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唯「とりあえず、生徒会長ってのに立候補してみました!」

1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/16(日) 14:23:10.54 ID:ySZFhP0z0 [1/60]
和「へ?」

唯「あっ、信じてないね。
  曽我部生徒会長の出馬承認書もあるんだから」ぴらり

和「なっ……ほんとに立候補したの!?
  遊びじゃないのよ、生徒会は!」

2 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/16(日) 14:27:01.54 ID:ySZFhP0z0 [2/60]
唯「む、酷いな~和ちゃん……
  ちゃんと真面目にやるよお」

和「唯に会長なんて務まるわけないでしょう」

律「いや~、私たちもそう思ったんだけどな」

澪「なんか唯も真剣みたいだし、
  やってみればいいんじゃないかな、って」

紬「いい経験になると思うし」

和「……いい経験って、
  生徒会長はそんな軽い気分でやるもんじゃないわよ?」

唯「軽い気分じゃないよ、
  真面目にやるって言ってるじゃん」

3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/16(日) 14:31:10.46 ID:ySZFhP0z0
和「唯がいくら真面目になっても、
  個人の能力には限界があるわ。
  真面目なだけじゃ生徒会長は出来ないのよ」

唯「む~……大丈夫だよ」

澪「あ、そういえば和も会長に立候補したんだっけ」

和「ええ、そうよ」

唯「そうなんだ、じゃあ和ちゃんは私のライバルだね!」

和「ライバル、ねえ」

澪「和が相手じゃ厳しいかもな、唯」

唯「大丈夫だよ、私、和ちゃんに絶対勝つもん」

律「おー、その意気だ」

和「……」

5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/16(日) 14:40:28.65 ID:ySZFhP0z0
生徒会室。

和「会長、唯が立候補したって本当ですか?」

恵「唯……って、軽音部の平沢唯さん?
  ええ、本当よ」

和「な、なんで唯が会長に……」

恵「私も驚いたんだけどね、
  当人は真剣にやる気みたいだったわよ」

和「でも……」

恵「あら、もしかして幼馴染と戦うのが嫌なの?」

和「いえ、ただ真剣さが上辺だけのような気がして。
  戦うのは別に嫌じゃありませんよ、
  どうせ私が勝つんでしょうし……」

恵「そうかしら」

6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/16(日) 14:54:08.12 ID:ySZFhP0z0
和「え?」

恵「平沢さんといえば校内で一番の人気者、有名人じゃない。
  文化祭のライブも大好評だったしね」

和「それでミーハー層の票を集める、ってことですか」

恵「ええ」

和「そんな、タレント議員じゃあるまいし」

恵「そういう可能性も十分にあるわよ。
  あまり平沢さんを侮らないほうがいいわ」

和「はは、私が唯に負けるわけないじゃないですか。
  私は1年半、生徒会をやってきた実績と信頼があるんですから」

恵「それだけで勝てればいいけどね」

和「どういう意味です?」

恵「いや、別に……
  来週から生徒会選挙のあれこれが始まるから。
  真鍋さんも頑張ってね」

和「分かってますよ」

8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/16(日) 15:02:02.83 ID:ySZFhP0z0
翌週の月曜日。
この日は立候補者向けに説明会が行われる。

和「唯~、説明会……」

唯「あ、和ちゃーん、説明会行こ~!」

和「え、ああ、うん」

唯「そうだ、会長に立候補したの、
  私と和ちゃんだけなんだって!
  一騎打ちって奴だね」

和「そうね」

唯「あはは、絶対負けないからね~」

和「それはこちのセリフよ。
  ていうかやるからには本当に真剣にやりなさいよ?」

唯「もー、分かってるってば。
  しつこいよ和ちゃん」

和「……分かってるならいいんだけど」

11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/16(日) 15:08:44.97 ID:ySZFhP0z0
第3会議室。

恵「えーと、全員揃いましたね。
  ではこれより説明会を始めます」

会議室に集まったのは唯と和を含めて10人ほどだった。

恵「みなさんには今年の生徒会選挙に立候補するということで
  ここに集まっていただきました。
  今年は例年より立候補者が少なく、
  生徒会長以外には対立候補はいません」

唯「……」

和「……」

恵「ですから、一般役員、書記、会計、副会長に立候補したみなさんは
  不信任票を入れられることがないように、
  自らの良さを生徒の皆さんにアピールしてください」

「はーい」

恵「会長に立候補した二人は、
  お互いの持てる力を出して、正々堂々と戦ってくださいね」

唯「はいっ!」

和「はい」

13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/16(日) 15:16:19.63 ID:ySZFhP0z0
恵「では投票までの日程を説明します。
  まず明日、火曜日ですが、
  お昼休みの放送で全校生徒に立候補者の紹介を行います。
  その際に、みなさんに簡単な挨拶をしていただきますので、
  文面を考えておいてください。
  『○○に立候補した××です』程度の挨拶で構いません」

「はーい」

恵「そして水曜日から翌週の火曜日までが選挙運動の期間となります。
  この間みなさんには、朝の校門前での挨拶や、
  お昼休みに各教室を回っての演説などをおこなってもらいます」

「はーい」

恵「また明日から来週の火曜日まで毎日、
  生徒会選挙執行委員会機密諜報部の調査による、
  各立候補者の支持率が出されます。
  知りたい人は放課後に生徒会室まで来てください」

唯「支持率だって。ほんとの政治家みたい」

和「機密諜報部なんてあったのね」

15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/16(日) 15:25:13.33 ID:ySZFhP0z0
恵「そして選挙運動最終日の翌日、要するに来週の水曜日ですが、
  その日は5,6時限目に立会演説会があります。
  講堂にて全校生徒の前で演説をしてもらいます」

「はーい」

恵「これは最後にして最大のアピールの場です。
  この演説によって票が左右されると言っても過言ではありません。
  みなさん、気合を入れて臨んでください」

唯「立会演説会ってすごいんだね」

和「曽我部会長は去年の候補者の中で支持率が最低だったけど
  立会演説会で大逆転して当選したのよ」

恵「それから、立会演説会では応援演説もあります。
  友人や先輩後輩の中から
  応援演説をしてくれる人を探しておいてください」

「はーい」

恵「まあ日程はこんなものです。
  とりあえず明日の昼休みは放送室に集まってくださいね。
  じゃあ今日はこれで解散」

17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/16(日) 15:29:44.70 ID:ySZFhP0z0
――

――――

――――――

帰り道。

唯「いやー、今日の説明会で、
  なんかますますやる気出てきたよ~」

和「そう」

唯「応援演説か~、誰にやってもらおっかな~。
  澪ちゃんにしよっかな」

和「澪は全校生徒の前で話なんてできないんじゃないかしら」

唯「そっかー、じゃありっちゃんかなー。
  あ、でもムギちゃんの方が話すの上手そうだよね」

和「そうね……」

なにげない会話の中で、和は、
唯は本当に選挙に対して真剣なのか、
ただノリと遊びの延長でやっているだけではないのか……と
そんなことばかり考えていた。

19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/16(日) 15:35:06.69 ID:ySZFhP0z0
火曜日。
昼休み、候補者たちが放送室前に集まっていた。

山田「こんにちは、生徒会選挙執行委員会の山田です。
    みなさんにはこれから校内放送で生徒の皆さんに
    挨拶、というか自己紹介をしていただきます」

「はーい」

和「唯、ちゃんと文面考えてきた?」

唯「ばっちりばっちりー。
  それよりお腹すいたよ、まだお昼食べてないし」

和「もう……我慢しなさいよ」

唯「ふぇーい」

山田「じゃあもう放送始まるんで、
    一般役員の候補者は放送室の中へ」

「はーい」

20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/16(日) 15:39:34.80 ID:ySZFhP0z0
まもなく校内放送が始まった。

『桜高放送部です。
 本日は、今年の生徒会選挙の立候補したみなさんに来ていただきました。
 みなさんに一言ずつご挨拶をいただこうと思います。
 放送をお聴きのみなさんは、候補者のお名前とお声を
 しっかりと覚えてあげてくださいね。
 では最初の方、どうぞ~』

『一般役員に立候補した、1年1組の豊崎です……云々』


唯「これ全校に流れてるんだよね」

和「そうよ」

唯「へー、憂とかもちゃんと聴いてくれるのかなー」

和「……分かってると思うけど、
  ふざけた挨拶とか絶対しちゃだめだからね。絶対よ」

唯「分かってるよ、それくらい……
  私ってそんな信用ない?」

和「信用してないわけじゃないけど、心配なのよ」

唯「心配しなくていいよ」

22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/16(日) 15:45:06.40 ID:ySZFhP0z0
『副会長に立候補した、2年3組の日笠陽子です。
 一般役員として今まで生徒会に居させて頂いておりましたが、
 今期も生徒会活動をさせていただこうと思い、立候補いたしました。
 よろしくお願い致します』

山田「あ、じゃあ次。
    会長のおふたり、どうぞ」

唯「はーい」

和「はい」

山田「どっちが先にやる?」

唯「私がやります!」ふんす

和「……」

山田「じゃあ、放送室にどうぞ」

唯「じゃあいってくるよ、和ちゃん!」

和「超不安だわ」

23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/16(日) 15:54:12.59 ID:ySZFhP0z0
『はい、では次は注目の、生徒会長に立候補された方の登場です。どうぞー』

『みなさん、こんにちは。2年2組の、平沢唯です!
 私はこのたび、生徒会長に立候補しました。
 軽音部との両立は大変かもしれませんが、精一杯頑張ります!
 よろしくお願いします!』

和「意外と普通ね……心配しすぎか」

ガラッ
唯「ふー、緊張したよ」

和「ふふ、唯でも緊張することがあるのね」

唯「そりゃそうだよ」

山田「じゃあ次。真鍋さん、どうぞ」

和「はい……」

唯「がんばってー、和ちゃん」

和のかなり無難な挨拶で、
この日の校内放送は締めくくられた。

24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/16(日) 15:59:15.01 ID:ySZFhP0z0
放課後、生徒会室。

ガラッ
和「あ、会長」

恵「あら、真鍋さん。
  今日は来てもあなたの仕事はないわよ」

和「いえ、いいんです。
  放課後はここに来ないと落ち着きません」

恵「あら、そう。
  そうだ、今日の支持率調査の結果が出たわよ」

和「もう出たんですか」

恵「聞きたい?」

和「ぜひ」

恵「じゃあ発表するわね。
  『真鍋さんを支持する』の割合は……」

和「ごくり」

25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/16(日) 16:03:06.04 ID:ySZFhP0z0
恵「29%です」

和「へえ、29%……!」

まだ校内放送での挨拶しかしていないのに、
ほぼ3割の生徒が和を支持している。
普通この時点では大多数の生徒が
『まだ誰を支持するか決めていない』を選ぶはずだから
これはかなり高い数字だと言ってもいいだろう。

恵「なかなかの数字ね。
  初日で29%というのは例を見ないわ。
  やはり真鍋さんの実績に信頼がおかれているのね」

和「そのようですね、安心しました。
  この調子で行けば当選は確実ですね」

恵「……平沢さんの支持率は、知りたい?」

和「唯の支持率ですか。
  じゃあ、一応教えてください」

恵「……」

和「会長?」

恵「……47%よ」

28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/16(日) 16:10:57.09 ID:ySZFhP0z0
和「よ、47!?
  嘘でしょう、そんなの……!」

和は恵の手から支持率の書かれた紙を奪い取った。
そこには確かに恵の言った通りのことが書かれていた。

和「『真鍋和を支持する』……29%、
  『平沢唯を支持する』……47%、
  『まだ誰を支持するか決めていない』……23%、
  『誰も支持したくない』……1%……」

データを視覚化した棒グラフでも、
『平沢唯を支持する』の面積が最も大きかった。
紙に目を通した和は言葉を失ってしまった。

和「な……なんで……」

恵「侮らないほうがいい、って言ったでしょう」

和「…………唯が有名人だから、人気者だから
  初日からいきなりこれだけの支持を集めたと言うんですか」

恵「でしょうね」

和「そんな、タレント議員じゃあるまいし」

恵「そのセリフ聞くの2回目だわ」

29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/16(日) 16:18:23.70 ID:ySZFhP0z0
和「でも、こんなの……
  なんで唯なんかに、支持が……」

恵「まあ、ミーハー層が多いってことでしょうね。
  いつどこの場所でも、最も多いのはそういう人たちよ」

和「っ……」

恵「平沢さんもそれは分かってたみたいね」

和「どういうことです?」

恵「お昼の放送……平沢さんは
  自分が軽音部だということを話していたわ」

和「ああ、そういえば」

恵「軽音部といえば今一番ホットな部活よ。
  先の学園祭でのライブが記憶に残ってる人も多いでしょうし、
  放課後ティータイムのファンを自称する人も沢山いるわ。
  だから平沢唯という名は知らなくても、
  自分が軽音部だといえば生徒たちは『ああ、あの軽音部か』と、
  軽音部の人が会長に立候補するならば、と……」

和「まさか唯は全部それを見越して……」

恵「でしょうね」

31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/16(日) 16:26:19.48 ID:ySZFhP0z0
和「……」

恵「でもミーハー層っていうのは熱しやすく冷めやすいのが基本よ。
  あなたがちゃんとこれからアピールしていけば、
  生徒たちはちゃんと振り向いてくれるわ」

和「ミーハー層、ですか……
  なんかそういう無責任な人たちの票を集めても
  あんまり嬉しい気はしませんね」

恵「世の中はそういうものよ。
  大多数の無責任な人間を、責任を背負う少数の人間が導いていくの。
  あなたはそういう仕事にやりがいを感じていたんじゃないの?」

和「それはそうですが」

恵「じゃあこの生徒会に居続けるために、
  票を集める努力をしなきゃね」

和「そうですね、それは分かってます
  ……会長」

恵「?」

和「唯が勝ってしまうことはありえるでしょうか」

恵「なくはないでしょうね」

32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/16(日) 16:32:20.71 ID:ySZFhP0z0
水曜日。
この日から本格的に選挙活動が始まる。
朝、候補者たちは自らの名前が書かれたタスキを掛け、
校門の前に並び、登校してくる生徒たちに挨拶をする。

「おはようございまーす!」
「おはようございます!」

唯「おはよーございます!」

和「おはようございます……
  それにしても、唯がこんな朝早く
  遅刻せずに来るなんて驚いたわ」

唯「そんなの当然だよ、会長候補なんだから
  ……おはようございまーす!」

和「ふふ、そうね……おはようございます」

澪「お、やってるな」

律「朝早くからご苦労なこって」

唯「おー、澪ちゃんりっちゃん、おはよー」

和「おはよう」

34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/16(日) 16:37:50.37 ID:ySZFhP0z0
律「ははは、こうやって見ると、
  ほんとに唯が会長に立候補したんだって
  実感が湧いてくるな」

唯「いやー、褒めるな褒めるな」

澪「褒めてないよ」

律「そういえば、昨日帰ろうとしたら
  誰かに肩を叩かれてさあ、
  振り向こうとしたら『動くな』って言われたわけ」

唯「へえ」

律「それで『そのままの体勢で答えろ、生徒会選挙で誰を支持するか』……
  って聞かれたから、唯を支持しますって答えといた」

唯「わーい、ありがとうりっちゃん!」

澪「なんだ、その暗殺者みたいな奴……」

律「じゃあ私たちもう教室行くわ」

澪「唯も和も、頑張れよ~」

唯「はーい、応援よろしくー」

和「……」

36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/16(日) 16:45:03.63 ID:ySZFhP0z0
唯「おはよーございまあーす」

和「おはようございます……
  唯、自分の支持率、聞いた?」

唯「ああ、47%だって。
  なかなか幸先の良いスタートだよね~」

和「そうね……」

唯「和ちゃんは29%だっけ。
  もっと頑張らないと私が勝っちゃうよ!」

和「はは、分かってるわよ……」

唯「おはようございまーす」

和「おはようございます……」

唯の支持率が高いのは今だけ、
すぐに追い抜くことが出来る……
やってくる生徒たちに挨拶をしながら、
和はそう自分に言い聞かせた。

38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/16(日) 16:58:09.86 ID:ySZFhP0z0
昼休み。
候補者たちは朝と同じくタスキを掛け、
執行委員会が決めた順番通りに
教室に飛び込んで簡単な演説を行う。

ガラガラ
和「お食事中、失礼します」

和はまず自分の教室からだった。

澪「あ、和」

和「このたび生徒会長に立候補した、真鍋和です。
  改めてよろしくお願いします」

「はーい」

和「私は前期も生徒会にいて、
  そこで積んだ経験が生徒会長の仕事にも充分生かせると思います。
  みなさまの期待に添える会長になりますので、
  応援よろしくお願いします」ぺこり

「真鍋さん応援してるよー」
「がんばってー」

和「……」

39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/16(日) 17:02:45.22 ID:ySZFhP0z0
和「では失礼します」
ガチャバタン

和が廊下に出ると唯がちょうど通りかかった。

和「あら、唯」

唯「おー、和ちゃん。
  いやあ、みんなの前で喋るのって緊張するねえ」

和「何言ってんのよ、
  学園祭で部隊の上で歌ってたくせに」

唯「それとこれとは話が別だよ~。
  あ、じゃあ私、次3年1組の教室だから~」

和「ええ、じゃあね」

3年1組は曽我部恵の居る教室だ。

和「……」

41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/16(日) 17:07:51.63 ID:ySZFhP0z0
放課後、生徒会室。

ガラッ
和「会長」

恵「あら、真鍋さん。今日も来たの。
  支持率が気になる?」

和「それもあります。
  あと、昼休みに唯が教室に行ったでしょう」

恵「ええ、来たわ」

和「どんな感じでした?」

恵「ふふ、平沢さんは完全にあなたのライバルになったようね。
  まあいいわ……先に今日の支持率から言ってあげる」

和「お願いします」

恵「今日の真鍋さんの支持率は……」

和「……」

恵「32%よ」

43 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/16(日) 17:12:44.90 ID:ySZFhP0z0
和「32……」

恵「前日比+3%ね。
  そして平沢さんの支持率は」

和「ごくり」

恵「59%よ」

和「ぶーっ!!」

恵「前日比+12%なんて凄いわ。
  このままいくと来週の演説会までに単純計算で100%を超えるわね」

和「単純計算というか短絡的すぎますよ。
  でも、なんでいきなりそんなに伸びて……!?」

恵「平沢さんの昼休みの挨拶回り……
  あれが効果抜群だったんでしょうね」

和「……唯は、昼休みに何を話したんです?」

恵「特別なことは何も言わなかったわ。
  ただ真面目に話していただけよ」

和「それだけでそんなに支持を集めるわけありません」

47 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/16(日) 17:23:35.69 ID:ySZFhP0z0
恵「そうね、でもそれは真鍋さんの場合。
  真鍋さんが真面目に話したところで、
  聞き手からは当然のように思われて終わりよ。
  でも平沢さんは」

和「……ギャップってことですか」

恵「ええ。学園祭でギターを忘れた事件は
  まだ生徒たちの記憶に新しいわ。
  そのせいで『平沢さんのようなうっかり者は会長にふさわしくないのでは』
  という意識を持つ生徒たちが少なからずいたわ、
  私の周りにもね」

和「でもその意識を覆したと」

恵「でしょうね。よくあるでしょう、
  不良が更生したら昔の悪事は無かったかのように褒められる……みたいな。
  うっかり者かと思ったけど結構しっかりしてる、
  平沢さんが会長でも悪くないかも……そう思わせて、
  無支持層の支持を得たのね」

和「まさか……そんな上手くいきますか」

恵「でも数字としては」

49 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/16(日) 17:29:48.64 ID:ySZFhP0z0
和「納得いきません。
  そんな小手先のことで支持率を12%も上げるなんて……」

恵「私もそれだけが理由ではないと思ってるけどね、
  他には説明のしようがないのよ」

和「なにか裏があるに決まってます」

恵「裏って?」

和「軽音部が暗躍してるとか」

恵「本気で言ってる?」

和「あくまで仮説です」

恵「あっそう……
  でも、このままじゃ本格的にやばいわよ、真鍋さん。
  明日以降も、明確な理由は分からないだけど
  平沢さんは確実に支持率を伸ばしてくるわ。
  ミーハー層の支持だけじゃなく、
  確固たる意志で『平沢さんを会長にしよう』という人の支持を」

和「……私はどうすれば」

恵「正攻法で行くしかないわよ」

和「……」

53 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/16(日) 17:37:22.88 ID:ySZFhP0z0
木曜日。

和「……」

澪「和、なにボーッとしてるんだ?
  次体育だよ」

和「え、ああ……そうだったわね。
  ごめんね、最近ちょっと疲れてて」

澪「選挙、大変なんだな。
  唯も結構お疲れみたいだったよ」

和「唯が疲れてる、ねえ……」

澪「でもまあ、ムギのお菓子ですぐ回復してるんだけどな」

和「……まさかムギのお菓子で生徒の買収を」

澪「え、なに?」

和「ああいや、なんでもないわ」

澪「そう?」

56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/16(日) 17:42:48.44 ID:ySZFhP0z0
和「……」

澪「?」

和「……ねえ、澪はさ……
  私と唯のどっちが生徒会長にふさわしいと思う?」

澪「え、えっ!?」

和「正直に答えて。あと理由も」

澪「そ、そんなこと言われても……」

和「お願い」

澪「私はまだ……どっちを支持するかなんて決めてないよ。
  でも支持するとしたら和かな」

和「な、なんで?」

澪「そりゃあ、経験者だから信頼できるっていうか」

和「唯は信頼できない?」

澪「いや、そういうんじゃないけど」

57 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/16(日) 17:48:57.92 ID:ySZFhP0z0
和「私を支持する理由は……
  経験からくる信頼だけ?」

澪「いや、なんていうか……
  ていうかどうしたんだよ、和。
  なんかおかしいよ」

和「そ、そう……?」

澪「うん……なんか悩みでもあるの?」

和「悩みというか……
  支持率が伸び悩んでて……」

唯に負けている、とは言えなかった。

和「それで、どうやったら伸びるかなって」

澪「うーん……私には選挙のことはよく分からないけど……
  やっぱり経験をアピールしてさ、
  私に任せてくれれば安心! ……ってのを打ち出して行けば……」

和「つまりは正攻法ってこと?」

澪「……ダメ?」

和「ダメじゃないけど……」

59 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/16(日) 18:02:43.27 ID:ySZFhP0z0
正攻法はダメではない。
むしろ正攻法以外の戦い方がダメだ。
しかしこれでは支持を集めることが出来ないというのを
和は分かっていた。

『経験と実績のアピール』という正攻法は
例年ならば通用するはずだった。
恵の言う大多数のミーハー層、
要するに生徒会選挙に対して不真面目な人々は
「あー経験あるならコイツでいいや」とよく考えずに票を入れ、
逆に真面目に選挙を考える少数派も
じっくりと候補者を吟味した上で
経験と実績のあって信頼できる、という理由で投票していた。

しかし今回は例年とは事情が違う。
そう、平沢唯が立候補したのだ。
校内で一番の人気者が出馬するとなれば
大多数のミーハー層はすべて唯の方向に流れていく。
和のアピールに耳をかたむけるのは
少数の真面目層だけだ。
面白がって唯を支持するミーハーたちは
和のくそ真面目でつまらんアピールなど
端から聞く気はないのだ。



その日も唯はさらに支持率を伸ばし、
和はどうにもできないいらいらを募らせた。

68 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/16(日) 19:00:52.38 ID:ySZFhP0z0
金曜日。
放課後の生徒会室。

ガラッ
和「……」

恵「来たわね、待ってたわよ」

和「……待ってた?」

恵「ちょっと言いたいことがあって」

和「それより今日の支持率を教えてください!
  私の支持率は伸びましたか!?」

恵「ちょっと、落ち着いて……
  えーと、今日のあなたの支持率は」

和「……」

恵「25%よ」

和「なっ……なんで下がってるんですか!?」

71 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/16(日) 19:08:44.12 ID:ySZFhP0z0
恵「そりゃあ……今日の昼休みの挨拶まわりのせいでしょうね」

和「何がいけなかったんですか?
  私、今日会長の教室にもおじゃましましたよね」

恵「ええ、来たわね。
  あなたが帰ったあと友達と話したんだけど、
  みんな『印象が最悪だった、幻滅した』って言ってたわ」

和「な、なんでですか」

恵「自覚ないの?
  あなた、すごく必死だったじゃない。
  鬼気迫る形相で何度も何度も
  『よろしくお願いします、よろしくお願いします』って……
  みんな引いてたわよ」

和「必死だなんてそんな……
  私はただ自分の熱意を伝えようと」

恵「伝えるというか、ただの押し付けになってたわ。
  いつもみたいにクールにやればいいのに、
  なんであんなふうにやったのよ」

和「……」

恵「焦ってるの?」

75 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/16(日) 19:16:42.70 ID:ySZFhP0z0
和「焦ってなんか」

恵「嘘、めちゃくちゃ焦ってるじゃない。
  平沢さんに負けるのがそんなに嫌?」

和「……そういえば唯の支持率は」

恵「73%よ」

和「……」

恵「もう逆転は絶望的かも知れないわね。
  最初は面白がって平沢さんを支持していたミーハー層も、
  今では本気で平沢さんを応援してる。
  平沢さんには人を惹きつける何かがあるわね」

和「私にはない、と」

恵「ないわね」

和「あっさり言わないでください」

恵「平沢さんは生まれつき他人から愛される性質なんでしょうね。
  そこに立っているだけで、たくさんの人が集まってくる。
  そんな魅力を持ってるわ。
  あなたもそれに惹かれたから、
  10年以上も平沢さんと仲良くしてたんじゃないの?」

和「……否定はできません」

77 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/16(日) 19:25:38.94 ID:ySZFhP0z0
恵「そういう人はなるべくして人の上に立つ役職に就くわ。
  そしてその人に能力がなかったとしても
  周りの人に支えられて上手くやっていくものよ」

和「……そんなの、認めません。
  私が唯よりも上手く生徒会長をできるのは、
  みんな分かってるはずです」

恵「でしょうね。
  でも客観的に見て『誰がふさわしいか』ではなく
  『誰になって欲しいか』で選ばれるものなのよ」

和「っ……」

恵「とりあえず気持ちを落ち着けなさい。
  そんなにイライラしてちゃまた支持率が堕ちるわよ」

和「……どうやったら、唯に勝てますか」

恵「分からないわ」

和「どうやったら、私の支持率が上がりますか」

恵「支持率に踊らされすぎちゃダメよ。
  物事の本質は数字では計れないわ」

和「でも」

恵「とりあえず今日はもう帰りなさい。
  土曜日曜でしっかり気持ちを落ち着けて、また来週から頑張ればいいわ」

79 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/16(日) 19:34:02.33 ID:ySZFhP0z0
――

――――

――――――

真鍋家、和の部屋。

和(……このままじゃ確実に負ける。
  もはや正攻法は通用しない……)

和(どうにかして私の支持率を上げれば……
  でもどうやって……
  不正をしてバレれば元も子もないし……)

和(でも何もしなければ支持率は下がっていくばかり。
  私の支持者もどんどん唯の方に流れていく……
  せめて唯の支持率は頭打ちになれば……)

和(ん、唯の支持率……
  そうか、私の支持率が上がらないなら、
  唯の支持率を……)

ベッドに寝転んでいた和はいきなり起き上がり、
パソコンを立ち上げた。

88 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/16(日) 19:41:35.36 ID:ySZFhP0z0
翌週、月曜日。
校門前での挨拶活動を終えた和は
授業が始まる数分前に教室に入った。

和「おはよう、澪」

澪「え、ああ、お、おはよう和……」

和「? 何?」

澪「あ、いや、なんでもないよ」

和「そういえば今朝、校門前に唯が来てなかったんだけど、
  休みかしら」

澪「さ、さあ……」

きーんこーんかーんこーん

澪「あ、授業始まるから……」

和「ああ、うん」

「ひそひそ」
「くすくす」

和「?」

90 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/16(日) 19:47:05.44 ID:ySZFhP0z0
何だか周りがおかしい、ということに
和はなんとなく気づいた。
クラスメイト全員がくすくすと笑っていたり、
不機嫌そうな表情を浮かべたりする人もいる。
一体何があったのだろうか、と和は考えたが
すぐに教師が来て授業が始まったので、
意識はそっちに移った。

1時限目の授業が終わると、
恵が和のもとにやってきた。

ガラッ
恵「ちょっと、真鍋さん、真鍋さん……」

和「あ、会長。
  どうしたんですか?」

恵「いいからちょっと来なさい、廊下に」

和「はあ」

「くすくす」
「ひそひそ」

「?」

93 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/16(日) 19:57:17.84 ID:ySZFhP0z0
廊下。

和「で、なんですか?」

恵「……校内中の噂になってるんだけど」

和「何がです?」

恵「あなたが土曜と日曜に、
  桜高の裏サイトの掲示板や生徒のミクシイ、モバゲー等のアカウントに
  平沢さんを貶める内容のコピペを大量に貼り付けたって。
  あとはそのコピペと同じ文面でのチェーンメール」

和「誰がそんなこと言ってるんです?」

恵「校内のみんなよ。
  あなた、やったの?」

和「やるわけないじゃないですか」

恵「正直に言いなさい」

和「やってません」

恵「あなた以外に考えられないんだけど」

98 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/16(日) 20:00:56.10 ID:ySZFhP0z0
和「なんで私がそんなことしなくちゃいけないんです?」

恵「平沢さんの評判を落とすためでしょ?」

和「私がそんなセコイことするワケないじゃないですか」

恵「なんか追い詰められてる感じだったから、
  やってもおかしくはないと思うわ」

和「そんな推定だけで人を犯人扱いしないでください」

恵「……本当にやってないのね?」

和「やってません」

恵「ここに機密諜報部の調査結果があるんだけど」

和「えっ」

恵「掲示板やミクシイへの書き込みの全てが
  あなたの家のパソコンからのものと確認されたわ」

和「……」

恵「やったの?」

和「やりました」

111 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/16(日) 20:09:04.25 ID:ySZFhP0z0
恵「はあー……
  もう呆れて言葉も出ないわ」

和「でもっ……でも、仕方ないじゃないですか!
  こうする以外に方法が思いつかなかったんです、
  唯の支持率を下げて、それで……」

恵「あなたは馬鹿なの?
  こんなことで人の支持率が下がるワケないでしょう。
  大体この件で下がるのは、どう考えてもあなたの支持率よ」

和「じゃあ他にどうしろって言うんですか!
  唯に勝つにはもう正攻法じゃダメなんです!
  もうこういう卑怯な手を使ってでも……!」

恵「いいかげんにしなさい!!」

和の頬に平手打ちが炸裂した。

和「っ!」

恵「あなたは自分を見失っているわ。
  そんな手を使って当選して、嬉しいの?
  大事な友人を傷つけても?
  あなたがそんなふうなら、私はもうあなたの応援はしないわよ」

和「……」

122 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/16(日) 20:17:38.03 ID:ySZFhP0z0
恵「そんなに必死になって、
  みんなからの支持を得られると思う?
  そんなあなたに誰がついてくるのよ」

和「……」

恵「あなたの気持ちはわからなくもないけど、
  真面目に、誠実に、正攻法でやるしかないのよ」

和「でも……それじゃ勝てません」

恵「なぜそんなに勝ちにこだわるのよ。
  あなた、そんなに生徒会長をやりたいの?
  それとも……ただ平沢さんに負けたくないだけ?」

和「……」

恵「幼馴染で、いつも一緒にいた平沢さんに負けることが怖いの?」

和「……そんなことありません!」

恵「そう、それならいいんだけど。
  じゃあ、もうこんな卑怯な真似は二度としないようにね」

128 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/16(日) 20:22:08.56 ID:ySZFhP0z0
和「分かってます。
  ……会長」

恵「なに」

和「明後日の応援演説……
  お願いしますね」

恵「ええ、合点承知の介よ」

和が突っ込むべきかどうか迷っていると
廊下の向こうで黄色い声が聞こえた。

和「? なんでしょうか」

恵「平沢さんが来たみたいね」

和「唯……」

恵「どうする? 謝りにいく?」

和「……」

131 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/16(日) 20:25:32.40 ID:ySZFhP0z0
「あっ、平沢さん!」
「平沢さんおはよー! もう大丈夫なの?」
「ヒドイことする人もいたもんだね」
「誰がやったかは分からないけどね、誰がやったかは!」
「私、平沢さんのこと応援してるからね!」

唯「ありがと~、みんな~。私、頑張るから」

きゃーきゃーわーわー




和「……」

恵「今の彼女は悲劇のヒロインね。
  多分さらに支持率を伸ばすでしょう」

和「そうですね……
  私の支持率が下がって、
  そのぶん唯に行きますね」

恵「それについては完全にあなたの自業自得ね。
  まあ残り2日間、せいぜい正々堂々と頑張りなさい」

和「はい」

141 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/16(日) 20:40:24.64 ID:ySZFhP0z0
それから2日間。
和は普段の落ち着きを取り戻し、
冷静に選挙運動に臨んだ。
コピペ爆撃の件で和の支持率は急落し
ついに2%になってしまったが
それでも和はもう自暴自棄になることはなかった。

和(唯は選挙のことを真剣に考えてないと思ってた。
  でも本当に選挙に対して真剣でなかったのは私のほうだったわ。
  唯に負けたくないという気持ちが先走るあまり、
  あんな卑怯な手段に出てしまった……)

唯に負けたくない……
ただ自分が負けず嫌いだからそう考えているのだと
和は思っていた。

和(でもそれは違った。
  私はただ、唯に追い抜かれることが怖かったんだ)

いつも自分と一緒にいた唯。
和はいつも唯の上に立っていた。
唯の面倒を見て、唯を導く、
そういうことに自分の居場所を見出していた。
しかし今、和は初めて唯に上を行かれそうになっている。
今まであった居場所を失いそうになっている。
それを恐ろしく感じていたのだ。

そして火曜日、選挙運動最終日。
この時点で和の支持率は1%、唯の支持率は98%だった。

148 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/16(日) 20:48:01.04 ID:ySZFhP0z0
水曜日。
昼休み、候補者たちは講堂に集まって
5,6時限の立会演説会に備えていた。

恵「真鍋さん」

和「あ、会長。来てくれたんですね」

恵「そりゃ、あなたの応援演説をしなきゃいけないからね」

和「どうも」

恵「落ち着いてるわね」

和「はい」

恵「泣いても笑ってもこの立会演説会が最後の大勝負だわ。
  正攻法で、正々堂々と、全力を出し切るのよ。
  平沢さんに勝つためじゃなく、
  納得できるかたちで勝負を終えるために」

和「分かってます」

153 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/16(日) 20:59:32.42 ID:ySZFhP0z0
そして立会演説会が始まった。

山田「ではこれより立会演説会を始めます。
    司会進行は私、生徒会選挙執行部の山田尚子が努めさせていただきます。
    この立会演説会は各立候補者の5分間の演説、
    そして5分間の応援演説、5分間の質疑応答によって進められます。
    候補者及び応援者が話している最中には私語は慎み、
    真剣に耳を傾け、私たちの学校生活について~うんぬんかんぬん」

舞台の上には各候補者の名前を書いた垂れ幕、
その下にパイプ椅子が並べられて候補者たちが並んで座っている。
山田が投票上の注意事項やルールについて説明した後、
候補者の演説がスタートした。

山田「えーでは、早速候補者の演説に移りましょう。
    まず一般役員に立候補された、1年1組の豊崎愛生さん、どうぞ」

豊崎「あ、ただいまご紹介に預かりました、
    1年1組の豊崎です。
    私はこの度、一般役員に立候補させていただき……」

生徒会長は最後なので、
順番が和に回ってくるまでにまだ時間がある。
和は昨日暗記した演説の文章を
もう一度頭の中で読み返した。

159 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/16(日) 21:09:17.13 ID:ySZFhP0z0
演説会と言うのは聴く方はたいへん退屈なので
生徒たちはすっかりだらけきっていた。
しかし唯の番が回ってくると
講堂内はがぜん盛り上がった。

山田「では次は、生徒会長に立候補した、
    2年2組の平沢唯さん……」

唯「みなさん、こんにちは!
  生徒会長に立候補した平沢唯です!」

「うおー、平沢さーん!」
「待ってました!」
「応援してるよー!」
「真打ち登場!」
「頑張ってー!」

山田「みなさん、お静かに」

唯「えへへー」

和「……」

恵(さすが支持率98%……)

161 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/16(日) 21:18:23.94 ID:ySZFhP0z0
唯「えーと、私が生徒会長に立候補したのは、
  まずひとつの理由があります!
  それは部活動をもっと活気づけようということです!
  私は軽音部に入ってるんですが~云々」

和「……」

和はここで初めて、
唯が生徒会長候補として人前で話しているのを見た。
話自体は別に斬新でも何でもない
テンプレ通りの平凡な内容なのだが、
和はなぜかそれに引きつけられて、
唯から目が離せなかった。

唯「……それから、みなさんの学校生活の細かい不満なんかも、
  できるだけ聞き入れて解決していきたいと思います!
  第2校舎横にある目安箱、あれをもっと目立つとこに置いてですね……」

気づけば講堂内も静まり返っていた。
すべての生徒が、教師が、
唯の話に聞き入っていた。

これだけ多くの人を相手に、
物怖じせず話すどころか、がっちりと心をつかんでいる。
いつの間に唯はこんな立派な人間になったのか……
和は少し胸の奥が痛むのを感じた。

163 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/16(日) 21:25:11.38 ID:ySZFhP0z0
唯「私の演説は以上です!
  ご清聴ありがとうございました」

唯がお辞儀をした後、
一瞬の間を置いて拍手が沸き起こった。

山田「平沢さん、ありがとうございました。
    次は平沢さんの応援演説を、
    1年2組の中野梓さんがおこなってくれます」

梓「あ、えと……
  1年2組の、中野梓です。
  唯先ぱ……平沢先輩の応援演説をさせていただきます」

「ぱちぱちぱち」



和「梓……」

恵「後輩目線から語ることによって
  1年生に親近感を持たせる……いい手だわ」

和「支持率98%でそんな策略がいりますか」

171 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/16(日) 21:33:13.45 ID:ySZFhP0z0
梓「で、うんぬんかんぬんで、
  ぜひ唯先ぱ……平沢先輩を、生徒会長に選んでください!
  どうか清き一票をお願いします!」ぺこり

ぱちぱちぱちぱちぱち

山田「中野さん、ありがとうございました。
    では次は平沢さんへの質疑応答ですが、
    誰か質問はありますか。ありませんね。
    じゃあ、生徒会長に立候補した真鍋和さん、演説をお願いします」

和「はい」

恵(頑張るのよ……真鍋さん)

和(そうだ、これが最後だ……
  もう小手先の卑怯な手段も、必死になって票を乞うようなことも必要ない。
  ただ自分の想いをすべての生徒に真摯に語る、
  それが立候補者としての努めだ。
  たとえ勝てないと分かっていても)

唯「…………」

和「ただいまご紹介に預かりました、真鍋和です――」

――

――――

――――――

175 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/16(日) 21:40:43.64 ID:ySZFhP0z0
放課後、生徒会室。

ガラッ
和「会長」

恵「あら、どうしたの?
  開票結果はまだ出てないわよ」

和「それは分かってます。
  ただお礼を言いたくて……ありがとうございました」

恵「お礼を言われるようなことをした覚えはないわ」

和「いえ、色々お世話になったので。
  この選挙中も、
  あと今までの生徒会活動の中でも」

恵「あら、そう。
  嬉しいことを言ってくれるわね」

和「ところで、開票結果はいつ分かるんですか」

恵「もうすぐ出ると思うけど、
  あなたに教えるわけにはいかないわ。
  明日の朝発表されるから、その時に見なさい」

和「はい」

183 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/16(日) 21:47:15.90 ID:ySZFhP0z0
恵「あー、でも私も今日で会長終了か」

和「今までお疲れ様でした」

恵「私個人としては、会長職はあなたに継いでほしかったんだけど……
  無理っぽいわね」

和「仕方のないことですよ。
  唯は……私が思っていたよりも、
  立派に成長していました。
  それこそ私以上に」

恵「そう。
  なら平沢さんに任せて安心かしらね」

和「でしょうね……」

恵「……」

和「あの、今日は……もう帰ります。
  さようなら」

恵「さよなら」

和「さようなら……」

188 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/16(日) 21:54:36.33 ID:ySZFhP0z0
翌日。
和はいつもより20分も早く学校に向かった。
結果は分かりきっていたが、
早く自分の目で確かめたかったのだ。

校門を入ったところには人だかりが出来ていた。
みんなの視線の先には看板が並んでいた。
生徒会の役職名と、当選した候補者の名前が
それぞれの看板に大きく書き出されていた。

中でも新生徒会長の名前が書かれた看板の前には
特に多くの人が集まっていた。
和のその人だかりの中に入っていく。

澪「あっ、和」

和「澪……結果見た?」

澪「うん」

澪はバツの悪そうな顔で頷いた。
集まっていた人々は和がいることを知ると
さっと左右に分かれた。
和の目に看板にかかれた名前が飛び込んできた。

198 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/16(日) 22:05:21.49 ID:ySZFhP0z0
予想通りそこに書かれていたのは和の名前ではなかった。

和「……」

澪「ざ、残念だったな、和……」

和「ええ……
  でも全力を出したから悔いはないわ」

唯に負けた。
これは和にとって初めてのことだった。
唯はいつでも和のあとをついてきて、
和がいなければ何もできないような子だった。
しかしそれは和の思い込みだった。
唯はもう一人で生きて行けるようになっていたのだ。

和「……」

唯自身はそれを自覚しているのだろうか。
和を追い抜いたことを、
もう自分ひとりで大丈夫だということを。
これからの唯は、もう和に頼ったり
相談したりすることも……

和(あ……
  そうか、唯は最初から全部そのつもりで……)

211 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/16(日) 22:17:06.88 ID:ySZFhP0z0
思えば最初からおかしかった。
何をするにしても和に頼りきりだった唯が、
和に言われなければ何もやろうとしなかった唯が、
一言も和に相談することなく生徒会長に立候補したのだ。

唯はもう和に頼らずとも生きていけるということを
自分でもなんとなく分かっていた。
だから和を追い抜くことによって、
それを証明しようとしたのだ。
そして唯は見事成功した。
和以上に全校生徒の期待を背負い、
和以上に熱い信頼を寄せられ、
和を蹴落として生徒会長の座についた。

和(唯は私のもとから羽ばたいていった。
  じゃあ……残された私はどうすればいいの、唯……)

呆然と立ち尽くす和の耳に、
唯の声が聞こえてきた。
和は唯に見つからないよう、
人ごみにまぎれて逃げるように校舎の中に消えていった。


     お       わ       り




212 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/16(日) 22:17:46.93 ID:ySZFhP0z0 [59/60]
これでおしまい

こういう和ちゃんもいいよね
じゃあオナニーして寝る

240 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/16(日) 22:51:32.14 ID:naLPDXmeP
>>34の伏線みたいなものはどうした

254 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/16(日) 23:07:26.24 ID:ySZFhP0z0 [60/60]
>>240
>>34に出てたのは機密諜報部の支持率調査隊でござる

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