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唯「とりあえず、生徒会長ってのに立候補してみました!」
1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/16(日) 14:23:10.54 ID:ySZFhP0z0 [1/60]
和「へ?」
唯「あっ、信じてないね。
曽我部生徒会長の出馬承認書もあるんだから」ぴらり
和「なっ……ほんとに立候補したの!?
遊びじゃないのよ、生徒会は!」
和「へ?」
唯「あっ、信じてないね。
曽我部生徒会長の出馬承認書もあるんだから」ぴらり
和「なっ……ほんとに立候補したの!?
遊びじゃないのよ、生徒会は!」
2 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/16(日) 14:27:01.54 ID:ySZFhP0z0 [2/60]
唯「む、酷いな~和ちゃん……
ちゃんと真面目にやるよお」
和「唯に会長なんて務まるわけないでしょう」
律「いや~、私たちもそう思ったんだけどな」
澪「なんか唯も真剣みたいだし、
やってみればいいんじゃないかな、って」
紬「いい経験になると思うし」
和「……いい経験って、
生徒会長はそんな軽い気分でやるもんじゃないわよ?」
唯「軽い気分じゃないよ、
真面目にやるって言ってるじゃん」
3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/16(日) 14:31:10.46 ID:ySZFhP0z0
和「唯がいくら真面目になっても、
個人の能力には限界があるわ。
真面目なだけじゃ生徒会長は出来ないのよ」
唯「む~……大丈夫だよ」
澪「あ、そういえば和も会長に立候補したんだっけ」
和「ええ、そうよ」
唯「そうなんだ、じゃあ和ちゃんは私のライバルだね!」
和「ライバル、ねえ」
澪「和が相手じゃ厳しいかもな、唯」
唯「大丈夫だよ、私、和ちゃんに絶対勝つもん」
律「おー、その意気だ」
和「……」
5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/16(日) 14:40:28.65 ID:ySZFhP0z0
生徒会室。
和「会長、唯が立候補したって本当ですか?」
恵「唯……って、軽音部の平沢唯さん?
ええ、本当よ」
和「な、なんで唯が会長に……」
恵「私も驚いたんだけどね、
当人は真剣にやる気みたいだったわよ」
和「でも……」
恵「あら、もしかして幼馴染と戦うのが嫌なの?」
和「いえ、ただ真剣さが上辺だけのような気がして。
戦うのは別に嫌じゃありませんよ、
どうせ私が勝つんでしょうし……」
恵「そうかしら」
6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/16(日) 14:54:08.12 ID:ySZFhP0z0
和「え?」
恵「平沢さんといえば校内で一番の人気者、有名人じゃない。
文化祭のライブも大好評だったしね」
和「それでミーハー層の票を集める、ってことですか」
恵「ええ」
和「そんな、タレント議員じゃあるまいし」
恵「そういう可能性も十分にあるわよ。
あまり平沢さんを侮らないほうがいいわ」
和「はは、私が唯に負けるわけないじゃないですか。
私は1年半、生徒会をやってきた実績と信頼があるんですから」
恵「それだけで勝てればいいけどね」
和「どういう意味です?」
恵「いや、別に……
来週から生徒会選挙のあれこれが始まるから。
真鍋さんも頑張ってね」
和「分かってますよ」
8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/16(日) 15:02:02.83 ID:ySZFhP0z0
翌週の月曜日。
この日は立候補者向けに説明会が行われる。
和「唯~、説明会……」
唯「あ、和ちゃーん、説明会行こ~!」
和「え、ああ、うん」
唯「そうだ、会長に立候補したの、
私と和ちゃんだけなんだって!
一騎打ちって奴だね」
和「そうね」
唯「あはは、絶対負けないからね~」
和「それはこちのセリフよ。
ていうかやるからには本当に真剣にやりなさいよ?」
唯「もー、分かってるってば。
しつこいよ和ちゃん」
和「……分かってるならいいんだけど」
11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/16(日) 15:08:44.97 ID:ySZFhP0z0
第3会議室。
恵「えーと、全員揃いましたね。
ではこれより説明会を始めます」
会議室に集まったのは唯と和を含めて10人ほどだった。
恵「みなさんには今年の生徒会選挙に立候補するということで
ここに集まっていただきました。
今年は例年より立候補者が少なく、
生徒会長以外には対立候補はいません」
唯「……」
和「……」
恵「ですから、一般役員、書記、会計、副会長に立候補したみなさんは
不信任票を入れられることがないように、
自らの良さを生徒の皆さんにアピールしてください」
「はーい」
恵「会長に立候補した二人は、
お互いの持てる力を出して、正々堂々と戦ってくださいね」
唯「はいっ!」
和「はい」
13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/16(日) 15:16:19.63 ID:ySZFhP0z0
恵「では投票までの日程を説明します。
まず明日、火曜日ですが、
お昼休みの放送で全校生徒に立候補者の紹介を行います。
その際に、みなさんに簡単な挨拶をしていただきますので、
文面を考えておいてください。
『○○に立候補した××です』程度の挨拶で構いません」
「はーい」
恵「そして水曜日から翌週の火曜日までが選挙運動の期間となります。
この間みなさんには、朝の校門前での挨拶や、
お昼休みに各教室を回っての演説などをおこなってもらいます」
「はーい」
恵「また明日から来週の火曜日まで毎日、
生徒会選挙執行委員会機密諜報部の調査による、
各立候補者の支持率が出されます。
知りたい人は放課後に生徒会室まで来てください」
唯「支持率だって。ほんとの政治家みたい」
和「機密諜報部なんてあったのね」
15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/16(日) 15:25:13.33 ID:ySZFhP0z0
恵「そして選挙運動最終日の翌日、要するに来週の水曜日ですが、
その日は5,6時限目に立会演説会があります。
講堂にて全校生徒の前で演説をしてもらいます」
「はーい」
恵「これは最後にして最大のアピールの場です。
この演説によって票が左右されると言っても過言ではありません。
みなさん、気合を入れて臨んでください」
唯「立会演説会ってすごいんだね」
和「曽我部会長は去年の候補者の中で支持率が最低だったけど
立会演説会で大逆転して当選したのよ」
恵「それから、立会演説会では応援演説もあります。
友人や先輩後輩の中から
応援演説をしてくれる人を探しておいてください」
「はーい」
恵「まあ日程はこんなものです。
とりあえず明日の昼休みは放送室に集まってくださいね。
じゃあ今日はこれで解散」
17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/16(日) 15:29:44.70 ID:ySZFhP0z0
――
――――
――――――
帰り道。
唯「いやー、今日の説明会で、
なんかますますやる気出てきたよ~」
和「そう」
唯「応援演説か~、誰にやってもらおっかな~。
澪ちゃんにしよっかな」
和「澪は全校生徒の前で話なんてできないんじゃないかしら」
唯「そっかー、じゃありっちゃんかなー。
あ、でもムギちゃんの方が話すの上手そうだよね」
和「そうね……」
なにげない会話の中で、和は、
唯は本当に選挙に対して真剣なのか、
ただノリと遊びの延長でやっているだけではないのか……と
そんなことばかり考えていた。
19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/16(日) 15:35:06.69 ID:ySZFhP0z0
火曜日。
昼休み、候補者たちが放送室前に集まっていた。
山田「こんにちは、生徒会選挙執行委員会の山田です。
みなさんにはこれから校内放送で生徒の皆さんに
挨拶、というか自己紹介をしていただきます」
「はーい」
和「唯、ちゃんと文面考えてきた?」
唯「ばっちりばっちりー。
それよりお腹すいたよ、まだお昼食べてないし」
和「もう……我慢しなさいよ」
唯「ふぇーい」
山田「じゃあもう放送始まるんで、
一般役員の候補者は放送室の中へ」
「はーい」
20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/16(日) 15:39:34.80 ID:ySZFhP0z0
まもなく校内放送が始まった。
『桜高放送部です。
本日は、今年の生徒会選挙の立候補したみなさんに来ていただきました。
みなさんに一言ずつご挨拶をいただこうと思います。
放送をお聴きのみなさんは、候補者のお名前とお声を
しっかりと覚えてあげてくださいね。
では最初の方、どうぞ~』
『一般役員に立候補した、1年1組の豊崎です……云々』
唯「これ全校に流れてるんだよね」
和「そうよ」
唯「へー、憂とかもちゃんと聴いてくれるのかなー」
和「……分かってると思うけど、
ふざけた挨拶とか絶対しちゃだめだからね。絶対よ」
唯「分かってるよ、それくらい……
私ってそんな信用ない?」
和「信用してないわけじゃないけど、心配なのよ」
唯「心配しなくていいよ」
22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/16(日) 15:45:06.40 ID:ySZFhP0z0
『副会長に立候補した、2年3組の日笠陽子です。
一般役員として今まで生徒会に居させて頂いておりましたが、
今期も生徒会活動をさせていただこうと思い、立候補いたしました。
よろしくお願い致します』
山田「あ、じゃあ次。
会長のおふたり、どうぞ」
唯「はーい」
和「はい」
山田「どっちが先にやる?」
唯「私がやります!」ふんす
和「……」
山田「じゃあ、放送室にどうぞ」
唯「じゃあいってくるよ、和ちゃん!」
和「超不安だわ」
23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/16(日) 15:54:12.59 ID:ySZFhP0z0
『はい、では次は注目の、生徒会長に立候補された方の登場です。どうぞー』
『みなさん、こんにちは。2年2組の、平沢唯です!
私はこのたび、生徒会長に立候補しました。
軽音部との両立は大変かもしれませんが、精一杯頑張ります!
よろしくお願いします!』
和「意外と普通ね……心配しすぎか」
ガラッ
唯「ふー、緊張したよ」
和「ふふ、唯でも緊張することがあるのね」
唯「そりゃそうだよ」
山田「じゃあ次。真鍋さん、どうぞ」
和「はい……」
唯「がんばってー、和ちゃん」
和のかなり無難な挨拶で、
この日の校内放送は締めくくられた。
24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/16(日) 15:59:15.01 ID:ySZFhP0z0
放課後、生徒会室。
ガラッ
和「あ、会長」
恵「あら、真鍋さん。
今日は来てもあなたの仕事はないわよ」
和「いえ、いいんです。
放課後はここに来ないと落ち着きません」
恵「あら、そう。
そうだ、今日の支持率調査の結果が出たわよ」
和「もう出たんですか」
恵「聞きたい?」
和「ぜひ」
恵「じゃあ発表するわね。
『真鍋さんを支持する』の割合は……」
和「ごくり」
25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/16(日) 16:03:06.04 ID:ySZFhP0z0
恵「29%です」
和「へえ、29%……!」
まだ校内放送での挨拶しかしていないのに、
ほぼ3割の生徒が和を支持している。
普通この時点では大多数の生徒が
『まだ誰を支持するか決めていない』を選ぶはずだから
これはかなり高い数字だと言ってもいいだろう。
恵「なかなかの数字ね。
初日で29%というのは例を見ないわ。
やはり真鍋さんの実績に信頼がおかれているのね」
和「そのようですね、安心しました。
この調子で行けば当選は確実ですね」
恵「……平沢さんの支持率は、知りたい?」
和「唯の支持率ですか。
じゃあ、一応教えてください」
恵「……」
和「会長?」
恵「……47%よ」
28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/16(日) 16:10:57.09 ID:ySZFhP0z0
和「よ、47!?
嘘でしょう、そんなの……!」
和は恵の手から支持率の書かれた紙を奪い取った。
そこには確かに恵の言った通りのことが書かれていた。
和「『真鍋和を支持する』……29%、
『平沢唯を支持する』……47%、
『まだ誰を支持するか決めていない』……23%、
『誰も支持したくない』……1%……」
データを視覚化した棒グラフでも、
『平沢唯を支持する』の面積が最も大きかった。
紙に目を通した和は言葉を失ってしまった。
和「な……なんで……」
恵「侮らないほうがいい、って言ったでしょう」
和「…………唯が有名人だから、人気者だから
初日からいきなりこれだけの支持を集めたと言うんですか」
恵「でしょうね」
和「そんな、タレント議員じゃあるまいし」
恵「そのセリフ聞くの2回目だわ」
29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/16(日) 16:18:23.70 ID:ySZFhP0z0
和「でも、こんなの……
なんで唯なんかに、支持が……」
恵「まあ、ミーハー層が多いってことでしょうね。
いつどこの場所でも、最も多いのはそういう人たちよ」
和「っ……」
恵「平沢さんもそれは分かってたみたいね」
和「どういうことです?」
恵「お昼の放送……平沢さんは
自分が軽音部だということを話していたわ」
和「ああ、そういえば」
恵「軽音部といえば今一番ホットな部活よ。
先の学園祭でのライブが記憶に残ってる人も多いでしょうし、
放課後ティータイムのファンを自称する人も沢山いるわ。
だから平沢唯という名は知らなくても、
自分が軽音部だといえば生徒たちは『ああ、あの軽音部か』と、
軽音部の人が会長に立候補するならば、と……」
和「まさか唯は全部それを見越して……」
恵「でしょうね」
31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/16(日) 16:26:19.48 ID:ySZFhP0z0
和「……」
恵「でもミーハー層っていうのは熱しやすく冷めやすいのが基本よ。
あなたがちゃんとこれからアピールしていけば、
生徒たちはちゃんと振り向いてくれるわ」
和「ミーハー層、ですか……
なんかそういう無責任な人たちの票を集めても
あんまり嬉しい気はしませんね」
恵「世の中はそういうものよ。
大多数の無責任な人間を、責任を背負う少数の人間が導いていくの。
あなたはそういう仕事にやりがいを感じていたんじゃないの?」
和「それはそうですが」
恵「じゃあこの生徒会に居続けるために、
票を集める努力をしなきゃね」
和「そうですね、それは分かってます
……会長」
恵「?」
和「唯が勝ってしまうことはありえるでしょうか」
恵「なくはないでしょうね」
32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/16(日) 16:32:20.71 ID:ySZFhP0z0
水曜日。
この日から本格的に選挙活動が始まる。
朝、候補者たちは自らの名前が書かれたタスキを掛け、
校門の前に並び、登校してくる生徒たちに挨拶をする。
「おはようございまーす!」
「おはようございます!」
唯「おはよーございます!」
和「おはようございます……
それにしても、唯がこんな朝早く
遅刻せずに来るなんて驚いたわ」
唯「そんなの当然だよ、会長候補なんだから
……おはようございまーす!」
和「ふふ、そうね……おはようございます」
澪「お、やってるな」
律「朝早くからご苦労なこって」
唯「おー、澪ちゃんりっちゃん、おはよー」
和「おはよう」
34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/16(日) 16:37:50.37 ID:ySZFhP0z0
律「ははは、こうやって見ると、
ほんとに唯が会長に立候補したんだって
実感が湧いてくるな」
唯「いやー、褒めるな褒めるな」
澪「褒めてないよ」
律「そういえば、昨日帰ろうとしたら
誰かに肩を叩かれてさあ、
振り向こうとしたら『動くな』って言われたわけ」
唯「へえ」
律「それで『そのままの体勢で答えろ、生徒会選挙で誰を支持するか』……
って聞かれたから、唯を支持しますって答えといた」
唯「わーい、ありがとうりっちゃん!」
澪「なんだ、その暗殺者みたいな奴……」
律「じゃあ私たちもう教室行くわ」
澪「唯も和も、頑張れよ~」
唯「はーい、応援よろしくー」
和「……」
36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/16(日) 16:45:03.63 ID:ySZFhP0z0
唯「おはよーございまあーす」
和「おはようございます……
唯、自分の支持率、聞いた?」
唯「ああ、47%だって。
なかなか幸先の良いスタートだよね~」
和「そうね……」
唯「和ちゃんは29%だっけ。
もっと頑張らないと私が勝っちゃうよ!」
和「はは、分かってるわよ……」
唯「おはようございまーす」
和「おはようございます……」
唯の支持率が高いのは今だけ、
すぐに追い抜くことが出来る……
やってくる生徒たちに挨拶をしながら、
和はそう自分に言い聞かせた。
38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/16(日) 16:58:09.86 ID:ySZFhP0z0
昼休み。
候補者たちは朝と同じくタスキを掛け、
執行委員会が決めた順番通りに
教室に飛び込んで簡単な演説を行う。
ガラガラ
和「お食事中、失礼します」
和はまず自分の教室からだった。
澪「あ、和」
和「このたび生徒会長に立候補した、真鍋和です。
改めてよろしくお願いします」
「はーい」
和「私は前期も生徒会にいて、
そこで積んだ経験が生徒会長の仕事にも充分生かせると思います。
みなさまの期待に添える会長になりますので、
応援よろしくお願いします」ぺこり
「真鍋さん応援してるよー」
「がんばってー」
和「……」
39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/16(日) 17:02:45.22 ID:ySZFhP0z0
和「では失礼します」
ガチャバタン
和が廊下に出ると唯がちょうど通りかかった。
和「あら、唯」
唯「おー、和ちゃん。
いやあ、みんなの前で喋るのって緊張するねえ」
和「何言ってんのよ、
学園祭で部隊の上で歌ってたくせに」
唯「それとこれとは話が別だよ~。
あ、じゃあ私、次3年1組の教室だから~」
和「ええ、じゃあね」
3年1組は曽我部恵の居る教室だ。
和「……」
41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/16(日) 17:07:51.63 ID:ySZFhP0z0
放課後、生徒会室。
ガラッ
和「会長」
恵「あら、真鍋さん。今日も来たの。
支持率が気になる?」
和「それもあります。
あと、昼休みに唯が教室に行ったでしょう」
恵「ええ、来たわ」
和「どんな感じでした?」
恵「ふふ、平沢さんは完全にあなたのライバルになったようね。
まあいいわ……先に今日の支持率から言ってあげる」
和「お願いします」
恵「今日の真鍋さんの支持率は……」
和「……」
恵「32%よ」
43 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/16(日) 17:12:44.90 ID:ySZFhP0z0
和「32……」
恵「前日比+3%ね。
そして平沢さんの支持率は」
和「ごくり」
恵「59%よ」
和「ぶーっ!!」
恵「前日比+12%なんて凄いわ。
このままいくと来週の演説会までに単純計算で100%を超えるわね」
和「単純計算というか短絡的すぎますよ。
でも、なんでいきなりそんなに伸びて……!?」
恵「平沢さんの昼休みの挨拶回り……
あれが効果抜群だったんでしょうね」
和「……唯は、昼休みに何を話したんです?」
恵「特別なことは何も言わなかったわ。
ただ真面目に話していただけよ」
和「それだけでそんなに支持を集めるわけありません」
47 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/16(日) 17:23:35.69 ID:ySZFhP0z0
恵「そうね、でもそれは真鍋さんの場合。
真鍋さんが真面目に話したところで、
聞き手からは当然のように思われて終わりよ。
でも平沢さんは」
和「……ギャップってことですか」
恵「ええ。学園祭でギターを忘れた事件は
まだ生徒たちの記憶に新しいわ。
そのせいで『平沢さんのようなうっかり者は会長にふさわしくないのでは』
という意識を持つ生徒たちが少なからずいたわ、
私の周りにもね」
和「でもその意識を覆したと」
恵「でしょうね。よくあるでしょう、
不良が更生したら昔の悪事は無かったかのように褒められる……みたいな。
うっかり者かと思ったけど結構しっかりしてる、
平沢さんが会長でも悪くないかも……そう思わせて、
無支持層の支持を得たのね」
和「まさか……そんな上手くいきますか」
恵「でも数字としては」
49 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/16(日) 17:29:48.64 ID:ySZFhP0z0
和「納得いきません。
そんな小手先のことで支持率を12%も上げるなんて……」
恵「私もそれだけが理由ではないと思ってるけどね、
他には説明のしようがないのよ」
和「なにか裏があるに決まってます」
恵「裏って?」
和「軽音部が暗躍してるとか」
恵「本気で言ってる?」
和「あくまで仮説です」
恵「あっそう……
でも、このままじゃ本格的にやばいわよ、真鍋さん。
明日以降も、明確な理由は分からないだけど
平沢さんは確実に支持率を伸ばしてくるわ。
ミーハー層の支持だけじゃなく、
確固たる意志で『平沢さんを会長にしよう』という人の支持を」
和「……私はどうすれば」
恵「正攻法で行くしかないわよ」
和「……」
53 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/16(日) 17:37:22.88 ID:ySZFhP0z0
木曜日。
和「……」
澪「和、なにボーッとしてるんだ?
次体育だよ」
和「え、ああ……そうだったわね。
ごめんね、最近ちょっと疲れてて」
澪「選挙、大変なんだな。
唯も結構お疲れみたいだったよ」
和「唯が疲れてる、ねえ……」
澪「でもまあ、ムギのお菓子ですぐ回復してるんだけどな」
和「……まさかムギのお菓子で生徒の買収を」
澪「え、なに?」
和「ああいや、なんでもないわ」
澪「そう?」
56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/16(日) 17:42:48.44 ID:ySZFhP0z0
和「……」
澪「?」
和「……ねえ、澪はさ……
私と唯のどっちが生徒会長にふさわしいと思う?」
澪「え、えっ!?」
和「正直に答えて。あと理由も」
澪「そ、そんなこと言われても……」
和「お願い」
澪「私はまだ……どっちを支持するかなんて決めてないよ。
でも支持するとしたら和かな」
和「な、なんで?」
澪「そりゃあ、経験者だから信頼できるっていうか」
和「唯は信頼できない?」
澪「いや、そういうんじゃないけど」
57 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/16(日) 17:48:57.92 ID:ySZFhP0z0
和「私を支持する理由は……
経験からくる信頼だけ?」
澪「いや、なんていうか……
ていうかどうしたんだよ、和。
なんかおかしいよ」
和「そ、そう……?」
澪「うん……なんか悩みでもあるの?」
和「悩みというか……
支持率が伸び悩んでて……」
唯に負けている、とは言えなかった。
和「それで、どうやったら伸びるかなって」
澪「うーん……私には選挙のことはよく分からないけど……
やっぱり経験をアピールしてさ、
私に任せてくれれば安心! ……ってのを打ち出して行けば……」
和「つまりは正攻法ってこと?」
澪「……ダメ?」
和「ダメじゃないけど……」
59 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/16(日) 18:02:43.27 ID:ySZFhP0z0
正攻法はダメではない。
むしろ正攻法以外の戦い方がダメだ。
しかしこれでは支持を集めることが出来ないというのを
和は分かっていた。
『経験と実績のアピール』という正攻法は
例年ならば通用するはずだった。
恵の言う大多数のミーハー層、
要するに生徒会選挙に対して不真面目な人々は
「あー経験あるならコイツでいいや」とよく考えずに票を入れ、
逆に真面目に選挙を考える少数派も
じっくりと候補者を吟味した上で
経験と実績のあって信頼できる、という理由で投票していた。
しかし今回は例年とは事情が違う。
そう、平沢唯が立候補したのだ。
校内で一番の人気者が出馬するとなれば
大多数のミーハー層はすべて唯の方向に流れていく。
和のアピールに耳をかたむけるのは
少数の真面目層だけだ。
面白がって唯を支持するミーハーたちは
和のくそ真面目でつまらんアピールなど
端から聞く気はないのだ。
その日も唯はさらに支持率を伸ばし、
和はどうにもできないいらいらを募らせた。
68 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/16(日) 19:00:52.38 ID:ySZFhP0z0
金曜日。
放課後の生徒会室。
ガラッ
和「……」
恵「来たわね、待ってたわよ」
和「……待ってた?」
恵「ちょっと言いたいことがあって」
和「それより今日の支持率を教えてください!
私の支持率は伸びましたか!?」
恵「ちょっと、落ち着いて……
えーと、今日のあなたの支持率は」
和「……」
恵「25%よ」
和「なっ……なんで下がってるんですか!?」
71 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/16(日) 19:08:44.12 ID:ySZFhP0z0
恵「そりゃあ……今日の昼休みの挨拶まわりのせいでしょうね」
和「何がいけなかったんですか?
私、今日会長の教室にもおじゃましましたよね」
恵「ええ、来たわね。
あなたが帰ったあと友達と話したんだけど、
みんな『印象が最悪だった、幻滅した』って言ってたわ」
和「な、なんでですか」
恵「自覚ないの?
あなた、すごく必死だったじゃない。
鬼気迫る形相で何度も何度も
『よろしくお願いします、よろしくお願いします』って……
みんな引いてたわよ」
和「必死だなんてそんな……
私はただ自分の熱意を伝えようと」
恵「伝えるというか、ただの押し付けになってたわ。
いつもみたいにクールにやればいいのに、
なんであんなふうにやったのよ」
和「……」
恵「焦ってるの?」
75 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/16(日) 19:16:42.70 ID:ySZFhP0z0
和「焦ってなんか」
恵「嘘、めちゃくちゃ焦ってるじゃない。
平沢さんに負けるのがそんなに嫌?」
和「……そういえば唯の支持率は」
恵「73%よ」
和「……」
恵「もう逆転は絶望的かも知れないわね。
最初は面白がって平沢さんを支持していたミーハー層も、
今では本気で平沢さんを応援してる。
平沢さんには人を惹きつける何かがあるわね」
和「私にはない、と」
恵「ないわね」
和「あっさり言わないでください」
恵「平沢さんは生まれつき他人から愛される性質なんでしょうね。
そこに立っているだけで、たくさんの人が集まってくる。
そんな魅力を持ってるわ。
あなたもそれに惹かれたから、
10年以上も平沢さんと仲良くしてたんじゃないの?」
和「……否定はできません」
77 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/16(日) 19:25:38.94 ID:ySZFhP0z0
恵「そういう人はなるべくして人の上に立つ役職に就くわ。
そしてその人に能力がなかったとしても
周りの人に支えられて上手くやっていくものよ」
和「……そんなの、認めません。
私が唯よりも上手く生徒会長をできるのは、
みんな分かってるはずです」
恵「でしょうね。
でも客観的に見て『誰がふさわしいか』ではなく
『誰になって欲しいか』で選ばれるものなのよ」
和「っ……」
恵「とりあえず気持ちを落ち着けなさい。
そんなにイライラしてちゃまた支持率が堕ちるわよ」
和「……どうやったら、唯に勝てますか」
恵「分からないわ」
和「どうやったら、私の支持率が上がりますか」
恵「支持率に踊らされすぎちゃダメよ。
物事の本質は数字では計れないわ」
和「でも」
恵「とりあえず今日はもう帰りなさい。
土曜日曜でしっかり気持ちを落ち着けて、また来週から頑張ればいいわ」
79 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/16(日) 19:34:02.33 ID:ySZFhP0z0
――
――――
――――――
真鍋家、和の部屋。
和(……このままじゃ確実に負ける。
もはや正攻法は通用しない……)
和(どうにかして私の支持率を上げれば……
でもどうやって……
不正をしてバレれば元も子もないし……)
和(でも何もしなければ支持率は下がっていくばかり。
私の支持者もどんどん唯の方に流れていく……
せめて唯の支持率は頭打ちになれば……)
和(ん、唯の支持率……
そうか、私の支持率が上がらないなら、
唯の支持率を……)
ベッドに寝転んでいた和はいきなり起き上がり、
パソコンを立ち上げた。
88 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/16(日) 19:41:35.36 ID:ySZFhP0z0
翌週、月曜日。
校門前での挨拶活動を終えた和は
授業が始まる数分前に教室に入った。
和「おはよう、澪」
澪「え、ああ、お、おはよう和……」
和「? 何?」
澪「あ、いや、なんでもないよ」
和「そういえば今朝、校門前に唯が来てなかったんだけど、
休みかしら」
澪「さ、さあ……」
きーんこーんかーんこーん
澪「あ、授業始まるから……」
和「ああ、うん」
「ひそひそ」
「くすくす」
和「?」
90 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/16(日) 19:47:05.44 ID:ySZFhP0z0
何だか周りがおかしい、ということに
和はなんとなく気づいた。
クラスメイト全員がくすくすと笑っていたり、
不機嫌そうな表情を浮かべたりする人もいる。
一体何があったのだろうか、と和は考えたが
すぐに教師が来て授業が始まったので、
意識はそっちに移った。
1時限目の授業が終わると、
恵が和のもとにやってきた。
ガラッ
恵「ちょっと、真鍋さん、真鍋さん……」
和「あ、会長。
どうしたんですか?」
恵「いいからちょっと来なさい、廊下に」
和「はあ」
「くすくす」
「ひそひそ」
「?」
93 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/16(日) 19:57:17.84 ID:ySZFhP0z0
廊下。
和「で、なんですか?」
恵「……校内中の噂になってるんだけど」
和「何がです?」
恵「あなたが土曜と日曜に、
桜高の裏サイトの掲示板や生徒のミクシイ、モバゲー等のアカウントに
平沢さんを貶める内容のコピペを大量に貼り付けたって。
あとはそのコピペと同じ文面でのチェーンメール」
和「誰がそんなこと言ってるんです?」
恵「校内のみんなよ。
あなた、やったの?」
和「やるわけないじゃないですか」
恵「正直に言いなさい」
和「やってません」
恵「あなた以外に考えられないんだけど」
98 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/16(日) 20:00:56.10 ID:ySZFhP0z0
和「なんで私がそんなことしなくちゃいけないんです?」
恵「平沢さんの評判を落とすためでしょ?」
和「私がそんなセコイことするワケないじゃないですか」
恵「なんか追い詰められてる感じだったから、
やってもおかしくはないと思うわ」
和「そんな推定だけで人を犯人扱いしないでください」
恵「……本当にやってないのね?」
和「やってません」
恵「ここに機密諜報部の調査結果があるんだけど」
和「えっ」
恵「掲示板やミクシイへの書き込みの全てが
あなたの家のパソコンからのものと確認されたわ」
和「……」
恵「やったの?」
和「やりました」
111 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/16(日) 20:09:04.25 ID:ySZFhP0z0
恵「はあー……
もう呆れて言葉も出ないわ」
和「でもっ……でも、仕方ないじゃないですか!
こうする以外に方法が思いつかなかったんです、
唯の支持率を下げて、それで……」
恵「あなたは馬鹿なの?
こんなことで人の支持率が下がるワケないでしょう。
大体この件で下がるのは、どう考えてもあなたの支持率よ」
和「じゃあ他にどうしろって言うんですか!
唯に勝つにはもう正攻法じゃダメなんです!
もうこういう卑怯な手を使ってでも……!」
恵「いいかげんにしなさい!!」
和の頬に平手打ちが炸裂した。
和「っ!」
恵「あなたは自分を見失っているわ。
そんな手を使って当選して、嬉しいの?
大事な友人を傷つけても?
あなたがそんなふうなら、私はもうあなたの応援はしないわよ」
和「……」
122 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/16(日) 20:17:38.03 ID:ySZFhP0z0
恵「そんなに必死になって、
みんなからの支持を得られると思う?
そんなあなたに誰がついてくるのよ」
和「……」
恵「あなたの気持ちはわからなくもないけど、
真面目に、誠実に、正攻法でやるしかないのよ」
和「でも……それじゃ勝てません」
恵「なぜそんなに勝ちにこだわるのよ。
あなた、そんなに生徒会長をやりたいの?
それとも……ただ平沢さんに負けたくないだけ?」
和「……」
恵「幼馴染で、いつも一緒にいた平沢さんに負けることが怖いの?」
和「……そんなことありません!」
恵「そう、それならいいんだけど。
じゃあ、もうこんな卑怯な真似は二度としないようにね」
128 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/16(日) 20:22:08.56 ID:ySZFhP0z0
和「分かってます。
……会長」
恵「なに」
和「明後日の応援演説……
お願いしますね」
恵「ええ、合点承知の介よ」
和が突っ込むべきかどうか迷っていると
廊下の向こうで黄色い声が聞こえた。
和「? なんでしょうか」
恵「平沢さんが来たみたいね」
和「唯……」
恵「どうする? 謝りにいく?」
和「……」
131 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/16(日) 20:25:32.40 ID:ySZFhP0z0
「あっ、平沢さん!」
「平沢さんおはよー! もう大丈夫なの?」
「ヒドイことする人もいたもんだね」
「誰がやったかは分からないけどね、誰がやったかは!」
「私、平沢さんのこと応援してるからね!」
唯「ありがと~、みんな~。私、頑張るから」
きゃーきゃーわーわー
和「……」
恵「今の彼女は悲劇のヒロインね。
多分さらに支持率を伸ばすでしょう」
和「そうですね……
私の支持率が下がって、
そのぶん唯に行きますね」
恵「それについては完全にあなたの自業自得ね。
まあ残り2日間、せいぜい正々堂々と頑張りなさい」
和「はい」
141 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/16(日) 20:40:24.64 ID:ySZFhP0z0
それから2日間。
和は普段の落ち着きを取り戻し、
冷静に選挙運動に臨んだ。
コピペ爆撃の件で和の支持率は急落し
ついに2%になってしまったが
それでも和はもう自暴自棄になることはなかった。
和(唯は選挙のことを真剣に考えてないと思ってた。
でも本当に選挙に対して真剣でなかったのは私のほうだったわ。
唯に負けたくないという気持ちが先走るあまり、
あんな卑怯な手段に出てしまった……)
唯に負けたくない……
ただ自分が負けず嫌いだからそう考えているのだと
和は思っていた。
和(でもそれは違った。
私はただ、唯に追い抜かれることが怖かったんだ)
いつも自分と一緒にいた唯。
和はいつも唯の上に立っていた。
唯の面倒を見て、唯を導く、
そういうことに自分の居場所を見出していた。
しかし今、和は初めて唯に上を行かれそうになっている。
今まであった居場所を失いそうになっている。
それを恐ろしく感じていたのだ。
そして火曜日、選挙運動最終日。
この時点で和の支持率は1%、唯の支持率は98%だった。
148 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/16(日) 20:48:01.04 ID:ySZFhP0z0
水曜日。
昼休み、候補者たちは講堂に集まって
5,6時限の立会演説会に備えていた。
恵「真鍋さん」
和「あ、会長。来てくれたんですね」
恵「そりゃ、あなたの応援演説をしなきゃいけないからね」
和「どうも」
恵「落ち着いてるわね」
和「はい」
恵「泣いても笑ってもこの立会演説会が最後の大勝負だわ。
正攻法で、正々堂々と、全力を出し切るのよ。
平沢さんに勝つためじゃなく、
納得できるかたちで勝負を終えるために」
和「分かってます」
153 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/16(日) 20:59:32.42 ID:ySZFhP0z0
そして立会演説会が始まった。
山田「ではこれより立会演説会を始めます。
司会進行は私、生徒会選挙執行部の山田尚子が努めさせていただきます。
この立会演説会は各立候補者の5分間の演説、
そして5分間の応援演説、5分間の質疑応答によって進められます。
候補者及び応援者が話している最中には私語は慎み、
真剣に耳を傾け、私たちの学校生活について~うんぬんかんぬん」
舞台の上には各候補者の名前を書いた垂れ幕、
その下にパイプ椅子が並べられて候補者たちが並んで座っている。
山田が投票上の注意事項やルールについて説明した後、
候補者の演説がスタートした。
山田「えーでは、早速候補者の演説に移りましょう。
まず一般役員に立候補された、1年1組の豊崎愛生さん、どうぞ」
豊崎「あ、ただいまご紹介に預かりました、
1年1組の豊崎です。
私はこの度、一般役員に立候補させていただき……」
生徒会長は最後なので、
順番が和に回ってくるまでにまだ時間がある。
和は昨日暗記した演説の文章を
もう一度頭の中で読み返した。
159 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/16(日) 21:09:17.13 ID:ySZFhP0z0
演説会と言うのは聴く方はたいへん退屈なので
生徒たちはすっかりだらけきっていた。
しかし唯の番が回ってくると
講堂内はがぜん盛り上がった。
山田「では次は、生徒会長に立候補した、
2年2組の平沢唯さん……」
唯「みなさん、こんにちは!
生徒会長に立候補した平沢唯です!」
「うおー、平沢さーん!」
「待ってました!」
「応援してるよー!」
「真打ち登場!」
「頑張ってー!」
山田「みなさん、お静かに」
唯「えへへー」
和「……」
恵(さすが支持率98%……)
161 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/16(日) 21:18:23.94 ID:ySZFhP0z0
唯「えーと、私が生徒会長に立候補したのは、
まずひとつの理由があります!
それは部活動をもっと活気づけようということです!
私は軽音部に入ってるんですが~云々」
和「……」
和はここで初めて、
唯が生徒会長候補として人前で話しているのを見た。
話自体は別に斬新でも何でもない
テンプレ通りの平凡な内容なのだが、
和はなぜかそれに引きつけられて、
唯から目が離せなかった。
唯「……それから、みなさんの学校生活の細かい不満なんかも、
できるだけ聞き入れて解決していきたいと思います!
第2校舎横にある目安箱、あれをもっと目立つとこに置いてですね……」
気づけば講堂内も静まり返っていた。
すべての生徒が、教師が、
唯の話に聞き入っていた。
これだけ多くの人を相手に、
物怖じせず話すどころか、がっちりと心をつかんでいる。
いつの間に唯はこんな立派な人間になったのか……
和は少し胸の奥が痛むのを感じた。
163 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/16(日) 21:25:11.38 ID:ySZFhP0z0
唯「私の演説は以上です!
ご清聴ありがとうございました」
唯がお辞儀をした後、
一瞬の間を置いて拍手が沸き起こった。
山田「平沢さん、ありがとうございました。
次は平沢さんの応援演説を、
1年2組の中野梓さんがおこなってくれます」
梓「あ、えと……
1年2組の、中野梓です。
唯先ぱ……平沢先輩の応援演説をさせていただきます」
「ぱちぱちぱち」
和「梓……」
恵「後輩目線から語ることによって
1年生に親近感を持たせる……いい手だわ」
和「支持率98%でそんな策略がいりますか」
171 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/16(日) 21:33:13.45 ID:ySZFhP0z0
梓「で、うんぬんかんぬんで、
ぜひ唯先ぱ……平沢先輩を、生徒会長に選んでください!
どうか清き一票をお願いします!」ぺこり
ぱちぱちぱちぱちぱち
山田「中野さん、ありがとうございました。
では次は平沢さんへの質疑応答ですが、
誰か質問はありますか。ありませんね。
じゃあ、生徒会長に立候補した真鍋和さん、演説をお願いします」
和「はい」
恵(頑張るのよ……真鍋さん)
和(そうだ、これが最後だ……
もう小手先の卑怯な手段も、必死になって票を乞うようなことも必要ない。
ただ自分の想いをすべての生徒に真摯に語る、
それが立候補者としての努めだ。
たとえ勝てないと分かっていても)
唯「…………」
和「ただいまご紹介に預かりました、真鍋和です――」
――
――――
――――――
175 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/16(日) 21:40:43.64 ID:ySZFhP0z0
放課後、生徒会室。
ガラッ
和「会長」
恵「あら、どうしたの?
開票結果はまだ出てないわよ」
和「それは分かってます。
ただお礼を言いたくて……ありがとうございました」
恵「お礼を言われるようなことをした覚えはないわ」
和「いえ、色々お世話になったので。
この選挙中も、
あと今までの生徒会活動の中でも」
恵「あら、そう。
嬉しいことを言ってくれるわね」
和「ところで、開票結果はいつ分かるんですか」
恵「もうすぐ出ると思うけど、
あなたに教えるわけにはいかないわ。
明日の朝発表されるから、その時に見なさい」
和「はい」
183 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/16(日) 21:47:15.90 ID:ySZFhP0z0
恵「あー、でも私も今日で会長終了か」
和「今までお疲れ様でした」
恵「私個人としては、会長職はあなたに継いでほしかったんだけど……
無理っぽいわね」
和「仕方のないことですよ。
唯は……私が思っていたよりも、
立派に成長していました。
それこそ私以上に」
恵「そう。
なら平沢さんに任せて安心かしらね」
和「でしょうね……」
恵「……」
和「あの、今日は……もう帰ります。
さようなら」
恵「さよなら」
和「さようなら……」
188 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/16(日) 21:54:36.33 ID:ySZFhP0z0
翌日。
和はいつもより20分も早く学校に向かった。
結果は分かりきっていたが、
早く自分の目で確かめたかったのだ。
校門を入ったところには人だかりが出来ていた。
みんなの視線の先には看板が並んでいた。
生徒会の役職名と、当選した候補者の名前が
それぞれの看板に大きく書き出されていた。
中でも新生徒会長の名前が書かれた看板の前には
特に多くの人が集まっていた。
和のその人だかりの中に入っていく。
澪「あっ、和」
和「澪……結果見た?」
澪「うん」
澪はバツの悪そうな顔で頷いた。
集まっていた人々は和がいることを知ると
さっと左右に分かれた。
和の目に看板にかかれた名前が飛び込んできた。
198 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/16(日) 22:05:21.49 ID:ySZFhP0z0
予想通りそこに書かれていたのは和の名前ではなかった。
和「……」
澪「ざ、残念だったな、和……」
和「ええ……
でも全力を出したから悔いはないわ」
唯に負けた。
これは和にとって初めてのことだった。
唯はいつでも和のあとをついてきて、
和がいなければ何もできないような子だった。
しかしそれは和の思い込みだった。
唯はもう一人で生きて行けるようになっていたのだ。
和「……」
唯自身はそれを自覚しているのだろうか。
和を追い抜いたことを、
もう自分ひとりで大丈夫だということを。
これからの唯は、もう和に頼ったり
相談したりすることも……
和(あ……
そうか、唯は最初から全部そのつもりで……)
211 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/16(日) 22:17:06.88 ID:ySZFhP0z0
思えば最初からおかしかった。
何をするにしても和に頼りきりだった唯が、
和に言われなければ何もやろうとしなかった唯が、
一言も和に相談することなく生徒会長に立候補したのだ。
唯はもう和に頼らずとも生きていけるということを
自分でもなんとなく分かっていた。
だから和を追い抜くことによって、
それを証明しようとしたのだ。
そして唯は見事成功した。
和以上に全校生徒の期待を背負い、
和以上に熱い信頼を寄せられ、
和を蹴落として生徒会長の座についた。
和(唯は私のもとから羽ばたいていった。
じゃあ……残された私はどうすればいいの、唯……)
呆然と立ち尽くす和の耳に、
唯の声が聞こえてきた。
和は唯に見つからないよう、
人ごみにまぎれて逃げるように校舎の中に消えていった。
お わ り
212 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/16(日) 22:17:46.93 ID:ySZFhP0z0 [59/60]
これでおしまい
こういう和ちゃんもいいよね
じゃあオナニーして寝る
240 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/16(日) 22:51:32.14 ID:naLPDXmeP
>>34の伏線みたいなものはどうした
254 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/16(日) 23:07:26.24 ID:ySZFhP0z0 [60/60]
>>240
>>34に出てたのは機密諜報部の支持率調査隊でござる
唯「む、酷いな~和ちゃん……
ちゃんと真面目にやるよお」
和「唯に会長なんて務まるわけないでしょう」
律「いや~、私たちもそう思ったんだけどな」
澪「なんか唯も真剣みたいだし、
やってみればいいんじゃないかな、って」
紬「いい経験になると思うし」
和「……いい経験って、
生徒会長はそんな軽い気分でやるもんじゃないわよ?」
唯「軽い気分じゃないよ、
真面目にやるって言ってるじゃん」
3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/16(日) 14:31:10.46 ID:ySZFhP0z0
和「唯がいくら真面目になっても、
個人の能力には限界があるわ。
真面目なだけじゃ生徒会長は出来ないのよ」
唯「む~……大丈夫だよ」
澪「あ、そういえば和も会長に立候補したんだっけ」
和「ええ、そうよ」
唯「そうなんだ、じゃあ和ちゃんは私のライバルだね!」
和「ライバル、ねえ」
澪「和が相手じゃ厳しいかもな、唯」
唯「大丈夫だよ、私、和ちゃんに絶対勝つもん」
律「おー、その意気だ」
和「……」
5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/16(日) 14:40:28.65 ID:ySZFhP0z0
生徒会室。
和「会長、唯が立候補したって本当ですか?」
恵「唯……って、軽音部の平沢唯さん?
ええ、本当よ」
和「な、なんで唯が会長に……」
恵「私も驚いたんだけどね、
当人は真剣にやる気みたいだったわよ」
和「でも……」
恵「あら、もしかして幼馴染と戦うのが嫌なの?」
和「いえ、ただ真剣さが上辺だけのような気がして。
戦うのは別に嫌じゃありませんよ、
どうせ私が勝つんでしょうし……」
恵「そうかしら」
6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/16(日) 14:54:08.12 ID:ySZFhP0z0
和「え?」
恵「平沢さんといえば校内で一番の人気者、有名人じゃない。
文化祭のライブも大好評だったしね」
和「それでミーハー層の票を集める、ってことですか」
恵「ええ」
和「そんな、タレント議員じゃあるまいし」
恵「そういう可能性も十分にあるわよ。
あまり平沢さんを侮らないほうがいいわ」
和「はは、私が唯に負けるわけないじゃないですか。
私は1年半、生徒会をやってきた実績と信頼があるんですから」
恵「それだけで勝てればいいけどね」
和「どういう意味です?」
恵「いや、別に……
来週から生徒会選挙のあれこれが始まるから。
真鍋さんも頑張ってね」
和「分かってますよ」
8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/16(日) 15:02:02.83 ID:ySZFhP0z0
翌週の月曜日。
この日は立候補者向けに説明会が行われる。
和「唯~、説明会……」
唯「あ、和ちゃーん、説明会行こ~!」
和「え、ああ、うん」
唯「そうだ、会長に立候補したの、
私と和ちゃんだけなんだって!
一騎打ちって奴だね」
和「そうね」
唯「あはは、絶対負けないからね~」
和「それはこちのセリフよ。
ていうかやるからには本当に真剣にやりなさいよ?」
唯「もー、分かってるってば。
しつこいよ和ちゃん」
和「……分かってるならいいんだけど」
11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/16(日) 15:08:44.97 ID:ySZFhP0z0
第3会議室。
恵「えーと、全員揃いましたね。
ではこれより説明会を始めます」
会議室に集まったのは唯と和を含めて10人ほどだった。
恵「みなさんには今年の生徒会選挙に立候補するということで
ここに集まっていただきました。
今年は例年より立候補者が少なく、
生徒会長以外には対立候補はいません」
唯「……」
和「……」
恵「ですから、一般役員、書記、会計、副会長に立候補したみなさんは
不信任票を入れられることがないように、
自らの良さを生徒の皆さんにアピールしてください」
「はーい」
恵「会長に立候補した二人は、
お互いの持てる力を出して、正々堂々と戦ってくださいね」
唯「はいっ!」
和「はい」
13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/16(日) 15:16:19.63 ID:ySZFhP0z0
恵「では投票までの日程を説明します。
まず明日、火曜日ですが、
お昼休みの放送で全校生徒に立候補者の紹介を行います。
その際に、みなさんに簡単な挨拶をしていただきますので、
文面を考えておいてください。
『○○に立候補した××です』程度の挨拶で構いません」
「はーい」
恵「そして水曜日から翌週の火曜日までが選挙運動の期間となります。
この間みなさんには、朝の校門前での挨拶や、
お昼休みに各教室を回っての演説などをおこなってもらいます」
「はーい」
恵「また明日から来週の火曜日まで毎日、
生徒会選挙執行委員会機密諜報部の調査による、
各立候補者の支持率が出されます。
知りたい人は放課後に生徒会室まで来てください」
唯「支持率だって。ほんとの政治家みたい」
和「機密諜報部なんてあったのね」
15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/16(日) 15:25:13.33 ID:ySZFhP0z0
恵「そして選挙運動最終日の翌日、要するに来週の水曜日ですが、
その日は5,6時限目に立会演説会があります。
講堂にて全校生徒の前で演説をしてもらいます」
「はーい」
恵「これは最後にして最大のアピールの場です。
この演説によって票が左右されると言っても過言ではありません。
みなさん、気合を入れて臨んでください」
唯「立会演説会ってすごいんだね」
和「曽我部会長は去年の候補者の中で支持率が最低だったけど
立会演説会で大逆転して当選したのよ」
恵「それから、立会演説会では応援演説もあります。
友人や先輩後輩の中から
応援演説をしてくれる人を探しておいてください」
「はーい」
恵「まあ日程はこんなものです。
とりあえず明日の昼休みは放送室に集まってくださいね。
じゃあ今日はこれで解散」
17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/16(日) 15:29:44.70 ID:ySZFhP0z0
――
――――
――――――
帰り道。
唯「いやー、今日の説明会で、
なんかますますやる気出てきたよ~」
和「そう」
唯「応援演説か~、誰にやってもらおっかな~。
澪ちゃんにしよっかな」
和「澪は全校生徒の前で話なんてできないんじゃないかしら」
唯「そっかー、じゃありっちゃんかなー。
あ、でもムギちゃんの方が話すの上手そうだよね」
和「そうね……」
なにげない会話の中で、和は、
唯は本当に選挙に対して真剣なのか、
ただノリと遊びの延長でやっているだけではないのか……と
そんなことばかり考えていた。
19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/16(日) 15:35:06.69 ID:ySZFhP0z0
火曜日。
昼休み、候補者たちが放送室前に集まっていた。
山田「こんにちは、生徒会選挙執行委員会の山田です。
みなさんにはこれから校内放送で生徒の皆さんに
挨拶、というか自己紹介をしていただきます」
「はーい」
和「唯、ちゃんと文面考えてきた?」
唯「ばっちりばっちりー。
それよりお腹すいたよ、まだお昼食べてないし」
和「もう……我慢しなさいよ」
唯「ふぇーい」
山田「じゃあもう放送始まるんで、
一般役員の候補者は放送室の中へ」
「はーい」
20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/16(日) 15:39:34.80 ID:ySZFhP0z0
まもなく校内放送が始まった。
『桜高放送部です。
本日は、今年の生徒会選挙の立候補したみなさんに来ていただきました。
みなさんに一言ずつご挨拶をいただこうと思います。
放送をお聴きのみなさんは、候補者のお名前とお声を
しっかりと覚えてあげてくださいね。
では最初の方、どうぞ~』
『一般役員に立候補した、1年1組の豊崎です……云々』
唯「これ全校に流れてるんだよね」
和「そうよ」
唯「へー、憂とかもちゃんと聴いてくれるのかなー」
和「……分かってると思うけど、
ふざけた挨拶とか絶対しちゃだめだからね。絶対よ」
唯「分かってるよ、それくらい……
私ってそんな信用ない?」
和「信用してないわけじゃないけど、心配なのよ」
唯「心配しなくていいよ」
22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/16(日) 15:45:06.40 ID:ySZFhP0z0
『副会長に立候補した、2年3組の日笠陽子です。
一般役員として今まで生徒会に居させて頂いておりましたが、
今期も生徒会活動をさせていただこうと思い、立候補いたしました。
よろしくお願い致します』
山田「あ、じゃあ次。
会長のおふたり、どうぞ」
唯「はーい」
和「はい」
山田「どっちが先にやる?」
唯「私がやります!」ふんす
和「……」
山田「じゃあ、放送室にどうぞ」
唯「じゃあいってくるよ、和ちゃん!」
和「超不安だわ」
23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/16(日) 15:54:12.59 ID:ySZFhP0z0
『はい、では次は注目の、生徒会長に立候補された方の登場です。どうぞー』
『みなさん、こんにちは。2年2組の、平沢唯です!
私はこのたび、生徒会長に立候補しました。
軽音部との両立は大変かもしれませんが、精一杯頑張ります!
よろしくお願いします!』
和「意外と普通ね……心配しすぎか」
ガラッ
唯「ふー、緊張したよ」
和「ふふ、唯でも緊張することがあるのね」
唯「そりゃそうだよ」
山田「じゃあ次。真鍋さん、どうぞ」
和「はい……」
唯「がんばってー、和ちゃん」
和のかなり無難な挨拶で、
この日の校内放送は締めくくられた。
24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/16(日) 15:59:15.01 ID:ySZFhP0z0
放課後、生徒会室。
ガラッ
和「あ、会長」
恵「あら、真鍋さん。
今日は来てもあなたの仕事はないわよ」
和「いえ、いいんです。
放課後はここに来ないと落ち着きません」
恵「あら、そう。
そうだ、今日の支持率調査の結果が出たわよ」
和「もう出たんですか」
恵「聞きたい?」
和「ぜひ」
恵「じゃあ発表するわね。
『真鍋さんを支持する』の割合は……」
和「ごくり」
25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/16(日) 16:03:06.04 ID:ySZFhP0z0
恵「29%です」
和「へえ、29%……!」
まだ校内放送での挨拶しかしていないのに、
ほぼ3割の生徒が和を支持している。
普通この時点では大多数の生徒が
『まだ誰を支持するか決めていない』を選ぶはずだから
これはかなり高い数字だと言ってもいいだろう。
恵「なかなかの数字ね。
初日で29%というのは例を見ないわ。
やはり真鍋さんの実績に信頼がおかれているのね」
和「そのようですね、安心しました。
この調子で行けば当選は確実ですね」
恵「……平沢さんの支持率は、知りたい?」
和「唯の支持率ですか。
じゃあ、一応教えてください」
恵「……」
和「会長?」
恵「……47%よ」
28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/16(日) 16:10:57.09 ID:ySZFhP0z0
和「よ、47!?
嘘でしょう、そんなの……!」
和は恵の手から支持率の書かれた紙を奪い取った。
そこには確かに恵の言った通りのことが書かれていた。
和「『真鍋和を支持する』……29%、
『平沢唯を支持する』……47%、
『まだ誰を支持するか決めていない』……23%、
『誰も支持したくない』……1%……」
データを視覚化した棒グラフでも、
『平沢唯を支持する』の面積が最も大きかった。
紙に目を通した和は言葉を失ってしまった。
和「な……なんで……」
恵「侮らないほうがいい、って言ったでしょう」
和「…………唯が有名人だから、人気者だから
初日からいきなりこれだけの支持を集めたと言うんですか」
恵「でしょうね」
和「そんな、タレント議員じゃあるまいし」
恵「そのセリフ聞くの2回目だわ」
29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/16(日) 16:18:23.70 ID:ySZFhP0z0
和「でも、こんなの……
なんで唯なんかに、支持が……」
恵「まあ、ミーハー層が多いってことでしょうね。
いつどこの場所でも、最も多いのはそういう人たちよ」
和「っ……」
恵「平沢さんもそれは分かってたみたいね」
和「どういうことです?」
恵「お昼の放送……平沢さんは
自分が軽音部だということを話していたわ」
和「ああ、そういえば」
恵「軽音部といえば今一番ホットな部活よ。
先の学園祭でのライブが記憶に残ってる人も多いでしょうし、
放課後ティータイムのファンを自称する人も沢山いるわ。
だから平沢唯という名は知らなくても、
自分が軽音部だといえば生徒たちは『ああ、あの軽音部か』と、
軽音部の人が会長に立候補するならば、と……」
和「まさか唯は全部それを見越して……」
恵「でしょうね」
31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/16(日) 16:26:19.48 ID:ySZFhP0z0
和「……」
恵「でもミーハー層っていうのは熱しやすく冷めやすいのが基本よ。
あなたがちゃんとこれからアピールしていけば、
生徒たちはちゃんと振り向いてくれるわ」
和「ミーハー層、ですか……
なんかそういう無責任な人たちの票を集めても
あんまり嬉しい気はしませんね」
恵「世の中はそういうものよ。
大多数の無責任な人間を、責任を背負う少数の人間が導いていくの。
あなたはそういう仕事にやりがいを感じていたんじゃないの?」
和「それはそうですが」
恵「じゃあこの生徒会に居続けるために、
票を集める努力をしなきゃね」
和「そうですね、それは分かってます
……会長」
恵「?」
和「唯が勝ってしまうことはありえるでしょうか」
恵「なくはないでしょうね」
32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/16(日) 16:32:20.71 ID:ySZFhP0z0
水曜日。
この日から本格的に選挙活動が始まる。
朝、候補者たちは自らの名前が書かれたタスキを掛け、
校門の前に並び、登校してくる生徒たちに挨拶をする。
「おはようございまーす!」
「おはようございます!」
唯「おはよーございます!」
和「おはようございます……
それにしても、唯がこんな朝早く
遅刻せずに来るなんて驚いたわ」
唯「そんなの当然だよ、会長候補なんだから
……おはようございまーす!」
和「ふふ、そうね……おはようございます」
澪「お、やってるな」
律「朝早くからご苦労なこって」
唯「おー、澪ちゃんりっちゃん、おはよー」
和「おはよう」
34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/16(日) 16:37:50.37 ID:ySZFhP0z0
律「ははは、こうやって見ると、
ほんとに唯が会長に立候補したんだって
実感が湧いてくるな」
唯「いやー、褒めるな褒めるな」
澪「褒めてないよ」
律「そういえば、昨日帰ろうとしたら
誰かに肩を叩かれてさあ、
振り向こうとしたら『動くな』って言われたわけ」
唯「へえ」
律「それで『そのままの体勢で答えろ、生徒会選挙で誰を支持するか』……
って聞かれたから、唯を支持しますって答えといた」
唯「わーい、ありがとうりっちゃん!」
澪「なんだ、その暗殺者みたいな奴……」
律「じゃあ私たちもう教室行くわ」
澪「唯も和も、頑張れよ~」
唯「はーい、応援よろしくー」
和「……」
36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/16(日) 16:45:03.63 ID:ySZFhP0z0
唯「おはよーございまあーす」
和「おはようございます……
唯、自分の支持率、聞いた?」
唯「ああ、47%だって。
なかなか幸先の良いスタートだよね~」
和「そうね……」
唯「和ちゃんは29%だっけ。
もっと頑張らないと私が勝っちゃうよ!」
和「はは、分かってるわよ……」
唯「おはようございまーす」
和「おはようございます……」
唯の支持率が高いのは今だけ、
すぐに追い抜くことが出来る……
やってくる生徒たちに挨拶をしながら、
和はそう自分に言い聞かせた。
38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/16(日) 16:58:09.86 ID:ySZFhP0z0
昼休み。
候補者たちは朝と同じくタスキを掛け、
執行委員会が決めた順番通りに
教室に飛び込んで簡単な演説を行う。
ガラガラ
和「お食事中、失礼します」
和はまず自分の教室からだった。
澪「あ、和」
和「このたび生徒会長に立候補した、真鍋和です。
改めてよろしくお願いします」
「はーい」
和「私は前期も生徒会にいて、
そこで積んだ経験が生徒会長の仕事にも充分生かせると思います。
みなさまの期待に添える会長になりますので、
応援よろしくお願いします」ぺこり
「真鍋さん応援してるよー」
「がんばってー」
和「……」
39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/16(日) 17:02:45.22 ID:ySZFhP0z0
和「では失礼します」
ガチャバタン
和が廊下に出ると唯がちょうど通りかかった。
和「あら、唯」
唯「おー、和ちゃん。
いやあ、みんなの前で喋るのって緊張するねえ」
和「何言ってんのよ、
学園祭で部隊の上で歌ってたくせに」
唯「それとこれとは話が別だよ~。
あ、じゃあ私、次3年1組の教室だから~」
和「ええ、じゃあね」
3年1組は曽我部恵の居る教室だ。
和「……」
41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/16(日) 17:07:51.63 ID:ySZFhP0z0
放課後、生徒会室。
ガラッ
和「会長」
恵「あら、真鍋さん。今日も来たの。
支持率が気になる?」
和「それもあります。
あと、昼休みに唯が教室に行ったでしょう」
恵「ええ、来たわ」
和「どんな感じでした?」
恵「ふふ、平沢さんは完全にあなたのライバルになったようね。
まあいいわ……先に今日の支持率から言ってあげる」
和「お願いします」
恵「今日の真鍋さんの支持率は……」
和「……」
恵「32%よ」
43 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/16(日) 17:12:44.90 ID:ySZFhP0z0
和「32……」
恵「前日比+3%ね。
そして平沢さんの支持率は」
和「ごくり」
恵「59%よ」
和「ぶーっ!!」
恵「前日比+12%なんて凄いわ。
このままいくと来週の演説会までに単純計算で100%を超えるわね」
和「単純計算というか短絡的すぎますよ。
でも、なんでいきなりそんなに伸びて……!?」
恵「平沢さんの昼休みの挨拶回り……
あれが効果抜群だったんでしょうね」
和「……唯は、昼休みに何を話したんです?」
恵「特別なことは何も言わなかったわ。
ただ真面目に話していただけよ」
和「それだけでそんなに支持を集めるわけありません」
47 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/16(日) 17:23:35.69 ID:ySZFhP0z0
恵「そうね、でもそれは真鍋さんの場合。
真鍋さんが真面目に話したところで、
聞き手からは当然のように思われて終わりよ。
でも平沢さんは」
和「……ギャップってことですか」
恵「ええ。学園祭でギターを忘れた事件は
まだ生徒たちの記憶に新しいわ。
そのせいで『平沢さんのようなうっかり者は会長にふさわしくないのでは』
という意識を持つ生徒たちが少なからずいたわ、
私の周りにもね」
和「でもその意識を覆したと」
恵「でしょうね。よくあるでしょう、
不良が更生したら昔の悪事は無かったかのように褒められる……みたいな。
うっかり者かと思ったけど結構しっかりしてる、
平沢さんが会長でも悪くないかも……そう思わせて、
無支持層の支持を得たのね」
和「まさか……そんな上手くいきますか」
恵「でも数字としては」
49 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/16(日) 17:29:48.64 ID:ySZFhP0z0
和「納得いきません。
そんな小手先のことで支持率を12%も上げるなんて……」
恵「私もそれだけが理由ではないと思ってるけどね、
他には説明のしようがないのよ」
和「なにか裏があるに決まってます」
恵「裏って?」
和「軽音部が暗躍してるとか」
恵「本気で言ってる?」
和「あくまで仮説です」
恵「あっそう……
でも、このままじゃ本格的にやばいわよ、真鍋さん。
明日以降も、明確な理由は分からないだけど
平沢さんは確実に支持率を伸ばしてくるわ。
ミーハー層の支持だけじゃなく、
確固たる意志で『平沢さんを会長にしよう』という人の支持を」
和「……私はどうすれば」
恵「正攻法で行くしかないわよ」
和「……」
53 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/16(日) 17:37:22.88 ID:ySZFhP0z0
木曜日。
和「……」
澪「和、なにボーッとしてるんだ?
次体育だよ」
和「え、ああ……そうだったわね。
ごめんね、最近ちょっと疲れてて」
澪「選挙、大変なんだな。
唯も結構お疲れみたいだったよ」
和「唯が疲れてる、ねえ……」
澪「でもまあ、ムギのお菓子ですぐ回復してるんだけどな」
和「……まさかムギのお菓子で生徒の買収を」
澪「え、なに?」
和「ああいや、なんでもないわ」
澪「そう?」
56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/16(日) 17:42:48.44 ID:ySZFhP0z0
和「……」
澪「?」
和「……ねえ、澪はさ……
私と唯のどっちが生徒会長にふさわしいと思う?」
澪「え、えっ!?」
和「正直に答えて。あと理由も」
澪「そ、そんなこと言われても……」
和「お願い」
澪「私はまだ……どっちを支持するかなんて決めてないよ。
でも支持するとしたら和かな」
和「な、なんで?」
澪「そりゃあ、経験者だから信頼できるっていうか」
和「唯は信頼できない?」
澪「いや、そういうんじゃないけど」
57 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/16(日) 17:48:57.92 ID:ySZFhP0z0
和「私を支持する理由は……
経験からくる信頼だけ?」
澪「いや、なんていうか……
ていうかどうしたんだよ、和。
なんかおかしいよ」
和「そ、そう……?」
澪「うん……なんか悩みでもあるの?」
和「悩みというか……
支持率が伸び悩んでて……」
唯に負けている、とは言えなかった。
和「それで、どうやったら伸びるかなって」
澪「うーん……私には選挙のことはよく分からないけど……
やっぱり経験をアピールしてさ、
私に任せてくれれば安心! ……ってのを打ち出して行けば……」
和「つまりは正攻法ってこと?」
澪「……ダメ?」
和「ダメじゃないけど……」
59 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/16(日) 18:02:43.27 ID:ySZFhP0z0
正攻法はダメではない。
むしろ正攻法以外の戦い方がダメだ。
しかしこれでは支持を集めることが出来ないというのを
和は分かっていた。
『経験と実績のアピール』という正攻法は
例年ならば通用するはずだった。
恵の言う大多数のミーハー層、
要するに生徒会選挙に対して不真面目な人々は
「あー経験あるならコイツでいいや」とよく考えずに票を入れ、
逆に真面目に選挙を考える少数派も
じっくりと候補者を吟味した上で
経験と実績のあって信頼できる、という理由で投票していた。
しかし今回は例年とは事情が違う。
そう、平沢唯が立候補したのだ。
校内で一番の人気者が出馬するとなれば
大多数のミーハー層はすべて唯の方向に流れていく。
和のアピールに耳をかたむけるのは
少数の真面目層だけだ。
面白がって唯を支持するミーハーたちは
和のくそ真面目でつまらんアピールなど
端から聞く気はないのだ。
その日も唯はさらに支持率を伸ばし、
和はどうにもできないいらいらを募らせた。
68 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/16(日) 19:00:52.38 ID:ySZFhP0z0
金曜日。
放課後の生徒会室。
ガラッ
和「……」
恵「来たわね、待ってたわよ」
和「……待ってた?」
恵「ちょっと言いたいことがあって」
和「それより今日の支持率を教えてください!
私の支持率は伸びましたか!?」
恵「ちょっと、落ち着いて……
えーと、今日のあなたの支持率は」
和「……」
恵「25%よ」
和「なっ……なんで下がってるんですか!?」
71 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/16(日) 19:08:44.12 ID:ySZFhP0z0
恵「そりゃあ……今日の昼休みの挨拶まわりのせいでしょうね」
和「何がいけなかったんですか?
私、今日会長の教室にもおじゃましましたよね」
恵「ええ、来たわね。
あなたが帰ったあと友達と話したんだけど、
みんな『印象が最悪だった、幻滅した』って言ってたわ」
和「な、なんでですか」
恵「自覚ないの?
あなた、すごく必死だったじゃない。
鬼気迫る形相で何度も何度も
『よろしくお願いします、よろしくお願いします』って……
みんな引いてたわよ」
和「必死だなんてそんな……
私はただ自分の熱意を伝えようと」
恵「伝えるというか、ただの押し付けになってたわ。
いつもみたいにクールにやればいいのに、
なんであんなふうにやったのよ」
和「……」
恵「焦ってるの?」
75 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/16(日) 19:16:42.70 ID:ySZFhP0z0
和「焦ってなんか」
恵「嘘、めちゃくちゃ焦ってるじゃない。
平沢さんに負けるのがそんなに嫌?」
和「……そういえば唯の支持率は」
恵「73%よ」
和「……」
恵「もう逆転は絶望的かも知れないわね。
最初は面白がって平沢さんを支持していたミーハー層も、
今では本気で平沢さんを応援してる。
平沢さんには人を惹きつける何かがあるわね」
和「私にはない、と」
恵「ないわね」
和「あっさり言わないでください」
恵「平沢さんは生まれつき他人から愛される性質なんでしょうね。
そこに立っているだけで、たくさんの人が集まってくる。
そんな魅力を持ってるわ。
あなたもそれに惹かれたから、
10年以上も平沢さんと仲良くしてたんじゃないの?」
和「……否定はできません」
77 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/16(日) 19:25:38.94 ID:ySZFhP0z0
恵「そういう人はなるべくして人の上に立つ役職に就くわ。
そしてその人に能力がなかったとしても
周りの人に支えられて上手くやっていくものよ」
和「……そんなの、認めません。
私が唯よりも上手く生徒会長をできるのは、
みんな分かってるはずです」
恵「でしょうね。
でも客観的に見て『誰がふさわしいか』ではなく
『誰になって欲しいか』で選ばれるものなのよ」
和「っ……」
恵「とりあえず気持ちを落ち着けなさい。
そんなにイライラしてちゃまた支持率が堕ちるわよ」
和「……どうやったら、唯に勝てますか」
恵「分からないわ」
和「どうやったら、私の支持率が上がりますか」
恵「支持率に踊らされすぎちゃダメよ。
物事の本質は数字では計れないわ」
和「でも」
恵「とりあえず今日はもう帰りなさい。
土曜日曜でしっかり気持ちを落ち着けて、また来週から頑張ればいいわ」
79 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/16(日) 19:34:02.33 ID:ySZFhP0z0
――
――――
――――――
真鍋家、和の部屋。
和(……このままじゃ確実に負ける。
もはや正攻法は通用しない……)
和(どうにかして私の支持率を上げれば……
でもどうやって……
不正をしてバレれば元も子もないし……)
和(でも何もしなければ支持率は下がっていくばかり。
私の支持者もどんどん唯の方に流れていく……
せめて唯の支持率は頭打ちになれば……)
和(ん、唯の支持率……
そうか、私の支持率が上がらないなら、
唯の支持率を……)
ベッドに寝転んでいた和はいきなり起き上がり、
パソコンを立ち上げた。
88 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/16(日) 19:41:35.36 ID:ySZFhP0z0
翌週、月曜日。
校門前での挨拶活動を終えた和は
授業が始まる数分前に教室に入った。
和「おはよう、澪」
澪「え、ああ、お、おはよう和……」
和「? 何?」
澪「あ、いや、なんでもないよ」
和「そういえば今朝、校門前に唯が来てなかったんだけど、
休みかしら」
澪「さ、さあ……」
きーんこーんかーんこーん
澪「あ、授業始まるから……」
和「ああ、うん」
「ひそひそ」
「くすくす」
和「?」
90 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/16(日) 19:47:05.44 ID:ySZFhP0z0
何だか周りがおかしい、ということに
和はなんとなく気づいた。
クラスメイト全員がくすくすと笑っていたり、
不機嫌そうな表情を浮かべたりする人もいる。
一体何があったのだろうか、と和は考えたが
すぐに教師が来て授業が始まったので、
意識はそっちに移った。
1時限目の授業が終わると、
恵が和のもとにやってきた。
ガラッ
恵「ちょっと、真鍋さん、真鍋さん……」
和「あ、会長。
どうしたんですか?」
恵「いいからちょっと来なさい、廊下に」
和「はあ」
「くすくす」
「ひそひそ」
「?」
93 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/16(日) 19:57:17.84 ID:ySZFhP0z0
廊下。
和「で、なんですか?」
恵「……校内中の噂になってるんだけど」
和「何がです?」
恵「あなたが土曜と日曜に、
桜高の裏サイトの掲示板や生徒のミクシイ、モバゲー等のアカウントに
平沢さんを貶める内容のコピペを大量に貼り付けたって。
あとはそのコピペと同じ文面でのチェーンメール」
和「誰がそんなこと言ってるんです?」
恵「校内のみんなよ。
あなた、やったの?」
和「やるわけないじゃないですか」
恵「正直に言いなさい」
和「やってません」
恵「あなた以外に考えられないんだけど」
98 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/16(日) 20:00:56.10 ID:ySZFhP0z0
和「なんで私がそんなことしなくちゃいけないんです?」
恵「平沢さんの評判を落とすためでしょ?」
和「私がそんなセコイことするワケないじゃないですか」
恵「なんか追い詰められてる感じだったから、
やってもおかしくはないと思うわ」
和「そんな推定だけで人を犯人扱いしないでください」
恵「……本当にやってないのね?」
和「やってません」
恵「ここに機密諜報部の調査結果があるんだけど」
和「えっ」
恵「掲示板やミクシイへの書き込みの全てが
あなたの家のパソコンからのものと確認されたわ」
和「……」
恵「やったの?」
和「やりました」
111 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/16(日) 20:09:04.25 ID:ySZFhP0z0
恵「はあー……
もう呆れて言葉も出ないわ」
和「でもっ……でも、仕方ないじゃないですか!
こうする以外に方法が思いつかなかったんです、
唯の支持率を下げて、それで……」
恵「あなたは馬鹿なの?
こんなことで人の支持率が下がるワケないでしょう。
大体この件で下がるのは、どう考えてもあなたの支持率よ」
和「じゃあ他にどうしろって言うんですか!
唯に勝つにはもう正攻法じゃダメなんです!
もうこういう卑怯な手を使ってでも……!」
恵「いいかげんにしなさい!!」
和の頬に平手打ちが炸裂した。
和「っ!」
恵「あなたは自分を見失っているわ。
そんな手を使って当選して、嬉しいの?
大事な友人を傷つけても?
あなたがそんなふうなら、私はもうあなたの応援はしないわよ」
和「……」
122 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/16(日) 20:17:38.03 ID:ySZFhP0z0
恵「そんなに必死になって、
みんなからの支持を得られると思う?
そんなあなたに誰がついてくるのよ」
和「……」
恵「あなたの気持ちはわからなくもないけど、
真面目に、誠実に、正攻法でやるしかないのよ」
和「でも……それじゃ勝てません」
恵「なぜそんなに勝ちにこだわるのよ。
あなた、そんなに生徒会長をやりたいの?
それとも……ただ平沢さんに負けたくないだけ?」
和「……」
恵「幼馴染で、いつも一緒にいた平沢さんに負けることが怖いの?」
和「……そんなことありません!」
恵「そう、それならいいんだけど。
じゃあ、もうこんな卑怯な真似は二度としないようにね」
128 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/16(日) 20:22:08.56 ID:ySZFhP0z0
和「分かってます。
……会長」
恵「なに」
和「明後日の応援演説……
お願いしますね」
恵「ええ、合点承知の介よ」
和が突っ込むべきかどうか迷っていると
廊下の向こうで黄色い声が聞こえた。
和「? なんでしょうか」
恵「平沢さんが来たみたいね」
和「唯……」
恵「どうする? 謝りにいく?」
和「……」
131 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/16(日) 20:25:32.40 ID:ySZFhP0z0
「あっ、平沢さん!」
「平沢さんおはよー! もう大丈夫なの?」
「ヒドイことする人もいたもんだね」
「誰がやったかは分からないけどね、誰がやったかは!」
「私、平沢さんのこと応援してるからね!」
唯「ありがと~、みんな~。私、頑張るから」
きゃーきゃーわーわー
和「……」
恵「今の彼女は悲劇のヒロインね。
多分さらに支持率を伸ばすでしょう」
和「そうですね……
私の支持率が下がって、
そのぶん唯に行きますね」
恵「それについては完全にあなたの自業自得ね。
まあ残り2日間、せいぜい正々堂々と頑張りなさい」
和「はい」
141 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/16(日) 20:40:24.64 ID:ySZFhP0z0
それから2日間。
和は普段の落ち着きを取り戻し、
冷静に選挙運動に臨んだ。
コピペ爆撃の件で和の支持率は急落し
ついに2%になってしまったが
それでも和はもう自暴自棄になることはなかった。
和(唯は選挙のことを真剣に考えてないと思ってた。
でも本当に選挙に対して真剣でなかったのは私のほうだったわ。
唯に負けたくないという気持ちが先走るあまり、
あんな卑怯な手段に出てしまった……)
唯に負けたくない……
ただ自分が負けず嫌いだからそう考えているのだと
和は思っていた。
和(でもそれは違った。
私はただ、唯に追い抜かれることが怖かったんだ)
いつも自分と一緒にいた唯。
和はいつも唯の上に立っていた。
唯の面倒を見て、唯を導く、
そういうことに自分の居場所を見出していた。
しかし今、和は初めて唯に上を行かれそうになっている。
今まであった居場所を失いそうになっている。
それを恐ろしく感じていたのだ。
そして火曜日、選挙運動最終日。
この時点で和の支持率は1%、唯の支持率は98%だった。
148 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/16(日) 20:48:01.04 ID:ySZFhP0z0
水曜日。
昼休み、候補者たちは講堂に集まって
5,6時限の立会演説会に備えていた。
恵「真鍋さん」
和「あ、会長。来てくれたんですね」
恵「そりゃ、あなたの応援演説をしなきゃいけないからね」
和「どうも」
恵「落ち着いてるわね」
和「はい」
恵「泣いても笑ってもこの立会演説会が最後の大勝負だわ。
正攻法で、正々堂々と、全力を出し切るのよ。
平沢さんに勝つためじゃなく、
納得できるかたちで勝負を終えるために」
和「分かってます」
153 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/16(日) 20:59:32.42 ID:ySZFhP0z0
そして立会演説会が始まった。
山田「ではこれより立会演説会を始めます。
司会進行は私、生徒会選挙執行部の山田尚子が努めさせていただきます。
この立会演説会は各立候補者の5分間の演説、
そして5分間の応援演説、5分間の質疑応答によって進められます。
候補者及び応援者が話している最中には私語は慎み、
真剣に耳を傾け、私たちの学校生活について~うんぬんかんぬん」
舞台の上には各候補者の名前を書いた垂れ幕、
その下にパイプ椅子が並べられて候補者たちが並んで座っている。
山田が投票上の注意事項やルールについて説明した後、
候補者の演説がスタートした。
山田「えーでは、早速候補者の演説に移りましょう。
まず一般役員に立候補された、1年1組の豊崎愛生さん、どうぞ」
豊崎「あ、ただいまご紹介に預かりました、
1年1組の豊崎です。
私はこの度、一般役員に立候補させていただき……」
生徒会長は最後なので、
順番が和に回ってくるまでにまだ時間がある。
和は昨日暗記した演説の文章を
もう一度頭の中で読み返した。
159 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/16(日) 21:09:17.13 ID:ySZFhP0z0
演説会と言うのは聴く方はたいへん退屈なので
生徒たちはすっかりだらけきっていた。
しかし唯の番が回ってくると
講堂内はがぜん盛り上がった。
山田「では次は、生徒会長に立候補した、
2年2組の平沢唯さん……」
唯「みなさん、こんにちは!
生徒会長に立候補した平沢唯です!」
「うおー、平沢さーん!」
「待ってました!」
「応援してるよー!」
「真打ち登場!」
「頑張ってー!」
山田「みなさん、お静かに」
唯「えへへー」
和「……」
恵(さすが支持率98%……)
161 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/16(日) 21:18:23.94 ID:ySZFhP0z0
唯「えーと、私が生徒会長に立候補したのは、
まずひとつの理由があります!
それは部活動をもっと活気づけようということです!
私は軽音部に入ってるんですが~云々」
和「……」
和はここで初めて、
唯が生徒会長候補として人前で話しているのを見た。
話自体は別に斬新でも何でもない
テンプレ通りの平凡な内容なのだが、
和はなぜかそれに引きつけられて、
唯から目が離せなかった。
唯「……それから、みなさんの学校生活の細かい不満なんかも、
できるだけ聞き入れて解決していきたいと思います!
第2校舎横にある目安箱、あれをもっと目立つとこに置いてですね……」
気づけば講堂内も静まり返っていた。
すべての生徒が、教師が、
唯の話に聞き入っていた。
これだけ多くの人を相手に、
物怖じせず話すどころか、がっちりと心をつかんでいる。
いつの間に唯はこんな立派な人間になったのか……
和は少し胸の奥が痛むのを感じた。
163 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/16(日) 21:25:11.38 ID:ySZFhP0z0
唯「私の演説は以上です!
ご清聴ありがとうございました」
唯がお辞儀をした後、
一瞬の間を置いて拍手が沸き起こった。
山田「平沢さん、ありがとうございました。
次は平沢さんの応援演説を、
1年2組の中野梓さんがおこなってくれます」
梓「あ、えと……
1年2組の、中野梓です。
唯先ぱ……平沢先輩の応援演説をさせていただきます」
「ぱちぱちぱち」
和「梓……」
恵「後輩目線から語ることによって
1年生に親近感を持たせる……いい手だわ」
和「支持率98%でそんな策略がいりますか」
171 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/16(日) 21:33:13.45 ID:ySZFhP0z0
梓「で、うんぬんかんぬんで、
ぜひ唯先ぱ……平沢先輩を、生徒会長に選んでください!
どうか清き一票をお願いします!」ぺこり
ぱちぱちぱちぱちぱち
山田「中野さん、ありがとうございました。
では次は平沢さんへの質疑応答ですが、
誰か質問はありますか。ありませんね。
じゃあ、生徒会長に立候補した真鍋和さん、演説をお願いします」
和「はい」
恵(頑張るのよ……真鍋さん)
和(そうだ、これが最後だ……
もう小手先の卑怯な手段も、必死になって票を乞うようなことも必要ない。
ただ自分の想いをすべての生徒に真摯に語る、
それが立候補者としての努めだ。
たとえ勝てないと分かっていても)
唯「…………」
和「ただいまご紹介に預かりました、真鍋和です――」
――
――――
――――――
175 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/16(日) 21:40:43.64 ID:ySZFhP0z0
放課後、生徒会室。
ガラッ
和「会長」
恵「あら、どうしたの?
開票結果はまだ出てないわよ」
和「それは分かってます。
ただお礼を言いたくて……ありがとうございました」
恵「お礼を言われるようなことをした覚えはないわ」
和「いえ、色々お世話になったので。
この選挙中も、
あと今までの生徒会活動の中でも」
恵「あら、そう。
嬉しいことを言ってくれるわね」
和「ところで、開票結果はいつ分かるんですか」
恵「もうすぐ出ると思うけど、
あなたに教えるわけにはいかないわ。
明日の朝発表されるから、その時に見なさい」
和「はい」
183 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/16(日) 21:47:15.90 ID:ySZFhP0z0
恵「あー、でも私も今日で会長終了か」
和「今までお疲れ様でした」
恵「私個人としては、会長職はあなたに継いでほしかったんだけど……
無理っぽいわね」
和「仕方のないことですよ。
唯は……私が思っていたよりも、
立派に成長していました。
それこそ私以上に」
恵「そう。
なら平沢さんに任せて安心かしらね」
和「でしょうね……」
恵「……」
和「あの、今日は……もう帰ります。
さようなら」
恵「さよなら」
和「さようなら……」
188 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/16(日) 21:54:36.33 ID:ySZFhP0z0
翌日。
和はいつもより20分も早く学校に向かった。
結果は分かりきっていたが、
早く自分の目で確かめたかったのだ。
校門を入ったところには人だかりが出来ていた。
みんなの視線の先には看板が並んでいた。
生徒会の役職名と、当選した候補者の名前が
それぞれの看板に大きく書き出されていた。
中でも新生徒会長の名前が書かれた看板の前には
特に多くの人が集まっていた。
和のその人だかりの中に入っていく。
澪「あっ、和」
和「澪……結果見た?」
澪「うん」
澪はバツの悪そうな顔で頷いた。
集まっていた人々は和がいることを知ると
さっと左右に分かれた。
和の目に看板にかかれた名前が飛び込んできた。
198 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/16(日) 22:05:21.49 ID:ySZFhP0z0
予想通りそこに書かれていたのは和の名前ではなかった。
和「……」
澪「ざ、残念だったな、和……」
和「ええ……
でも全力を出したから悔いはないわ」
唯に負けた。
これは和にとって初めてのことだった。
唯はいつでも和のあとをついてきて、
和がいなければ何もできないような子だった。
しかしそれは和の思い込みだった。
唯はもう一人で生きて行けるようになっていたのだ。
和「……」
唯自身はそれを自覚しているのだろうか。
和を追い抜いたことを、
もう自分ひとりで大丈夫だということを。
これからの唯は、もう和に頼ったり
相談したりすることも……
和(あ……
そうか、唯は最初から全部そのつもりで……)
211 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/16(日) 22:17:06.88 ID:ySZFhP0z0
思えば最初からおかしかった。
何をするにしても和に頼りきりだった唯が、
和に言われなければ何もやろうとしなかった唯が、
一言も和に相談することなく生徒会長に立候補したのだ。
唯はもう和に頼らずとも生きていけるということを
自分でもなんとなく分かっていた。
だから和を追い抜くことによって、
それを証明しようとしたのだ。
そして唯は見事成功した。
和以上に全校生徒の期待を背負い、
和以上に熱い信頼を寄せられ、
和を蹴落として生徒会長の座についた。
和(唯は私のもとから羽ばたいていった。
じゃあ……残された私はどうすればいいの、唯……)
呆然と立ち尽くす和の耳に、
唯の声が聞こえてきた。
和は唯に見つからないよう、
人ごみにまぎれて逃げるように校舎の中に消えていった。
お わ り
212 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/16(日) 22:17:46.93 ID:ySZFhP0z0 [59/60]
これでおしまい
こういう和ちゃんもいいよね
じゃあオナニーして寝る
240 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/16(日) 22:51:32.14 ID:naLPDXmeP
>>34の伏線みたいなものはどうした
254 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/16(日) 23:07:26.24 ID:ySZFhP0z0 [60/60]
>>240
>>34に出てたのは機密諜報部の支持率調査隊でござる
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