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黒子「半額弁当ですの!」

1 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/05/13(木) 16:15:47.62 ID:yepqOhQo [1/24]
某イラスト投稿コミュニティで前作(下記参照)の絵を書いてくれてる人が居たのに感動して
続編を書き始めてしまった。

さすがに3回目をVIPで立てる勇気はないのでこちらでやらせてもらいます。
ちょっとずつだけど数日以内には終わらせる予定なので興味のある方は支援してくれると嬉しいかも。

ちなみに前作(VIPでやってた時)のURL

黒子「半額弁当?」

黒子「ひなまつり弁当360円ですの?」

注:このSSはとある魔術の禁書目録のキャラをベン・トーの設定で動かしたクロスオーバー物です。
  原作を知らなくても一応楽しめるようには書きますが、原作のキャラや他のラノベキャラが脇役として出てきます。
  一応原作だけでも読むと、より一層楽しめるかも知れません。

2 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/05/13(木) 16:20:31.77 ID:yepqOhQo

 また来てしまった。
 と、彼女は思う。 
                                         スーパーマーケット
 曲がりなりにも常盤台のお嬢様である自分が、庶民の味方である大型小売店に来て、いいものかと。
 しかしその問いはこれまで何度も繰り返してきたものだ。
 そして、その度に打ち消してきた考え。

 今夜もその思いを振り払い、彼女はスーパーの自動ドアを潜る。
 精練された空気と陽気なBGMが自らを包み、迎えてくれるのを、彼女は感じた。
 同時に、突き刺さるような視線を感じる。二つ名付きの自分に、周りが警戒しているのだ。

 その中に、自分の相方がいない事に、安堵を覚えた者の気配も感じる。
 確かに彼女は二つ名付きとしては経験が浅いだろう。しかし、それでも二つ名付きだ。
 今胸をなで下ろした者達は確実に、彼女を舐めた事を後悔するだろう。

3 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/05/13(木) 16:23:10.92 ID:yepqOhQo
 周りの視線を一身に受けながら、彼女はカゴを手にとり、ズンズンと売り場の奥へと進んでいく。

 そしてその最奥、弁当コーナーへと辿り着いた彼女は売り場を一瞥し、すぐに歩き出す。
 半値印証時刻を前にして残っている弁当はたったの二つ。

 荒れるな。と彼女は思考し、しかし思いに反して売り場から少し離れた位置に陣取る。
 飢えた狼たちが殺到するのを待ち、そこを一網打尽にするのだ。
 彼女にはそれをするだけの自信があり、そして実力があった。

 彼女は生鮮コーナーから流れてくるハムソーセージの歌を聞きながら、お菓子コーナーに足を止め、
おまけ付きと言いながらもその実おまけこそが本命であり、申し訳程度にしかお菓子のついていない、
ラムネ菓子のパッケージを凝視し始める。

 箱に印刷された、緑色の体に紳士服を見にまとい、ちょび髭を生やした奇妙な生物を眺めながら、彼女はただ時を待つ。

4 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/05/13(木) 16:26:12.06 ID:yepqOhQo
 どれほど経ったろうか、不意に辺りの気配が鋭く、研ぎ澄まされていくのを感じた。
 半額神が降臨したのだ。

 神が奏でる福音を耳にしながら、彼女は己の身が震えるのを感じる。

 恐怖ではない。歓喜だ。
 己を鼓舞し、震わせる音色に耳を傾けながら、彼女は思う。

 来た――と。

 ついに音楽は最終楽章へと転じ、鮮魚コーナーから聞こえるおさかな天国もサビへと突入していた。
 そしてペンを走らせるキュッキュと言う音で、演奏が締めくくられる。後は、奏者が礼をし、幕の奥へ消えるのをただ待つのみ。

 耐えきれず、目を向ける。
 そこには、にこりと笑いながら身を折り、お辞儀をする神の姿。

               ス タ ッ フ ル ー ム ゲ ー ト
 そして、パタンと『選ばれた者のみが潜ることのできる扉』が、閉じた。


 同時だった。彼女は見るものの目を奪うような華麗なスタートダッシュで、磨かれた床を蹴っている。

5 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/05/13(木) 16:27:53.60 ID:yepqOhQo
 弁当コーナーには、すでに幾人かの狼。
 そこへ合流するように、さらに多くの狼が駆けている。

 その中に、自分も居る。

 言い知れぬ連帯感に彼女の心が高翌揚するのがわかる。
 彼女はただ駆け、そして辿り着く。

 すでに弁当コーナー周辺は激戦区となっており、早くも再起不能となった狼が転がっている。
 彼女はその屍を踏み越え――跳んだ。


 跳躍。

 そして、落下。


 彼女は縁を握り締めていたカゴを振りかぶり、叩きつけた。

 轟音。
 ただその一振りで空気が弾け、豪風に吹かれた狼が木っ端のごとく飛び散る。

 獰猛な獣の笑みを浮かべた彼女は、返す刀で前方の狼をなぎ払った。

6 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/05/13(木) 16:36:25.17 ID:yepqOhQo
 なんだ、やはり弱いじゃないか。
 そう言いたげに笑む彼女に闘争心を刺激されたのか、あの時警戒の視線を緩めなかった狼の一人が飛びかかってきた。

 彼女の倍以上はある巨躯に刺青を入れた、買い物カゴを振りかぶるジャージの男。
 どことなくジョニーと言う名前が似合いそうな男に向け、彼女は無造作にカゴを振るった。

 人間の肉を打つ壮絶な音を響かせ、ジャージの男――ジョニーっぽい狼が吹き飛ぶ。

 瞬間、彼女は周りのターゲットが自分に向いたことを悟った。
 狼たちが視線だけで協力体制をとったのだ。

 面白い。

 彼女の体がさらなる歓喜に包まれ、震える。

 来い、と。彼女は歯をくいしばる。狩場の空気を、噛みしめる。
 来いよ雑兵。雷神の槌に、どれだけ耐えられるのかな、と。
 


 彼女の名は御坂美琴。
 その二つ名を、荒々しい戦い方と、槌のように買い物カゴを古う姿から『トール』と言った。




7 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/05/13(木) 16:39:37.48 ID:yepqOhQo
                          
                             ◆


 需要と供給、これら二つは商売における絶対の要素である。
 これら二つの要素が寄り添う販売バランスのクロスポイント……その前後に於いて必ず発生するかすかな、ずれ。
 その僅かな領域に生きる者たちがいる。
 己の資金、生活、そして誇りを懸けてカオスと化す極狭領域を狩り場とする者たち。

 ――人は彼らを《狼》と呼んだ。


                             ◆



       ベン・トー×とある魔術の禁書目録 3
                黒子「半額弁当ですの!」 

                           ――狼と半額弁当が交差する時、物語は始まる。   



8 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/05/13(木) 16:45:19.99 ID:yepqOhQo

 《用語集》

・狼
 スーパーでの暗黙のルールを理解し、誇りを持って半額弁当の奪取に当たる人間のことを指している。
 無論、実際の狼は半額弁当を求めてスーパーに行ったりはしない。
 またよく狼には凶暴なイメージがつきまとうが、実際にはそれほどではなく、縄張りを荒らしたり不用意に刺激したりしない限りまず人は襲わないとされる。

・犬
 半額弁当を狙ってスーパーにやってくる未熟者を指している。
 余談だが、猫派か犬派かと問われれば>>1は猫派。それも日本猫が特に好き。

・半額神
 総菜、弁当等に半額シールを貼る店員のこと。敬意をこめて〝神〟と称えられている。

・二つ名
 主に《狼》の中から特出した強さ、個性を有する者に自然と付く本名とは別の名のこと。あだ名。
 基本的にその者の見た目や、戦闘スタイル、経歴などから付けられる。
 ただしある程度有名になれば《狼》でない者にも付けられる場合もある。


9 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/05/13(木) 16:46:30.60 ID:yepqOhQo
《狼》紹介

・白井黒子
 常盤台中学に通う第七学区の《狼》
 まだ新米の《狼》だが、上条当麻の指導により覚醒、才能の片鱗を見せる

・上条当麻
 第七学区の学校に通う高校生で、スーパー『セブンスマート』を縄張りとする凄腕の《狼》
 《幻想殺し》の二つ名を持つ。

・結標淡希
 孤児院の院長代理を務める少女。かつては古参の《狼》だったが、心の傷からアラシとなる。
 しかし黒子達との戦いにより目を覚まし《狼》へと戻る。
 《座標移動》の二つ名を持つ。

・茶髪の女
 上条当麻と同じ学校に通う3年生。大変いい胸をしている。

・坊主の男
 上条と同じ学校の2年生。顎鬚とよくつるんでいる。

・顎鬚の男
 上条と同じ学校の2年生。坊主とよくつるんでいる。

 《半額神》

・錬金術師
 『セブンスマート』の半額神。
 どんな食材も美味しく調理することからそう呼ばれている。
 

10 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/05/13(木) 16:48:05.43 ID:yepqOhQo

 《弁当争奪戦の掟》

一つ、争奪戦前は弁当コーナーから離れよ。

一つ、開始の合図は半額神がスタッフルームの扉を閉じた瞬間なり。

一つ、弁当を手に入れたものを攻撃するなかれ。

一つ、スーパーがリングだ!



12 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/13(木) 16:58:24.33 ID:yepqOhQo
第一章 トール   だめだめ、お嬢様学校は規則が厳しいんだから >御坂美琴


 白井黒子は人生の岐路に立たされていた。

 人生は選択の連続だ。
 例えばそれがエロゲーならば選択肢の直前でセーブをすればいいのだが、いかんせん人生というゲームは
セーブポイントが存在しない上にリセットも出来ない。そして選択肢も多岐に渡れば、その実、選択問題とも限らない。

 そんな中で単純な二者択一というこの状況は恵まれているとも言える。

 しかし、究極の選択という『カレー味のウンコかウンコ味のカレーか』と言うような、二択問題の最も度し難いケースも確かに存在する。
 この選択は、言ってしまえばその究極の選択とも言えた。

黒子「いえ、さすがにこれをウン○と同列に語るのはどうかとおもいますの」

上条「何か言ったか?」

黒子「何でもありませんわ、ただの独り言ですの」



14 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/05/13(木) 16:59:41.37 ID:yepqOhQo
上条「ま、いいけどよ。嫌なら別にいいんだぜ。このチケット、結標あたりにでも渡すからさ」

黒子「いえいえ、あのような何の教養も無い女に、映画文化が理解できるはずもありませんの」

 そう、彼女は今、上条当麻から直々に映画へ誘われているのだ。

 それだけならば何の問題もない。二つ返事で了承するだけの話だ。
 しかし、しかしだ。その日はなんとも間の悪いことに、黒子の敬愛する御坂美琴からもショッピングの誘いを受けていたのである。

黒子(お姉さまはショッピング程度なら度々誘ってくださいますが、当麻さんとは半額弁当争奪戦以外では殆ど会う事すらありませんの!
    しかし最初に誘って下さったのはお姉さまですし、最近お姉さまも何やらお忙しいご様子……あーもう! わたくしには決められませんの!)

 がくんがくん頭を振りつつ悶絶する黒子に若干引きながらも、上条はその様子を見守っている。

15 名前:またageちまった[sage] 投稿日:2010/05/13(木) 17:01:32.33 ID:yepqOhQo

 そもそもこの映画のチケット、抽選でしか当たらない、いわゆる試写会のチケットであり、そういったイベントにそれほど興味のない上条が持っている理由も、
たまたま当たったが予定がかぶって行けないという金髪グラサンの友人から貰ったという程度の物であって、上条自身もこの映画を見たいわけではなかったのだ。

 それならば予定が会う日に見たい映画を二人で観に行けばいいだけの話なのだが、今の黒子はそういった判断すら出来ないほど混乱していた。

 と、言っても、常に金欠な上条を映画に誘うには、彼の分も自分で負担するくらいでなくてはならないだろうが。

上条「あー、そんな真剣に考えなくてもいいぞ?」

黒子「ここで真剣にならずどこで真剣になれと言うんですの!」

上条「……すいません」

黒子(落ち着くんですのよ白井黒子! ここで当麻さまに怒鳴ってもしかたありませんの! ほら、当麻さんも『不幸だー』って顔をしていますし!
    決断するのです! そう、当麻さんもお姉さまも不幸にならない、皆が笑って幸せになれる、ハッピーエンドって奴を!)


18 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/13(木) 17:06:32.03 ID:yepqOhQo

 ここで黒子に電流走る。
 そう、上条も美琴も幸せになれるたった一つの冴えたやり方を思いついたのだ!

黒子「と、当麻さん。すみませんがわたくし、その日は用事がありますの」

上条「そうかー、そいつは残念だな。じゃあ結標あたりにでも……」

黒子「お話は最後まで聞いて欲しいですの」

上条「え?」

黒子「実はその日、お姉さまとも約束をしていたのですが、いかんせん突然の用事が入ってしまったので、
   なかなか言い出せずにいたんですの…… お願いです当麻さん、わたくしの代わりに、お姉さまとその映画に行ってきてくださいませんこと?」

上条「えぇー!? ビリビリとか? いやいや、アイツにとってもイイ迷惑だろ」

黒子「そんな事はありませんの。ついでにショッピングに付き合って差し上げれば、それで満足されるハズですわ」


21 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/13(木) 17:14:11.20 ID:yepqOhQo

上条「あー、でもなぁ……」

黒子「駄目……ですの?」

 必殺上目遣い!
 これは黒子のみならず全ての女子が持つ必殺技であり、その効果は個々で差異があるものの、確実に相手に感情の変化を起こさせる技。

 そして、黒子ほどの美少女が使えば、頷かれずにはいられないのが男子のサガ!

上条「く、黒子がそこまで言うなら仕方ないな。いいぜ、行ってやるよ。ただし、連絡はお前の方からしてくれないか?」

黒子「もちろんですの!」

 決まった! と、黒子は内心でガッツポーズをする。
 まさに一撃必殺。殿方と言うのはちょろい物ですの。などと考える黒子である。

上条「それじゃ、時間とか決まったらまた連絡してくれよ。じゃあな、黒子」

黒子「ええ、それではごきげんよう、当麻さん」

 ふりふりと手を振って、去っていく黒子を機嫌よく見送る黒子である。

黒子(やりましたの! これで当麻さんがあの変態ショタコン女に取られることも、お姉さまが悲しむこともありませんの! 
    これで皆幸せに! ……って、あれ? 皆? その中にわたくしは? 含まれてないような……)

黒子(わたくしの幸せは? 青い鳥はどこですの!? あぁ――まって当麻さん! 今のは、今のは間違いですのぉぉぉぉぉぉぉ!!!)

 ちょろい女だった。


24 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/13(木) 17:27:27.36 ID:yepqOhQo

 数日後の日曜日。

                        ウ ェ ッ ト マ ン  
 第七学区駅前、集合場所として有名な『湿った手の男』象の前に、一人の少女が佇んでいた。

 茶色がかった短い髪に、スレンダーな体系、幼さを残しながらもどこか気品を感じさせる整った顔立ちに、そこへワンポイントを加える気丈そうなつり目。
 名門常盤台の制服を纏ったその少女こそ、学園都市の第三位、御坂美琴だった。

 なにやらそわそわしながら時計を気にしている彼女は、とある男性と待ち合わせをしている。その相手とは言わずもがな、上条当麻だ。

 あんな状態になりながらもきっちりセッティングを済ませた黒子は、カップルの聖地と名高いこの第七学区駅前を待ち合わせ場所に指定していた。
 周りにいるのはどれもこれも仲睦まじそうに寄り沿うカップルばかり。

 そんな中に若干の違和感と気恥ずかしさを覚えつつ、美琴は早めに集合場所へと到着していた。
 どれくらい早めかというと、実に集合時間の一時間前。既にかれこれ45分ほど、ウェットマン像の前で待ち惚けているのだった。


25 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/13(木) 17:29:53.00 ID:yepqOhQo

美琴(どうしようどうしようどうしよう! もう黒子の馬鹿! なんで私がアイツと映画を見に行かなきゃいけないのよ! 
    きききき緊張する! 変じゃないかな? 制服なのはしょうがないとしても、念入りにシャワーだって浴びてきたし、
    ネットで調べて薄くだけどメイクもしてきたけど! あーもう! 早く来なさいよぉぉぉ!!)


 ぐわんぐわんと黒子顔負けのヘドバンをかましながら悶絶する姿に周りの視線が突き刺さるが、彼女は極度の緊張でそれにすら気付いていない。


 過去に彼女は常盤台の友人であり過去のルームメイトであった石岡有希と共に、
深夜の無駄に高いテンションのまま、寝ている先輩の部屋へと侵入して顔に落書きをしてやろうと画策。
 美琴の能力で電子ロックを解除し、先輩の部屋へと不法侵入を果たした事がある。


 当時寮内で傍若無人を働き、嫌われていた先輩が皆に溶け込めるよう愉快なメイクを施してやろうという優しさの元行われた行為であったが、
この時ばかりは彼女が嫌われていたおかげでルームメイトがいなかった事に安堵を覚えた。

26 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/13(木) 17:32:07.33 ID:yepqOhQo

 すやすやと優しい寝息を立てる姿からは本来の暴君っぷりが伺えず、
隣の石岡はなにやら生唾を飲み込んでいたが、美琴はそれを意識して視界の外に追いやる。


 なにやらハァハァと荒い息を吐いて違う「イタズラ」を行いそうな石岡からマジックを奪い、美琴はそろりそろりとベッド近づいた。

 そしていざ落書きをしようとキャップを引き抜き、手始めに額へ『肉』と書いたところまでは良かった。


 彼女は油性ペン独特のあの匂いも、額を走るむず痒さも意に介せず寝息を立てていたのに、石岡のヤロウが興奮して、
ヨダレを先輩の顔へとおもいきり垂らしたのだ。


 さすがにその生ぬるさに身じろぎし体を起こそうとする先輩に動揺した美琴は『つい』石岡へと電気ショックを加え、
気絶した彼女へ油性マジックを握らせると、先輩の眠るベッドへと放り投げた。


 上がる悲鳴、走る美琴、なにやら得体の知れない笑を浮かべて気絶する石岡。

 美琴が間一髪自室へ戻る頃には、怯える先輩と寮監に拘束される石岡の姿があった。

 いつ石岡が自分を売るか分からない状態で、一睡もできずベッドで丸くなっていたあの時ですら、今のような緊張は無かったのに……。


 そして後日談。翌日石岡は一人で寮内全域の掃除を命じられていたが、友情に厚い彼女は美琴のことをバラすどころか、
一切のことを覚えていない様子だった。無論これは美琴の電気ショックの影響ではなく、彼女の友情パワーが成せる技である。


 ちなみにその先輩はあの夜のことがよほど怖かったのか、それ以降我侭をいうことも無く、
むしろ引っ込み思案の少女になってしまったのだが……先輩、元気かなぁ?

30 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/13(木) 17:43:57.36 ID:yepqOhQo
 そんな一人の少女を更生させ、友情を確かめ合った心温まる話をついつい思い出しつつ、美琴は時計をみやった。
 時計は集合時間の5分前を指している。

上条「悪いな御坂。待たせたか?」

美琴「ふ、ふぇっ?」

 時計をのぞき込んでいたところに急に声を掛けられ、美琴はつい飛び上がってしまう。
ビリビリと前髪から静電気が舞うが、それをコントロールすることすら出来ない。

 しかしそれも、上条が軽く右手を振るだけで打ち消されてしまった。

上条「あっぶねぇな。 何ですかいきなり? やっぱ俺と映画なんて、嫌……だったか?」

 必殺上目遣い!
 これは上条のみならず全ての男子が持つ必殺技であり、その効果は個々で差異があるものの、確実に相手の感情に不快感をもたらす技。
 しかし、上条が使った時のみ、美琴へ壮絶なダメージを与えることができる裏技である。

美琴「べ、別にっ!? その映画私も見たいと思ってたし! か、買い物に付き合ってくれるなら私はそれでいいもの!」

上条「そっか、それなら良かった。じゃ、早速映画館に行こうぜ」

美琴「えっ? あ、うん」

上条「行こう」
美琴「行きましょう」

そういう事になった。


31 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/13(木) 18:06:54.98 ID:yepqOhQo
 今回二人が見る事となった映画は全米で大ヒットしたハリウッド産ファンタジーの続編で、魔物の調停士である主人公が
相棒の魔法使いとブルドックを連れて旅をするという内容なのだが、黙々とその映画を見続ける上条と、
隣に上条がいる状態で悶々とする美琴を延々描写する勇気はさすがにないので、映画館での出来事は省かせてもらうと、
映画館から出た二人は今、最寄の喫茶店に来ていた。


上条「いやぁ、しかしバトルシーンは熱かったなぁ。まさか毒獣マンティコアをあんな方法で倒すとは」

美琴「でもサトウも可愛かったわよね! あー、私もブルドック飼いたい!」

上条「常盤台の寮ならそういうの融通効くんじゃないか?」

美琴「だめだめ、お嬢様学校は規則が厳しいんだから」

上条「へぇ、なんだかんだで御坂もお嬢様なんだな」

美琴「な、なんだかんだって何よー」

上条「ははは、わりぃ。冗談だって」


32 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/13(木) 18:09:19.91 ID:yepqOhQo
美琴(あれ? なんか普通に話せてる?)

 そう、気づけば二人は映画の感想を言い合っていたのだ。 
 その間に美琴が緊張で爆発することも無く、上条も上機嫌で話に乗っている。
 
美琴(あぁ、この時間がずっと続けばなぁ……)

上条「さて、そろそろいい時間だし、お前の買い物にでも行くか」

美琴「あっ……」

上条「ん? どうした、なんか忘れもんか?」

美琴「ううん! なんでもないの、行きましょ」

美琴(あーあ。もう少し話、したかったなぁ……)

 美琴の後悔も束の間、二人は喫茶店の外に出て、一路セブンスミストへ向かう。
 と、大通りまで出た時のことだった。美琴の携帯が着信を告げる。


33 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/13(木) 18:12:43.12 ID:yepqOhQo

美琴「あ、ごめん。ちょっと出る」

美琴「もしもし……うん……うん、分かってる。……え? 今から? でも……うん。分かった。すぐに」

上条「どうした?」

美琴「ごめん、私急用ができたから。今から付き合ってもらうってのに悪いわね」

上条「それはいいが……良かったのか? 買い物」

美琴「すぐに必要なものでもないし、大丈夫よ」

上条「そっか。じゃあな、御坂」

美琴「……うん、じゃあね」

 手をふり、別れる。
 去っていく美琴を見送り、上条は少し早いがスーパーへと向かうことにした。


34 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/13(木) 18:17:54.00 ID:yepqOhQo
美琴「本当に、やるの?」

??「ええ、これは我々全勢力を懸けた闘いですから」

美琴「……それは、復讐?」

??「いいえ、決別ですよ。過去の、弱い自分との決別。これを以て、私は第七学区最強の《狼》となる…… 
   上を目指したいというこの思い。貴女なら分かってくれますよね? 
   レベル1から努力だけでレベル5にまでのし上がった、『超電磁砲』の貴女なら」

美琴「確かにわからなくも無いけれど……」

??「私は無力でした。だから、力が欲しい。そう思い努力して、私はこの二つ名を手に入れた。
    そして次はこの第七学区を手中に収め、最後には学園都市最強の《狼》となる……!」

美琴「…………」

??「そのためにも、あの《幻想殺し》を倒さなくてはなりません。あの忌々しい、セブンス・マートの主!」

美琴「幻想……殺し」

??「そうです。待っていて下さい《幻想殺し》――いえ、上条当麻。貴方は私の手で、かならず息の根を止めてみせます」



??「さぁ、戦争の始まりですよ」



第一章 終了

35 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/13(木) 18:18:55.11 ID:yepqOhQo [24/24]
こんな感じ。
続きはもうちょっと書きためができたら投下します。

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