、まったく何をやっているんだねきみは?」
「ただのバカだろォ、やっぱり三下は三下ってことだァ」
「んなっ!一方通行、いくらなんでもバカってこたぁないだろバカは!」
くだらない会話、どうでもいいような会話だが、一方通行にはそんなことがうれしかった。
昔のままの自分では絶対に感じることのできなかった暖かさが、そこにあった。
目の前でバカをやっている上条当麻をチラリと見る。
84 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/05/15(土) 20:01:28.31 ID:HvQspYQo
かつては自分を止めてくれた、自分に痛みを教えてくれた、自分を真っ直ぐに見てくれた。
そして今回は、自分の弱さを受け止め、自分を救ってくれた。
表面ではバカにしていても、心の中では感謝してもしきれないほど、
上条当麻は一方通行にとって大きな存在になっていた。
一方通行は冥土帰しと話している上条当麻を見つめ、誰にも聞こえないような小さな声で呟く。
「――ありがとよォ、上条当麻」
85 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/15(土) 20:05:55.35 ID:HvQspYQo
「――ちょっと話があるんだが、いいかな一方通行君?」
上条当麻が自分の部屋に戻るといって部屋を出て行くと。
一人部屋に残った冥土帰しが、いつになく真剣な表情で問いかけてきた。
「あァ?なンだ、つまンねェ話なら聞く気はねェぞ」
「つまらない話……ではないと思うよ、少なくとも君にとっては、とても重要な話だと思うんだがね?」
なにやら思わせぶりな言い方をする冥土帰しに、
少々の苛立ちを感じ、急かすように問いただす。
「そうかそうかァ、そンじゃあさっさとその重要な話ってのを聞かせろォ」
「話っていうのあの少女の話なんだがね?」
その言葉を聞いた瞬間、一方通行の眉がぴくりと動く。
あの少女――つまり打ち止めについての話。
「あの少女の体が未熟だというのは知っているね?」
「あァ、それは打ち止め本人に聞いた……やっぱりそれがなにか問題なのかァ?」
「そのこと自体は定期的に調整を受けさえすれば特に問題はないんだがね?
むしろ問題なのはその中身、人格のほうなんだよ」
「どういう意味だそりゃあ」
一方通行は打ち止めの人格に問題があると言われ微かに苛立ちを覚える。
86 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/15(土) 20:08:08.85 ID:HvQspYQo
「まぁそう怒らないで、冷静に聞いてもらえるかな?」
その苛立ちを察したのか、冥土帰しは諭すように続ける。
「彼女たち、妹達の人格は学習装置というものを使って人為的に組み込まれたものなんだがね?
それが、彼女の場合は完全じゃないんだ」
「完全じゃねェ……だと?」
「そう、彼女の人格には他の妹達とも違った独自のデータが使われていてね?
まぁ、おそらく今回の事件の犯人の仕業だろうけど……。
僕が考えるには少しでも能力で操りやすくするように、自我や感情というものを無理やり削ったんだろうね?
……まぁ、ともかくそれが問題なんだよ」
今回の事件の犯人、一方通行も先ほど上条当麻から聞いて、
その犯人が自分の実験に関わっていた研究者、天井亜雄だと知っている。
たしかに研究者であの実験に関わっていた彼になら、人の目に触れずにそういったことを行うことはできただろう。
「そいつは、具体的にどうやべェってンだァ?」
「人格データそのものが不安定だし、不正なデータはあの体には少々影響が強すぎるんだ。
つまり、簡単に言えば外側が中身に耐え切れないってことだね?
このまま放っておけば……彼女は近いうちに外からか内からか、どちらにせよ壊れてしまうだろうね」
「なンだとォ!」
打ち止めが壊れてしまう。その言葉に一方通行は怒鳴り声を上げる。
87 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/15(土) 20:12:36.41 ID:HvQspYQo
やっと、やっとこの手で守ることができたあの少女が、
また危険にさらされると聞いて、一方通行は黙っていられなかった。
「おいィ!そいつはどうにかできねェのか!テメェは医者だろォ!なンとかできねェのかよ!!」
「だから落ち着くんだ。もちろん僕だってこのまま何もしないつもりはないさ……
ただ、彼女を助けるにはある覚悟をして貰わなければならないね?」
「覚悟だァ?そんなもンとっくに出来てるってンだァ! あいつが助かるってンなら何だってしてやる!」
もともと一方通行には覚悟があった。
打ち止めを守るためならなんだってするという覚悟が。
「そうかい? それじゃあ説明させてもらうよ? 彼女を救う方法は……」
88 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/15(土) 20:17:50.60 ID:HvQspYQo
深夜の病院の一室で、一方通行はベッドに横になり天井を見上げていた。
自分の傍らにはイスに座ったままベッドにうつ伏せにもたれ掛かり寝息を立てる打ち止め。
そして、彼の手には彼女の人格データが入った携帯端末。
覚悟は決めていた、だがいざ実行に移すとなると戸惑いを隠しきれなかった。
『――ここに彼女に本来使われる予定だった人格データがあるね?
まぁどこから手に入れたのかはちょっと言えないんだけど。まぁともかく、君の能力、生態電気も操れるんだってね?
それがあればこの人格データを彼女に書き込むこともできる、ただし――』
「ちくしょうが……なにをやってンだ俺はァ、こいつを救うンだろうが……」
一方通行は戸惑い、行動を起こせない自分を捲くし立てるように呟く、
しかし、やはり踏み出すことができない。
携帯端末を握る手に、汗が滲む。
『――今の人格データの上に上書きをしてしまえば、彼女の中身はまったくの空白に戻ることになるね?
つまり、今まで君と過ごしてきた日々の思い出も……君への想いも、すべてを失うことになる』
打ち止めが、自分のことを忘れてしまう。
そう考えるだけで、目眩がした。
彼女を救いたいと思うのに、彼女を救うにはこうするほかないというのに。
最後の一歩が踏み出せない。
89 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/15(土) 20:20:23.91 ID:HvQspYQo
「くそ……一体俺はどうすりゃいいンだ!」
さまざまな感情が自分の中でぶつかり合い、せめぎ合う。
いっそこれは夢なんじゃないかと思いたくなるほど、目の前の現実が苦しかった。
そっと、目の前で眠る打ち止めをみる、安らかな寝顔。
まるで自分にすべてを許し、信頼しているように、その寝顔は穏やかだった。
もし、記憶を失ってしまったら。
もし自分との思い出を忘れてしまったら。
もう二度と彼女が自分を見てくれないような気がして。
かけがえのない彼女が、離れていってしまうような気がして……。
「一方通行……」
ふいに、打ち止めが呟く。
起きてしまったか、と、とっさに手に持った携帯端末を布団の下に隠す。
「うぅん……」
しかし、打ち止めは起き上がるところか瞼を開く気配もない、どうやらただの寝言だったようだ。
ほっと胸をなでおろし、携帯端末を再び取り出し、その画面を見ていると。
また、打ち止めが眠ったまま小さく呟いた。
90 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/15(土) 20:24:34.25 ID:HvQspYQo
「一方通行……」
小さく、そしてやさしく囁くように呟く。
「信じています……ずっと、一緒です……よ……」
その言葉が、一方通行の胸に突き刺さった。
そして、いつまでうじうじしているつもりだと、自分の心の弱さを責める。
「そうだよなァ……そうだ、なにも迷うことなンてねェンだ」
携帯端末の電源を入れる。
画面に大量のデータコードが映し出される。
「たとえ記憶がなくなろうが、俺のことを忘れようが関係ねェ」
常人には理解できないそれを、一方通行は一気に読み取る。
最後の一文字まですべてを頭にいれ、再び電源を切る。
「お前は俺を信じてるってェのに、俺は何を心配してンだァ」
そっと、自分の傍らで眠る打ち止めの額に手を触れる。
暖かい感触が、少女の息遣いが指先から伝わる。
「たとえすべてを忘れようと。お前が俺のことを拒否しようとかンけェねェ」
学園都市第1位「一方通行」のすべての能力を今、彼女のために使う。
91 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/15(土) 20:30:02.65 ID:HvQspYQo
「おまえがまた笑ってくれるなら、お前さえ笑ってくれりゃあ、俺はそれで十分だァ」
脳内で、回路が焼ききれるかと思うほど莫大な量の演算を開始する。
――ひとつ、またひとつと彼女の記憶がかき消されていく。
それでもとめるわけには行かない。
彼女を、一方通行の大切な人、打ち止め救うために。
「あばよォ打ち止めァ、みじけェ間だったが、楽しかったぜェ?」
最後にそう言い残し、彼は演算に集中するべく、言葉を絶った。
――ひとつ、またひとつと、かけがえのない思い出が白く塗りつぶされていく。
92 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/15(土) 20:35:19.99 ID:HvQspYQo
病院の中庭に、一人の少年が立っていた。
少年はどこまでも白く澄んでいて、そのまま向こう側が見えるのでは無いかと錯覚するほどに透き通っていて、、
やわらかな朝の日差しを浴びて、朝の白い世界に溶け込んでいた。
彼の透き通った赤い瞳が見つめる先に、一人の少女がいた。
その少女の体は小柄で、華奢で、それは少年がほんの少し手を触れれば壊れてしまいそうなほどだ。
朝日のやさしい光をあびた茶色い髪はきらきらときらめき、
頭頂部から跳ねたクセ毛は、彼女の一挙一動。それこそくすくすと小さく笑う微かな揺れにも反応して、
まるで意思を持っているかのように揺れ動く。
その瞳には未来を見据える少年のような明るく力強い光が宿っている。
彼女は、姉妹かと思うほどよく似た顔をした少女と、カエル顔をした医者と共に、
朝の澄んだ空気の中、中庭を散歩しているようだ。
その表情は、とても楽しそうだった。
特徴的ながらも明るく素直な口調ではしゃぐその表情は、偽りのない感情に溢れていた。
93 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/15(土) 20:40:34.07 ID:HvQspYQo
白い少年はその姿を遠くから見守る。
何度か彼女達に声をかけようかというそぶりを見せながらも。
しかしその足は石像のように固まって動かない。
遠くから楽しそうな少女達を見る。
その表情は、とてもおだやかでやさしくて、しかし朝の冷えた空気に溶け込んでしまいそうなほど
儚さと切なさに満ちていた。
不意に、少女が少年のほうを振り向いた。
頭頂部のクセ毛が、その動きに合わせてピョンと跳ねる。
少女は一瞬、ハッと驚いたような顔をしたあと、
とてもおだやかで、まるで朝の日の光のように暖かい笑みを浮かべる。
少女はそのまま少年の方へ駆けてくる。
あからさまに視線を向けすぎて怪しまれたか、と少年は予想外の自体にどう反応すれば良いのか戸惑う。
とにかく、少しでも怪しまれないように、感づかれることの無いように、その焦りを少女に悟られぬように、表情を偽りの笑顔で塗り固める。
その時――
94 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/15(土) 20:45:09.74 ID:HvQspYQo
「ただいま! 一方通行!!」
目の前まできた少女がその名を呼んだ。
もう二度と呼ばれることはないだろうと思っていた少年の名を。
笑顔に塗り固めた表情ががらがらと音を立てて崩れる。
その顔は、戸惑いの色に染まっていた。
「なにをそんなに驚いてるの? ってミサカはミサカは間抜け顔のあなたに聞いてみる」
少女は戸惑う少年の白い手を小さくやわらかいその両手で優しく握ると、
心の底からの、偽りのない純粋な笑顔を浮かべ、戸惑う少年にやさしく囁く。
「――ずっと一緒だよって言ったでしょ?」
95 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/15(土) 20:57:39.29 ID:HvQspYQo
朝の中庭、白く霞んだ世界を一人の少年と少女が歩いている。
その光景はとても暖かく、美しい。
そんな二人を窓から眺め、電話をする医者がいた。
「君からもらった人格データだけどね?何か特別な仕掛けでもしてあったのかな?」
医者は受話器の向こうの相手に向かって、ひょうひょうとした口調でたずねる。
『そんなことないわ、何の変哲もない、ただの上位固体用の人格データよ』
受話器から聞こえる声は、落ち着いた、若い女性のものであった。
「ふむ、それじゃあこれも、あの少年の言っていたこころっていうのが関係しているんだろうかねぇ?」
『さぁ、よく分からないけれど、人は時にそれを奇跡と呼ぶそうよ?』
受話器からクスクスと小さく笑う声が聞こえる。
「奇跡、かい? ふむ……まぁしかし、それにしてもなぜ君は僕に人格データを渡してくれたのかな?」
『さぁ、どうしてかしらね? これも奇跡というものかもしれないわよ?』
「そうかい? それじゃあこの奇跡は君の優しさが起こした奇跡ということかな?」
女は医者の問いかけに対して、やわらかく、少し切ない調子で答える。
『私が優しい? 違うわ、私は優しくなんてない……
これはただの甘え、あの子から目を離し、苦しませてしまった自分に対する甘えよ』
女はもう一度、クスリと小さく笑って続ける。
『私は甘いのよ、それは優しさなんかじゃないわ。本当の優しさというのは――』
96 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/15(土) 21:05:59.06 ID:HvQspYQo
朝日が二人をやさしく包んでいた。
二人は手をつなぎ、病院の中庭を歩いていた。
「しっかし、ずいぶンとやかましくなりやがったもンだなァ?」
「むぅ、やかましいとは失礼な、ってミサカはミサカは頬っぺたを膨らましてみる」
「それにィ、ころっころ表情も変わるようになりやがった」
「うー、もしかしてテンションの高いミサカは嫌いなのかな? ってミサカはミサカは
もしかしたらあなたに嫌われたのかと心配になってみたり」
「ばーかァ、前までがガキにしちゃあ大人しすぎただけだろォ。大体ガキってのはギャーギャーと五月蝿いもンなンだよォ」
「ほんとに?ほんとにミサカを嫌いになったりしない? ってミサカはミサカは――」
「ほンっとにしつけェなァオイ、俺はこの程度で態度変わるほど薄情なやつじゃねェよ。
……だからてめェはそンなつまンねェこと気にしてねェで――」
「――ガキはガキらしく、素直に笑ってりゃいいンだよ」
一人の少年と一人の少女がいた。
二人の心はどこまでも澄んできて、二人を包む空気までもが輝いて見えた。
二人は笑う、お互いの心を許し、支えあい、触れ合う。
笑顔が自然とこぼれてしまう。そんな暖かさが二人の間に満ち溢れていた。
少年と少女は手を繋ぎ、明日へ向けて歩き出す。
たとえ過去がつらくても、たとえ向かう先の未来に闇が潜んでいても。
その笑顔は変わることなく輝き続ける。
その輝きは、すべての悲しみを、優しく包み込み、すべての苦しみを乗り越えてきた。
二人を繋ぐその両手に、やさしくきらめく優しさが確かにあった。
97 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/15(土) 21:09:45.36 ID:HvQspYQo
とりあえずここで一つお仕舞いです。
果たして何人もいるかわからないですが
最後まで見てくれた方はありがとうございました。
なんのこともなく一方さんへの愛がとまらなくて書き始めてしまったけど
とりあえずカタチに出来てよかった!
続きもただいま絶賛執筆中なんで、近いうちに完成させようと思います!
でも、無理そうなときにはhtml依頼だしてきます……orz
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No title
神すぐる・・・
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