スポンサーサイト
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
唯「恐怖のお婆ちゃん」
1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/08(日) 15:08:42.89 ID:2t6qI8dr0 [1/59]
ある日の夕方。
唯「ソースじゃないよ~醤油だよ~砂糖じゃないよ~♪」
とみ「おや、唯ちゃん……
どこへ行くんだい……?」
唯「お砂糖買いに行くの!」
とみ「へぇ……お砂糖をねぇ」
唯「うん!」
ある日の夕方。
唯「ソースじゃないよ~醤油だよ~砂糖じゃないよ~♪」
とみ「おや、唯ちゃん……
どこへ行くんだい……?」
唯「お砂糖買いに行くの!」
とみ「へぇ……お砂糖をねぇ」
唯「うん!」
3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/08(日) 15:10:13.13 ID:2t6qI8dr0 [2/59]
とみ「お砂糖……
本当にお砂糖なのかい?」
唯「え? うーん……」
とみ「お醤油じゃあないのかい」
唯「あ、そうだ! そういえばお醤油だった!」
とみ「やっぱりそうかい……
醤油ならウチにあるから、ちょいと待ってなさい」
唯「わーい。
でもお婆ちゃん、よく醤油だって分かったねー」
とみ「私は唯ちゃんたちのことなら何でも知ってるんだよ」
4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/08(日) 15:11:20.98 ID:2t6qI8dr0
……
とみ「はい、醤油」
唯「ありがとー」
とみ「そうだ、ちょうど唯ちゃんに話があったのよ……
これなんだけどねェ」ぴらり
唯「演芸大会~?」
とみ「老人会で毎年やってるんだけど、
今年は出場者が少ないみたいでねぇ」
唯「そうなんだ、じゃあ私生徒会行くね」
とみ「唯ちゃん、出てくれない?」
唯「え、私が?」
とみ「若い人が出てくれるとねえ、盛り上がるのよ。
唯ちゃんがギター弾くとこも見てみたいし」
唯「えー、うーん」
5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/08(日) 15:12:10.53 ID:2t6qI8dr0
とみ「ねえ……頼むわ唯ちゃん」
唯「でもなー」
とみ「唯ちゃん以外に頼れる人いないのよ……」
唯「期末試験も近いしー」
とみ「賞品はケーキ食べ放題のチケットだって」
唯「出ます!」
とみ「あらそう、良かった……
みなさんもきっと、喜ぶわね……ヒヒ」
唯(ケーキ食べ放題か~♪)
6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/08(日) 15:17:00.06 ID:2t6qI8dr0
平沢家。
ガチャ
唯「ただいまいけるじゃくそん!」
憂「おかえり、お姉ちゃん。ずいぶん早かったね」
唯「うん、スーパー行こうとしたら、
ちょうど隣のお婆ちゃんに会ってさ~」
憂「え゛っ」
唯「で、醤油おすそわけしてもらっちゃったー」
憂「お姉ちゃん……いつも言ってるでしょ、
隣のお婆ちゃんには関わらないで、って……」
8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/08(日) 15:21:56.76 ID:2t6qI8dr0
唯「えー、なんでー?
いい人だよ、お婆ちゃんは」
憂「いい人なのは分かるけど……
なんか気味悪いよ」
唯「もう、ダメだよ憂、人のことそんな風に言っちゃ!
お婆ちゃんには小さい頃からお世話になってたでしょ!」
憂「えーでも……
ご近所の人だって、お婆ちゃんのこと避けてるでしょ」
唯「近所がどうとか関係ないよ。
お婆ちゃんはいい人なんだから。
今日だって醤油おすそ分けしてくれたんだよ」
憂「あ、そう……」
唯「お婆ちゃん凄いんだよ、
私が醤油買いに行くのを分かってたの!
『唯ちゃんたちのことなら何でも知ってるんだよ』だって、
なんかすごいよねー」
憂「いや怖いよ」
9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/08(日) 15:25:56.15 ID:2t6qI8dr0
唯「もー、怖くなんかないってば。
あ、これ醤油ね」
憂「え、うん…………」
唯「なあに、お婆ちゃんのお醤油にまでケチつける気?」
憂「えーだって……
この前お婆ちゃんから貰ったお砂糖、なんか変な味したし……」
唯「もー、大丈夫だよ!
せっかくお婆ちゃんがくれたんだから、ちゃんと使って! ほら」
憂「うん……分かったよ……」
唯「私部屋行ってるから、ご飯できたら呼んでねー」
憂「はいはい」
姉が2階に行くのを見送ってから料理に戻る憂。
お婆ちゃんからもらった醤油を一舐めしてみたところ
なぜかやたらと酸っぱい味がしたので
憂はそれを捨ててスーパーまで醤油を買いに走った。
11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/08(日) 15:30:49.61 ID:2t6qI8dr0
……
唯「いただきまーす」
憂「いただきます」
唯「もぐもぐ……ほらー憂、
別に変な味なんてしないじゃん!」
憂「そうだねHAHAHA」
唯「へんな憂~」
憂「あ、そうだお姉ちゃん……
このチラシはなんなの?」
唯「あー、それもお婆ちゃんがくれたの。
演芸大会出てみないかって」
憂「え……それで、出るの?」
唯「うん、出るよ」
12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/08(日) 15:36:04.00 ID:2t6qI8dr0
憂「えー……」
唯「お婆ちゃんにはいつもお世話になりっぱなしだからね、
ここらでちょっと恩返しも兼ねて!
あと優勝したらケーキ食べ放題だし!」
憂「ケーキ目当てでしょ……
で、いつやるの?」
唯「そのチラシに書いてあるよー」
憂「あ、ほんとだ……再来週の金曜日、
って期末テストの最終日だよ」
唯「だいじょーぶ、勉強はちゃんとするから!」
憂「ホントかな……それで場所は、
南豊崎の公民館……?」
13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/08(日) 15:36:47.32 ID:2t6qI8dr0
唯「ああ、お婆ちゃん、
若い時は南豊崎に住んでたんだって~」
憂「そ、そうだったの? 道理で……」
唯「道理で、って何が?」
憂「お姉ちゃん、知らないの?
南豊崎って言ったら『あいなま地区』って呼ばれて
部落で有名なとこだよ」
唯「ぶらく? なにそれ」
憂「説明するのは難しいけど……
とにかく卑しい人達が隔離されて住まされてた土地なの」
唯「えーなにそれ、じゃーお婆ちゃんも
その卑しい人の仲間ってことー?」
憂「そこに住んでたんだからそうだよ。
ご近所の人たちはそれで避けてたんだ」
15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/08(日) 15:41:43.89 ID:2t6qI8dr0
唯「もー、いい加減にしてよ!」
憂「びくっ」
唯「さっきからお婆ちゃんの悪口ばっかり言って……
私は出るからね、演芸大会!」
憂「だ、だめだよあの地区に近づいちゃ」
唯「大丈夫だよっ!
今時そんな危ない土地なんてあるわけないでしょ」
憂「で、でも……」
唯「憂の分からず屋!
ごちそうさま、私お風呂はいるから!」
憂「お姉ちゃん……」
17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/08(日) 15:46:13.64 ID:2t6qI8dr0
翌日、学校。
憂「……というわけでさー」
純「へー、南豊崎ねぇ。
確かに良い評判は聞かないけど」
憂「評判が良い悪いの問題じゃないよ。
小学校の時、男子たちが南豊崎に肝試ししようって話してたんだけど」
純「うん」
憂「それがバレて親たちにめちゃくちゃ怒られたらしいよ。
何人かはしばらく外遊び禁止になったって」
純「へえ……思ったよりヤバそうだね。
あ、そういえば思い出した」
憂「何を?」
純「ずっと昔、なんかの噂で聞いたんだけど、
南豊崎って何十年か前まで処刑場があったんだって」
憂「処刑場?」
18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/08(日) 15:50:21.85 ID:2t6qI8dr0
純「江戸時代くらいからずっとあったものなんだけど、
戦後になってようやく取り壊されたって」
憂「へぇー……」
純「今生きてる老人たちは、その処刑場知ってるんじゃないかな。
そしてその件のお婆ちゃんも……」
憂「こ、怖いこと言わないでょ」
純「はは、ごめんごめん冗談だよ」
憂「で、どうしよう……
やっぱりお姉ちゃんを止めるべきなのかな」
純「さー、どうだろ。
そんな危ないことにはならないと思うけど……
部落とはいっても、現代日本なんだしさ」
憂「んー、そっかなー」
ガラッ
梓「おはよー」
19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/08(日) 15:50:52.64 ID:2t6qI8dr0
憂「あ、おはよう」
純「そうだ、梓は南豊崎のウワサ知ってる?」
梓「南豊崎? なにそれ」
純「この近くにある部落地域だよ」
梓「さあ、知らない。私、高校入るときに引っ越してきたから、
このへんの地域のことあんまり詳しくないんだよね」
純「へー、そうなんだ」
憂「ここ来る前はどこに住んでたの?」
梓「チベットだよ。
家族そろって寺院に住んでたんだけど
中国軍の宗教弾圧から逃れて日本に戻ったの」
純「何その壮絶な人生」
20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/08(日) 15:53:39.86 ID:2t6qI8dr0
梓「で、その南豊崎とかいうのがどうかしたの?」
憂「実はお姉ちゃんが赫々然々」
梓「演芸大会……?
ああ、そういえば夕べ、唯先輩から
一緒に演芸大会出ようってメールが来たよ」
憂「なっ……」
純「で、OKしたの?」
梓「うん、別に断る理由もないし」
憂「……」
純「あはは……梓を味方につけて
意地でも演芸大会出る気だね」
憂「それにしてもなんで梓ちゃんを」
梓「そーいえば唯先輩、
他の先輩たちも誘ってみたけど全員から断られたって」
純「唯先輩てもしかしてハブらてるんじゃない?」
憂「もーやだなー、お姉ちゃんがハブられてるなんてあるわけ無いじゃん!」バチコーン
純「ぶほぉぁっ」
23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/08(日) 16:02:55.27 ID:2t6qI8dr0
梓「何? 演芸大会がどうかしたの?」
憂「あーうん、実はそれに出ないかってお姉ちゃんを誘ったのが
うちの隣の独居老人でさ」
純「その人が南豊崎の出身で、
ご近所からも嫌われてるんだってさー」
梓「ダメだよ、そんなこと言っちゃ!
出身地なんて関係ないじゃん、
人はみな仏のもとに平等なんだよ」
純「仏って……」
憂「いやいや、出身がどうこうだけじゃなくてさ、
ホントになんか怖いんだよあの人」
梓「何がどう怖いの?」
憂「話せば長くなるけど……
そう、あれは私が幼稚園の頃だった」
24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/08(日) 16:10:35.76 ID:2t6qI8dr0
【回想】
とある公園。
唯『うぇーん、ういー、
私のぬいぐるみどっかいっちゃったよー』
憂『えー、おねえちゃん、なくしちゃったのー?
さがさなきゃー』
唯『さがしてもみつからないんだよぉー』
和『本当にちゃんと探したの?
さっきジャングルジムで遊んでたわよね。
あのへんは探した?』
唯『探したけど無いんだよぉーうえーん』
和『最後にぬいぐるみで遊んだのはどこ?
思い出して、そこを重点的に捜すから』
唯『わかんないよぉーうえーん』
憂(ののかちゃんはあいかわらずむずかしい言葉を使うなあ)
とみ『あら、どうしたんだい唯ちゃん』
唯『あ、おばーちゃーん』
25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/08(日) 16:18:38.00 ID:2t6qI8dr0
和『あ、一文字さん。
実は唯がぬいぐるみを紛失してしまったみたいで』
とみ『おやおや』
唯『うぇーん』
とみ『……滑り台の下は探してみたかい?』
唯『すべりだいのしたあ?』
和『ちょっと見てきます』たたっ
とみ『きっとそこにあると思うよ……』
和『あっ、ありました!
これよね、唯』
唯『わー、うん、それだよー!
ありがとーおばーちゃん!』
和『どうして分かったんです?』
とみ『私は唯ちゃんたちのことなら何でも知ってるんだよ』
【回想おわり】
27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/08(日) 16:21:12.60 ID:2t6qI8dr0
純「いいお婆ちゃんじゃん」
梓「別に怖くないよね」
憂「これはまだ序の口なの!
次があるんだよ」
純「ほう、聞かせてもらおうか」
憂「これは純ちゃんも知ってる話だと思うよ。
中学の修学旅行のことなんだけど……」
29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/08(日) 16:29:02.97 ID:2t6qI8dr0
【回想】
中学の時の修学旅行、行き先は沖縄だった。
一日の行程を終え、沖縄のホテルで一息つく憂たち。
憂『いやー楽しかったねー』
純『防空壕は怖かったけどね』
陽子『……』
憂『? 陽子ちゃん、どうしたの?』
陽子『いや、な、なんでもないよ』
純『なんでもないようには見えないけど……
気分悪いの? 先生呼ぼうか』
陽子『いや、そんなんじゃなくて……
ちょっと気になることがあって』
憂『気になること?』
純『何?』
陽子『いや、いいよ……
言っても信じてもらえなそうだし』
憂『大丈夫だよ、言ってよ、ちゃんと聞くから』
30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/08(日) 16:34:20.50 ID:2t6qI8dr0
陽子『うん、じゃあ言うね……
実は今日一日ずっと気になってて』
純『だから何がよ』
陽子『色々なとこ行ったでしょ、今日』
憂『うん、ひめゆりの塔とか防空壕とか
平和祈念なんたらとか』
陽子『……その行く先々で、同じ人がいたの』
純『はい?』
陽子『ひめゆりの塔でも、防空壕でも、
おんなじお婆さんを見かけたの!
まるで私たちのことを待ち構えて、監視してるみたいに……』
純『あっはっは、何を言い出すかと思えば』
陽子『い、いやほんとなんだってば……
すっごく怖かったんだから!』
聡美『あっ、私も見たよ、その人』
陽子『えっ、そうなの?』
31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/08/08(日) 16:38:52.69 ID:2t6qI8dr0
聡美『うん、修学旅行の添乗員さんかなーと思ってさ、
話しかけてみたけど違ったよ』
陽子『その人、白髪で赤い服着たお婆さんじゃなかった……?』
聡美『うん、その人だよ。
私写真撮ったけど見る? ほらこの人』
陽子『そ、そうだ、この人だよ!
今日ずっと私たちのこと監視してた人……』
純『監視とは大げさな』
憂『……』
純『? どしたの憂』
憂(とみおばあちゃんだ……)
陽子『やっぱり怖いよ……先生たちに言ったほうがいいんじゃないかなあ』
聡美『えー、別にそこまでしなくても』
陽子『だって怖いよ』
聡美『じゃー明日も尾行してくるようならさ、先生に言えばいいじゃん』
陽子『う、うん……』
しかし翌日以降、おばあちゃんは現れなかった。
32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/08(日) 16:42:37.02 ID:2t6qI8dr0
2泊3日の修学旅行を終え、
地元に帰った憂。
憂『ふー疲れた、でも楽しかったー』
とみ『あら、憂ちゃん……』
憂『ひっ、お、おばあちゃん……』
とみ『修学旅行は楽しかったかい』
憂『え、ええ、とっても』
(やっぱり見間違いだよね……
沖縄なんかにおばあちゃんがいるわけないし……)
とみ『ひめゆりの塔で聞いた話は感動したねえ』
憂『えっ』
とみ『憂ちゃんはちょっと涙ぐんでいたねえ。
いいんだよ、ああいうときは素直に泣けば』
憂『な、なんで……知ってるんですか』
とみ『私は唯ちゃんたちのことなら何でも知ってるんだよ』
【回想おわり】
34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/08(日) 16:47:42.74 ID:2t6qI8dr0
純「あー、確かそういうこともあったねー。
まさかあのお婆ちゃんがその人とは」
梓「つまりどういうことだってばよ」
憂「おばあちゃんが沖縄にいたかどうか、真相はわからないけど……
とにかくこういう不気味な人なんだよ。
関わるのはよしたほうがいいよ、ね」
梓「でも唯先輩と約束しちゃったしなぁ」
憂「お姉ちゃんは私からも説得するから、
梓ちゃんも演芸大会に出るのはやめて、ね」
梓「えー、うーん……
唯先輩が出ないんなら、私は出ないけども」
憂「じゃあ梓ちゃんもお姉ちゃんを説得して、
演芸大会に出ないように」
梓「わ、分かったよ。できるだけやってみる」
憂「うん、お願い」
37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/08(日) 16:57:50.04 ID:2t6qI8dr0
放課後、音楽室。
ガチャ
梓「こんちはー」
澪「おう」
律「梓ー、唯と一緒に演芸大会出るんだって?」
梓「え? はあ、まあ……」
律「実はうちのクラスがその話題で持ちきりでさ!
本番の日、みんなで応援に行くことになったんだ!」
唯「みんな横断幕とか作ってくれるって~!
がんばろーね、あずにゃん!」
梓(うわー説得しづれえええええ)
38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/08(日) 17:03:03.96 ID:2t6qI8dr0
律「私たちも行くからなー。
澪なんかチアガールのコスプレするって」
澪「しねェよ」
律「クラス総出で盛大に応援してやるから、
楽しみにしてろよー」
梓「あーなんていうかそのー、
お気持ちはうれしーんですが……」
律「ん? なんだよ」
梓「いやーなんてーかそのー
伝え聞いたところによりますとー
会場はたいへん狭くていらっしゃるみたいなのでー
そんな大勢はーちょっとー」
律「そうなのか? 会場ってどこなんだ?」
唯「南豊崎の公民館だよっ」
澪「……南豊崎だと?」
41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/08(日) 17:13:19.74 ID:2t6qI8dr0
律「南豊崎……」
唯「あれ? どうしたのみんな」
澪「えー、だって……なあ」
律「……うん」
唯「言いたいことがあるんならハッキリ言いなよ」
澪「唯、お前は知らないのか?
南豊崎って言ったら『あいなま地区』って呼ばれてるとこだぞ」
唯「知ってるよ、それがどうしたの?
土地がどうとかなんて関係ないじゃん!」
律「私、昔からあの土地には近づくなって親に言われてたんだ。
唯も近寄るのはやめたほうがいいぞ」
澪「そうだよ、いい噂も聞かないし」
唯「もう、いい噂とか親が言ったとか、そういうのはどうでもいいじゃん!
なんで? なんでみんな南豊崎を嫌う? 南豊崎が何かした?」
律「そういんじゃないけど……」
唯「じゃあもういいよ、みんなは口出さないで!
あずにゃん、私たち二人だけで頑張ろうね!」
梓(出るのヤメろとは言えない……)
45 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/08(日) 17:23:20.19 ID:2t6qI8dr0
色々あって演芸大会当日。
梓「展開早っ!」
憂「結局お姉ちゃんを説得することはできず、
お姉ちゃんと梓ちゃんは演芸大会に出ることになりました。
私たち3人は今、南豊崎に向かっています」
唯「誰に喋ってんの?」
梓「で、その南豊崎っていうのはどこにあるの」
憂「もうちょっと歩かなきゃ。
このへんはバスも電車もないから」
梓「もうちょっと……って、
周りに人家が見当たらないんだけど……
ほんとにこの先に人が住んでんの?」
憂「うん、1回だけ行ったことある……
おばあちゃんに連れられて」
梓「へえ、どんな感じだった?」
憂「一言でいうと……不気味だった」
梓「不気味って……」
唯「南豊崎行くの久々だよねー、
もう8年ぶりくらいかな~」
46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/08(日) 17:28:24.23 ID:2t6qI8dr0
梓「ねえ、まだかかるの?
もう40分くらい歩いてるよ」
憂「おかしいなあ、こんなに遠かったかな」
梓「早くしないと演芸大会に間に合わないんじゃ」
憂「間に合わなかったら間に合わなかったで
こっちとしては嬉しいんだけどね」
唯「あ、憂ー、おうちが見えてきたよー」
梓「ああ、ほんとだ……
良かった、迷子になってたわけじゃなかったんだ」
3人は南豊崎の町についた。
しかし憂と梓はすぐに景観の異様さにゾッとした。
48 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/08(日) 17:37:12.02 ID:2t6qI8dr0
道の脇に建っている家々はすべて同じ形、
そして屋根の色もすべて青で統一されていた。
梓「な、なにこれ……なんか怖い」
憂「前来た時もこうだったよ……
その時はなんとも思わなかったけど」
唯「わー、屋根がみんな青色だよー。
相変わらず綺麗だよねー、憂ー」
憂「はは、そうだね……」
さらに不気味さに拍車をかけていたのは町の静けさだ。
さっきから人っ子ひとり見かけない。
梓「だれもいないのかな……」
憂「分かんない……
とにかく早く公民館に行こう」
唯「あ、憂、やばいよー、もうだいぶ遅刻しちゃってるよー。
急がなきゃマズイよー」
憂「そんな急がなくて大丈夫だよ、
私たちが出るのは後の方だから……」
49 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/08(日) 17:46:32.94 ID:2t6qI8dr0
公民館は町のはずれにあった。
いやもう町と呼ぶより集落としたほうが適切であろう。
同じ家が並ぶこの集落の中で
公民館は異様な存在感を放っていた。
ガラガラ
憂「あれ? まだ始まってない……?」
公民館の中には集落の人間が集まっていた。
そのすべてが老人だった。
憂たちが公民館に入ると、
規則正しく並べられた椅子に座った老人たちは
いっせいに憂たちのほうに振り向いた。
梓「す、すみません遅れてしまって」
唯「ごめんなさーい」
老人たちの中から
とみが歩み寄ってきた。
とみ「ああ、よく来たね、疲れたろう。
遅れたのは良いんだよ、気にしないで」
憂「あの、まだ始まってないんですか」
とみ「ええ、みんな唯ちゃんたちを待ってたのよ。
さあ中にお入り」
唯「おじゃましまーす」
50 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/08(日) 17:49:42.61 ID:2t6qI8dr0
書くの忘れてたけど
ゆいあずを応援すると言っていたクラスの人達は
会場が南豊崎ということを聞いて
急に応援するのをやめました
52 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/08(日) 17:59:57.54 ID:2t6qI8dr0
そして演芸大会が始まった。
参加者は一人ひとり壇上にあがり、自慢の芸を披露していく。
司会『一番、山田尚吉さんによる手品です』
山田「ではいきますぞ、3,2,1……ホッ」
老人たち「おーええぞええぞー」
老人たち「さすが尚さんの手品は面白いわい」
老人たち「いいぞもっとやれ」
司会『二番、吉田玲次郎さんによる詩吟です』
吉田「延々んん~続行ぅ~ぉぉ~ルララーァァーあああー」
老人たち「おーええぞええぞー」
老人たち「さすが玲さんの詩吟は面白いわい」
老人たち「いいぞもっとやれ」
会場は盛り上がっていた。
しかし憂と梓は薄ら寒さを感じていた。
老人たちの盛り上がりが、まるで演技のように感じられたのだ。
意図的に作られた雰囲気。
それは憂たちに居心地の悪さを与えるばかりであった。
唯「わーすごいね今の詩吟! すっごくうまかったよー」
憂「そ、そだね……」
そして唯と梓の番が回ってきた。
57 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/08(日) 19:21:02.60 ID:2t6qI8dr0
『13番、ゆいあずのお二人によるギター演奏です』
唯「どもどもー!」
梓「ゆいあずでーす……」
二人が壇上に上がると、
先程までの盛り上がりが嘘だったかのように
会場は一気に静まり返った。
そして客席の老人たちは、
まるで品定めでもするかのような目で
ゆいあずの二人を凝視した。
それはとみも例外ではなかった。
とみ「……………………」
老人たち「……………………」
老人たち「……………………」
老人たち「……………………」
憂(な、なにこれ、どうなってるの?)
梓(なんなのこの人たち、怖い!)
唯「じゃー演奏しまーす、聞いてください!
ふでペンボールペン!」
唯はなんとも思っていないようだった。
梓は客席からの刺すような視線を意識しないよう
演奏に集中することにした。
59 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/08(日) 19:33:40.58 ID:2t6qI8dr0
……
唯「かなり本気よー♪」
ジャジャーン
異様な空気に包まれたまま演奏は終了した。
老人たちは片時も二人から視線をそらすことはなかった。
憂「……」ぱちぱちぱち
憂が拍手をすると、老人たちも思い出したかのように拍手をした。
唯「どもどもー」
梓(帰りたい……)
司会『では今回の演芸大会は以上となります。
優勝者は後日、広報紙で発表させていただきます』
唯「なんだ、今日発表してくれないんだ。
優勝賞品早く欲しいのにー」
梓「賞品って何なんです?」
唯「ケーキ食べ放題だよ」
梓「老人メインの大会でケーキ食べ放題が賞品って……」
その後、3人は帰路についた。
帰りはなぜか来るときよりも時間はかからなかった。
60 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/08(日) 19:40:46.64 ID:2t6qI8dr0
翌日。
ガラッ
梓「おはよー」
憂「おはよう、梓ちゃん」
純「おっはー。で、行ってきたんでしょ、昨日。
どうだったの?」
梓「どうって……ねえ」
憂「まあ……うん」
純「なにー? 何があったの、教えてよ」
梓「一言で言えば怖かったかな」
61 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/08(日) 19:46:45.62 ID:2t6qI8dr0
純「怖かった? 何が?」
梓「いや、何から何まで……
全部同じ家で同じ色の屋根だったのも怖かったし、
住んでた人もなんか……
あれが部落っていうものなのかな」
純「あはは、人は仏のもとにみな平等とか言っときながら
梓も部落嫌いになってんじゃん」
梓「だ、だって……」
憂「まああれ見たら誰だって嫌いになるよ……
梓ちゃんも分かったでしょ、
南豊崎には関わらない方がいいって」
梓「うん、私は痛いほど分かったけど……
でも唯先輩はなんとも思ってなかったみたいだよね」
憂「そうなんだよ……
昨日家帰ってからも、『楽しかったねー』とか言ってたし」
純「あはは……」
憂「はあ、どうにかなんないかな、あのおばあちゃん」
62 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/08(日) 19:53:02.72 ID:2t6qI8dr0
放課後。
梓「じゃーねー」
純「また明日、憂」
憂「うん、またね」
純「さてジャズ研に行きますかね」
梓「私は軽音部に」
純「軽音部に行ってお茶会か」
梓「今日はお茶会じゃないよ。
倉庫を掃除して軽音部の古いアルバム探すって言ってた」
純「……」
梓「何?」
純「いやなんでもない、頑張ってね」
梓「? うん」
63 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/08(日) 19:58:54.46 ID:2t6qI8dr0
音楽室。
ガチャ
梓「こんにちはー」
唯「あー、あずにゃん!
聞いて聞いて、みんなが酷いんだよぉー」
梓「ど、どうかしたんですか」
澪「ああいや、昨日南豊崎に行ったー、って
今朝からクラスで唯が自慢げに語るもんだから、
クラスのみんなが引いちゃってな」
律「そうそう、みんなドン引きだったな。あの和でさえも」
澪「あの和の汚物を見るような視線は一生忘れられそうにない」
梓「そ、そんなことがあったんですか」
唯「ね、ひどいよねえ、あずにゃん!
私は昨日の楽しい思い出をみんなに話したかっただけなのにい」
梓「……唯先輩」
唯「なに?」
64 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/08(日) 20:05:23.24 ID:2t6qI8dr0
梓「もう理解しましょう、子供じゃないんですから。
南豊崎は……あいなま地区は、
近づいちゃいけない場所なんです。
私は昨日それを痛感しました」
唯「なんで? おかしいよ、
南豊崎の人に悪い人がいるの?
南豊崎を嫌う理由がどこにあるのさ!」
梓「こういうのは理屈じゃないんですよ。
とにかくダメなものなんです」
唯「そんなのってないよ!
じゃあこれからも未来永劫、南豊崎は
ずっと嫌われたままなの?」
梓「まあそうでしょうね」
澪(近いうちに過疎で滅びそうだけどな)
唯「おかしいよ、ひどいよ……
南豊崎の人はいい人ばっかりだよ、
おばあちゃんだってそうだよ……
みんなは南豊崎のことを知らないだけなんだよ」
律「唯……」
65 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/08(日) 20:14:27.85 ID:2t6qI8dr0
唯「そうだ、今からみんなでお婆ちゃんの家に遊びにいこう!」
梓「えっ」
唯「南豊崎の人がいい人だって知れば、
みんなもきっと南豊崎が好きになるよ~」
澪「で、でも」
律「なあ」
唯「大丈夫だよー、ほら行こう!
お婆ちゃん、私の家の隣に住んでるんだ!」ぐいぐい
澪「わ、わかったわかった、引っ張るな」
律「まったく、しょーがないなー」
唯「わーい、じゃあ早速行こう」
澪「あ、そうだ……お婆ちゃんちに遊びにいくことは誰にも言うなよ」
唯「え、なんで?」
澪「そ、そりゃー部活サボって遊びにいくなんて、
誰かにバレたら……なぁ?」
律「はは、そうだな……」
梓(酷い先輩たちだ……)
66 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/08(日) 20:24:43.73 ID:2t6qI8dr0
一方その頃、憂は。
憂(帰ったら洗濯もの取り込んで、
買い物行って、夕飯の支度して、
お風呂掃除して……)
帰り道、自分の家が見えてきた頃。
平沢家の隣、くだんの老婆が住んでいる家の前に
一人の男が立っているのが見えた。
彼は門の外から家の中を伺おうとしていた。
憂「……?」
明らかに怪しい……と憂は思ったが、
もう一文字家とは関わりを持ちたくないので
見て見ぬふりをして通り過ぎ、
自分の家に入ろうとしたところ
男「あっ、ちょっとすみません」
憂「…………な、なんですか」
男「そちらのお宅にお住まいの方ですか」
憂「は、はあ、そうですが」
67 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/08(日) 20:32:32.84 ID:2t6qI8dr0
男「私、市役所のもので」
そう言って男は名刺を差し出す。
憂「はあ」
男「隣のおうちにお住まいの方のこと、ご存じですか?」
憂「お婆さんが一人で住んでますよ」
男「はあ、やはりそうですか」
憂「なんなんです?
お婆さんがどうかしたんですか」
男「いや、この家、実はずっと前から空き家のはずなんですよ」
憂「えっ」
男「古い資料を整理してて分かったことなんですがね。
このへんの不動産屋さんに問い合わせてみても、
ここには誰も住んでないはずだと」
憂「……」
70 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/08(日) 20:41:32.25 ID:2t6qI8dr0
男「そのお婆さんは、いつから住んでいるんですか」
憂「私が、小さい時から、ずっと……
もう15年以上も」
男「15年……」
憂「15年異常、空き家に
勝手に住んでたってことですよね」
男「勝手に住んでいたどころじゃないですよ。
この家にはガスも電気も水道も通っていないんです」
憂「えっ……
え、で、でも……夜とか灯りついてましたよ」
男「ランプか何かを持ち込んでいたんじゃないですか。
もしくはどこかから盗電していたか。
まったく、どんな生活をしてきたんだか」
憂「……」
15年間。
自分の家の隣で、
電気も水道もガスも使えない家に住んでいた。
なぜ?
なんのために?
考えた瞬間、
憂の体に悪寒が走った。
71 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/08(日) 20:50:49.04 ID:2t6qI8dr0
男「今日はお婆さんは留守のようですね」
憂「え……あ、そうなんですか」
男「はい、ずっと待ってたんですけど、
帰ってくる気配がなさそうなので、
また後日出直すことにします。では私はこれで」
憂「あ、はい……」
そう言い残し、
男は去った。
一文字とみ。
怪しい、不気味だとは思っていたが
ここまで得体のしれない人間だとは思わなかった。
なぜわざわざライフラインの通っていない家に
住み続ける必要があったのか。
そして何故よりにもよって
自分の家の隣なのか。
まあなんでもいい、近いうちに不法占拠で逮捕されるだろう。
これでようやくあの老婆がいなくなってくれる……
そんなことを考えながら
憂は自分の家のドアに手をかけた。
ガチャ。
憂「!?」
鍵があいていた。
74 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/08(日) 21:00:12.20 ID:2t6qI8dr0
憂「お、お姉ちゃん……?
もう帰ってきてるの?」
恐る恐るドアを開ける憂。
しかし玄関に姉のローファーはなかった。
憂「…………」
今朝学校にいくとき、
鍵をかけ忘れたのだろうか。
いやそんなことはない、
鍵だけはなんども確認しているし、
今日だってそうだった。
憂はそっと靴を脱いで、
家の中に上がった。
誰もいないはずだったが、
怪しい気配に満ちているような気がした。
憂「だ、誰かいるんですか……」
小声でそう尋ねる。
誰かがいたとしても誰にも聞こえないだろう。
とその時。
しゃーこ しゃーこ
憂「!?」
75 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/08(日) 21:04:41.74 ID:2t6qI8dr0
しゃーこ しゃーこ
憂「な、何、この音……」
しゃーこ しゃーこ
台所の方から音が聞こえてきた。
音の正体はわからない。
憂は忍び足で台所に向かう。
しゃーこ しゃーこ
これは普通の事態じゃない。
何か危ないことが起こる。
憂の心臓が高鳴る。
しゃーこ しゃーこ
台所。
そっと、中を覗くと。
とみ「あらあ、おかえり憂ちゃん」
76 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/08(日) 21:14:28.79 ID:2t6qI8dr0
憂「なっ……なにしてるんですか!?」
とみ「何って……何でもいいじゃない」
しゃーこ しゃーこ
憂「そ、それ、ほほほ包丁……」
とみ「ええ、包丁を砥いでいたの。
よく切れるようにしなきゃねえ」
憂「ひっ」
とみは包丁を手に立ち上がり、
ゆっくりと憂のほうに向かってくる。
とみ「そうだわ、昨日の演芸大会……
みんなあなたたちのこと本当に気に入ったみたいよ。
良かったわねえ、憂ちゃん」
憂「なんで、どうやって入ったんですか……」
とみ「私は唯ちゃんたちのことなら何でも知ってるんだよ」
79 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/08(日) 21:24:06.02 ID:2t6qI8dr0
憂「やめてください、包丁を置いてください……」
とみ「それはできないよ。
みんな憂ちゃんたちのこと気に入ってたからね」
憂「それとこれとなんの関係があるんですかっ」
とみ「おとなしくしていなさい、
すぐに終わるからね」
憂「な、なにがですか」
とみ「怖がることはないよ、
ずっと隣同士で暮らしてきたじゃないか」
憂「ふ、ふ、ふ、不法占拠だったんでしょっ」
とみ「人聞きの悪いことを言わないでおくれよ。
全部憂ちゃんと唯ちゃんのためなんだから」
憂「な、なにを……」
じりじりと詰め寄るとみ、
それとともに後ずさる憂。
憂の背中はついに壁についてしまった。
とみ「さあ、みんなに食べてもらおうね、憂ちゃんたちのお肉を」
憂「いやあああっ!」
80 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/08(日) 21:30:57.42 ID:2t6qI8dr0
ガチャ
唯「たっだいまー」
澪「おじゃましまーす」
律「ちーっす」
梓「……」
唯「憂ー、今日おばあちゃん留守なのかなー、
……っておばあちゃん!?」
とみ「あらあら、唯ちゃん……
それに昨日の黒髪の子も」
憂「お姉ちゃん、来ちゃダメえ!」
律「な、なんだあのバアさん、なんで包丁を……」
澪「恐怖のあまり気絶」バタッ
とみ「お友達が多いんだねえ、唯ちゃんは……
みんなも見ててくれるかい、
憂ちゃんたちがお肉になるところを」
律「な、何いってんだ、キチガイかこのババア」
梓「うんびらおんびえいそわか」
唯「あずにゃん?」
84 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/08(日) 21:38:07.57 ID:2t6qI8dr0
梓「ふんにゃらはんれいうんたびら」
とみ「な、何を……」
梓「ほんてらぶえいそびえんだら」
とみ「や、やめないか」
梓「にんぱらそぞでるいちょうむばい」
とみ「やめ……」
梓「破ァっ!!」
とみ「あ、ああああ…………」ガクリ
律「な、何をやったんだ梓!?」
梓「いえ、別に……
チベットの老師から授かった、
ちょっとした気功術ですよ。
憂、大丈夫だった?」
憂「あ、うん……」
寺育ちって凄い。
憂は改めてそう思った。
86 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/08(日) 21:45:17.70 ID:2t6qI8dr0
その後、警察がやってきてとみは逮捕された。
とみは警察に連れていかれるとき、
「私は何も悪くない」と魂の抜けたような表情で
何度も繰り返しつぶやいていた。
警察の調査によって、南豊崎の人間による
組織的な殺人事件の実態が明らかになった。
彼らはとみのように各地に人を送り込んで、
適当な人間を殺させていたらしい。
このことは連日ニュースで大々的に報じられた。
純「いやー、でもこれで一件落着だね」
憂「そうだね、包丁持ったおばあちゃんが
家の中にいたときはどうなることかと思ったけど。
梓ちゃんがいなかったら私殺されてたよ」
梓「護身術くらい身につけとかなきゃだめだよ」
純「あ、そうだ。
この前から南豊崎に興味出ちゃって、
ちょっと調べてたんだけどさ」
憂「うん」
純「なんか南豊崎に処刑場があったっていう噂は本当らしいよ」
梓「へえ、そうなんだ」
89 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/08(日) 21:53:58.24 ID:2t6qI8dr0
純「うん、それでね、
戦中の食料がなかった時期に、
そこの処刑場で殺された人間の肉を食べてたんだって!」
梓「ええっ?」
純「それで戦後になってやっと処刑場は壊されたんだけど、
きっと南豊崎の人たちは人肉の味を忘れられず……」
梓「人肉を求めて殺人をしていたって言うの?」
憂「そ、そういえば、憂ちゃんをお肉にしようとか
言っていたような……」
純「ほら、絶対そうだって。
現代日本に残る食人文化! そそるねぇ」
梓「その食人文化の犠牲になりかけた人間の前で
そんなこと言わない方がいいよ……」
しかし南豊崎の人が食人を行なっていたことについては
公にされることはなかった。
その証拠が見つからなかったのか、
公表すべきではないと封印されたのか、
真相は分からない。
また、警察はとみがいた空き家に捜査に入ったが
空き家には一切モノが置かれておらず、
およそ人がいた形跡は皆無だったという。
とみは本当にあの家に住んでいたのか、これも真相は不明。
91 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/08(日) 22:02:38.28 ID:2t6qI8dr0
唯はこの件で大変落ち込んでしまった。
唯「はあ……」
律「唯のやつ、元気ないなあ」
梓「そりゃそうでしょう、
大好きなおばあちゃんが妹を殺そうとしたんじゃあ……」
澪「唯、元気だせよ。
あんな頭おかしいバアさんのことは忘れてさ、な」
唯「頭おかしくなんかないよっ!」
澪「唯……」
唯「おばあちゃんは私たちのことずっと見守ってくれてたよ……
それが頭おかしいなんて」
律「それ、殺す相手の品定めをしてただけだろ」
唯「そんなことない!
お婆ちゃん、私たちのこと本当に好きでいてくれたもん……」
梓「……」
唯「寂しいよ……
お婆ちゃん……いなくなっちゃうなんて……
戻ってきてよう……」
94 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/08(日) 22:10:51.44 ID:2t6qI8dr0
数日後。
唯「ういー! ういー!」
憂「どしたの、お姉ちゃん」
唯「隣の空き家に新しい人が引っ越してきたよ!」
憂「えっ、そうなの?
どんな人?」
唯「おばあさん!」
憂「えっ」
唯「80歳くらいのお婆さんでね、一人暮らしなんだって!
若い頃は北朝鮮に住んでたらしいよ~」
憂「へ、へえー、そうなんだ……」
唯「とみお婆ちゃんがいなくなっちゃって寂しかったけど、
これでもう寂しくないよ~」
憂「……」
新たなおばあちゃんの出現に喜ぶ唯。
そして今度もまた自分たちの身に何かが起こりそうで
気が気でない憂であった。
お わ り
96 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/08(日) 22:12:35.58 ID:2t6qI8dr0 [59/59]
これでおしまいでちゅ
スレタイは唯「しゃこしゃこしゃこしゃこ」にしようと思ったけど
怒られそうな気がしたのでやめた
何も考えずに書いたんで矛盾点とかあってもマジ勘弁
とみ「お砂糖……
本当にお砂糖なのかい?」
唯「え? うーん……」
とみ「お醤油じゃあないのかい」
唯「あ、そうだ! そういえばお醤油だった!」
とみ「やっぱりそうかい……
醤油ならウチにあるから、ちょいと待ってなさい」
唯「わーい。
でもお婆ちゃん、よく醤油だって分かったねー」
とみ「私は唯ちゃんたちのことなら何でも知ってるんだよ」
4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/08(日) 15:11:20.98 ID:2t6qI8dr0
……
とみ「はい、醤油」
唯「ありがとー」
とみ「そうだ、ちょうど唯ちゃんに話があったのよ……
これなんだけどねェ」ぴらり
唯「演芸大会~?」
とみ「老人会で毎年やってるんだけど、
今年は出場者が少ないみたいでねぇ」
唯「そうなんだ、じゃあ私生徒会行くね」
とみ「唯ちゃん、出てくれない?」
唯「え、私が?」
とみ「若い人が出てくれるとねえ、盛り上がるのよ。
唯ちゃんがギター弾くとこも見てみたいし」
唯「えー、うーん」
5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/08(日) 15:12:10.53 ID:2t6qI8dr0
とみ「ねえ……頼むわ唯ちゃん」
唯「でもなー」
とみ「唯ちゃん以外に頼れる人いないのよ……」
唯「期末試験も近いしー」
とみ「賞品はケーキ食べ放題のチケットだって」
唯「出ます!」
とみ「あらそう、良かった……
みなさんもきっと、喜ぶわね……ヒヒ」
唯(ケーキ食べ放題か~♪)
6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/08(日) 15:17:00.06 ID:2t6qI8dr0
平沢家。
ガチャ
唯「ただいまいけるじゃくそん!」
憂「おかえり、お姉ちゃん。ずいぶん早かったね」
唯「うん、スーパー行こうとしたら、
ちょうど隣のお婆ちゃんに会ってさ~」
憂「え゛っ」
唯「で、醤油おすそわけしてもらっちゃったー」
憂「お姉ちゃん……いつも言ってるでしょ、
隣のお婆ちゃんには関わらないで、って……」
8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/08(日) 15:21:56.76 ID:2t6qI8dr0
唯「えー、なんでー?
いい人だよ、お婆ちゃんは」
憂「いい人なのは分かるけど……
なんか気味悪いよ」
唯「もう、ダメだよ憂、人のことそんな風に言っちゃ!
お婆ちゃんには小さい頃からお世話になってたでしょ!」
憂「えーでも……
ご近所の人だって、お婆ちゃんのこと避けてるでしょ」
唯「近所がどうとか関係ないよ。
お婆ちゃんはいい人なんだから。
今日だって醤油おすそ分けしてくれたんだよ」
憂「あ、そう……」
唯「お婆ちゃん凄いんだよ、
私が醤油買いに行くのを分かってたの!
『唯ちゃんたちのことなら何でも知ってるんだよ』だって、
なんかすごいよねー」
憂「いや怖いよ」
9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/08(日) 15:25:56.15 ID:2t6qI8dr0
唯「もー、怖くなんかないってば。
あ、これ醤油ね」
憂「え、うん…………」
唯「なあに、お婆ちゃんのお醤油にまでケチつける気?」
憂「えーだって……
この前お婆ちゃんから貰ったお砂糖、なんか変な味したし……」
唯「もー、大丈夫だよ!
せっかくお婆ちゃんがくれたんだから、ちゃんと使って! ほら」
憂「うん……分かったよ……」
唯「私部屋行ってるから、ご飯できたら呼んでねー」
憂「はいはい」
姉が2階に行くのを見送ってから料理に戻る憂。
お婆ちゃんからもらった醤油を一舐めしてみたところ
なぜかやたらと酸っぱい味がしたので
憂はそれを捨ててスーパーまで醤油を買いに走った。
11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/08(日) 15:30:49.61 ID:2t6qI8dr0
……
唯「いただきまーす」
憂「いただきます」
唯「もぐもぐ……ほらー憂、
別に変な味なんてしないじゃん!」
憂「そうだねHAHAHA」
唯「へんな憂~」
憂「あ、そうだお姉ちゃん……
このチラシはなんなの?」
唯「あー、それもお婆ちゃんがくれたの。
演芸大会出てみないかって」
憂「え……それで、出るの?」
唯「うん、出るよ」
12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/08(日) 15:36:04.00 ID:2t6qI8dr0
憂「えー……」
唯「お婆ちゃんにはいつもお世話になりっぱなしだからね、
ここらでちょっと恩返しも兼ねて!
あと優勝したらケーキ食べ放題だし!」
憂「ケーキ目当てでしょ……
で、いつやるの?」
唯「そのチラシに書いてあるよー」
憂「あ、ほんとだ……再来週の金曜日、
って期末テストの最終日だよ」
唯「だいじょーぶ、勉強はちゃんとするから!」
憂「ホントかな……それで場所は、
南豊崎の公民館……?」
13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/08(日) 15:36:47.32 ID:2t6qI8dr0
唯「ああ、お婆ちゃん、
若い時は南豊崎に住んでたんだって~」
憂「そ、そうだったの? 道理で……」
唯「道理で、って何が?」
憂「お姉ちゃん、知らないの?
南豊崎って言ったら『あいなま地区』って呼ばれて
部落で有名なとこだよ」
唯「ぶらく? なにそれ」
憂「説明するのは難しいけど……
とにかく卑しい人達が隔離されて住まされてた土地なの」
唯「えーなにそれ、じゃーお婆ちゃんも
その卑しい人の仲間ってことー?」
憂「そこに住んでたんだからそうだよ。
ご近所の人たちはそれで避けてたんだ」
15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/08(日) 15:41:43.89 ID:2t6qI8dr0
唯「もー、いい加減にしてよ!」
憂「びくっ」
唯「さっきからお婆ちゃんの悪口ばっかり言って……
私は出るからね、演芸大会!」
憂「だ、だめだよあの地区に近づいちゃ」
唯「大丈夫だよっ!
今時そんな危ない土地なんてあるわけないでしょ」
憂「で、でも……」
唯「憂の分からず屋!
ごちそうさま、私お風呂はいるから!」
憂「お姉ちゃん……」
17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/08(日) 15:46:13.64 ID:2t6qI8dr0
翌日、学校。
憂「……というわけでさー」
純「へー、南豊崎ねぇ。
確かに良い評判は聞かないけど」
憂「評判が良い悪いの問題じゃないよ。
小学校の時、男子たちが南豊崎に肝試ししようって話してたんだけど」
純「うん」
憂「それがバレて親たちにめちゃくちゃ怒られたらしいよ。
何人かはしばらく外遊び禁止になったって」
純「へえ……思ったよりヤバそうだね。
あ、そういえば思い出した」
憂「何を?」
純「ずっと昔、なんかの噂で聞いたんだけど、
南豊崎って何十年か前まで処刑場があったんだって」
憂「処刑場?」
18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/08(日) 15:50:21.85 ID:2t6qI8dr0
純「江戸時代くらいからずっとあったものなんだけど、
戦後になってようやく取り壊されたって」
憂「へぇー……」
純「今生きてる老人たちは、その処刑場知ってるんじゃないかな。
そしてその件のお婆ちゃんも……」
憂「こ、怖いこと言わないでょ」
純「はは、ごめんごめん冗談だよ」
憂「で、どうしよう……
やっぱりお姉ちゃんを止めるべきなのかな」
純「さー、どうだろ。
そんな危ないことにはならないと思うけど……
部落とはいっても、現代日本なんだしさ」
憂「んー、そっかなー」
ガラッ
梓「おはよー」
19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/08(日) 15:50:52.64 ID:2t6qI8dr0
憂「あ、おはよう」
純「そうだ、梓は南豊崎のウワサ知ってる?」
梓「南豊崎? なにそれ」
純「この近くにある部落地域だよ」
梓「さあ、知らない。私、高校入るときに引っ越してきたから、
このへんの地域のことあんまり詳しくないんだよね」
純「へー、そうなんだ」
憂「ここ来る前はどこに住んでたの?」
梓「チベットだよ。
家族そろって寺院に住んでたんだけど
中国軍の宗教弾圧から逃れて日本に戻ったの」
純「何その壮絶な人生」
20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/08(日) 15:53:39.86 ID:2t6qI8dr0
梓「で、その南豊崎とかいうのがどうかしたの?」
憂「実はお姉ちゃんが赫々然々」
梓「演芸大会……?
ああ、そういえば夕べ、唯先輩から
一緒に演芸大会出ようってメールが来たよ」
憂「なっ……」
純「で、OKしたの?」
梓「うん、別に断る理由もないし」
憂「……」
純「あはは……梓を味方につけて
意地でも演芸大会出る気だね」
憂「それにしてもなんで梓ちゃんを」
梓「そーいえば唯先輩、
他の先輩たちも誘ってみたけど全員から断られたって」
純「唯先輩てもしかしてハブらてるんじゃない?」
憂「もーやだなー、お姉ちゃんがハブられてるなんてあるわけ無いじゃん!」バチコーン
純「ぶほぉぁっ」
23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/08(日) 16:02:55.27 ID:2t6qI8dr0
梓「何? 演芸大会がどうかしたの?」
憂「あーうん、実はそれに出ないかってお姉ちゃんを誘ったのが
うちの隣の独居老人でさ」
純「その人が南豊崎の出身で、
ご近所からも嫌われてるんだってさー」
梓「ダメだよ、そんなこと言っちゃ!
出身地なんて関係ないじゃん、
人はみな仏のもとに平等なんだよ」
純「仏って……」
憂「いやいや、出身がどうこうだけじゃなくてさ、
ホントになんか怖いんだよあの人」
梓「何がどう怖いの?」
憂「話せば長くなるけど……
そう、あれは私が幼稚園の頃だった」
24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/08(日) 16:10:35.76 ID:2t6qI8dr0
【回想】
とある公園。
唯『うぇーん、ういー、
私のぬいぐるみどっかいっちゃったよー』
憂『えー、おねえちゃん、なくしちゃったのー?
さがさなきゃー』
唯『さがしてもみつからないんだよぉー』
和『本当にちゃんと探したの?
さっきジャングルジムで遊んでたわよね。
あのへんは探した?』
唯『探したけど無いんだよぉーうえーん』
和『最後にぬいぐるみで遊んだのはどこ?
思い出して、そこを重点的に捜すから』
唯『わかんないよぉーうえーん』
憂(ののかちゃんはあいかわらずむずかしい言葉を使うなあ)
とみ『あら、どうしたんだい唯ちゃん』
唯『あ、おばーちゃーん』
25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/08(日) 16:18:38.00 ID:2t6qI8dr0
和『あ、一文字さん。
実は唯がぬいぐるみを紛失してしまったみたいで』
とみ『おやおや』
唯『うぇーん』
とみ『……滑り台の下は探してみたかい?』
唯『すべりだいのしたあ?』
和『ちょっと見てきます』たたっ
とみ『きっとそこにあると思うよ……』
和『あっ、ありました!
これよね、唯』
唯『わー、うん、それだよー!
ありがとーおばーちゃん!』
和『どうして分かったんです?』
とみ『私は唯ちゃんたちのことなら何でも知ってるんだよ』
【回想おわり】
27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/08(日) 16:21:12.60 ID:2t6qI8dr0
純「いいお婆ちゃんじゃん」
梓「別に怖くないよね」
憂「これはまだ序の口なの!
次があるんだよ」
純「ほう、聞かせてもらおうか」
憂「これは純ちゃんも知ってる話だと思うよ。
中学の修学旅行のことなんだけど……」
29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/08(日) 16:29:02.97 ID:2t6qI8dr0
【回想】
中学の時の修学旅行、行き先は沖縄だった。
一日の行程を終え、沖縄のホテルで一息つく憂たち。
憂『いやー楽しかったねー』
純『防空壕は怖かったけどね』
陽子『……』
憂『? 陽子ちゃん、どうしたの?』
陽子『いや、な、なんでもないよ』
純『なんでもないようには見えないけど……
気分悪いの? 先生呼ぼうか』
陽子『いや、そんなんじゃなくて……
ちょっと気になることがあって』
憂『気になること?』
純『何?』
陽子『いや、いいよ……
言っても信じてもらえなそうだし』
憂『大丈夫だよ、言ってよ、ちゃんと聞くから』
30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/08(日) 16:34:20.50 ID:2t6qI8dr0
陽子『うん、じゃあ言うね……
実は今日一日ずっと気になってて』
純『だから何がよ』
陽子『色々なとこ行ったでしょ、今日』
憂『うん、ひめゆりの塔とか防空壕とか
平和祈念なんたらとか』
陽子『……その行く先々で、同じ人がいたの』
純『はい?』
陽子『ひめゆりの塔でも、防空壕でも、
おんなじお婆さんを見かけたの!
まるで私たちのことを待ち構えて、監視してるみたいに……』
純『あっはっは、何を言い出すかと思えば』
陽子『い、いやほんとなんだってば……
すっごく怖かったんだから!』
聡美『あっ、私も見たよ、その人』
陽子『えっ、そうなの?』
31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/08/08(日) 16:38:52.69 ID:2t6qI8dr0
聡美『うん、修学旅行の添乗員さんかなーと思ってさ、
話しかけてみたけど違ったよ』
陽子『その人、白髪で赤い服着たお婆さんじゃなかった……?』
聡美『うん、その人だよ。
私写真撮ったけど見る? ほらこの人』
陽子『そ、そうだ、この人だよ!
今日ずっと私たちのこと監視してた人……』
純『監視とは大げさな』
憂『……』
純『? どしたの憂』
憂(とみおばあちゃんだ……)
陽子『やっぱり怖いよ……先生たちに言ったほうがいいんじゃないかなあ』
聡美『えー、別にそこまでしなくても』
陽子『だって怖いよ』
聡美『じゃー明日も尾行してくるようならさ、先生に言えばいいじゃん』
陽子『う、うん……』
しかし翌日以降、おばあちゃんは現れなかった。
32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/08(日) 16:42:37.02 ID:2t6qI8dr0
2泊3日の修学旅行を終え、
地元に帰った憂。
憂『ふー疲れた、でも楽しかったー』
とみ『あら、憂ちゃん……』
憂『ひっ、お、おばあちゃん……』
とみ『修学旅行は楽しかったかい』
憂『え、ええ、とっても』
(やっぱり見間違いだよね……
沖縄なんかにおばあちゃんがいるわけないし……)
とみ『ひめゆりの塔で聞いた話は感動したねえ』
憂『えっ』
とみ『憂ちゃんはちょっと涙ぐんでいたねえ。
いいんだよ、ああいうときは素直に泣けば』
憂『な、なんで……知ってるんですか』
とみ『私は唯ちゃんたちのことなら何でも知ってるんだよ』
【回想おわり】
34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/08(日) 16:47:42.74 ID:2t6qI8dr0
純「あー、確かそういうこともあったねー。
まさかあのお婆ちゃんがその人とは」
梓「つまりどういうことだってばよ」
憂「おばあちゃんが沖縄にいたかどうか、真相はわからないけど……
とにかくこういう不気味な人なんだよ。
関わるのはよしたほうがいいよ、ね」
梓「でも唯先輩と約束しちゃったしなぁ」
憂「お姉ちゃんは私からも説得するから、
梓ちゃんも演芸大会に出るのはやめて、ね」
梓「えー、うーん……
唯先輩が出ないんなら、私は出ないけども」
憂「じゃあ梓ちゃんもお姉ちゃんを説得して、
演芸大会に出ないように」
梓「わ、分かったよ。できるだけやってみる」
憂「うん、お願い」
37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/08(日) 16:57:50.04 ID:2t6qI8dr0
放課後、音楽室。
ガチャ
梓「こんちはー」
澪「おう」
律「梓ー、唯と一緒に演芸大会出るんだって?」
梓「え? はあ、まあ……」
律「実はうちのクラスがその話題で持ちきりでさ!
本番の日、みんなで応援に行くことになったんだ!」
唯「みんな横断幕とか作ってくれるって~!
がんばろーね、あずにゃん!」
梓(うわー説得しづれえええええ)
38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/08(日) 17:03:03.96 ID:2t6qI8dr0
律「私たちも行くからなー。
澪なんかチアガールのコスプレするって」
澪「しねェよ」
律「クラス総出で盛大に応援してやるから、
楽しみにしてろよー」
梓「あーなんていうかそのー、
お気持ちはうれしーんですが……」
律「ん? なんだよ」
梓「いやーなんてーかそのー
伝え聞いたところによりますとー
会場はたいへん狭くていらっしゃるみたいなのでー
そんな大勢はーちょっとー」
律「そうなのか? 会場ってどこなんだ?」
唯「南豊崎の公民館だよっ」
澪「……南豊崎だと?」
41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/08(日) 17:13:19.74 ID:2t6qI8dr0
律「南豊崎……」
唯「あれ? どうしたのみんな」
澪「えー、だって……なあ」
律「……うん」
唯「言いたいことがあるんならハッキリ言いなよ」
澪「唯、お前は知らないのか?
南豊崎って言ったら『あいなま地区』って呼ばれてるとこだぞ」
唯「知ってるよ、それがどうしたの?
土地がどうとかなんて関係ないじゃん!」
律「私、昔からあの土地には近づくなって親に言われてたんだ。
唯も近寄るのはやめたほうがいいぞ」
澪「そうだよ、いい噂も聞かないし」
唯「もう、いい噂とか親が言ったとか、そういうのはどうでもいいじゃん!
なんで? なんでみんな南豊崎を嫌う? 南豊崎が何かした?」
律「そういんじゃないけど……」
唯「じゃあもういいよ、みんなは口出さないで!
あずにゃん、私たち二人だけで頑張ろうね!」
梓(出るのヤメろとは言えない……)
45 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/08(日) 17:23:20.19 ID:2t6qI8dr0
色々あって演芸大会当日。
梓「展開早っ!」
憂「結局お姉ちゃんを説得することはできず、
お姉ちゃんと梓ちゃんは演芸大会に出ることになりました。
私たち3人は今、南豊崎に向かっています」
唯「誰に喋ってんの?」
梓「で、その南豊崎っていうのはどこにあるの」
憂「もうちょっと歩かなきゃ。
このへんはバスも電車もないから」
梓「もうちょっと……って、
周りに人家が見当たらないんだけど……
ほんとにこの先に人が住んでんの?」
憂「うん、1回だけ行ったことある……
おばあちゃんに連れられて」
梓「へえ、どんな感じだった?」
憂「一言でいうと……不気味だった」
梓「不気味って……」
唯「南豊崎行くの久々だよねー、
もう8年ぶりくらいかな~」
46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/08(日) 17:28:24.23 ID:2t6qI8dr0
梓「ねえ、まだかかるの?
もう40分くらい歩いてるよ」
憂「おかしいなあ、こんなに遠かったかな」
梓「早くしないと演芸大会に間に合わないんじゃ」
憂「間に合わなかったら間に合わなかったで
こっちとしては嬉しいんだけどね」
唯「あ、憂ー、おうちが見えてきたよー」
梓「ああ、ほんとだ……
良かった、迷子になってたわけじゃなかったんだ」
3人は南豊崎の町についた。
しかし憂と梓はすぐに景観の異様さにゾッとした。
48 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/08(日) 17:37:12.02 ID:2t6qI8dr0
道の脇に建っている家々はすべて同じ形、
そして屋根の色もすべて青で統一されていた。
梓「な、なにこれ……なんか怖い」
憂「前来た時もこうだったよ……
その時はなんとも思わなかったけど」
唯「わー、屋根がみんな青色だよー。
相変わらず綺麗だよねー、憂ー」
憂「はは、そうだね……」
さらに不気味さに拍車をかけていたのは町の静けさだ。
さっきから人っ子ひとり見かけない。
梓「だれもいないのかな……」
憂「分かんない……
とにかく早く公民館に行こう」
唯「あ、憂、やばいよー、もうだいぶ遅刻しちゃってるよー。
急がなきゃマズイよー」
憂「そんな急がなくて大丈夫だよ、
私たちが出るのは後の方だから……」
49 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/08(日) 17:46:32.94 ID:2t6qI8dr0
公民館は町のはずれにあった。
いやもう町と呼ぶより集落としたほうが適切であろう。
同じ家が並ぶこの集落の中で
公民館は異様な存在感を放っていた。
ガラガラ
憂「あれ? まだ始まってない……?」
公民館の中には集落の人間が集まっていた。
そのすべてが老人だった。
憂たちが公民館に入ると、
規則正しく並べられた椅子に座った老人たちは
いっせいに憂たちのほうに振り向いた。
梓「す、すみません遅れてしまって」
唯「ごめんなさーい」
老人たちの中から
とみが歩み寄ってきた。
とみ「ああ、よく来たね、疲れたろう。
遅れたのは良いんだよ、気にしないで」
憂「あの、まだ始まってないんですか」
とみ「ええ、みんな唯ちゃんたちを待ってたのよ。
さあ中にお入り」
唯「おじゃましまーす」
50 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/08(日) 17:49:42.61 ID:2t6qI8dr0
書くの忘れてたけど
ゆいあずを応援すると言っていたクラスの人達は
会場が南豊崎ということを聞いて
急に応援するのをやめました
52 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/08(日) 17:59:57.54 ID:2t6qI8dr0
そして演芸大会が始まった。
参加者は一人ひとり壇上にあがり、自慢の芸を披露していく。
司会『一番、山田尚吉さんによる手品です』
山田「ではいきますぞ、3,2,1……ホッ」
老人たち「おーええぞええぞー」
老人たち「さすが尚さんの手品は面白いわい」
老人たち「いいぞもっとやれ」
司会『二番、吉田玲次郎さんによる詩吟です』
吉田「延々んん~続行ぅ~ぉぉ~ルララーァァーあああー」
老人たち「おーええぞええぞー」
老人たち「さすが玲さんの詩吟は面白いわい」
老人たち「いいぞもっとやれ」
会場は盛り上がっていた。
しかし憂と梓は薄ら寒さを感じていた。
老人たちの盛り上がりが、まるで演技のように感じられたのだ。
意図的に作られた雰囲気。
それは憂たちに居心地の悪さを与えるばかりであった。
唯「わーすごいね今の詩吟! すっごくうまかったよー」
憂「そ、そだね……」
そして唯と梓の番が回ってきた。
57 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/08(日) 19:21:02.60 ID:2t6qI8dr0
『13番、ゆいあずのお二人によるギター演奏です』
唯「どもどもー!」
梓「ゆいあずでーす……」
二人が壇上に上がると、
先程までの盛り上がりが嘘だったかのように
会場は一気に静まり返った。
そして客席の老人たちは、
まるで品定めでもするかのような目で
ゆいあずの二人を凝視した。
それはとみも例外ではなかった。
とみ「……………………」
老人たち「……………………」
老人たち「……………………」
老人たち「……………………」
憂(な、なにこれ、どうなってるの?)
梓(なんなのこの人たち、怖い!)
唯「じゃー演奏しまーす、聞いてください!
ふでペンボールペン!」
唯はなんとも思っていないようだった。
梓は客席からの刺すような視線を意識しないよう
演奏に集中することにした。
59 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/08(日) 19:33:40.58 ID:2t6qI8dr0
……
唯「かなり本気よー♪」
ジャジャーン
異様な空気に包まれたまま演奏は終了した。
老人たちは片時も二人から視線をそらすことはなかった。
憂「……」ぱちぱちぱち
憂が拍手をすると、老人たちも思い出したかのように拍手をした。
唯「どもどもー」
梓(帰りたい……)
司会『では今回の演芸大会は以上となります。
優勝者は後日、広報紙で発表させていただきます』
唯「なんだ、今日発表してくれないんだ。
優勝賞品早く欲しいのにー」
梓「賞品って何なんです?」
唯「ケーキ食べ放題だよ」
梓「老人メインの大会でケーキ食べ放題が賞品って……」
その後、3人は帰路についた。
帰りはなぜか来るときよりも時間はかからなかった。
60 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/08(日) 19:40:46.64 ID:2t6qI8dr0
翌日。
ガラッ
梓「おはよー」
憂「おはよう、梓ちゃん」
純「おっはー。で、行ってきたんでしょ、昨日。
どうだったの?」
梓「どうって……ねえ」
憂「まあ……うん」
純「なにー? 何があったの、教えてよ」
梓「一言で言えば怖かったかな」
61 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/08(日) 19:46:45.62 ID:2t6qI8dr0
純「怖かった? 何が?」
梓「いや、何から何まで……
全部同じ家で同じ色の屋根だったのも怖かったし、
住んでた人もなんか……
あれが部落っていうものなのかな」
純「あはは、人は仏のもとにみな平等とか言っときながら
梓も部落嫌いになってんじゃん」
梓「だ、だって……」
憂「まああれ見たら誰だって嫌いになるよ……
梓ちゃんも分かったでしょ、
南豊崎には関わらない方がいいって」
梓「うん、私は痛いほど分かったけど……
でも唯先輩はなんとも思ってなかったみたいだよね」
憂「そうなんだよ……
昨日家帰ってからも、『楽しかったねー』とか言ってたし」
純「あはは……」
憂「はあ、どうにかなんないかな、あのおばあちゃん」
62 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/08(日) 19:53:02.72 ID:2t6qI8dr0
放課後。
梓「じゃーねー」
純「また明日、憂」
憂「うん、またね」
純「さてジャズ研に行きますかね」
梓「私は軽音部に」
純「軽音部に行ってお茶会か」
梓「今日はお茶会じゃないよ。
倉庫を掃除して軽音部の古いアルバム探すって言ってた」
純「……」
梓「何?」
純「いやなんでもない、頑張ってね」
梓「? うん」
63 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/08(日) 19:58:54.46 ID:2t6qI8dr0
音楽室。
ガチャ
梓「こんにちはー」
唯「あー、あずにゃん!
聞いて聞いて、みんなが酷いんだよぉー」
梓「ど、どうかしたんですか」
澪「ああいや、昨日南豊崎に行ったー、って
今朝からクラスで唯が自慢げに語るもんだから、
クラスのみんなが引いちゃってな」
律「そうそう、みんなドン引きだったな。あの和でさえも」
澪「あの和の汚物を見るような視線は一生忘れられそうにない」
梓「そ、そんなことがあったんですか」
唯「ね、ひどいよねえ、あずにゃん!
私は昨日の楽しい思い出をみんなに話したかっただけなのにい」
梓「……唯先輩」
唯「なに?」
64 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/08(日) 20:05:23.24 ID:2t6qI8dr0
梓「もう理解しましょう、子供じゃないんですから。
南豊崎は……あいなま地区は、
近づいちゃいけない場所なんです。
私は昨日それを痛感しました」
唯「なんで? おかしいよ、
南豊崎の人に悪い人がいるの?
南豊崎を嫌う理由がどこにあるのさ!」
梓「こういうのは理屈じゃないんですよ。
とにかくダメなものなんです」
唯「そんなのってないよ!
じゃあこれからも未来永劫、南豊崎は
ずっと嫌われたままなの?」
梓「まあそうでしょうね」
澪(近いうちに過疎で滅びそうだけどな)
唯「おかしいよ、ひどいよ……
南豊崎の人はいい人ばっかりだよ、
おばあちゃんだってそうだよ……
みんなは南豊崎のことを知らないだけなんだよ」
律「唯……」
65 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/08(日) 20:14:27.85 ID:2t6qI8dr0
唯「そうだ、今からみんなでお婆ちゃんの家に遊びにいこう!」
梓「えっ」
唯「南豊崎の人がいい人だって知れば、
みんなもきっと南豊崎が好きになるよ~」
澪「で、でも」
律「なあ」
唯「大丈夫だよー、ほら行こう!
お婆ちゃん、私の家の隣に住んでるんだ!」ぐいぐい
澪「わ、わかったわかった、引っ張るな」
律「まったく、しょーがないなー」
唯「わーい、じゃあ早速行こう」
澪「あ、そうだ……お婆ちゃんちに遊びにいくことは誰にも言うなよ」
唯「え、なんで?」
澪「そ、そりゃー部活サボって遊びにいくなんて、
誰かにバレたら……なぁ?」
律「はは、そうだな……」
梓(酷い先輩たちだ……)
66 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/08(日) 20:24:43.73 ID:2t6qI8dr0
一方その頃、憂は。
憂(帰ったら洗濯もの取り込んで、
買い物行って、夕飯の支度して、
お風呂掃除して……)
帰り道、自分の家が見えてきた頃。
平沢家の隣、くだんの老婆が住んでいる家の前に
一人の男が立っているのが見えた。
彼は門の外から家の中を伺おうとしていた。
憂「……?」
明らかに怪しい……と憂は思ったが、
もう一文字家とは関わりを持ちたくないので
見て見ぬふりをして通り過ぎ、
自分の家に入ろうとしたところ
男「あっ、ちょっとすみません」
憂「…………な、なんですか」
男「そちらのお宅にお住まいの方ですか」
憂「は、はあ、そうですが」
67 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/08(日) 20:32:32.84 ID:2t6qI8dr0
男「私、市役所のもので」
そう言って男は名刺を差し出す。
憂「はあ」
男「隣のおうちにお住まいの方のこと、ご存じですか?」
憂「お婆さんが一人で住んでますよ」
男「はあ、やはりそうですか」
憂「なんなんです?
お婆さんがどうかしたんですか」
男「いや、この家、実はずっと前から空き家のはずなんですよ」
憂「えっ」
男「古い資料を整理してて分かったことなんですがね。
このへんの不動産屋さんに問い合わせてみても、
ここには誰も住んでないはずだと」
憂「……」
70 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/08(日) 20:41:32.25 ID:2t6qI8dr0
男「そのお婆さんは、いつから住んでいるんですか」
憂「私が、小さい時から、ずっと……
もう15年以上も」
男「15年……」
憂「15年異常、空き家に
勝手に住んでたってことですよね」
男「勝手に住んでいたどころじゃないですよ。
この家にはガスも電気も水道も通っていないんです」
憂「えっ……
え、で、でも……夜とか灯りついてましたよ」
男「ランプか何かを持ち込んでいたんじゃないですか。
もしくはどこかから盗電していたか。
まったく、どんな生活をしてきたんだか」
憂「……」
15年間。
自分の家の隣で、
電気も水道もガスも使えない家に住んでいた。
なぜ?
なんのために?
考えた瞬間、
憂の体に悪寒が走った。
71 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/08(日) 20:50:49.04 ID:2t6qI8dr0
男「今日はお婆さんは留守のようですね」
憂「え……あ、そうなんですか」
男「はい、ずっと待ってたんですけど、
帰ってくる気配がなさそうなので、
また後日出直すことにします。では私はこれで」
憂「あ、はい……」
そう言い残し、
男は去った。
一文字とみ。
怪しい、不気味だとは思っていたが
ここまで得体のしれない人間だとは思わなかった。
なぜわざわざライフラインの通っていない家に
住み続ける必要があったのか。
そして何故よりにもよって
自分の家の隣なのか。
まあなんでもいい、近いうちに不法占拠で逮捕されるだろう。
これでようやくあの老婆がいなくなってくれる……
そんなことを考えながら
憂は自分の家のドアに手をかけた。
ガチャ。
憂「!?」
鍵があいていた。
74 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/08(日) 21:00:12.20 ID:2t6qI8dr0
憂「お、お姉ちゃん……?
もう帰ってきてるの?」
恐る恐るドアを開ける憂。
しかし玄関に姉のローファーはなかった。
憂「…………」
今朝学校にいくとき、
鍵をかけ忘れたのだろうか。
いやそんなことはない、
鍵だけはなんども確認しているし、
今日だってそうだった。
憂はそっと靴を脱いで、
家の中に上がった。
誰もいないはずだったが、
怪しい気配に満ちているような気がした。
憂「だ、誰かいるんですか……」
小声でそう尋ねる。
誰かがいたとしても誰にも聞こえないだろう。
とその時。
しゃーこ しゃーこ
憂「!?」
75 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/08(日) 21:04:41.74 ID:2t6qI8dr0
しゃーこ しゃーこ
憂「な、何、この音……」
しゃーこ しゃーこ
台所の方から音が聞こえてきた。
音の正体はわからない。
憂は忍び足で台所に向かう。
しゃーこ しゃーこ
これは普通の事態じゃない。
何か危ないことが起こる。
憂の心臓が高鳴る。
しゃーこ しゃーこ
台所。
そっと、中を覗くと。
とみ「あらあ、おかえり憂ちゃん」
76 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/08(日) 21:14:28.79 ID:2t6qI8dr0
憂「なっ……なにしてるんですか!?」
とみ「何って……何でもいいじゃない」
しゃーこ しゃーこ
憂「そ、それ、ほほほ包丁……」
とみ「ええ、包丁を砥いでいたの。
よく切れるようにしなきゃねえ」
憂「ひっ」
とみは包丁を手に立ち上がり、
ゆっくりと憂のほうに向かってくる。
とみ「そうだわ、昨日の演芸大会……
みんなあなたたちのこと本当に気に入ったみたいよ。
良かったわねえ、憂ちゃん」
憂「なんで、どうやって入ったんですか……」
とみ「私は唯ちゃんたちのことなら何でも知ってるんだよ」
79 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/08(日) 21:24:06.02 ID:2t6qI8dr0
憂「やめてください、包丁を置いてください……」
とみ「それはできないよ。
みんな憂ちゃんたちのこと気に入ってたからね」
憂「それとこれとなんの関係があるんですかっ」
とみ「おとなしくしていなさい、
すぐに終わるからね」
憂「な、なにがですか」
とみ「怖がることはないよ、
ずっと隣同士で暮らしてきたじゃないか」
憂「ふ、ふ、ふ、不法占拠だったんでしょっ」
とみ「人聞きの悪いことを言わないでおくれよ。
全部憂ちゃんと唯ちゃんのためなんだから」
憂「な、なにを……」
じりじりと詰め寄るとみ、
それとともに後ずさる憂。
憂の背中はついに壁についてしまった。
とみ「さあ、みんなに食べてもらおうね、憂ちゃんたちのお肉を」
憂「いやあああっ!」
80 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/08(日) 21:30:57.42 ID:2t6qI8dr0
ガチャ
唯「たっだいまー」
澪「おじゃましまーす」
律「ちーっす」
梓「……」
唯「憂ー、今日おばあちゃん留守なのかなー、
……っておばあちゃん!?」
とみ「あらあら、唯ちゃん……
それに昨日の黒髪の子も」
憂「お姉ちゃん、来ちゃダメえ!」
律「な、なんだあのバアさん、なんで包丁を……」
澪「恐怖のあまり気絶」バタッ
とみ「お友達が多いんだねえ、唯ちゃんは……
みんなも見ててくれるかい、
憂ちゃんたちがお肉になるところを」
律「な、何いってんだ、キチガイかこのババア」
梓「うんびらおんびえいそわか」
唯「あずにゃん?」
84 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/08(日) 21:38:07.57 ID:2t6qI8dr0
梓「ふんにゃらはんれいうんたびら」
とみ「な、何を……」
梓「ほんてらぶえいそびえんだら」
とみ「や、やめないか」
梓「にんぱらそぞでるいちょうむばい」
とみ「やめ……」
梓「破ァっ!!」
とみ「あ、ああああ…………」ガクリ
律「な、何をやったんだ梓!?」
梓「いえ、別に……
チベットの老師から授かった、
ちょっとした気功術ですよ。
憂、大丈夫だった?」
憂「あ、うん……」
寺育ちって凄い。
憂は改めてそう思った。
86 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/08(日) 21:45:17.70 ID:2t6qI8dr0
その後、警察がやってきてとみは逮捕された。
とみは警察に連れていかれるとき、
「私は何も悪くない」と魂の抜けたような表情で
何度も繰り返しつぶやいていた。
警察の調査によって、南豊崎の人間による
組織的な殺人事件の実態が明らかになった。
彼らはとみのように各地に人を送り込んで、
適当な人間を殺させていたらしい。
このことは連日ニュースで大々的に報じられた。
純「いやー、でもこれで一件落着だね」
憂「そうだね、包丁持ったおばあちゃんが
家の中にいたときはどうなることかと思ったけど。
梓ちゃんがいなかったら私殺されてたよ」
梓「護身術くらい身につけとかなきゃだめだよ」
純「あ、そうだ。
この前から南豊崎に興味出ちゃって、
ちょっと調べてたんだけどさ」
憂「うん」
純「なんか南豊崎に処刑場があったっていう噂は本当らしいよ」
梓「へえ、そうなんだ」
89 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/08(日) 21:53:58.24 ID:2t6qI8dr0
純「うん、それでね、
戦中の食料がなかった時期に、
そこの処刑場で殺された人間の肉を食べてたんだって!」
梓「ええっ?」
純「それで戦後になってやっと処刑場は壊されたんだけど、
きっと南豊崎の人たちは人肉の味を忘れられず……」
梓「人肉を求めて殺人をしていたって言うの?」
憂「そ、そういえば、憂ちゃんをお肉にしようとか
言っていたような……」
純「ほら、絶対そうだって。
現代日本に残る食人文化! そそるねぇ」
梓「その食人文化の犠牲になりかけた人間の前で
そんなこと言わない方がいいよ……」
しかし南豊崎の人が食人を行なっていたことについては
公にされることはなかった。
その証拠が見つからなかったのか、
公表すべきではないと封印されたのか、
真相は分からない。
また、警察はとみがいた空き家に捜査に入ったが
空き家には一切モノが置かれておらず、
およそ人がいた形跡は皆無だったという。
とみは本当にあの家に住んでいたのか、これも真相は不明。
91 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/08(日) 22:02:38.28 ID:2t6qI8dr0
唯はこの件で大変落ち込んでしまった。
唯「はあ……」
律「唯のやつ、元気ないなあ」
梓「そりゃそうでしょう、
大好きなおばあちゃんが妹を殺そうとしたんじゃあ……」
澪「唯、元気だせよ。
あんな頭おかしいバアさんのことは忘れてさ、な」
唯「頭おかしくなんかないよっ!」
澪「唯……」
唯「おばあちゃんは私たちのことずっと見守ってくれてたよ……
それが頭おかしいなんて」
律「それ、殺す相手の品定めをしてただけだろ」
唯「そんなことない!
お婆ちゃん、私たちのこと本当に好きでいてくれたもん……」
梓「……」
唯「寂しいよ……
お婆ちゃん……いなくなっちゃうなんて……
戻ってきてよう……」
94 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/08(日) 22:10:51.44 ID:2t6qI8dr0
数日後。
唯「ういー! ういー!」
憂「どしたの、お姉ちゃん」
唯「隣の空き家に新しい人が引っ越してきたよ!」
憂「えっ、そうなの?
どんな人?」
唯「おばあさん!」
憂「えっ」
唯「80歳くらいのお婆さんでね、一人暮らしなんだって!
若い頃は北朝鮮に住んでたらしいよ~」
憂「へ、へえー、そうなんだ……」
唯「とみお婆ちゃんがいなくなっちゃって寂しかったけど、
これでもう寂しくないよ~」
憂「……」
新たなおばあちゃんの出現に喜ぶ唯。
そして今度もまた自分たちの身に何かが起こりそうで
気が気でない憂であった。
お わ り
96 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/08(日) 22:12:35.58 ID:2t6qI8dr0 [59/59]
これでおしまいでちゅ
スレタイは唯「しゃこしゃこしゃこしゃこ」にしようと思ったけど
怒られそうな気がしたのでやめた
何も考えずに書いたんで矛盾点とかあってもマジ勘弁
<<たける「イカ姉ちゃん…?」 | ホーム | 垣根「第1位になるには……」>>
コメント
No title
No title
唯がバカすぎる
No title
部落ネタとかマジカンベン
No title
あいなま地区クソワロタwwwwww
コメントの投稿
トラックバック
| ホーム |
読んでて気持ち悪くなった