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男「パン好き少女の話」

1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/29(水) 10:23:15.78 ID:zAjBsxBQ0 [1/34]
 その人は授業中も食パンを食べていました。
 
 英語の先生がダストパンと言った時にはダスト・パン! と嬉しそうに言いながらマーガリンを塗っていました。

 校庭では体育祭に向けての練習がなされていて、鉄砲のパン! という音が聞こえるたびに、パンだ! と嬉しそうにいいながらケチャップを塗りたくっていました。

 音楽の授業で、発声練習のあと手拍子を取らされた時、その人は手拍子の音を心地よさそうにきき、一人だけ口拍子を取りながらバターを熱心に塗っていました。

 僕が一枚頂戴というと、ごはんがススム君でしょくぱんまん風の装飾をしてある食パンを出し、腹話術で僕の顔を食べなよと言ってパンを契ってくれました。

 僕は、しょくぱんまんの一人称はわたしだよなと思いながら、パンを頬張りました。




2 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/29(水) 10:26:17.17 ID:zAjBsxBQ0 [2/34]
 休み時間はアンパンになっていることに気付きました。シンナーじゃありません。
 
 アンパンといっても市販の物ではなく、熱心にその人は食パンを丸めて餡子を詰めていました。パンが好きなんだなぁと僕は思いました。

 その後例によってごはんがススム君とミニトマトで装飾をしていました。

 僕は、頂戴と言わなければいけないという使命感のような物に襲われ、その人の元へ行きました。

 その人は非常に嬉しそうに僕にアンパンをくれました。甘い物が苦手な僕は、友人にあげることにしました。

 友人は貰ってくれませんでした。なぜか、からかうなと怒られました。

4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/29(水) 10:30:19.56 ID:zAjBsxBQ0 [3/34]
 次の授業ではなぜかトーストになっていました。僕はトースターを探しましたが、どこにも見当たりませんでした。

 気になって仕方がなかった僕は、なぜトーストになっているのか訊ねました。

 するとその人はおもむろに袋から食パンを取り出し、手をあてました。

 何ということでしょう。トーストになりました。その人は得意そうに、白い歯を剥き出しにして微笑みました。

 僕は、この人とは握手できないなと思いながら、その可愛い笑顔を眺めていました。

5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/29(水) 10:34:24.52 ID:zAjBsxBQ0
 どうやら何らかの節目でパンの種類を変えているようで、休み時間にはピザトーストになっていました。

 よく考えれば一時間目のケチャップパンと、三時間目のトーストの融合です。

 僕がピザトーストかい? と訊ねると、うん。ピッツァトーストだよ。と、発音を正されました。
 
 貰うべきか考えているとどうやらピザトースト、もといピッツァトーストは好物のようで、ジト目で睨まれました。

 敢えて頂戴といってみると、耳に手をあてて、あわわわわわとやり始めました。
 
 仕方ないので諦めることにしました。

6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/29(水) 10:39:00.11 ID:zAjBsxBQ0
 四時間目は怖い古典の先生でしたが、そんなの関係ねぇといった面持ちでジャムパンを作成していました。
 
 古典の先生は気付いていないのか、何も言いません。僕は授業もよそにジャムをぬりたくるその人の姿を見つめていました。

 するとなぜか当てられました。突然の緊急事態にしどろもどろになっていると、その人が小声で答えを教えてくれました。

 僕は、こいつ、エスパーかと思いながらも感謝して、堂々と答えました。

 不正解でした。

10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/29(水) 10:43:28.35 ID:zAjBsxBQ0
 五時間目はカレーパンでした。加齢臭漂う女の先生の授業で、カレー臭が漂っていました。
 
 食事後の食べ物の匂いというのは満腹感を増幅させるようで、何人かが吐き気を催し席を立ちました。皆匂いは感じるんだ。と思いました。

 僕は昼食を食べていなかったので、むしろお腹が空き、お腹がなり、怪訝そうな目で見られました。

 カレーパンは市販ではありませんでした。どこからかカレーの鍋がでてきていました。例によって体温で鍋を暖めていました。

 カレーだけくれよといってみると、物凄い勢いで睨まれました。その後、カレーとパンは切っても切れない縁なのだと説教を十分ほどくらいました。

 カレーパンマン風にしないのかを聞くと、声が嫌いという良くわからない理由で流されました。

11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/29(水) 10:47:55.70 ID:zAjBsxBQ0
 休み時間もカレーパンでした。あれ、続いたねといってみると、ビーフシチューパンだと言われました。

 そんなパンないだろと思いながら、僕はパンをねだってみました。

 どうやらそんなに好きではないのか、睨まれませんでした。

 思いの他おいしかったので、うわ、結構あうねと言ってみると、だってパンを契ってシチューにつけるのはよくやるでしょ? と返されて、言われてみればその通りだと感嘆しました。

 そんなことで関心するのか、君は実に馬鹿だなと侮辱されました。

 頭にきた僕は、五時間目のカレーの鍋をひっくり返し、ビーフシチューの鍋に入れてやりました。

 その後の悲痛そうなその人の表情をみて、心底後悔しました。

12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/29(水) 10:53:02.75 ID:zAjBsxBQ0
 最後の授業はチョコレートパンでした。市販チョコレートを手でとかし、パンに塗りたくっていました。便利な手だなぁと思いました。

 それじゃあ手作りチョコを簡単に作れるねと言ってみると、作ってもすぐに形が崩れるともっともな返答をされました。

 怖い物触りたさで指をちょんと手にあててみると、一瞬にして皮膚がとけ僕の指と彼女の手の平が接合しました。

 まるで片腕同士に手錠がかかって鍵がなくなってしまった様なシチュエーションでした。

 風呂とトイレはどうしようと僕が考えていると、その人はためらいもなくハサミで接合部をちょん切りました。

 皮膚は切れ、少し血がでました。

 僕が痛がりながら指を抑えていると、その人はすまなそうに絆創膏とチョコパンをくれました。

 そのパンは、その日食べたどのパンよりも美味でした。優しさの味でした。

13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/29(水) 10:58:46.11 ID:zAjBsxBQ0
 次の日の一次限目は、コーヒー牛乳にパンを浸していました。

 何かは手作りしないと気がすまないのか、コーヒー牛乳はお手製、つまりカフェオレでした。

 湯気がたっていました。コーヒー牛乳つけパンは冷たいコーヒー牛乳でしかやったことがないので、僕は、それ美味しいの? と訊ねてみました。

 その人は嬉しそうに、うん! 美味しいよ! と答え、カップとパンを差し出してきました。

 僕は勇気をだして口にしてみました。

 思いの他美味でした。

14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/29(水) 11:03:31.36 ID:zAjBsxBQ0
 休み時間はメロンパンでした。市販のものでした。好物なのか鼻歌を歌いながら袋を開けていました。

 ねだるタイミングをはかっていたら、無言でその人はメロンパンを一個差し出しました。

 拍子抜けでした。僕はすこし固まった後、お礼をいって受け取りました。

 食べてみると、メロン果汁が入っていることに気付きました。

 くれた理由はこれかと思いながら、僕はパンをほおばりました。

15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/29(水) 11:09:18.68 ID:zAjBsxBQ0
 パンはパンでも食べられないパンはなーんだ? 突然質問されました。

 フライパンは違いました。ダストパンも違いました。

 ちりとり? と日本語訳してみると、は? と怪訝そうな顔で言われました。

 万策尽きてカビたパン? といってみると、なんと正解でした。

 正解賞にカビたパンをもらいました。ちょっぴり泣きそうになりながらゴミ箱に放り投げました。

16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/29(水) 11:17:49.21 ID:zAjBsxBQ0
 二時間目はフランスパンでした。市販の物でした。

 普段食パン的メニューが多いので、ちょっと趣向を変えたの? と訊ねてみました。

 すると、何? 観察してるの? と変態扱いされてしまいました。

 ショックでした。席が隣なのだからいやでもわかるだろうという余裕もありませんでした。

 デレ期の前のツン期なのだろうと解釈することにしました。救われました。

19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/29(水) 11:24:57.44 ID:zAjBsxBQ0
 その人は唐突にフランスパンを渡してきました。

 不思議に思ってよくみると、歯型がついていました。

 噛みきれなかったのかと思い、食べようとして、これは間接キスになるのかという疑問が頭をよぎりました。

 お構いなしに食べました。すると案の定と言うかなんというか、食べるんだ……と侮蔑の眼差しを向けられました。

 それもツンデレと解釈しました。なんとか救われました。

20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/29(水) 11:31:16.39 ID:zAjBsxBQ0
 休み時間は焼き蕎麦パンでした。市販の物ではなく、自分で作った焼き蕎麦をパンに挟んでいました。

 どこからともなくフライパンがでてきていましたが、もう何の疑問も抱きませんでした。慣れって怖いと思いました。

 焼き蕎麦パンは好物なのでもらおうとしたら、その人も好物のようで睨まれました。

 悔しいので、へぇ君も焼き蕎麦パン好きなんだ。僕もだよ、気が合うねというと、その人は、そんなに好きじゃないといって焼き蕎麦パンを渡してきました。

 だんだん扱い方を心得てきました。

22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/29(水) 11:36:36.00 ID:zAjBsxBQ0
 三時間目はクロワッサンでした。ちゃんとしたクロワッサンでした。

 それも市販なんだね。というと、食パンじゃ作れないとのことでした。

 クロワッサンって三日月って意味なんだよと豆知識を披露すると、それ一般常識じゃんと返されました。ショックでした。

 美味しそうにさくさく食べていたので、ねだろうと思いましたが、その前に猛スピードで完食されてしまいました。

 段々意地が悪くなってきたなと思いました。

23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/29(水) 11:42:37.68 ID:zAjBsxBQ0
 四時間目は再度カフェオレパンでした。
 
 これならねだられないという考えの元でしょうか。思えばあの時は話し方も反応も素直でした。

 何かいけないことをしたかとしばらく考えましたが、心あたりはありませんでした。

 よく考えたらカビのパンもおふざけかもしれません。観察しているのか尋ねたのも、純粋な疑問だったのかもしれません。

 そう考えると自分がとても愚かに思えてきました。

 僕はその人に謝りました。その人は最初不思議そうでしたが、やがて笑顔になりました。

 再び心は繋がりました。

25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/29(水) 12:08:19.36 ID:zAjBsxBQ0
 昼休み。その日は僕も弁当を持参していました。

 一応食べるかきいてみましたが、パンじゃないというたった一つの単純な理由で拒否されました。

 彼女はメロンパンをほおばっていました。ダブりが多い日でした。

 僕はメロンパンナちゃんの頭からメロンジュースがでることを得意気に話しました。

 するとその人は、所詮メロンパンナもメロン果汁入りの邪道メロンパンかと見下し始めました。

 アンパンマンを馬鹿にしちゃだめだよと僕が諭すと、その人は、じゃあ聞かなかったことにするよと言ってくれました。

 素直な人だと思いました。

27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/29(水) 12:13:14.22 ID:zAjBsxBQ0
 五時間目。久しぶりのトーストでした。その特技をみるのも久しぶりでした。

 久しぶりだね。といってみると、え? 昨日も食べたじゃんと返されました。

 確かにたった一日ぶりでした。六時間目にはその特技に痛めつけられました。

 君をみていると時間が長く感じてしまうね。というと、一瞬その人顔を赤らめて、その後元の面持ちに戻り、嫌いな人といる時間は長く感じるだろうねと返してきました。

 ショックでした。確かに、普通なら短く感じるべきでした。反省しました。

 ただ、少し残念そうだったのは嬉しかったのでした。

28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/29(水) 12:19:31.37 ID:zAjBsxBQ0
 休み時間、少しその人は不機嫌そうに、フランスパンに再度挑戦していました。本当にダブりの多い日でした。

 不機嫌そうなのはそれだけ僕を意識しているということなので嬉しかったのですが、やはり返答してくれないのは悲しかったです。

 その人は必死に噛み切り、そしてついに、フランスパンを食べることに成功しました。

 すると、やったー! 食べれたよ! と僕に話し掛け、一瞬固まり、顔を赤らめて二口目を食べ始めました。

 失礼かもしれませんが、物凄く和みました。

29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/29(水) 12:26:13.31 ID:zAjBsxBQ0
 六時間目はこっぺぱん。また食パンじゃありませんでした。

 こっぺぱん単品で食べていたので、それだけで美味しいのと訊くと、相当僕と会話をしたくないのか、頷くだけでした。

 ふぅんとそっけなく返すと、その人は少し沈黙して、食べてみる? とパンを差し出しました。

 ありがたくいただくことにしました。

 普段はこっぺぱんを美味しいとは感じませんが、その時食べたこっぺぱんは、とても美味しかったのでした。

30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/29(水) 12:34:56.46 ID:zAjBsxBQ0
 帰り道、コンビニで漫画雑誌を立ち読みしていると、どういうわけかむしょうにパンが食べたくなりました。

 僕は雑誌を置いてパンコーナーへ向かい、適当にパンを取ってレジに向かいました。

 こんなにパンを食べたいと思うのも、コンビニでパンを買うのも初めてのことでした。

 僕は、これも彼女の影響かな、などと思いながらパンを頬張り帰りました。

32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/29(水) 12:45:39.05 ID:zAjBsxBQ0
 次の日は、朝からパンを食べていました。

 シュークリームの中のクリームを、パンに塗りたくっていました。どうやらクリームパンの様でした。

 ねだってみると、シューの方を渡されました。

 食べてみましたが、サクサクというなんとも言い難い食感が口の中を駆け抜け、流石にそればかりは美味しいとは感じられませんでした。

33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/29(水) 12:48:34.35 ID:zAjBsxBQ0
 一時間目はフレンチトーストでした。初っ端からゴージャスでした。

 こればかりは手では行わず、フライパンをきちんと用いていました。

 ちょうど喉が渇いていたので牛乳を勝手に貰い、ラッパのみしました。

 すると、その牛乳は使わず、新しいパックを開封し始めました。

 少し悔しかったです。

34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/29(水) 12:53:52.92 ID:zAjBsxBQ0
 君は本当にパンが好きだねというと、その人はうんとだけ答えました。

 よく考えると僕はその人に対する呼び名を持っていませんでした。いつも君ばかりです。

 だから思い切って考えることにしました。すぐに思いつきました。

 パンが好きだから、パン子ってのはどう?

 安直だねとその人は言いましたが、どうやら気に入ってくれたようでした。

 こうして、パン子という呼び名が誕生しました。

36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/29(水) 12:59:04.36 ID:zAjBsxBQ0
 休み時間はツナサンドでした。

 嫌がらせにツナ缶を食べてやろうと思いましたが、魚系はそんなに好きではありませんでした。

 良く考えると、好みが分かれたのは初めてでした。

 それでもやはり貰おうかと思いましたが、どうやら好物中の好物の様で、非常にご機嫌な様子で頬張っていました。

 僕がその姿に見とれているのに、気付かないほどでした。

 結局ねだるのはやめました。いい物もみれたし、得した気分でした。

39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/29(水) 13:12:57.56 ID:zAjBsxBQ0
 次の時間は何とハンバーガーでした。ただ、食パンによる作品で、どちらかといえばサンドウィッチでした。

 丸く食パンをくりぬいていたので、辛うじて、ハンバーガーのつもりだなと伝わってきました。

 クラウンの部分にはケチャップを、ヒールの部分にはマスタードを塗って、間にハンバーグをはさんでいました。

 とても美味しそうだったのですが、一つしか作ってくれませんでした。

 僕がずっと見ていると、パン子はすまなそうに、ごめんね。ハンバーグが一つしかないの。といって、少し契って、僕にくれました。

 悪い事をしてしまったと反省しました。

40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/29(水) 13:16:57.99 ID:zAjBsxBQ0
 もう無駄なあがきはやめたのか、その時間の後半には普通にサンドウィッチを作っていました。

 ハムやレタスなど、色々な物を楽しそうにはさんでいました。

 先程の罪滅ぼしのつもりか、僕の方にサンドウィッチの沢山並んだ皿を寄せ、くれるといってくれました。

 今日は珍しくデレなんだなー。と思いながら、僕はそのとても美味しいサンドウィッチを味わいながら食べました。

41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/29(水) 13:21:14.40 ID:zAjBsxBQ0
 三時間目は作りすぎたサンドウィッチをせっせと消化していました。

 僕も勿論手伝いました。サンドウィッチの美味しさにも気付く事ができました。

 パン子の作るパンは美味しいな。何気なく呟くとパン子は顔を赤らめ、お世辞を言ってもなにもでないよと返しました。

 勿論お世辞のつもりはないし、パン子も分かっているはずですが、こういう関係はいい関係だと実感しました。

45 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/29(水) 13:43:02.86 ID:zAjBsxBQ0
 休み時間はあげぱんでした。市販の物でした。

 あげぱんは好物なのですが、やはりというかなんというか、好みは被りました。

 それでもその日は機嫌がよかったのか、一つだけあげぱんをくれました。

 ありがとうとお礼を言うと、いつもそんなに素直ならあげてもいいのにと返されました。

 それはパン子にも返したいと思いながら、僕は美味なあげぱんにかじりつきました。

47 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/29(水) 13:49:50.51 ID:zAjBsxBQ0
 四時間目はレーズンパンでした。だんだん食パン率が下がっている気がしました。

 レーズンパンは好物というわけでもなければ嫌いというわけでもありませんでした。

 パン子も同じ様で、別段おいしそうには食べておらず、僕にも結構わけてくれました。

 勿論パン子補正が掛かって美味しかったのですが、僕はある疑問を抱きました。

 どうしてパン子は自分の好きなパンだけを作らないのだろう。

 これはツナサンドの時も思いました。そう言えばさっきサンドウィッチを作った時にはツナサンドを一つも作ってませんでした。

 好みだというのが僕の単なる決め付けなのか。一瞬思い、否定しました。根拠なき自信がありました。

 謎が生まれました。

48 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/29(水) 14:00:20.81 ID:zAjBsxBQ0
 昼休みはそのことを訪ねるべきか悩んでいました。

 パン子は蒸しぱんを食べていました。僕も少し貰いました。

 パン子の趣向はわかっても、パン子の意図はわからない。

 そこで僕はなぜか、これまで何とも思わなかった、なぜ皆はパン子の存在がないが如くの態度を取るのかということまで、不思議になりました。

 悩みつくした僕は、とうとう決心しました。

 パン子を放課後、尾行する決心を。

50 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/29(水) 14:09:52.70 ID:zAjBsxBQ0
 放課後、パン子を尾行しました。よく考えたら、僕はパン子のことを何も知りませんでした。

 パン子の家ば山奥にあるようで、いくつかの林を越えました。

 そしてパン子は、一軒の、煙突のある家に入りました。

 僕はその中を除いてみました。

 一人のおじさんと、パン子が話していました。

 パン子、今日もパンを布教していきたか? おじさんは言いました。

 パンを、布教? 意味を考えて僕はうっかり、足を滑らせ、家の窓にぶつかってしまいました。

 二人に気付かれてしまいました。

51 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/29(水) 14:10:23.82 ID:zAjBsxBQ0
 パン子は、悲しそうにいいました。知ってしまったのね、と。

 パン子の正体は、パンの素晴らしさを日本人に教えるために生まれた、パンの妖精でした。そしておじさんは、その妖精の担当者の様な者でした。

 僕はその計画の第一段階、個人指導の標的となったのだと説明されました。どうやら、彼女の姿とパンは、僕にしか見えてなかったようです。

 ただし、正体を知られたからには、パン子は僕の元を去らなくてはならないということでした。

 僕は記憶を消されることになりましたが、おじさんが唐突に言いました。パン子、もう記憶は消したかな? いやぁ、年を取ると記憶力が鈍るんだよと。

 パン子はその意味を悟り、はい! と嬉しそうに、涙目で答えました。僕も心の中で何度もお礼を言いました。

 そして、忘れないでね。という言葉を残して、パン子は去って行きました。


 パン子のことを知りたいなんて思わなければ良かった。



 あんな疑問を抱かなければ良かった。



 さまざまな思いが錯綜しました。


 そして、今でもパンを食べるたびに、彼女を思い出すのです。


 本名すら知らなかった、パン子という渾名の、一時の幻のような女性を。

52 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/29(水) 14:11:26.01 ID:zAjBsxBQ0 [34/34]
というわけでこれで終わりです

読んで下さった方どうもありがとうございました

男「パン好き少女の話」
http://raicho.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1293585795/

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